TOP > 国内特許検索 > 新規セレン含有化合物 > 明細書

明細書 :新規セレン含有化合物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5669056号 (P5669056)
公開番号 特開2011-121914 (P2011-121914A)
登録日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発行日 平成27年2月12日(2015.2.12)
公開日 平成23年6月23日(2011.6.23)
発明の名称または考案の名称 新規セレン含有化合物
国際特許分類 C07D 233/66        (2006.01)
A61K  31/4172      (2006.01)
A61K   8/58        (2006.01)
A61P   3/12        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61P   7/08        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
C09K  15/32        (2006.01)
FI C07D 233/66 CSP
A61K 31/4172
A61K 8/58
A61P 3/12
A61P 35/00
A61P 9/10
A61P 3/10
A61P 7/08
A23L 1/30 Z
C09K 15/32 Z
請求項の数または発明の数 24
全頁数 35
出願番号 特願2009-282034 (P2009-282034)
出願日 平成21年12月11日(2009.12.11)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成21年11月 水産利用関係研究開発推進会議利用加工技術部会研究会において、文書をもって発表。
審査請求日 平成24年10月9日(2012.10.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501168814
【氏名又は名称】独立行政法人水産総合研究センター
発明者または考案者 【氏名】山下 由美子
【氏名】山下 倫明
【氏名】藪 健史
個別代理人の代理人 【識別番号】110000774、【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
審査官 【審査官】小出 直也
参考文献・文献 国際公開第2007/106859(WO,A1)
特開2001-231498(JP,A)
調査した分野 C07D 201/00-521/00

CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
化学式1で表されるセレン含有化合物。
[化学式1]
JP0005669056B2_000016t.gif(式中、
Rは水素を表すか、
エルゴチオニル基、グルタチオニル基、システイニル基を表す。)
【請求項2】
化学式4で表されるセレン含有化合物。
[化学式4]
JP0005669056B2_000017t.gif
【請求項3】
化学式2または化学式3で表されるセレン含有化合物。
[化学式2]
JP0005669056B2_000018t.gif[化学式3]
JP0005669056B2_000019t.gif
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を標準物質として使用するセレン含有化合物の分析方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする医薬品。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする機能性食品。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする栄養補助剤。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする食品添加物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする動物医薬品。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする飼料添加物。
【請求項11】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする化粧品。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする培地添加物。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項14】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とするヘム鉄タンパク質のメト化防止剤。
【請求項15】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を使用したヘモグロビンまたはヘモグロビンと同等の作用を有する酸素運搬体を含む人工血液、輸液製剤または組織保存液。
【請求項16】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする蛍光物質、紫外線吸収物質またはセレン含有化合物の有する蛍光および紫外吸収の化学的特性を付加する化学修飾剤。
【請求項17】
請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物を含むセレン濃縮物。
【請求項18】
化学式1~4のいずれかに表されるセレン含有化合物を有する試料を有機溶媒または水で抽出する工程を含む請求項1~3のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項19】
化学式1~4のいずれかに表されるセレン含有化合物を有する試料を有機溶媒として親水性有機溶媒で抽出する工程を経た後、さらに有機溶媒として疎水性有機溶媒を含む溶媒で抽出する工程を含む請求項18に記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項20】
有機溶媒としての親水性有機溶媒がエタノール、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルから選ばれる一種以上であり、有機溶媒としての疎水性有機溶媒がジエチルエーテル,テトラヒドロフラン、シクロヘキサンまたはジクロロメタンから選ばれる一種以上である請求項18または19に記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項21】
化学式1~4のいずれかに表されるセレン含有化合物を有する試料、または、請求項17に記載のセレン濃縮物に含有されるセレン含有化合物のヘム鉄複合体を還元剤で還元し、ヘム鉄を遊離させる工程を含む、請求項18~20のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項22】
還元剤がチオール還元剤である請求項21に記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項23】
セレン濃縮物をイオン交換樹脂によって濃縮する工程を含む請求項18~22のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
【請求項24】
セレン濃縮物をHPLC精製する工程を含む請求項18~23のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は新規のセレン含有化合物に関する。さらに、該セレン含有化合物の製造法や、抗酸化剤としての用途、該セレン含有化合物を標準物質として用いる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、ヒトにとって必須の微量元素であり、生体内では、酵素やタンパク質の一部を構成し、抗酸化反応において重要な役割を担っている(非特許文献1~2)。セレンは藻類、魚介類、肉類、卵黄に豊富に含まれており(非特許文献3)、日本人が多く摂取するさまざまな魚種の魚肉にも豊富に含まれている(非特許文献1~4)。
特に,マグロ類の血合肉や鯨肉はセレンを最も高濃度に含むことが知られており(非特許文献5~7)、クロマグロにおける各臓器のセレン含量として血液(15.2ppm)、腎臓(8.3ppm)、脾臓(7.6ppm)、表層血合筋(6.1ppm)、真層血合筋(5.9ppm)、心臓表層血合筋(4.4ppm)、肝臓、表層血合筋(4.1ppm)、鰓(2.6ppm)、脳(1.4ppm)、普通筋(0.57ppm)等が調べられている。臓器によっては4ppmを超えるセレンが含まれていることから、これらが有機セレンの供給源として利用可能であることが示されている(非特許文献8)。しかし、このような各臓器に含まれるセレンの生化学的性状は不明であり、また、高純度の抽出物を得ることが困難であるため、有効に利用されていないのが現状である。
【0003】
食品中のセレンの多くは,タンパク質の構成アミノ酸であるセレノシステイン残基として存在することから、その消化・吸収はタンパク質の吸収と同時に行われると考えられており、消化管からの吸収率は50%以上であると推定されている(非特許文献1)。ヒトの体内には体重1kg当たり約250μgのセレンが存在し、尿中への排泄によって体内での恒常性が保たれている(非特許文献1)。
酵素・タンパク質のセレノシステイン残基は,セレンタンパク質の活性中心のセレノール基に位置している。活性酸素やヒドロペルオキシドの分解除去を担うグルタチオンペルオキシターゼおよびチオレドキシンレダクターゼ、甲状腺ホルモンの生成に関与する5’-ヨードチロニン脱ヨード酵素、血漿中に分布するセレノプロテインP等、いずれのセレンタンパク質も生体抗酸化作用に対して重要な役割を担っている(非特許文献1)。これらの知見から魚肉に高濃度に含まれる有機セレンはグルタチオンペルオキシダーゼ等のセレンタンパク質とその分解ペプチド・アミノ酸であると考えられていた(特許文献1)。
【0004】
セレンが不足すると、過酸化物による細胞障害が生じることが知られている(非特許文献1)。セレンの欠乏症の一つである心筋症(克山病)は、低セレン地域である中国東北部に見られるが、亜セレン酸塩の投与で発症が予防される(非特許文献1)。また、低セレン地域である中国北部やシベリアの一部の思春期の子供に認められるカシン・ベック症(地方病性変形性骨軟骨関節症)も、セレン欠乏が原因となっている(非特許文献1)。 心臓疾患の罹患率と血液中のセレン濃度を比較した疫学調査から低セレン状態が冠動脈疾患、すなわち狭心症や心筋梗塞と相関するとの報告もある。フィンランド東部はセレン欠乏による心臓血管系疾患の死亡率が高いことが報告されているが、血清中のセレン濃度が45μg/L以下の群で心臓疾患の発症率が高いことが知られている(非特許文献1)。
【0005】
さらに、筋肉痛、皮膚の乾燥、肝壊死等がセレン欠乏によって生じることが知られている(非特許文献1)。セレン欠乏は、肺がん、大腸がん、前立腺がん、直腸がん、乳がん、白血病等の発がんのリスクを高めることが報告されており(非特許文献1、10)、がんの手術や放射線治療中に1日200μgの亜セレン酸ナトリウムを補充すると細胞性免疫の応答性が増強し、がん細胞に対する細胞性免疫応答を補強されることが報告されている(非特許文献8)。また、セレンはがん細胞のシグナル伝達系に作用して細胞増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導する効果も報告されている(非特許文献11)。そして、1日に100~200μgのセレンは発ガン物質によるDNAの変異や酸化障害を抑制し、がんの進展を抑える効果があること、ただし、上限は400μgであってそれ以上の過剰摂取は有害である可能性が指摘されている(非特許文献12)。このようにセレンは発がん抑制やがんの治療や再発予防に有効であると考えられている。
【0006】
一方で,セレンの過剰摂取は毒性が強く、爪の変形や脱毛、胃腸障害、神経障害、心筋梗塞、急性の呼吸困難、腎不全等を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。
セレンの食事摂取基準は、推定平均必要量が25(20)μg、推奨量が30(25)μg、上限量が450(350)μgに設定されている(数値は成人男性、かっこ内は成人女性)(厚生労働省、平成16年11月22日、非特許文献13)。ただし、30~49歳の男性の推定平均必要量が30μg,推奨量は35μgである(非特許文献13)。また、わが国では、セレン上限量を脱毛と爪の脆弱化と脱落を指標として、中国の湖北省恩施地域の調査より得られた800μg Se/日とし、セレン上限量は100~450 μg Se/日に設定されている(非特許文献13、16)。
【0007】
近年、セレン欠乏に関わる疾病の予防や治療に無機態セレンおよびセレノメチオニンを有効成分とする有機態セレンを含有するサプリメント剤が利用されている。また、無機セレンを含む培地中で酵母を培養することによって、セレノメチオニンを高濃度に含むセレン含有酵母が有機セレン含有化合物の供給源として利用されている(非特許文献1)。食品、化粧品および飼料のセレン含量を高めるため、セレン含有酵母が利用されている。
【0008】
また、ヒト、家畜、魚介類等の生体に効率良く利用されるセレンを供給するため、魚肉や内臓等セレン含量が0.5ppmを超える原料から有機セレンを抽出することが可能であり、これらの組織の凍結乾燥や抽出物の濃縮によって、5ppmを超えるセレン含有素材を提供することができ、血合肉から総セレンが18~103.5ppm程度含まれるタンパク質濃縮物および塩酸加水分解物が試作されている(特許文献1)。しかしながら、マグロ類等大型魚・肉食魚の筋肉や内臓には0.5ppmを超える比較的高濃度のメチル水銀が含まれるため、未精製の乾燥粉末、凍結乾燥品、濃縮物、プロテアーゼによる分解物等は比較的高濃度のセレンが含まれるが、メチル水銀もセレンと同時に濃縮されるため、高濃度の水銀も含まれる。また、カドミウムも魚介類の内臓に1ppm以上含まれている。このように魚介類の血合肉や内臓は、有害重金属のメチル水銀およびカドミウムを含む場合があるので、医薬品、食品、飼料等への利用に適さない。そのため、魚介類組織由来の濃縮物・抽出物から有機セレン含有化合物を精製して有害重金属を除去して利用する必要がある。
【0009】
生体内および食品中のセレンの分析は、硝酸・過塩素酸混液による湿式加熱分解後、2,3-ジアミノナフタレン(DAN)と反応させ、Se(IV)との錯体形成反応により生じる4,5-ベンゾピアセレノール(Se-DAN)の蛍光を利用する方法が報告されている(非特許文献14)。また,HPLCにオンラインで連結したICP-MSを用いて、環境中の無機態および有機態のセレンの分子種同定を行う分析法も報告されている(非特許文献15)。しかし、生体および食品中のタンパク質やアミノ酸を含む有機セレン含有化合物を同時に分析することは知られていない。
【0010】
なおセレンは工業製品として、光受容体・半導体材料、ガラス、セラミック、プラスチック用の赤~橙色の顔料、ガラス製造における消色剤・消泡剤、冶金添加剤等に利用されている(非特許文献16)。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2001-231498号公報
【0012】

【非特許文献1】姫野誠一郎:セレン,「ミネラル/微量元素の栄養学,鈴木継美・和田攻編」,第一出版,p.423-445,1994年
【非特許文献2】Gerald F., Jr. Combs: Selenium in global food systems, British Journal of Nutrition, 85(5), 517-547 (2001).
【非特許文献3】Gerald F., Jr. Combs: The Role of Selenium in Nutrition, Academic Press, p.1-532, 1986.
【非特許文献4】鈴木泰夫編,食品の微量元素含量表,第一出版,p.1-169, 1993年
【非特許文献5】有馬郷司・長倉克男,歯クジラ類の水銀およびセレン含量,日水誌,45,623-626,1979年
【非特許文献6】山下由美子,魚肉中の微量必須元素に関する食品化学的研究,平成5年度水産物利用加工試験研究成績・計画概要集,水産庁中央水産研究所,p.10-11, 平成6年2月
【非特許文献7】山下由美子,魚肉中の微量必須元素に関する食品化学的研究,平成8年度水産物利用加工試験研究成績・計画概要集,水産庁中央水産研究所,p.28-29, 平成9年2月
【非特許文献8】L. Kiremidjian-Schumacher and M. Roy, Effect of selenium on the immunocompetence of patients with head and neck cancer and on adoptive immunotherapy of early and established lesions, Biofactors, 14(1-4), 161-168 (2001).
【非特許文献9】J.T. Salonen, G. Alfthan, J. K. Huttunen, J. Pikkarainen, and P. Puska, Association between cardiovascular death and myocardial infarction and serum selenium in a watched-pair longitudinal study, Lancet, 2, 175-179 (1982).
【非特許文献10】川上義和,ビタミンEと呼吸器疾患,CLINICIAN, 356, 63-66(1986).
【非特許文献11】A. Ghose, J. Fleming, and PR. Harrison, Selenium and signal transduction: roads to cell death and anti-tumour activity, Biofactors, 14(1-4), 127-133 (2001).
【非特許文献12】K. El-Bayoumy, The protective role of selenium on genetic damage and on cancer., Mutat. Res. 475(1-2), 123-139 (2001).
【非特許文献13】厚生労働省,日本人の食事摂取基準,平成16年11月22日
【非特許文献14】J. H. Watkinson, Fluorometric determination of selenium in biological material with 2,3-diaminonaphthalene. Anal. Chem., 38(1), 92-97 (1966).
【非特許文献15】H. Ge, X. J. Cai, J. F. Tyson, P. C. Uden, E. R. Denoyer, and E. Block, Anal. Commun. 33 (1996) 279.
【非特許文献16】セレンおよびその化合物基本情報,独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センターhttp://www.safe.nite.go.jp/management/search/Fundamental/76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はセレン含有化合物の提供を課題とする。また、該セレン含有化合物の製造法や、抗酸化剤としての用途、該セレン含有化合物を標準物質として用いる分析手法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、強力な生体抗酸化作用を有する新規のセレン含有化合物を見出した。該セレン含有化合物は、魚類等の生物由来の試料を有機溶媒で抽出することによりセレン濃縮物を得て、該セレン濃縮物に含まれるセレン含有化合物をクロマトグラフィーによって分離・精製することで得た、新規のセレン含有化合物であった。
また、本発明者らは、該セレン含有化合物が、カラムクロマトグラフィー、質量分析法等を用いることによって分離して定量できることを見出し、これらの該セレン含有化合物を標準物質として用いる分析方法の提供を可能とした。この分析方法を用いることによって、生体および食品中に分布するセレンが特異的に結合したタンパク質やセレン含有化合物を分析することができる。
【0015】
すなわち、本発明は次の(1)~(18)のセレン含有化合物等に関する。
(1)化学式1で表されるセレン含有化合物。
[化学式1]
JP0005669056B2_000002t.gif(2)化学式2または化学式3で表されるセレン含有化合物。
[化学式2]
JP0005669056B2_000003t.gif[化学式3]
JP0005669056B2_000004t.gif(3)化学式4で表されるセレン含有化合物。
[化学式4]
JP0005669056B2_000005t.gif(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を標準物質として使用するセレン含有化合物の分析方法。
(5)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする医薬品、機能性食品、栄養補助剤、食品添加物、動物医薬品、飼料添加物および化粧品。
(6)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする培地添加物。
(7)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする抗酸化剤。
(8)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とするヘム鉄タンパク質のメト化防止剤。
(9)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を使用したヘモグロビンまたはヘモグロビンと同等の作用を有する酸素運搬体を含む人工血液、輸液製剤および組織保存液。
(10)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を有効成分とする蛍光物質、紫外線吸収物質または化学修飾剤。
(11)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を含むセレン濃縮物。
(12)試料を有機溶媒または水で抽出する工程を含む)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
(13)試料を親水性有機溶媒で抽出する工程を経た後、さらに疎水性有機溶媒を含む溶媒で抽出する工程を含む上記(12)に記載のセレン含有化合物の製造方法。
(14)親水性有機溶媒がエタノール、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルから選ばれる一種以上であり、疎水性有機溶媒がジエチルエーテル,テトラヒドロフラン、シクロヘキサンまたはジクロロメタンから選ばれる一種以上である上記(12)または(13)に記載のセレン含有化合物の製造方法。
(15)試料または)上記(1)~(3)のいずれかに記載のセレン含有化合物を含むセレン濃縮物を還元剤で還元する工程を含む上記(12)~(14)のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
(16)還元剤がチオール還元剤である上記(15)に記載のセレン含有化合物の製造方法。
(17)セレン濃縮物をイオン交換樹脂によって濃縮する工程を含む上記(12)~(16)のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
(18)セレン濃縮物をHPLC精製する工程を含む上記(12)~(17)のいずれかに記載のセレン含有化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって得られる新規のセレン含有化合物は、生体成分および食品分析における標準物質として用いることができ、これを用いて生物や飲食品に含まれるセレン含有タンパク質、セレン含有ペプチド、セレン含有アミノ酸および無機態の亜セレン酸を分析することで、生体および食品におけるセレンの含有量を化学形態別に測定することができる。また、本発明のセレン含有化合物は、従来使用されてきた亜セレン酸等と比べて安全性や、バイオアベイラビリティーが高いことから、ヒト、家畜、魚介類等生体に効率良くセレンを取り込むことができ、既知の抗酸化剤以上の強い生体抗酸化作用を示すことから、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めるための抗酸化剤として、医薬品、機能性食品、栄養補助剤、食品添加物、動物医薬品、飼料添加物および化粧品等の有効成分として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】メバチマグロ血合筋由来のセレン濃縮物より、HPLCによりセレン含有化合物を精製する過程を示した図である(実施例1)。メバチマグロ血合筋由来のセレン濃縮物を分離した過程を示した。
【図2】ゲル濾過クロマトグラフィーによるセレン含有化合物の分離および新規セレン含有化合物の化学構造解析の結果を示した図である(実施例1)。
【図3】セレン含有化合物の1H NMRによる分析の結果を示した図である(実施例4)。
【図4】セレン含有化合物酸化型二量体のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS,スペクトル1)およびエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS,スペクトル2)の結果を示した図である(実施例4)。
【図5】セレン含有化合物の液体クロマトグラフ-誘導結合プラズマ-質量分析(HPLC-ICP-MS)による分析の結果を示した図である(実施例5)。
【図6】セレン含有化合物のHPLC-ICP-MSによる分析の結果を示した図である(実施例5)。
【図7】セレン含有化合物のHPLC-ICP-MSによる分析の結果を示した図である(実施例5)。
【図8】血合筋から精製したセレン含有化合物の生体抗酸化作用を細胞増殖率によって示した図である(実施例5)。
【図9】セレン含有化合物の細胞増殖促進効果を示した図である(実施例5)。
【図10】赤血球から回収したヘモグロビンのメト化率を示した図である(実施例5)。
【図11】赤血球から回収したヘモグロビン溶液における活性酸素レベルを分析した図である(実施例5)。
【図12】ミオグロビンにおける鉄およびセレンを検出した図である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の「セレン含有化合物」には,化学式1で表される骨格を有するセレン含有化合物であれば良く、例えば、化学式2、化学式3で表されるセレン含有化合物(化学式2:3-(2-hydroseleno-1H-imidazol-5-yl)-2-(trimethylammonio)propanoate、化学式3:3-(2-selenoxo-2,3-dihydro-1H-imidazol-4-yl)-2-(trimethylammonio)propanoate)が該当する。化学式2または、化学式3で表されるセレン含有化合物はいずれもセレン含有化合物の単量体である。化学式2のセレン含有化合物は、ピリミジン環の二位の炭素原子にセレノール基が結合した分子構造を有しており、セレノール基はセレノケトン基との平衡状態にある互変異性体を形成することから,溶液状態では溶媒の条件によって,セレノ-ル型(化学式2)とセレノケトン型(化学式3)との2つの化学形態を有している。セレノール型異性体に平衡が傾く非極性溶媒存在下では,容易に酸化型二量体が形成される一方,極性溶媒中ではセレノケトン型異性体に化学平衡が片寄り,主に単量体として存在する性質がある。

【0019】
また、本発明の「セレン含有化合物」には,化学式4(酸化型二量体:3,3'-(2,2’-diselanediylbis(1H-imidazole-5,2-diyl))bis(2-(trimethylammonio)propanoate))のピリミジン環にセレノール基とトリメチルアンモニウム基が結合した分子構造を持つ化合物を基本単位として、この化合物がセレノール基を介してジセレニドを形成した二量体も含まれる。
さらに、本発明の「セレン含有化合物」には、化学式2~4に表されるセレン含有化合物の他に、Rにエルゴチオネイン、グルタチオン、システイン、アセチルシステイン、ホモシステイン、メチル水銀、生体内で生成されると推定されるチオール化合物と結合した「セレン含有化合物」や「セレン含有化合物」がセレノール基を介して結合した金属や高分子材料も含まれる。

【0020】
本発明の「セレン含有化合物の分析方法」は、本発明のセレン含有化合物を標準物質として使用して、測定対象となる生物や飲食品に含まれるグルタチオンペルオキシダーゼ、セレノプロテインP等のセレン含有タンパク質、セレン含有ペプチド、セレノシスチン、セレノメチオニン等のセレン含有アミノ酸および本発明のセレン含有化合物、セレノネイン等の有機態および無機態の亜セレン酸等を分析する方法であればいずれの分析方法も用いることができる。
例えば、本発明のセレン含有化合物をクロマトグラフィーによって分離し、精製した後、オンラインでICP-MSに導入して、セレンをイオン化することで、測定対象に含まれるセレンタンパク質、セレン含有アミノ酸、亜セレン酸、有機態および無機態セレンを一斉に分析し、測定することができる(図5、6)。
生体および食品に含まれるセレン含有化合物をクロマトグラフィーによって分離する条件としては、セレンタンパク質、セレン含有アミノ酸、亜セレン酸、有機態および無機態セレンを分析し、測定できる条件であればいずれでも良いが、例えば、0.1Mギ酸アンモニウムで平衡化したゲルろ過カラム(Ultrahydrogel 120、内径7.8mm×カラム長300mm、Waters Co.)で生体組織の抽出物を分離することによって、化学形態毎のセレン含量を定量的に分析する等が挙げられる(図7)。

【0021】
本発明の「セレン含有化合物」は、医薬品、機能性食品、栄養補助剤、食品添加物、動物医薬品、飼料添加物、化粧品、培地添加物、抗酸化剤、とくにヘム鉄タンパク質のメト化防止剤、ヘモグロビンまたはヘモグロビンと同等の作用をもつ酸素運搬体を含む人工血液および組織保存液、蛍光物質、紫外線吸収物質または化学修飾剤等の様々な用途を有する物において、有効成分として用いることができる。本発明の「セレン含有化合物」の製造経過で得られる「セレン含有化合物を含むセレン濃縮物」も、有効成分を含む原料として用いることができる。

【0022】
本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする医薬品」としては、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めるための抗酸化剤として、セレン欠乏に起因することが推定されている疾病に対する予防薬、治療薬等が挙げられる。セレン欠乏に起因することが推定されている疾病としては、肺がん、前立腺がん、大腸がん等のがん、心臓疾患、糖尿病等が挙げられる。
例えば、中国の標高1000メートル以上の高地の低セレン地帯に見られる心筋障害(克山病)では、亜セレン酸の摂取によって病気の発症と死亡が改善されることが知られているが、この現象には低酸素下でのミオグロビンおよびヘモグロビンに結合した本発明のセレン含有化合物が欠乏するため、ヘム鉄の自動酸化とそれによるラジカル生成が増大するためであると推定される。また、フィンランド東部はセレン欠乏による心臓血管系疾患の死亡率が高いことが報告されおり、血清中のセレン濃度が45μg/L以下の群で心臓疾患の発症率が高いことが知られている(非特許文献1)。
このような疾病例において、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする医薬品」の投与によって、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めて、心臓疾患のリスクを抑制することができると推定される。
また、セレンの摂取レベルと、がんの死亡率との間にも負の相関関係があることが知られており、フィンランドやアメリカでの調査では血清中のセレン濃度の低い群でのがんによる死亡のリスクが2倍から3倍になることが示されている(非特許文献1)。そこで、「セレン含有化合物を有効成分とする医薬品」を提供することにより、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めて、セレン欠乏によるがんのリスクを低減化することができると推定できる。
また、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする動物医薬品」として、動物におけるセレン欠乏に起因することが推定されている疾病に対してセレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めるための予防薬、治療薬等も、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする医薬品」と同様に提供することができる。

【0023】
本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする機能性食品」としては、本発明のセレン含有化合物を含み、セレン欠乏に起因することが推定されている疾病において、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めて、その予防や症状の軽減に役立ち、その旨を明記することが認められた食品であればいずれのものも含まれる。
また、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする栄養補助剤」としては、本発明のセレン含有化合物を含み、セレン欠乏を予防するための栄養補助剤であればいずれのものも含まれ、サプリメント等が挙げられる。例えば、1錠当たりに、セレン欠乏を予防するために必要となる50~200μg程度となるように、本発明のセレン含有化合物を添加した栄養補助剤等が挙げられる。
さらに、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする食品添加物」または「セレン含有化合物を有効成分とする飼料添加物」には、本発明のセレン含有化合物を含み、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めて、セレン欠乏を予防するために食品または飼料に添加することを目的とする物であればいずれのものも含まれる。
そして、本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする化粧品」には、本発明のセレン含有化合物を含み、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高めて、セレン欠乏によって生じる美容的な問題を解決することを目的とする化粧品であればいずれのものも含まれる。

【0024】
本発明のセレン含有化合物は、従来これらの用途に用いられてきた亜セレン酸ナトリウムやセレノメチオニンに比べて、極めて細胞毒性が低く、有害重金属を含まず、生体内に吸収されやすいセレンの供給源であることから有用である。
また、本発明のセレン含有化合物は、化学的試験で水溶性ビタミンE誘導体Trolox(登録商標)(6-Hydroxy-2,5,7,8-tetrametylchroman-2-carboxylic acid)の約500倍のラジカル消去能を持つ、きわめて強力な抗酸化力を有する物質であることが確認され、DNA損傷修復作用を有することが推定されたことから、本発明の抗酸化剤や、抗酸化物質として利用でき、さらに、セレンが関与するレドックス経路の生体抗酸化作用を高める効果によってアンチエイジングを目的とする機能性食品、栄養補助剤、食品添加物および化粧品の提供にも利用することができる。

【0025】
また、亜セレン酸、セレノシスチン、セレノメチオニン等は、従来、生物に対する投与試験にも用いられてきたが、本発明のセレン含有化合物はこれらに比べてバイオアベイラビリティーが高く、細胞毒性が極めて低い、安全性の高く、かつ利用性の高い物質である。
本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする培地添加物」には、動物細胞、植物および微生物を人工的に培養する際に用いる培地に、セレンの供給源または抗酸化物質として添加できる培地添加物であればいずれのものも含まれる。
本発明の「セレン含有化合物」は、血管内皮細胞や赤血球等の細胞内へ細胞外から特異的に取り込まれ、細胞毒性が低いことから、例えば、動物細胞の無血清または少量血清添加培地に添加する、従来用いられてきた亜セレン酸の代替となる培地添加物として利用できる。
なお、本発明のセレン含有化合物はエルゴチオネイン、カルニチン等と化学構造が類似した有機カチオン性のベタイン化合物であり、細胞培養試験で培地から細胞内に速やかに取り込まれ、細胞増殖促進作用を有することから、有機カチオン/カルニチントランスポーター(Organic Cation/Carnitine Transporter,OCTN,参考文献1,2)によって、細胞内外の輸送が制御されていると推定される。
参考文献1:I. Tamai et.al., Mol. Pharm. 1, 57-66(2003)
参考文献2:D. Grundemann et. al., Discovery of the ergothioneine transpoter, PNAS, 102, 5256-5261(2005)

【0026】
本発明の「セレン含有化合物を有効成分とするヘム鉄タンパク質のメト化防止剤」には、本発明のセレン含有化合物を含み、ヘム鉄タンパク質のメト化防止を行う剤であればいずれの剤も含まれる。
また、本発明の「セレン含有化合物を使用した輸液製剤、組織保存液、および人工血液」には、本発明のセレン含有化合物を含む輸液製剤、組織保存液、ヘモグロビンまたはヘモグロビンと同等の作用を有する酸素運搬体を含む人工血液であればいずれのものも含まれる。ここで、「ヘモグロビンと同等の作用を有する酸素運搬体」としては、ヘモグロビン内包型リボソーム、ポルフィリン金属錯体-アルブミン複合体、ポリエチレングリコール(以下、PEGと示す)化ポルフィリン金属錯体-アルブミン複合体、分子架橋型ヘモグロビン、ヘモグロビン重合体、PEG化ヘモグロビン重合体等が挙げられる。
本発明の「セレン含有化合物」は、抗酸化剤およびヘム鉄の自動酸化抑制剤として機能することから血液、臓器の保存や人工血液の保存の際に利用できる。
また、消化器系疾患の治療に完全静脈栄養法等の栄養療法が行われるが、微量元素の欠乏症が現れることが報告されている(非特許文献1)。このような療法においても輸液製剤の成分に本発明のセレン含有化合物を添加することによって、血液を通して、セレン含有化合物が体内を循環し、組織・細胞内に取り込まれることによって、セレン欠乏を防止することができる。

【0027】
本発明の「セレン含有化合物を有効成分とする蛍光物質、紫外線吸収物質または化学修飾剤」には、本発明のセレン含有化合物を含み、蛍光物質、紫外線吸収物質または化学修飾剤として使用できる剤であればいずれの剤も含まれる。
本発明のセレン含有化合物は、チオール基と比べて反応性に富むセレノール基を有すること、蛍光および紫外吸収の化学的特性を有すること等から、蛍光物質、紫外線吸収物質または化学修飾剤として、さまざまな工業材料として利用できる。

【0028】
本発明の「セレン含有化合物の製造方法」としては、試料を水または有機溶媒で抽出する工程を含み、試料から化学式1~4のセレン含有化合物または該セレン含有化合物を含むセレン濃縮物が得られる製造方法であればいずれの方法も含まれる。
ここで、本発明の「セレン含有化合物を含むセレン濃縮物」とは、本発明のセレン含有化合物を製造する過程で得られる、本発明の化学式1~4に表されるセレン含有化合物を含むセレン濃縮物のことをいい、試料を有機溶媒または水で抽出した後、ロータリーエバポレーター等で濃縮して得られるもの等が挙げられる。本発明の「セレン含有化合物を含むセレン濃縮物」は、溶液状である場合には、本発明のセレン含有化合物を5μg/mL以上を含有しているものであることが好ましい。また、本発明の「セレン含有化合物」と化学的性状が類似するエルゴチオネインが混入したものも含まれる。

【0029】
本発明の「セレン含有化合物の製造方法」において、試料を水または有機溶媒で抽出する工程としては、例えば、試料をアセトン、エタノール、メタノール等の有機溶媒、または水等に浸漬し、必要であれば溶媒中で組織を破砕して、溶媒に溶解した化学式1~4のセレン含有化合物を含む可溶性画分を遠心分離、ろ過等の分離操作によって回収することで、抽出を行うことができる。
この工程にはさらに、回収された可溶性画分を減圧濃縮、膜分離、電気透析、クロマトグラフィーまたは凍結乾燥によって濃縮することも含むことができる。

【0030】
このように試料を有機溶媒で抽出する工程においては、試料から化学式1~4のセレン含有化合物または該セレン含有化合物を含むセレン濃縮物が得られれば、抽出に用いる有機溶媒の種類や抽出回数等は特に問わない。
試料を親水性有機溶媒で抽出する工程を経た後、さらに疎水性有機溶媒を含む溶媒で抽出する工程を含むような製造方法を用いることが好ましく、例えば、試料を親水性有機溶媒であるエタノール、メタノールまたはアセトンで抽出する工程を経た後、さらに疎水性有機溶媒を含む溶媒として、親水性有機溶媒であるアセトニトリルと疎水性有機溶媒であるジエチルエーテルの混液で抽出する工程を経ると、抽出されるセレン含有化合物の純度があがるため好ましい。

【0031】
「親水性有機溶媒」としては、従来知られているいずれの親水性有機溶媒も用いることができるが、例えばエタノール、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルから選ばれる一種以上が挙げられ、「疎水性有機溶媒」としても、従来知られているいずれの疎水性有機溶媒も用いることができるが、例えばジエチルエーテル,テトラヒドロフランまたはジクロロメタンから選ばれる一種以上が挙げられる。「疎水性有機溶媒を含む溶媒」としては、これらの疎水性有機溶媒を含む溶媒であればいずれの溶媒であってもよく、親水性有機溶媒と疎水性有機溶媒が混合した溶媒や、疎水性有機溶媒のみからなる溶媒も含まれる。

【0032】
本発明の「セレン含有化合物の製造方法」においては、セレン含有化合物がヘム鉄に配位して強く結合し、ヘム鉄複合体を形成していることが多々存在するため、さらに、還元剤で処理して還元する工程を含むことが好ましい。ヘム鉄複合体におけるヘム鉄はアセトニトリル等の有機溶媒による抽出によって除かれる場合もあるが、還元剤で処理することによってさらに除くことができる。
還元剤で処理する対象は試料そのものでも、試料から得たセレン含有化合物を含むセレン濃縮物であってもよく、チオール還元剤を用いて還元を行うことが好ましい。チオール還元剤としては、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノールまたはグルタチオン等が挙げられる。
この還元剤で還元する工程を経ることにより、セレン含有化合物を遊離させ、試料からの抽出効率を上昇するとともに、有害成分であるメチル水銀を除去することができる。

【0033】
本発明の「セレン含有化合物の製造方法」においては、セレン濃縮物をイオン交換樹脂によって濃縮する工程や、セレン濃縮物をHPLC精製する工程を含んでいることが好ましい。
セレン濃縮物をイオン交換樹脂によって濃縮することで、セレン濃縮物に含まれるセレン含有化合物の濃度が上がり、また、セレン濃縮物をHPLC精製することで、化学式1~4に示されたセレン含有化合物を得ることができる。
試料を水または有機溶媒で抽出する工程によって得られたセレン含有化合物を含むセレン濃縮物を、シリカゲルカラム、イオン交換カラム、C18逆相カラム、薄層クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いて分離することによって、本発明のセレン含有化合物を高純度に精製することができる。高純度に精製された本発明のセレン含有化合物は、セレンを20~29%(20万から29万ppm)含んでおり有用である。

【0034】
本発明のセレン含有化合物を抽出する「試料」としては、化学式1~4のいずれかに表されるセレン含有化合物を有するものであればいずれも「試料」となり得る。たとえば、本発明において、イカ類、魚類、鳥類、哺乳類組織にセレン含有化合物が検出されたことから、これらの生物組織、乾燥物またはその粉末を試料とすることもできる。
また、マグロ類等の魚介類の可食部、血合筋、脾臓、肝膵臓、心臓、血液等の水産加工残滓、サケ、キンメダイ、スルメイカ等の魚介類の内臓や鯨類・家畜・家禽の内臓等にセレン含有化合物が特に多く含まれていることから、これらの生物組織、乾燥物またはその粉末を試料として用いることも好ましい。
具体的には、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、ビンナガマグロ等のマグロ類血合筋や、コビレゴンドウクジラの赤身肉等の鯨肉、マグロ血液、クロマグロ等のマグロ肝膵臓等が挙げられる。
また、本発明のセレン含有化合物と同一の代謝経路に位置すると推定されるヒスチジン、ヘルシニン、エルゴチオネイン等のアミノ酸やベタイン類を原料として化学的あるいは酵素的に合成された生成物を含む。
また、本発明のセレン含有化合物を生合成または蓄積する微生物や培養細胞、動植物を試料とすることもできる。

【0035】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
セレン含有化合物の抽出
1.試料
1)血合筋:マグロ類血合筋として、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロまたはビンナガマグロの血合筋をそれぞれ用いた。また、カジキ類血合筋として、メカジキの血合筋を用いた。
2)鯨肉:コビレゴンドウクジラ赤身肉を用いた。
3)マグロ血液:クロマグロの血液を用いた。
4)マグロ肝膵臓:クロマグロ肝膵臓を用いた。
【実施例1】
【0037】
2.セレン含量の測定方法
本発明のセレン含有化合物またはセレン含有化合物を含むセレン濃縮物に含まれるセレン含量は、次の蛍光法によって測定した。
<蛍光法>
試料溶液10~100μLを目盛りつき共栓試験管中で、混酸(硝酸:過塩素酸:硫酸=1:2)(以下、混酸と示す)1mLとともに210℃で二時間湿式灰化した溶液に飽和シュウ酸アンモニウム水溶液0.2mLを加え100℃の水浴中で5分間加熱した。
その後、6N塩酸0.2mLを加え100℃の水浴中で30分間加熱し、水冷後0.1Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩を0.2mL加え、6N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH1.0~1.5に調整した。これに0.1N塩酸に溶解させた1mg/mLのDANを1mL添加し、50℃20分加温した。
水冷後、シクロヘキサン1mLと振とうしてシクロヘキサン層の蛍光を励起光379nm蛍光波長521nmで測定した。操作ブランクおよび1mg/Lセレン標準液を5、10、50、100μL用いて蛍光法で検量線を作成し、分析試料中のセレン量を算出した。
【実施例1】
【0038】
3.抽出方法
1)マグロ類血合筋またはカジキ類血合筋からのセレン含有化合物の抽出
工程1:セレン含有化合物のヘム鉄複合体の抽出
クロマグロ血合筋、ミナミマグロ血合筋、メバチマグロ血合筋またはビンナガマグロ血合筋またはメカジキ血合筋をそれぞれ厚さ1cmの小片に細切し、それぞれ蓋付きのポリビンに入れ、0℃以下で冷却した3倍量のメタノールを加えて、0℃で1週間以上静置した。
肉片を取り除いたメタノール抽出物1 Lに対して、冷100%エタノール(マイナス40℃以下で冷却したもの)を等量加え、このときに生じた沈殿物を遠心分離(6000×g、20分間)によって除いた。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、乾固して、セレン濃縮物(1)を得た。
次に、このセレン濃縮物(1)に適当量(約100~500mL)の冷メタノールを加え、よく撹拌した後、ろ過(東洋濾紙株式会社 定量濾紙No.3、以下、ろ過には同じ物を用いた)した。ここで添加する冷メタノールの量は、抽出後、さらに減圧濃縮を行うことから厳密ではなく、色素が抽出するのを目で観察しながら、濾過できる程度の懸濁状態にして抽出を行える量を適宜添加した。
【実施例1】
【0039】
この抽出液に等量の冷エタノールを加えてからロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン濃縮物(2)を得た。このセレン濃縮物(2)に対して、さらに10~100mLの冷エタノールを加え、よく振盪したのち、ろ過または遠心分離(6000×g、20分間)によって沈殿物を除去した。この抽出液を新しいナス型フラスコに回収し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン濃縮物(3)を得た。このセレン濃縮物(3)を約10mLの冷水に溶解し、遠心分離(10000×g、5分間)によって沈殿物を除去した。
このようにして得られたセレン濃縮物(3)は橙色、赤色または褐色を示し、セレン含有化合物のヘム鉄複合体として、回収された。セレン含有化合物のヘム鉄複合体の色調は、試料の種類、魚種、色素含量、試料の保存状態(酸化度合い)、抽出温度や還元剤の効き具合等によって様々であった。
このセレン濃縮物(3)を遠心エバポレーターで乾固させた乾固物のセレン含量は乾固物1kgあたり、16~152mg(クロマグロ血合筋由来16mg、ミナミマグロ血合筋由来17mg、メバチマグロ血合筋由来152mg、ビンナガ血合筋由来63mgメカジキ血合筋由来21mg)であった。このセレン濃縮物(3)に含まれるセレン含有化合物はセレノケトン型セレン含有化合物(化学式3)のセレンにヘム鉄が複合しているものが主であった。
【実施例1】
【0040】
工程2:ヘム鉄の遊離
工程1で得たセレン濃縮物(3)に含まれるセレン含有化合物のヘム鉄複合体を還元剤処理し、ヘム鉄を遊離させることによって、セレン含有化合物の収量を上げた。
即ち、工程1で得たメバチマグロ血合筋由来のセレン濃縮物(3)にジチオスレイトール(終濃度0.1%)を添加し反応液を得た。さらに、この反応液に対して5倍量のアセトニトリル・ジエチルエーテル混液(体積比5:1)を添加し、二相分離によって、セレン含有化合物を含む有機層を回収した。この抽出と濃縮工程を抽出物が透明となり濁りがなくなるまで数回繰り返すことによって、ヘム鉄を遊離し、共存するアミノ酸およびエルゴチオネインを含む不純物を沈殿物として除去することで、セレン含有化合物を2240μg含むセレン濃縮物(4)を得た。このセレン含量を蛍光法により測定したところ、溶液1mLあたり4.5μg(固形物当り2240μg/kg)含むセレン濃縮物(4)を得た。
【実施例1】
【0041】
工程3:HPLCによるセレン含有化合物の精製
1)HPLC
工程2で得たセレン濃縮物(4)を、30%アセトニトリルを含む0.1M酢酸水溶液で平衡化したゲルろ過カラム(Ultrahydrogel 120、内径7.8mm×カラム長300mm、Waters Co.)に添加し、流速2mL/分で流してセレン含有化合物を分離し、保持時間4分から8分で溶離した(図1A)。
これらの溶離液を遠心エバポレーター(VR-1、株式会社 佐久間製作所)で減圧濃縮した後、次にC18逆相カラム(Atlantis dC18カラム、内径4.6mm×長さ250mm、Waters Co.)に添加し、移動相に0.1%酢酸を用いて流速1mL/分で分離して、分離の開始から1~6分後に溶出されるセレン含有成分を回収した。この溶離液には固形分あたり5000μgセレン/gが含まれていた(図1B)。また、この溶離液にはエルゴチオネインも含まれていた。
さらに、30%アセトニトリルを含む0.1M酢酸水溶液で平衡化したゲルろ過カラム(Ultrahydrogel 120、内径7.8mm×カラム長300mm、Waters Co.)に添加し、流速2mL/分で流して、セレン含有成分に含まれるセレン含有化合物を分離し、蛍光法またはICP-質量分析により直接セレンを測定し、セレン含量の高い画分を回収した。セレン含有化合物は保持時間4分から8分で溶離した(図1C)。このようなクロマトグラフィー操作を2度繰り返し、セレン含有化合物を精製した。図1はメバチマグロ血合筋を試料としたものである。
精製したセレン含有化合物を試料として、0.005mlを用い蛍光法によってセレンを定量した(クロマグロ血合筋由来5.5μg/ml、ミナミマグロ血合筋由来1.3μg/ml、メバチマグロ血合筋由来0.4μg/ml、メカジキ血合筋由来129μg/ml)。
【実施例1】
【0042】
2)ICP質量分析
HPLCポンプ(Pu712、GLサイエンス株式会社)サンプルインジェクター(9725i、Rheodyne)ICP-MS(ELAN DRCII、Perkin-Elmer)を連結した装置に、0.1Mギ酸アンモニウムを流速0.5~1mLで流し、セレンの天然同位体であるセレン-82をモニター(atomic mass unitあたり滞在時間0.4sec)しながら、上記1)において分離したHPLCフラクションを15秒おきに2.5μLずつ、順次に注入した。注入するとサンプルが流れた瞬間だけセレンのカウントが上昇し、その後直ちに注入前のレベルに戻る。ピークの高さはセレン濃度に依存して高くなるため、HPLCで精製したセレンのクロマトグラムをオフラインで得た。セレンピークの高さが100万cps以上になるフラクションを回収した。
ICP-MS測定条件:
スキャン/読みとり:1、読みとり/繰り返し800、繰り返し/測定:1、1質量数あたりの滞在時間0.4sec
【実施例1】
【0043】
工程4:セレン含有化合物の化学構造の解析
工程3において精製した各試料由来のセレン含有化合物のうち、クロマグロ血合筋から得られたセレン含有化合物を用いて、プロトン核磁気共鳴分析装置(1H NMR)四重極質量分析計(Quattro II、Micromass社製)および精密質量分析計(MS700、日本電子株式会社)によってエレクトロスプレーイオン化—質量(ESI-MS)分析し、魚介類組織に含まれる主要なセレン含有化合物の化学構造を解析した。
500MHz 1H NMR(ECA500, 日本電子株式会社)スペクトルを図3に示した。重水中でδ3.08(d,J=3.4 Hz,2H),δ3.16(s,9H),δ3.80(dd,J=3.7,11.2Hz,1H)に飽和水素のシグナルが認められ、それぞれエルゴチオネイン(参考文献3)の3位のメチレン基水素δ3.10(m,2H),メチル基のδ3.19(s,9H),2位のメチン基水素δ3.80(dd,J=4.56,10.98 Hz,1H)とよく一致した。また、ピリミジン環の4位の芳香環水素はδ7.00(s,1H)に観測されのシグナルは文献値(参考文献3)δ6.70(s,1H)よりも0.3ppm低磁場側にシフトして観測されたことから、エルゴチオネインのイオウ原子がセレン原子に置換された構造を確認した。
四重極質量分析において、化学式1の構造に水素イオンが1個付加した分子イオンピークが観測され、セレンを1個含む分子に特徴的な同位体パターンが認められた(表1)。また、精密質量分析において質量数553.056を中心にセレンを2個含む分子イオンピークが観測された(表1)。この質量数から原子組成を推定した結果、化学式はC182864Se2+H+であり、各元素の原子量と天然同位比から理論的に計算された分子量および同位体分布は観測値とよく一致した。
また、MS/MS分析によるフラグメントイオン組成を表2に示した。フラグメントイオンの組成から、本発明によって得られたセレン含有化合物は、図2に示したように、セレン原子を2個含み、セレンの結合したピリミジン環、トリメチルアンモニウム基、カルボキシル基をもつ、ジセレニド構造による二量体(化学式4:酸化型二量体)と推定された。
参考文献3:J. Xu and J. C. Yadan, Synthesis of L-(+)-Ergothioneine, J. Org. Chem., 60, 6296-6301 (1995)
【実施例1】
【0044】
【表1】
JP0005669056B2_000006t.gif
【実施例1】
【0045】
【表2】
JP0005669056B2_000007t.gif
【実施例1】
【0046】
4.セレン含有化合物の物理化学的性状
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の物性値表3に示した。紫外吸収(吸収極大260nm)および蛍光(極大励起波長240nm、280nmおよび338nm、極大蛍光波長405nm)を示した。10mMジチオスレイトールで還元することで、単量体が得られ、その分子量が表3に示したようにm/z=278.0であったことから、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)がジセレニドを介して結合した二量体であることが確認された。
単量体は、エルゴチオネインと類似した化学構造を有するが、エルゴチオネインのチオール基のイオウ原子がセレン原子に置き換わった新規のセレン含有化合物(化学式2)であった。エルゴチオネインに類似する化学構造をもつ新規セレン含有化合物であることから独自に「セレノネイン」と命名した。
【実施例1】
【0047】
【表3】
JP0005669056B2_000008t.gif
【実施例1】
【0048】
2)鯨肉からのセレン含有化合物の抽出
コビレゴンドウクジラ赤身肉(セレン含量0.91mg/kg)350gを1cm角以下の小片に細切し、蓋付きのポリビンに入れ、0℃以下で冷却した4倍量の冷エタノールを加えて、0℃で1ヶ月以上静置した。コビレゴンドウクジラ赤身肉中のセレン含量は、該赤身肉0.1gを混酸で分解して蛍光法を用いることで測定した。
肉片を取り除いたエタノール抽出物1 Lをロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、乾固して、セレン含有化合物のヘム鉄複合体(化学式3)を含むセレン濃縮物(1)を得た。
次に、このセレン濃縮物(1)に100mLの0.1%グルタチオン(還元型)水溶液を加え、室温で12時間撹拌した後、400mLの冷エタノールを加え、ろ過することでヘム鉄の遊離を行った。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン濃縮物(2)を得た。
このセレン濃縮物(2)を10mLの冷水に溶解し、50mLの冷エタノールを加え、生じた沈殿物をろ過によって沈殿物を除去して抽出液を新しいナス型フラスコに回収し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン濃縮物(3)を得た。
このセレン濃縮物(3)を10mLの冷水に溶解した。このようにして鯨肉から得られたセレン濃縮物(3)のセレン含量を蛍光法によって測定した結果、セレンの収量は92μgであった。
【実施例1】
【0049】
3)マグロ血液からのセレン含有化合物の抽出
抽出例1:
クロマグロ血液(セレン含量 29.8mg/L)に5倍量の冷水を加え、溶血させた後、遠心分離(6000×g、10分間)して、得られた上清回収し、減圧濃縮し、セレン濃縮物(1)を得た。このセレン濃縮物(1)を遠心エバポレーターで乾固させた乾固物のセレン含量は、乾固物1kgあたり111mgであった。
抽出例2:
クロマグロ血液(セレン含量 34.7mg/L)100mLに対して5倍量の冷エタノールを加えて、ポリトロンホモジナイザーで固形物を粉砕した。クロマグロ血液中のセレン含量は、該血液0.01mLを混酸で分解して蛍光法を用いることで測定した。
沈殿物を遠心分離(6000×g、20分間)によって除いた後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、乾固し、セレン含有化合物のヘム鉄複合体(化学式3)を含むセレン濃縮物(1)を得た。
次に、このセレン濃縮物(1)に50mLの冷水を加えて沈殿物を溶解し、300mLの冷アセトニトリル(関東化学株式会社、大量分取液体クロマトグラフィー用、99.8%、0℃以下で冷却したもの)を添加して撹拌した後、静置して二相分離によって上層のアセトニトリル層を回収し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン濃縮物(2)を得た。アセトニトリル抽出することにより、セレン含有化合物のヘム鉄が遊離した。このようにしてクロマグロ血液から得られたセレン濃縮物(2)を遠心エバポレーターで乾固させた乾固物のセレン含量は、乾固物1kgあたり3100mgであった。
【実施例1】
【0050】
抽出例3:
クロマグロ血液300mLに対して、ヘム鉄からのセレン含有化合物の遊離を目的として、ジチオスレイトール(ナカライテスク株式会社)を粉末のまま0.3g加えた。クロマグロ血液中のセレン含量は、該血液0.01mLを混酸で分解して蛍光法を用いることで測定した。
これにテトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社):ジクロロメタン(和光純薬工業株式会社)=1:1混合溶媒を300mL加えて、穏やかに混和したのち、ジクロロメタンをさらに300mL加え、穏やかに混和した。下層の有機溶媒層を回収し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン濃縮物(1)を得た。
次に、このセレン濃縮物(1)に15mLの冷水を加えて溶解し、沈殿物を遠心分離(6000×g、20分間)によって除いた。このセレン濃縮物(1)のセレン含量は66mg/Lであった。
【実施例1】
【0051】
4)クロマグロ肝膵臓からのセレン含有化合物の抽出
クロマグロ肝膵臓(セレン含量8.1mg/kg、水銀含量3.9mg/Kg)100gを5mm以下の厚さに薄切りし、蓋付きのポリビンに入れ、0℃以下で冷却した冷エタノールを2倍量加えて、0℃で1ヶ月以上静置した。固形分をろ過によって除いたエタノール抽出物をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、乾固して、セレン含有化合物のヘム鉄複合体(化学式3)を含むセレン濃縮物(1)を得た。
クロマグロ肝膵臓中のセレン含量は、該肝膵臓0.2gを混酸で分解して蛍光法を用いることで測定した。また、水銀含量は冷蒸気原子吸光分析法によって測定した。
次に、このセレン濃縮物(1)を20mLの水に溶解した後、200mLの冷アセトニトリル(和光純薬工業株式会社)を添加して撹拌したのち後、静置して二相分離によって上層のアセトニトリル相を回収し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン濃縮物(2)を得た。アセトニトリル抽出することにより、セレン含有化合物のヘム鉄が遊離した。このようにしてクロマグロ肝膵臓から得られたセレン濃縮物(2)をロータリーエバポレーターで減圧濃縮後少量の水に溶解し、セレン粗抽出物1mLを得た。
【実施例1】
【0052】
これを混酸で湿式分解し、セレン(蛍光法)、鉄(ICP発光分光分析)、水銀(冷蒸気原子吸光分析法)を、ケルダール法により窒素を分析した結果、アセトニトリル可溶性抽出物のセレン含量50mg/kg 鉄含量1.8mg/kg、水銀含量0.012mg/kg、窒素45900mg/kg、アセトニトリル不溶性抽出物のセレン含量12mg/kg、鉄含量103mg/kg、水銀含量0.001mg/kg、窒素168000mg/kgであった。
この結果より、筋肉と比べて水銀含量が数倍高い内臓においても、セレンの抽出により、水銀含量が肝膵臓の300分の1に減ることが確認された。また、このセレン濃縮物は、栄養元素である窒素や鉄を豊富に含んでいることから、飼料の添加剤等に安全かつ有効に利用できることが示された。
【実施例1】
【0053】
5)ミナミマグロ血合筋からのセレン含有化合物の抽出
ミナミマグロ血合筋100gに冷水500mLを加えてポリトロンホモジナイザーで固形物を粉砕したのち、沈殿物を遠心分離(6000×g、20分間)によって除き、水抽出液(1)を得た。
次に、この水抽出液(1)100mLに対して、2-メルカプトエタノール(終濃度10mM)またはジチオスレイトール(終濃度50mM)を加えて、室温で1時間保存して還元剤処理を行い、それぞれの抽出液(2)を得た。または、この水抽出液(1)20mLを沸騰水浴中で10分間加熱し、熱水による抽出を行った抽出液(2)と、水抽出液(1)に対して1M塩酸を添加してpH 3に調整し、室温で10分間放置することで、酸による抽出を行った抽出液(2)をそれぞれ得た。
それぞれの抽出液(2)に冷エタノール400mLを添加した後、固形分を遠心分離(6000×g、20分間)によって除き、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮してそれぞれのセレン濃縮物(1)を得た。これにアセトニトリルを添加して攪拌した後、静置して二相分離によって上層のアセトニトリル相を集め回収し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した後少量の水に溶解し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン粗抽出物を得た。
それぞれのセレン粗抽出物を混酸で湿式分解し、セレン(蛍光法)、鉄(ICP発光分光分析)、水銀(冷蒸気原子吸光分析法)を分析した。それぞれのセレン粗抽出物に含まれるセレン、鉄、水銀を表4に示した。
【実施例1】
【0054】
【表4】
JP0005669056B2_000009t.gif
【実施例2】
【0055】
セレノール型セレン含有化合物またはセレノケトン型セレン含有化合物の作製
実施例1のセレノケトン型セレン含有化合物(化学式3)について、セレノケトン-セレノール互変異性の転換を行い、セレノール型セレン含有化合物(化学式2)を得た。
本発明のセレン含有化合物は、ピリミジン環の二位の炭素原子にセレノール基が結合した分子構造を有しており,このようなセレノール基はセレノケトン基との平衡状態にある互変異性体を形成する。セレノケトン基、セレノール基のどちらも熱や酸素に対して不安定な官能基であり、セレノケトン基は低分子のセレン化合物を遊離させ、セレンを急激に失う性質がある。一方でセレノール基は,セレノール型異性体に平衡が傾く非極性溶媒(シクロヘキサン,テトラヒドロフラン等)存在下や気相で、容易に比較的安定な二量体(酸化型二量体)に変化する(参考文献4)。
セレン含有化合物(化学式3)を含むセレン濃縮物に対して,テラヒドロフラン:シクロヘキサン=1:1混合溶媒を2倍量添加して一晩室温で攪拌し、乳化液を得た。これをロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。セレン含有化合物を純水で抽出し,遠心濃縮エバポレーターで水分を除去し,黄色の油状のセレノール型セレン含有化合物(化学式2)を含むセレン濃縮物(5)を回収した。回収されたセレン濃縮物(5)のセレン含量は2400mg/Kgであった。
参考文献4:J. Elguero, C. Marzin, A. R. Katritzky, and P. Linda, “The Tauto
merism of Heterocycles”, A. R.Katr
itzky and A. J. Boulton Eds.; Advances in Heterocyclic Chemistry, Supplement No. 1; Academic Press: New York, 1976.
【実施例3】
【0056】
セレン含有化合物の取得条件の最適化
1.抽出溶媒の検討
異なる抽出溶媒を用いて抽出を行い、セレン含有化合物の収量を比較することで、セレン含有化合物の抽出条件の最適化を行った。試料として、キンメダイ内臓を用い、抽出溶媒として、エタノール、メタノールまたはアセトンを用いた。
【実施例3】
【0057】
キンメダイ内臓20gに80%冷エタノール、冷メタノール(マイナス40℃以下で冷却したもの)またはアセトンを抽出溶媒として加えてポリトロンホモジナイザーで固形物を粉砕した。沈殿物を遠心分離(6000×g、20分間)によって除いた後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン含有化合物のヘム鉄複合体(化学式3)を含むセレン濃縮物(1)をそれぞれ得た。
次に、このそれぞれのセレン濃縮物(1)に200mLのアセトニトリルを添加して攪拌した後、静置して二相分離によって上層のアセトニトリル相を回収し、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を含むセレン濃縮物(2)をそれぞれ得た。このようにして得られた各抽出溶媒を用いたセレン濃縮物(2)をロータリーエバポレーターで減圧濃縮した後少量の水に溶解し、セレン粗抽出物として、それぞれメタノール抽出物12mL、80%エタノール抽出物14mL、アセトン抽出物8mLを得た。
これらを、それぞれ混酸で湿式分解し、セレン、鉄(ICP発光分光分析)、水銀(冷蒸気原子吸光分析法)を分析した。
その結果、抽出溶媒としてメタノールを用いた場合の抽出物中のセレン含量は8.9mg/L 水銀含量は0.046mg/Lであった。80%エタノールを用いた場合の抽出物はセレン含量4.5mg/L、水銀含量0.008mg/Lであった。また、アセトンを用いた場合の抽出物はセレン含量5.6mg/L 水銀含量0.010mg/Lであった。従って、これらの結果から、いずれの抽出溶媒を用いて抽出操作を行っても、高濃度でセレン含有化合物を含有するセレン濃縮物が調製できることが確認された。
【実施例3】
【0058】
2.イオン交換樹脂カラムによるセレン含有化合物の精製
イオン交換樹脂カラムを用いることにより、セレン含有化合物を含むセレン濃縮物をさらに精製することで、セレン濃縮物に含まれる不純物を除去し、純度を上げた。
即ち、クロマグロ血合筋100gを1cm角以下の小片に細切し、10倍量の冷エタノールを加えてポリトロンホモジナイザーで粉砕したのち、遠心分離(6000×g、20分間)し、回収した上清をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン含有化合物のヘム鉄複合体(化学式3)を含むセレン濃縮物(1)を得た。
次に、このセレン濃縮物(1)に100mLの冷メタノールを加え、溶解した後、ろ過した。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、セレン濃縮物(2)を得たのち、このセレン濃縮物(2)に液量が30mLになるように冷水を添加した。
この冷水を添加したセレン濃縮物(2)を、水で平衡化したSep-Pack Accell Plus QMA陰イオン交換カラム(内容量50 mg、Waters Co.)に添加し、20mLの水でカラムを洗浄したのち、10mLの0.1%酢酸水溶液をカラムに添加して、セレン含有化合物を含むセレン濃縮物(3)を溶出した。セレン含有化合物を含むセレン濃縮物(3)に含まれるセレン含量は5.8μg/mLであった。
【実施例4】
【0059】
セレン含有化合物類縁体の製造および分析(質量分析法)
生体内および試験管内で生成されるセレン含有化合物の化学構造および反応性を解析するため、実施例1において調製したクロマグロ血合筋から抽出したセレン濃縮物に含まれるセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を還元カルボキシメチル化し(参考文献5)、化学修飾反応生成物(セレン含有化合物類縁体)を得て、これを質量分析によって同定した。
参考文献5:石黒正恒 SH基の化学修飾、生物化学実験法シリーズ8、学会出版センター(1978)
【実施例4】
【0060】
即ち、シスチンの還元カルボキシメチル化方法に従って、ジチオスレイトールで還元した後、ヨード酢酸を添加して、反応生成物を得た。これを30%アセトニトリルを含む1mM 酢酸アンモニウムで平衡化したゲルろ過カラム(Ultrahydrogel 120、内径7.8mm×カラム長300mm、Waters Co.)で精製し、260nmに紫外吸収のある成分を化学修飾反応生成物(セレン含有化合物類縁体)として得た。
この化学修飾反応生成物(セレン含有化合物類縁体)を、ESI-MS(Quattro II、マイクロマス社)を用いて質量範囲(m/z)100~600の範囲で質量分析した。ESI-MSで生成物の質量を解析した結果、セレン含有化合物酸化型二量体の分子イオン(m/z=553、277)エルゴチオネイン付加物(m/z=491)が観測され、生成イオンm/z=233(277-CO2)、m/z=174(277-CO2-N(CH33)のセレン含有化合物単量体のセレノール基がカルボキシメチル化された生成物が検出された(表5、図4)。
【実施例4】
【0061】
また、セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を10mMジチオスレイトールで室温で30分間還元処理したのち、ESI-MSで生成物の質量を解析した結果、還元型単量体(化学式2)が検出された。
セレンには複数の同位体が存在することが知られており,セレン同位体の天然存在比に基づくセレン含有化合物還元型単量体M+H+イオンの理論的な質量数は、278.0(100.0%),276.0(49.5%),274.0(18.8%),280.0(18.5%),275.0(17.4%),279.0(11.1%),277.0(5.4%),281.0(2.0%),272.0(1.8%)(括弧内は各イオンの理論的な存在比率を示す)であるが、実測値では、278.0(100.0%),276.1(51.8%), 274.1(18.9%),280.1(18.3%),275.1(18.9%),279.1(11.6%),277.1(7.3%),281.0(2.4 %),272.0(2.7%)であり、各元素の原子量と天然同位比から理論的に計算された分子量は観測値とよく一致し、一分子中にセレン原子を一個含むシグナル分布を示した。
このことから、魚介類組織に含まれる主要なセレン含有化合物は、ジセレニド結合を介して二量体を形成したセレン含有化合物(化学4:酸化型二量体)であることが確認できた。
【実施例4】
【0062】
【表5】
JP0005669056B2_000010t.gif
【実施例5】
【0063】
セレン含有化合物の利用
実施例1と同様の方法で精製したセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を用い、定量分析のための標準物質としての有用性や、培地添加物、抗酸化剤、メト化防止剤等としての有用性を調べた。
【実施例5】
【0064】
1.セレン含有化合物の標準物質としての有用性の確認
本発明で得たセレン含有化合物が、試料に含まれるセレン含有化合物を定量分析するための標準物質として使用できるか否かを確認した。
即ち、セレン含有標品として、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)、グルタチオンペルオキシダーゼ(SIGMA)、セレン標準溶液(二酸化セレン水溶液CAS No.7446-08-4、和光純薬工業株式会社)、セレノシスチン(SIGMA)またはセレノメチオニン(東京化成工業株式会社)をそれぞれ試料として用い、中性の緩衝液を移動相としてフローインジェクション法またはHPLCによってICP-MSに導入し、アルゴンプラズマ励起によるイオン化によって、これらに含まれる有機態セレンをセレン-82イオンとして検出した。
【実施例5】
【0065】
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は、0.1Mギ酸アンモニウムに溶解し、誘導結合プラズマ型質量分析計に注入することでセレン-82イオンを計測した。また、グルタチオンペルオキシダーゼ、亜セレン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、セレノシスチン、セレノメチオニンは、それぞれセレン当たり100 pg/μLに調製した。各試料について、これを5μL、10μLおよび20μLそれぞれ注入してICP-MS(ELAN DRCII、Perkin-Elmer)でセレン-82のシグナルを検出した。セレン含有標品の正確な濃度は蛍光法で分析したセレン含量で補正した。
その結果、図5に示したように、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)および各セレン含有標品(1:グルタチオンペルオキシダーゼ、2:二酸化セレン水溶液、3:L-セレノシスチン、4:L-セレノメチオニン)は異なる保持時間で検出され、相関係数0.99以上の検量線が得られ、これらの物質を分離定量できることが確認された(表6)。
【実施例5】
【0066】
【表6】
JP0005669056B2_000011t.gif
【実施例5】
【0067】
2)セレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の標準物質としての使用
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を標準物質として、上記1)と同様の方法により、クロマグロ血合筋、クロマグロ普通筋、クロマグロ血液、クロマグロ脾臓、クロマグロ肝臓、クロマグロ鰓、ニワトリ心臓、ニワトリ肝臓、スルメイカ肝膵臓およびヒト血液に含まれるセレン含有化合物を定量分析した。
即ち、クロマグロ血合筋、クロマグロ普通筋、クロマグロ血液、クロマグロ脾臓、クロマグロ肝臓、クロマグロ鰓、ニワトリ心臓、ニワトリ肝臓、スルメイカ肝膵臓およびヒト血液0.1gをそれぞれミリポア水0.5mLとともにポリトロンホモジナイザー(Kinematica,Inc.)で粉砕し、12000rpmで5分間遠心分離し、上清を試料として用いた。各試料は、フィルター濾過し(シリンジフィルター No.6872-1304、Whatman,Inc.)HPLC移動相で2~10倍希釈して20μLをHPLC-ICP-MSに注入した。表7の測定条件で各試料に含まれるセレン含有化合物を定量分析した。
【実施例5】
【0068】
その結果、図6および表8に示したようにクロマグロ血合筋におけるセレン含有化合物は血合筋のセレン含量の95%以上が本発明のセレン含有化合物(化学式1で示された骨格を有するセレン含有化合物、以下(化学式1)と示す)であることが明らかとなった。
即ち、本発明のセレン含有化合物(化学式1)以外のセレン含有化合物(本発明のセレン含有化合物(化学式1)とは異なる保持時間に溶出し、かつセレンを含むもの、以下同じ)の全セレンに対する割合を、セレンピークの総和に対する本発明のセレン含有化合物(化学式1)以外のセレン含有化合物のピークの面積比で存在割合を示すことで、間接的に本発明のセレン含有化合物(化学式1)の存在割合を推定した。
例えば、クロマグロ血合筋中の本発明のセレン含有化合物(化学式1)の総セレンに対する割合は、次のように求められた。
(100-2.5)*2018.9/(2018.9+44.7)=95.3%
【実施例5】
【0069】
また、各種組織においては、セレン含有タンパク質(分子量2万以上の高分子で、セレノプロテインPを除いて分子中にセレンを一個含むもの)、本発明のセレン含有化合物(化学式1)および本発明のセレン含有化合物(化学式1)以外のセレン含有化合物が検出された。セレン含有タンパク質含有量は表7から算出したGPX相当量として、本発明のセレン含有化合物(化学式1)以外のセレン含有化合物含有量は検出されたピーク面積の総和に対する面積の割合として表された。
その結果、図7および表9に示したように血合筋とともに、クロマグロ普通筋、クロマグロ血液、ニワトリ心臓、ニワトリ肝臓、スルメイカ肝膵臓およびヒト血液にも本発明のセレン含有化合物(化学式1)が分布していることが確認された。
【実施例5】
【0070】
また、本発明のセレン含有化合物(化学式1)の細胞内における局在性をクロマグロ血合筋および普通筋について遠心分離で細胞分画(参考文献6)によって細胞質画分(78000×g上清)、ミクロソ-ム画分(22500×g以上78000×g以下で沈降するもの)、ミトコンドリア画分(700×g以上8000×g以下で沈降するもの)に分けて、それぞれを実施例3に記載の方法で分析した結果、本発明のセレン含有化合物(化学式1)はセレン含有タンパク質であるグルタチオンペルオキシダーゼとともに細胞質に局在することが確認された(表9)。また、本発明のセレン含有化合物(化学式1)は細胞内における生体内抗酸化作用に関与することが推定された。
参考文献6:山下倫明, Studies on cathepsins in the muscle of chum salmon. 中央水産研究所報告., 5, 9-114 (1993)
【実施例5】
【0071】
【表7】
JP0005669056B2_000012t.gif
【実施例5】
【0072】
【表8】
JP0005669056B2_000013t.gif
【実施例5】
【0073】
【表9】
JP0005669056B2_000014t.gif
【実施例5】
【0074】
2.セレン含有化合物の化学的抗酸化能の確認
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の化学的抗酸化能を評価するために、1, 1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去能を測定した(参考文献7)。
即ち、メカジキ肉由来のセレン含有化合物(セレン含量:1.62μM)、市販の抗酸化剤である水溶性ビタミンE誘導体(Trolox(登録商標)(Cas No.: 56305-04-5、Roche)、10mM水溶液、L-(+)-エルゴチオネイン(Cas No.:497-30-3、SIGMA)4.36mM水溶液を用い、それぞれを純水で2倍希釈を繰り返して2~128倍希釈の検液を用意した。
96穴マイクロテストプレート(BD Falcon(登録商標),#1722、Becton, Dickinson and Company)に検液10μLとDPPH溶液(0.35 mM、DPPH 1.38mgを5mLのエタノールに溶解させ、0.1Mリン酸バッファー(pH 6.8)を5mL添加したもの)100μLを混合し、暗所で室温30分間反応させた後、595nmの吸光度を測定した。純水(吸光度0.59)とTrolox(登録商標)10mM(吸光度0.19)を検液とした場合をそれぞれDPPHラジカル消去率0%、100%とし、DPPHラジカル消去率が50%となる濃度をそれぞれの物質のRS50として抗酸化力を表した。
その結果、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は水溶性ビタミンE誘導体(Trolox(登録商標))の456分の1、含硫抗酸化剤L-(+)-エルゴチオネインの907分の1の濃度で同等のラジカル消去能を持つ、きわめて強力な抗酸化力を有することが示された(表10)。
参考文献7:木村英生、長沼孝多、小島匡人、小松正和、恩田匠、辻政雄:山梨工業技術センター研究報告、No.22,59-63 (2008)
【実施例5】
【0075】
【表10】
JP0005669056B2_000015t.gif
【実施例5】
【0076】
3.セレン含有化合物の生体抗酸化作用の確認
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の細胞内機能を解明するため、ヒト血管内皮細胞(ヒト臍帯静脈由来HUV-EC-C、ヒューマンサイエンス研究資源バンク、http://jhsf.or.jp)に本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)を投与した。
即ち、10000細胞/mLのヒト血管内皮細胞を48ウエルのプレートへ調製し、10%胎児ウシ血清を含むMCDB131培地(インビトロジェン社)で培養した。セレン含有化合物を添加していない条件を対照として、1mM、2.5mM、5mM、10mMの最終濃度になるように培養液へセレン含有化合物を添加して、37℃、5%二酸化炭素の環境下で24時間培養した。ヒト血管内皮細胞の性質を維持するために、細胞培養の経代回数を5回までとした。
【実施例5】
【0077】
ミトコンドリアの呼吸鎖の活性をMTTアッセイキット(ナカライテスク株式会社)によって調べた。即ち、ヒト血管内皮細胞を培養後、培養液に対して10分の1量のMTT溶液を培養液へ添加して、5%二酸化炭素の環境下で、37℃、3時間培養した。培養後、培養液に対して等量のイソプロパノールを加えて、フォルマザン色素を抽出して、595nmの吸光度を調べた。
その結果、図8に示したように本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は5mMの投与によって細胞増殖促進作用を示した(図8)。ヒト血管内皮細胞の培地に亜セレン酸ナトリウム(SIGMA)、セレノシスチン(SIGMA)またはセレノメチオニン(東京化成工業株式会社)をそれぞれ5nM投与した場合、細胞は増殖せず死滅した。従って、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は、亜セレン酸、セレノシスチン、セレノメチオニン等の既知のセレン含有化合物と比較して細胞毒性が極めて低いことが確認された。
【実施例5】
【0078】
さらに、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の生体抗酸化作用を、ヒト血管内皮細胞を用いて調べた。即ち、10000細胞/mLのヒト血管内皮細胞を48ウエルのプレートに10%胎児ウシ血清を含むMCDB131培地で培養した。セレン含有化合物を添加していない条件を対照として、5mMの最終濃度になるように培養液へセレン含有化合物を添加後、37℃、5%二酸化炭素の環境下で1時間培養した。培養後、25μM、50μMの最終濃度になるように過酸化水素を添加して、37℃、5%二酸化炭素の環境下で24時間培養し、細胞増殖率をMTTアッセイによって調べた。その結果、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の添加によって、過酸化水素による酸化ストレス条件下において細胞増殖能が向上し、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の生体抗酸化作用が示された。
以上の結果から、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は培地に添加することによって、細胞内に取り込まれ、ヒト細胞に対して生体抗酸化作用を有することが明らかとなり、細胞質において還元剤として作用すると推定された。
【実施例5】
【0079】
4.セレン含有化合物の細胞増殖促進作用の確認
本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)の培養細胞に対する細胞増殖促進を確認した。
即ち、ゼブラフィッシュ胚由来ZE細胞(中央水産研究所)、ブリ尾鰭由来YT細胞(中央水産研究所)およびニジマス生殖腺由来RTG-2細胞(ATCC CCL55)は2%ウシ胎児血清を含むL-15培地に30000細胞/mLに調製した。
ヒト血管内皮細胞(ヒト臍帯静脈由来HUV-EC-C、ヒューマンサイエンス研究資源バンク、http://jhsf.or.jp)は10%ウシ胎児血清を含むMCDB131培地で10000細胞/mLに調製した。
ヒトアタキシア症患者皮膚由来AT細胞(AT2KY、ヒューマンサイエンス研究資源バンクJCRB0316)、ヒト皮膚由来TIG-S3細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクJCRB0544)およびヒト腎臓由来HEK293細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクJCRB9068)は、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地でそれぞれ15000細胞/mLに調製した。
それぞれの細胞培養液(2%血清を含む)中に、セレン含有化合物を終濃度0、5、10、25、50、100nMとなるように添加し、ゼブラフィッシュ胚由来ZE細胞は25℃、ブリ尾鰭由来YT細胞は20℃、ニジマス生殖腺由来RTG-2細胞は15℃、ヒト血管内皮細胞、ヒトアタキシア症患者皮膚由来AT細胞、ヒト皮膚由来TIG-S3細胞およびヒト腎臓由来HEK293細胞は37℃で培養し、0日、1日、2日、3日、4日、5日培養後の細胞をトリバンブルー染色によって細胞数を調べた。
【実施例5】
【0080】
その結果、図9に示したように細胞増殖を促進するために必要なセレン含有化合物濃度は、細胞株の種類によって異なることが確認された。この結果から、セレン含有化合物は、動物細胞の増殖を顕著に促進する作用を有すること、細胞種毎に増殖促進効果を示すセレン含有化合物の要求量が異なることが明らかとなり、セレン含有化合物は動物培養細胞における培地添加物として利用できることが示された。
アタキシア症患者皮膚由来AT細胞はDNA損傷に対して応答する最上流のシグナル因子であるATMキナーゼ遺伝子が欠失しているため、DNA修復やアポトーシス等の異常によって老化およびがん化が誘発されることが知られている(参考文献8)が、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)は、このAT細胞に対して増殖促進効果を示したことから、セレン含有化合物はDNA損傷応答を復帰させる生体抗酸化作用を有することが推定された。
参考文献8:K. Naka, A. Tachibana, K. Ikeda, and N. Motoyama, J. Biol. Chem., 279, 2030-2037 (2004).
【実施例5】
【0081】
5.セレン含有化合物のメト化抑制作用の確認
ウサギ保存血(株式会社日本バイオテスト研究所)に生理食塩水で3回洗浄(2000rpm、5分間、4℃で遠心)して赤血球を集め、4倍量のRPMI培地(GIBCO(登録商標) RPMI Medium 1640,Invitrogen Co.)に懸濁して37℃で1日間、炭酸ガス培養器を用いて培養した。セレン含有化合物を添加しない培養条件を対照区として、培地中のセレン含有化合物の濃度が10nM、25nMまたは50nMとなるように培地にセレン含有化合物を添加して培養した。培養後、赤血球を遠心分離(2000xg、5分間、4℃)によって回収し、リン酸緩衝液PBSで3回洗浄し、遠心分離によって赤血球を集めた。赤血球ペレットに10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)を加えて、赤血球を溶血させ、遠心分離(15000xg、10分間、4℃)後、上清のヘモグロビン溶液を回収した。ヘモグロビン溶液を100倍量の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)で希釈し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベートの前後における405nm および430nmにおける吸光度比を測定し、ヘモグロビンのメト化率を算出した。
また、赤血球における活性酸素レベルをヒドロキシフェニルフルオロセイン(HPF、第一化学薬品株式会社)を用いて測定した。上述のヘモグロビン溶液に対して、1000倍量のリン酸緩衝液PBSに希釈したHPFを100倍量混合して、室温で10分間反応したあと、活性酸素との反応生成物由来の蛍光強度(励起波長490nm、蛍光波長515nm)を計測し、活性酸素レベルの指標として用いた。
【実施例5】
【0082】
その結果、図10に示したように、対照区に対して、セレン含有化合物を添加した培養条件ではいずれの濃度条件でも得られた赤血球はメト化率が低かった。また、図11に示したように、赤血球内の活性酸素レベルは対照区に比べて、セレン含有化合物を添加した培養条件で活性酸素レベルが低かった。このことから、セレン含有化合物は生体内においてヘム鉄タンパク質のメト化を抑制する生体抗酸化作用を有することが示された。すなわち、セレン含有化合物は培地中から細胞内へ取り込まれ、活性酸素発生を防止するとともに、ヘム鉄の自動酸化の防止剤として、作用することが明らかとなった。このことから、セレン含有化合物は、血液、赤血球および臓器の保存技術、すなわち、ヘモグロビン、ミオグロビン等のヘム鉄タンパク質、人工血液、輸液製剤および組織保存液におけるメト化防止剤として利用できることが示された。
【実施例5】
【0083】
6.セレン含有化合物のヘム鉄への結合作用の確認
セレン含有化合物はヘム鉄タンパク質の自動酸化抑制作用を有することが上記5.で示されたことから、セレン含有化合物のヘム鉄タンパク質への結合能を調べた。マッコウクジラミオグロビン(SIGMA)は市販品を用いた。また、クロマグロ血合筋を5倍量の冷水を加えてポリトロンホモジナイザーを用いて破砕したのち、6000×gで10分間遠心分離し、上清を得てから、0.1M食塩を含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH7)で平衡化したSephacryl-100カラム(16mm×60cm、Pharmacia)にかけて、クロマグロ血合筋由来のミオグロビンを精製した。ヘモグロビンは、ウサギまたはクロマグロの赤血球の溶血液を同上のSephacryl-100カラムで分離して精製した。
【実施例5】
【0084】
マッコウクジラミオグロビン、クロマグロのミオグロビン、ウサギヘモグロビンおよびクロマグロヘモグロビンにおけるセレン含量をそれぞれ測定した結果、いずれにおいてもセレンが検出された。図12に示したように、HPLC-ICP-MSを用いて、マッコウクジラミオグロビンに含まれる元素を測定した結果から、ミオグロビンには鉄およびセレンが同時に検出された。
また、硝酸—過酸化水素で湿式分解し、鉄を誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-AES、ICPE-9000、株式会社島津製作所)、セレンを蛍光法で定量したところ、Se/Feモル比はクロマグロのミオグロビンで0.003、ウサギのヘモグロビンで0.0003、クロマグロのヘモグロビンで0.001であった。以上の結果から、本発明のセレン含有化合物(化学式4:酸化型二量体)はヘム鉄タンパク質に結合しており、セレン含有化合物はヘム鉄に配位することによって、ヘム鉄の自動酸化を抑制する作用メカニズムが推定された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により得られたセレン含有化合物は、生体抗酸化作用を有することから、医薬品、機能性食品、栄養補助剤、食品添加物、飼料添加物、培地添加物および抗酸化剤として利用できる。また、血合肉、内臓、血液等水産加工残滓から重金属を除去した安全性の高いセレン含有化合物の製造法を提供する。本発明のセレン含有化合物を標準物質として用い、生体および食品等のセレンの化学形態を評価することができる。また、本発明のセレン含有化合物は反応性の高いセレノール基を有する化合物であるとともに、蛍光および紫外吸収の特性を有することから、セレンを有するユニークな化学修飾剤、蛍光物質または紫外吸収物質としての化学材料としての用途に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図9】
7
【図8】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11