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明細書 :中度高温性硫黄酸化細菌及び該細菌を用いる硫化水素除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5167534号 (P5167534)
公開番号 特開2008-199996 (P2008-199996A)
登録日 平成25年1月11日(2013.1.11)
発行日 平成25年3月21日(2013.3.21)
公開日 平成20年9月4日(2008.9.4)
発明の名称または考案の名称 中度高温性硫黄酸化細菌及び該細菌を用いる硫化水素除去方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
B01D  53/48        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI C12N 1/20 ZABA
C12N 1/20 A
B01D 53/34 121D
C12N 1/20 A
C12R 1:01
請求項の数または発明の数 19
微生物の受託番号 NPMD NITE P-315
全頁数 13
出願番号 特願2007-042126 (P2007-042126)
出願日 平成19年2月22日(2007.2.22)
審査請求日 平成21年12月9日(2009.12.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】中井 裕
【氏名】浅野 亮樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特開2001-129349(JP,A)
特開2003-019191(JP,A)
特開2006-143781(JP,A)
特開2005-095783(JP,A)
日本土壌肥料学会講演要旨集第51集(2005)第39頁6-5
Appl Environ Microbiol Vol.73 No.3 Page.971-980 (2007.02.14)
Lett Appl Microbiol Vol.39 No.6 Page.495-503 (2004)
新潟大学農学部研究報告 Vol.58 No.1 Page.55-61 (2005.08)
Appl Environ Microbiol Vol.70 No.10 Page.6031-6036 (2004.10)
Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, (2003) Vol. 103, pp. N-345.
調査した分野 C12N 1/00-5/10
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度が40~50℃であり、35℃では生育しないことを特徴とする、チオモナス属に属する中度高温性硫黄酸化細菌RAN5株(NITE P-315)
【請求項2】
請求項1記載の中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用により、処理対象物中の硫化物を除去する方法。
【請求項3】
硫化物除去装置内で請求項1記載の中度高温性硫黄酸化細菌を培養し、該装置内に硫化物を含む処理対象物を投入し、該中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用により硫化物を除去することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
硫化物を含む処理対象物が空気である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
硫化物を含む空気がコンポスト、排水、食品加工廃棄物及び/又は家畜糞尿の処理過程から発生したものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
硫化物が、硫化水素、硫化メチル、ジメチルスルフィド、及びチオ硫酸から成る群から選択される少なくとも一種である、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
硫化物除去装置内で、中度高温性硫黄酸化細菌を40~50℃で培養することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項8】
硫化物除去装置内で、中度高温性硫黄酸化細菌を45℃で培養することを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
硫化物除去装置内で、中度高温性硫黄酸化細菌をpH5~7で培養することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項10】
硫化物除去装置内で、中度高温性硫黄酸化細菌をpH6.5で培養することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
培地に緩衝剤に添加することにより、pHを5~7に維持することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項12】
硫化物除去装置内で、中度高温性硫黄酸化細菌を担体に固定して培養することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項13】
担体が親水性樹脂から成る多孔質ゲルビーズである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
親水性樹脂がポリビニルアルコール(PVA)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
培地を連続的又は定期的に交換し、pHを5~7に維持することを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
培地中に環境試料が混入されている、請求項3記載の方法。
【請求項17】
環境試料が、コンポスト、おがくず、及び/又は農業用培土である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項3~17のいずれか一項に記載の方法を利用する硫化物除去システム。
【請求項19】
硫化物除去装置を含む、請求項18記載の硫化物除去システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、中度高温性硫黄酸化細菌及び該細菌を用いる硫化水素除去方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜より発生する排泄物は農地に肥料として投入されることにより有効利用されてきた。しかし近年の畜産の経営規模の拡大にともなう農家の畜産への専業化、耕種農業の化学肥料への依存などにより排泄物の農地への還元が次第に困難になり、家畜排泄物により環境問題が引き起こされるまでになっている。畜産業にかかわる環境問題は悪臭問題、地球温暖化ガス問題、水質汚濁問題、害虫問題など様々なものが存在し、排泄物の適正処理、有効利用は畜産経営に不可欠の要素となっている。
【0003】
畜産経営に起因する苦情発生戸数の中でも悪臭に関する苦情が最も多く全体の半分以上を占め、畜産環境問題を考える場合、悪臭対策は避けて通れない課題である。
【0004】
畜産に起因する悪臭物質の中でも硫化物は硫黄を分子中に含む物質の総称で、低濃度で臭気を発するものが多い。動植物の体内において硫黄はおもにシステインやメチオニンなどの含硫アミノ酸として存在し、硫黄原子はこれらの分子では-SH基の形をとる。含硫アミノ酸が腸管内および排泄物中で微生物によって嫌気分解されると硫化水素(H2S)が発生する。
【0005】
硫化水素は微量でも強い臭気を発し、毒性も強いため現在では悪臭防止法により規制されており、0.2ppm以下という規制が設けられている。硫化水素は排泄物や汚水を放置すると嫌気条件が促進され、硫酸が還元されることによっても発生するので、畜産排泄物は速やかにコンポスト処理や廃水処理により硫酸に酸化させることが重要である。
植物の生育に硫黄は必須であるが、ほとんどの植物は硫酸態で硫黄を吸収する。一度動植物の体内から放出され、分解された硫黄は硫酸まで酸化しなければ再び有機体に吸収されないため、硫黄の循環において硫黄酸化は重要な反応である。
【0006】
硫黄酸化細菌は、環境中に存在する硫化水素、硫黄元素などを酸化し、最終産物として硫酸を生成する細菌を指す。おもな硫黄酸化細菌としては好気条件下で硫黄酸化によりエネルギーを獲得する無色硫黄酸化細菌、嫌気、明条件下で硫黄酸化により獲得した電子を光合成経路に使う緑色、紅色硫黄酸化細菌が知られている。これらの細菌は土壌中、海水、淡水中に広く分布しており、環境中の硫黄酸化はこれらの細菌が関係している。
【0007】
硫黄酸化細菌はこれまで黄鉄鉱の脱硫、石炭の脱硫を目的として研究され、いくつかは鉱山などで実際に利用されてきた。近年、環境問題への取り組みが本格化してくると、これらの細菌を用いて、悪臭含硫物質である硫化水素、硫化メチル、ジメチルスルフィドなどを酸化、分解し、悪臭を除去する研究がおこなわれている(非特許文献1~4)。
【0008】
コンポスト処理過程の硫化水素放出について、排泄物中に蓄積された硫化水素が過程の初期において撹拌、通気され空気中へ放出される。この拡散を防止するため処理を密閉空間内で行い、排気口に硫化水素除去装置を設置し硫化水素を取り除くことが必要である。
【0009】
硫黄酸化細菌を利用した生物型硫化水素除去装置は化学物理的処理に比べランニングコストが安いなどの利点があり、嫌気消化ガスの脱硫や皮革、製紙工業廃水など高濃度の硫化水素が発生する場所では既に実用化されている。
【0010】
しかしながら、生物型硫化水素除去装置はその性質上、外環境微生物が混入し硫黄酸化細菌の生育および硫化水素除去能を阻害する恐れがある。また硫黄酸化細菌は下水道のコンクリートや金属を腐食することが報告されているが(非特許文献5)、硫化水素除去装置の硫黄酸化細菌が下水中へ流入する影響についての報告はほとんどない。
【0011】
又、特許文献1には微生物酸化と空気酸化を併用した排水処理方法、特許文献2には、pH上昇抑止緩和剤をアルカリ金属酸化物と硫黄酸化細菌を利用して悪臭発生防止方法、特許文献3には嫌気的または微好気的条件下で嫌気的硫黄酸化細菌を利用して石油脱硫法、特許文献4には硫黄酸化細菌に適した固定化担体に関する発明がそれぞれ記載されている。

【非特許文献1】Cha JM, Cha WS, Lee J, 1999. Removal of organo-sulphur odour compounds by Thiobacillus no6ellus SRM, sulphur-oxidizing microorganisms Process biochemistry. 34:659-665
【非特許文献2】Chung YC, Huang C, Tseng CP. 2001. Biological elimination of H2S and NH3 from wastegases by biofilter packed with immobilized heterotrophic bacteria. Chemosphere. 43(8): 1043-50.
【非特許文献3】Kobayashi, S., and H. Shibata. 1999. Metsbolic characteristics of beggiatoa alba in thiosulfate medium and porcine colon contents. amimal science jarnal 70:349-355.
【非特許文献4】Nicolai RE, Janni KA. 2001. Biofilter media mixture ratio of wood chips and compost treating swine odors. Water Science Technology. 44(9): 261-7.
【非特許文献5】Vincke1 E, Verstichel1 S, Monteny J, Verstraete W. 1999. A new test procedure for biogenic sulfuric acid corrosion of concrete. Biodegradation 10; 421-428.
【特許文献1】特開2006-95478号公報
【特許文献2】特開2006-296739号公報
【特許文献3】特開2003-201484号公報
【特許文献4】特開平6-15294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は上記課題を解決すべく、外環境微生物が混入しても生育及び硫黄酸化能(硫化水素除去能)が阻害されず、下水道等の環境中に放出された場合には生育が不可能となり、干渉汚染及び下水道のコンクリートや金属を腐食する恐れがないような、新たな硫黄酸化細菌を提供すべく探索の結果、新規な中度高温性硫黄酸化細菌を発見し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は主に以下の各態様に係るものである。
[態様1]最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度が40~50℃であり、35℃では生育しないことを特徴とする、チオモナス属(Thimonas sp.)に属する中度高温性硫黄酸化細菌。
[態様2]本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用により、処理対象物中の硫化物を効率的、安全及び経済的(低コスト)で除去(分解)する方法。
[態様3]本発明方法を利用する硫化物除去システム及び硫化物除去装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度は40~50℃であるので、一般細菌を含む、コンポスト、おがくず、及び/又は農業用培土等の各種の環境試料が混入した状態でも十分に増殖し、優れた硫黄酸化作用を示す。更に、本発明の中度高温性硫黄酸化細菌は35℃では生育しないので、下水道等の環境中に放出された場合には生育が不可能となり、干渉汚染及び下水道のコンクリートや金属を腐食する恐れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
「中度高温性」とは、細菌の最適増殖温度が約70℃にも達するような高温ではなく、且つ、30℃程度の常温でもないことを意味する。即ち、本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度は40~50℃である。該細菌は、チオモナス属ML2-92株と16SrRNAにおける97%の相同性(表1中では単に、「相同性」と記す)を有する。更に、本明細書の表1に記載の菌学的性質を有することを特徴とする。尚、表1中の各性質はそれぞれ当該技術分野における標準的な方法で測定したものである。
【0016】
かかる中度高温性硫黄酸化細菌の代表例である「RAN5」株は、発明者により宮城県大崎市鳴子温泉の温泉底泥中から単離され、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に所在の独立行政法人製品技術評価基盤機構、特許微生物寄託センターに2007年2月16日付けで寄託され、受託番号:NITE P-315が付されている。
【0017】
【表1】
JP0005167534B2_000002t.gif

【0018】
本発明の硫化物除去方法のより具体的な態様として、例えば、硫化物除去装置内で本発明の中度高温性硫黄酸化細菌を培養し、該装置内に硫化物を含む処理対象物を投入し、該中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用により、硫化物を除去する方法を挙げることが出来る。
【0019】
ここで、本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用が十分に発揮出来る限り、硫化物を含む処理対象物の種類及びその発生源等に特に制限はないが、例えば、空気、水、汚泥、コンポスト及び嫌気消化ガス等がある。この中で、例えば、硫化物を含む空気は、コンポスト、排水、ビール工場及び精糖工場等の各種の食品製造現場から発生する食品加工廃棄物及び/又は家畜糞尿の処理過程から発生する。その他、例えば、地熱発電所、及び温泉(ポンプ装置)等からも硫化物を含む空気等の処理対象物が発生する。嫌気消化ガスは、家畜糞尿、排水、汚泥、生ゴミ等を嫌気微生物で処理することにより発生し、硫化水素を含む。
【0020】
硫化物としては、硫黄を含有し、特に、悪臭を発するような物質、例えば、硫化水素、硫化メチル、ジメチルスルフィド、及びチオ硫酸等を例示することができる。
【0021】
本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度は40~50℃であるので、硫化物除去装置内で、該細菌を40~50℃、特に、約45℃で培養することが好ましい。
【0022】
又、本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の最適硫黄酸化pHが6.5であるので、硫化物除去装置内で、該細菌を中性pH条件下、例えば、pH5~7、特に、pH6付近で培養することが好ましい。
【0023】
以上のpH条件は、当業者に公知の任意の方法で調整することが出来る。本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の硫黄酸化作用によって発生する硫酸イオンが原因で培地のpHが低下するのを防ぐ為に、例えば、培地に適当な緩衝剤又はアルカリを添加したり、培地を連続的又は定期的に交換することによって行うことが出来る。緩衝剤の種類及び培地中の濃度、培地交換の頻度・量等は当業者が適宜選択することが出来る。
【0024】
培地交換等に伴う細菌量の減少を防ぐ為に、例えば、適当な担体に本発明の細菌を固定し、その内部で培養することが出来る。このような担体の例として、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)のような親水性樹脂から成る多孔質ゲルビーズを挙げることが出来る。孔及びビーズの大きさ等は、当業者に公知の方法で適宜調節することが可能である。
【0025】
本発明の中度高温性硫黄酸化細菌の最適増殖温度及び最適硫黄酸化温度は40~50℃であるので、培地中に一般細菌を含む、コンポスト、おがくず、及び/又は農業用培土等の各種の環境試料が混入された場合でも、一般細菌の影響を受けずに、有効な硫黄酸化作用(硫化水素除去能力)を維持することが出来る。
【0026】
本発明方法を利用して硫化物除去システムを構築することが出来、このシステムには、例えば、上記の硫化物除去装置が含まれる。
【0027】
以下、実施例に則して本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、本明細書の記載に基づき当業者が容易に想到し得る様々な変型又は修飾された態様も本発明に含まれるものである。
【実施例1】
【0028】
RAN5株を用いた硫化水素除去装置の開発
発生した硫化水素混合空気は孔径0.2μmメンブレンフィルター(MILLIPORE社)により無菌化させ、硫化水素除去装置に送り込まれた。培地には1/10濃度に調整したトリプトソーヤブイヨン培地(日本水産)及びCha培地(非特許文献1)を用いた。硫化水素除去システムは500ml容の三角フラスコに500mlの培地を入れ、45℃で10日間前培養した菌培養液5mlを接種し、硫化水素混合空気を曝気して、45℃で保温した。硫化水素除去システムの前後に検出口を設け、そこから試料の捕集をおこなった。培養後12時間ごとにサンプリングをおこない、通過前後の硫化水素混合空気の硫化水素濃度を測定することにより硫化水素除去能を評価した。また、硫化水素の測定と同時に培地中に蓄積された硫酸、培地の吸光度およびpHを測定した。
【0029】
尚、硫化水素濃度及び硫酸イオン濃度は以下のとおり測定した。
(1)硫化水素濃度
試料である混合気体はテドラーバックにより捕集し、測定は、島津製作所製パックドカラムと、充填材としてβ,β'-ODPN25%(液相)Cromosorb W 60-80およびflame photometric detectorを装備したガスクロマトグラフィ(島津製作所GC-14B)によって行った。導入部、カラムオーブン、検出器の温度設定はそれぞれ100℃、70℃、200℃とした。
尚、試料の導入には加熱導入装置(島津製作所 FLS-1)を使用した。濃縮管を液体アルゴンにより-200℃に冷却した状態で試料をシリンジにより導入し、濃縮管内の充填材に硫化水素が吸着されるまで待ち、その後濃縮管を液体アルゴンより取り出し、電熱線により100℃まで加熱することによりガスクロマトグラフィの導入部に試料を導入した。
(2)硫酸イオン濃度
硫酸濃度はIonPac AS17カラムを装備したDionex ICS-2000陰イオンクロマトグラフィおよびION PAC CS16カラムを装備したDionex ICS-1000陽イオンクロマトグラフィ(日本ダイオネクス社製)で測定した。
【0030】
まず、トリプトソーヤブイヨン培地(日本水産)を培地として用いて20ppmの硫化水素を含む空気を流速0.5ml/minで硫化水素除去装置に流入させた。120時間目までの結果を図1に示す。試験開始24時間後に最大除去率である96%まで上昇したが、その後低下していき60時間目には72%、72時間目には26%、84時間目以降除去率は0%であった。pH低下による硫化水素の溶解度の低下、硫酸蓄積によるRAN5株生育阻害が低下の原因として考えられたため、次にpH緩衝剤が加えられているCha培地を用い、低下の過程を観察しやすくするため流入空気の流速をおよそ1/5に調整して試験を行った。240時間目までの結果を図2に示す。緩衝剤不添加の培地では蓄積硫酸量1302μmolでpH3.28、除去率は76%(試験開始60時間後)、蓄積硫酸量1443μmolでpH3.15、除去率は26%(試験開始72時間後)だったが、更に、緩衝剤としてEDTA0.5g/lを加えた培地では蓄積硫酸量1330μmolでpH6.21、除去率は99%(試験開始216時間後)、蓄積硫酸量1497μmolでpH6.20、除去率は96%(試験開始228時間後)であった。
【0031】
これらの結果からこの装置の硫化水素除去能は硫酸の蓄積により菌株の硫黄酸化能が阻害されるのではなく、硫酸蓄積によりpHが低下し、それにより弱酸性の気体である硫化水素の溶解度が低下することにより引き起こされると考えられた。以上よりこの装置の除去能力の維持には硫酸濃度ではなく中性付近のpHを維持することが重要である。
【実施例2】
【0032】
PVA固定型硫化水素除去装置の検討
pH低下を防ぐためには培地へのpH緩衝剤添加の他にも培地を定期的な交換が有効であるが、培地交換を頻繁に行うと装置内での硫黄酸化細菌量が減少し硫黄酸化能が低下する恐れがある。そこで次に、担体にRAN5株を固定しその上で培地を定期的に交換する方式として、PVAゲルビーズ(クラゲール:株式会社クラレ製)に菌体を固定化した硫化水素除去装置を検討した。PVA200gを滅菌した三角フラスコ(500ml容)に入れ、1/10トリプトソーヤブイヨン培地にチオ硫酸10g/lを加えた培地(200ml)を入れ、45℃で2日間前培養したRAN5株の培養液5mlを接種し、PVA内でRAN5株を十分に増殖させるため3日ごとに培地を交換しながら10日間培養し、その後24時間滅菌生理食塩水に浸漬した後硫化水素除去試験に供した。
【0033】
PVAゲル内で菌が増殖していることを確認するため、PVAビーズを滅菌ナイフで切断し、5 μg/l濃度の4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(4',6-Diamidino-2-phenylindole:DAPI)で染色し、ユニバーサル落射蛍光装置を装備した生物顕微鏡で観察した。その結果、PVA内部で多数の細菌が増殖していることが観察された。
【0034】
次に、硫化水素除去能試験装置に培養したPVA200 g、1/10トリプトソーヤブイヨン培地200mlを入れ、液体培地における硫化水素除去能試験と同様に装置を45℃で保温して硫化水素混合空気を曝気し、12時間ごとに流入、流出硫化水素濃度、培地中に蓄積された硫酸およびpHを測定した。
【0035】
得られた結果を図3に示す。試験開始後最初の測定である12時間目に最大除去率99%を示し、その後硫酸の蓄積による培地pHの低下に伴い硫化水素の除去率は低下していき60時間目にはpH2.68、除去率60%まで低下した。60時間目の測定後、PVAを取り出し滅菌蒸留水でよく洗浄した後、新鮮な培地を加え再度除去試験を行った。培地交換後最初となる72時間目の測定では蓄積硫酸量4152μmol、pH3.5、除去率79%となり、次の84時間目の測定では蓄積硫酸量4836μmol、pH2.58、除去率0%まで低下した。これは試験開始後12時間目(蓄積硫酸量2090μmol、pH7.6、除去率99%)および24時間目(蓄積硫酸量3010μmol、pH6.98、除去率97%)と比較して蓄積硫酸量が多くpHおよび除去率が低かった。培地交換時にPVAの表面はよく滅菌蒸留水で洗浄したが、PVA内部に硫酸が残留しそれが交換後の培地に放出された物と考えられる。
【0036】
そこで、PVAからの硫酸放出の経時変化を測定した。PVA0.5gを0.5M硫酸に24時間浸漬し、滅菌蒸留水で表面をよく洗浄した後、蒸留水中に浸漬し、蒸留水中の硫酸濃度の変化を測定した。
【0037】
得られたPVAから放出された硫酸量の変化を図4に示す。蒸留水浸漬1時間後にはPVA内部の硫酸の55%が放出され、3時間後には77%、6時間後には95%の硫酸が放出された。また、実際にRAN5株を接種培養したPVAを用い、培地に浸漬して同様の試験を行ったが硫酸の放出が観察された。PVAに蓄積された硫酸は水中に浸漬することにより除去することが可能であることが解った。
84時間目の測定以降定期的にNaOHを用いて培地pHを中性付近に維持した。結果硫化水素の除去率は96-99%で安定した。このことから、ある程度の硫酸が培地へ蓄積しても、pHが中性付近であれば、RAN5株は硫化水素除去能を維持することが確認された。
以上よりPVAを培地を連続的に交換し、常にpHを中性付近に保つことにより除去率の低下を抑えることは可能であると考えられた。
【実施例3】
【0038】
混合培養条件におけるRAN5株の硫黄酸化能および硫化水素除去への影響
次に、硫化水素除去装置内に外部から細菌が侵入した場合のRAN5株による硫黄酸化への影響を検討した。試験管にCha培地を5ml入れ、シリコ栓で封をし、オートクレーブ滅菌した。混合環境試料として牛糞コンポスト、農業培養土、コンポスト副資材用のおがくずを用いた。これらを10倍量のイオン交換水とよく振とうした物を混合環境試料懸濁液とした。試験管にCha培地5mlを入れシリコ栓で封をしてオートクレーブ滅菌した。培地を室温に冷却後、Cha培地に45℃10日間前培養した菌液10μlと混合環境試料懸濁液10μlを加え、45℃にて10日間培養した後産生された硫酸濃度を測定した。
【0039】
以上の測定で得られた、試験管内で各種環境試料を混合したRAN5株のチオ硫酸に対する硫黄酸化能の結果を図5に示す。環境試料としては畜産環境において混入の可能性が高いコンポスト、おがくず、農業用培土の抽出液を用いた。蓄積された硫酸が最も減少したのはコンポストだったが、RAN5株純粋培養と比較して4%を減少させたのみで、農業用培土を混合した場合には蓄積した硫酸量は3%増加した。
【0040】
そこで、試験した試料中、蓄積された硫酸が最も減少したコンポストを硫化水素除去装置に添加して硫化水素除去能の変化を観察した。即ち、硫化水素除去能試験装置に純粋菌株と等量のコンポスト抽出液を加え、純粋培養における硫化水素除去能試験と同様に硫化水素混合空気を曝気し、12時間ごとに硫化水素濃度を測定した。
【0041】
得られた結果を図6に示す。除去率は36時間目まで上昇した後、48時間目に一旦低下し、その後再び上昇していった。36時間目までの除去率上昇と48時間目の除去率低下はコンポスト抽出物のみを加えた対照区でも観察され、対照区では以降除去率は低下していった。除去率の一時的な上昇はコンポスト抽出物または抽出物中の微生物により培地中への硫化水素溶解度が上昇したためと考えられる。コンポストを混入した硫化水素除去装置においても84時間目以降は純粋培養と変わらない除去率を示した。また培地中への硫酸蓄積量は24時間目以降純粋培養を上回っており、コンポスト混入による硫化水素除去能の低下は初期の一時的な物を除いて観察されなかった。
【0042】
以上より、十分にRAN5株が増殖していない装置内にコンポスト由来の微生物が混入すると、初期の除去能力上昇速度に影響があるものの、十分にRAN5株が増殖した後の除去能力には影響が見られなかった。これより十分にRAN5株が生育した硫化水素除去装置に環境微生物を混入しても装置の硫黄酸化能に与える影響は少ないと考えられる。
【実施例4】
【0043】
排水中へのRAN5株培養液混入の影響
硫化水素除去装置廃液の下水中における影響およびこれに含まれるRAN5株の排水環境における生存性を検討すべく、RAN5株を培養した液体培地を畜舎排水に加えて保温し、RAN5株の生存性、硫酸量の変化を観察した。保温温度は採取時畜舎排水の温度を測定し、25℃であったためこの温度で試料を保温した。
尚、畜産排水試料として東北大学大学院研究科附属複合生態フィールド教育研究センター内にある乳牛舎からの畜舎排水を用いた。畜舎排水4.5 mlとCha培地にて45℃10日間前培養した RAN5株500 μlを試験管に入れシリコ栓で封をし、25℃で静置した。0、1、3日後に硫酸濃度、硫黄酸化細菌の生菌数を計数した。尚、対照区としてRAN5株培養液を加えない畜舎排水試料を使用した。
【0044】
得られた結果をそれぞれ図7と図8に示す。畜舎排水試料からは硫黄酸化細菌は検出されなかったため、試験区で検出された硫黄酸化細菌は全てRAN5株と考えられた。また、滅菌畜舎排水に培養液を加えた試料では、MPN法(須藤隆一、1988、「環境微生物実験法」講談社、東京)で検出されたRAN5株の菌数は1日後、3日後でそれぞれ1/10、1/100に減少したが、CFU法(「下水試験方法」1997、旧建設省都市局下水道部、 旧厚生省生活衛生局水道環境部 監修、日本下水道協会、東京)では3日後までおよそ1/2の減少であった。試験区ではRAN5株はMPN、CFU両方法で減少していき、1日後にはMPN法では0日目の1/10、CFU法では1/2に減少し、3日目にはMPN法では0日目の1/500、CFU法では検出不能となった。これらよりRAN5株は畜舎排水中では死滅していき、3日目まで1/500以下に減少する。
【0045】
更に、畜舎排水中でのRAN5株の硫黄酸化活性を調査するため、畜舎排水の硫酸量変化を調査した。試験期間中硫黄酸化とそれに伴う硫酸の蓄積は観察されなかった。試験区では当初12.3μmolの硫酸が存在したが、それらは減少していき3日後には3.0μmolに減少した。これは畜舎排水中の硫酸還元菌の活動による。これらの硫酸還元によりRAN5株の硫黄酸化がマスキングされた可能性もあるが、滅菌畜舎排水にRAN5株培養液を添加した対照区でも硫酸の蓄積は観察されず、さらに純粋培養試験にてRAN5株は35℃以下では硫黄酸化および増殖を行わないことが観察されている。これらよりRAN5株は畜舎排水環境では硫黄酸化を行わない。
【0046】
以上より畜舎排水中ではRAN5株はコンクリートおよび金属を腐食する硫黄酸化および硫酸産生を行わず、緩やかに生存数も減少していくため、畜舎排水に対するRAN5株の投入は直接的な影響は小さいと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の中度高温性硫黄酸化細菌を利用することによって、例えば、下水処理場、ビール工場及び精糖工場等の各種の食品製造業、畜産業、バイオガス製造施設、地熱発電所、及び温泉(ポンプ装置)等の現場において生じる硫化水素などの硫化物を分解・除去することができ、これら産業における有効な悪臭防止対策として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】硫化水素混合空気をトリプトソーヤブイヨン培地(日本水産)で培養する本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)を用いた硫化水素除去装置で処理した結果を示す。
【図2】硫化水素混合空気をcha培地で培養する本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)を用いた硫化水素除去装置で処理した結果を示す。
【図3】硫化水素混合空気をPVAに固定した本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)を用いた硫化水素除去装置で処理した結果を示す。
【図4】蒸留水中における本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)を固定したPVAからの硫酸放出量を示す。
【図5】本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)と環境試料を紺が追う培養した場合のチオ硫酸からの硫酸産生を示す。
【図6】環境微生物の混入に対する本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)の硫化水素除去への影響を示す。
【図7】畜舎排水に本発明の中度高温性硫黄酸化細菌(RAN5株)を接種した時の細菌数の変化を示す。
【図8】畜舎排水における硫酸量の変化を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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