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明細書 :ヨーレート制御装置および制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4925455号 (P4925455)
公開番号 特開2009-050077 (P2009-050077A)
登録日 平成24年2月17日(2012.2.17)
発行日 平成24年4月25日(2012.4.25)
公開日 平成21年3月5日(2009.3.5)
発明の名称または考案の名称 ヨーレート制御装置および制御方法
国際特許分類 B60L   9/16        (2006.01)
B60K  17/356       (2006.01)
FI B60L 9/16 B
B60K 17/356 B
請求項の数または発明の数 12
全頁数 19
出願番号 特願2007-213185 (P2007-213185)
出願日 平成19年8月17日(2007.8.17)
審査請求日 平成22年5月24日(2010.5.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
発明者または考案者 【氏名】藤本 博志
【氏名】狩野 岳史
個別代理人の代理人 【識別番号】100077481、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 義一
【識別番号】100088915、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 和夫
審査官 【審査官】村上 哲
参考文献・文献 特開2005-088726(JP,A)
特開平07-081609(JP,A)
国際公開第2008/029524(WO,A1)
特開2006-34012(JP,A)
特開2003-159966(JP,A)
特開2007-104892(JP,A)
特開2005-160262(JP,A)
特開2007-176260(JP,A)
特開2003-175749(JP,A)
調査した分野 B60L 9/16
B60K 17/356
特許請求の範囲 【請求項1】
トルク指令に基づき第1および第2のモータを制御するモータ制御手段を有した、前記第1および第2モータで第1および第2の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、
所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算手段と、
入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算手段と、
外乱を抑圧するヨーレートオブザーバ(YMO)であって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成するYMOと、
前記駆動力モーメントと前記第1および第2の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて第1の駆動輪に対応する第1の駆動力指令値と第2の駆動輪に対応する第2の駆動力指令値を算出するトルク分配演算手段と、
前記第1および第2の各駆動力指令値をそれぞれ第1および第2のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換手段と、
前記第1および第2のスリップ率指令値からスリップ率検出或いは推定に基づいてスリップ率制御された第1および第2のトルク指令値を算出するスリップ率制御手段と
を備え、前記YMOは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御手段は、前記第1のトルク指令値に基づいて前記第1の駆動輪の第1のモータを制御し、前記第2のトルク指令値に基づいて前記第2の駆動輪の第2のモータを制御することを特徴とするスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項2】
前記トルク・スリップ率変換手段は、スリップ率を一定値として算出したドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする請求項1に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項3】
前記トルク・スリップ率変換手段は、前記スリップ率制御手段においてオンラインで推定されたスリップ率から算出されたドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする請求項1に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項4】
前記トルク・スリップ率変換手段は、前記第1および第2の両駆動輪に対応するドライビングスティフネスを算出することを特徴とする請求項2又は3に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項5】
前記トルク・スリップ率変換手段は、前記第1の駆動輪に対応する第1のドライビングスティフネスと前記第2の駆動輪に対応する第2のドライビングスティフネスとをそれぞれ算出することを特徴とする請求項2又は3に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項6】
トルク指令に基づき第1および第2のモータを制御するモータ制御ステップを有した、前記第1および第2モータで第1および第2の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御ステップにおいて、
所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算ステップと、
入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算ステップと、
ヨーレートオブザーバ(YMO)を構成して外乱を抑圧する外乱抑圧ステップであって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成する外乱抑圧ステップと、
前記駆動力モーメントと前記第1および第2の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて前記第1の駆動輪に対応する第1の駆動力指令値と前記第2の駆動輪に対応する第2の駆動力指令値を算出するトルク分配演算ステップと、
前記第1および第2の各駆動力指令値をそれぞれ第1および第2のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換ステップと、
前記第1および第2のスリップ率指令値からスリップ率推定に基づいてスリップ率制御された第1および第2のトルク指令値を算出するスリップ率制御ステップと
を有し、前記外乱抑圧ステップは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御ステップは、前記第1のトルク指令値に基づいて前記第1の駆動輪の第1のモータを制御し、前記第2のトルク指令値に基づいて前記第2の駆動輪の第2のモータを制御することを特徴とするスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
【請求項7】
前記トルク・スリップ率変換ステップは、スリップ率を一定値として算出したドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする請求項6に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
【請求項8】
前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記スリップ率制御手段においてオンラインで推定されたスリップ率から算出されたドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする請求項6に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
【請求項9】
前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記第1および第2の両駆動輪に対応するドライビングスティフネスを算出することを特徴とする請求項7又は8に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
【請求項10】
前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記第1の駆動輪に対応する第1のドライビングスティフネスと前記第2の駆動輪に対応する第2のドライビングスティフネスとをそれぞれ算出することを特徴とする請求項7又は8に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
【請求項11】
トルク指令に基づき第1から第4のモータを制御するモータ制御手段を有した、前記第1から第4モータで第1から第4の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、
所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算手段と、
入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算手段と、
外乱を抑圧するヨーレートオブザーバ(YMO)であって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成するYMOと、
前記駆動力モーメントと前記第1から第4の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて第1から第4の駆動輪に対応する第1から第4の駆動力指令値を算出するトルク分配演算手段と、
前記第1から第4の各駆動力指令値をそれぞれ第1から第4のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換手段と、
前記第1から第4のスリップ率指令値からスリップ率検出或いは推定に基づいてスリップ率制御された第1から第4のトルク指令値を算出するスリップ率制御手段と
を備え、前記YMOは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御手段は、前記第1から第4のトルク指令値に基づいて前記第1から第4の駆動輪の第1から第4のモータを制御することを特徴とするスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置。
【請求項12】
トルク指令に基づき第1から第4のモータを制御するモータ制御ステップを有した、前記第1から第4モータで第1から第4の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御ステップにおいて、
所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算ステップと、
入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算ステップと、
ヨーレートオブザーバ(YMO)を構成して外乱を抑圧する外乱抑圧ステップであって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成する外乱抑圧ステップと、
前記駆動力モーメントと前記第1から第4の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて前記第1から第4の駆動輪に対応する第1から第4の駆動力指令値を算出するトルク分配演算ステップと、
前記第1から第4の各駆動力指令値をそれぞれ第1から第4のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換ステップと、
前記第1から第4のスリップ率指令値からスリップ率推定に基づいてスリップ率制御された第1から第4のトルク指令値を算出するスリップ率制御ステップと
を有し、前記外乱抑圧ステップは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御ステップは、前記第1から第4のトルク指令値に基づいて前記第1から第4の駆動輪の第1から第4のモータを制御することを特徴とするスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ率制御に基づくヨーレート制御装置および制御方法に関し、より詳細には、スリップ率を適切に保つことで車輪の空転を防ぎ、車両の旋回能力を高めるスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)の特徴はモータを動力とする点である。モータには内燃機関に比べて、トルク応答が速い、発生するトルクが正確に把握できる、小型軽量であるため分散配置して独立駆動できるなどの利点がある(非特許文献1参照)。これまでに、インホイールモータを持つ電気自動車に対して、低μ路において安定して走行するためのトラクション制御(アンチスリップコントロール:ASC)や、走行中のヨー外乱の影響を抑圧するヨーレート制御(ヨーモーメントオブザーバ:YMO)が提案され、シミュレーションや実験により、その有効性が確認されている(非特許文献2参照)。またYMOに基づいたコーナリングスティフネス推定法が提案され、さらにASCと組み合わせることで低μ路においても外乱の影響を抑えられることも確認されている(非特許文献3参照)。さらに、車両の前後輪のコーナリングスティフネスの独立推定に基づいた車体横滑り角推定法なども提案されている(非特許文献4参照)。
【0003】
低μ路においては、車輪が空転しやすいため、YMOの要求するヨーモーメントが左右のインホイールモータの駆動力差により充分に発生できない状況が考えられ、このような時ではASCによる空転抑制が効果的となる。しかし空転の可能性の低い高μ路においては、ASCにより瞬発的な駆動力を削がれることで速やかなヨーモーメント生成を妨げ、ヨーレート制御に悪影響をもたらすことが考えられる。このように、YMOとASCを組み合わせた場合、YMOの要求する駆動力指令にASCが干渉する、すなわち、YMOの要求する駆動力に対してASCがスリップ防止のために駆動力を抑制することで、ヨーレート制御の性能が低下することについては、YMOとASCの干渉の影響を軽減する手法が提案されている(非特許文献5参照)。さらに、路面状況に応じてASCのゲインをチューニングし乾燥路でのヨーレート制御性能の低下を抑制する方法も提案されている(非特許文献6参照)。
【0004】

【非特許文献1】Y. Hori: “Future Vehicle Driven by Electricity and Control-Research on Four-Wheel-Motored: UOT Electric March II”, IEEE Trans. IE, Vol. 51, No. 5, 2004.
【非特許文献2】Y. Hori、 “Future Vehicle Driven by Electricity and Control-Research on Four-Wheel-Motored: UOT Electric March II”、 IEEE Trans. IE、 Vol. 51、 No. 5、 2004.
【非特許文献3】T. Saito、 H. Fujimoto、 T. Noguchi、 “Traction and Steering Stabilization Control for Electic Vehicle Based on Slip and Yaw-Moment Observers”、 Proc. IEEE of Japan、 Technical Meeting Record、 IIC-03-52、 pp. 41-46、 2003. (in Japanese)
【非特許文献4】A. Tsumasaka、 H. Fujimoto、 T. Noguchi、 “Running Stabilization Control of Electric Vehicle Based on Cornering Stiffness Estimation”、 IEEE Trans. IA、 Vol. 126、 No. 7、 pp. 996-1002、 2006. (in Japanese)
【非特許文献5】N. Takahashi、 H. Fujimoto、 A. Tsumasaka、 T. Noguchi、 “Proposal of Body Slip Angle Estimation for Electric Vehicle Based on Identification of Front and Rear cornering Stiffness Coefficients”、 IIC-05-73、 pp. 89-94、 2005. (in Japanese)
【非特許文献6】T. Kanou、 H. Fujimoto、 “Experimental Study on Cooperative Traction Control with Yaw-rate Control for Electric Vehicle”、 IIC-07-83、 pp. 77-82、 2007. (in Japanese)
【非特許文献7】K. Fujii, H. Fujimoto, “Slip ratio Control Based on Wheel Speed Control without Detection Vehicle Speed for Electric Vehicle”, VT-07-05, pp. 27-32, 2007. (in Japanese)
【非特許文献8】Hideo Sado, Shin-ichiro Sakai and Yoichi Hori: “Road ConditionEstimation for Traction Control in Electic Vehicle”, In Proc. 1999 IEEE International Symposium on Industrial Electronics,pp.973-978, 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のASCでは低μ路におけるトラクション制御には限界があり、YMOとASCの干渉を軽減できてもヨーレート制御が大きく阻害されるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ヨーレート制御のみでは車体の姿勢を制御できない路面においても安定に走行することが可能な、車輪速度制御に基づくスリップ率制御とヨーレート制御の協調制御を行うスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、トルク指令に基づき第1および第2のモータを制御するモータ制御手段を有した、前記第1および第2モータで第1および第2の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算手段と、入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算手段と、外乱を抑圧するヨーレートオブザーバ(YMO)であって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成するYMOと、前記駆動力モーメントと前記第1および第2の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて第1の駆動輪に対応する第1の駆動力指令値と第2の駆動輪に対応する第2の駆動力指令値を算出するトルク分配演算手段と、前記第1および第2の各トルク指令値をそれぞれ第1および第2のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換手段と、前記第1および第2のスリップ率指令値からスリップ率推定に基づいてスリップ率制御された第3および第2のトルク指令値を算出するスリップ率制御手段とを備え、前記YMOは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御手段は、前記第1のトルク指令値に基づいて前記第1の駆動輪の第1のモータを制御し、前記第2のトルク指令値に基づいて前記第2の駆動輪の第2のモータを制御することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、前記トルク・スリップ率変換手段は、スリップ率を一定値として算出したドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、前記トルク・スリップ率変換手段は、前記スリップ率制御手段においてオンラインで推定されたスリップ率から算出されたドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、前記トルク・スリップ率変換手段は、前記第1および第2の両駆動輪に対応するドライビングスティフネスを算出することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2又は3に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、前記トルク・スリップ率変換手段は、前記第1の駆動輪に対応する第1のドライビングスティフネスと前記第2の駆動輪に対応する第2のドライビングスティフネスとをそれぞれ算出することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、トルク指令に基づき第1および第2のモータを制御するモータ制御ステップを有した、前記第1および第2モータで第1および第2の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御ステップにおいて、所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算ステップと、入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算ステップと、ヨーレートオブザーバ(YMO)を構成して外乱を抑圧する外乱抑圧ステップであって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成する外乱抑圧ステップと、前記駆動力モーメントと前記第1および第2の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて前記第1の駆動輪に対応する第1の駆動力指令値と前記第2の駆動輪に対応する第2の駆動力指令値を算出するトルク分配演算ステップと、前記第1および第2の各トルク指令値をそれぞれ第1および第2のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換ステップと、前記第1および第2のスリップ率指令値からスリップ率推定に基づいてスリップ率制御された第3および第2のトルク指令値を算出するスリップ率制御ステップとを有し、前記外乱抑圧ステップは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御ステップは、前記第1のトルク指令値に基づいて前記第1の駆動輪の第1のモータを制御し、前記第2のトルク指令値に基づいて前記第2の駆動輪の第2のモータを制御することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法において、前記トルク・スリップ率変換ステップは、スリップ率を一定値として算出したドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法において、前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記スリップ率制御手段においてオンラインで推定されたスリップ率から算出されたドライビングスティフネスに基づいてトルク・スリップ率変換を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法において、前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記第1および第2の両駆動輪に対応するドライビングスティフネスを算出することを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項7又は8に記載のスリップ率制御に基づくヨーレート制御方法において、前記トルク・スリップ率変換ステップは、前記第1の駆動輪に対応する第1のドライビングスティフネスと前記第2の駆動輪に対応する第2のドライビングスティフネスとをそれぞれ算出することを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の発明は、トルク指令に基づき第1から第4のモータを制御するモータ制御手段を有した、前記第1から第4モータで第1から第4の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御装置において、所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算手段と、入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算手段と、外乱を抑圧するヨーレートオブザーバ(YMO)であって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成するYMOと、前記駆動力モーメントと前記第1から第4の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて第1から第4の駆動輪に対応する第1から第4の駆動力指令値を算出するトルク分配演算手段と、前記第1から第4の各駆動力指令値をそれぞれ第1から第4のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換手段と、前記第1から第4のスリップ率指令値からスリップ率検出或いは推定に基づいてスリップ率制御された第1から第4のトルク指令値を算出するスリップ率制御手段とを備え、前記YMOは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御手段は、前記第1から第4のトルク指令値に基づいて前記第1から第4の駆動輪の第1から第4のモータを制御することを特徴とする。
【0018】
請求項12に記載の発明は、トルク指令に基づき第1から第4のモータを制御するモータ制御ステップを有した、前記第1から第4モータで第1から第4の駆動輪をそれぞれ駆動する自動車のヨーレートを制御するスリップ率制御に基づくヨーレート制御ステップにおいて、所与の舵角から所定のヨーレート指令値を算出するヨーレート演算ステップと、入力されたヨーレートからモーメントを算出するモーメント演算ステップと、ヨーレートオブザーバ(YMO)を構成して外乱を抑圧する外乱抑圧ステップであって、計測されたヨーレートと前記モーメントからヨー軸周りのモーメントである駆動力モーメントを生成する外乱抑圧ステップと、前記駆動力モーメントと前記第1から第4の駆動輪に対する駆動力指令の和であるアクセル指令値とに基づいて前記第1から第4の駆動輪に対応する第1から第4の駆動力指令値を算出するトルク分配演算ステップと、前記第1から第4の各駆動力指令値をそれぞれ第1から第4のスリップ率指令値に変換するトルク・スリップ率変換ステップと、前記第1から第4のスリップ率指令値からスリップ率推定に基づいてスリップ率制御された第1から第4のトルク指令値を算出するスリップ率制御ステップとを有し、前記外乱抑圧ステップは、タイヤの横力が発生するコーナリングフォースによるモーメント及び横風などによる外乱モーメントを外乱として扱い、前記モータ制御ステップは、前記第1から第4のトルク指令値に基づいて前記第1から第4の駆動輪の第1から第4のモータを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ヨーレート制御のみでは車体の姿勢を制御できない路面においても安定に走行することが可能になる。また、路面状況に応じてスリップ率制御することにより、高μ路においてもヨーレート制御の精度を高めることが可能になる。また、従来のASCに比べ、より応答性の良いトラクション制御が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
電気自動車は、駆動輪に接続されたモータの駆動力が駆動輪に伝達されて走行する。電源から出力された電流は、インバータを介してモータに供給される。モータは、制御手段としての電子制御ユニット(以下「ECU」と称す)にインバータを介して電気的に接続されており、モータの出力は、ECUからの指令に基づいてインバータによって制御される。ECUは、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECUには、モータの発生トルクを測定するトルク測定器、モータに装備された位置センサ、車体に生じる加速度を測定する加速度センサがインバータを介して電気的にそれぞれ接続されている。
【0021】
以下、図面を参照しながらECUに実装される本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.ヨーモーメントオブザーバを用いた走行安定化制御
1.1車両運動方程式
図1に、車両モデルとして四輪を車軸に関して対象と仮定した二輪車モデルを示す。このように単純化した二輪車モデルを想定し、車体のローリングを無視し、一定速度で走行していると仮定する。この車両モデルの水平面内における運動方程式は次式で表される。
【0022】
【数1】
JP0004925455B2_000002t.gif

【0023】
【数2】
JP0004925455B2_000003t.gif

【0024】
ただし、Mは車体質量、Vは車体速度、βは車体横滑り角、γはヨーレート、Iはヨー軸周りの慣性モーメント、lf、lrはそれぞれ車体重心から前輪軸、後輪軸までの距離である。Yf、Yrは前輪、後輪のコーナリングフォースであり、タイヤの特性に依存する非線形変数である。
【0025】
1.2ヨーレート制御法
上記のβやVを測定するには車体の実速度ベクトルが必要となる。また、コーナリングフォースについては非線形変数であるので測定や推定は困難である。本発明では、これらのパラメータによる影響を外乱モーメントと捉え外乱オブザーバによる一括補償を行う(非特許文献3参照)。
【0026】
図2に、YMOを用いた走行安定化制御ブロック図を示す。式(2)の右辺で表されるタイヤに発生するコーナリングフォースによるモーメントをNt、式(2)で考慮されていない路面状況の変化、横風などによる外乱モーメントをNd、実験機の後輪に装着されている二つのインホイールモータの駆動力差により生成できるヨー軸周りのモーメントをNzとする。ここでNdt=Nd-Ntとおくと、式(2)は、
【0027】
【数3】
JP0004925455B2_000004t.gif

【0028】
と簡単化される。式(3)において、ヨーレートγを検出し、図2に示すYMOを構成すれば外乱モーメントは抑圧され、
【0029】
【数4】
JP0004925455B2_000005t.gif

【0030】
とノミナル化される。本発明に係るシステムでは、生成した駆動力モーメントNzを以下の方法で左右の車輪に駆動力分配する。
【0031】
【数5】
JP0004925455B2_000006t.gif

【0032】
【数6】
JP0004925455B2_000007t.gif

【0033】
ただし、F*acはアクセル指令、F*R、F*Lは右輪、左輪の駆動力指令、lpは各モータから車軸中心までの距離である。トルク分配則(TDL)である式(5)、(6)を解くことで、左右それぞれの駆動力を決定することができる。さらに
【0034】
【数7】
JP0004925455B2_000008t.gif

【0035】
【数8】
JP0004925455B2_000009t.gif

【0036】
として、各車輪駆動モータに対するトルク指令を決定する。ただし、rは車輪半径である。
【0037】
モータに出力トルクリミッタがある場合、NzとF*acが共に大きいと、式(5)、(6)の条件を満たせなくなることがある。その際に、本発明ではアクセル指令T*acを引き下げることで駆動力モーメントNzの生成を優先して確保するものとする。
【0038】
2.スリップ率制御に基づくヨーレート制御
ヨーレート制御では左右の駆動力差によりヨーモーメントを発生し車体の姿勢を制御するが、低μ路などにおいては、駆動輪が空転することによってヨーレート制御コントローラの求めるヨーモーメントが得られなかったり、駆動輪のコーナリングフォースが著しく減少したりすることから、特に後輪駆動車の場合スピンし易くなる。
【0039】
乾燥路において車体速度がほぼ一定のヨーレート制御では、車輪角速度の変動
【0040】
【数9】
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【0041】
(ωdot)が充分に小さいため式(10)より式(7)、(8)も成り立つ。しかし、低μ路においては、加減速を伴う旋回を行うと車輪は容易に空転し、ωdotが大きな値を持つため式(7)、(8)は成立しない。このときヨーレート制御のために正確に駆動力を制御するにはスリップ率制御が有効である。
【0042】
図3に、左右輪の駆動力指令値から左右輪のトルク指令値を生成するスリップ率制御器(SRC)のブロック図を示す。上位のヨーレート制御系から与えられた駆動力指令を、低μ路のドライビングスティフネスを用いてスリップ率の指令値に換算し、下位のスリップ率制御系に与えることでより正確な駆動力配分を実現する。
【0043】
【数10】
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【0044】
ただし、λ*はスリップ率指令値、F*dは駆動力指令値、Dsnはドライビングスティフネスノミナル値である。ドライビングスティフネスは、予め推定した値を用いても、リアルタイムに同定したオンライン値を用いてもよく、オンライン値を用いた場合は路面変化に対応したより正確な駆動力制御が可能となる。スリップ率指令値が過大となる場合は、適当な値でスリップ率指令値にリミッタを設ける。図4に、本発明の一実施形態に係るYMOを用いた走行安定化制御器にSRCを組み込んだスリップ率制御に基づくヨーレート制御ブロック図を示す。これによりヨーレート制御性能は抑制されるものの車輪の空転による車体のヨー軸回りのスピンを防ぐことができる。尚、図3、4には、車体速度からスリップ率を算出するスリップ率制御器のブロック図を示したが、本発明において用いるスリップ率制御としては、これに替えて車体速度検出不要なスリップ率推定に基づくスリップ率制御器(非特許文献7参照)としてもよい。
【0045】
2.1スリップ率制御
2.1.1スリップ率推定
モータのトルク応答の時定数が非常に小さいと仮定するとき、車両の運動方程式は以下の式で表現できる。
【0046】
【数11】
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【0047】
【数12】
JP0004925455B2_000013t.gif

【0048】
【数13】
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【0049】
各変数は、モータの回転角速度ω、車体速度V、車輪速度Vω、モータトルクT、駆動力Fd、走行抵抗Fdrとする。各定数は、車体質量M、タイヤ半径r、車輪回転慣性モーメントJωとする。またスリップ率λは下記の式(13)で表されるが、本発明では駆動時のみ考えるものとしmax(Vω、V)=Vωとする。
【0050】
【数14】
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【0051】
この式(13)を両辺時間微分し、式(10)から(12)を式(13)に代入し、Vω、V、Fdを消去すると以下の式(14)を得ることが出来る。
【0052】
【数15】
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【0053】
ただし、J(λ)は車輪と車体を合わせた回転部分の実際の慣性モーメントである。この式に基づいた以下のスリップ率推定器が提案されている(非特許文献7参照)。
【0054】
【数16】
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【0055】
センサから得た車輪速度ωと推定して得られたスリップ率
【0056】
【数17】
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【0057】
(λhut)から車体速度の推定値を得ることが出来る。そして車体速度と目標スリップ率から目標車輪速度ω*を計算することが出来る。
【0058】
【数18】
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【0059】
これより、一般的に使用されているモータの電流制御ループの外側に速度ループを組んだ回転速度制御を用いることで、スリップ率制御を実現する。
【0060】
制御器はPI制御器を用いる。一般的に速度ループは車輪の慣性モーメントを用いて以下の式に基づいて極配置法により制御ゲインを決定する。
【0061】
【数19】
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【0062】
しかし式(14)より車体全体の慣性モーメントはスリップ率に応じて変化するため車輪の慣性モーメントのみで制御器を設計すると、スリップ率の変化に応じて相対的に制御器の極が変化する。そこで式(14)のJ(λ)=Jω+r2M(1-λ)に対して極が一定になるように制御ゲインをオンラインチューニングする。
【0063】
ここでは、スリップ率制御として一例を挙げたが、スリップ率制御であればこれに替えて他のスリップ率制御を用いてもよい。
【0064】
3.シミュレーション
低μ路において加速旋回する際のコンピュータシミュレーションを行った。車両モデルは車体質量480kg、ヨー慣性モーメント351Nms2、ホイールベース1.71m、トレッド0.815mである。時速16km/hで走行中に舵角を180deg(実舵角5.83degに相当)切って加速旋回する。駆動トルクは140Nm(片輪70Nm)とし、カットオフ周波数10rad/sのYMOを用いたヨーレート制御を行う。ヨーレート制御器はノミナルプラント1Insに対して閉ループ極を-5rad/sに配置した比例制御とした。スリップ率制御の極は-20rad/sとし、式(9)で使用するドライビングスティフネスはシミュレータ内の低μ路における値である4500とした。
【0065】
なお本実施形態の車両シミュレータでは、2次元タイヤモデル/発生力計算プログラム2D-TireModel ver1.0を使用している(非特許文献8)。
【0066】
図5に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合における車両の走行軌跡を示す。非制御時は旋回を始めると、ヨーモーメントによる姿勢制御が行われないため車体は外側に流れ、特に後輪駆動であるため後輪のコーナリングフォースが著しく減少しスピンし始めている。従来のヨーレート制御のみを行った場合でも、車体のスピンを抑える方向にヨーモーメントを発生させるため左右のモータに逆符号の過大なトルク指令が与えられ、両輪に大空転が発生しスピンに至っている。図6に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合の左右輪のスリップ率を示す。この図6からもスピンを抑える方向に駆動力を発生させて空転している様子が分かる。本発明に係るヨーレート制御にスリップ率制御を加えた場合では、スピンすることなく安定して旋回できている。図7に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合と、ヨーレート指令値を示す。スリップ率制御に基づくヨーレート制御では、スリップ率を抑えることで車輪のコーナリングフォースで旋回できており、不足分をヨーモーメントで補うことで乾燥路と同等の旋回性能を得られている。
【0067】
4.実験結果
小型の電気自動車を用いて走行実験を行った。実験環境は、アルミ製の板を並べて散水することでつくった低μ路面とした。実験条件はシミュレーションと同様とするが、スリップ率制御の極は-50rad/sとした。式(9)で使用するドライビングスティフネスは、実験環境において測定したスリップ率と駆動力オブザーバ(非特許文献9参照)から得た駆動力から約4000と求めた。なお、実験では簡単のため車体速度は推定値ではなくセンサより得た値を使用して制御を行っている。図8に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合のヨーレート応答とヨーレート指令値を示す。ヨーレート指令値は乾燥路を同程度の車体速度、操舵角で走行した時のヨーレート応答を基に0.4rad/sとした。非制御の場合では後輪が空転しスピンしている。ヨーレート制御のみの場合でも初期は姿勢を維持しようとするが、ヨーモーメント発生のための駆動力により後輪が空転しスピンしている。ヨーレート制御にスリップ率制御を組み合わせた場合ではそのような空転によるスピンを回避し、乾燥路と同等な旋回が行えている。
【0068】
図9に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合における左輪のスリップ率応答を示す。ヨーレート制御のみではスリップ率が増大し空転してしまうが、スリップ率制御を組み合わせることで、適切な値に抑えられている。
【0069】
図10に、本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合における横加速度応答を示す。非制御の場合では横加速度の絶対値が増大し車体が横滑りしていることが分かる。ヨーレート制御のみ行う場合ではヨーレート応答の改善に従い、横加速度応答も比較的改善されるが、スリップ率制御を組み合わせることにより更に改善されることが分かる。
【0070】
以上のことから、スリップ率制御に基づいたヨーレート制御の優位性を低μ路において示す事ができた。現在定数としてスリップ率制御に用いているドライビングスティフネスをオンラインで推定し、その値を用いてスリップ率制御を行うことが出来れば、路面変動などに対し、より正確なヨーレート制御の実現が期待できる。
【0071】
5.ドライビングスティフネス推定
前章で述べたように、路面の粘着状態を示す重要なパラメータであり時々刻々と変化するドライビングスティフネスを、定数からリアルタイムに推定しスリップ率制御に用いることにより、路面変化に対してよりロバストなスリップ率制御を行うことができる。以下でドライビングスティフネスの推定法と、路面状態が変化した時の効果をシミュレーションにより示す。
【0072】
5.1左右輪独立推定法
まず左右各輪のドライビングスティフネスを独立に推定する方法について述べる。車両の前後並進方向の運動方程式は以下のように表される。
【0073】
【数20】
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【0074】
ただし、Mは車体質量、Vdotは車体加速度、DsR、DsLは左右駆動輪と路面間のドライビングスティフネス、λR、λLは左右駆動輪のスリップ率である。これを変形して次式を得る。
【0075】
【数21】
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【0076】
【数22】
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【0077】
上式のリグレッサ[ξ1、ξ2]と出力Vdotにより、未知パラメータであるドライビングスティフネス[DsR、DsL]を推定することを考える。リグレッサはスリップ率λを推定あるいは計測することで計算することが出来る。
【0078】
この推定式に忘却係数λを用いた逐次形最小二乗法を用い、次式に基づき推定する。
【0079】
【数23】
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【0080】
【数24】
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【0081】
【数25】
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【0082】
つぎに簡単のために左右のドライビングスティフネスを等しいものと仮定(DsR=DsL=Ds)とすることにより推定パラメータを1個にする方法について述べる。すなわち式(18)を変形して次式を得る。
【0083】
【数26】
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【0084】
【数27】
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【0085】
この推定式に忘却係数λを用いた逐次型最小二乗法を用いて推定する。
【0086】
6.3シミュレーション
ドライビングスティフネスのリアルタイム推定を用いたスリップ率制御を用いた、ヨーレート制御のシミュレーションを行った。シミュレーション条件は前章のものと同様とするが、路面の摩擦係数の変化(低μ路(μ=0.25)から高μ路(μ=0.9)へ進入)を伴うものとする。路面の摩擦係数の変化はドライビングスティフネスに大きく影響するため、リアルタイムに路面状態を推定することでより正確なスリップ率制御が期待できる。
【0087】
図11に、ドライビングスティフネスに定数値を用いたものと、推定値を用いたものの車両の走行軌跡を示す。推定値を用いることでスリップ率を適切に保つことができるため車輪の空転を防ぎ、より旋回能力を高めていることが分かる。図12に、そのときの本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御において推定されたドライビングスティフネスを示す。高μ路に進入する2secからドライビングスティフネスが大きく増大している様子が分かる。以上からドライビングスティフネス推定値を用いることで路面変動に対してスリップ率制御のロバスト性を高めることが期待できる。
【0088】
また、これまで2輪駆動車を対象として説明してきたが、本発明は4輪駆動車にも適用可能である。例えば、駆動力指令値F*R、F*Lを半分ずつ前後に割振ってスリップ率指令値に変換し、その指令値に基づいて各輪のスリップ率制御を行うようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】車両モデルとして四輪を車軸に関して対象と仮定した二輪車モデルを示す図である。
【図2】YMOを用いた走行安定化制御ブロック図である。
【図3】左右輪の駆動力指令値から左右輪のトルク指令値を生成するスリップ率制御器(SRC)のブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るYMOを用いた走行安定化制御器にSRCを組み込んだスリップ率制御に基づくヨーレート制御ブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合における車両の走行軌跡を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合の左右輪のスリップ率を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合と、乾燥路におけるヨーレートを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合と、乾燥路におけるヨーレート応答を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合における左輪のスリップ率応答を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御およびヨーレート制御のみの各場合と、制御なしの場合における横加速度応答を示す図である。
【図11】ドライビングスティフネスに定数値を用いたものと、推定値を用いたものの車両の走行軌跡を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るスリップ率制御に基づくヨーレート制御において推定されたドライビングスティフネスを示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11