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明細書 :スリップ率推定装置およびスリップ率制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4538642号 (P4538642)
登録日 平成22年7月2日(2010.7.2)
発行日 平成22年9月8日(2010.9.8)
発明の名称または考案の名称 スリップ率推定装置およびスリップ率制御装置
国際特許分類 B60L  15/20        (2006.01)
H02P  29/00        (2006.01)
B60W  40/10        (2006.01)
FI B60L 15/20 Y
H02P 5/00 R
B60R 16/02 661Z
請求項の数または発明の数 30
全頁数 52
出願番号 特願2008-533050 (P2008-533050)
出願日 平成19年3月5日(2007.3.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 「学術講演会前刷集 No.12-06 2006年春季大会」(社団法人自動車技術会 主催)の刊行物において、「インホイールモータを有する電気自動車の路面状態推定と運動制御」(2006年5月24日開催)と題して掲載
特許法第30条第1項適用 「平成18年電気学会産業応用部門大会」(社団法人電気学会 主催)の刊行物において、「路面状態に適応する電気自動車のモーションコントロール」(2006年8月21日~23日開催)と題して掲載
国際出願番号 PCT/JP2007/054220
国際公開番号 WO2008/029524
国際公開日 平成20年3月13日(2008.3.13)
優先権出願番号 2006243454
優先日 平成18年9月7日(2006.9.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年2月9日(2010.2.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
発明者または考案者 【氏名】藤本 博志
【氏名】藤井 淳
個別代理人の代理人 【識別番号】100077481、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 義一
【識別番号】100088915、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 和夫
審査官 【審査官】東 勝之
参考文献・文献 特開2006-115644(JP,A)
特開2006-136177(JP,A)
特開2006-149023(JP,A)
特開2001-008305(JP,A)
調査した分野 B60L 15/20
H02P 29/00
B60W 40/10
特許請求の範囲 【請求項1】
モータのトルク(T)で駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率推定装置において、
前記モータのトルクを測定するモータトルク測定手段と、
駆動輪の回転速度(ω)および回転加速度
【数1】
JP0004538642B2_000154t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記モータトルク測定手段が測定したトルクと前記車両モデル演算手段が算出した回転速度および回転加速度を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【数2】
JP0004538642B2_000155t.gif
を算出するスリップ率演算手段と
を備えたことを特徴とするスリップ率推定装置。
【請求項2】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(A)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することを特徴とする請求項1に記載のスリップ率推定装置。
【数3】
JP0004538642B2_000156t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項3】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項2に記載のスリップ率推定装置。
【請求項4】
当該自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段をさらに有し、前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項3に記載のスリップ率推定装置。
【請求項5】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(B)を計算することを特徴とする請求項4に記載のスリップ率推定装置。
【数4】
JP0004538642B2_000157t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
【請求項6】
モータのトルク(T)で駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率推定装置において、
前記モータのトルクを測定するモータトルク測定手段と、
前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段と、
駆動輪の回転速度(ω)および回転加速度
【数5】
JP0004538642B2_000158t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度から走行抵抗(Fdr)の推定値を算出する走行抵抗演算手段と、
前記モータトルク測定手段が測定したトルクと、前記車両モデル演算手段が算出した回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【数6】
JP0004538642B2_000159t.gif
を算出するスリップ率演算手段と
を備えたことを特徴とするスリップ率推定装置。
【請求項7】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(C)を計算することにより、推定スリップ率を算出することを特徴とする請求項6に記載のスリップ率推定装置。
【数7】
JP0004538642B2_000160t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項8】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項7に記載のスリップ率推定装置。
【請求項9】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(D)を計算することを特徴とする請求項8に記載のスリップ率推定装置。
【数8】
JP0004538642B2_000161t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
【請求項10】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、
前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、
入力されるスリップ率から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、
前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【数9】
JP0004538642B2_000162t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出した目標トルク、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度及び回転加速度を用いてスリップ率に関する常微分方程式を計算して推定スリップ率
【数10】
JP0004538642B2_000163t.gif
を算出するスリップ率演算手段と、
を備え、
前記比例積分制御手段は、所望の目標スリップ率(λ)から前記推定スリップ率を引いたスリップ率を入力され、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【請求項11】
前記比例積分制御手段は、非線形補償を行うことを特徴とする請求項10に記載のスリップ率制御装置。
【請求項12】
前記比例積分制御手段は、式(E)に基づく非線形補償を行うことを特徴とする請求項11に記載のスリップ率制御装置。
【数11】
JP0004538642B2_000164t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント、Kp:比例定数)
【請求項13】
前記比例積分制御手段は、目標スリップ率と目標トルクから式(F)に基づいて算出された前記駆動輪の回転加速度を式(E)において用いることを特徴とする請求項12に記載のスリップ率制御装置。
【数12】
JP0004538642B2_000165t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項14】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、
指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、
入力される駆動輪の回転速度から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、
前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【数13】
JP0004538642B2_000166t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出した目標トルク、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度及び回転加速度を用いてスリップ率に関する常微分方程式を計算して推定スリップ率
【数14】
JP0004538642B2_000167t.gif
を算出するスリップ率演算手段と、
前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、
前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【請求項15】
前記比例積分制御手段は、式(G)に基づき極配置法により前記制御ゲインを決定することを特徴とする請求項14に記載のスリップ率制御装置。
【数15】
JP0004538642B2_000168t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項16】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(A)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載のスリップ率制御装置。
【数16】
JP0004538642B2_000169t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項17】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項16に記載のスリップ率制御装置。
【請求項18】
前記自動車は、当該自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段をさらに有し、前記スリップ率推定手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項17に記載のスリップ率制御装置。
【請求項19】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(B)を計算することを特徴とする請求項18に記載のスリップ率制御装置。
【数17】
JP0004538642B2_000170t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
【請求項20】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、
前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、
前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段と、
前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度とから走行抵抗の推定値
【数18】
JP0004538642B2_000171t.gif
を算出する走行抵抗演算手段と、
入力されるスリップ率から前記トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、
前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【数19】
JP0004538642B2_000172t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出したトルクと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【数20】
JP0004538642B2_000173t.gif
を算出するスリップ率演算手段と
を備え、
前記比例積分制御手段は、所望の目標スリップ率(λ)から前記推定スリップ率を引いたスリップ率を入力され、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【請求項21】
前記比例積分制御手段は、非線形補償を行うことを特徴とする請求項20に記載のスリップ率制御装置。
【請求項22】
前記比例積分制御手段は、式(E)に基づく非線形補償を行うことを特徴とする請求項21に記載のスリップ率制御装置。
【数21】
JP0004538642B2_000174t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント、Kp:比例定数)
【請求項23】
前記比例積分制御手段は、目標スリップ率と目標トルクから式(F)に基づいて算出された前記駆動輪の回転加速度を式(E)において用いることを特徴とする請求項22に記載のスリップ率制御装置。
【数22】
JP0004538642B2_000175t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項24】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、
前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、
前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、
前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段と、
前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度とから走行抵抗の推定値
【数23】
JP0004538642B2_000176t.gif
を算出する走行抵抗演算手段と、
入力される駆動輪の回転速度から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、
前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【数24】
JP0004538642B2_000177t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、
前記比例積分制御手段が算出した目標トルクと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【数25】
JP0004538642B2_000178t.gif
を算出するスリップ率演算手段と、
前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から所望の目標スリップ率(λ)に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、
前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクに基づいて演算することを特徴とするスリップ率制御装置。
【請求項25】
前記比例積分制御手段は、式(G)に基づき極配置法により前記制御ゲインを決定することを特徴とする請求項24に記載のスリップ率制御装置。
【数26】
JP0004538642B2_000179t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項26】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(C)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することを特徴とする請求項20乃至25に記載のスリップ率制御装置。
【数27】
JP0004538642B2_000180t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
【請求項27】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とする請求項26に記載のスリップ率制御装置。
【請求項28】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(D)を計算することを特徴とする請求項27に記載のスリップ率制御装置。
【数28】
JP0004538642B2_000181t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
【請求項29】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、請求項1乃至9のいずれかに記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの前記トルクを制御することを特徴とする自動車。
【請求項30】
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、モータの当該トルクを制御する請求項10乃至28のいずれかに記載のスリップ率制御装置を備えたことを特徴とする自動車。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ率推定装置およびスリップ率制御装置に関し、より詳細には、車体速を用いないスリップ率推定装置およびスリップ率制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の内燃機関自動車(ICEV:Internal Combustion Engine Vehicle)に対し、電気自動車(EV:Electric Vehicle)はエネルギー・環境問題の他に、トルク応答が数百倍速く、正確に発生トルクを把握することが可能であるという利点がある。これらの優位性はモータに由来するものであり、駆動力としてモータを利用する電気自動車特有の利点である。これらの利点に注目することによって、ICEVには不可能であった車両制御が可能になり、トラクションコントロールについても、これらモータの優位性を生かした制御が行われるようになった(非特許文献1、2参照)。
【0003】
トラクションコントロールを実現する上で重要な変数であるスリップ率を測定するには、車体速の測定は不可欠であった。車体速の測定には、第5輪を装着する、または非駆動輪にセンサを取り付けて車輪の回転速度を測定する、もしくは加速度センサにより得られた値を積分する必要があった。
【0004】
しかしながら、第5輪の装着は非常に困難であり、加速度センサを用いる場合にはノイズや積分を行なう際にオフセットが生じて精密な測定が困難であるという課題があった。また、非駆動輪にセンサを取り付けて車輪の回転速度から車体速を測定する方法も、制動時には車体速を測定できない、車両の前輪が非駆動輪である場合には舵角を切ることで正確な車体速が得られなくなる、非駆動輪を持たない全輪駆動車には適用できない等の課題があった。また、非駆動輪にセンサを取り付けることでコストアップやシステムの複雑化が生じるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、車体速を用いることなくスリップ率を推定するスリップ率推定装置およびそれを用いて目標スリップ率に素早く追従することが可能なスリップ率制御装置を提供することにある。
【0006】

【非特許文献1】吉本貫太郎、河村篤男、「電気自動車の車輪スリップ率推定方法」、電気学会産業応用部門大会、平成12年、Vol.2、pp.561-564
【非特許文献2】鶴岡慶雅、豊田靖、堀洋一、「電気自動車のトラクションコントロールに関する基礎研究」、電気学会論文誌、1998年、Vol.118-D、No.1、pp.44-50
【非特許文献3】H.B.Pacejka, and E.Bakker, “The Magic Formula Tyre Model”, Proc. 1st International Colloquium on Tyre Models for Vehicle Dynamics Analysis, Held in Delft, The Netherlands, Oct 21-22, 1991
【非特許文献4】齋藤健夫、藤本博志、野口季彦、「スリップ率及びヨーモーメントオブザーバを用いた電気自動車の操縦安定化制御方法」、電気学会産業計測制御研究会、2003年、IIC-03-52、pp.41-46
【非特許文献5】Y.Hori, “Traction Control of Electric Vehicle -BasicExperimental Results using the Test EV “UOT Electric March II””, IEEE Trans. on Industry Applications, 1998, Vol.34,No.5,pp.1131-1138
【非特許文献6】坂井真一郎、堀洋一、「電気自動車の新しい車両運動制御に関する研究」、東京大学学位論文、1999
【発明の開示】
【0007】
本発明の一実施形態は、モータのトルク(T)で駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率推定装置において、おいて、前記モータのトルクを測定するモータトルク測定手段と、駆動輪の回転速度(ω)および回転加速度
【0008】
【数29】
JP0004538642B2_000002t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記モータトルク測定手段が測定したトルクと前記車両モデル演算手段が算出した回転速度および回転加速度を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【0009】
【数30】
JP0004538642B2_000003t.gif
を算出するスリップ率演算手段とを備えている。
【0010】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(A)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することができる。
【0011】
【数31】
JP0004538642B2_000004t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することを特徴とすることができる。
【0012】
当該自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段をさらに有し、前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えて計算することができる。
【0013】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(B)を計算することができる。
【0014】
【数32】
JP0004538642B2_000005t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
また、別の実施形態は、モータのトルク(T)で駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率推定装置において、前記モータのトルクを測定するモータトルク測定手段と、前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段と、駆動輪の回転速度(ω)および回転加速度
【0015】
【数33】
JP0004538642B2_000006t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度から走行抵抗(Fdr)の推定値を算出する走行抵抗演算手段と、前記モータトルク測定手段が測定したトルクと、前記車両モデル演算手段が算出した回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【0016】
【数34】
JP0004538642B2_000007t.gif
を算出するスリップ率演算手段とを備えている。
【0017】
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(C)を計算することにより、推定スリップ率を算出することができる。
【0018】
【数35】
JP0004538642B2_000008t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することができる。
【0019】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(D)を計算することができる。
【0020】
【数36】
JP0004538642B2_000009t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
また別の実施形態は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、入力されるスリップ率から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【0021】
【数37】
JP0004538642B2_000010t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記比例積分制御手段が算出した目標トルク、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度及び回転加速度を用いてスリップ率に関する常微分方程式を計算して推定スリップ率
【0022】
【数38】
JP0004538642B2_000011t.gif
を算出するスリップ率演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、所望の目標スリップ率(λ)から前記推定スリップ率を引いたスリップ率を入力され、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクに基づいて演算することができる。
【0023】
前記比例積分制御手段は、非線形補償を行うことができる。
【0024】
前記比例積分制御手段は、式(E)に基づく非線形補償を行うことができる。
【0025】
【数39】
JP0004538642B2_000012t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント、Kp:比例定数)
前記比例積分制御手段は、目標スリップ率と目標トルクから式(F)に基づいて算出された前記駆動輪の回転加速度を式(E)において用いることができる。
【0026】
【数40】
JP0004538642B2_000013t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
また別の実施形態は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、指定された駆動輪の回転速度から前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、入力される駆動輪の回転速度から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【0027】
【数41】
JP0004538642B2_000014t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記比例積分制御手段が算出した目標トルク、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度及び回転加速度を用いてスリップ率に関する常微分方程式を計算して推定スリップ率
【0028】
【数42】
JP0004538642B2_000015t.gif
を算出するスリップ率演算手段と、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から目標スリップ率に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記目標トルクに基づいて演算することができる。
【0029】
前記比例積分制御手段は、式(G)に基づき極配置法により前記制御ゲインを決定することができる。
【0030】
【数43】
JP0004538642B2_000016t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(A)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することができる。
【0031】
【数44】
JP0004538642B2_000017t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することができる。
【0032】
前記自動車は、当該自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段をさらに有し、前記スリップ率推定手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えて計算することができる。
【0033】
前記スリップ率演算手段は、前記式(A)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(B)を計算することができる。
【0034】
【数45】
JP0004538642B2_000018t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
また別の実施形態は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いるスリップ率制御装置において、前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段と、前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度とから走行抵抗の推定値
【0035】
【数46】
JP0004538642B2_000019t.gif
を算出する走行抵抗演算手段と、入力されるスリップ率から前記トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【0036】
【数47】
JP0004538642B2_000020t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記比例積分制御手段が算出したトルクと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【0037】
【数48】
JP0004538642B2_000021t.gif
を算出するスリップ率演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、所望の目標スリップ率(λ)から前記推定スリップ率を引いたスリップ率を入力され、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクに基づいて演算することができる。
【0038】
前記比例積分制御手段は、非線形補償を行うことができる。
【0039】
前記比例積分制御手段は、式(E)に基づく非線形補償を行うことができる。
【0040】
【数49】
JP0004538642B2_000022t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント、Kp:比例定数)
前記比例積分制御手段は、目標スリップ率と目標トルクから式(F)に基づいて算出された前記駆動輪の回転加速度を式(E)において用いることができる。
【0041】
【数50】
JP0004538642B2_000023t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車に用いたスリップ率制御装置において、前記モータに対するトルク指令を演算する手段と、前記モータのトルクを前記トルク指令に基づき制御する手段と、前記自動車の車体加速度(a)を測定する加速度測定手段とを有した前記自動車の駆動力の推定値を算出する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段が算出した推定駆動力と前記加速度測定手段が測定した前記車体加速度とから走行抵抗の推定値
【0042】
【数51】
JP0004538642B2_000024t.gif
を算出する走行抵抗演算手段と、入力される駆動輪の回転速度から目標トルク(T)を算出する比例積分制御手段と、前記目標トルクから前記駆動輪の回転速度(ω)及び回転加速度
【0043】
【数52】
JP0004538642B2_000025t.gif
を算出する車両モデル演算手段と、前記比例積分制御手段が算出した目標トルクと、前記車両モデル演算手段が算出した駆動輪の回転速度および回転加速度と、前記走行抵抗演算手段が算出した推定走行抵抗を用いて、スリップ率に関する常微分方程式を計算することにより推定スリップ率
【0044】
【数53】
JP0004538642B2_000026t.gif
を算出するスリップ率演算手段と前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率から車体速度を算出し、当該車体速度から所望の目標スリップ率(λ)に対する駆動輪の目標回転速度を算出する車輪速度演算手段とを備え、前記比例積分制御手段は、前記スリップ率演算手段が算出した推定スリップ率に応じて当該制御ゲインを変化させ、前記トルク指令を演算する手段は、当該比例積分制御手段から算出された前記トルクに基づいて演算することができる。
【0045】
前記比例積分制御手段は、式(G)に基づき極配置法により前記制御ゲインを決定することができる。
【0046】
【数54】
JP0004538642B2_000027t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、スリップ率の前記常微分方程式として式(C)を計算することにより、前記推定スリップ率を算出することができる。
【0047】
【数55】
JP0004538642B2_000028t.gif
(r:駆動輪のタイヤ半径、M:車両重量、Jω:駆動輪回転部慣性モーメント)
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に車体加速度の推定誤差に基づくスリップ率オブザーバを加えて計算することができる。
【0048】
前記スリップ率演算手段は、前記式(C)の右辺に前記スリップ率オブザーバを加えた式(D)を計算することができる。
【0049】
【数56】
JP0004538642B2_000029t.gif
(k:オブザーバゲイン、N:タイヤ1輪にかかる垂直抗力、μ:摩擦係数)
【0050】
また別の実施形態は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、上記のいずれかに記載のスリップ率推定装置を備え、当該スリップ率推定装置が算出する推定スリップ率が所望の値をとるようにモータの前記トルクを制御することができる。
【0051】
また別の実施形態は、モータのトルクで駆動輪を駆動する自動車において、モータの当該トルクを制御する上記のいずれかに記載のスリップ率制御装置を備えている。
【0052】
本発明によれば、車体速を用いることなくスリップ率を正確に推定し、かつ目標スリップ率に素早く追従する高精度なスリップ率制御を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、車両に働く力を示す概略図である。
【図2】図2は、乾いたアスファルト面、濡れた路面、凍結した路面の各状態における典型的なμ-λ曲線を示す図である。
【図3】図3は、車両モデルのブロック線図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る推定装置を用いたスリップ率推定のブロック線図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る第1のスリップ率制御のブロック線図である。
【図6A】図6Aは、スリップ率に関するシミュレーション結果を示す図である。
【図6B】図6Bは、車輪速に関するシミュレーション結果を示す図である。
【図7】図7は、逐次形最小二乗法によるスリップ率推定のブロック線図である。
【図8】図8は、外乱オブザーバによるスリップ率推定のブロック線図である。
【図9A】図9Aは、シミュレーション結果である逐次形最小二乗法による推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図9B】図9Bは、シミュレーション結果である外乱オブザーバによる推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図9C】図9Cは、シミュレーション結果である第1の推定装置による推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図9D】図9Dは、シミュレーション結果である逐次形最小二乗法による推定におけるパラメータy、ξを示す図である。
【図9E】図9Eは、シミュレーション結果である外乱オブザーバによる推定における外乱推定値を示す図である。
【図9F】図9Fは、シミュレーション結果である外乱オブザーバによる推定における

【0054】
【数57】
JP0004538642B2_000030t.gif
を示す図である。
【図10】図10は、スリップ率制御を行わずに走行させた際に得られた、車体速、車輪速の実験結果を示す図である。
【図11A】図11Aは、実車での実験結果である逐次形最小二乗法による推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図11B】図11Bは、実車での実験結果である外乱オブザーバによる推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図11C】図11Cは、実車での実験結果である第1の推定装置による推定におけるスリップ率の真値と推定値を示す図である。
【図11D】図11Dは、実車での実験結果である実車での実験結果であって、逐次形最小二乗法による推定におけるパラメータy、ξを示す図である。
【図11E】図11Eは、実車での実験結果である外乱オブザーバによる推定における外乱推定値を示す図である。
【図11F】図11Fは、実車での実験結果である第1の推定装置による推定における

【0055】
【数58】
JP0004538642B2_000031t.gif
を示す図である。
【図12】図12は、アンチスリップ制御のブロック線図である。
【図13A】図13Aは、アンチスリップ制御の実車での実験結果であるスリップ率を示す図である。
【図13B】図13Bは、アンチスリップ制御の実車での実験結果である車輪速を示す図である。
【図13C】図13Cは、アンチスリップ制御の実車での実験結果である車体速を示す図である。
【図14】図14は、第2のスリップ率制御のブロック線図である。
【図15】図15は、駆動力とスリップ率の関係を示す図である。
【図16】図16は、オブザーバゲインとスリップ率の推定値との関係を示す図である。
【図17】図17は、第1および第2のSREによる推定のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】図18は、第1および第2のSREによる推定の実験結果を示す図である。
【図19】図19は、第3のスリップ率制御のブロック線図である。
【図20】図20は、第3のスリップ率制御のシミュレーション結果を示す図である。
【図21A】図21Aは、第1のスリップ率制御装置の実車での実験結果であるスリップ率を示す図である。
【図21B】図21Bは、第1のスリップ率制御装置の実車での実験結果である車輪速と車体速を示す図である。
【図22】図22は、実施形態2に係る第2のスリップ率推定装置を用いたスリップ率推定のブロック線図である。
【図23】図23は、走行抵抗推定器のブロック線図を示す図である。
【図24】図24は、第3のスリップ率推定装置を用いたスリップ率推定のブロック線図である。
【図25】図25は、第4のスリップ率推定装置を用いたスリップ率推定のブロック線図である。
【図26A】図26Aは、第1のSREを用いたスリップ率推定のシミュレーション結果を示す図である。
【図26B】図26Bは、第3のSRE(DRE-SRE)を用いたスリップ率推定のシミュレーション結果を示す図である。
【図26C】図26Cは、第4のSRE(DRE-SRO)を用いたスリップ率推定のシミュレーション結果を示す図である。
【図27】図27は、DRE-SREおよびDRE-SROで用いる走行抵抗推定結果のシミュレーション結果を示す図である。
【図28】図28は、DRE-SREおよびDRE-SROを用いたスリップ率推定における推定誤差のシミュレーション結果を示す図である。
【図29A】図29Aは、第1のSREを用いたスリップ率推定のオフライン実験の結果を示す図である。
【図29B】図29Bは、第3のSRE(DRE-SRE)を用いたスリップ率推定のオフライン実験の結果を示す図である。
【図29C】図29Cは、第4のSRE(DRE-SRO)を用いたスリップ率推定のオフライン実験の結果を示す図である。
【図30】図30は、DRESREおよびDRE-SROで用いる走行抵抗推定結果のオフライン実験の結果を示す図である。
【図31】図31は、DRE-SREおよびDRE-SROを用いたスリップ率推定における推定誤差のオフライン実験の結果を示す。
【図32】図32は、DRE-SREまたはDRE-SROを用いたスリップ率制御のブロック線図である。
【図33】図33は、DRE-SREまたはDRE-SROを用いたスリップ率制御のシミュレーションの結果を示す図である。
【図34】図34は、DRE-SREまたはDRE-SROを用いたスリップ率制御の実機実験の結果を示す図である。
【図35】図35は、フィードフォワード制御によるスリップ率制御のブロック線図である。
【図36】図36は、フィードフォワード制御によるスリップ率制御のシミュレーション結果を示す図である。
【図37】図37は、フィードフォワード制御によるスリップ率制御の実機実験の結果を示す図である。
【図38】図38は、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御のブロック線図である。
【図39】図39は、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御のシミュレーション結果を示す図である。
【図40】図40は、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御の実機実験の結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0057】
電気自動車は、駆動輪に接続されたモータの駆動力が駆動輪に伝達されて走行する。電源から出力された電流は、インバータを介してモータに供給される。モータは、制御手段としての電子制御ユニット(以下「ECU」と称す)を介して電気的に接続されており、モータの出力は、ECUからの指令に基づいて制御される。ECUは、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECUには、モータの発生トルクを測定するトルク測定器、モータに装備された位置センサ、車体に生じる加速度を測定する加速度センサが電気的にそれぞれ接続されている。
【0058】
以下に、ECUに実装されるスリップ率制御装置について説明する。
【0059】
(実施形態1)
1.1 車体の運動方程式
まず、車両の運動を支配するパラメータについて考える。図1に、車両に働く力を示す。これはモータの時定数が非常に小さく、走行抵抗が十分に小さいと仮定する時になりたち、この場合の車両の運動方程式は以下の3つの式で表される。
【0060】
【数59】
JP0004538642B2_000032t.gif

【0061】
【数60】
JP0004538642B2_000033t.gif

【0062】
【数61】
JP0004538642B2_000034t.gif

【0063】
各変数は、車輪の回転速度ω、車体速度V、車輪速度Vω、モータトルクT、駆動力Fd、走行抵抗Fdrである。各定数は、車体重量M、タイヤ半径r、車輪回転部慣性モーメントJωとする。変数の上のドットは微分を表す。
【0064】
また、スリップ率λは、V、Vωの関数として以下のように表すことができる。
【0065】
【数62】
JP0004538642B2_000035t.gif

【0066】
但し、駆動時にはmax(Vω,V)=Vωとなり、制動時にはmax(Vω,V)=Vとなる。また、ε≪1と選ぶ。本願明細書においては駆動時のみを考えることとし、常にmax(Vω,V)=Vωとする。スリップ率λと摩擦係数μの間の関係に関して、今回はシミュレーション等に使用する代表的なモデルとしてMagic Formula(非特許文献3参照)を採用する。
【0067】
【数63】
JP0004538642B2_000036t.gif

【0068】
ここでB、C、D、Eは所定の定数である。図2に、乾いたアスファルト面、濡れた路面、凍結した路面の各状態における典型的なμ-λ曲線を示す。タイヤと路面が接する領域は、スリップ率λが、摩擦係数μがピーク値をとるときの値よりも小さいときには粘着領域と滑走領域が混在した状態にあり、それ以外の値をとるときには滑走領域のみが存在して全すべり状態にある。つまり、スリップ率λを摩擦係数μがピーク値をとるときの値よりも小さくなるように制御すれば、車両をスリップさせずに加速させることができる。摩擦係数μがピーク値を示すときのスリップ率を最適スリップ率と言い、一般的には0.05~0.2となる。
【0069】
路面とタイヤ間の摩擦力Fdは、摩擦係数μに垂直抗力Nを乗じて得られる。
【0070】
【数64】
JP0004538642B2_000037t.gif

【0071】
図3に、車両モデルのブロック線図を示す。これは(1)~(6)式を関連付けて示したもので、モータトルクの測定値Tと各定数からスリップ率λを導出するための一連の処理を表している。トルク測定器で測定したモータトルクTをブロック301に出力する。ブロック301は(1)式に基づいて車輪の回転速度ωを導出してブロック302に出力する。ブロック302は(3)式に基づき車輪速度Vωを導出してブロック303に出力する。ブロック303は(4)式に基づいてスリップ率λを導出してブロック304に出力する。ブロック304は(5)式に基づいて摩擦係数μを導出してブロック305に出力する。ブロック305は(6)式に基づいて駆動力Fdを導出してブロック306、307に出力する。ブロック306は駆動力Fdにタイヤ半径rを掛けて(1)式の右辺第2項の値を算出してブロック301に出力する。ブロック307は(2)式に基づいて車体速度Vを導出してブロック303に出力する。
尚、上記において、トルク測定器はトルク測定手段であり、ブロック301、302は車両モデル演算手段であり、ブロック303はスリップ率演算手段であり、ブロック304~307は比例積分制御手段である。
【0072】
ここで、(1)~(4)式を用いて、Vω、V、Fdを消去し、走行抵抗が無視できるほど小さい(Fdr≒0)すると、以下の式を得ることができる。
【0073】
【数65】
JP0004538642B2_000038t.gif

【0074】
Jは車輪と車体を合せた回転部分の実際の慣性モーメントであり、(7)式の分母括弧内第2項の車軸換算の車体慣性モーメントと車輪回転部分慣性モーメントJωを足し合わせた値になる。
【0075】
1.2 第1のスリップ率推定装置
本発明に係るスリップ率推定装置では、(7)式右辺の分子第2項も考慮に入れて推定を行う。(7)式を書き換えることにより、以下の式が得られる。
【0076】
【数66】
JP0004538642B2_000039t.gif

【0077】
本発明に係るSREはこの(8)式に基づき推定を行う。本SREによるスリップ率の推定値を以下のように
【0078】
【数67】
JP0004538642B2_000040t.gif
とする。
【0079】
【数68】
JP0004538642B2_000041t.gif

【0080】
図4に、実施形態1に係る第1のスリップ率演算手段SREを用いたスリップ率推定のブロック線図を示す。トルク測定手段で測定したモータトルクTを、上述の車両モデル演算手段601、(9)式に基づく第1のスリップ率演算手段SRE602にそれぞれ入力する。車両モデル演算手段601は、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0081】
【数69】
JP0004538642B2_000042t.gif
、車体速度Vを導出し、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0082】
【数70】
JP0004538642B2_000043t.gif
を第1のスリップ率演算手段SRE602に出力する。第1のスリップ率演算手段SRE602は、モータトルクT、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0083】
【数71】
JP0004538642B2_000044t.gif
からスリップ率
【0084】
【数72】
JP0004538642B2_000045t.gif
を出力する。
【0085】
ここで、スリップ率の真値λと推定値
【0086】
【数73】
JP0004538642B2_000046t.gif
との誤差を評価するため、以下のように定義される推定誤差e(t)を考える。
【0087】
【数74】
JP0004538642B2_000047t.gif
(8)から(9)式を引くことにより、以下の式が得られる。
【0088】
【数75】
JP0004538642B2_000048t.gif
この式から
【0089】
【数76】
JP0004538642B2_000049t.gif
である場合には、時間の経過に伴って推定誤差e(t)は零に収束することが分かる。例えば、本実施形態では駆動時(ω≠0)のうち主に想定されるω>0の場合、
【0090】
【数77】
JP0004538642B2_000050t.gif
であれば
【0091】
【数78】
JP0004538642B2_000051t.gif
となって推定誤差は拡大していくので、
【0092】
【数79】
JP0004538642B2_000052t.gif
であるときのみ第1のスリップ率演算手段SREを動作させれば精度の高い推定が可能になる。但し、モデル誤差が小さく、一度推定誤差e(t)が零に収束して推定誤差e(t)が十分小さい値であれば、
【0093】
【数80】
JP0004538642B2_000053t.gif
にもなる不安定状態であっても推定誤差e(t)は緩やかに零に収束していくので、第1のスリップ率演算手段SREでは常に(9)式に基づく推定を行うものとする。
【0094】
1.3 第1のスリップ率推定装置を用いたスリップ率制御
車体速を測定し、スリップ率を制御する方法が提案されている。これまで述べたとおり、車体速の測定には困難があるので、本実施形態に係る第1のスリップ制御では第1のSREでスリップ率λの推定を行い、スリップ率制御を行う。
【0095】
モータトルクTから、スリップ率λまでの伝達関数を求める。常に駆動輪は駆動していると仮定し、(4)式を全微分して線形化すると次式が得られる。
【0096】
【数81】
JP0004538642B2_000054t.gif
但し、Vω0、V0をそれぞれ車輪速、車体速の動作点とする。摩擦力に関しては、動作点となるスリップ率λの近傍の傾きをaとすると、以下の式が成り立つ。
【0097】
【数82】
JP0004538642B2_000055t.gif
線形化を行って得られた(12)、(13)式と、式(1)、(2)、(6)よりΔFmからΔλの伝達関数は、
【0098】
【数83】
JP0004538642B2_000056t.gif
となる。但し、
【0099】
【数84】
JP0004538642B2_000057t.gif

【0100】
【数85】
JP0004538642B2_000058t.gif
である。よって、時定数が車輪側に比例する一次遅れ形の伝達関数となる。図5に、実施形態1に係る第1のスリップ率制御のブロック線図を示す。Δλは目標スリップ率であって、ブロック502から出力されるωの値に実際の車輪の回転速度を制御することで、スリップ率λをこの目標スリップ率Δλに収束させることができる。目標スリップ率Δλをブロック501に入力する。ブロック501は積分制御器であって、モータトルクΔFmを導出してブロック502に入力する。ブロック502はモータトルクT、車輪の回転速度ωを導出して第1のSRE503にそれらを入力する。第1のSRE503は(9)式に基づいてスリップ率
【0101】
【数86】
JP0004538642B2_000059t.gif
を導出して加減算器に出力する。加減算器は、Δλから
【0102】
【数87】
JP0004538642B2_000060t.gif
を引いた値をブロック501に入力する。
尚、上記において、ブロック502は車両モデル演算手段とトルク指令を演算する手段を含み、ブロック501は比例積分制御手段であり、第1のSRE503はスリップ率演算手段である。
【0103】
図6A、6Bに、低μ路(μmax=0.2)を走行し、目標ステップ率を0.2とするシミュレーションを行った結果を示す。スリップ率を目標スリップ率である0.2に制御することができている。
【0104】
1.4 他のSRE
ここでは、本発明に係るSREの他に、比較のため、従来型のSREである逐次形最小二乗法、外乱オブザーバを用いたSREについても述べる。
【0105】
1.4.1 逐次形最小二乗法による推定
(7)式右辺の分子第2項はスリップ率λが時間的に変動したときのみ現れる項であり、定常状態での値は零である。そこで、以下のようにスリップ率の時間微分の項
【0106】
【数88】
JP0004538642B2_000061t.gif
を零として以下の式を得る。
【0107】
【数89】
JP0004538642B2_000062t.gif

【0108】
(17)式において、車輪速ω、モータトルクTは測定可能であり、Jω、r、Mは全て定数であって、λ以外は既知である。そこで、逐次形最小二乗法を用いて慣性モーメントJの同定を行い、この慣性モーメントJからスリップ率λを推定する。
【0109】
以下に推定のアルゴリズムを示す。(17)式左辺に微分項があるため、両辺にローパスフィルタをかける。
【0110】
【数90】
JP0004538642B2_000063t.gif

【0111】
(18)式左辺をy(k)、右辺第1項をθ(k)、右辺第2項をξ(k)と書き換え、以下の逐次形最小二乗法のアルゴリズムに基づいて慣性モーメントJの同定を行い、(21)式よりスリップ率
【0112】
【数91】
JP0004538642B2_000064t.gif
を導出する。κは忘却係数とする。
【0113】
【数92】
JP0004538642B2_000065t.gif

【0114】
【数93】
JP0004538642B2_000066t.gif

【0115】
【数94】
JP0004538642B2_000067t.gif

【0116】
図7に、逐次形最小二乗法によるスリップ率推定のブロック線図を示す。この処理は、車両モデル701の処理に(19)~(21)式の逐次形最小二乗法を用いたスリップ率演算手段SRE702を組み合わせたものである。
【0117】
1.4.2 外乱オブザーバによる推定
スリップ率λの時間変化を零とした(17)式を用いて推定を行う。車輪空転現象が起きると、スリップ率λが大きくなり、それに伴い慣性モーメントJの値が大きく下がる。この値の変動を外乱とみなし、この外乱をオブザーバとして利用することによりスリップ率の推定を行う。スリップ率λ=0のときの慣性モーメントJの値をノミナル値Jn=Jω+r2Mとおき、さらにスリップ率λの変動をモデル化誤差Δとみなす。すなわち、
【0118】
【数95】
JP0004538642B2_000068t.gif
(22)式を書き換えると、Δは以下の式より得られる。
【0119】
【数96】
JP0004538642B2_000069t.gif
また、(17)式より、次式が得られる。
【0120】
【数97】
JP0004538642B2_000070t.gif
これより、スリップ率変動に伴う外乱は
【0121】
【数98】
JP0004538642B2_000071t.gif
となり、この外乱dよりスリップ率λを算出する。ここでは
【0122】
【数99】
JP0004538642B2_000072t.gif
は外乱オブザーバにより推定された外乱とし、(24)式より
【0123】
【数100】
JP0004538642B2_000073t.gif
となる。ここで、
【0124】
【数101】
JP0004538642B2_000074t.gif
の擬似微分演算のために、ハイパスフィルタをかけるものとする。図8に、外乱オブザーバによるスリップ率推定のブロック線図を示す。点線で囲まれた部分P(s)では車両モデルと同等な処理が行われ、外乱オブザーバSRE801では(25)式の処理が行われる。
【0125】
1.5 シミュレーションによる検証
上述した3つのSREに関して、スリップ率推定のシミュレーションを行った。各定数は、実機より得られた値であるJω=1.0[Nms2]、Jn=20.3[Nms2]、M=420[kg]、r=0.22[m]とする。開始から5.0[sec]経過したした時点からトルク目標スリップ率T=100[Nm]を与える。路面状況は発進から3[sec]まで、低μ路(μmax=0.2)とし、3[sec]以降は乾燥路(μmax=1.0)とした。また、サンプリング周波数は10[kHz]とする。
【0126】
1.5.1逐次形最小二乗法による推定
ホールセンサの量子化誤差が大きいため、
【0127】
【数102】
JP0004538642B2_000075t.gif
の擬似微分演算のためのハイパスフィルタのカットオフ周波数ωC=10[rad/sec]、忘却係数κ=0.99とおいてシミュレーションを行った。
【0128】
推定されたスリップ率およびyとξの値を図9A、9Dに示す。スリップ率に大きな変動がない定常的な状態においては正確に推定がなされているが、スリップ率に大きな変動が起きると正しく推定することができなくなり、大きな誤差を生じさせている。このように大きな誤差が生じるのは、(7)式におけるスリップ率の微分項である。
【0129】
【数103】
JP0004538642B2_000076t.gif
を無視したためだと考えられる。
【0130】
1.5.2 外乱オブザーバによる推定
外乱オブザーバに組み込まれている、ローパスフィルタのカットオフ周波数をωlpf=30[rad/sec]、ωC=10[rad/sec]とした。外乱オブザーバによって推定されたスリップ率および
【0131】
【数104】
JP0004538642B2_000077t.gif
を図9B、9Eに示す。この方法も(7)式におけるスリップ率の微分項である。
【0132】
【数105】
JP0004538642B2_000078t.gif
を無視しているため、スリップ率の大きな変動が起こった場合、正しく推定することができなくなる。
【0133】
1.5.3 本発明に係る第1のスリップ率推定装置による推定
本第1のスリップ率推定装置では、積分を行う際にノイズを除去するために遅いフィルタを使用する必要がないので、
【0134】
【数106】
JP0004538642B2_000079t.gif
の擬似微分演算のためのハイパスフィルタのカットオフ周波数はωC=500[rad/sec]とした。
【0135】
他の2つの方法と異なり、本実施形態に係る第1のスリップ率推定装置ではスリップ率の時間微分値
【0136】
【数107】
JP0004538642B2_000080t.gif
を考慮してスリップ率λの推定を行っているため、スリップ率λに大きな変動が起こっても正しく推定が行えている。このシミュレーションでは、図9C、9Fに示すように
【0137】
【数108】
JP0004538642B2_000081t.gif
が負の値をとる状況も存在するが、推定誤差e(t)は発散することなく零に収束していき、他の2つの方法に比べて非常に高い精度で推定を行うことができている。
【0138】
1.6 実機によるオフライン検証
本実施形態に係る第1のスリップ率推定装置、および従来技術における他の2つのスリップ率推定装置を実際に電気自動車に実装して実験を行った。
【0139】
実験環境
実験機は市販の小型電気自動車(CQMOTORS製 Qi(QUNO))を改造したものを用いた。(株)Myway技研により作製されたインバータシステムを用いてモータを制御している。また、モータにはホールセンサがついているが電気角で1回転あたり6パルスと分解能が低いため、位置角は線形補完することによりベクトル制御を行っている。このときのサンプリング周波数は10[kHz]とする。また、DSPでベクトル制御だけでなく、トラクション制御や姿勢制御等も全て行っている。本検証では車体速を測定するために加速度センサを利用した。また、低μ路をプラスチックすのこを用いてその上に洗剤をまくことで実現した。
【0140】
実験では、トルク目標スリップ率をT=80[Nm]を与える。また、約3[sec]までは低μ路を走行し、それ以降は乾燥路を走行した。図10に、スリップ率制御を行わずに走行させた際に得られた、車体速、車輪速の実験結果を示す。車輪速が上がっていくに従い速度が伸びなくなるのは、逆起電力の影響だと考えられる。
【0141】
1.6.1 逐次形最小二乗法による推定
シミュレーションと同様に、ハイパスフィルタのカットオフ周波数ωC=10[rad/sec]、忘却係数κ=0.99として、実験を行った。図11A、11Dに、逐次形最小二乗法によって推定されたスリップ率およびyとξの値を示す。シミュレーションとは異なり、ホールセンサの量子化誤差の影響により、ω、
【0142】
【数109】
JP0004538642B2_000082t.gif
に脈動が生じる。これが、ξの値に影響を与えており、推定誤差が生じている。また、シミュレーションと同様に、スリップ率の微分項
【0143】
【数110】
JP0004538642B2_000083t.gif
が考慮に入れられていないので、スリップ率の大きな変動が生じると、正しい推定が行えなくなっている。また、
【0144】
【数111】
JP0004538642B2_000084t.gif
の脈動を抑えるために遅いフィルタをかけているために、変動が生じた後の真値への追従が遅くなっている。
【0145】
1.6.2 外乱オブザーバによる推定
シミュレーションと同様の条件で実験を行った。図11B、11Eに、外乱オブザーバによって推定されたスリップ率および
【0146】
【数112】
JP0004538642B2_000085t.gif
の値を示す。この手法でも、ホールセンサの量子化誤差の影響を受けて推定誤差が生じており、また、スリップ率の大きな変動が起きると、正しい推定を行えなくなっている。
【0147】
1.6.3 第1のスリップ率推定装置による推定
図11C、11Fに、第1のスリップ率推定装置によって推定されたスリップ率および
【0148】
【数113】
JP0004538642B2_000086t.gif
の時間変化を示す。第1のスリップ率推定装置は、他の手法とは異なり、積分を行ってスリップ率λを求めているので、脈動が起きても遅いフィルタをかける必要がない。また、スリップ率λの変動が起きても、精度の高い推定が行われている。加えて、理論的には
【0149】
【数114】
JP0004538642B2_000087t.gif
である不安定な状態が存在するが、シミュレーションの結果と同様に推定誤差は非常に小さい。
【0150】
1.7 スリップ制御
スリップ率制御についても、比較のため、従来のスリップ率制御について述べる。
【0151】
1.7.1 アンチスリップ制御
上述の外乱オブザーバをスリップ制御に用いた従来の制御方法を説明する。(24)式より以下の式を得る。
【0152】
【数115】
JP0004538642B2_000088t.gif

【0153】
プラントの変動である右辺第2項を外乱とみなす。ここでは、外乱抑圧のために外乱オブザーバを利用し、アンチスリップ制御を行う。しかし、ICEVに比べればかなり小さな値ではあるが、エンコーダによる角速度検出時やトルク指令を与えてから実際にトルクが発生するまでEVにも数[ms]のむだ時間がある。よって、不確かな値Δにむだ時間を考慮するためにオブザーバゲインKを調節する必要がある。図12に、このアンチスリップ制御のブロック線図を示す。
【0154】
むだ時間を考慮して、実験によりチューニングして得られた最大の値であるオブザーバゲインK=0.7、ローパスフィルタのカットオフ周波数をωlpf=1/τ=30[rad/sec]であった。これは、むだ時間を考慮した非特許文献4での解析の値と一致する。実験では低μ路を走行した。図13A、B、Cに、アンチスリップ制御の実車での実験結果である、スリップ率、車輪速、車体速の時間変化を示す。アンチスリップ制御をすることにより、スリップ率が抑えられているが、むだ時間を考慮に入れた影響で最適スリップ率には至らなかった。
【0155】
1.7.2 第1のスリップ率制御
図21A、21Bに、第1のスリップ率制御装置を実際に電気自動車に実装して実験を行って得られたスリップ率および車輪速と車体速を示す。発進後0.5[sec]から2[sec]まで、低いトルク指令値を与えてスリップ率を推定させ、2[sec]以降に目標スリップ率をμ=0.2をステップ状に入力した。これにより、多少の脈動があるものの、目標ステップ率をμ=0.2に制御できている。
【0156】
1.8 まとめ
逐次形最小二乗法や外乱オブザーバによる推定は、スリップ率の大きな変動や、車輪角加速度のノイズに大きな影響を受ける。それに対し、実施形態1に係る第1のスリップ率推定装置は、これらから影響を受けずにより正確なスリップ率の推定を行うことが可能である。また、従来の車体速を用いないスリップ制御では、最適スリップ率に制御することが困難であったが、本実施形態ではスリップ率を最適な値に制御することが可能である。
【0157】
(実施形態2)
上述の実施形態1に係る第1のスリップ率推定装置では、車輪の回転速度ωが正である駆動時のみを仮定する場合、車輪の回転加速度
【0158】
【数116】
JP0004538642B2_000089t.gif
が負になった際に推定誤差が拡大していく課題があった。車輪の回転速度ωが大きい状態で不安定になり誤差が拡大すると、安定状態になったとしても、誤差が収束するまで時間が掛かってしまう。本実施形態では、この不安定な領域を補償するために第2のスリップ率推定装置を用いたスリップ率制御を行う。
【0159】
2.1 第2のスリップ率推定装置
上述のように、(10)式で定義した推定誤差e(t)は
【0160】
【数117】
JP0004538642B2_000090t.gif
を含む領域では単調に収束しない。この不安定な領域を補償するために、以下のように(9)式に補償項としてスリップ率オブザーバ(SRO:Slip Ratio Observer)を加える。
【0161】
【数118】
JP0004538642B2_000091t.gif

【0162】
(8)式と(27)式より、推定誤差e(t)について以下の式が得られる。
【0163】
【数119】
JP0004538642B2_000092t.gif

【0164】
図15に示すように、駆動力Fdとスリップ率λの関係より以下の式が得られる。
【0165】
【数120】
JP0004538642B2_000093t.gif
但し、
【0166】
【数121】
JP0004538642B2_000094t.gif
はμ-λ曲線の傾きである。(28)、(29)式より推定誤差e(t)は、
【0167】
【数122】
JP0004538642B2_000095t.gif
となる。従って、次式が成立すれば安定が補償される。
【0168】
【数123】
JP0004538642B2_000096t.gif
(31)式を整理すると次式がえられ、これを満たすようなオブザーバゲイン
【0169】
【数124】
JP0004538642B2_000097t.gif
を選ぶ必要がある。
【0170】
【数125】
JP0004538642B2_000098t.gif

【0171】
実際に(27)式のオブザーバを利用する際には
【0172】
【数126】
JP0004538642B2_000099t.gif
の真値は明らかではないので、加速度センサの値ax(t)を利用し、
【0173】
【数127】
JP0004538642B2_000100t.gif
とする。また、
【0174】
【数128】
JP0004538642B2_000101t.gif
は低μ路のμ-λ曲線のモデルを仮定する。そこで、まず(6)式を、摩擦係数μを
【0175】
【数129】
JP0004538642B2_000102t.gif
の陽関数にして以下のように書き換える。
【0176】
【数130】
JP0004538642B2_000103t.gif

【0177】
また、(2)式と等価である次式を用意する。
【0178】
【数131】
JP0004538642B2_000104t.gif
この(33)、(34)式から次式が得られる。
【0179】
【数132】
JP0004538642B2_000105t.gif

【0180】
但し、Nはタイヤ1輪当たりにかかる垂直抗力とする。これらの式をまとめると以下の式を得ることができる。
【0181】
【数133】
JP0004538642B2_000106t.gif

【0182】
この(36)式の左辺第4項をスリップ率オブザーバと呼び、このスリップ率オブザーバを含むスリップ率推定装置を第2のスリップ率推定装置とする。図22に、実施形態2に係る第2のスリップ率推定装置を用いたスリップ率推定のブロック線図を示す。トルク測定手段で測定したモータトルクTおよび加速度センサで測定された車体の加速度axを、車両モデル演算手段2201、(36)式に基づく第2のスリップ率演算手段SRE2202にそれぞれ入力する。車両モデル演算手段2201は、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0183】
【数134】
JP0004538642B2_000107t.gif
、車体速度Vを導出し、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0184】
【数135】
JP0004538642B2_000108t.gif
を第2のスリップ率演算手段SRE2202に出力する。第2のスリップ率演算手段SRE2202は、モータトルクT、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0185】
【数136】
JP0004538642B2_000109t.gif
からスリップ率
【0186】
【数137】
JP0004538642B2_000110t.gif
を出力する。
【0187】
2.2 第2のスリップ率推定装置を用いたスリップ率制御
図14に、実施形態2に係る第2のスリップ率制御のブロック線図を示す。これは実施形態1に係るスリップ率制御の第1のスリップ率演算手段SREを第2のスリップ率演算手段SREに置き換えたものであって、第2のSREとPI制御器を用いてスリップ率制御を行う。
【0188】
ここで、上述したようにω>0である場合について考える。スリップ率λが最適スリップ率以上では車輪は空転するため
【0189】
【数138】
JP0004538642B2_000111t.gif
と考えられるので、実施形態1と同様の(9)式に基づく推定のみで十分である。よって、最適スリップ率以下でのみオブザーバゲイン
【0190】
【数139】
JP0004538642B2_000112t.gif
を与える。また、オブザーバゲイン
【0191】
【数140】
JP0004538642B2_000113t.gif
を大きくすれば真値への収束が早くなるが、λ-μ曲線のモデル化誤差により不安定になる可能性がある。従って、収束性とロバスト性のトレードオフを取りながらオブザーバゲイン
【0192】
【数141】
JP0004538642B2_000114t.gif
を決定する必要がある。図16に、オブザーバゲインとスリップ率の推定値との関係を示す。以下に示すシミュレーションにおいてはk(0)=1とし、図16のように与える。傾きを持たせてあるのはチャタリングを防止するためである。
【0193】
【数142】
JP0004538642B2_000115t.gif
のとき、すなわちスリップ率が最適スリップ率よりも大きいとき
【0194】
【数143】
JP0004538642B2_000116t.gif
であるから、摩擦係数モデル
【0195】
【数144】
JP0004538642B2_000117t.gif
は最適スリップ率以下の領域のみが必要である。従って、λ-μ曲線の零近傍付近の傾きであるドライビングスティフネスCSを用いて次式のモデルを用いた。
【0196】
【数145】
JP0004538642B2_000118t.gif
CSは、低μ路にあわせても十分な傾きを持つように、本実施形態では低μ路の値である1.0とする。
【0197】
この第2のスリップ率演算手段SREを用いることによって、
【0198】
【数146】
JP0004538642B2_000119t.gif
の状況であっても速やかに真値に収束させることが可能である。すなわち、この第2のスリップ率演算手段SREでは、第1のスリップ率演算手段SREにおいて不安定になってしまう領域を補償し、路面状況の大きな変化に対しても正確なスリップ率の推定が可能である。
【0199】
2.3 シミュレーション
シミュレーション条件として、各定数は実機から得られた値であるJω=1.0[Nms2]、M=420[kg]、r=0.22[m]とする。開始後0.5[sec]からトルク目標スリップ率T=100[Nm]を与える。路面状況は発進から5[sec]以降は乾燥路(μmax=1.0)とした。本シミュレーションでは、オブザーバ検証を行うにあたり推定誤差を持たせるため、
【0200】
【数147】
JP0004538642B2_000120t.gif
が十分小さくなった0.05[sec]より推定を始める。図17に、第1および第2のスリップ率推定装置による推定のシミュレーション結果を示す。第1のスリップ率推定装置では、5[sec]で推定誤差が拡大し、その後
【0201】
【数148】
JP0004538642B2_000121t.gif
が小さな値となっているため収束が遅いが、提案したスリップ率オブザーバを含む第2のスリップ率推定装置では真値に収束していることが分かる。また、路面変化後はCS=5程度であり、値が5倍ほど異なるにもかかわらず、真値に収束している。
【0202】
2.4 オフライン実験
実験機は市販の小型電気自動車(CQMOTORS製 Qi(QUNO))を改造したものを用いた。(株)Myway技研により作製されたインバータシステムを用いてモータを制御している。また、モータにはホールセンサがついているが電気角で1回転あたり6パルスと分解能が低いため、位置角は線形補完することによりベクトル制御を行っている。このときのサンプリング周波数は10[kHz]とする。また、DSPでベクトル制御だけでなく、トラクション制御や姿勢制御等も全て行っている。本検証では車体速を測定するために加速度センサを利用した。また、低μ路をプラスチックすのこを用いてその上に洗剤をまくことで実現した。実験では、トルク目標スリップ率をT=80[Nm]を与える。また、約3[sec]までは低μ路を走行し、それ以降は乾燥路を走行した。シミュレーションと同様に低μ路のμ-λ曲線を(37)式に基づき仮定する。
【0203】
図18に、第1および第2のスリップ率推定装置による推定の実験結果を示す。λがスリップ率の真値であり、
【0204】
【数149】
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が第1のスリップ率推定装置による推定値であり、
【0205】
【数150】
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が第2のスリップ率推定装置による推定値である。第1のスリップ率推定装置では、誤差が拡大した後、補償を加えていないため真値への収束が遅い。それに比べ、本実施形態に係る第2のスリップ率制御では速やかに真値に収束させることができている。
【0206】
2.5 まとめ
このように、本実施形態に係る第2のスリップ率推定装置は、車体速を用いることなく高精度のスリップ率推定が可能である。
【0207】
(実施形態3)
3.1 フィードバック線形化に基づく非線形制御
実施形態1、2において用いたスリップ率制御は、(12)式で行う線形化により誤差が生じてしまう。そこで、本実施形態に係るスリップ率制御は、フィードバック線形化に基づき非線形制御を行ってスリップ率の制御を行う。
【0208】
(8)式より、マイナーループに以下の式を組み込むことにより非線形補償を行うことで、スリップ率λからνまでの特性を
【0209】
【数151】
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に線形化できる。
【0210】
【数152】
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この(38)式の処理を非線形補償器とする。また、本実施形態では比例制御器を利用するので以下の式となる。
【0211】
【数153】
JP0004538642B2_000126t.gif
よって、(39)式を変形して得られる次式のような1次遅れ系となる。
【0212】
【数154】
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図19に、実施形態3に係る第3のスリップ率制御のブロック線図を示す。目標スリップ率λをブロック1901に入力する。ブロック1901は(39)式に基づいてνを導出して非線形補償器1902に入力する。非線形補償器1902は(38)式に基づいてモータトルクTを導出して車両モデル演算手段1903、第2のスリップ率演算手段SRE1904に入力する。車両モデル演算手段1903は導出した車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0213】
【数155】
JP0004538642B2_000128t.gif
を非線形補償器1902、第2のスリップ率演算手段SRE1904にそれぞれ入力する。第2のスリップ率演算手段SRE1904は、モータトルクT、車輪の回転速度ω、車輪の回転加速度
【0214】
【数156】
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からスリップ率
【0215】
【数157】
JP0004538642B2_000130t.gif
を導出してブロック1901、非線形補償器1902にそれぞれ入力する。非線形補償器1902から出力されるTの値に基づいてトルク指令を生成することで、スリップ率λを目標スリップ率λに収束させることができる。本実施形態では、スリップ率λの推定に第2のスリップ率演算手段SREを用いるが、第1のスリップ率演算手段SREを用いてもよい。
【0216】
3.2 シミュレーション
図20に、第3のスリップ率制御のシミュレーション結果を示す。シミュレーション条件として、0.05[sec]まで、スリップ率推定を行うためT=100[Nm]とした。推定が行われた0.05[sec]以降、スリップ率制御を行った。また、目標スリップ率をλ=0.1、0.2、0.3の3パターンとした。図20より、全ての目標スリップ率に対し、スリップ率が追従していることが分かる。
【0217】
3.3 まとめ
このように、本実施形態に係るスリップ率制御装置は、車体速を用いることなく非常に精度の高いスリップ率の制御が可能である。
【0218】
(実施形態4)
4.1 第3のスリップ率推定装置
第1、第2のスリップ率演算手段SREでは走行抵抗を零とみなして推定を行うが、走行抵抗はスリップ率推定に影響を及ぼすことが分かっている。そこで、走行抵抗を推定してスリップ率演算手段SREに対し補償を行うことで、スリップ率演算手段SREの精度をさらに向上させることができる。
【0219】
先ず、駆動力オブザーバを利用し、(1)式から駆動力Fdの推定を行う(非特許文献5参照)。(2)式から、推定された駆動力と加速度センサの値axを用いて、走行抵抗Fdrの推定を行う。図23に、走行抵抗推定器(DRE:Driving Resistance Estimator)のブロック線図を示す。ここで得られた推定走行抵抗
【0220】
【数158】
JP0004538642B2_000131t.gif
を用いてスリップ率推定を行う。
【0221】
走行抵抗を残したまま、(4)式を両辺時間微分し、(1)式から(3)式を代入し、Vω、V、Fdを消去すると次式を得ることができる。
【0222】
【数159】
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この(41)式をさらに書き換えると次式を得る。
【0223】
【数160】
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よって、スリップ率の推定値は、走行抵抗推定器の推定値を用いて次式から得られる。
【0224】
【数161】
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図24に、第3のスリップ率演算手段SREを用いたスリップ率推定のブロック線図を示す。第3のスリップ率演算手段SREであるDRE-SRE2401は、走行抵抗の推定値を取り込んだ後は、(43)式に基づき他のSREと同様に演算を行う。
【0225】
4.2 第4のスリップ率推定装置
上記第3のスリップ率演算手段SREを用いたスリップ率推定の推定誤差は、(8)式と(43)式より以下のようになる。
【0226】
【数162】
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すなわち、走行抵抗の真値と推定値が完全に一致すれば、走行抵抗による推定誤差はなくなり、正確な推定が可能となる。しかし、第1のスリップ率演算手段SREと同様に
【0227】
【数163】
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の領域では推定が不安定になる。そこで第4のスリップ率演算手段SREを用いたスリップ率推定では、走行抵抗の補償に加え、第2のスリップ率演算手段SREで用いたSROによる補償を行う。すなわち、(43)式に以下のように補償項を加える。
【0228】
【数164】
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但し、
【0229】
【数165】
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はオブザーバゲインである。(8)式と(45)式から以下の式が得られる。
【0230】
【数166】
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(46)式と(29)式より推定誤差は次式のようになる。
【0231】
【数167】
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走行抵抗の真値と推定値との差
【0232】
【数168】
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は、図24のLPF2303、2306の時定数が十分小さければ、十分速く零に収束する。従って、(31)式が成立すれば推定の安定性が保証される。よって、(31)式を整理して得られる(32)式を満たすオブザーバゲインを選ぶ。
【0233】
実際に(45)式のオブザーバを利用する際には、車体加速度の真値と推定値を以下のように置くことができる。加速度センサの値ax(t)を利用し、
【0234】
【数169】
JP0004538642B2_000142t.gif
とする。また、車体加速度の推定値は、(2)式、(6)式、(33)式およびDREより、次式が得られる。
【0235】
【数170】
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これらの式をまとめると以下の式を得ることができる。
【0236】
【数171】
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この式(49)をスリップ率オブザーバとする。尚、第2のスリップ率推定装置と同様に(37)式を用い、CS=1とする。図25に、第4のスリップ率演算手段SREを用いたスリップ率推定のブロック線図を示す。第4のスリップ率演算手段SREであるDRE-SRO2501は、走行抵抗の推定値、加速度を取り込んだ後は、(49)式に基づき他のスリップ率演算手段SREと同様に演算を行う。
【0237】
4.3 シミュレーション
シミュレーション条件として、T=80[Nm]一定としてトルク指令値を与える。また発進から1秒まで低μ路(μmax = 0.2) を、1秒以降は高μ 路(μmax = 1.0)を走行するものとする。
【0238】
また、走行抵抗に関して、通常発進時など低速域では転がり抵抗が支配的であり、駆動力の約10 %程度だと言われている(非特許文献6参照)。本実験車両において乾燥路走行時の駆動力Fdは約500[N]であるので、約10%の50[N]の走行抵抗を常に与えた。さらに、故意に推定に初期誤差を持たせるために発進時は推定せずに、発進から0.01[sec]後より推定を始めた。
【0239】
図26A~26Cに、SRE、DRE-SRE、DRE-SROを用いたスリップ率推定のシミュレーション結果を示す。また、図27に、DRE-SREおよびDRE-SROで用いる走行抵抗推定の結果を示す。
【0240】
図26Aに示すように、SREは低μ路走行時には大きな推定誤差は見られない。しかし、高μ路走行時においては大きな推定誤差が生じている。これは式(43)より、低μ路走行時においては車輪角速度ωが増大することにより走行抵抗Fdrの影響が小さくなるが、高μ路に進入した際に車輪角速度ωが減少することにより走行抵抗Fdr の影響が無視できなくなるためだと考えられる。
【0241】
走行抵抗を考慮したDRE-SRE(図26B)およびDRE-SRO(図26C)は、全領域において高い精度で推定できていることが分かる。この2つの手法に関して詳しく見るため、図28に、DRE-SREおよびDRE-SROを用いたスリップ率推定における推定誤差を示す。これより、
【0242】
【数172】
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となり推定誤差を拡大する領域において、不安定な領域の補償を行っているDRE-SROはDRE-SRE に比べ推定誤差の拡大を抑えていることが分かる。
【0243】
4.4 オフライン実験
SRE、DRE-SRE、DRE-SROに関して、オフライン実験による比較を行った。オフライン実験条件として、シミュレーションと同様に、T=80[Nm]一定としてトルク指令値を与える。発進から約3秒まで低μ 路を、3秒以降は高μ 路を走行するものとする。
【0244】
図29A~29Cに、SRE、DRE-SRE、DRE-SROを用いたスリップ率推定のオフライン実験結果を示す。さらに図30に、DRESREおよびDRE-SROで用いる走行抵抗推定結果を示す。
【0245】
図29Aに示すようにSREは、シミュレーションと同様に、低μ路走行時には大きな推定誤差は見られないが、高μ路走行時においては推定誤差が生じている。
【0246】
走行抵抗を考慮したDRE-SRE(図29B)およびDRE-SRO(図29C)に関しても、シミュレーションと同様に、全領域において精度よく推定できていることが分かる。
【0247】
さらに、図31に、DRE-SREおよびDRE-SROを用いたスリップ率推定における推定誤差のオフライン実験の結果を示す。これより、DRE-SRO は再粘着時に推定誤差が拡大した後、収束が速いことが分かる。
【0248】
(実施形態5)
5.1 フィードフォワード制御によるスリップ率制御
図32に、スリップ率演算手段DRE-SREまたはスリップ率演算手段DRE-SROを用いたスリップ率制御のブロック線図を示す。これは、実施形態3と同様に、式(38)、(39)に基づいて非線形補償を行ったスリップ率制御である。
【0249】
制御器において
【0250】
【数173】
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の擬似微分演算のためのハイパスフィルタ(HPF)3206のカットオフ周波数は10[rad/s]とする。路面状況は常に低μ路(μmax=0.2) を走行する。また、Kp = 70とする。発進から0.03秒までは推定を行わせるため一定トルク指令値T=80[Nm]を与える。0.03秒以降、スリップ率指令値λ=0.2をステップ状に入力した。
【0251】
図33に、スリップ率演算手段DRE-SREまたはスリップ率演算手段DRE-SROを用いたスリップ率制御のシミュレーションの結果を示す。大きなアンダーシュートがあるものの、約0.13秒で指令値に収束している。
【0252】
図34に、スリップ率演算手段DRE-SREまたはスリップ率演算手段DRE-SROを用いたスリップ率制御の実機実験の結果を示す。シミュレーションと同様、路面状況は常に低μ路を走行する。そして、推定を行わせるために発進より約2秒までトルク指令値T=80[Nm]を与え、2.2秒以降、スリップ率指令値λ=0.2をステップ状に入力した。これより、シミュレーションと同様、指令値に追従している。
【0253】
しかしながら、指令値に収束はしているものの、大きな脈動が存在する。この脈動の原因としては、モータセンサの低分解能による
【0254】
【数174】
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のノイズの影響、およびHPF3206のカットオフ周波数が10[rad/s]と非常に遅いためだと考えられる。
【0255】
そこで、走行抵抗が無視できるぐらい小さいと仮定し、λ=λとしてスリップ率は変動しないものとした。これにより、式(41)から以下の式を得る。
【0256】
【数175】
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上式を式(24)に代入し、フィードフォワードで
【0257】
【数176】
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を与えることにより、ノイズの影響を小さく抑えることができる。図35に、フィードフォワード制御によるスリップ率制御のブロック線図を示す。HPF3206に代えて、フィードフォワードで
【0258】
【数177】
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を与えるように式(50)が組み込まれている。
【0259】
5.2 シミュレーション
図36に、フィードフォワード制御によるスリップ率制御のシミュレーション結果を示す。尚、図33のシミュレーションと同様の条件でシミュレーションを行った。これより、非線形項を正確に打ち消せてはいないが不安定になることなく、指令値に対し追従していることが分かる。
【0260】
5.3 オフライン実験
さらに、図37に、フィードフォワード制御によるスリップ率制御の実機実験の結果を示す。尚、シミュレーションと同じ条件下において実験を行った。これより、指令値に対し追従し、さらにHPFを用いたスリップ率制御の結果(図34)に比べ脈動が小さくなっていることが分かる。
【0261】
(実施形態6)
6.1 可変ゲインを備えた回転速度制御によるスリップ率制御
スリップ率の推定は車輪速が既知であるため、車体速の推定と等価である。スリップ率推定が正確に行われれば、式(4)より以下の次式で車体速が得られる。尚、Vω=rωである。
【0262】
【数178】
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そして、車体速が分かれば目標スリップ率に対する目標車輪速が分かる。
【0263】
【数179】
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これより、一般的に使用されている、モータの電流制御ループの外側に速度制御ループを組んだ回転速度制御を用いることで、スリップ率制御を実現する。しかし、慣性モーメントは式(41)よりスリップ率に応じて変化する。よって、制御ゲインを固定にするとスリップ率の変動に応じて、極が相対的に変動してしまう。
【0264】
そこで、スリップ率に応じて変動する慣性モーメントを考慮した以下の式に基づき、スリップ率に応じて極配置法により制御ゲインを変化させ、極の変動を抑制する。
【0265】
【数180】
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図38に、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御のブロック線図を示す。比例積分制御手段3801は、スリップ率演算手段SRE3803で算出された推定スリップ率を取り込み、式(53)に基づいて目標トルクTを算出する。
【0266】
6.2 シミュレーション
速度制御系の極は70[rad/s]とする。図39に、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御のシミュレーション結果を示す。尚、前述した条件と同様の条件下でシミュレーションを行った。これより、実施形態5の図36に比べ、追従は遅いが目標値に対して追従している事が分かる。
【0267】
6.3 オフライン実験
さらに、図40に、可変ゲインを備えた回転制御によるスリップ率制御の実機実験の結果を示す。尚、前述した条件と同様の条件下でシミュレーションを行った。これより、指令値に対し追従し、上述のスリップ率制御の中で脈動が一番小さいことが分かる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6A】
5
【図6B】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9A】
9
【図9B】
10
【図9C】
11
【図9D】
12
【図9E】
13
【図9F】
14
【図10】
15
【図11A】
16
【図11B】
17
【図11C】
18
【図11D】
19
【図11E】
20
【図11F】
21
【図12】
22
【図13A】
23
【図13B】
24
【図13C】
25
【図14】
26
【図15】
27
【図16】
28
【図17】
29
【図18】
30
【図19】
31
【図20】
32
【図21A】
33
【図21B】
34
【図22】
35
【図23】
36
【図24】
37
【図25】
38
【図26A】
39
【図26B】
40
【図26C】
41
【図27】
42
【図28】
43
【図29A】
44
【図29B】
45
【図29C】
46
【図30】
47
【図31】
48
【図32】
49
【図33】
50
【図34】
51
【図35】
52
【図36】
53
【図37】
54
【図38】
55
【図39】
56
【図40】
57