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明細書 :挿核施術をした真珠貝の養生方法及びその養生装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4599494号 (P4599494)
公開番号 特開2009-178151 (P2009-178151A)
登録日 平成22年10月8日(2010.10.8)
発行日 平成22年12月15日(2010.12.15)
公開日 平成21年8月13日(2009.8.13)
発明の名称または考案の名称 挿核施術をした真珠貝の養生方法及びその養生装置
国際特許分類 A01K  61/00        (2006.01)
FI A01K 61/00 G
請求項の数または発明の数 3
全頁数 23
出願番号 特願2008-022794 (P2008-022794)
出願日 平成20年2月1日(2008.2.1)
審査請求日 平成21年3月16日(2009.3.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
発明者または考案者 【氏名】林 政博
【氏名】青木 秀夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100101627、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 宜延
審査官 【審査官】松本 隆彦
参考文献・文献 特開2007-215538(JP,A)
特開2002-010722(JP,A)
調査した分野 A01K61/00-63/06
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
海産真珠貝に挿核施術を行った後、淡水で海水を希釈した低比重海水中に、この施術貝を収容して養生することを特徴とする挿核施術をした真珠貝の養生方法。
【請求項2】
前記海水真珠貝をアコヤ貝とする請求項1記載の挿核施術をした真珠貝の養生方法。
【請求項3】
前記低比重海水の比重σ15を18~20の範囲内とする請求項2記載の挿核施術をした真珠貝の養生方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は真珠養殖作業で、挿核施術をした真珠貝の養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠養殖作業で、アコヤ貝などの海産真珠貝への挿核施術(単に「施術」又は「手術」ともいう)は生殖腺に対して行われる。生殖腺に生殖細胞が充満していると作業効率が悪く、生殖細胞はシミの原因となることから、人為的に排精卵させる方法と生殖腺の発育を抑える方法が開発された。これを仕立てという。
仕立てでは、蓋付きの箱状の篭に多数の貝が詰められるため貝の活力は次第に低下する。この操作は貝を衰弱させる危険性を伴うが、挿核施術の効率化が図られるという効果があり、さらに活力の低下によって生活機能全般が抑制されるため、挿核施術によるショック反応が軽減されて、へい死の減少や真珠品質の向上に繋がる効果もあるとされる。現在では、このような考え方に基づいて、生殖細胞の有無だけでなく生活機能の抑制を意識した仕立てが行われている。
また、挿核施術された真珠貝は一定期間、養生篭に入れられて安静な状態に置かれる。これを養生という。養生の目的は、仕立てによって作られた抑制状態を継続させて、体内に残された核に対する異常反応を抑えながら徐々に回復させることにある。養生の効果については、養生を実施しても歩留まりは向上しないが、良品真珠品率が向上するという報告がある。従って、養生は、あくまで仕立ての補完的役割を担う作業であり、手術時点における母貝の状態、つまり仕立ての結果がその後の成績を大きく左右すると考えられてきた。
ところで、これまで上記養生の環境条件を検討した事例は少ない。そうしたなか、関連文献として真珠養殖とそのシステムがある(特許文献1)。
【0003】

【特許文献1】特開2002-10722
【0004】
特許文献1の真珠養殖とそのシステムは、深層水を供給した飼育槽でアコヤ貝の稚貝から母貝まで育成させ、さらに養生過程でも、粗い篭内に挿核手術を終えた母貝を入れて、これを深層水が供給された仕立て用プールに支持棒によって垂下させ、母貝の回復を図るなどとした発明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在の真珠養殖では、仕立て-施術-養生-育成という行程を経て真珠が生産されているが、その手法は、仕立て、養生技術が開発された50年前とほとんど同じである。従って真珠の生産効率も、当時と同水準にあり、良品真珠率は20~30%で、商品にならないクズ真珠が20~30%という低水準にとどまっている。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するもので、養生作業工程に新たな手法を導入して、従来の生産効率を飛躍的に向上させる挿核施術をした真珠貝の養生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、海産真珠貝に挿核施術を行った後、淡水で海水を希釈した低比重海水中に、この施術貝を収容して養生することを特徴とする挿核施術をした真珠貝の養生方法にある。
請求項2の挿核施術をした真珠貝の養生方法は、請求項1で、海産真珠貝をアコヤ貝とすることを特徴とする。
請求項3の挿核施術をした真珠貝の養生方法は、請求項2で、低比重海水の比重σ15を18~20の範囲内とすることを特徴とする。ここで、「低比重海水の比重σ15」とは、1気圧(1気圧は1.0133×10)で15℃に換算した低比重海水の換算比重をいい、また低比重海水の比重σ15が18は1.018を示し、比重σ15が20は1.020を示すものとする。本発明では、実際の値から1を引いた値を1000倍した数で表し、1.018という比重は簡略化して18と表現する
発明者等は、挿核施術後の真珠貝の活動制御方法について鋭意検討を重ね、挿核施術を終えた真珠貝を低塩分環境に一定期間収容することによって、施術貝の歩留まりと真珠品質が向上するのを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の挿核施術をした真珠貝の養生方法は、従来の仕立て、養生方法によるよりも歩留まりの向上および良品真珠率の向上を果たし、優れた効果を発揮する。既述のごとく、現在の真珠養殖作業においては、仕立て結果が歩留まりを左右していて養生は、その補助的役割に過ぎないとされている。ところが、本発明における養生は、仕立てと養生の双方の役割を果たすと考えられる。それは、本発明の養生を施すことによって歩留まりが向上することによって証明される。本発明は仕立て操作を不要とするものではないが、仕立ての結果にかかわらず、歩留まりを向上させ、従来法より高率に良品真珠を生産するので両者の相乗効果によって生産効率が飛躍的に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る挿核施術をした真珠貝の養生方法について詳述する。
(A)挿核施術をした真珠貝の養生方法
図1~図6は本発明の挿核施術をした真珠貝の養生方法(以下、単に「施術貝の養生方法」という。)の一形態で、図1は真珠養殖作業のフロー図、図2は実施例1で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図、図3は実施例2で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図、図4は実施例3で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図、図5は実施例4で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図、図6は実施例5で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【0010】
本発明に係る挿核施術をした真珠貝の養生方法は、図1の真珠養殖作業の流れのうち、養生の作業工程で行われる。図1に示した真珠養殖作業の流れの各工程を、海産真珠貝がアコヤ貝の場合で説明すると、以下のごとくである。
現在の真珠養殖では、種苗生産されたアコヤ貝、すなわち人工採苗貝が多用されている。殻長が2~5mmの人工採苗稚貝が母貝養殖業者に購入されて、挿核施術ができる大きさにまで養生される。これを母貝養殖という。
【0011】
仕立ては挿核施術前に行われる準備作業である。例えば、潮通しの良くない篭に多数の母貝を収容し、これを波静かな漁場に垂下して過度に衰弱しないように注意しながら活力調整が行われる。
挿核施術(図1では「手術」と記載する)は仕立てを終えた後に実施する。アコヤ貝の体内にピース(別の健康なアコヤ貝の外套膜の組織の小片)を移植すると、その再生力によって真珠袋が形成され、やがて真珠層を分泌形成する。核を一緒に入れれば真珠層が巻かれた有核真珠になる。これが真珠形成の原理である。挿核施術では、母貝に木栓や開口器を差し込んで前準備する。その後、その母貝を貝台に挟み、内臓部分へ切り口をつける。続いて、その切り口へピース、さらに核を挿入する。挿核施術は核面に貝殻内面に接するピース表面が密着するようになされる。
【0012】
挿核施術をした真珠貝の従来の養生方法(図1では「養生」と記載する)は、施術貝を養生篭に並べて一定期間、潮流の緩やかな基地筏などの波静かな場所で安静にする方法が採られていた。これに対して本発明の養生は、手術後の一定期間を低比重環境下に収容する方法を採る。この方法を採用すると、従来の仕立て、養生方法に比較して大きな効果を生むが、これまでの実験によって、手術後3日間を通常海水環境に置き、その後に低比重海水に移した場合は、歩留まり改善の効果がないことを確認している。従って、施術貝は手術を終えたならば直ちに低比重海水環境に移すことが肝要である。これは手術直後ほど手術反応が大きいためと推察される。
【0013】
真珠養殖とは、前記施術貝の養生後、基地筏から育成漁場に移されて真珠形成を促す工程をいう。この工程では、付着物の除去や寄生虫の駆除が行われて、真珠の光沢が良くなる晩秋から冬にかけて真珠の採取が行われる。これを浜上げという。
浜上げでは、ナイフで貝殻を開いて貝肉から真珠を一個ずつ取り出す。真珠サイズが小さい場合は、貝肉ごと肉ひき機にかけて、落下した真珠を採取したりする。汚れを取り除くと共に商品価値のないものを取り除いて浜上げ珠とする。その後、品質,サイズ別に仕分けされて真珠評価がなされ、真珠の流通過程に乗る。
【0014】
次に、本発明の前記施術貝の養生方法を更に詳しく述べる。施術貝の養生にあって、海産真珠貝に挿核施術を行った後、淡水で海水を希釈した低比重海水中に前記挿核施術を終えた真珠貝を収容して養生することが、本発明の特徴的部分である。
ここで、「海産真珠貝」とは、海中に産し且つ貝殻の内面に真珠光沢がある貝をいい、具体的にはアコヤ貝,シロチョウ貝,クロチョウ貝である。なかでも、日本ではアコヤ貝が多く見られること、これまでわが国で真珠養殖用母貝として最も普通に用いられてきたことなどから、アコヤ貝がより重要である。また、海産真珠貝に公知の前記挿核施術を行った後、淡水で海水を希釈した低比重海水中に、施術貝を収容して養生するのであるが、前記「淡水」とは塩分を含まない水をいう。具体的には、河川の水や水道水の上水などをいう。低比重海水は、淡水で海水を希釈したものであれば充足するが、低比重海水の比重σ15は18~20の範囲内とするのが好ましい。比重が斯かる範囲内にあると後述する実施例に見られるように、挿核施術後の歩留まりおよび真珠品質が向上する。理由は定かでないが、施術貝を低比重環境に収容することによって生理状態に変化が生じ、手術反応が軽減されて回復が早まることが好成績に結びつくのではないかと推察される。
低比重海水の比重σ15が上記範囲より小さくなると施術貝のへい死のリスクが高まる。アコヤ貝は比重σ15が15以下では生存できないことが知られている。一方、上記範囲を越えても、施術貝の歩留まり向上を企図する本発明の効果が弱まる。通常海水中と変わらぬ結果になってしまう。
【0015】
また、淡水で海水を希釈した低比重海水中に、施術貝を収容して養生するのであるが、施術貝を収容して養生するその期間は手術のダメージが消失するまでの期間とするのが好ましい。手術のダメージの大きさは、核の大きさ、施術技術によって異なり、影響がなくなるまでの期間には、ダメージの大きさに加えて水温、貝の健康状態が関係すると考えられる。従って一律に養生期間を決定することはできない。後述する実験例では、真珠袋ができるまでを手術の影響期間とみなして、これを養生期間としたが、実験例から見て21~27℃の範囲であれば17日を越える必要はない。長すぎては生産性に影響を及ぼし始めるからである。ちなみに、これまでに実験確認した最短養生期間は水温24℃で10日間である。
施術貝の養生における低比重海水の水温は、アコヤ貝の場合、その適性水温とされる18℃~25℃の範囲内で大きく変動しないことが好ましい。
【0016】
次に、本施術貝の養生方法の実施例について述べる。低比重海水の比重σ15は18~20の範囲で、施術貝を収容して養生する期間は14日~17日の範囲で、水温は21℃~28℃の範囲で実施した。
【0017】
[実施例1]
(1)試験区と供試貝
試験区は比較試験用の通常海水区(M区)と本発明に係る低比重海水区(L区)とし、L区はM区で用いた比重σ15が23(比重が1.023)の通常海水に水道水を加えて、その比重σ15を20とした。L区、M区の海水,低比重海水の量はそれぞれ2トンとした。
供試貝は2歳の交雑アコヤ貝で、母貝重量が9匁(1匁は3.75g)でその閉殻力が3.0~3.9kgf(1kgfは9.8N)の個体を選び、卵抜き仕立てを終えたものを用いた。実施例1~5では、卵抜きおよび卵抜き仕立てをした母貝を使用した。
(2)挿核施術
9月15日にM区,L区用としてそれぞれ供試貝100個ずつ挿核施術を行った。核はドブ貝の球状加工品で、その大きさが直径2.1分(1分は3.03mm)のものを用いた。
(3)養生
施術貝の養生期間は17日とした。施術貝は養生篭(25個/篭)に収容して、9月15日から10月1日までの17日間、前記M区の通常海水中と、前記L区の低比重海水中に置いた。前記挿核施術を終えた真珠貝を、M区と前記L区にそれぞれ計100個ずつ収容して養生した。養生期間中、一日おきに計8回の給餌(日本農産製、商品名M-1、4g)を行い、9月20日と9月26日に換水した。挿核施術後に出現したへい死貝および外套膜が萎縮した衰弱貝は、見つけ次第抜き取った。
(4)沖出し,浜上げ
10月2日に生残貝を軟X線装置にかけ、脱核貝を除いてからポケット篭に並び替えて英虞湾の養殖漁場に垂下した。沖出し以後の管理は淡水処理2回のみで、沖出し後、3ヶ月経過した12月18日に浜上げし真珠を採取した。3ヶ月経過したところで浜上げし、採取真珠の歩留まりと良品,不良品の評価をするのは、3ヶ月経てば、不良品の原因となるキズ(突起)やシミ(分泌された有機質が青く見える)の有無および真珠層分泌量の多寡を確認できるからである。
(5)養生成績及び浜上げ結果
採取した真珠を図2に示し、養生成績及び浜上げ成績を表1に示す。
【0018】
【表1】
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【0019】
表1の見方を説明する。表1は上段がM区の成績で下段がL区の成績を示す。挿核施術の欄はその施術を行った9月15日の月日と、その右側にそれぞれ100個ずつ施術した個数を示す。養生の欄は、施術を終えた後の17日間の養生日数の期間と、養生に用いたM区の比重σ15が23とL区の比重σ15が20であったとする比重と、養生期間中のM区,L区の水温を示す。沖出しの欄は、沖出しした10月2日の月日と、各100個の施術貝から養生を経て10月2日の沖出し時点で、へい死貝と脱核貝を除いた核入り生残貝数が、M区で71個、L区で88個だったとするその貝数と、施術個数100個に対する沖出し時点での生残%とを示す。採取真珠の欄は、浜上げで採取した真珠がM区で57個、L区で77個だったとする採取真珠の個数と、施術個数100個に対する採取真珠時点での生残%とを示す。良品の欄は、浜上げで採取した真珠のうち良品がM区で15個、L区で45個だったとする良品の個数と、採取真珠数のなかの良品個数%とを示す。不良品の欄は、浜上げで採取した真珠のうち不良品がM区で42個、L区で32個だったとする不良品の個数と、採取真珠のなかの不良品個数%とを示す。良品と不良品の仕分けは、キズとシミの程度によって行い、良品は無キズまたは小1点キズで、シミは青色が薄く、小範囲に限定されるものとした(図2~図6参照)。良品,不良品に判定仕分けした各真珠の画像図を図2に示す。
【0020】
貝数は、養生後のM区が71個に対しL区が88個有り、さらに浜上げの採取真珠はM区が57個に対しL区が77個も有り、M区よりもL区の低比重海水中での施術貝の生残率が高かった。また、良品の割合も、M区が26%であったのに対し、L区が58%と高い良品率を示した。
【0021】
[実施例2]
母貝重量が14匁のものを用いた。施術貝の養生期間は15日とした。挿核施術の個数はM区用を146個、L区用が148個にした。L区はM区で用いた比重σ15が26の通常海水に水道水を加えて、L区の比重σ15を20とした。実施例2以降は、L区、M区の海水,低比重海水の量をそれぞれ9トンにした。実施例1は水温調整しなかったが、実施例2以降は水温を一定にした。換水は行わなかった。他の条件は実施例1と同じで、その説明を省略する。
4月3日に挿核施術を実施し、施術貝は養生篭(25個/篭)に収容して、4月3日から4月17日までの15日間、比重σ15が26のM区の通常海水中と、比重σ15が20のL区の低比重海水中に置いた。4月18日に生残貝を軟X線装置にかけ、脱核貝を除いてからポケット篭に並び替えて英虞湾の養殖漁場に垂下した。沖出し後、3ヶ月経過したところで真珠を採取した。採取した真珠を仕分けして図3に示し、養生成績及び浜上げ成績を表2に示す。
【0022】
【表2】
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【0023】
貝数は、養生後のM区が93個に対しL区が110個有り、さらに浜上げの採取真珠はM区が45個に対しL区が60個有った。成績は実施例1に比べると劣るが、養生期間が15日と短くても、M区よりもL区の低比重海水中での施術貝の生残率が高かった。また、良品の割合も、実施例1に比べると劣るものの、M区が29%であったのに対し、L区が35%と高い良品率を得た。
【0024】
[実施例3]
母貝重量が9匁のものを用いた。L区はM区で用いた比重σ15が26の通常海水に水道水を加えて、L区の比重σ15を20とした。施術貝の養生期間は15日である。挿核施術の個数はM区用を159個、L区用が160個にした。他の条件は実施例2と同じで、その説明を省く。
4月3日に挿核施術を実施し、施術貝は養生篭(25個/篭)に収容して、4月3日から4月17日までの15日間、比重σ15が26のM区の通常海水中と、比重σ15が20のL区の低比重海水中に置いた。4月18日に生残貝を軟X線装置にかけ、脱核貝を除いてからポケット篭に並び替えて英虞湾の養殖漁場に垂下した。沖出し後、3ヶ月経過したところで真珠を採取した。採取した真珠を仕分けして図4に示し、養生成績及び浜上げ成績を表3に示す。
【0025】
【表3】
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【0026】
貝数は、養生後のM区が55個に対しL区が106個有り、さらに浜上げの採取真珠はM区が35個に対しL区が68個有った。低比重海水の比重σ15が20で、且つ養生期間が15日有り、M区よりもL区の低比重海水中での施術貝の生残率が高くなる結果を得た。また、良品の割合も、実施例1に比べると劣るものの、M区が23%であったのに対し、L区が47%と高い良品率を示した。
【0027】
[実施例4]
母貝重量が12匁のものを用いた。核は直径2.3分のものを使用した。L区はM区で用いた比重σ15が26の通常海水に水道水を加えて、L区の比重σ15を18とした。施術貝の養生期間は15日である。挿核施術の個数はM区用を50個、L区用が50個にした。他の条件は実施例2と同じで、その説明を省く。
5月14日に挿核施術を実施し、施術貝は養生篭(25個/篭)に収容して、5月14日から5月28日までの15日間、比重σ15が26のM区の通常海水中と、比重σ15が18のL区の低比重海水中に置いた。5月29日に生残貝を軟X線装置にかけ、脱核貝を除いてからポケット篭に並び替えて英虞湾の養殖漁場に垂下した。沖出し後、3ヶ月経過したところで真珠を採取した。採取した真珠を仕分けして図5に示し、養生成績及び浜上げ成績を表4に示す。
【0028】
【表4】
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【0029】
貝数は、養生後のM区が34個に対しL区が45個有り、さらに浜上げの採取真珠はM区が27個に対しL区が38個有った。養生期間が15日で、低比重海水の比重σ15が18でも、M区よりもL区の低比重海水中での施術貝の生残率が高くなる結果を得た。さらに良品の割合も、M区が19%であったのに対し、L区が61%と非常に高い良品率を得た。
【0030】
[実施例5]
母貝重量が12匁のものを用いた。核は直径2.3分のものを使用した。L区はM区で用いた比重σ15が26の通常海水に水道水を加えて、L区の比重σ15を19とした。施術貝の養生期間は14日である。挿核施術の個数はM区用を150個、L区用が150個にした。他の条件は実施例2と同じで、その説明を省く。
6月14日に挿核施術を実施し、施術貝は養生篭(25個/篭)に収容して、6月14日から6月27日までの14日間、比重σ15が26のM区の通常海水中と、比重σ15が19のL区の低比重海水中に置いた。6月28日に生残貝を軟X線装置にかけ、脱核貝を除いてからポケット篭に並び替えて英虞湾の養殖漁場に垂下した。沖出し後、3ヶ月経過したところで真珠を採取した。採取した真珠を仕分けして図6に示し、養生成績及び浜上げ成績を表5に示す。
【0031】
【表5】
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【0032】
貝数は、養生後のM区が64個の43%に対しL区が101個の67%有り、さらに浜上げの採取真珠はM区が47個の31%に対しL区が67個の45%有った。M区よりもL区の低比重海水中での施術貝の生残率が高くなる結果を得た。また、良品の割合も、M区が38%であったのに対し、L区が67%と高い良品率を得た。
【0033】
このように構成した施術貝の養生方法は、施術貝を単に低比重海水中に収容して安静にするだけであり、その作業は頗る簡単である。それでいて、本発明に係るL区での養生期間中の歩留まりは、通常海水で行った場合に比べて29%高く、良品真珠率は23%高い結果が得られている。これは、同じ施術貝数から生産される良品真珠数が2.8倍になることを示しており、経済効果は非常に大きい。
低比重海水の比重σ15を18~20の範囲内とすることによって、施術貝の高い歩留まりと採取真珠の高い良品率が安定して得られるのが裏付けられた。その一方で、養生に通常海水より高比重の海水を用いると、施術貝の歩留まりと採取真珠の良品率が悪化するのを実験確認している。施術貝を収容して養生する期間を14日~17日の範囲内とすることによって、施術貝の高い歩留まりと採取真珠の高い良品率が安定して得られるのが裏付けられた。
実施例ではアコヤ貝を用いたが、アコヤ貝と同じ海産真珠貝であるシロチョウ貝,クロチョウ貝等にも適用できる。
そして、斯かる施術貝の養生方法は、これまでの海上作業と違って、陸上水槽設備等を使って実施できるので、天候、気象条件等による影響を受けず、作業性に優れるなど頗る有益である。
【0034】
(B)挿核施術をした真珠貝の養生装置
図7は挿核施術をした真珠貝の養生装置(以下、単に「施術貝の養生装置」という。)の一形態で、その概略説明図である。
施術貝の養生装置は、前記施術貝の養生方法に用いられる装置で、貯溜槽1と淡水供給手段2と、海水供給手段3と濾過手段4とを具備して、前記貯溜槽1内に満たした低比重海水5中に、挿核施術を終えた真珠貝8を収容して養生する装置である。
【0035】
貯溜槽1は、上面開口の槽本体10に濾過用ノズル13と排水用ノズル11と加温用ノズル14を設けて、槽本体10内に淡水2aで海水3aを希釈した低比重海水5を貯えるようにしたものである。槽本体10内に貯えた低比重海水5中に養生篭6を沈めることができる。濾過用ノズル13と排水用ノズル11と加温用ノズル14は、それぞれ槽本体10の側壁から外方に突出する。符号12は排水用ノズル11の先端に取着した弁を示す。
【0036】
淡水供給手段2は前記貯溜槽1に淡水2aを供給する機器である。ここでは、水道本管20から弁21を介して貯溜槽1の上面開口から槽内へと淡水2aたる水道水を導く供給管22からなる。弁21を開にすれば貯溜槽1内に淡水2aが注がれる。
海水供給手段3は、前記貯溜槽1に海水3aを供給する機器である。貯溜槽1に直接海水3aを投入してもよいが、ここでは、海水3aを一旦海水貯槽30に溜め、該海水貯槽30から海水供給配管32が貯溜槽1の上面開口へと海水3aを導く。入配管31を使って海水3aを海水貯槽30に一旦溜め、貯溜槽1に海水3aを供給する場合はポンプ33で送る。該ポンプの起動と弁21の開閉操作で、貯溜槽1内に海水3aと水道水を供給し、所望の低比重海水5に設定でき、必要量の低比重海水量を溜めることができる。
そして、支持棒7が貯溜槽1の上面開口を横架する形で配設され、該支持棒に養生篭6が吊設される。養生篭6内に収容された施術貝8は低比重海水5中に安静に収容して養生下におくことができる。
【0037】
濾過手段4は、貯溜槽1の槽本体10に接続して、該槽本体に溜まる低比重海水5の一部を抜き出しその中の不純物を除去し、浄化された低比重海水5にして該貯溜槽1へ戻す機器である。抜出し配管41の一端が前記濾過用ノズル13に接続し、その他端が公知の濾過機40の上部に接続する。濾過機40の下部からポンプ43を介して貯溜槽1に送り返す戻り配管44が配設される。ポンプ43を駆動させ、貯溜槽1に溜めた低比重海水5を濾過機40に通して循環させることにより低比重海水5を浄化することができる。
本実施形態はさらに加熱手段9を備える。加熱手段9は、貯溜槽1の槽本体10に接続して、該槽本体に溜まる低比重海水5の一部を抜き出しこれを熱交換器90で加温し、温度上昇した低比重海水5にして該貯溜槽1へ戻す機器である。養生中の温度環境を制御するもので、必要に応じて該加熱手段を設ける。
【0038】
このように構成した施術貝の養生装置の使用は、これまで基地筏などで実施していた養生作業を陸上に移すことになるだけでなく、各種の自然要因の制御を可能にすることから、真珠養殖技術の発展に貢献するとともに将来の陸上養殖の先駆けとなることが期待される。
【0039】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。貯溜槽1,淡水供給手段2,海水供給手段3,濾過手段4,養生篭6等の形状,大きさ,個数等は用途等に合わせて適宜選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の挿核施術をした真珠貝の養生方法の一形態で、真珠養殖作業のフロー図である。
【図2】実施例1で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【図3】実施例2で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【図4】実施例3で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【図5】実施例4で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【図6】実施例5で肉眼検査に基づく良品,不良品の判定の説明画像図である。
【図7】挿核施術をした真珠貝の養生装置の一形態で、その概略説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 貯溜槽
2 淡水供給手段
2a 淡水(水道水)
3 海水供給手段
3a 海水
4 濾過手段
5 低比重海水
8 施術貝(挿核施術をした真珠貝、挿核施術を終えた真珠貝)
図面
【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
3
【図4】
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【図5】
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【図6】
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