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明細書 :閉鎖性水域における人工排熱処理システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5831894号 (P5831894)
公開番号 特開2012-017549 (P2012-017549A)
登録日 平成27年11月6日(2015.11.6)
発行日 平成27年12月9日(2015.12.9)
公開日 平成24年1月26日(2012.1.26)
発明の名称または考案の名称 閉鎖性水域における人工排熱処理システム
国際特許分類 E02B   1/00        (2006.01)
FI E02B 1/00 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2010-153555 (P2010-153555)
出願日 平成22年7月6日(2010.7.6)
審査請求日 平成25年7月5日(2013.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
発明者または考案者 【氏名】中尾 正喜
【氏名】西岡 真稔
【氏名】鍋島 美奈子
【氏名】矢持 進
【氏名】重松 孝昌
【氏名】遠藤 徹
【氏名】貫上 佳則
【氏名】森 信人
個別代理人の代理人 【識別番号】100168583、【弁理士】、【氏名又は名称】前井 宏之
【識別番号】100152917、【弁理士】、【氏名又は名称】八木 剛志
審査官 【審査官】石川 信也
参考文献・文献 特開2004-044508(JP,A)
特開2009-019351(JP,A)
特開2006-274702(JP,A)
特開2001-317026(JP,A)
特開平11-148312(JP,A)
調査した分野 E02B 1/00
E02B 3/00- 3/14
特許請求の範囲 【請求項1】
閉鎖性水域外の底層部から底層水を取水する取水手段と、
上記取水手段が取水した底層水を熱源として用いる熱交換手段と、
上記熱交換手段で用いた後に排出される排熱温水を閉鎖性水域内の底層部に排出する排水手段と、
を備え
上記排水手段が、小潮時には排水量を多くし、大潮時には排水量を少なくする、閉鎖性水域における人工排熱処理システム。
【請求項2】
上記熱交換手段で用いられた後に排出される排熱温水に酸素を含む気体を混入する酸素混入手段を備え、
上記排水手段が、上記酸素混入手段によって酸素が混入された高酸素濃度水を閉鎖性水域内の底層部に排出する
請求項1記載の閉鎖性水域における人工排熱処理システム。
【請求項3】
上記排水手段が、複数の排出口を有する排水管からなる
請求項1又は2記載の閉鎖性水域における人工排熱処理システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋・発電所等の建物から発生する人工排熱を閉鎖性水域に排出する人工排熱処理システムである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市の中心部の気温が郊外の気温より高くなるという、いわゆるヒートアイランド現象が問題となっている。ヒートアイランド現象は種々の要因が重なりあって起こっているが、その一つに都市への人口集中によって、家屋、大型発電所、石油工場、石油化学工場などの施設から発生し大気へ排出される人工排熱量が増加していることが挙げられる。
【0003】
これらの人工排熱は最終的には熱の逃し場として海水に放出される場合、このことが海水の水温上昇に影響を与える結果となっている。とくに、防波堤で囲まれた人工的閉鎖性水域では、外部水域との水交換が行われにくいため、海水が停滞しやすくなる。このため、夏場において人工的閉鎖性水域内の表層水温は低層水温と比べて高い傾向がある。
【0004】
例えば大阪港においては、夏期特有の温度成層が、6月には、既に形成されており、7月にかけてその成層はより強固なものへと発達していく過程が見られる。そして、この表層の水温上昇は、海風が都心部に進入するに伴い沿岸付近のヒートアイランド現象を招くという問題にもつながっている。
【0005】
従来、このようなヒートアイランド現象の対策として、保水性舗装や屋上緑化等の陸上での対策が主体的に行われている。(例えば下記特許文献1参照)
【0006】
しかし、陸上におけるヒートアイランド対策は、巨額の投資にもかかわらずその効果は限られた地域に限定され、大きな効果を発揮するためには大規模な施工をしなければならないという問題があった。
【0007】
一方、閉鎖性水域における他の環境問題として、貧酸素水塊の問題が挙げられる。すなわち、外部の水域と交流性の悪い閉鎖性水域では、有機物が堆積しやすく、底層においては貧酸素状態が広く生じやすくなる。その結果、水中の酸素が欠乏して浄化に役立っている好気性生物が死滅すると、水域内の環境条件のバランスが崩れ、赤潮プランクトンなどの有害生物が異常に発生してしまう。
【0008】
外部の水域と交流性の悪い閉鎖性水域(海底に存在する急峻な窪みや、閉鎖的な内湾等)では一般的に水の流れが滞りやすい、また、夏季に成層が発達すると、表層の海水と底層の海水との密度差が大きくなり、上下の混合が起こりにくくなる。底層ではプランクトンの死骸などの有機物が堆積し、その分解が盛んに行われるため、酸素が消費される。結果として、水流の滞った海底付近では極めて溶存酸素量の少ない貧酸素水塊が形成される。
【0009】
このように形成された貧酸素水塊は、強い風や潮の流れの変化などに伴い海面付近に上昇してくることがあり、この場合、海中あるいは海底に生息する生物の大量死をもたらし、いわゆる青潮を招く要因となっていった。
【0010】
閉鎖性水域の浄化方法として、人工的に外部水域との交流性を持たせる方法がとられている。例えば下記特許文献2では、土木的手段により水域入口を通じて外部水域との水の交流をはかるともに、閉鎖水域内においても攪拌を行うという手段が行なわれている。
【0011】
しかし、湖沼のような狭い水域を攪拌するのは比較的容易であるが、港湾のような広い閉鎖性水域内を攪拌するには大規模な水流発生装置が必要となり、コストが高くなるという問題があった。

【特許文献1】特開2009-215853号公報
【特許文献2】特開平06-257117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の人工排熱処理システムは、閉鎖性水域外の底層低温水を冷凍機用凝縮器や蒸気タービン用復水器等への冷却水等として活用することで、ヒートアイランド現象の加速に足止めをかけるとともに、熱交換後の温度上昇した海水を鉛直混合の促進に有効利用することで、閉鎖性水域内の底層部の貧酸素水を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の閉鎖性水域への人工排熱処理システムは、人工的閉鎖性水域外の底層部の底層水を取水する取水手段と、上記取水手段が取水した底層水を熱源として用いる熱交換手段と、上記熱交換手段で用いた後に排出される排熱水を人工的閉鎖性水域内の底層部に排出する排水手段とを備える。
【0014】
冷房による排熱を、大気だけではなく、熱容量の非常に大きい海水中へ排出することで、ヒートアイランド現象を抑制することができる。具体的には、防波堤で囲まれた閉鎖性水域外の底層貧酸素低温水を熱交換器・発電への冷媒として活用することで、省エネ、コジェネ、二酸化炭素削減が期待できる。熱交換器・発電機冷却に使用された残余排熱水の冷媒として活用することもできる。
【0015】
なお、未利用エネルギーである海水を熱源機器の冷却水として利用した場合の機器の運転パターンや海水利用の方法(直接利用・間接利用)についての研究は多くなされているが、利用する海水温度に注目した研究に関してはあまり行われていない。本発明は、夏期に発達するといわれている温度成層に着目し、低温底層水を利用することで、省エネルギー効果を高めている。
【0016】
また、熱交換後の排熱海水を人工的閉鎖性水域内の底層部に排出することで、貧酸素状態を改善することもできる。すなわち、熱交換後の排熱海水は、人工的閉鎖性水域内の底層部の海水より温度が高いため、底層部に排出された排熱海水は周囲との海水との密度差によって上昇する。その際周囲の海水も引き付けられるように上昇する結果、閉鎖性水域内で海水の循環・垂直混合が生じ、貧酸素状態を改善することができる。
【0017】
さらに、熱交換後の排熱海水を人工的閉鎖性水域内の底層部に排出することで、ヒートアイランド現象を抑制することもできる。すなわち、上述のように閉鎖性水域内で海水の循環・垂直混合が生じる結果、表層の水温の上昇を抑制することができる。都心部では典型的な真夏日に大阪湾・東京湾等の内湾部からの海風が都心に侵入するため、表層水温を現状より低くできれば海風はより冷涼で強いものとなり、都心の冷却や換気が促進されることが期待できる。
【0018】
また、本発明の人工排熱処理システムは、上記熱交換手段で用いられた後、排出される排熱海水に酸素を含む気体を混入する酸素混入手段を備え、上記排水手段が、上記酸素混入手段によって酸素が混入された高酸素海水を閉鎖性水域内の底層部に排出するようにしてもよい。排出する排熱海水に酸素を混入することで、貧酸素状態をより一層改善することができる。
【0019】
上記排水手段を、複数の排出口を有する排水管にすることで、排出流速を小さくし、水域内の環境を著しく変化しないようにすることができる。
【0020】
また、上記閉鎖性水域が人工建造物で囲まれた港湾である場合、上記排水手段が、潮汐情報に基づいて、排出する排水量を制御するようにしてもよい。これにより、閉鎖性水域への環境変動を制御することができる。ここで、潮汐情報とは、潮汐力によって海面が上下する潮汐に関する情報をいい、例えば干潮・満潮の時間や、干満の高低差等が含まれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、陸上では効果が地理的に限定されていたヒートアイランド対策をより効果的に実現するとともに、閉鎖性水域内における貧酸素状態を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態におけるシステム全体の構成を示す図
【図2】本実施形態の排水管の拡大図
【図3】本実施形態の排水管の断面図及び平面図
【図4】シミュレーションに用いたシステム構成図
【図5】シミュレーションにおける海水平均温度およびターボ冷凍機運転時間を示す図
【図6】シミュレーションの結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態における閉鎖性水域への人工排熱処理システムについて図1を用いて説明する。図1は、閉鎖性水域における本システム100全体の構成を示す図である。閉鎖性水域とは、地理的要因により水の流出入の機会が乏しく、水流が停滞しやすい水流停滞部を有する水域をいい、水流停滞部を有していれば、海だけでなく湖沼等も含まれる。本実施形態では、図1に示すように防波堤で囲われた港湾等の人工的建造物により形成された人工的閉鎖性水域を例にして説明するが、これに限定されるものではない。

【0024】
本実施形態の人工排熱処理システム100は、人工的閉鎖性水域内の海水の水温より低温である、人工的閉鎖性水域外の底層部の海水を取水する取水手段と、上記取水手段が取水した海水を熱源として用いる熱交換手段と、上記熱交換手段で用いられた後、排出される排熱海水に酸素を含む気体を混入する酸素混入手段と、上記酸素混入手段によって酸素が混入された高酸素海水を閉鎖性水域内の底層部に排出する排水手段とを備えている。以下、各手段について詳細に説明する。

【0025】
取水手段は、人工的閉鎖性水域外の底層部の海水を海上に汲み上げるものであればよく、その方法は特に限定されない。実用化されている海洋深層水の取水施設の技術を用いればよく、本実施形態では海水を吸引して取水する取水管101と、動力源となる揚水ポンプ102により構成されている。

【0026】
取水管の一端は閉鎖性水域外の底層部、例えば水深10~20mの深さにまで延びた取水口101Aになっており、他端は陸上に設置された後述する熱交換手段に配設されている。この取水管101Aによって、閉鎖性水域外の海水は熱交換手段へと導かれる。取水管101は、取水口101Aを任意の水深位置に配設することができるフレキシブルホースとなっている。

【0027】
揚水ポンプ102は、底水層を形成する水塊の一部を取水管101を介して連続的に吸引する。設置する場所は、作業船上や、チェーン、シンカーにより係留される浮体構造物上や、水中等が考えられる。作業船、浮体構造物に固定して運転する場合は、太陽光パネルを作業船上等に設置し、揚水ポンプ等の機械装置を駆動させるためのエネルギーとして太陽電池・蓄電池等を用いてもよい。水中に設置する場合は、例えばブイなどに係留して所定の水深の位置に釣り下げて取水口を適度の水深に位置させて運転する。

【0028】
夏期における海水温度は、温度成層が発達している期間においては、取水深度に依存して水温が変化するが、その割合は、常に一定ではなく、ある一定の深度を超えるとほとんど水温に差がなくなる。このため取水する水深位置はふかければ深いほどよいわけではなく、フレキシブルホースにより適切な水深の海水をくみ上げるようにする。底層水の最大取水流量は、後述する熱交換手段で要求される施設冷却熱量によって決定される。

【0029】
このようにして、人工的閉鎖性水域外の底層部から汲みあげられた低温海水は、導水管を通って熱交換手段に導水される。

【0030】
熱交換手段は、汲み上げた低温海水を冷暖房エネルギーや発電エネルギーに冷却媒体として利用するもので、既に実用化されている熱交換器103を用いることができる。なお、ここでいう冷却媒体としての利用とは、冷媒を冷却する冷却水としての利用も含まれる。

【0031】
例えば、地域冷暖房設備に設置される空調用冷凍機等の凝縮器に用いることが可能である。すなわち、蒸発器で蒸発したフロンガス等の冷媒を再び液体の冷媒に戻すための冷却水として、汲みあげた湾外の海水を用いることができる。

【0032】
例えば火力発電所では、蒸気タービンから排気される蒸気を冷却凝縮して復水させる復水器が用いられている。火力発電所で使用されるボイラ、蒸気タービンは大型で、排気される蒸気量も多いことから、湾外から汲み上げた海水を排気蒸気の冷却に用いることが可能である。

【0033】
このように、低温の海水を例えば冷凍機等の冷却水として利用することで、冷凍機等の効率向上効果が得られ、結果的にヒートアイランド対策としての効果も期待できる。従来の屋上緑化や保水性舗装等の陸上でのヒートアイランド対策のように地理的に制限されることはなく、より広い地域に効果を及ぼすことができる。

【0034】
なお、最適な熱交換効率を発揮するためには、取水口の取水深さを任意に調整すればよい。汲み上げた海水は、湾内の海水温より低温であるため、利用効率を高めることができる。

【0035】
熱交換器103に供給された海水は、酸素混入手段へと導水される。酸素混入手段は、熱交換器103からの排熱水に酸素を混入する酸素供給設備104である。排熱水に所要の酸素ガスを混入し高濃度酸素水に転換することができればその手段は限定せず、例えばエアコンプレッサによって圧縮空気を送って曝気しても良い。また、液体酸素貯留タンクや現場用酸素発生装置を用いてより高濃度な酸素水を生成しても良い。

【0036】
高濃度酸素水に転換された排熱水は、図2に示すように、排水管105先端の排出口105Aより最終的な熱の逃し場である湾内に排出される。図3は、排水管の先端部を拡大した図であり、図3Aは図2中の上方向(矢印方向)からみた平面図であり、図3Bは断面図である。排出口105Aの位置を任意の水深に移動できるようになっており、本実施形態では閉鎖性水域内の底層部に位置している。また、排水管105の排出口105Aは複数設けられており、各排出口105Aは上方に向けて開口している。

【0037】
熱交換器で用いられた排熱温水は、排水管105から閉鎖性水域の底層部に排出するのであるが、このとき、閉鎖性水域に及ぼす水温変化は出来る限り緩やかに変化させる方が好ましい。

【0038】
本実施形態では、閉鎖性水域内の水温が著しく変化することがないよう、種々の対策がとられている。すなわち、閉鎖性水域の水温変化は、排熱温水の水温と人工閉鎖性水域の水温との差(温度差)・排出流量・排出流速によって決定される。特に温度差については、環境影響評価項目として、概ね水域内の水温と比べて7度以上高い水は排出できないよう制限されていることが多い。

【0039】
そこで、本実施形態では、排熱温水の水温が、人工閉鎖性水域の底層水温より7度を超えることがなく、かつ、表層水温よりは高くなるよう制御されている。具体的には、排水管から排出する排水量(すなわち、上記取水管からの取水量)によって排熱温水の温度を調整している。

【0040】
排水管105からの排水量は、熱需要施設から要求される排熱量によって決定されるのであるが、仮に排熱量を一定とすると、排出流量が多ければ排熱温水の温度は低く、排出流量が少なければ排熱温水の温度は高くなる。

【0041】
したがって、取水量(すなわち、排水量)を調整することによって、排出水の水温を人工閉鎖性水域の底層水温より7度を超えることがなく、かつ、人工閉鎖性水域の表層水温よりは高くなるよう制御している。

【0042】
また、本実施形態では図3に示すように、排出断面積を変化させることによって温熱排水を排出する際の排出流速を制御している。これにより、閉鎖性水域内の環境が著しく変化するのを抑制することができる。

【0043】
すなわち、複数の多くの排出口を設けて排出総断面積を大きくしているため、排出流速を抑制することが可能となっている。人工閉鎖性水域の用途を考えれば、温熱排水の排出によって水域内に大きな流動を誘起することは好ましくない。浮力の効果によって緩やかな上下方向の流動を誘起して水域の水環境の改善を果たすとともに,現況の水域の利用に不都合がないような排水方法がとられている。

【0044】
さらに、本実施形態の上記排水手段は、潮汐情報に基づいて排出する排水量を制御する。具体的には、例えば小潮時には揚水ポンプ102の駆動力を大きくして取水する海水量を多くし、排水手段からの排水量を多くする。逆に、大潮時には揚水ポンプ102の駆動力を小さくして取水する海水量を少なくする。これにより、閉鎖性水域への環境変動を抑制することが可能となる。

【0045】
すなわち、熱需要施設から要求される排熱量を一定とすると、小潮時には港湾(防波堤)内外の海水交換が少なくなるため、温度上昇が大きくなる。閉鎖性水域外から取水している場合には流量を多くすることにより排水温度を下げることができる。大潮時には同じ排熱量でも流量を小さくして排水温度を高くしても、自然の海水交換量が多いため、影響が抑制される。

【0046】
以上のようにして排熱温水は、閉鎖性水域内の底層部に排出される。排出された排熱温水は、底層部の海水より温度が高いため、密度差により表層へと上昇する。そして、排熱温水の上昇に伴い周囲の海水もひきつられるように一体となり上昇し、閉鎖性水域内に鉛直循環が生じる。

【0047】
酸素濃度の高い表層水が底層部へと移動することにより、底層部の貧酸素状態(すなわち、酸素の欠乏している状態)を改善することができる。また、鉛直循環により水深差に伴う温度差を減少させることができる点も、底層部の貧酸素状態の改善につながる。

【0048】
また、特に夏期に発達しやすい温度成層下では、表層の温度は比較的高温であるが、鉛直循環によって表層の水温の上昇を抑制することができる。表層水温を現状より低くできれば内湾部からの海風はより冷涼で強いものとなり、都心の冷却や換気が促進されることが期待できる。

【0049】
以上、本発明の人工排熱処理システムによれば、人工排熱に伴うヒートアイランド問題の対策と、湾内の貧酸素問題の対策を同時に実現することができる。

【0050】
次に、夏期に発達するといわれている温度成層に着目し、低温底層水を利用することで、冷凍機の省エネルギー効果がどの程度であるかについて説明する。未利用エネルギーである海水を熱源機器の冷却水として利用した場合の研究は多くなされているが、利用する海水の取水位置に注目した研究に関してはあまり行われていない。以下、低温底層水を利用した場合の省エネルギー効果について説明する。

【0051】
既存の地域冷暖房負荷に対して、インバータターボ冷凍機の設置を想定して
、海水の取水深度に応じた省エネルギー効果を推定した。大阪湾臨海部の埋立地コスモスクエア地区において、都市インフラとしての地域冷暖房を、海水を使用した設備として事業化した場合のシミュレーションを行った。なお、シミュレーションに用いた冷凍機は、三菱重工ターボ冷凍機AART-145I型(冷凍能力1,500USRt)である。

【0052】
本シミュレーションに用いたシステム構成を図4に示す。本図における「冷却水出口温度」、「冷却水入口温度」とは、熱交換器に対しての出口・入口の温度であり、冷凍機に対しては入口と出口が逆の関係となる。また、本シミュレーションにおいては、熱交換器から冷凍機間での配管の保温は十分であると考え、配管経路内での熱の出入りは考慮しないものとする。(熱交換器の冷却水出口温度)は(冷凍機の冷却水入口温度)に近似し、(熱交換器の冷却水入口温度)は(冷凍機の冷却水出口温度)に近似する。

【0053】
消費電力量を算出するためには、冷凍機のCOP特性をあらわす式が必要となる。冷凍機の冷却水入口温度を12℃から1℃刻みで32℃まで(21種類)変化させ、各々の温度に対し20%から10%刻みで100%まで(9種類)負荷率を変化させたときのCOPの値を得た。この値をもとに回帰分析(2次近似)を行い、得られた近似式を示す。

【0054】
JP0005831894B2_000002t.gifなお、近似式の重相関R=9.938×10-1であった。

【0055】
消費電力量計算式は、
JP0005831894B2_000003t.gif

【0056】
ここで、H:排熱量、Q:冷房負荷 とする。冷房負荷Qは、
JP0005831894B2_000004t.gif

【0057】
また、排熱量Hは、=冷却水使用熱量でもあり、海水側の熱交換量より、
JP0005831894B2_000005t.gif

【0058】
冷却水側の熱交換量より、
JP0005831894B2_000006t.gif

【0059】
熱交換器の伝熱特性より、式Fの関係が得られる。ここで、K:熱通過率(W/(平方メートル・K))、A:伝熱面積(平方メートル)、デルタθm:対数平均温度差(K)とする。

【0060】
なお、対数平均温度差デルタθmは、次式により求められる。
JP0005831894B2_000007t.gifまた、熱交換器の特性に関しては、既存設備の運転データより冷却水使用熱量とKA値の関係を線形近似により求めた。
JP0005831894B2_000008t.gif

【0061】
式中Cpa、γa、Cpb、γbは既知である。Va、Vbは、シミュレーションに用いた冷凍機を単独運転させたと仮定し、さらに冷水温度5℃差で定格運転した場合を想定して冷却水流量を決定し、その流量を定流量(Va=Vb≒1,000m3/h)として計算を行った。また、Qは、既存地域冷暖房システムにおいての実負荷データを、θa1は、本研究において計測した海水温度(実測値)を代入した。

【0062】
以上より、本シミュレーションにおける未知数は、E、H、θa2、θb1、θb2、COP、KAの7つとなり、これらを式A~式Gの7つの連立方程式を解くことで、消費電力Eの値を求めた。

【0063】
図5は、シミュレーションを行った日の海水平均温度、およびターボ冷凍機の運転時間を、示している。シミュレーションに用いた海水温度のデータは、2006年8月、9月に、DL-8.65m、DL-2.585の位置で実際に計測したデータを用いた。なお、表中に記載の海水平均温度は、ターボ冷凍機運転時間内における海水温度の平均値とする。

【0064】
図6は、既存取水位置(DL-2.585m)とR1近傍底層水(DL-3.8m)での消費電力量算出シミュレーション結果を示している。

【0065】
いずれの日においても、海水温度の低下に伴い、消費電力が減少することがわかった。取水深度が約6m低くなることによる省電力割合は、8月では8.1~16.9%(水温差1.84~4.08度)、9月では1.1~5.5%(水温差0.23~1.29度)であった。8月12日は、海水温度差が4.08度もあることから、省電力割合についても16.9%という非常に高い数値を示した。

【0066】
取水深度を約6m下げると、同期間の平均水温差は2℃程度、平均省電力効果は12%以上期待できるものとなった。12日を除いた、8月のシミュレーション対象日の平均値をとっても約9%の省電力量効果が得られることがわかった(平均水温差2.06度)。

【0067】
以上のように本発明によれば、夏期に発達するといわれている温度成層に着目し、低温底層水を利用することで、冷凍機の省エネルギー効果を格段に向上させることができる。
【符号の説明】
【0068】
100 人工排熱処理システム
101 取水管
102 揚水ポンプ
103 熱交換器
104 酸素供給設備
105 排水管
105A 排出口


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図4】
5