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明細書 :キノン体若しくはキノン体前駆体の毒性に起因する障害に対する予防治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4734560号 (P4734560)
公開番号 特開2006-213629 (P2006-213629A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
公開日 平成18年8月17日(2006.8.17)
発明の名称または考案の名称 キノン体若しくはキノン体前駆体の毒性に起因する障害に対する予防治療剤
国際特許分類 A61K  31/4045      (2006.01)
A61K  31/428       (2006.01)
A61K  31/4745      (2006.01)
A61K  31/48        (2006.01)
A61P  39/02        (2006.01)
FI A61K 31/4045
A61K 31/428
A61K 31/4745
A61K 31/48
A61P 39/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 9
出願番号 特願2005-027094 (P2005-027094)
出願日 平成17年2月2日(2005.2.2)
審査請求日 平成19年12月7日(2007.12.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】浅沼 幹人
【氏名】宮崎 育子
【氏名】小川 紀雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100129160、【弁理士】、【氏名又は名称】古館 久丹子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査官 【審査官】宮坂 隆
参考文献・文献 Prog. Med.,Vol.23,pp.2736-41
調査した分野 A61K 31/4045
A61K 31/428
A61K 31/4745
A61K 31/48
A61P 39/02
CAPLUS/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ドパミン受容体作動薬群のうち、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、塩酸ロピニロールおよび塩酸プラミペキソールから選択されるいずれかの化合物を有効成分とする、キノン体またはキノン体前駆体の毒性に起因する脳神経障害、神経細胞障害、および/またはグリア細胞障害に対する予防および/または治療剤
【請求項2】
前記キノン体またはキノン体前駆体が、外来性の薬剤または内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生成される、キノン体あるいはキノン体前駆体である、請求項1に記載の予防および/または治療剤
【請求項3】
ドパミン受容体作動薬群のうち、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、塩酸ロピニロールおよび塩酸プラミペキソールから選択されるいずれかの化合物が、前記キノン体またはキノン体前駆体に作用することを特徴とする、請求項1または2に記載の予防および/または治療剤
【請求項4】
前記キノン体またはキノン体前駆体に作用することが、前記キノン体若しくはキノン体前駆体と機能性蛋白質の結合を抑制することである、請求項3に記載の予防および/または治療剤
【請求項5】
外来性の薬剤が、レボドパである請求項2~のいずれか一に記載の予防および/または治療剤
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性を抑制し、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する疾患や生体に及ぼす悪影響等を予防治療することを特徴とする毒性抑制剤に関する。具体的には、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する脳神経障害および/または細胞障害の予防治療剤に関する。さらには、該予防治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノン体、特にドパミンまたはドパ(レボドパ)の酸化で生成されるドパミンキノンまたはドパキノンにより脳神経障害が惹起されることは知られていたが(非特許文献1)、その治療方法は不明であった。
【0003】
ドパミンキノンまたはドパキノンは、細胞内の機能性蛋白質のシステイン残基に結合することにより、その蛋白の機能を障害することが報告されている(非特許文献2~4)。
【0004】
本発明者らは、ドパミン系培養神経細胞において、ドパミン、ドパから生成されるドパミンキノンまたはドパキノンが、p53細胞誘導、ミトコンドリア膜電位の低下、カスペース-3活性化、DNA断片化を伴うアポトーシス様細胞死を引き起こすこと、さらにこの細胞死はドパミンキノンまたはドパキノンを消去するグルタチオン、スーパーオキシドジスムスターゼにより阻止できるが、キノン消去能をもたないカタラーゼは無効であることを見出し報告した(非特許文献5)。この結果から、ドパミンキノンまたはドパキノン生成により惹起される脳神経障害は、キノン体消去能を有する物質により抑制・阻止できることを示している。
【0005】
このドパミンキノンまたはドパキノン等のキノン体自体に直接結合し、その毒性を消去する物質としては、内在性のグルタチオン(非特許文献6)、スーパーオキシドジスムスターゼ(非特許文献5)、αシヌクレイン(非特許文献7)が知られており、Nアセチルシステイン、ジチオスレイトールやアスコルビン酸もドパミン毒性を消去する可能性が示唆されている(非特許文献8)。ドパミンをグルタチオンあるいはアスコルビン酸とともに脳内投与すると、ドパミンによる脳内でのキノン体生成が抑制できたと報告されている(非特許文献9)。しかし、実験動物レベルでは脳内のドパミンキノンまたはドパキノンの生成あるいはその毒性に対して、これらの物質の末梢投与が抑制効果を示したという報告はない。
【0006】
また、キノン体はドパミンキノン、ドパキノンの他にも、ジヒドロキシフェニール骨格を有する外来性の薬剤あるいは内在性のアミン類、アミノ酸、蛋白質の酸化によっても生成される。キノン体を還元し、無毒化するNAPDHキノンオキシドレダクターゼ(DT-diaphrase)、グルタチオンS転移酵素、スーパーオキシドジスムスターゼなどのキノン消去系酵素の発現を誘導する転写因子にはたらき、これらのキノン消去系酵素の活性を高める試薬として、butylated hydroxyanisole (BHA), dimethyl fumarate(DMF), tert-butylhydroquinone (tBHQ)等が培養細胞レベルでは報告されているが(非特許文献10、11)、直接ドパミンキノンまたはドパキノン自体に結合し消去するものではなく、末梢での毒性や脳内への移行性についても不明であり、末梢投与によりキノン体毒性に対する十分な抑制効果が得られるかは明らかでない。しかも実験動物への末梢投与により脳内でのドパミンキノンまたはドパキノンの生成およびその毒性を抑制するような化合物は知られていない。
【0007】
一方、ドパミン受容体作動薬(ドパミンアゴニスト)のドパミン代謝(不活性体への変換)、抗酸化作用に対する作用として、本発明者らがメシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、カベルゴリンがパーキンソン病モデル動物の脳内線条体でのドパミン代謝亢進に対する抑制能、水酸化ラジカル、一酸化窒素ラジカルといったフリーラジカルに対する消去能、脂質過酸化抑制能を有していること、またカベルゴリン、塩酸ロピロニール投与により線条体のグルタチオン濃度が増加することを報告した(非特許文献12~17)。さらに、ドパミンアゴニストの塩酸プラミペキソールが水酸化ラジカル消去能、脂質過酸化抑制能、グルタチオン、カタラーゼ増加能を有していることも報告されている(非特許文献18~20)。
しかし、パーキンソン病におけるレボドパ投与群で惹起されるドパミンキノンまたはドパキノン等のキノン体生成およびそれによる脳神経障害に対する予防治療剤は知られていない。
【0008】

【非特許文献1】Neurotoxicity Research, 5(3), 165-176, 2003
【非特許文献2】Molecular Pharmacology, 14, 633-643, 1978
【非特許文献3】Biochemical Pharmacology, 31 (18), 2887-2889, 1982
【非特許文献4】Neuropharmacology, 25, 451-454, 1986
【非特許文献5】Biochemica et Biophysica Acta, 1619 (1), 39-52, 2003
【非特許文献6】Journal of Neurochemistry, 73, 2546-2554, 1999
【非特許文献7】Science, 294, 1346-1349, 2001
【非特許文献8】Biochemical Pharmacology, 53 (3), 363-372, 1997
【非特許文献9】Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 93, 1956-61, 1996
【非特許文献10】Journal of Neurochemistry, 86, 143-152, 2003
【非特許文献11】Journal of Biological Chemistry, 278 (7), 4536-4541, 2003
【非特許文献12】Brain Research, 657, 207-213, 1994
【非特許文献13】Archives internationales de Pharmacodynamie et de Therapie, 329 (2), 221-230, 1995
【非特許文献14】Journal of Neurochemistry, 67, 2208-2211, 1996
【非特許文献15】Brain Research, 790, 202-208, 1998
【非特許文献16】Neuroscience Research, 43, 259-267, 2002
【非特許文献17】Brain Research, 838, 51-59, 1999
【非特許文献18】Brain Research, 883, 216-223, 2000
【非特許文献19】Neuroscience Letters, 281, 167-170, 2000
【非特許文献20】Journal of Neural Transmission, 107, 1165-1173, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、外来性の薬剤または内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性、具体的には脳神経障害および/または細胞障害に有効な毒性抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ドパミン受容体作動薬群から選択される化合物が、直接ドパミンキノンまたはドパキノン自体に結合・捕捉し消去する作用を有することを見出し、例えば、レボドパ投与群での脳内キノン体生成による脳神経障害に対して優れた抑制効果を発揮する化合物であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は以下よりなる。
1.キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性を抑制することを特徴とするドパミン受容体作動薬群から選択される化合物を有効成分とする毒性抑制剤。
2.キノン体若しくはキノン体前駆体と機能性蛋白質の結合を抑制し、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性を抑制することを特徴とする前項1に記載の毒性抑制剤。
3.キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性が、脳神経障害および/または細胞障害である前項1または2に記載の毒性抑制剤。
4.ドパミン受容体作動薬群から選択される化合物が、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、塩酸タリペキソール、塩酸ロピニロール、塩酸プラミペキソールのいずれかである前項1~3のいずれか一に記載の毒性抑制剤。
5.キノン体若しくはキノン体前駆体が、外来性の薬剤または内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生成される前項1~4のいずれか一に記載の毒性抑制剤。
6.外来性の薬剤が、レボドパである前項5に記載の毒性抑制剤。
7.キノン体若しくはキノン体前駆体とドパミン受容体作動薬の相互作用をマーカーにする脳神経障害および/または細胞障害の予防治療剤のスクリーニング方法。
8.キノン体若しくはキノン体前駆体とドパミン受容体作動薬の相互作用が、ドパミン受容体作動薬とキノン体若しくはキノン体前駆体との結合である前項7に記載のスクリーニング方法。
9.キノン体若しくはキノン体前駆体の生成を制御する機能をマーカーにする脳神経障害および/または細胞障害の予防治療剤のスクリーニング方法。
10.キノン体若しくはキノン体前駆体の生成を制御する機能マーカーが動物の脳内線条体でのキノプロテイン量である前項9に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のドパミン受容体作動薬群から選択される化合物を有効成分とする薬剤は、外来性の薬剤または内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性を抑制する。キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性の具体例として脳神経障害および/または細胞障害が挙げられる。例えば、パーキンソン病の治療薬として公知のレボドパを投与した患者における脳内キノン体生成による脳神経障害に対して、本発明の薬剤は末梢投与でも脳内に到達することができ、ドパミンキノンまたはドパキノン等のキノン体自体に直接結合することで優れた抑制効果を発揮する。また、外来性のキノン体生成のみならず、内在的に生成されるキノン体に起因する毒性、例えば細胞障害に対しても効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
パーキンソン病におけるレボドパ投与でのキノン体若しくはキノン体前駆体による神経毒性をはじめとする脳神経障害の治療は、問題症状が発現してから治療を開始しているのが現状で、上記障害が発現した直後から予防的に対応をとるのは困難である。レボドパ投与等と併用してあらかじめ末梢投与することにより、脳内キノン体生成による脳神経障害を予防することのできる方策が求められている。
また、問題症状の発現直後から併用を開始することでキノン体生成による脳神経障害の進行を阻止できる治療法も望まれている。
さらに、酸化ストレスが病態に関与する神経疾患・障害では、内在性のアミン類、アミノ酸、蛋白質の酸化によりキノン体が生成され、障害を助長しており、かかる障害を阻止できる予防および/または治療法も望まれている。
【0014】
そこで、本発明はパーキンソン病におけるレボドパ投与等の外来性の薬剤のみならず酸化ストレス等による内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生体内に生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体により生じる毒性、例えば脳神経障害および/または細胞障害に対する治療あるいは予防に関する毒性抑制剤を提供する。
【0015】
本発明において、キノン体若しくはキノン体前駆体とは、外来性の薬剤または内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生体内に生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体をいう。外来性の薬剤により生成するキノン体としてジヒドロフェニール骨格を有する薬剤の投与により生じるキノン体、具体的には、パーキンソン病治療薬として公知のレボドパ製剤の投与により生じるドパミンキノン、ドパキノンが挙げられる。また、酸化ストレスによる内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化過程において一過性にキノン体が生成される。
【0016】
本発明において、キノン体若しくはキノン体前駆体に結合する細胞内の機能性蛋白質として具体的には、αシヌクレイン、チロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase: TH) などが挙げられる。αシヌクレインの凝集や変性は、パーキンソン病やその他の神経疾患に関連するといわれている。また、チロシン水酸化酵素はフェニルアラニンやチロシンからドパを生成する酵素であり、ドパがドパ脱炭酸酵素の働きでドパミンになる。
【0017】
本発明において、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性として、脳神経障害、細胞障害が挙げられる。
ジヒドロフェニール骨格を有する外来性の薬剤、例えばレボドパの投与により生じるドパミンキノン、ドパキノンによる障害は、以下が例示される。
パーキンソン病に対するレボドパの長期投与に伴いWearing-off現象やジスキネジアなどの問題症状が出現する。Wearing-off現象とは、薬物の有効時間が1~3時間に短縮され、薬効が減退することをいう。その原因は、ドパミン神経が変性により脱落し、脳内のレボドパがドパミン神経細胞に保持されることなく、短時間に他の細胞(グリア細胞やセロトニン細胞)のドパ脱炭酸酵素でドパミンに代謝されるためと考えられている。レボドパが短時間に大量のドパミンになり、ドパミン受容体に作用するために、ドパミン作用が過剰になるために不随意運動(ジスキネジア)が生じる。このようなレボドパの長期投与に伴う問題症状出現の原因の一つとして、レボドパ投与によるキノン体若しくはキノン体前駆体生成に起因する毒性が考えられる。本発明において、外来性の薬剤であるレボドパは、レボドパ単剤による場合もあるし、カルビドパとの合剤に含まれる場合もある。
【0018】
内在性のアミン類、アミノ酸、若しくは蛋白質の酸化により生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性として、αシヌクレイン,チロシン水酸化酵素に結合して、細胞障害が惹起されることが考えられる。
【0019】
本発明において、ドパミン受容体作動薬群から選択される化合物として、麦角アルカロイド誘導体および非麦角アルカロイド誘導体が挙げられる。麦角アルカロイド誘導体として、例えばメシル酸ペルゴリド、メシル酸ブロモクリプチン等が例示され、非麦角アルカロイド誘導体として、塩酸タリペキソール、塩酸ロピニロール、塩酸プラミペキソール等が例示される。
【0020】
パーキンソン病の治療薬として、ドパミン受容体作動薬群から選択される化合物が使用されており、例えばメシル酸ペルゴリドは、一日用量50μgから有効性および安全性を考慮しつつ維持量を一日750~1250μgとすることが薬剤の添付文書に記載されている。同様にメシル酸ブロモクリプチンの場合は、一日用量2.5mgからはじめ、効果をみながら一日15.0~22.5mgまで漸増することが記載されている。また同様に塩酸プラミペキソールの場合は、一日用量0.25mgからはじめ、効果をみながら一日1.5~4.5mgまで漸増することが記載されている。
【0021】
本発明のドパミン受容体作動薬群から選択される化合物のキノン体等に基づく毒性の消去は、ドパミン受容体に対するアゴニスト活性とは異なる作用機序、すなわち、キノン体若しくはキノン体前駆体に直接作用することによる。
パーキンソン病の治療薬としてレボドパ投与の際、ドパミン受容体作動薬を併用して投与することは従来も行われてきた。この場合におけるドパミン受容体作動薬の投与量の決定は、ドパミン受容体に対するアゴニスト活性に着目してなされたものであり、レボドパ合剤と併用することによる脳神経障害の改善には不十分であった。
本発明において、ドパミン受容体作動薬群から選択される化合物の投与量は、生成されうるキノン体若しくはキノン体前駆体のレベル、またはキノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性の程度に応じて、適宜決定することができる。
【0022】
さらに本発明は、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する毒性を抑制するドパミン受容体作動薬群から選択される化合物を有効成分とする毒性抑制剤のスクリーニング方法にもおよぶ。毒性抑制剤は、キノン体若しくはキノン体前駆体とドパミン受容体作動薬の相互作用をマーカーにしてスクリーニングすることができる。具体的には、ドパミン受容体作動薬とキノン体若しくはキノン体前駆体との結合をマーカーにするスクリーニング方法による。キノン体若しくはキノン体前駆体と化合物の結合の検出は、自体公知の方法を適用することができる。
また、前記毒性抑制剤は、キノン体若しくはキノン体前駆体の生成を制御する機能をマーカーにしてスクリーニングすることができる。具体的には、動物の脳内線条体でのキノプロテイン量をマーカーにするスクリーニング方法による。動物の脳内線条体でのキノプロテインの生成量を検出は、自体公知の方法を適用することができる。
【0023】
本発明のドパミン受容体作動薬群から選択される化合物を有効成分とする毒性抑制剤には、1種類以上の薬学的に許容される賦形剤を含むことができ、キノン体若しくはキノン体前駆体に起因する脳神経障害および/または細胞障害の治療予防薬としての医薬組成物とすることができる。
【実施例】
【0024】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは明らかである。
【0025】
(実施例1)
ドパミン受容体作動薬のドパミンキノンまたはドパミンセミキノン生成系に対する作用
【0026】
Haqueら(非特許文献5)の方法に従い、ドパミンに水酸化ナトリウムを加えたpH7~8の条件下で、ドパミンからドパミンキノンまたはドパミンセミキノンを生成させるキノン(セミキノン)生成系に対するドパミン受容体作動薬添加の効果を検討した。
【0027】
ドパミンは、使用直前に10mM(最終濃度2.5mM)になるよう10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)または0.5%メチルセルロースに溶解し、懸濁させた。ドパミン受容体作動薬としては、麦角アルカロイド系ドパミンアゴニストのメシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、カベルゴリン、非麦角系ドパミンアゴニストの塩酸ロビニロール、あるいは塩酸プラミペキソールを用い、これらの薬剤は使用直前に100μM~4 mM(最終濃度25μM~1 mM)になるよう0.5%メチルセルロースに懸濁させ、ドパミンキノンまたはドパミンセミキノン生成系に添加した。
【0028】
遮光した試験管内に、(1)10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)、(2)10 mM(最終濃度2.5 mM)ドパミン、(3)100μM~4 mM(最終濃度25μM~1 mM)100μM~4 mM(最終濃度25μM~1 mM)ドパミン受容体作動薬(メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、カベルゴリン、塩酸ロピニロール、塩酸プラミペキソール)または対照としての0.5%メチルセルロース、(4)10 mM水酸化ナトリウムを、それぞれ50μlずつ加え、37℃で1分間反応させた。
【0029】
反応後、速やかに反応液中のドパミンキノンまたはドパミンセミキノンをフリーラジカル計測装置(核時期共鳴装置:日本電子(JEOL)製JES-FR30)により固有のスペクトルとして電子スピン共鳴法で検出、測定した。核磁気共鳴装置の測定条件は、magneticfield, 335±5mT; power, 4 mW; modulation frequency, 9.41GHz; modulation amplitude, 125μT; response time, 0.1sec; temperature, 25℃; amplitude, 1×1000; sweep time, 1 minとした。ドパミンセミキノンを示す4本スピンのうち最大振幅の第二番目のスピンアダクトの積分値の内部標準酸化マンガンのスピンアダクトの積分値に対する比をドパミンセミキノンの量として算出し、ドパミン受容体作動薬を添加していない場合(対照の0.5%メチルセルロース添加群)の値に対する百分率を算出した。各濃度毎3回の実験を行いその平均値で評価した。
【0030】
ドパミンキノンまたはドパミンセミキノン生成系に対するドパミン受容体作動薬の作用に関する実験結果を表1に示した。
【表1】
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【0031】
表1に示したように、ドパミン受容体作動薬のうちメシル酸ペルゴリド、塩酸プラミペキソールは、ドパミンキノンまたはドパミンセミキノンに直接結合・捕捉し消去する作用を有していた。また、塩酸ロピニロール、メシル酸ブロモクリプチンも弱いながらもドパミンキノンまたはドパミンセミキノンへの結合・捕捉能(消去能)を有していた。しかし、麦角アルカロイド系ドパミンアゴニストのカベルゴリンは、ドパミンキノンまたはドパミンセミキノンへの消去能を全く示さなかった。したがって、これらのドパミン受容体作動薬のドパミンキノンまたはドパミンセミキノン自体への直接の結合・捕捉能(消去能)は、ドパミン受容体に対するアゴニスト活性に基づくものではないことが確認された。
【0032】
(実施例2)
片側パーキンソン病モデル動物へのレボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)投与による脳内障害側線条体でのキノプロテイン(キノン体生成の指標となるキノン結合蛋白質)の増加に対するメシル酸ペルゴリド投与の効果
【0033】
Kanekoら(Science, 289, 633-637, 2000)の方法に準じて、8週齢の雄性CD-1(ICR)系マウスの右側線条体3箇所にドパミン神経毒6-hydroxydopamine (6-OHDA) 計60μgを深麻酔下で定位脳固定装置とマイクロシリンジを用いて注入し、片側パーキンソン病モデルマウスを作製した。6-OHDA注入術の14日後にアポモルフィン0.5 mg/kgを皮下投与し、非障害側(左側)への回旋運動が認められたものを右側黒質線条体路のドパミン神経の脱落した片側パーキンソン病モデルマウスとし、以降の薬剤投与実験に供した。
【0034】
アポモルフィンによる回旋運動試験の2週間後から、メシル酸ペルゴリド(0.125 mg/ml、最終投与濃度0.5 mg/kg)、レボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ=12.5:1.25 mg/ml、最終投与濃度50:5 mg/kg)、あるいはメシル酸ペルゴリド+レボドパ合剤(ペルゴリド:L-ドパ:カルビドパ=0.125:12.5:1.25 mg/ml、最終投与濃度0.5:50:5 mg/kg)を1日1回7日間(計7回)腹腔内に連日投与した。薬剤はいずれも使用直前に0.5%メチルセルロースに懸濁し、調製した。また、対照群には同容量の0.5%メチルセルロースを投与した。
【0035】
片側パーキンソン病モデルマウスは、1群3~4匹とし、次の各群にわけた。
(1)対照(0.5%メチルセルロース)投与群、
(2)メシル酸ペルゴリド投与群、
(3)レボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)投与群
(4)メシル酸ペルゴリド+レボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)投与群
【0036】
薬剤の最終投与から24時間後に深麻酔下で経左心室的に氷温生理食塩水で灌流し、屠殺し、障害側(右側)および非障害側(左側)の線条体組織を取り出し、それぞれからトリクロル酢酸処理により蛋白を抽出した。キノン体生成の指標となるキノプロテイン(キノン結合蛋白)の組織中の濃度は、PazらのNBT-グリシネート法(J. Biological Chemistry, 266 (2), 689-692, 1991および非特許文献10)により測定した。キノプロテイン(キノン結合蛋白)量は、組織の総蛋白濃度をもとに、1 mg蛋白中の吸光度(530 nm)で示した。
【0037】
片側パーキンソン病モデルマウスへのメシル酸ペルゴリドおよびレボドパ単独連日投与あるいは併用連日投与による脳内線条体でのキノプロテイン量の変化に関する実験結果を表2に示した。
【表2】
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【0038】
表2に示したように、片側パーキンソン病モデルマウスへのレボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)投与により障害側線条体においてのみ、キノン体生成の指標キノプロテイン(キノン結合蛋白)量の有意な増加が認められた。これに対して、ドパミン受容体作動薬のうち、メシル酸ペルゴリドをレボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)とともに併用連日投与すると、レボドパ合剤(L-ドパ(レボドパ):カルビドパ)単独投与によりパーキンソン病モデル動物の障害側線条体において認められたキノプロテイン量の増加はほぼ完全に抑制された。この際のレボドパ合剤投与量に対するメシル酸ペルゴリド投与量の比は、パーキンソン病患者への併用維持投与の場合の比の約5倍高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のドパミン受容体作動薬群から選ばれる化合物を有効成分とする予防治療剤は、パーキンソン病におけるレボドパ投与でのキノン体神経毒性をはじめとする脳内キノン体若しくはキノン体前駆体生成による脳神経障害のほか、内在性のアミン類、アミノ酸、蛋白質の参加によっても生成されるキノン体若しくはキノン体前駆体によって生じる脳神経障害および/または細胞障害の予防および/または治療剤として利用可能である。