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明細書 :ベシクルの製造方法、この製造方法によって得られるベシクル、ベシクルの製造に用いられる凍結粒子の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第4009733号 (P4009733)
登録日 平成19年9月14日(2007.9.14)
発行日 平成19年11月21日(2007.11.21)
発明の名称または考案の名称 ベシクルの製造方法、この製造方法によって得られるベシクル、ベシクルの製造に用いられる凍結粒子の製造方法
国際特許分類 B01J  13/02        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K   8/14        (2006.01)
FI B01J 13/02 Z
A61K 9/127
A61K 8/14
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2007-053089 (P2007-053089)
出願日 平成19年3月2日(2007.3.2)
審査請求日 平成19年3月14日(2007.3.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】市川 創作
【氏名】黒岩 崇
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
審査官 【審査官】小川 慶子
参考文献・文献 国際公開第2004/026457(WO,A1)
調査した分野 B01J 13/00-13/22,
A61K 8/14, 9/127
要約 【課題】 粒径など所望の物性を制御しつつ、所望の物質の高い内包率が達成できるベシクルの製造方法を提供する。
【解決手段】 内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤を含む油相とからW/Oエマルションを作成し、次いで、前記W/Oエマルションの水溶液が凍結粒子となり油相は液体の状態を維持する温度まで冷却して油相を除去し、この後、前記凍結粒子にベシクル構成脂質を含む油相を添加し、攪拌することで凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換し、そして、脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子に外水相を添加し、外水相と脂質膜とを水和させる。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1)~(5)の工程からなることを特徴とするベシクルの製造方法。
(1)内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤を含む油相とからW/Oエマルションを作成する工程。
(2)前記W/Oエマルションの水溶液が凍結粒子となり、油相は液体の状態を維持する温度まで冷却する工程。
(3)前記凍結粒子にベシクル構成脂質を含む油相を添加し、攪拌することで凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換する工程。
(4)前記凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換した後に油相を除去する工程。
(5)脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子に外水相を添加し、外水相と脂質膜とを水和させる工程
【請求項2】
以下の(1)~(3)の工程からなることを特徴とするベシクルの製造方法。
(1)内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤として機能する脂質を含む油相とからW/Oエマルションを作成する工程。
(2)前記W/Oエマルションの水溶液が脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子となり、油相は液体の状態を維持する温度まで冷却して油相を除去する工程。
(3)前記凍結粒子に外水相を添加し、外水相と凍結粒子表面の脂質膜とを水和させる工程
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のベシクルの製造方法において、前記外水相を添加する際に、同じ脂質膜にて覆われた前記ベシクルよりも微細なベシクルを混合することを特徴とするベシクルの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のベシクルの製造方法において、前記外水相を添加する際に、グリセロールなどの外水相の凝固点を下げる物質を添加することを特徴とするベシクルの製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のベシクルの製造方法において、前記油相の除去は減圧蒸発にて行い、この減圧蒸発及び引き続き行う水和に用いる容器内側は疎水化しておくことを特徴とするベシクルの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のベシクルの製造方法にて製造されたことを特徴とするベシクル。
【請求項7】
以下の(1)~(4)の工程からなることを特徴とするベシクル製造するための凍結粒子の製造方法。
(1)内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤を含む油相とからW/Oエマルションを作成する工程。
(2)前記W/Oエマルションの水溶液が凍結粒子となり、油相は液体の状態を維持する温度まで冷却する工程。
(3)前記凍結粒子にベシクル構成脂質を含む油相を添加し、攪拌することで凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換する工程。
(4)前記凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換した後に油相を除去する工程。
【請求項8】
以下の(1)及び-(2)の工程からなることを特徴とするベシクルを製造するための凍結粒子の製造方法。
(1)内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤として機能する脂質を含む油相とからW/Oエマルションを作成する工程。
(2)前記W/Oエマルションの水溶液が脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子となり、油相は液体の状態を維持する温度まで冷却して油相を除去する工程。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はベシクルの製造方法に関し、特にW/Oエマルションを基材とし、その内部水相に水溶性物質、固体粒子、あるいは細胞など種々の物質を内包し、平均粒径が数十nm~数百μmのベシクル(以下、「本発明ベシクル」ともいう)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシクルはリポソームとも言われ両親媒性の脂質分子により形成される閉鎖小包体であり、研究用のモデル細胞膜やDDS製剤およびマイクロリアクターなどの様々な用途への利用が期待されている。
【0003】
ベシクル作製法の一例として、固体表面上に形成した脂質薄膜を水和する方法がある。例えば、ガラス基材上に脂質薄膜を形成し、これに水溶液を加えて激しく振盪することで、ベシクルを調製することができる。しかし、この方法で得られるベシクルの粒径は一般に不均一であり、また所望の物質のベシクル内への内包効率は極めて低い。さらに、粒径がマイクロメートルスケールの大きなベシクルを調製することは困難である。
【0004】
一方、大きなベシクルの作製に頻繁に用いられている方法として、非特許文献1に開示されるエレクトロフォーメーション法が知られている。この方法は、白金電極上に形成した脂質薄膜に水溶液中で電圧を印加して脂質薄膜の水和を行うことで直径数十μm~数百μm程度のベシクルを作製するものである。
【0005】
一方、内包率が比較的高いベシクルを作成する手法として、エマルションを利用する方法が非特許文献2に提案されている。
ここで、本発明では、ベシクルに内包される物質を「内包物質」と呼び、「内包率」とは、最終的に得られたベシクル懸濁液全体に含まれる内包物質のうち、ベシクルに内包されたものの割合をパーセントで表したものである。また、「平均粒径」とは、ベシクル粒径の数分布において、個数基準の幾何平均として算出される粒径を指す。
【0006】
また特許文献1には高分子電解質溶液の周囲に電解質複合体からなるゲル層を形成するマイクロカプセルの製造方法が提案されている。この方法はマイクロチャネルの一方の側に所定の物質を内包した高分子電解質溶液(分散相)を、他方の側に当該高分子電解質溶液と反応してゲルを形成する溶液(連続相)を配置し、分散相に圧力を加えることで連続相に微細な粒子として分散相を送り込み、分散相表面での反応でゲル層を形成するようにしている。
【0007】

【特許文献1】WO2004/026457
【非特許文献1】Wick et al.: Chemistry & Biology, Vol. 3. 277-285, 1996
【非特許文献2】Szoka et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 75, No. 9, 4194-4198, 1978
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示される方法の場合、得られたベシクルの内部水相に物質を封入するためには、マイクロインジェクションシステムなどの特殊な装置を用いて、一つ一つのベシクルに物質を注入する操作が必要となり、量産化は期待できない。
【0010】
非特許文献2に開示されるエマルションを利用した製造技術では、得られるベシクルのサイズを制御することが難しく、特に10μmを超える大きなベシクルの作成は困難である。その他にも、これまで報告されている技術においては、ベシクル内への物質の封入効率は数%~数十%程度が普通であり、粒子径の制御と、高い内包率を同時に達成できない。
【0011】
特許文献1に開示される方法によれば、所定の物質を内包し且つ粒径が数百μmの均一なマイクロカプセルが得られる。しかしながら、この方法では所定の物質を溶解或いは内包する水溶液がアルギン酸水溶液などの特定の高分子電解質溶液に限られ、また反応によって形成されるゲル層が破損しやすいなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解消するため、第1発明に係るベシクルの製造方法は、内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤を含む油相とからW/Oエマルションを作成し、次いで、前記W/Oエマルションの水溶液が凍結粒子となり油相は液体の状態を維持する温度まで冷却して油相を除去し、この後、前記凍結粒子にベシクル構成脂質を含む油相を添加し、攪拌することで凍結粒子表面の乳化剤をベシクル構成脂質に置換し、そして、脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子に外水相を添加し、外水相と脂質膜とを水和させるようにした。
【0013】
本願の第2発明は特に乳化剤としてベシクルを構成できる物質を選定することで乳化剤とベシクル構成物質との置換工程を省略している。
具体的には、内包させる物質を溶解あるいは懸濁状態で含む水溶液と、乳化剤として機能する脂質(フォスファチジルコリン、ソルビタン脂肪酸エステルなど)を含む油相とからW/Oエマルションを作成し、次いで、前記W/Oエマルションの水溶液が脂質膜によって表面が覆われた凍結粒子となり油相は液体の状態を維持する温度まで冷却して油相を除去し、この後、前記凍結粒子に外水相を添加し、外水相と凍結粒子表面の脂質膜とを水和させるようにした。
【0014】
前記外水相を添加する際に同じ脂質膜にて覆われた微細なベシクルを混合することが好ましい。同じ脂質膜にて覆われた微細なベシクルを混合することで、当該微細なベシクルの脂質膜が大きな粒径のベシクル表面の脂質膜に形成されている傷を修復することが判明した。
更に、外水相を添加する際に、グリセロールなどの外水相の凝固点を下げる物質を添加することで、例えば凍結粒子を-2℃で凍結させたままで脂質膜の水和を行い内包率の向上を図ることができる。
【0015】
また、油相の除去は減圧蒸発にて行う場合、使用する容器内側を疎水化しておくことが好ましい。疎水化しておくことで容器内側面と凍結粒子とが直接接触せず、これらの間にも脂質層が形成され、水和完了まで粒子が壊れず球形を維持するので、内包率が高くなる。
更に、本願発明には上記方法によって得られたベシクルが含まれ、さらに当該ベシクルになる前の中間品である、凍結粒子の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒径など所望の物性を制御しつつ、所望の物質の高い内包率が達成できるベシクルを製造することができ、また研究用のモデル細胞膜やDDS製剤およびマイクロリアクターとして要求される強度(形状維持性)も十分に備えたベシクルを製造することができる。具体的に挙げることができる効果は例えば以下の通りである。
【0017】
(1)従来は困難であった、粒径が制御されたマイクロメートルオーダーのベシクルを提供することが可能である。しかも、0.03μm~200μm程度の範囲で、所望する平均粒径を持ったベシクルを製造できる。
(2)粒径が制御されたベシクルの内部水相に、高い内包率で物質を封入することが可能である。とくに、従来技術では顕微鏡下で一つ一つ作成していた水溶性物質内包ジャイアントベシクルが、同時に比較的多量に提供できる。
(3)W/Oエマルションの油相に溶解する両親媒性脂質種を変えることで、種々の脂質組成のベシクルを比較的容易に調製できる。
(4)W/Oエマルションの分散水相内に溶解または分散可能な物質であれば、内包物質の種類を問わず、ベシクル内に内包することができる。従って、本発明により製造したベシクルは、親水性および疎水性薬物のキャリアーとしてDDS医療に用いることができる。また、ベシクル内で遺伝子やタンパク質に係る反応を行うマイクロリアクターとして、有用な遺伝子やタンパク質のスクリーニングにも利用することができる。
(5)製造工程で使用する薬品類は全て食品用途に利用できる安全性の高いものであるため、本発明により製造されるベシクルは高い安全性を有していることが期待できる。従って、本発明ベシクルは、薬物、機能性食品成分、および化粧品関連成分のキャリアーとしても好適である。例えば、各種ビタミン類の酸化を抑制できる機能性食品用カプセルの作製や、保湿成分を内包したベシクルを利用した、保湿効果の高い化粧水などに応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1(a)~(d)は本発明におけるベシクル作製過程の概略を示す図である。尚、各図において右側の引き出し部分は、左側の図の要部を拡大した図である。本発明にあっては、先ず図1(a)に示すように、内包物質を含む水相とヘキサン等の油相からW/Oエマルションを作成する。
【0019】
次いで、W/Oエマルションを凍結し、図1(b)に示すように、凍結水滴表面の乳化剤を洗浄除去するとともにベシクル構成脂質(PC)を添加し、乳化剤とベシクル構成脂質とを置換する。
【0020】
この後、図1(c)に示すように、油相(ヘキサン)を除去する。この時点で凍結水滴表面には脂質二分子膜が形成されている。そして、図1(d)に示すように、外水相を添加してベシクル懸濁液とする。
【0021】
ここで、本発明ベシクルには、脂質二分子膜により構成されるベシクルのほか、ベシクルを構成する脂質種を壁素材とするマイクロカプセル構造をもつ粒子も含める。
【0022】
本発明ベシクルを構成する脂質種(ベシクル構成脂質)は、両親媒性の脂質分子であれば良く、フォスファチジルコリン、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸、フォスファチジルセリンのようなリン脂質やスフィンゴ脂質類、ソルビタン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルなどの食品用乳化剤、オレイン酸などの脂肪酸を構成成分とするベシクルも包含する。
【0023】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、脂質二分子膜に他の成分を含んでいても良い。例えば、コレステロールおよびエルゴステロールなどのステロール類、ステアリルアミンのような荷電性脂質、オレイン酸、ステアリン酸およびパルミチン酸などの長鎖脂肪酸類、ならびに脂質二分子膜と相互作用しうるペプチド類や糖質なども併用できる。
【0024】
よりサイズの均一性が高いベシクルを得るためには、特許文献1に開示されるような極めて単分散性の高いW/Oエマルションを作製できるマイクロチャネル乳化法が最も効果的である。
【0025】
W/Oエマルションの水相には、純水もしくは塩類をふくむ緩衝液を用いることができる。水相には、ベシクル作製後にベシクル内水相に内包する内包物を含ませておくことができる。内包物は、水相に溶解する物質や水相に懸濁可能な物質で、W/Oエマルションの製造を妨げない物質であれば、その種類を制限されない。したがって、糖類、塩類などの低分子物質、酵素やDNAなどの高分子物質、ゲル微粒子や磁性微粒子などの固体物質も利用できる。
【0026】
W/Oエマルションの油相には、ヘキサンなど、水と混和しない有機溶媒を用いることができる。油相中には、マイクロチャネル乳化法においてエマルションの作製が可能な乳化剤および安定化剤を含ませておく。乳化剤としては、リン脂質、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖エステルなどを利用できる。安定剤としては、オレイン酸などの脂肪酸や、ステアリルアミンなどの荷電性脂質を利用できる。
【0027】
マイクロチャネル乳化法によりW/Oエマルションを作製する際には、(a)疎水化したシリコン製マイクロチャネル基板あるいはアクリル製マイクロチャネルプレート、(b)疎水化したガラス板あるいはアクリル板、およびマイクロチャネル乳化装置モジュールを使用する。
【0028】
そして、(a)および(b)により形成される溝型マイクロチャネルあるいは(a)上に加工された貫通孔型マイクロチャネルの出口側に上記油相を満たしておき、マイクロチャネルの入口側から内包物を含む上記水相を圧入することで、粒径のバラツキが10%以内の均一径W/Oエマルションを調製できる。
【0029】
マイクロチャネル基板としては、デッドエンド型、クロスフロー型、貫通型など、種々の形態のものを用いることができる。厳密な粒径制御を要しない場合、および極めて微細なベシクルの作製を望む場合には、既存の膜乳化法、超音波乳化法および高圧ホモジナイザー等を利用して得られたW/Oエマルションを利用して、以下の工程によりベシクルを作製することも可能である。
【0030】
作製したW/Oエマルションは、水相液滴の合一を防ぐために、速やかに液体窒素により凍結させ、低温環境で「水相は固体(氷)、油相は液体」の状態で保存する。同温度下で、静置により水相を沈降させ、油相上清を吸引除去する。
【0031】
つづいて、フォスファチジルコリンなどのベシクル構成脂質を含む油相を添加し、懸濁液全体をよく撹拌する。同様の操作を、当初含まれる乳化剤の濃度が所望の程度に希釈されるまで繰り返すことで、系に含まれる乳化剤がベシクル構成脂質へと置換される。このとき、水相液滴量に対するベシクル構成脂質量の比を適切に調整することで、後に得られるベシクルの脂質二分子膜の多層性と内包物質の内包率を制御することができる。
【0032】
乳化剤をベシクル構成脂質に置換したW/Oエマルションから、水相を凍結させたままの状態で、油相溶媒をエバポレーターにより減圧蒸発除去する。このとき、減圧蒸発操作中にW/Oエマルションを入れておく容器の内壁が疎水的であれば、後に得られるベシクルへの内包物の内包率を高めることができる(実施例参照)。疎水的な内壁素材としては、オクタデシルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤で表面疎水化したガラス容器やフッ素樹脂系の撥水容器を用いることができる。
【0033】
W/Oエマルションから油相溶媒を除去すると、ベシクル構成脂質に表面を覆われた水相滴が得られる。これに、外水相を添加することで、水相滴を覆うベシクル構成脂質の層が水和され、ベシクルを得ることができる。
【0034】
上記工程を統合することで、各種成分を装置内に導入するだけで、半自動的にベシクルを作製できる装置を作製することができる。図2(a)に装置のフローを図2(b)に装置の構成例を示した。
【0035】
外水相として用いる水溶液は、ベシクル構成脂質層の水和およびベシクルの形成を妨げないものであれば、その組成を制限されない。ただし、10%程度のグリセロール等を添加した不凍水溶液および粒径50nm程度のリン脂質ベシクル懸濁液を外水相として用いると、内包物質の内包率を高めることができる。
【0036】
従来の技術では、マイクロメートルスケールのベシクルに物質を効率よく内包させ、かつ同時に多数の同様なベシクルを製造することは困難であった。本発明技術によれば、数十%程度の内包率で所望の物質を内包したマイクロメートルスケールのベシクルを、同時に多数得ることができる。
【0037】
これにより、ベシクルを利用した生化学反応などの効率化が期待できる。すなわち、反応原料Aを含むベシクルを本発明技術により製造し、これにAと反応する反応原料Bをベシクル外からの膜透過により供給するか、Aを含むベシクルとBを含むベシクルをそれぞれ本発明技術により製造し、それぞれを融合させるなどの方法により、ベシクルの内部で反応を行うことができる。たとえば、反応が起こると蛍光を発する物質を反応成分として用いると、反応が進行したベシクルの内部で蛍光が観察される。
【0038】
本発明により得られるベシクルはマイクロメートルスケールの大きさを持つので、細胞の選別などに用いられるセルソーターのような装置を用いれば、反応が進み蛍光を発するベシクルと、反応が進行しなかったベシクルを容易に選別・分取することができる。この様な原理により、有用な酵素、抗体、核酸などのスクリーニングを行うことが可能になる。
【0039】
以下に具体的な実施例を説明する。
[実施例1]
(ベシクル構成脂質)
中性リン脂質であるフォスファチヂルコリン(以下PCと記す)、代表的なステロール類であるコレステロール(Chol)およびカチオン性脂質であるステアリルアミン(SA)の混合物をベシクル構成脂質として用いた。
【0040】
(均一径W/Oエマルションの製造)
3wt%のソルビタンモノオレエート(商標名Span80)および0.1wt%のSAを含むヘキサンを油相として、pH9のTris-HCl緩衝液を水相として用いた。内包物質は、W/Oエマルション作製用の水相に溶解又は分散させておく必要がある。ベシクルに内包するモデル内包物質としては、蛍光色素カルセインを用い、水相に0.4mmol/Lの濃度で溶解した。
【0041】
W/Oエマルションの製造には、図3に示す実験用クロスフロー型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用した。マイクロチャネル基板としては、オクタデシルトリエトキシシラン処理により疎水化したシリコン製のものを用いた。
【0042】
マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約15,2,5μmであった。オクタデシルトリエトキシシランにより疎水化処理を行ったガラス板にマイクロチャネル基板を圧着させ、形成したチャネルの出口側に油相ヘキサン溶液を満たしておき、チャネルの入り口側から水相を供給して、均一径W/Oエマルションを製造した。
【0043】
図4は得られたエマルションの顕微鏡写真であり、得られたエマルションの直径は4~6μmでほぼ均一であり、図5に示す蛍光顕微鏡観察の結果、水相液滴のみが蛍光を発していることが観察され、内包物質カルセインはエマルションの水相液滴中に含まれていることが確認された。
【0044】
(カルセイン内包ベシクルの製造)
上記の方法により得られたW/Oエマルションを液体窒素中で凍結させ、-10℃の低温室内に保存した。この処理により、油相が液体、水相が固体(氷)の状態のエマルションを得ることができた。温度を-10℃に保ったまま、エマルションを30分間静置し、水相滴を沈降させた後、上清(油相)の95%(体積割合)を吸引除去した。残ったエマルションを、PC、Chol、SAを含むヘキサン溶液で20倍に希釈し、全体をよく撹拌した。PC、Chol、SAのモル比は5:5:1とし、総脂質濃度は1.6g/Lとした。
【0045】
再びエマルションを30分間静置し、上清の90%を除去後、残ったエマルションを上記ベシクル構成脂質を含むヘキサン溶液で10倍に希釈し、エマルション全体を撹拌した。
【0046】
さらにエマルションを30分間静置して水相を沈降させ、上清の60%を除去し、残渣を上記ベシクル構成脂質を含むヘキサン溶液で2.5倍に希釈した。エマルション中の水相濃度を調整した後、エマルションを同ヘキサン溶液で2倍に希釈し、10mg/mLの濃度で水相を含むW/Oエマルションを得た。
【0047】
この操作によりW/Oエマルションの作製に用いたSpan 80はおよそ1000分の1の濃度にまで希釈され、エマルションに含まれる全脂質(乳化剤も含む)の95%以上がベシクル構成脂質に置換されていることを、高速液体クロマトグラフィーにより確認した。
【0048】
温度を-10℃に保ったまま、乳化剤の置換操作後のW/Oエマルションを任意濃度のベシクル構成脂質を含むヘキサン溶液で10倍に希釈し、脂質濃度0.02~1.6mg/mL、水相濃度1mg/mLのW/Oエマルションとした。
【0049】
このエマルション中に含まれる油相溶媒ヘキサンを、-5~-10℃、15~20 hPaの条件下でロータリーエバポレーターにより蒸発除去した。図6(a)と(b)は凍結操作前の水滴の状態を示す蛍光顕微鏡写真であり、(c)と(d)は水滴を凍結しヘキサンを蒸発除去した後の凍結粒子の状態を示す顕微鏡写真である。この写真から凍結した水滴は連続相除去後にもその形状を維持していることが分かる。
【0050】
上記につづいて4℃下で外水相として50mmol/L、pH9Tris-HCl緩衝液を0.05~1mL添加して、凍結した水相滴を覆う脂質薄膜を水和した。同様の緩衝液により全量を任意の割合で希釈した後、室温下で静置してベシクル懸濁液を得た。
【0051】
本実施例により製造されたベシクルの顕微鏡写真を図7下段に示す。得られたベシクルの多くは、直径が1~10μmの範囲にあり、基材として用いたW/Oエマルション(図7上段)の大きさを反映していた。また、ベシクルの内部にカルセインの蛍光が認められ、内包物質として用いたカルセインがベシクルに内包されていることが確認された。Okuらの方法(Oku et al.: Biochim. Biophys. Acta, vol. 691, 332-340, 1982)により測定したカルセインの内包率は、約12%だった。
【0052】
[実施例2]
実施例1の手順を改良し、カルセインの内包率の向上を図った。使用する外水相としては、20mmol/LのPCによりなる50nmのベシクル懸濁液および10wt%のグリセロール溶液を用いた。また、ヘキサンの蒸発除去および脂質膜の水和の際に用いる容器として、表面を疎水化したガラス製容器を使用した。
【0053】
(50nmのベシクル懸濁液の製造)
2wt%のPCを含むクロロホルムをガラス容器中に入れ、減圧下でクロロホルムを蒸発除去し、ガラス容器底面にPCの薄膜を形成させた。これに、Tris-HCl緩衝液(50mmol/L、pH9)をPC濃度が20mmol/Lになるように添加し、激しく振盪撹拌することでPC薄膜を水和し、多層ベシクル懸濁液を得た。この懸濁液に対し、液体窒素中で凍結後、室温水槽中で融解させる操作を5回繰り返した。得られた懸濁液を400、200、100および50nmのポリカーボネートフィルターに順次それぞれ10回ずつ強制透過し、直径50nmのベシクル懸濁液を得た。
【0054】
(10wt%グリセロール溶液の製造)
グリセロールを、10wt%の濃度になるようにTris-HCl緩衝液(50mmol/L、pH9)に溶解し、グリセロール溶液とした。
【0055】
(ガラス容器表面の疎水化処理)
パイレックスガラス製試験管内に、5wt%のオクタデシルトリエトキシシランを含むトルエンを満たし、110℃の油浴中で60分間、トルエンを還流させながら試験管内の疎水化処理を行った。処理後は、トルエン、ヘキサン、50%エタノール水溶液、脱イオン水の順で洗浄した。
【0056】
(プロセスの改良による内包率の向上)
実施例1と同様にしてマイクロチャネル乳化法により調製し、同様の手順で乳化剤の置換、油相溶媒の除去を行った。つづく脂質薄膜の水和処理においては、次のような操作を行った。
(1)Tris-HCl緩衝液(50mmol/L、pH9)を添加して脂質薄膜を水和(=実施例1)
(2)系に添加する外水相として上記の直径50nmのベシクル懸濁液を使用して脂質薄膜を水和
(3)-2℃の温度下で10%グリセロール溶液を用いて脂質薄膜を水和したのち、上記の直径50nmのベシクル懸濁液を添加
(4)上記(3)と同様の操作を上記疎水化ガラス容器中で行い脂質薄膜を水和
これらの各処理によって得られたベシクルへのカルセインの内包率を図8に示した。図中のデータに添えられた数字(1)~(4)は、上記操作(1)~(4)の結果と対応している。図に示したように、上記の改良によりカルセインの内包率は向上し、(4)の方法では実施例1における値の3.6倍に相当する43%もの高い内包率を達成することができた。
【0057】
[実施例3]
実施例1において使用したW/Oエマルションを製造するために使用するマイクロチャネル基板として、テラス長、チャネル深さおよびチャネル幅がそれぞれ30、11および16μmのものを用いたところ、平均粒径36μmの均一径W/Oエマルションが得られた。これを基材として、実施例1と同様の手順でベシクルを作製したところ、ベシクル内にカルセインを内包し、ほぼ40μmに直径のピークを持つベシクルを得ることができた(図9)。
【0058】
すなわち、本発明技術は、種々のマイクロチャネル基板を用いて異なるサイズのW/Oエマルションを製造し、これを基材としてベシクルを作製することで、所望の大きさのベシクルを効率的に製造できるものであることが示された。
【0059】
[実施例4]
ベシクルに内包する内包物質として、多糖類デキストラン(蛍光標識品、分子量約4000~40,000)および酵素α-キモトリプシン(分子量25310)を用いた。実施例1と同様の手順で、W/Oエマルション作製用の水相にこれらを溶解して、実施例1と同様の操作によりベシクルを製造した。その結果、デキストランでは、6~10%、α-キモトリプシンでは45%の内包率で、それぞれを内包したベシクルがえられ、本発明がカルセインのみではなく、高分子物質の内包化にも適用できることが示された。なお、内包されたα-キモトリプシンの比活性は、内包前の80%以上であったことから、本発明技術は、酵素などの生体成分の活性を高く維持したまま内包化できる技術であることも確認できた。
【0060】
[実施例5]
W/Oエマルションを製造する際の乳化剤として、ソルビタン脂肪酸エステルを用いずに、ベシクル構成脂質を直接用いて均一径W/Oエマルションを製造することで、ベシクル製造工程の効率化を図った。
【0061】
マイクロチャネル基板として、テラス長、チャネル深さおよびチャネル幅がそれぞれ20、2および10μmのものを用い、実験用クロスフロー型マイクロチャネルモジュールを利用して実施例1と同様にW/Oエマルションを製造した。ただし、油相としてはPC、Chol、SAをヘキサン中にモル比5:5:0または5:5:1、総脂質濃度1.6~8mg/mLになるように溶解したもの、水相としては0.4mmol/Lのカルセインおよび0~0.5mol/LのNaClを含むTris-HCl緩衝液(50mmol/L、pH9)を使用した。
【0062】
PCおよびCholのみを含むヘキサン溶液を油相とした場合、均一径のW/Oエマルションは得られなかった。また、PC:Chol:SA=5:5:1の脂質を用いた場合、脂質濃度が1.3mg/mLのときには図10(a)に示すように均一径のエマルションが得られなかったが、同様の脂質組成で脂質濃度を6.5mg/mLに増加させると、図10(b)に示すように均一系W/Oエマルションを得ることができた。
【0063】
内水相中にNaClを添加しておくと、より低い脂質濃度でも均一径W/Oエマルションが得られた。以上の結果を表1にまとめた。この結果から、SA(50nmベシクル)などの荷電脂質の添加およびNaClなどの塩の添加が、W/Oエマルションを安定に作製するために有効であることが示された。
【0064】
【表1】
JP0004009733B1_000002t.gif

【0065】
このW/Oエマルションを液体窒素中で凍結させ、-20℃の低温室に保存することで、油相は液体、水相は固体の状態のエマルションとした。任意量の油相を除去後、任意濃度のベシクル構成脂質を含むヘキサンを添加してエマルション中の水相濃度と脂質濃度を調整したのち、実施例1と同様にして-5~-10℃、15~20hPaでヘキサンを除去した。これに、4℃の条件下でTris-HCl緩衝液(50mmol/L、pH9)を添加して水相滴を覆う脂質薄膜を水和したのち、同緩衝液をさらに添加してベシクル懸濁液を得た。本手順によっても、カルセインを内包したベシクルが得られることが蛍光顕微鏡観察により確認できた。このときのカルセインの内包率は約18%であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)~(d)は本発明におけるベシクル作製過程の概略を示す図
【図2】(a)は装置のフローを示す図、(b)は装置の構成例を示す図
【図3】(a)はクロスフロー型マイクロチャネル乳化装置モジュールの斜視図、(b)は同モジュールの要部拡大図
【図4】実施例1のW/Oエマルションの顕微鏡写真
【図5】水相液滴のみが蛍光を発している状態を示すW/Oエマルションの顕微鏡写真
【図6】(a)、(b)は凍結前の水滴、(c)、(d)は凍結してヘキサンを蒸発除去した後の凍結水滴の状態を示す顕微鏡写真
【図7】実施例1により製造されたベシクルの顕微鏡写真
【図8】実施例2により製造されたベシクルへのカルセインの内包率を示す図
【図9】実施例3により製造されたベシクルへの粒径分布を示す図
【図10】(a)及び(b)は脂質濃度によるW/Oエマルションの均一性への影響を示す図
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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