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明細書 :抗脂血及び内臓脂肪予防食品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5768252号 (P5768252)
公開番号 特開2011-055829 (P2011-055829A)
登録日 平成27年7月3日(2015.7.3)
発行日 平成27年8月26日(2015.8.26)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 抗脂血及び内臓脂肪予防食品
国際特許分類 A61K  31/718       (2006.01)
A61P   3/06        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
FI A61K 31/718
A61P 3/06
A23L 1/30 B
A23L 1/30 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2010-180700 (P2010-180700)
出願日 平成22年8月12日(2010.8.12)
優先権出願番号 2009187574
優先日 平成21年8月12日(2009.8.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年6月14日(2013.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】504173600
【氏名又は名称】有限会社 IPE
発明者または考案者 【氏名】北村 進一
【氏名】久保 亜希子
【氏名】犬飼 忠彦
【氏名】庄條 愛子
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2009-254265(JP,A)
特開2006-076919(JP,A)
特開2006-217813(JP,A)
特開2008-189625(JP,A)
特表2008-526690(JP,A)
米国特許出願公開第2009/0105469(US,A1)
Journal of Cereal Science,2007年 8月27日,Vol. 48, No. 1,p. 92-97
調査した分野 A23L 1/00
A61K 31/00
A61P 3/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
WPIDS(STN)
Thomson Innovation
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13~15に位置するアミロペクチンを含む米及び/又はアミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13~15に位置するアミロペクチンからなるデンプンの、脂肪蓄積抑制用組成物の製造のための使用
【請求項2】
前記脂肪蓄積抑制用組成物は、高脂肪食の摂取に際して摂取される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13~15に位置するアミロペクチンを含む米及び/又はアミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13~15に位置するアミロペクチンからなるデンプンの、血液中の中性脂肪抑制用組成物の製造のための使用
【請求項4】
前記血液中の中性脂肪抑制用組成物は、高脂肪食の摂取に際して摂取される請求項3に記載の使用。
【請求項5】
グルコース重合度が12以上であるアミロペクチン側鎖が、全アミロペクチン側鎖の65%以上である請求項1~4の何れか1項に記載の使用
【請求項6】
前記米は野生種のうるち米からアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)を欠損したwx/ae米又は前記デンプンは当該米から得られるデンプンである請求項1~5の何れか1項に記載の使用
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中及び内臓中の中性脂肪量の抑制又は脂肪蓄積抑制効果のある食品及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂血症は動脈硬化を引き起こし、狭心症や心筋梗塞などのいわゆる心臓疾患、および脳出血や脳梗塞などのいわゆる脳疾患を誘引する。高脂血症は、血液中に存在する脂肪重量が多い状態である。血液中に存在する脂肪のうち、中性脂肪は動脈硬化の原因とはならないが、中性脂肪が多いと、血液中のHDL(高比重リポタンパク)が減少し、LDL(低比重リポタンパク)が増加する傾向にあり、このことが間接的に動脈硬化の原因であると言われている。
【0003】
血中の中性脂肪量の抑制には、脂肪だけでなく炭水化物を含めた食餌からの摂取エネルギーを抑制することが望まれる。炭水化物を代表する食物に米がある。日本人が摂取する米の量は近年減少傾向にあるが、米は日本人の主食であり、米を食べないというのは日本人の食生活からは考えられない。従って、米を食べても中性脂肪が増加せず、米を食べることにより血液中や内臓中の中性脂肪の蓄積抑制が見込めるならばより望ましい。
【0004】
血中の中性脂肪量を抑制するには薬物療法による方法もある。これまでにも、米などの穀物から得られた中性脂肪抑制剤や中性脂肪増加防止剤などが数々提案されている。例えば、特開2006-158343号公報(特許文献1)には、発芽させた米を有効成分とした脂質の吸収を抑制する食品が開示されている。この発芽させた米は食後の血中中性脂肪濃度(血清トリグリセリド濃度)の上昇を抑制し、脂肪負荷後のレムナント用リポ蛋白濃度の上昇を抑える。
【0005】
特開2003-9810号公報(特許文献2)には、発芽処理した玄米を含む高脂血及び高血症予防剤が開示されている。コーンスターチの代替として発芽処理した玄米を含む飼料をラットに摂取させた場合に、腎周囲の脂肪重量及び睾丸周囲の脂肪重量の増加を抑え、血清中の総コレステロールを低下させる。
【0006】
特開平10-279487号公報(特許文献3)には、アミロース含量が30重量%以上の澱粉及び/又はその誘導体を湿熱処理することに得られる食物繊維含有澱粉素材からなる脂質代謝改善剤が開示されている。この澱粉素材は、アミロース含量が30%以上である澱粉を、食物繊維含量が好ましくは30重量%以上となるまで、減圧・蒸気による加圧加熱を繰り返して得られる。このものは、湿熱処理されていない澱粉を投与した場合に比べて、脂肪酸合成系酵素の活性を低下させ、それにより脂肪の蓄積を抑制する。また、血漿中のトリグリセリド量を低減させる。
【0007】
特開2008-189625号公報(特許文献4)には、米などの植物由来原料をデンプン分解酵素処理及び蛋白分解酵素処理し、次いで固液分離によって液体成分を除去して得られた難消化性成分含有素材が開示されている。この素材を含む高コレステロール食をマウスに摂取すると、この素材の代わりにカゼインを含む高コレステロール食を摂取させたマウスに比べて、肝臓のトリグリセリド蓄積率が低下する。
【0008】
特開2008-195694号公報(特許文献5)には、有色米の色素抽出物を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤が開示されている。この脂肪蓄積抑制剤は、高脂肪食を摂取させたマウスの血清トリグリセリド濃度や肝脂質中のトリグリセリド含量を有意に低下させると共に腎周囲の脂肪量や副睾丸の脂肪量を有意に低下させる。
【0009】
特開2004-161686号公報(特許文献6)には、含水率40%以上の蒸煮あるいは煮沸した穀類等をアスペルギルス属のかびで培養して含水率を低下させた後、当該得られた培養物の抽出物を有効成分とする高脂血症改善剤が、また特開2004-168720号公報(特許文献7)には、同様にリゾーパス属又はニューロスポラ属のかびで培養した培養物の抽出物を有効成分とする高脂血症改善剤が開示されている。これらの改善剤を、高脂血症を発症するマウスに摂取させると、それらを摂取させない場合に比べて血中の中性脂肪量が低下する。
【0010】
特開2008-74735号公報(特許文献8)には、リパーゼ阻害作用を有する植物抽出物として黒米やタマネギ外皮の抽出物が開示されている。このリパーゼ阻害作用を有する抽出物は、プロトカテキュ酸、パラヒドロキシ安息香酸及びこれらの誘導体を含むものである。これらの化合物やこれらの化合物を含む抽出物はリパーゼの働きを抑え、食事中の脂肪の分解を抑制する。それにより血中への脂質吸収が抑制される。
【0011】
一方、非特許文献1には、野生種のうるち米からアミロース合成酵素I(GBSSI)とアミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)の双方を欠失した二重変異体(wx/ae)米が開示されている。この二重変異体は、GBSSIを欠失したwx変異体とBEIIbを欠失したae変異体を交配して得られた株(変異体)の中から選抜されたものである。
【0012】
この二重変異体では、胚乳断面のヨウ素染色や米粒のX線回折の結果、アミロペクチンの分子構造が野生種やwx変異体のそれとは異なっていることが示されている。しかしながら、この米が有するデンプンの機能は十分に解明されていない。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2006-158343号公報
【特許文献2】特開2003-9810号公報
【特許文献3】特開平10-279487号公報
【特許文献4】特開2008-189625号公報
【特許文献5】特開2008-195694号公報
【特許文献6】特開2004-161686号公報
【特許文献7】特開2004-168720号公報
【特許文献8】特開2008-74735号公報
【0014】

【非特許文献1】Kubo, A., et al., Journal of Cereal Science (2007), doi:10.1016/j.jcs.2007.08.005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまでのところ、上記のように、高脂血症の予防、特に中性脂肪の蓄積予防や血清トリグリセリド濃度を低下させる米由来の物質や組成物が数々報告されている。しかしながら、これらは有色米の抽出物であったり、発芽玄米やカビによる培養物の抽出物であったり、米に何らかの加工を施して得られるものであり、その製造に非常に手間がかかる。
【0016】
こうした状況の中、本願発明者等は非特許文献1に記載された米又はそれに含まれるデンプンの特性について種々の研究を行っていたところ、当該変異体米由来のデンプン又は当該変異体米の米粉を高脂肪食と共にマウスに摂取させたところ、うるち米やもち米由来のデンプン又はそれらの米粉を摂取させた場合に比べて血中のトリグリセリド濃度が有意に低下することを見いだした。また同時に、上記高脂肪食に当該変異体米由来のデンプン又は当該変異体米の米粉を添加した食餌を摂取したマウスで、肝臓中の脂肪球が著しく減少することも見出した。
【0017】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は米に特別な加工を施すことなく、内臓への脂肪蓄積を防止しあるいは高脂肪食下における血中の中性脂肪量の上昇を抑制する新規な医薬組成物又は食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、当該変異体米及び/又は当該変異体米由来のデンプンを、血液中又は内蔵中の中性脂肪抑制効果又は脂肪蓄積抑制効果を奏する食品そのものとして、あるいは加工食品の原料として使用するものである。また、当該デンプンを有効成分とする血液中又は内臓中の中性脂肪抑制剤などとして使用するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、前記変異体米あるいは当該米由来のデンプンを摂取すれば、高脂肪食の摂取下における血中中性脂肪量の上昇が抑制され、内臓への脂肪の蓄積が防止される。
【0020】
また、この変異体米はうるち米と同様に炊飯できるので、日常の食餌である米飯と変わりなく食することができる。従って、うるち米に変わってこの米を主食とすれば、普通の食生活によって高脂血症に起因する脳卒中や心臓病、さらには内臓脂肪の蓄積及びそれに起因する内臓疾患の発症率を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)はアミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布を示す図、同(b)は各グルコース重合度におけるピーク面積と野生種におけるピーク面積との差を示す図である。
【図2】米の中にあるデンプン粒の結晶様構造を示す画像である。(a)は偏光顕微鏡による撮影画像、(b)はフィルター(530nm)をかけた偏光顕微鏡による撮影画像、(c)はヨウ素染色を行った米の光学顕微鏡による撮影画像である。(a)(b)(c)はそれぞれ上段から野生種、wx株、wx/ae株を示している。
【図3】精白米中のタンパクに対するウエスタンブロット図である。(a)は抗GBSSI抗体を用いた場合、(b)は抗BEIIb抗体を用いた場合を示す。(a)中のSは可溶性タンパク質を、同Gはデンプン結合型タンパク質を示す。
【図4】DSCによる熱糊化特性を示すチャートである。(a)は精白米の熱糊化特性を、(b)は玄米粉の熱糊化特性を、(c)は精製デンプンの熱糊化特性を示す。
【図5】DSCによる老化特性を示すチャートである。
【図6】RVAによる粘度変化を示すチャートである。
【図7】米デンプン添加食で飼育したApoE-/-マウスの血中中性脂肪濃度の推移を示す図である。
【図8】米デンプン添加食で飼育したApoE-/-マウスの血中中性脂肪濃度を示す図である。
【図9】米デンプン添加食で飼育したApoE-/-マウスの肝臓中性脂肪量を示す図である。
【図10】米デンプン添加食を長期摂取させたApoE-/-マウスの精巣周辺脂肪重量を示す図である。
【図11】米デンプン添加食を長期摂取させたApoE-/-マウス肝臓細胞の染色画像であって、(a)はWT米由来の米デンプンを摂取させた場合の染色画像、(b)はwx/ae米由来の米デンプンを摂取させた場合の染色画像である。図中の矢印は脂肪滴を示す。
【図12】米粉(精白米)添加食で飼育したApoE-/-マウスの血中中性脂肪濃度を示す図である。
【図13】米粉(精白米)添加食を長期摂取させたApoE-/-マウスの精巣周辺の脂肪重量を示す図である。
【図14】米粉(精白米)添加食を長期摂取させたApoE-/-マウス肝臓細胞の染色画像であって、(a)はwx米由来の米デンプンを摂取させた場合の染色画像、(b)はwx/ae米由来の米デンプンを摂取させた場合の染色画像である。図中の矢印は脂肪滴を示す。
【図15】米粉(玄米)添加食で飼育したApoE-/-マウスの血中中性脂肪濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の食品は、アミロースを含まず、グルコース重合度(DP)が13~15であるアミロペクチン側鎖が顕著に多いアミロペクチンを含む米、又はアミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13~15に位置するアミロペクチンからなるデンプンを含む。この食品は、血液中及び内臓中の中性脂肪量を抑制する機能を発揮する。本発明において、血液中の中性脂肪量を抑制するとは、当該デンプンの摂取が血液中の中性脂肪量の上昇を抑制することを意味する。また、内臓中の中性脂肪量を抑制するとは、当該デンプンを摂取しない場合と比べて、当該デンプンの摂取が内臓への中性脂肪の蓄積を抑制することを意味する。すなわち、当該デンプンの摂取が、血液中の中性脂肪量(血中中性脂肪濃度)の上昇を抑制し、また、中性脂肪の内臓への蓄積を防止する。

【0023】
本発明の有効成分となるアミロペクチンは、野生種のうるち米が有するアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン側鎖を形成する酵素(BEIIb)を欠損した変異体米(wx/ae米)から得られる。この変異体米のデンプン含有量は籾殻を除いた水分を含んだ玄米重量に対して少なくとも60%以上、良好なものでは約70%以上であり、この変異体米はほぼ前記アミロペクチンからなると言ってよい。この変異体米(wx/ae米)は、例えば、うるち米(WT)に対してメチルニトロソウレア(MNU)などの処理を施してGBSSIを欠損させたいわゆるもち米(wx米)に、再び例えばメチルニトロソウレア(MNU)処理を施して突然変異を起こすことによって得られる(非特許文献1参照)。

【0024】
本発明の食品は上記枝分かれした側鎖の分子量が大きいアミロペクチンからなるデンプン及び/又は前記アミロペクチンを含む米を含有する。このアミロペクチンからなるデンプン及び前記アミロペクチンを含む米は、血液中の中性脂肪量を抑制し、内臓における中性脂肪の蓄積を防止する。つまり、本発明では、上記の変異体米をそのまま中性脂肪抑制効果のある食品として用いてもよく、当該変異体米から取り出した上記デンプンを中性脂肪抑制効果のある食品として用いることもできる。また、両者を併用しても構わない。

【0025】
本発明において、米とは脱穀した状態である玄米や玄米を精米した精白米(白米)だけでなく、玄米又は米を粉の状態にした米粉を含む意味で用いられる。

【0026】
本発明で用いられる米にはデンプン粒の存在が確認される。この米はアミロースを含まないが、当該アミロースを含まないデンプン粒と同様な結晶様構造したデンプン粒を有している(図2参照)。デンプン粒の結晶性は、偏光顕微鏡下で観察した場合に、複屈折性(偏光十字)の存在により判定することができる。図2から分かるように、前記変異体米には明瞭な偏光十字の存在が確認される。

【0027】
アミロースは、デンプンを構成する多糖類の1種であり、グルコースが主としてα-1,4グルコシド結合した直鎖状の高分子を意味する。アミロペクチンもデンプンを構成する多糖類の1種であり、グルコースがα-1,4グルコシド結合した直鎖状の主鎖に、α-1,6グルコシド結合による枝分かれした分岐鎖を有する多糖類を意味する。

【0028】
本発明におけるアミロペクチン側鎖はα-1,4グルコシド結合した主鎖から枝分かれした分岐鎖を意味し、種々のグルコース重合度のものから構成される。グルコース重合度(DP:Degree of Polymerization)、つまりアミロペクチン側鎖におけるグルコースの結合数は、イソアミラーゼなど、分岐部分を切り出す酵素によってデンブン分子を分解した後に、クロマトグラフィーなどの分析装置を用いて、切り出した分岐鎖の分子量(分子量比)を測定することにより求められる。本発明においては、非特許文献1に記載された方法により測定したグルコース重合度が用いられる。具体的に言うと、シュードモナス属の菌から得られたイソアミラーゼによってアミロペクチンから分岐鎖を切り出し、それを8-アミノ-1,3,6-ピレントリスルホン酸(8-amino-1,3,6-pyrentrisulfonic acid:APTS)でラベルした後、キャピラリー電気泳動で分析して得られた分子量(分子量比)から算出したグルコース重合度が用いられる。

【0029】
本発明で用いられる米はアミロースを含まない。ここでアミロースを含まないとの意味は、アミロース含量が論理的にゼロであると見なされることを言い、測定結果がゼロであることを意味するものではない。本発明に用いられるイネはアミロース合成酵素I(GBSSI)を欠損しているので、理論的には米のアミロース含量がゼロのはずであるが、測定方法やその検出限界、コンタミネーションによってアミロースが検出される場合もある。なお、アミロース合成酵素I(GBSSI)以外にもアミロース合成酵素と呼ばれる酵素が存在するが、米においてはアミロースの合成に関与する酵素はBGSSIだけであり(G.E. Vandeputte, J.A. Delcour, Carbohydrate Polymers, 58(2004), p245-266)、アミロース合成酵素Iがなければ実質的にアミロースを含まないと言える。従って、本発明で用いられる米はデンプンの構成成分として実質的にアミロースを含まず、アミロペクチンのみを含む米である。また、上記米から取り出されたデンプンは実質的にアミロースを含まずアミロペクチンのみからなる。

【0030】
本発明で用いられるアミロペクチンは、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)の分布ピークが13~15、具体的には14前後のアミロペクチン側鎖が最も多く、野生種の稲に比べてグルコース重合度が高いアミロペクチン側鎖が多くなっている。また、当該アミロペクチンは、グルコース重合度が12以上あるグルコース鎖長の長いアミロペクチン側鎖が、アミロペクチン側鎖全体の65%、良好なものでは70%以上を占める(図1参照)。なお、アミロペクチン側鎖全体に対する割合は重合度が3~35のアミロペクチン側鎖の総計を100とした場合の割合であって、具体的には実施例に記載の方法により求められる。

【0031】
上記アミロペクチンは上記変異体米(wx/ae米)から得られたデンプンであり、米からデンプンを製造する方法であればその製造方法は問われず、普通米やとうもろこし等の穀類などを原料としてデンプンを製造する場合と同様な方法で得ることができる。例えば、一般的なデンプン製造方法として、穀類を粉砕して水に浸漬し、水に不溶の沈殿として沈殿物を分取する方法が例示される。

【0032】
上記変異体米及び当該変異体米から得られたアミロペクチン(デンプン)の摂食は血中の中性脂肪量を抑制し、肝臓など内蔵への脂肪の蓄積を防止・抑制する効果を有する。すなわち、高脂肪食を摂取した場合であっても、当該変異体米又はこの変異体から得られるデンプンを摂食した場合にあっては、野生型のうるち米(WT米)やGBSSI遺伝子が欠損したいわゆるもち米(wx米)を摂取した場合に比べて、血中の中性脂肪濃度の増加が長期的に抑制される。また、肝臓や精巣周囲における脂肪の蓄積が抑制される。

【0033】
本発明の食品は、上記変異体米及び/又は上記デンプンを含むものであり、中性脂肪抑制効果又は脂肪蓄積防止効果が期待される。当該食品は、変異体米(wx/ae米)又は上記アミロペクチンそのものである場合(デンプン100%又は変異体米100%)やこれらの変異体米やアミロペクチンを素材として加工された種々の食品組成物である場合がある。

【0034】
この食品として、例えば当該米を用いて炊いた米飯、発芽米、かゆ、餅など米をそのまま利用した食品、米を粉砕して得られる米粉はもちろんのこと、その米粉を利用した加工食品、例えば、ビーフンのような麺類、米粉を用いたパン類、あられやおかき、せんべいのような米菓子、ケーキやクッキー等の洋菓子、饅頭等の和菓子など米粉を原材料とした種々の菓子など、米や米粉を原材料として用いた食品すべてを意味する。米(米粉)の使用量は特に制限されるものではなく、前記米加工品の原料として用いられる米又は米粉の全部又はその一部、あるいは加工品の原料として用いられる小麦粉の全部又はその一部、例えば、本来使用される小麦粉10~80重量%、好ましくは30~50重量%を、従来の米や米粉、小麦粉に替えて上記デンプンを含む米や米粉あるいはデンプンを用いて製造することができる。その製造方法も限定されることはなく、対象となる各種食品を製造しうる公知の各種方法が用いられる。食品組成物における前記米(米粉)又は前記デンプンの使用量は0.01~99.99%の範囲内で任意に定められる。

【0035】
上記変異体米や当該変異体米から得られたデンプンは、中性脂肪抑制剤や脂肪蓄積防止剤としての利用も可能である。すなわち、上記変異体米(wx/ae米)及び/又は上記アミロペクチンからなるデンプンを食品として用いるのではなく、これらを有効成分として各種の賦形剤や添加剤を使用して、錠剤や顆粒剤、カプセル剤などに製剤化した医薬組成物として提供できる。

【0036】
本発明で用いられる変異体米やデンプンは、上記のとおり、食品や医薬組成物のいずれの形態として摂取することができる。これらの変異体米やデンプンは、普通米や普通米から得られるデンプンと異なる機能を発揮するが、普通米とそれから得られるデンプンと異なる特別な取り扱いは要しないので、摂取量においても普通米等と基本的には同様に考えればよい。なお、医薬組成物や効能効果の表示が行政庁の許認可を必要とするいわゆる特定保健用食品(食品組成物)の有効成分とする場合にも、その配合量は組成物中0.01~99.99%である。

【0037】
以下、実施例に基づき本発明についてさらに説明する。もっとも、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
〔精白米及びデンプンの調製〕
ジャポニカ米である金南風の受精卵細胞をN-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)で処理して変異させたwx米EM21(GBSSI欠損株:Satoh and Omura (1979)らの方法による)と、ae米EM16(BEIIb欠損株)を交配して、ダブルミュータントwx/ae株であるAMF18株を得た。この株を大阪府立大学内にて栽培し、開花後30日後に収穫した。また、コントロールとして、野生種(WT米)の金南風、wx米であるEM21を用いた。これらの米を脱穀し玄米とし、その後試験用精米器にて精米し、重量精米歩合90%以下でぬかを取り去って精白米を得た。その後粉砕して米粉末を得た。
【実施例1】
【0039】
また、各精白米を水に浸漬した後粉砕し、ふるい(140メッシュ)を通し、2%SDS溶液中で攪拌して沈殿を回収して、SDS溶液中のタンパク質を除去した。タンパク質を除去した沈殿に水を加え、再び沈殿を回収した。この水洗いを5回繰り返して常温で乾燥して、精製デンプン(アミロペクチン)を得た。
【実施例1】
【0040】
〔アミロペクチン側鎖の測定〕
アミロペクチン側鎖のグルコース重合度を次の方法にて測定した(非特許文献1参照)。O'Shea とMorellの方法(1996)に順じ、上記で得た精製デンプンをシュードモナス属の菌から得られたイソアミラーゼによってアミロペクチンを分解し、それを8-アミノ1,3,6-ピレントリスルホン酸(8-amino-1,3,6-pyrentrisulfonic acid:APTS)でラベルした。次に、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)によるキャピラリー電気泳動を行った。電気泳動は、POP-4ポリマーカラム(36cm長)を用いGenetic Analyzer Buffer(Applied Biosystems社製)を用いて、15kV60分間行った。Gene Scan ソフトウェア(Applied Biosystems社製)を用いてデータを解析して、各アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)を算出した。各アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)のピーク値を重合度3~35の総面積に対するピーク面積比(%)として表した。その結果を図1(a)に示す。また、図1(b)に、変異体米(wx/ae変異体米とwx変異体米)のピーク面積比と野生種のピーク面積比の差をグルコース重合度(DP)ごとに示した。
【実施例1】
【0041】
〔デンプン粒の結晶様構造〕
デンプン粒の結晶様構造を調べた。精製デンプンをヨウ素染色し、偏光顕微鏡及び光学顕微鏡による観察を行った。その顕微鏡画像を図2に示す。
【実施例1】
【0042】
〔ウエスタンブロット解析〕
精白米を粉砕し、Laemli(1970)の方法に準じて精白米から抽出したタンパク質をSDS-PAGE法で分離した後、ウエスタンブロット解析を行った。抗体には、抗イネGBSSI抗体及び抗イネBEIIb抗体(両抗体とも秋田県立大学・中村保典教授より供与)を用いた。ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ検出試薬(Biorad社製)を用いて検出を行った。その結果を図3に示す。
【実施例1】
【0043】
〔DSCによる熱糊化特性〕
精白米、玄米粉、精製デンプンを用いて糊化特性を調べた。精白米は3粒を1.2倍量(容積比)の水で膨潤させたものを試料とした。また、玄米粉及び精製デンプンは各40mgをそれぞれ水0.16mLに懸濁したものを試料とした。これらの試料について示差走査熱量測定器(Micro DSC VII、Setaram社製)にて測定を行った。測定条件は、20℃(30分保持)→105℃(20分保持)→20℃(10分保持)、昇温/降温速度0.5℃/分である。その結果を図4に示す。
【実施例1】
【0044】
〔DSCによる老化特性〕
得られた精製デンプンを用いて老化特性を調べた。40mgの精製デンプンを水0.16mLに懸濁して試料とした。試料を示差走査熱量測定器(Micro DSC VII、Setaram社製)にて測定を行った。測定条件は、20℃(30分保持)→105℃(20分保持)→5℃(24時間又は72時間保持)、昇温/降温速度0.5℃/分である。その結果を図5に示す。
【実施例1】
【0045】
〔RVAによる粘度測定〕
各精製デンプンを用いて粘度測定器(RVA Super3、Newport Scientific社製)による粘度測定を行った。10w/w%の精製デンプン溶液を試料として用いた。RVAとは、デンプンのスラリーを任意の温度条件で加熱、あるいは冷却、あるいは保持させて、測定容器内の羽根に加わるデンプン糊液の抵抗を測定する装置である。測定条件は、35℃(1分保持)→95℃(10分保持)→50℃(1分保持)、昇温/降温速度5℃/分、回転速度160rpmである。その結果を図6に示す。
【実施例1】
【0046】
〔米デンプン添加食による中性脂肪抑制効果〕
米デンプン添加食による中性脂肪抑制効果について調べた。試験には、ヒトの高脂血症・動脈硬化症の機序、予防及び治療法に関する研究に広く用いられている、これら病態モデル動物であるApoE欠損マウスを用いた。ApoE欠損マウスは、血漿リポタンパクの主要な構成要素であり、脂質およびリポタンパク代謝に重要な役割を果たすApoE遺伝子が全く発現しないことから、ヒト家族性III型高リポ蛋白血症と特に似た自然発生性高脂血症を発症する。
【実施例1】
【0047】
4週齢のApoE欠損雄マウス(体重20~25g)にwx米、WT米およびwx/ae米から精製したデンプンを添加した欧米型食事に近い組成の混合餌(米デンプン14.9%、ショ糖20.0%、カゼイン25%、ラード14%、牛脂14%、大豆油2%、セルロース5%、ビタミンミックス(AIN-93:日本農産工業株式会社製)1%、ミネラルミックス(AIN-93:同社製)3.5%:表1参照)を継続的に自由摂取させ、米デンプンの長期摂取が血中脂肪濃度、脂肪蓄積量に与える効果を調べた。血液中の脂肪濃度は、飼育開始6週、8週、10週経過後に腹部大動脈より採血し、市販のトリグリセリド測定用キット(和光純薬工業株式会社製)によって測定した。また、試験開始14週間経過後にラットを解剖し、肝臓中の中性脂肪量並びに内臓脂肪量(精巣周辺脂肪)を測定した。肝臓中の中性脂肪量は、摘出した肝臓からクロロホルム・メタノール混合液を加え、氷冷下でホモジネートを行った。これを遠心分離(1500g×min)して上清を分取し、窒素気流下にて溶媒を除去した。その後、リン酸バッファーを加えて残留物を溶解し、上記市販のトリグリセリド測定用キットで、中性脂肪量を測定した。これらの結果を図7~図10に示した。また、肝臓の細胞切片の顕微鏡観察による画像を図11に示した。
【実施例1】
【0048】
【表1】
JP0005768252B2_000002t.gif
【実施例1】
【0049】
この試験から、wx/ae米由来のデンプンの摂取は、うるち米(WT米)やもち米(wx米)由来のデンプンに比べ、高脂肪食による血中中性脂肪量を低く抑えることが分かった。また、摂取後の血中中性脂肪量や肝臓中の脂肪量、精巣周辺部における脂肪量は他の米由来のデンプンを摂取した場合に比べて低く押さえられていた。そして、肝臓の病理切片ではWT米由来のデンプン及びwx米由来のデンプンを継続摂取したマウスでは肝臓内部に比較的大きな脂肪滴が多く観察されたのに対し、wx/ae米由来のデンプンを摂取したマウスではほとんど観察されなかった(図11参照)。これらの結果から、上記変異体米(wx/ae米)に由来するデンプン(アミロペクチン)は、高脂肪食の摂取による血中脂肪量の増加を抑制する効果及び脂肪蓄積を防止する効果があると言える。
【実施例1】
【0050】
〔米粉(精白米)添加食による中性脂肪抑制効果〕
米粉添加食による中性脂肪抑制効果について調べた。試験は、上記米デンプンに変えて精白米の粉砕物を用いた他は、米デンプン添加食による場合と同じ条件で行った。この試験においては、血中脂肪の濃度推移の測定に変えて、肝臓の細胞切片の顕微鏡観察による画像を図14に示した。
【実施例1】
【0051】
この試験によると、米粉の摂取は、米デンプンを摂取した場合と同様に、うるち米(WT米)やもち米(wx米)に比べ、高脂肪食による血中中性脂肪量を低く抑えることが分かった。また、摂取後の血中中性脂肪量や肝臓中の脂肪量、精巣周辺部における脂肪量は他の米を摂取した場合に比べて低く押さえられていた。そして、肝臓の病理切片ではWT米の米粉及びwx米の米粉を継続摂取したマウスでは肝臓内部に比較的大きな脂肪滴が多く観察されたのに対し、wx/ae米の米粉を摂取したマウスではほとんど観察されなかった(図14参照)。これらの結果から、上記変異体米(wx/ae米)は、高脂肪食の摂取による血中脂肪量の増加を抑制する効果及び脂肪蓄積を防止する効果があると言える。
【実施例1】
【0052】
〔米粉(玄米)添加食による中性脂肪抑制効果〕
米粉添加食による中性脂肪抑制効果について調べた。試験は、上記米デンプンに変えてwx/ae米玄米、wx/ae米精白米、WT米玄米の各粉砕物を用いた他は、米デンプン添加食による場合と同じ条件で行い、血中脂肪濃度の変化を調べた。飼育期間は42日間とし、7日、42日経過後に血液中の脂肪濃度を測定した。玄米粉添加食で飼育したApoE-/-マウスの血中中性脂肪濃度の推移を図15に示す。WT米玄米を摂取させた場合には血中中性脂肪濃度には変化が見られなかったが、wx/ae米玄米やwx/ae米精白米を投与した場合にはそれぞれ血中中性脂肪濃度の減少が観察された。wx/ae米の玄米も、高脂肪食の摂取による血中脂肪量の増加を抑制する効果及び脂肪蓄積を防止する効果があると言える。
【実施例1】
【0053】
上記のように変異体米(wx/ae米)及びその米から得られるデンプン(アミロペクチン)は、高脂肪食による血中中性脂肪濃度の上昇を抑制するだけでなく、内臓への脂肪蓄積を防止する効果があると言える。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によると、米に由来する新たな中性脂肪抑制剤や脂肪蓄積防止剤、あるいは中性脂肪抑制効果や脂肪蓄積防止効果を有する食品が提供される。本発明の中性脂肪抑制剤等は米又は米由来のデンプンを有効成分とするものである。このために、当該米を主食する食生活により、内臓脂肪の蓄積抑制効果など生活習慣病を緩和する効果が期待できる。
図面
【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図14】
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