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明細書 :生体物質吸着剤及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4378529号 (P4378529)
公開番号 特開2006-081759 (P2006-081759A)
登録日 平成21年10月2日(2009.10.2)
発行日 平成21年12月9日(2009.12.9)
公開日 平成18年3月30日(2006.3.30)
発明の名称または考案の名称 生体物質吸着剤及びその製造方法
国際特許分類 A61M   1/36        (2006.01)
A61K  35/14        (2006.01)
A61P   7/08        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
B01J  20/04        (2006.01)
FI A61M 1/36 545
A61K 35/14 Z
A61P 7/08
A61P 13/12
B01J 20/04 C
請求項の数または発明の数 13
全頁数 14
出願番号 特願2004-270086 (P2004-270086)
出願日 平成16年9月16日(2004.9.16)
審査請求日 平成19年8月28日(2007.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】早川 聡
【氏名】都留 寛治
【氏名】尾坂 明義
個別代理人の代理人 【識別番号】100113181、【弁理士】、【氏名又は名称】中務 茂樹
【識別番号】100114535、【弁理士】、【氏名又は名称】森 寿夫
【識別番号】100075960、【弁理士】、【氏名又は名称】森 廣三郎
審査官 【審査官】内山 隆史
参考文献・文献 特開昭63-015961(JP,A)
特開平01-171567(JP,A)
特開平03-063563(JP,A)
特開平11-262658(JP,A)
特開昭62-253074(JP,A)
特開平04-244231(JP,A)
特開昭63-248437(JP,A)
調査した分野 A61M1/00-1/36
A61K35/14,B01J20/04
A61P7/08,13/12
特許請求の範囲 【請求項1】
亜鉛~20重量%含有するとともに、カルシウムの一部が亜鉛に置換されることによってヒドロキシアパタイトの結晶構造の中に亜鉛が取り込まれた水酸化リン酸カルシウムからなる生体物質吸着剤。
【請求項2】
カルシウムと亜鉛の合計モル数に対するリンのモル数の比[(Ca+Zn)/P]が1.3~1.55である請求項記載の生体物質吸着剤。
【請求項3】
比表面積が80m/g以上である請求項1又は2記載の生体物質吸着剤。
【請求項4】
単位重量当たりのβ-ミクログロブリン吸着量が200μg/g以上である請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤。
【請求項5】
単位重量当たりのアルブミン吸着量が30mg/g以下である請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤。
【請求項6】
血液又は血漿を浄化するための吸着剤である請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤。
【請求項7】
β-ミクログロブリン吸着剤である請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤を用いた吸着手段を組み込んでなる透析装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤を充填してなる生体物質分離用カラム。
【請求項10】
カルシウムイオン及び亜鉛イオンを含有する水溶液(A)と、リン酸イオンを含有する水溶液(B)とを混合して、カルシウムの一部が亜鉛に置換されることによってヒドロキシアパタイトの結晶構造の中に亜鉛が取り込まれた水酸化リン酸カルシウムからなる固形分を生成させる請求項1~のいずれか記載の生体物質吸着剤の製造方法。
【請求項11】
水溶液(A)がカルシウムの硝酸塩と亜鉛の硝酸塩とを含有する請求項10記載の生体物質吸着剤の製造方法。
【請求項12】
水溶液(A)のpHが4.5~7である請求項10又は11記載の生体物質吸着剤の製造方法。
【請求項13】
水溶液(B)のpHが8~12である請求項10~12のいずれか記載の生体物質吸着剤の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質、特にβ-ミクログロブリンなどのタンパク質を吸着する生体物質吸着剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国には既に20万人弱の慢性腎不全症の患者があり、今後急速に高齢化の進むなか更に患者が増加することは確実である。このように多数の慢性腎不全症患者があるにも拘わらず、根本的治療法はなく、延命を目的とした対症療法の血液透析療法しかないのが現状である。血液透析療法としては、セルロース系天然高分子物質、あるいはポリスルホンやポリメタクリル酸メチルなどの合成高分子物質を素材にした中空糸膜型人工腎臓を使用して患者の血液中に産生、蓄積された尿毒症関連物質などの有害物質を除去するのが一般的である。透析膜壁には直径10~100nm程度の微細孔が貫通するように作製されており、この孔から有害物質は浸透圧差によって血液側から透析液に移行する。しかし、膜壁の貫通孔の物質透過性には上限があり、通常、膜の性能評価法の上限としてアルブミン(分子量:66000)の透過阻止率が99.5%程度になるように設計されている。しかも、その孔の直径を均一に作製することは技術的に極めて困難であり、ある程度の分布を持つことは避けられない。従って、アルブミンの阻止率を100%にすると低分子領域の物質透過性も低下する。
【0003】
一方、透析治療の治療技術などの向上によって患者の延命率が向上し、透析治療年数も延長している。そのために、多くの合併症も認められるようになった。それらのうち、特に殆どの患者に皮膚のアミロイドシス症に関連した掻痒感、骨痛、関節痛、毛根管症候群などの多彩な合併症が認められるようになるが、その原因は患者の血液中のβ-ミクログロブリン(β-MG、分子量:12000)が異常産生され、それが体内の各組織に沈着することによるとされている。現在、透析膜の厚さを薄膜化して、この物質の除去率を向上させようという試みもなされているが、薄膜化することによる膜の強度低下、透析液側からの発熱性物質のバックフィルトレーションなどの負の効果もあり、透析膜での患者の血液中のβ-MGを充分に除去することは限界に達している。
【0004】
このように現在の透析膜による治療法では充分に除去できないβ-MGを何らかの方法で除去しない限り、透析合併症の患者は増加の一途を辿るおそれがある。その対策の一つとして吸着剤によるβ-MGの除去療法がある。吸着による病因物質の選択的除去法は既に確立した治療法であり、高脂血症、重症筋無力症、高ビリルビン血症などの患者に対してそれぞれ適切な吸着剤を使用することによって優れた臨床成績が得られている。しかし、これらは何れも血液を一旦、有形成分(赤血球、白血球、血小板)と血漿とに分離して、血漿中の病因物質を選択的に吸着除去するプラズマ灌流法(Plasma Perfusion)である。
【0005】
血液中のβ-MGを除去するための吸着剤として水酸化リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)を使用することについては、特許文献1~5などに記載されている。これらの特許文献においては様々な形態のヒドロキシアパタイトを使用することによって、β-MGが除去できることが記載されている。しかしながら、血液中の有用成分(例えばアルブミン)の吸着を抑えながら病因物質であるβ-MGを選択的に除去するのは困難であった。
【0006】
これに対し、特許文献6あるいは非特許文献1に記載されているように炭酸根が導入されてなる水酸化リン酸カルシウムを使用することによって、アルブミンの吸着量を抑制しながらβ-MGを選択的に吸着させることが可能になった。しかしながら、それでもなお選択性は必ずしも十分ではなかった。
【0007】

【特許文献1】特開昭63-15960号公報
【特許文献2】特開昭63-15961号公報
【特許文献3】特開平2-180273号公報
【特許文献4】特開平6-262065号公報
【特許文献5】特開平7-88361号公報
【特許文献6】特開2003-126248号公報
【非特許文献1】“Journal of Biomedical Materials Research”,Wiley Periodicals, Inc.,2004年4月6日、69A、p.544-551
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、生体物質を選択的に吸着することのできる吸着剤及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、亜鉛~20重量%含有するとともに、カルシウムの一部が亜鉛に置換されることによってヒドロキシアパタイトの結晶構造の中に亜鉛が取り込まれた水酸化リン酸カルシウムからなる生体物質吸着剤を提供することによって解決されるこのとき、カルシウムと亜鉛の合計モル数に対するリンのモル数の比[(Ca+Zn)/P]が1.3~1.55であること好適である。
【0011】
本発明の生体物質吸着剤において、比表面積が80m/g以上であることが好適である。また、単位重量当たりのβ-ミクログロブリン吸着量が200μg/g以上であること、単位重量当たりのアルブミン吸着量が30mg/g以下であることが、いずれも好適である。
【0012】
本発明の生体物質吸着剤の好適な実施態様として、血液又は血漿を浄化するための吸着剤、及びβ-ミクログロブリン吸着剤が挙げられる。上記生体物質吸着剤を用いた吸着手段を組み込んでなる透析装置も好適な実施態様である。また、上記生体物質吸着剤を充填してなる生体物質分離用カラムも好適な実施態様である。
【0013】
本発明の生体物質吸着剤の好適な製造方法は、カルシウムイオン及び亜鉛イオンを含有する水溶液(A)と、リン酸イオンを含有する水溶液(B)とを混合して、カルシウムの一部が亜鉛に置換されることによってヒドロキシアパタイトの結晶構造の中に亜鉛が取り込まれた水酸化リン酸カルシウムからなる固形分を生成させる方法である。このとき、水溶液(A)がカルシウムの硝酸塩と亜鉛の硝酸塩とを含有することが好適である。水溶液(A)のpHが4.5~7であることも好適である。また、水溶液(B)のpHが8~12であることも好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生体物質吸着剤は、生体適合性に優れており、タンパク質等の生体物質を選択的に吸着することができる。特に、血液又は血漿中の有用タンパク質を吸着することなく、β-ミクログロブリン等の病因物質を選択的に吸着除去することができ、しかも血液適合性にも優れているので、血液透析療法を受けている患者の血液中に蓄積した病因物質を除去するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の生体物質吸着剤は、カルシウム以外の金属(M)を0.01~20重量%含有する水酸化リン酸カルシウムからなるものである。水酸化リン酸カルシウムは、ヒドロキシアパタイト構造を有するものであることが好ましく、当該構造を有するものであることはX線回折ピークによって確認できる。ヒドロキシアパタイトは生体適合性、特に血液適合性に優れている。
【0016】
カルシウム以外の金属(M)を含有することによって、タンパク質等の生体物質を吸着する際の選択性が大きく向上する。特に、血液透析療法を受けている患者の血液中に蓄積した病因物質であるβ-MGを効率的に吸着しながら、血液中の有用物質であるアルブミンの吸着を抑制することが可能になる。カルシウム以外の金属(M)の存在によって選択性が大きく向上する理由は必ずしも明らかではないが、カルシウムとは異なる金属の存在によって、水酸化リン酸カルシウム粒子の表面の電荷分布が変化して選択性の発現に寄与していることが推定される。
【0017】
カルシウム以外の金属(M)としては、特に限定されるものではないが、生体に対する安全性、化学反応性、入手のし易さなどを考慮すれば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀及びタンタルが好適なものとして例示される。なかでも、生体に対する安全性が比較的高く、2価の陽イオンになりやすくてカルシウムと置換されやすい点から、亜鉛が特に好ましい金属として挙げられる。金属(M)として複数種の金属を組み合わせて使用しても構わない。
【0018】
カルシウム以外の金属(M)の好適な含有量は0.01~20重量%である。後に説明する実施例に示されているように、β-MGの吸着量の増大という観点からは、より好適には0.1重量%以上、さらに好適には0.5重量%以上であり、特に好適には2重量%以上である。一方、アルブミンの吸着量の低減という観点からは、金属(M)の含有量はさらに高いほうが好ましく、より好適には3重量%以上であり、さらに好適には4重量%以上である。一方、金属(M)の含有量が20重量%を超えると、ヒドロキシアパタイトの結晶構造の中に金属(M)を取り込むことが困難になる。金属(M)の含有量は、より好適には15重量%以下であり、さらに好適には10重量%以下である。但し、生体物質が吸着されるのは、水酸化リン酸カルシウムの表面であるから、表面にカルシウム以外の金属(M)を偏在させる場合には、金属(M)の含有量が少なくても本発明の効果を効率的に奏する場合もある。
【0019】
またこのとき、カルシウムと金属(M)の合計モル数に対するリンのモル数の比[(Ca+M)/P]が1.3~1.55であることが好ましい。ヒドロキシアパタイトを構成する水酸化リン酸カルシウムの理論的な化学式はCa10(PO(OH)で示され、そのカルシウムとリンのモル比[Ca/P]は1.67である。これに対し、いわゆるカルシウム欠損型の化学組成になることが好ましい。金属(M)の含有量が高いほど、比[(Ca+M)/P]の値が小さくなる傾向が認められ、比[(Ca+M)/P]が小さくなるほど、タンパク質等の吸着の選択性が向上する。比[(Ca+M)/P]はより好適には1.5以下である。一方、比[(Ca+M)/P]が小さすぎる場合には、ヒドロキシアパタイトの結晶構造を維持することが困難になりやすく、比[(Ca+M)/P]はより好適には1.4以上である。
【0020】
以上のように、カルシウム以外の金属(M)の含有量が上昇し、同時に比[(Ca+M)/P]が小さくなることによって、タンパク質等の吸着の選択性が大きく向上した。この効果は、水酸化リン酸カルシウムが金属(M)を含有することによって奏されるものであるとともに、カルシウム欠損型の化学組成になることによっても奏されるものであると考えられる。
【0021】
したがって、本発明の生体物質吸着剤の別の態様は、カルシウムのモル数に対するリンのモル数の比[Ca/P]が1.3~1.55である水酸化リン酸カルシウムからなるものである。すなわち、カルシウム欠損型の化学組成であることによってタンパク質等の吸着の選択性が向上する。比[Ca/P]が小さくなるほど、タンパク質等の吸着の選択性が向上する。比[Ca/P]はより好適には1.5以下である。一方、比[Ca/P]が小さすぎる場合には、ヒドロキシアパタイトの結晶構造を維持することが困難になりやすく、比[Ca/P]はより好適には1.4以上である。
【0022】
以上のように、水酸化リン酸カルシウムがカルシウム以外の金属(M)を含有するか、あるいはカルシウム欠損型の化学組成になることによって、生体物質の吸着の選択性が向上する。これらの態様はいずれも独立に本発明の効果を奏するとともに、両者が相乗的に効果を奏すると考えられる。
【0023】
以上説明したような本発明の水酸化リン酸カルシウムの結晶子径は35nm以下であることが好ましい。本発明においては、金属(M)の含有量が高いほど、比[(Ca+M)/P]の値が小さくなる傾向が認められ、このとき、結晶子径も小さくなっていく傾向が認められている。結晶子径が小さいことも生体物質の吸着の選択性の向上に寄与していると考えられ、この小さい結晶子(一次粒子)が無秩序に凝集した二次粒子を形成するのが好ましいようである。このとき、結晶子径はより好適には30nm以下であり、さらに好適には25nm以下である。また、ヒドロキシアパタイトとしての効果を奏するためには、結晶子径は通常10nm以上である。
【0024】
また、吸着効率を向上させるためには、比表面積が80m/g以上であることが好ましい。上述のように、結晶子径の小さい水酸化リン酸カルシウム粒子とすることによって比表面積の大きな粒子が容易に得られる。比表面積はより好適には120m/g以上であり、さらに好適には150m/g以上である。比表面積は通常500m/g以下である。
【0025】
本発明の生体物質吸着剤の単位重量当たりのβ-MG吸着量が200μg/g以上であることが好ましい。本発明の生体物質吸着剤は、従来のヒドロキシアパタイトに比べて多くのβ-MGを吸着することができる。β-MG吸着量は、より好適には250μg/g以上であり、さらに好適には300μg/g以上である。本発明の生体物質吸着剤においては、カルシウム以外の金属(M)の含有量が上昇するほど、また、カルシウムの欠損の程度が顕著になるほどβ-MG吸着量は上昇する傾向が認められた。
【0026】
また、本発明の生体物質吸着剤の単位重量当たりのアルブミン吸着量が30mg/g以下であることが好ましい。本発明の生体物質吸着剤は、従来のヒドロキシアパタイトに比べてアルブミンの吸着を抑制することができる。アルブミン吸着量は、より好適には20mg/g以下であり、さらに好適には10mg/g以下である。本発明の生体物質吸着剤においては、カルシウム以外の金属(M)の含有量が上昇するにしたがって、いったんアルブミン吸着量が上昇するが、一定量以上の金属(M)の含有量では、アルブミン吸着量が非常に低い値をとることがわかった。この場合、アルブミンの吸着を抑制しながら効率的にβ-MGを吸着することができ、高度な選択性を達成することが可能になる。
【0027】
上記β-MG吸着量(μg/g)及びアルブミン吸着量(mg/g)は、濃度2.0mg/dLのβ-MGと濃度3.5g/dLのアルブミンの両方を含有する生理食塩水2mL中で、0.1gの水酸化リン酸カルシウム試料が吸着するβ-MG及びアルブミンの重量を10倍することによってそれぞれ得られるものである。
【0028】
本発明の生体物質吸着剤の製造方法は特に限定されない。好適な方法として、カルシウムイオン及びカルシウム以外の金属(M)のイオンを含有する水溶液(A)と、リン酸イオンを含有する水溶液(B)とを混合して、水酸化リン酸カルシウムからなる固形分を生成させる方法が挙げられる。この方法によれば、カルシウムイオン及びカルシウム以外の金属(M)のイオンの両方を取り込みながらヒドロキシアパタイト型格子構造を有する水酸化リン酸カルシウムを形成することが容易である。
【0029】
水溶液(A)が含有するカルシウム塩は、水に溶解するものであれば特に限定されず、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウムなどを使用することができるが、塩の溶解度や得られる水溶液(A)のpH等を考慮すれば、硝酸カルシウムが好適に使用される。また、水溶液(A)が含有する金属(M)の塩も特に限定されず、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物などを使用することができるが、塩の溶解度や得られる水溶液(A)のpH等を考慮すれば、硝酸塩が好適に使用される。すなわち、水溶液(A)がカルシウムの硝酸塩と金属(M)の硝酸塩とを含有することが特に好適である。
【0030】
水溶液(A)中のカルシウム塩の含有量は0.01~1mol/Lであることが好ましく、0.1~0.8mol/Lであることがより好ましい。水溶液(A)中の金属(M)の塩の含有量は0.002~0.16mol/Lであることが好ましく、0.02mol/L以上であることがより好ましく、0.03mol/L以上であることがさらに好ましい。また、水溶液(A)のpHは4.5~7であることが好適である。比較的低いpHとすることによって、比表面積の大きい粒子を形成することが容易である。水溶液(A)のpHはより好適には5以上である。また水溶液(A)のpHはより好適には6以下である。ここでのpHは、60℃で測定した値である。
【0031】
水溶液(B)が含有するリン酸塩は、水に溶解するものであれば特に限定されない。アニオン種はリン酸アニオン(PO3-)、リン酸水素アニオン(HPO2-)、リン酸二水素アニオン(HPO)のいずれの形で含まれていても構わない。そのカチオン種も特に限定されず、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを使用することができるが、生成する水酸化リン酸カルシウム内への金属元素の混入を防止できるアンモニウム塩が好適に使用される。このとき、リン酸(オルトリン酸:HPO)とアンモニア水とを混合することによって、アンモニウム塩が溶解した水溶液を調整しても構わない。
【0032】
水溶液(B)中のリン酸塩の含有量は0.01~0.5mol/Lであることが好ましい。また、水溶液(B)のpHは8~12であることが好適である。比較的高いpHとすることによって、比表面積の大きい粒子を形成することが容易である。水溶液(B)のpHはより好適には9以上である。また水溶液(A)のpHはより好適には11以下である。水溶液(B)のpHを調整するために、アンモニアを添加することが好ましい。ここでのpHは、室温で測定した値である。
【0033】
水溶液(A)と水溶液(B)を混合する方法としては、水溶液(A)の中に水溶液(B)を添加する方法と、水溶液(B)の中に水溶液(A)を添加する方法のいずれも採用できるが、混合操作中のpH変動を抑制するためには水溶液(A)の中に水溶液(B)を添加する方法が望ましい。混合に際しては十分に撹拌しながら徐々に配合するのが好ましい。混合時の温度は15~100℃であることが好ましい。特に、カルシウム以外の金属(M)の含有量を大きくしたい場合には温度を高くするほうが好ましく、より好適には30℃以上、さらに好適には50℃以上である。発明者らが室温で混合した場合には、金属(M)として亜鉛を導入しようとした際に、1重量%以上の量を含有させることが困難であった。
【0034】
水溶液(A)と水溶液(B)とを混合した後の混合液のpHは、通常、4~12の範囲の値をとるが、低めのpHの値とするほうが、比表面積の大きな、生体物質の吸着の選択性の良好な生体物質吸着剤を得ることができる。したがって、混合液のpHは、より好適には7以下である。ここでのpHは、60℃で測定した値である。
【0035】
上述のように、水溶液(A)と水溶液(B)とを混合する方法以外にも、カルシウムイオンを含有する水溶液と、リン酸イオンを含有する水溶液とを混合して、水酸化リン酸カルシウムからなる固形分を生成させる操作の途中で、金属(M)のイオンを含有する水溶液(A)を添加する方法も採用できる。この場合、直接生体成分が吸着される表面層のみに金属(M)元素を偏在させた粒子を製造することができる。
【0036】
こうして混合操作が終わった後にも撹拌を継続することによって、生成したヒドロキシアパタイト結晶を熟成することができる。このときの温度としては、混合する際の温度と同程度の温度が採用でき、撹拌時間は通常1~168時間程度である。得られた固形分は、濾別、遠心分離などの操作によって水溶液から分離され、適宜、洗浄操作や乾燥操作が施される。更に熱処理を施すことによってヒドロキシアパタイト結晶を成長させることもできる。
【0037】
本発明の生体物質吸着剤が吸着すべき対象物は生体物質であれば良く、水中に溶解した物質のみならず、ウイルスや細菌を吸着するものであっても良い。生体物質のなかでも、タンパク質が好適に吸着され、比較的分子量の小さいタンパク質、例えば分子量が20000以下の水溶性タンパク質を吸着するのに特に適している。
【0038】
本発明の生体物質吸着剤の特に好適な用途は、血液又は血漿を浄化するための吸着剤である。血液中の生体物質を直接吸着しても構わないし、一旦血漿を分離してその血漿中の生体物質を吸着しても構わない。本発明の生体物質吸着剤を構成する水酸化リン酸カルシウムは、生体親和性に優れ、血液適合性にも優れているので、このような用途に適している。なかでも、β-MG吸着剤とすることが特に好適である。本発明の生体物質吸着剤によれば、透析治療を受けている患者の血液中に蓄積するβ-MGを効率的に除去しながら、アルブミンなどの有用タンパク質の損失を最低限に抑えることができる。これによって、皮膚掻痒症、骨痛、関節痛、毛根管症候群などの透析治療に伴う合併症の発生を抑制できる。
【0039】
血液又は血漿を浄化するための吸着剤として使用する際には、本発明の生体物質吸着剤を用いた吸着手段を組み込んでなる透析装置とすることが好適である。透析装置に組み込むことによって、患者に負担を少なくしながら効率的にβ-MGなどの病因物質を除去することができる。組み込み方は特に限定されず、カラムなどの容器に充填しても良いし、各種担体に担持させても良い。
【0040】
また、本発明の生体物質吸着剤を充填してなる生体物質分離用カラムも、本発明の好適な実施態様である。当該分離用カラムは前述のように透析装置に組み込んで使用することもできるが、アフィニティークロマトグラフィーなどの分析機器に組み込まれる分離用カラムとしても好適に使用される。この場合、特定の低分子量タンパク質に対する高選択的吸着特性を生かして、特にタンパク質の分離用カラムとして好適に使用される。
【0041】
本発明の生体物質吸着剤の使用形態については粉末状態に限られず、バインダーなどを用いて、本発明の吸着剤をペレット等の形状に加工したものを用いても構わない。また、ビーズ状、棒状、繊維状、不織布状、ワイヤー状、コイル状などの種々の形態に成形されたプラスチック、金属あるいはセラミックス基材などに被覆することも可能である。また、ウイルスや細菌などの吸着特性等も期待されることから、マスク用不織布内に吸着剤としての利用や、換気扇、空気清浄機用のフィルターへの応用、ウイルスや細菌の診断・検査・回収用材料としても有望である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
・水酸化リン酸カルシウムの合成:
本発明に係るリン酸カルシウムセラミックを以下の(1)~(5)の手順により合成した。
(1)窒素ガスを3.0L/分で30分間流通して溶存酸素と溶存炭酸ガスを除去した200mLの蒸留水に、23gの硝酸カルシウム・4水和物(Ca(NO/4HO)を投入して撹拌して溶解させ、0.5mol/Lの硝酸カルシウム水溶液を調製した。この水溶液に、硝酸亜鉛の濃度が0~0.048mol/Lになるように、硝酸亜鉛・6水和物(Zn(NO/6HO)を溶解させ、9種類の硝酸亜鉛濃度を有する60℃の水溶液をそれぞれ得た。得られた水溶液のpHは、硝酸亜鉛の濃度が0mol/Lのときに6であり、硝酸亜鉛の濃度が0.048mol/Lのときに5であり、その中間の濃度ではそれらの中間的なpHの値を示した。
(2)窒素ガスを3.0L/分で30分間流通して溶存酸素と溶存炭酸ガスを除去した200mLの蒸留水に7.9gのリン酸水素二アンモニウム((NHHPO)を溶解して0.3mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液を調製した。この水溶液に対し、28重量%アンモニア水を添加して、pHが10に調整された室温の水溶液を得た。
(3)送液ポンプを用いて、3.0mL/分の流速で(2)で得られたリン酸塩含有水溶液を、(1)で得られた亜鉛イオン濃度の異なる硝酸カルシウム水溶液に添加して、温度を60℃に保ちながら撹拌して混合した。硝酸亜鉛を0.048mol/L含有するときの混合液のpHは5.4であった。
(4)得られた混合溶液は、60℃で24時間撹拌して熟成した。こうして生成した固形分を遠心分離器で分離し、上澄み液を捨て、蒸留水を加えて撹拌して洗浄した後、再び遠心分離した。この洗浄操作を3回繰り返して行った。
(5)得られた固形分を105℃にて24時間乾燥した。乾燥後、アルミナ製乳鉢で粉砕し得られた粉末を分析及び吸着実験用の試料とした。
【0044】
以上のようにして得られた9種類の水酸化リン酸カルシウム試料につき、化学組成、結晶子径及び比表面積について表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】
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【0046】
亜鉛、カルシウム及びリンの含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析によって求めた。亜鉛含有量の異なる水酸化リン酸カルシウムについて、X線回折測定した結果を図1に示す。図1からわかるように、X線回折パターンは全てヒドロキシアパタイトに帰属され、回折ピーク幅は、亜鉛含有量の増加に伴い増加した。(002)面の回折に帰属されるピークの半値幅から算出された結晶子径と亜鉛含有量との関係を図2に示す。亜鉛含有量が増加するにつれて、結晶子径は42nmから16nmに低下した。また、比表面積は、島津製作所製「GEMINI2370 Micromeritics」を用いて、液体窒素温度における窒素吸着等温線を測定し、BET法により算出した。亜鉛含有量が増加するにつれて、比表面積は57m/gから202m/gに増加した。さらに、透過型電子顕微鏡により水酸化リン酸カルシウム粒子の大きさと形態の観察も行った。その結果を図3に示す。亜鉛含有量が大きくなるにつれて結晶サイズが小さくなっていることがわかる。
【0047】
・アルブミン及びβ-MGの吸着性評価
濃度4.0mg/dLのβ-MGと濃度7.0g/dLの牛血清アルブミン(BSA)を含有する生理食塩水1mL(液1)と、0.1gの水酸化リン酸カルシウム試料を含有する生理食塩水1mL(液2)を混合して、濃度2.0mg/dLのβ-MGと、濃度3.5g/dLの牛血清アルブミンと、水酸化リン酸カルシウム試料0.1gとを含有する2mLの混合液を作製した。こうして得られた混合液を37°Cに保持した湯浴中で6時間振とうしてから、孔径0.45μmのセルロースアセテートフィルターに通して水酸化リン酸カルシウムを濾別し、評価用水溶液(6時間)を得た。また、ブランク試験用として、上記(液1)1mLと、水酸化リン酸カルシウム試料を含有しない生理食塩水1mLとを混合して、濃度2.0mg/dLのβ-MGと、濃度3.5g/dLの牛血清アルブミンを含有する2mLのブランク水溶液(0分)を作製した。こうして得られたブランク水溶液(0分)を37°Cに保持した湯浴中で6時間振とうして、ブランク水溶液(6時間)を得た。こうして得られた評価用水溶液(6時間)及びブランク水溶液(0分)中のβ-MG及びBSAを定量することによって、それらの吸着量を求めた。
【0048】
β-MGの定量には、三洋化成工業(株)製「グラザイムβ-Microgloburin - EIA TEST」を用いた。試料の水溶液を、酵素免疫測定法(Enzyme immuno assay;EIA法)により発色させ、波長492nmの吸光度を調べ、検量線からβ-MG濃度を算出した。β-MG吸着量は、ブランク水溶液(0分)とブランク水溶液(6時間)との間でβ-MGの濃度差がないことを確認した後、評価用水溶液(6時間)のβ-MG濃度と、ブランク水溶液(0分)のβ-MG濃度の差から求めた。BSAの定量には、和光純薬工業(株)製「アルブミンB-テストワコー」を用いた。試料の水溶液を、ブロムクレゾールグリーン法(Bromcresol green assay;BCG法)により発色させ、波長630nmの吸光度を調べ、検量線からBSA濃度を算出した。BSA吸着量は、ブランク水溶液(0分)とブランク水溶液(6時間)との間でBSAの濃度差がないことを確認した後、評価用水溶液(6時間)のBSA濃度と、ブランク水溶液(0分)のBSA濃度の差から求めた。実験は、同一試料について3回繰り返し(n=3)、平均値および標準偏差を求めた。吸光度の測定には、島津製作所製紫外可視分光光度計「UV-2550」を用いた。
【0049】
また、それぞれのタンパク質溶液中で吸着されて除去されたβ-MG及びアルブミンの割合をそれぞれの吸着率(%)として求めた。そして、アルブミンの吸着率に対するβ-MGの吸着率の比を選択性として得た。β-MG吸着量、β-MG吸着率、アルブミン吸着量、アルブミン吸着率及び選択性を表2にまとめて示す。また、β-MG吸着率及びアルブミン吸着率を亜鉛含有量に対してプロットしたグラフを図4に示す。
【0050】
【表2】
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【0051】
選択的血液吸着剤に要求される物性は、血液中の有用成分の吸着量が可能な限り微量であり、標的となる病因物質を効率的に除去することである。上記試験では、血液中の数多くの有用物質のうちから、透析膜の評価でも使用されるアルブミンを選んで、病因物質であるβ-MGとともにその吸着率を評価した。図4から明らかなように、従来のヒドロキシアパタイト(亜鉛含有量0重量%)と比較して、亜鉛を含有する水酸化リン酸カルシウムでは、亜鉛含有量が2重量%までは、アルブミンの吸着率は、わずかに増加するが、2重量%を超えると顕著に低下した。その結果、臨床的には望むべき方向に改善されることが確認された。このわずかなアルブミン吸着率の増加の原因は明らかではないが、透過型電子顕微鏡観察によると、この亜鉛含有量が2重量%付近でのみ、針状と粒状の二種類の形態の異なるアパタイト粒子が確認されたことから、結晶形態の違いの影響があると考えられる。更に、本発明の主目的であるβ-MGの吸着率は、亜鉛含有量が増加するにしたがって顕著に90%以上にまで向上した。以上のように、理想的な選択的吸着性が発現することが明らかになった。
【0052】
この理由については明らかでないが、ヒドロキシアパタイトの表面に亜鉛イオンがナノレベルで分布することによって、従来のヒドロキシアパタイトと比較してアルブミンと分子末端のカルボシキル基との静電的相互作用が弱まったと考えられる。逆にβ-MGの吸着に対しては有利に働き、その吸着率が向上するという望ましい結果となった。また、ヒドロキシアパタイトの合成時に亜鉛イオンを添加することにより、生成するアパタイトの結晶子径が小さくなると同時に、比表面積が高くなった。これにより、単位重量当たりの有効吸着面積が増大することによって、β-MGの吸着能が向上している。また、透過型電子顕微鏡観察によって観察された結晶形態学的な均質性を考えた場合には亜鉛含有量が2重量%以上になる条件が望ましいと考えられる。
【0053】
前述の特許文献6では、β-MG吸着量が183μg/g、β-MG吸着率が40%以下、アルブミン吸着量が7.5mg/g、アルブミン吸着率が10~20%程度、そして両者の選択性が約1.5倍であった。これに対し、本発明の生体物質吸着剤では、もっとも優秀な結果を与えた試料では、β-MG吸着量が380μg/g以上、β-MG吸着率が90%以上、アルブミン吸着量が2mg/g程度、アルブミン吸着率が数%程度、そして両者の選択性は数十倍以上から数百倍であった。これらを対比すれば、吸着特性が大幅に改善されたことが明らかであり、本発明の生体物質吸着剤が極めて有用であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】亜鉛含有量の異なる水酸化リン酸カルシウムについてのX線回折測定チャートである。
【図2】結晶子径と亜鉛含有量との関係を示したグラフである。
【図3】透過型電子顕微鏡により観察された水酸化リン酸カルシウム粒子の写真である。
【図4】β-MG吸着率及びアルブミン吸着率を亜鉛含有量に対してプロットしたグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図4】
2
【図3】
3