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明細書 :発毛促進剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5399913号 (P5399913)
登録日 平成25年11月1日(2013.11.1)
発行日 平成26年1月29日(2014.1.29)
発明の名称または考案の名称 発毛促進剤
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61K   8/64        (2006.01)
A61P  17/14        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61Q   7/00        (2006.01)
FI A61K 37/02 ZNA
A61K 8/64
A61P 17/14
A61P 43/00 105
A61P 43/00 111
A61Q 7/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2009-538209 (P2009-538209)
出願日 平成20年10月21日(2008.10.21)
国際出願番号 PCT/JP2008/069004
国際公開番号 WO2009/054361
国際公開日 平成21年4月30日(2009.4.30)
優先権出願番号 2007273889
優先日 平成19年10月22日(2007.10.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年10月19日(2011.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】松井 秀樹
【氏名】富澤 一仁
【氏名】藤村 篤史
個別代理人の代理人 【識別番号】100098464、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 洌
【識別番号】100149630、【弁理士】、【氏名又は名称】藤森 洋介
【識別番号】100154449、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 征史
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 特開2003-252898(JP,A)
Am J Physiol Cell Physiol,,2003年,Vol.284, No.6,p.C1593-1603
調査した分野 A61K 38/00
A61K 8/64
A61P 17/14
A61P 43/00
A61Q 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
アルギニン9残基~13残基および配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチド化合物を有効成分として含有する外用塗布用の発毛促進剤。
【請求項2】
前記ペプチド化合物中の連続したアルギニンが11残基である請求項1記載の発毛促進剤。
【請求項3】
剤形が軟膏である請求項1または2記載の発毛促進剤。
【請求項4】
前記ペプチド化合物の濃度が5~20mg/gである請求項3記載の発毛促進剤。
【請求項5】
有効成分がアルギニン11残基および配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチド化合物であり、軟膏が、該有効成分、白色ワセリン、ステアリルアルコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、パラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸エチルを含む親水性軟膏である請求項3または4記載の発毛促進剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、副作用の少ない発毛促進剤に関する。詳細には、アルギニン9残基~13残基および配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチド化合物を含む発毛促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発毛効果を謳う製品は現在多く見受けられるが、アメリカ食品医薬品局(FDA)が認めた男性型脱毛症に有効な薬品はミノキシジルとフィナステリドの2つのみである。ミノキシジルに関してはMessenger AGらが血管拡張作用をもとに発毛現象を説明している(British Journal of Dermatology、2004年、第150巻、p.186-194参照)。またフィナステリドに関しては、Diani ARらが初めて報告しており(Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、1992年、第74巻、p.345-350参照)、テストステロンから頭髪の成長を阻害するジヒドロテストステロンへと変換させる酵素を阻害することで、頭髪の成長を促すとされる。
【0003】
しかしながら、これら従来の2つの薬剤はいずれも低分子化合物であるが、それぞれに決定的な問題点が散在する。まずミノキシジルは、もとは血管拡張剤として開発された経緯があるように、毛根周囲における血液循環量を増加させることが発毛の誘導に関与するという見解が一般的である。しかし毛根での血流増加と発毛促進を直接関係付ける証拠は乏しく、いまだ発毛のメカニズムの詳細な解明がなされていない。また副作用についても、循環動態の変化とくに致死的な不整脈の存在も示唆されている。
【0004】
次にフィナステリドは、特に男性型脱毛症に対して現在もっとも有効とされる経口治療薬として認識されているが、厚生労働省の注意喚起によるとその作用機序から女性には使用できず(男性専用)、本薬剤が有する胎児への催奇形性から女性に対しては厳格な接触禁止が推奨されている。また、副作用として1~5%にリビドー減退がみられ、頻度不明であるが女性化乳房も生じている。
【0005】
頭髪における発毛メカニズムはその研究に従事するもののみならず、広く一般の人々の間においても絶えず関心の尽きない話題である。発毛メカニズムはこれまで多岐に亘って研究されており、様々な関連因子が同定されてきたが、そのうちの1つにカルシニューリン・NFAT経路(以下、CaN/NFAT経路と略称する)がある。
【0006】
NFATは活性化T細胞核因子の略語であり、この名が示すとおり、もとは免疫応答に関連する重要な転写因子として発見された。しかしその後の研究によりCaN/NFAT経路は免疫系のみならず、心筋や神経、膵臓などの多くの臓器で重要な役割を果たしていることがわかった。発毛メカニズムとこの経路の関連性については、Gafter-Gviliらにより、免疫抑制剤シクロスポリンA(以下、CsAと略称する)の副作用として全身の毛が濃くなる多毛症が有名であることを端緒に、毛包内ケラチノサイトにおいて脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(以下、CaNと略称する)の酵素活性がCsAにより抑制されることで、NFATの脱リン酸化と核内移行さらに細胞周期に係る種々の転写調節が後続して制御され、結果的に発毛を誘導したとの報告がなされている(たとえば、American Journal of Physiology、2003年、第284巻、p.1593-1603参照)。発毛とCaN/NFAT経路の関連は、その後他のグループによる研究でも検証され、多くの研究者らによって広く受け入れられている。
【0007】
一方で、CsAはCaNの酵素活性そのものを抑制するため、CaN/NFAT経路のみならずCaNが関わる多くの反応が阻害されている可能性があり、CsAの全身投与によって生じる副作用である腎障害および神経症状はこのためであると推測されている。また、CsAは、皮膚において局所的な塗布で発毛を誘導したという報告はあるが、経口摂取時と同様に多くの副作用が予想される。本発明者らは、先にCaNの酵素活性を抑制することなくNFAT核移行を特異的に阻害するペプチド性薬剤を開発し、免疫抑制効果ならびに心肥大抑制効果について立証した(特開2003-252898号公報参照)。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、外用塗布により効率の良い発毛を誘導でき、かつ副作用の少ない発毛剤を提供することにある。
【0009】
本発明者らが先に開示した細胞膜透過性のCaN/NFAT経路特異的阻害ペプチドである、11R-VIVIT(連続したアルギニン11残基およびグリシン3残基を付加したVIVIT(配列番号1)からなるペプチド:配列番号2)が、発毛促進において優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、アルギニン9残基~13残基および配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチド化合物を有効成分として含有する発毛促進剤に関する。
【0011】
前記発毛促進剤において、ペプチド化合物中の連続したアルギニンが11残基であることが好ましい。
【0012】
前記発毛促進剤において、剤形が軟膏の場合、ペプチド化合物の濃度は5~20mg/gであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の発毛促進剤、11R-VIVITを塗布して7日後のヌードマウスの耳間の頭頂部の写真である(b)。(a)はコントロール群のヌードマウスの同部位の写真である。(a)と比較して、(b)では耳間の頭頂部に明らかな発毛が観察された。
【図2】本発明の発毛促進剤、11R-VIVIT投与群((c)および(d))ならびにコントロール群((a)および(b))のH.-E.染色した組織片の顕微鏡写真((a)および(c))および複屈折顕微鏡写真((b)および(d))を示す。11R-VIVIT投与群では、機能分化した毛髪1が白く光って観察された。
【図3】皮膚切片20mm2当たりの複屈折を示す毛髪を有する毛包の数を示す(11R-VIVIT投与群:n=6、コントロール群:n=8、*:p<0.0005)。
【図4】WST-1アッセイにおけるケラチノサイトの吸光度を示す(各群:n=7、*:p<0.01、†:p<0.05)。コントロール群と比較して、11R-VIVIT含有培地で培養したケラチノサイトが有意に増殖した。
【図5】11R-VIVITによるNFATの核外移行を示す、共焦点レーザー顕微鏡の写真を示す。(a)は11R-VIVIT投与前のケラチノサイトの写真であり、(b)は(a)と同一細胞の11R-VIVIT投与6時間後の写真である。コントラスト強調のため、GFPの蛍光を白黒で表した。コントロールのケラチノサイト(a)では内ではNFATが幾分核2内に存在するのに対して、11R-VIVIT含有培地下で培養したケラチノサイト(b)内では、NFATは完全に核2外に移行されたことが観察された。
【図6】11R-VIVITおよびCsA投与により転写が2倍以上低下した遺伝子を示す図である。11R-VIVITにより転写が2倍以上低下した遺伝子群は74個あり、CsAにより転写が2倍以上低下した遺伝子群は173個であった。双方に共通して転写が2倍以上低下した遺伝子は24個あった。
【図7】ウエスタンブロッティング法によるサイクリンG2の経時変化を示すグラフである。時間ごとにサイクリンG2の発現量をアクチンの量で補正した相対量を示す(4回計測)。
【図8】ウエスタンブロッティング法によるp21発現量の経時変化を示すグラフである。時間ごとにp21の発現量をアクチンの量で補正した相対量を示す(3回計測)。
【符号の説明】
【0014】
1 機能分化した毛髪
2 核
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の発毛促進剤について詳細に説明する。
【0016】
本発明の発毛促進剤は、9~13個のアルギニンが連続するアミノ酸配列および配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチド化合物を有効成分とする。
【0017】
連続するアルギニンの残基数としては、11残基が最も好ましい。連続したアルギニンが8残基以下または14残基以上であると、本発明の発毛促進剤の皮膚からの導入効率が悪くなる傾向がある。
【0018】
配列番号1のアミノ酸配列は、MAGPHPVIVITGPHEEであり、NFATの活性阻害ペプチド(VIVITと略称する)である。VIVITはカルシニューリンのホスファターゼ活性に影響することなく、NFATファミリーに属するタンパク質(NFAT1、NFAT2、NFAT3およびNFAT4など)とカルシニューリンとの相互作用を選択的に阻害する。配列番号1に示すアミノ酸配列において、各アミノ酸残基は、NFATを阻害するものであれば生物学的に同等のアミノ酸配列に置換してもよく、VIVITと同等の生物学的活性を有するものであれば、数個、たとえば1~3個のアミノ酸残基が付加、欠失されていてもよい。
【0019】
また、本発明において、有効成分であるペプチド化合物は、同等の生物学的活性を有する限り、前記の9~13個のアルギニンが連続するアミノ酸配列および配列番号1のアミノ酸配列に加え、数個、たとえば1~3個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されていてもよい。たとえば、連続するアルギニン残基と配列番号1のアミノ酸配列との間にリンカーとしてグリシンを数残基、たとえば1~3残基挿入したものが好ましい。
【0020】
さらに、本発明において、有効成分であるペプチド化合物は、発毛研究のモデルに使用する場合など、細胞内に導入されたことを確認するためのマーカーを含有してもよい。マーカーはとくに限定されるものではなく、たとえばフルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと略称する)、ローダミンなどの蛍光色素、およびGFPなどの蛍光タンパク質を使用することができる。
【0021】
本発明において、有効成分であるペプチド化合物は、通常の人工合成法によって、または一般に市販されている人工合成機によって製造することができる。あるいは、このペプチド化合物は、遺伝子工学的手法を用いて製造することができる。たとえば、数個のアルギニンが連続する配列およびVIVITからなる配列を含むペプチド配列をコードするDNAを挿入した組換えベクターを作製し、適当な宿主細胞に組換えベクターを導入後、その宿主細胞を培養する。ついで、培養物を回収することにより、ペプチド化合物を得ることができる。製造後、得られたペプチド化合物は公知の方法で精製することもできる。これらのペプチド化合物の製造法および精製法は、本分野において一般的な手法であり、当業者により容易に実施されるものである。
【0022】
本発明の発毛促進剤は、全身性の副作用を回避するという点などから外用塗布により投与することが最も好ましい。
【0023】
本発明の発毛促進剤の剤形は投与方法によって適宜設定することができる。具体的には、水溶液および乳液などの液剤および軟膏を例示することができる。
【0024】
本発明の発毛促進剤において、有効成分であるペプチド化合物の濃度は、剤形、使用する基材などにあわせて適宜設定することができる。たとえば、親水性軟膏の場合、ペプチド化合物の濃度は、5~20mg/gが好ましく、約10mg/gがより好ましい。有効成分であるペプチド化合物の濃度が5mg/gより低いと有意な発毛が見られにくく、20mg/gより高いと発毛誘導された毛髪が早期に脱毛する傾向がある。同様に、水溶液とする場合、ペプチド化合物の濃度は、5~20mg/mlが好ましく、約10mg/mlが好ましい。さらに、乳液とする場合には、ペプチド化合物の濃度は、5~20mg/mlが好ましく、約10mg/mlが好ましい。なお、本発明の発毛促進剤は、親水性軟膏1gに対して11R-VIVITを10mg含むものが最も好ましい。
【0025】
本発明の発毛促進剤の有効成分であるペプチド化合物は、塗布面積当たり、一回塗布量として1.25~5.00μg/mm2が好ましく、約2.5μg/mm2がより好ましい。たとえば、塗布面積100mm2当たり11R-VIVIT量として250μgが最も好ましい。
【0026】
本発明の発毛促進剤は、有効成分である前記ペプチド化合物の他に、適当な薬学的賦形剤、適当な担体、溶媒、ゲル形成剤、酸化防止剤、希釈剤、等張化剤、担体、pH安定剤など本技術分野で通常用いられるほかの成分を添加してもよい。これらの添加剤は、通常当業者により適宜選択され得る。
【0027】
以下、実施例によって、本発明の発毛促進剤をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲に逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1:ヌードマウスにおいて11R-VIVIT塗布がもたらす発毛誘導
まず、11R-VIVITが発毛を誘導できるかを調べた。11R-VIVIT(シグマ ジェノシス ジャパン社(Sigma Genosis Japan,Inc.)に製造依頼)を含有する親水性軟膏を表1に示す組成で調製した。
【0029】
【表1】
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【0030】
1回につき11R-VIVIT量として250μgの親水性軟膏を全身体毛の欠失したヌードマウス(n=10、BALB/c Slc-nu、雄、5週齢、平均体重30g、清水実験材料株式会社より購入)のうち特に毛のない箇所である耳間の頭頂部(約100mm2)に塗布した。これを1日1回、7日間連続塗布した。コントロールとして、親水性軟膏のみを同量塗布した。塗布後7日目に11R-VIVIT塗布群において、明らかな発毛効果が認められた(図1)。さらに発毛効果を顕微鏡下で詳細に検討するために光学顕微鏡と複屈折顕微鏡による発毛評価を行った(図2)。11R-VIVIT塗布により発毛の誘導された皮膚切片を複屈折顕微鏡で観察すると、機能的に分化した(つまり完全に成長した)毛髪1が白く光って見える(図2(d))。この評価方法はすでに確立された手法である(American Journal of Physiology、2003年、第284巻、p.1593-1603参照)。11R-VIVIT投与群ならびにコントロール群各10匹ずつの組織切片を作製し、各切片中の複屈折を示す毛髪を有する毛包の数を測定した。
【0031】
結果を図3に示す。複屈折顕微鏡にて観察すると、11R-VIVIT投与群においてコントロール群と比較して有意な発毛効果が認められた。(図2および3)。
【0032】
実施例2:11R-VIVITが発毛を誘導するメカニズム
ケラチノサイトの基本培地としては、EpiLife(登録商標)(M-EPI-500-CA;カスケードバイオロジクス(Cascade Biologics)社製)500mlに、正常ヒト表皮角化細胞用添加剤(カスケードバイオロジクス社製、EDGS(S-012-5))5mlおよび、ゲンタマイシンおよびアンフォテリシンBを含む混合抗菌剤である抗菌剤GA溶液(カスケードバイオロジクス社製、R-015-10)1mlを添加した培地を使用した。
【0033】
(1)毛包内ケラチノサイトの増殖
毛髪の成長には、毛包内ケラチノサイト(角化細胞)の増殖が重要であることは、前述のGafter-Gviliらの論文で指摘されている。そこで本発明者らは、11R-VIVIT投与によってケラチノサイトの増殖が誘導されるかどうかを、WST-1アッセイにより評価した。培養には株化ケラチノサイトのPHK細胞(細胞バンク、Health Science Research Resources Bank:HSRRBより入手、資源名:PHK16-0b、資源番号:JCRB0141)を用いた。96ウェルプレートで60%コンフルエントにまでPHK細胞を基本培地中で培養し、その後、11R-VIVIT(3μM)、CsA(1μM)またはネガティブコントロールとしてカルシウム(1mM)を添加した基本培地中で24時間培養した。コントロールは基本培地のみで同様に24時間培養した。各薬剤の添加前(0時間)および添加後24時間の細胞の生存率を測定した。
【0034】
その結果を図4に示す。コントロールに比べて11R-VIVIT含有培地で培養したケラチノサイトが有意に増殖した。
【0035】
(2)ケラチノサイト内のNFATの局在
さらにCaN/NFAT経路阻害剤である11R-VIVITの投与に応答してケラチノサイト内のNFATの局在がどのように変化しているのかを見るために、蛍光タンパク質GFPをN末端につけたNFATをリポフェクタミン法でケラチノサイト内に導入して24時間培養し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した(図5(a))。その後、同一細胞を11R-VIVITを3μMの濃度で含む基本培地にて6時間培養した。11R-VIVIT投与前のコントロールのケラチノサイト内ではNFATが幾分核内に存在していた(図5(a))のに対して、11R-VIVIT含有培地下で培養した後のケラチノサイト内ではNFATは完全に核外に存在していた(図5(b))。
【0036】
11R-VIVITによりNFATの核内移行が阻害されたことから、ケラチノサイト内でNFATによって転写調節を受ける何らかの遺伝子の存在を予想した上で、全遺伝子発現の増減を数値化して示すマイクロアレイ法を行った。11R-VIVIT(3μM)またはCsA(1μM)を含む基本培地で12時間培養し、その後PHK細胞の全mRNAを抽出し、マイクロアレイ法にて解析した。CaN/NFAT経路とPHK細胞増殖の関係を評価するため、両薬剤で変動した細胞周期に関する遺伝子を表2に示す。
【0037】
【表2】
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【0038】
また、図6に示すように、11R-VIVITにより転写が2倍以上低下した遺伝子群は74個あり、CsAにより転写が2倍以上低下した遺伝子群は173個あった。双方に共通して転写が2倍以上低下した遺伝子は24個あり、そのうち細胞周期に関するものは、サイクリンG2のみで、11R-VIVITでは3.30倍、CsAでは2.79倍転写量が低下した。
【0039】
PHK細胞内での新しいNFATの標的として同定したサイクリンG2は、Horne MCらがJournal of Biological Chemistry(272巻、12650~12661頁、1997年)で報告したとおり、一般的に細胞周期の停止に関係していると考えられており、11R-VIVITの投与によってサイクリンG2の発現が低下することで、細胞周期の停止が抑制され、ケラチノサイトの増殖につながったものと考えられる。11R-VIVIT投与後のサイクリンG2の発現量低下は細胞周期のマーカーであるp21とともにウェスタンブロッティング法により確かめられた(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の発毛促進剤は、既存の免疫抑制剤と異なり、CaNの酵素活性そのものを抑制することなくCaN/NFAT経路を特異的に阻害するため、副作用が少ない。また、細胞膜透過性を有するペプチドであるため皮膚から直接作用させることができ、薬剤を塗布した部位のみに局所的に強力な発毛を誘導することができる。
【0041】
本発明の発毛促進剤は、発毛サイクルのメカニズムそのものに基づく発毛作用が確認されたため、従来の他剤にはない、根拠に基づいた医療(EBM)に即した発毛剤として応用することが可能である。
【0042】
また、本発明の発毛促進剤による局所的発毛誘導は、その基礎研究的興味のみならず、広く発毛研究のモデルとして臨床的にあるいは一般治療薬として使用することができる。
【0043】
さらに、本発明の発毛促進剤は、毛包内ケラチノサイトに対して直接増殖させる作用を有するため、毛周期を成長期に移行させるだけでなく、細く弱った毛髪も強い毛髪へと変化させることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7