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明細書 :コラーゲン産生促進剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5577489号 (P5577489)
公開番号 特開2011-173803 (P2011-173803A)
登録日 平成26年7月18日(2014.7.18)
発行日 平成26年8月27日(2014.8.27)
公開日 平成23年9月8日(2011.9.8)
発明の名称または考案の名称 コラーゲン産生促進剤
国際特許分類 A61K  31/222       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  17/16        (2006.01)
A61P  17/02        (2006.01)
A61K   8/37        (2006.01)
A61Q  19/00        (2006.01)
C12N   5/07        (2010.01)
FI A61K 31/222
A61P 43/00 107
A61P 17/16
A61P 17/02
A61K 8/37
A61Q 19/00
C12N 5/00 202Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2010-037089 (P2010-037089)
出願日 平成22年2月23日(2010.2.23)
審査請求日 平成25年1月29日(2013.1.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
発明者または考案者 【氏名】東 秀紀
【氏名】小島 明子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】原田 隆興
参考文献・文献 特開2007-290998(JP,A)
仏国特許出願公開第02933302(FR,A1)
特開2012-056857(JP,A)
特開2012-056886(JP,A)
Sulea, Dorin et al,Collagen-thuja tincture biomaterials for wound treatment 1. Analysis of the volatile fraction from Thuja columnaris tincture by GC-MS,Revue Roumaine de Chimie,2009年,54(11-12),p.1097-1101
調査した分野 A61K 31/222
A61K 8/37
A61P 17/02
A61P 17/16
A61P 43/00
A61Q 19/00
C12N 5/07
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1)
【化1】
JP0005577489B2_000010t.gif
(式中、R、R、R、R は同一又は異なって、水素又は水酸基又は炭素数1~4のアルキル基又は-O-C(=O)Rを示す。Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。は、-C(=O)Rを示す。Rは炭素数1~8のアルキル基を示す。)で表される化合物を有効成分とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
一般式(1)中、R 、R 、R 、R が、
(i)R 、R 、R 、R は全て水素を示すか、あるいは
(ii)Rは-O-C(=O)Rを示し、R、R、Rは同一又は異なって水素又は-O-C(=O)Rを示す、
請求項1に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物が、HPA又は2,4-HPAである、請求項1に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のコラーゲン産生促進剤を含有してなる化粧用組成物、細胞培養液用組成物、又は創傷治癒用医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン産生促進剤、並びに当該コラーゲン産生促進作用を含む化粧用組成物及び細胞培養用組成物及び創傷治癒用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、線維芽細胞、及びコラーゲン等の細胞外マトリクスにより構成されており、これら皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことによって、皮膚の保湿機能や柔軟性、弾力性等が確保され、張りや艶のあるみずみずしい肌の状態が維持される。ところが、紫外線の照射や乾燥等の外的因子の影響、又は加齢によって、細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンの産生量が減少すると、皮膚の保湿機能や弾力性が低下し、皮膚の張りや艶が失われ、荒れ、シワ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。このため、皮膚の張り、艶の維持や皮膚の保湿機能の改善等を含む皮膚の老化防止及び/又は改善を目的として、皮膚のコラーゲン量を増加させる化粧品の開発が進められてきた。例えば、特許文献1及び2には真皮マトリクス成分安定作用やコラーゲン合成を刺激する作用を有する成分として、アスコルビン酸等を含有させたものが報告されている。しかし、従来の化粧品の多くは、コラーゲン量の分解を抑制することによって皮膚のコラーゲン量を維持するものであった。
【0003】
一方、特許文献3には、ショウガ抽出成分に含まれる化合物(例えば、1-アセトキシ-1-(2,4-ジアセトキシフェニル)-2-プロペン等)を有効成分とするコラーゲン産生向上剤が開示されている。これらの化合物を例えば化粧用組成物として用いることで、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を顕著に促進させ、皮膚の老化防止やハリ、艶の維持改善等の効果が期待される。

【特許文献1】特開2004-075646号公報
【特許文献2】特開平11-246333号公報
【特許文献3】特開2009-079004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記化合物はヒト正常線維芽細胞へのコラーゲン産生亢進作用に優れているものの、水溶液中での安定性が極めて低いという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するもので、水溶液中での安定性に優れ、合成も簡便であり、かつ同等のコラーゲン産生促進作用を有するコラーゲン産生促進剤、並びに当該産生促進剤を含む有用な組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決することを主な目的として鋭意検討した結果、上記化合物を水系溶媒に溶解して熱処理を行うと完全に分解されるにもかかわらず、コラーゲン産生亢進作用は未処理と同等であることを見出し、更に検討を重ねた結果、活性を有する分解産物の構造を特定し、本研究を完成させるに至った。即ち、本発明は、下記のコラーゲン産生促進剤、及び組成物に関する。
【0007】
項1:一般式(1)
【化1】
JP0005577489B2_000002t.gif
(式中、R1、R2、R4、R5 は同一又は異なって、水素又は水酸基又は炭素数1~4のアルキル基又は-O-C(=O)R6を示す。R6は炭素数1~4のアルキル基を示す。R3は、水素、炭素数1~4のアルキル基又は-C(=O)R7を示す。R7は炭素数1~8のアルキル基を示す。)で表される化合物を有効成分とするコラーゲン産生促進剤。
項2:項1に記載のコラーゲン産生促進剤を含有する化粧用組成物。
項3:項1に記載のコラーゲン産生促進剤を含有する細胞培養液用組成物。
項4:項1に記載のコラーゲン産生促進剤を含有する創傷治癒用医薬組成物。
【0008】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0009】
1.コラーゲン産生促進剤
本発明のコラーゲン産生促進剤は、下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする:
一般式(1)
【0010】
【化2】
JP0005577489B2_000003t.gif

【0011】
一般式(1)において、R1、R2、R4、R5 は同一又は異なって、水素又は水酸基又は炭素数1~4のアルキル基又は-O-C(=O)R6を示す。好ましい例の一つはR1、R2、R4、R5が全て水素の場合である。また他の例の一つはR1が-O-C(=O)R6であり、R2、R4、R5が水素又は-O-C(=O)R7の場合である。例えばR1が-O-C(=O) R6であり、R2、R4、R5が水素の場合である。
【0012】
R6は炭素数1~4のアルキル基を示す。好ましくはメチル基を示す。
【0013】
R7は炭素数1~8のアルキル基を示す。好ましくはメチル基を示す。
【0014】
具体的に、一般式(1)で表される化合物には、
4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェニルアセテート(4-((E)-3-Hydroxyprop-1-enyl)phenyl
acetateもしくはp-acetoxy cinnamic alcohol、以下、HPAとも称する)、
2-アセトキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェニルアセテート(2-Acetoxy-4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenyl
acetate、以下、2,4-HPAとも称する)、
2-ヒドロキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェニルアセテート(2-Hydroxy-4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenyl
acetate、以下、2H,4-HPAとも称する)、
2-アセトキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェノール(2-Acetoxy -4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenol、以下、2,4H-HPAとも称する)、
4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)-2-メチルフェニルアセテート(4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)-2-methylphenyl
acetate、以下、2M,4-HPAとも称する)、
3-アセトキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェニルアセテート(3-Acetoxy-4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenyl
acetate、以下、3,4-HPAとも称する)
3-ヒドロキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェニルアセテート(3-Hydroxy-4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenyl
acetate、以下、3H,4-HPAとも称する)、
3-アセトキシ-4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)フェノール(3-Acetoxy -4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenol、以下、3,4H-HPAとも称する)、
4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロペニル)-3-メチルフェニルアセテート(4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)-3-methylphenyl
acetate、以下、3M,4-HPAとも称する)、などが含まれる。
【0015】
上記の化合物は、公知の方法に従って製造、あるいは1’-アセトキシチャビコールアセテート(1’-acetoxychavicol acetate, 以下、「ACA」とも称する)もしくはその類縁体を水系溶媒に溶解し、熱処理することで製造することができる。
【0016】
例えば、4-ヨードフェノールを原料とし、水酸基をアセチル化した後、有機金属反応によりアリルアルコール部位を導入し、目的とする化合物を得ることができる。好ましくは、実施例に記載の方法に従って得ることができる。
【0017】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、上記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする。一般式(1)で表される化合物は、従来用いられている化合物と同等のコラーゲン産生量を促進させる作用を有する。
【0018】
更に、本発明のコラーゲン産生促進剤は、コラーゲン産生促進作用の持続性に優れている。
【0019】
対象となる細胞は、本発明の効果が奏される範囲であれば特に限定されないが、特に皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生を顕著に促進する。
【0020】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、上記一般式(1)で表される化合物そのものからなるものであってもよいし、当該化合物を有効成分とし、薬学上又は衛生上許容される担体や添加物等の他の成分を更に含んでなるものであってもよい。かかる担体又は添加物の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、適宜設定することができる。
【0021】
コラーゲン産生促進剤の形態も特に制限されず、適用される製品の剤型、形態、用途等に応じて設定することができる。例えば、液状、乳液状、クリーム状、粉末状、顆粒、丸剤、軟膏等に調製することができる。
【0022】
コラーゲン産生促進剤の適用部位も、特に限定されず、目的に応じて設定することができる。例えば、生体に適用して、皮膚状態の改善や創傷治癒の促進のために用いることができる。また、培地や培養液に添加して、人工組織や足場材料等のコラーゲン含有組織の形成促進のために用いることができる。また、下記のような組成物の形態として、利用できる。
【0023】
2.化粧用組成物
本発明の化粧用組成物は、上記コラーゲン産生促進剤を含有することを特徴とする。
【0024】
本発明の化粧用組成物は、常法に従って作製することができる。例えば、上記コラーゲン産生促進剤を適当な媒体又は担体と共に調製することにより、作製することができる。
【0025】
本発明の化粧用組成物における、一般式(1)で表される化合物の配合割合は、化合物の種類や、適用部位、適用対象の年齢や特性、化粧品用組成物の形態等によって異なり、一律に特定することはできないが、例えば、HPAの場合、組成物全体に対して 0.1~1.0 mM程度、好ましくは0.1~0.5 mM程度である。また例えば、2,4-HPAの場合、組成物全体に対して、0.1~2.0 mM程度、好ましくは0.1~0.5 mM程度である。
【0026】
上記のような割合は、成分濃度としては比較的低濃度であるが、上記化合物は低濃度でありながら、優れたコラーゲン産生促進作用を奏する。
【0027】
本発明の化粧用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸(Diethylenetriamine pentaacetic acid, 以下「DTPA」とも称する)、テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(Tetrakis(2-pyridylmethyl)ethylenediamine,
以下、「TPEN」とも称する)及びACAなどのコラーゲン産生能を向上させ得る化合物、或いはビタミンC又はその誘導体などのコラーゲン産生を増強させる化合物を配合することもできる。これらの他の成分の種類及び量は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜設定することができる。
【0028】
また、本発明の化粧用組成物は、所望に応じて、適当な形態、例えば、液状、乳液嬢、クリーム状、粉末状、顆粒状等に適宜調製することができる。
【0029】
また、本発明の化粧用組成物を用いて、化粧水、ローション、トニック、乳液、クリーム、軟膏、パック、口紅、入浴剤、整髪料等の各種化粧品や化粧料を、常法に従って製造することもできる。
【0030】
化粧用組成物の適用部位も、本発明の効果が奏される範囲内であれば特に限定されず、顔面用、ボディ用、頭髪用等、種々の部位に利用できる。
【0031】
本発明の化粧用組成物は、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を顕著に促進させる作用を有し、皮膚の老化防止及び/又は改善用、皮膚のハリ、艶の維持改善用又は皮膚の保湿機能の維持改善用などとして利用可能である。
【0032】
3.細胞培養用組成物
本発明の細胞培養用組成物は、上記コラーゲン産生促進剤を含有することを特徴とする。
【0033】
細胞培養液用組成物における上記一般式(1)で表される化合物の割合は、細胞や培地、培養液の種類等によって異なり一律に特定することはできないが、例えば、HPAや2,4-HPAの場合、組成物全体に対して、0.1~2.0 mM程度、好ましくは0.1~0.5 mM程度である。
【0034】
本発明の細胞培養用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、炭素源、無機塩類、各種ビタミン、アミノ酸、緩衝剤、細胞増殖因子、血清を挙げることができる。またDTPA、TPEN又はACAなどのコラーゲン産生能を向上させ得る化合物、或いはビタミンC又はその誘導体などのコラーゲン産生を増強させる化合物を配合することもできる。
【0035】
本発明の細胞培養組成物は、培養細胞のコラーゲン産生を顕著に促進させる作用を有し、例えば、人工皮膚の培養用として用いて、人工組織の形成促進等のために利用することができる。また、再生医療用の足場材料の調製用として用いて、コラーゲン含有組織の形成促進等のために利用することができる。
【0036】
4.創傷治癒用医薬組成物
本発明の創傷治癒用医薬組成物は、上記これー現産生促進剤を含有することを特徴とする。本発明の医薬組成物は、皮膚表面などにおける創傷の治癒を促進するために利用される。
【0037】
本発明の医薬組成物は、常法に従って作製することができる。例えば、上記コラーゲン産生促進剤を、薬学的に許容できる担体と共に調製することにより、作製することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物には、本発明の効果を奏する範囲内であれば、薬学的に許容可能な担体や、公知の添加剤、或いは他の薬学的活性成分などを含むこともできる。またDTPA、TPEN又はACAなどのコラーゲン産生能を向上させ得る化合物、或いはビタミンC又はその誘導体などのコラーゲン産生を増強させる化合物を配合することもできる。
【0039】
本発明の医薬組成物における、一般式(1)で表される化合物の配合割合は、適用部位、適用対象の年齢、医薬組成物の形態等によって異なり、一律に特定することはできないが、例えば、HPAや2,4-HPAの場合、組成物全体に対して、0.1~2.0 mM程度、好ましくは0.1~0.5 mM程度である。
【0040】
本発明の医薬組成物は、所望に応じて、適当な形態に設定することができる。例えば、乾燥粉末、ゲル、クリーム、軟膏、懸濁液、溶液又は生体適合性がある合成もしくは天然の固体マトリックスの形態とすることができる。
【0041】
本発明の創傷治癒用医薬組成物は、組織細胞のコラーゲン産生を顕著に促進させる作用を有し、創傷の迅速な治癒、症状の改善等のために利用可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明のコラーゲン促進剤は、一般式(1)で表される化合物を有効成分とし、優れたコラーゲン産生促進を有し、水溶液中での安定性、作用の持続性にも優れるとともに、低毒性である。更に、本発明は、上記コラーゲン産生促進剤を含有し、優れたコラーゲン産生促進作用を有する化粧用組成物、細胞培養用組成物、及び創傷治癒用医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】HPAに関するサンプル群の一由来線維芽細胞のI型コラーゲン染色像を示す図面である。
【図2】2,4-HPAに関するサンプル群の一由来線維芽細胞のI型コラーゲン染色像を示す図面である。
【図3】ACAに関するサンプル群の未処理もしくは加熱処理後のHPLC分析によるクロマトグラムを示す図面である。
【図4】ラセミACA及び化学合成したHPAのHeLa細胞に対する細胞死誘導活性を示す図面である。
【図5】RAW264.7細胞を用い、LPS刺激によるNF-kB活性化における各種ACA及び化学合成したHPAの抑制効果を示す図面である。
【図6】ラセミ体の1’-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)の化学構造を示す図面である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
1.HPAの調製
HPAを以下に示す方法に従って調製した。なお、同様の方法で出発原料に4-Iodo-3-methylphenol又は4-Iodo-2-methylphenolを用いることにより、2M,4-HPA又は3M,4-HPAを合成することが可能である。
【0046】
【数1】
JP0005577489B2_000004t.gif
4-Iodophenol
(Wako,3 g, 13.6 mmol) を乾燥CH2Cl2に溶解し、Et3N (Wako, 2.75 g, 2 equiv)、4-dimethylaminopyridine
(Wako, 83 mg, 0.05 equiv)、Ac2O (Wako, 0.93 g, 2 equiv) を加え、室温で一晩撹拌した。溶媒を減圧留去し、クロロホルムに溶解した後、1 M HCl水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 10 : 1)にて精製を行い、4-Iodophenyl acetateを得た (3.3 g, 92.5%)。
【0047】
【数2】
JP0005577489B2_000005t.gif
4-Iodophenyl
acetate (500 mg, 1.91 mmol) をDMF(脱水,Wako)4 mLに溶解し、allyl alcohol (Wako, 260 mL, 3 equiv), AgOAc (Wako, 318 mg, 1 equiv), Ph3P
(Wako, 50 mg, 0.1 equiv), Pd(OAc)2 (Wako, 21.4 mg, 0.05 equiv) を加え、N2下、70℃で一晩撹拌した。セライトで沈殿物を除去し、EtOAcを加え、1 M HCl、続いて飽和NaHCO3水溶液で洗浄した。有機層を 無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 2 : 1)にて精製を行い、得られた粗結晶をHexane-EtOAc (5 : 1) より再結晶して4-((E)-3-hydroxyprop-1-enyl)phenyl acetate(HPA)を得た (150 mg,
41%)。
【0048】
なお、HPAの製造方法については特に限定せず、別の方法を用いても良い。例えば以下に示す方法により調製することもできる。
【0049】
ACA 200 mg (0.85
mmol) を20%エタノール含有水溶液80 mLに溶解し、80℃で2日間撹拌した。溶媒を濃縮後、凍結乾燥を行い、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 2 : 1)にて分離精製を行った。わずかに赤みがかった結晶をHexane-EtOAc (5 : 1) より再結晶して無色の結晶を得た(収量 87 mg)。
【0050】
この化合物のマススペクトル及び重メタノール中での1H NMRスペクトル結果を下記に示す。MSより分子式はC11H12O3、また1H NMRスペクトルの解析により得られた化合物がHPAであることが分かる。すなわち、ACAの熱分解より得られた化合物はHPAであることを確認できる。
【0051】
MS: JMS-700T
(JEOL)
HRMS (CI, direct) calcd for C11H13O3,
[M+H]+ 193.0865; found, 193.0873.
NMR: AVANCE 300N
(BRUKER)
1H NMR (300 MHz, MeOD); d 2.26 (s, 3 H, a), 4.22 (dd, 2 H, J
= 1.5, 5.4 Hz, b), 6.34 (dt, 1 H, J = 15.9, 5.4 Hz, c), 6.61
(dd, 1 H, J = 1.5, 15.9 Hz, d), 7.04 (d, 2 H, J = 8.7 Hz, e),
7.43 (d, 2 H, J = 8.7 Hz, f).
【0052】
2.2,4-HPA, 2H,4-HPA, 2,4H-HPAの調製
2,4-ACA (240 mg, 0.82 mmol) を20%エタノール含有水溶液80 mLに溶解し、80℃で2日間撹拌した。溶媒を濃縮後、凍結乾燥を行い、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:CHCl3 : MeOH = 10 : 1)にて分離精製を行い、2,4-HPA(収量50 mg)及び2H,4-HPA,
2,4H-HPA混合物(存在比6 : 4, 収量25 mg)を得た。この概要を式3に示す
【0053】
【数3】
JP0005577489B2_000006t.gif

【0054】
2,4-HPAの1H NMRスペクトル解析の結果を下記に示す。
1H NMR (300 MHz, CDCl3); d 2.29 (s, 3 H), 2.33 (s, 3
H), 2.45 (brs, 1 H), 4.29 (dd, 2 H, J = 1.5, 5.4 Hz), 6.32 (dt, 1 H, J
= 15.9, 5.4 Hz), 6.59 (dt, 1 H, J = 15.9, 1.5 Hz), 6.88 (d, 1 H, J
= 2.1 Hz), 6.98 (dd, 1 H, J = 8.7, 2.1 Hz), 7.54 (d, 1 H, J = 8.7 Hz).

【0055】
3.コラーゲン産生促進作用の評価
以下の手法で、化合物のコラーゲン産生促進作用を評価した。
【0056】
(1)試料の作製
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(CCD-1059SK、大日本製薬株式会社)を、10% FBS(fetal bovine serum)を含むEMEM培地で3~6回継代培養した。次いで、細胞数が1 x 106個になるようにカルチャースライド(Culture slide: Falcon社製)に調製し、10% FBSを含むEMEM培地で24時間培養して、細胞をスライドに固定させ、更に、細胞周期を合わせるためにEMEM培地のみで24時間培養した。その後、10% FBSを含むEMEM培地に交換し、同時に上記の被験化合物を添加、24時間培養して、以下に示す各サンプル群を調製した。被験化合物としては、上述の方法で調製したHPAおよび2,4-HPAを用いた。また比較のために、類似化合物であるラセミACA(図6参照)を用いた。また、コントロールとして被験化合物を添加しない群を調製した。
【0057】
〈サンプル群〉
サンプル1)コントロール(化合物無添加)
サンプル2)HPA0.1μM添加
サンプル3)HPA1.0μM添加
サンプル4)2,4-HPA0.1μM添加
サンプル5)2,4-HPA1.0μM添加
サンプル6)ラセミACA 0.1μM添加(比較例1)
サンプル7)ラセミACA 1.0μM添加(比較例2)
【0058】
(2)コラーゲンの産生量の測定
(1)で調製したサンプル群について、次の手順により、コラーゲンの産生量を免疫組織化学的に解析した。
【0059】
カルチャースライドをPBS溶液で5分間、3回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒド溶液を添加して4℃で一晩静置し、サンプルを固定した。0.1%Triton-Xを含むPBS溶液で5分間、3回洗浄後、3% H2O2溶液で5分間、内因性peroxidaseのブロッキングを行った。次いで、10% 標準ヤギ血清(normal goat serum)を用いて5分間、非特異的反応のブロッキングを行った。その後、抗ラットI型コラーゲン抗体(Anti-rat type I collagen 抗体(LSL社製)200倍希釈液)を用いて一次抗体の反応を60分間行った。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、ビオチン標識ヤギ抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Biotinylated Goat anti-rabbit immunogloblins抗体(DAKO社製)400倍希釈液)を用いて二次抗体の反応を30分間行った。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、酵素溶液(Horseradish
peroxidase-labelled streptavidine-biotine complex(DAKO社製)400倍希釈液)による反応を30分間行った。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、DAB(3,3-diaminobenzidin
tetra-hydrocheloride)溶液を5分間反応させ、peroxidase発色反応を行った。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、水溶性封入剤で封入して、標本を作製した。得られた標本における陽性反応(I型コラーゲンの発現)箇所における染色強度について画像解析を行った。
【0060】
HPA(サンプル2及びサンプル3)について得られたヒト由来線維芽細胞のI型コラーゲン染色像を図1に示す。また、染色強度の解析結果を表1に示す。表中の強度の値は、コントロールを100としたときの各サンプルの染色強度(1スライドにつき細胞20個について測定し、平均した値)の割合として表したものである。
【0061】
I型コラーゲンの発現量(NIH
imageによる解析)平均値
【表1】
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【0062】
図1及び表1より、HPA(サンプル2及び3)はコントロール(サンプル1)と比較するとコラーゲンの産生量が顕著に向上していることが確認される。また、ACA(サンプル6及び7)と比較しても同程度の染色像が得られたことからコラーゲン産生能亢進作用活性を有することが示唆された。
【0063】
2,4-HPA(サンプル4及びサンプル5)について得られたヒト由来線維芽細胞のI型コラーゲン染色像の結果を図2に示す。
【0064】
図2より、2,4-HPA(サンプル4及びサンプル5)の場合もHPAと同様、コラーゲン産生能亢進作用活性を有することが示唆された。
【0065】
4.水溶液中での安定性の評価
HPAの水溶液中での安定性について、分解前の前駆体であるACAを用いて評価を行った。まず、ACAの水溶液中での安定性を調べるため、加熱前の (S)-もしくは (R)-ACAのストック溶液を4日間、室温保存し、下記の条件で逆相HPLC分析を行った。
カラム:
SHODEX シリカ5C8 4E(粒径5 mm, 4.6 mmφ´ 250 mm)
カラム温度:40℃
移動相:10 mM KH2PO4/アセトニトリル=30/70
流速: 1 mL/min
測定波長:210 nm
逆相HPLC分析の結果を図3に示す。その結果、室温でもACAは水溶液中では4日間で完全に分解されていることが確認された。
【0066】
これに対して、HPAや2,4-HPAはACAや2,4-ACAと比較すると、はるかに水溶液中で安定しており、加熱しても容易に分解されないことが予想される。これは、上述のHPA及び2,4-HPAの調製方法で示したように、ACAを熱分解して分離精製した化合物がHPAであり、2,4-ACA を熱分解して分離精製した化合物が2,4-HPAであることを確認したことから分る。
【0067】
以下、ACA の熱分解機構について説明する。ACAは構造的に不安定であり、式4に示すように1’→3’間でのアセトキシル基の転位反応が起こりやすい。
【0068】
【数4】
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【0069】
しかしながらACAの熱処理により、フェノール側のアセチル基の方は加水分解されずに残っていることから式5のような熱分解機構が予想される。
【0070】
【数5】
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【0071】
ACAは水溶液中でも分解が起こることから、細胞内でも式5の機構によりHPAが生成する可能性がある。また3’-ACAにはコラーゲン産生亢進作用がなく、更にキラルな(S)-ACA及び(R)-ACAを比較しても顕著な活性の差が見られないことから、HPAがコラーゲン産生に関与する真の活性分子であると予想される。
【0072】
5.他の生理活性の評価
ACAはアポトーシスの誘導能やNF-kBの活性化抑制など様々な生理活性をもつことが知られている。コラーゲン産生亢進効果と同様、HPAもこれらの生理活性を有するかどうかを評価した。
【0073】
(1)ストック溶液の作成
各種ACAは5, 10, 20 mM、HPAは5, 10, 20, 40 mM DMSOもしくはエタノール溶液となるように調製し、ストック溶液とした。使用時は培養液に対して1,000倍希釈となるように添加した。
【0074】
(2)WST assay による細胞死誘導効果の評価
ヒト子宮頚癌由来HeLa細胞(0.5 x 105 cells/mL、10% FBS含有RPMI1640)を96穴プレートに100 mLずつ播種し、24時間培養した後、所定濃度のACAもしくはHPAを含む培養液に交換し、37℃で22時間インキュベートした。WST試薬(Cell Counting Kit-8, DOJINDO製)を10 mLずつ添加した後、96穴マイクロプレートリーダーで620 nm及び450 nmの吸光度差を測定し、未処理の細胞を生存率100%として細胞生存率を評価した。
【0075】
得られたWST assayの解析結果を図4に示す。
【0076】
その結果、図4に示されるようにACA 20 mM処理では生存率が約50%まで低下しているのに対し、HPAは40 mMでも細胞死が見られないことからHPAはアポトーシス誘導能をもたないことが示唆された。
【0077】
(3)LPS刺激時におけるNF-kBの活性化抑制の評価
NF-kBが活性化される際、その阻害タンパクであるIkBaが速やかに分解されることが知られている。よってIkBa 分解を指標にNF-kBの活性化抑制を評価した。マウスマクロファージ様RAW262.7細胞(0.5 x 106 cells/mL、10% FBS含有RPMI1640)を30 mm dishに1 mLずつ播種し、24時間培養した。
【0078】
各種ACA及びHPAを5もしくは10 mMとなるように添加し、37℃で30分間インキュベートした。各dish にLPS(Sigma製)溶液を10 mg/mLとなるように加え、37℃で15分間インキュベートした。細胞をセルスクレイパーで剥がし、1 x PBSを用いて1.5 mLエッペンドルフチューブに集め、4℃、400 gで5分間遠心した。上清を捨て、Sample buffer 50 mM (2% SDS, 6 M urea, 1.1 M glycerol, 62.5 mM Tris-HCl (pH 6.8)) を加えて懸濁し、4℃で超音波処理を行い、試料溶液とした。試料溶液 20 mL を用いて SDS-PAGE (14%) を行い、PVDF膜に転写後、免疫染色を行った。
【0079】
転写後のPVDF膜を5% スキムミルクを含む0.1% Tween 20 TBS溶液(pH 7.5)中、0℃で一晩ブロッキングし、抗IkBa抗体(Anti-IkBa antibody
produced in rabbit, Sigma製, 1,000倍希釈)を用いて一次抗体反応を60分間行った。0.1% Tween 20 TBS溶液(pH 7.5)で10分間、2回洗浄した後、アルカリホスファターゼ標識抗ラビットIgG抗体(Anti-rabbit IgG antibody, alkaline phosphatase conjugated, Sigma製, 5,000倍希釈)を用いて二次抗体反応を60分間行った。0.1% Tween 20
TBS溶液(pH
7.5)溶液で10分間、2回洗浄した後、NBT-BCIP溶液(Sigma製)を加えて発色反応を行い、IkBaの分解を確認した。
【0080】
得られた免疫染色の結果を図5に示す。その結果、図5に示されるように(S)-ACA、(R)-ACA共にLPS刺激によるIkBaの分解の抑制効果が確認されたが、HPAでは見られなかった。よってHPAにはNF-kB活性化に対する抑制作用がないことが示唆された。
【0081】
以上のことから、HPAはACAと同程度のコラーゲン産生亢進効果を有していることがわかった。また、HPAはACAの水溶液中での分解産物であることから、ACAよりも水溶液中での安定性に優れていると予想される。またHPAにはACAが本来有するアポトーシス誘導性及びNF-kB活性化抑制を示さないことも確認された。NF-kB活性化抑制はアポトーシス抑制因子の産生阻害に働き、アポトーシス誘導能と共に細胞毒性に密接に結びつくため、より低毒性のHPAの方がACAよりも化粧用組成物として優れていると考えられる。


図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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