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明細書 :発振素子アレーの発振位相制御装置及びその制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4724864号 (P4724864)
公開番号 特開2008-289098 (P2008-289098A)
登録日 平成23年4月22日(2011.4.22)
発行日 平成23年7月13日(2011.7.13)
公開日 平成20年11月27日(2008.11.27)
発明の名称または考案の名称 発振素子アレーの発振位相制御装置及びその制御方法
国際特許分類 H04B   7/10        (2006.01)
H04B   7/06        (2006.01)
FI H04B 7/10 A
H04B 7/06
請求項の数または発明の数 4
全頁数 18
出願番号 特願2007-134625 (P2007-134625)
出願日 平成19年5月21日(2007.5.21)
審査請求日 平成22年4月20日(2010.4.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
発明者または考案者 【氏名】田中 久陽
【氏名】増形 惣
個別代理人の代理人 【識別番号】100122884、【弁理士】、【氏名又は名称】角田 芳末
【識別番号】100133824、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 仁恭
審査官 【審査官】石田 昌敏
参考文献・文献 特開2002-299943(JP,A)
調査した分野 H04B 7/02-7/12
H04L 1/02-1/06
H04B 1/02-1/04
H01Q 3/00-3/46
H01Q 21/00-25/04
H03L 1/00-9/00
G01S 3/00-3/74
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
特許請求の範囲 【請求項1】
ほぼ同一の所定の発振周波数で発振可能な複数の発振素子を電磁的にアレー状に結合した発振素子アレーと、
前記発振素子アレーの一方の端に位置する発振素子に対して、前記発振周波数より大きく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れた周波数の外部同期信号を注入し、また、前記発振素子アレーの他方の端に位置する発振素子に対して、前記発振周波数より小さく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れた周波数の外部同期信号を注入する同期信号注入手段と、を有し、
前記発振素子アレーの少なくとも端に位置する前記発振素子を除く複数の発振素子を有効として出力を得る、
ことを特徴とする発振素子アレーの発振位相制御装置。
【請求項2】
前記発振素子アレーのうち有効とされた複数の発振素子(以下、「有効発振素子」と称す。)の自然角速度をΩ、前記有効発振素子の自然角速度に対する前記発振素子アレー端に位置する発振素子の角速度の変位量を±Δω、前記発振素子アレー端に位置する発振素子に印加される変調信号をAinjsin(Ω±Δω)tとしたとき、隣接する有効発振素子間の位相差Δφが、
Δφ=sin-1(Ainj/2Δω)
で表され、ただし、|Δω|>1に選定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の発振素子アレーの発振位相制御装置。
【請求項3】
前記有効発振素子はそれぞれ個別にアンテナ装置と接続しており、前記有効発振素子の出力に基づいて前記アンテナ装置の指向性を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発振素子アレーの発振位相制御装置。
【請求項4】
複数の発振素子を電磁的にアレー状に結合して発振素子アレーを配し、
各発振素子の発振周波数を所定の周波数に選択し、
前記発振素子アレーの一方の端に位置する発振素子に対して、前記発振周波数より大きく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れた周波数の外部同期信号を注入し、
同時に、前記発振素子アレーの他方の端に位置する発振素子に対して、前記発振周波数より小さく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れたる周波数の外部同期信号を注入し、
前記発振素子アレーの少なくとも端に位置する発振素子を除く複数の発振素子を有効として出力を得る、
ことを特徴とする発振素子アレーの発振位相制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、発振素子アレーを構成する発振素子の発振位相を制御する発振素子アレーの発振位相制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミリ波あるいはミリ波以上の高周波信号を発生する電子デバイス(発振素子、発振器等)は、それ自体が微細な構造のため、本質的に、1つ1つの出力パワーが小さい。したがって、多数の発振器を集積することにより、出力パワーを合成することが必要となる。そのため、高周波の発振器を1次元あるいは2次元アレー状に配置して複数の発振器の合成出力パワーを得ることが提案されている。
【0003】
このように、複数の発振器を配置して、隣接する発振器間を何らかの方法(例えば、電磁気的結合)により相互作用させたシステムは多くの分野で応用が知られている。その例として、ミリ波のビーム走査回路、あるいはロボテクスにおける運動パターンジェネレータ(CPG:Central Pattern Generator)が広く知られている。運動パターンジェネレータにこのシステムを応用することにより、例えば爬虫類や魚類のような動き、鳥類や昆虫の羽ばたきのような動きを再現することができる。
【0004】
しかしながら、アレー状に配置した発振器間の発振信号の位相差にばらつきがある場合、十分な合成出力パワーを得ることができない。したがって、各発振器間において発振信号の位相差を同期させる必要がある。
【0005】
例えば、アレー状に配置した発振器(以下、「発振器アレー」という。)を用いたアンテナシステム等においてビームの指向性(ビームパターン)の制御を行う際、隣り合う発振器の発振位相差をある所望の一定値とする必要がある。例えば図8に示すようなN個の発振器101が配置されてなる1次元発振器アレーの場合、各発振器から出力されるビーム103の間に一定の位相差が実現されると、破線で示すように等位相面104が定まり、この等位相面104に対して垂直な方向のときにビームの強度が最大となる。そこで、各発振器の発振位相を制御することにより、このビームの指向性を制御することができる。
【0006】
従来、大別して2種類の発振器の制御手法が知られている。1つ目は、各発振器101を個別に制御して、その全ての発振位相を別々に操作することにより、ビームの指向性を制御する手法(従来技術(1))である。
【0007】
2つ目は、1次元発振器アレーの中の少数の発振器101(例えば、発振器アレー両端の発振器101)のみを制御して、全体の発振器の発振位相を自律的に制御する手法(従来技術(2))である。
【0008】
ここで、従来技術(2)について図9を参照して詳細に説明する。図9は、従来技術(2)の1次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成図である。図9に示すように、従来技術(2)の発振位相制御装置は、N個(2個以上)の自励式の発振器101で構成された1次元発振器アレーと、自励式の発振器101のそれぞれに接続されたN本のアンテナを有する。図9では記載を省略してあるが、破線部分の領域には、それぞれにアンテナ102と接続した複数の発振器101が配置してある。この従来技術(2)で1次元発振器アレーのビーム指向性を制御するためには、1次元発振器アレー内の全ての発振器が相互作用により引き込み同期(相互注入同期)を達成している必要がある。
【0009】
図9に示す1次元発振器アレーの発振位相制御装置おいて、左端からi番目(iは自然数)の発振器の発振位相θiの時間変化を示した式は、動作方程式と呼ばれている。この図9に示す従来技術(2)のi番目の発振器の動作方程式は、ある条件下において以下に示すような微分方程式で与えられることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。i番目の発振器の自然発振位相の時間変化(=dθ/dt)をθiの上にドットを付けて表すと、次式となる。
【0010】
【数1】
JP0004724864B2_000002t.gif
で表される。
【0011】
ここで、θ,ω,Aはそれぞれi番目の発振器の発振位相、自然角速度、発振振幅を表わしている。また、κ,Φはそれぞれ、発振器間の相互作用の強さと遅延に対応する定数で、各発振器及び発振器アレーの構成によってその値が決定される。いま発振器間の結合は通常Φ~0となるように調整可能であるので、以降Φ=0となる場合について記述する。
【0012】
従来技術(2)のシステムにおいて、各発振器が出力する発振信号に遅延がないものと考え、式(1)左辺の遅延に関する定数Φ=0と仮定する。さらに、発振位相θを正規化することにより発振器間の相互作用の強さに関する定数κ=1となる。
【0013】
ところで、この従来技術(2)では、定常状態のとき全ての発振器間において均一な発振位相差θ-θi+1≡Δφを得ることを目的としている。そのため、通常、全ての発振器の発振周波数及び発振振幅の特性は均一にする必要がある。したがって、発振器101の自然角速度ω及び発振振幅Aを定数とみなせる。ここでは、自然角速度ω=Ω、発振振幅A=1とする。これらの条件を式(1)に適用することにより、以下のように簡略化することができる。
【0014】
【数2】
JP0004724864B2_000003t.gif

【0015】
従来技術(2)では、式(2)-1,3において、ω=Ω+Δω,ω=Ω-Δωとなるように1番目の発振器101とN番目の発振器101の自然周波数(すなわち自然角速度)を調整することが本質的である。Δωは、発振器アレー両端に位置する発振器101の自然角速度ω,ωの、i番目の発振器101の自然角速度Ωに対する変位(変位量ともいう。)である。定常状態において得られる発振器間の位相差Δφ(=θi-θi+1)は、どの発振器間においても常に等しい。そこで、一番簡単な式(2)-3を用いて定常状態における発振器間の位相差Δφの求め方を説明する。
【0016】
まず、簡略化のため、式(2)-3の右辺にθ=φ+Ωtを代入し、θからφへの座標変換を行う。前述したように、1次元発振器アレーは定常状態において、任意の発振器101と隣接する発振器101との位相差は常に一定となっており、時間による位相差の変化を考えなくてよい。つまり、φは、時間的に変化しない定数である。ここで、θ=φ+Ωtの両辺を時間について微分すると、φは定数であるので、dθ/dt=Ωとなる。式(2)-3を座標変換した式の左辺にdθ/dt=Ωを代入することにより、隣接する発振器間の位相差Δφと角速度の変位Δωの関係を示す式(3)が求まる。
【0017】
【数3】
JP0004724864B2_000004t.gif

【0018】
ここで、式(3)における位相差Δφと角速度の変位Δωの関係を、図10に示す。縦軸が位相差Δφを表しており、横軸が角速度の変位Δωを示している。図10中、破線で囲まれた領域(|Δω|<1)は引き込み領域と呼ばれ、従来技術(2)において角速度の変位Δωがこの領域内の値をとるとき、発振器アレーの各発振器は、引き込み同期状態となる。また、従来技術(2)において、引き込み領域以外(|Δω|>1)は同期はずれ領域であり、このとき、発振器アレーの各発振器は同期しない。
【0019】
従来技術(2)において発振器アレーの発振位相の制御を実現するには、隣接する発振器101が互いに引き込み同期状態にあることが重要である。つまり、図10の位相差Δφと角速度の変位Δωの関係図に示す引き込み領域内に角速度の変位Δωを設定しなければならない。すなわち、発振器アレー両端に位置する発振器の角速度の変位Δωの絶対値が1より小さくなることが必要条件である。
【0020】
そして、隣接する発振器101間の位相差Δφに基づいて各発振器101が出力する発振信号の等位相面が求められ、発振器アレーのビームパターン(ビーム指向性)が決定される。
【0021】
以上の式変形から、従来技術(2)は、発振器アレーの両端に位置する発振器の発振周波数(角速度)を適切な値に設定することにより、発振器アレー両端の発振器以外の隣り合う発振器の位相差Δφを制御し、ビームの指向性を制御するものであるということが理解できる。
【0022】

【非特許文献1】P. Liao and R. A. York, “A New Phase-Shifterless Beam-Scanning Technique Using Arrays of Coupled Oscillators”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., special issue on quasi-optical techniques , October 1993, vol. MTT-41, pp. 1810-1815.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、従来技術(1)は、発振器アレー内の各発振器を個別に制御するので、全ての発振器に位相器等の制御手段を付加して、これらを統括して制御する必要があり、これは発振器アレーが大規模なものである場合、経済的及び技術的に実現が困難である。
【0024】
また、従来技術(2)において、一例として発振器アレーを構成する全ての発振器が相互に同期していて、その発振周波数が10GHzである場合を考えたとき、例えばビームの指向性を+12.5°に設定したとする。その場合、非特許文献1によれば、発振器アレー両端の発振器の発振周波数はそれぞれ、9.985GHzと10.015GHzとなることが要求される。このことは両端の発振器の周波数の制御を数kHzの高い精度で行われなければならないことを示しており、技術的に困難をともなう。
【0025】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、複数の発振器から構成される発振器アレーのビームの指向性を、容易に制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の発振素子を電磁的にアレー状に結合して発振素子アレーを配し、まず各発振素子の発振周波数を所定の周波数に選択する。次に、発振素子アレーの一方の端に位置する発振素子に対して、上記発振周波数より大きく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れた周波数の外部同期信号を注入する。同時に、発振素子アレーの他方の端に位置する発振素子に対して、上記発振周波数より小さく、かつ各発振素子が同期する周波数範囲から外れたる周波数の外部同期信号を注入する。そして、発振素子アレーの少なくとも端に位置する発振素子を除く複数の発振素子を有効として出力を得る。
【0027】
これにより、発振器アレーを構成する複数の発振器に対して、少なくとも端に位置する発振素子を除く複数の発振素子の間の位相差を制御することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明による発振器アレーの発振位相制御装置及びその制御方法によれば、発振器アレー両端の発振器に印加する外部同期信号の周波数の調整を柔軟にし、同期信号の振幅によって発振器アレーの各発振器の発振位相を制御することができる。したがって、これまでに存在しなかった同期信号の振幅による制御方式を与えるとともに、従来技術と比較して精度の高い位相制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の第1の実施形態の例について、図1~図6を参照しながら説明する。本実施形態の発振器アレーの発振位相制御装置は、1次元発振器アレーの発振位相制御装置に適用した例としてある。なお、図1~図6において、背景技術の説明で参照した図8~図10及び式(1)~式(3)と対応する部分及び変数等には、同一符号又は同一記号を付し、説明は省略する。
【0030】
図1は、1次元発振器アレーの発振位相制御装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の発振器アレーの発振位相制御装置は、所定の角速度(周波数)で自励発振するN個の発振器1を一列に配列して隣接する発振器を接続した構成である。ただし、説明の便宜上、両端の発振器に対してそれぞれ符号1A,1Bを付すとともに、発振器の当該1次元発振器アレー内での順番を括弧内に示す。1次元発振器アレーの両端の発振器1A,1Bと該両端から2番目の発振器1を除く全ての発振器1には、信号電波を放射するためのアンテナ2がそれぞれ接続されている。なお、図1では記載を省略しているが、1次元発振器アレーの発振位相制御装置の破線部分には、アンテナ2が接続された3番目~(i-2)番目までの発振器1及び(i+2)番目~(N-2)番目までの発振器1が接続されている。ここで、iは、Nより小さく、1より大きい自然数である。各発振器は特許請求の範囲に記載した発振素子の一例であるが、高周波信号を発生する電子デバイスであればこの例に限られない。
【0031】
また、図1に示す1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、1次元発振器アレーの両端に位置する発振器1A,1Bにそれぞれ同期信号を注入するための発振器3A,3B、及び、これら発振器3A,3Bから出力される信号を増幅する可変増幅器4A,4Bを備える。発振器3A,3Bは、特許請求の範囲に記載された同期信号注入手段の一例である。説明の便宜上、発振器3A及び発振器3Bは、0番目及びN+1番目の発振器と定義する。
【0032】
自励式の発振器1,1A,1Bは同一特性を備えており、図2(a)に示すように、例えばコンデンサ11と、コイル12と、定抵抗素子13と、非線形抵抗素子14の直接接続から構成されている。非線形抵抗素子14の出力電圧に基づく出力信号Vを定抵抗素子13から得て、アンテナ装置2へ出力する。なお、本実施形態で用いる発振器は、自身の出力信号と入力信号との位相差を検出し、その位相差に基づいて出力信号の周波数を一定に制御するPLL機能を備え、発振周波数を一定に保つようにしてもよい。
【0033】
図2(b)は、図2(a)に示した複数の発振器1相互の結合状態を示す等価回路であり、図1に示した1次元発振器アレーの発振器1を連続して接続した形態を示している。この回路構成から、隣接する発振器1は、相互に電磁気学的な作用を及ぼし合い、各発振器1の発振信号の特性が変化することが理解できる。なお、図2(a),(b)に示した発振器の等価回路及び発振器を結合させたときの等価回路は一例であって、この例に限られるものではない。
【0034】
次に、図1に示す1次元発振器アレーの両端の発振器1A,1Bにそれぞれ外部から同期信号を注入した場合における、各発振器についての動作方程式を説明する。例えば、発振器1A及び発振器1Bにそれぞれ注入する同期信号を、正弦波信号Ainjsin(Ω±Δω)tとする。ここで、振幅Ainj=1、かつ角速度の変位Δωが十分小さい(|Δω|<1)のとき、これは従来技術(2)において発振器アレーの両端の発振器101(図9参照)そのものを外部からの同期信号とみなした場合と等価である。この場合、図1に示した1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、従来技術(2)に係る発振器アレーの発振位相制御装置とまったく同等なものとなり、従来技術(2)の発振器アレーの発振位相制御に関連した式(3)が成り立つこととなる。
【0035】
これに対し、本出願人は、上記同期信号Ainjsin(Ω±Δω)tにおいて、(|Δω|>1)として1次元発振器アレーの動作を制御することを提案する。つまり、同期信号の角速度の変位Δωと発振器間の位相差Δφの関係において、従来技術(2)が引き込み領域(lock-in)を用いるのに対して、本発明では同期外れ領域(Out of lock)を用いて発振位相制御を行うのである。この本発明による発振位相制御方法を採用した場合、1次元発振器アレーの動作は従来技術(2)のそれと本質的に異なるものになる。以下、本発明による発振位相制御方法について説明する。
【0036】
図1に示す1次元発振器アレーの各発振器についての動作方程式は、従来技術(2)と同様、式(1)で与えられる。しかし、1次元発振器アレーの両端に位置する0番目の発振器3A及びN+1番目の発振器3Bは、従来技術(2)の1次元発振器アレーの両端の発振器101とは異なり、同期信号Ainjsin(Ω±Δω)t[|Δω|>1)]が印加されることを考慮して式変形を行う必要がある。つまり、式(2)を求める際に使用した各条件、ω=Ω,A=1(1<i<N),κ=1、に加えて、ω=Ω+Δω,ωN+1=Ω-Δω,A=AN+1=Ainjという条件を加えて式(1)の変形を行う。すると、図1に示す1次元発振器アレーを構成する1番目の発振器1A、2番目からN-1番目の発振器1、N番目の発振器1Bについての動作方程式は、式(1)から次式のように簡単化される。
【0037】
【数4】
JP0004724864B2_000005t.gif

【0038】
続いて、式(4)-1~3の左辺にθ=Ωt+φ(i=1,…,N)を適用して、θ→φへの座標変換を行うと、次のようになる。
【0039】
【数5】
JP0004724864B2_000006t.gif

【0040】
次に、この式(5)-1~3に対し、変数φについて非線形変換と平均化の手法を用いて、数学的近似を行うと、以下のような実質的に等価な式(6)-1~3が得られる。
【0041】
【数6】
JP0004724864B2_000007t.gif

【0042】
本実施形態の1次元発振器アレーの動作が定常状態である場合、時間変化がないので、式(6)-1~3の左辺(dφ/dt)=0となる(θ=Ωt+φより)。このΩを一例として式(6)-3の左辺に代入することにより、位相差Δφ(θi-1-θ=φi-1-φ)は以下の式で与えられる。
【0043】
【数7】
JP0004724864B2_000008t.gif

【0044】
この式(7)は、本発明による発振器の発振位相制御方法の理論を裏づけている点で重要である。式(7)より、図1に示す1次元発振器アレーにおいては、従来技術(2)と異なり、隣接する発振器間での位相差Δφは注入される同期信号の振幅Ainjの2乗に比例して与えられ、角速度の変位Δωに反比例することが理解できる。つまり、注入する同期信号の角速度の変位Δωを固定すれば、振幅を調整するだけで、発振器間の位相差を所望の値に変化させることができる。
【0045】
なお、1次元発振器アレーの両端の発振器に注入する同期信号として正弦波を例に説明したが、パルス波及び矩形波等の所定周期を持つ信号を使用した場合にも、正弦波と同等の効果が得られることが確認できている。
【0046】
次に、図1に示した1次元発振器アレーの動作を、図3を参照して説明する。図3は、1次元発振器アレーの動作の説明に供する図であり、上段に1次元発振器アレーの構成、中段に発振位相特性、下段に隣接する発振器間の位相差Δφを示している。
【0047】
図3の中段に示す発振位相特性20は、本実施形態の1次元発振器アレー中の1番目からN番目の発振器1とそれに対応する発振位相の関係を示しており、グラフの縦軸は発振位相、横軸は発振器の番号を表す。この例では、同期信号注入前の両端の発振器1A,1B、それらの間の発振器1の発振周波数をそれぞれ、例えば10GHzとし、この同期信号の振幅をある一定値に設定している。この例では、説明の便宜上、1次元発振器アレーの両端の発振器を含む7個の発振器から得たデータをプロットした。
【0048】
この発振位相特性20は、動作方程式の式(4)に基づいて得られたものである。発振位相特性20は、ある瞬間において一定勾配をとる領域と発振位相が安定しない領域に分かれていることが確認できる。例えば1次元発振器アレー端に位置する1番目の発振器1A(同期信号の周波数が高い:12GHz)からN番目の発振器1B(同期信号の周波数が低い:8GHz)に向かって下っている。また、1次元発振器アレーの両端の発振器1A,1Bは全体との同期がはずれているので発振位相が安定しない。さらに、1次元発振器アレーの両端に隣接する2番目と(N-1)番目の発振器1もそれぞれ発振位相の安定度が低くなっているが、これは、両端の発振器1A及び1Bによる引き込みの影響と考えられる。
【0049】
一方、1次元発振器アレーの隣り合う発振器間の位相差の関係は、図3の下段に示す最小位相差特性28及び最大位相差特性29のようになる。この例では、両端と中央の7箇の発振器についてデータ(21~27)をプロットした。この最小位相差特性28及び最大位相差特性29は、それぞれ隣接する発振器との最小位相差と最大位相差を表している。図3の例から位相差特性28,29は、1次元発振器アレーの端部近傍の1番目の発振器1Aと2番目の発振器1、及び、(N-1)番目の発振器1とN番目の発振器1Bから取得した位相差が大きくなっている。これに対して、1次元発振器アレーの中央部の(i-1)番目,i番目,(i+1)番目の各発振器1は隣り合う発振器との位相差が一定している。つまり、図1に示した1次元発振器アレーの端部近傍を除いたその他の発振器は互いに定常な発振位相の位相差を保持することが理論上確認できる。
【0050】
また、最小位相差特性28及び最大位相差特性29はそれぞれ、発振器アレー両端と中央部近傍の発振器との間で、その値に差が見られる。このことは、発振器アレー両端における発振器から取得した隣接発振器との位相差は、時間的に変動することを示唆しており、定常状態ではないことが理解できる。
【0051】
なお、1次元発振器アレーにおいて同期信号が注入される両端の発振器1A及び1Bに加え、それと隣接する2番目と(N-1)番目の発振器1から取得した隣接発振器との位相差もそれぞれ若干大きくなっている。これは、両端の発振器1A及び1Bによる引き込みの影響と考えられる。
【0052】
ところで、式(4)が時間の関数であることからわかるように、1次元発振器アレーの端部近傍を除く中央部の発振器1は、定常状態において隣り合う発振器との位相差を保ったまま、時々刻々と発振位相を変化させている。つまり、図3の中段に示すグラフで発振位相の時間変化を見ると、発振位相特性20は、一定勾配を保ちつつ、縦軸に沿って移動することとなる。
【0053】
また、図3のグラフを作成する際の条件として同期信号の振幅を固定していたが、式(7)からわかるように、この同期信号の振幅を上記値と異なる任意の値に固定することにより勾配を変化させることができる。つまり、この1次元発振器アレーの発振器間の位相差を変化させてビームの指向性を調整することができる。
【0054】
また、1次元発振器アレーの両端の発振器1A,1Bに印加する同期信号の周波数を変えることにより、発振位相特性20の勾配の向きを変えることが可能である。例えば、図3に示す発振器1Aに対して8GHz、発振器1Bに対して12GHzの同期信号をそれぞれ注入した場合、発振器アレー端に位置する1番目の発振器1A(注入同期信号:8GHz)からN番目の発振器1B(注入同期信号:12GHz)に向かって上る勾配となるように変化させることも可能である。
【0055】
以上の結果より、本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相制御方法は、1次元発振器アレーの両端の発振器に対して同期はずれとなる角速度の変位Δω(|Δω|>1)に固定する。このとき、1次元発振器アレーの両端に位置する発振器の発振周波数が全体と同期する範囲から外して固定される。これにより、同期信号の振幅(Ainj)を調節するだけで個々のアンテナ個々から放射される信号電波の位相を変化させることができ、ビーム指向性を制御できる。
【0056】
また、1次元発振器アレーの両端の発振器に対してそれぞれ異なる角周波数の変位を持つ同期信号を与えるときに、その変位の向きを変えることによりビームの向きを調節できる。さらに、同期信号の振幅を変化させることにより、発振器間の位相差、すなわちビームの指向性を制御することができる。
【0057】
以下、式(5)~(7)を用い、本発明による1次元発振器アレーの発振位相制御装置の動作について計算機シミュレーションを行った結果(図4~図6)について説明する。
【0058】
始めに、この計算機シミュレーションを行う理由について説明する。前述したように、式(5)、式(6)及び式(7)は、数学的に等価であると記述している。しかし、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置の動作を示す理論式(5)を式(6)に変形する際、特殊な数学的近似を用いている。また、式(6)から式(7)に変形する際においても、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置が定常状態であり、かつ、この発振位相制御装置を構成する全ての発振器の隣接する発振器との位相差は、常に一定であるという仮定を基に式変形を行っている。そのため、式(5)、式(6)及び式(7)それぞれの計算機シミュレーションの結果について比較を行い、式(6)と本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置の動作を示す理論式(5)の数学的等価の程度、また、式(5)から得られた式(6)の信頼性を検証する必要がある。
【0059】
それとともに、従来技術(2)(図8~図10参照)を用いた計算機シミュレーションも行い、従来技術(2)と提案方式の差を明確にする。また、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置において同期信号の振幅の変化に対する位相差Δφ(ビーム指向性)の変化割合を調査して、実用性の検証を行う。
【0060】
図4(a),(b)は、25個(N=25)の発振器で構成した1次元発振器アレー内での発振位相差の分布を示したグラフであり、縦軸は対象発振器と隣接する発振器との位相差を表し、横軸は対象発振器の番号(1~25番)を示している。
【0061】
図4(a)は、従来技術(2)で得られる式(2)を用いて計算機シミュレーションを行った結果を示している。図4(a)中の右上に示すωは、1次元発振器アレーの各発振器における定常状態前の発振信号の角速度である。したがって、Δω/ωは、その値が大きいほど、1次元発振器アレーの各発振器における定常状態前の発振信号の角速度と実際に注入される同期信号の角速度との変位量が大きいことを表している。この例では簡単のため、ω=1と仮定している。Δω/ωの値が0.3,0.5,1.0の場合のシミュレーション結果を、データ点「●」を基に描画した位相差特性31、データ点「×」を基に描画した位相差特性32、データ点「*」を基に描画した位相差特性33で示す。
【0062】
図4(a)に示す従来技術(2)において特徴的なのは、0番目~25番目まで全ての発振器において、隣接する発振器と変位量にかかわらず常に同じ位相差を示していることである。また、1次元発振器アレーの両端に位置する発振器とその内方の発振器との発振周波数の差を大きくすればするほど、隣接する発振器との位相差が大きくなることが確認できる。
【0063】
図4(b)は、本発明による1次元発振器アレーの発振位相制御装置の各発振器の動作について示した式(5)を用いて計算機シミュレーションを行った結果を示しており、Δω/ωの値が5.0のときに得られるデータ点をプロットしている。データ点「*」は、任意の瞬間の位相差を取得する作業(スナップショット)を5000回実施してその平均値をとったものである。実線で示した位相差特性34はデータ点の最小位相差を示し、破線で示した位相差特性35はデータ点の最大位相差を示している。
【0064】
この計算機シミュレーションにおいて特徴的なのは、最大位相差と最小位相差の値にほとんど差がない領域(発振器の番号i=2~24)と、最大位相差と最小位相差の値に差がある領域(発振器の番号i=1,25)が存在することである。つまり、本実施形態の1次元発振器アレーのより中央に位置する2番目~24番目までの発振器はほぼ定常状態となり発振位相の制御が可能であるが、1次元発振器アレーの両端に位置する1番目及び25番目の発振器は時間により位相差が変動するので、位相差の制御を行うことができないことが確認できる。
【0065】
また、データ点「*」において、本実施形態の1次元発振器アレーのより中央に位置する2番目~24番目の発振器から取得した位相差が一定であることからも、2番目~24番目までの発振器の発振位相の制御が可能である。
【0066】
なお、1次元発振器アレーの両端に隣接する2番目及び24番目の発振器は、両端の発振器からの電磁気的な影響を受け位相差が若干変動する。したがって、より正確なビームの指向性の制御を行いたい場合には、1次元発振器アレーを構成する発振器のうち両端とその隣の発振器を除外して、3番目~23番目の発振器から得られる出力を有効な出力として、アンテナに供給するとよい。
【0067】
図5(a),(b)は、本発明による1次元発振器アレーの発振位相制御装置における同期信号の振幅Ainjと位相差Δφの関係を示すグラフであり、縦軸は隣接する発振器との位相差Δφ、横軸は同期信号の正規化した振幅Ainjを表している。「●」、「×」、「■」のデータ点は、それぞれ式(5)、式(6)、式(7)を用いた計算機シミュレーション結果に対応している。
【0068】
図5(a)は、注入される同期信号の角速度の変位Δω=5.0の場合において、同期信号の振幅Ainjと位相差Δφの関係を示したグラフである。式(5)、式(6)及び式(7)を用いた計算機シミュレーション結果を、データ点「●」、「×」、「■」を基に描画した位相差特性41、位相差特性42及び位相差特性43で示す。この図5(a)において特徴的なのは、計算機シミュレーション用いた式に関わらず、発振器間の位相差Δφと同期信号の振幅Ainjは、常にほぼ等しい関係性を持つという点である。また、同期信号の振幅Ainjを例えば0から3の間で変化させるだけで、位相差Δφを0radから約1.2radの間で制御できることが確認できる。
【0069】
図5(b)は、注入される同期信号の角速度の変位Δω=10.0の場合において、同期信号の振幅Ainjとも位相差Δφの関係を示したグラフである。式(5)、式(6)及び式(7)を用いた計算機シミュレーション結果を、データ点「●」、「×」、「■」を基に描画した位相差特性44、位相差特性45及び位相差特性46で示す。図5(a)と同様、計算機シミュレーションに用いた式に関わらず、発振器間の位相差Δφと同期信号の振幅Ainjは、常にほぼ等しい関係性を持つという特徴が確認できる。また、同期信号の振幅Ainjを0から4.5の間で変化させると、位相差Δφは0radから約1.2radの間で制御できることが確認できる。
【0070】
図5(a),(b)に示すグラフより、位相差Δφを変化させる際、角速度の変位Δωの値を大きく設定するほど、同期信号の振幅Ainjも大きく変化させなければならないことがわかる。すなわち、角速度の変位Δωの値を大きく設定すれば、より精密な発振位相の制御が実現可能になることが理解できる。また、角速度の変位Δωの値を小さく設定すると、同期信号の振幅Ainjの大きさを少し変化させるだけで、位相差Δφが変化することも確認された。位相差Δφを細かく変化させてビームの指向性等を制御したい場合には角速度の変位Δωの値を大きくし、同じ振幅の同期信号を用いて位相差Δφを大きく変化させてビームの指向性等を制御したい場合には角速度の変位Δωの値を小さくするなど、使用目的に応じて、適宜、角速度の変位Δωの値を設定してやればよい。
【0071】
また、図5(a),(b)より、本実施形態に係る1次元発振器アレーの動作を示す理論式(5)、該式(5)の近似を行った式(6)及び該式(6)から直接求めた式(7)の各々における計算機シミュレーションの結果は、ほぼ同様の傾向があることが確認できた。
【0072】
さらに、図5(a)の位相差特性41~43間の差異と、図5(b)の位相差特性44~46間の差異を比較すると、図5(b)の方が小さい。したがって、角速度の変位Δωの値を大きく設定すると、近似により求めた式(6)及び式(7)の近似度が向上すると言える。
【0073】
ところで、式(5)、式(6)及び式(7)を用いた計算機シミュレーション結果が完全には一致しなかった理由としては、上述したように、式(5)から式(6)あるいは式(7)へ変形した際、数学的近似を使用したためであると考えられる。しかし、上記計算機シミュレーション結果の変動の特性(傾向)は一致しているので、式(5)、式(6)及び式(7)は、数学的に等価であることが理解できる。すなわち、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置が定常状態にあるときの各発振器間の位相差は、式(7)で表されることが確認された。つまり、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、同期はずれとなる角速度を持つ同期信号を用いて発振器間の発振位相差の制御が行える、ということが実証された。
【0074】
また、図4及び図5の計算機シミュレーション結果より、1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、少なくとも発振器アレー端の発振器を除き、精度の高い発振位相の制御が行える。さらに、その隣の発振器を除いた場合、より精度の高い発振位相の制御が実現可能である。
【0075】
図6(a),(b)は、本発明の発振位相制御方式及び従来技術におけるノイズ耐性を示すグラフである。縦軸は対象発振器と隣接する発振器との位相差、横軸は発振器の番号(1~25番)を表している。図6(a)は、本発明の発振位相制御方式のノイズ耐性、図6(b)は従来技術(2)のノイズ耐性を示す。
【0076】
前述したように、本発明の1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、1次元発振器アレーの各両端の2個の発振器の発振位相が安定しないことが確認できている。そのため、本発明の発振位相制御方式と従来技術(2)のどちらがノイズに耐性を持つか調査するために、特に3~22番目の発振器に注目して比較を行うことが望ましい。
【0077】
図6(a)のグラフにプロットされているデータ点は、図4(b)と同一の条件下で各発振器にホワイトノイズを付加したときの計算機シミュレーション結果を示す。この例では、各発振器の発振信号のレンジを1としたとき、ホワイトノイズのレンジを±0.2として計算した。データ点「*」は、各発振器においてスナップショットを5000回実施した後の位相差の平均値をプロットしたものである。図6(a)に示すように、定常状態の各発振器において、データ点「*」が最小位相差特性51と最大位相差特性52の間の狭い範囲内に収まっている。
【0078】
図6(b)のグラフにプロットされているデータ点は、図4(a)でΔω=0.7とした条件下で各発振器にホワイトノイズを付加したときの計算機シミュレーション結果を示す。上記と同様、各発振器の発振信号のレンジを1としたとき、ホワイトノイズのレンジを±0.2として計算した。データ点「*」は、各発振器においてスナップショットを5000回実施した後の位相差の平均値をプロットしたものである。図6(a)に示すように、定常状態の各発振器において、データ点「*」が最小位相差特性53と最大位相差特性54の間の狭い範囲内に収まっている。
【0079】
上記比較の結果より、本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置は従来技術(2)と比べて、最小位相差特性と最大位相差特性との位相差が小さく、同等もしくは若干優れたノイズ耐性を持つことが確認できる。
【0080】
以上説明したように本実施形態の1次元発振器アレーの発振位相制御装置は、1次元発振器アレーの両端に位置する発振器1A及び発振器1Bに注入する同期信号の振幅により(式(7)参照)、従来技術(2)より高精度かつ容易に、隣接した発振器との位相差を制御できる。このとき、1次元発振器アレーの両端に位置する発振器が同期はずれとなるように、発振器アレーの両端に位置する発振器に同期信号を送信する発振器3A及び発振器3Bの発振周波数を適当に設定すればよい。その結果として、従来技術(2)のような緻密な周波数設定が要求されない。また、同期信号として、正弦波のみならず、パルス波及び矩形波等も使用可能であるので、従来技術(2)より柔軟な発振位相制御が実現可能である。
【0081】
次に、本発明の第2の実施形態の例について説明する。本発明による発振器アレーの発振位相制御方法は、発振器アレーの構成として、1次元発振器アレーだけではなく2次元発振器アレーにも適用可能である。
【0082】
以下、図7を参照して2次元発振器アレーの発振位相制御装置について説明を行う。図7は、本発明の2次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成及び動作の一例を示した図である。図7に示すように、本実施形態の2次元発振器アレーの発振位相制御装置は、所定周波数の発振信号を生成する複数の発振器1を2次元的に配列して隣接する発振器を接続した構成である。説明の便宜上、2次元発振器アレーの4角の発振器に1A,1B,1C,1Dの符号を付す。また、この2次元発振器アレーの発振位相制御装置は、4角の発振器1A、発振器1B、発振器1C及び発振器1Dに対して、同期信号を注入するための発振器3A、発振器3B、発振器3C及び発振器3Dを備える。これら4角の発振器1A~1Dと同期信号注入用の発振器3A~3Dの間に、可変増幅器4A~4Dが接続される。ただし、図7に示した2次元発振器アレーの発振器の中で、符号を付していない発振器は発振器1と同一構造である。また、図示していないが2次元発振器アレーを構成する各発振器は、図1に示したアンテナ2が各々接続されている。
【0083】
なお、図7に示す本実施形態の2次元発振器アレーは、25個の発振器1を使用して5×5のマトリクス状に配列した例としているが、使用する発振器の個数、マトリクス構成はこの例に限られない。
【0084】
次に、図7に示した2次元発振器アレーの発振位相制御装置の動作について説明する。まず、2次元発振器アレーを構成する発振器(1,1A,1B,1C,1D)の発振周波数を、一例として全て10GHzに設定する。また、2次元発振器アレーの4角の発振器1A~1Dを同期はずれの状態にするために、同期信号を出力する発振器3A~3Dから出力する同期信号の発振周波数をそれぞれ、例えば10GHz、8GHz、10GHz及び12GHzに設定する。そして、適切に設定された可変増幅器4A~4Dを介して、発振器3A~3Dから2次元発振器アレーの4角の発振器1A~1Dのそれぞれに対して、図1の場合と同様に、同期信号Ainjsin(Ω±Δω)t[|Δω|>1)]を各々注入する。
【0085】
その後、定常状態において、2次元発振器アレーの4角に位置する発振器1A~1Dの発振周波数が低い方から高い方へ向かって発振位相勾配が形成される。例えば、図7において、発振器1Aより発振器1Bの方が発振位相は低くなる。また、発振器1Aより発振器1Dの方が発振位相は高くなる。
【0086】
ただし、注入する同期信号の振幅Ainjの大きさにより、1次元発振器アレーの発振位相制御装置の場合と同様にこの勾配は変動する。本実施形態の2次元発振器アレーを構成する発振器の発振位相に関して、図7に示す発振位相特性61,62のように、2次元発振器アレーの中に一定勾配を持つ領域が存在することが確認できる。このことは、本実施形態の2次元発振器アレーの発振位相制御装置においても、時間変化によって発振器間の位相差が変動しないこと意味しており、同期信号の振幅Ainjの大きさを変化させることで、位相差の制御が可能である。
【0087】
さらに、この2次元発振アレーの発振位相制御装置値をアンテナシステムに適用した場合、そのビームの等位相面は2次元平面で表される。この2次元平面の向きを変化させることにより、ビームの指向性などを制御することが可能である。ビームの方向は2次元の等位相面に垂直な方向であって、同期信号の振幅を変化させることにより、その方向を自由に変化させることができる。例えば、図7の例の場合、同期信号注入前のビームは2次元発振器アレーの真上であるが、同期信号注入後の定常状態のとき発振器1Aと発振器1Cを結んだ直線を回転軸として発振器1B側に移動する。
【0088】
このように、本発明による発振器アレーの発振位相制御方法が対象とする発振器アレーとしては、1次元発振器アレーのみならず、2次元発振器アレーにも適用できる。その制御方法は、少なくとも2次元発振器アレーの4角に位置する発振器に同期信号を注入するだけで実現できる。その他、2次元発振器アレーの発振位相制御装置は、前述した1次元発振器アレーの発振位相制御装置と同様の作用・効果を奏する。
【0089】
なお、上述した実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、上述の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以上の説明で挙げた使用材料及びその量、処理時間及び寸法などの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法形状及び配置関係も概略的なものである。
【0090】
また、上述した実施の形態においては、本発明の発振器アレーの発振位相制御装置をアンテナシステム(例えば、ミリ波またはミリ波以上のビーム走査回路)に適用した例を説明したが、その他、ロボテクスにおける運動パターンジェネレータなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成要素の等価回路例を示す図であり、(a)は発振器、(b)は発振器間の結合を示す。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相制御装置の動作の説明に供する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相差分布を示したグラフであり、(a)は従来技術、(b)は本発明の方式によるものである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相制御装置における外部同期信号の振幅と発振位相差との関係を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る1次元発振器アレーの発振位相差分布のノイズ耐性を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る2次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成例を示す図である。
【図8】従来の1次元発振器アレーの発振位相制御装置の指向性制御の説明に供する図である。
【図9】従来方式(2)の1次元発振器アレーの発振位相制御装置の構成図である。
【図10】従来の発振器アレーの発振位相制御に係る引き込み領域と同期はずれ領域を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1、1A、1B、1C、1D…発振器、2…アンテナ、3A、3B、3C、3D…同期信号注入用の発振器、4A、4B、4C、4D…可変増幅器、11…コンデンサ、12…コイル、13…定抵抗素子、14…非線形抵抗素子、101…発振器、102…アンテナ、103…発振信号、104…等位相面
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9