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明細書 :膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4576168号 (P4576168)
公開番号 特開2006-010633 (P2006-010633A)
登録日 平成22年8月27日(2010.8.27)
発行日 平成22年11月4日(2010.11.4)
公開日 平成18年1月12日(2006.1.12)
発明の名称または考案の名称 膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
G01N 33/50 R
G01N 33/53 D
G01N 33/53 M
請求項の数または発明の数 9
全頁数 25
出願番号 特願2004-191577 (P2004-191577)
出願日 平成16年6月29日(2004.6.29)
審査請求日 平成19年5月23日(2007.5.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】502396373
【氏名又は名称】TSSバイオテック株式会社
発明者または考案者 【氏名】吉貴 達寛
【氏名】影山 進
【氏名】岩城 秀出洙
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100125508、【弁理士】、【氏名又は名称】藤井 愛
審査官 【審査官】石丸 聡
参考文献・文献 J. Urol., vol. 171, pages 1554-1558 (Apr. 2004)
Jpn. J. Cancer Res., vol. 89, pages 879-882 (1998)
J. Cell Biol., vol. 151, pages 961-971 (2000)
Strausberg R.L. et al.,“Accession:BC069544 [GI:47479545], Definition: Homo sapiens uroplakin 3A, mRNA (cDNA clone MGC:97009 IMAGE:7262218), complete cds.”NCBI Sequence Revision History [online]; 25-JUN-2004 uploaded, NCBI,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?47479545:OLD03:6550485
Biochem. J., vol. 355, pages 13-18 (2001)
J. Urol., vol. 178, pages 1322-1327 (2007)
Kidney Int., vol. 66, pages 10-19 (Jul. 2004)
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/09
G01N 33/50
G01N 33/53
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
被検体由来の試料中のウロプラキンの発現を検出することを含み、ウロプラキンの発現量が亢進しているか検査することを特徴とする、膀胱尿管逆流症の検査方法。
【請求項2】
ウロプラキンがウロプラキンIIIである請求項1記載の方法。
【請求項3】
被検体由来の試料中のウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを検出することによりウロプラキンの発現を検出する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマーまたはウロプラキンをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブを用いてウロプラキンの発現を検出する請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
被検体由来の試料が尿である請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
被検体由来の試料中のウロプラキンIIIの発現を検出し、ウロプラキンIIIの発現量が亢進しているか検査することを特徴とする、間質性膀胱炎の検査方法。
【請求項7】
被検体由来の試料中のウロプラキンIIIをコードするポリヌクレオチドを検出することによりウロプラキンIIIの発現量を検出する請求項6記載の方法。
【請求項8】
ウロプラキンIIIをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマーまたはウロプラキンIIIをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブを用いてウロプラキンIIIの発現量を検出する請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
被検体由来の試料が尿である請求項6~8のいずれか1項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査方法、ならびにそのための検査薬および検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱尿管逆流症(VUR)は非常に人種差が大きい先天性疾患で、最も発生頻度が高い欧米の白人では全胎児の10%以上に認められると報告されている。VURの程度、先天性腎低形成の合併、反復した尿路感染による腎瘢痕化の有無など様々な因子により予後は異なるが、早期に十分な治療が行われなかった場合は成人になって腎機能障害、さらには腎不全へと進展することが多い。実際に、進行した腎不全患者の約20%にVURが認められると報告されている。VURの診断には尿道からのカテーテル挿入を行う排尿時膀胱造影を必須とし、このような重要な疾患でありながら、スクリーニングに利用できる簡便な検査方法は確立されていない。そのためVURの疑いがある患者のほとんど全てが侵襲的なレントゲン検査を受けざるを得ないのが現状である。
【0003】
VURを早期診断することができれば、適切な治療管理を実施することにより、最終的には腎不全になって血液透析を年余に渡って受ける患者を多数救えることになり、また地球規模でも医療資源を節約できる。従って、全出産例においてVURの有無を容易に検査できるような簡便かつ侵襲のない検査方法の確立が望まれている。
【0004】
間質性膀胱炎(IC)は、米国では約70万人の罹患者数(90%以上が女性)が見込まれる比較的一般的な疾患である。主に強い尿意切迫感と頻尿、膀胱充満時の疼痛を主訴とし、程度に差はあるものの患者の「生活の質」を著しく損ねる疾患である。それにもかかわらず、有効な治療方法は確立されていないのが現状である。そもそもICの診断は容易ではなく、詳細な問診と排尿動態検査のほかに、膀胱鏡検査での粘膜からの点状出血の確認や、麻酔下での膀胱粘膜生検など、侵襲的な検査を診断の補助としているのは憂慮すべき事態である。現時点では、ICの原因として、機械的刺激、アレルギー、免疫応答、神経血管性、尿路感染など、多くの要因が関与していると考えられているが、いずれの説にも決定的根拠はなく、ICの簡便かつ侵襲のない検査方法が望まれている。
【0005】
一方、ウロプラキン(UP)は尿路上皮(尿道、膀胱、尿管、腎盂の粘膜)細胞に特異的に発現する膜タンパク質で、分子量27kDaのIa(UPIa)、28kDaのIb(UPIb)、15kDaのII(UPII)、そして47kDaのIII(UPIII)と4種類の構成タンパク質が分離同定されており、これら4種類のファミリーが尿路上皮最上層でプラークを形成している。これらウロプラキンファミリーは尿路上皮表面の安定化や透過物質からのバリアーとして機能していることなどが考えられているが、詳しい生理機能は解明されていない。非特許文献1には、ヒトUPIII遺伝子のクローニングについて報告されており、非特許文献2には、UPIaに対する特異的ポリクローナル抗体について報告されおり、尿路移行上皮癌(膀胱癌、尿管癌、腎盂癌)の組織診断マーカーとしての有用性が示唆されている。
【0006】
最近、生まれつき標的タンパク質が機能発現しないように遺伝子操作したウロプラキンIII(UPIII)遺伝子ノックアウトマウスで両側VURが単独発生するとの注目すべき発表があったが(非特許文献3)、家族性VUR患者を対象としたUPIII遺伝子解析では「遺伝子変異は検出されなかった」とも報告されている(非特許文献4)。従って、VURおよびICの原因については未だ不明であり、その利用可能な検査方法も知られていない。
【0007】

【非特許文献1】Japanese Journal of Cancer Research,89:879,1998
【非特許文献2】Japanese Journal of Cancer Research,93:523,2002
【非特許文献3】Journal of Cell Biology,151:961,2000
【非特許文献4】Journal of Urology,171:931-2,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎に対する新規なマーカーを見出し、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎を簡便かつ侵襲なく検出できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、尿路上皮細胞に特異的に発現する膜タンパク質であるウロプラキンが、膀胱尿管逆流症患者および間質性膀胱炎患者の上皮組織において発現亢進することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)被検体由来の試料中のウロプラキンの発現を検出することを含む、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査方法。
(2)ウロプラキンがウロプラキンIIIである(1)記載の方法。
(3)被検体由来の試料中のウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを検出することによりウロプラキンの発現を検出する(1)または(2)記載の方法。
(4)ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマーまたはウロプラキンをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブを用いてウロプラキンの発現を検出する(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)被検体由来の試料が尿である(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ウロプラキンまたはその断片と特異的に結合する抗体を含む、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査薬。
(7)ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー、またはウロプラキンをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブを含む、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査薬。
(8)(6)または(7)記載の検査薬を含む、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査キット。
(9)以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号9で表される塩基配列を含むDNA
(b)配列番号9で表される塩基配列の全部または一部からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、各塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが膀胱尿管逆流症患者または間質性膀胱炎患者において発現亢進するDNA。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、膀胱尿管逆流症および間質性膀胱炎に対する新規かつ有効なマーカーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、VUR患者およびIC患者と対照者の尿路上皮組織を試料に用いて、ウロプラキン遺伝子発現量解析のために、それらの各メッセンジャーRNA(mRNA)発現量を比較した。その結果、ウロプラキンmRNAがVURおよびIC上皮組織において発現亢進していることが判明した。さらにこのうちウロプラキンIIIでの実験過程で、1059残基からなる完全長ウロプラキンIIImRNA(UPIII-F)のうち、翻訳領域内にある83残基を欠損したウロプラキンIII新規選択的スプライシングバリアント(UPIII-A)を発見し、このUPIII-AについてもVUR組織での過剰発現が見られることを確認した。
【0013】
ウロプラキン
本発明においてウロプラキン(UP)とは、尿路上皮(尿道、膀胱、尿管、腎盂の粘膜など)細胞に特異的に発現する膜タンパク質であり、Ia(UPIa)、Ib(UPIb)、II(UPII)、およびIII(UPIII)を含む。ウロプラキンIa、Ib、IIおよびIIIをコードするポリヌクレオチドの塩基配列については、例えば、それぞれ、Genbank accession No.NM_007000(配列番号1)、AB002155(配列番号3)、NM_006760(配列番号5)、およびNM_006953(配列番号7)として登録されている。ウロプラキンIa、Ib、IIおよびIIIのアミノ酸配列については、例えば、それぞれ、Genbank accession No.NP_008931(配列番号2)、BAA88878(配列番号4)、NP_006751(配列番号6)およびNP_008884(配列番号8)として登録されている。なおウロプラキンIIIをコードするポリヌクレオチドの塩基配列である配列番号7において、第241~520番の領域が第3のエクソン(以下、「エクソン3」と称することがある)に、第521~603番の領域が第4のエクソン(以下、「エクソン4」と称することがある)に、第604~736番の領域が第5のエクソン(以下、「エクソン5」と称することがある)に、それぞれ対応する。また、上記エクソン4が欠落したウロプラキンIII新規選択的スプライシングバリアント(UPIII-A)をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号9に示す。
【0014】
本発明においてウロプラキンをコードするポリヌクレオチドには、上記塩基配列(配列番号1、3、5、7および9)で表されるポリヌクレオチドと機能的に同等なポリヌクレオチドが含まれる。ここで「機能的に同等」とは、対象となるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが、各塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
【0015】
あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47-9.58,Cold Spring Harbor Lab.press,1989)を利用する方法が挙げられる。
【0016】
本発明においてウロプラキンをコードするポリヌクレオチドには、各塩基配列を含むDNA、ならびに各塩基配列の全部または一部からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、各塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドがVUR患者またはIC患者において発現亢進するものが包含される。ここで、「一部の配列」とは、各ポリヌクレオチドの塩基配列の一部分を含むポリヌクレオチドの塩基配列であって、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるのに十分な塩基配列の長さを有するもの、例えば、少なくとも50塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基の配列である。
【0017】
本明細書において、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、各ポリヌクレオチドに対し高い相同性(相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するポリヌクレオチドが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0018】
また、塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、各ポリヌクレオチドと機能的に同等なポリヌクレオチドを単離することも可能である。
【0019】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離される、機能的に同等なポリヌクレオチドは、通常、アミノ酸配列レベルにおいて高い相同性を有する。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。
【0020】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403-410,1990)。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0021】
試料中におけるウロプラキンの発現検出
本発明の検査方法は、上記ウロプラキンIa、Ib、IIおよびIIIから選択されるウロプラキンの少なくとも1種の発現を検出することを含む。好ましくは少なくともウロプラキンIIIの発現を検出する。
【0022】
本発明の検査方法において、被検体由来の試料中のウロプラキンの発現を検出する方法としては、被検体由来の試料中のウロプラキンポリペプチドを検出する方法、被検体由来の試料中のウロプラキンをコードするRNAを検出する方法が挙げられる。ここで、ウロプラキンをコードするRNAの検出には、該RNAから変換されたcDNAやcRNAの検出も包含される。
【0023】
1.ウロプラキンポリペプチドの検出
試料中のウロプラキンポリペプチドを検出する方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法(米国特許第4,376,110号)、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法(Wideら、KirkhamおよびHunter編集、「ラジオイムノアッセイ法(Radioimmunoassay)」、E.and S.Livingstone、エジンバラ、(1970))、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、上記検査方法は、これらに限定されない。
【0024】
以下に、ウロプラキンまたはその断片と特異的に結合する抗体を用いて、ウロプラキンの発現を検出する方法について詳述する。ウロプラキンまたはその断片と特異的に反応する抗体は、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎において発現されたウロプラキンと結合することができるため、該抗体を用いて試料中のウロプラキンとの反応を検出することによって、該試料が患者またはハイリスク者に由来するか否かを検査することができる。
【0025】
ウロプラキンまたはその断片と特異的に反応する抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、それぞれウロプラキンのエピトープに結合することができる。本発明の抗体のグロブリンタイプは、上記特徴を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgGおよびIgMが好ましい。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに、所望の生物学的活性を有する限り、Fab、F(ab’)、Fv断片等の抗体断片が含まれる(米国特許第4,816,567号)。
【0026】
本発明の抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)となるためのポリペプチドを調製する。免疫原ポリペプチドとしては、ウロプラキンまたはその断片を用いる。本発明において免疫原として使用可能なウロプラキンのアミノ酸配列および該ポリペプチドをコードするcDNA配列は、上記のとおり公開されている。従って、公開されているアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより、免疫原として使用するためのウロプラキンまたはその断片を合成することができる。断片としてはウロプラキンのうち少なくとも6個以上のアミノ酸、好ましくは6~500、より好ましくは8~50アミノ酸からなる部分ペプチドが挙げられる。免疫原としてウロプラキン断片を使用する場合は、KLH、BSAなどのキャリアータンパク質に連結させて使用するのが好ましい。
【0027】
また、公知の遺伝子組換え手法を利用して、ウロプラキンをコードするcDNAの情報を用いてウロプラキンを生産することも可能である。以下、組換え手法を用いたウロプラキンの生産に関して説明する。
【0028】
ウロプラキン生産用組換えベクターは、上記公開されているcDNA配列を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、ウロプラキン生産用組換えベクターを、ウロプラキンが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0029】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドが使用される。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET21a、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0030】
ベクターにウロプラキンcDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0031】
その他、哺乳動物細胞において用いられるウロプラキン生産用組換えベクターには、プロモーター、ウロプラキンcDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。
【0032】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、ウロプラキン生産用組換えベクターを作製する。
【0033】
形質転換に使用する宿主としては、ウロプラキンを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0034】
一例として、細菌を宿主とする場合は、ウロプラキン生産用組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、ウロプラキンDNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BRLなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0035】
酵母、動物細胞、昆虫細胞などを宿主とする場合には、同様に、当技術分野で公知の手法に従って、ウロプラキンを生産することができる。
【0036】
本発明において免疫原として使用するウロプラキンは、上記作製した形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、または細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0037】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0038】
培養は、通常、振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6~24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0039】
培養後、ウロプラキンが菌体内または細胞内に生産される場合には、菌体または細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、ウロプラキンが菌体外または細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体または細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からウロプラキンを単離精製することができる。
【0040】
ウロプラキンが得られたか否かは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0041】
なお、以上の方法によって得られる組換えウロプラキンには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)や緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質などが例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたペプチドもウロプラキンとして用いることができる。このような翻訳後修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0042】
次に、得られたタンパク質を緩衝液に溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
【0043】
モノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(KOHLER AND MI LSTEIN,NATURE(1975)256:495)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。例えば、以下のようにして作製することができる。
【0044】
i)免疫および抗体産生細胞の採取
上記のようにして得られた免疫原を、哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBALB/c)、ウサギなどに投与する。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路などにより適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50~200μgである。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に免疫原を注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1~4週間間隔で、2~6回、好ましくは3~4回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行い、抗体価がプラトーに達したときは、免疫原を静脈内または腹腔内に注射し、最終免疫とする。そして、最終免疫の日から2~5日後、好ましくは3日後に、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞または局所リンパ節細胞が好ましい。
【0045】
ii)細胞融合
ハイブリドーマを得るため、上述のように免疫動物から得た抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。
【0046】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。また株化細胞は、免疫動物と同種系の動物に由来するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、BALB/cマウス由来のヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株である、P3X63-Ag.8株、P3X63-Ag.8.U1株、P3/NSI/1-Ag4-1株、P3x63Ag8.653株またはSp2/0-Ag14株などが挙げられる。
【0047】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを約1:1~20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1,500~4,000ダルトンのポリエチレングリコール等を約10~80%の濃度で使用することができる。また場合によっては、融合効率を高めるために、ジメチルスルホキシドなどの補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0048】
iii)ハイブリドーマの選別およびクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に2×10個/ウエル程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。培養温度は、20~40℃、好ましくは約37℃である。ミエローマ細胞がHGPRT欠損株またはチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生能を有する細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマのみを選択的に培養し、増殖させることができる。その結果、選択培地で培養開始後、約14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0049】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採取し、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immuno AssayおよびELISA)、放射免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)等によって行うことができる。
【0050】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。本発明のハイブリドーマは、後述するように、RPMI1640、DMEM等の基本培地中での培養において安定であり、尿路上皮癌に由来するウロプラキンと特異的に反応するモノクローナル抗体を産生、分泌するものである。
【0051】
iv)モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法または腹水形成法等を採用することができる。
【0052】
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地または無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で2~10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0053】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×10個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1~2週間後に腹水または血清を採取する。
【0054】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより、精製された本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0055】
v)ポリクローナル抗体の採取
ポリクローナル抗体を作製する場合は、前記と同様に動物を免疫し、最終の免疫日から6~60日後に、酵素免疫測定法(EIAおよびELISA)、放射免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0056】
ウロプラキンに対する抗体を用いて被検体由来の試料中のウロプラキンの発現を検出し、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎を検出する場合には、被検体の試料中に、ウロプラキンに対する抗体またはその標識化抗体と結合する抗原ポリペプチドが存在するか否かを試験し、試料中にその抗原ポリペプチドが存在する被検体を膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎患者またはそのハイリスク者と判定する。すなわち、ここで使用する抗体または標識化抗体は、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の細胞で発現しているウロプラキンと特異的に結合する抗体であるから、この抗体と結合する抗原ポリペプチドを含む試料を、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎患者またはそのハイリスク患者の試料として判定することができる。なおその際に、好ましくは2種類以上、好ましくは5種類以上、さらに好ましくは10種類以上、最も好ましくは15~39種類の抗体について試料中のウロプラキンとの結合を判定する。
【0057】
また別の態様は、抗体とウロプラキンとの結合を液相系において行う方法である。例えば、標識化抗体と試料とを接触させて標識化抗体とウロプラキンを結合させ、この結合体を上記と同様の方法で分離し、標識シグナルを同様の方法で検出する。
【0058】
液相系での検出の別の方法は、ウロプラキンに対する抗体(一次抗体)と試料とを接触させて一次抗体と抗原ポリペプチドを結合させ、この結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるためには、非標識の二次抗体を先ず抗体+抗原ポリペプチド結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。なお、一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。液相からの結合体の分離やシグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0059】
また別の態様は、抗体とウロプラキンとの結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量のウロプラキンの検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、ウロプラキンに対する抗体(一次抗体)を固相(樹脂プレート、メンブレン、ビーズ等)に固定化し、この固定化抗体にウロプラキンを結合させ、非結合ペプチドを洗浄除去した後、プレート上に残った抗体+ウロプラキン結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この二次抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、ELISAとして広く用いられている方法である。一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。シグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0060】
2.ウロプラキンRNAの検出
被検体由来の試料中のウロプラキンをコードするRNAを検出する方法としては、ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマーまたはウロプラキンをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブを用いて被検体由来の試料中のウロプラキンの発現を検出する方法が挙げられる。
【0061】
本発明において、ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドは、プリンまたはピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が結合した分子をいい、DNAおよびRNAが包含される。
【0062】
該プライマーまたはプローブは、被検体由来の試料中に発現しているウロプラキンのmRNAまたはmRNAから合成したcDNAまたはcRNAと特異的に結合して、試料中のウロプラキンをコードするポリヌクレオチドの発現、すなわちウロプラキンの発現を検出することが可能である。
【0063】
本発明のプライマーは、ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドの少なくとも1部を増幅するものであればよく、例えば、1059残基からなる完全長ウロプラキンIIImRNA(UPIII-F)のうち、翻訳領域内にある83残基を欠損したウロプラキンIII新規選択的スプライシングバリアント(UPIII-A)を検出することもまた、ウロプラキンの発現の検出に包含される。
【0064】
プライマーおよびプローブは、当業者に公知の手法に従って、設計することができる。プライマーおよびプローブ設計の留意点として、例えば以下を指摘することができる。
【0065】
プライマーとして実質的な機能を有する長さは、通常15塩基以上、好ましくは16~50塩基であり、さらに好ましくは20~30塩基である。またプローブとして実質的な機能を有する長さとしては、15塩基以上が好ましく、さらに好ましくは16~50塩基であり、さらに好ましくは20~30塩基である。
【0066】
また設計の際には、プライマーまたはプローブの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意のポリヌクレオチド鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型DNAまたはRNAとプライマーまたはプローブとが二本鎖を形成してアニーリングまたはハイブリダイズするためには、アニーリングまたはハイブリダイゼーションの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。従って、設計しようとするプライマーまたはプローブのTmは、増幅反応またはハイブリダイゼーションを行う上で重要な因子である。Tmの確認には、公知のプライマーまたはプローブ設計用ソフトウエアを利用することができ、本発明で利用可能なソフトウエアとしては、例えばOligoTM(National Bioscience Inc.(米国)製)、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等などが挙げられる。またTmの確認は、ソフトウエアを使わず、自ら計算することによっても行うことができる。その場合には、最近接塩基対法(Nearest Neighbor Method)、Wallance法、GC%法等に基づく計算式を利用することができる。本発明では、平均Tmが約45~55℃であることが好ましい。
【0067】
プライマーまたはプローブとして特異的なアニーリングまたはハイブリダイズが可能な条件としては、その他にもGC含量などがあり、そのような条件は当業者に周知である。
【0068】
上述のように設計したプライマーおよびプローブは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。さらに、当業者には周知のように、プライマーまたはプローブには、アニーリングまたはハイブリダイズする部分以外の配列、例えばタグ配列などの付加配列が含まれていてもよく、上述したプライマーまたはプローブにそのような付加配列が付加されたものも本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0069】
ウロプラキンIをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーとしては、配列番号1に示す塩基配列のうち少なくとも1~21番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号1に示す塩基配列のうち少なくとも811~831番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号1に示す塩基配列のうち少なくとも337~356番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0070】
ウロプラキンIbをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーとしては、配列番号3に示す塩基配列のうち少なくとも7~28番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列のうち少なくとも880~901番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列のうち少なくとも355~377番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列のうち少なくとも789~812番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0071】
ウロプラキンIIをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーとしては、配列番号5に示す塩基配列のうち少なくとも4~22番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号5に示す塩基配列のうち少なくとも607~628番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0072】
ウロプラキンIIIをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーとしては、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも4~24番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも251~272番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも582~601番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0073】
ウロプラキンIIIのスプライシングバリアントをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーとしては、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも4~24番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも920~940番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号7に示す塩基配列のうち少なくとも501~520番の塩基および604~607番の塩基を含み、かつ連続した15塩基以上の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0074】
被検体由来の試料におけるウロプラキンの発現を検出するためには、上記プライマーおよび/またはプローブをそれぞれ増幅反応またはハイブリダイゼーション反応において用い、その増幅産物またはハイブリッド産物を検出する。
【0075】
試料としては、膀胱尿管逆流症を検査する場合は、試料として尿、膀胱上皮組織を対象とすることができ、間質性膀胱炎を検査する場合もまた、試料として尿、膀胱上皮組織を対象とすることができる。本発明の検査方法は、尿等の試料を対象とできることから、簡便かつ非侵襲の検査が可能になる。
【0076】
増幅反応またはハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、被検体由来の試料から被検ポリヌクレオチドを調製する。被検ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドであればDNAまたはRNAのいずれでもよい。DNAまたはRNAは、当技術分野で周知の方法を適宜使用して抽出することができる。例えば、DNAを抽出する場合には、フェノール抽出およびエタノール沈殿を行う方法、ガラスビーズを用いる方法など、またRNAを抽出する場合には、グアニジン-塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、またはチオシアン酸グアジニウム-フェノール-クロロホルム(AGPC)法などを利用することができる。以上のように調製した試料または被検ポリヌクレオチドを用いて、以下に示す増幅反応および/またはハイブリダイゼーション反応を行う。
【0077】
抽出されたRNAはさらに精製してmRNAとして使用することが好ましい。精製方法は特に限定されないが、真核細胞の細胞質に存在するmRNAの多くは、その3’末端にポリ(A)配列を持つため、この特徴を利用して、例えば、以下のように実施することができる。まず抽出した全RNAにビオチン化オリゴ(dT)プローブ を加えてポリ(A)+RNAを吸着させる。次に、ストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子担体を加え、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用して、ポリ(A)+RNAを捕捉させる。洗浄操作の後、最後にオリゴ(dT)プローブ からポリ(A)+RNAを溶出する。また、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いてポリ(A)+RNAを吸着させ、これを溶出して精製する方法も採用してもよい。溶出されたポリ(A)+RNAは、さらに、ショ糖密度勾配遠心法等により分画してもよい。
【0078】
プライマーを用いて被検ポリヌクレオチドを鋳型とした増幅反応を行い、その特異的増幅反応を検出することにより、試料中のウロプラキンの発現を検出することができる。
【0079】
増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。例えば、PCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法等を挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。
【0080】
例えば、PCR法は、被検ポリヌクレオチドであるDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼにより、一対のプライマー間の塩基配列を合成するものである。PCR法によれば、変性、アニーリングおよび合成からなるサイクルを繰り返すことによって、増幅断片を指数関数的に増幅させることができる。PCRの最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0081】
またRT-PCR法では、まず、被検ポリヌクレオチドであるRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行うものである。
【0082】
なお、増幅手法として競合PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCR法などを採用することにより、定量的な検出が可能となる。リアルタイムPCR(TaqMan PCR)法では、5’端は蛍光色素(レポーター)で、3’端は蛍光色素(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが使用される。プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブ を目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブ が5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を定量する。
【0083】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。
【0084】
あるいは、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。
【0085】
これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0086】
標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ-カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0087】
以上のようにして特異的な増幅反応が検出された場合には、試料中にウロプラキンをコードするポリヌクレオチドが発現している、すなわちウロプラキンが発現していることとなる。従って、試料中にウロプラキンが発現している被検体を膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎患者またはハイリスク者と判定する。
【0088】
また、プローブを用いて試料または被検ポリヌクレオチドに対するハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、ウロプラキンの発現を検出することもできる。
【0089】
ハイブリダイゼーション反応は、プローブがウロプラキンに由来するポリヌクレオチドのみと特異的に結合するような条件、すなわちストリンジェントな条件下で行う必要がある。そのようなストリンジェントな条件は当技術分野で周知であり、特に限定されない。ストリンジェントな条件としては、例えばナトリウム濃度が、10~300mM、好ましくは20~100mMであり、温度が25~70℃、好ましくは42~55℃における条件が挙げられる。
【0090】
ハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミンなど)、放射性標識(32Pなど)、酵素標識(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビパーオキシダーゼ等)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。従って、以下に述べる本発明の検査用キットには、上記のような標識を付加したプローブも含まれる。
【0091】
標識化プローブを用いた検出は、試料またはそれから調製した被検ポリヌクレオチドとプローブとをハイブリダイズ可能なように接触させることを含む。「ハイブリダイズ可能なように」とは、上述したストリンジェントな条件下にて特異的な結合が起こる環境(温度、塩濃度)において、ということである。具体的には、試料または被検ポリヌクレオチドをスライドグラス、メンブラン、マイクロタイタープレート等の適当な固相に固定化し、標識を付加したプローブを添加することにより、プローブと試料または被検ポリヌクレオチドとを接触させてハイブリダイゼーション反応を行い、ハイブリダイズしなかったプローブを除去した後、試料または被検ポリヌクレオチドとハイブリダイズしているプローブの標識を検出する。標識が検出された場合には、試料中にウロプラキンが発現していることとなる。従って、試料中にウロプラキンが発現している被検体を膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎患者またはハイリスク者と判定する。
【0092】
また、標識の濃度を指標とすることにより、定量的な検出も可能となる。標識化プローブを用いた検出方法の例としては、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法等を挙げることができる。
【0093】
上記で述べたような本発明の検出方法における判定基準としては、典型的には、ROC曲線(受信者動作特性曲線)を作成してカットオフ値(病態識別値)を設定し、所定のカットオフ値以上であれば患者またはハイリスク者であると判定する方法が挙げられる。例えば膀胱尿管逆流症については、検体が尿であるとき、ROC曲線から得られる至適カットオフ値は、単位GAPDHあたりウロプラキンmRNA95コピー以上、90%の特異性になるように重点を置けば138コピー以上の場合に患者またはハイリスク者であると判定することができる。間質性膀胱炎についても同様の手法による判定が可能である。
【0094】
その他の検査方法として、例えば、サブトラクション法(Sive,H.L.and John,T.St.(1988)Nucleic Acids Research 16,10937、Wang,Z.,and Brown,D.D.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88,11505-11509)、ディファレンシャル・ディスプレイ法(Liang,P.,and Pardee,A.B.(1992)Science 257,967-971、Liang,P.,Averboukh,L.,Keyomarsi,K.,Sager,R.,and Pardee,A.B.(1992)Cancer Research 52,6966-6968)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法(John,T.St.,and Davis,R.W.Cell(1979)16,443-452)、また、適当なプローブ を用いたクロスハイブリダイゼーション法(“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”Maniatis,T.,Fritsch,E.F.,Sambrook,J.(1982)Cold Spring Harbor Laboratory Press)等が挙げられる。
【0095】
検査薬および検査キット
本発明はまた、膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎を検査するための検査薬に関する。該検査薬は、ウロプラキンの発現を検出する手段として、ウロプラキンまたはその断片と特異的に結合する抗体、ウロプラキンをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、少なくとも15塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー、およびウロプラキンをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする少なくとも15塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブから選択される少なくとも1種を含む。
【0096】
該検査薬は、有効成分であるオリゴヌクレオチドプライマー、ポリヌクレオチドプローブまたは抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0097】
本発明はまた、上記検査薬を含む膀胱尿管逆流症または間質性膀胱炎の検査キットに関する。このようなキットとしては、被検成分の種類に応じて各種のものが市販されており、本発明の検査用キットも、ウロプラキンの発現を検出するための上記検査薬を用いることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。ウロプラキンの発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー、ポリヌクレオチドプローブまたは抗体に加え、例えば、標識二次抗体、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、標準物質等を含みうる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)膀胱尿管逆流症(VUR)におけるウロプラキンmRNA発現量
対象
VUR組織におけるウロプラキンmRNA発現量を検討するため、滋賀医科大学附属病院泌尿器科での手術で得られたVUR患者の膀胱上皮組織20例、および対照となる患者(前立腺肥大症、前立腺癌などの尿路移行上皮に明らかな異常を有しない泌尿器科患者)の尿路上皮組織11例を用いた。標本は採取後、速やかに-80℃で保存した。また、尿中剥離細胞でのウロプラキンmRNA発現量の検証には、同病院泌尿器科で得られたVUR患者尿18検体、および対照患者の尿20検体(外来検査で尿路に明らかな異常がない泌尿器科患者12検体と健常人8検体)を用いた。尿の採取は原則的に自然排尿とし、必要に応じてカテーテル導尿にて行った。採取した尿は、遠心分離にて剥離上皮を回収したのちバッファーで洗浄し、速やかに-80℃で保存した。検体の採取にあたっては、当該研究への臨床材料の使用につき文書で十分な説明を行い、患者本人または代理者からの同意を得た。
【0100】
方法
(1)mRNAの採取とcDNAの合成
i)組織検体
保存した組織検体から、TriZOL Reagent(Life Technologies,Inc.)を用いて、プロトコールに従い全RNAを抽出し、分光光度計で濃度測定を行った。抽出した各5μgずつの全RNAから、ランダムプライマー(Takara Biochemical)を用いて、SuperscriptII(Invitrogen)による逆転写反応からcDNAを合成し、以下の実験の試料とした。GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)に対する特異的プライマーを用いたRT-PCR法でcDNA合成の良否を確認した後、各試料を使用するまで-20℃で保存した。
【0101】
ii)尿検体
採取した尿を遠心分離(1,500rpm×10分間)して剥離上皮を回収し、PBSバッファーで計2回洗浄した後、速やかに-80℃で保存した。TriZOL Reagent(Life Technologies,Inc.)を用いて、常法に従い全RNAを抽出し、これを全量用いて組織検体の時と同様にcDNAを合成し、以下の実験の試料として使用するまで-20℃で保存した。
【0102】
(2)全長UPIa、UPIb、UPII、UPIIIに対するRT-PCRとダイレクトシークエンシング
合成したcDNAからLA taq(Takara Biochemical)を用いてRT-PCRを行った。反応液20μl中にそれぞれ2μlのcDNAを使用し、独自に設計したセンスおよびアンチセンスプライマーとしてウロプラキンIa(UPIa)、ウロプラキンIb(UPIb)、ウロプラキンII(UPII)、ウロプラキンIII(UPIII)それぞれについてUPK1A-S1(配列番号10)とUPK1A-AI(配列番号11)、UPK1B-SI(配列番号13)とUPK1B-AI(配列番号14)、UPK2-SI(配列番号17)とUPK2-AI(配列番号18)、UPK3-S1(配列番号19)とUPK3-A2(配列番号20)を用いて(最終濃度0.2pmol/μl)、変性反応94℃×30sec、アニーリング反応62℃×30sec、伸長反応72℃×1min、30サイクルの増幅で行った。PCR産物をエチジウムブロマイド加2%アガロースゲルで電気泳動し、可視化したバンドを切り出しQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いてABI PRISM 310 DNA シークエンサー(Applied Biosystems)でダイレクトシークエンシングを行い、Genbankに登録された塩基配列と比較した。同様にGAPDHに対してはアニーリング反応を55℃で23サイクルとした。
【0103】
(3)UPIII-F(完全型)およびUPIII-A(不完全型)特異的RT-PCR
UPIII-Fを特異的に検出するため、エクソン4の配列内にアンチセンスプライマー、UPK3-A4(配列番号22)を設計した。UPIII-Aのみを増幅させるセンスプライマーとしてUPK3-AL1(配列番号23)を、5’側をエクソン3内に置き、3’側はエクソン4をまたいでエクソン5先頭の4残基を付加するように設計した。UPIII-F特異的PCRはセンスプライマーUPK3-SF(配列番号21)とアンチセンスプライマーUPK3-A4(配列番号22)を用いて(最終濃度0.2pmol/μl)アニーリング反応を62℃で行い、UPIII-A特異的PCRではセンスプライマーUPK3-AL1(配列番号23)とアンチセンスプライマーUPK3-A2(配列番号20)を用いて(最終濃度0.2pmol/μl)アニーリング反応を67℃とした。RT-PCRで使用した全てのプライマーを表1に要約した。なお前述の通りUPIII-F(完全型)をコードするポリヌクレオチドの塩基配列である配列番号7において、第241~520番の領域がエクソン3に、第521~603番の領域がエクソン4に、第604~736番の領域がエクソン5にそれぞれ対応する。
【0104】
【表1】
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【0105】
(4)UPIII-FおよびUPIII-Aのサブクローニング
RT-PCRで増幅されたUPIII-FおよびUPIII-AのPCR産物を、TOPO TA Cloning Kit for Sequencing(Invitrogen)を用いてpCR4-TOPOプラスミドベクターでサブクローニングし、Quantum Prep Plasmid Miniprep Kit(BIO-RAD)を用いてそれぞれのプラスミドを精製した。
【0106】
(5)定量的PCR
LightCycler FastStart DNA Master SYBER GREEN I(Roche Diagnostics)によるリアルタイムPCRを行った。推奨されているプロトコールに従い20μlの反応液中に2μlずつのcDNA試料を使用し、UPIa、UPIb、UPIIのリアルタイムPCRではセンスおよびアンチセンスプライマーとしてそれぞれUPK1A-S2(配列番号12)とUPK1A-AI(配列番号11)、UPK1b-S2(配列番号15)とUPK1b-A1(配列番号16)、UPK2-SI(配列番号17)とUPK2-AI(配列番号18)を用いて(最終濃度0.2pmol/μl)アニーリング反応を62℃で行った。UPIII-FおよびUPIII-AのリアルタイムPCRは特異的RT-PCRと同じ条件で行った。45回転の増幅反応の後、アニーリング反応より7℃高い条件で融解曲線を検証した。定量化コントロール用DNAは、ダイレクトシークエンシングのためのRT-PCRで得られたそれぞれのウロプラキンDNAを精製したのち分光光度計で濃度を測定し、これを段階的に希釈して調整した。GAPDHについても同様の手順で定量的PCRを行った。リアルタイムPCRで使用したプライマーも上記表1に記した。
【0107】
(6)データの解析
定量的PCRで得られた結果を元に、VUR試料と対照患者試料間で全てのウロプラキンmRNA発現量の比較を行い、Mann-Whitney U検定で統計学的解析を行った(p<0.05:有意差あり)。尿におけるUPIIImRNA定量の検査能を検討するため、ROC曲線を描いて至適カットオフ値を設定し、感度、特異度を求めた。
【0108】
結果
(1)UPIa、UPIb、UPII、UPIIIダイレクトシークエンシングによるプライマー特異性の検証とUPIII-Aの検出
VUR組織から得られたcDNAを対象とし、上記のように、全長UPIa、UPIb、UPII、UPIIIに対するRT-PCRを行い、電気泳動後、バンドを切り出してダイレクトシークエンシングを行った。シークエンス結果とデータベースに登録された塩基配列との比較から、全てのプライマーが鋳型特異的であることを確認した。UPIIIのPCR産物のアガロースゲル電気泳動では、予測されたバンドよりもやや下方(低分子量域)にもバンドを認めた。ダイレクトシークエンシングの結果、このPCR産物はUPIIIの全6つのエクソンのうち4番目のエクソン(配列番号7の第521~603番の領域、83塩基)を完全に欠損したUPIIIのスプライシングバリアント(UPIII-A)であることが確認された(配列番号9)。なお、配列番号9の塩基配列においてタンパク質コード領域は第33~671番であると推定され、コードされるタンパク質は配列番号26のアミノ酸配列を有するものと推定される。
【0109】
(2)UPIII-FおよびUPIII-A特異的プライマーの設計と特異性の検証
UPIII-FまたはUPIII-AのみをRT-PCRにて検出するため、それぞれの特異的プライマーの設計と特異性の検証を行った。完全長のUPIII-FおよびUPIII-AをコードするDNAをプラスミドベクターでサブクローニングし、このプラスミドを鋳型としてそれぞれの特異的プライマーを用いたPCRを行った。その結果、UPIII-A特異的プライマーはUPIII-Aプラスミドには反応したが、UPIII-Fプラスミドを鋳型としたPCRではバンドは検出されず、UPIII-F特異的プライマーはUPIII-Fプラスミドにのみ反応した。以上から、UPIII-FおよびUPIII-Aそれぞれに対するプライマーの特異性が証明された。
【0110】
(3)VURおよび正常尿路上皮組織におけるウロプラキンmRNA発現量の比較
VUR患者膀胱上皮組織と正常尿路上皮組織でのUPIIImRNA発現量を定量して比較検討するため、VUR20例、正常11例を対象に定量的PCRを行った。UPIII-FおよびUPIII-Aそれぞれの発現量をコピー数として算出し、同様に定量した各試料のGAPDH発現量で標準化した。その結果、VUR組織でのGAPDH 1ngあたりのUPIII-FおよびUPIII-AのmRNA発現量の平均±SDはそれぞれ5969.60±17642.50、12.51±26.35であったのに対し、正常組織ではそれぞれ131.19±165.42、1.37±2.04であり、UPIII-FおよびUPIII-A共にVUR組織において過剰発現が認められた。20例のVUR組織のうち4例は、UPIII-Fが7000コピー以上、UPIII-Aが13コピー以上と異常高値を示したが、これらの特別な4例を除外した比較でもUPIII-F、UPIII-AいずれもVUR組織において有意に発現が亢進していた(それぞれp<0.0001、p=0.023)(表2、図1)。他のウロプラキンについても同様の比較を行ったところ、全てのウロプラキンmRNAがVUR組織において過剰発現していることが明らかとなった(表3、図2)。
【0111】
【表2】
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【0112】
【表3】
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【0113】
年齢と尿路上皮採取部位によるウロプラキンmRNA発現量の相違についても検証した。成人VUR患者と小児VUR患者間での発現量の差はなくほぼ同等に過剰発現しており、膀胱正常組織と上部尿路正常組織間での発現量も差を認めなかった。
【0114】
(4)VUR患者および健常者の尿剥離細胞中UPIIImRNA発現の比較
VUR組織においてmRNAの過剰発現が確認されたUPIII-FおよびUPIII-Aについて、尿を検体とした場合も同様に検出可能かどうかを検討した。VUR患者尿18検体および対照となる尿20検体を対象として、UPIII-FおよびUPIII-Aに対してリアルタイムPCRでの定量を行った。VUR18検体には、白血球5~10個/1視野の軽度膿尿を認めた3検体も含め、組織の場合と同様にGAPDHmRNA発現量で各試料の検出結果を標準化して、それぞれのコピー数を算出した。その結果、GAPDH 1ngあたりのUPIII-FmRNA発現量の中央値はVURおよび対照尿でそれぞれ198.6、63.9、平均±SDはVURおよび対照尿でそれぞれ438.54±763.20、70.8±57.1(p=0.004)と、VUR尿で統計学的に有意に発現亢進していた。UPIII-AmRNAについては中央値がそれぞれ2.37、2.48、平均±SDはそれぞれ13.45±29.56、2.43±2.54(p=0.276)であった(表4、図3、4および5)。UPIII-FmRNA発現量の定量値を元にVURを検出するためのカットオフ値を設定した。ROC曲線から得られる至適カットオフ値は95で、この設定での感度は66.7%、特異度は80%であった(陽性検体数:VUR 12/18、対照 4/20)。また、VUR検体のうち3例の膿尿検体の定量値は、全てカットオフ値以下であった。この結果には、尿路上皮ではない白血球由来のGAPDHmRNAが混入したために偽陰性となっている可能性があるので、これら3例を除けば感度が80%(陽性検体数:VUR 12/15)になった。
【0115】
【表4】
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【0116】
(実施例2)間質性膀胱炎(IC)におけるウロプラキンmRNA発現量
対象
膀胱粘膜生検で得られたIC患者の膀胱上皮組織4例、および対照となる患者(前立腺肥大症や前立腺癌など、尿路移行上皮に明らかな異常を有しない泌尿器科患者)の尿路上皮組織5例を用いた。標本は採取後、速やかに-80℃で保存した。
【0117】
方法
VUR組織での実験と同じ方法で、mRNAの採取とcDNAの合成およびUPIII-A特異的RT-PCRを行った。PCR産物をエチジウムブロマイド加2%アガロースゲルで電気泳動し、可視化したバンドをLuminous Imager version 1.2 for Macintosh(AISIN Cosmos R&D Co.)で取り込んだ後、Scion Image software(Scion Co.)で各バンドを半定量化し、それぞれの試料のGAPDH発現量で標準化した。これらの結果を元にIC組織試料と正常組織試料間でUPIII-AmRNA発現量の比較を行った。統計学的解析はMann-Whitney U検定で行った(p<0.05:有意差あり)。
【0118】
結果
VUR組織の場合と同様に、IC組織におけるUPIII-AmRNA発現量についても検討するため,IC患者膀胱上皮組織4例と正常尿路上皮組織5例を対象にUPIII-A特異的RT-PCRを行い、mRNA発現量を半定量して比較した。GAPDHで標準化したUPIII-AmRNA相対的発現量の平均±SDは、IC組織と正常組織でそれぞれ9.10±5.69、1.49±1.88で、IC組織において有意に発現が亢進していた(p=0.016、図6)。
【0119】
以上の結果から、従来から知られていた4種類のウロプラキンファミリーと今回発見したUPIII新規スプライシングバリアントの全てが、正常組織と比較してVUR組織で過剰発現していることが確認された。また定量的PCR法によって、尿を対象としてもmRNAの定量が可能であり、組織での結果を反映してVUR患者の尿剥離細胞中でも統計学的に有意に過剰発現していた。これらのことから、尿剥離細胞中のウロプラキンmRNA発現量の検出、特にUPIII-F発現量の検出が、VUR患者の尿を用いた簡便なスクリーニング法として有用であることが明らかとなった。
【0120】
また、IC患者膀胱上皮組織でもUPIIImRNAの過剰発現が認められたことから、尿を用いた簡便なスクリーニング法として、IC患者でも尿剥離細胞中のウロプラキンmRNA発現量の検出が有用であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】組織でのウロプラキンIIIのmRNA発現量を示す。
【図2】組織でのウロプラキンIa、IbおよびIIのmRNA発現量を示す。
【図3】尿剥離細胞中のウロプラキンIIIのmRNA発現量を示す。
【図4】尿剥離細胞中の完全型ウロプラキンIIIのmRNA発現量を示す。
【図5】尿剥離細胞中のバリアントウロプラキンIIIのmRNA発現量を示す。
【図6】間質性膀胱炎組織でのウロプラキンIIIのmRNA発現量を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5