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明細書 :基板加工方法および半導体装置の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5565768号 (P5565768)
公開番号 特開2011-091264 (P2011-091264A)
登録日 平成26年6月27日(2014.6.27)
発行日 平成26年8月6日(2014.8.6)
公開日 平成23年5月6日(2011.5.6)
発明の名称または考案の名称 基板加工方法および半導体装置の製造方法
国際特許分類 H01L  21/304       (2006.01)
H01L  33/02        (2010.01)
FI H01L 21/304 611Z
H01L 33/00 100
請求項の数または発明の数 3
全頁数 17
出願番号 特願2009-244603 (P2009-244603)
出願日 平成21年10月23日(2009.10.23)
審査請求日 平成24年9月4日(2012.9.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】石山 新太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100097113、【弁理士】、【氏名又は名称】堀 城之
【識別番号】100162363、【弁理士】、【氏名又は名称】前島 幸彦
審査官 【審査官】岩瀬 昌治
参考文献・文献 特開2000-036583(JP,A)
特開2001-189288(JP,A)
特開平11-329997(JP,A)
特開2003-034599(JP,A)
特開2002-222772(JP,A)
調査した分野 H01L 21/304
H01L 33/02
特許請求の範囲 【請求項1】
サファイアで構成された基板を深さ方向において分断することによって加工する、基板加工方法であって、
前記基板の一主面側から0.3MeV以上、10MeV以下のエネルギー、注入量を1.0×1016(/cm)以上、1.0×1017(/cm)以下としてプロトン注入を行うプロトン注入工程と、
当該プロトン注入工程の後で、ArFエキシマレーザ光を前記基板に照射することにより前記基板を分断する照射工程と、
を具備することを特徴とする基板加工方法。
【請求項2】
前記照射工程において、前記基板における前記プロトンが照射された領域の一部に前記ArFエキシマレーザ光を照射することを特徴とする請求項1に記載の基板加工方法。
【請求項3】
基板上に半導体層が形成された構造の半導体装置を、請求項1又は2の基板加工方法を用いて製造する半導体製造方法であって、
前記プロトン注入工程後に前記基板の主面上に前記半導体層を形成した後に、前記照射工程を行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、基板加工方法および半導体装置の製造方法に関し、特に、プロトン注入とレーザ照射を行う基板加工方法および半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現状の白色LED製品は、青色発光ダイオードGaNを安価でエピタキシャル成長しやすい超精密加工されたサファイア基板(アルミナ酸化物)表面上で成長させ、その後GaN上にCe等白色変換素子を積層させLED素子を作ることによって白色光を得ているが、今後LED製品の価格等を下げるためには、GaN析出基板であるサファイア単結晶の薄膜化技術が有効である。
【0003】
また、半導体基板として、安価なサファイアに微細加工を施しサーキット(回路)を基板上に生成できれば、マスキングやその後の腐食加工工程が省略され、半導体素子のコストダウンに大きく寄与できる。
【0004】
サファイアの薄膜化技術法として考えられる方法としては、Si半導体にプロトンを注入して熱を加えてスマートカット(非特許文献1,特許文献1参照)する方法の適用可能性はあるが、アルミナ酸化物であるサファイアから同方法により薄膜ならびに微細加工を行った例は過去ない。過去においてサファイアへの各種イオン注入試験ないしレーザ照射実験の報告はあるが、前者は主にイオン注入により生成するカラーセンターに関する研究(非特許文献2-7参照)、後者はレーザ照射による損傷の研究(非特許文献8-10参照)を目的に行われるもので、これらの技術を組み合わせることによってサファイア自身の微細加工及び薄膜加工を試みた例は全くない。
【0005】
また、特許文献2,3には、基板の原子結合をイオン注入などにより弱め、その上に窒化物半導体を成長させ、レーザ照射により基板と窒化物半導体を分離することで窒化物半導体基板を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第3048201号
【特許文献2】特開2002-222772号公報
【特許文献3】US6,486,008B1
【0007】

【非特許文献1】吉見信著、電子材料、pp.37~43 (2007)
【非特許文献2】K.Moritani, Y.Teraoka, I.Takagi and et al., J. of Nucleara Mater. 373(2008)157-163.
【非特許文献3】K.Moritani, I.Takagi and H.Moriyama, J. of Nucleara Mater. 326(2004)106-113.
【非特許文献4】T.Mohanty, N.C.Mishra, F.Singh and et al. Radiation Measurement 36(2003)723-727.
【非特許文献5】Y.Song, Q.Lui, Y.Sun and et al. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 254(2007)268-272.
【非特許文献6】K.H.Lee and J.H.Crawford Jr., Physical Review B Vol.19,No.6,3217-3221(1979)
【非特許文献7】V.N.Gurarie, P.H.Otsuka, D.N.Jamieson and S.Prawer, J. Mater. Res. vol.20,No.5, 1131-1138(2005)
【非特許文献8】C.Jiang, G.Zhou, J.Xu and et al., J. of Crystal Growth 260(2004)181-185
【非特許文献9】S.Juodkazis, K.Nishimura and H.Misawa, Applied Surface Science 253(2007)6539-6544.
【非特許文献10】X.C.Wang, G.C.Lim, H.Y.Zheng and et al., Applied Surface Science 228(2004)221-226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2,3では、基板そのものを加工する方法ではなく、基板に半導体等を堆積させた後に基板との剥離を行うものである。また、単結晶サファイアは、特定の結晶方位に沿って非常に割れやすい方向が存在する。そのため、従来の加工法では、欠けや破損の発生が生じてしまう可能性があり、また、サファイア基板は、高硬度難削材料のため、微細加工や薄膜加工は非常に難しいという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、基板に微細加工や薄膜加工を容易に行うことができる基板加工方法および半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る基板加工方法および半導体装置の製造方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0011】
第1の基板加工方法(請求項1に対応)は、サファイアで構成された基板を深さ方向において分断することによって加工する、基板加工方法であって、基板の一主面側から0.3MeV以上、10MeV以下のエネルギー、注入量を1.0×1016(/cm)以上、1.0×1017(/cm)以下としてプロトン注入を行うプロトン注入工程と、プロトン注入工程の後で、ArFエキシマレーザ光を基板に照射することにより基板を分断する照射工程と、を具備することを特徴とする。
第2の基板加工方法(請求項2に対応)は、照射工程において、基板におけるプロトンが照射された領域の一部にArFエキシマレーザ光を照射することを特徴とする。
第1の半導体装置の製造方法(請求項に対応)は、基板上に半導体層が形成された構造の半導体装置を、上記の第1又は第2の基板加工方法を用いて製造する半導体装置の製造方法であって、プロトン注入工程後に基板の主面上に半導体層を形成した後に、照射工程を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板に微細加工や薄膜加工を容易に行うことができる基板加工方法および半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る基板加工方法により基板を加工する工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る基板加工方法の基板加工工程の各工程での基板の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る半導体装置の製造方法により半導体装置を製造する工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の各工程での基板の断面図である。
【図5】2種類の加速器(イオン注入装置とシングルエンド加速器)を使ってそれぞれの注入エネルギーでサファイア単結晶中にプロトンを注入したその条件とその量ならびに注入後のサファイアの状態を示す表である。
【図6】2種類の加速器(イオン注入装置とシングルエンド加速器)を使ってそれぞれの注入エネルギーでサファイア単結晶中にプロトンを注入したその条件とその量ならびに注入後のサファイアの状態を示す表である。
【図7】2種類の加速器(イオン注入装置とシングルエンド加速器)を使ってそれぞれの注入エネルギーでサファイア単結晶中にプロトンを注入したその条件とその量ならびに注入後のサファイアの状態を示す表である。
【図8】プロトン注入によってブリスタリングを生じた試料の顕微鏡像である。
【図9】プロトン注入前後のサファイアの吸収分光特性を示す図である。
【図10】プロトン注入サファイアの断面を示す図である。
【図11】計算により得られたプロトンのエネルギーと深さを示すグラフである。
【図12】レーザ照射(1Hz×10分間)のみのサファイア試料表面観察図である。
【図13】図12の1A-1B断面図である。
【図14】図12の2A-2B断面図である。
【図15】図12の3A-3B断面図である。
【図16】0.3MeVのHを注入した後にレーザを1ショット照射したサファイア試料表面(プロトン注入側)観察図である。
【図17】図16の1A-1B断面図である。
【図18】図16の2A-2B断面図である。
【図19】図16の3A-3B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。

【0015】
本発明の第1の特徴は、サファイア基板にプロトンを注入することにより、サファイア基板中に200nmの波長の紫外線を吸収する点欠陥(カラーセンター)が注入エネルギーに応じて照射表面から数μ~数10μmの深さに積層状に生成することを発見したことに基づくものであるということである。また、本発明の第2の特徴は、プロトンを注入することによりサファイア基板中に生じた上記の点欠陥領域が特定波長を吸収することに着目して、そのことを応用してサファイア基板を加工するということである。すなわち、プロトン注入後のサファイア基板の外部より上記の吸収波長のレーザ光をArFエキシマレーザによって照射することにより、上記のプロトン注入したサファイア基板中に生成した点欠陥中に効率良くレーザ照射エネルギーを吸収させる。そして、吸収部の内部温度を上昇させることにより、点欠陥内部に固定されているH分子の内部圧力を高め膨張させる。それにより、その内部圧力の高まりによる膨張によってサファイア中に生じる内部応力がサファイア自身の機械的強度以上になって、プロトン注入深さが注入面から浅い場合(1μm程度)には、平面応力状態で照射表面上にブリッジングを生じて剥離させ、レーザ照射面積に沿った表面剥離加工を行うことができる。また、プロトン注入深さが深い場合(数10μm程度)には、平面応力状態により内圧上昇した点欠陥をプロトン注入面方向に亀裂進展を伴って、上記の注入深さ相当の剥離膜を加工することができる。

【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板加工方法により基板を加工する工程を示すフローチャートである。基板加工工程は、プロトン注入工程(S11)とレーザ照射工程(S12)から成っている。

【0017】
プロトン注入工程(S11)は、基板を準備し、基板の一主面側からプロトンを注入し、点欠陥(カラーセンター)が生成された領域を形成する工程である。レーザ照射工程(S12)は、プロトン注入によって基板中に形成された欠陥準位の吸収波長と略等しい波長をもつ光を基板に照射することにより基板を分断する工程である。すなわち、プロトン注入によって形成された点欠陥の吸収波長に対応するレーザ光を照射し、点欠陥が生成された領域の内部温度を上昇させ、その部分から剥離、または溝を形成する工程である。そして、基板を深さ方向において分断することによって加工する。

【0018】
基板加工工程は、次のように行われる。図2は、基板加工工程の各工程での基板の断面図である。まず、サファイア基板10を準備する。図2(a)において、サファイア基板10は、直径2インチ、厚さ700ミクロンのサファイア(酸化アルミニウムの単結晶)であり、表面、裏面ともに鏡面仕上げとなっている。表面の面方位は(0001)面である。次に、図2(b)において、サファイア基板10の一主面11側から図示しない加速器またはイオン注入装置によりプロトン(H)を注入する(図中、矢印12で示している)。それにより、点欠陥生成領域13を形成する。

【0019】
このプロトン注入工程では、加速器またはイオン注入装置の試料台にサファイア基板10を設置して行った。プロトン注入量は、ブリスタリング生成を避けるため、好ましくは、1.0×1017(ion/cm)以下とし、さらに、好ましくは、1.0×1016(ion/cm)以上、1.0×1017(ion/cm)以下とする。また、プロトン注入のエネルギーは、サファイア表面付近のダメージを少なくするため、好ましくは、10MeV以下とし、さらに好ましくは、0.2MeV以上、10MeV以下とする。プロトン注入は、サファイア基板10を適当な角度、例えば、5°傾けて実施した。サファイア基板10にプロトン注入することにより、サファイア基板中に200nmの波長の紫外線を吸収する点欠陥(カラーセンター)が注入エネルギーに応じて照射表面から数μ~数10μmの深さに積層状に生成した。

【0020】
なお、プロトン注入時の注入角度は、チャネリング効果により注入したプロトンが奥深く注入されることを防ぐため、サファイアの(0001)面から2°以上傾けた面からイオンを入射することが好ましい。

【0021】
レーザ光照射工程(S12)は、例えば、図2(c)において、サファイア基板10の表面から、レーザ光(図中、点線矢印14で示している)を照射する。それにより、プロトン注入することによって生成された点欠陥生成領域13に効率良くレーザ照射エネルギーが吸収される。そして、吸収部の内部温度が上昇し、点欠陥内部に固定されているH分子の内部圧力が高まり膨張する。それにより、その内部圧力の高まりによる膨張によってサファイア中に生じる内部応力がサファイア自身の機械的強度以上になって、プロトン注入深さが注入面から浅い場合(1μm程度)には、平面応力状態で照射表面上にブリッジングを生じて剥離させ、レーザ照射面積に沿った表面剥離加工を行うことができる。また、プロトン注入深さが深い場合(数10μm程度)には、平面応力状態により内圧上昇した点欠陥をプロトン注入面方向に亀裂進展を伴って、上記の注入深さ相当の剥離膜を加工することができる。

【0022】
このレーザ光照射工程では、プロトン注入したサファイア基板10を固定治具に設置し、そのサファイア基板10にArF(193nm)エキシマレーザにより、約200nmのレーザ光を照射する。それにより、プロトン注入して形成されたカラーセンタによりそのレーザ光が吸収され、その層が温度上昇し、水素分子が膨張し、その部分が内部応力を持ち、剥離し、溝が形成され、サファイア基板が加工される。

【0023】
このように、サファイア基板に微細加工や薄膜加工を容易に行うことができる。また、プロトン照射では、200nmに吸収される点欠陥(カラーセンタ)生成領域13が生じ、レーザ光14で加熱され、剥離されるが、カラーセンタは、200nmの紫外領域であるため、イオン注入した部分が残留しても最終加工物に染色された部分が残らないので、可視光領域では透明性を保つことができる。

【0024】
次に、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する。この半導体装置の製造方法は、基板上に半導体層が形成された構造の半導体装置を、上記基板加工方法を用いて製造する半導体製造方法である。そして、プロトン注入工程後に基板の主面上に半導体層を形成した後に、照射工程を行う。

【0025】
この実施形態では、半導体装置の例として白色LED素子を用いる。白色LED素子を製作する場合、まず、GaNの基板となるサファイア基板に特定加速エネルギーで加速したプロトン(剥離膜厚みによって選択する)を注入し、その注入面側表面にGaNをエピタキシャル成長させた後、サファイア基板注入面反対側からエキシマレーザで注入面を照射することによりプロトン注入層を切り離す。以下この工程を同一サファイア基板で繰り返すことで、サファイア薄膜/GaN積層素子を大量に作り出すことで短時間加工ならびにサファイア基板の有効利用による大幅なコストダウンが図られる。また、プロトンを注入面から浅く注入することにより深さ1μmで任意幅の矩形溝をサファイア表面に微細加工することで、複雑なICチップ基板を短時間で大量に加工することが可能となる。

【0026】
図3は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の製造方法により半導体装置を製造する工程を示すフローチャートである。半導体装置製造工程は、プロトン注入工程(S21)と半導体成長工程(S22)とレーザ照射工程(S23)から成っている。

【0027】
プロトン注入工程(S21)は、基板を準備し、基板の一主面側からプロトンを注入し、点欠陥(カラーセンター)が生成された領域を形成する工程である。半導体成長工程(S22)は、素子を形成する半導体層を形成する工程である。レーザ照射工程(S23)は、プロトン注入によって形成されたカラーセンタ(色中心)の吸収波長に対応するレーザ光を照射し、その部分を加熱し、その部分から剥離する工程である。

【0028】
半導体装置の製造工程は、第1の実施形態と同様の基板加工方法を用いて次のように行われる。なお、第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付している。図4は、半導体装置の製造工程の各工程での基板の断面図である。まず、サファイア基板10を準備する。図4(a)において、サファイア基板10は、直径2インチ、厚さ700ミクロンのサファイア(酸化アルミニウムの単結晶)であり、表面、裏面ともに鏡面仕上げとなっている。表面の面方位は(0001)面である。次に、図4(b)において、サファイア基板10の一主面11側から図示しない加速器またはイオン注入装置によりプロトン(H)を注入する(図中、矢印12で示している)。それにより、点欠陥生成領域13を形成する。

【0029】
このプロトン注入工程では、加速器またはイオン注入装置の試料台にサファイア基板10を設置して行った。プロトン注入量は、ブリスタリング生成を避けるため、好ましくは、1.0×1017(ion/cm)以下とし、さらに、好ましくは、1.0×1016(ion/cm)以上、1.0×1017(ion/cm)以下とする。また、プロトン注入のエネルギーは、サファイア表面付近のダメージを少なくするため、好ましくは、10MeV以下とし、さらに好ましくは、0.2MeV以上、10MeV以下とする。プロトン注入は、サファイア基板10を適当な角度、例えば、5°傾けて実施した。サファイア基板10にプロトン注入することにより、サファイア基板中に200nmの波長の紫外線を吸収する点欠陥(カラーセンター)が注入エネルギーに応じて照射表面から数μ~数10μmの深さに積層状に生成した。

【0030】
なお、プロトン注入時の注入角度は、チャネリング効果により注入したプロトンが奥深く注入されることを防ぐため、サファイアの(0001)面から2°以上傾けた面からイオンを入射することが好ましい。

【0031】
半導体成長工程(S22)は、例えば、その注入面側表面にGaN15をエピタキシャル成長させる。

【0032】
レーザ光照射工程(S23)は、例えば、図4(d)において、サファイア基板10の裏面から、レーザ光14を照射する。それにより、プロトン注入することによって生成された点欠陥生成領域13に効率良くレーザ照射エネルギーが吸収される。そして、吸収部の内部温度が上昇し、点欠陥内部に固定されているH分子の内部圧力が高まり膨張する。それにより、その内部圧力の高まりによる膨張によってサファイア中に生じる内部応力がサファイア自身の機械的強度以上になって、プロトン注入深さが注入面から浅い場合(1μm程度)には、平面応力状態で照射表面上にブリッジングを生じて剥離させ、レーザ照射面積に沿った表面剥離加工を行うことができる。また、プロトン注入深さが深い場合(数10μm程度)には、平面応力状態により内圧上昇した点欠陥をプロトン注入面方向に亀裂進展を伴って、上記の注入深さ相当の剥離膜を加工することができる。

【0033】
このレーザ光照射工程では、プロトン注入したサファイア基板10を固定治具に設置し、そのサファイア基板10にArFエキシマレーザにより、約200nmのレーザ光を照射する。それにより、プロトン注入して形成されたカラーセンタによりそのレーザ光が吸収され、その層が温度上昇し、水素分子が膨張し、その部分が内部応力を持ち、剥離し、溝が形成され、サファイア基板が加工され、サファイア薄膜/GaN積層素子が製造される。

【0034】
このように、サファイア基板に微細加工や薄膜加工を容易に行うことができ、サファイア薄膜/GaN積層素子を容易に製造することができる。また、プロトン照射では、200nmに吸収されるカラーセンタが生じ、レーザで加熱され、剥離されるが、カラーセンタは、200nmの紫外領域であるため、イオン注入した部分が残留しても最終加工物に染色された部分が残らないので、可視光領域では透明性を保つことができる。そのため、青色等の可視光域で発光するLEDの光をサファイアの裏面からも、吸収されずに放出することができる。

【0035】
次に、上記実施形態で説明した基板加工方法についての実験結果を示す。

【0036】
図5~図7で示す表は、2種類の加速器(イオン注入装置とシングルエンド加速器)を使ってそれぞれの注入エネルギーでサファイア単結晶中にプロトンを注入したその条件とその量ならびに注入後のサファイアの状態を示す表である。表に示される状態(Conditions)の欄に記載される丸印は、注入後も健全であった試料である。×印は、注入後、図8で示すようなブリスタリングを生じた試料である。図8(a)は、サファイアのc軸に平行に0.3MeV,2×1017(/cm)のプロトンを注入したサファイアの表面で観察されたブリスタリングを示し、図8(b)は、サファイアのa軸に平行に0.3MeV,2×1017(/cm)のプロトンを注入したサファイアの表面で観察されたブリスタリングを示す。これにより、試料が健全であるための注入量として、1.0×1017(/cm)以下であり、好ましくは、1.0×1016(/cm)以上、1.0×1017(/cm)以下であることが分かった。

【0037】
図9は、プロトン注入前後のサファイアの吸収分光特性を示す図である。図9(a)は、プロトン注入していない試料の吸収分光特性である。図9(b)は、プロトン注入した後の試料の吸収分光特性である。プロトン注入試験片には約200nm付近の紫外線を特異的に吸収する性質がある。これは、プロトン注入後にサファイア注入層に生成する点欠陥(カラーセンタ)による特異吸収によるものである。図9(b)の結果から、プロトン注入したサファイアには200nm波長の特異な吸収特性があることを発見した。

【0038】
図10は、プロトン注入サファイアの断面を示す図である。0.3MeVプロトン注入により注入表面から約1μm深さにプロトン注入層が観察される。ここに点欠陥および注入プロトンが集積されている。図10のプロトン注入後のサファイア断面観察の結果から、0.3MeV加速プロトンの注入計算位置に符合する深さ1μm箇所で組織変化を生じている層が観察される。この領域は、プロトン注入の際に生じる点欠陥生成域であり、点欠陥には注入プロトンのガスが充満していると考えられる。なお、図11は、計算により得られたプロトンのエネルギーと深さを示すグラフである。

【0039】
図12は、レーザ照射(1Hz×10分間)のみのサファイア試料表面観察図である。照射面にクレーター状の凹みが生成しており、200nmのArFエキシマレーザ照射したサファイア表面観察の結果である。図13は、図12の1A-1Bを表面粗さ計で走査した断面図である。図14は、図12の2A-2B断面図である。図15は、図12の3A-3B断面図である。1ショット後では表面になんら変化が生じなかったため、その後1Hz×10分間の繰り返し照射した結果、クレーター状のアブレーション痕が観察された。

【0040】
図16は、0.3MeVのHを注入した後に、200nmのArFエキシマレーザを1ショット照射したサファイア試料表面(プロトン注入側)観察図である。照射面に深さ約1μmの矩形の凹みが生成している。この結果から、プロトン注入サファイアでは特性波長のレーザを、プロトン注入の際に生じた点欠陥が選択的に吸収し、欠陥内部に蓄積しているHガスを加熱膨張させて注入表面側に剥離を生じたものと考えられる。図17は、図16の1A-1B断面図である。図18は、図16の2A-2B断面図である。図19は、図16の3A-3B断面図である。図12のサファイアでは1ショット照射で何も生じなかった表面であるが、プロトン注入サファイアでは表面に深さ1μmから矩形の溝が生じていることが分かる。これは、1ショットの大半のエネルギーを点欠陥が特異吸収し、欠陥内部のHガスを加熱膨張させた結果、プロトン蓄積域にあってレーザ照射された領域においてのみ表面剥離を生じたことを示している。また、サファイアのa軸とc軸方向での溝生成には違いはなく、結晶軸の方向によらないことが分かった。

【0041】
以上の実験結果から、プロトン注入の際のエネルギーを選択してプロトン注入深さを調整することにより、任意の深さの矩形微細溝をレーザ光幅を調整することにより、サファイア表面に形成することができることが結論された。また、注入深さを深くすることにより、点欠陥周りの応力状態を平面応力状態にすることで、これにレーザ照射して亀裂をプロトン注入面に平行に走らせ、薄膜加工することも考えられる。

【0042】
以上の実験結果から、次のことが結論づけられる。
(1)サファイアのプロトン注入試験条件としては、下記条件が推奨される。
(A)加速エネルギー:0.3~3MeV、(B)注入時試験温度:573K以下、(C)1×1017/cm(H換算)以下。
(2)プロトン注入時の損傷程度にサファイアの結晶方位学的な差異ははない。
(3)0.3MeV加速プロトン注入試料では、注入側表面から約1μmの深さのプロトン注入部位面に厚み約200nmの組織変化を生じているが、結晶方位学的には未照射のサファイア単結晶部位とに差異は認められない。
(4)液体窒素へ投入したプロトン注入試験に剥離・損傷等の顕著な変化は認められなかった。
(5)サファイア試料において200~900nm波長範囲で顕著な紫外線吸収は観察されないのに対してプロトン注入されたサファイアは約200nmの紫外光を特異的に吸収する特性を有する。
(6)約200nm波長を発振するArFエキシマレーザをサファイア試料に3.4J/cmで1~50Hzの繰り返し照射した場合、繰り返し時間に比例してその損傷深さが増加し、50Hz×10minで30~60μmの深さまで達するV字型溝が形成されていた。投入エネルギーと加工深さとの関係から、サファイア試料内に損傷を生じさせるために必要な投入エネルギーは、100J/cm程度と推定される。
(7)同上の単パルスレーザ照射を0.3MeVH×1.3×1017ions/cmでプロトン注入した試料に行った場合、本来サファイアで生じない3.4J/cmの低いエネルギーにおいて上記(3)で観察された組織変化部位に相当する場所から深さ1μm×幅50~80μmの矩形形状の溝が生じた。さらに同条件で繰り返しを行うと矩形幅がプロトン注入面にそって増すことが分かった。
(8)サファイア内部にプロトン加速エネルギーと注入量を調整して任意の深さと特定厚みのプロトン注入層を形成することにより、外部からのレーザ入射エネルギーをその場所に集中させてその箇所を切断できる微細加工が可能となった。このプロトン注入面とレーザ照射面を大きく取ることによりサファイア基板からの大面積のサファイア薄膜の加工も可能である。

【0043】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る基板加工方法および半導体装置の製造方法は、絶縁体であるとともに耐熱性ならびに透過度の優れたサファイアなどのアルミナ酸化物単結晶を基板として用いるLED光学系素子(サファイア基板/GaN/Ce積層構造LED素子)、半導体素子(半導体基板)、異種材接合の際の低膨張率サファイア挿間材を製造する方法等に利用される。
【符号の説明】
【0045】
10 サファイア基板
11 表面
12 プロトン
13 点欠陥生成領域
14 レーザ光
15 GaN
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図18】
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【図19】
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