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明細書 :金属ナノチューブ製造装置および金属ナノチューブの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4374439号 (P4374439)
登録日 平成21年9月18日(2009.9.18)
発行日 平成21年12月2日(2009.12.2)
発明の名称または考案の名称 金属ナノチューブ製造装置および金属ナノチューブの製造方法
国際特許分類 C25D   1/02        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
FI C25D 1/02
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 16
出願番号 特願2005-514928 (P2005-514928)
出願日 平成16年10月13日(2004.10.13)
国際出願番号 PCT/JP2004/015066
国際公開番号 WO2005/040460
国際公開日 平成17年5月6日(2005.5.6)
優先権出願番号 2003365120
優先日 平成15年10月24日(2003.10.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年5月8日(2006.5.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】福中 康博
【氏名】小西 陽子
【氏名】本山 宗主
【氏名】石井 隆次
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】瀧口 博史
参考文献・文献 特開平11-200090(JP,A)
特開2004-118124(JP,A)
特開2003-025298(JP,A)
調査した分野 C25D 1/00
B82B 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
対向配置された陰極および陽極、ならびに陰極上に設けられた貫通孔を有する膜を備えた容器内の空間電解液が満たされてなり、前記膜の貫通孔の壁面に金属を析出させる金属ナノチューブ製造装置であって、
前記陰極が厚さ10~80nmの金属薄膜からなり、前記膜の貫通孔の内部空間が陰極の貫通孔を介して容器と接触し、陰極の貫通孔の端部が膜の貫通孔に沿って突出して円環状に露出した露出部が形成されており、
前記陰極および陽極が重力に対して陰極が上、陽極が下となるように水平に配置されている金属ナノチューブ製造装置。
【請求項2】
前記陰極が、金、銅、金系合金、銅系合金または白金-パラジウム合金からなる請求記載の金属ナノチューブ製造装置。
【請求項3】
前記陰極が、非平衡成膜法により得られる金属薄膜である請求項1まは2に記載の金属ナノチューブ製造装置。
【請求項4】
前記陽極が、ニッケル、コバルト、鉄、またはこれらの合金からなる請求のいずれかに記載の金属ナノチューブ製造装置。
【請求項5】
前記貫通孔の直径が、15~500nmである請求のいずれかに記載の金属ナノチューブ製造装置。
【請求項6】
さ10~80nmの金属薄膜を有する陰極と陽極とが重力に対して陰極が上、陽極が下となるように水平に配置され、陰極上に設けられた貫通孔を有する膜を備えた容器を用い、前記膜の貫通孔の内部空間を陰極の貫通孔を介して容器と接触させ、陰極の貫通孔の端部を膜の貫通孔に沿って突出させて、円環状に露出した露出部を形成する工程、
前記容器内の空間に金属イオンを含有する電解液を満たし、電圧を印加して電解することにより貫通孔の壁面に金属を電気化学的に析出させる工程およ
金属を析出させた膜を溶媒に浸漬し前記貫通孔を有する膜を取り除いて金属ナノチューブを得る工程
を含む金属ナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記金属薄膜が、金、銅、金系合金、銅系合金または白金-パラジウム合金からなる請求項6に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記電解液のpHおよび前記電解における印加電圧の少なくともいずれか一の条件を調整することにより、金属ナノチューブの形状を制御する請求項6または7に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記金属を含有する電解液のpHが0~5.5であり、電解における印加電圧が-0.5~-1.5Vである請求項8に記載の金属ナノチューブの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノチューブ、とくに金属からなるナノチューブに関する。また、本発明は、金属からなるナノチューブの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノチューブやフラーレン、ナノワイヤやナノシートなど、ナノメートル・オーダーの寸法を有する微細な物質は、バルクな状態では発現し得ない新規な特性を有しており、さまざまな分野でその応用が期待されている。
【0003】
たとえば、カーボンナノチューブは、すぐれた電子放出材料としてフラットディスプレイパネルなどへの応用が進められているほか、水素の貯蔵源として燃料電池などへの応用も研究されている。また、従来の配線加工法では困難である超微細配線を実現できる配線材料としても期待されている。
【0004】
金属でつくられたナノワイヤ(以下、金属ナノワイヤ)もまた、カーボンナノチューブと同様、配線材料としての応用が期待されているほか、磁気記憶媒体や磁気メモリ素子への適用、触媒としての利用なども検討されている。しかしながら、金属ナノワイヤは、アスペクト比(直径に対する長さの比=長さ÷直径)が小さいものについては、研究室レベルの製造例が多数報告されているものの、より利用価値の大きい高アスペクト比のものは、製造が困難である。
【0005】
アスペクト比の大きい金属ナノワイヤを製造するための方法として、テンプレートを用いた電析が、たとえばG. Tourillon et al.,「電気化学的に合成したCoおよびFeのナノワイヤおよびナノチューブ(Electrochemically Synthesized Co and Fe Nanowires and Nanotubes)」(Electrochemical and Solid-State Letters,The Electrochemical Society, Inc.,2000年1月,第3巻,第1号,p.20-23、以下G. Tourillon et al.という)に開示されている。G. Tourillon et al.の方法は、直径30nmの貫通孔を多数有する厚さ6μmのポリカーボネート膜をテンプレートとして用い、このポリカーボネート膜の表面に古典的蒸着法によりAuの層を形成して陰極とし、陰極-陽極間の空間を0.1MのCoSO4またはFeSO4と、0.1MH3BO3との電解液で満たして、第一段階として-1.5Vで0.3~0.5sの矩形波、第二段階は-0.9Vで2s間の矩形波という2段階からなる周期関数的電圧を連続して印加する。ポリカーボネート膜の貫通孔壁面からCoまたはFeが析出し、CoまたはFeのナノワイヤを得ることができる。また、波形を変化させて、-1.5Vで0.1s間の第一段のパルス電圧を印加した後に、2s間電流を遮断する第二段階からなる周期波形を8分間継続する操作をおこなったところ、Coのナノチューブが形成されたと報告している。G. Tourillon et al.では、ナノチューブ形成のメカニズムを、ポリカーボネート膜のカーボネート(CO32-基)と電解液中の金属イオン(Fe2+、Co2+)の錯体化によるカーボネート膜壁面への金属イオン補足の第一段階機構と、それにひき続いた金属イオンの還元反応の第二段階機構により、金属のナノチューブが形成されるとしている。電析継続時間が20~22分を超えるとチューブ内が金属クラスターで埋まり、ナノワイヤが形成される。
【0006】
また、電極となるAu層をポリカーボネート膜の底面に古典的蒸着法により形成していることから、薄膜は相当不均一に形成されているとともに、金属層厚さは200nmは下らないものと予想され、ポリカーボネート膜表面は不均一にAuの被膜で覆われている可能性が極めて高い。G. Tourillon et al.において、電解により形成される金属層はナノチューブの壁面から径内側方向に成長しており、ナノチューブ内部にクラスターが生成すると記載されている。そこで、パルス電圧を用いて、微量ずつ金属層を形成させていく方法をとるため、壁厚がわずか1~2nmであるCoおよびFeチューブを得るために、前記金属イオン捕捉段階および金属イオン還元段階をあわせて15分も要している。
【0007】
また、Niからなるナノワイヤおよびナノチューブの製造例が、Jianchun Bao ら,「ニッケルナノチューブアレイのテンプレートを用いた合成およびその磁気特性(Template Synthesis of an Array of Nickel Nanotubules and Its Magnetic Behavior)」(Advanced Materials,WILEY-VCH Verlag GmbH,2000年11月,第13巻,第21号,p.1631-1633、以下Jianchun Bao et al.という)に開示されている。このJianchun Bao et al.では、テンプレートとしてアルミナの多孔膜を用いており、このアルミナ多孔膜を有機アミンで処理したのち、0.3mA/cm2の電流密度で24時間電析をおこない、直径160nm、長さ20μm、壁厚30nmのNiナノチューブを得ている。また、同じ条件で48時間電析をおこない、直径160nm、長さ35μm、壁厚60nmのNiナノチューブを得ている。
【0008】
しかし、Jianchun Bao et al.においては、長さ20μmのナノチューブを得るために、24時間もの電解時間を要するという非効率的なものであった。
【0009】
本発明は、短時間で高品質の金属ナノチューブを製造することのできる製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、対向配置された陰極および陽極、陰極上に設けられた貫通孔を有する膜、および陰極と陽極とのあいだの空間を満たす電解液からなり、前記貫通孔の壁面に金属を析出させる金属ナノチューブ製造装置であって、前記陰極が、厚さ10~80nmの金属薄膜である金属ナノチューブ製造装置に関する。
【0011】
前記陰極が、金、銅、金系合金、銅系合金または白金-パラジウム合金からなると好ましい。
【0012】
前記陰極が、非平衡成膜法により得られる金属薄膜であることが好ましい。
【0013】
前記陽極が、ニッケル、コバルト、鉄、またはこれらの合金からなると好ましい。
【0014】
前記貫通項の直径が、15~500nmであると好ましい。
【0015】
陰極および陽極が平板状であり、重力に対して陰極が上、陽極が下となるよう水平配置されていると比較的好ましい結果が得られる。
【0016】
また、本発明は、貫通孔を有する膜の一方の表面に厚さ10~80nmの金属薄膜を設ける工程、
該金属薄膜を有する陰極と、陽極とのあいだに金属イオンを含有する電解液を満たし、電圧を印加して電解することにより貫通孔の壁面に金属を電気化学的に析出させる工程および、
該金属を析出させた膜を溶媒に浸漬し前記貫通孔を有する膜を取り除いて金属ナノチューブを得る工程
を含む金属ナノチューブの製造方法に関する。
【0017】
前記金属薄膜が、金、銅、金系合金、銅系合金または白金-パラジウム合金からなると好ましい。
【0018】
陰極薄膜材料およびその微細構造の制御とともに、前記電解液のpHおよび前記電解における印加電圧の少なくともいずれか一の条件を調整することにより、金属ナノチューブの形状を制御することができる。
【0019】
前記金属を含有する電解液のpHが0~5.5であり、電解における印加電圧が-0.5~-1.5Vであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の金属ナノチューブ製造装置および金属ナノチューブの製造方法を説明するための模式図である。
【図2】貫通孔および陰極の部分拡大図である。
【図3】貫通孔および陰極の部分拡大図であり、水素ガスの発生と金属ナノチューブの成長との関係を説明した図である。
【図4】実施例で用いた3電極セルを示した断面図である。
【図5】本発明によって製造した金属ナノチューブのTEM画像である。
【図6】本発明によって製造した金属ナノチューブのTEM画像である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の金属ナノチューブ製造装置および金属ナノチューブの製造方法について、その一実施の形態を添付の図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下の実施の形態に限られるものではない。
【0022】
図1に示すとおり、本発明の金属ナノチューブ製造装置は、陰極2および陽極6を対向配置してなり、陰極2上には多孔膜4が設けられている。多孔膜4には貫通孔4aが多数設けられている。これら陰極2、多孔膜4および陽極6は、容器20内に収容されており、陰極2と陽極6とのあいだの空間8および多孔膜4の貫通孔4aが電解液で満たされている。このように構成された金属ナノチューブ製造装置において、陰極2および陽極6を電源10に接続して電圧を印加すると、電解液中の金属イオンが陰極側に移動し、貫通孔4aの壁面に析出して金属ナノチューブが形成される。
【0023】
なお、後述のとおり陰極2が薄い膜である場合には、電圧印加のための集電体として、陰極2の背後に導電性のプレートを配置する、陰極2の表面に導電性の膜を形成するなどしてもよい。
【0024】
本発明においては、多孔膜4として、貫通孔を多数設けた熱可塑性樹脂多孔膜を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、たとえばポリカーボネートがあげられる。均質な貫通孔を多数有するポリカーボネート膜は、孔のないポリカーボネート膜に高エネルギーの粒子を照射、衝突させ、衝突痕をエッチングすることにより得ることができ、たとえばニュクリポアー(Nuclepore、登録商標)なる名称でWhatman社(英国)から提供されている。また、熱可塑性樹脂多孔膜以外に、アルミナ多孔膜、アルミニウム陽極酸化膜などのセラミック系多孔膜を用いることもできる。
【0025】
本発明においては、貫通孔4aの壁面に金属ナノチューブが形成されるため、得られる金属ナノチューブの形状は、貫通孔4aの径と内部形状によってほぼ決定される。したがって、貫通孔4aの径は、得ようとする金属ナノチューブの径に合わせて適宜選択すればよいが、15~500nmが好ましく、50~300nmがより好ましく、100~200nmがさらに好ましい。
【0026】
本発明においては、通電開始とともに陰極2の付近に金属が析出し、貫通孔4aの壁面に沿って成長することにより金属ナノチューブが形成されていくため、通電時間を適宜調節することにより所望の長さの金属ナノチューブを得ることができるが、得られる金属ナノチューブの最大長さは、多孔膜4の厚さとほぼ等しい。したがって、多孔膜4の厚さは、得ようとする金属ナノチューブの長さと同等あるいはそれ以上である必要があるが、たとえば直径100nmの金属ナノチューブを製造する場合、多孔膜4の厚さは4~8μmが好ましく、5~7μmがさらに好ましく、5.5~6.5μmがとくに好ましい。また、直径200nmの金属ナノチューブを製造する場合には、多孔膜4の厚さは8~12μmが好ましく、9~11μmがさらに好ましく、9.5~10.5μmがとくに好ましい。
【0027】
本発明においては、陰極2は、金属の薄膜であると好ましく、金、銅、金系合金、銅系合金または白金-パラジウム合金からなると好ましい。これらの金属のなかでも、後述のとおり、陰極2における水素ガスの発生が金属ナノチューブの成長に影響していると考えられることから、水素透過性を有する金属を用いることが好ましく、たとえば水素をよく透過する傾向がある白金-パラジウム合金がより好ましい。また。陰極2の厚さにとくに制約はないが、10~80nmであると好ましく、20~60nmであるとより好ましく、25~35nmであるとさらに好ましい。陰極2の厚さが80nmをこえる場合は、多孔膜4上に形成した金属薄膜が厚くなり、貫通孔4aが塞がれてその結果、短時間で高品質の金属ナノチューブを製造できなくなる場合がある。
【0028】
このような陰極2は、非平衡成膜法により得ることができる。ここで、非平衡成膜法とは、古典的平衡成膜法である蒸着法に対する成膜法をいう。たとえば、スパッタ法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、化学的蒸着法(CVD)、クラスターイオンビーム法、光CVD法、プラズマCVD法などがあげられる。これらの非平衡成膜法によれば、原料となる金属種を供給して多孔膜4上に、緻密で均一な膜厚を有する金属薄膜を形成することができる。形成した膜厚の均一性は±10%、さらには±5%であり、このような緻密で均一な金属薄膜を用いることにより、壁厚の均一な金属チューブを作製することが可能となる。
【0029】
貫通孔4aを有する多孔膜4上にスパッタによって厚さ10~80nm程度の金属薄膜を形成した場合、厚さが薄いため貫通孔4aが塞がれてしまうことはない。すなわち、図2(a)の断面図に示すように、スパッタによって形成された厚さ10~80nm程度の陰極2には、貫通孔4aに対応したピンホールが残る。このピンホールの径は貫通孔4aの径よりも小さいため、図2(a)のX部の拡大図である図2(b)に示すように、貫通孔4aの底に陰極2が円環状に露出し、この露出部Y上に金属が析出することによってナノチューブが良好に形成されるものと思われる。
【0030】
また、図3(a)に示すとおり、陰極2においては、通電により水素イオンが還元されて水素ガスが発生し、発生した水素ガスによってピンホールおよびその近傍に高圧気泡部Zが形成、維持されるため、時間の経過とともに、図3(b)に示すとおり金属ナノチューブが成長していくものと考えられる。
【0031】
本発明において、陽極6は、特に限定されるものではなく、金属および合金が用いることができるが、ニッケル、コバルトまたは鉄からなることが好ましい。あるいは、これらの金属のうちの2種またはそれ以上からなる合金であると好ましい。また、得ようとする金属ナノチューブと同じ組成を有する合金材料を用いると好ましい。
【0032】
ところで、図1においては、平板状の陰極2および陽極6を対向配置しているが、球-平板や同心円筒など、ほかの電極形状とすることもできる。ただし、前述のとおり、貫通孔4a内において、水素ガス気泡がナノチューブ形成に大きな役割を果たしていると考えられるため、平板状の陰極2および陽極6を、重力に対して陰極2が上方、陽極6が下方となるよう水平配置するのが比較的好ましい。
【0033】
本発明においては、前記金属薄膜を有する陰極2と、陽極6とのあいだを満たす金属イオンを含有する電解液として、たとえばNiSO4・7H2O、NiCl2・6H2O、H3BO3を含む水溶液を用いることができ、たとえば、NiSO4・7H2Oを257g/l、NiCl2・6H2O45g/l、H3BO3を30g/l含んだ水溶液を用い、Niのナノチューブを得ることができる。ここで、電解液中のNi濃度は、好ましくは5g/l以上、より好ましくは8g/l以上である。また、電解液中のNi濃度は、100g/l以下であることが好ましい。電解液中のNi濃度が5g/l未満では電解効率が低下する傾向があり、100g/lをこえると、Ni溶液が飽和濃度を超え、微粒子により懸濁する傾向がある。
【0034】
本発明において、電解に使用する電解液のpHおよび電解における印加電圧の少なくとも一の条件を調整することにより、金属ナノチューブの形状を制御することができる。ここで、金属ナノチューブの形状とは、金属ナノチューブの壁厚とアスペクト比をいう。
【0035】
本発明の装置および製造方法により金属ナノチューブを得るには、電解に使用する電解液のpHを0~5.5とすることが好ましく、より好ましくは1~2である。pH=0未満では電流効率が極端に低下する傾向があり、pH=5.5をこえる場合は、金属ナノワイヤとなる傾向がある。これは、溶液中のプロトン(H+)濃度が低下することから、電極反応による水素ガス(H2)の発生量が少なくなるために、貫通孔4a内を通過するH2量も減少し、結果として貫通孔4aが金属析出により塞がれてしまうためと考えられる。このとき、電解において陰極2と陽極6とのあいだに印加する電圧(電解電圧)は、ナノチューブ形成のための電解時間や、陰極2で発生したH2により、前述のようなピンホールおよびその近傍に高圧気泡部Zを形成、維持することができる点から、直流電圧とすることが好ましい。パルス化操作では、金属析出のための核発生、成長過程を制御するために、あらかじめNi2+とH+のそれぞれのイオン移動速度の観点から、パルス波形の最適条件(スケジューリング)を設計しておく必要がある。
【0036】
陰極2と陽極6のあいだに印加する電圧は-0.5~-1.5Vの直流電圧とすることが好ましく、-0.7~-1.0Vの直流電圧がさらに好ましい。印加する電圧が-1.5V未満では、金属の析出によりナノチューブ内径表面が極端に粗くなる傾向があり、-0.5Vをこえる場合は、陰極2上における還元反応が穏やかになるために、Niの析出および水素ガスの発生量が低下することになり、金属ナノチューブ形成に長時間を要したり、ナノチューブが得られない傾向がある。
【0037】
なお、電解における条件を、上述の電解電圧および溶液のpHとすることによって、水素ガスの発生とNi析出のバランスがとれ、金属ナノチューブを形成することができる。電解液のpHが高く電解電圧が大きい場合は、金属ナノチューブが得られず、チューブの孔が塞がり金属ナノワイヤが得られやすくなる傾向がある。
【0038】
前記操作により金属を析出させた膜を溶媒に浸漬し、前記貫通孔4aを有する膜4を取り除いて、金属ナノチューブを得る。金属を析出させた膜を浸漬する溶液は特に限定されるものではなく、前記貫通孔4aを有する膜4を溶解するために適した溶液を適宜選択することができる。
【0039】
本発明の金属ナノチューブの製造方法によれば、電解条件、金属チューブの壁厚、多孔膜の厚さや貫通孔の大きさにもよるが、200~400sという短時間で金属ナノチューブを形成することができる。
【0040】
本発明によって得られる金属ナノチューブは、たとえばNi、Fe、Co、Pt、Pd、Rh、Ruなどの遷移金属やこれらの合金などからなり、直径は100~200nm、長さが6~10μm、アスペクト比が50~60、壁厚が1~70nm程度である。
【0041】
本発明で得られる金属ナノチューブの形状は、電解液の濃度、pHおよび電解電圧を変えることにより制御することができる。電解液のpHが0~5.5であり、かつ電解における印加電圧が-0.5~-1.5Vであると好ましく、たとえば、貫通孔が200nmである多孔膜を用いた場合、印加電圧を-0.7Vとすると、pH1.5の条件下では、壁厚は20~30nm、pH3.4とすると壁厚が20~30nmの金属ナノチューブを得ることができる。また、pHが5.5の場合では、50~70nmの金属ナノチューブが得られる。さらに、印加電圧を-1.0Vとして、pH1.5の溶液を用いた場合では、壁厚が10nmの金属ナノチューブを得ることができる。
【0042】
これら金属ナノチューブは、マイクロエレクトロニクスやMEMS(Micro Electro Mechanical System)の分野はもちろん、太陽光発電やマイクロ燃料電池といったエネルギーの分野など、さまざまな分野で利用することができる。たとえば、本発明によって得られた金属ナノチューブは、電子放出材料、水素貯蔵材料あるいは配線材料として用いることができるほか、触媒として利用することもできる。また、ナノリアクターとして使用することができるほか、磁気記憶媒体や磁気メモリ素子などにおいて、磁性材料として利用することができる。
【0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
図4に示す3電極セルを用い、金属ナノチューブの製造を行なった。
【0045】
実施例1
表1に示すとおり、多孔膜4として、孔径100nmの貫通孔を1cm2あたり4×108個有する厚さ6μmのポリカーボネート膜を用いた。
【0046】
この多孔膜4の一方の表面に、白金-パラジウム合金からなる厚さ30nmの膜をスパッタにより成膜し、陰極2とした。陰極2を成膜した後でも、多孔膜の貫通孔は塞がっていなかった。
【0047】
円筒形の容器20内に、Niからなる円板状の陽極6を配置し、円筒形のスペーサ24を介して支持リング22を載置し、さらにNiSO4・7H2Oを280g/l、NiCl2・6H2Oを45g/l、H3BO3を38g/l含んだ水溶液([Ni2+]=1.16M)を、電解液16として注入した。溶液のpHは1.5であった。
【0048】
つぎに、支持リング22の中心付近に設けた切り欠きに前記多孔膜4を配置し、その上に、Ptからなる円板状の集電体12を陰極2と当接するように配置して、容器20を封じた。
【0049】
なお、スペーサ24および支持リング22の寸法を適宜選択することにより、陰極2と陽極6とのあいだの距離が10mmとなるようにした。また、陽極6の中心部に穴を設け、参照電極14を挿入できるようにしておいた。参照電極14にはNi参照電極を用いた。
【0050】
このようにして組み立てた3電極セルを、陰極2が上方、陽極6が下方となる図4の向きとし、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を印加してナノチューブの製造を行なった。電圧印加時間は2000秒とした。
【0051】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径100nm、長さ6μm、壁厚20nmの金属ナノチューブが多数得られた。得られた金属ナノチューブのTEM画像を図5に示す。
【0052】
実施例2
表1に示すとおり、実施例1と同様にして3電極セルを組み立てた。組み立てた3電極セルを、陰極2が下方、陽極6が上方となるように図4の場合とは天地逆の向きとして、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を1200秒間印加し、ナノチューブの製造を行なった。
【0053】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径100nm、長さ6μmの金属ナノチューブが得られたが、チューブとならずワイヤとなったものも多かった。
【0054】
実施例3
表1に示すとおり、実施例1と同様にして3電極セルを組み立てた。組み立てた3電極セルを、陰極2および陽極6が重力の方向と平行になるように配置し、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を1200秒間印加し、ナノチューブの製造を行なった。
【0055】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径100nm、長さ6μm、壁厚20nmの金属ナノチューブが多数得られた。
【0056】
実施例4
表1に示すとおり、多孔膜4として、孔径200nmの貫通孔を1cm2あたり3×108個有する厚さ10μmのポリカーボネート膜を用いた。
【0057】
この多孔膜4の一方の表面に、白金-パラジウム合金からなる厚さ30nmの膜をスパッタにより成膜し、陰極2とした。
【0058】
円筒形の容器20内に、Niからなる円板状の陽極6を配置し、円筒形のスペーサ24を介して支持リング22を載置し、さらにNiSO4・7H2Oを280g/l、NiCl2・6H2Oを45g/l、H3BO3を38g/l含んだ水溶液を、電解液16として注入した。
【0059】
つぎに、支持リング22の中心付近に設けた切り欠きに前記多孔膜4を配置し、その上に、Ptからなる円板状の集電体12を陰極2と当接するように配置して、容器20を封じた。
【0060】
なお、スペーサ24および支持リング22の寸法を適宜選択することにより、陰極2と陽極6とのあいだの距離が10mmとなるようにした。また、陽極6の中心部に穴を設け、参照電極14を挿入できるようにしておいた。
【0061】
このようにして組み立てた3電極セルを、陰極2が上方、陽極6が下方となる図4の向きとし、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を6000秒間印加してナノチューブの製造を行なった。
【0062】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径200nm、長さ10μm、壁厚20nmの金属ナノチューブが多数得られた。得られた金属ナノチューブのTEM画像を図6に示す。
【0063】
実施例5
表1に示すとおり、実施例4と同様にして3電極セルを組み立てた。組み立てた3電極セルを、陰極2が下方、陽極6が上方となるように図4の場合とは天地逆の向きとして、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を2000秒間印加し、ナノチューブの製造を行なった。
【0064】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径200nm、長さ10μm、壁厚20nmの金属ナノチューブが多数得られた。
【0065】
実施例6
表1に示すとおり、実施例4と同様にして3電極セルを組み立てた。組み立てた3電極セルを、陰極2および陽極6が重力の方向と平行になるように配置し、陰極2と陽極6とのあいだに-0.7Vの電圧を2000秒間印加し、ナノチューブの製造を行なった。
【0066】
3電極セルから多孔膜4を取り出してジクロロメタンに浸漬し、ポリカーボネートを溶解、除去したところ、直径200nm、長さ10μm、壁厚20nmの金属ナノチューブが多数得られた。
【0067】
【表1】
JP0004374439B2_000002t.gif

【0068】
実施例7
電圧を-1.0Vとした以外は実施例1と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0069】
実施例8
電圧を-1.0Vとした以外は実施例2と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0070】
実施例9
電圧を-1.0Vとした以外は実施例3と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0071】
実施例10
電圧を-1.0Vとした以外は実施例4と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0072】
実施例11
電圧を-1.0Vとした以外は実施例5と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0073】
実施例12
電圧を-1.0Vとした以外は実施例6と同じ条件で電解を行い、表2に示す金属ナノチューブを得た多数。このとき、電圧印加時間は、300sであった。
【0074】
実施例7~12における電解条件および得られた金属ナノチューブは、表2に示す。表2より、従来の製法に比べて、本発明の金属ナノチューブ製造装置および製造方法によって、短時間で効率よく金属ナノチューブを得られることがわかる。
【0075】
【表2】
JP0004374439B2_000003t.gif

【0076】
実施例13
電解に用いた溶液のpHを3.4とした以外は、実施例4と同じ条件で電解を行い、表3に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は300sであった。
実施例14
電解に用いた溶液のpHを5.5とした以外は、実施例4と同じ条件で電解を行い、表3に示す金属ナノチューブを多数得た。このとき、電圧印加時間は300sであった。
【0077】
【表3】
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【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、Ni、Pt、Pd、Rh、Ru、Co、Feやこれらの合金、あるいはNi:Znなどをはじめとする合金系などからなる金属ナノチューブを、通常の電気化学的プロセスによって、簡便かつ安価に製造することができる。
【0079】
また、本発明によれば、貫通孔の底部において陰極である金属薄膜が円環状に露出しているため、これが起点となって良好に金属ナノチューブが形成される。また、貫通孔の底部付近で水素ガスが発生して滞留するため、金属ナノチューブが貫通孔に沿ってよく成長し、径が小さくて長さが長い、すなわち工業上の利用に有利な高アスペクト比の金属ナノチューブを製造することができる。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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