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明細書 :食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌を内包したアルギン酸マイクロビーズによる害虫駆除の方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3686945号 (P3686945)
公開番号 特開2004-099465 (P2004-099465A)
登録日 平成17年6月17日(2005.6.17)
発行日 平成17年8月24日(2005.8.24)
公開日 平成16年4月2日(2004.4.2)
発明の名称または考案の名称 食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌を内包したアルギン酸マイクロビーズによる害虫駆除の方法
国際特許分類 A01N 63/00      
A01N 25/28      
C12N  1/20      
C12N  1/21      
FI A01N 63/00 F
A01N 25/28
C12N 1/20 E
C12N 1/21
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 FERM P-18997
全頁数 22
出願番号 特願2002-260419 (P2002-260419)
出願日 平成14年9月5日(2002.9.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成14年3月26日東北大学において開催された社団法人日本農芸化学会2002年度大会において発表
審査請求日 平成14年9月5日(2002.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】眞山 滋志
【氏名】土佐 幸雄
【氏名】大津 康成
【氏名】豊田 秀吉
【氏名】桜谷 保之
【氏名】松田 克礼
【氏名】野々村 照雄
【氏名】瀧川 義浩
【氏名】森 裕文
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】吉住 和之
参考文献・文献 特開昭62-116501(JP,A)
特開平04-164008(JP,A)
特開昭63-022005(JP,A)
調査した分野 A01N 63/00
A01N 25/28
C12N 1/20
C12N 1/21
特許請求の範囲 【請求項1】
キチン質分解酵素を導入したエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)またはキチナーゼ分泌株アルカリジェネス・パラドクサス(Alcaligenes paradoxus)のいずれかのキチン質分解性細菌を内包することを特徴とするアルギン酸マイクロビーズ。
【請求項2】
キチン質分解酵素を導入したエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)またはキチナーゼ分泌株アルカリジェネス・パラドクサス(Alcaligenes paradoxus)のいずれかのキチン質分解性細菌、および該細菌に感染可能なファージを内包することを特徴とするアルギン酸マイクロビーズ。
【請求項3】
請求項2に記載のアルギン酸マイクロビーズであって、前記キチン質分解性細菌がKPM-007E/chiであり、前記ファージがEcP-01であるマイクロビーズ。
【請求項4】
請求項13のいずれか一項に記載のアルギン酸マイクロビーズであって、前記キチン質分解性細菌がKPM-012Aであるマイクロビーズ。
【請求項5】
請求項14のいずれか一項に記載のアルギン酸マイクロビーズを散布することを特徴とするニジュウヤホシテントウ駆除のための方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キチン質分解性細菌、および該細菌に感染可能なファージを内包することを特徴とするアルギン酸マイクロビーズに関する。さらに、本発明は、前記アルギン酸マイクロビーズを散布することを特徴とする害虫駆除のための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術および発明の背景
植物の葉の表面に安定したコロニーを作る微生物は、葉面病原菌、または食葉害虫を抑制する分子を導入するための生物学的なベクターとなると考えられ(Andrews 1992)、これら株の多くが、植物病原菌を生物学的に制御するための有効なアンタゴニストとして使用されている(Hadar et al. 1983; Wilson et al. 1987; Howell et al 1988; Nelson and Craft 1991; Okamoto et al. 2000; Tsuda et al. 2001)。
【0003】
本発明者らは、日本中の温室トマトを荒らすうどんこ病菌および植物食性のテントウムシを効果的に生物防除するためのベクターとして使用できる葉面細菌を単離すべく、温室トマトの葉に生息する葉面細菌のスクリーニングを行った。その結果、葉面細菌Enterobacter cloacaeを単離することに成功した(Matsuda et al. 2001)。
【0004】
また、上述のようなEnterobacter cloacae細菌は、この細菌を噴霧した葉を与えられた草食性ヨトウムシ幼虫の腸内、および糞便のペレット中においても生存したままであることが報告されている(Armstrong et al. 1989)。WatanabeおよびSato (1998)らは、植物および昆虫に生息する細菌、および臨床株で処理した餌を与えたカイコ幼虫の腸内、および糞便においても、このような細菌が生存していることを明らかにしている。
【0005】
これまでに、発明者らは、グラム陽性および陰性細菌からキチナーゼとキトサナーゼ遺伝子をクローニングしており、その酵素学的特徴についても詳細に検討を行っている。キチン質分解性酵素の食葉性害虫に対する効果を検討するため、クローニングしたキチナーゼ遺伝子を大腸菌で発現させ、トマト食葉害虫であるニジュウヤホシテントウに直接処理したところ、キチナーゼによる摂食抑制効果、および昆虫中腸膜に及ぼす影響を確認することができた。そこで、温室トマトを荒らす植物食性のテントウムシのキチン質を分解することによって、効果的に生物防除すべく、前記Enterobacter cloacae細菌にキチナーゼ遺伝子を導入することを考え、これに成功した。このような細菌を応用して、食葉性害虫の駆除に際し、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌を使用することができることに着目し本発明をするに至った。
【0006】
一方、害虫の生物防除を実施する際には、使用する拮抗微生物の処理方法が問題となり、その処理が防除効果に大きな影響を与えることとなる。上述のようなトランスフォームされた細菌を使用する際に、この株を配慮なく使用することによって、この株が予想外に自然界に残存することとなり、標的としない植物および動物に日和見感染するといった潜在的なリスクが存在することも考慮しなければならない。このため、使用した細菌を溶菌させるなどの方法によって、拮抗微生物が拡散しない方法が必要とされている。
【0007】
また、生物防除に使用する微生物資材の新しい処理方法としてアルギン酸ビーズの使用が考えられるが、適用範囲が広く、複数の微生物を混合することが可能で、内包できる生物および物質の制限が少ない微小ビーズは、これまでに開発されていない。アルギン酸ビーズに根瘤菌を内包し、植物根に処理した例が存在するが、その目的は根瘤菌の根部における局在化と高密度化を目的としたものであった。また、アルギン酸ビーズにキチン質分解性放線菌を内包し、土壌改良材として利用した例もあるが、その場合でも高密度化を目的としており、使用するビーズのサイズが大きく、植物葉など地上部への適用は不可能であり、特に食葉性害虫の大きさを考えると昆虫に対する効果は期待できなかった。
【0008】
本発明者らは、このような細菌内包ビーズを直径100μm以下に調製すれば、噴霧処理した植物葉を昆虫に摂食させることが可能であることに着目した。アルギン酸ナトリウムにキチン質分解性細菌を懸濁して塩化カルシウム液に滴下すれば、それらを内部に含む球形のアルギン酸ビーズを作製することができる。作製方法を工夫することによりビーズのサイズおよび内包する微生物の密度を自由に変更することも可能であり、凍結乾燥を施しても内包細菌の生存率は保持されたままであることを発見した。上記知見から、本発明者らは、対象害虫が摂食可能なマイクロビーズ(直径100μ以下)を制作し、このようなマイクロビーズ内に、機能の異なる複数の細菌、およびそれを宿主とするファージを同時に内包させて、これを植物葉に噴霧すれば、食葉性害虫を駆除することができると考え本発明をするに至った。
【0009】
【非特許文献1】
Ikeda, S., H. Toyoda, Y. Matsuda, M. Kurokawa, T. Tamai, K. Yoshida, C. Kami, T. Ikemoto, M. Enomoto, K. Shiraishi, S. Miyamoto, M. Hanaoka, and S. Ouchi.、Cloning of a chitinase gene chiSH1 cloned from gram-positive bacterium Kurthia zopfii and control of powdery mildew of barley.、“Ann. Phytopathol. Soc. Jpn.”、(Japan)、1996年、62巻、p.11-16
【0010】
【非特許文献2】
Matsuda, Y., Kashimoto, K., Takikawa, Y., Aikami, R., Nonomura, T. and Toyoda, H.、Occurrence of new powdery mildew on greenhouse tomato cultivars.、“Journal of General Plant Pathology”、(Japan)、2001年、67巻、p.294-298
【0011】
【非特許文献3】
Toyoda, H., M. Morimoto, and S. Ouchi.、Immobilization of chitin-degrading microbe in alginate gel beads and its application to suppression of fungal pathogens in soil.、“Bull. Inst. Compr. Agr. Sci. Kinki Univ.”、(Japan)、1994年、2巻、p.21-28
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の諸知見を利用して、新たな食葉性害虫の防除手段を開発することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌を内包することを特徴とするアルギン酸マイクロビーズを提供する。さらに、本発明は、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌、および該細菌に感染可能なファージを内包することを特徴とするアルギン酸マイクロビーズを提供する。
【0014】
また、前記アルギン酸マイクロビーズを使用して害虫を駆除する方法を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に記載する。
【0016】
本発明に使用する食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌とは、食葉性害虫が該細菌を摂食した場合に、該食葉性害虫による葉の摂食を抑制する効果を有する細菌を意味する。たとえば、該細菌の摂食後に、単にその細菌による葉の摂食量を減少させることによる抑制効果であってもよいが、該細菌の摂食後にその細菌の生存率を減少することによる抑制効果、または摂食後の産卵率を減少することによる抑制効果であってもよい。また、前記細菌は、天然に存在する細菌であってもよいが、人為的に食葉性害虫に対し抑制効果を有する遺伝子が導入された細菌であってもよい。本発明に使用する食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌は、好ましくは、キチン質分解性細菌である。キチン質分解性細菌とは、キチン質分解酵素が人為的に導入された細菌、またはキチン質分解酵素(たとえばキチナーゼ)を分泌する天然に存在する細菌を意味する。
【0017】
本発明において、前記食葉性害虫に対し抑制効果を有する遺伝子(たとえば、キチン質分解酵素)が導入される細菌は、どのような細菌であってもよいが、好ましくは、前記食葉性害虫を駆除したい葉から単離された菌である。たとえば、トマトの害虫を駆除する場合、トマトの葉に生息する葉面細菌であり、特に好ましくは、Enterobacter cloacae株である。前記細菌を単離する方法は、当業者に周知のいずれの方法を使用して単離してもよい。以下に、本発明の方法に使用する細菌の単離法の一例を、トマトの葉に生息する葉面細菌の単離を例にして示す。
【0018】
トマトの葉をランダムに回収して、葉の上面を、M9最小アガー培地を2分間接触させて、26℃において4~5日間インキュベートする。インキュベート後、それぞれの葉からコロニーが得られるので、これらコロニーを選択培地に移してコロニーを単離すればよい。前記単離法によって単離された細菌(Ent. cloacae細菌)の一例として、トマトの葉から最も多く得られた単離体をKPM-007E株とした。この株の菌学的性質は、以下の実施例に示した。
【0019】
前記食葉性害虫に対し抑制効果を有する遺伝子(たとえば、キチン質分解酵素遺伝子)を上記細菌に導入するための方法は、当業者に既知のいずれの方法であってもよい。たとえば、一般的な遺伝子組換え技術を使用して食葉性害虫に対し抑制効果を有する遺伝子(たとえば、キチナーゼ遺伝子またはキトサナーゼ遺伝子)を導入することができる。具体的には、キチナーゼ遺伝子を導入する場合、グラム陽性細菌Kurthia zopfii(Ikeda et al. 1996)に由来するキチナーゼ遺伝子chiSH1 (DDBJ, D63702)を適切なプロモーター、たとえばEnt.cloacaeのpstオペロンのプロモーター(Kusaka et al. 1997)につなぎ、プラスミドベクターに挿入する。前記プロモーター配列は、ヌクレオチド配列(DDBJ、D69963)にしたがって人工的に合成した一組のプライマーを使用して、通常のPCRによってEnt. cloacae IFO3320のゲノムDNAから増幅することによって得ることができる。また、前記プラスミドベクターには、テトラサイクリン耐性遺伝子などの選択マーカーを含んでいることが好ましい。作製したプラスミドを、当業者に既知の方法によって前記細菌に導入することができる。たとえば、以前に記載した方法(Toyoda et al. 1991)に従って、前記細菌にエレクトロポレーションによって導入すればよい。
【0020】
プラスミドをエレクトロポレーションした細菌は、たとえばテトラサイクリン耐性遺伝子マーカーを含むプラスミドを導入した場合、20μg ml-1のテトラサイクリンの存在下でスクリーニングすることによって、トランスフォームされた細菌を選択することができる。前記KPM-007E株に上述の方法でキチナーゼ遺伝子を導入した株をKPM-007E/chiと命名した。この株を独立行政法人産業技術総合研究所 特許性物寄託センターに寄託したが受託拒否されたため、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている
【0021】
また、本発明において、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌は、上記したとおり、食葉性害虫に対し抑制効果を有する遺伝子を人為的に導入した細菌であってもよいが、天然に存在する細菌であってもよい。該細菌は、どのような細菌であってもよいが、キチン質分解性細菌の場合、好ましくは、トマトの葉に生息する葉面細菌であり、特に好ましくは、アルカリジェネス・パラドクサス(Alcaligenes paradoxus)株である。前記細菌の単離は、当業者に周知のいずれかの方法を使用して単離すればよい。以下に、本発明の方法に使用する細菌の単離法の一例を、トマトの葉に生息するキチン質分解酵素(キチナーゼ)分泌性葉面細菌の単離を例にして示す。
【0022】
トマトの葉をランダムに回収して、葉の上面に2%(v/w)コロイド性キチンを補ったM9最小アガー培地を2分間接触させて、26℃において4~5日間インキュベートする。前記コロイド性キチン質は、HiranoおよびNagao (1988)の方法に従って調製した。コロニーのまわりの透明な領域(ハロー)が形成されることを指標として、細胞外にキチナーゼが分泌されていることを判断し、コロニーを得ればよい。得られたコロニーを通常の濃度で抗生物質を含む(20μg ml-1テトラサイクリン、50μg ml-1アンピシリン、50μg ml-1ストレプトマイシン、50μg ml-1カナマイシン、および100μg ml-1クロラムフェニコール)M9-キチン質培地に移し、単離した細菌である単離KPM-007Eの細菌学的な特徴を調べ、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th Ed.)によって分類学上の同定を行えばよい。前記単離法によって得られたキチナーゼ分泌性細菌の一つは、アルカリジェネス・パラドクサス(Alcaligenes paradoxus)株細菌であり、これをKPM-012A株とした。この株の菌学的性質は、以下の実施例に示した。また、この株を独立行政法人産業技術総合研究所 特許性物寄託センターに寄託した(受託番号FERM P-18997)。
【0023】
本発明において使用するバクテリオファージ(以下、単にファージともいう)は、前記食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌を指示菌として土壌試料から得ることができる。本発明において、従来より見出されている特定の細菌を使用する場合は、該細菌に特異的に感染するバクテリオファージを、例えば、American Type CultureCollection(ATCC)から入手可能である。入手可能な株の詳細は、例えば、ATCCによる「Catalogue of Bacteria &Bacteriophages」に公表されている。しかし、目的とする細菌に特異的に感染するバクテリオファージが発見されていない場合は、新たにこのようなバクテリオファージを土壌中から見出して使用すればよい。土壌中には、種々の細菌に特異的に感染するバクテリオファージが存在することが知られており、当業者に周知の方法(例えば、LoessnerおよびBusse、Appliedand Environmental Microbiology、第56巻、第1912~1918頁(1990)、および「Bacteriophages」Interscience Inc. 第447~455頁(1959)を参照のこと)を使用してスクリーニングを行うことによって、特定の細菌にのみ感染するファージを得ることができる。たとえば、土壌試料から二重アガー層技術(寒天重層法)を使用して単離すればよい。簡単には、土を滅菌水中に懸濁して、5分間激しく攪拌し、次に土壌粒子を除去するために低速で遠心する。上清をろ紙(細孔寸法0.22μm)に通して、前記細菌(108細胞ml-1)を含む溶解M9アガー培地(6gアガーl-1)と混合して、ペトリプレート中のM9アガー(15gアガーl-1)の底層の上へまく。37℃において3日間インキュベーションした後、重なり合っていないプラークからバクテリオファージを回収して、単プラーク分離を数回行って精製する。さらに、Yamamoto et al. (1970)の方法に従って、バクテリオファージをさらに精製してもよい。詳細には、前記細菌のライセートを、膵臓DNase、およびRNaseで処理して、塩化ナトリウム遠心沈降を行う。遠心(11,000×g for 10分、4℃)した後、固体ポリエチレングリコール(PEG 6000)で沈殿したバクテリオファージ粒子の上清に、0.5g ml-1で添加する。このバクテリオファージペレットをSMバッファー(1lの水に5.8g NaCl, 2g MgSO4・7H2Oおよび5mlの5%ゲラチンを含む1mol l-1 Tris-HCl, pH7.5)に溶解して、塩化セシウム段階グラジエント(1.15~1.7g ml-1の層)の上へ層にして添加し、4℃において20000×gで2時間遠心する。1.45~1.50g ml-1の層の界面にあるバクテリオファージ粒子の青いバンドを、マイクロピペットで回収する。100倍量のSMバッファーに対して透析して、塩化セシウムを除去することによって、バクテリオファージを精製することができる。
【0024】
本発明に使用するバクテリオファージは、使用する細菌に特異的に感染するいずれのバクテリオファージでもよいが、たとえば、前記食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌としてKPM-007E/chi株を使用する場合、以下の実施例において単離したEcP-01が好ましい。このファージは、本発明者らの研究室(近畿大学農学部植物病理学研究室)において、分譲可能に保存されている。
【0025】
本発明において、アルギン酸マイクロビーズとは、アルギン酸カルシウムのゲル状ビーズを意味する。該マイクロビーズは、当業者に既知の方法で調整すればよい。たとえば、以前に記載した方法(Toyoda et al., 1994)によって調製することができる。
【0026】
具体的には、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌(たとえば、キチン質分解性細菌)、および該細菌に感染可能なファージを内包するビーズの場合、前記細菌を培養し、遠心等で菌体を回収して、適切な濃度、たとえば最終濃度2×109 cells/mlとなるように適切な培地に懸濁する。たとえば上述のKPM-007E/chi株の場合、液状M9培地に懸濁すればよい。培養液中の菌体数は、血球計算板を使用して位相差顕微鏡法で計測すればよい。次いで、該培養液とファージを適切な濃度で混合する(たとえば、EcP-01の場合、細菌109 cells/mlに対して、1011ファージ粒子が好ましい)。次いで、該微生物サンプルを同体積の4%(w/v)アルギン酸ナトリウムと混合する。前記混合液を2%の塩化カルシウム中にノズル(先端径50μm)から放出すると、細菌が内包されたアルギン酸カルシウムの球状ビーズが形成される。異なるチップ-サイズを有するノズルを使用すれば、ビーズの大きさを変更することができる。形成されたビーズを種々の口径メッシュで回収し、蒸留水で洗浄して使用すればよい。
【0027】
食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌のみを内包する(ファージを含まない)ビーズを調整する場合は、前記方法において、ファージを混合する工程を省略すればよい。
【0028】
また、前記アルギン酸マイクロビーズには、食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌、キチン質分解性細菌、および該細菌に感染可能なファージ以外を内包していてもよい。さらに、前記アルギン酸マイクロビーズには、複数種の細菌、および該細菌に感染可能なファージを内包していてもよい。最近、発明者らは、自然に感染したテントウムシから昆虫病原性のPseudomonas sp.株(大量のプロテアーゼ、およびキチナーゼを産生する株)を単離した。これらの酵素の遺伝子を昆虫病原性の細菌からクローン化し、草食性害虫を制御するためのより有効な薬剤を得るために、KPM-012A株にこの遺伝子を導入した(未発表データ)。このトランスジェニック細菌は、上記細菌と同じビーズ内に安定して共存することができた。したがって、このように複数種の細菌を内包することによって、複数の食葉性害虫に対して抑制効果を発揮することも可能になるであろう。
【0029】
さらに、本発明のアルギン酸マイクロビーズは、上述のように作製したものをそのまま使用してもよいが、凍結乾燥して使用することもできる。凍結乾燥することによって、取り扱いが非常に容易になるであろう。
【0030】
また、本発明は、上述のアルギン酸マイクロビーズを散布することを特徴とする害虫駆除のための方法を提供する。前記方法には、駆除したい害虫に適した細菌、および該細菌に感染可能なファージを内包するアルギン酸マイクロビーズを作製し、該マイクロビーズを散布すればよい。前記駆除したい害虫に適した細菌とは、駆除したい食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌であり、上述したとおり、駆除したい食葉性害虫が生息する植物から単離することができるであろう。
【0031】
前記散布方法は、どのような方法であってもよいが、通常はアルギン酸ビーズを噴霧器等による噴霧によるであろう。また、前記散布は、適切な(食葉性害虫に対し抑制効果を有する)散布回数、散布量で行えばよい。
【0032】
【実施例】
以下、本発明の実施例を記載する。
【0033】
材料および方法
1.キチン質分解性細菌の単離、および作製
葉面細菌の単離および同定
温室(26 ± 6℃)で2月生長させたトマト (Lycopersicon esculentum Mill, cv. Moneymaker)から、完全に成長した葉をランダムに回収して、ちぎった葉の上面に2%(v/w)コロイド性キチン質を補ったM9最小アガー培地(水1l中に、12.8g Na2HPO47H2O, 3g KH2PO4, 0.5g NaCl, 1g NH4Cl および4g グルコース)(M9-キチン質培地)を2分間接触させて、26℃において4~5日間インキュベートした。前記コロイド性キチン質は、HiranoおよびNagao (1988)の方法に従って調製した。コロニーのまわりの透明な領域(ハロー)の形成されることによって、細胞外にキチナーゼが分泌されていることを判断した。得られた全ての微生物コロニーを、通常の濃度で抗生物質を含む(20μg ml-1テトラサイクリン、50μg ml-1アンピシリン、50μg ml-1ストレプトマイシン、50μg ml-1カナマイシン、および100μg ml-1クロラムフェニコール)M9-キチン質培地に移した。単離した細菌である単離KPM-007E、KPM-012Aの細菌学的な特徴を調べ、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th Ed.)によって分類学上の同定を行った。
【0034】
KPM-007Eへのキチン遺伝子の導入
グラム陽性細菌Kurthia zopfii(Ikeda et al. 1996)に由来するキチナーゼ遺伝子chiSH1(DDBJ, D63702)をEnt.cloacaepstオペロンのプロモーター(Kusaka et al. 1997)につなぎ、プラスミドベクターpACYC184(S. Yasuda, 国立遺伝学研究所、三島、日本によって提供された)に挿入した。このベクターは選択マーカーとしてテトラサイクリン耐性遺伝子を含んでいる。前記プロモーター配列は、ヌクレオチド配列(DDBJ、D69963)にしたがって人工的に合成した一組のプライマーを使用して、PCRでEnt. cloacae IFO3320のゲノムDNAを増幅することによって得た。新しく造られたプラスミド(pACY/χ)は、以前に記載した方法(Toyoda et al. 1991)に従って、KPM-007Eにエレクトロポレーションによって導入した。トランスフォームした細菌を、20μg ml-1のテトラサイクリンの存在下でスクリーニングして、そのキチナーゼ生産を検討した。4-メチルウンベリフェリルN,N',N''-テトラアセチル-β-D-キトトリオシド(4-methylumbelliferyl-β-D-N,N',N''-triacetylchitotrioside)(4MU-(GlcNAc)3)(Sigma, St. Louis, MO, USA)を基質として使用したMcCreathおよびGooday (1992)の方法によって、キチナーゼ活性を測定した。細菌培養液(100μl)を遠心して沈殿させ、900μlのpH7のMcIlvaineのバッファー(17.8mlの0.1moll-1クエン酸、および82.2mlの0.2moll-1二塩基性リン酸ナトリウム)に混合した。0.134mg ml-1の4MU-(GlcNAc)3を50μl添加して、酵素反応を開始した。37℃において10分間インキュベーションした後、1.2mlの1mol l-1 グリシン/NaOHバッファー(pH 10.6)を添加して反応を終結させ、島津RF-5000の蛍光分光光度計を使用して、4-メチルウンベリフェロン(4MU)の蛍光をモニターした。4MU量は、pH7.0の同じバッファー中における、標準の4MUの較正曲線にしたがって概算した。培養中に菌体の数は、血球計算板、および位相差顕微鏡法を使用して決定した。
【0035】
KPM-007Eに対する感染力をもつビルレントバクテリオファージの単離
ビルレントバクテリオファージは、二重アガー層技術(寒天重層法)(Hurst 1997)によって、温室土壌試料から得た。土を滅菌水中に懸濁して、5分間激しく攪拌し、次に土壌粒子を除去するために低速で遠心した。上清をろ紙(細孔寸法0.22μm)に通して、KPM-007E (108 cells ml-1)を含む溶解M9アガー培地(6gアガーl-1)と混合して、ペトリプレート中のM9アガー(15gアガーl-1)の底層の上へかぶせた。37℃において、3日間インキュベーションした後、重なり合っていないプラークからバクテリオファージを回収して、単プラーク分離を数回行って精製した。
【0036】
Yamamoto et al. (1970)の方法に従って、バクテリオファージをさらに精製した。細菌ライセートを、膵臓DNase、およびRNaseで処理して、塩化ナトリウム遠心沈降を行った。遠心 (11,000×g for 10 min at 4℃)した後、固体ポリエチレングリコール(PEG 6000)を沈殿したバクテリオファージ粒子の上清に、0.5g ml-1で添加した。このバクテリオファージペレットをSMバッファー(1lの水に5.8 g NaCl, 2g MgSO4・7H2O および5 ml の5% ゲラチンを含む、1mol l-1 Tris-HCl, pH 7.5)に溶解して、塩化セシウム段階グラジエント(1.15~1.7g ml-1の層)の上へ層にして、4℃において20000×gで2時間遠心した。1.45~1.50 g ml-1の層の界面にあるバクテリオファージ粒子の青いバンドを、マイクロピペットで回収した。100倍量のSMバッファーに対して透析して、塩化セシウムを除去した。接種のために、バクテリオファージ溶液をグルコースフリーのM9液体培地(アガーなし)で10~100倍に稀釈した。
【0037】
Ent. cloacaeの系統
本研究において使用した系統は、 SM10 (Tsuda et al. 2001)、T-1-14 (Okamoto et al. 2000)、JCM 1232 (ATCC 13047) (Takahashi et al. 1997)、Mull 1, Him 7a, Tob 23、およびWBM H3 (Watanabe and Sato 1998)、並びにIFO3320 (provided from Institute for Fermentation, Osaka, Japan)である。これらのEnt. cloacae株に、二重アガー層技術によって単離されたバクテリオファージを接種した。すなわち、細菌を、バクテリオファージを含むM9上層アガーで包理して、種々の温度において2日間インキュベートして、プラーク形成、またはサイズ、および形成したプラークの出現(透明または濁っている)を調べた。
【0038】
2.キチナーゼ活性の測定
キチナーゼ活性は、基質として4MU-(GlcNAc)3を使用して、McCreath、およびGooday(1992)の方法で測定した。すなわち、細菌培養液(100μl)を遠心によって沈殿させ、pH 7.0 McIlvaineのバッファー(0.1Mのクエン酸17.8ml、および82.2mlの0.2M二塩基性リン酸ナトリウム)900μlと混合した。0.134 mg/mlの4MU-(GlcNAc)3を50μl添加して、酵素反応を開始した。37℃において10分間インキュベーションした後、1.2mlの1Mグリシン/NaOHバッファー(pH 10.6)を添加して反応を終了し、および放出された4-メチルウンベリフェロン(4MU)の蛍光を島津RF-5000蛍光分光光度計でモニターした。4MUの量は、pH 7.0の同じバッファーにおける標準4MUの較正曲線から推定した。1ユニットの精製したキチナーゼとは、26℃において毎分1μmolの4MUのを生じる酵素量を表す。総タンパクは、ブラッドフォード(1976)の方法によって決定した。酵素試料の精製度を、キチナーゼの比活性(U/mgタンパク質)として表した。
【0039】
3.草食性害虫
成虫ニジュウヤホシテントウムシEpilachna vigintioctopunctata(甲虫類:テントウムシ科)を野外トマトから回収し、グロースチャンバー中でトマトの苗 (Lycopersicon esculentum, L. cv. Moneymaker)を1月間育成した(26±1℃(16時間-光周期))。細菌を含むアルギン酸ビーズをスプレーされたトマトの葉を、四日-虫齢、および成体(毛状体から5日後)に経口摂取させた。
【0040】
4.細菌懸濁液による処理、および電子顕微鏡による観測
成虫テントウムシに12時間餌を与えないように、湿度の14-15%に保たれたデシケータ内に隔離した。次いで、細菌懸濁液(109細胞/ml)に30分浸した紙の上においた。細菌懸濁液を摂取した昆虫を、餌のないペトリ皿内で24時間飼育して、消化管を切除した。消化管を解剖顕微鏡の下で解剖し、ガラススライドに広げて平らにおいた。アセトン濃度をあげて(50~100%)、および酢酸イソペンチルの濃度を増大して、試料を脱水した。臨界点-乾燥した試験片を金属-蒸発によって被覆して、および日本電子光学JSM-5400LV走査型電子顕微鏡で観察した。
【0041】
5.細菌が内包されたアルギン酸ビーズの製法
アルギン酸カルシウムのゲル状ビーズは、以前に記載した方法(Toyoda et al., 1994)によって調製した。簡単には、細菌を液体M9培地において12時間浸透培養し、遠心で菌体を回収して、最終濃度2×109 cells/mlとなるように液状M9培地に懸濁した。培養液中の菌体数は、位相差顕微鏡法を使用して、血球計算板で計測した。微生物サンプルを同体積の4%(w/v)アルギン酸ナトリウムと混合して、アルギン酸カルシウムの球状ビーズ作るために、2%の塩化カルシウム中にノズル(先端径50μm)から放出した。異なるチップ-サイズを有するノズルを使用して、ビーズの大きさを変更した。形成されたビーズを種々の細孔寸法篩で回収し、蒸留水で洗浄して、使用した。細菌を閉じこめたビーズ(5mm直径)を、コロイド性キチン(2%v/v)を含む固いアガー上に静置し、ビーズから放出されるキチナーゼの加水分解活性を検出するために、切断したペリトロフィック膜より小さいビーズ(直径50~100μm)を静置した。キチナーゼ活性は、ビーズのまわりでコロイド性キチンが消化されるか、またはキチン質のペリトロフィック膜が分解されることによって判断した。処理したペリトロフィック膜を、10mmリン酸緩衝液(pH 7.0)で穏やかに3回洗浄して、同様に走査型電子顕微鏡で観察した。ビーズ中に内包された細菌数を検討するために、光学顕微鏡下で、マイクロマニピュレータに連結されたガラス製のピペットでビーズの一つを拾って、エッペンドルフ・チューブにいれて穏やかにボルッテックスにかけて均質にした。ホモジェネートを、20μg/mlでカナマイシンを含むM9-キチン-アガーの上へ広げて、KPM-012Aで、ハローを形成した細菌のコロニー数を計数した。前記工程は、滅菌条件下で行った。
【0042】
6.昆虫による細菌-入り込まれたアルギン酸ビーズの経口摂取
1月たったトマト苗の葉(20枚の小葉を持つ6枚の葉)に、細菌が内包されたビーズ、または細菌のいないビーズの懸濁液(105beads/ml)を8×102~2×103/cm2のビーズ密度で6mlスプレーして、10対の成虫テントウムシを放した。栽培キャビネットの透明箱(25×25×40cm)内に、テントウムシと苗を別々に放した(26±1℃、3000ルクス、16時間-光周期)。実験の全期間(30日)において、毎日新しくスプレーした苗と交換した。また、テントウムシが産んだ卵も毎日回収して、前述した条件と同じ条件下で、ペトリ皿中でインキュベートして孵化させた。テントウムシによって葉が摂食された程度を見積もるために、それぞれの植物の全ての葉において、摂食された面積を0-4段階でスコアした:
0、摂食されていない;1、葉面積の25%より少ない;2、50%未満;3、75%未満;4、75-100%。それぞれの植物の摂食された度合いを、以下の式を使用して決定した;
[(0A+1B+2C+3D+4E)/4(A+B+C+D+E)]×100
A、B、C、D、およびEが、それぞれスコア0、1、2、3、および4に対応する葉数である。それぞれの実験において、5日目から10日の葉をスコアし(表1)、および10日、12日、13日にもスコアした(表2)。
【0043】
結果および考察
実施例1:キチナーゼ遺伝子が導入されたEnterobacter cloacae細菌(KPM-007E/chi)、および該細菌に特異的なファージ(EcP-01)が内包されたアルギン酸ビーズによる植物食性テントウムシの生物防除
結果
発明者らのトマト農園において集めた植物食性のテントウムシは、実験室環境下においてもトマトの葉で効率よく飼うことができた。成虫の甲虫類は、トマトの葉に穴をあけて、多量の卵(63.8±11.5卵/雌/月)を産んだ。今回の条件(26±1℃、3000ルクス、16時間-光周期)では、卵の期間は、2.8±1.0日であり、72.6±14.6%の孵化率であった。幼虫発生の期間は、第一~第四虫齢が、それぞれ2.9±0.4、2.3±0.5、2.6±0.5、および5.0±0.9日であった。さなぎの段階は、4.5±0.7日であり、成虫毛状体(さなぎにおいて)の割合は92.5±7.7%であった。新たに生まれた成虫は、1日後にトマトの葉の摂食を開始して、生まれて5日目には活発に餌を摂取した。第四虫齢、および5中齢の成虫が、トマトの葉を活発に摂食していたので、これを実験に使用した。
【0044】
第一に、キチナーゼ遺伝質SH1を大腸菌に導入して、キチナーゼSH1を過剰発現させた。キチナーゼSH1は、可溶型タンパク質としてトランスフォームした細菌の培養液から得られ、これをアフィニティークロマトグラフィーで精製した(図1)。アフィニティーカラムから回収したキチナーゼの比活性は、80U/mgタンパク質であり、出発物質の比活性(0.72U/mgタンパク質)の約100倍に増大した。精製したキチナーゼは、ペリトロフィック膜を消化することを調査した。図2には、精製したキチナーゼ処理によって切断された、中腸のペリトロフィック膜表面の電子顕微鏡写真を示している。さらに、図2Cには、生きた昆虫内で該膜の切断を調査するために、キチナーゼ溶液に浸したテントウムシの中腸表面が切断されていることを示している。25匹のうち23匹のテントウムシでは、中腸の大部分においてペリトロフィック膜が消失していたが、バッファーのみで処理した昆虫では、何の変化もみられなかった。したがって、SH1は、食葉性テントウムシのペリトロフィック膜を攻撃するために有用な酵素となる。実際に、キチナーゼ溶液に浸したテントウムシによって摂取される葉の量は、著しく減少した(表1)ことから、キチナーゼが昆虫に対して抑制効果を有することがわかる。
【0045】
【表1】
JP0003686945B2_000002t.gif【0046】
本実験において、発明者らは種々の直径を有するアルギン酸ビーズを調整した。これらのビーズは、異なる先端径のノズルを使用して調製した。図1Cは、細菌が内包されたアルギン酸ビーズを、コロイド性キチンを含むアガープレート上に配置した図を示す。キチンの加水分解を容易に検出するために、より大きいビーズ(直径5mm)をプレートに配置した。2×104~105間の細胞が、このサイズのビーズ中に閉じこめられている。キチン質の消化は、KPM-007E/chiおよび該細菌に特異的なファージEcP-01が内包されたアルギン酸ビーズの場合に顕著であった。ビーズのまわりの消化されたキチンのハローは、2日目に最初に検出され、インキュベーションから4日後、最大に広がった。より小さいビーズ(直径50~100μmに、5×102~103細胞/ビーズで細菌を含む)でペリトロフィック膜を処理することによっても、同様の結果が得られた。このサイズは、テントウムシに食べられるサイズであった。ビーズのまわりのペリトロフィック膜は、KPM-007E/chiおよびEcP-01(図3C)を含むビーズから放出されるキチナーゼによって、著しく分解されたが、KPM-007E/chiのみのビーズが配置された(図3B)場合は、わずかに分解されただけであった。また、表1には、テントウムシによって摂食されたトマトの葉に細菌が内包されたビーズ処理した場合の効果も示している。KPM-007Eを散布したトマトの葉、およびKPM-007E/chiを散布した葉を摂取したテントウムシにおいて、摂食がわずかに減少したが、両者の間で抑制率に差はみられなかった。一方、KPM-007E/chiおよびEcP-01を含むビーズで処理した場合は、葉の摂食抑制が増加した。
【0047】
また、発明者らは、細菌のみが内包されたビーズで処理した葉を接触したテントウムシの糞粒中に細菌が含まれたままであることに注目した。KPM-007E/chiを含むビーズを摂食したテントウムシの糞便において、102~104CFU/糞便ペレット間の細菌が検出された。一方、KPM-007E/chiおよびEcP-01を含むビーズで処理した場合は、13.1±6.4%のみの細菌が検出され(3回の実験のそれぞれにおいて、100個以上の糞便ペレットを使用した)、最も多い糞便においても102CFUより少なかった。これらの結果は、ビーズ内でKPM-007E/chiが増加し、次いでEcP-01が感染による溶解が生じて、キチナーゼの放出を促進していることが示唆される。
【0048】
発明者らは、実際に細菌が内包されたビーズを使用する前に、アルギン酸ビーズをテントウムシが葉を摂食した場合の効果を調査した(表2)。すなわち、細菌を含まないビーズを葉に散布してテントウムシに摂食させ、アルギン酸ビーズを処理しても抑制しないことを確認した。
【0049】
【表2】
JP0003686945B2_000003t.gif【0050】
次に、KPM-007E/chiおよびEcP-01を含むビーズを散布したトマトの葉において、テントウムシを一月間飼育して、葉の摂食、産卵、および生存を抑制する効果を調査した(表3)。
【0051】
【表3】
JP0003686945B2_000004t.gif【0052】
その結果、テントウムシによる摂食および産卵が減少した。微生物ビーズを摂取したテントウムシの産卵数、および卵の重量は、著しく抑制された。しかし、このような抑制効果にも関わらず、テントウムシの生存率、および孵化率は、影響を受けなかった。
【0053】
考察
この系による効果の有効性は、第一にSH1キチナーゼによってペリトロフィック膜が消化されていることによって示される。該膜の分解は、キチナーゼ処理した昆虫の中腸表面において確認でき、処理したテントウムシの摂食が減少することも証明された。これらの結果は、キチナーゼSH1が、生きているテントウムシの中腸においても機能して、ペリトロフィック膜を消化でき、膜の微繊毛構造の分解を引き起こすことを示唆している(Chapman, 1985)。
【0054】
葉面細菌KPM-007Eは、テントウムシに対して抑制的であるが、本研究ではそのメカニズムを解明できなかった。この抑制効果は、キチナーゼ遺伝子が導入されたKPM-007E/chi株にファージを感染させることによって、溶菌させた場合にキチナーゼSH1が大量に放出されることによって非常に改善された。しかし、KPM-007Eを同様にファージで溶解した場合、またはファージEcP-01による溶解がなく、KPM-007E/chiのみから放出されるキチナーゼだけの場合では不十分であった。本発明のマイクロビーズ処理によって産卵が著しく抑制されるにも関わらず、テントウムシの生存、および卵の孵化率には、影響を及ぼさなかった。Regevその他(1996)は、Spodoptera littoralis幼虫の増殖に対し、細菌性のキチナーゼ、およびBacillus thuringiensisエンドトキシンによる同時阻害を報告している。これは、キチナーゼによってペリトロフィック膜に穴があいた結果、毒の取込みが促進されることによってなされるのであろう。本実験においては、長期間の処理による影響を完全にモニターしていないが、マイクロビーズ処理は、昆虫に対し致命的ではないようである。本発明の系では、ペリトロフィック膜の酵素による分解が上皮組織の崩壊後に引き起こされ、KPM-007Eの機能を相乗的に上昇させて、卵子産生を抑制するのであろう。このような処理では、KPM-007Eをより高い密度とした微生物ビーズで処理されたトマト葉を与えた場合であっても、葉摂食、および幼虫からの蛹化、または蛹から成虫への発生に対し、少しの抑制効果も引き起こさなかった、このような効果が生じない原因は、幼虫ステージの間に、腸管の構造が迅速に、および頻繁に更新されるためであろう(Chapman, 1985)。
【0055】
本実験では、食葉性害虫の制御において微生物ビーズを使用したストラテジーが成功したことを確認する。ビーズ内には、キチン遺伝子がトランスフォームされた細菌とともに、種々のトランスジェニックKPM-007E株が存在してもよく、これにより、昆虫に対して多重的な阻害機能が発現される。共存する株による遺伝子産物は、バクテリオファージが感染することによって溶菌した結果、同時に放出される。最近、発明者らは、自然に感染したテントウムシから昆虫病原性のPseudomonas sp.株を単離した。この細菌は、大量のプロテアーゼ、およびキチナーゼを産生し、昆虫組織を分解するために有効であった。これらの酵素の遺伝子を昆虫病原性の細菌からクローン化し、草食性害虫を制御するためのより有効な薬剤を得るために、KPM-012Aにこの遺伝子を導入した(未発表データ)。これらのトランスジェニック細菌は、同じビーズ内に安定してもとの株と共存することができた。
【0056】
Ent. cloacaeの多数の株は、天然の環境中に遍在性であり、葉面細菌は微生物ベクターとなる可能性がある。一方、害虫の生物防除を実施する際には、使用する拮抗微生物の処理方法が問題となり、その処理が防除効果に大きな影響を与えることとなる。上述のようなトランスフォームされた細菌を使用する際に、この株を配慮なく使用することによって、この株が予想外に自然界に残存することとなり、標的としない植物および動物に日和見感染するといった潜在的なリスクが存在することも考慮しなければならない。このため、使用した細菌を溶菌させるなどの方法によって、拮抗微生物が拡散しない方法が必要とされる。このような生態学的なリスクを最小にするために、ビルレントバクテリオファージを、生態的防除剤として処理されるトランスジェニック細菌を溶解させる目的で使用することができる。発明者らの以前のデータによれば、KPM-007Eは、テントウムシの中腸において増殖し、KPM-007E/chiは、持続的に生存し、ときには糞便のペレット中で増殖しているかもしれないので、KPM-007E/chiが環境に放出された後、昆虫の大便中にその生き残りがいるかをモニターした。ファージが感染した細菌で処理した葉を摂食した昆虫の糞便試料中には、形質転換された細菌があまり検出されなかったことから、ビーズ内の閉鎖されたスペースに内包された細菌に、ビルレントバクテリオファージが効率的に感染していることを示している。
【0057】
また、細菌を溶解させるタイミング、およびキチナーゼ放出の持続時間は、細菌の密度、および細菌、およびビーズ中に入り込まれるバクテリオファージの比を変えることによって調節さすることができる。
【0058】
実施例2:キチン質分解性細菌KPM-012Aが内包されたアルギン酸ビーズによるテントウムシの生物防除
結果
発明者らのトマト農園において集めた植物食性のテントウムシは、実験室環境下においてもトマトの葉で効率よく飼うことができた。成虫の甲虫類は、トマトの葉に穴をあけて、多量の卵(67.6±10.5卵/雌/月)を産んだ。今回の条件(26±1℃、3000ルクス、16時間-光周期)では、卵の期間は、2.8±0.9日であり、77.5±13.3%の孵化率であった。幼虫発生の期間は、第一~第四虫齢が、それぞれ2.9±0.4、2.3±0.5、2.6±0.5、および3.8±0.9日であった。さなぎの段階は、4.5±0.7日であり、成虫毛状体(さなぎにおいて)の割合は98.5±7.7%であった。新たに生まれた成虫は、1日後にトマトの葉の摂食を開始して、生まれて5日目には活発に餌を摂取した。第四虫齢、および5中齢の成虫が、トマトの葉を活発に摂食していたので、これを実験に使用した。
【0059】
この実験では、60本のトマトから200枚のトマトの葉を無作為に集めて、スタンプ培養に使用した。M9-キチン培地内の葉に穏やかにスタンプすることによって、68、および185枚の葉から、707の細菌、および7673の酵母様コロニーがそれぞれ得られた。これら微生物のコロニーのうち、32個の細菌コロニーは、そのコロニーのまわりにハローを形成した。これらキチン溶解性コロニーを抗生物質を含有するM9培地に移して、予備的に分類した。キチン溶解性細菌は、2つの単離体、KPM-015R(1枚の葉から3つのコロニー)、およびKPM-012A(13枚の葉から29のコロニー)に分類された。KPM-012Aは、最大のハローを形成し、およびよくトマト葉表面にコロニーを形成した。この株は、丸形で、平滑で、光沢があり、および非蛍光性の白色コロニーを形成し、およびカナマイシン耐性であり、テトラサイクリン、アンピシリン、ストレプトマイシン、およびクロラムフェニコールに感受性であった。
【0060】
KPM-012Aは、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th Ed.)の判定基準を使用して、グラム陰性、運動型、周毛性鞭毛、および棒状(幅0.6-0.8μm、および長さ2.5-2.6μm)の細菌として特徴づけられた。培養に最適な温度は、25-37℃であり、最大60℃に制限された。栄養寒天上のコロニーは、着色していなかった。この細菌は、好気性で、OF-testで酸性で、オキシダーゼ、カタラーゼ、エスクリン加水分解に陽性で、並びに有機塩、およびアミドのアルカリ産生し、並びにゼラチン、DNA、およびセルロース・ヒドロラーゼ活性に陰性で、トリプトファンからインドール産生し、並びにエタノールを酢酸に酸化する。加えて、この細菌は、D-グルコース、およびD-キシロースから好気的に酸を生じ、および炭素源としてD-グルコース、L-アラビノース、D-キシロース、D-フルクトース、D-マンノース、およびD-マンニトールを利用した。これらのデータに基づいて、発明者らは、KPM-012AをAlcaligenes paradoxus株として帰属し、この株を、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した(受託番号FERM P-18997)。
【0061】
図4Aは、M9-キチン培地におけるKPM-012Aのコロニーを示す。KPM-012Aは、コロニーのまわりにキチナーゼを分泌してハローを生じた。KPM-012Aによって生じた細胞外キチナーゼの量は、1.2U/mlであり、液状のM9培地中で24時間浸透培養したときの比活性は、0.88U/mgタンパク質であった。図4Bは、電子顕微鏡写真であり、飢餓後に細菌懸濁液を摂取したテントウムシ中腸の解剖ペリトロフィック膜表面を示す。この細菌は、おそらくまわりに分泌されたキチナーゼによって、まわりのペリトロフィック膜を分解しているのであろう。この結果は、KPM-012Aがキチナーゼを分泌し、中腸で生きているであろうことを強く示唆する。したがって、KPM-012Aによって産生されるキチナーゼは、植物食性テントウムシのペリトロフィック膜を攻撃するために有用な酵素であると考えられる。KPM-012Aを含むアルギン酸ビーズで処理した際に、キチン質ペリトロフィック膜が、キチナーゼによって著しく分解されることが明らかに示された。発明者らは、種々の直径のアルギン酸ビーズを調製した。これらのビーズは、異なる先端径のノズルを使用して調製した。図4Cは、細菌が内包されたアルギン酸ビーズをコロイド性キチンを含むアガープレート上に配置した図を示す。キチンの加水分解を容易に検出するために、より大きいビーズ(直径5mm)をプレートに配置した。2×104~105間の細胞を、このビーズサイズ中に閉じこめられている。
【0062】
ビーズのまわりの消化されたキチンのハローは、1日目に最初に検出され、インキュベーションから6日後、最大に広がった。より小さいビーズ(直径50~100μmに、5×102~103細胞/ビーズで細菌を含む)でペリトロフィック膜を処理することによっても、同様の結果が得られた。このサイズは、テントウムシに食べられるサイズであった。ビーズのまわりのペリトロフィック膜は、KPM-012A(図4E)を含むビーズから放出されるキチナーゼによって、著しく分解されたが、細菌の含まれていないビーズが配置された(図4D)場合は、分解されなかった。
【0063】
細菌が内包されたビーズを実際に適用する前に、発明者らは、葉摂食に対するアルギン酸ビーズの効果を、テントウムシにおいて検討した。この目的のために、細菌の含まれていないビーズを葉の上へスプレーして、水、およびビーズがスプレーされた葉において育てたテントウムシによる摂食の重傷度を比較した。水をスプレー下は、およびビーズをスプレーした葉を与えたテントウムシによる葉の摂食による重傷度の指数は、実験から5日目、および10日目では、それぞれ3.33±0.21および3.25±0.40、並びに3.70±1.39および3.62±0.99である(三回の平均±標準偏差)。アルギン酸ビーズで処理しても摂食を抑制しなかったことから、アルギン酸ビーズは、細菌のキャリアとして使用できることがわかる。
【0064】
葉摂食、産卵、および生存を抑制する効果を検討するために、KPM-012Aを含むビーズの懸濁液をスプレーしたトマトの葉において、テントウムシを持続的に飼育した(表4)。ビーズを与えたテントウムシでは、特に産卵数、および卵塊における卵粒数の両方が抑制された。このようなビーズによる抑制効果にもかかわらず、少なくとも雌雄テントウムシの生存率、および産み落とされた卵の孵化率は、実験の間影響を受けることはなかった。
【0065】
【表4】
JP0003686945B2_000005t.gif葉摂食、および幼虫からの蛹化、およびさなぎから成虫の発生に影響を及ぼすかどうかを検討するために、ビーズ-スプレーされた葉を四虫齢のテントウムシに摂取させた(表5)。細菌を含まないビーズ、およびKPM-012Aが内包されたビーズで処理では、幼虫による葉摂食、またはその後の蛹化、および成虫の発生を抑制しなかった。
【0066】
【表5】
JP0003686945B2_000006t.gifこの結果は、水がスプレーされた葉を与えた幼虫の場合と同様であった。その上、KPM-012Aをより高濃度で含まれるビーズをスプレーしたトマトの葉を、幼虫に与えたときでさえ、抑制効果はみられなかった。したがって、ビーズは、テントウムシの幼虫以外でない成虫に対して抑制効果を示すが、幼虫に対しては効果がないことを示唆する。
【0067】
考察
植物食性のテントウムシE. vigintioctopunctataは、発明者らの温室、および農場に天然に存在するナス科植物の害虫昆虫(Shirai and Katakura(1999))である。
【0068】
これらのテントウムシは、しばしばトマト、およびナスを荒らして、重篤な損害を引き起こし、収穫が減少してしまう。持続性に飼育する発明者らの系において、これらの昆虫は、効率よく生育し、および実験条件下でもトマトの葉で維持された。5日令の成虫は、雌雄にかかわらず、活発に、同期して葉を摂食するので、特に本方法に適切であった。A. paradoxusのいくつかの株は、根圏中に安定して住み着いており、除草剤耐性遺伝子を含むいくつかのプラスミドを有する (Fisher et al., 1978; Don and Pemberton, 1981)。合成殺虫剤が多用される農業の現状下では、これらの細菌は、持続的に生存すると思われる。発明者らは、トマト着生うどんこ病菌、および草食性害虫を生態的防除するために、トマトの葉からA. paradoxusのキチン分解性株KPM-012Aを単離した。
【0069】
除草剤に対するKPM-012Aの耐性が解明されていないが、アルギン酸ビーズ中に内包された場合、この株は、細胞外に大量のキチナーゼを産生した。微生物ビーズによるキチナーゼの分泌は、(キチンを含有するアガープレート上において)少なくとも1週間持続可能だった。
【0070】
植物保護のためのこのストラテジーは、病原体のキチン質細胞壁または昆虫中腸のペリトロフィック膜を消化する酵素を処理することによって、葉の植物病原菌、昆虫枯葉剤を制御することである。この目的において、キチナーゼ-分泌している葉面細菌は、キチナーゼのガス発生炉として作用した。微生物ビーズにより、葉摂食および産卵が顕著に抑止されたにもかかわらず、テントウムシの生存率、および産卵された卵の孵化率は、影響を受けなかった。処理されたテントウムシの長命は完全にモニターしていないが、微生物ビーズによる処理は、長期間処理したとしても致死的ではないようであった。Regev et al., (1996)は、細菌性キチナーゼ、およびBacillus thuringiensisエンドトキシンによって、Spodoptera littoralis幼虫の成長が、相乗的に阻害されることを報告した。これは、キチナーゼによるペリトロフィック膜穿孔の結果として、毒の取込みが促進されることによってなされるのであろう。葉面細菌KPM-012Aは、テントウムシに対して本質的に抑制的であるかもしれない。この抑制効果は、大量のキチナーゼが放出されることによって非常に改善されている。ペリトロフィック膜の酵素的分解によって、上皮組織の圧潰が生じ、KPM-012Aの機能を相乗的に上昇させ、卵子産生を抑制するのであろう。それにもかかわらず、このような処理では、KPM-012Aのより高い密度の微生物ビーズで処理されたトマト葉を与えた場合であっても、葉摂食、および幼虫からの蛹化、または蛹から成虫への発生に対し、少しの抑制効果も引き起こさなかった、このような効果が生じない原因は、幼虫ステージの間に、腸管の構造が迅速に、および頻繁に更新されるためであろう(Chapman, 1985)。
【0071】
本発明の微生物ビーズは、草食性害虫の制御における概念上のストラテジーを提供する。昆虫に対して多数の抑制機能を発現するために、ビーズ中に種々の細菌を共存させることが可能であった。最近、発明者らは、自然に感染したテントウムシから昆虫病原性のPseudomonas sp.株を単離した。この細菌は、大量のプロテアーゼ、およびキチナーゼを産生し、昆虫組織を分解するために有効であった。これらの酵素の遺伝子を昆虫病原性の細菌からクローン化し、草食性害虫を制御するためのより有効な薬剤を得るために、KPM-012Aにこの遺伝子を導入した(未発表データ)。これらのトランスジェニック細菌は、同じビーズ内に安定してもとの株と共存することができた。
【0072】
さらに、発明者らの以前の研究(Toyoda et al., 1994)では、細菌が内包されたアルギン酸ビーズは、内包された細菌の生存をわずかに減少するだけで(10%未満の減量)凍結乾燥させることができた。凍結乾燥された微生物ビーズとして、実用的に改良されたので、本発明のビーズは、取り扱いが簡単となった。
【0073】
【発明の効果】
本方法を使用した食葉性害虫の抑制効果は、植物葉の摂食だけでなく、その後の散乱にも大きく影響することから、本方法を使用すれば、長期間にわたって食葉性害虫の密度を低下することが可能になる。また、同時に内包したファージの効果は、細菌内から食葉性害虫に対し抑制物質(KPM-007E/chiの場合、キチン質分解酵素)を放出するだけでなく、溶菌作用による処理細菌の密度低下も引き起こし、環境負荷に対する軽減効果も期待される。
【0074】
本法は、農薬分野に新たな生物防除資材を提供するとともに、微生物資材の効果的処理法を提供することになる。本発明のアルギン酸ビーズを利用すれば、キチン質分解性細菌を含む複数の異なる拮抗性微生物(食葉性害虫に対し抑制効果を有する細菌)を同時に処理することが可能になる。さらに、それら細菌に特異的に感染するようなファージを併用することにより、食葉性害虫に対し抑制効果を有する物質(たとえば、キチン質分解酵素)の放出効率を増加することができる。
【0075】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 pCAY/chiを有する大腸菌BL21によって過剰発現されたキチナーゼのSDS-PAGE(A)および酵素電気泳動像(B)を示す写真。
【図2】キチナーゼ処理前(A)、処理後(B)の成虫ニジュウヤホシテントウの中腸のペリトロフィック膜表面、およびキチナーゼ溶液に浸して12時間後のテントウムシの中腸表面(C)の走査電子顕微鏡写真(線は、5μmを示す)。
【図3】コロイド性キチン含有アガープレートに静置した細菌内包アルギン酸ビーズのキチン溶解性を示す図(KPM-007E/chiを内包(左)、およびEcP-01ともにKPM-007E/chiを内包、培養から2日(上段)、および4日(下段))(A)、並びにKPM-007E/chiを内包するアルギン酸ビーズ(B)、およびEcP-01ともにKPM-007E/chiを内包するアルギン酸ビーズによる成虫ニジュウヤホシテントウの中腸ペリトロフィック膜表面の分解を示す走査電子顕微鏡写真(線は、50μmを示す)。
【図4】(A)M9キチン培地で3日間インキュベーション後のKPM-012Aのハローを形成したコロニー、(B)KPM-012Aを摂食して24時間後のテントウムシから切除した中腸表面の細菌を示す電子顕微鏡写真(矢印は、細菌の周りのペリトロフィック膜の分解を指す)(線は、5μmを示す)、(C)コロイド性キチン含有アガープレートに静置した細菌内包アルギン酸ビーズのキチン溶解性を示す図(細菌を内包していない(左)、およびKPM-012Aを内包(右)、培養から1日(上段)、3日(中段)、および6日(下段))、並びに細菌を内包していない(D)、およびKPM-012Aを内包した(E)アルギン酸ビーズを、切断したペリトロフィック膜に静置して24時間インキュベーション後の走査電子顕微鏡写真。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3