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明細書 :高機能複合材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5366193号 (P5366193)
登録日 平成25年9月20日(2013.9.20)
発行日 平成25年12月11日(2013.12.11)
発明の名称または考案の名称 高機能複合材料およびその製造方法
国際特許分類 C04B  35/443       (2006.01)
C04B  35/80        (2006.01)
C01B  31/02        (2006.01)
FI C04B 35/44 101
C04B 35/80 B
C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 8
全頁数 17
出願番号 特願2008-523622 (P2008-523622)
出願日 平成19年5月30日(2007.5.30)
国際出願番号 PCT/JP2007/060962
国際公開番号 WO2008/004386
国際公開日 平成20年1月10日(2008.1.10)
優先権出願番号 2006155736
優先日 平成18年6月5日(2006.6.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年5月21日(2010.5.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】大森 守
【氏名】橋田 俊之
【氏名】木村 久道
【氏名】大久保 昭
【氏名】井上 明久
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査官 【審査官】櫻木 伸一郎
参考文献・文献 特開2007-084399(JP,A)
国際公開第2007/029588(WO,A1)
調査した分野 C04B 35/80-35/81
C04B 35/053
C04B 35/111
C04B 35/443
C04B 35/528
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶から成るセラミックス多結晶体と、
複数のカーボンナノチューブと複数の第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶とが絡み合った構造のナノ複合体とを有し、
カーボンナノチューブを4~85mass%、アルミナを0.2~95mass%、マグネシアを1~27mass%含み、
前記ナノ複合体は前記セラミックス多結晶体の内部に分散されており、
前記第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶は、グレインサイズが200nmより小さいことを、
特徴とする高機能複合材料。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、平均長さが1000nmより長く、平均太さが100nmより細いことを、特徴とする請求項1記載の高機能複合材料。
【請求項3】
前記第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶は、グレインサイズが前記第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶のグレインサイズより一桁小さいことを、特徴とする請求項1または2記載の高機能複合材料。
【請求項4】
前記ナノ複合体は前記第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶のグレインサイズより大きいことを、特徴とする請求項1、2または3記載の高機能複合材料。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブおよびカーボンナノロッドのうちの1種または2種以上の混合物から成ることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の高機能複合材料。
【請求項6】
カーボンナノチューブ4~85mass%、アルミナ0.2~95mass%、マグネシア1~27mass%となるよう、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)とを含むアルミナ-マグネシア系セラミックスと、カーボンナノチューブとを水あるいはアルコール類の溶媒に入れ、スラリー状にして3~180分間混合し、この混合物から前記溶媒を除去した後、非酸化性雰囲気中において1050℃~1800℃の温度範囲で5分から5時間かけて焼結することを、特徴とする高機能複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記焼結を行うための前処理として、前記混合物から前記溶媒を除去した後、非酸化性雰囲気中おいて300℃~900℃の温度範囲で5~60分間仮焼して分解脱水することを、特徴とする請求項6記載の高機能複合材料の製造方法。
【請求項8】
無加圧焼結法、ホットプレス法または放電プラズマ焼結法により前記焼結を行うことを、特徴とする請求項6または7記載の高機能複合材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、実用的なセラミックスとして重要なアルミナとマグネシアとからなるアルミナ-マグネシア系セラミックスと、カーボンナノチューブとからなる複合材料であり、セラミックスにカーボンナノチューブを複合化させることにより、従来のセラミックスの性能を改善し、さらに新規な機能を持たせた高機能複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナ-マグネシアを原料とするセラミックスは、その価格が安いため、工業的に広い範囲で利用されている。これらのセラミックスは、金属に比べて耐熱性および耐酸化性に優れている。また、電気を流さない絶縁性であり、誘電性であるため、少ないながら電磁波の吸収は可能である。アルミナ-マグネシアおよびその化合物は、耐食性にも優れている。これらのセラミックスは、金属に比べて靭性が小さく、材料としての信頼性に欠け、応力の付加により簡単に破壊する。このため、靭性を大きくできれば適用範囲が格段に広がり、さらに金属のような電気伝導性が付与された複合材料、あるいは電磁波の吸収性能に優れた複合材料が開発されれば、従来のセラミックスの使用範囲を超えた利用が可能になる。
【0003】
カーボンナノチューブは、1991年に発見された材料である(例えば、非特許文献1参照)。この材料は、アスペクト比の大きい微細なチューブ構造のナノ繊維である。化学的性質は、ほぼ黒鉛材料に類似している。カーボンナノチューブは、他の材料に比べて強度および弾性率が非常に大きく、多層カーボンナノチューブの弾性率は1800GPaであり(例えば、非特許文献2参照)、単層カーボンナノチューブの強度は45GPaである(例えば、非特許文献3参照)と報告されている。
【0004】
このカーボンナノチューブの機械的強度特性を利用した材料の開発の一つとして、カーボンナノチューブを使った複合材料、あるいはそれを固化した材料の開発が盛んに行われている。これらの複合材料において、その合成が室温あるいはそれに近い温度で行われる場合、すなわち高分子を使ってカーボンナノチューブから複合材料を合成する時には、大きな問題は生じない。しかし、金属あるいはセラミックスを使う場合には、高温で合成が行われるため、二つの材料の間の熱膨張差によって生じる残留応力が問題になる。カーボンナノチューブは、温度を上げてもほとんど膨張しない(例えば、非特許文献4参照)。これに対し、カーボンナノチューブと複合化させる金属やセラミックスの熱膨張係数は、4x10-6/K ~20x10-6/Kとかなり大きく、そのためにカーボンナノチューブとこれらの物質との間には、大きな残留応力が発生する。残留応力の小さな材料を作らないと、実用的な工業材料への応用は不可能である。さらに、針状のカーボンナノチューブは、微粒子に比べてマトリックス中に均一に分散するのが困難であり、特にカーボンナノチューブの割合が多くなると、この均一分散はいっそう困難になり、これまでに優れた複合材料は製造されていない。
【0005】
カーボンナノチューブとアルミナーマグネシア系セラミックスとの複合材料の合成は、アルミナ単身とマグネシア単身とについて行われてきた。主には、カーボンナノチューブとアルミナ粉とを混合し、それを原料にして焼結する方法である。この方法での出発原料となるアルミナ粉の粒径は、200ナノメートル以上であり、焼結後には通常1000ナノメートル以上に大きくなる。カーボンナノチューブは、アルミナ結晶の粒内か、その粒界に分散されている。このような分散状態でも、アルミナ-単層カーボンナノチューブ複合材料の靭性値は、単層カーボンナノチューブを10vol%添加した時、アルミナ単身に比べて3倍大きくなったと報告されている(例えば、非特許文献5参照)。しかし、その後の研究で、この靭性の改善は誤りで、このアルミナ-単層カーボンナノチューブ複合材料の靭性は、アルミナ単身とほとんど変わらないことが証明されている(例えば、非特許文献6参照)。機械的性質が改善された例として、アルミナの微粉と、10vol%の多層カーボンナノチューブとを混合して得られた複合材料の靭性値は、アルミナ単身のそれに比べて24%増加しているとの報告がある(例えば、非特許文献7参照)。
【0006】
アルミナ粉末を用いる同じ手法で、アルミナの電気抵抗値の低減を目的にした材料開発がある(例えば、特許文献1参照)。ここでは、0.1vol%のカーボンナノチューブの添加で、電気抵抗は1013から106(Ω・cm)のオーダーまで減少している。アルミナ粉とは異なる原料として、アルミナの前駆体にブトキシアルミニウム(Al(C4H9)3)を使い、それをアルコールに溶解し、多層カーボンナノチューブを加えて混合し、水を添加してブトキシアルミニウムを加水分解し、乾燥してから非酸化性雰囲気で1250℃に仮焼してカーボンナノチューブとアルミナとの混合粉体を作製し、それを焼結している。得られた混合粉体のアルミナの粒径は、500ナノメートル以上に成長しており、それを焼結して得られた複合材料中のアルミナの粒径は、1000ナノメートル以上と大きくなり、カーボンナノチューブは、アルミナの粒内に分散すると同時に、塊となって粒界に存在している。この複合材料の靭性は、カーボンナノチューブを1.5vol%添加したもので最大になり、アルミナ単身のそれより1.1倍大きくなっているにすぎない(例えば、非特許文献8参照)。
【0007】
以上述べた方法では、出発原料である粉体の結晶径は大きく、複合材料中のアルミナの結晶を500ナノメートル以下に制御するのは困難である。アルミナとマグネシアとからそれぞれの単身のナノ複合材料の製造についても報告がされている(例えば、特許文献2参照)。そこでは、原料にはアルミナとマグネシア粉とがそれぞれ単身で使われている。この方法により結晶成長させないでナノ複合材料を製造するためには、製造条件を厳密に制御する必要があり、それによる製造コストの上昇は避けられない。アルミナ粉以外の原料の使用に関し、水酸化アルミニウムについての言及も見られる。(例えば、特許文献3参照)。しかし、純粋の水酸化アルミニウムから得られる複合材料においては、アルミナの結晶径が20マイクロメートル以上に大きく成長し、強度が大きく低下し、高性能の複合材料を製造するのは困難である。
【0008】
アルミナの熱膨張係数は8x10-6/K、スピネル(Al2O3.MgO)の熱膨張係数は11x10-6/K、マグネシアの熱膨張係数は13x10-6/Kである。これらの熱膨張係数は、カーボンナノチューブのそれと比べて大きく、アルミナ-マグネシア系セラミックス多結晶体中にカーボンナノチューブが存在すると、焼結温度から室温への冷却中にアルミナーマグネシア系セラミックスは収縮し、カーボンナノチューブは収縮しないため、大きな残留応力が発生し、複合材料の靭性と強度とが小さくなり、実用材料としての応用が困難になる。また、アルミナ-マグネシア系セラミックスの粒界に存在するカーボンナノチューブは、破壊のクラックの進展を阻止する機能が小さく、先に述べたカーボンナノチューブ-アルミナ複合材料の報告に見られるように、靭性と強度とは大きくなっていない。その原因は、複合材料の製造のために、セラミックス粉とカーボンナノチューブとをスラリー状態で混合すると、カーボンナノチューブが凝縮し、カーボンナノチューブの凝縮体中にセラミックス粉体の原料が進入しにくいため、生成した複合材料中ではカーボンナノチューブが塊で存在するようになるためである。
【0009】

【非特許文献1】S. Iijima, “Helical Microtubules of Graphite Carbon”, Nature, 1991, 354, p.56-58
【非特許文献2】M. M. J. Treacy and T. W. Ebbesen, “Exceptionally High Young’s Modulus Observed for Individual Carbon Nanobtubes”, Nature, 1996, 381, p.678-680
【非特許文献3】D. A. Walters, L. M. Ericso, J. Casavant, J. Liu, D. T. Colbert, K. A. Smith and R. E. Smalley, “Elastic Strain of Freely Suspended Single-Wall Carbon Nanotube Ropes”, Appl. Phy. Lett., 1999, 74, 25, p.3803-3805
【非特許文献4】Y. Maniwa, R. Fujiwara, H. Kira, H. Tou, H. Kataura, S. Suzuki, Y. Achiba, E. Nishibori, M. Takata, M. Sakata, A. Fujiwara and H. Suematsu, “Thermal Expansion of Single-Walled Carbon Nanotube (SWNT) Bundles: X-ray Diffraction Studies”, Phys. Rev. B, 2001, 64, p.241402-1-3
【非特許文献5】G. -D. Zhan, J. D. Kuntz, J. Wan and A. K. Mukherjee, “Single-Wall Carbon Nanotubes as Attractive Toughening Agents in Alumina-Based Nanocomposites”, Nature Mater., 2003, 2, p.38-42
【非特許文献6】X. Wang, N. P. Padture and H. Tanaka, “Contact-Damage-Resistance Ceramic/Single-Wall Carbon Nanotubes and Ceramic/Graphite Composites”, Nature Mater., 2004, 3, p.539-544
【非特許文献7】R. W. Siegel, S. K. Chang, B. J. Ash, J. Stone, P. M. Ajayan, R. W. Doremus and L. S. Schadler, “Mechanical Behavior of Polymer and Ceramics Matrix Nanocomposites”, Scripta Mater., 2001, 44, p.2061-2064
【特許文献1】特開2004-244273号公報
【非特許文献8】C. B. Mo, S. I. Cha, K. T. Kim, K. H. Lee and S. H. Hong, “Fabrication of Carbon Nanotube Reinforced Alumina Matrix Nanocomposite by Sol-Gel Process”, Mater. Sci. Eng., 2005, A 395, p.124-128
【特許文献2】特表2004-507434号公報
【特許文献3】特開2004-256382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような従来の技術では、セラミックスにカーボンナノチューブを添加して優れた機械的特性、電気的特性を発揮するような高機能複合材料を製造することは不可能であるという課題があった。
【0011】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、機械的性能、電気伝導性および電磁波吸収性に優れた新規な高機能複合材料およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る高機能複合材料は、複数の第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶から成るセラミックス多結晶体と、複数のカーボンナノチューブと複数の第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶とが絡み合った構造のナノ複合体とを有し、カーボンナノチューブを4~85mass%、アルミナを0.2~95mass%、マグネシアを1~27mass%含み、前記ナノ複合体は前記セラミックス多結晶体の内部に分散されており、前記第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶は、グレインサイズが200nmより小さいことを、特徴とする。
また、本発明に係る高機能複合材料で、前記カーボンナノチューブは、平均長さが1000nmより長く、平均太さが100nmより細いことが好ましい。また、前記第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶は、グレインサイズが前記第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶のグレインサイズより一桁以上小さいことが好ましい。

【0013】
本発明者らは、カーボンナノチューブがアルミナ-マグネシア系セラミックスの結晶成長に及ぼす効果と、その分散性について鋭意研究してきた。その結果、カーボンナノチューブが、アルミナ-マグネシア系セラミックスの結晶核が大きな結晶に成長するのを抑制し、その分散性を大きく改善できる方法を発見した。すなわち、出発原料にアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶を生成する前駆体(水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム)を用いると、カーボンナノチューブの複合材料中での分散が良くなり、カーボンナノチューブのみが塊として存在することがなくなり、第2のアルミナ-マグネシア系セラミックスの結晶成長が200ナノメートル以下のナノサイズに抑えられる。そのため、複数のナノアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶を、カーボンナノチューブが橋渡す形で結合する、絡み合ったナノ複合体組織が形成される。
【0014】
このナノ複合体中のナノセラミックス結晶が収縮すると、それと絡み合っているカーボンナノチューブは変形できるため、複合材料中に発生する残留応力が少なくなり、複合材料全体の靭性と強度とを向上できる。一方、水酸化アルミニウム単身と水酸化マグネシウム単身から得られた複合材料では、セラミックスの結晶が20マイクロメートル以上に大きく結晶成長し、複合材料の強度は著しく低下する。アルミナ-マグネシア系セラミックス複合材料のセラミックス相は、単相でないため、混在しているスピネル相の影響によりセラミックス相の結晶成長が阻止され、20マイクロメートル以上に大きく成長することはなく、大きくても数マイクロメートル以下である。そのため、分散性が良くなり、少ない量のカーボンナノチューブの添加により機械的特性、電気伝導性、電磁波吸収の改善がなされることを見いだし、高機能複合材料およびその製造方法に関する本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明に係る高機能複合材料では、アルミナ-マグネシア系セラミックス結晶をカーボンナノチューブで補強する構造を成している。このため、複数のカーボンナノチューブと複数の第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶とが絡み合った構造のナノ複合体自体が、靭性および強度の大きい複合材料を形成している。このナノ複合体が、複数の第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶から成るセラミックス多結晶体の内部に分散されているため、さらに靭性および強度が大きく、優れた機械的性能を有している。
【0016】
本発明に係る高機能複合材料は、カーボンナノチューブの黒鉛としての特性により、耐摩耗特性に優れており、摩擦係数が小さい。また、カーボンナノチューブにより、絶縁性のアルミナ-マグネシア系セラミックスを、導電性の複合材料に転換して形成されているため、電気抵抗が広範に変化し、電気伝導性および電磁波吸収性に優れている。本発明に係る高機能複合材料は、摩擦係数が0.07~0.35、電気抵抗が10-2~107Ω・cmであることが好ましい。原料として安価なアルミナ-マグネシア系セラミックスを使用するため、安価に製造することができる。なお、カーボンナノチューブとは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブおよびカーボンナノロッドの総称である。
【0017】
本発明に係る高機能複合材料で前記ナノ複合体は前記第1のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶のグレインサイズより大きいことが好ましい。

【0018】
これらの場合、特に優れた機械的性能、電気伝導性および電磁波吸収性を有する。特に、第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶のグレインサイズが200nmより小さいとき、1000nmより長いカーボンナノチューブが、複数の第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶を橋渡す形で結合したナノ複合体が形成される。このナノ複合体中の第2のアルミナ-マグネシア系セラミックス結晶が冷却されて収縮すると、それと絡み合ったカーボンナノチューブが変形できるため、カーボンナノチューブが変形できない場合と比べて、発生する残留応力が小さくなり、全体の靭性および強度を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る高機能複合材料で、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブおよびカーボンナノロッドのうちの1種または2種以上の混合物から成ることが好ましい。この場合、これらの1種または2種以上の混合物を用いても、機械的性能、電気伝導性および電磁波吸収性の向上に対する効果は変わらない。
【0022】
本発明に係る高機能複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブ4~85mass%、アルミナ0.2~95mass%、マグネシア1~27mass%となるよう、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)とを含むアルミナ-マグネシア系セラミックスと、カーボンナノチューブとを水あるいはアルコール類の溶媒に入れ、スラリー状にして3~180分間混合し、この混合物から前記溶媒を除去した後、非酸化性雰囲気中において1050℃~1800℃の温度範囲で5分から5時間かけて焼結することを、特徴とする。

【0023】
本発明に係る高機能複合材料の製造方法によれば、機械的性能、電気伝導性および電磁波吸収性に優れた、本発明に係る高機能複合材料を製造することができる。なお、スラリーの混合には、カーボンナノチューブを破壊することなく均一混合が可能な自転・公転方式スーパーミキサーを用いるのが好ましい。
【0025】
本発明に係る高機能複合材料の製造方法は、前記焼結を行うための前処理として、前記混合物から前記溶媒を除去した後、非酸化性雰囲気中おいて300℃~900℃の温度範囲で5~60分間仮焼して分解脱水することが好ましい。この場合、焼結時の昇温を早く行うことができ、焼結炉に水分が付着するのを防ぐことができる。
【0026】
本発明に係る高機能複合材料の製造方法は、無加圧焼結法、ホットプレス法または放電プラズマ焼結法により前記焼結を行うことが好ましい。焼結に関しては、基本的には無加圧焼結法で可能であるが、アルミナ-マグネシア系セラミックスの量に対しカーボンナノチューブの量が多くなったときには、加圧焼結機を用いることにより緻密化が容易になる。加圧焼結機としては、ホットプレス(HP)や放電プラズマ焼結機(SPS)を用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、機械的性能、電気伝導性および電磁波吸収性に優れた新規な高機能複合材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態の高機能複合材料は、本発明の実施の形態の高機能複合材料の製造方法により製造される。
アルミナは、工業的にはバイヤー法で製造されている。すなわち、原料のボーキサイトを水酸化ナトリウム溶液と加熱処理してアルミン酸ナトリウム溶液とし、これを希釈してから水酸化アルミニウムの種結晶を加えると、水酸化アルミニウムが析出する。この水酸化アルミニウムを1200℃以上で焼成して、アルミナ粉を製造している。従って、水酸化アルミニウムは、アルミナの前駆体であり、価格はアルミナより低い。この水酸化アルミニウムは、276℃から分解が始まり、375℃でそれが終了し、アルミナ結晶の核を生成する。この核の結晶成長は、1000℃以上で顕著になる。
【0029】
本発明の実施の形態の高機能複合材料の製造方法で使用される水酸化マグネシウムは、日本においては、マグネシアの工業原料のほとんどの出発原料となっている。海水にCa(OH)2を加えることにより、水酸化マグネシウムを沈殿させて得ることができ、その水酸化マグネシウムを900℃で焼成すれば、マグネシアを生成することができる。この水酸化マグネシウムは、約490℃で分解して、マグネシア結晶の核を生成することができる。
【0030】
本発明の実施の形態の高機能複合材料およびその製造方法のアルミナ-マグネシア系セラミックスには、アルミナ単身とマグネシア単身とは含まれていない。水酸化アルミニウムとカーボンナノチューブとから複合材料を合成すると、焼結中、アルミナは20マイクロメートル以上に粒成長する。その粒成長の過程で、カーボンナノチューブが集まり凝集して塊になって分散性が悪くなるため、得られる複合材料の機械的性能および電気的性能は著しく低下する。この結晶粒の成長は、マグネシア単身についても同じで、水酸化マグネシウム単身を使った複合材料では、マグネシアの結晶は20マイクロメートル以上に粒成長する。
【0031】
本発明の実施の形態の高機能複合材料およびその製造方法に用いられるカーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザー蒸発法、プラズマ合成法、炭化水素触媒分解法によって主に作られている。これらの方法によって製造されるカーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブ、さらに中空部分が小さいか、あるいはほとんどないカーボンナノロッドと呼ばれるカーボンナノチューブも存在する。触媒として、Fe,Co,Ni,Ceなどの金属を使うと合成が容易になるため、多くのカーボンナノチューブ製品にはこれらの金属が共存している。しかし、これら金属触媒は、酸による洗浄で除去できるので、使用上の問題はない。これら金属不純物以外に、非晶質炭素やフラーレンなどの不純物炭素が混入してくることが多い。しかし、これら不純物が混在したものでも、その割合が50重量%以下であれば、原料として使っても、純粋なカーボンナノチューブを使った時に比べて、複合材料の性能が著しく低下することはない。しかし、ナノ複合体の生成のためには、カーボンナノチューブの割合が多い方が有利である。機械的性質は、この5種類のカーボンナノチューブについて大きな差はなく、それぞれを単独あるいは混合して使っても効果には変わりがない。
【0032】
本発明の実施の形態の高機能複合材料の製造方法においては、アルミナの前駆体である水酸化アルミニウムと、同様にマグネシアの前駆体である水酸化マグネシウムを使用している。水酸化アルミニウムは、400℃以下で分解してアルミナ結晶核を生成し、加熱温度を高くしていくと結晶成長し、1200℃以上の処理でアルミナ粉として市販されている粉体になる。水酸化マグネシウムは、500℃以下で分解してマグネシア結晶の核を生成し、900℃で焼成してマグネシアとして使われている。これらの単身から複合材料を製造すると、複合材料のアルミナおよびマグネシア結晶は、20マイクロメートル以上の大きさに成長する。しかし、カーボンナノチューブ、マグネシア、アルミナが共存すると、アルミナ、マグネシア、スピネル結晶核の成長が抑制され、複合材料の焼結温度以上に加熱しても、アルミナ、スピネル、マグネシア結晶は、200ナノメートル以上に大きく成長しないで、ナノ結晶状態で止まっている。カーボンナノチューブの長さは1000ナノメートル以上あるため、複数のナノアルミナ結晶、ナノマグネシア結晶、ナノスピネル結晶を橋渡しする形で、絡み合った状態で組織を作る。このようなナノアルミナ-マグネシア系セラミックスとカーボンナノチューブとの組織はナノ複合体であり、これまでにその報告はなく、本発明者らが初めて発見したものである。カーボンナノチューブがアルミナ-マグネシア系セラミックスの量に対して少ないと、このナノ複合体は、アルミナ-マグネシア系セラミックスの多結晶マトリックス中に島状に分散された組織を形づくる。このマトリックスとなっているアルミナ-マグネシア系セラミックスは、純粋なアルミナあるいはマグネシアではないため、20マイクロメートル以上に大きく成長することはなく、大きくても数マイクロメートル以下である。
【0033】
複合材料の強度および靭性は、残留応力の大きさに依存する。一般的には、残留応力が多くなると、強度および靭性は下がる。その理由は、クラックの発生によって残留応力が緩和できるようになるためである。一般的なセラミックス多結晶体において、残留応力が比較的少ないときには、主に粒界の強度が弱くなり、クラックの偏向による靭性向上の効果が期待でき、強度および靭性の向上の可能性もある。カーボンナノチューブと、アルミナ-マグネシア系セラミックスとの間の熱膨張差は大きく、カーボンナノチューブの均一分散では、カーボンナノチューブに対し、マトリックスのアルミナ-マグネシア系セラミックスから大きな圧縮応力が作用し、添加量が少なくても複合材料中に大きな残留応力が発生する。この結果、カーボンナノチューブの添加量の増大に伴って、複合材料にはクラックが発生し易くなり、カーボンナノチューブの量が多くなると、ひび割れの発生により複合材料の製造が不可能になる。
【0034】
しかし、本発明の実施の形態の高機能複合材料においては、カーボンナノチューブの割合が少ない状態でも、ナノ複合体がアルミナ-マグネシア系セラミックス中に分散した組織であり、カーボンナノチューブがマトリックス中に均一分散している状態にはなっていない。図1に示すように、このナノ複合体1中のカーボンナノチューブ2は、アルミナ-マグネシア系セラミックス3のナノ結晶中に閉じ込められていないで、アルミナ-マグネシア系セラミックス3のナノ結晶と絡み合った状態になっている。ナノアルミナ-マグネシア系セラミックス3の粒子は、200ナノメートル以下であり、その直径よりはるかに長いカーボンナノチューブ2と絡み合っている。絡み合った二つの間に強力な化学結合が出来る可能性はなく、ファンデルワールス力に似た弱い力によって結合されている。このナノ複合体1において、カーボンナノチューブ2とアルミナ-マグネシア系セラミックス3との間の結合力が強いと、これらの二つの熱膨張差による残留応力が緩和できなくなり、多層カーボンナノチューブ2の添加量の増大に伴って、その残留応力は複合材料を破壊するまでになる。しかし、緻密で割れない複合材料が得られていることは、残留応力の緩和が行われていることを示している。すなわち、ナノ複合体1内では、弱い力による結合のために、多層カーボンナノチューブ2は変形できる状態になっている。アルミナ-マグネシア系セラミックス3のナノ結晶が収縮するに従って、多層カーボンナノチューブ2は長さ方向で曲がることが可能で、これによって残留応力が緩和されるようになる。残留応力が緩和されることで複合材料の靭性および強度が小さくなることはない。複合材料中でクラックが進展すると、ナノ複合体1中ではカーボンナノチューブ2の引き抜きが起き、これによって靭性および強度の増大がもたらされる。カーボンナノチューブ2の割合が多くなると、生成するナノ複合体1の割合が多くなるが、残留応力の緩和がよくされているため、複合材料の強度が低下することは全くない。
【0035】
本発明の実施の形態の高機能複合材料を製造するためには、微細で異方性の大きいカーボンナノチューブと、アルミナ-マグネシア系セラミックスの原料である水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを均一に混合する必要がある。混合技術として、これら三つの原料は溶液にできないので、粉末同士の混合方法を採用する必要がある。粉体の混合方法には色々あるが、カーボンナノチューブは凝集する傾向があるため、乾燥状態での均一混合は困難である。また、溶媒を使った湿式混合において、溶媒の量が多いと比重差による沈殿速度の違いから分離が起き、均一混合を達成するのが困難である。この分離沈殿を防ぐために、水やアルコールに粉体を入れて粘性の大きなスラリーを作り、それをボールミルで長時間回転混合する方法が一般的に行われている。
【0036】
しかし、この方法ではボールによってカーボンナノチューブが破壊される。本発明の実施の形態の高機能複合材料の製造方法では、この破壊を防ぎ、短時間で均一混合を行うために、スラリーの混合を自転・公転スーパーミキサーを使って行った。この装置は、スラリーの入った容器を自転させ、それを支える本体を反対方向に公転させて混合を行うもので、粘性の高いものの混合に適している。このように反対方向に自転および公転をさせることにより、スラリーにせん断応力を作用させて、凝集した部分を破壊する力を与えている。この方法により、比較的短時間での均一混合が可能になる。このスラリーを作るに際し、分散をよくするために界面活性剤や分散剤を添加すると、均一混合の時間を短くできる。
【0037】
本発明の実施の形態の高機能複合材料の焼結を、基本的には無加圧下で行うことが出来る。しかし、アルミナ-マグネシア系セラミックスの混合割合が、カーボンナノチューブの量に比べて少なくなると、焼結性能が劣るようになるため、無加圧焼結法では緻密で強度の大きい焼結体を作ることが困難になる。加圧下での焼結法を用いると、全ての混合範囲で容易に緻密な複合材料を作ることが出来る。工業的利用価値の高い加圧焼結法は、ホットプレス法(HP)および放電プラズマ焼結法(SPS)である。
【0038】
ホットプレス法は、試料の入った黒鉛型を加圧しながら、通常は非酸化性の雰囲気中で、外熱加熱法により焼結温度まで昇温し、その温度に一定時間保持して製品を製造する方法である。この方法では、加圧による緻密化促進の効果が期待できるために、アルミナ-マグネシア系セラミックスが60mass%以下になって焼結性が悪くなった高機能複合材料の緻密化も容易に行うことができる。
【0039】
放電プラズマ焼結機(SPS)は、プラズマ活性化焼結機(PAS)、放電プラズマシステム(SPS)、パルス通電焼結機などと呼ばれ、金属やセラミックスを焼結するために開発された装置である。その構成の特徴は、伝導性の型に試料を詰め、そこへ直接、パルス直流電流を流して加熱するところにある。その結果、型内の試料にパルスの電場が作用し、物質の拡散が促進され、塑性変形し易くなる。さらに、電気抵抗の大きな粉末においては、試料表面にわずかな電流が流れ、これが結晶表面での分子の移動を加速し、結晶成長を促進する。固相反応においても、分子の移動が促進されるため、従来よりも低温で反応できるようになる。このようなSPSの効果を使うことにより、従来は不可能であったWCのみからなる焼結体や、AlNあるいはSiCのみからなる焼結体の製造が可能になっている。
【0040】
本発明の実施の形態の高機能複合材料は、カーボンナノチューブ0.1~90mass%とアルミナ-マグネシア系セラミックス99.9~10mass%とを含む焼結体から成っており、カーボンナノチューブとアルミナ-マグネシア系セラミックスのナノ結晶とが互いに絡み合ったナノ複合体を構成要素として有している。このナノ複合体それ自体が、靭性および強度が大きい複合材料であり、これがアルミナ-マグネシア系セラミックス中に分散することで靭性および強度が大きい高機能複合材料を生成している。カーボンナノチューブの混合割合が0.1mass%より少ないと、耐摩耗性能の一部である摩擦係数を、アルミナのそれに比べて小さくすることが出来ない。90mass%以上にカーボンナノチューブの割合を多くすると、複合材料の強度が、カーボンナノチューブのみを固化したものと変わらなくなる。
【0041】
さらに、本発明の実施の形態の高機能複合材料のセラミックス部分は、アルミナ99.8~0.5mass%とマグネシア0.2~99.5mass%とからなるアルミナ-マグネシア系セラミックスである。原料の水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムのそれぞれ単身と、カーボンナノチューブとを混合して焼結すると、得られた複合材料のアルミナおよびマグネシアの粒径が20マイクロメートル以上に結晶成長し、靭性および強度が著しく低下して使用できなくなる。この結晶成長は、アルミナとマグネシアとの混合組成にすることで防ぐことができる。マグネシアの混合量が0.2mass%以上でアルミナの結晶成長は完全に抑制され、靭性および強度の大きな高機能複合材料を製造できる。同様に、アルミナ0.5mass%以上をマグネシアに添加すると、マグネシアの粒成長が抑制され、強度の低下やカーボンナノチューブの不均一分散を防ぐことができる。
【0042】
次に、本発明の実施の形態の高機能複合材料の製造方法について説明する。高機能複合材料の製造には、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブおよびカーボンナノロッドのすべてを使用することができる。さらに、これらの2種以上の混合物を使用することもできる。一方、アルミナ-マグネシア系セラミックスの原料としては、アルミナの前駆体である水酸化アルミニウムと、マグネシアの前駆体である水酸化マグネシウムとの混合原料を使用する。
【0043】
水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとカーボンナノチューブとの混合では、まず、カーボンナノチューブの規定量を秤量し、それを容器に入れて、水または蒸留水、あるいはメタノール、エタノール等のアルコールを加えてスラリーを作る。スラリー中でのカーボンナノチューブの分散を良くするために、界面活性剤あるいは分散剤を添加すると、混合時間が短縮できる。なお、この添加剤は、スラリーの粘性を調節する役割をも担っている。界面活性剤や分散剤には多くの種類があるが、これらの中でアルカリあるいはアルカリ土類に属する元素を含まないものを使用する必要がある。これらの元素が含まれていると、複合材料中にそれらが残るためである。その添加する量の目安は、溶媒に対して0.1~10vol%である。0.1vol%以下では添加効果が小さく、10vol%以上添加しても効果には変化がなくなる。
【0044】
このスラリーに、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム粉を入れて、3~180分間混合する。この混合に、自転・公転スーパーミキサーを使うと、均一混合を効率的に行うことが出来る。混合時間が3分以下では混合が均一に行われず、180分以上混合しても混合の状態は変わらない。この混合したスラリーから水分を除き、さらにホットプレートあるいは乾燥機を用いて150~250℃で乾燥し、同時に、添加した界面活性剤あるいは分散剤を分解し、焼結用の混合原料とする。
【0045】
この混合原料をそのまま使っても、アルミ-マグネシア系セラミックス複合材料を得るための焼結を行うことが出来る。しかし、大きな形状の製品の製造のため、あるいは昇温を速く行うためには、混合原料の水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを仮焼分解して水分を除去した方が、焼結中の収縮率を抑制でき、製品にクラックが入るのを防ぐことができ、かつ焼結に用いる雰囲気炉が水分で汚染されるのを防ぐことが出来る。この仮焼は、非酸化性の雰囲気で行う必要がある。酸化性の雰囲気ではカーボンナノチューブが酸化されて無くなってしまう。仮焼の温度は、300℃~900℃の範囲が適当である。300℃より温度が低いと水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムの分解が十分に行われず、900℃以上ではアルミナ結晶、スピネル結晶、マグネシア結晶が大きくなり、カーボンナノチューブのナノ複合体を生成させることが出来なくなる。また、仮焼の時間は、5分から60分が適当である。すなわち、5分より時間が短いと分解が十分でなく、60分以上分解しても分解がすでに完了しているので効果はない。
【0046】
アルミナ-マグネシア系セラミックス複合材料を無加圧焼結法で製造するためには、焼結に先立って必要な形に成形する必要がある。この成形は、射出成形法、型押し成形法、スリップキャスト法などの従来技術を使って行うことが出来る。無加圧焼結の温度は、1300℃~1800℃の温度範囲である。1300℃以下では無加圧下での焼結が十分に進行しないし、1800℃以上に焼結温度を高くしても焼結が完了しているので焼結に対する効果は変わらない。無加圧の焼結時間は、0.2時間から5時間の範囲が適当である。0.2時間より時間が短いと焼結が十分ではなく、5時間以上焼結しても緻密化の効果はほとんどない。この無加圧焼結は、電磁波焼結装置を用いても行うことができる。黒鉛材料は、誘電性電磁波吸収体として高分子やコンクリートに混合して使われている。同様に、アルミナ-マグネシア系セラミックスも誘電性電磁波吸収体である。無加圧焼結用の混合原料を成型した後、電磁波焼結装置を用いて電磁波吸収による発熱によって、1300℃~1800℃の温度に加熱し、最終到達温度に0.1~3時間保持して焼結を完了することにより、本発明の実施の形態の高機能複合材料を得ることができる。なお、焼結時間が0.1時間以下では焼結が十分ではなく、3時間以上に時間を長くしても焼結に対する効果は変わらない。
【0047】
加圧焼結法は、カーボンナノチューブの割合が多い混合原料を使う場合に有利である。加圧焼結機としては、ホットプレスとSPSとを使うことで緻密な焼結体を得ることができる。ホットプレスにおいては、型に詰めた混合原料を外熱加熱によって温度を上げ、加圧下で焼結する。一方、SPSにおいては、混合原料の入った型にパルス直流を流し、直接加熱して加圧下で焼結する。焼結温度は1050℃~1600℃の範囲で、焼結時間は5分から2時間であり、加圧力は2~200MPaである。焼結温度は加圧力と関連し、焼結温度を下げるためには加圧力を大きくする必要がある。加圧力は、型の耐圧性能で決まる。緻密な黒鉛型は、2400℃の温度まで、最大200MPaまで使用することができる。焼結温度を1050℃以下にすると、加圧力を200MPaと大きくしても、複合材料を緻密に焼結することはできないため、焼結温度を1050℃以上とすることが不可欠である。温度を1600℃以上にしてもそれ以下の温度ですでに焼結しているので緻密化に対する効果はない。焼結の時間は、5分より短いと焼結が十分ではなく、2時間以上かけても焼結はすでに完了しているのでそれよりの緻密化の効果は期待できない。加圧力を200MPa以上に高くすると、耐圧性能に優れた緻密な黒鉛型でも破壊するため、この加圧力以下で複合材料の焼結を行う必要があり、2MPa以下に加圧力を下げると加圧焼結の効果がなくなる。
【0048】
なお、仮焼と焼結とを酸化雰囲気中で行うと、カーボンナノチューブが酸化されるため、非酸化性である真空や、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガスその他の非酸化性のガス雰囲気にすることが必要である。
【実施例1】
【0049】
多層カーボンナノチューブ(MWNT)を使い、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムを、表1に示すAl2O3およびMgO相当量に秤量した。これらの原料を水と混合してスラリーを作り、そこへ分散剤として水の約5vol%になるようにアラビア糊を添加し、自転・公転スーパーミキサーを使って1時間混合した。この混合原料を乾燥後、空気中で約200℃に加熱して分散剤を分解し、さらに雰囲炉を使い窒素ガスを流しながら、500℃まで1時間で昇温し、その温度に15分間保持して原料の水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを分解した。この分解された原料をモールド成型し、黒鉛発熱の電気炉を用いて、窒素雰囲気中で1700℃まで2時間かけて昇温し、その温度に3時間保持して焼結を完了した。
【0050】
得られた高機能複合材料のMWNTの混合割合に対する、かさ密度、曲げ強度、靭性、摩擦係数、電気抵抗および電磁波吸収による発熱を測定し、その結果を表1に示す。比較のために、MWNTを添加しない純粋のアルミナ焼結体、および1mass%のMgOを添加したアルミナ焼結体を同じ方法で合成し、その結果も表1に示す。
【0051】
【表1】
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【0052】
表1に示すように、アルミナ焼結体の靭性と強度とは小さく、摩擦係数と電気抵抗とはかなり大きい。特に、MgOを添加していないアルミナ焼結体では、アルミナ結晶の成長により強度は著しく低下している。しかし、MWNTをわずかに添加することにより、摩擦係数および電気抵抗の低下が著しくなっている。靭性と強度との改善に対しては、1mass%以下のカーボンナノチューブ添加では効果がさほど大きくないが、数%の添加で大きな効果が得られている。MWNTの添加量が多くなると、ナノ複合体の割合が多くなりアルミナとの複合材料というよりは、ナノ複合体のそのものの性質となり、摩擦係数と電気抵抗とは大きく低下する。靭性と強度とは、アルミナ焼結体のそれよりかなり大きい。電磁波吸収による発熱(表1中の「電子レンジで発熱」)は、電子レンジを使った複合材料の電磁波吸収による発熱の状況を調べることにより測定し、表1中のX印は発熱しないことを示し、○印は少し発熱し、○○印はかなり発熱することを示している。1mass%のMWNTの添加では発熱しないが、2mass%の添加で少し発熱し、それ以上の添加では大きな発熱現象が観察された。
【実施例2】
【0053】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)を使い、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムを、表2に示すAl2O3およびMgOの相当量になるように秤量した。このすべての合成においては、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムの混合割合から生成するのはスピネル(MgAl2O4)である。これらの原料を水と混合してスラリーを作り、そこへ分散剤として水の約3.5vol%になるようにトリエタノールアミンを添加し、自転・公転スーパーミキサーを使って1.2時間混合した。この混合原料を乾燥後、空気中で240℃に加熱して分散剤を分解し、さらに雰囲炉を使い窒素ガスを流しながら、600℃まで1.5時間で昇温し、その温度に30分間保持して原料の水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを分解した。この分解脱水した原料をモールド成型し、黒鉛発熱の電気炉を用いて、窒素雰囲気中で1700℃まで1.5時間かけて昇温し、その温度に2時間保持して焼結を完了した。
【0054】
得られた高機能複合材料のカーボンナノチューブ(SWNT)の混合割合に対する、かさ密度、曲げ強度、靭性、摩擦係数、電気抵抗、電磁波吸収による発熱を測定し、その結果を表2に示す。表2の高機能複合材料は、SWNTとスピネルとからなっている。比較のために、SWNTを添加しないで、同じ条件で合成したスピネル焼結体の結果も示している。
【0055】
【表2】
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【0056】
表2に示すように、スピネルにSWNTを加えナノ複合体を生成させることにより、強度と靭性とを大きくすることが出来る。摩擦係数と電気抵抗とは、SWNTを少量添加することで急激に低下し、カーボンナノチューブの添加効果の大きいことが分かる。電磁波吸収による発熱(表2中の「電子レンジで発熱」)は、電子レンジを使った複合材料の電磁波吸収による発熱の状況を調べることにより測定し、表2中のX印は発熱しないことを示し、○印は少し発熱し、○○印はかなり発熱することを示している。SWNTの1mass%の添加では発熱は観察されなかったが、3mass%添加では少し発熱し、それ以上の添加ではかなり発熱することが分かった。
【実施例3】
【0057】
多層カーボンナノチューブ(MWNT)を使い、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムを、表3に示すAl2O3およびMgO相当量になるように秤量した。これらの原料をエタノールと混合してスラリーを作り、そこへ分散剤としてエタノールの約3vol%になるようにブチルヒドロキシトルエンを添加し、自転・公転スーパーミキサーを使って1時間混合した。この混合原料を乾燥後、ホットプレートで空気中において200℃に加熱し、さらに雰囲炉を使い窒素ガスを流しながら、500℃まで2時間で昇温し、その温度に30分間保持して原料の水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを分解した。この原料を黒鉛型に詰め、ホットプレス機を用い、アルゴンガス中で20MPaの加圧下において、1550℃まで1時間で昇温し、この温度に1時間保持して焼結を完了した。
【0058】
得られた高機能複合材料のMWNTの混合割合に対する、かさ密度、曲げ強度、靭性、摩擦係数、電気抵抗および電磁波吸収による発熱を測定し、その結果を表3に示す。比較のために、マグネシアにアルミナを1mass%添加したマグネシア焼結体と、マグネシア単身の焼結体とを同じ条件で合成し、その結果も表3に示す。
【0059】
【表3】
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【0060】
表3に示すように、マグネシア単身の焼結体の強度は粒成長のため小さく、これにアルミナを添加すると強度が増大することが分かる。カーボンナノチューブの添加量が40mass%より多くなると、無加圧下での焼結によって緻密な高機能複合材料を合成するのが困難になってくるが、ホットプレスを使うことで、表3に示されるように強度と靭性との大きな緻密な高機能複合材料の作製が可能である。この高機能複合材料は、ほとんどナノ複合体よりなっているが、靭性と強度とは十分製品として実用化できる値である。電磁波吸収による発熱(表3中の「電子レンジで発熱」)は、電子レンジを使った複合材料の電磁波吸収による発熱の状況を調べることにより測定し、表3中のX印は発熱しないことを示し、○印は少し発熱し、○○印はかなり発熱することを示している。高機能複合材料は、カーボンナノチューブの含有量が多いため、大きな発熱が観察された。カーボンナノチューブを含まない焼結体では、発熱は見られなかった。
【実施例4】
【0061】
多層カーボンナノチューブ(MWNT)を使い、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムを、表4に示すAl2O3およびMgO相当量になるように秤量した。これらの原料を水と混合してスラリーを作り、そこへ分散剤として水の約2vol%になるようにプロピレングリコールを添加し、自転・公転スーパーミキサーを使って1.5時間混合した。この混合原料を乾燥後、空気中で220℃に加熱し、さらに雰囲炉を使い窒素ガスを流しながら、150℃まで1時間かけて昇温し、それから700℃まで1.5時間で昇温し、その温度に5分間保持して原料の水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを分解した。この分解された原料を黒鉛型に詰め、放電プラズマ焼結機(SPS)にセットし、真空中で80MPaの加圧下のもとで、1500℃まで1時間で昇温し、その温度に20分間保持して焼結を完了した。
【0062】
得られた高機能複合材料のMWNTの混合割合に対する、かさ密度、曲げ強度、靭性、摩擦係数、電気抵抗および電磁波吸収による発熱を測定し、その結果を表4に示す。比較のために、MWNTのみの焼結体を同じ方法で合成し、その結果も表4に示す。
【0063】
【表4】
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【0064】
表4に示すように、MWNTを60mass%以上添加しても、SPSを使うことで緻密な高機能複合材料の合成が可能である。電気抵抗は、MWNTの添加が85mass%になると、炭素のそれに近くなり、摩擦係数の低下も著しい。電磁波吸収による発熱(表4中の「電子レンジで発熱」)は、電子レンジを使った複合材料の電磁波吸収による発熱の状況を調べることにより測定し、表4中のX印は発熱しないことを示し、○印は少し発熱し、○○印はかなり発熱することを示している。いずれの試料も多くのMWNTを含むため、かなり大きな発熱が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上、詳細に説明したように、本発明のカーボンナノチューブとアルミナーマグネシア系セラミックスとを含む高機能複合材料は、従来のアルミナ-マグネシア系セラミックスの靭性を改善しており、かつ強度も改善されている。さらに、耐摩耗性能が大きく改善された摩擦係数を示している。電気抵抗は、カーボンナノチューブの添加量に対して小さくなり、アルミナ-マグネシア系セラミックスの量が少ない高機能複合材料では、黒鉛材料に近い電気抵抗となっている。
【0066】
本発明に係る高機能複合材料は、従来のアルミナ-マグネシア系セラミックスが使われていた分野で、さらにはカーボンナノチューブの特性を利用した新分野での利用が可能である。すなわち、コンデンサー型二次電池、電子ビーム描画装置用部材、IC製造用部材、フェルール、包丁などの各種切断刃、人工骨、人工関節、人工股関節のカップ(インサート)材、粉砕機装置用部材(ボール、粉砕機パーツ、内張材等)、成型機械用部材(ノズル、シリンダー、成型用型)、加工機用部材(シャフト、軸受け、ポンプ等)、工具用部材(切削バイト、スナップゲージ、軸受け、定盤、ボールベアリング、溶接冶具等)、摺動部品(メカニカルシール、チルティングパット、伸線機用ロール、プーリー、糸道、釣具、磁器ヘッドスライダー、抄紙機用滑板等)、化学装置用部材(バブル、ストッパー、流量計、噴射ノズル、攪拌機、シャフト等)、その他一般的な機械用部材としてシャフト、ノズル、スプレイノズル、軸受け、メカニカルシールに有用である。
【0067】
本発明に係る高機能複合材料の電子材料としては、カーボンナノチューブの構造の一つであるキラル型の持つ機能を反映し、300MHz~300GHz帯のマイクロ波やミリ波の電磁波吸収体、電磁波反射体、カプラー、変調機、電磁波スイッチ、アンテナ、マイクロメカニカル素子、マイクロセンサー、エネルギー変換素子、レーダー保護用ドーム、ノイズ吸収体、電磁波吸収発熱体に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態の高機能複合材料のアルミナ-マグネシア系ナノ複合体を示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ナノ複合体
2 カーボンナノチューブ
3 アルミナ-マグネシア系セラミックス
図面
【図1】
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