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明細書 :キチン質分解酵素を遺伝子標識に利用した細菌モニタリング法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3726132号 (P3726132)
公開番号 特開2004-097032 (P2004-097032A)
登録日 平成17年10月7日(2005.10.7)
発行日 平成17年12月14日(2005.12.14)
公開日 平成16年4月2日(2004.4.2)
発明の名称または考案の名称 キチン質分解酵素を遺伝子標識に利用した細菌モニタリング法
国際特許分類 C12Q  1/04      
C12Q  1/34      
C12N 15/09      
FI C12Q 1/04
C12Q 1/34
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 18
出願番号 特願2002-260418 (P2002-260418)
出願日 平成14年9月5日(2002.9.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2002年度大会において発表(2002年3月26日)
審査請求日 平成14年9月5日(2002.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】眞山 滋志
【氏名】土佐 幸雄
【氏名】大津 康成
【氏名】豊田 秀吉
【氏名】桜谷 保之
【氏名】松田 克礼
【氏名】野々村 照雄
【氏名】瀧川 義浩
【氏名】森 裕文
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】佐久 敬
参考文献・文献 特表平5-501958(JP,A)
Appl.Environ.Microbiol. (1996), Vol.62, No.4, p.1133-1140
J.Clin.Microbiol.(1992), Vol.30, No.3, p.590-594
Journal of Microbiological Methods (1992), Vol.14, p.229-237
Journal of Applied Microbiology (Dec.2002), Vol.93, p.1042-1050
調査した分野 C12Q 1/00-3/00
PubMed
CA(STN)
BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌を検出するための方法であって、
前記キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌を、該細菌に特異的なバクテリオファージと接触させる工程と、
前記バクテリオファージの感染によって溶菌した細菌のライセートとキチン質分解酵素基質4-メチルウンベリフェリルN,N',N'',N'''-テトラアセチル-β-D-キトトリオシド(4MU-(GlcNAc)3)を反応させる工程と、
前記基質の分解産物である4-メチルウンベリフェロン(4MU)の蛍光を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記細菌が、Ent. cloacaeである方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記ファージが、EcP-01である方法。
【請求項4】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、前記蛍光の検出が、UV照射によって、基質分解産物である4MUの蛍光を可視化して検出することによる方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌を迅速かつ効率的に検出するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術および発明の背景
植物の葉の表面に安定したコロニーを作る微生物は、葉面病原菌、または食葉害虫を抑制する分子を導入するための生物学的なベクターになると考えられ(Andrews 1992)、これら株の多くが、植物病原菌を生物学的に制御するための有効なアンタゴニストとして使用されている(Hadar et al. 1983; Wilson et al. 1987; Howell et al 1988; Nelson and Craft 1991; Okamoto et al. 2000; Tsuda et al. 2001)。
【0003】
本発明者らは、日本中の温室トマトを荒らすうどんこ病菌および植物食性のテントウムシを効果的に生物防除するためのベクターとして使用できる葉面細菌を単離すべく、温室トマトの葉に生息する葉面細菌のスクリーニングを行った。その結果、葉面細菌Enterobacter cloacaeを単離することに成功した(Matsuda et al. 2001)。
【0004】
また、プラスミドが導入されたEnterobacter cloacae細菌が、この細菌を噴霧した葉を与えられた草食性ヨトウムシ幼虫の腸内、および糞便のペレット中においても生存したままであることが報告されている(Armstrong et al. 1989)。WatanabeおよびSato (1998)らは、このようなバクテリアによる処理をした餌を与えたカイコ幼虫の腸内、および糞便においても、植物および昆虫に生息するEnterobacter cloacae株、および臨床株が生存していることを明らかにしている。
【0005】
これまでに、本発明者らは、グラム陽性および陰性細菌からキチナーゼとキトサナーゼ遺伝子をクローニングしており、その酵素学的特徴についても詳細に検討を行っている。そこで、温室トマトを荒らす植物食性のテントウムシのキチン質を分解することによって、効果的に生物防除すべく、前記Enterobacter cloacae細菌にキチン質分解酵素遺伝子を導入することを考え、これに成功した。
【0006】
しかし、上述のようなトランスフォームされた細菌を使用する際に、この株を配慮なく使用することによって、この株が予想外に自然界に残存することとなり、標的としない植物および動物に日和見感染するといった潜在的なリスクが存在することも考慮しなければならない。このような生態学的なリスクを最小にするための主要な課題として、環境中に放出された細菌の移動、および行動を明らかにすることが必要であり、そのためには遺伝的に同じか、または異なったバックグランドの固有細菌を導入された細菌と特別することが必要である(Mahaffee et al. 1997; Rattray et al. 1995; Robbins et al. 1988; Roberts et al. 1996)。このような観点からも、Ent. cloacaeをモニターするための方法が、関連分野の研究において必要とされている。
【0007】
上述のように、組換えDNA技術の適用が増加することについての懸念とともに、外来遺伝子が導入された細菌の使用の増加が予想されることから、一部の研究者は、免疫学的な技術を使用して環境中に放出される細菌を効果的に追跡する調査を始め(Ladha et al. 1983; Perdersen and Leser 1992)、トランスジェニック・マーキング技術によって調査おこなっている(Armstrong et al. 1989; Rattray et al. 1995; Roberts et al. 1996; Firth 1999)。
【0008】
現在、細菌をモニターするために使用することができる技術としては、選択培地で細菌を培養して、内因性の抗生物質抵抗性を調べる方法、または蛍光産生を調べる方法、または免疫蛍光抗体法でコロニーを染色する方法(Mahaffeeほか1997)などがある。さらに、より直接的な方法として、生体発光を生じるluxオペロン(Shaw et al. 1988; 1992)、およびlux遺伝子に連結された緑色蛍光タンパク質(gfp)(Unge and Jansson 2001)などのリポーター遺伝子(Firth 1999)を使用する方法がある。これらのリポーター遺伝子は、植物の組織および器官において、マークした細菌の局在を可視化するために有用である。Ent. cloacaeを遺伝的にマークするために、lux遺伝子が使用されており、発明者らの研究室においても、根面または根圏に植物病原性、および非病原性の細菌を検出するために使用している(Toyoda et al. 1993; 1997)。この方法では、効率は、主にコロニーからの生物発光の強度に依存している。したがって、固形の培地に小さなコロニーがたくさん形成された場合、細菌のバックグラウンド群から、マークされた細菌を区別できるほどの発光強度は得られない。一方、GFPでマークした細菌では、U.V.または青色光を照射することによって、検出することができるが、U.V.ランプの下で照らすと蒼白色-緑色となる蛍光性メタン発酵菌と区別することは困難であると考えられる(Doddema and Vogels 1978; Ashby et al. 2001)。
【0009】
その他ビルレントバクテリオファージを使用する方法があり、リポーター遺伝子によって組換えバクテリオファージを構築ことにより、バクテリアをモニタリングする方法がある。Mycobacterium tuberculosis (Pearson et al. 1996)、およびListeria monocytogenes (Loessner et al. 1996)に特異的なビルレントバクテリオファージのゲノムにルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ後、このバクテリオファージを細胞に感染させると生物発光し、感染後の溶菌段階でうまく検出される。したがって、このルシフェラーゼが組み込まれたバクテリオファージは、食品および環境サンプルを汚染する際の少量の個体群に対しても非常に感受性である。しかし、同種のバックグラウンド細菌に対してもリポーターバクテリオファージが感染してしまうため、環境中に放出されたトランスジェニック細菌をモニターするためにいつでも有効である訳ではない。したがって、遺伝的にトランスフォームされた細菌が環境中に放出された際に、これを直接追跡するための方法が所望されている。
【0010】
今回、発明者らは、前記Ent. cloacae特異的に感染するバクテリオファージを単離することにも成功している。また、このビルレントバクテリオファージが、宿主細菌細胞Enterobacter cloacaeを非常に特異的に認識し、感染細胞が急速に溶解されることに注目した。感染後、このビルレントバクテリオファージが、キチン遺伝子でトランスフォームされたEnt. cloacaeに感染して、溶解サイクルが起こったときに、キチン質分解酵素の大部分が放出される。このキチン質分解酵素の活性は、蛍光ラベルされたキチン質分解酵素の基質を使用することによって、容易かつ特異的に検出することができることがわかっている(Robbins et al. 1988; McCreath and Gooday 1992)。
【0011】
そこで、前記バクテリオファージを利用して、キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌をモニタリングするための、より簡便かつ感受性の高い方法を開発することを考えた。このアプローチによれば、前記バクテリオファージが、特異的に細菌に感染して溶菌することにより、キチン質分解酵素が放出されることとなり、このキチン質分解酵素活性を検出することによって、より効率的、かつ特異的にトランスフォーメーションされた細菌を検出できると考えた。
【0012】
【非特許文献1】
Toyoda, H., Kita, N., Kakutani, K., Matsuda, Y., Dogo, M., Kato, Y., Nomura, T., Bingo, M., Tampo, H., Chatani, K., Shimizu, K. and Ouchi, S.、Evaluation of stable resistance expression in self-pollinated progenies of bacterial wilt resistant regenerants obtained from leaf callus of tomato.、“Plant Biotechnology”、(Japan)、1997年、14巻、p.105-110
【0013】
【非特許文献2】
Toyoda, H., Morimoto, M., Kakutani, K., Morikawa, M., Fukamizo, T., Goto, S., Terada, H. and Ouchi, S.、Binary microbe system for biological control of Fusarium wilt of tomato: Enhanced root-colonization of an antifungal rhizoplane bacterium supported by a chitin-degrading bacterium.、“Annals of the Phytopathological Society of Japan”、(Japan)、1993年、59巻、p.375-386
【0014】
【非特許文献3】
Toyoda, H., Kakutani, K., Ikeda, S., Goto, S., Tanaka, H. and Ouchi, S.、Characterization of deoxyribonucleic acid of virulent bacteriophage and its infectivity to host bacteria,、“Pseudomonas solanacearum. Journal of Phytopathology”、(Germany)、1991年、131巻、p.11-21
【0015】
【非特許文献4】
Ikeda, S., Toyoda, H., Matsuda, Y., Kurokawa, M., Tamai, T., Yoshida, K., Kami, C., Ikemoto, T., Enomoto, M., Shiraishi, K., Miyamoto, S., Hanaoka, M. and Ouchi, S.、Cloning of a chitinase gene chiSH1 cloned from gram-positive bacterium Kurthia zopfii and control of powdery mildew of barley.、“ Annals of the Phytopathological Society of Japan”、(Japan)、1996年、62巻、p.11-16
【0016】
【非特許文献5】
Matsuda, Y., Kashimoto, K., Takikawa, Y., Aikami, R., Nonomura, T. and Toyoda, H.、Occurrence of new powdery mildew on greenhouse tomato cultivars.、“Journal of General Plant Pathology”、(日本)、2001年、67巻、p.294-298
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、キチン質分解酵素であるキチナーゼおよびキトサナーゼ遺伝子をリポーターとして利用する標識細菌モニタリング法を開発することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌を検出するための方法であって、
前記キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌を、該細菌に特異的なバクテリオファージと接触させる工程と、
前記バクテリオファージの感染によって溶菌した細菌のライセートとキチン質分解酵素基質を反応させる工程と、
前記基質の分解を検出する工程と、
を含む方法を提供する。
【0019】
好ましくは、前記キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌は、Enterobacter cloacaeである。
【0020】
また、本発明は、前記方法であって、前記基質が、4MU-(GlcNAc)3であり、前記基質の分解の検出が、UV照射によって基質分解産物である4MUの蛍光を可視化して検出することによる方法を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、前記方法であって、前記バクテリオファージが、Ecp-01バクテリオファージであり、および前記基質が、4MU-(GlcNAc)3であり、前記基質の分解の検出が、UV照射によって基質分解産物である4MUの蛍光を可視化して検出することによる方法を提供する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に記載する。
【0023】
本発明の方法に使用する細菌は、どのような細菌であってもよいが、好ましくは、トマトの葉に生息する葉面細菌であり、特に好ましくは、Enterobacter cloacae株である。前記細菌を単離する方法は、当業者に周知のいずれの方法を使用して単離してもよい。以下に、本発明の方法に使用する細菌の単離法の一例を、トマトの葉に生息する葉面細菌の単離を例にして示す。
【0024】
トマトの葉をランダムに回収して、葉の上面を、2%(v/w)コロイド性キチンを補ったM9最小アガー培地を2分間接触させて、26℃において4~5日間インキュベートする。インキュベート後、それぞれの葉からコロニーが得られるので、これらコロニーを選択培地に移してコロニーを単離すればよい。本単離法によってトマトの葉から最も多く得られた単離体は、Ent. cloacae細菌であり、これをKPM-007E株とした。
【0025】
本発明において、キチン質分解酵素とは、キチナーゼまたはキトサナーゼをいう。前記キチン質分解酵素遺伝子を上記細菌に導入するための方法は、当業者に既知のいずれの方法であってもよい。たとえば、一般的な遺伝子組換え技術を使用してキチナーゼまたはキトサナーゼ遺伝子を導入することができる。具体的には、グラム陽性細菌Kurthia zopfii(Ikeda et al. 1996)に由来するキチナーゼ遺伝子chiSH1 (DDBJ, D63702)を適切なプロモーター、たとえばEnt.cloacaeのpstオペロンのプロモーター(Kusaka et al. 1997)につなぎ、プラスミドベクターに挿入する。前記プロモーター配列は、ヌクレオチド配列(DDBJ、D69963)にしたがって人工的に合成した一組のプライマーを使用して、通常のPCRによってEnt. cloacae IFO3320のゲノムDNAを増幅することによって得ることができる。また、前記プラスミドベクターには、テトラサイクリン耐性遺伝子などの選択マーカーを含んでいることが好ましい。作製したプラスミドを、当業者に既知の方法によって前記細菌に導入することができる。たとえば、以前に記載した方法(Toyoda et al. 1991)に従って、前記細菌にエレクトロポレーションによって導入すればよい。エレクトロポレーションした細菌は、たとえばテトラサイクリン耐性遺伝子マーカーを含むプラスミドを導入した場合、20μg ml-1のテトラサイクリンの存在下でスクリーニングすることによって、トランスフォームされた細菌を選択することができる。前記KPM-007E株に上述の方法でキチナーゼ遺伝子を導入した株をKPM-007E/chiと命名した。この株を独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託したが受託拒否されたため、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている
【0026】
本発明の方法で使用するバクテリオファージは、前記細菌を指示菌として土壌試料から得ることができる。また、従来より見出されている特定の細菌を使用する場合は、該細菌に特異的に感染するバクテリオファージを、例えば、American Type CultureCollection(ATCC)から入手可能である。入手可能な株の詳細は、例えば、ATCCによる「Catalogue of Bacteria &Bacteriophages」に公表されている。しかし、目的とする細菌に特異的に感染するバクテリオファージが発見されていない場合は、新たにこのようなバクテリオファージを土壌中から見出して使用すればよい。土壌中には、種々の細菌に特異的に感染するバクテリオファージが存在することが知られており、当業者に周知の方法(例えば、LoessnerおよびBusse、Appliedand Environmental Microbiology、第56巻、第1912~1918頁(1990)、および「Bacteriophages」Interscience Inc. 第447~455頁(1959)を参照のこと)を使用してスクリーニングを行うことによって、特定の細菌にのみ感染するファージを得ることができる。たとえば、土壌試料から二重アガー層技術を使用して単離すればよい。土を滅菌水中に懸濁して、5分間激しく攪拌し、次に土壌粒子を除去するために低速で遠心する。上清をろ紙(細孔寸法0.22μm)に通して、前記細菌(108細胞ml-1)を含む溶解M9アガー培地(6gアガーl-1)と混合して、ペトリプレート中のM9アガー(15gアガーl-1)の底層の上へまく。37℃において3日間インキュベーションした後、重なり合っていないプラークからバクテリオファージを回収して、単溶菌斑分離工程を数回行って精製する。さらに、Yamamoto et al. (1970)の方法に従って、バクテリオファージをさらに精製してもよい。詳細には、前記細菌のライセートを、膵臓DNase、およびRNaseで処理して、塩化ナトリウム遠心沈降を行う。遠心(11,000×g for 10分、4℃)した後、固体ポリエチレングリコール(PEG 6000)を沈殿したバクテリオファージ粒子の上清に、0.5g ml-1で添加する。このバクテリオファージペレットをSMバッファー(1lの水に5.8g NaCl, 2g MgSO4・7H2Oおよび5mlの5%ゲラチンを含む1mol l-1 Tris-HCl, pH7.5)に溶解して、塩化セシウム段階グラジエント(1.15~1.7g ml-1の層)の上へ層にして添加し、4℃において20000×gで2時間遠心する。1.45~1.50g ml-1の層の界面にあるバクテリオファージ粒子の青いバンドを、マイクロピペットで回収する。100倍量のSMバッファーに対して透析して、塩化セシウムを除去することによって、バクテリオファージを精製することができる。
【0027】
本発明の方法に使用するバクテリオファージは、前記キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌に特異的に感染することができるいずれのバクテリオファージでもよいが、好ましくは、以下の実施例において単離したEcP-01である。このファージは、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている。
【0028】
本発明の方法において、前記キチン質分解酵素遺伝子が導入された細菌に、該細菌に特異的なバクテリオファージを接触させる工程は、たとえば上述のように得られた細菌の細菌懸濁液(4MU-(GlcNAc)3を3.0μg ml-1で含むグルコースフリーのM9培地で前記細菌を培養した液)に、上述のように精製したバクテリオファージを接種すればよい。ここで、接触とは、前記バクテリオファージが細菌に感染できるように付着させることをいうが、定法にしたがってバクテリオファージが効率的に感染するような液体中で付着させることが好ましい。前記懸濁液は、たとえば、使用した細菌がEnterobacter cloacaeの場合、炭素源を含まない培地で109 cfu ml-1となるように培養した懸濁液が好ましい。また、前記バクテリオファージがEcP-01の場合、109~1011 pfu ml-1で接種することが好ましく、1011 pfu ml-1で接種することがより好ましい。
【0029】
次に、本発明の方法において、前記バクテリオファージが感染することによって溶菌した細菌のライセートとキチン質分解酵素基質を反応させる工程では、前記細胞にバクテリオファージが感染することによって溶菌した結果、培地にキチン質分解酵素が迅速に放出されることとなり、キチン質分解酵素基質が切断される。前記キチン質分解酵素基質は、当業者に既知のいずれの基質を使用してもよいが、4-メチルウンベリフェリルN,N',N'',N'''-テトラアセチル-β-D-キトトリオシド(4-methylumbelliferyl-β-D-N,N',N''-triacetylchitotrioside)(4MU-(GlcNAc)3)を使用することが好ましい。この基質は、キチン質分解酵素で切断されると、蛍光性の4MUを放出する。
【0030】
最後に、前記基質の分解産物である4MUの蛍光を検出する工程は、4MUの蛍光を、たとえばUV照射によって可視的に検出すればよい。前記検出は、少量であってもマイクロタイタープレートのバックを暗色に配置することによって可視的に検出することができる。また、前記蛍光の検出は、UV照射による方法だけでなく、適切な蛍光検出器を使用して検出することもできるが、UV照射によれば簡便かつ迅速に、検出感度、検出速度ともに充分に満足できる結果を得ることができる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の実施例を記載する。
【0032】
材料および方法
葉面細菌の単離および同定
温室(26 ± 6℃)で2月間生長させたトマト (Lycopersicon esculentum Mill, cv. Moneymaker) から、完全に成長した葉をランダムに回収して、ちぎった葉の上面を、2% (v/w)コロイド性キチン質を補ったM9最小アガー培地(水1l中に、12.8g Na2HPO47H2O, 3g KH2PO4, 0.5g NaCl, 1g NH4Cl および4g グルコース)(M9-キチン質培地)を2分間接触させて、26℃において4~5日間インキュベートする。前記コロイド性キチン質は、HiranoおよびNagao (1988)の方法に従って調製した。コロニーのまわりの透明な領域(ハロー)の形成されることによって、細胞外のキチナーゼが分泌されていることを判断した。得られた全ての微生物コロニーを、通常の濃度で抗生物質を含む(20μg ml-1テトラサイクリン、50μg ml-1アンピシリン、50μg ml-1ストレプトマイシン、50μg ml-1カナマイシン、および100μg ml-1クロラムフェニコール)M9-キチン質培地に移した。単離した細菌である単離KPM-007Eの細菌学的な特徴を調べ、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th Ed.)によって分類学上の同定を行った。
【0033】
KPM-007Eへのキチン遺伝子の導入
グラム陽性細菌Kurthia zopfii(Ikeda et al. 1996)に由来するキチナーゼ遺伝子chiSH1 (DDBJ, D63702)をEnt.cloacaepstオペロンのプロモーター(Kusaka et al. 1997)につなぎ、プラスミドベクターpACYC184(S. Yasuda, 国立遺伝学研究所、三島、日本によって提供された)に挿入した。このベクターは選択マーカーとしてテトラサイクリン耐性遺伝子を含んでいる。前記プロモーター配列は、ヌクレオチド配列(DDBJ、D69963)にしたがって人工的に合成した一組のプライマーを使用して、PCRでEnt. cloacae IFO3320のゲノムDNAを増幅することによって得た。新しく造られたプラスミド(pACY/χ)は、以前に記載した方法(Toyoda et al. 1991)に従って、KPM-007Eにエレクトロポレーションによって導入した。トランスフォームした細菌を、20μg ml-1のテトラサイクリンの存在下でスクリーニングして、そのキチナーゼ生産を検討した。4MU-(GlcNAc)3(Sigma, St. Louis, MO, USA)を基質として使用したMcCreathおよびGooday (1992)の方法によって、キチナーゼ活性を測定した。細菌培養液(100μl)を遠心して沈殿させ、900μlのpH7のMcIlvaineのバッファー(17.8mlの0.1moll-1クエン酸、および82.2mlの0.2moll-1二塩基性リン酸ナトリウム)に混合した。0.134mg ml-1の4MU-(GlcNAc)3を50μl添加して、酵素反応を開始した。37℃において10分間インキュベーションした後、1.2mlの1mol l-1 グリシン/NaOHバッファー(pH 10.6)を添加して反応を終結させ、島津RF-5000の蛍光分光光度計を使用して、4-メチルウンベリフェロン(4MU)の蛍光をモニターした。4MU量は、pH7.0の同じバッファー中における、標準の4MUの較正曲線にしたがって概算した。培養中に菌体の数は、血球計算板、および位相差顕微鏡法を使用して決定した。
【0034】
KPM-007Eに対する感染力をもつビルレントバクテリオファージの単離
ビルレントバクテリオファージは、二重アガー層技術(Hurst 1997)によって、温室土壌試料から得た。土を滅菌水中に懸濁して、5分間激しく攪拌し、次に土壌粒子を除去するために低速で遠心した。上清をろ紙(細孔寸法0.22μm)に通して、KPM-007E (108 cells ml-1)を含む溶解M9アガー培地(6gアガーl-1)と混合して、ペトリプレート中のM9アガー(15gアガーl-1)の底層の上へかぶせた。37℃において、3日間インキュベーションした後、重なり合っていないプラークからバクテリオファージを回収して、単溶菌斑分離工程を数回行って精製した。
【0035】
Yamamoto et al. (1970)の方法に従って、バクテリオファージをさらに精製した。細菌ライセートを、膵臓DNase、およびRNaseで処理して、塩化ナトリウム遠心沈降を行った。遠心 (11,000×g for 10 min at 4℃)した後、固体ポリエチレングリコール(PEG 6000)を沈殿したバクテリオファージ粒子の上清に、0.5g ml-1で添加した。このバクテリオファージペレットをSMバッファー(1lの水に5.8 g NaCl, 2g MgSO4・7H2O および5 ml の5% ゲラチンを含む、1mol l-1 Tris-HCl, pH 7.5)に溶解して、塩化セシウム段階グラジエント(1.15~1.7g ml-1の層)の上へ層にして、4℃において20000×gで2時間遠心した。1.45~1.50 g ml-1の層の界面にあるバクテリオファージ粒子の青いバンドを、マイクロピペットで回収した。100倍量のSMバッファーに対して透析して、塩化セシウムを除去した。接種のために、バクテリオファージ溶液をグルコースフリーのM9液体培地(アガーなし)で10~100倍に稀釈した。
【0036】
Ent. cloacaeの系統
本実験において使用した系統は、 SM10 (Tsuda et al. 2001)、T-1-14 (Okamoto et al. 2000)、JCM 1232 (ATCC 13047) (Takahashi et al. 1997)、Mull 1, Him 7a, Tob 23、およびWBM H3 (Watanabe and Sato 1998)、並びにIFO3320 (provided from Institute for Fermentation, Osaka, Japan)である。これらのEnt. cloacae株に、二重アガー層技術によって単離されたバクテリオファージを接種した。すなわち、細菌を、バクテリオファージを含むM9 Top-layerアガーで包理して、種々の温度において2日間インキュベートして、プラーク形成、またはサイズ、および形成したプラークの出現(透明または濁っている)を調べた。
【0037】
電子顕微鏡観測
精製した細菌細胞、およびウイルス粒子をBrennerおよびHorne (1959)の方法でネガティブ染色した。すなわち、0.2%ホルムバール膜で覆われたのグリッド(メッシュ・サイズ50μm)を、パラフィルム上のサンプル液滴上に2分間浮かべて、余分なサンプルを吸い取り紙で吸い取った。グリッド上の細菌細胞、またはバクテリオファージ粒子は、2%リンタングステン酸塩(KOHでpH6.7に合わせた)の液滴上に、10~30秒間グリッドを浮かべることによって、直接染色した。次いで、日立H-800電子顕微鏡を100kVで使用して観察した。
【0038】
細菌ライセート中のキチナーゼ活性の測定、およびキチナーゼ遺伝子でマークした細菌のモニタリング
1mlの細菌懸濁液(109 cells ml-1)を等量のEcP-01種菌(107~1011 pfu ml-1)と混合して、37℃において5分間インキュベートした。この細菌懸濁液の溶解は、懸濁液の濁度が減少することに基づいて、可視的に記録した。ライセート中のキチナーゼ活性を評価するために、バクテリオファージを接種して1時間後に種々の体積(5~100のμl)の混合物を回収し、遠心で除去した。活性は、すでに記載した蛍光アッセイによって測定した。隔離KPM-007E/chiは、次のように検出した。インキュベートしてから48時間後に、M9培地内に形成された細菌のコロニーを、マイクロタイタープレートのウェル内の10μlの検出溶液中に直接懸濁して、37℃において6時間インキュベートした。検出溶液は、EcP-01を1011pfu ml-1で、4MU-(GlcNAc)3 を3.0μg ml-1で含むグルコースフリーのM9培地である。KPM-007E/chiの蛍光を発しているライセートは、u.v.光の下で可視的に検出した。
【0039】
結果
葉面細菌の単離および分類学上の分類
本研究では、60本のトマトから200枚のトマトの葉をランダムに回収して、スタンプ培養に使用した。M9-キチン質培地中でゆっくりと葉をスタンプすることによって、68枚、および385枚の葉から、それぞれ707種の細菌、および7673種の酵母(出芽細胞を形成)のコロニーが得られた。これらすべてのコロニーを選択培地に移して、三種の細菌、および五種の酵母単離体に予備的に分類した。細菌で得られたものである、KPM-007Eは、トマトの葉から最も多く得られた単離体であり(54枚の葉から675コロニー)。このことは、この株が、トマト葉の表面に効率的にコロニーを作る株であることを示唆している。この株は、滑らかで、丸く、蛍光のない、光沢のない、白いコロニーを形成し、アンピシリンおよびストレプトマイシンに耐性であり、カナマイシンテトラサイクリン、およびクロラムフェニコールに感受性であった。KPM-007Eは、キチナーゼを分泌しなかった。この単離体を以下の実験において使用した。酵母単離体では、うまくキチン質分解酵素遺伝子が導入されなかったため、感染性ウイルスによる細胞溶解が起こらなかった。
【0040】
バーギーの同定細菌学のマニュアルによる判定基準を使用して、KPM-007Eは、周毛の鞭毛を有するグラム陰性、運動性、棒状(幅0.7-0.8μm、長さ2.0-2.4μm)の菌であることが特徴づけられた。増殖に最適な温度は、35-37℃であり、最大で60℃である。この細菌は、好気性で、酸化-発酵、ウレアーゼ、フェニルアラニン・デアミナーゼ、アルギニンジヒドロラーゼ、オルニチン脱炭酸酵素、フォゲス‐プロスカウエル試験、クエン酸塩(シモンズ)資化、およびエスクリン・ヒドロラーゼ活性に陽性であり、オキシダーゼ、リシン脱炭酸、インドール産生、および硫化水素産生葉、陰性であった。さらに、この細菌は、L-アラビノースおよびD-ソルビトールから好気的に酸を産生するが、D-アドニトール、ミオイノシトール、ラフィノース、およびL-ラムノースからは産生しなかった。
【0041】
キチナーゼSH1 (Ikeda et al. 1996)を産生させるために、KPM-007EをpACY/chiでトランスフォームした。表1は、Ent. cloacaeの親株(KPM-007E)、およびキチナーゼ遺伝子でトランスフォームした株(KPM-007E/chi)の間で、増殖、およびキチナーゼ生産の比較したものを示す。KPM-007E/chiは、1~3時間以内で指数関数的増殖を始め、およびインキュベーションから24時間後、最大となった。KPM-007E/chiは、もとの親株(KPM-007E)と同様に増殖したことから、chi-SH1のトランスフォーメーションは、KPM-007Eの本質的な増幅には影響を与えないことがわかる。KPM-007E/chiによって分泌されたキチナーゼは、キチナーゼSH1のN末端に位置するシグナル配列の作用によって、6時間後には培地中に検出することができ、インキュベーションから24時間後に最大に達する(Ikeda et al. 1996)。本発明者らは、このEnt. cloacae KPM-007E/chiを独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託したが受託拒否されたため、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている
【0042】
【表1】
JP0003726132B2_000002t.gif【0043】
ビルレントバクテリオファージの単離、および感染性
本実験における選別によって、KPM-007Eに対する感染力をもつの2種の異なった型のバクテリオファージが得られた。図1A、およびBは精製されたバクテリオファージ粒子(EcP-01、およびEcP-02)の電子顕微鏡写真である。それらは、KPM-007に感染した後、それぞれ透明、および濁ったプラークを形成した。透明バクテリオファージは、正二十面体のような等長性のヘッド(直径(40-50nm))、および短い尾部(1-2nm×0.05-0.1のnm)を備えていた。そして、若干の大腸菌バクテリオファージ(例えばT3、およびT7)を含むPodoviridaeファミリーと同様のものだった(Ackermann et al. 1997)。濁ったバクテリオファージは、より長い尾部(75-85nm×1-2つのnm)を伴った、より大きい二十面体の等長性のヘッド(60-80nm)を形成した。そして、Myoviridaeファミリーに帰属しているP2大腸菌バクテリオファージと同様のものだった(Ackermann et al. 1997)。両タイプのバクテリオファージでは、ベッドプレート、および2、3の尾部ピンを検出することができたが、尾部線維の構築は存在しないか、または検出するのに充分な構造保全を欠いていた。
【0044】
単離したバクテリオファージが認識する宿主株を決定するために、二重アガー層技術を使用して、種々のEnt. cloacae株にEcP-01、およびEcP-02を接種した(表2)。発明者らの事前の実験において、接種後の温度に依存して、EcP-01のプラークサイズが変化することがわかっている。したがって、種々の温度において二重層アガープレートをインキュベートした後に、両バクテリオファージによって形成されるプラークを調査した。両バクテリオファージは、限られた数の菌株にのみ感染することができた。EcP-01は、もとの宿主(KPM-007E)に対して37℃において大きな透明なプラークを形成した。また、EcP-02は、KPM-007EおよびIFO3320に対して、テストしたすべての温度において濁ったプラークを形成した。さらに、EcP-01およびEcP-02は、キチナーゼ遺伝子でトランスフォームされた株(KPM-007E/chi)に対しても、それぞれのタイプのプラークを形成したことから、これら二種のバクテリオファージは、KPM-007E株のもとの細胞、およびchiSH1形質転換体のいずれに対しても、同様の感染性を有することが示された。このファージEcP-01、およびEcP-02は、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている。
【0045】
【表2】
JP0003726132B2_000003t.gif【0046】
バクテリオファージ感染によす細菌懸濁液の溶解、およびライセート中のキチナーゼ活性の検出
KPM-007EおよびKPM-007E/chi細菌懸濁液(109 cfu ml-1)に、109~1011 pfu ml-1のEcP-01およびEcP-02を、炭素源の非存在下で接種した。接種後の細菌懸濁液が溶解する時間経過を、表3に示す。これらのバクテリオファージが感染して溶菌した結果、炭素源のない条件下においても、濁った細菌懸濁液が透明になっていった。バクテリオファージ粒子の添加量を増加すると、透明になるのも早くなった。最も早く透明になった(接種から1時間後)のは、EcP-01を1011 pfu ml-1で接種した場合であった。KPM-007EおよびKPM-007E/chiの間で、細菌が溶解する時期は同じであった。図2には、EcP-01を1011 pfu ml-1で接種した細菌培養液(109 cells ml-1)のライセートにおける4MUの蛍光を示したものである。4MUを検出するために100μlのライセートを使用した場合、蛍光は、接種してから1時間後に検出され、急速に増加して、3~5時間後に最大に達した。4MUの蛍光は、酵素反応に少量のライセートを使用した場合と同じであった。一方、親株であるトランスフォームされていない細菌のライセートでは、接種してからも全く蛍光がなかった(data not shown)。
【0047】
【表3】
JP0003726132B2_000004t.gif【0048】
キチナーゼ遺伝子がトランスフォームされたバクテリアの迅速な検出
接種から48時間後のM9培地において形成されたKPM-007E/chiの単一コロニーを、グルコースフリーの液体M9培地に少量(10μl)滴下して移し、細胞濃度を見積もった。これらの濁った懸濁液は、109ml-1以上の菌体(1.1x109~4.8x109 cells ml-1の間)を含み、マイクロタイタープレートのバックを暗色に配置することによって、懸濁液の溶解を可視化することができた。したがって、小規模の細菌培養においても、このモニター方がうまくいくことが明らかとなった
表4では、小スケールの細菌サンプルにおける4MUの蛍光を、u.v.照射によって検出可能なことを示している。KPM-007E/chiの単一コロニーを検出溶液にバクテリオファージとともに移した場合にのみ、短いインキュベーション時間(30秒)で蛍光が放射された。インキュベーションしてすぐに、弱い蛍光が検出でき、蛍光強度は30秒後に最大となった。一方、トランスフォームされていない親株(KPM-007E)では、インキュベーション期間にわたって蛍光はなかった。本アプローチでは、K. zopfii KI2-119株(この株は、細胞外にキチナーゼを分泌し、M9キチン質培地上のコロニーのまわりに大きいハローを形成した(Ikeda et al., 1993))の単一コロニーにおいても、同様の4MU蛍光の放射を調査したが、グルコースフリーの液体M9培地で6時間インキュベートしても蛍光は放射されなかった。
【0049】
【表4】
JP0003726132B2_000005t.gif【0050】
この検出系が、他のEnt. cloacae株にも適用可能であるかを調べるために、IFO3302をpCAY/chiでトランスフォームして、単一コロニーから細菌をとり、ビルレントなバクテリオファージEcP-02を含む検出溶液に懸濁した。その結果、同じ期間インキュベートすると、EcP-02が感染することによって溶解するために4MUの蛍光が検出された(表4)。このことは、他のEnt. cloacae株においても、キチナーゼ遺伝子でトランスフォームして、ビルレントなバクテリオファージを感染した後の検出に、本検出系が、有用であることを示している。
【0051】
考察
スタンプ培養法を使用することにより、Ent. cloacaeを含む葉に生息する微生物を、温室で育てたトマトの葉から単離して、容易に培地に移すことができた。これは、微生物が、葉に緩やかに接着しているためであろう。単離したKPM-007Eは、温室トマトにおいて最も多く検出された株である。Ent. cloacaeが葉面でコロニーを形成することは、数人の研究者によって報告されており(Ladha et al. 1983; Perdersen および Leser 1992)、Ent. cloacaeの主要な特徴の一つである。この株が安定してコロニーを形成するメカニズムは、明らかではないが、トランスポゾンに変異のあるEnt. cloacaeでは、カザミノ酸の非存在下において、キュウリの種子表面にコロニーを形成できないことが報告されている(Roberts et al. 1996)。また、このタイプの細菌は、多糖から成る糸のような繊維によって不活性表面に付着するか、またはEnterobacteriaceae細菌細胞の被包性の表面構造能力を示すだろうと指摘されている。葉の表面で安定してコロニーを形成することは、葉面で植物病原菌または草食性害虫に遭遇する生物防除剤の必要条件である(Andrews 1992)。これらの葉面細菌は、接合するか、または形質転換することによって改良され、微生物ベクターとなる可能性がある。実際に、Ent. cloacaeの株は、遺伝子で遺伝的にトランスフォーメーションされて、桑実状メイガ幼虫に対する生態防除剤として使用されている(Watanabe et al. 2000)。本実験において、発明者らは、効率よくキチナーゼ遺伝子でKPM-007Eをトランスフォームさせて、このトランスジェニック株がキチナーゼSH1を産生することを証明した。実際に、この実験では、キチン質である病原体の細胞壁、または昆虫中腸のペリトロフィック膜を酵素で消化することにより、トマトの着生菌類病原体または葉食性害虫を抑制することを目的とした。
【0052】
【発明の効果】
本発明において、発明者らは、植物葉から葉面細菌を単離することができ(たとえば、KPM-007E)、該葉面細菌にキチナーゼ遺伝子を導入することができ(たとえば、KPM-007E/chi)、該キチン質分解酵素が導入された細菌によく感染するバクテリオファージ(たとえば、Podoviridae-型バクテリオファージ(EcP-01))を単離することに成功し、キチン質分解酵素遺伝子をトランスフォームしたバクテリアに、このビルレントバクテリオファージを感染させて溶菌させることよってモニタリングする系を開発することが可能となった。このモニタリング系では、バクテリオファージ(たとえばEcP-01)がキチン質分解酵素遺伝子をトランスフォームされた細菌に感染すると、溶解して培地にキチン質分解酵素が迅速に放出されるので、もとの細菌とトランスフォームされた細菌を容易、かつ迅速に区別することが可能となる。また、このバクテリオファージは、炭素源の非存在下においても宿主細菌細胞に感染するため、このような炭水化物のない条件(グルコース、およびキチン質のないM9培地)を使用すれば、混入細菌の増殖を最小限にすることができ、たとえば、前記マークされたバクテリアを非滅菌条件下で検出することが可能となる。実際に、グルコース存在下ではキチン質分解性の葉面細菌は、キチン質分解酵素を分泌して、そのコロニーの周りにハローを形成するが、炭素源を欠いた培地中では、全く蛍光を産生しなかった。したがって、本発明のキチン質分解酵素遺伝子がトランスフォームされた細菌は、この細菌に特異的なバクテリオファージが感染して溶菌することを指標として追跡が可能であり、トランスフォームされていないもとの株、またはその他のEnt. cloacae株、およびキチン質分解酵素を分泌する細菌による影響を受けることもない。さらに、本アッセイ方法は、簡便で、迅速、かつ安価であり、種々の細菌株に対しても容易に適用可能である。したがって、このモニタリング系は、細菌をモニタリングするために日常的に使用することができ、トランスジェニックさいきん(たとえばトランスジェニックEnt. cloacae株)を植物病に対する拮抗的生体制御剤として使用した場合の影響を調査するためにも使用できる。
【0053】
すなわち、方法は広範囲の細菌種に適用可能であり、目的とする細菌を特異的に追跡調査できることから、生物防除資材として使用する細菌の挙動解析などにも有効である。
【0054】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 Ent. cloacae KPM-007Eに感染性のバクテリオファージEcP-01(A)およびEcP-02(B)の電子顕微鏡写真(線は20nmである)。
【図2】 EcP-01が感染することによって溶菌したKPM-007E/chiのキチナーゼによって4MU-(GlcNac)3が分解された結果生じた4MU蛍光を示す図(キチナーゼ活性の検出には、各時間培養後の10μl(白丸)および100μl(黒丸)のライセートを使用した)。
図面
【図1】
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【図2】
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