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明細書 :セラミックス製品の製造方法、セラミックス製品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5273529号 (P5273529)
公開番号 特開2010-042957 (P2010-042957A)
登録日 平成25年5月24日(2013.5.24)
発行日 平成25年8月28日(2013.8.28)
公開日 平成22年2月25日(2010.2.25)
発明の名称または考案の名称 セラミックス製品の製造方法、セラミックス製品
国際特許分類 C04B  35/584       (2006.01)
C04B  41/80        (2006.01)
B24C   1/10        (2006.01)
FI C04B 35/58 102F
C04B 41/80 A
C04B 35/58 102X
B24C 1/10 F
請求項の数または発明の数 10
全頁数 22
出願番号 特願2008-207859 (P2008-207859)
出願日 平成20年8月12日(2008.8.12)
審査請求日 平成23年8月11日(2011.8.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
発明者または考案者 【氏名】高橋 宏治
【氏名】安藤 柱
【氏名】木村 芳貴
【氏名】西尾 嘉唯
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108578、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 詔男
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100107836、【弁理士】、【氏名又は名称】西 和哉
【識別番号】100108453、【弁理士】、【氏名又は名称】村山 靖彦
審査官 【審査官】小川 武
参考文献・文献 特開平11-147769(JP,A)
特開昭62-078177(JP,A)
特開2004-196633(JP,A)
特開2004-136372(JP,A)
国際公開第2002/024605(WO,A1)
調査した分野 C04B 35/584,41/80
B24C 1/10
特許請求の範囲 【請求項1】
SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成するとともに、前記セラミックス焼結体に亀裂を形成した後、
前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法。
【請求項2】
SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材であり、表面に亀裂を有するセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成した後、
前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法。
【請求項3】
SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成し、該ショットピーニング処理の完了後に前記セラミックス焼結体の表面に亀裂を形成した後、
前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程の前に前記セラミックス焼結体の機械加工を行い、前記ショットピーニング処理及び前記機械加工を完了した後に前記熱処理工程を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項5】
前記ショットピーニング処理は、ビッカース硬度(HV)が前記セラミックス焼結体の硬度の50~80%、粒径100~400μmの微粒子投射材をショット圧0.1~0.3MPaで前記セラミックス材料に投射することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項6】
前記ショットピーニング処理にて用いる前記微粒子投射材の粒径が100~200μmであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項7】
前記ショットピーニング処理にて微粒子投射材をセラミックス焼結体に投射する前記ショット圧が0.1~0.2MPaであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程を大気中にて行うことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程を前記セラミックス焼結体に曲げ応力を与えた状態で行うことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法によって製造されたセラミックス製品であって、
SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体を有し、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が250MPa以上で残留された圧縮残留応力導入層を有し、さらに、前記圧縮残留応力導入層の表面から前記セラミックス焼結体の内部に延びるように形成された亀裂状の溝内を埋めるSiOからなり前記セラミックス焼結体の前記溝を介して両側に位置する部分同士を接合する充填接合部を有することを特徴とするセラミックス製品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製品の強度向上を図ることができるセラミックス製品の製造方法及びセラミックス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは脆い材料であるために、金属材料に比べて使用中の信頼性が劣るという問題がある。この問題を解決するために、繊維強化や組織制御によってセラミックスを強靱化する方法や、例えば特許文献1のように微細粒子をセラミックス製品表面に投射するショットピーニングによってセラミックス製品表面の強靱化を図る方法(以下、ピーニング法とも言う)が知られている。
また、特許文献2のように、セラミックス原料粉末(具体的にはムライト)に微細なSiC(炭化珪素)粒子を混合した材料を焼結することで破壊靱性および強度を高めるとともに、さらに得られた焼結体を1200℃以上の温度に加熱する熱処理によって曲げ強度を高めることができる技術も提案されている(以下、炭化物複合法とも言う)。
これらのうち、上述のピーニング法は製造後のセラミックス製品のショットピーニング処理によって表面強靱化を行う技術であり、炭化物複合法はセラミックス製品の焼結後の熱処理によって曲げ強度の向上を図るものであり、いずれも焼結後のセラミックス製品を処理する工程を有するものである。

【特許文献1】特開2004-136372号公報
【特許文献2】特開平7-138067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セラミックスは破壊靱性値が極めて低い故に、表面欠陥(亀裂)が存在する場合、その強度が亀裂の存在に強く影響を受ける。例えば、軸受け、ガスタービン等の熱機関用の部品、ばね等の構造材として用いられるセラミックス製品にあっては機械的信頼性の確保が重要であるが、その一方、穴開け等の機械加工を行いたいという要求があり、機械加工の際にセラミックスに形成された亀裂がセラミックスの強度に与える影響をキャンセルあるいは抑制することが機械的信頼性の確保の上で重要である。また、セラミックス製品の機械的信頼性の確保のためには、構造材として使用中の亀裂発生の抑制も重要である。
しかしながら、機械加工等によって形成された亀裂の影響のキャンセル(あるいは抑制)と、使用中の亀裂発生の抑制とを両立させ、実用上、充分な効果(機械的信頼性の向上)を得ることは容易ではなく、これを実現できる適切な技術が無いことが実情であった。
【0004】
上述のピーニング法はセラミックス(セラミックス製品)の表面(表層)の強靱化に有効である。セラミックス製品の表面の破壊靱性値の向上は亀裂発生抑制や亀裂進展の抑制に有効である。しかしながら、ショットピーニング処理によるセラミックスへの圧縮残留応力の導入深さには限界(一般的には表面から40~50μm程度)があり、ピーニング法によって表面の強靱化を図ったとしても、セラミックスの表面以外の破壊靱性値は極めて低い状況にある。このため、セラミックス表層に例えば深さ50~100μm程度の亀裂が存在する場合は、ショットピーニング処理を施して表面の強靱化を図ってもこれがセラミックスの強度(曲げ強度)の向上に充分に寄与せず、強度向上効果が小さいといった不満があった。
【0005】
特許文献2記載の技術は、ムライトに添加した炭化物粒子(SiC)が熱処理によってSiOを生成し、このSiOがセラミックスに存在する亀裂を接合して治癒すると考えられるものであり、セラミックス自体が亀裂を自己修復するものと言える。この技術によれば、熱処理によってセラミックス製品の表面欠陥(亀裂)を除去できるため、曲げ強度の向上を実現できる。この技術では、炭化物粒子の添加によってセラミックスの破壊靱性を高めることができるものの、しかしながら、破壊靱性値の向上には限界があり、高い破壊靱性値を得ることは容易ではない。セラミックス表面の破壊靱性値の向上はセラミックス表面の亀裂の発生、進展の抑制に有効に寄与するが、特許文献2記載の技術では熱処理後の製品の亀裂発生、進展の抑制効果が充分に得られず、結局、機械的信頼性を満足できない。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みて、セラミックス製品表面に形成された亀裂の影響のキャンセル(あるいは抑制)と、使用中の亀裂の発生抑制とを両立させることができ、セラミックス製品の機械的信頼性向上を容易に実現できるセラミックス製品の製造方法、セラミックス製品の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明は、SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成するとともに、前記セラミックス焼結体に亀裂を形成した後、前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法を提供する。
第2の発明は、SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材であり、表面に亀裂を有するセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成した後、前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法を提供する。
第3の発明は、SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体にショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入することで、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が800~1000MPaの範囲で導入された圧縮残留応力導入層を形成し、該ショットピーニング処理の完了後に前記セラミックス焼結体の表面に亀裂を形成した後、前記セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い1100℃以下かつ800℃以上の温度に加熱して、該セラミックス焼結体中のSiCを酸化させSiOを生成するとともに、前記セラミックス焼結体の表層部における圧縮残留応力導入層に250MPa以上の圧縮残留応力を残存させる熱処理工程を行うことを特徴とするセラミックス製品の製造方法を提供する。
第4の発明は、前記熱処理工程の前に前記セラミックス焼結体の機械加工を行い、前記ショットピーニング処理及び前記機械加工を完了した後に前記熱処理工程を行うことを特徴とする第1~3のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第5の発明は、前記ショットピーニング処理は、ビッカース硬度(HV)が前記セラミックス焼結体の硬度の50~80%、粒径100~400μmの微粒子投射材をショット圧0.1~0.3MPaで前記セラミックス材料に投射することを特徴とする第1~4のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第6の発明は、前記ショットピーニング処理にて用いる前記微粒子投射材の粒径が100~200μmであることを特徴とする第1~5のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第7の発明は、前記ショットピーニング処理にて微粒子投射材をセラミックス焼結体に投射する前記ショット圧が0.1~0.2MPaであることを特徴とする第1~6のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第8の発明は、前記熱処理工程を大気中にて行うことを特徴とする第1~7のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第9の発明は、前記熱処理工程を前記セラミックス焼結体に曲げ応力を与えた状態で行うことを特徴とする第1~8のいずれかの発明のセラミックス製品の製造方法を提供する。
第10の発明は、第1~9のいずれかに記載のセラミックス製品の製造方法によって製造されたセラミックス製品であって、SiC微粒子を10~30wt%含有するSi/SiC複合材からなるセラミックス焼結体を有し、前記セラミックス焼結体の表面から深さ方向に30~50μmまでの範囲の表層部に、圧縮残留応力が250MPa以上で残留された圧縮残留応力導入層を有し、さらに、前記圧縮残留応力導入層の表面から前記セラミックス焼結体の内部に延びるように形成された亀裂状の溝内を埋めるSiOからなり前記セラミックス焼結体の前記溝を介して両側に位置する部分同士を接合する充填接合部を有することを特徴とするセラミックス製品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るセラミックス製品の製造方法によれば、SiC微粒子を分散させたセラミックス材料あるいはSiC製セラミックス材料からなるセラミックス焼結体にショットピーニング処理を施して圧縮残留応力を導入した後、セラミックス焼結体を酸素含有雰囲気下で、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低くかつ800℃以上の温度に加熱する熱処理工程によってSiOを生成することで、生成したSiOによってセラミックス焼結体の亀裂(例えば、深さ数μm~十μm程度の微細な亀裂)を修復(治癒)でき、しかも、熱処理工程後もセラミックス焼結体に圧縮残留応力を確実に残存させることができる。このためセラミックス製品に高い強度を確保することができ、しかも、圧縮残留応力の存在によって接触強度を確保できるため亀裂の発生、進展を抑えることができる。その結果、セラミックス製品表面に形成された亀裂の影響のキャンセル(あるいは抑制)と、使用中の亀裂の発生抑制とを両立させることができ、機械的信頼性が高いセラミックス製品を得ることができる。
本発明に係るセラミックス製品は、圧縮残留応力導入層と、亀裂状の溝内を埋めるSiOからなる充填接合部とを有する構成により、優れた強度が得られるとともに、亀裂の発生及び進展を抑制できるため、高い機械的信頼性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明に係るセラミックス製品の製造方法(以下、単に製造方法とも言う)及びセラミックス製品の第1実施形態を説明する。
図1は本発明に係る製造方法の一例を説明する図であって、(a)はセラミックス焼結体1(本発明に係る製造方法を適用する前のセラミックス製品)を示す断面図、(b)はショットピーニング処理によって前記セラミックス焼結体1に圧縮残留応力を導入してなる表層部(以下、圧縮残留応力導入層4とも言う)と亀裂2とを形成した状態を示す図、(c)は前記圧縮残留応力導入層4及び亀裂2を形成した前記セラミックス焼結体1を加熱する熱処理工程を行って得たセラミックス製品5を示す図である。
【0011】
図1に例示したセラミックス焼結体1は、セラミックスマトリクス11中にSiC微粒子12(粒状のものの他、ウィスカーも含む)が分散されたもの(以下、SiC複合セラミックスとも言う)であり、SiC微粒子12を10~30wt%含有するものである。
【0012】
セラミックス焼結体1であるSiC複合セラミックスは、セラミックス原料粉体にSiC微粒子12を混入させ焼結させたものである。焼結によって、セラミックス原料粉体によって形成されたセラミックスマトリクス11中にSiC微粒子12が分散されたSiC複合セラミックスが得られる。
セラミックスマトリクス11としては、例えば、AlN、ZrO、Si、Al、ムライト(3Al・2SiO)から選択されるいずれか1つを好適に用いることができる。但し、セラミックスマトリクス11としてはこれらに限定されるものではない。
【0013】
セラミックス焼結体1におけるSiC微粒子12の含有量は、10wt%よりも少ないと熱処理工程による治癒効果が充分に得られず、この製造方法によって得られるセラミックス製品5(図1(c)参照)の強度に影響を与える。また、30wt%よりも多くてもセラミックス製品5の強度の低下を招く。
【0014】
なお、本発明に係るセラミックス焼結体を形成するセラミックス材料としては、上述のSiC複合セラミックス材料からなるものに限定されず、例えば、SiC製セラミックス材料(セラミックスマトリクスがSiCで形成されているもの)も採用できる。
【0015】
本発明に係るセラミックス製品の製造方法に用いられるセラミックス焼結体は、例えば軸受け、ガスタービン等の熱機関用の部品、ばね、歯車等の構造材として使用されるものであり、その形状には限定は無い。但し、本発明に係る製造方法におけるショットピーニング処理(後述)を行う対象となる表面(微粒子投射材を衝突させる表面)を形成する部分に数mm程度あるいはそれ以上の厚み寸法(ショットピーニング処理を行う表面からの深さ寸法)が確保されているものを使用する。
【0016】
図1(a)~(c)に例示した製造方法では、まず、セラミックス焼結体1にショットピーニング処理を施して、前記セラミックス焼結体1に圧縮残留応力を導入するとともに、セラミックス焼結体1の表面3に亀裂2を形成する(図1(b)参照)。
ショットピーニング処理は、例えばジルコニア(ZrO)ビーズ等の微粒子投射材6をセラミックス焼結体1に投射して、セラミックス焼結体1への圧縮残留応力の導入とセラミックス焼結体1の表面3への亀裂2の形成とを行う。
【0017】
ショットピーニング処理によるセラミックス焼結体1への圧縮残留応力の導入によって、セラミックス焼結体1には、その表面3付近に、圧縮残留応力が導入された領域(図1(b)、(c)中符号4の圧縮残留応力導入層)が形成される。圧縮残留応力導入層4は、セラミックス焼結体1の表面3から深さ方向に少なくとも10μm程度形成することが好ましく、表面3から30~50μm程度まで形成することがより好ましい。また、表面3から100μm程度、あるいはそれ以上の広範囲にわたって形成しても良い。
【0018】
ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体1に形成する亀裂2は、例えば表面3からの深さが数μm~50μm程度の微細なものである。
前記亀裂は深さ50μmを超えるサイズのものであっても良いが、亀裂の深さはセラミックス焼結体1の表面3から100μm以内であることが好ましい。
ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体1に亀裂2が形成される結果、セラミックス焼結体1の表面3は粗面化される。
【0019】
ショットピーニング処理の微粒子投射材のサイズ(粒径)、硬度、ショット圧等の条件は、セラミックス焼結体1の物性(例えば表面硬さ)等に応じて、セラミックス焼結体1の欠けやセラミックス焼結体1全体の割れを生じない範囲で設定する。例えば、ビッカース硬度(HV)が前記セラミックス焼結体1の硬度の50~80%、粒径100~400μmの微粒子投射材6をショット圧0.1~0.3MPaで前記セラミックス焼結体1に投射してショットピーニング処理を行うことが好適である。
微粒子投射材6は、粒径を大きくするとセラミックス焼結体1に欠けが生じやすくなるため、欠けが発生しないように調整する必要がある。一方、粒径が小さいほど、圧縮残留応力を導入しにくくなる。この点、微粒子投射材6の粒径は100~200μmとすることがより好ましい。ショット圧は0.1~0.2MPaとすることがより好ましい。
微粒子投射材6の粒径を100~200μm、ショット圧を0.1~0.2MPaとすることは、例えばSi、Al、ムライトをセラミックスマトクスとするセラミックス焼結体1のショットピーニング処理に特に好適である。
【0020】
ショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入する圧縮残留応力は、後述する熱処理工程での熱処理後のセラミックス焼結体1の表面3の破壊靱性値の向上、接触強度の向上の点では出来るだけ大きいことが望ましいが、ショットピーニング処理によるセラミックス焼結体1の欠け等を防止する必要があることから上限値に限界がある。このためショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入する圧縮残留応力は、300~1000MPaの範囲であることが好ましい。
【0021】
次いで、上述のショットピーニング処理を完了したセラミックス焼結体1を酸素含有雰囲気(例えば大気中)下で加熱する熱処理工程を行う。
この熱処理工程では、酸素含有雰囲気下でのセラミックス焼結体1の加熱によって、セラミックス焼結体1中のSiCに、SiC+3/2O→SiO+CO、の酸化反応を生じさせ、SiOを生成させる。この熱処理工程でのセラミックス焼結体1の加熱温度は、SiCの酸化反応のために800℃以上とするが、但し、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い温度とする。
【0022】
このとき、SiCの酸化反応によるSiOの生成は体積膨張を伴うため、反応の進行に伴い亀裂2内にSiOが充填されていく。亀裂2には、亀裂2内に露出するSiCの酸化反応によって生成されるSiOが充填される。
亀裂2内に充填されたSiOは熱処理工程後の冷却により固化することで、セラミックス焼結体1の亀裂2を介して両側に位置する部分を接合する接合材(充填接合部7)として機能させることができる。したがって、図1(c)に示すように、この熱処理工程によって亀裂2内にSiOを充填することで、亀裂2を治癒(修復)することができる。
【0023】
また、亀裂2内に形成された充填接合部7が、セラミックス焼結体1の亀裂2を介して両側に位置する部分を接合する接合材として機能する結果、セラミックス焼結体1の曲げ強度を向上させることができる。熱処理工程の完了によって得られるセラミックス製品5には、ショットピーニング処理及び熱処理工程を行う前のセラミックス焼結体1に比べて高い曲げ強度を得ることができる。
【0024】
本発明者等による膨大な試験の結果、亀裂2を形成する前のセラミックス焼結体1に比べて、ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体1に亀裂2を形成し、上述の熱処理工程を行ったセラミックス製品5の方がより高い曲げ強度が得られることを確認した。曲げ強度試験の結果、セラミックス製品5の充填接合部7による接合箇所以外で破断が生じることから、充填接合部7による接合箇所の存在がセラミックス製品5の強度向上に有効に寄与しているものと考えられる。
この点、例えば、ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体1に多数の亀裂2を形成し、熱処理工程にて各亀裂2にSiOを充填して充填接合部7を形成することで、セラミックス製品5により高い曲げ強度を得ることが可能である。
【0025】
熱処理工程での亀裂2内へのSiOの充填は、図示例のように亀裂2内部全体を埋めることがセラミックス製品5の曲げ強度の向上の点で有利であるが、亀裂2内へのSiOの充填は、SiOからなる充填接合部7が、セラミックス焼結体1の亀裂2を介して両側に位置する部分同士を接合する接合材として機能し得るようになっていれば良く、亀裂2内にSiOが充填されていない箇所が部分的に存在していても良い。
熱処理工程は、換言すれば、SiCの酸化反応によって生成したSiOによって亀裂2内に充填接合部7を形成して、セラミックス焼結体1の強度を向上せしめる工程とも言える。亀裂2内に形成された充填接合部7は、亀裂2の拡張を阻止する機能を果たすものと考えられる。また、亀裂2内に充填接合部7が形成され治癒された部位が高い強度を発揮し、セラミックス焼結体1全体の強度向上に寄与するものと考えられる。
【0026】
熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度を、前記ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い温度とすることは、ショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入した圧縮残留応力を熱処理工程の完了後も残存させることを目的とする。熱処理工程の完了後も圧縮残留応力を残存させることで、セラミックス焼結体1の表面3の破壊靭性値を高めることができる。これにより、セラミックス焼結体1の接触強度を高めることができ、セラミックス製品5の表面への新たな亀裂の発生、進展を抑える効果が得られる。
【0027】
ショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入した圧縮残留応力は、熱処理工程でのセラミックス焼結体1の加熱によって解放されて低下する(例えば図3参照)。圧縮残留応力は、熱処理工程での加熱温度が高いほど大きく低下する。
セラミックス製品5の接触強度を高め表面の亀裂の発生、進展を抑える点では、熱処理工程の完了後に、出来るだけ大きい圧縮残留応力が確保される(残存する)ことが好ましい。
【0028】
なお、図3は、Si粉末に平均粒径0.27μmのSiC粒子を20wt%複合(混入)し、焼結助剤としてYを8wt%用いたものを、窒素ガス中にて、35MPaの圧縮応力を作用させたまま、1850℃、2時間の加圧焼結を行って得たセラミックス焼結体にショットピーニング処理を施し、次いで熱処理(熱処理工程)を行い、熱処理温度(加熱温度)が互いに異なる複数の試験片を作製した後、各試験片について、X線回折によってセラミックス焼結体表面(ショットピーニング処理を行った面)の圧縮残留応力を計測したデータ(図3中、SP)を記載している。熱処理は大気中にて1時間加熱で行った。
ショットピーニング処理は、平均粒径300μmのZrOビーズ(ビッカース硬度(HV)1250)をショット圧0.2MPa、ガバレージ300%、ショット時間30~40secで投射して行い、セラミックス焼結体に圧縮残留応力導入層と亀裂(表面欠陥)とを形成した。また、図3では、ショットピーニング処理を行う前のセラミックス焼結体の圧縮残留応力(図3中、未SP)も併記している。
【0029】
また、図4に示すように、上述の試験片について、熱処理工程における加熱時間(熱処理時間h)に対する圧縮残留応力の低下傾向を確認したが、加熱温度(熱処理温度)が800℃、1100℃、1000℃のいずれの場合でも、熱処理開始から10時間の熱処理後も圧縮残留応力を保持できることを確認できた。
図4では、上述のショットピーニング処理後、熱処理を行っていないセラミックス焼結体の圧縮残留応力(図4中、SP材)も併記している。
【0030】
熱処理工程では、セラミックス焼結体1の加熱温度を、ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低く抑えれば、ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を多く残存させることができる。一方、熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度が800℃よりも低いと、SiC粒子12の酸化反応が充分に進行せず、充填接合部7の形成が不充分となり、曲げ強度の向上が難しくなってくる。このため、熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度は、800℃以上で、ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低く設定する。
【0031】
例えば、窒化珪素(Si)をセラミックスマトリクスとするセラミックス焼結体1の場合は、熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度は、800℃以上かつ1200℃よりも低くすることが好ましい。このセラミックス焼結体1の場合、ショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入した圧縮残留応力は、熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度が1300℃前後でほぼ完全に除去されてしまい(1300℃がショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度)、ショットピーニング処理による導入前の状態に近似する(例えば、図3参照)。
また、図3を参照して判るように、熱処理工程における加熱温度(熱処理温度)が1000℃の場合に比べて1250℃の場合は残留応力の減衰幅がやや大きいことが判った。このため、熱処理温度の上限値は1100℃あるいは1000℃とすることが好ましい。
【0032】
Si/SiC複合材であるセラミックス焼結体1の場合、熱処理工程におけるセラミックス焼結体1の加熱温度を1100℃とすると、ショットピーニング処理にてセラミックス焼結体1に導入した圧縮残留応力の3分の1程度(セラミックス焼結体1の表面3の圧縮残留応力)を確実に維持できる。このため、例えばショットピーニング処理にて800~1000MPaの圧縮残留応力(セラミックス焼結体1の表面3の圧縮残留応力)を導入することで、熱処理後のセラミックス焼結体1に250MPa以上の圧縮残留応力(セラミックス焼結体1の表面3の圧縮残留応力)を確実に確保することができ、新たな亀裂の発生、進展を抑える効果を確実に得ることができる。
【0033】
なお、熱処理工程を行うとセラミックス焼結体1の表面3に露出するSiC微粒子の酸化反応によるSiOの生成も生じるため、セラミックス焼結体1の表面3に存在する極めて微細な疵や微細なボイド状の表面欠陥も治癒されることとなる。
【0034】
上述した製造方法では、ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体1に圧縮残留応力導入層4と亀裂2とを形成した後、熱処理工程によってセラミックス焼結体1の亀裂2内に充填接合部7を形成する構成を例示したが、本発明はこれに限定されない。
本発明に係る製造方法にあっては、セラミックス焼結体の表面の亀裂の形成は、熱処理工程の前であればいつでも良く、また、亀裂の形成をショットピーニング処理によって行う構成に限定されない。亀裂の形成を、ショットピーニング処理の前あるいは後に行う構成も採用可能である。また、焼結後の運搬中や、構造材としての使用等によって表面に亀裂が形成されたセラミックス焼結体の使用も可能である。いずれの場合も、ショットピーニング処理の後に熱処理工程を行うことで、セラミックス焼結体の接触強度及び曲げ強度を向上することができる。
この点、以下の(A)、(B)の製造方法も採用可能である。但し、熱処理工程は、ショットピーニング処理にて導入した圧縮残留応力を全て除去できる加熱温度よりも低い温度で行い、熱処理後のセラミックス焼結体に圧縮残留応力を残存させる。
【0035】
(A)第2実施形態
図2(a)~(c)に示すように、構造材としての使用や機械加工等によって表面に亀裂22が形成されたセラミックス焼結体21(図2(a)参照)に上述の第1実施形態と同様のショットピーニング処理を施して、このセラミックス焼結体21に圧縮残留応力導入層4を形成(図2(b)参照)した後、上述の第1実施形態と同様の熱処理工程を行ってセラミックス製品23を得る。
この実施形態の製造方法にて用いるセラミックス焼結体21の材質は、第1実施形態にて説明したセラミックス焼結体1と同様である。
この場合も、ショットピーニング処理にて、上述の第1実施形態と同様に、セラミックス焼結体21に圧縮残留応力導入層4が形成されるとともにセラミックス焼結体21の表面に亀裂2が形成されるため、熱処理工程を行うことでセラミックス焼結体21の曲げ強度を向上できる。
【0036】
(B)第3実施形態
第1実施形態にて説明したセラミックス焼結体1と同様の材質で形成されたセラミックス焼結体にショットピーニング処理を施して、このセラミックス焼結体に圧縮残留応力導入層を形成した後、例えばビッカース圧子の押し込み試験や機械加工等によってセラミックス焼結体の表面に亀裂を形成し、次いで、上述と同様の熱処理工程を行ってセラミックス製品を得る。この場合、ビッカース硬さ試験等の強度試験を行ってから、熱処理工程を行うといったことが可能である。
この実施形態の場合、例えば、ショットピーニング処理を行う対象のセラミックス焼結体として表面に亀裂が存在していないものを用い、ショットピーニング処理を行って圧縮残留応力導入層及び亀裂を形成した後、さらにセラミックス焼結体の表面に亀裂を形成し、次いで、上述の第1実施形態と同様の熱処理工程を行うといったことが可能である。また、ショットピーニング処理を行う対象のセラミックス焼結体として表面に亀裂が存在するものを使用することを排除するものではない。
【0037】
なお、セラミックス焼結体の強度向上の点では、セラミックス焼結体の表面に亀裂を形成できる条件のショットピーニング処理を行うことがより有効であるが、上述の第2、第3実施形態では、硬度が低い微粒子投射材の使用や、ショット圧を低く抑えること等によって、亀裂を形成しない条件でのショットピーニング処理を採用することを排除しない。
【0038】
(機械加工)
本発明に係る製造方法では、熱処理工程の前に、セラミックス焼結体に穴開け、切断、研削等の機械加工を施すことが可能である。
例えば、上述の第2実施形態では、機械加工によって表面に亀裂22が形成されたセラミックス焼結体21の使用を説明したが、これとは別に、ショットピーニング処理後にセラミックス焼結体の機械加工を行っても良い。また、機械加工はショットピーニング処理中に行っても良い。
セラミックス焼結体の機械加工は熱処理工程の前であればいつでも良く、このことは、既述の第1~3実施形態に共通する。また、ここで説明する機械加工は、セラミックス焼結体の表面への亀裂の形成を必須としない。亀裂を形成しないものであっても良い。
【0039】
熱処理工程の前にセラミックス焼結体の機械加工を行った場合でも、機械加工及びショットピーニング処理を完了した後に熱処理工程を行うことで、セラミックス焼結体の接触強度及び曲げ強度を向上することができる。
また、機械加工によってセラミックス焼結体に形成された亀裂が治癒されることで、この治癒部分もセラミックス焼結体の曲げ強度の向上に寄与することとなる。
【0040】
(曲げ応力下での熱処理工程)
熱処理工程は、前記セラミックス焼結体に負荷応力として曲げ応力を与えた状態で行っても良い。
例えば、装置に取り付けられたセラミックス焼結体を、装置から取り外すこと無く、取り付け状態のまま(曲げ応力が作用した状態のまま)で、このセラミックス焼結体に対してショットピーニング処理、熱処理工程を行うといったことも可能である。
【0041】
(検証1:強度特性の検証)
以下の実施例1-9、比較例1-18の供試材(セラミックス焼結体)を用意して曲げ試験を行い、強度特性を検証した。
【0042】
(実施例1、2、3:図6、図9の「SP+VC+熱処理材」)
Si粉末に平均粒径0.27μmのSiC粒子を20wt%複合(混入)し、焼結助剤としてYを8wt%用いたものを、窒素ガス中にて、35MPaの圧縮応力を作用させたまま、1850℃で2時間加熱して加圧焼結した。その焼結体から3mm×4mm×22mmサイズに切り出した試験片(セラミックス焼結体)を作製した。
次いで、平均粒径300μmのZrOビーズ(ビッカース硬度(HV)1250)を試験片の4mm×22mmサイズの面(以下、表面とも言う)に投射して、ショットピーニング処理を行った。このショットピーニング処理は、直圧式ショットピーニング装置を用いて、ショット圧0.2MPa、ガバレージ300%、ショット時間30~40secで行った。図5に示すように、X線回折により試験片の表面から40μm程度まで圧縮残留応力を導入できたことを確認した。また、導入した圧縮残留応力は試験片の表面で最も大きく、表面からの距離(表面からの深さ方向の距離)が大きくなるに従い低くなる分布を示すことを確認した。試験片の表面での圧縮残留応力の計測値は876MPaであった。なお、図5においては縦軸の圧縮残留応力の値を負の値で表示したが、導入できた圧縮残留応力の大きさは絶対値で捉え得るものであることは言うまでも無い。
また、ショットピーニング処理後の試験片を調べたところ、その表面に深さ数μmの微細な亀裂が多数形成されていることを確認した。
【0043】
次に、ショットピーニング処理後の試験片の表面にビッカース硬さ試験機を用い圧子の押込み荷重を作用させて予亀裂(以下、ビッカース亀裂と略記する場合がある)を導入した後、この試験片を大気中にて1100℃で1時間熱処理した。
但し、ビッカース圧子の押込み荷重(以下、ビッカース押込み荷重とも言う)と曲げ強度との関係を把握するために、ビッカース亀裂の導入は、ビッカース押込み荷重を19.6N(実施例1)、29.4N(実施例2)、49N(実施例3)、98N(実施例4)の4通りに設定し、4種類の供試材を得た。そして、これら供試材(SP+VC+熱処理材)について三点曲げ試験を行い、その結果を図6に示した。また、試験片30表面におけるビッカース亀裂30aの長さ(表面亀裂長さ。図12に示す符号2C)を測定して、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図9に纏めて示した。
なお、図12において符号30bはビッカース圧子の押し込みによって形成された圧痕である。
【0044】
(実施例5、6、7、8:図7、図10の「VC+SP+熱処理材」)
試験片の表面にビッカース亀裂を導入してから、SP+VC+熱処理材の作製と同じ条件でショットピーニング処理を行い、その後、SP+VC+熱処理材の作製と同様の熱処理を行った。試験片へのビッカース亀裂の導入をショットピーニング処理の前とすること以外は、SP+VC+熱処理材と同じである。ビッカース亀裂の導入においてビッカース押込み荷重を19.6N(実施例5)、29.4N(実施例6)、49N(実施例7)、98N(実施例8)の4通りに設定して4種類の供試材を得た。そして、これらの供試材(VC+SP+熱処理材)について三点曲げ試験を行った。ビッカース押込み荷重と曲げ強度との関係を図7、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図10に纏めて示した。
【0045】
(実施例9:図6、図9の「SP+熱処理材」)
ビッカース亀裂の導入を省略したこと以外は、SP+VC+熱処理材の作製と同じにして供試材(実施例9)を得た。この供試材(SP+熱処理材)について三点曲げ試験を行った結果を図6、図9の「予亀裂無」欄に示した。
【0046】
(比較例1、2、3、4:図6、図9の「SP+VC材」)
熱処理を省略したこと以外は、SP+VC+熱処理材(実施例1、2、3、4)の作製と同じにして供試材を作製した。この供試材は、原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片に、SP+VC+熱処理材と同様のショットピーニング処理を行ってから、ビッカース亀裂を導入したものである。ビッカース亀裂の導入は、ビッカース押込み荷重を19.6N(比較例1)、29.4N(比較例2)、49N(比較例3)、98N(比較例4)の4通りに設定して行い、4種の供試材を得た。これらの供試材(SP+VC材)について三点曲げ試験を行った。ビッカース押込み荷重と曲げ強度との関係を図6、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図9に纏めて示した。
【0047】
(比較例5、6、7、8:図7、図10の「VC+SP材」)
熱処理を省略したこと以外は、既述のVC+SP+熱処理材(実施例5、6、7、8)の作製と同じにして供試材を作製した。この供試材は、原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片にビッカース亀裂を導入してから、SP+VC+熱処理材と同様のショットピーニング処理を行ったものである。ビッカース亀裂の導入は、ビッカース押込み荷重を19.6N(比較例5)、29.4N(比較例6)、49N(比較例7)、98N(比較例8)の4通りに設定して行い、4種の供試材を得た。これらの供試材(VC+SP材)について三点曲げ試験を行った。ビッカース押込み荷重と曲げ強度との関係を図7、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図10に纏めて示した。
【0048】
(比較例9:図6、図9の「SP材」)
熱処理を省略したこと以外は、既述のSP+熱処理材(実施例9)の作製と同じにして供試材を作製した(比較例9)。この供試材(SP材)は、原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片に、SP+VC+熱処理材と同様のショットピーニング処理を行ったものである。ビッカース亀裂は導入しない。
この供試材について三点曲げ試験を行った結果を図6、図9の「予亀裂無」欄に示した。
【0049】
(比較例10:図8、図11の「未SP材」)
原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片に、ショットピーニング処理、ビッカース亀裂の導入、熱処理を行っていない供試材を比較例10とした。
この供試材(未SP材)について三点曲げ試験を行った結果を図8、図11の「予亀裂無」欄に示した。
【0050】
(比較例11、12、13、14:図8、図11の「未SP+VC材」)
ショットピーニング処理及び熱処理を省略したこと以外は、SP+VC+熱処理材の作製と同じにして供試材を作製した。この供試材は、原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片にビッカース亀裂を導入したものである。ショットピーニング処理及び熱処理は行っていない。ビッカース亀裂の導入は、ビッカース押込み荷重を19.6N(比較例11)、29.4N(比較例12)、49N(比較例13)、98N(比較例14)の4通りに設定して行い、4種の供試材を得た。これらの供試材(未SP+VC材)について三点曲げ試験を行った。ビッカース押込み荷重と曲げ強度との関係を図8、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図11に纏めて示した。
【0051】
(比較例15、16、17、18:図8、図11の「未SP+VC+熱処理材」)
ショットピーニング処理を省略したこと以外は、SP+VC+熱処理材の作製と同じにして供試材を作製した。この供試材は、原料の焼結によって得た3mm×4mm×22mmサイズの三点曲げ試験片にビッカース亀裂を導入した後、熱処理を行ったものである。ビッカース亀裂の導入は、ビッカース押込み荷重を19.6N(比較例15)、29.4N(比較例16)、49N(比較例17)、98N(比較例18)の4通りに設定して行い、4種の供試材を得た。これらの供試材(未SP+VC+熱処理材)について三点曲げ試験を行った。ビッカース押込み荷重と曲げ強度との関係を図8、ビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係を図11に纏めて示した。
【0052】
既述の通り、SP+VC+熱処理材は、その作製にあたりショットピーニング処理直後の表面に深さ数μmの微細な亀裂が形成された。
このことは、ショットピーニング処理を行った他の供試材についても同様であり、VC+SP+熱処理材、SP+熱処理材、SP+VC材、VC+SP材、SP材についても、その作製にあたりショットピーニング処理直後の試験片表面に深さ数μmの微細な亀裂が形成されたことを確認できた。
【0053】
ビッカース亀裂を導入して作製した供試材は、その作製にあたりショットピーニング処理後にビッカース亀裂を導入(SP+VC+熱処理材、SP+VC材が該当する。)したときのビッカース押込み荷重に対するビッカース亀裂の深さが、ビッカース亀裂を導入して作製した他の供試材に比べて浅く、長さ(図12に示す符号2C)も短かかった。
図13に示すように、試験片30(セラミックス焼結体)に導入したビッカース亀裂30aは、試験片30表面から深さ方向に、圧痕30bを中心にほぼ半円状に形成される。このため、ビッカース亀裂の深さは圧痕30b付近が最も深く、その寸法(深さ寸法)は表面亀裂長さ2Cのほぼ半分とみなすことができる。図9、図10、図11を参照して明らかなように、SP+VC+熱処理材(図9)、SP+VC材(図9)のビッカース亀裂の表面亀裂長さ2Cが、VC+SP材(図10)、VC+SP+熱処理材(図10)、未SP+VC材(図11)、未SP+VC+熱処理材(図11)のビッカース亀裂の表面亀裂長さ2Cに比べて短くなる傾向を把握できた。
図14(a)は未SP+VC材に形成したビッカース亀裂31、(b)は図14(a)と同じビッカース押込み荷重でSP+VC材に形成したビッカース亀裂32を示す。
図14(a)、(b)に示すように、SP+VC材のビッカース亀裂32の長さは、未SP+VC材に形成したビッカース亀裂31の長さに比べてかなり短い。
【0054】
これは、ショットピーニング処理によって圧縮残留応力を導入した圧縮残留応力の作用によって試験片表面の破壊靱性が高められ、破壊靱性の向上により亀裂の発生、進展が抑えられて、ビッカース亀裂の長さが短くなるものと考えられる。
表1に示すように、未SP材、SP材についてIF法(Indentation Fracture法:JIS R1607)により表面の破壊靱性値を測定した所、SP材の破壊靱性値は未SP材に比べて130~150%向上していた。なお、測定は、ビッカース押込み荷重29.4N、49N、98Nの3通りについて行った。
【0055】
【表1】
JP0005273529B2_000002t.gif

【0056】
(試験結果の考察)
図6~図11を参照して判るように、本発明に係るSP+VC+熱処理材、VC+SP+熱処理材は、ショットピーニング処理及び熱処理を行っていない未SP+VC材に比べて曲げ強度を向上できた。本発明に係るSP+熱処理材は、ショットピーニング処理及び熱処理を行っていない未SP材に比べて曲げ強度を向上できた。
また、ショットピーニング処理及び熱処理のうちショットピーニング処理のみを行ったSP+VC材、VC+SP材、熱処理のみを行った未SP+VC+熱処理材も未SP+VC材に比べて曲げ強度を向上できた。
【0057】
図7、図10に示すように、ビッカース亀裂を導入してからショットピーニング処理及び熱処理を行うVC+SP+熱処理材は、ビッカース亀裂の導入後にショットピーニング処理を行い熱処理を行わないVC+SP材に比べて高い曲げ強度が得られた。
特許文献1のようにショットピーニング処理によってセラミックス製品表面の破壊靱性値を向上させる技術(既述のピーニング法。本発明のような熱処理による亀裂治癒は行わない)は、すでに表面に亀裂が存在するセラミックス製品に適用する場合、亀裂の深さが、ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体に導入する圧縮残留応力の導入深さよりも浅い微小なものであれば、圧縮残留応力による表面破壊靱性値の向上が曲げ強度の向上に有効に寄与するものと考えられる。このため、亀裂の深さが、ショットピーニング処理による圧縮残留応力の導入深さを超える場合、圧縮残留応力による表面破壊靱性値の向上が曲げ強度の向上に充分に寄与せず、強度向上効果が小さくなってしまうものと考えられる。
これに対して、本発明に係るVC+SP+熱処理材は、図10を参照して判るように、ビッカース亀裂の深さが50μm(表面亀裂長さ2Cが100μm)以上において、VC+SP材に比べて曲げ強度を向上できることが明らかである。これは、VC+SP+熱処理材にあっては、熱処理によってビッカース亀裂が治癒されたために、ビッカース亀裂が供試材の曲げ強度に与える影響が抑制されたことが原因と考えられる。
【0058】
既述の通り、VC+SP+熱処理材及びVC+SP材の、ショットピーニング処理による圧縮残留応力の導入深さは40μm程度であることから、VC+SP+熱処理材は、VC+SP材に比べて、圧縮残留応力の導入深さを超える深さの亀裂が形成されているセラミックス焼結体の曲げ強度の向上に有効に寄与する。
また、VC+SP+熱処理材について、ショットピーニング処理によって導入した残留圧縮応力がショットピーニング処理後の熱処理によって減衰するものの、熱処理によって亀裂が治癒されることにより、VC+SP材を上回る曲げ強度を確保できることを確認できた。
【0059】
図6に示すように、SP+VC+熱処理材は、熱処理を行っていないSP+VC材に比べて曲げ強度を大幅に向上できた。ショットピーニング処理済みの供試材に亀裂が形成された場合であっても、熱処理によって亀裂を治癒することで、曲げ強度を向上できることを確認できた。
また、このSP+VC+熱処理材については、ビッカース押込み荷重が49N以下(図6参照)、表面亀裂長さ2Cが130μm以下(図9参照)で亀裂外破断が生じた。つまり、ビッカース亀裂が無害化されていることを確認できた。このことから、このSP+VC+熱処理材については、ビッカース押込み荷重が49N以下(図6参照)、表面亀裂長さ2Cが130μm以下(図9参照)で、ビッカース亀裂が曲げ強度に与える影響をキャンセルできると言える。
【0060】
また、本発明に係るSP+熱処理材も、熱処理を行っていないSP材に比べて曲げ強度を向上できた。SP+熱処理材は、ショットピーニング処理によって供試材表面(表層)に形成される微小な亀裂が熱処理によって治癒されることが、曲げ強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0061】
(熱処理温度が破壊靱性値に与える影響の検証1)
SP+熱処理材を作製するための熱処理を1000℃、1時間に変更して作製した供試材と、熱処理を1300℃、1時間に変更して作製した供試材とを作製し、IF法により表面の破壊靱性値を測定した。測定は、ビッカース押込み荷重29.4N、49N、98Nの3通りについて行った。
その結果、表1に示すように、1000℃、1時間の熱処理を行った供試材については、未SP材よりも高い破壊靱性値を確保できていることを確認した。一方、1300℃、1時間の熱処理を行った供試材の破壊靱性値は、1000℃、1時間の熱処理を行った供試材に比べて大きく低下していた。
【0062】
(熱処理温度が破壊靱性値に与える影響の検証2)
さらに、図15に示すように、ショットピーニング処理済みの試験片(既述のSP材)について、熱処理温度を800~1300℃まで100℃刻みで設定し、それぞれ1時間の熱処理を行って作製した供試材を用意し、各供試材についてIF法により破壊靱性値を測定した。但し、ビッカース押込み荷重は49Nとした。また、既述の未SP材、SP材についても測定を行った。
図15に示すように、破壊靱性値は、供試材を作製するための熱処理温度が高くなるほど低下する傾向であった。また、熱処理温度1300℃では、熱処理温度1200℃に比べて破壊靱性値が大きく低下した。
【0063】
本発明にかかるSP+VC+熱処理材、VC+SP+熱処理材、SP+熱処理材は、熱処理(熱処理工程)によってビッカース亀裂が治癒されビッカース亀裂が曲げ強度に与える影響をキャンセル(無害化)あるいは抑制できる上、熱処理後も供試材に残存する圧縮残留応力が供試材(セラミックス焼結体)表面の破壊靱性値の向上に寄与する。熱処理後の供試材に残存する圧縮残留応力は、既述のように、供試材(セラミックス焼結体)表面の破壊靱性値を高めて、ビッカース亀裂の進展や新たな亀裂の発生を抑制する機能を果たす。その結果、高い機械的信頼性が得られる。
【0064】
(評価2:接触強度の評価)
図16に示すように、ショットピーニング処理済みの試験片(既述のSP材)に熱処理温度900℃、1100℃、1300℃で熱処理を行った3種の供試材を用意し、この熱処理済みの3種の供試材と、既述の未SP材、SP材について、φ4.0mmのWC(炭化タングステン)球の球圧子の押し込み試験を行った。
押込み荷重P(図16の球圧子押込み荷重)は0.5~4.5kNまで0.5kN刻みで設定し、押し込み負荷速度2.0kN/minで押し込みを行い、所期の試験荷重に達したところで除荷して、供試材表面を光学顕微鏡で観察し、押し込みによるリングクラック(図19(a)、(b)の符号41参照)の発生の有無を確認した。
なお、図19(a)、(b)において符号42は供試材、43は球圧子(WC球)である。図19(a)は、供試材42への球圧子43の押し込み状態を示す図、図19(b)は球圧子43の押し込みによって供試材42に形成されたリングクラック41を示す平面図である。
【0065】
供試材の3点に同じ押込み荷重Pで球圧子を押し込み、3点のすべてについてリングクラックが発生しない限界の負荷荷重(押込み荷重P)を亀裂発生限界荷重Pcと定義し、各供試材について亀裂発生限界荷重Pcを求めた。亀裂発生限界荷重Pcは、図16中符号Pcで示した。
押し込み試験の結果、未SP材の亀裂発生限界荷重Pcは0.5kNであった。SP材は、試験可能な最大荷重4.5kNにおいてもリングクラックが発生せず、未SP材に比べて亀裂発生限界荷重Pcが大幅に向上したことを確認できた。また、SP材に熱処理を行って得た3種の供試材(図16中、SP+900℃×1h熱処理(実施例10)、SP+1100℃×1h熱処理(実施例11)、SP+1300℃×1h熱処理(比較例19))についても、未SP材に比べて亀裂発生限界荷重Pcが大幅に向上したことを確認できた。また、SP材に熱処理を行って得た3種の供試材については、熱処理温度が上昇するに伴い、亀裂発生限界荷重Pcが低下した。
【0066】
次に、各供試材について、ヘルツの弾性接触理論式(下記式1。日本トライボロジー学会,セラミックスのトライボロジー,51-57,養賢堂(2003))より亀裂発生限界応力σcを算出し、その結果を図17に示した。
なお、式1において、Wは押込み荷重、νは供試材のポアソン比、aは接触円半径である。接触円半径aは、以下の式2で与えられる。式2において、Rは球圧子半径、Wは押込み荷重、νは供試材のポアソン比、νは球圧子のポアソン比、Eは供試材のヤング率、Eは球圧子のヤング率である。
【0067】
【数1】
JP0005273529B2_000003t.gif

【0068】
【数2】
JP0005273529B2_000004t.gif

【0069】
また、各供試材について見かけの破壊靱性値KICを算出し、その結果を図17に纏めて示した。破壊靱性値KICはIF法における破壊靱性値KICの算出方法に従って算出した。
【0070】
SP材のσcは3.4GPa以上であり、未SP材の1.6GPaと比較して100%以上の大幅な向上を示した。
また、SP材に熱処理を行って得た3種の供試材についても、未SP材に比べて亀裂発生限界応力σcが向上したものの、向上率はSP材に比べて低かった。
SP材表面の見かけの破壊靭性値KICは9.6 MPa・m1/2であり,未SP材の4.2 MPa・m1/2と比較して134%向上した。SP材に熱処理を行って得た3種の供試材では,温度の上昇に伴い向上率は減少した。亀裂発生限界応力σcおよび見かけの破壊靭性値KICの測定結果は、圧縮残留応力の測定結果の傾向と一致している。よって,亀裂発生限界応力σcの大幅な向上および、見かけの破壊靭性値KICの大幅な向上は、表面に導入された圧縮残留応力に起因するものであると考えられる。
【0071】
(評価3:亀裂治癒可能な限界応力の評価)
既述のSP材にビッカース押込み荷重49Nで予亀裂(表面長さ2c=100μm)を導入し、負荷応力(曲げ応力)300~450MPaの一定応力下において,応力下における熱処理(熱処理工程)を行った。熱処理条件は、1100℃、5時間、大気中とした(以下、SP+応力下熱処理材とも言う。実施例12)。
比較材として,既述の未SP材に、(1)ビッカース押込み荷重19.6Nで表面長さ100mmの予亀裂を導入した100μm予亀裂材に、SP+VC+応力下熱処理材と同様の熱処理を行ったもの(以下、未SP+応力下熱処理材1。比較例20)、および、ビッカース押込み荷重49Nで表面長さ200μmの予亀裂を導入した200μm予亀裂材に(SP+VC+応力下熱処理材と同様の熱処理を行ったもの(以下、未SP+応力下熱処理材2。比較例21)を準備した。
【0072】
図18に熱処理中の負荷応力と熱処理後の室温曲げ強度を示した。SP+応力下熱処理材の1100℃における亀裂治癒可能な限界応力は400MPaであった.この限界応力は,同じ100μm程度の大きさの亀裂を有する未SP+応力下熱処理材1の300MPa、同じ荷重で導入された亀裂を有する未SP+応力下熱処理材2の200MPaを大きく上回っていた。すなわち、SP+応力下熱処理材は,同程度の大きさの亀裂を有する場合、または同程度の衝撃でき裂が発生した場合ともに亀裂治癒可能な限界応力を大幅に向上できた。
【0073】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。
本発明は、例えば構造材等として使用中の製品(セラミックス焼結体)についても適用可能である。使用中の製品にショットピーニング処理及び熱処理(熱処理工程)を行うことで、本発明に係るセラミックス製品を得ることができる。
本発明に係るセラミックス製品は、セラミックス焼結体の表面に、別途、コーティング等によって保護層を設けたものも含む。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)~(c)は、本発明に係るセラミックス製品の製造方法の第1実施形態を示す図である。
【図2】(a)~(c)は、本発明に係るセラミックス製品の製造方法の第2実施形態を示す図である。
【図3】ショットピーニング処理によってセラミックス焼結体に導入した圧縮残留応力の深さ方向分布を示す図である。
【図4】ショットピーニング処理後のセラミックス焼結体の熱処理時間が圧縮残留応力に与える影響を示す図である。
【図5】ショットピーニング処理後のセラミックス焼結体の熱処理による圧縮残留応力の減少を示す図である。
【図6】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、SP+VC材、SP+VC+熱処理材についてビッカース亀裂の導入のためのビッカース押し込み荷重と曲げ強度との関係、及び、SP材、SP+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図7】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、VC+SP材、VC+SP+熱処理材についてビッカース亀裂の導入のためのビッカース押し込み荷重と曲げ強度との関係、及び、SP材、SP+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図8】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、未SP+VC材、未SP+VC+熱処理材についてビッカース亀裂の導入のためのビッカース押し込み荷重と曲げ強度との関係、及び、未SP材、未SP+VC+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図9】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、SP+VC材、SP+VC+熱処理材に導入したビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係、及び、SP材、SP+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図10】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、VC+SP材、VC+SP+熱処理材に導入したビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係、及び、SP材、SP+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図11】ショットピーニング処理、熱処理がセラミックス焼結体の曲げ強度に与える影響を示す図であり、未SP+VC材、未SP+VC+熱処理材に導入したビッカース亀裂の表面亀裂長さと曲げ強度との関係、及び、未SP材、未SP+VC+熱処理材の曲げ強度を纏めて示す。
【図12】セラミックス焼結体に形成したビッカース亀裂の一例を示す図である。
【図13】セラミックス焼結体に形成したビッカース亀裂のセラミックス焼結体表面からの深さ方向における形成範囲を示す図である。
【図14】(a)はショットピーニング処理を行っていないセラミックス焼結体に形成したビッカース亀裂、(b)はショットピーニング処理後のセラミックス焼結体に形成したビッカース亀裂を示す図である。
【図15】セラミックス焼結体の熱処理温度と破壊靱性値との関係を示す図である。
【図16】セラミックス焼結体の熱処理温度と球圧子押込み荷重との関係を示す図である。
【図17】セラミックス焼結体の熱処理温度と、亀裂発生限界応力及び破壊靱性値との関係を示す図である。
【図18】セラミックス焼結体の熱処理時に作用させる負荷応力が亀裂治癒可能な限界応力に与える影響を示す図である。
【図19】(a)、(b)は球圧子押込み試験におけるリングクラックの発生状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0075】
1…セラミックス焼結体、11…セラミックスマトリクス、12…SiC微粒子、2…亀裂、3…表面、4…圧縮残留応力導入層、5…セラミックス製品、6…微粒子投射材、7…充填接合部、21…セラミックス焼結体、22…亀裂、23…セラミックス製品、30a…ビッカース亀裂、30b…圧痕、31、32…ビッカース亀裂、41…リングクラック、42…供試材、43…球圧子(WC球)。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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