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明細書 :サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)特異的ペプチド性阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4273232号 (P4273232)
公開番号 特開2006-232723 (P2006-232723A)
登録日 平成21年3月13日(2009.3.13)
発行日 平成21年6月3日(2009.6.3)
公開日 平成18年9月7日(2006.9.7)
発明の名称または考案の名称 サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)特異的ペプチド性阻害剤
国際特許分類 C07K   7/08        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
A61K  38/55        (2006.01)
FI C07K 7/08 ZNA
C07K 14/47
C12N 9/99
A61K 37/64
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2005-049332 (P2005-049332)
出願日 平成17年2月24日(2005.2.24)
審査請求日 平成17年2月24日(2005.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】富澤 一仁
【氏名】魏 范研
【氏名】松井 秀樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 特開2004-339157(JP,A)
国際公開第03/097671(WO,A1)
国際公開第2004/037859(WO,A1)
特開2003-335796(JP,A)
The Journal of Neuroscience, 2001, Vol.21, p.6000-6007
Eur. J. Biochem., 2002, Vol.269, p.4427-4434
The Journal of Biological Chemistry, 1999, Vol.274, p.7120-7127
The Journal of Biological Chemistry, 1997, Vol.272, p.12318-12327
調査した分野 C07K 7/00-7/66
C07K 14/00-14/825
C12N 9/00-9/99

CAplus(STN)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1に表すアミノ酸配列のN末端に7から15個のアルギニンからなる細胞透過性ペプチドを連結したサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
【請求項2】
配列番号2に表すアミノ酸配列からなる請求項記載のサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチドを有効成分として含むCdk5以外のサイクリン依存性キナーゼを阻害しないサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ(以下、Cdkと略す)5特異的阻害ペプチド、および該ペプチドを有効成分とする糖尿病治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクリン依存性キナーゼ5(以下Cdk5)はサイクロンと結合することにより活性化されるリン酸化酵素として知られるCdkファミリーの一員である。Cdk5のアミノ酸配列や立体構造は他のCdkとは類似しているが、その機能的な特徴は他のCdkとは全く異なっている。
【0003】
Cdk5と他のCdkとの機能的な相違は、Cdk5の調節因子(サイクリンに相当する蛋白)に由来する。サイクリンはあらゆる細胞に存在し、Cdkを活性化し細胞周期と細胞増殖を制御する。一方、Cdk5はサイクリンではなく、p35あるいはp39と呼ばれる蛋白と結合することで活性化される。p35あるいはp39は増殖細胞ではなく、分化した神経細胞で発現しているため、Cdk5は細胞周期に関係しない唯一のCdkである。
【0004】
Cdk5が大きく注目されるきっかけとなったのは、Nature誌(2000年405巻)に掲載されたCdk5とアルツハイマー病との関連性を指摘した論文である。アルツハイマー患者の脳においてp35のN端が分解されて少し分子の小さいp25ができる。Cdk5とp25との結合が病気の進行に寄与しているのではないかと推測された。Cdk5と特定の神経変性疾患との関わりはまだ解析中であるが、一般的に神経細胞死においてp25の生成及びそれに伴うCdk5活性の亢進は、すでに多くの研究者によって証明され、広く受け入れられている。
【0005】
研究においてもっともよく知られているCdk5阻害剤は、低分子化合物阻害剤であるオロモーシン及びロスコビチンである。これらの化台物はCdk5の基質であるATP(アデノシン三リン酸)と競合することにより、Cdk5の酵素活性を阻害する。Meijer JらがEuropean Journal of Biochemistry(243巻、527-536頁、1997年)にてその作用機構及び主要なリン酸化酵素に対する阻害効果を述べている。
【0006】
本発明者らはCdk5が膵臓におけるインスリン分泌を制御することを発見した。Cdk5はインスリンが分泌され過ぎないようにカルシウムチャンネルの活性を調節する。マウスなどを用いた実験ではCdk5活性を阻害することにより、インスリン分泌を亢進させることができた(特許文献1参照)。
【0007】
以上のように、Cdk5は神経変性疾患や糖尿病治療薬のターゲット分子として重要であり、Cdk5の特異的阻害剤は、これら疾患の治療薬になる。
【0008】
一方、ペプチド性のCdk5阻害剤は二つのグループによって報告されている。Chin KTら(非特許文献1参照)は、p35のアミノ酸配列の内に145番から173番までに由来するペプチドがCdk5の活性を阻害できると報告した。また、Zheng YLら(非特許文献2参照)は、p35のアミノ酸配列の内に154番から279番までに由来する組み換え蛋白がCdk5の活性を阻害すると報告した。

【特許文献1】特開2004-339157号公報
【非特許文献1】Journal of Biological Chemistry、274巻、7120-7127頁、1999年
【非特許文献2】EMBO journal、24巻、209-220頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来より知られていたCdk5阻害剤は比較的低濃度でCdk5を阻害することができたが、以下の問題点があった。
低分子化合物阻害剤(オロモーシン及びロスコビチン)の問題点
現在知られているCdk5に対する阻害剤はCdk5のみならず、他のCdkやリン酸化酵素に対しても低濃度で阻害してしまう。つまり、Cdk5のみを特異的に阻害する低分子化合物阻害剤が現在においてまだ存在しない。このことは、Cdk5の立体構造に起因する。ATPとの結合部位の構造は、Cdk5とCdk5ファミリー及び幾つかのリン酸化酵素とでは非常に類似していることが、最近の研究(Tarricone Cら、Molecular Cell、8巻、657-669頁、2001年)により明らかになった。そのため、前述したようにATPと競合することによりCdk5を阻害するオロモーシン及びロスコビチンは、他のリン酸酵素も同様に阻害する。下表にてオロモーシン及びロスコビチンの主要なリン酸化酵素対する阻害効果(IC50値)を示す。
【0010】
【表1】
JP0004273232B2_000002t.gif

【0011】
ペプチド性Cdk5阻害剤の問題点
現在報告されているペプチド性のCdk5阻害剤はすべてp35蛋白の一部を利用している。Cdk5はp35と結合することで活性化されるので、その一部を利用しp35との結合を阻害することよりCdk5の活性を抑制できる。従って、ペプチド性阻害剤は低分子化合物より特異的にCdk5を阻害することが考えられる。
【0012】
しかしながら、Chin KTらによって報告されたペプチドはCdk5以外に、Cdk2の活性も阻害してしまい、期待された特異性が得られなかった。このことは彼らの論文でも述べられている。
【0013】
また、Zheng YLらによって報告された阻害蛋白は、比較的にCdk5を特異的に阻害すると考えられている。しかし,阻害蛋白の分子量が約15,000で、かなり巨大なものであるため、細胞透過性がなく実用性が非常に乏しい。
【0014】
そこで、本発明はCdk5に特異性が高く他のサイクリン依存性キナーゼを阻害しないCdk5特異的阻害剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、p35タンパク質の一部に由来するペプチドを作成し、サイクリン依存性キナーゼに対する阻害効果を検討した。
【0016】
その結果、p35タンパク質の273番から291番までの19個のアミノ酸配列LQINADPHYFTQVFSDLKN(配列番号1)を有するペプチドが特異的にCdk5を阻害することを見出した。さらに、本発明者は前記ペプチドに複数のアルギニンを連結させて、高い細胞透過性を有するペプチド性特異的Cdk阻害剤を作製し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 配列番号1に表すアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列からなるサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
[2] 配列番号1に表すアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列のN末端に細胞透過性ペプチドを連結したサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
[3] 細胞透過性ペプチドが5から15個のアルギニンからなる[2]のサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
[4] 配列番号2に表すアミノ酸配列からなる[3]のサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチド。
[5] [1]から[3]のいずれかのサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチドを有効成分として含むCdk5以外のサイクリン依存性キナーゼを阻害しないサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害剤。
[6] [1]から[3]のいずれかのサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチドを有効成分として含む医薬。
[7] [1]から[3]のいずれかのサイクリン依存性キナーゼ5特異的阻害ペプチドを有効成分として含む糖尿病治療薬。
[8] 投与被験体に低血糖障害を起こさない[7]の糖尿病治療薬。
【発明の効果】
【0018】
実施例に示すように、p35-Cは既存のCdk5阻害剤と同様にCdk5の活性を阻害することができる。また、既存の阻害剤と比べ、p35-CはCdk5以外のリン酸化酵素に対して阻害効果を殆ど示さなかった。このような特異的なCdk5阻害剤は世界初である。本阻害ペプチドはCdk5に関する基礎研究に用いることができる。また、Cdk5が関与する疾患に対する治療薬として用いることができる。該治療薬はCdk5以外のサイクリン依存性キナーゼを阻害することがないので、副作用が少ない。即ち、本発明のCdk5阻害ペプチドは、副作用の少ない新規な神経保護薬、神経変性疾患治療薬、或いは糖尿病治療薬として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のサイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)を特異的に阻害するペプチドはアミノ酸配列LQINADPHYFTQVFSDLKN(配列番号1)からなる。該配列はp35タンパク質の273番から291番までのアミノ酸配列であり、Cdk5との結合および活性のある構造を形成するのに重要な配列である。本発明のCdk5特異的阻害ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列からなるCdk5特異的阻害ペプチドも含む。ここで、1個または数個のアミノ酸とは3個、好ましくは2個、さらに好ましくは1個である。また、本発明のCdk5特異的阻害ペプチドは、p35タンパク質の部分ペプチドであって、273番目から291番目の配列を含む19~30のアミノ酸からなるペプチドも含む。p35タンパク質の配列は配列番号3に表される。さらに、上記p35タンパク質の273番から291番までのアミノ酸配列の中の連続した、9、10、11、12、13、14、15、16または17アミノ酸からなる配列を有するペプチドであって、Cdk5阻害活性を有するペプチドも含む。
【0020】
さらに、本発明は配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列のN末端に細胞透過性ペプチドを連結したペプチドも包含する。細胞透過性ペプチド(細胞通過ドメイン)を連結することにより、Cdk5阻害ペプチドは細胞内に透過進入することができ、細胞内でCdk5阻害効果を発揮することができる。細胞透過性ペプチドとしては、アルギニン、リシン等の塩基性アミノ酸を多く含んだペプチドであり、例えば化学 Vol.57, No.9, 50-55 2002.「遺伝子治療から蛋白質セラピーへ」、富澤一仁、松下正之、杉本直己、松井秀樹;Current Opinion in Biotechnology, Vol.13, 52-56, 2002;Journal of Neuroscience, Vol.21, 6000-6007, 2001等の文献に記載されており、これらの文献に記載のペプチドを用いることができるし、これらの文献の記載を参照して設計することもできる。具体的には、細胞透過性ペプチドとしては、数個のアルギニンからなるペプチド(J. Neurosci. 21. 6000-6007, 2001)、例えば5個から15個、好ましくは7個から11個、さらに好ましくは10個のアルギニンからなるペプチドが挙げられる。また、5個から10個のアルギニンからなるペプチドにおいて、1個から5個、好ましくは1個から3個のアルギニンがリシンに置換された配列からなるペプチドが挙げられる。さらに、YGRKKRRQRRR(配列番号4)、RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号5)、DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号6)や、配列番号4から6に表される配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列が挙げられる。本発明の細胞透過性ペプチドを連結したCdk5阻害ペプチドはCdk5を特異的に阻害する活性および細胞透過性を兼ね備えたCdk5阻害ペプチドである。
【0021】
配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列の間にはリンカー配列(スペーサー配列)が含まれていてもよい。リンカー配列としては、例えば1個から数個、好ましくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸、例えばグリシンまたはロイシンからなる配列が挙げられる。リンカー配列が含まれている場合も、「配列番号1に表すアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列のN末端に細胞透過性ペプチドを連結した」という。
【0022】
本発明の細胞透過性ペプチドを連結したCdk5阻害ペプチドとして、例えば配列番号2に表される、配列番号1に表されるアミノ酸配列からなるペプチドに1個のロイシンからなるスペーサーを介して10個のアルギニンを連結したペプチドが挙げられる。
【0023】
本発明は、上記のCdk5阻害ペプチドをコードするDNAも包含する。該DNAの塩基配列はアミノ酸配列より決定することができる。
【0024】
本発明のペプチドは、化学合成により作製することができ、また公知の遺伝子工学の手法によって作製することもできる。
【0025】
本発明のペプチドがCdk5阻害作用を有するか否か、および候補化合物または候補ペプチドのCdk5に対するIC50は、以下の方法により決定することができる。
【0026】
ペプチドにトレーサーとして放射性同位体であるガンマ32p-ATPを用いて、Cdk5およびその活性化サブユニットであるp35またはp25(p35の限定分解産物)を含有する溶液に基質となるヒストンH1を添加する。異なる濃度のCdk5阻害剤存在下におけるヒストンH1のガンマ32Pの取り込みを測定することによりCdk5のIC50を決定することができる。
【0027】
本発明のCdk5阻害ペプチドは、Cdk5以外のサイクリン依存性キナーゼを阻害しないCdk5特異的阻害剤として、基礎研究試薬または医薬として用いることができる。
【0028】
例えば、本発明のCdk5阻害ペプチドは、Cdk5が関与する疾患の治療に用いることができる。Cdk5が関与する疾患として、糖尿病、神経変性疾患が挙げられる。神経変性疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ポリグルタミン病、ハンチントン舞踏病等が挙げられる。また、本発明のCdk5阻害ペプチドは、Cdk5を阻害することにより、神経細胞の細胞死(アポトーシス)を抑制することから、神経細胞アポトーシス阻害剤や神経保護薬として用いることもできる。
【0029】
本発明のCdk5阻害ペプチドは、特に糖尿病治療薬として用いることができる。この点、本発明者らはCdk5が膵臓におけるインスリン分泌を制御することを発見しており、Cdk5はインスリンが分泌され過ぎないようにカルシウムチャンネルの活性を調節することを見出している。本発明者らは、Cdk5活性を阻害することにより、インスリン分泌を亢進させることから、Cdk5阻害剤が糖尿病治療剤に用い得ることを示している(特願2003-137895、2004-329165)。
【0030】
本発明によれば、Cdk5阻害ペプチドはβ細胞に存在するCdk5に作用し、Cdk5の酵素活性を阻害する。インスリンは、グルコースが膵臓ランゲルハンス島細胞に取り込まれ、ATPが合成され、ATPが増加すると、該ATPが細胞膜に作用し、K+チャネルを閉鎖し、脱分極が起こり、脱分極により、電位依存性L型Ca2+チャネルが開口し、細胞外からCa2+が流入することにより、分泌される。この際、細胞膜の脱分極により電位依存性L型Ca2+チャネルが開口すると、電位依存性L型Ca2+チャネルのloopII-IIIにSNAREタンパク質(SNAP25、シンタキシンなど)が結合し、Ca2+が流入し易くなりインスリンが分泌される。loopII-IIIとは電位依存性L型Ca2+チャネルにおいて、ドメインIIおよびIIIの間の細胞内に形成されるループ構造部分をいう。Cdk5は、LoopII-IIIのアミノ酸配列783番目のセリンをリン酸化し、SNAREタンパク質の結合を阻害することにより、Ca2+の流入を妨げ、インスリンの分泌を抑制する。本発明のCdk5阻害ペプチドは、Cdk5が上記セリンをリン酸化するのを阻害し、電位依存性L型Ca2+チャネルを制御し、電位依存性L型Ca2+チャネルを通ってのCa2+の流入を促進することにより、インスリンの分泌を促進する。β細胞の脱分極は上記のようにグルコースの刺激により起こるので、低血糖時には、細胞膜の脱分極が起こらず電位依存性L型Ca2+チャネルは開口しないので、Cdk5の阻害の有無に拘わらず影響はない。一方、高血糖時には、脱分極が起こって電位依存性L型Ca2+チャネルが開口し、このときCdk5を阻害することにより、上記のようにリン酸化を阻害することによってインスリンの分泌を促進する。このように、本発明で用いるCdk5阻害ペプチド剤は、高血糖時のみに電位依存性L型Ca2+チャネルを制御し、インスリンの分泌を促進する。従って、本発明で用いるCdk5阻害剤は、低血糖時にインスリンの分泌を促進することなく、高血糖時のみにインスリンの分泌を促進するので、低血糖障害を起こすことがない。ここで、低血糖とは、血糖レベルが正常値以下または正常値付近以下の場合をいい、血中グルコース濃度が、100mg/dL以下、好ましくは90mg/dL以下、さらに好ましくは80mg/dL以下、特に好ましくは70mg/dL以下の場合をいう。糖尿病はインスリン依存型とインスリン非依存型に分けられる。インスリン依存型は若年に発症し、膵臓ランゲルハンス島β細胞の病変によりインスリンの絶対的欠如によって起こる。インスリン非依存型は肥満や遺伝子の変異などにより、体細胞のインスリンに対する応答性が悪化したり、インスリンの分泌が低下するなどして起こる。Cdk5阻害剤は、β細胞に作用してインスリンの分泌を促進することができるため、β細胞がすべて消失していないかぎりすべての型の糖尿病において大きな治療効果が期待できる。
【0031】
本発明の治療薬の投与経路としては、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、経口があげられる。高血糖時にすみやかに作用できるように食前の経口投与が好ましい。また、膵臓に局所投与してもよい。膵臓局所投与は、膵臓またはその近傍へ本発明の薬剤を直接注入すればよい。例えば、膵臓治療に使用される内視鏡に中空の針を設ける等の修飾を加えて、膵臓組織中に薬剤を直接注入できるようにすればよい。また、経皮針を膵臓組織への経腹注入に用いることができる。
【0032】
治療剤の剤形は、投与方法によって適宜設定することができる。具体的には、たとえば、水溶液、乳剤、懸濁液などの液剤、または錠剤などがあげられる。通常は、経口投与が好ましいため、水溶液または錠剤が好ましい。
【0033】
投与量は、投与方法、適用する患者の年齢、体重、病状などによって適宜設定することができるが、一回に0.005~5mg/kg体重が好ましく、0.005~1mg/kg体重がより好ましい。本発明の治療剤としての製剤化には、その剤形に合わせて通常当業者により使用される様々な添加物を使用することができる。たとえば、希釈剤、等張化剤、担体、pH安定剤などがあげられる。
【0034】
投与方法の具体例としては、点滴静注する場合、一回につき0.005~5mg/kg体重を生理食塩水等に溶解して10~50μMとし投与することができる。筋肉注射の場合、一回につき0.005~5mg/kg体重を生理食塩水等に溶解して投与することができる。投与は一日三回、食前に行われることが好ましい。
【実施例】
【0035】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
実施例1 p35-CのCdk5/p35に対する阻害効果
p35タンパク質の273番から291番までの19個のアミノ酸配列LQINADPHYFTQVFSDLKN(配列番号1)に表されるアミノ酸配列からなるペプチドに1個のロイシンからなるスペーサーを介して10個のアルギニンを連結したペプチドRRRRRRRRRRLLQINADPHYFTQVFSDLKN(配列番号2)を化学合成により作製しp35-Cとした。
【0037】
p35-CがCdk5/p35を阻害できるか否かを試験管の系で調べた。様々な濃度の阻害剤が存在下で、試験管の中にCdk5/p35、放射線同位体の(γ-32P)ATP及び基質であるヒストンH1蛋白を入れ、Cdk5によってヒストンH1に転移したリン酸の量をCdk5の活性として計測した。
【0038】
Cdk5の活性測定は以下の方法で行った。
試験管内にMops、MgCl2、DTT、ATPの最終濃度をそれぞれ20mM、10mM、1mM、0.1mMになるように加えた。次に4ngのCdk5および10μgのヒストンH1を加えた。各インヒビターを図に示す濃度になるように加えた。9Rおよびp35-Cペプチドは、Applied Bioscience 社製の自動ペプチド合成機を用いてC末端より順に合成し、逆相HPLCカラムで精製したものを用いた(ペプチド研究所にて委託合成)。オロモーシンおよびロスコビチンはシグマ社より入手した。最後にγ-32P ATP(Amersham Biosciences社製)を200cpm~300cpm/pmol ATPになるように加え、32℃のインキュベーターに入れ10分間反応させた。
【0039】
その他のリン酸化酵素の活性測定は以下の方法で行った。
酵素濃度および基質濃度は表2に示す濃度であった。その他の化合物の濃度や実験条件はCdk5の活性測定方法と同じであった。用いたCdk5および他のリン酸化タンパク質はUpsite社から入手した。
【0040】
【表2】
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【0041】
Cdk5の活性はp35-Cの量が多いほど、Cdk5の活性がより阻害された(図1)。参照としてオロモーシンとロスコビチンの阻害効果も測り、p35-Cの阻害効果はオ口モーシンより高く、ロスコビチンと同等のものだった。なお、アルギニンだけで構成されたペプチドは全くCdk5に対して阻害効果を示さなかった。これらのことは、p35-Cは既存の低分子化合物阻害剤と同等にCdk5を阻害することができることを示している。
【0042】
実施例2 p35-Cの阻害性(Cdk2に対する阻害効果)
p35-Cの特異性を調べるために,Cdkファミリーの一員であり、Cdk5と構造的に類似しているCdk2に対する阻害効果を調べた。オロモーシン及びロスコビチンは低濃度でCdk2の活性を阻害した。それに対して、p35-Cは高濃度でもCdk2の活性を顕著に抑制しなかった(図2)。これらのことは、オロモーシン及びロスコビチンと異なり、p35-Cは他のCdkを阻害しないことを示す。
【0043】
実施例3 p35-Cの特異性(他のリン酸化酵素に対する阻害効果)
p35-Cの特異性を構造の類似する他のリン酸化酵素(Erk1、Erk2、GSK3)を用いて実施例1と同様な実験方法で調べた。p35-Cは顕著な阻害効果を高い濃度を用いても示さなかった(表3)。
【0044】
【表3】
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【0045】
実施例4 p35-CのCDK5に対する阻害様式
p35-Cペプチド存在下で、CDK5の基質であるヒストンH1の濃度によってCDK5の酵素活性(速度)の変化を測定し、得られたデータを図3のようにプロットした。図3は、p35-CがヒストンH1に対して競合的に働き、CDK5を阻害することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】p35-CのCdk5/p35に対する阻害効果を示す図である。
【図2】p35-Cの阻害性(Cdk2に対する阻害効果)を示す図である。
【図3】p35-CのCdk5に対する阻害様式を示す図である。

【配列表フリ-テキスト】
【0047】
配列番号1、2および4~6 合成ペプチド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2