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明細書 :難分解性物質の分解菌及びそれを用いた環境の浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4247395号 (P4247395)
公開番号 特開2006-212000 (P2006-212000A)
登録日 平成21年1月23日(2009.1.23)
発行日 平成21年4月2日(2009.4.2)
公開日 平成18年8月17日(2006.8.17)
発明の名称または考案の名称 難分解性物質の分解菌及びそれを用いた環境の浄化方法
国際特許分類 C12N   1/12        (2006.01)
B09C   1/10        (2006.01)
C02F   3/00        (2006.01)
C02F   3/34        (2006.01)
FI C12N 1/12 A
C12N 1/12 B
B09B 3/00 E
C02F 3/00 G
C02F 3/34 Z
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 FERM P-20326
全頁数 12
出願番号 特願2005-030858 (P2005-030858)
出願日 平成17年2月7日(2005.2.7)
審査請求日 平成17年8月10日(2005.8.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】櫻井 明彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 月刊エコインダストリー(2001),Vol.6,No.3,p.5-17
Bioresource Technology(2004),Vol.94,No.2,p.169-176
Bioresource Technology(2004),Vol.94,No.2,p.107-112
調査した分野 C12N 1/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA(STN)
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1)~(5)の菌学的性質を有する白色腐朽菌FERM P-20326株
(1)30℃、7日間培養の条件下においてpH3~8で生育し、pH2及びpH10では生育しない;
(2)pH6、7日間培養の条件下において10~40℃で生育し、45℃では生育しない;
(3)菌叢がポテトデキストロース寒天培地において、白色でフェルト状である;
(4)菌糸がかすがい連結を有する;及び
(5)マンガンペルオキシダーゼおよびリグニンペルオキシダーゼを分泌する
【請求項2】
請求項1に記載の白色腐朽菌を用いて、芳香族化合物、ハロゲン化有機化合物および染料からなる群より選ばれる少なくとも1種の難分解性物質を分解する方法。
【請求項3】
培地中にMn2+及び/又はポリペプトン、バクトペプトン、酵母エキス、トリプトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機窒素を添加することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
培地中にMn2+及び/又はポリペプトン、バクトペプトン、酵母エキス、トリプトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機窒素を添加することを特徴とする、請求項1に記載の白色腐朽菌の培養方法。
【請求項5】
請求項1に記載の白色腐朽菌及び/又は該白色腐朽菌の培養液を有効成分とする芳香族化合物、ハロゲン化有機化合物および染料からなる群より選ばれる少なくとも1種の難分解性物質分解するための剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物及び/又はハロゲン化有機化合物などの難分解性物質の分解能に優れる新規な白色腐朽菌FERM P-20326株に関するものである。本発明の微生物は、難分解性物質の分解能に極めて優れており、ダイオキシン類等の有害な化合物も無害化できる。また、染料等を含有する有色排水の脱色や染料の分解ができる。このため、これらの難分解性物質を含む排水の処理、上記難分解性物質を対象とするバイオレメディエーション(生物学的修復)を始めとして、上記難分解性物質を分解又は無害化するための種々の技術分野に幅広く利用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な有害化学物質による環境汚染が問題となっている。なかでも、ダイオキシン類や内分泌撹乱物質による環境汚染は、生態系に深刻な影響を及ぼすために世界的に深刻な問題となっている。ダイオキシン類は、人類が生み出した史上最強の毒物といわれ、発ガン性、肝障害、皮膚障害、催奇形性などの強い毒性を示す。さらに化学的に安定で分解されにくいばかりでなく、脂溶性が高く生体組織中に蓄積しやすいため食物連鎖の頂点に立つ人類への影響は大きい。また、ノニルフェノールなどの内分泌撹乱物質は、野生生物の生殖機能に影響を与えるため、その影響は何世代にも及ぶ。さらに染料等を含む着色廃水の処理も問題になっている。染料等は染色後の安定性を考慮して設計されているため、化学的に安定で分解されにくいばかりでなく、生物に有害な作用を示すものも多い。このため、これらの難分解性の有害化合物を分解する方法に関して、物理化学的な方法、生物学的な方法などの様々な処理方法が検討されている。
【0003】
物理化学的な方法としては、これまで高温溶融法、加熱分解法、アルカリ処理法、超臨界水分解法、触媒酸化法、オゾン分解法などが研究されているが、エネルギー消費量が大きいことや処理コストが高いことなどの問題点を抱えている。微生物を用いる生物学的処理法は、これらに比べて一般に低エネルギー、低コストであるが、処理効率が低いことから実用化には至っていない。従って、分解能に優れた微生物を用いることにより実用的な環境修復技術を提供できると考えられ、木材腐朽菌が期待されている。木材腐朽菌は、様々な環境汚染物質に対する分解能を有する微生物として注目されており、木材腐朽菌の一種である白色腐朽菌は、菌体外に産生される酸化還元酵素(リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等)により、天然の難分解性物質であるリグニンを分解することが知られている。さらにファネロケーテ属の白色腐朽菌により、塩素置換数が4個以上のダイオキシン類を分解できることも報告されている(非特許文献1及び2)。
【0004】
このため、これまでに1500種以上の白色腐朽菌が分離・報告されているが、有害物質の処理へ応用は、ファネロキーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、プリュロータス・オストリータス(Pleurotus ostreatus)、コリオルス・ベルシカラー(Coriolus versicolor)、ブェルカンデラ・アドスタ(Bjerkandera adusta)など数種に限られている。これらの中でも最も研究が進んでいるファネロキーテ・クリソスポリウムはアメリカ合衆国で分離されたものであり、日本では輸入検疫有害菌に指定されている。また、これらの白色腐朽菌は、一般に低栄養状態で分解酵素の分泌が活発であり、栄養が豊富で増殖が活発な状態では分泌酵素の生産性が低い。このため、分解酵素を大量に分泌させることが難しい。従って、日本で白色腐朽菌を環境修復に使用するためには、日本で分離されたものが必要であり、また、活発な増殖を行える栄養が豊富な状態での分解酵素の生産性が高い微生物の分離が望まれていた。

【非特許文献1】Bumpusら,Sceience,228,1434(1985年)
【非特許文献2】Takadaら,Appl.Environ.Microbiol,62,4323(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、芳香族化合物やハロゲン化有機化合物、染料などの有害物質である難分解性物質を効率よく分解することができる、日本国内で分離した新規な微生物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、その微生物を用いて難分解性物質を分解し、環境を浄化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、広く自然界に存在する微生物のなかから所望の作用を発揮し得る新規微生物を探索した結果、腐朽木材より分離した微生物が所期の作用を発揮することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)白色腐朽菌FERM P-20326株。
(2)上記(1)に記載の白色腐朽菌を用いて難分解性物質を分解する方法。
(3)難分解性物質が芳香族化合物、ハロゲン化有機化合物および染料からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(2)に記載の方法。
(4)培地中にMn2+及び/又は有機窒素を添加することを特徴とする、上記(2)または(3)に記載の方法。
(5)培地中にMn2+及び/又は有機窒素を添加することを特徴とする、上記(1)に記載の白色腐朽菌の培養方法。
(6)上記(1)に記載の白色腐朽菌及び/又は該白色腐朽菌の培養液を有効成分とする難分解性物質分解剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の微生物はダイオキシン類を始め、芳香族化合物・ハロゲン化有機化合物など、いずれの難分解性物質についても極めて優れた分解能を発揮する。特に既知の白色腐朽菌は、通常の栄養条件下における分解率は低く低栄養培地等を用いても分解能は未だ不充分であったのに対し、本発明の白色腐朽菌は通常の栄養条件下(培養条件下)で極めて高い分解能が得られる点で、産業上極めて有用であり、環境の浄化に有意に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
<生理学的・生態学的性質>
まず、本発明の微生物は以下の菌学的性質を有するものである。なお、以下の性質は、ポテトデキストロース寒天培地又はポテトデキストロース液体培地を用いて確認した。
(I)生育のpH範囲(30℃、7日間培養)
pH3~8で生育し、pH2及びpH10では生育しない。好ましいpH範囲は、pH4~7であり、より好ましくはpH5~6.5付近である。
(II)生育の温度範囲(pH6、7日間培養)
10~40℃付近で生育し、45℃では生育しない。好ましい温度範囲は、20~35℃であり、より好ましくは25~35℃付近である。
(III)菌叢の特徴
ポテトデキストロース寒天培地において、白色でフェルト状である。
(IV)菌糸の特徴
かすがい連結(クランプコネクション)を有する。
(V)菌対外分泌酵素
マンガンペルオキシダーゼおよび微量のリグニンペルオキシダーゼを分泌する。
【0010】
以上の菌学的性質により、本発明の菌株は担子菌類に属する白色腐朽菌であると考えられるが、既知の菌と同定するには至らなかった。さらに後記する実施例からも明らかな通り、本発明の微生物はダイオキシン類等の分解に格段に優れた能力を発揮しており、この様な卓越した分解能力は従来の微生物には見出されなかったことから、本発明の菌株を新菌株と認定してL-25株と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託した(受託の日付:平成16年12月16日、受託番号:FERM P-20326)。
【0011】
<難分解性物質>
本発明の微生物は、環境中において難分解であることが知られている天然又は合成された種々の難分解性物質に対し極めて優れた分解能を有する。ここで難分解性物質としては、例えば、芳香族化合物、ハロゲン化有機化合物、染料などが挙げられる。尚、本発明では、ハロゲン化物は全て「ハロゲン化有機化合物」に包含されるものとし、「芳香族化合物」は、ハロゲン化されていない芳香族化合物を意味するものとする。
【0012】
ここで、上記「芳香族化合物」としては、ハロゲン化されたものを除き、芳香環を有する化合物であれば全て包含され、単素環、複素環の種類を問わない。このうち単素環としては、ベンゼン、ニトロベンゼン等の置換基を有するベンゼン類;フェノール、ニトロフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ペンチルフェノール等のアルキルフェノール類;カテコール;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペンゾピレン、ジペンゾピレン等のピレン類;ビスフェノールA等のビスフェノール系化合物;エストラジオール等が挙げられる.また、複素環としては、炭素以外に、N,0,Sなどのヘテロ原子を1個以上含む環が挙げられ、例えばピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェン、ピロール等の芳香族化合物;これらの関連化合物が包含される。単素環及び複素環の混合物も上記「芳香族化合物」の範囲内に包含され、また、芳香環を有するポリマー原料やその分解物(オリゴマー、部分分解物等)なども包含されるものとする。
【0013】
上記「ハロゲン化有機化合物」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を少なくとも1種有する有機化合物であれば特に限定されず、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系の有機塩素化合物;テフロン(登録商標)、フロン等のフッ素系化合物等が挙げられる。また、「ハロゲン化有機化合物」のなかには、PCDDs(ポリ塩化ジペンゾ-p-ダイオキシン類)やPCDFs(ポリ塩化ジペンゾフラン類)等に代表されるダイオキシン類;前記ダイオキシン類において塩素の代わりに臭素を含むダイオキシン類;コプラナーPCBを含むPCBs(ポリ塩化ビフェニル類)やクロロベンゼン、クロロフェノール等も包含される。
【0014】
上記「染料」としては、直接染料、酸性染料、酸性媒染染料、カチオン染料、建染染料、分散染料、反応染料、塩基性染料、硫化染料、ナフトール染料、酸化染料、油溶性染料、金属錯塩酸性染料などが挙げられ、具体的には、アゾ構造、アントラキノン構造、
カルボニウム構造、キノンイミン構造、フタロシアニン構造、スチルベン構造、ピラゾロン構造、アクリジン構造、インジゴイド構造、メチン構造、チアゾール構造などを有する有機化合物などが挙げられる。アゾ構造を有する有機化合物としては、例えば、オレンジIIやコンゴーレッドなどが挙げられ、アントラキノン構造を有する有機化合物としては、例えば、スレンブラウンRやレマゾールブリリアントブルーR
などが挙げられる。
【0015】
上記難分解性物質が含まれる環境としては、例えば、農地、工場跡、焼却場などの土壌や、河川、工業用水、地下水、排水などの水環境などが挙げられるが、それらに限定はされない。
【0016】
<難分解性物質の分解方法>
本発明の微生物は、上記の各環境に含まれる難分解性物質を分解することができる。以下、本発明の微生物を用いて難分解性物質を分解する方法について説明する。
前述の難分解性物質を分解するためには、本発明の微生物自体、つまりL-25自体を用いてもよいし、L-25を含む培養液を用いてもよい。
L-25を前培養する場合の温度は、15~40℃、好ましくは20~35℃の範囲である。培養時のpHは3~8、好ましくは4~7の範囲である。培養日数は、菌の増殖と菌体外酵素が充分に生産されていれば特に限定はないが、通常、1~30日間、好ましくは1~20日間である。
培養に用いる培地には、マンガンペルオキシダーゼの生産を促すためにマンガン源、有機窒素源、藁類などを添加するのが好ましい。添加するマンガン源としては、Mn2+を含むものであれば特に限定されないが、例えば、塩化マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられる。また添加する有機窒素源としては、ポリペプトン、バクトペプトン、酵母エキス、トリプトンなどが挙げられる。
さらに添加する藁類としては、稲藁や麦藁が好ましいが、これらに限定されるものではない。
マンガン源の添加量は、培地中のMn2+濃度が0.001mM~5.0mM、好ましくは0.005mM~2.0mMの範囲である。また、有機窒素源は、通常、培地に0.01g/L~50g/L、好ましくは0.1g/L~30g/L添加する。藁類の添加量は、培地中1g/L~100g/L、好ましくは5g/L~50g/Lである。
【0017】
具体的な分解方法は、分解対象物たる難分解性物質が、1.水等に溶解/懸濁して存在する場合と、2.土壌や灰等の固形分(以下、「土壌」で代表させる場合がある)に吸着して存在する場合とで、若干異なるので、以下、各場合に分けて説明する。
【0018】
1.難分解性物質の溶液/懸濁液を分解する方法
まず、L-25を担子菌用培地(低窒素合成培地(Kirkの培地)、ポテト・グルコース培地等)に接種し、培養する。分解対象の難分解性物質は、培養開始時に添加してもよいし、1週間程度培養を行った後に加えても良い。このときの難分解性物質濃度は概ね1×10-6~200mg/Lとなる様に調整することが好ましい。また、培養条件は、難分解性物質の種類等によっても相違するが、概ね、20~30℃で1~30日間培養することが推奨される。
【0019】
2.土壌中の難分解性物質を分解する方法
土壌中の難分解性物質は、溶液/懸濁液中の難分解性物質に比べ、分解し難い為、微生物の分解活性(増殖度)を高める必要がある。その為、本発明では、所定の担子菌用培地で培養した培養物を、更に分解酵素の生産促進剤である藁等の材料で培養させたものを使用することとした。
【0020】
以下の方法は、特にダイオキシン類に汚染された土壌を浄化する方法として有用である。
【0021】
具体的には、まず、L-25を担子菌用培地(低窒素合成培地(Kirkの培地)、ポテト・グルコース培地等)に接種し、培養する。培養条件は、後続の工程で使用する藁材料の種類等によっても異なるが、概ね20~30℃で3~14日間培養することが推奨される。
【0022】
次いで、得られた培養物を藁等の材料に接種し培養する。使用する藁は、特に限定されず、稲藁、麦藁等の一般的な藁を使用すれば良い。具体的には使用に当たって、これらの藁を細断あるいは粉砕し、必要に応じてチップ等とすることが推奨される。
【0023】
ここで、上記藁材料と培養物の質量比率は概ね、100:1~100:50とすることが推奨される。また、上記木質材料と培養物を合計した固形物と、該固形物中に含まれる水分との質量比率は概ね、100:200~100:300とするのが好ましい。培養条件は、使用する木質材料の種類等によっても相違するが、概ね、20~30℃で1~8週間培養することが推奨される。
【0024】
この様にして得られた藁培養物を、芳香族化合物等を含有する土壌中に混合し、更に培養する。ここで、土壌中の化合物濃度は、概ね1×10-8~200mg/gとなる様に調整しておくことが好ましく、この様な土壌と、上記藁培養物とを、質量比率で1:0.1~1.1(好ましくは1:0.3~0.6)とすれば、良好な分解活性が得られる。培養条件は、分解対象化合物の種類等によっても相違するが、概ね、20~30℃で1~180日間培養することが推奨される。
【0025】
<マンガンペルオキシダーゼの生産方法>
さらに本発明は、L-25を用い、マンガンペルオキシダーゼを生産する方法を包含する。具体的には、500mLバッフル付三角フラスコにポテトデキストロース液体培地100mLを加え、これにL-25株を接種し、25~35℃にて100~250rpmで3週間程度、振盪培養することにより培地中に著量のマンガンペルオキシダーゼが分泌される。培地にMn2+を0.001mM~2.0mM、好ましくは0.005mM~1.0mM加えることにより、マンガンペルオキシダーゼの分泌量は飛躍的に増大する。添加するマンガン源としては、塩化マンガン、硫酸マンガンなどMn2+を含むものであれば、特に限定されない。また、ポリペプトン、バクトペプトン、酵母エキス、トリプトンなどの有機窒素源を培地に0.01g/L~50g/L、好ましくは0.1g/L~30g/L添加することによってもマンガンペルオキシダーゼの分泌量は飛躍的に増大する。添加する有機窒素源としては、たんぱく質分解物からなる窒素源が好ましいが、これに限定されるものではない。さらに、藁類を培地に1g/L~100g/L、好ましくは5g/L~50g/L添加することによってもマンガンペルオキシダーゼの分泌量は増大する。藁類としては、稲藁や麦藁が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1:腐朽木材からの白色腐朽菌の分離
福井県、石川県、北海道の森林より腐朽木材を採取した。採取した木材の腐朽部分から菌糸を切り取り、表1の分離寒天培地の表面に接種した。360サンプルを接種し30℃で7日間培養を行った。生育したコロニー周辺がオレンジ色に変色したコロニーを、リグニン分解活性を有する菌として分離した。分離した菌を更に分離寒天培地上に画線接種し、62株を単離した。上記単離株を、L-1~62株と命名した。
【0028】
【表1】
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【0029】
さらに、単離株を分離寒天培地で30℃、5日間培養し、変色領域の面積から分解酵素の生産性を比較した。比較の対象としてCoriolus hirsutus IFO 4917も同時に培養を行った。単離株の中で最も変色領域の大きかったL-25株は、比較対照であるCoriolus hirsutus IFO 4917の1.3倍の変色領域を示した。この結果から、L-25株を分解酵素の生産性の高い菌株として選択した。
【0030】
実施例2:マンガンペルオキシダーゼの生産
表2に示す培地を用いて、振盪培養法によってマンガンペルオキシダーゼの生産を行った。
【0031】
【表2】
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【0032】
得られたマンガンペルオキシダーゼの活性を以下の方法で測定した。
マンガンペルオキシダーゼ反応液:マロン酸二ナトリウム4.45gと硫酸マンガン5水和物0.25gを蒸留水400mLに溶解した後、pHを4.5に調整し全量を500mLとする。
上記のマンガンペルオキシダーゼ反応液2.8mLに測定用サンプル100μLを加え25℃で5分間保温した後、0.1mMの過酸化水素100μLを加え反応を開始した。反応開始後の溶液の270nmにおける吸光度変化(Mn3+とマロン酸とのキレートによる)からマンガンペルオキシダーゼの活性を算出した。
【0033】
得られたマンガンペルオキシダーゼの最大活性値を既報の文献と比較した結果を図1に示す。なお、マンガンペルオキシダーゼの活性は以下のように測定し、酵素活性1Uを1分間に1μmolのMn2+をMn3+に酸化する酵素量と定義した。なお、図1に示した既報の文献の値は、測定方法の違いを考慮して補正してある。
図1に示すように、L-25株のマンガンペルオキシダーゼ生産性は、既報のマンガンペルオキシダーゼ生産菌に比べて飛躍的に高いことが明らかになった。
【0034】
実施例3:水中の芳香族化合物の分解
本実施例では、代表的な芳香族化合物であるビスフェノールA,p-ノニルフェノールに対する分解能を評価した。まず、500mL容三角フラスコに、表3に示すビスフェノールAを含む液体培地(100mL)を加え、121℃で15分間加熱滅菌した後、L-25株を接種し、振盪培養法で30℃、150rpmで21日間培養した。
【0035】
【表3】
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【0036】
適宜、培養液を採取し、遠心分離により上清と菌体に分けた後、上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量分析した。また、培養終了後に全ての培養物を遠心分離して菌体と上清に分けた後、菌体を乳鉢で破砕し酢酸エチルで抽出した。抽出後の酢酸エチル溶液をエバポレーターで減圧濃縮した後、メタノールに溶解しHPLCで菌体中に含まれるビスフェノールAを定量した。図2に示すように、培養液中のビスフェノールAの濃度は、検出限界以下まで低下した。また、培養後の菌体からはビスフェノールAは検出されなかった。
次に、ノニルフェノールについても同様に表4に示す培地を用いて分解能を評価した。図3に示すようにノニルフェノール濃度は検出限界以下まで低下した。また、培養後の菌体からはノニルフェノールは検出されなかった。
【0037】
【表4】
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【0038】
ここで、HPLCの測定条件は以下の通りである。
カラム :関東化学製RP-18GP (4.6×150mm)
移動相:メタノール:水=70:30(ビスフェノールA)
メタノール:水=80:20(ノニルフェノール)
カラム温度:40℃
流速 :1.0mL/min
注入量:20μL
ピーク検出:UV検出器(270nm、ビスフェノールA)
蛍光検出器(励起225nm、蛍光300nm、ノニルフェノール)
これらの結果より、本発明の微生物L-25株は、いずれの芳香族化合物に対しても分解率が100%と極めて高く、優れた分解能を発揮することが分かる。
【0039】
実施例4:水中の染料の分解
本実施例では、染色産業で使用される代表的な染料17種類に対する分解能を評価した。具体的には、染料を加熱滅菌後に加える以外は実施例1と同様に2週間培養した。また、染料の濃度は各染料の最大吸収波長での吸光度から算出した。
【0040】
【表5】
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【0041】
結果を表6に示す。
【0042】
【表6】
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【0043】
表6に示すように、検討した全ての染料において98%以上の分解率が達成された。目視による観察では、培養の過程は以下の通りである。1)接種した微生物が増殖する。2)増殖した微生物が染料によって着色する。3)培養液から染料の色が消える。4)着色していた微生物の色も消える。これらの観察結果から、L-25株による染料の脱色のメカニズムは、はじめに微生物に染料が吸着、あるいは染料が微生物に取り込まれ、次に微生物によって染料が分解されるものと推定される。特定の染料だけを分解する微生物は、これまでにいくつか報告されているが、L-25株のように多種類の染料を分解できる微生物は、ほとんど報告されていない。通常、実際の染料排水には、多種類の染料が混在していることから、L-25株は実廃水の処理に有効であると考えられる。
【0044】
実施例5:ダイオキシン類の分解
実施例1と同様にして、L-25株をポテトデキストロース液体培地に接種し、30℃で7日間培養した。この培養液100mLに、1,3,6,8-テトラクロロジベンゾ-p—ジオキシン(1,3,6,8-TeCDD)約10000ng、オクタクロロジベンゾ-p—ジオキシン(OCDD)約2000ng、1,2,7,8-テトラクロロジベンゾフラン(1,2,7,8-TeCDF)約10000ng、オクタクロロジベンゾフラン(OCDF)約6000ngを加えて、30℃、150rpmで1~3週間振盪培養した。
培養終了後、培養液に濃硫酸を加え、n-ヘキサンで抽出した。回収した有機層を脱水した後、減圧濃縮した。これに13C-ダイオキシンをスパイク添加した後、濃縮し各種カラムクロマトグラフィーによりクリーンアップした。これをガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析した。
ダイオキシン類分解の結果を図4に示す。図4は、培養1~3週間目における各ダイオキシン異性体の濃度を示したものである。図4より、本発明の菌株L-25は、通常、分解が困難な8塩素化体(OCDD、OCDF)に対しても高い分解性を示し、いずれの異性体に対しても、約50~80%の高い分解率を有していることがわかる。また、毒性等量は3週間の培養により、分解開始時の11ng-TEQ/flaskから4.2ng-TEQ/flaskまで低下した。これらの結果から、L—25株は極めて優れた分解能を発揮することが分かる。
【0045】
以上の結果より、本発明の微生物は既知の白色腐朽菌に比べ、マンガンペルオキシダーゼの生産性が飛躍的に高く、芳香族化合物・ハロゲン化有機化合物の種類を問わず、また、難分解性有害物質として社会的に問題になっているダイオキシン類に対しても、極めて優れた分解能を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、実施例2において、マンガンペルオキシダーゼの生産性を既報の微生物と比較したグラフである。
【図2】図2は、実施例3において、ビスフェノールA分解の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3において、ノニルフェノール分解の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例5において、ダイオキシン類の各異性体の分解を示すグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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