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明細書 :スリップ率推定装置及びスリップ率制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4936552号 (P4936552)
公開番号 特開2009-142108 (P2009-142108A)
登録日 平成24年3月2日(2012.3.2)
発行日 平成24年5月23日(2012.5.23)
公開日 平成21年6月25日(2009.6.25)
発明の名称または考案の名称 スリップ率推定装置及びスリップ率制御装置
国際特許分類 B60L   3/10        (2006.01)
B60L  15/20        (2006.01)
B60L   7/00        (2006.01)
FI B60L 3/10 Z
B60L 15/20 Y
B60L 7/00 101
請求項の数または発明の数 7
全頁数 19
出願番号 特願2007-317599 (P2007-317599)
出願日 平成19年12月7日(2007.12.7)
審査請求日 平成22年12月7日(2010.12.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
発明者または考案者 【氏名】藤本 博志
【氏名】鈴木 亨
個別代理人の代理人 【識別番号】100077481、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 義一
【識別番号】100088915、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 和夫
審査官 【審査官】奥隅 隆
参考文献・文献 特開2006-034012(JP,A)
特開2001-008305(JP,A)
特開2006-115644(JP,A)
特開2006-136177(JP,A)
調査した分野 B60L 1/00-15/42
特許請求の範囲 【請求項1】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、
前記モータのトルクTを測定するモータトルク測定手段
駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度
【数1】
JP0004936552B2_000031t.gif
(ωdot)を算出する車両モデル演算手段と、
前記モータトルク測定手段が測定したトルクTと前記車両モデル演算手段が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotを用いて、スリップ率に関する常微分方程式(A)を計算することにより推定スリップ率
【数2】
JP0004936552B2_000032t.gif
(λhat)を算出するスリップ率演算手段と
を備えたことを特徴とするスリップ率推定装置。
【数3】
JP0004936552B2_000033t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項2】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、
前記モータのトルクTを測定するモータトルク測定手段と、
前記自動車の車体加速度axを測定する加速度測定手段と、
駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、
前記自動車の駆動力Fdの推定値を算出する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力
【数4】
JP0004936552B2_000034t.gif
(Fdhat)と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度axとから走行抵抗Fdrの推定値を算出する走行抵抗演算手段と、
前記モータトルク測定手段が測定したトルクTと、前記車両モデル演算手段が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotと、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗
【数5】
JP0004936552B2_000035t.gif
(Fdrhat)を用いて、スリップ率に関する常微分方程式(B)を計算することにより推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段と
を備えたことを特徴とするスリップ率推定装置。
【数6】
JP0004936552B2_000036t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項3】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、
予め指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを当該トルク指令に基づき制御する手段と、
請求項1又は2に記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの当該トルクを制御することを特徴とするスリップ率制御装置。
【請求項4】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、
予め指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、
入力される駆動輪の回転速度から目標トルクTを算出する比例積分制御手段と、
前記目標トルクTから前記駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出した目標トルクT、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを用いてスリップ率に関する常微分方程式(A)を計算して推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段と、
前記スリップ率推定装置が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、
前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクTに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【数7】
JP0004936552B2_000037t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項5】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、
前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクTを当該トルク指令に基づき制御する手段と、
前記自動車の車体加速度axを測定する加速度測定手段と、
入力される駆動輪の回転速度から目標トルクTを算出する比例積分制御手段と、
前記目標トルクTから前記駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、
前記自動車の駆動力Fdの推定値を算出する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力Fdhatと前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度axとから走行抵抗Fdrの推定値を算出する走行抵抗演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出したトルクTと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotと、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗Fdrhatを用いて、スリップ率に関する常微分方程式(B)を計算することにより推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段と
前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率λhatから車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率λ*に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、
前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクTに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【数8】
JP0004936552B2_000038t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項6】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、請求項1又は2に記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの前記トルクを制御することを特徴とする自動車。
【請求項7】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、モータの当該トルクを制御する請求項3乃至5のいずれかに記載のスリップ率制御装置を備えたことを特徴とする自動車。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ率推定装置及びスリップ率制御装置に関し、より詳細には、スリップ率の時間変化を考慮した車体速度検出不要な減速時におけるスリップ率推定装置及びスリップ率制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、モータを駆動力として利用した電気自動車に注目が集まっている。これは、燃費・環境問題の他にも、モータを駆動力とすることにより得られる利点がある。その利点として以下の3つが挙げられる。
・モータがエンジンに比べて小さいため、各車輪に分散配置が可能
・モータがエンジンに対して、トルク応答が数百倍速い
・発生トルクを正確に把握できる
【0003】
電気自動車は環境問題の視点から大きな注目を集めているが、以上のようなモータ特性により車両制御の点からも非常に有利であるといえる。上記の優位点を利用した、トラクションコントロールの研究が発表されている(非特許文献1、2、3参照)。
【0004】
トラクション制御を行う際、車輪速度と車体速度によって定義されるスリップ率は非常に重要な値であるが、車輪速度に比べて車体速度は測定が困難な場合が多い。通常は非駆動輪の車輪速度、加速度センサの積分、光学センサ等から測定する。しかし、非駆動輪を用いた測定においては、機械ブレーキを使って減速した場合、制動力が四輪全てに働くため、非駆動輪が存在せず車体速度は測定できない。また四輪駆動車であればもともと非駆動輪が存在しないので、この場合も車体速度を測定することができない。これらを解消するために非駆動の第五輪を取付けるのは一般車では現実的でない。加速度センサの積分から求める場合、加速度センサの値にオフセットがあると、オフセットを積分し続けるので推定値が発散してしまう。また、光学センサは信頼できるが、高価であり実用向きでない。
【0005】
従って、検出困難な車体速度を用いることなく正確なスリップ率を得るスリップ率推定法は極めて実用的であるといえる。非特許文献1ではスリップ率を制御しトラクションコントロールを行っているが、検出困難な車体速度を必要としている。非特許文献2では車体速度情報を用いていないが、空転検出を行うのみでスリップ率の過渡的変化は考慮していない。これに対して発明者らのグループは非特許文献3で、駆動時(加速時)における車体速度検出不要なスリップ率推定法と制御法を提案した。
【0006】

【非特許文献1】佐渡秀夫、坂井真一郎、内田利之、堀洋一:「路面状態推定とスリップ率制御を用いた電気自動車の高性能トラクションコントロール」、平成10 年電気学会産業応用部門全国大会講演論文集、1998年、3、pp321-324
【非特許文献2】坂井真一郎、佐渡秀夫、堀洋一:「電気自動車における車体速度情報不要の新しいタイヤ空転検出法」、電学論、2000年、D.120、2、pp281-287
【非特許文献3】藤井淳、藤本博志:「車体速度検出不要なスリップ率推定に基づく電気自動車のトラクション制御に関する研究」、横浜国立大学学位論文、2007年
【非特許文献4】小竹元基、永井正夫:「操安性向上を目指した超小型電気自動車の車輪駆動トルク制御」、自動車技術会論文集、2003年、34、4、pp169-174
【非特許文献5】H.B.Pacejka、 and E.Bakker、 “The Magic FormulaTyre Model”、 Tyre models for vehicle dynamic analysis:proceedings of the 1st International Colloquium onTyre Models for Vehicle Dynamics Analysis、 held inDelft、 The Netherlands、 Oct 21-22 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、駆動時と制動時ではスリップ率の定義が異なるため、制動時において非特許文献3の手法を直接利用することはできない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、車体速度の検出を必要としない制動時のスリップ率推定装置及びスリップ率制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、前記モータのトルクTを測定するモータトルク測定手段、駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度
【0010】
【数1】
JP0004936552B2_000002t.gif

【0011】
(ωdot)を算出する車両モデル演算手段と、前記モータトルク測定手段が測定したトルクTと前記車両モデル演算手段が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotを用いて、スリップ率に関する常微分方程式(A)を計算することにより推定スリップ率
【0012】
【数2】
JP0004936552B2_000003t.gif

【0013】
(λhat)を算出するスリップ率演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
【数3】
JP0004936552B2_000004t.gif

【0015】
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【0016】
請求項2に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、前記モータのトルクTを測定するモータトルク測定手段と、前記自動車の車体加速度axを測定する加速度測定手段と、駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、前記自動車の駆動力Fdの推定値を算出する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力
【0017】
【数4】
JP0004936552B2_000005t.gif

【0018】
(Fdhat)と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度axとから走行抵抗Fdrの推定値を算出する走行抵抗演算手段と、前記トルク測定手段が測定したトルクTと、前記車両モデル演算手段が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotと、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗
【0019】
【数5】
JP0004936552B2_000006t.gif

【0020】
(Fdrhat)を用いて、スリップ率に関する常微分方程式(B)を計算することにより推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
【数6】
JP0004936552B2_000007t.gif

【0022】
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【0023】
請求項3に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、予め指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを当該トルク指令に基づき制御する手段と、請求項1又は2に記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの当該トルクを制御することを特徴とする。
【0024】
請求項4に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、予め指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、入力される駆動輪の回転速度から目標トルクTを算出する比例積分制御手段と、前記目標トルクTから前記駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、前記比例積分制御手段が算出した目標トルクT、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを用いてスリップ率に関する常微分方程式(A)を計算して推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段と、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクTに基づいて演算することを特徴とする。
【0025】
【数7】
JP0004936552B2_000008t.gif

【0026】
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【0027】
請求項5に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率測定装置において、前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクTを前記トルク指令に基づき制御する手段と、前記自動車の車体加速度axを測定する加速度測定手段と、入力される駆動輪の回転速度から目標トルクTを算出する比例積分制御手段と、前記目標トルクTから前記駆動輪の回転速度ω及び回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段と、前記自動車の駆動力Fdの推定値を算出する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力Fdhatと前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度axとから走行抵抗Fdrの推定値を算出する走行抵抗演算手段と、前記比例積分制御手段が算出したトルクTと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotと、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗Fdrhatを用いて、スリップ率に関する常微分方程式(B)を計算することにより推定スリップ率λhatを算出するスリップ率演算手段と前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率λhatから車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率λ*に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクTに基づいて演算することを特徴とする。
【0028】
【数8】
JP0004936552B2_000009t.gif

【0029】
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【0030】
請求項6に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、請求項1又は2に記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの前記トルクを制御することを特徴とする。
【0031】
請求項7に記載の発明は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、モータの当該トルクを制御する請求項3乃至5のいずれかに記載のスリップ率制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、車体速度の検出なしに制動時のスリップ率の推定が可能になる。さらに推定されたスリップ率を用いて駆動輪を制御することにより、駆動輪のスリップ率を最適スリップ率に制御することができれば制動距離を短くすることができる。また、車輪が路面に粘着するので、非特許文献4のようなヨーモーメント制御の駆動力が確実に路面に伝わるため、2次元方向の運動も安定化され、車両がスピンする危険性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
電気自動車は、駆動輪に接続されたモータの駆動力が駆動輪に伝達されて走行する。電源から出力された電流は、インバータを介してモータに供給される。モータは、制御手段としての電子制御ユニット(以下「ECU」と称す)を介して電気的に接続されており、モータの出力は、ECUからの指令に基づいて制御される。ECUは、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECUには、モータの発生トルクを測定するトルク測定器、モータに装備された位置センサ、車体に生じる加速度を測定する加速度センサが電気的にそれぞれ接続されている。
【0034】
以下に、ECUに実装されるスリップ率制御装置について説明する。
【0035】
本発明の構成は以下の通りである。まず1節で車両の運動方程式を示し、それに基づいて車両モデルのブロック図を構成する。そしてスリップ率推定法の比較対象(従来技術)を〈2・1〉節で、本発明の一実施形態を〈2・2・1〉節で示し、〈2・2・2〉節で提案法の別の実施形態を示す。また3節でシミュレーション・実験から本発明の手法の有効性を示し、4節でスリップ率を制御するシミュレーションを行う。
【0036】
本明細書においては、便宜上、X(Xは任意の文字)の時間微分を表す
【0037】
【数9】
JP0004936552B2_000010t.gif

【0038】
の代わりにXdot、Xの推定を表す
【0039】
【数10】
JP0004936552B2_000011t.gif

【0040】
の代わりにXhatの表記も用いる。
【0041】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.車両の運動方程式
図1に、車両の各部に働く力を模式的に示す。モータの時定数が非常に小さいと仮定するとき、後輪二輪駆動の場合、車両に働く力は図1のようになり、車両の運動方程式は以下の式で表現できる。
【0042】
【数11】
JP0004936552B2_000012t.gif

【0043】
【数12】
JP0004936552B2_000013t.gif

【0044】
【数13】
JP0004936552B2_000014t.gif

【0045】
それぞれJωi:車輪回転部慣性モーメント、ωi:モータの回転速度、Ti:モータトルク、r:タイヤ半径、Fi:駆動力、Fdr:走行抵抗、M:車体重量、V:車体速度、Vωi:車輪速度である。ただし、i=r、lであり、左右のそれぞれのモータの状態を表す。本発明では機械ブレーキを使用せず、モータの逆トルクのみで減速することを考える。そのため、式(1)には機械ブレーキによるトルクの影響が含まれていない。もしブレーキトルクが検出あるいは推定できれば、本発明で提案するスリップ率の推定法は、機械ブレーキを用いたものに容易に拡張できる。
【0046】
ここでスリップ率λは次式で表される。
【0047】
【数9】
JP0004936552B2_000015t.gif

【0048】
式(4)の分母はVω、Vの大小関係により変わる。駆動時にはVω>Vなのでmax(Vω、V、ε)=Vωであり、制動時にはVω<Vなのでmax(Vω、V、ε)=Vである。またε(<<1)はVωとVが共に零の場合の零割を防ぐための小さな定数である。
【0049】
図2に、タイヤと路面間の摩擦係数μとスリップ率λ両者の関係を表すμ-λ曲線を示す。この曲線は路面状況によって大きく異なるが、殆どの場合、駆動時(制動時)では特定のスリップ率において摩擦係数が最大値(最小値)をとり、スリップ率がそれより大きく(小さく)なると減少(増加)する。この曲線を表す方法として、今回は実験により得られたデータに近い曲線を描くように選ばれた方程式であるMagic Formulaを用いる(非特許文献5参照)。
【0050】
【数15】
JP0004936552B2_000016t.gif

【0051】
この式はシミュレーションにおける車両モデルブロックにのみ用い、スリップ率推定には用いない。
【0052】
路面とタイヤ間の摩擦力は摩擦係数μに垂直抗力Nをかけて得られる。
【0053】
【数16】
JP0004936552B2_000017t.gif

【0054】
式(1)~(6)より図3のような左右それぞれの車輪を考慮した左右二輪駆動の車両モデルを得ることができる。
【0055】
2.スリップ率推定法
〈2・1〉駆動力オブザーバによる推定法(従来技術)
〈2・1・1〉推定式の導出
ここでは式(2)第3項の走行抵抗を無視できるとし、Vについて解き、積分すれば以下のように車体速度を推定することができる。
【0056】
【数17】
JP0004936552B2_000018t.gif

【0057】
ここで式(1)より、モータにとって駆動力Fiは外乱とみなせるので、図4のような外乱オブザーバにより駆動力を推定する。これを駆動力オブザーバという(非特許文献1~3参照)。
【0058】
式(7)および式(4)を用いてスリップ率を求める。この推定法をDFO(Driving Force Observer)と呼ぶ。
〈2・1・2〉推定誤差
実際には真値の車体速度と推定した車体速度には誤差がある。ここで車体速度の真値と推定値の誤差をev、スリップ率の真値と推定値の誤差をeλiとすると以下のようになる。
【0059】
【数18】
JP0004936552B2_000019t.gif

【0060】
【数19】
JP0004936552B2_000020t.gif

【0061】
推定した車体速度には走行抵抗が含まれていないため、推定する時間がたつにつれて積分によって推定した車体速度の誤差は拡大していく。それに伴い、スリップ率の推定にも誤差が生じる。
〈2・2〉スリップ率の時間変化を考慮した推定法(本発明)
〈2・2・1〉推定式の導出
式(4)をVについて解き、この両辺を時間で微分し、式(1)、(2)、(3)を代入してVω、Fiを消去し、λdotについて解くと次式が得られる。
【0062】
【数20】
JP0004936552B2_000021t.gif

【0063】
また、スリップ率推定装置は走行抵抗が小さい(Fdr≒0)と仮定し以下のように構成する。
【0064】
【数21】
JP0004936552B2_000022t.gif

【0065】
この推定法をSRE(Slip Ratio Estimator)と呼ぶ。
【0066】
図12に、本発明の一実施形態に係るスリップ率推定装置を示す。このスリップ率推定装置は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に実装され、駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算装置と、モータトルク測定手段が測定したトルクTと車両モデル演算装置が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotを用いて、スリップ率λhatを算出するスリップ率演算装置(SRE)からなる。
【0067】
しかしこの推定法は走行抵抗を十分小さいものとし無視しているため、走行抵抗が無視できない場合正確な推定を行うことができない。そこで次節で走行抵抗を推定し、走行抵抗を考慮したスリップ率推定法について説明する。
【0068】
〈2・2・2〉走行抵抗推定
式(2)より、車体にとって走行抵抗Fdrは外乱とみなせるので、駆動力Fiと加速度axから走行抵抗Fdrを推定する。駆動力Fiは図4の駆動力オブザーバにより推定したFihatを用いる。その結果、図5のような外乱オブザーバを2段組んだようなブロック図となる(非特許文献3参照)。また、図5のDFO内のLPFと加速度にかかるLPFは同一のものである。
【0069】
走行抵抗演算手段によって走行抵抗が推定できれば、式(11)は走行抵抗を考慮した以下のような式に書き換えることができる。
【0070】
【数22】
JP0004936552B2_000023t.gif

【0071】
これをDRE-SRE(Driving Resistance Estimator-SlipRatio Estimator)と呼ぶ。
【0072】
このDRE-SREに基づくスリップ率推定装置は、モータのトルクで駆動輪を駆動する、車体加速度axを測定する加速度測定手段を備えた自動車に実装され、駆動輪の回転速度ωおよび回転加速度ωdotを算出する車両モデル演算手段、自動車の駆動力Fdの推定値を算出する駆動力演算手段、走行抵抗演算手段、スリップ率演算装置を備えている。走行抵抗演算手段は、駆動力演算手段が算出した推定駆動力Fdhatと前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度axとから走行抵抗Fdrの推定値を算出する。そして、スリップ率演算手段が、モータトルク測定手段が測定したトルクTと車両モデル演算手段が算出した回転速度ωおよび回転加速度ωdotと、走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗Fdrhatを用いて、スリップ率λhatを算出する。

【0073】
〈2・2・3〉推定誤差
ここで式(10)、(12)より推定誤差は、以下のようになる。またFdrhatの推定値はDFOの時定数に従って真値に収束する。よってFdr≒Fdrhatとすると、
【0074】
【数23】
JP0004936552B2_000024t.gif

【0075】
となり、これを式(1)、(2)等からVωidot、Vωi、Vdotを用いて書き換えると以下のようになる。
【0076】
【数24】
JP0004936552B2_000025t.gif

【0077】
よって、以下のような条件を満たせば誤差は収束する。
【0078】
【数25】
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【0079】
制動時の場合スリップ率の値がとる範囲が-1<λ<0であるため、式(15)より式(14)は車輪の減速度が車体の減速度の少なくとも2倍よりも大きいときに誤差が収束することを意味する。それは即ち車輪が路面上を空転しているときであり、このときλiもλihatも-1に近づけば、式(15)から必ず収束する。そして一度収束すれば走行抵抗Fdrに起因する推定誤差がない限り、正確なスリップ率を推定し続けることができる。
【0080】
3.スリップ率推定
〈3・1〉シミュレーションによる検証
〈3・1・1〉シミュレーション条件
前章までに説明した推定法に関して、収束性の理論検討のためSREとDRE-SREは初期誤差がない場合と、初期誤差がある場合とでスリップ率推定のシミュレーションを行う。実際に電気自動車に適用する場合、発明者らが以前に提案した加速時の推定法(非特許文献3参照)と本発明の減速時の推定法を切り替えて使うことになる。その切り替えの時に誤差が生じる可能性があるため、初期誤差がある場合の検討は実用上も意味があるものである。但し、本願明細書では簡単化のため減速時のスリップ率のみを推定し、加速時のスリップ率は推定しない。またDFOによる推定法も、実用上は加速時から式(7)によって車体速度を推定するので、今回のシミュレーションは加速時に生じる車体速度の誤差を考慮し、初期誤差をもたせた検討を行っている。
【0081】
シミュレーションは左右の車輪速度、トルク指令、スリップ率が等しいものとして左右の区別なく求めている。プラントのパラメータは実機より得られた値であるJω=1.26kgm2、M=700kg、r=0.302mとする。トルク指令値は-110Nmを与える。路面状況はシミュレーション開始から1.75secまで低μ路(μmax=0.2)とし、それ以降は乾燥路(μmax=1.0)とした。走行抵抗は実験における推定値の最大値が200Nであると得られたので、それを一定値として与えた。SREとDRE-SREは初期誤差がない場合には車体速度、車輪速度が共に4.00m/secから推定を開始し、初期誤差がある場合には車体速度が4m/sec、車輪速度が3.96m/secとなったところから推定を開始する。式(7)における車体速度の積分の初期値は、実機で4.00m/secまで急加速したときに約1割程度の誤差が確認されたため、車体速度が加速時に生じる車体速度の誤差を考慮して4.40m/secを与えた。
【0082】
〈3・1・2〉DFOによる推定法(従来技術)
図6(b)に、DFOに基づくスリップ率の真値と推定値を示す。スリップ率の絶対値が大きいところでは車輪速度が車体速度に比べて小さくなりλ≒-V/Vとなるので推定値は-1に収束する。しかしVhatの初期誤差によって、スリップ率の絶対値が小さなところでは大きな誤差が確認できる。積分する時間が長くなるにつれ図6(a)の誤差は大きくなるので推定法としては問題がある。そして車体速度が零になったとき走行抵抗の影響によって推定した車体速度は零にはならないという問題もある。
【0083】
〈3・1・3〉スリップ率の時間変化を考慮したスリップ率推定法(本発明)
図6(c)に初期誤差無しのSREに基づくスリップ率の真値と推定値を示し、図6(d)に初期誤差有りのSREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す。このように走行抵抗を考慮していない場合、低μ路において空転しているとき、すなわちスリップ率の絶対値が大きなところでは推定値が真値に漸近することが確認できるが、高μ路に突入しタイヤが粘着すると式(14)を満たさなくなり、推定誤差が拡大することが確認できる。
【0084】
図6(e)に初期誤差無しのDRE-SREに基づくスリップ率の真値と推定値を示し、図6(f)に初期誤差無しのDRE-SREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す。このように走行抵抗を考慮した場合、初期誤差があると、高μ路突入までに収束しきっておらず、その影響で誤差が収束しない。しかしDFOとSREよりは大きく改善されている。また初期誤差がなければたとえ高μ路に突入し、式(14)の安定条件を満たさなくなったとしても、正確な推定が行える。
〈3・2〉オフライン実験による検証
【0085】
〈3・2・1〉実験車両
今回の実験には本研究室で製作した電気自動車FPEV2-Kanonを用いた。FPEV2-Kanonには東洋電機製アウターロータ型インホイールモータを後輪2輪に装着している。本モータはダイレクトドライブ方式であり、減速ギヤによるバックラッシュの影響がない。従って反力情報がギヤで失われることなくモータ側にもどるため、本研究室で提案している各種推定法を行うにあたり非常に有効であると考えられる。表1にモータのスペックを示す。
【0086】
【表1】
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【0087】
車両制御のためのコントローラはdSPACE社のAUTOBOX-DS1103を採用した。本コントローラは耐振動性に優れ、8V~60Vと非常に幅広い電圧で起動し、インパネモニターによりリアルタイムでの各測定値、推定値のグラフの表示やパラメータチューニングが可能である。
【0088】
〈3・2・2〉実験結果
今回提案した手法に関して、オフライン実験による検証を行った。低μ路はアルミの板を地面に敷き、そこに洗剤と水をまくことによって実現を図っている。モータが搭載されている後輪がアルミの板に乗るまで加速をし、その後左右どちらかの車輪速度が零になるまで-180Nm一定のトルク指令を与え、車輪速度が一度零になった後はトルク指令を与えない。車体速度はCORRSYS-DATRON社製CORREVIT S-400の光学式センサを用いることにより測定する。ただし測定した車体速度は検証のみに使用し、推定には使用しない。
【0089】
〈3・1〉節では左右の車輪速度、トルク、スリップ率が等しいとしたが実際には左右に差があるため、左右それぞれのスリップ率を推定し、検証する。シミュレーション同様、減速時のスリップ率のみ推定し、加速時のスリップ率は推定しない。図7(b)、図7(c)、図7(g)の推定はトルク指令が負になった瞬間から推定を行っているため、車輪速度が車体速度よりもまだ大きいところから推定を開始しており初期誤差を持っている。図7(d)、図7(h)の推定はスリップ率の真値が零になった瞬間から推定を行った。しかし図7(d)、7(h)の推定は検証用であり、実際にはこのようなことはできない。また今回センサ等の不具合により走行抵抗の推定が行えなかったため、オフライン実験ではSREでの推定のみを行い、DRE-SREでの推定は行わないものとする。
【0090】
図7(b)と図7(f)は、式(4)と図9に基づいてスリップ率推定および車輪速度制御を行っているため、車体速度の推定値の誤差拡大と共にスリップ率の推定値の誤差も拡大してしまっている。図9のように式(7)に基づき算出された車体速度は、時間がたつにつれ誤差が拡大してしまうため、DFOはスリップ率推定には不向きである。
【0091】
図7(c)と図7(g)は、トルク指令が負になった瞬間から推定するという方法をとっているため、真値に対して初期誤差がある状態から推定を行っている。その結果スリップ率の絶対値が大きなところでは誤差が収束し、粘着すると誤差を持つ。
【0092】
図7(d)と図7(h)は、初期誤差がないため空転しているときは正確な推定が行えている。粘着すると走行抵抗に起因する推定誤差が残ってしまっているが、DFOによる推定法より推定結果がよくなっている。
【0093】
今回走行抵抗の推定が行えなかったが、走行抵抗推定を行いDRE-SREで推定すれば、SREで確認された推定誤差は収束し、さらに良好な結果が得られると考えられる。
【0094】
4.スリップ率制御
〈4・1〉車輪速度制御
図6(e)のようなスリップ率推定ができるときのスリップ率制御のシミュレーションを行う。図2に示すように、スリップ率が-0.2付近で摩擦係数が最小値をとるため、このとき最大の制動力が得られる。この最適スリップ率になるように車輪速度を制御すれば、制御無しで急制動し、タイヤがロックしてしまったときよりも制動距離が縮む。
【0095】
非特許文献3で行われている車輪速度制御によるスリップ率制御を行う。車輪速度が検出できるため、スリップ率の推定は車体速度の推定と等価である。スリップ率推定値を基に式(4)より式(16)のように車体速度の推定値を求めることができ、式(17)より最適スリップ率に対する車輪角速度指令がわかる。これにより回転速度制御を用いることでスリップ率制御を行う。
【0096】
【数26】
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【0097】
【数27】
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【0098】
ω*は車輪速度の指令値であり、λ*はスリップ率の指令値である。この場合、λ*=-0.2とすることになる。図10に、車輪速度制御ブロック図を示す。車輪速度制御器はPI制御器を用い、プラントは車輪の慣性モーメントのみを考慮した以下の式とし、極配置法によって制御ゲインを決定する。
【0099】
【数28】
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【0100】
速度制御系の極は50rad/secとした。
【0101】
〈4・2〉シミュレーションによる検証
シミュレーション開始と共に制御をかけ、スリップ率を-0.2に収束させる。路面状態は常に低μ路(μmax=0.2)する。また、車体速度と車輪速度の初期値は8m/sec(=28.8km/h)とする。その他の条件は〈3・1・1〉節と同じものを用いる。
【0102】
シミュレーション結果より、推定したスリップ率を用いて最適スリップ率に制御できていることがわかる。制御無しの場合と制御有りの場合の車体速度を比較すると制御有りのほうが速く減速していることが確認できる。図11(c)、11(d)より制動距離をそれぞれ求めると、制御有りが約25.3mであり制御無しが26.7mであり制御有りのほうが1.4m程度制動距離が短くなっている。但し、低μ路の最適スリップ率における摩擦係数と、スリップ率-1における摩擦係数にはそれほど大きな差がないため制動距離があまり縮まらないと考えられる。しかし制動距離があまり変わらなかったとしてもタイヤがロックしているか粘着しているかは大きな違いがある。今回のシミュレーション結果では確認できないが、タイヤが滑り状態の場合車体が大きくスピンする可能性がある。低μ路では制動距離にそれほど大きな違いが表れなかったが、高μ路の最適スリップ率における摩擦係数と、スリップ率-1における摩擦係数には低μ路の場合よりも大きな差があるため、高μ路における急制動になればこの違いは顕著になってくると予想される。
【0103】
本実施形態においては、車輪速度制御の比例積分制御を採用したが、これは一例であって、トルク制御に基づく制御などの他の制御方法を用いることもできる。本発明で重要なことは、車体速度を測定せずに制動時のスリップ率の推定を高精度に行うことができることにある。そのため、本発明によって推定されたスリップ率を用いてスリップ率の制御を行うスリップ率制御装置は、その制御方法に関わりなく、より高精度なスリップ率制御を行うことができる。
【0104】
5.まとめ
本願明細書を作成するにあたり、スリップ率推定には不可欠であった車体速度を用いないスリップ率推定法を提案し、シミュレーションとオフライン実験を行った。駆動力オブザーバによる推定法は推定時間が長ければ長いほど走行抵抗を考慮してないことによって推定誤差が広がってしまうが、提案した推定法は初期誤差がなければ走行抵抗を考慮しなくてもそれほど大きな誤差拡大は確認されず推定が行えていることが確認できた。また、原理的には初期誤差があっても正確なスリップ率の推定を可能にする走行抵抗を考慮したスリップ率推定方法を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】車両の各部に働く力を模式的に示す図である。
【図2】タイヤと路面間の摩擦係数μとスリップ率λ両者の関係を表すμ-λ曲線を示す図である。
【図3】左右2輪駆動の車両モデルブロック図である。
【図4】駆動力オブザーバブロック図である。
【図5】走行抵抗推定器ブロック図である。
【図6】(a)は車体速度の真値と推定値を示す図であり、(b)はDFOに基づくスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(c)は初期誤差無しのSREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(d)は初期誤差有りのSREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(e)は初期誤差無しのDRE-SREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(e)は初期誤差無しのDRE-SREに基づくスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図7】(a)、(e)は左車輪、右車輪のオフライン実験における車輪速度と車体速度を示す図であり、(b)、(f)は左車輪、右車輪のDFOに基づくオフライン実験におけるスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(c)、(g)は左車輪、右車輪の初期誤差有りのSREに基づくオフライン実験におけるスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(d)、(h)は左車輪、右車輪の初期誤差無しのSREに基づくオフライン実験におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図8】左右輪のトルク指令値を示す図である。
【図9】駆動力積分による車体速度の推定値を示す図である。
【図10】車輪速度制御ブロック図である。
【図11】(a)は車輪速度制御を行った場合のスリップ率の真値と推定値を示す図であり、(b)は車輪速度制御を行った場合のトルクを示す図であり、(c)は車輪速度制御有りの車輪速度と車体速度を示す図であり、(d)は車輪速度制御無しの車輪速度と車体速度を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るスリップ率推定装置を示すブロック図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11