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明細書 :光学活性ポリアニリンとその電解合成方法並びに光学活性エレクトロクロミック材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4487079号 (P4487079)
公開番号 特開2008-184520 (P2008-184520A)
登録日 平成22年4月9日(2010.4.9)
発行日 平成22年6月23日(2010.6.23)
公開日 平成20年8月14日(2008.8.14)
発明の名称または考案の名称 光学活性ポリアニリンとその電解合成方法並びに光学活性エレクトロクロミック材
国際特許分類 C08G  73/00        (2006.01)
FI C08G 73/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2007-018537 (P2007-018537)
出願日 平成19年1月29日(2007.1.29)
審査請求日 平成19年3月5日(2007.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】後藤 博正
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】井津 健太郎
参考文献・文献 特開平01-272005(JP,A)
特開昭62-181327(JP,A)
特開昭63-278933(JP,A)
特開平03-287623(JP,A)
特開2002-100815(JP,A)
特開2005-247934(JP,A)
PORNPUTTKUL,Y. et al,Influence of Electrochemical Polymerization Temperature on the Chiroptical Properties of (+)-Camphorsulfonic Acid-Doped Polyaniline ,Macromolecules,2006年 7月22日,Vol.39, No.17,p.5604-5610
調査した分野 C08G 73/00--73/26
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アニリンモノマーを原料として、酸化と還元を連続的に行う反復酸化的な電解重合を光学活性分子のカンファースルホン酸(CSA)の存在下において行うことで光学活性分子ドープポリアニリン薄膜を製造することを特徴とする光学活性ポリアニリンの電解合成方法。
【請求項2】
サイクリック・ボルタンメトリーを用いて電解重合を行うことを特徴とする請求項1に記載の光学活性ポリアニリンの電解合成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、酸を存在させて電解重合を行い、光学活性エレクトロクロミズム(EC)特性を発現するポリアニリン薄膜を製造することを特徴とする光学活性ポリアニリンの電解合成方法。
【請求項4】
酸が硫酸であることを特徴とする請求項3に記載の光学活性ポリアニリンの電解合成方法。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれかに記載の方法により合成され、レドックス過程によって光学活性が調節され、光学活性エレクトロクロミズム(EC)特性を発現する光学活性ポリアニリンの薄膜がその構成の少なくとも一部とされているエレクトロクロミック(EC)材であって、外部電場による光学回転角の制御が可能とされていることを特徴とする光学活性エレクトロクロミック(EC)材。
【請求項6】
請求項5に記載の光学活性エレクトロクロミック(EC)材が用いられていることを特徴とするエレクトロクロミック装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリンモノマーから合成可能とされ、光学回転角の外部電場による制御も可能とされている光学活性ポリアニリンとその電解合成方法並びにこれを特徴とする光学活性エレクトロクロミック(EC)材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック(EC)材料は、異なる電位条件下で保持する場合に色の変化を示す。ポリチオフェン、ポリピロール、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)等の導電性ポリマーは、このようなEC材料に対して無機的EC材料とは異なるアプローチを提供することが知られている。こういったポリマーにイオンを用いてドーピングを行うと、その導電性は半導体に特徴的な挙動から、金属に特徴的な挙動までの範囲となる。ドーピングは電気化学的手順によるものであり、そこではポリマーが電解セルの電極として利用されるが、このセルにはイオン化されることによってドーパントイオンになりうる化合物である電解質が含まれる。この過程により、ポリマーの電子状態に変化が生じ、結果としてEC特性が生じることになる。そして、ポリアニリン(PANI)も有望な導電性ポリマーの一つである。その理由は化学的に安定であり、比較的導電性が高く、ECなどの興味深い光学特性を有しているためである。ここでのECは化学的ならびに電気化学的ドーピングにより生じるものである。たとえば、カンファースルホン酸(CSA)ドープ化PANIの調製が化学的酸化的重合(非特許文献1-3)ならびに電気化学的重合(非特許文献4-5)により行われており、キラルオプティカル性を有するらせん状のポリアニリンが得られている。
【0003】
CSAでドープ化したポリアニリン(PANI-CSA)はたとえば次式として示される。
【0004】
【化1】
JP0004487079B2_000002t.gif
さらに電気化学的重合過程における重合温度の変化によって、キラルなPANIのらせん方向が変化することが知られている(非特許文献6)。また、最近では、光学活性を持つ成分を含む置換PANIの光学活性において、化学的ドーピングによって誘導される変化についての研究が行われている(非特許文献7)。

【非特許文献1】A.G. MacDiarmid et al., Synth. Met. 65, 103 (1994).
【非特許文献2】S.J. Su et al., Chem. Mater. 13, 4787 (2001).
【非特許文献3】C.Y. Yang et al., Synth. Met. 53, 293 (1993).
【非特許文献4】E.V. Strounina et al., Synth. Met. 106, 129 (1999).
【非特許文献5】W. Li et al., Adv. Func. Mater. 15, 1793 (2005).
【非特許文献6】Y.P. Loom et al., Macromolecules 39, 5604 (2006).
【非特許文献7】H. Goto, Macromol. Chem. Phys. 207, 1087 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キラルオプティカル性を有するポリアニリンはエレクトロクロミック(EC)材への応用として注目されるものではあるものの、ポリアニリンのキラルオプティカル性の変化を電気化学的なドーピングにより調節可能とすることはこれまでのところ実現されてきていない。つまり、光学活性の制御が実現されていないのが実情である。
【0006】
しかもまた、ポリアニリンの電気化学的重合反応は、その操作の簡便性、合理性からも注目されるものであるが、従来のポリアニリンの電解合成ではまず核となるオリゴマーが必要とされ、市販品等として入手容易なポリアニリンモノマーを直接用いることが難しいという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような従来の問題点を解消し、オリゴマーを必要とすることなしに、アニリンモノマーを出発物質として、光学活性の制御、たとえば外部電場で能動的に円偏向二色性(CD)や旋光角度の調節を可能とする、光学活性ポリアニリンの新しい電解合成方法を提供し、この方法により得られる新しい光学活性ポリアニリン、そしてこれを用いたエレクトロクロミック(EC)材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の電解合成方法は以下のことを特徴としている。
【0009】
第1:アニリンモノマーを原料として、酸化と還元を連続的に行う反復酸化的な電解重合を光学活性分子のカンファースルホン酸(CSA)の存在下において行うことで光学活性分子ドープポリアニリン薄膜を製造する。
【0010】
第2:サイクリック・ボルタンメトリーを用いて電解重合を行う。
【0011】
第3:上記いずれかの方法において、酸を存在させて電解重合を行い、光学活性エレクトロクロミズム(EC)特性を発現するポリアニリン薄膜を製造する。
【0013】
第4:酸を硫酸とする。
【0014】
そして、本発明においては、上記の新しい電解合成方法によって以下のものが提供される。
【0015】
すなわち、レドックス過程によって光学活性が調節される光学活性ポリアニリンであり、光学活性エレクトロクロミズム(EC)特性を発現するポリアニリン薄膜である。また、さらには、これらをその構成の一部とする光学活性エレクトロクロミック(EC)材であり、これを用いたエレクトロクロミック装置である。
【発明の効果】
【0016】
上記のとおりの反復酸化的な電解重合、つまり酸化/還元過程の反復としての電解重合、さらに換言すれば電位掃引による電解重合を行う本発明によれば、従来のようにオリゴマーを必要とすることなく、アニリンモノマーを出発物質として光学活性ポリアニリンの電解合成が可能とされ、この電解合成によって、光学活性の制御、特に、外部電場で能動的に円偏向二色性(CD)や旋光角度の調節が可能とされる光学活性ポリアニリンが提供される。つまり、入手容易なアニリンモノマーから光学回転角や明暗を高速で制御可能な新しい光学活性導電性高分子が提供される。
【0017】
たとえば、その具体例として、アニリンはカンファースルホン酸を含む水中で酸化的電気化学重合により重合し、(+)-CSAまたは(-)-CSAを含むポリアニリン(それぞれPANI-(+)-CSAならびにPANI-(-)-CSAと略す)を生じる。このようにして調製されたポリアニリン薄膜は、0.1M硫酸水溶液中における電気化学的還元/酸化に基づいて、強力で整調可能な光学活性を示す。このポリマーの円偏光二色性(CD)ならびに旋光角度は、光変調の形で外部から適用された電位を適切に調節することによって整調することができる。
【0018】
Faraday回転とKerr回転現象を利用した光変調素子は、現在では光電子メディアや通信用光デバイスに応用されている。本発明の光学活性ポリアニリンによって、光学活性を有するEC特性に基づいた新しい有機光変調素子を創出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0020】
本発明の光学活性ポリアニリンの電解合成方法における出発物質(原料)はアニリンモノマーであるが、このものには、アニリンのベンゼン環に許容される各種の置換基を有しているものも含まれる。そして、これらの1種または2種以上のものであってよい。
【0021】
また、光学活性分子としては、スルホン酸置換基を持つ光学活性分子であるカンファースルホン酸(CSA)が用いられる。
【0022】
上記のアニリンモノマーを用いて、本発明では、これらの光学活性分子の存在下に、反復酸化的な電解重合を行い、光学活性分子がドープされたポリアニリン薄膜を製造する。ここで、本発明での「反復酸化的な電解重合」については、電解酸化の過程が繰り返し行われる重合反応を意味している。換言すると前記のとおりの電位掃引による電解酸化重合である。
【0023】
また、本発明では、上記の反復酸化的電気化学的重合を、酸、たとえばその代表例としての硫酸の存在下に行う。この酸によって、電気化学的なドーピングとデドーピングとが調節されることになる。あるいは二重ドーピングが実現されると言ってもよい。
【0024】
本発明のこのような反復酸化的な電解重合は、アニリンモノマーを溶解する媒体を用いて行うことができる。このような溶媒としては、水、あるいは水と有機溶媒との混合系としての溶媒、たとえばアルコール類やTHF、その他の親水性、あるいは極性の有機溶媒との混合としての水性媒体、さらには極性有機溶媒が挙げられる。なかでも水を溶媒とすることが好ましい。
【0025】
以上のような本発明の反復酸化的な電解重合は、たとえば、サイクリック・ボルタンメトリー(CV)や、直流電圧の印加の方法等によって可能とされる。そして、成膜性が良好で、均質膜の作成の点で優れているサイクリック・ボルタンメトリー(CV)を用いることで好適に実施可能とされる。このような電気化学的重合のためのシステム、装置は、電極の構成をはじめとして公知のものを応用することができる。
【0026】
たとえば図1は、CVの電解合成のための装置概要を示したものである。生成ポリマーが表面に析出する作用電極と、その対向電極、そして参照電極を有する電解槽中にアニリンのモノマーを含む電解液が導入されて通電されることにより電解合成が行われる。
【0027】
カンファースルホン酸(CSA)と硫酸を用いるCVの電解合成の場合には、たとえば以下のような条件範囲が一般的に考慮される。
【0028】
CSA:0.1~5M(モル)
硫酸:0.01~1M(モル)
硫酸/CSA(モル比):0.01~1.0
アニリン:0.01~3M(モル)
アニリン/CSA(モル比):0.1~5.0
液温:0~50℃
電圧:-1.22V~1.22V
電流:任意
なお、電圧を掃印した際に、重合にあわせてアニリンが電流を消費することになるが、通常その電流は小さく、たとえば10mA/cm以下である。
【0029】
なお、EC(エレクトロクロミック)特性を見る場合には、図1の装置において、アニリンモノマーおよびCSAを含まない、硫酸水溶液あるいは電解質を含む有機溶媒を用いた電解液に変更することにより可能となる。
【0030】
たとえば、本発明の光学活性ポリアニリンをEC素子として利用する場合には硫酸水溶液と接触させた形態とすることが好ましい。なお、エレクトリックジェルと呼ばれている手段が知られているが、たとえば図2に示したように、このゲル状体に硫酸あるいはテトラブチルアンモニウムパークロレート、テトラブチルアンモニウムフルオレート、リチウムペンタフルオロアーセナイド、食塩などの支持塩を溶解させ、これを、光学活性ポリアニリンのポリマー層とともにITOガラス等の導電性ガラスにサンドイッチさせ、二極法(参照電極を用いず、アノードおよびカソードのみからなる電極系)で、0~1.3V間で電位のスイッチングを行なうことにより光学回転可能なECデバイスとすることもできる。
【0031】
そこで以下に実施例に沿ってさらに詳しく説明する。もちろん、以下の例示説明によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0032】
アニリン(モノマー)の酸化的電気化学的重合を、0.1Mアニリンを含む水中において0.5M(+)-または(-)-CSAの存在下で実施した。3個の電解セルを用いて電気化学的重合過程を行った。このセルの構成要素は透明なインジウム-スズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス製作用電極、ITO対向電極、飽和カロメル電極(SCE)の基準電極である。SCEに対し0Vから1.1Vまでの電圧の範囲にわたるサイクリック・ボルタンメトリーを用いた反復酸化的重合によって、PANI-CSAがITOガラス上に沈着した。0.47Vで電流の増加が生じたが、これはピークモノマー酸化電位を示している。反復スキャンの途中でこの値はアノード側の方向にシフトした(5回目のスキャンで0.50V)。5回目のスキャン後に、ポリマーでコーティングされた電極を減圧条件下で乾燥させ、続いて水とアセトンで薄膜を洗浄し、モノマーフリーの0.1M硫酸水溶液中に入れて、分光電気化学的特徴を調べた。このようにして得られたポリマーであるPANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAについて、サイクリック・ボルタンメトリーと紫外線・可視吸光分析の組み合わせ、あるいは円偏光二色性(CD)分光法により特徴分析を行い、これらの電気活性ならびに光学的特性を明らかにした。
【0033】
PANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAの両者のレドックス挙動を明らかにして、これらのポリマーが同一の基本的な化学構造を有することを示した。図3に示すのは、(+)-CSA(実線)と(-)-CSA(点線)存在下におけるアニリンの電気化学的重合過程の途中で生じた465nmでのCD強度の変化であり、初回スキャンから5回目のスキャンに至るまでの主鎖のπ-π遷移における吸収帯に対応している。電極におけるサイクリック・ボルタンメトリーにより生じる反復性の三角波印加電圧により、ITO基質上にポリマー薄膜が形成され、この過程によってCD強度変化が生じる。
【0034】
最初のスキャン時にはCDシグナルは観察されなかったが、2度目のスキャンにより強度がわずかに増加した。5回のスキャンによって460nmに強いCDシグナルが得られたが、これはITO上のポリマーに見られる437nm吸収帯に対応している[図5(C)参照]。反復スキャンにより薄膜の厚みが増加しており、従ってCDスペクトルの強度はスキャン回数に伴い増加している。各サイクルの酸化的過程(電位=0Vから1.1V)の途中でこのCD強度は減少した。これはおそらく酸化的過程の途中でポリマーの主鎖の長さが実際に増加し、同時に主鎖の平面キノイド性質が現れたことが原因であろう。この平面構造は片手らせん状のねじれ量を減少させ、その結果重合過程における1.1V条件下でポリマーの光学活性を抑制する。これとは逆に還元過程(電位=1.1Vから0V)の途中ではポリマーのCD強度は強化されるが、これはキノイド構造がベンゼノイド構造に変換され、ポリマーが成長しないためである。この現象はモノマーフリーの電気化学的ポリマードーピング-デドーピング過程の途中におけるin situ CD分光分析においても観察される(後述)。重合は凹凸CDサイクルの反復と共に進行し、ポリマーの総CD強度が増大する。
【0035】
図4は、モノマーフリーのポリアニリン-(-)-カンファースルホン酸〔PANI-(-)-CSA〕のサイクリック・ボルタノグラム(CV)を、スキャンレート:10mV・S-2の条件の場合として示したものである。CVは、0.1M硫酸水溶液中で計測している。
【0036】
この図4では、モノマーフリーのポリマーは0.45Vと0.73Vの酸化電位において明確で準可逆的なレドックス過程を示すが、これはそれぞれ硫酸によるポーラロンとバイポーラロンの生成に関連している。また、図4に示すように、0.63Vと0.34Vの還元電位が観察された。サイクリック・ボルタモグラム(CV)によって、硫酸によるPANIの電気化学的ドーピング-デドーピングが示されているが、PANI上でのCSA脱離に関連する特徴は全く観察されなかった。
【0037】
吸光度とCDスペクトルによりPANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAの光学的性質を調べるため、ITO上のポリマー薄膜をキュベット内部に移して分光電気化学的分析を行った。0.1M硫酸水溶液中で、図5に示すように、SCEに対し0.2Vから0.7Vの範囲で様々な電圧を加えた条件下で、一連のin situ CD吸収スペクトルを測定した。
【0038】
図5(C)に示す分光電気化学分析の結果から分かるように、440nmにおけるPANI主鎖のπ-π*遷移は、硫酸存在下での電気化学的ドーピング(印加電圧の増加)時に減少するが、一方でドーピングバンド(>700nm)は増加する。これと同時にポリマーのCD強度は電気化学的ドーピングによって変化するが、この様子は図5(A)ならびに図5(B)に示されている。PANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAはこの0.2Vでニュートラルな状態(デドープされた形の)主鎖のπ-π遷移領域における相補的鏡像コットン効果を示しているが、これは2個のポリマーが同程度であるけれども逆向きのキラリティを有していることを示している。酸化状態(ドーピングされた状態)ではポリマーのCDスペクトルは強度の減少を示した。キラルドーパントとしてCSAを用いたためにPANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAの間の相補的鏡像関係が生じているという可能性は否定されるが、その理由は、CSAのコットン効果が観察されるのが紫外線領域の波長に限られるためである。
【0039】
いずれのPANI-CSAも、薄緑がかった黄色の還元型(硫酸によりデドープされたもの)と濃青色の酸化型(硫酸によりドープされたもの)の間で切り替わる。初期のポリアニリンが重合化後、CSAにより半分ドーピングされた状態であると考えても良い。例えばSCEに対して0.2Vの印加電圧条件下におけるPANI-(-)-CSAは電気化学的にはデドープされた状態にあるが、それでも長波長側にドーピングバンドを示している。この広範囲の吸収帯は数百回にわたるドーピング-デドーピング過程を経た後にも観察される。ここでCSAはたとえ電気化学的還元過程を経た後であっても、静的相互作用によってポリアニリンのN-位置に結合しているが、ポリアニリンの全ての窒素原子がCSAに占有されている訳ではない。主鎖において、硫酸によるさらなるドーピングが起きることでキラリティの変化が生じる。言い換えればCSAにより半分ドーピングされたポリアニリンは、さらに硫酸による酸ドーピングを受けることができる。この電気化学的二重ドーピング過程の結果として、スペクトルの変化が生じる。
【0040】
電気活性を有する導電性高分子の光スイッチングが開発されて、ポリマーECデバイスに用いられている。そこで、0Vから0.9Vの範囲での電圧スキャニング途中におけるPANI-CSAのCD強度を見ると、図6に示すように可逆的で対称的な変化を生じている。CDに見られるこの電気化学的なレドックス誘導性の変化は、主鎖が硫酸によって電気化学的ドーピング/デドーピングを受けていることが原因であるとするならばうまく説明できる。この結果から、ポリマーは可逆的な光学活性エレクトロクロミズムを呈することが示される。
【0041】
460nm条件下でのCD強度は、SCEに対して0.9Vの印加電圧条件下で最低となり(ドーピング化状態)、いずれのポリマーもコットン効果を示し、PANI-(+)-CSAは陰性、PANI-(-)-CSAは陽性であった。SCEに対して0Vの印加電圧では還元状態が生じるが、これによってその後に460nm条件下でのCD強度が増加する。従ってレドックス過程を調節することにより、CD強度を可逆的に変化させることができる。
【0042】
図7に示すのは、さまざまな印加電圧条件下におけるPANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAの旋光分散(ORD)スペクトルである。これらのORDスペクトルは、PANI-(+)-CSAとPANI-(-)-CSAのCDスペクトルをクラマース・クローニヒ(K-K)変換することにより得られる。酸化(ドーピング)後の還元(デドーピング)により、428nmと482nmの旋光シグナルが現れた。
【0043】
還元性電位を加えることによって、これらのピークは還元状態において観察される本来の強度に復帰する。このことから当該ポリマーは電気光学的活性を有しており、電気化学的過程により旋光度を調節することが可能であることが示される。外部からの印加電圧をうまく調節することによって、ポリマーの旋光角を紫外・可視領域内で調節できる。この性質はKerrデバイスやFaraday旋光器の機能性と同等である。電気化学的ドーピング-デドーピング過程により光学活性が調節される。このポリマーに観察される旋光性の調節は、この過程の結果として生じる電子状態の変化が原因となっている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】サイクリック・ボルタンメトリー(CV)による電解重合のための装置構成を例示した概要図である。
【図2】EC素子の構成例を示した概要図である。
【図3】(+)-CSA(実線)ならびに(-)-CSA(点線)存在下におけるアニリンの電気化学的重合過程の途中で生じた465nmでのCD強度変化を示した図である。アニリンモノマー(0.1M)、(+)-カンファースルホン酸(0.5M)または(-)-カンファースルホン酸(0.5M)、SCE(基準電極)、ITO対向電極と作用電極を使用した。キラルオプティカルポリマーが作用電極上に沈着した。
【図4】モノマーフリーのポリアニリン-(-)-カンファースルホン酸[PANI-(-)-CSA]のサイクリック・ボルタノグラム(CV)である。スキャンレート:10mV・s-2。PANI-(-)-CSAのCVは0.1M硫酸水溶液中で計測した。
【図5】SCEに対してさまざまな印加電圧を加えた条件下で、ITOコーティングガラス基質上に生じたPANI-(+)-CSA(A)とPANI-(-)-CSA(B)のin-situ CDと吸収スペクトル図である。これらのスペクトルは0.1M硫酸水溶液中で計測した。
【図6】0.1M硫酸水溶液中においてSCEに対して0Vから0.9Vの印加電圧を加えた場合にITOコーティングガラス基質上に生じたモノマーフリーのPANI-(+)-CSA(青線)とPANI-(-)-CSA(赤線)について、460nmでモニターしたCD強度の反復変化を示した図である。。三角波の印加電圧はサイクリック・ボルタンメトリーを用いて発生させた。
【図7】さまざまな印加電圧を加えた場合にITOコーティングガラス基質上に生じたPANI-(+)-CSA(A)とPANI-(-)-CSA(B)のin-situ ORDスペクトルである。ORDスペクトルはCDスペクトルをクラマース・クローニヒ(K-K)変換して算出した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6