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明細書 :組織再生用組成物及びそれを用いたスキャフォールド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5076141号 (P5076141)
公開番号 特開2008-161502 (P2008-161502A)
登録日 平成24年9月7日(2012.9.7)
発行日 平成24年11月21日(2012.11.21)
公開日 平成20年7月17日(2008.7.17)
発明の名称または考案の名称 組織再生用組成物及びそれを用いたスキャフォールド
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
A61L  15/16        (2006.01)
FI A61L 27/00 C
A61L 15/01
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2006-355264 (P2006-355264)
出願日 平成18年12月28日(2006.12.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2006年7月1日発行の「キチン・キトサン研究 第12巻 第2号」に発表、平成18年8月10日 日本キチン・キトサン学会主催の「第20回キチン・キトサンシンポジウム」において文書(ポスター)をもって発表
審査請求日 平成21年11月26日(2009.11.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】櫻井 謙資
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
審査官 【審査官】川口 裕美子
参考文献・文献 特開昭61-141373(JP,A)
特表2007-516333(JP,A)
鈴村克之 他,キトサン/セリシンの電界紡糸と応用,キチン・キトサン研究,2006年 7月 1日,Vol.12, No.2,p.223
三宅肇 他,キトサン/セリシン混合膜の作製と生成膜の特性,繊維学会誌,2006年12月10日,Vol.62, No.12,p.267-274
調査した分野 A61L 15/00,27/00
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
キトサン及びセリシンを含有し、多孔性であり、かつ50~300μmの平均孔径を有する、組織再生用組成物。
【請求項2】
キトサンとセリシンとの含有割合が重量比で90~60:10~40である、請求項1記載の組織再生用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組織再生用組成物からなる、スキャフォールド。
【請求項4】
請求項1又は2記載の組織再生用組成物からなる、創傷治癒剤。
【請求項5】
β-キトサン及びセリシンを含有する、組織再生用組成物。
【請求項6】
キトサンと、セリシンと、溶媒とを含有する混合溶液を凍結乾燥又は凍結ゲル化に供する、組織再生用組成物の製造方法。
【請求項7】
混合溶液が酸成分を含む、請求項6記載の組織再生用組成物の製造方法。
【請求項8】
凍結乾燥又は凍結ゲル化に供する前に混合溶液を予備凍結する、請求項6又は7記載の組織再生用組成物の製造方法。
【請求項9】
凍結乾燥に供した後に凍結乾燥物を中和する、請求項7又は8記載の組織再生用組成物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生用組成物及びそれを用いたスキャフォールドに関する。
【背景技術】
【0002】
重度の熱傷による皮膚の損傷や瘢痕、床ずれによる褥瘡、糖尿病性潰瘍、重症アトピー性皮膚炎、交通事故による皮膚の損傷などによる皮膚欠損には、従来から、本人の健康皮膚を移植、あるいは自家培養皮膚の移植などが行われてきた。しかし、真皮まで達するような重度の損傷の場合、移植皮膚の生着率が必ずしも良好ではなく再移植が必要となる場合があるなど、患者に与える負担は少なからず、また自家培養は緊急時に対応できないなど、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0003】
近年、組織工学や再生医工学の進歩により、生体から取り出した細胞多分化能や自己複製能を有する細胞(幹細胞)を生体組織の欠損部等に移植して目的組織を再生する研究が行なわれている。細胞を増殖させるべく、スキャフォールド(足場材料)の利用が検討されているが、スキャフォールドは脂肪族ポリエステルやコラーゲンといった生体吸収性材料を含有する多孔性の組織再生用組成物から構成されている(特許文献1及び2)。これにより、その孔内に細胞を播種して増殖させ、これを生体に移植することにより、生体内で組織再生が起こると共に、足場である生体吸収性材料が徐々に生体内で分解吸収される結果、細胞の増殖に利用した足場をそのまま増殖細胞と共に生体へ移植することが可能になると考えられる。

【特許文献1】特開2004-75547号公報
【特許文献2】特開2005-229871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、組織再生用組成物やスキャフォールドには、生体適合性や安全性の他、早期に組織再生することが可能であるなどの特性が求められているが、従来の組織再生用組成物やスキャフォールドは必ずしも十分に満足できるものではなかった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は生体適合性に優れ、安全にかつ早期に組織再生が可能な組織再生用組成物及びそれを用いたスキャフォールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、キトサン及びセリシンを含有する組織再生用組成物が細胞増殖性や細胞分化能に優れるため、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)キトサン及びセリシンを含有する、組織再生用組成物。
(2)キトサンとセリシンとの含有割合が重量比で90~60:10~40である、上記(1)記載の組織再生用組成物。
(3)上記(1)又は(2)記載の組織再生用組成物からなる、スキャフォールド。
(4)上記(1)又は(2)記載の組織再生用組成物からなる、創傷治癒剤。
(5)上記(3)記載のスキャフォールドを細胞に接触させて再生された組織構造体。
(6)キトサンと、セリシンと、溶媒とを含有する混合溶液を凍結乾燥又は凍結ゲル化に供する、組織再生用組成物の製造方法。
(7)混合溶液が酸成分を含む、上記(6)記載の組織再生用組成物の製造方法。
(8)凍結乾燥又は凍結ゲル化に供する前に混合溶液を予備凍結する、上記(6)又は(7)記載の組織再生用組成物の製造方法。
(9)凍結乾燥に供した後に凍結乾燥物を中和する、上記(7)又は(8)記載の組織再生用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組織再生用組成物は、生体適合性の良好なキトサン及びセリシンを含有することから、生体適合性だけでなく、安全性にも優れるようになる。また、本発明の組織再生用組成物は多孔性を有し、細胞増殖性や細胞分化能に優れることから、早期に組織再生をすることが可能になる。
したがって、皮膚、血管、神経、骨、軟骨、食道、弁、その他臓器等の再生のために直接使用することが可能であり、また、in vitro又はin vivoにおける、組織培養におけるスキャフォールドとして使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
(組織再生用組成物)
本発明の組織再生用組成物は、キトサン及びセリシンを含有することを特徴とする。以下、構成材料について説明する。
キトサンは、主にカニやエビ等の甲殻類をはじめ、昆虫、貝、キノコ等から得られるキチンを脱アセチル化して得られる多糖類であり、通常、脱アセチル化度が60%以上のものをいうが、本発明においては、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上のものが使用される。キチンには分子結晶構造の違いによってα型、β型、γ型の3種類存在するが、いずれのキチンから得られたキトサンを使用することができる。中でも、細胞増殖性や細胞分化能に優れる点でβ型が好適である。なお、脱アセチル化度における「%」は、脱アセチル化によりキチン分子中のアセトアミド基がアミノ基に変換され、結果としてキチン分子の繰返し単位(N-アセチルグルコサミン残基)100個あたりに存在するアミノ基の割合を示す。
キトサンは、製造方法によって、例えば、30,000~1,000,000以上の重量平均分子量(Mw)のものが存在するが、本発明においては、ひび割れが防止の観点から、概ね1,000,000前後(好ましくは500,000~1,000,000、より好ましくは700,000~1,000,000)のものが好適に使用される。このようなキトサンは、商業的に入手可能である。
【0010】
セリシンは、蚕の繭中にフィブロインを取り囲むかたちで20~30%含まれており、複数のアミノ酸を含むタンパク質である。本発明においては、セリンを主成分として含有するものであれば特に限定なく使用することができる。
セリシンには、Mwが20,000~500,000以上のものが存在するが、本発明においては、好ましくは20,000~50,000、より好ましくは20,000~40,000のものが使用される。このようなセリシンも、キトサンと同様に商業的に入手することができる。
【0011】
キトサンとセリシンとの含有割合は特に限定されるものではないが、キトサンが過剰であることが好ましく、例えば、重量比で、好ましくは90~60:10~40、より好ましくは90~70:10~30である。これにより、細胞の再生に好適な孔径を有する組織再生用組成物とすることができ、その結果、細胞増殖性や細胞分化能がより一層高められ、組織再生をより確実に、かつ早期に実現することが可能になる。
【0012】
本発明の組織再生用組成物は、キトサン及びセリシンの混合物であるが、キトサン及びセリシンの一部において静電結合やファンデルワールス結合等の結合による複合体を形成していてもよい。
【0013】
本発明の組織再生用組成物には、所望によりキトサン及びセリシン以外の成分を含有していてもよい。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の生体適合性・生分解性ポリマーが挙げられる。なお、これらの成分の含有量は、本発明に影響を与えない範囲で使用目的に応じて適宜設定することができる。
【0014】
本発明の組織再生用組成物は、多孔性であり、デジタル顕微鏡(キーエンス社製)観察及び走査電子顕微鏡(日立製作所S-2300)観察により、50~300μm(好ましくは100~250μm)程度の平均孔径を有することを確認している。このように、本発明の組織再生用組成物は、細胞の侵入に適した孔径を有しているため、孔内に細胞を播種して増殖させることが可能であり、損傷し、欠損した生体組織の再生に有効である。
また、本発明の組織再生用組成物は、膜状又はシート状に成形して創傷治癒剤として利用することが可能であり、これを必要に応じて粘着シートに積層して使用してもよい。
【0015】
(スキャフォールド)
本発明のスキャフォールドは、上記した組織再生用組成物により構成されるものである。そのため、上記した組織再生用組成物と同様の性状を有する。また、スキャフォールドの形態は特に限定されず、損傷・欠損した生体組織の部位に対応した形状・構造(例えば、膜状、シート状、棒状、チューブ状、バルク状等)に成形され、皮膚、血管、神経、骨、軟骨、食道、弁、その他臓器等の再生のために直接使用し、また、in vitro又はin vivoにおける、組織培養に使用することができる。そして、スキャフォールドを細胞に接触させることで、再生された組織構造体を得ることができる。
【0016】
(組織再生用組成物の製造方法)
次に、本発明の組織再生用組成物の製造方法を説明する。
本発明の組織再生用組成物の製造方法は特に限定されないが、キトサンと、セリシンと、溶媒を含有する混合溶液を調製し、これを凍結乾燥又は凍結ゲル化に供することを特徴とする。なお、混合溶液には酸成分を含有することが好ましい。これにより、キトサンの溶解性を高めることができる。以下、酸成分を含む好適な製造方法に即して説明する。
本発明においては、凍結乾燥又は凍結ゲル化に供する前に混合溶液を凍結処理(予備凍結)してもよい。また、凍結乾燥又は凍結ゲル化に供した後に、後処理として、凍結乾燥物を中和・水洗又は凍結ゲル化物を水洗し、これを2次乾燥することが好ましい。これにより、多孔性の組織再生用組成物を得ることができる。
【0017】
(混合溶液の調製)
先ず、キトサン及びセリシンの各溶液を調製する。キトサン及びセリシンを溶解すべき溶媒としては、キトサン及びセリシンをそれぞれ溶解できるものであれば特に限定なく使用できるが、例えば、キトサンの場合には酸性水溶液が好適に使用され、セリシンの場合には蒸留水が好適に使用される。
キトサンを溶解すべき酸性水溶液の酸成分としては、人体に影響がなく、かつpHが2~6(好ましくは3~5)程度の弱酸であれば、有機酸及び無機酸のいずれをも使用することができる。中でも、有機酸が好適に使用される。このような有機酸としては、蟻酸、酢酸、酪酸、乳酸,コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、等が挙げられ、中でも酢酸、クエン酸、リンゴ酸が好適である。酸の使用量は、キトサン100重量部に対して、好ましくは20~80重量部、より好ましくは40~70重量部である。
キトサン溶液及びセリシン溶液の各濃度は、溶液の全重量基準で、例えば、1~2重量%(好ましくは1.2~1.5重量%)である。そして、上記濃度に調製されたキトサン溶液及びセリシン溶液を所望の割合で混合する。キトサン及びセリシンの配合割合は特に限定されるものではないが、キトサンが過剰であることが好ましく、重量比で、より好ましくは90~60:10~40、更に好ましくは90~70:10~30である。キトサン及びセリシンは、上記したMwのものが好適に使用される。
【0018】
(予備凍結)
混合溶液を容器に入れ、これを所定温度に冷却し凍結処理物を得る工程である。予備凍結には、例えば、市販の冷蔵庫や凍結乾燥機を用いることができる。容器としては、金属製及びプラスチック製のいずれの材質のものであってもよい。
凍結温度は溶媒の凝固点よりも低い温度に設定すればよいが、例えば、混合溶液の溶媒として水を含む場合、好ましくは-80~-10℃、より好ましくは-40~-20℃である。また、凍結時間は、混合溶液の濃度や凍結温度により一様ではないが、好ましくは12~36時間、より好ましくは20~30時間である。予備凍結は、凍結乾燥の成否を左右する重要な前処理工程であるため、十分に行なうことが好ましい。
【0019】
(凍結乾燥)
凍結処理物を、減圧状態で一次乾燥する工程である。凍結乾燥には、例えば、市販の凍結乾燥機を用いることができる。この工程では、例えば、混合溶液の溶媒として水を含む場合、凍結処理物中の水分が氷のまま融解することなく昇華除去される。すなわち、凍結乾燥においては、凍結処理物の表面から水分の昇華が始まるが、徐々に乾燥部分と未乾燥部分とに分かれて、その境目で昇華が起こるようになる。そして、昇華面が次第に凍結処理物の表面から奥へと延びていき、通路が形成される。その結果、凍結処理物に多孔性を付与することが可能になる。
処理温度は、混合溶液の溶媒の種類により一様ではないが、例えば、混合溶液の溶媒として水を含む場合、好ましくは-50~-10℃、より好ましくは-40~-20℃である。また、減圧度は、好ましくは0.15~1.5Pa(1~11×10-3mmHg)、より好ましくは0.3~1.0Pa(2~7×10-3mmHg)である。処理時間は、処理温度や減圧度により一様ではないが、好ましくは12~72時間、より好ましくは20~40時間である。
凍結乾燥は、凍結機内で予備凍結した凍結処理物を凍結乾燥機に移して行なってもよいが、予備凍結を凍結乾燥機内で行なった後、凍結乾燥をそのまま凍結乾燥機内で凍結温度や減圧度を設定し直して行なってもよい。
【0020】
(凍結ゲル化)
凍結処理物を凍結状態で強アルカリ溶液に浸漬してゲルを形成させる工程である。凍結ゲル化により酸成分が中和され、高分子鎖が凍結状態を維持したまま再生されることにより凍結ゲル化物に多孔性が付与される。同時に凍結水もゲル化液中に溶出する。
強アルカリとしては、アルカリ金属の水酸化物が挙げられ、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、等が例示される。中でも、水酸化ナトリウムが好適に使用される。また、溶媒としては、水、アルコール、等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール等が挙げられ、一価アルコールが好適に使用される、中でも、水及びアルコールの組み合わせが好ましく、水及び一価アルコール(特に、低級アルコール)の組み合わせがより好ましく、水及びエタノールの組み合わせが更に好ましい。なお、水及びアルコールの配合割合は、重量比で好ましくは30:70~70:30であり、より好ましくは40:60~60:40である。アルカリの濃度は、溶液の全重量基準で、好ましくは1~7重量%、より好ましくは2~4重量%である。
強アルカリ溶液への浸漬は冷却状態で行なわれるが、例えば、溶媒が水とアルコール混合液である場合、好ましくは-50~-10℃、より好ましくは-30~-20℃である。また、浸漬時間は、凍結処理物の組成や冷却温度により一様ではないが、好ましくは15~40時間、より好ましくは20~30時間である。
【0021】
(中和)
凍結乾燥物を中和する工程である。
凍結乾燥後においては、凍結乾燥物をアルカリに接触させて中和する。アルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、中でもアンモニアが好ましく、アンモニアの飽和蒸気がより好ましい。アルカリ濃度は、好ましくは3~10重量%、より好ましくは5~8重量%である。また、処理時間は、使用するアルカリの種類により一様ではないが、例えば、アンモニアの飽和蒸気の場合、好ましくは2~5日、より好ましくは3~4日である。
なお、凍結ゲル化後においては、ゲル化時点で酸成分が中和されているため必ずしも中和工程を要しないが、生成した塩を除去するために凍結ゲル化物を水洗する。
【0022】
(2次乾燥)
中和処理物を乾燥する工程であるが、例えば、混合溶液の溶媒として水を含む場合、中和処理物に吸着している分子状態の水を除去して乾燥する工程である。2次乾燥工程においては、中和処理物を必要により加熱してよく、また室温程度(25℃程度)の温度で自然乾燥してもよい。乾燥時間は、乾燥温度により一様ではないが、好ましくは12~36時間、より好ましくは20~30時間である。これにより、凍結時の形状(例えば、多孔性)を保持した、スポンジのような感触の組織再生用組成物を得ることができる。
【0023】
(スキャフォールド・創傷治癒剤の製造方法)
本発明のスキャフォールド及び創傷治癒剤は、組織再生用組成物と同様の方法により製造することが可能であるが、上記した混合溶液を所望形状の容器内で予備凍結、又は凍結乾燥若しくは凍結ゲル化に供するか、あるいは上記した製法により得られた組織再生用組成物を所望形状に加工することで製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、キトサンの脱アセチル化度を除き、特に断りのない限り、「%」は「重量%」を意味する。また、本実施例で使用した材料は、以下のとおりである。
α-キトサン(α-CS):Mw1,000,000、DAC96%、カニ由来キトサン、片岡チッカリン(株)製
β-キトサン(β-CS):Mw960,000、DAC90%、イカ由来キトサン、Dong社製
セリシン(SER):Mw30,000、商品名;低分子量セリシン、セーレン(株)製
酢酸:特級、ナカライテスク(株)製
水酸化ナトリウム:特級、ナカライテスク(株)製
アンモニア水:濃度25%、メルク・ジャパン(株)製
【0025】
(実施例1)
α-CSをキトサン100重量部に対して50重量部の酢酸を含む水溶液に溶解して1.2%のα-CS溶液を調製した。他方、SERを蒸留水に溶解して1.2%のSER溶液を調製した。次いで、得られたα-CS溶液及びSER溶液を、CS/SER(重量比)が80/20になるように混合してα-CS/SER溶液を得た。
次いで、アクリル製容器(内法:長径40mm、短径20mm、深さ0.5mm)にα-CS/SER溶液を満たし、-26℃の冷蔵庫内で1日予備凍結した。次いで、以下の凍結乾燥法により凍結乾燥物を得た。すなわち、凍結処理物を凍結乾燥機(形式:NEO COOL、ヤマト科学(株)製)により、-26℃、0.3Pa(2×10-3mmHg)の条件で1日凍結乾燥して凍結乾燥物を得た。次いで、得られた凍結乾燥物をアクリル製容器から剥がし、それを密閉可能な容器内に入れ、5%NH飽和蒸気中で4日間中和した。そして、中和処理物を取り出し、それを1日間自然乾燥することで膜厚0.15mm、平均孔径200μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。なお、孔径は、デジタル顕微鏡(キーエンス社製)観察及び走査電子顕微鏡(日立製作所S-2300)観察により得たものである。得られたスキャフォールドの写真を図1に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、α-CS/SER(重量比)が80/20の溶液を得、次いで得られた溶液を-26℃の冷蔵庫内で1日予備凍結した。次いで、以下の凍結ゲル化法により凍結ゲル化物を得た。すなわち、凍結処理物を-26℃で3%NaOHを含むエタノール/水(重量比1/1)溶液に1日浸漬して凍結ゲル化物を得た。そして、凍結ゲル化物を水洗した後、1日間自然乾燥することで、膜厚0.12mm、平均孔径100μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。
【0027】
(実施例3)
α-CSの代わりにβ-CSを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法に膜厚0.15mm、平均孔径200μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。
【0028】
(実施例4)
α-CSの代わりにβ-CSを用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により膜厚0.12mm、平均孔径100μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。
【0029】
(実施例5)
α-CSの代わりにβ-CSを用い、β-CS/SER(重量比)を90/10にしたこと以外は、実施例2と同様の方法により膜厚0.12mm、平均孔径100μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。
【0030】
(実施例6)
α-CSの代わりにβ-CSを用い、β-CS/SER(重量比)を70/30にしたこと以外は、実施例2と同様の方法により膜厚0.12mm、平均孔径100μmの組織再生用組成物からなるスキャフォールドを得た。
【0031】
(比較例1)
α-CS/SER(重量比)を100/0にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により膜厚0.15mm、平均孔径200μmのスキャフォールドを得た。
【0032】
(比較例2)
α-CSの代わりにβ-CSを用い、β-CS/SER(重量比)を100/0にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により膜厚0.15mm、平均孔径200μmのスキャフォールドを得た。
【0033】
(比較例3)
α-CS/SER(重量比)を100/0にしたこと以外は、実施例2と同様の方法により膜厚0.12mm、平均孔径100μmのスキャフォールドを得た。
【0034】
(比較例4)
α-CSの代わりにβ-CSを用い、β-CS/SER(重量比)を100/0にしたこと以外は、実施例2と同様の方法により膜厚0.12mm、平均孔径100μmのスキャフォールドを得た。
【0035】
(評価)
1.広角X線回折(WAXD)測定
実施例4で得たスキャフォールドを折り畳み、大きさ10×3(mm)、厚さ0.1mmの試料を得、これをデシケータ中で十分に乾燥した。
【0036】
(1)WAXD強度測定
乾燥後の試料を用いて、赤道線(β=0°)上についてWAXD強度測定を行なった。測定結果を図2に示す。また、セリシン粉末について同様のWAXD強度測定を行なった結果を図3に示す。
(測定条件)
装置:RINT2100(理学電機製)
X線:CuKα(Niフィルターろ過)
管電圧:40kV
管電流:20mA
走査範囲:2θ 3~40°
スキャンスピード:1°/min
【0037】
(2)WAXD写真
乾燥後の試料を用いて、WAXD写真を撮影した。その結果を図4に示す。
(測定条件)
装置:XC-40H(東芝製)
X線:CuKα(Niフィルターろ過)
管電圧:40kV
管電流:20mA
照射時間:6時間
コリメータ:0.5mm径
カメラ長:32mm
【0038】
図2に示すWAXD強度測定により、実施例4で得たスキャフォールドは2θ=10.8°、15.3°。20.5°及び35.2°に回折ピークを有することが確認された。これは、酢酸、蟻酸、酪酸に溶解したキトサンをキャストしたフィルムをNaOHにより中和したものの回折ピークに似ていた。このことから、実施例4のスキャフォールドも中和されていることが確認された。また、図3よりセリシンは低結晶性であり、図4より実施例4で得たスキャフォールドは結晶性を示すことが確認された。
【0039】
2.FT-IR測定
実施例1~6及び比較例1~4で得た各スキャフォールドをデシケータ中で十分に乾燥した後、FT-IR測定を行なった。また、キトサン粉末及びセリシン粉末について同様のFT-IR測定を行なった。測定結果を図5~9に示す。
【0040】
図5中、(a)は実施例1で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(b)は実施例2で得たスキャフォールドのFT-IR曲線をそれぞれ示す。
図6中、(c)は実施例3で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(d)は実施例4で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(e)は実施例5で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(f)は実施例6で得たスキャフォールドのFT-IR曲線をそれぞれ示す。
図7中、(g)は比較例1で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(h)は比較例2で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(i)は比較例3で得たスキャフォールドのFT-IR曲線、(j)は比較例4で得たスキャフォールドのFT-IR曲線をそれぞれ示す。
図8中、(k)はα-CSのFT-IR曲線、(l)はβ-CSのFT-IR曲線をそれぞれ示す。図9は、SERのFT-IR曲線を示す。
【0041】
図5~7のいずれにも1050cm-1付近に吸収ピークがあり、これは多糖類が有するC-O結合に由来するものであって、キトサンを示すものと考えられる。また、図9には1530cm-1と1650cm-1付近に吸収ピークがあり、これらの吸収ピークは図5及び6にも存在するため、これらのピークはセリシンに由来するものと推察される。これにより、実施例1~6で得たスキャフォールドは、キトサン及びセリシンを含有することが確認された。
【0042】
3.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
実施例1~2で得たスキャフォールドの表面又は断面をE-101型イオンスパッタで金属(Au)蒸着した後、SEM観察した。なお、スキャフォールドの断面は、スキャフォールドを液体窒素中に10分程度入れた後、すばやく取り出してカッターで切断して形成された切断面である。なお、試料は、SEM観察前にデシケータ中で十分に乾燥した。測定結果を図10及び11に示す。図10中、(a)は実施例1で得たスキャフォールドの表面のSEM像(×100)であり、(b)は実施例1で得たスキャフォールドの断面のSEM像(×150)である。また、図11中、(a)は実施例2で得たスキャフォールドの表面のSEM像(×100)であり、(b)は実施例2で得たスキャフォールドの断面のSEM像(×150)である。
【0043】
(測定条件)
装置:S-2300(日立製作所製)
加速電圧:25kV
ワーキングdistance:25mm
【0044】
(マウスに対する創傷治癒実験)
(1)試料の作製
実施例1~6及び比較例1で得たスキャフォールドを10×20(mm)程度の大きさに裁断し、それぞれを絆創膏のガーゼを剥がした粘着部に貼付し、絆創膏の4隅を切り取ったものを試料とした(図12参照)。
【0045】
(2)創傷の作製
マウスの表皮を剥がすために、脱毛剤を背中に塗り肌が赤くなる状態まで脱脂綿で背中を擦った。その後、表皮を剥がした部分にカミソリで真皮に達する傷を3本入れた。
【0046】
(3)創傷治癒効果の観察
創傷部にスキャフォールドが接触するように、試料をマウスの体に巻付けた(図13参照)。創傷処理直後、3、6及び10日目に試料を剥がし創傷部の治癒状態を観察し、下記基準で評価した。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
◎:傷や瘡蓋が見られず、綺麗に治癒している。
○:傷跡は見られないが、表面が少し荒れている。
△:傷跡が見られる。
×:傷が残っている。
【0047】
【表1】
JP0005076141B2_000002t.gif

【0048】
創傷処理直後、3日目、6日目及び10日目の創傷部の治療状態を撮影した。図14は実施例1で得たスキャフォールドを用いた結果であり、図15は実施例2で得たスキャフォールドを用いた結果であり、図16はコントロール(比較例1で得たスキャフォールドの結果)である。
【0049】
実施例1~6で得たスキャフォールドを貼付した場合、試料貼付後3日目には出血が見られなくなっており、また試料貼付後6日目には創傷部位に新しい皮膚が形成されていることが確認された。更に、試料貼付後10日目には創傷部位の皮膚がきれいに再生されており、皮膚下感染症も発症しなかった。中でも、実施例2及び4で得たスキャフォールドが最も良好な結果を与えた。これにより、実施例1~6で得たスキャフォールドは、早期に組織再生することが可能であることが確認された。
【0050】
(4)創傷領域の皮膚断面サンプルの作製及び観察
創傷処理後10日目のマウスから創傷領域の皮膚を切り取り、それをホルマリンで固定した。そして、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色し、顕微鏡を用いて観察した。図17及び18に切り取った皮膚の断面写真を示す。図17中、(a)は皮膚断面を示す図であり、(b)は表皮を剥がした状態の皮膚断面を示す図であり、図18中、(a)は実施例1で得たスキャフォールドを接触させた皮膚断面を示す図であり、(b)は実施例2で得たスキャフォールドを接触させた皮膚断面を示す図であり、(c)はコントロールの皮膚断面を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】スキャフォールドの一例を示す図である。
【図2】実施例4で得たスキャフォールドのWAXD強度曲線を示す図である。
【図3】セリシン粉末のWAXD強度曲線を示す図である。
【図4】実施例4で得たスキャフォールドのWAXD写真を示す図である。
【図5】実施例1~2で得たスキャフォールドのFT-IR曲線を示す図である。
【図6】実施例3~6で得たスキャフォールドのFT-IR曲線を示す図である。
【図7】比較例1~4で得たスキャフォールドのFT-IR曲線を示す図である。
【図8】α-CS及びβ-CSのFT-IR曲線を示す図である。
【図9】SERのFT-IR曲線を示す図である。
【図10】実施例1で得たスキャフォールドのSEM像を示す図である。
【図11】実施例2で得たスキャフォールドのSEM像を示す図である。
【図12】創傷治癒実験で使用した試料の一例を示す図である。
【図13】マウスに試料を貼付した状態を示す図である。
【図14】実施例1で得たスキャフォールドを用いた場合の治療状態を示す図である。
【図15】実施例2で得たスキャフォールドを用いた場合の治療状態を示す図である。
【図16】コントロールの治療状態を示す図です。
【図17】皮膚の断面写真を示す図である。
【図18】試料貼付後10日目のマウスから切り取った皮膚の断面写真を示す図である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図5】
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【図6】
3
【図7】
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【図8】
5
【図9】
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【図1】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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