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明細書 :部位特異的アミノ酸導入法のための新規な直交化tRNA

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4406731号 (P4406731)
公開番号 特開2006-280250 (P2006-280250A)
登録日 平成21年11月20日(2009.11.20)
発行日 平成22年2月3日(2010.2.3)
公開日 平成18年10月19日(2006.10.19)
発明の名称または考案の名称 部位特異的アミノ酸導入法のための新規な直交化tRNA
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/00
C12P 21/00 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2005-102868 (P2005-102868)
出願日 平成17年3月31日(2005.3.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年11月25日 第27回日本分子生物学会年会組織委員会発行の「第27回 日本分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集」p.458に発表
審査請求日 平成20年3月28日(2008.3.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】川井 淳
【氏名】川上 文清
【氏名】宍戸 昌彦
【氏名】大槻 高史
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100116311、【弁理士】、【氏名又は名称】元山 忠行
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】高堀 栄二
参考文献・文献 生物工学会誌, 2003, Vol.81, No.9, pp.386-391
Nucleic Acids Research, 1991, Vol.19, No.22, p.6101-6105
Science, 2002, Vol.296, p.1459-1462
生物工学会誌, 2003, Vol.81, No.9, p.386-391
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
C12P 21/00-21/08

CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
tRNAとしての機能を有するRNAであって、以下の(1)および(2)からなる群より選択されるRNA:
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるRNA、ここで配列番号1における塩基31~34の「nnnn」は任意の塩基からなるアンチコドンである塩基アンチコドンを表;および
(2)配列番号2に記載の塩基配列からなるRNA、ここで配列番号2における塩基31~34の「nnnn」は任意の塩基からなるアンチコドンである塩基アンチコドンを表
【請求項2】
(1)のRNAが配列番号3に記載の塩基配列からなる請求項1に記載のRNA。
【請求項3】
(2)のRNAが配列番号4に記載の塩基配列からなる請求項1に記載のRNA。
【請求項4】
請求項1~3に記載のRNAを用いて、部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法。
【請求項5】
請求項1~3に記載のRNAから選択される2種以上のRNAを用いて、単一のタンパク質の2箇所以上に部位特異的に非天然アミノ酸を導入する方法。
【請求項6】
請求項1~3に記載のRNAを用いて部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入することを特徴とする、部位特異的に非天然アミノ酸が導入されたタンパク質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3に記載のRNAから選択される2種以上のRNAを用いて単一のタンパク質の2箇所以上に部位特異的に非天然アミノ酸を導入することを特徴とする、部位特異的に非天然アミノ酸が導入されたタンパク質の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、人工的に構造を改変したタンパク質を合成する方法に関し、より詳細には、任意のアミノ酸が位置特異的に導入されたタンパク質を合成する方法に関する。また、任意のアミノ酸が位置特異的に導入されたタンパク質、および該タンパク質の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するタンパク質は、20種類のアミノ酸から構成されており、そのアミノ酸配列はDNAの塩基配列によって規定されている。そのタンパク質をDNAの塩基配列を改変することで、遺伝子工学的手法により目的のタンパク質のアミノ酸配列を任意に組換えて構造を改変するという方法は比較的古くから用いられてきた。しかしながらこの方法では、可能なのはあくまで20種類のアミノ酸からなる配列の組換えであり、20種類のアミノ酸のいずれの構造中にも含まれない任意の機能基をタンパク質分子に導入することは事実上不可能であるため、タンパク質に人工機能を導入する手法としては限界があった。また一方で、タンパク質に任意の機能基を導入する手法としては、タンパク質分子の化学修飾という方法が用いられてきた。しかしこの方法では、タンパク質の特定の位置だけに機能基を導入することは非常に困難であり、そのため予測できない位置への化学修飾によってタンパク質本来の機能が著しく減じてしまう場合があるという問題があった。それに加え、化学修飾による方法ではタンパク質分子内部への機能基の導入を行うことができないといった欠点もあった。
【0003】
種々の機能側鎖を持つ非天然アミノ酸を合成し、それらを天然のアミノ酸と同様に位置特異的に導入する非天然アミノ酸導入法は、これらの点を改善し、さらにタンパク質の機能をほとんど損なわずにさまざまな機能基を導入できるという点で優れている。天然のアミノ酸のみを用いた組換えタンパク質と比較して、導入した非天然アミノ酸に応じた種々の人工機能を発現することが期待でき、タンパク質の広範囲な機能拡張が可能となる。またさらに化学修飾法と比較しても、機能基を導入する位置を任意に決定することが可能であるため、タンパク質の本来の機能を損なう危険性を大幅に減じることができる。
【0004】
天然のタンパク質は、前述のように20種類のアミノ酸から構成されており、そのアミノ酸配列は、そのタンパク質をコードしている遺伝子によって規定されている。遺伝子はDNA上の連続した3つの塩基の組み合わせからなる遺伝暗号(コドン)によりアミノ酸を指定している。塩基は、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4種類があり、それらの組み合わせからなる3塩基コドンの総数は4x4x4=64種類であるが、その大半である61種類のコドンは天然の20種類のアミノ酸に割り当てられている。残りの3種類、TAG、TAA、TGAの3種のコドンは終止コドンとよばれ、20種類のどのアミノ酸にも対応せず、タンパク質のアミノ酸配列の終止を規定している。
【0005】
非天然アミノ酸をタンパク質へ位置特異的に導入するには、それらを指定する専用のコドンが必要となる。しかしながら前述の様に3つの塩基で構成可能な64種類のコドンは、すべて指定する情報が規定されている。
【0006】
Schultzら(Noren, C.J. et al.(1989)Science,244,182-188、非特許文献1)やChambalinら(Bain,J.D. et al.(1989)J.Am.Chem.Sci.,111,8013-14、非特許文献2)は、終止コドンの一つであるTAGを非天然アミノ酸に割り当てた。タンパク質上の任意の位置のコドンをTAGに置き換え、天然には存在しない、終止コドンTAGに対応するアンチコドンCUAを持つtRNAを合成し、非天然アミノ酸を担持させて非天然アミノ酸を位置特異的に導入するという手法であった。しかしながらこの方法では、非天然アミノ酸の取り込みはタンパク質合成の終了と競合することになり、収率が低下してしまうという欠点があった。さらに、同一のタンパク質の複数箇所に別々の非天然アミノ酸を導入することも、非天然アミノ酸の指定に転用可能な終止コドンの種類数から考えて事実上不可能であった。
【0007】
非天然アミノ酸の位置を決めるもう一つの手法として、通常の3塩基コドンを拡張した4塩基コドンを用いるという方法がある(Hohsaka, T., et al.(1996)J.Am.Chem.Soc.,118,9779-79、非特許文献3)。この方法では、たとえばCGGGからなる4塩基コドンが、4塩基のアンチコドンをもつ人工的に合成したtRNAによって翻訳されると、非天然アミノ酸が導入された完全長のタンパクが合成される。一方、CGGの3塩基のみに対する3塩基アンチコドンをもつ天然のtRNAによって翻訳されると、その後のコドンの読み枠がシフトし、終止コドンに出会うことによってタンパク質の合成は途中で終止してしまうことになる。このように、4塩基コドンを用いる方法は、64種類存在する通常の3塩基コドンとは事実上独立に非天然アミノ酸を規定できる点が特徴であり、前述の終止コドンを用いる方法とくらべて多種類の非天然アミノ酸を同一のタンパク質分子にそれぞれ位置特異的に導入し、機能発現させることも可能である。実際に、一例としてストレプトアビジンの54位に電子受容基を持つ非天然アミノ酸ニトロフェニルアラニンを、84位に蛍光基を持つ非天然アミノ酸アンスラニルアミドアラニンを導入した変異タンパク質を合成した報告がある(Hohsaka,T., et al.(1999)J.Am.Chem.Soc.,121,12194-95、非特許文献4)。その合成された非天然二重変異タンパク質は予測通り蛍光消光を示した。また更に最近、5塩基コドンも非天然アミノ酸を指定できることが明らかになっている(Hohsaka,T. and Sisido,M.(2000)Nucleic Acids Symp.Ser.44,99-100、非特許文献5)。
【0008】
一方、部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法において使用されるtRNAとしては、任意の翻訳系においてtRNAとして機能するいずれの配列を持つtRNAも使用することができ、天然由来のtRNAのアンチコドン部位の配列のみを任意に変えたものなどを用いることができる。しかしながら、部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法において使用されるtRNAには、以下の2つの性質が必要とされる:
1)任意の翻訳系において高い翻訳効率(部位特異的に非天然アミノ酸を導入した蛋白質を効率よく合成するために必要である);
2)翻訳系内在性のアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)とは反応しない性質、すなわち高い「直交性」(Orthogonality)(直交性が低いtRNAを用いて部位特異的に非天然アミノ酸を導入したタンパク質の合成を行った場合、非天然アミノ酸を担持させた直交性が低いtRNAは、翻訳系中でその担持させた非天然アミノ酸が消費された後、ARSに認識されることにより、再び別の天然アミノ酸を担持し、非天然アミノ酸を導入すべき位置に天然アミノ酸を導入したタンパク質を誤って合成してしまう恐れがある。)
【0009】
これまで、酵母由来の配列を改変した人工tRNAや、大腸菌由来の配列を改変した人工tRNA(Murakami, H., et al.(2003)Chem.Biol.7,655-62、非特許文献6)、古細菌由来の配列を改変した人工tRNA(Anderson, J.C. and Schultz, P.G. (2003)Biochemistry,32,9598-608、非特許文献7)などが好適に用いられてきた。
【0010】
しかしながら、前述のような天然tRNAや人工改変tRNAは、いずれも翻訳効率が低いか直交性が低いかの問題があった。
【0011】

【非特許文献1】Noren, C.J. et al.(1989)Science,244,182-188
【非特許文献2】Bain,J.D. et al.(1989)J.Am.Chem.Sci.,111,8013-14
【非特許文献3】Hohsaka, T., et al.(1996)J.Am.Chem.Soc.,118,9779-79
【非特許文献4】Hohsaka,T., et al.(1999)J.Am.Chem.Soc.,121,12194-95
【非特許文献5】Hohsaka,T. and Sisido,M.(2000)Nucleic Acids Symp.Ser.44,99-100
【非特許文献6】Murakami, H., et al.(2003)Chem.Biol.7,655-62
【非特許文献7】Anderson, J.C. and Schultz, P.G. (2003)Biochemistry,32,9598-608
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に述べたような理由から、翻訳効率が高く、なおかつ内在性のアミノアシル化tRNA合成酵素と反応しない、即ち直交性の高いtRNAが求められていた。即ち、本願発明の目的は、翻訳効率が高く、なおかつ直交性の高いtRNAを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目標を達成するために、本願発明者らは鋭意研究を重ね、ウシミトコンドリア由来のtRNAおよびMethanosircina acetivorans由来のtRNAの配列を改変した人工tRNAが、高い翻訳効率と高い直交性を持つことを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本願発明は以下のような構成から成る。
[1] tRNAとしての機能を有するRNAであって、以下の(1)、(2)および(3)からなる群より選択されるRNA:
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるRNA、ここで配列番号1における塩基31~34の「nnnn」はp個の任意の塩基からなるアンチコドンであるp塩基アンチコドンを表し、pは3以上の整数である;
(2)配列番号2に記載の塩基配列からなるRNA、ここで配列番号2における塩基31~34の「nnnn」はp個の任意の塩基からなるアンチコドンであるp塩基アンチコドンを表し、pは3以上の整数である;および
(3)(1)または(2)のいずれかのRNAにおいて一つまたは複数の塩基が置換、欠失、挿入された塩基配列からなるRNA。
[2] アンチコドンが、4塩基アンチコドンであることを特徴とする[1]に記載のRNA。
[3] (1)のRNAが配列番号3に記載の塩基配列からなる[1]に記載のRNA。
[4] (2)のRNAが配列番号4に記載の塩基配列からなる[1]に記載のRNA。
[5] [1]~[4]に記載のRNAを用いて、部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法。
[6] [1]~[4]に記載のRNAから選択される2種以上のRNAを用いて、単独のタンパク質の2箇所以上に部位特異的に非天然アミノ酸を導入する方法。
[7] [5]または[6]に記載の方法により、部位特異的に非天然アミノ酸を導入したタンパク質。
【発明の効果】
【0015】
本願発明により提供されるRNAを用いることにより、従来法に比べて非天然アミノ酸の部位特異的なタンパク質への導入効率が向上し、高効率な人工タンパク質合成やそれを利用したアッセイを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書において転移RNA(tRNA)とは、メッセンジャーRNA(mRNA)の遺伝情報のタンパク質のアミノ酸配列への翻訳において、その分子中のアンチコドンのmRNA中のコドンとの塩基対形成によって、その末端にエステル結合したアミノ酸を運搬する機能を有するRNAをいう。末端にアミノ酸が結合したtRNAをアミノアシル化tRNAという。天然においてはアミノアシル化tRNA合成酵素(ARS)の作用によってtRNAに特異的アミノ酸が結合されてアミノアシル化tRNAが合成される。公知のアミノアシル化反応によって本願発明のtRNAに非天然アミノ酸を結合させて人工的にアミノアシル化tRNAを合成することもできる。
【0017】
まず本願発明のtRNAとしての機能を有するRNAは、以下の(1)または(2)から選択されるRNAである。即ち(1)配列番号1または2に記載のいずれかの塩基配列からなるRNA、または(2)(1)のいずれかの塩基配列からなるRNAの一つまたは複数の塩基が置換、欠失、挿入された塩基配列からなるRNAである。本明細書に記載の配列番号1または2に記載のRNA分子は、図1または図2に示すような2次構造を自発的に形成する。より具体的には、5’端より(A)塩基1~7:アクセプターステム、(B)塩基8:ループ、(C)塩基9~12:Dステム、(D)塩基13~17:ループ、(E)塩基18~21:(C)Dステムの相補鎖、(F)塩基22:ループ、(G)塩基23~28:アンチコドンステム、(H)塩基29~30:ループ、(I)塩基31~34:アンチコドン配列(4塩基の場合)、(J)塩基35~36:ループ、(K)塩基37~42:(G)アンチコドンステムの相補鎖、(L)塩基43~45:ループ、(M)塩基46~50:Tステム、(N)塩基51~57:ループ、(O)塩基58~62:(M)Tステムの相補鎖、(P)塩基63~69:(A)アクセプターステムの相補鎖、(Q)塩基70~73:3’末端領域、からなる2次構造である。アンチコドンステムの長さは通常のtRNAでは5塩基対であり、本配列は異常な2次構造を形成することによって、内在性のARSからの認識を回避していると考えられる。
【0018】
本明細書において用いる「アンチコドン」なる用語は、mRNA中のコドンと塩基対を形成するtRNA中の連続した塩基をいう。天然に存在するアンチコドンは3塩基からなる(3塩基アンチコドン)。一方、上記配列における(I)塩基31~34:アンチコドン配列は、任意の鎖長を持つ任意の配列のアンチコドン配列を示し、その鎖長は特に限定されないが、好ましくは塩基数2~6、より好ましくは3~5、さらに好ましくは4である。またその配列は特に限定されず、いかなる配列を用いても非天然アミノ酸の部位特異的な導入を行うことができるが、最も好ましくはCCCGである。アンチコドンとしてCCCGの配列を有する本願発明のtRNAの例として、配列番号3および4に記載の塩基配列からなるtRNAが挙げられる。
【0019】
また、本願発明のRNAは、翻訳系内在性のアミノアシル化tRNA合成酵素(ARS)とは反応しない性質、すなわち高い「直交性」(Orthogonality)を持つ。直交性を有するtRNAを直交化tRNAという。この直交性は、以下の方法により測定することができる。即ち、脱アミノアシル化したtRNAを翻訳系に添加し、該tRNAのアンチコドンに相補的なコドンを持つmRNAからの翻訳反応を行い、該コドンを導入した部位に翻訳系に存在するアミノ酸を取り込んだタンパク質が合成される効率(抑圧効率、supression efficiency)を算出する。より具体的には、4塩基アンチコドンをもつtRNAを翻訳系に添加し、該tRNAのアンチコドンに相補的な4塩基コドンを持つ任意のタンパク質をコードするmRNAからの翻訳反応を行い、該4塩基コドンを導入した部位にアミノ酸が導入された場合には全長タンパク質が合成され、該4塩基コドンを導入した部位にアミノ酸が導入されなかった場合には、翻訳系に内在する3塩基のアンチコドンを持つアミノアシル化tRNAが反応することにより、その部位以降のコドンの読み枠がシフトし、全長の異なるタンパク質が合成されることから、同量の該タンパク質の4塩基コドンを含まないmRNA、即ち野生型タンパク質のmRNAからの翻訳効率と、4塩基コドンを導入したmRNAからの全長タンパク質の翻訳効率とを比較することにより、定量的に算出することができる。例えば、実施例5に記載する方法で測定した場合、本願発明のRNAは、少なくとも40%、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上の抑圧効率を示す。
【0020】
また、本願発明のRNAは、高い翻訳効率を持つ。即ち、その担持したアミノ酸のタンパク質への導入効率が高い。この翻訳効率は、前述のsuppression efficiencyを算出することにより容易に測定できる。即ち、同量の野生型タンパク質のmRNAからの翻訳効率と、4塩基コドンを導入したmRNAからの全長タンパク質の翻訳効率とを比較することにより、定量的に算出することができる。あるいは、導入する非天然アミノ酸が、ある種のラベル、より具体的には、蛍光、放射性同位元素、官能基等でラベル化されているアミノ酸を用いる場合には、翻訳反応により合成されたタンパク質の総量から、ラベル化されたタンパク質が含まれる割合を測定することによっても容易に算出することができる。
【0021】
上記のような方法により直交性、翻訳効率を測定することによって、配列番号1、2、3または4に記載の塩基配列において一つまたは複数の塩基が置換、欠失、挿入された塩基配列からなるRNAから、tRNAとしての機能を有する本願発明のRNAを選択することができる。
【0022】
また、本願発明は、[1]~[4]に記載のRNAを用いて、部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法である。またさらに本願発明は、[1]~[4]に記載のRNAから選択される2種以上のRNAを用いて、単一のタンパク質の2箇所以上に部位特異的に非天然アミノ酸を導入する方法である。ここで言うタンパク質の2箇所以上に部位特異的に非天然アミノ酸を導入する方法とは、その形態は特に限定されないが、より具体的には、それぞれ同一の、あるいは異なるコドン-アンチコドン対を用いて、2箇所以上に、それぞれ部位特異的に非天然アミノ酸を導入する方法であり、それぞれの非天然アミノ酸は、同種であってもよく、異なる種類であっても良い。異なる種類のアミノ酸を異なる部位に特異的に導入する場合には、好ましくは、それぞれ異なるコドン-アンチコドン対を用いることができ、さらに好ましくは、コドン-アンチコドン対は4塩基コドン-4塩基アンチコドン対を用いることができる。
【0023】
また、本願発明は、上記の方法を用いて合成した部位特異的に非天然アミノ酸を導入したタンパク質である。
【0024】
本願発明により提供されるRNAを用いることにより、部位特異的に非天然アミノ酸が導入されたタンパク質を効率よく合成することができ、なおかつ、非天然アミノ酸が本来導入されるべき部位に天然アミノ酸が誤って導入されたタンパク質が合成される割合が全く無いかもしくはきわめて少量である純度の高い非天然アミノ酸導入タンパク質を合成することが可能となる。
【0025】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1
tRNAの合成
配列番号3及び4のtRNAから3’末端のCAを除いたものは、T7 RNAポリメラーゼを用いた転写反応により合成した。40mM Tris-HCl(pH8.0)、24mM MgCl、5mM DTT、2mM スペルミジン(spermidine)、0.01% Triton X-100、10mM GMP、2mM ATP、2mM GTP、2mM CTP、2mM UTP、1.8units/ml ピロホスファターゼ(pyrophosphatase)(SIGMA)、750units/ml T7 RNAポリメラーゼ、200nM DNA鋳型を含む反応液において、37℃で4時間の転写反応を行った。転写合成したtRNAは10%変性ポリアクリルアミドゲルにより精製した。
【0027】
実施例2
tRNAのアミノアシル化反応
L-p-ニトロフェニルアラニル-tRNA(L-p-nitrophenylalanyl-tRNA、ntrPhe-tRNA)は、転写合成したtRNA(3’-CAを含まないもの)と化学合成したpdCpA-ntrPheとをT4 RNAリガーゼにより連結することにより調製した。
【0028】
実施例3
脱アミノアシル化したtRNAを用いたタンパク質合成
無細胞タンパク質合成とウェスタンブロッティングは以下のように行った。タンパク質合成反応は、2μL E.coli S30 Extract for Linear Templates(Promega)、55mM HEPES-KOH(pH7.5)、210mM グルタミン酸カリウム(potassium glutamate)、6.9mM 酢酸アンモニウム(ammonium acetate)、1.7mM ジチオトレイトール(dithiothreitol)、1.2mM ATP、0.28mM GTP、26mM ホスホエノールピルビン酸(phosphoenolpyruvate)、1mM スペルミジン(spermidine)、1.9% ポリエチレングリコール-8000(polyethyleneglycol-8000)、35μg/mL ホリニン酸(folinic acid)、12 mM 酢酸マグネシウム(magnesium acetate)、0.1 mM各アミノ酸、8μg mRNA、0.1nmolアミノアシルtRNAを含む10μLの反応液で行った。mRNAはN末にT7タグが付加したストレプトアビジンの野生型(wt)または変異体をコードしている。野生型および変異体mRNAに含まれるオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列をそれぞれ配列番号5および6に示す。配列番号5の塩基283~285のtatは野生型ストレプトアビジンのアミノ酸配列の83位のアミノ酸に対するコドンであり、配列番号6に示す配列においてはこの箇所にCGGGコドンを含み、この部位が非天然アミノ酸に対応する。この反応液を37℃で1時間インキュベートした。反応溶液はSDS-15%ポリアクリルアミドゲルに流し泳動を行った。ウェスタンブロッティングは、抗T7-tagモノクローナル抗体(Novagen)とProtoBlot II AP system (Promega)を用いて、PVDF膜(Bio-Rad)上で行った。
【0029】
E.coli S30無細胞タンパク質合成系を用いて、4塩基アンチコドンCCCGを持つ各種tRNAを添加してストレプトアビジンタンパク質を合成した結果を図3に示す。図3は、配列番号3に示すRNA(A)および配列番号4に示すRNA(B)およびその他数種のRNA(1~10)を添加した場合の結果である。配列番号3に示すRNAおよび配列番号4に示すRNAを添加した場合、完全長タンパク質の合成は認められず、これらのRNAは内在性のARSによるアミノアシル化を受けていないことが示された。
【0030】
実施例4
非天然アミノ酸を担持させたtRNAを用いたタンパク質合成
E.coli S30無細胞タンパク質合成系を用いて、4塩基アンチコドンCCCGを持つ各種tRNAに非天然アミノ酸ニトロフェニルアラニンを担持させたものを添加してストレプトアビジンタンパク質を合成した。タンパク質合成とウェスタンブロッティングは実施例3と同様に行った。その結果を図4に示す。配列番号3に示すRNA(A)および配列番号4に示すRNA(B)を用いた場合、他のRNA(1~10)の場合と比べ、完全長タンパク質の合成量が特に多く、これらのRNAは高い翻訳能を持つことが示された。
【0031】
実施例5
非天然アミノ酸を担持させたtRNAを用いたタンパク質合成効率の測定
実施例4と同様に、4塩基アンチコドンCCCGを持つ各種tRNAに非天然アミノ酸ニトロフェニルアラニンを担持させたものを添加してストレプトアビジンタンパク質を合成しウェスタンブロッティングを行った。4塩基コドンの翻訳効率は全長タンパク質のバンド強度を、同様にin vitro翻訳系で調製した野生型ストレプトアビジンと比較することにより見積もった。バンド強度は、NIH Image program (National Institutes of Health, U.S.A.)により測定した。これまでに報告されている、大腸菌由来の配列を改変した人工tRNA(E.coli tRNAAsn由来変異体、Murakami, H., et al.(2003)Chem.Biol.7,655-62、配列番号7)、古細菌由来の配列を改変した人工tRNA(H.sp.NRC-1 tRNALeu、Anderson, J.C. and Schultz, P.G. (2003)Biochemistry,32,9598-608、配列番号8)と、配列番号3に示すRNA(ウシミトコンドリア tRNASerUGA変異体)および配列番号4に示すRNA(Methanosircina acetivorans tRNAPyl)との翻訳効率(抑圧効率、Suppression efficiency)の比較結果を図6に示す。この結果より、これまでに報告されているtRNAよりも非天然アミノ酸を非常に効率よく導入できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本願発明のtRNAを用いて、種々の機能性非天然アミノ酸を部位特異的に導入したタンパク質を効率よく合成することができ、研究分野、医療分野等の産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】配列番号1のtRNAが自発的に取りうる2次構造を示す図。
【図2】配列番号2のtRNAが自発的に取りうる2次構造を示す図。
【図3】脱アミノアシル化したtRNAを用いて合成を行ったタンパク質のSDS-PAGEによる解析を行った図。
【図4】非天然アミノ酸を担持させたtRNAを用いて合成を行ったタンパク質のSDS-PAGEによる解析を行った図。
【図5】非天然アミノ酸を担持させたtRNAを用いて合成を行ったタンパク質のSDS-PAGEによる解析結果から、それぞれの翻訳効率(抑圧効率、Suppression efficiency)を算出した図。

【配列表フリ-テキスト】
【0034】
SEQ ID NO:1: tRNA; "nnnn" from nucleotide 31 to nucleotide 34 represents an anticodon consisting of "p" arbitrary ribonucleotides, wherein the number "p" is 3 or more
SEQ ID NO:2: tRNA; "nnnn" from nucleotide 31 to nucleotide 34 represents an anticodon consisting of "p" arbitrary ribonucleotides, wherein the number "p" is 3 or more
SEQ ID NO:3: tRNA
SEQ ID NO:4: tRNA
SEQ ID NO:5: ORF of mRNA
SEQ ID NO:6: ORF of mRNA
SEQ ID NO:7: tRNA
SEQ ID NO:8: tRNA
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4