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明細書 :高分子アクチュエータおよびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5156940号 (P5156940)
公開番号 特開2007-329334 (P2007-329334A)
登録日 平成24年12月21日(2012.12.21)
発行日 平成25年3月6日(2013.3.6)
公開日 平成19年12月20日(2007.12.20)
発明の名称または考案の名称 高分子アクチュエータおよびその製造方法
国際特許分類 H02N  11/00        (2006.01)
FI H02N 11/00 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2006-159990 (P2006-159990)
出願日 平成18年6月8日(2006.6.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年1月26日 福井大学主催の「FUNTECフォーラム シーズ発表会」において文書をもって発表
審査請求日 平成21年2月19日(2009.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】庄司 英一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】工藤 一光
参考文献・文献 特開2005-176428(JP,A)
特開2003-152234(JP,A)
国際公開第2005/079187(WO,A2)
特表2007-534283(JP,A)
特開2007-204682(JP,A)
特開2007-244103(JP,A)
特開2005-223967(JP,A)
特開2005-051949(JP,A)
調査した分野 H01L41/00-41/26
H02N11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータにおいて、
前記電極は、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とからなり、
上記高分子化合物は、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体であり、
上記高分子バインダは、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体を含んでなることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
上記高分子化合物は、イオン性液体を含有していることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
上記カーボン粉末は、上記高分子バインダ100重量部に対して、1重量部以上1000重量部以下含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
上記カーボン粉末の平均粒子径は0nmより大きく10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項5】
上記フィルムの厚みは、10μm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項6】
上記電極の厚みは、それぞれ、1μm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項7】
高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータの製造方法であって、
高分子バインダの溶液に、カーボン粉末を分散させてペーストとし、当該ペーストで上記フィルムを挟んで加熱プレスし、
上記高分子化合物は、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体であり、
上記高分子バインダは、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体を含んでなることを特徴とする高分子アクチュエータの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータおよびその製造方法に関するものであり、特に、高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、メカトロニクス系の分野では、2本足歩行ロボット等の次世代の自立歩行型ロボットや、癒しのロボット玩具等が注目を集めている。これらの分野では従来の電磁モータをベースとした制御方法が利用されているが、動きがぎこちなく、生物のスムーズな動きには未だ遠いのが現状である。例えば、家電製品や工業製品におけるノイズがなく巧みでなめらかな動きが要求される部分、真のヒューマノイドロボット、汎用ロボット等を具体化するためには、生物の筋肉のように、駆動時にノイズや音が出ない、スムーズな動きをする次世代型のアクチュエータの具体化が必要である。
【0003】
かかるアクチュエータとして、各種高分子材料からなり、電気的刺激によって電気化学的な伸縮または屈曲変形を生じる高分子アクチュエータが提案されている。高分子アクチュエータは従来の電磁モータに比べて、1)スムーズな駆動が可能である、2)駆動時にノイズや音がでない、3)超小型・軽量化が可能である、4)機械的な故障が少ない、5)大気、水、有機媒体中といった広範な駆動環境下で作動するという優れた特徴を有している。
【0004】
かかる高分子アクチュエータとしては、イオン伝導性高分子化合物、電子伝導性高分子化合物、非イオン性のゲルやエラストマー等を用いた多様な方式の高分子アクチュエータが提案されているが、その中の一つとして、図1に示すような、屈曲変形を生じる高分子アクチュエータが報告されている。この種の高分子アクチュエータは、高分子化合物からなるフィルム1と、当該フィルムの両面に形成されている電極2a、2bとを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムが屈曲変形する。かかる高分子アクチュエータは、イオン性高分子化合物(イオン伝導性高分子化合物)を用いるものが主流であるが、非イオン性高分子化合物を用いるものも報告されている。
【0005】
イオン性高分子化合物を用いる例としては、例えば、イオン交換樹脂膜の両面に金属電極を供えたメタル-コンポジットポリマー(IPMC:ionic polymeric-metal composites)が開示されている(例えば、非特許文献1等参照。)。この高分子アクチュエータの駆動メカニズムは、例えば、カチオン交換のためのアニオン性のイオン交換樹脂膜では以下のように説明できる。電圧の印加により、膜内で自由に移動できるカチオンがカソード側に移動し、このイオンに伴われて、イオン交換樹脂に含まれる水分子もカソード側に移動するため、カソード側の浸透圧が上昇し、膜が膨張する。これに対し、イオン交換樹脂に固定されているアニオンは、対極のアノード側に引き寄せられにくいため、アノード側のカチオンの濃度が下がり、浸透圧が低下して膜が収縮する。カソード側の膨張と、アノード側の収縮により、結果として膜が屈曲変形する。
【0006】
また、非イオン性高分子化合物を用いる例としては、酢酸ナトリウム等のイオン性物質を加えた非イオン性高分子化合物からなる高分子膜に電圧を印加することにより、高分子膜を屈曲変形させる方法が開示されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0007】
上記従来の、高分子化合物からなるフィルムの両面に電極を備えた高分子アクチュエータでは、電極として、白金または金等の貴金属がメッキされて使用されている。

【特許文献1】特開2000-216448号公報(平成12年8月4日公開)
【非特許文献1】M.Shahinpoor, Electrochimica Acta 48(2003)2343-2353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の高分子アクチュエータでは、電極を形成するためのメッキには無電解メッキ法が利用されているが、メッキ回数を繰り返す手間や多大な時間(20~50時間)を要する。また、貴金属を使用するためコストがかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の貴金属を用いた高分子アクチュエータに比べて、コスト的に安価で、短時間で簡単に製造可能な高分子アクチュエータおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、上記高分子アクチュエータの電極として、高分子バインダとその中に分散されているカーボン粉末とを含んでなる電極を用いたところ、通常カーボン粉末と高分子バインダとの混合物に圧力をかけて固めたものは硬くフィルムの屈曲変形に合わせて曲がることが求められる電極には適さないとの予想に反し、柔軟性に富んだ電極が得られることを見出した。また、かかる電極は、柔軟性が求められるため、支持体等で補強することなく、フィルムの両面に固定する必要があり、高分子バインダとカーボン粉末とからのみではかかる電極を得ることは困難であると予想されたが、高分子バインダとカーボン粉末との量のバランスをとることにより、崩れることのない電極をフィルムの両面に固定できることを見出した。さらに、かかる電極は、電気伝導性の高いものである必要があるため、カーボン粉末の含有量を多くすると強度が不足することが予想されたが、得られた高分子アクチュエータは十分な強度を有し、イオン性液体に含浸した後も安定な電極として機能することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る高分子アクチュエータは、上記課題を解決するために、高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータにおいて、前記電極は、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなることを特徴としている。上記の構成によれば、従来の貴金属を用いた高分子アクチュエータに比べて、コスト的に安価で、短時間で簡単に製造可能な高分子アクチュエータを実現することが可能となる。
【0012】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記高分子化合物は、イオン伝導性高分子化合物であってもよいし、非イオン性高分子化合物であってもよい。
【0013】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記高分子化合物は、イオン性液体を含有していることが好ましい。上記高分子アクチュエータがイオン性液体を含有していることにより、水分蒸発による高分子アクチュエータの機能の低下の問題を回避することができるため、大気中においても良好に使用することが可能となる。
【0014】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記カーボン粉末は、上記高分子バインダ100重量部に対して、1重量部以上1000重量部以下含まれていることが好ましい。上記カーボン粉末が上記割合で含まれていることにより、十分な電気伝導性を有し、かつ、すぐれた強度を有する安定な電極として機能するという効果を奏する。
【0015】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記カーボン粉末の平均粒子径は0nmより大きく10μm以下であることが好ましい。上記カーボン粉末の平均粒子径が上記範囲内であることにより、分散性と密着性の向上というさらなる効果を奏する。
【0016】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記高分子バインダは、上記フィルムを構成する高分子化合物と同一の高分子化合物を含んでなることが好ましい。上記高分子バインダは、上記フィルムを構成する高分子化合物と同一の高分子化合物を含んでなることにより、上記フィルムとの、相溶性並びに接合性および密着性がより高いため、より強固な電極を構成することが可能となる。
【0017】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記フィルムの厚みは、10μm以上5mm以下であることが好ましい。上記フィルムの厚みが、上記範囲内であることにより、成形時の形状安定性に優れるというさらなる効果を奏する。
【0018】
本発明に係る高分子アクチュエータでは、上記電極の厚みは、それぞれ、1μm以上2mm以下であることが好ましい。上記電極の厚みが、上記範囲内であることにより、十分な電気伝導性を有し、かつ、上記フィルムとともに良好に屈曲変形する柔軟な電極として機能するというさらなる効果を奏する。
【0019】
本発明に係る高分子アクチュエータの製造方法は、高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータの製造方法であって、高分子バインダの溶液に、カーボン粉末を分散させてペーストとし、当該ペーストで上記フィルムを挟んで加熱プレスすることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、従来の貴金属を用いた高分子アクチュエータに比べて、コスト的に安価で、短時間で簡単に高分子アクチュエータを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る高分子アクチュエータは、以上のように、電極が、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなる構成を備えているので、従来の貴金属を用いた高分子アクチュエータに比べて、コスト的に安価で、短時間で簡単に製造可能な高分子アクチュエータを実現することが可能となるという効果を奏する。
【0022】
また、上記電極は、従来の白金または金を無電解めっきした電極に比較して、ひび割れることがなく、柔軟性にすぐれているという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明にかかる高分子アクチュエータおよびその製造方法について詳細に説明する。
【0024】
(1)本発明にかかる高分子アクチュエータ
本発明に係る高分子アクチュエータは、高分子化合物からなるフィルムと、当該フィルムの両面に形成されている電極とを含み、前記電極間に電圧を印加することによって、前記フィルムを屈曲変形させる高分子アクチュエータにおいて、当該フィルムの両面に形成されている電極が、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなるものである。以下、(1-1)電極、(1-2)高分子化合物からなるフィルムの順に説明する。
【0025】
(1-1)電極
本発明にかかる高分子アクチュエータでは、上記電極は、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなる。かかる、カーボン粉末を高分子バインダ中に分散固定させた電極材料は、高分子アクチュエータ全般に利用できる電極材料である。
【0026】
なお、本発明で用いる電極は、疎水性がかなり高く、水をはじき、水面に浮くものであることが見出された。従来の白金または金を無電解めっきした電極は水面に浮くことはなく、水にぬれるものである。従来の白金または金を無電解めっきした電極では、電極の表面から水の蒸発が起こり、次第に屈曲変動が小さくなるという問題があったが、本発明で用いる電極は、この高い疎水性から、かかる電極表面からの水の蒸発を低下させる効果を有すると考えられる。
【0027】
ここで、本発明にかかる高分子アクチュエータの電極を構成する上記高分子バインダは、上記フィルムの屈曲変形に伴って変形可能な柔軟性を有する高分子バインダであれば特に限定されるものではないが、加水分解性が少なく、大気中で安定であることが好ましい。かかる高分子バインダとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィド等のポリアリーレン類(芳香族系ポリマー);ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等に、スルホン酸基(-SOH)、カルボキシル基(-COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー等;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレート等を挙げることができる。
【0028】
また、上記高分子バインダとしては、導電性を有する高分子を用いることもできる。かかる高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン等を挙げることができる。
【0029】
さらに、上記高分子バインダとしては、ゾル・ゲル法などで得られる高分子構造をもつ金属酸化物も用いることができる。かかる金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、マンガン、ニッケル、コバルト、五酸化バナジウム系の金属酸化物を用いることができる。
【0030】
これらの高分子バインダの中でも、上記高分子バインダとしてはパーフルオロスルホン酸/PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)共重合体、パーフルオロカルボン酸/PTFE共重合体等をより好適に用いることができる。より具体的には、例えば、フレミオンTM(旭硝子)、ナフィオンTM(デュポン社製)等を好適に用いることができる。ここで、これらの高分子バインダは、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。さらに、適当な溶媒で希釈して用いてもよい。さらに、これらポリマーを直接、バインダーとして添加する代わりに、これらポリマーに対応するモノマーを添加し、モノマーの重合反応から、ポリマーを生成し、結果として高分子バインダとして機能させてもよい。
【0031】
また、上記高分子バインダは、上記フィルムと相溶性の高いポリマーであることが好ましい。これにより、上記フィルムとの、相溶性および接合性がより高いため、より強固な電極を構成することが可能となる。このためには、上記高分子バインダは、上記フィルムを構成する高分子化合物と、同種、類似または同一のポリマー構造を有するポリマー、または、同種、類似または同一の官能基を有するポリマーであることが好ましい。例えば、上記フィルムが、パーフルオロスルホン酸である場合、上記高分子バインダは、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、スルホン酸基を有するポリマー、カルボキシル基を有するポリマー等であることが好ましい。
【0032】
また、上記高分子バインダは、上記フィルムを構成する高分子化合物と同種、類似または同一の高分子化合物を含んでなるものであってもよい。これにより、上記フィルムとの、相溶性および接合性が高くなれば、強固な電極を構成することが可能となる。また、相溶性および接合性の観点からは、上記フィルムを構成する高分子化合物と同種または同一の高分子化合物の含有量は高ければ高い程よく、上記フィルムを構成する高分子化合物と同一の高分子化合物からなることがさらに好ましい。
【0033】
また、本発明にかかる高分子アクチュエータの電極に分散されている上記カーボン粉末は、上記高分子バインダに分散させることによって、電気導電性を付与できるものであれば、特に限定されるものではない。かかるカーボン粉末としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、カーボンチューブ、グラファイト等を挙げることができる。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。中でも、上記カーボン粉末は、ファーネスブラックまたはアセチレンブラックであることが特に好ましい。これにより、より好適に電気伝導性を付与することができる。
【0034】
また、上記カーボン粉末の平均粒子径は特に限定されるものではないが、0より大きく10μm以下であることが好ましく、0より大きく1μm以下であることがより好ましく、0以上500nm以下であることがさらに好ましく、0以上100nm以下であることが特に好ましい。また、カーボン粉末の平均粒子径が、10μmより大きいと、本発明の高分子アクチュエータが屈曲しない場合があるため好ましくない。
【0035】
なお、カーボン粉末の平均粒子径は、動的光散乱式粒径分布測定装置、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0036】
また、上記カーボン粉末の含有量は、上記高分子バインダ100重量部に対して、1重量部以上、1000重量部以下であることが好ましく、10重量部以上、500重量部以下であることがより好ましく、100重量部以上、200重量部以下であることがさらに好ましい。カーボン粉末の量が、上記高分子バインダ100重量部に対して1重量部以上であることにより、アクチュエータの電極として機能しうる電気伝導性を付与することができるため好ましい。また、カーボン粉末の量が、上記高分子バインダ100重量部に対して1000重量部以下であることにより、アクチュエータの電極に、崩れることなく一体を形成できる強度を付与することができるため好ましい。
【0037】
本発明にかかる高分子アクチュエータにおいて、上記電極は、上記フィルムの両面に形成されている。ここで、電極が、上記フィルムの両面に形成されているとは、フィルムの両面に上記電極が接合して固定されていればよい。また、上記電極中に分散するカーボン粉末が、上記フィルムの表面および/または内部にまで分散していてもよい。このように、上記カーボン粉末が、上記フィルムに食い込んで分散している場合には、導電性を有するカーボン粉末と、上記フィルムとの接触面積が大きいため、より効率よく電圧を印加することができるのでより好ましい。なお、このように、上記カーボン粉末を、上記フィルムの表面および/または内部にまで分散させるためには、例えば、高分子バインダの溶液に、カーボン粉末を分散させてペーストとし、当該ペーストで上記フィルムを挟んで加熱プレスする方法を用いる場合、加熱プレスする前に、上記フィルムを、アルコール、ケトン、芳香族炭化水素等の有機溶媒または水であらかじめ膨潤させておけばよい。
【0038】
上記電極の厚みは、高分子アクチュエータの屈曲変形を阻害しない限り特に限定されるものではないが、それぞれ、1μm以上2mm以下であることが好ましく、1μm以上500μm以下であることがより好ましく、5μm以上200μm以下であることがさらに好ましく、5μm以上100μm以下であることが特に好ましい。電極の厚みが、1μm未満であれば、高分子アクチュエータの電極として電気伝導性の点で問題となる場合があるので好ましくない。また、電極の厚みが、2mmより大きくなれば、電極がカーボンを含むことにより固くなりもろく割れやすくなり、また、フィルムの屈曲変形に伴って曲がらなくなる場合があるため好ましくない。
【0039】
本発明にかかる高分子アクチュエータの電極は、上述したように、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなることにより導電性が付与されている。上記電極の電気抵抗値は、1000Ω・cm以下であることが好ましく、100Ω・cm以下であることがより好ましい。上記電極の電気抵抗値が1000Ω・cm以下であることにより、電極に低い電圧を印加したときに、本発明の高分子アクチュエータを屈曲させることができる。
【0040】
また、上記電極は、高分子バインダと、その中に分散されているカーボン粉末とを含んでなるものであればよいが、カーボン粉末は均一に分散されていることがより好ましい。これにより、電位が均一にかかるためより好ましい。
【0041】
また、上記電極は、高分子アクチュエータの機能に好ましくない影響を与えるものでない限り、高分子バインダおよびカーボン粉末以外の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、例えば、イオン性化合物、金属イオンなどを挙げることができる。
【0042】
(1-2)高分子化合物からなるフィルム
本発明にかかる高分子アクチュエータにおいて、高分子化合物からなるフィルムは、高分子化合物からなるフィルムの両面に形成されている電極間に電圧を印加することによってフィルムが屈曲変形するタイプの高分子アクチュエータに使用される高分子化合物のフィルムであれば特に限定されるものではない。したがって、上記高分子化合物は、イオン伝導性高分子化合物であってもよいし、非イオン性高分子化合物であってもよい。なお、イオン伝導性高分子化合物とは、電場下で電荷が移動して電流が流れるときに、電荷の担い手がイオンである高分子化合物をいい、イオン性高分子化合物と同義である。
【0043】
上記高分子化合物が例えばイオン伝導性高分子化合物である場合には、高分子アクチュエータの駆動メカニズムは、例えば、イオン伝導性高分子化合物がポリマーにアニオン性官能基が導入されたポリアニオンである場合を例に挙げて説明すると以下のように考えられる。電圧の印加により、フィルム内で自由に移動できるカチオンがカソード側に移動し、このカチオンに伴われて、フィルム内に含まれる水分子もカソード側に移動するため、カソード側の浸透圧が上昇し、膜が膨張する。これに対し、イオン伝導性高分子化合物に固定されているアニオンは、対極のアノード側に引き寄せられにくいため、アノード側のカチオンの濃度が下がり、浸透圧が低下して膜が収縮する。カソード側の膨張と、アノード側の収縮により、結果としてフィルムが屈曲変形する。なお、上記高分子化合物が、後述するイオン性液体を含有している場合は、移動種がイオン性液体を構成するイオンとなる。この場合、浸透圧の効果については不明であるが、高分子化合物からなるフィルムは屈曲変形する。
【0044】
また、非イオン性高分子化合物を用いる場合は、そのメカニズムは不明であるが、酢酸ナトリウム等のイオン性物質を加えた非イオン性高分子化合物からなる高分子膜に電圧を印加することにより、高分子膜を屈曲変形させる方法が知られている。また、非イオン性高分子化合物が、後述するイオン性液体を含有している場合は、電圧を印加すると、イオン性液体を構成するアニオンはプラス極に、カチオンはマイナス極に引き寄せられる。イオン性液体を構成するアニオンとカチオンとはイオンの大きさが異なるので、イオンのサイズの違いからフィルムの極率に差が生じ、フィルムが屈曲変形すると考えられる。
【0045】
上記イオン伝導性高分子化合物としては、ポリカチオンを用いてもよいし、ポリアニオンを用いてもよい。ポリアニオンの例としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等の基本骨格を持った公知のポリマーにアニオン性官能基として、スルホン酸基(-SOH)、カルボキシル基(-COOH)、リン酸基等を導入したもの;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などのアニオン性官能基を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー等を挙げることができる。中でも、上記ポリアニオンとしては、パーフルオロスルホン酸/PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)共重合体をより好適に用いることができる。ここで、パーフルオロスルホン酸/PTFE共重合体としては、市販されているものでもよく、例えば、フレミオンTM(旭硝子)、ナフィオンTM(デュポン社製)等を好適に用いることができる。
【0046】
また、ポリカチオンの例としても、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等の公知のポリマーにカチオン性官能基として、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したものを挙げることができる。
【0047】
上記イオン伝導性高分子化合物は、作動時、すなわち、電圧を印加して屈曲変形させる時点で、含水状態である必要がある。これにより、上記イオン伝導性高分子化合物からなるフィルムに電圧を印加したときに、移動するイオンに伴われて水分子が移動し、フィルムを屈曲変形させることが可能となる。なお、上記イオン伝導性高分子化合物に水を含ませる方法としては、例えば、上記イオン伝導性高分子化合物を水、好ましくはイオン交換水に含浸させればよい。また、同様に、後述するイオン性液体を用いる場合は、上記イオン伝導性高分子化合物は、作動時に、水に加えて、あるいは、水に代えてイオン性液体を含んでいる必要がある。
【0048】
また、上記イオン伝導性高分子化合物が、ポリアニオンである場合は、アニオン性官能基のカウンターカチオンを、Li、Na、K、アルキルアンモニウムイオン等に交換したものを用いることがより好ましい。また、上記イオン伝導性高分子化合物が、ポリカチオンである場合は、カチオン性官能基のカウンターアニオンを、F、Cl、Br、芳香族または脂肪族のスルホン酸類、芳香族または脂肪族のカルボン酸類、芳香族または脂肪族のリン酸類等に交換したものを用いることがより好ましい。これにより、高分子アクチュエータの屈曲度、屈曲速度を向上させることができるため好ましい。なお、上記イオン伝導性高分子化合物のカウンターイオンを交換する方法としては、例えば、上記イオン伝導性高分子化合物を、交換するイオンを含む塩の溶液中に含浸させればよい。ここで、溶液は、水溶液でもよいし、有機溶媒でもよいし、これらの混合溶媒でもよい。
【0049】
また、上記非イオン性高分子化合物としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;熱可塑性のポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0050】
上記非イオン性高分子化合物は、イオン性物質を含んでいる必要がある。これにより、上記非イオン性高分子化合物からなるフィルムに電圧を印加したときに、フィルムを屈曲変形させることが可能となる。なお、上記非イオン性高分子化合物にイオン性物質を含ませる方法としては、例えば、上記非イオン性高分子化合物をイオン性物質の溶液に含浸させればよい。ここで、溶液は、水溶液でもよいし、有機溶媒でもよいし、これらの混合溶媒でもよい。
【0051】
上記イオン性物質としては、例えば、フッ化リチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0052】
また、上記高分子化合物は、イオン性液体を含有しているものであってもよい。ここで、イオン性液体とは、アニオンとカチオンとからなり、常温で液体の有機化合物塩をいう。かかるイオン性液体は、有機化合物および無機化合物を溶解し、不揮発性で、高温でも安定である。それゆえ、水を含む従来の金属電極を有する高分子アクチュエータを大気中で使用する場合に電極表面から水の蒸発が起こり次第に屈曲変形が失われるという問題を解決し、大気中での高分子アクチュエータの安定性を向上させることができる。
【0053】
上記イオン性液体としては、特に限定されるものではなく、イオン性液体として従来公知のものを好適に用いることができる。かかるイオン性液体としては、例えば、CFSO、BF、PF、Cl、Br、I、NO、(CFSO、(CFSO、(CH)OSO、AlCl、ClO、RCOO、RSO、NHCHRCOO、SO2-等をカウンターアニオンに持つ、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン等を好適に用いることができる。
【0054】
上記イミダゾリウムカチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムカチオン、トリアルキルイミダゾリウムカチオン等を用いることができる。より具体的には、例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウムイオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-へキシル-3メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン等を挙げることができる。
【0055】
また、上記ピリジニウムカチオンとしては、例えば、N-メチルピリジニウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2メチルピリジニウムイオン等を挙げることができる。
【0056】
また、上記テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルへキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0057】
上記イオン性液体としては、例えば、上記アニオンと上記カチオンとの任意の組み合わせを挙げることができる。また、上記イオン性液体は、2以上のイオン性液体を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上記イオン性液体としては、より具体的には例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルフォネート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・クロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ブロマイド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・アイオダイド等を挙げることができる。
【0059】
また、上記イオン性液体は重合性のものであってもよい。かかる重合性のイオン性液体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アリルアルキルイミダゾリウム塩を好適に用いることができる。より具体的には例えば、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・トリフルオロメタンスルフォネート、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・テトラフルオロボレート、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・ヘキサフルオロホスフェート、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・クロライド、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・ブロマイド、1-アリル-3-エチルイミダゾリム・アイオダイド、1-アリル-3-ブチルイミダゾリム・トリフルオロメタンスルフォネート、1-アリル-3-ブチルイミダゾリム・テトラフルオロボレート、1-アリル-3-ブチルイミダゾリム・ヘキサフルオロホスフェート、1-アリル-3-ブチルイミダゾリム・クロライド、1-アリル-3-ブチルイミダゾリム・ブロマイド、1-アリル-3-ブチルイミダゾリムイミダゾリム・アイオダイド、1,3-ジアリルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルフォネート、1,3-ジアリルイミダゾリウム・テトラフルオロボレート、1,3-ジアリルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート、1,3-ジアリルイミダゾリウム・クロライド、1,3-ジアリルイミダゾリウム・ブロマイド、1,3-ジアリルイミダゾリウム・アイオダイド等を挙げることができる。
【0060】
上記高分子化合物が、イオン伝導性高分子化合物である場合は、上述したように、作動時に、含水状態である必要があるが、大気中での高分子アクチュエータの安定性の観点から、上記イオン伝導性高分子化合物は、作動時に、水に加えて、あるいは、水に代えてイオン性液体を含んでいることが好ましい。また、上記高分子化合物が、非イオン性高分子化合物である場合は、上述したように、上記イオン性物質を含んでいる必要があるが、イオン性物質に加えて、あるいは、上記イオン性物質に代えてイオン性液体を含んでいることが好ましい。
【0061】
なお、上記イオン性液体を含む上記高分子化合物は、例えば、上記イオン性液体に含浸させるか、または、イオン性液体の溶液に上記高分子化合物からなるフィルムを含浸させた後、溶媒を除去することにより得ることができる。ここで、溶液は、水溶液でもよいし、有機溶媒でもよいし、これらの混合溶媒でもよい。
【0062】
また、上記フィルムの厚みは、例えば、10μm以上、5mm以下であることが好ましく、100μm以上、5mm以下であることがより好ましく、100μm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。上記フィルムの厚みが、10μm以上であると、成形性や寸法安定性の点で好ましい。また、上記フィルムの厚みが、5mm以下であると、加工性や可撓性の点で好ましい。
【0063】
また、上記フィルムの形状としては、例えば、図1に示すように矩形平板状を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、円形、三角形、楕円形、棒状等の平板状であってもよいし、膜状であってもよいし、円筒状、螺旋状、コイル状等であってもよい。
【0064】
また、本発明にかかる高分子アクチュエータは、さらに、前記電極間に電圧を印加する電源装置と、当該電圧を制御する制御装置とを備えていてもよい。
【0065】
本発明のアクチュエータは、上記電極間に0.1~10V程度の低い電圧を印加すると、屈曲変形する。屈曲変形の方向、変位量、変位速度等は、上記高分子化合物からなるフィルムの種類、電極の組成、移動するイオン種等により変動する。また、通常、電位の極性を反転させると膜は反対方向に屈曲変形する。
【0066】
通常、白金を無電解メッキすることにより得られるアクチュエータでは、図5に見られるように、湿度90%の含水量が高い状態(図5中、aで示す。)では、厳密には原理はわかっていないが、変位の後戻り現象が見られる。湿度を下げ、含水量を下げていくと、図5中b(湿度30%)で示すように、この後戻り現象は少なくなる。本発明にかかる高分子アクチュエータでは、湿度90%でも後戻り現象が殆ど見られないことが示された。アクチュエータの応用性を考えた場合、かかる性質は重要であると考えられる。
【0067】
(2)本発明にかかる高分子アクチュエータの製造方法
本発明にかかる高分子アクチュエータの製造方法は、上記高分子アクチュエータを製造することができる方法であればどのような方法であってもよいが、例えば、上記高分子バインダの溶液に、カーボン粉末を分散させてペーストとし、当該ペーストで上記フィルムを挟んで加熱プレスする方法を好適に用いることができる。なお、ここで、「加熱プレスする」とは、加熱しながらプレスすること、及び、プレスした状態で昇温することの両方法を含む趣旨である。
【0068】
上記ペーストは、上記高分子バインダ、有機溶媒、及び、カーボン粉末を加えてよく混合することによって得ることができる。なお、場合に応じて、上記有機溶媒に加えてさらに水を加えてもよい。ここで、上記高分子バインダ、カーボン粉末、これらの割合については、上述したとおりであるので、ここでは説明を省略する。上記高分子バインダ、有機溶媒、カーボン粉末を加える順序は特に限定されるものではないが、例えば、上記高分子バインダを有機溶媒に溶解し、得られた上記高分子バインダの溶液に、カーボン粉末を加えてよく混合することが好ましい。
【0069】
上記、有機溶媒としては、上記高分子バインダを溶解することができるものであれば、特に限定されるものではないが、沸点が150℃以下、より好ましくは100℃以下の有機溶媒であることがより好ましい。これにより、熱プレス時に当該有機溶媒を良好に除去することができる。かかる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルn-プロピルケトン、3-ヘキサノン、メチルn-ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;酢酸エチルエステル等のエステル等を挙げることができる。
【0070】
これら有機溶媒は単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。さらに、水を混ぜて用いてもよい。
【0071】
本発明にかかる高分子アクチュエータは、得られたペーストで上記フィルムを挟んで加熱プレスことにより、上記フィルムと一段階で接合することができる。
【0072】
加熱プレスは、上記ペーストを上記フィルムに塗布後加熱プレスする方法を用いてもよいし、金型を用いて2つの金型にそれぞれ上記ペーストを載せておき上記フィルムを挟んで加熱プレスする方法を用いてもよい。加熱プレスの温度は、上記高分子バインダの溶媒を蒸発させるのに必要な温度であればよく、特に高分子バインダーが溶融する必要はない。また、溶融温度以上でも、上記高分子バインダの分解温度以下であれば特に限定されるものではなく、用いる高分子バインダ、フィルムを構成する高分子化合物、移動するイオン種等に応じて適宜選択すればよい。また、プレス圧、時間についても、特に限定されるものではなく、用いる高分子バインダ、フィルムを構成する高分子化合物、移動するイオン種等に応じて適宜選択すればよい。例えば、加熱プレスの温度は、30~150℃であることが好ましい。また、プレス圧は1~100kg/cmであることが好ましく、10~50kg/cmであることがより好ましい。後述する実施例では、例えば、90℃~95℃、20kg/cm、30分で良好な高分子アクチュエータを製造することができた。
【0073】
上記フィルムに、水、上記イオン性物質、上記イオン性液体、またはこれらの混合物を含ませる場合には、上述したように、これらの溶液に上記フィルムを含浸させればよい。ここで、含浸させる溶液の濃度、含浸させる時間は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。なお、上記フィルムの、水、上記イオン性物質、上記イオン性液体、またはこれらの混合物の溶液への含浸は、フィルムの両面に電極を形成した後に行えばよい。
【0074】
また、上記フィルムは、そのまま用いてもよいが、以下の処理を行ってもよい。
i)フィルムを洗浄し、付着した不純物やごみを除去する。フィルムを洗浄する方法としては、フィルムを構成する高分子化合物を、極端に溶出させなければよく、酸で洗浄する方法、イオン交換水等でイオン交換する方法等を用いることができる。例えば、パーフルオロスルホン酸/PTFE共重合体の場合、フィルムの洗浄は、硝酸水溶液中で煮沸し、イオン交換水中で煮沸することが好ましい。
ii)上記フィルムが、イオン伝導性高分子化合物である場合、カウンターカチオンやカウンターアニオンを上述した他のイオン種にイオン交換する。かかる処理は必須ではなく、プロトン型でも高分子アクチュエータとして作動するが、高分子アクチュエータの屈曲度、屈曲速度を向上させることができるためかかる処理を行うことがより好ましい。なお、上記イオン伝導性高分子化合物のカウンターイオンを交換する方法としては、上述したように、例えば、上記イオン伝導性高分子化合物を、交換するイオンを含む塩の溶液中に含浸させればよい。ここで、溶液は、水溶液でもよいし、有機溶媒でもよいし、これらの混合溶媒でもよい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0076】
なお、以下の実施例において、得られた高分子アクチュエータの屈曲変形の評価は以下のようにして行った。
【0077】
得られた高分子アクチュエータの電極間に、±1V~±5Vの直流電圧をスイッチング間隔30秒で印加したときの、高分子アクチュエータの変位量を測定した。
【0078】
高分子アクチュエータの変位量は、得られた矩形平板状の高分子アクチュエータの短辺端部を固定し、上記電圧を印加したときの、屈曲に伴う振れ幅(変位量)を、CCDカメラを用いたイメージングによる評価計測により追跡した。
【0079】
〔実施例1:イオン伝導性高分子化合物からなるフィルムを用いた高分子アクチュエータの製造〕
1cm×2cmのパーフルオロスルホン酸からなるフィルム(プロトン型)(厚み:約200μm、フレミオンTM、旭硝子製)を50%硝酸水溶液中で1時間煮沸加熱した。煮沸加熱したパーフルオロスルホン酸からなるフィルムをイオン交換水でよく洗浄した後、イオン交換水中で1時間程度煮沸処理を行った。次に、カウンターカチオンをリチウムイオンに交換するために、0.5M水酸化リチウム溶液100ml中に3時間程度浸漬した。得られたフィルムをイオン交換水でよく洗浄した。
【0080】
高分子バインダとしてのパーフルオロスルホン酸膜(フレミオンTM、旭硝子製)低級アルコール溶液(10wt%)1mlにカーボン粉末(アセチレンブラック)(デンカブラック、電気化学工業製)0.1gを加え、25℃でよく練って混合しペーストを得た。凹型の金型2枚にそれぞれ得られたペーストを載せ、カウンターカチオンをリチウムイオンで交換したパーフルオロスルホン酸フィルムを挟んで、ヒートプレス機(アズワン製)で加圧した(90℃~95℃、20kg/cm、30分)。
【0081】
得られた含水状態の高分子アクチュエータは、厚み約200μmのパーフルオロスルホン酸フィルムの両面に、それぞれ、約100μmの、パーフルオロスルホン酸にカーボン粉末が分散された電極が形成されていた。また、パーフルオロスルホン酸フィルムと、パーフルオロスルホン酸にカーボン粉末が分散された電極との良好な接合性が確認された。
【0082】
得られた高分子アクチュエータについて、大気中で、両電極間に1~5Vの直流電圧を印加し、高分子アクチュエータの屈曲変形を確認した。
【0083】
図2に、温度25℃、湿度30%、直流電圧±5Vをスイッチング間隔30秒周期で印加(ステップ)したときの変位量を示す。また、図4に、温度25℃、直流電圧±3Vをスイッチング間隔30秒周期で印加(ステップ)したときの変位量の湿度効果を示す。図4中、aは湿度90%のときの、bは湿度30%のときの結果を示す。
【0084】
通常、白金を無電解メッキすることにより得られるアクチュエータでは、図5に見られるように、湿度90%の含水量が高い状態では、変位の後戻り現象が見られる。本実施例で得られた高分子アクチュエータでは、図4に示すように、湿度90%の条件でも後戻り現象が殆ど見られなかった。
【0085】
〔実施例2〕
1cm×2cmのパーフルオロスルホン酸からなるフィルム(プロトン型)(厚み:約200μm、フレミオンTM、旭硝子製)を50%硝酸水溶液中で1時間煮沸加熱した。煮沸加熱したパーフルオロスルホン酸フィルムをイオン交換水でよく洗浄した後、イオン交換水中で1時間程度煮沸処理を行った。次に、カウンターカチオンをリチウムイオンに交換するために、0.5M水酸化リチウム溶液100ml中に3時間程度浸漬した。得られたフィルムをイオン交換水でよく洗浄した。
【0086】
高分子バインダとしてのパーフルオロスルホン酸膜(フレミオンTM、旭硝子製)低級アルコール溶液(10wt%)1mlにカーボン粉末(カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)0.1gを加え、25℃でよく練って混合しペーストを得た。凹型の金型2枚にそれぞれ得られたペーストを載せ、カウンターカチオンをリチウムイオンで交換したパーフルオロスルホン酸フィルムを挟んで、ヒートプレス機(アズワン製)で加圧した(90℃~95℃、20kg/cm、30分)。
【0087】
フィルム内部の水をイオン性液体に交換するために、この膜を110℃~120℃程度に加熱したオーブンに入れて15時間程度乾燥させた後、次に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートに含浸させて、110℃~120℃で15時間加熱した。
【0088】
膜内の水をイオン性液体で置換した高分子アクチュエータは、厚み約250μmのパーフルオロスルホン酸フィルムの両面に、それぞれ、約100μmの、パーフルオロスルホン酸にカーボン粉末が分散された電極が形成されていた。また、パーフルオロスルホン酸フィルムと、パーフルオロスルホン酸にカーボン粉末が分散された電極との良好な接合性が確認された。
【0089】
得られた高分子アクチュエータについて、大気中で、両電極間に1~5Vの直流電圧を印加し、高分子アクチュエータの屈曲変形を確認した。
【0090】
図3に、温度25℃、湿度30%、直流電圧±5Vをスイッチング間隔30秒周期で印加(ステップ)したときの変位量を示す。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明にかかる高分子アクチュエータは、従来の貴金属を用いた高分子アクチュエータに比べて、コスト的に安価で、短時間で簡単に製造可能であるので、家電製品や工業製品におけるノイズがなく巧みでなめらかな動きが要求される部分、真のヒューマノイドロボット、汎用ロボット等に利用することができ非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】従来の高分子アクチュエータおよび本発明の高分子アクチュエータの一実施形態を示す概略図であり、(a)は電圧印加前の、(b)は電圧印加時の高分子アクチュエータを示す概略図である。
【図2】実施例1において得られた高分子アクチュエータの電圧印加による屈曲変形の変位量を示すグラフである。
【図3】実施例2において得られた高分子アクチュエータの電圧印加による屈曲変形の変位量を示すグラフである。
【図4】実施例1において得られた高分子アクチュエータの電圧印加による屈曲変形の変位量を示すグラフである。
【図5】従来の高分子アクチュエータの電圧印加による屈曲変形の変位量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0093】
1 フィルム
2a・2b 電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4