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明細書 :果実又は野菜の養液栽培方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5622260号 (P5622260)
公開番号 特開2011-135797 (P2011-135797A)
登録日 平成26年10月3日(2014.10.3)
発行日 平成26年11月12日(2014.11.12)
公開日 平成23年7月14日(2011.7.14)
発明の名称または考案の名称 果実又は野菜の養液栽培方法
国際特許分類 A01G  31/00        (2006.01)
A01G   1/00        (2006.01)
FI A01G 31/00 601A
A01G 1/00 301Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2009-296601 (P2009-296601)
出願日 平成21年12月28日(2009.12.28)
審査請求日 平成24年12月7日(2012.12.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
発明者または考案者 【氏名】浅尾 俊樹
【氏名】伴 琢也
個別代理人の代理人 【識別番号】100081673、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 誠
【識別番号】100141483、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 生吾
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 特開2008-61587(JP,A)
張 洪基・糠谷 明,温室メロンのロックウール栽培における培養液濃度と養分吸収の関係,園芸学会雑誌,1997年,第66巻第2号,307-312頁
調査した分野 A01G 31/00
A01G 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
カリウムを含有した培養液によって果実又は野菜を養液栽培する果実又は野菜の養液栽培方法において、上記果実又は野菜がメロン又は苺であり、生殖成長期よりも前の時期にはカリウムが標準濃度で含有された標準培養液を用いるとともに、生殖成長期以降には培養液中におけるカリウムの濃度が上記標準培養液のカリウム濃度に対して4分の1~3分の1に設定されたカリウム低下培養液を用いることにより、果実又は野菜のカリウム含有率を低下させる果実又は野菜の養液栽培方法。
【請求項2】
カリウム低下培養液の使用開始時期が生殖成長期以降でも特に出蕾期から開花期の間である請求項1の果実又は野菜の養液栽培方法。
【請求項3】
カリウム低下培養液の使用開始時期が開花後である請求項2の果実又は野菜の養液栽培方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、カリウムを含有する培養液中で果実又は野菜を栽培する果実又は野菜の養液栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓の機能が低下している場合、体内のカリウムを十分に排出できず、体内に蓄積したカリウムによって不整脈や心不全を引き起こす可能性があることが知られているため、腎臓病患者や人工透析を受けている患者は1日当たりのカリウム摂取量が制限されるのが一般的であり、このようにしてカリウムの摂取量を制限されている患者(以下、カリウム摂取量制限患者)の数は食生活の変化等に伴って近年増加傾向にある。
【0003】
ところで、苺やメロン等の果実や野菜には通常一定量のカリウムが含有されているため、上記カリウム摂取制限患者が、このような果実や野菜を食す場合、茹でたり、水でさらしたりしてカリウムを除去するのが一般的であり、このような事情から、カリウム含有率の低い果実や野菜の生産を可能にする技術が切望されている。
【0004】
ところが、カリウムは、野菜や果実等の植物において必須元素の一つであるとともに、植物の生長にも欠かせない元素の一つであるため、野菜や果実の生育過程において用いる養分から、単に、カリウムを除去するのみでは、品質の高い野菜や果実を生産することができないという問題がある。
【0005】
上記問題に鑑み、果実又は野菜の種類や生育段階に応じて養分の組成を容易に調整可能であるとともに土壌耕耘や除草作業や間引き作業が不要又は殆ど必要無い水耕栽培(養液栽培)を用い、カリウムを含有した培養液により果実又は野菜を生育する方法について、近年盛んに研究が行われており、そのなかで、野菜又は果実の生育過程における所定時期前にはカリウムが標準濃度で含有された標準培養液を用いる一方で、この所定時期以降には培養液中におけるカリウムを欠除させることにより、生産される果実又は野菜のカリウム含有率を低下させる特許文献1に示す果実又は野菜の養液栽培方法が公知になっている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2008-61587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献の果実又は野菜の養液栽培方法では、果実又は野菜の一種であるほうれん草の種子を発芽させた後、養液栽培によって5週間栽培するにあたり、培養液への移植後3週間は該培養液中にカリウムを含有させて栽培を行い、4週目以降は培養液中からカリウムを完全に欠除させて栽培を行うが、カリウムは細胞内で正常な代謝を促進する作用があるとともに浸透圧調整の作用もあることから、カリウムを含有しない培養液で生育を行う期間に生長障害が生じる場合があり、品質の高い野菜又は果実が生育できない場合があるという課題がある。
【0008】
本発明は、カリウムを含有した培養液によって果実又は野菜を養液栽培する果実又は野菜の養液栽培方法において、品質に与える影響を少なくして、果実又は野菜のカリウム含有率を低下させる果実又は野菜の養液栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、第1に、カリウムを含有した培養液によって果実又は野菜を養液栽培する果実又は野菜の養液栽培方法において、上記果実又は野菜がメロン又は苺であり、生殖成長期よりも前の時期にはカリウムが標準濃度で含有された標準培養液を用いるとともに、生殖成長期以降には培養液中におけるカリウムの濃度が上記標準培養液のカリウム濃度に対して4分の1~3分の1に設定されたカリウム低下培養液を用いることにより、果実又は野菜のカリウム含有率を低下させることを特徴としている。
【0010】
第2に、カリウム低下培養液の使用開始時期が生殖成長期以降でも特に出蕾期から開花期の間であることを特徴としている。
【0011】
第3に、カリウム低下培養液の使用開始時期が開花後であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、生殖成長期よりも前の時期にはカリウムが標準濃度で含有された標準培養液を用いるとともに、生殖成長期以降には培養液中におけるカリウムを欠除させること無く上記標準濃度よりもカリウム濃度を低下させたカリウム低下培養液を用いることにより、生育に与える影響を少なくした状態で、生産される果実又は野菜のカリウム含有率を低下させることが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】標準培養液のみによって水耕栽培を行うことにより収穫されたメロンと、標準培養液とカリウム低下培養液を使い分けて水耕栽培を行うことにより収穫されたメロンとを比較した比較表である。
【図2】標準培養液のみによって水耕栽培を行うことにより収穫された苺と、標準培養液とカリウム低下培養液を使い分けて水耕栽培を行うことにより収穫された苺とを、比較した比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明者は鋭利検討の結果、養液栽培である水耕栽培を行うにあたり、生殖成長期よりも前の時期にはカリウムが標準濃度で含有された標準培養液を用いるとともに、生殖成長期以降には培養液中におけるカリウムを欠除させること無く上記標準濃度よりもカリウム濃度を低下させたカリウム低下培養液を用いることにより、品質に殆ど影響を与えること無く、果実又は野菜のカリウム含有率を低下させることが可能であることを見出した。

【0015】
野菜や果実の生育過程は、大きく、葉や茎などの栄養器官を分化、形成する栄養成長期と、生殖器官を分化、形成する生殖成長期とに分けられる。なお、野菜や果実のなかには、発芽後に栄養成長期に移行するものと、親株から分離された子株を苗として定植させ後に栄養成長期に移行するものとがある。また、上記生殖成長期は、さらに細かく、蕾を付ける出蕾期と、出蕾期後に花を咲かせる開花前後を含む開花期と、開花期後に果実等を実らす着果期と、着果期後に収穫可能な状態となる収穫期と、に分類される。

【0016】
本発明では、湿度及び温度を調整可能であって十分な光量の光を照射可能な条件下において、土壌を用いずに、培養液中でカリウム濃度を時期によって調整しながら、野菜や果実等の水耕栽培を行う。カリウム濃度を調整する以外は従来公知の方法によるため詳細は割愛するが、湿度及び温度を一定に保ち、培養液を循環させ、一日で光を照射する時間と照射しない時間を所定割合で設けて、果樹等を含む植物の生育を行ってもよい。ちなみに、収穫対象の果実又は野菜としては、苺やメロン等の野菜や、葡萄等の果実など、様々なものが想定される。

【0017】
本発明では、所定の組成を有するベース培養液から、果実又は野菜の種類に応じて所定成分の濃度を適宜調整したものを標準培養液として用いる。なお、ベース培養液としては、例えば、下記表1に示すように、培養液1000L中に、硝酸カルシウムが950gの割合で含まれ、硝酸カリウムが810gの割合で含まれ、硫酸マグネシウムが500gの割合で含まれ、第一リン酸アンモニウムが155gの割合で含まれ、ホウ素が3gの割合で含まれ、硫酸亜鉛が0.22gの割合で含まれ、硫酸マンガンが2gの割合で含まれ、硫酸銅が0.05gの割合で含まれ、モリブデン酸ナトリウムが0.02gの割合で含まれ、キレート鉄が25gの割合で含まれた水溶液を用いる。

【0018】
【表1】
JP0005622260B2_000002t.gif

【0019】
このベース培養液中、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硫酸マグネシウム及び第一リン酸アンモニウムの濃度を、果実又は野菜の種類に応じて適宜変更したものを上記標準培養液として用いる。また、カリウムの濃度(以下、カリウム濃度)は、培養液中の硝酸カリウムの含有率を変えることにより変更する。例えば、カリウムの濃度を4分の1にする場合には、硝酸カリウムの含有率を4分の1にすればよい。

【0020】
本発明においては、生殖成長期以降から収穫期の間、標準培養液からカリウム濃度のみを低下させたカリウム低下培養液を用いるが、好ましくは出蕾期から開花期の間、さらに好ましくは開花期にカリウム低下培養液の使用を開始して収穫期まで用いる。

【0021】
このように、カリウムを含む豊富な養分を必要とする栄養成長期にはカリウムが標準的な濃度(以下、標準濃度)で含まれた標準培養液を用い、果実又は野菜が内部にカリウムが含有し始める時期に培養液中のカリウム濃度を低下させることにより、生育に与える影響(言い換えると品質に与える影響)を最小限に抑制した状態で、該果実又は野菜のカリウム含有率を低減させることが可能になる。ちなみに、生殖成長期であっても、一定以上のカリウムが必要であるため、培養液中からカリウムを無くすことはせずに、その濃度を低下させて、果実又は野菜に蓄えられるカリウムの量を低減させる。

【0022】
すなわち、カリウム低下培養液では、品質に殆ど影響を与える事無く、どの程度までカリウム濃度を低下させることができるのかがポイントになり、後述するが、カリウム低下培養液のカリウム濃度を標準培養液のカリウム濃度の4分の1に低下させても野菜又は果実の品質に殆ど影響が無いことが確認された。このため、カリウム低下培養液のカリウム濃度は、標準培養液のカリウム濃度の4分の1までは低下させることが可能である。例えば、カリウム低下培養液のカリウム濃度を、標準培養液のカリウム濃度の3分の1程度としてもよい。

【0023】
[実施例1]
育成する果実又は野菜としてメロンを選定し、上記ベース養液中から硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硫酸マグネシウム及び第一リン酸アンモニウムの濃度の2分の1に低下させたものを標準培養液として用い、該標準培養液からカリウム濃度をさらに4分の1に低下させたものをカリウム低下培養液として用いる。言い換えると、この標準培養液1000L中に405gの硝酸カリウムが含まれ、このカリウム低下培養液1000L中に101.25gの硝酸カリウムが含まれる。

【0024】
図1は、標準培養液のみによって水耕栽培を行うことにより収穫されたメロンと、標準培養液とカリウム低下培養液を使い分けて水耕栽培を行うことにより収穫されたメロンとを比較した比較表である。同図に実験では、生育の全期間を通じて上記標準培養液を使用することによりメロンを水耕栽培した場合を「標準液」とし、発芽から開花前まで上記標準培養液を使用するとともに開花後から収穫期まで上記カリウム低下培養液を使用することによりメロンを水耕栽培した場合を「1/4K」としている。

【0025】
同図に示す比較表によれば、「標準液」で収穫されたメロンと「1/4K」で収穫されたメロンとは、「1/4K」で収穫されたメロンの方が根の部分が若干小さく(具体的には、33.7gと28.3g)酸度が若干低い(具体的には、0.83と0.66)以外、両者には、葉の大きさ(具体的には、63.2gと60.1g)、茎の大きさ(具体的には、14.1gと13.4g)、果実当りの重量(具体的には、1792gと1741g)及び糖度(具体的には、16.2と16.1)において、有意な差が認められなかった。

【0026】
そして、「標準液」で収穫されたメロンのカリウム含有量が2867ppmなのに比べて、「1/4K」で収穫されたメロンの方のカリウム含有量が1754ppmとなり、両者のカリウム含有量に顕著な差が認められた。

【0027】
これは、本発明を用いることにより、甘みや大きさといった品質に殆ど影響を与えること無く、メロンのカリウムの含有率を低下させることが可能であることを示す結果である。

【0028】
[実施例2]
育成する果実又は野菜として苺を選定し、上記ベース養液中から硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硫酸マグネシウム及び第一リン酸アンモニウムの濃度の4分の1に低下させたものを標準培養液として用い、該標準培養液からカリウム濃度をさらに4分の1に低下させたものをカリウム低下培養液として用いる。言い換えると、標準培養液1000L中に202.5gの硝酸カリウムが含まれ、カリウム低下培養液1000L中に50.625gの硝酸カリウムが含まれる。

【0029】
図2は、標準培養液のみによって水耕栽培を行うことにより収穫された苺と、標準培養液とカリウム低下培養液を使い分けて水耕栽培を行うことにより収穫された苺とを、比較した比較表である。同図に実験では、生育の全期間を通じて上記標準培養液を使用することにより苺を水耕栽培した場合を「標準液」とし、苗の定植から開花前まで上記標準培養液を使用するとともに開花後から収穫期まで上記カリウム低下培養液を使用することにより苺を水耕栽培した場合を「1/4K」とし、宝交早生と、あきひめ(登録商標)と、サマープリンセスと、さがほのか(出願中商標)と、れいこうのそれぞれ各品種について、「標準液」で収穫した場合と、「1/4K」で収穫した場合とで、糖度及びカリウム含有量の比較を行った。ちなみに、苺の栽培では、苺の親株のツルであるライナー上にできる子株を、苗として培養液に定植させる。

【0030】
同図に示す比較表によれば、「標準液」で収穫された苺と「1/4K」で収穫された苺とは、全品種通じて、カリウム含有量(同図では「K含量」で表示)に顕著な差が見られ、糖度には有意な差が認められなかった。

【0031】
具体的には、宝交早生の苺においては、「標準液」の場合、糖度が6.6であって、カリウム含有量が1620であるのに対して、「標準液」の場合、糖度が6.9であって、カリウム含有量が882である。あきひめの苺においては、「標準液」の場合、糖度が8.8であって、カリウム含有量が2060であるのに対して、「標準液」の場合、糖度が8.3であって、カリウム含有量が850である。サマープリンセスの苺においては、「標準液」の場合、糖度が7.9であって、カリウム含有量が2060であるのに対して、「標準液」の場合、糖度が6.7であって、カリウム含有量が1068である。さがほのかの苺においては、「標準液」の場合、糖度が7.1であって、カリウム含有量が1840であるのに対して、「標準液」の場合、糖度が8.1であって、カリウム含有量が1150である。れいこうの苺においては、「標準液」の場合、糖度が6.6であって、カリウム含有量が1800であるのに対して、「標準液」の場合、糖度が6.9であって、カリウム含有量が1006である。

【0032】
これは、本発明を用いることにより、甘み等の品質に殆ど影響を与えること無く、苺のカリウムの含有率を低下させることが可能であることを示す結果である。
図面
【図1】
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【図2】
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