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明細書 :電気・磁気複合加工方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4843780号 (P4843780)
公開番号 特開2007-098490 (P2007-098490A)
登録日 平成23年10月21日(2011.10.21)
発行日 平成23年12月21日(2011.12.21)
公開日 平成19年4月19日(2007.4.19)
発明の名称または考案の名称 電気・磁気複合加工方法
国際特許分類 B24B  37/00        (2006.01)
B24B  31/112       (2006.01)
B24B   5/40        (2006.01)
FI B24B 37/00 D
B24B 37/00 G
B24B 31/112
B24B 5/40 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2005-288894 (P2005-288894)
出願日 平成17年9月30日(2005.9.30)
審査請求日 平成20年8月1日(2008.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】鄒 艶華
【氏名】進村 武男
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】橋本 卓行
参考文献・文献 特開平07-282735(JP,A)
特開2001-062700(JP,A)
特開2003-117798(JP,A)
特開2003-165050(JP,A)
特開平11-195366(JP,A)
特開平8-99224(JP,A)
特開平7-227755(JP,A)
特開平6-256969(JP,A)
調査した分野 B24B 37/00
B24B 5/40
B24B 31/112
特許請求の範囲 【請求項1】
電流を流した導線を磁場中に配して当該導線にフレミングの法則に従う電磁力を与え、当該電磁力を前記電流の変化によって変動させて前記導線に運動を与え、当該運動を利用して管内部の研磨加工を行う電気・磁気複合加工方法であって、
前記管内部に前記導線を配置し、該導線の半径方向の管外側に永久磁石を配置し、
前記永久磁石を回転させて回転磁場を形成しつつ前記導線に直流電流を流して前記導線に回転運動を生じさせて管内面の研磨加工を行う
ことを特徴とする電気・磁気複合加工方法。
【請求項2】
電流を流した導線を磁場中に配して当該導線にフレミングの法則に従う電磁力を与え、当該電磁力を前記電流の変化によって変動させて前記導線に運動を与え、当該運動を利用して管内部の研磨加工を行う電気・磁気複合加工方法であって、
前記管内部に前記導線を配置し、該導線の半径方向の管外側に永久磁石を配置し、
前記永久磁石を回転させて回転磁場を形成しつつ前記導線に直流電流を流して前記導線に回転運動を生じさせて管内面の研磨加工を行い、又は、前記永久磁石を固定して静磁場を形成しつつ前記導線に交流電流を流して前記導線に振動運動を生じさせて管内面の研磨加工を行い
前記導線にフレミングの法則に従う電磁力を与える電流の波形を交流又はパルス波形とし、当該導線の固有振動数と共振し得る周波数の変動電磁力を前記導線に作用させ、与えられた変動電磁力により前記導線に共振現象を生じさせて振幅の大きな振動を起こしながら研磨加工を行うことを特徴とする電気・磁気複合加工方法。
【請求項3】
前記導線の少なくとも表面には、耐摩耗性層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気・磁気複合加工方法。
【請求項4】
前記導線の表面には、砥粒が固定されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電気・磁気複合加工方法。
【請求項5】
前記導線は、遊離研磨材の存在下で用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電気・磁気複合加工方法。
【請求項6】
前記導線に波動的運動を与え、前記遊離研磨材の流動特性を促進して研磨加工を行うことを特徴とする請求項5に記載の電気・磁気複合加工方法。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・磁気複合加工方法並びにこれに用いられる装置及び工具に関し、更に詳しくは、通電状態にある導線に磁場が作用して発生するフレミングの左手の法則に従う電磁力を工具の加工力とした新規な電気・磁気複合加工方法、並びにこれに用いられる装置及び工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁場の作用を取り込んだ精密加工技術である「磁気研磨法」が知られている。この加工法は、磁力線を媒介にして磁性砥粒に加工力と運動力を与えて精密な表面加工を実現するものである。例えば、この磁気研磨法による円管内面の研磨は、磁性砥粒を永久磁石で円管内面に引きつけながら回転させることにより行われ、円管内面を精密に仕上げることができる。こうした磁気研磨法は実用化され、半導体製造産業で応用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、例えば、円管径が3mm以下になると円管内の加工域の磁場が一様化して集中しないため磁性砥粒に働く磁気力が低くなり、研磨圧力が著しく低下すると共に、回転する永久磁石に対して磁性砥粒が追従して回転せず、研磨が不能になることがあった。
【0004】
一方で、例えば、内径0.05~1mmで長さ100~200mm程度のキャピラリー(毛細管)の内面や、スリット幅0.1~1mmで長さ10~30mm程度の櫛歯状スリットの内面を鏡面に仕上げる社会ニーズは非常に多い。特に、最近の精密部品の微細化・複雑化に伴い、この種の加工技術に対する必要性が高まってきている。しかし、上述したように、従来の研磨技術ではとてもこのような微細加工の実現は不可能であった。なお、従来、研磨技術にフレミング法則を適用した研究は全く知られていない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、従来技術では加工困難な狭い内面等の微細加工を可能とする新規な加工方法並びにこれに用いられる装置及び工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究・検討を行った過程において、加工力として応用可能な原理として、磁場と電流との組み合わせにより電磁力が発生するフレミングの左手の法則を用い得るとの着想を得た。例えば、被加工部となる細長くて狭い箇所に導線を挿入し、側面から強力な磁場を印加すれば、磁場の方向と電流の方向とが直交する方向に導線に力(force)が生じ、これを加工力として利用できることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の電気・磁気複合加工方法は、電流を流した加工工具を磁場中に配して当該加工工具にフレミングの法則に従う電磁力を与え、当該電磁力を変動させて前記加工工具に運動を与え、当該運動を利用して工作物の加工を行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の電気・磁気複合加工方法においては、前記電磁力の変動が、(1)前記電流の変化により行われること、又は、(2)磁場の変化により行われること、に特徴を有するものである。
【0009】
本発明の電気・磁気複合加工方法においては、(a)前記加工工具の少なくとも表面には、耐摩耗性層が形成されていることが好ましく、また、(b)前記加工工具の表面には、砥粒が固定されていることが好ましく、また、(c)前記加工工具は、遊離研磨材の存在下で用いられることが好ましい。
【0010】
また、本発明の電気・磁気複合加工方法においては、(i)前記加工工具は、前記工作物の加工箇所に応じて、形状、寸法及び硬さの少なくともいずれかが選定されることが好ましく、(ii)前記加工工具は、前記工作物に対する吸引・反発運動、回転運動、振動運動、又は波動運動によって当該工作物を加工することが可能であり、(iii)前記工作物の狭小部、間隙部、内表面部又は隠蔽部の精密加工に用いられることが可能である。
【0011】
また、本発明の電気・磁気複合加工方法においては、(イ)前記加工工具として比較的軟質の工具を用い、前記工作物の自由曲面又は軟質な工作物の表面加工を行うことが可能であり、(ロ)前記工作物が金型であり、プレートコイル型の加工工具を用いて、当該金型面の精密加工を行うことが可能であり、(ハ)前記加工工具に波動的運動を与え、前記遊離研磨材の流動特性を促進して加工を行うことが可能である。
【0012】
さらに、本発明の電気・磁気複合加工方法においては、前記加工工具にフレミングの法則に従う電磁力を与える電流の波形を交流又はパルス波形とし、当該導電工具の固有振動数と共振し得る周波数の変動電磁力を前記導電工具に作用させ、与えられた変動電磁力により前記導電工具に共振現象を生じさせて振幅の大きな振動を起こしながら加工を行うことをが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の電気・磁気複合加工装置は、上述した本発明の電気・磁気複合加工方法に用いられる電気・磁気複合加工装置であって、通電可能な加工工具と、当該加工工具に電流を流す電源と、前記加工工具が通電された際に当該加工工具にフレミングの法則に従う電磁力を与え得る磁場を形成する磁場形成手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の加工工具は、上述した本発明の電気・磁気複合加工方法に用いられる加工工具であって、通電可能に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電気・磁気複合加工方法並びにこれに用いられる装置によれば、通電された加工工具を磁場中に配置することによって、加工工具にフレミングの法則に従う電磁力を与える。電磁力は電流の正負とその波形及び磁場の相互作用によって、加工工具に様々な加工力を生じさせることができる。加工工具は、電流密度の許容範囲において微細化や薄肉化が可能であるため、従来の加工方法では実現不可能であった溝や微細穴内面等の精密加工技術の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の電気・磁気複合加工方法並びにこれに用いられる装置及び工具につき、具体的実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
本発明の電気・磁気複合加工方法は、電流を流した加工工具を磁場中に配してその加工工具にフレミングの法則に従う電磁力を与え、その電磁力を変動させて加工工具に運動を与え、そうした運動を利用して工作物の加工を行うことを特徴とする。なお、このように、加工技術に電磁気学のフレミングの法則を適用することは、従来全く行われておらず、本発明によって初めて提唱される極めて新規な技術である。
【0018】
電流を流した加工工具が磁場中に置かれると、その加工工具はフレミングの法則に従う電磁力を受ける。この電磁力は電流の正負とその波形及び磁場の相互作用により変動し、そうした電磁力の変動によって、加工工具に様々な運動を与えることができる。その加工工具の運動は工作物に対する加工力となり、その加工挙動としては、特に限定されるものではないが、例えば、工作物に対する吸引・反発運動、回転運動、振動運動、又は波動運動等が挙げられる。さらに、場合によっては、後述するように、加工工具の振動共振現象による運動も挙げられる。
【0019】
電磁力の変動は、加工工具に通電する電流を変化させることにより行うことができるし、磁場を変化させることにより行うこともできる。また、これら双方を組み合わせることも可能である。
【0020】
加工工具に通電する電流としては、直流、交流、パルス電流、高周波電流、超音波電流等、種々の波形と時間的変動速度が適用可能である。電流制御による電磁力の変化は、電源があれば容易に行うことができるので、磁場を変化させる場合よりも利点がある。
【0021】
一方、磁場としては、静磁場、変動磁場、回転磁場等を用いることができる。しかし、電磁コイルを利用する場合には、コイルのインダクタンスによる通電電流の変動に対する時間応答性に制限がある。また、永久磁石を機械的に回転して変動磁場を発生する場合にも、回転数の高速化に機械的な制約がある。
【0022】
したがって、本発明においては、加工工具側の電流を制御する方式を採用しつつ、磁場の変化がないか低速磁場変化の条件下において電磁力に変動を与えることが好ましい。
【0023】
次に、本発明に係る電気・磁気複合加工方法の種々の実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。まず、磁場として静磁場を用いた場合の加工原理について説明する。
【0024】
図1は、静磁場中に、直流電流を流した加工工具を配置した場合における加工原理の説明図である。図1(A)に示すように、永久磁石3,3により形成される磁束密度B〔T〕からなる図中垂直方向の静磁場中に置かれた長さL〔m〕の導線1に、図示のようにX方向である右側に向かって電流I〔A〕が流れているとき、この導線1に働くフレミング則に従う電磁力の方向はY方向であり、大きさはF〔N〕となる。ここで、Fは次式で与えられる。
【0025】
【数1】
JP0004843780B2_000002t.gif

【0026】
上式のθは、磁界と導線の間の角度である。磁場の方向を変えれば、電流を流した加工工具に作用する電磁力(加工力)の方向を変えることができる。従って、図1(B)に示すように、永久磁石3,3の配置を変え、図中の水平方向に働く磁場を与えれば、加工力Fは垂直方向に向かうものとなり、導線1直下に配された工作物2の表面に垂直に働く加工力Fを与えることができる。そして、導線1に流す直流電流に、オン・オフないし強弱の時間的変動をなす電流制御を行えば、加工工具(導線1)によって工作物2の加工が可能となる。もちろん、この際の磁場方向としては、加工力Fが工作物2に対して適当な角度で加わるものであれば、図1(B)に示すものに何ら限定されるものではない。また、加工工具(導線1)に対する工作物2の配置位置を変えれば、図1(A)に示すような磁場方向を形成した場合においても、所定の加工を行うことが可能であることは容易に理解できる。
【0027】
図2は、静磁場中に、交流電流を流した加工工具を配置した場合における加工原理の説明図である。図1(A)について説明したのと同様に、永久磁石3,3により形成される磁束密度B〔T〕からなる図中垂直方向の静磁場中に置かれた長さL〔m〕の導線1に、交流電流I〔A〕が流れているとき、この導線に働く力の方向は+Y方向と-Y方向で振動する。加工力Fの大きさは上記式(1)に表れる。この場合も、図1について説明したのと同様に、磁場の方向を変化すれば、電流を流した加工工具の振動運動の方向を変えることができる。
【0028】
図3は、磁場として変動磁場を用い、この変動磁場中に直流電流を流した加工工具を配置した場合における加工原理の説明図である。図3に示すように、交流電流を流した電磁石4、4によって形成される変動磁場中に置かれた長さL〔m〕の導線1に、図示のように直流電流I〔A〕が流れているとき、この導線1に働く力の方向は+Y方向と-Y方向で変動し、導線1に振動する挙動を与えることができる。この振動方向も磁場の置かれた方向に関係する。従って、図1において説明したのと同様に、磁場の方向を調整すれば、電流を流した加工工具の振動方向を制御できる。
【0029】
図4は、磁場として回転磁場を用い、この回転磁場中に直流電流を流した加工工具を配置した場合における加工原理の説明図である。図4に示すように、長さL〔m〕の導線1に、直流電流I〔A〕が流れているとき、導線1の半径方向に配置された永久磁石ないし電磁石(図示せず)を導線1の軸回りに回転させ、磁束密度B〔T〕からなる回転磁場を与えると、導線1は、フレミング則に従う回転する電磁力を受けて回転運動をする。従って、例えば、導線1と同軸的に円筒状の工作物5を配置しておけば、その工作物5の内面加工が可能となる。
【0030】
図5は、磁石の所定配置により形成される変動磁場中に、直流電流を流した加工工具を配置した場合における加工原理の説明図である。図5に示すように、直流電流I〔A〕が流れる導線1に対し、その側面方向に極性を交互に逆としたN磁石/S磁石3を何箇所かに配置し、N/S方向を変えて変動磁場をかけると、導線1は、図5中の下方に表したように、極性が交互に逆になっている箇所で波動し、導線1が振れる加工挙動を得ることができる。
【0031】
なお、上述した図1~図5に示す実施形態は、本発明に係る電気・磁気複合加工方法の加工原理の一部を示したものにすぎず、本発明はこれらの例示した実施形態に何ら限定されるものではなく、前述した加工工具に与えられる電流特性に合わせて適当な磁場を加えることにより、加工工具の加工挙動を自由に選ぶことができる。
【0032】
さらに、本発明においては、上述したように、フレミング則にしたがう電磁力を加工工具に与えることによって工作物の加工を行うが、この電磁力(フレミング力)の変動の周波数を、用いられる加工工具の固有振動数と同じ周波数に設定して変動させることが望ましい。このように、加工工具の固有振動数と共振し得る周波数の変動電磁力を加工工具に作用させると、加工工具は電磁力と共振現象を起こして加工に必要な十分な振幅を生ずるため、電気エネルギーを効率的に使用でき、効果的な微細加工が実現できる。
【0033】
本発明において用いられる加工工具の形状としては、上述した図1~図5に示す実施形態に示されるような線状のものに限られず、板状、線束、巻線コイル型、プレートコイル等の各種の形状とすることが可能であり、また、加工箇所に応じて、加工工具の形状、寸法、硬さを適宜選択することができる。ここで、加工工具の太さとしては、電流値を高める意味では板状等の幅太のものであってもよく、一方、電流密度の許容範囲において細く又は薄肉なものとすることができる。具体的には、例えば、直径2mm以下、より好ましくは0.02~1mm程度の細線とすることができ、溝や微細穴等の精密加工技術と精密バリ取りの実現が可能となる。さらに、その材質についても、良好な導電性を有する限りにおいて特に限定されるわけではなく、上記したような加工工具の太さに応じて適当な材質を選択することができると共に、工作物の材質及び加工工具の加工挙動に応じた任意の硬さに設定することができる。特に限定されるわけではないが、加工工具を構成する材質としては、例えば、導線の周りに電着ダイヤモンドを付けること等を例示することができる。
【0034】
なお、本発明においては、上記したように加工工具にフレミング則に従う電磁力を与えて運動させ、その運動を利用して工作物の加工を行うが、この加工は、加工工具が直接工作物に接触することによって行われるものであってもよいし、又は、加工工具の周辺に配置された例えば研磨材等の加工媒体に加工工具の運動を伝え、その加工媒体が工作物に接触することによって行われるものであってもよい。もちろん、これらの双方を組み合わせて行うものであってもよい。
【0035】
加工工具が直接工作物に接触して加工を行う実施形態においては、加工工具の少なくとも表面には、耐摩耗性層が形成されていること、又は、砥粒が固定化ないし反固定化されていることが望ましい。耐摩耗性層及び砥粒には、従来公知の各種の材質からなるものを用いることができる。砥粒としては、例えば、JIS表示でA、WA、GC、SA、MA、C、MD、CBNといったものを含む、Al、SiC、ZrO、BC、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、MgO、CeO、又はヒュームドシリカ等を例示することができる。また、耐摩耗性層としては、上記した砥粒と同様の材質からなる溶射層、又は、タングステン等の高硬度金属又は合金の溶射層等を、非限定的に例示することができる。
【0036】
また、加工媒体が工作物に接触して加工を行う実施形態においては、加工媒体として、上記した公知の砥粒(研磨材)等を用いることが可能である。なお、加工媒体に粉体状のものを用いることも可能であるが、好ましくは、スラリー状のものや液体中への分散体を用いることが、加工工具の運動を加工媒体に伝播し易いために望ましい。
【0037】
本発明に係る電気・磁気複合加工方法は、上記したように、加工工具にフレミング則に従う電磁力を与えて運動させ、その運動を利用して工作物の加工を行うことができる。そして、加工工具に印加する電流方向に対する磁場方向を所定方向に変えることで、加工工具の運動方向を任意の方向に変動させることができる。そのため、磁場が作用する場所であれば、工作物の狭小部、間隙部、内表面部又は隠蔽部といった、従来の加工方法では加工困難であった部位の精密加工を好適に行うことができるという利点がある。
【0038】
また、さらに、後述する実施例に示すように、加工工具として比較的軟質の工具を用いれば、工作物の自由曲面又は軟質な工作物の表面加工を行うことも可能である。また、後述する実施例に示すように、プレートコイル型の加工工具を用いて、工作物としての金型の型面の精密加工を行うことも可能である。
【0039】
このように本発明の電気・磁気複合加工方法は、微細部品の狭い箇所に対する新しい精密研磨技術として各種分野において応用されることが期待でき、例えば、次世代半導体や医療分野の製造プロセス等に用いられるスーパークリーンパイプ等のように、精密研磨が要求される製品やパイプ内のような微小空間の高精度の研磨が要求される製品等の研磨に有効である。また、例えば、ハードディスク装置のハードディスク基板表面のテクスチャ加工への応用が挙げられる。また、例えば、半導体基板に銅配線を形成するダマシン工程で使用される化学的機械的研磨(CMP)の代替工程としての応用が期待できる。ダマシン工程とは、絶縁膜上の配線溝にバリア層と銅めっき層を形成した後、表面の不要な銅を取り除く工程である。もちろん、本発明の電気・磁気複合加工方法は、これら例示した分野における応用に限定されず、各種の用途に広く適用可能である。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の内容の理解を容易とするために示した本発明の具体的な例示の一部に過ぎず、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1:微細管の内面精密仕上げ)
図6に示すように、工作物5である微細管の内部に、加工工具となる導線1を同軸的に配置する。さらに、導線1の半径方向に配置された永久磁石3,3を導線1の軸回りに回転させて回転磁場を形成し、導線1に直流電流を流すと、加工工具(導線1)に、回転運動の加工挙動が生じる。こうした加工挙動によって、微細管の内面精密研磨を実現できる。実際に、図7に示すような実験装置を組み立て、モーターのステーターを用いた回転磁界中に導線を挿入し、導線に直流2Aを通電した結果、導線は50Hzで激しく振動することが分かり、本発明の方法が実現できることを確認した。
【0042】
(実施例2:微細管の内面精密仕上げ)
図8に示すように、工作物5である微細管の内部に、加工工具となる導線1を同軸的に配置する。さらに、導線1の半径方向に固定的に永久磁石3,3を配置して静磁場を形成する。交流電流を導線1に流すと、静磁場の中で脈動する電磁力を受け、導線1には図8の下方に表すような振動的な加工挙動が生じる。こうした加工挙動によって、微細管の内面精密研磨を実現できる。なお、この加工挙動は、導線1周辺、すなわち微細管内部に配されたスラリー状ないし液状の研磨剤、又は磁性流体等の流動を促進でき、微細管内面の精密加工を実現し易くなる特徴をもつ。
【0043】
(実施例3:面の精密仕上げ-外面研磨)
自由曲面を有する工作物、又は柔らかい工作物2の表面仕上げについては、このような工作物の表面に局部的に接触することなく、比較的広い領域に追従性よく均一に接触することができるように、図9に示すように、所定面積以上、例えば1mm以上の面積を有するフレキシブルな板状加工工具6を用いる。こうした板状加工工具を用い、且つ電磁力(加工力)を制御することによって、工作物表面の精密加工を実現する。なお、板状加工工具6の作動原理としては、先に、図1~3ないし図5等において説明したもののいずれかを利用することが可能である。
【0044】
また、図10に示すように、所定面積以上、例えば、1mm以上の面積となるフレキシブルな導線束7を用いてもよく、電磁力(加工力)を制御することによって、自由曲面を有する工作物、又は柔らかい工作物2の表面精密加工が実現できる。
【0045】
(実施例4:内面研磨)
図11に示すような比較的口径の大きな工作物2の内面の研磨を行う場合には、加工工具として、例えば図11(A)及び図11(C)に示すようなコイル工具8を用いて、これに図11(C)に示すように直流電流を流す。そして、工作物2の外側に配置した磁石3で変動磁場又は回転磁場を形成し、コイル工具8に電磁力を与えることによって内面研磨加工を効率よく実現できる。また、図11(B)に示すような導線束工具7を用いて、これに直流電流を流す。そして、工作物2の内側と外側に配置した磁石3,3で変動磁場又は回転磁場を形成し、導線束工具7に電磁力を与えることによって内面研磨加工を効率よく実現できる。
【0046】
(実施例5:金型研磨)
工作物2としての金型の型面の研磨を行う場合には、図12に示すように、金型の型面に応じた様々な形のフレキシブルなプレートコイル9を加工工具として用い、変動磁場中に置く。プレートコイル9に直流電流を流すと、コイル面の垂直方向に磁場が発生する。プレートコイル9で発生した磁場は変動磁場の中にいるから、吸引、反発の繰り返し運動をする。プレートコイル9の吸引、反発によってプレートコイルに振動運動が発生することによって、工作物2である金型にプレートコイルを繰り返し接触させることができ、精密加工を実現することができる。この実施例によれば、比較的狭い箇所で磁場を発生し易く、コイルはいくらでも薄く小さくできるので、この実施例の方法は、微細金型の研磨加工に有効であると考えられる。
【0047】
(実施例6:隙間加工)
工作物2の隙間加工に関しても、実施例5と同様に、加工工具としてプレートコイル9を用いることで容易に行うことが可能である。すなわち、図13に示すように、プレートコイル9を工作物2の隙間に入れ、変動磁場中に置く。プレートコイル9に直流電流を流すと、プレートコイル9の先端に磁場が発生する。プレートコイル9の磁場は変動磁界中で、吸引、反発で変動磁界と同周期に変化する。このようにして、プレートコイル9に振動運動が発生することによって、隙間を形成する工作物2の両側面にプレートコイル9を繰り返し接触させ、精密加工を実現することができる。この実施例によれば、特に、小さい箇所に磁場をかけ易く、プレートコイル9はいくらでも薄くできるので、この実施例の方法は微細な隙間加工に有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施形態における加工原理の説明図である。
【図2】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の別の実施形態における加工原理の説明図である。
【図3】本発明に係る電気・磁気複合加工方法のさらに別の実施形態における加工原理の説明図である。
【図4】本発明に係る電気・磁気複合加工方法のさらに別の実施形態における加工原理の説明図である。
【図5】本発明に係る電気・磁気複合加工方法のさらに別の実施形態における加工原理の説明図である。
【図6】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施例として行う微細管の内面加工に用いた装置構成の説明図である。
【図7】同実施例において、用いた実験装置を示す図である。
【図8】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の別の実施例として行う微細管の内面加工に用いた装置構成の説明図である。
【図9】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施例における外表面加工方法に用いた装置構成の説明図である。
【図10】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の同実施例における外表面加工方法に用いた別の装置構成の説明図である。
【図11】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施例における内表面加工方法に用いた各装置構成の説明図である。
【図12】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施例における金型表面加工方法に用いた装置構成の説明図である。
【図13】本発明に係る電気・磁気複合加工方法の一実施例における隙間加工方法に用いた装置構成の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 導線(加工工具)
2 工作物
3 磁石
4 電磁石
5 工作物(微細管)
6 板状加工工具(加工工具)
7 導線束(加工工具)
8 コイル工具(加工工具)
9 プレートコイル(加工工具)
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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