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明細書 :タンパク質および細胞が内壁に固定された中空構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4982752号 (P4982752)
公開番号 特開2008-187906 (P2008-187906A)
登録日 平成24年5月11日(2012.5.11)
発行日 平成24年7月25日(2012.7.25)
公開日 平成20年8月21日(2008.8.21)
発明の名称または考案の名称 タンパク質および細胞が内壁に固定された中空構造体
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12M   1/42        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12M 1/42
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2007-022637 (P2007-022637)
出願日 平成19年2月1日(2007.2.1)
審査請求日 平成21年10月16日(2009.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】梶 弘和
【氏名】西澤 松彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100098729、【弁理士】、【氏名又は名称】重信 和男
【識別番号】100116757、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 英雄
【識別番号】100123216、【弁理士】、【氏名又は名称】高木 祐一
【識別番号】100089336、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 佳直
【識別番号】100148161、【弁理士】、【氏名又は名称】秋庭 英樹
審査官 【審査官】清水 晋治
参考文献・文献 特開2005-021082(JP,A)
特表2005-535354(JP,A)
特開平08-173144(JP,A)
特開平07-308186(JP,A)
国際公開第2005/111630(WO,A1)
特許第4604216(JP,B2)
梶弘和, 西澤松彦,電気化学的なバイオリソグラフィー,電気学会バイオ・マイクロシステム研究会資料,2005年,Vol.BMS-05 No.26-32,Page.15-18
Langmuir. 2006, Vol.22, No.25, p.10784-10787
調査した分野 C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
正電荷を帯びた中空構造体内壁表面に負電荷を帯びたタンパク質非吸着性物質を積層し
て形成したタンパク質非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の外部からその内部に刺入
した電極に酸化電位もしくは酸化電流を印加して生成される活性化学種により、タンパク
質非吸着性表面を局所的にタンパク質吸着性表面に改質し、局所的に改質した領域にタン
パク質が固定されていることを特徴とする中空構造体。
【請求項2】
正電荷を帯びた中空構造体内壁表面に負電荷を帯びたタンパク質非吸着性物質を積層し
て形成したタンパク質非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の外部からその内部に刺入
した電極に酸化電位もしくは酸化電流を印加して生成される活性化学種により、タンパク
質非吸着性表面を局所的にタンパク質吸着性表面に改質し、局所的に改質した領域に細胞
接着性タンパク質を吸着させ、該細胞接着性表面に細胞が固定されていることを特徴とす
る中空構造体。
【請求項3】
正電荷を帯びた中空構造体内壁表面がカチオン性ポリマーで形成されていることを特徴
とする請求項1または2に記載の中空構造体。
【請求項4】
活性化学種は、ハロゲン化物イオンを酸化させて生成された活性ハロゲン種であること
を特徴とする請求項1に記載の中空構造体。
【請求項5】
活性ハロゲン種は、次亜臭素酸(HBrO)または次亜塩素酸(HClO)であることを特徴と
する請求項4に記載の中空構造体。
【請求項6】
細胞接着性タンパク質は、フィブロネクチン、コラーゲンおよびラミニンからなる群か
ら少なくとも1つが選択されることを特徴とする請求項2に記載の中空構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質および細胞が内壁に固定された中空構造体に関するものである。
【0002】
さらに詳しくは、タンパク質非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の外部から中空構造体の内部に刺入した電極を用いて、タンパク質非吸着性表面を局所的にタンパク質吸着性表面に改質し、局所的に改質した領域にタンパク質および細胞が固定されている中空構造体に関するものである。
【背景技術】
【0003】
実際の生体組織の多くは、異種細胞からなる3次元的な秩序構造を形成しており、生体内では様々な生化学的・力学的刺激を受けることによって、分化・増殖・代謝などの生理機能を発揮している。生体外においても、生体内を模したストレス環境下で細胞培養を行うことで、細胞の生理機能が発現することが実証されてきており、より生体内に近い環境下で細胞を培養できるシステムが求められている。さらに、そのような人為的に作り出した環境下で異種細胞間の相互作用を系統的に解析する手法、さらには細胞組織の生理機能を効果的に活用する手法が広く求められている。
【0004】
血管の内側を一層に覆っている内皮細胞は、血圧や血流による力学的刺激を受けて形態や機能を変化させている。それらの力学的刺激が動脈硬化の発生や進展に関与している可能性があり、力学的刺激に対する内皮細胞の応答機構と疾患の発生機構の解明を目的に培養細胞を用いた様々な研究が行われている。
【0005】
血圧の拍動に伴う血管壁の伸展による引張り力を内皮細胞に負荷する培養システムが提案されている(非特許文献1)。このシステムは、シリコンゴム膜のように伸展性のある材料の上で内皮細胞を培養し、基質の伸びが内皮細胞の形態に及ぼす効果を調べるものである。繰返しの引張り刺激を基質に加えると、引張り軸に対して直行するように内皮細胞が配向することが明らかにされている。
【0006】
内皮細胞に流れによるせん断応力を負荷する培養システムとしては、平行平板型のフローチャンバーを用いる方法が提案されている(非特許文献2)。フローチャンバーの底面に内皮細胞を培養することで、一方向的な定常流を負荷できる。これにより、内皮細胞は流れの方向に伸長、配向することが明らかにされている。さらに、内皮細胞にせん断応力を負荷して培養することで、有用な生理活性物質であるトロンボモジュリンの発現量が増加することが明らかにされ、バイオリアクターへの応用展開も進められている(特許文献1)。
【0007】
さらに、柔軟性のあるチューブ状構造体の内壁に内皮細胞を培養し、拍動流を細胞に負荷する培養システムも提案されている(特許文献2)。このシステムでは、チューブ状構造体に拍動流を流入させることで、せん断応力と伸展張力を同時に細胞に負荷することができる。
【0008】
上記のような生体内に近いストレス環境下で正常細胞と変性細胞の間の相互作用を系統的に調べるためには、固体表面上で異なる種類の細胞を任意のパターンにて培養育成するパターン培養が望まれる。この培養細胞のパターニングを制御する方法について、数多くの研究や検討がなされてきており、代表的な手法としてゴム状のマイクロスタンプを利用するものが挙げられる(非特許文献3)。このパターン培養法は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で作製した微細構造を有する表面を利用して、細胞接着性物質を基板に転写しておき、細胞の培養に用いる。1種類目の細胞を配置した後に、細胞非接着性の領域を接着性に変換し、2種類目の細胞を播種することで、それぞれの細胞種の接着位置を制御するパターン化共培養が可能である(非特許文献4)。従来の手法が、細胞の培養に先立って乾燥した基板上に細胞接着領域をパターニングするものであったのに対し、本願の発明者は、マイクロ電極による局所的な電気化学反応を利用して培養環境下において細胞接着領域を書き込む方法を提案している(特許文献3、4)。この手法は、細胞非接着性物質が固定化された基板の近傍に配置されたマイクロ電極で活性酸化種を生成し、細胞非接着表面を段階的に細胞接着性に変換することで異種細胞のパターニングを行うものである。以上のような異種細胞のパターン化共培養は、例えば、肝臓などの代謝系組織の細胞機能を長期間維持できる手法としても有用であり、培養細胞を利用するバイオリアクターの開発においても注目されている(非特許文献5)。
【0009】
しかしながら、上記のような公知技術は、いずれも開放系において平坦な基板上に細胞をパターニングする技術であり、半閉鎖的な中空構造体への適用は困難である。これらの技術を用いて細胞を平坦な基板上にパターニング後、非特許文献2、特許文献1に記載のようなフローチャンバーに組み込む方法も考えられるが、チャンバー組立て時に細胞に与えるダメージが大きいなどの問題があった。さらに、いずれの公知技術を用いても、レディーメードの中空構造体の内壁への細胞パターニングは原理的に困難であり、タンパク質や細胞が内壁表面の適所に固定された中空構造体を提供することはできなかった。
【0010】

【特許文献1】特開平7-274994号公報
【特許文献2】特開2006-000105号公報
【特許文献3】特開2005-21082号公報
【特許文献4】WO 2005/111630 A1
【非特許文献1】V. P. Shirinsky et al., J. Cell. Biol. 109; 331-339, 1989
【非特許文献2】M. J. Levesque and R. M. Nerem, ASME J. Biomech. Eng. 107; 341-347, 1985
【非特許文献3】R. S. Kane et al., Biomaterials 20; 2363-2376, 1999
【非特許文献4】A. Khadmhosseini et al., Biomaterials 25; 3583-3592, 2004
【非特許文献5】J. Park et al., Microfluid Nonofluid 2; 525-535, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、レディーメードの中空構造体の内壁表面の局所にタンパク質および細胞が固定された中空構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、正電荷を帯びた中空構造体内壁表面に負電荷を帯びたタンパク質非吸着性物質を積層して形成したタンパク質非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の外部から中空構造体の内部に刺入した電極を用いて、電気化学的に活性酸化種を生成させることで、タンパク質非吸着性表面を局所的にタンパク質吸着表面に改質できる。また、局所的に改質した領域に細胞接着性タンパク質を吸着させることで、該細胞接着性表面にのみ細胞の接着を限定できる。さらに、前記中空構造体は、柔軟性のあるチューブ状構造体を用いることにより、任意の位置に細胞を接着させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、以下の効果が得られる。
本発明では、先端を針状に加工した電極を刺入するという簡便な方法で、レディーメードの中空構造体の内壁表面にタンパク質および細胞の接着領域を形成でき、内壁の局所にタンパク質および細胞が固定された中空構造体を提供できる。さらに、電極を針状にすることで、柔軟性のある中空構造体への電極の刺入を容易にし、また、電極を中空構造体から引き抜いた後に、刺入部位からの溶液の漏れを抑制できる。3次元構造体への細胞配置技術は、微小組織モデルの構築技術として重要であり、細胞を用いるバイオアッセイやバイオリアクターの実践に貢献するであろう。例えば、チューブ状構造体の内壁に敷き詰められた血管内皮細胞の一部を変性細胞に置換することで、薬剤や治療法開発のための組織疾患モデルを提供できる。また、肝臓などの代謝系組織を模倣した細胞ベースのリアクターにおいては、異種細胞の反復構造をチューブ内に作製することでリアクター効率の向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明は、タンパク質および細胞非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の局所を改質してタンパク質吸着領域を形成させることで作成されるタンパク質および細胞が局所的に固定された中空構造体であることを特徴としている。具体的には、このタンパク質および細胞の固定方法は、正電荷を帯びた中空構造体内壁表面に負電荷を帯びたタンパク質非吸着性物質を積層して形成したタンパク質非吸着性表面を形成する工程と、タンパク質非吸着性表面を局所的にタンパク質吸着性表面に改質する工程と、局所的に改質した領域にタンパク質および細胞を接着させる工程を含むことを特徴としている。
【0015】
中空構造体内壁を、正電荷を帯びた表面とするためには、カチオン性ポリマーを内壁表面に被覆することが好ましく、カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリジン等を用いることが好ましい。
【0016】
本発明において、中空構造体内壁表面をタンパク質および細胞非吸着性にするために、内壁表面に固定する負電荷を帯びたタンパク質非吸着性物質は、タンパク質および細胞が内壁表面に吸着することを阻害する活性をもたらすものであれば、特に限定されるものではない。例えば、具体例としては、アルブミン、フィブリノーゲン、グリコサミノグリカン等が使用でき、また、グリコサミノグリカンとしては、例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヒアルロン酸等が使用できる。
【0017】
本発明におけるタンパク質非吸着性の内壁表面を有する中空構造体の内壁表面改質については、先端を針状に加工した電極を中空構造体の外部から中空構造体の内部に刺入し、この電極に酸化電位もしくは酸化電流を印加することで、電気化学的に活性化学種を局所的に生成させ、この活性化学種の利用によって、タンパク質が吸着する領域を形成させることができる。すなわち、中空構造体の任意の箇所に針状の電極を刺入し、電極に酸化電位や酸化電流を印加することによって、活性化学種が生成され、その箇所のみをタンパク質吸着性に変化させることができる。
【0018】
なお、この活性化学種としては、ハロゲン化物イオンを酸化させて生成した活性ハロゲン種であることが好ましい。活性ハロゲン種としては、次亜臭素酸(HBrO)または次亜塩素酸(HClO)のいずれかであることがさらに好ましい。
【0019】
本発明において、中空構造体の内壁表面に形成させたタンパク質吸着性領域に吸着させるタンパク質として、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン等の細胞接着性タンパク質を用いることで、細胞が局所的に固定された中空構造体の作成が可能となる。また、このとき、中空構造体の内壁表面においてタンパク質および細胞非接着性の領域を細胞接着性の表面に変化させることで、異なる種類の細胞をパターン状に固定する共培養が可能となる。
【0020】
なお、タンパク質および細胞非接着性の領域を細胞接着性の表面に変化させるには、該領域表面にポリリジンなどのカチオン性ポリマーを積層させ、その後、フィブロネクチンやラミニン等の細胞接着性タンパク質を吸着させることが好ましい。
【0021】
本発明における中空構造体としては、たとえば、チューブ状構造体はもちろん、基板上に作製された微小な流路構造でもかまわない。中空構造体の材料としては、針状の電極が刺入可能なものであればよく、例えば、シリコンゴムなどの柔軟性ポリマーが利用できる。また、中空構造体の一部に針状電極が刺入可能であれば、中空構造体全体が柔軟性である必要はない。
【0022】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0023】
図1に示すように、微小電極による局所的な電気化学反応を利用して、シリコンゴム製のチューブ内壁に細胞を局所的に配置することができる。白金線の先端を針状に加工した電極を用いることで、容易に電極をチューブ内に刺入でき、予めヘパリン等のタンパク質非吸着性物質を内壁に吸着させたチューブ内で電気化学的に活性酸化種を生成すると、電極刺入部位周辺にのみ細胞接着領域が形成される。針状電極における電極反応は、1.5Vの直流電源で駆動できるため、市販の乾電池を用いることができる。電極をチューブから引き抜いた後に、細胞をチューブ内で培養することで細胞の接着領域を限定でき、この局所的に細胞を配置したチューブ内に異なる種類の細胞を導入することで、それぞれの細胞種の接着位置を制御するパターン化共培養が可能である。
【実施例1】
【0024】
シリコンゴムチューブ内壁への細胞配置
図2aに示すように、0.5mm径の白金線の先端を機械研磨することで針状に加工した。シリコンゴム製のチューブには、内径2mm、外径3mmのものを用いた。このチューブをアセトン、エタノール、純水の順で洗浄後、図2bに示すように、インレットおよびアウトレットを備え付けた。チューブ内の溶液の駆動は、チューブに接続したシリンジポンプに陽圧もしくは陰圧を印加することで行った。まず、チューブ内に5 mg mL-1 ポリエチレンイミン(PEI)水溶液、2 mg mL-1 ヘパリン水溶液を順に導入し、内壁にブロッキング処理を施した。続いて、25 mM KBrを含むリン酸バッファー(0.1 M、pH 7.4)をチューブに充填し、図2cに示すように、針状電極の先端を1mm程度チューブに刺入した。この針状電極(WE)およびアウトレット部のステンレス製注射針(CE)を、1.5Vの単3アルカリ乾電池のカソードおよびアノードに15秒間接続し、針状電極において電気化学的に次亜臭素酸を生成した。針状電極をチューブから引き抜いた後に、チューブ内に30μg mL-1 フィブロネクチン溶液を導入し、20分後にリン酸バッファーで洗浄した。その後、ウシ血清を含有するダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)中に懸濁させたNIH-3T3細胞をチューブ内に導入し、30分間のインキュベーション後、未接着の細胞を洗い流した。
【0025】
図3は、チューブ内壁に局所的に配置したNIH-3T3細胞である。細胞は観察を容易にするために、蛍光色素で染色してある。内壁を抗血栓性分子であるヘパリンでコートしたチューブに針状電極を刺入し、電気化学的に次亜臭素酸を生成させることで、刺入部位周辺のヘパリンは局所的に脱着する。その領域に細胞接着性タンパク質であるフィブロネクチンを吸着させ、細胞を培養すると細胞の接着部位が限定される。図3aは、チューブを上側から観察した際の蛍光写真であり、細胞は電極刺入部位周辺にのみ接着している。電極をチューブから引き抜いた後に細胞の培養を行ったが、刺入部位からの溶液の漏れはほとんど確認されなかった。図3bは、共焦点レーザー顕微鏡により取得したチューブの二次元断層画像から構築したチューブ断面図である。内壁曲面の一部分にのみ細胞が配置されているのが確認できる。図3cは、次亜臭素酸の電解時間の平方根に対して、細胞のパターン領域の直径をプロットしたものである。電解時間の増加に伴いパターンサイズがほぼ線形的に増大している。これは、電解生成した次亜臭素酸によるチューブ内壁表面の改質反応は速やかに進行し、次亜臭素酸の拡散が反応の律速段階にあることを示している。
【実施例2】
【0026】
チューブゴムチューブ内壁におけるパターン化共培養
図4は、ヘパリン処理およびポリ-L-リジン(PLL)処理を施したシリコンゴムチューブ内壁表面へのフィブロネクチンの相対吸着量である。ヘパリンは、上記実施例1と同様の手順でチューブ内壁に吸着させた。カチオン性のポリペプチドであるPLLは、ヘパリンを内壁に吸着させたチューブ内に40μg mL-1 PLL溶液を導入することでヘパリン表面上に静電的に固定した。次に、内壁をコートしていないチューブ、ヘパリン処理を施したチューブ、およびPLL処理を施したチューブに、それぞれ蛍光標識したフィブロネクチン溶液(30μg mL-1)を導入し、リン酸バッファーで洗浄後、蛍光観察を行った。フィブロネクチンの相対吸着量は、内壁をコートしていないチューブから観察された蛍光強度を基準に算出した。図4より、ヘパリンで内壁をコートしたチューブにはフィブロネクチンがほとんど吸着しないが、PLLを積層した後には未処理のシリコンゴムチューブと同程度のフィブロネクチンが吸着することがわかる。これは、ヘパリン処理を施した表面にPLL処理を施すことで、細胞非接着性の表面が細胞接着性へと改質されることを意味している。
【0027】
図5は、チューブ内壁に段階的に配置したNIH-3T3細胞と血管内皮細胞である。まず、上記実施例1と同様の手順で、針状電極を用いてNIH-3T3細胞を局所的にチューブ内壁に配置した(図5a)。この段階では、抗血栓性分子であるヘパリンが残存している領域(NIH-3T3細胞が接着していない領域)は細胞非接着性である。次に、このチューブ内に40μg mL-1 PLL溶液、30μg mL-1 フィブロネクチン溶液を順に導入することで、ヘパリン領域を細胞接着性表面に改質し、その後、ウシ血清を含有するDMEM中に懸濁させた血管内皮細胞を導入し、30分間のインキュベーション後、未接着の細胞を洗い流した。図5bに示すように、NIH-3T3細胞が予め接着している領域は変化せずに、それ以外の領域に血管内皮細胞が接着し、チューブ内壁表面に共培養パターンが得られているのがわかる。本実験では、NIH-3T3細胞および血管内皮細胞を用いているが、上述の手法は付着性細胞全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】チューブ状構造体内壁への細胞パターニングの模式図。
【図2】針状電極を用いてシリコンゴムチューブの内壁を改質する際の実験構成図。(a)は、先端を針状に加工した白金電極の写真。(b)は、実際の実験系の写真。(c)は、シリコンゴムチューブに針状電極を刺入した際の写真。
【図3】チューブ内壁に局所配置したNIH-3T3細胞。(a)は、チューブを上面から撮影した蛍光写真。(b)は、チューブの断面画像。(c)は、細胞接着領域の電解時間依存性。
【図4】シリコンゴムチューブ内壁表面へのフィブロネクチンの相対吸着量。
【図5】チューブ内壁表面に作製した共培養パターン。(a)は、NIH-3T3細胞を局所配置したチューブの蛍光写真。(b)は、NIH-3T3細胞が予め接着している領域以外の領域に血管内皮細胞を接着させたチューブの蛍光写真。
図面
【図1】
0
【図4】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図5】
4