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明細書 :ケイ素基質耐水蒸気膜及びこれを用いた水素ガス分離材並びにこれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4383217号 (P4383217)
公開番号 特開2005-270887 (P2005-270887A)
登録日 平成21年10月2日(2009.10.2)
発行日 平成21年12月16日(2009.12.16)
公開日 平成17年10月6日(2005.10.6)
発明の名称または考案の名称 ケイ素基質耐水蒸気膜及びこれを用いた水素ガス分離材並びにこれらの製造方法
国際特許分類 B01D  53/22        (2006.01)
B01D  69/10        (2006.01)
B01D  71/02        (2006.01)
C01F  17/00        (2006.01)
C01B  33/12        (2006.01)
C04B  41/85        (2006.01)
C01B   3/56        (2006.01)
H01M   8/06        (2006.01)
FI B01D 53/22
B01D 69/10
B01D 71/02 500
C01F 17/00 A
C01B 33/12 C
C04B 41/85 D
C01B 3/56 Z
H01M 8/06 G
請求項の数または発明の数 10
全頁数 18
出願番号 特願2004-090602 (P2004-090602)
出願日 平成16年3月25日(2004.3.25)
審査請求日 平成19年3月7日(2007.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173522
【氏名又は名称】財団法人ファインセラミックスセンター
発明者または考案者 【氏名】森 博
【氏名】稲田 健志
【氏名】岩本 雄二
個別代理人の代理人 【識別番号】100094190、【弁理士】、【氏名又は名称】小島 清路
審査官 【審査官】大島 忠宏
参考文献・文献 特開2005-177554(JP,A)
特開2002-167289(JP,A)
特開平05-058649(JP,A)
特開2001-058819(JP,A)
特開平04-270173(JP,A)
特開昭58-002234(JP,A)
特開昭62-212244(JP,A)
調査した分野 B01D 53/22
B01D 69/10
B01D 71/02
C01B 33/12
C01F 17/00
C04B 41/85
C01B 3/56
H01M 8/06
特許請求の範囲 【請求項1】
希土類元素、Si及びOから実質的になり、且つ、Si-O結合を有し、上記希土類元素として少なくともScを含むことを特徴とするケイ素基質耐水蒸気膜。
【請求項2】
上記希土類元素の含有量に対する上記Siの含有量の比が10以下である請求項1に記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
【請求項3】
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及びメタンガスのうちの少なくとも1種の透過を抑制する請求項1又は2に記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
【請求項4】
水素ガスの分離に用いる請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法であって、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、該塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とするケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
【請求項6】
上記溶液に過酸化水素を含有する請求項5に記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
【請求項7】
上記熱処理工程の後、更に、水蒸気を含む雰囲気下で膜を熱処理する工程を備える請求項5又は6に記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
【請求項8】
多孔質基部と、該多孔質基部の一面側に配置された請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜と、を備えることを特徴とする水素ガス分離材。
【請求項9】
上記多孔質部と上記ケイ素基質耐水蒸気膜との間に、水素選択性分離膜を備える請求項8に記載の水素ガス分離材。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の水素ガス分離材の製造方法であって、多孔質基材の表面又は該多孔質機材の表面に積層された他層の表面に、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、該塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とする水素ガス分離材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素基質耐水蒸気膜及びこれを用いた水素ガス分離材並びにこれらの製造方法に関する。更に詳しくは、高温水蒸気下における耐水蒸気性を有するケイ素基質耐水蒸気膜、及び、このケイ素基質耐水蒸気膜を備え且つ水素ガスを分離できる水素ガス分離材、並びに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代エネルギーとして注目される水素ガスは、主に化石燃料を分解することで製造されている。特に天然ガスの水蒸気改質法での製造量が最も多い。水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、高い転化率を得るために800℃を超える高温を要する。即ち、高温水蒸気下での反応を要する。更に、この反応から得られる分解ガスは、主に水素ガスと一酸化炭素ガスとの混合ガスであり、分解ガスからの水素ガスの分離・精製を要する。
【0003】
この水蒸気改質と水素の分離・精製とを一体的に行う装置として、水蒸気改質触媒と水素分離膜とを組み合わせたメンブレンリアクターが、近年、注目され、その開発が急がれている。この装置では、反応温度を500℃程度にまで低下させることができるとされていること、小型化できることなどの優れた利点を有している。
このメンブレンリアクターにおける水素分離膜としては、安価な無機質膜である非晶質シリカの使用が期待されている。しかし、非晶質シリカは500℃程度の温度下においても水蒸気が存在する場合は、化学的安定性が乏しく、分離機能を十分に発揮できないという問題がある。
シリカと他元素酸化物を複合させることで化学的安定性の向上がみられることについての報告は、下記非特許文献1に開示されている。
【0004】

【非特許文献1】M.Asaeda、外4名、"Gas Permeation Characteristics and Stability of Composite Silica-Metal Oxide Membranes"、「Mat.Res.Soc.Symp.Proc.」、2003年、Vol752、p213-218
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1では、高温水蒸気下における安定性については検討されていない。また、例えば、水蒸気改質においても、化学量論的にはメタンに対して水は1:1で反応するが、実際には、副反応によるカーボンの析出を防止するために、過剰な水蒸気を導入して反応が行われる。このような高温高湿の過酷な条件下で耐久性を発揮できるケイ素基質膜は知られていない。
本発明は、上記課題を解決するものであり、高温水蒸気下で耐水蒸気性を発揮できるケイ素基質耐水蒸気膜、これを用いた水素ガス分離材及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。更には、この高温水蒸気下において、一酸化炭素ガス等の透過を選択的に阻害でき、特に、一酸化炭素ガス等の透過を選択的に阻害しつつ、水素ガスの透過を十分に確保する特性を発揮させることができるケイ素基質耐水蒸気膜及びこれを用いた水素ガス分離材並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
(1)希土類元素、Si及びOから実質的になり、且つ、Si-O結合を有し、上記希土類元素として少なくともScを含むことを特徴とするケイ素基質耐水蒸気膜。
(2)上記希土類元素の含有量に対する上記Siの含有量の比が10以下である上記(1)に記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
(3)一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及びメタンガスのうちの少なくとも1種の透過を抑制する上記(1)又は(2)に記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
(4)水素ガスの分離に用いる上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜。
(5)上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法であって、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、該塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とするケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
(6)上記溶液に過酸化水素を含有する上記(5)に記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
(7)上記熱処理工程の後、更に、水蒸気を含む雰囲気下で膜を熱処理する工程を備える上記(5)又は(6)に記載のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法。
(8)多孔質基部と、該多孔質基部の一面側に配置された上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載のケイ素基質耐水蒸気膜と、を備えることを特徴とする水素ガス分離材。
(9)上記多孔質部と上記ケイ素基質耐水蒸気膜との間に、水素選択性分離膜を備える(8)に記載の水素ガス分離材。
(10)上記(8)又は(9)に記載の水素ガス分離材の製造方法であって、多孔質基材の表面又は該多孔質機材の表面に積層された他層の表面に、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、該塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とする水素ガス分離材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のケイ素基質耐水蒸気膜によれば、高温水蒸気下において膜破壊を長期にわたり防止できる耐水蒸気性が得られる。また、この耐水蒸気性は、十分な水素透過性を保持したまま発揮できる。
希土類元素の含有量に対するSiの含有量の比が所定範囲である場合は、特に高い一酸化炭素ガス等の透過を抑制する効果が得られる。
一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及びメタンガスのうちの少なくとも1種の透過を抑制する場合は、優れた水素ガス分離膜として用いることができる。即ち、例えば、一酸化炭素ガスの透過を抑制できる場合は、化石燃料を用いて水素ガスを製造する過程で得られた混合ガスから効率よく水素ガスを精製することができる。
水素ガスの分離に用いる場合は、水素ガスの透過を十分に確保しつつ、高温水蒸気下における耐久性を発揮できる。また、一酸化炭素ガス等の透過を効果的に抑制でき、特に水性ガス等からは効率よく水素ガスを選択分離することができる。
【0008】
本発明のケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法によれば、本発明のケイ素基質耐水蒸気膜を簡便に、安定して、更には、確実に得ることができる。
過酸化水素を含有する場合は、上記溶液を均一で安定なものとすることができる。このため、得られるケイ素基質耐水蒸気膜の信頼性が向上し、本発明のケイ素基質耐水蒸気膜としての性能を十分に発揮させることができる。
水蒸気を含有する雰囲気下で膜を熱処理する工程を備える場合は、一酸化炭素ガス等の透過を抑制する効果を向上させることができる。
【0009】
本発明の水素ガス分離材によれば、高温水蒸気下において、安定して水素ガスを分離できる。
水素選択性分離膜を備える場合は、より効率よく水素ガスを分離することができる。
本発明の水素ガス分離材の製造方法によれば、本発明の水素ガス分離材を簡便に、安定して、更には、確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
<1>ケイ素基質耐水蒸気膜
本発明のケイ素基質耐水蒸気膜(以下、単に「耐水蒸気膜」ともいう)は、希土類元素(以下、単に「元素R」ともいう)、Si及びOから実質的になり、且つ、Si-O結合を有し、上記希土類元素として少なくともScを含むことを特徴とする。
【0011】
上記「希土類元素」としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuが挙げられるが、これらのなかでも、本発明では少なくともScを含む。これらが含有されることで高温水蒸気下において膜破壊(膜の緻密化によるガス透過の過度な阻害、及び、クラックや膜剥がれによる分子ふるい特性の低下等を含む)を長期にわたり防止できる耐水蒸気性を得ることができる。
この元素Rを含有することにより、耐水蒸気性が付与される理由は定かでないが、Rが3価の陽イオンを含み、ケイ素基質部位の遊離されたOH基を減少させる効果を有することが関係していることが考えられる。
【0012】
元素Rの含有形態は特に限定されないが、少なくとも元素RとSiとOとを含む複合酸化物として含有されることが好ましく、更に、この複合酸化物は非晶質であることが好ましい。この元素Rの一部は、上記複合酸化物以外の酸化物(R等)として含有されてもよい。
【0013】
元素Rの含有量は、耐水蒸気性を発現させる上では特に限定されないが、通常、耐水蒸気膜全体に対する元素Rの含有量は、元素Rの含有量(atm%)に対するSiの含有量(atm%)の比(以下、単に「Si/R」という)で10以下(好ましくは1.2~10、より好ましくは1.2~6、更に好ましくは2~4)である。この範囲であれば十分な機械的強度も得易い。尚、本明細書において述べる含有量はICP発光分析を用いて得られる。
【0014】
また、本耐水蒸気膜に含有される元素Rが所定範囲であれば、耐水蒸気性に加えて、水素ガスを除く他の所定ガスの透過を抑制する効果を得ることができる。即ち、例えば、Scを所定範囲で含有する場合には、耐水蒸気性に加えて、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及びメタンガス等に対する透過抑制効果が得られ、且つ、十分な水素透過性を保持(例えば、10-8mol/m・s・Pa以上)できる。即ち、優れた水素ガス分離膜(水素以外のガスと水素ガスとの分離特性を有する)を得ることができる。
【0015】
この所定ガスに対する透過抑制効果を得る目的においては、Si/Rは、1.2~10(より好ましくは1.2~6、更に好ましくは1.5~5)とすることが好ましい。この範囲では、元素Rのみからなる酸化物(例えば、R等)が結晶として析出し難く、耐水蒸気性及びガス選択性を十分に得ることができる。
【0016】
上記「Si」及び上記「O」は、Si-O結合を形成し、耐水蒸気膜の構造自体を形成する。このSiの含有量は、特に限定されないが、上記元素Rとの関係を満たす範囲で含有されることが好ましい。更に、上記「O」の含有量も特に限定されない。
【0017】
上記「Si-O結合」は、少なくともSiとOとにより形成される結合であり、耐水蒸気膜の構造自体を形成する。このSi-O結合には、(1)SiとOとのSi-O結合の一部に他の元素Mが含まれたSi-O-M結合(但し、MはSi及びO以外の他の元素であり、例えば、元素R等が含まれる。Mは1種であってもよく、2種以上であってもよい。)と、(2)SiとOとのみからなるSi-O結合と、が含まれる。これらの(1)及び(2)は、一方のみが耐水蒸気膜に含まれてもよく、両方が耐水蒸気膜含まれてもよい。上記(1)としては、前記の元素R、Si及びOからなる複合酸化物等が挙げられる。上記(2)としてはシリカ等が挙げられる。これらのSi-O結合は、結晶質として含有されてもよいが、通常、非晶質である。
【0018】
本耐水層の構造等は特に限定されない。即ち、例えば、1層のみ(即ち、単層)からなる膜であってもよく、2層以上からなる膜であってもよい。
2層以上からなる場合とは、例えば、各層間で所定の元素の含有量が異なる場合(例えば、含有量差が10%以上である場合等)、及び、層間で検出される元素の種類が異なる場合等が挙げられる。
本耐水蒸気膜の厚さは特に限定されないが、通常、10~600nm(好ましくは20~300nm、より好ましくは20~200nm)である。この範囲であれば特に優れた耐水蒸気性を発揮できる。尚、この耐水蒸気膜の厚さとは、後述するような基材を備える場合には、基材の表面から耐水蒸気膜の外表面までの厚さを表す。
【0019】
本耐水蒸気膜によると、耐水蒸気性を得ることができる。特に高温水蒸気下においても所定のガス成分(例えば、H、CO、N等)の透過率が大きく変動しないよう(通常、増加しないよう)、長期にわたり保持できる。即ち、従来知られている非晶質シリカ膜は、高温水蒸気下においては次第に膜構造が緻密化され、一般に透過率が低下する傾向が見られる。更に、この緻密化が進むとそのストレス等によりクラック及び膜剥がれ等を起こし、分子ふるい特性が低下又は失われ、逆に透過率は急激に増大する。これに対して、本発明の耐水蒸気膜によると、高温水蒸気下において初期に膜構造の再編成による透過率の変動が認められるものの、その後の緻密化の進行は長期間認められず、その後のクラック及び膜剥がれ等も効果的に抑制されていると考えられる。
【0020】
例えば、本発明の耐水蒸気膜によると、H25体積%と水蒸気75体積%とからなり且つ圧力が2atmに保たれた第1雰囲気と、圧力が1atmに保持された第2雰囲気と、を500℃で保持した本発明の耐水蒸気膜により隔てた場合、第2雰囲気に透過されるHの透過率(単位「mol/m・s・Pa」、以下このHの透過率を「PH2」という)の変化率は、10時間あたりに-10~+50%の範囲に収めることができる。
但し、PH2は、1時間あたり±30%以下に落ち着いてから(以下、単に「安定化」という)の測定値である。即ち、前記初期の膜構造の再編成等が収まった後の測定値である。予め、後述する熱処理を行った耐水蒸気膜においては、通常、この初期の変動は生じない。また、上記変動率とは、所定時間経過後のPH2をPH20とし、所定時間経過前のPH2をPH2Tとした場合に、下記式により得られる値βであるものとする。
β={(PH20-PH2T)/PH20}×100 ・・・ (1)
【0021】
更に、安定化後の水素ガスの透過率は、例えば、30×10-10mol/m・s・Pa以上(更には40×10-10mol/m・s・Pa以上、特に50×10-10mol/m・s・Pa以上、通常1000×10-10mol/m・s・Pa以下)の十分な値に保持したまま、上記の耐水蒸気性を発揮させることもできる。
【0022】
また、この耐水蒸気性は、PH2からだけでなく、他のガス成分による透過率によっても明らかである。即ち、例えば、CO抑制効果が得られる耐水蒸気膜においては、CO25体積%と水蒸気75体積%とからなり且つ圧力が2atmに保たれた第1雰囲気と、圧力が1atmに保持された第2雰囲気と、を500℃で保持した本発明の耐水蒸気膜により隔てた場合、第2雰囲気に透過されるCOの透過率(単位「mol/m・s・Pa」、以下このCOの透過率を「PCO」という)の変化率は、10時間あたりに-10~+50%の範囲に収めることができる。
但し、PH2と同様に、PCOは安定化された後の測定値であり、また、変化率とは上記式(1)のPH2に換えてPCOを用いて同様に得られる値βであるものとする。
【0023】
更に、このCO抑制効果が得られる耐水蒸気膜では、PCOに対するPH2の比である透過係数比{以下、「α(H/CO)」ともいう}は、上記安定化後には10時間あたりの変化率を50%以下(更には40%以下)に抑えることもできる。
但し、上記α(H/CO)は、PCO及びPH2の両方が安定化された後における変化率である。また、この変化率とは上記式(1)のPH2に換えてα(H/CO)を用いて同様に得られる値βであるものとする。
更に、安定化後の上記α(H/CO)は、10以上(更には20以上、特に100以上、通常1000以下)の十分な値に保持したまま、上記の耐水蒸気性を発揮させることもできる。
【0024】
本耐水蒸気膜によると、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及びメタンガスのうちの少なくとも1種の透過を抑制する効果を得ることができる。即ち、例えば、Scを含有する場合のCO透過率(500℃、測定開始後1時間における)は、Scを含有しない場合のCO透過率の50%以下(更には30%以下、特に10%以下、通常1%以上)にすることができる。
【0025】
本耐水蒸気膜によると、水素ガス選択性を得ることができる。即ち、例えば、ScをSi/Scが1.2~6の範囲で含有することで、COに対するHの透過係数比{α(H/CO)}は15以上とすることができる。更に、Si/Scが1.5~3.7ではα(H/CO)は100以上の優れた水素ガス選択性を発揮させることができる。特に、Si/Scが1.8~3.0ではα(H/CO)は200以上の特に優れた水素ガス選択性を発揮させることができる。
【0026】
<2>ケイ素基質耐水蒸気膜の製造方法
本耐水蒸気膜を形成する方法は特に限定されず、化学溶液を塗布する方法を広く用いることができる。化学溶液を塗布する方法とは、原料及び/又は前駆体物質等を含有する液状物を塗布する工程を含む方法である。溶液塗布法としては、例えば、ペルオキシド法、化学溶液堆積法(Chemical Solution Deposition法、以下単に「CSD法」という)、ポリマープレカーサー法及びゾル・ゲル法等が挙げられる。これらの中ではペルオキシド法、CSD法及びポリマープレカーサー法が好ましい。即ち、ゾル・ゲル法とは異なり、Si-O成分を含む化合物と元素Rを含有する化合物との加水分解速度の違いによる溶液(前駆体溶液)の不均一化を生じ難く、より均一な溶液(前駆体溶液)であることが好ましい。
溶液塗布法を用いた場合の後工程も特に限定されないが、通常、塗布して形成された元素R及びSiを少なくとも含有する前駆体層を形成した後、種々の方法(例えば、気体処理、液体処理、熱処理、光処理及びこれらの組合せ等により、前駆体層の組成を変化させて自己組織化させる方法等)により前駆体層を定着させて耐水蒸気膜を得ることができる。
【0027】
本発明のケイ素基質耐水蒸気膜は、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、この塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とする。
【0028】
上記「希土類元素を含む化合物」は、上記溶液に溶解させることができるものであればよく特に限定されない。即ち、例えば、元素Rの硝酸塩、酢酸塩、錯塩等が挙げられる。これらの化合物は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、この元素Rを含む化合物は、水溶性又はアルコール溶解性であることが好ましい。尚、この化合物に含まれる元素Rについては前記耐水蒸気膜における元素Rをそのまま適用できる。
【0029】
上記「アルコキシシラン化合物」は、上記溶液に溶解させることができるものであればよく特に限定されない。即ち、例えば、各種アルキルアルコキシシラン化合物が挙げられる。これらのなかでもテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が好ましい。これらの化合物は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、このアルコキシシラン化合物は、アルコール溶解性又は水溶性であることが好ましい。
【0030】
上記「溶液」は、元素Rを含む化合物及びアルコキシシラン化合物以外に、溶媒を含有する。この溶媒は、元素Rを含む化合物及びアルコキシシラン化合物の両方を同時に溶解させることができるものであればよく、その種類等は特に限定されない。即ち、例えば、水、アルコール及び各種有機溶媒等を用いることができる。これらのなかでは、水及びアルコール(メタノール及びエタノール等)が好ましい。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
更に、上記溶液は、元素Rを含む化合物、アルコキシシラン化合物及び溶媒以外にも他の成分を含有することができる。他の成分としては、過酸化水素が挙げられる。過酸化水素を含有することにより、均一で安定な溶液を得ることができる。この過酸化水素を含有する場合、その含有量は、Si元素量に対して1~10倍量(より好ましくは5~10倍量)が好ましい。
また、上記溶液には、過酸化水素以外にも、例えば、塩酸、硝酸、アンモニウム及びこれらを構成するイオン等の種々の成分を含有できる。
【0031】
上記溶液に含有される、元素Rを含む化合物の含有量は、結果として元素Rの含有量(耐水蒸気膜全体に対するatm%)となるものであればよい。通常、熱処理前後における含有量は変化しない。また、水素ガスを除く他の所定ガスに対する透過抑制効果を得る目的においては、前記Si/Rが、1.2~10(より好ましくは1.2~6、更に好ましくは1.5~5)とすることが好ましい。
また、上記溶液の固形分濃度は特に限定されないが、0.01~0.1mol/l(好ましくは0.2~0.5mol/l)とすることができる。
【0032】
上記「塗布」は、どのような方法で行ってもよい。即ち、例えば、ディップコート、吹き付け塗布(スプレー塗布、インクジェット方式、サーマルインクジェット方式等を含む)、刷毛塗り、カーテンコート、スピンコート等の方法を適宜用いることができる。更にこれらを各種方法は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
上記「塗膜」は、上記溶液の塗布により形成される層である。この層の厚さは特に限定されず、耐水蒸気膜として前記厚さが得られるものであればよい。
【0033】
上記「熱処理」は、加熱を含む処理である。この熱処理条件等は特に限定されないが、加熱温度は400~800℃(好ましくは500~600℃)とすることができる。加熱温度がこの範囲であれば、Si元素及び/又は元素Rを含む化合物が結晶化が抑制され、優れた耐水蒸気性、更には、優れた選択特性を得ることができる。また、加熱時間も特に限定されないが、0.1~3時間(好ましくは0.2~2時間)とすることができる。更に、加熱雰囲気も限定されず、大気雰囲気、不活性雰囲気及び還元雰囲気等を用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。
【0034】
これら塗布及び熱処理は、各々単独で繰り返し行うことができる。また、塗布及び熱処理を1セットとしてこのセットを繰り返して行うこともできる。繰り返しを行うことにより、耐水蒸気膜の厚さを適宜制御できる。この繰り返しの回数は特に限定されず、目的、用途に応じて選択できる。また、各繰り返しにおいては、上記溶液の種類、塗膜の厚さ、熱処理条件(温度、時間及び雰囲気等)等を本発明の範囲内で適宜変化させて行うことができる。これらの条件を変化させた繰り返しを行った場合は、各層間の元素分布が異なった複数層からなる耐水蒸気膜を得ることもできる。
【0035】
本耐水蒸気膜の製造方法では、上記塗布及び上記熱処理以外にも他の工程を行うことができる。即ち、例えば、上記工程の後、更に、水蒸気を含む雰囲気下で膜を熱処理する工程を備えることができる。この工程を行うことにより、一酸化炭素ガス等の透過を抑制する効果を向上させることができる。
この工程を行う際の雰囲気に含有される水蒸気の量は特に限定されないが、雰囲気全体に対して5体積%以上(より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは50体積%以上、通常90体積%以下)であることが好ましい。また、熱処理条件等は特に限定されないが、加熱温度は300~800℃(好ましくは400~600℃)とすることができる。この範囲であれば、元素RをSi/Scが1.2~10(特に1.5~3.7)の範囲で含有する耐水蒸気膜の一酸化炭素ガスの透過抑制効果を向上させることができる。即ち、例えば、この水蒸気を含む雰囲気下で膜を熱処理することにより、透過係数比α(H/CO)を10以上(更には20以上、特に100以上、通常1000以下)にすることができる。
尚、この熱処理は、水蒸気共存下でのアニール、及び、水蒸気存在下での焼成(水熱合成)のいずれとして作用していてもよい。
【0036】
<3>水素ガス分離材
本発明の水素ガス分離材(以下、単に「分離材」ともいう)は、多孔質基部と、この多孔質基部の一面側に配置された本発明のケイ素基質耐水蒸気膜と、を備えることを特徴とする。
【0037】
上記「耐水蒸気膜」は、前記本発明の耐水蒸気膜をそのまま適用できる。
上記「多孔質基材」は、多孔質であればどのような材料からなるものであってもよい。その構成材料としては、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、チタニア、炭化珪素、カーボン、ガラス等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニアが好ましい。
【0038】
上記多孔質基材の平均孔径は特に限定されないが、通常、1~10nm(好ましくは1~8nm、より好ましくは1~7nm)である。この範囲であれば、Hの透過率を良好に保持でき、水素ガス分離材としての優れた機能を発揮できる。
また、この多孔質基材の孔の形状は特に限定されない。更に、多孔質基材自身の形状も特に限定されない。例えば、平面状、曲面状、円筒状、塊状、小片状等とすることができる。
【0039】
多孔質基材としては、アルミナからなり、1面から他面に貫通する細孔が多数配列し、少なくとも1面に開口する細孔の最大径(以下、単に「細孔径」ともいう。)が10nm以下であるものを用いることが好ましい。この多孔質基材は、例えば、図1に示す概略図をもって説明される。即ち、図1の多孔質基材11は、例えば円形の細孔111が等間隔に配列した構造を示している。各細孔は、一定方向に貫通するが、図1においては、細孔111は基材に対して垂直方向に貫通している。また、細孔の形状は特に限定されず、最大径(細孔径)は10nm以下(好ましくは1~10nm、より好ましくは1~8nm、更に好ましくは1~7nm)である。このような小さな径の細孔を有することにより、この多孔質基材の表面にガス分離層を形成するための前駆体溶液を塗布した場合でも、前駆体溶液が細孔の内部へ侵入することを抑制することができる。
【0040】
また、上記細孔は、1面から他面に渡る貫通部全てが同一の細孔径を有してもよいし、部分的にあるいは段階的に異なる細孔径を有してもよい。上記多孔質基材が段階的に異なる細孔径を有する場合、その細孔径は無段階に異なっていてもよい。但し、異なる細孔径を有する場合であっても、多孔質基材本体は一体化したままである。細孔径が段階的に異なる場合の1例を図2に示す。図2に示される多孔質基材11aは、下方から上方に向かう細孔111が枝分かれを段階的に繰り返し、細孔径が徐々に小さくなっている。そのため、多孔質基材11aの上方部表面における開口部の数は、下方部表面における開口部の数よりも極めて多くなり、多孔質基材11aの上方部の細孔容積は増大する。
【0041】
尚、上記多孔質基材が1面側から段階的に異なる細孔径を有し、各細孔径を第1細孔径d、第2細孔径d、第3細孔径d・・・、第n-1細孔径dn-1及び第n細孔径dとして段階的に小さくなるとすると、連続する細孔の各細孔径の関係は、好ましくは0.2d≦d≦0.9d、且つ0.2d≦d≦0.9d、・・・、且つ0.2dn-1≦d≦0.9dn-1(より好ましくは0.3d≦d≦0.9d、且つ0.3d≦d≦0.9d、・・・、且つ0.3dn-1≦d≦0.9dn-1)である。但し、上記細孔径dは、少なくとも10nm以下である。
また、これらの細孔径を有する各断面における単位断面積あたりの細孔の数をそれぞれm、m、m・・・、mn-1及びmとすると、好ましくは、0.8×d/d≦m/m≦1.2×d/d、且つ、0.8×d/d≦m/m≦1.2×d/d、・・・、且つ0.8×dn-1/d≦m/mn-1≦1.2×dn-1/d、より好ましくは、0.9×d/d≦m/m≦1.1×d/d、且つ、0.9×d/d≦m/m≦1.1×d/d、・・・、且つ0.9×dn-1/d≦m/mn-1≦1.1×dn-1/dである。
上記範囲とすることにより、この多孔質基材の表面にガス分離層を形成するための前駆体溶液を塗布した場合でも、前駆体溶液が細孔の内部へ侵入することを十分に抑制することができる。
【0042】
上記多孔質基材が段階的に異なる細孔径を有する場合、開口する細孔の細孔径が10nm以下でない面における最大径は、10nm以下であってもよいが、通常、10~100nm(好ましくは10~50nm、より好ましくは10~30nm)である。
細孔径が段階的に大きくあるいは小さくなっている多孔質基材の場合には、ガス分離に用いる際に、細孔径の大きいところでは、ガス流に対する抵抗が低いため、ガス透過率を大きくすることができる。
【0043】
また、隣り合う細孔どうしの間隔は特に限定されないが、細孔の細孔径と同じであってもよいし、異なっていてもよい。この間隔は、細孔径とほぼ同じであることが好ましく、全体としてほぼ一定であることが好ましい。
更に、貫通する細孔の長さは特に限定されないが、好ましくは300μm以下(より好ましくは1~200μm、更に好ましくは1~150μm)とすることが好ましい。この範囲であれ、細孔の開口部周辺の十分な機械的強度を保持できる。
【0044】
また、本発明の水素ガス分離材では、上記多孔質部と上記ケイ素基質耐水蒸気膜との間に、水素選択性分離膜を備えることができる。
水素選択性分離膜とは、(1)水素ガスの透過率を向上させる膜、及び、(2)水素ガスの透過率を過度に阻害することなく、水素ガス以外の他のガスの透過を抑制する膜などが挙げられる。
上記(1)の膜としては、水素ガスに対して親和性の高い金属の元素、Si及びOを含み、且つ、Si-O結合を有する膜が挙げられる。水素ガスに対して親和性の高い金属の元素としては、前記本発明の耐水蒸気膜において述べた水素ガスに対して親和性の高い金属の元素をそのまま適用できる。更に、この元素の少なくとも一部は、金属及び/又は酸化物として分散されていることが好ましい。即ち、例えば、Ni、Si及びOを含有し、Si-O結合を含有し、2層以上からなる膜、及び、Co、Si及びOを含有し、Si-O結合を含有する膜などを用いることができる。上記(2)の膜としては、前記本発明の耐水蒸気膜のように元素Rを含有する膜が挙げられる。
【0045】
水素選択性分離膜の構造、形状及び厚さ等は特に限定されない。即ち、水素選択分離膜は、1層のみ(即ち、単層)からなる膜であってもよく、2層以上からなる膜であってもよい。2層以上からなる場合とは、例えば、各層間で所定の元素の含有量が異なる場合(例えば、含有量差が10%以上である場合等)、及び、層間で検出される元素の種類が異なる場合等が挙げられる。また、その厚さは特に限定されないが、10~600nm(好ましくは20~300nm、より好ましくは20~200nm)とすることができる。
この本発明の水素ガス分離材は、どのような方法により製造してもよく、製造方法は特に限定されない。
【0046】
<4>水素ガス分離材の製造方法
本発明の製造方法は、多孔質基材の表面又はこの多孔質機材の表面に積層された他層の表面に、希土類元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、この塗膜を熱処理する工程を備えることを特徴とする。
【0047】
本製造方法における上記「多孔質基材」は、前記分離材における多孔質基材をそのまま適用できる。上記「多孔質機材の表面に積層された他層」とは、前記本発明の耐水蒸気膜以外の他の層であり、例えば、前記水素選択性分離膜等が挙げられる。
また、本製造方法における上記「元素Mを含む化合物」、上記「アルコキシシラン化合物」、上記「溶液」、上記「塗布」、上記「塗膜」及び上記「熱処理」は、前記本耐水蒸気膜の製造方法における各々をそのまま適用できる。
また、本発明の耐水蒸気膜は、1層のみを形成してもよく、2層以上を積層して形成してもよい。
【0048】
本製造方法において、前記本耐水蒸気膜の製造方法において述べたと同様に、上記熱処理工程の後、更に、水蒸気を含む雰囲気下で膜の熱処理する工程を備えることができる。また、前述の水素選択性分離膜を形成する際にも、その都度、この工程を備えることができる。
上記水素選択性分離膜を有する場合、この水素選択性分離膜の形成方法は特に限定されない。即ち、例えば、多孔質基材の表面又はこの多孔質機材の表面に積層された他層の表面に、水素ガスに対して親和性の高い金属の元素を含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液を塗布して塗膜とし、該塗膜を熱処理する工程を備えて形成することができる。この方法については、前記本発明の耐水蒸気膜の製造方法において、元素Rを含む化合物に変えて、水素ガスに対して親和性の高い金属の元素を含む化合物を用いる以外同様である。
【実施例】
【0049】
以下、実例により本発明を具体的に説明する(実験例1-3は実施例であり、実験例4-8は参考例である)
<1>水素ガス分離材の製造
[1]多孔質基材
図3に示すような複合型の多孔質基材11bを用意した。この多孔質基材11bは、支持部材113と多孔質基材部112(陽極酸化アルミナ)とが一体化したものであり、多孔質基材部112は、支持部材113側の最内部の細孔径が30nm、最外部(最表面)の細孔径が3nm、長さが150μmであり、且つ支持部材113に対して垂直方向に貫通する細孔が多数配列している。このアルミナ多孔質基材11bの細孔径分布を測定して得られる多孔質基材を構成する細孔の細孔径は、大部分が30Å(3nm)である。
【0050】
[2]耐水蒸気膜の形成
(1)元素Rを含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液の調製
0.0167molのテトラエトキシシラン(TEOS)を、2molのエタノールに溶解し、第1溶液を調製した。一方、適当量の硝酸スカンジウム{Sc(NO}を、34質量%の過酸化水素水18.9mlに溶解し、第2溶液を調製した。この第2溶液を、第1溶液に徐々に加えた後、混合溶液を氷浴中にて2時間攪拌し、元素Rを含む化合物とアルコキシシラン化合物とを含有する溶液(以下、単に「前駆体溶液」という)を得た。但し、上記第2溶液を第1溶液に加える際に、SiとScとのモル比(Si/Sc)が0、1、2及び4の4種となるように予め調整し、Si/Scが0(Scを含有しない)前駆体溶液、Si/Scが1である前駆体溶液、Si/Scが2である前駆体溶液、Si/Scが4である前駆体溶液の4種の前駆体溶液得た。
【0051】
(2)前駆体溶液による塗膜の形成、及び、熱処理
上記[1]に示した多孔質基材を4つ用意し、各々の多孔質基材の片端をガラスで封止した。その後、多孔質基材の各々の表面を、上記[2](1)で得られた4種の前駆体溶液のうちのいずれか1種に1分間浸すことでディップコーティングして前駆体溶液による塗膜を形成した。その後、大気雰囲気下且つ600℃の条件下で20分間の熱処理を行った。
【0052】
(3)多層化
上記[2](1)と上記[2](2)との各々操作を7回繰り返して、多層化された耐水蒸気膜を形成し、実例1~3及び比較例1の下記4種の水素ガス分離材を得た。即ち、
例1:Si/Scが1である耐水蒸気膜を備える水素ガス分離材
例2:Si/Scが2である耐水蒸気膜を備える水素ガス分離材
例3:Si/Scが4である耐水蒸気膜を備える水素ガス分離材
比較例1:Si/Scが0(Sc非含有)である耐水蒸気膜を備える水素ガス分離材
【0053】
<2>水素ガス分離材の評価
[1]高温水蒸気下における特性評価
(1)透過率の測定
上記で得られた4種のガス分離材を各々用い、図4に示すガス透過試験装置を用いて、500℃における水蒸気共存下での水素及び一酸化炭素の各々のガス透過試験を、定圧容積変化法(加圧法)で行った。
圧力計P1が大気圧よりも1atm高い圧力(即ち、ゲージ圧1atm)を示し、圧力計P2が大気圧を示すようにガス供給量をコントールして耐水蒸気膜の表裏(水素ガス分離材の内外)での圧力勾配を形成した。
装置に接続された水素ガス及び一酸化炭素ガスのうちの透過率測定対象であるいずれか一方のガスを貯留する貯留タンクからマスフローコントローラを介して、透過率測定用ガス(水素ガス又は一酸化炭素ガス)を供給した。水蒸気は、水貯留タンクからmol換算で水素ガス又は一酸化炭素ガスのmol量の3倍量を算出し、この量が供給されるように流量調節を行った。また、水は、水貯留タンク内に併設された流量コントローラにより所定量がタンク内から排出され、水蒸気発生用ヒータによって加熱され、気化されて透過セル内に水蒸気として供給される仕組みとなっている。
【0054】
透過セル内は、透過セル用ヒータにより500℃に保持されている。この透過セル内に供給された各ガスは、先に述べた1atmの圧力差により耐水蒸気膜の外表面側から内表面側へ透過されて、フローメータF2を介して透過ガスとして回収される。一方、透過セル内で耐水蒸気膜を透過しなかったガスはフローメータF1を介して非透過ガスとして回収される。尚、この透過ガスの回収速度を大きくするために、回収経路にアルゴンガスを供給し、透過ガスはアルゴンガスと共に回収した。
回収された透過ガスを、ガスクロマトグラフ(GLサイエンス社製、形式「GC323」)を用いて、ガス中に含まれるガス種及び各ガス種毎のガス量を測定した。この結果から、各ガス種毎のガス透過率(mol/m・s・Pa)を算出した。また、各透過率の値を用い、ガス分離性能を表す指標として一酸化炭素ガスの透過率に対する水素ガスの透過率の比である透過係数比α{α(H/CO)}を、測定時間毎に求めた。得られた透過率及び透過係数比を表1に示す。
また、この表1の実例1~3及び比較例1の透過率のデータをグラフにプロットして図5に示した。
【0055】
【表1】
JP0004383217B2_000002t.gif

【0056】
更に、上記と同様の装置及び評価方法で、実例3の水素ガス分離材を用いて、窒素ガスの透過率測定を行った。その結果、25時間後における窒素ガスの透過率は、8.1×10-10mol/m・s・Paであり、49時間後における透過率は1.0×10-10mol/m・s・Paであった。即ち、25時間後における透過係数比α(H/N)は9であり、49時間後における透過係数比α(H/N)は12であった。
【0057】
(2)透過率の測定による効果
表1及び図5の結果より、実例1~3及び比較例1のいずれにおいても、測定開始から5時間以内の間で、透過率が大きく変動していることが分かる。これは測定条件が各膜にとっては水熱合成の条件であり、膜構造の再編成を生じているためと考えられる。即ち、ほぼ5時間以降が各膜にとっての前記安定化後であるとすることができる。
また、測定開始後5時間以降においては、比較例1ではPCO及びPH2のいずれもが急激に上昇するのに対して、実例1~3ではいずれも安定しており、大きな変動が認められないことが分かる。即ち、実例1~3では耐水蒸気性が認められることが分かる。
【0058】
更に、比較例1の水素ガス分離材では、測定開始5時間後と25時間後とを比べると、水素ガスは約2.6倍に、一酸化炭素ガスは約5.2倍に、各々上昇している。これは、ガス種に関わらない上昇であることや、従来知られている非晶質シリカの特性などから、水蒸気によりSi-O結合の構造変化による膜内部の欠陥及び/又は膜と多孔質基材との界面の剥離等を生じたことが考えられる。更に、この水素ガス分離膜は、一酸化炭素ガスの透過を抑制する効果が、本発明の実例1~3に比べて小さいことが分かる。
【0059】
これに対して、本発明品である実例1~3の水素ガス分離材は、水素ガス及び一酸化炭素ガスのいずれに対してもその透過率の変動が小さく抑えられており、暴露時間の経過による影響が極めて小さいことが分かる。即ち、実例1の水素ガス分離材で、5時間後と25時間後とを比べると、水素ガスの透過率の変動率は約1.3倍、一酸化炭素ガスは約1.2倍とその変動は小さく抑えられている。また、実例2の水素ガス分離材で、3時間後と25時間後とを比べると、水素ガスが約1.2倍、一酸化炭素ガスが約1.01倍と変動は極めて小さい。更に、実例3の水素ガス分離材で、5時間後と29時間後とを比べると、水素ガスは約1.4倍、一酸化炭素ガスは約1.2倍とその変動は小さく抑えられている。
【0060】
また、これらの実例1~3の水素ガス分離材では、比較例1の水素ガス分離材に比べて、一酸化炭素ガスの透過量が小さく抑えられていることが分かる。特に実例3の1時間後における透過率は、比較例1のそれの11%にまで抑制されており、実例2にいたっては0.6%と著しく小さな透過率にまで抑えられていることが分かる。
【0061】
更に、透過係数比に注目すると、実例1は耐水蒸気性は十分に発揮されているものの、比較例1を大きく超える透過係数比は認められない。即ち、水素ガスと一酸化炭素ガスとを分離する特性は高くないことが分かる。これに対して、実例3では、透過係数比が19~28と大きく、実例2では46~425と極めて大きな値を示している。このことから、耐水蒸気性に加えて一酸化炭素ガスの透過抑制効果を得ることを目的とする場合には、Scを好ましい範囲(即ち、Si/Sc比で1を超えて、更には1.2~10)で含有する必要があることが分かる。
【0062】
また、実例3を用いた窒素ガスの透過率測定の結果から、窒素ガスの透過率は高く、窒素ガスに対する透過抑制効果は殆ど認められない。この窒素ガスを構成する窒素分子の分子径は、一酸化炭素ガスを構成する一酸化炭素分子の分子径と大きく変わらない(即ち、一酸化炭素分子の0.96倍程度)。このことから、分子径が大きく変わらない窒素ガスは透過抑制しないのに対して、一酸化炭素ガスは透過抑制していることから、Scを所定範囲で含有することにより、特異的に一酸化炭素ガスに対する透過抑制効果が発揮されていることが分かる。更に、この透過抑制効果は、分子ふるい特性のみからは説明ができない現象であることが分かる。
【0063】
[3]結晶構造による評価
(1)結晶構造評価用試料の作製及びX線回折測定
上記[2](1)と同様にして、Si/Scが0(Scを含有しない)前駆体溶液、Si/Scが1である前駆体溶液、Si/Scが2である前駆体溶液、Si/Scが4である前駆体溶液の4種の前駆体溶液得た。
得られた各前駆体溶液を大気雰囲気下60℃で約24時間乾燥させて乾燥粉末を得た。得られた粉末を大気雰囲気下600℃、3時間加熱した後、粉砕し、4種類{Si/Sc=0、Si/Sc=1、Si/Sc=2、Si/Sc=4}の結晶構造評価用試料を得た。
得られた試料の各々についてX線回折測定(Rigaku社製、形式「RINT2200V」を用いて測定)を行った。その結果、得られた多重チャートを図6に示した。尚、Scの結晶の同様なX線回折測定による測定結果も図6に示した。
【0064】
図6より、いずれの試料も20~30度近辺に非晶質シリカ特有のハローピークが認められることが分かる。また、Si/Sc=1の試料では、31.5度及び52.5度にSc結晶によるピークが認められる。この結果から、Si/Sc=2の試料及びSi/Sc=4の試料では、Scが非晶質シリカ中によりうまく取り込まれているのに対して、Si/Sc=1の試料ではScがSc結晶として析出しつつあることが分かる。
即ち、表1の結果より、Si/Sc=1である実例1に比べて、Si/Sc=2である実例2及びSi/Sc=4である実例3では、一酸化炭素ガスの透過抑制効果が高く且つHの透過係数比も大きい。この結果が得られるのは、含有されるScがSc結晶として析出するか否か及び析出の程度に影響を受けていることが考えられ、酸化物結晶の析出が無い場合又は析出があってもわずかである場合は、結晶質部分と非晶質部分との界面からのガスのすり抜けがなく、高い耐水蒸気性を保持できていると考えることができる。
【0065】
(2)他の希土類元素を含む結晶構造評価用試料の作製及びX線回折測定
上記[3](1)と同様にして、Si/Yが2である前駆体溶液(実例4用)、Si/Laが2である前駆体溶液(実例5用)、Si/Smが2である前駆体溶液(実例6用)、Si/Gdが2である前駆体溶液(実例7用)、Si/Dyが2である前駆体溶液(実施例8用)の5種の前駆体溶液得た。その後、得られた各前駆体溶液を用いて上記[3](1)と同様にして5種の結晶構造評価用試料(実例4~8)を得た。
得られた結晶構造評価用試料の各々についてX線回折測定を行い、その結果を多重チャートとして図7に示した。尚、上記[3](1)におけるSi/Sc=2の結晶構造評価用試料のX線回折測定結果も図7に示した。
【0066】
図6の結果より、含有される希土類元素が酸化物結晶としての析出量が認められないか又はわずかであれば、本発明に特有の効果が十分に得られていることが分かる。図7においても同様に、Si/R=2では、いずれの試料においても各希土類元素の酸化物結晶の析出は認められないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は高温水蒸気下における耐水蒸気性を要する分野において広く利用される。即ち、例えば、水素ガスの分離、水素ガス燃料の製造及び燃料電池等において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】多孔質基材の1例を示す概略斜視図である。
【図2】細孔径が段階的に異なる細孔チャンネルを有する多孔質基材を示す概略断面図である。
【図3】実例で用いた多孔質基材であり、円筒形支持部材の上に細孔チャンネルが配列した多孔質基材を示す概略斜視図である。
【図4】定圧容積変化法(加圧法)を原理とするガス透過性能評価装置の模式図である。
【図5】実例1~3及び比較例1の暴露時間に対する透過率を示すグラフである。
【図6】実例1~3、比較例1及びScのX線回折測定の多重チャートによる説明図である。
【図7】実例2、実例4~8及び比較例1のX線回折測定の多重チャートによる説明図である。
【符号の説明】
【0069】
11、11a及び11b;多孔質基材、111;細孔、112;多孔質基材部、113;支持部材。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6