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明細書 :食肉の光学的鮮度識別法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4686714号 (P4686714)
公開番号 特開2006-177923 (P2006-177923A)
登録日 平成23年2月25日(2011.2.25)
発行日 平成23年5月25日(2011.5.25)
公開日 平成18年7月6日(2006.7.6)
発明の名称または考案の名称 食肉の光学的鮮度識別法および装置
国際特許分類 G01N  21/27        (2006.01)
G01N  33/12        (2006.01)
FI G01N 21/27 B
G01N 33/12
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2005-143463 (P2005-143463)
出願日 平成17年5月17日(2005.5.17)
優先権出願番号 2004344653
優先日 平成16年11月29日(2004.11.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月9日(2008.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】泉本勝利
個別代理人の代理人 【識別番号】100113181、【弁理士】、【氏名又は名称】中務 茂樹
【識別番号】100114535、【弁理士】、【氏名又は名称】森 寿夫
【識別番号】100075960、【弁理士】、【氏名又は名称】森 廣三郎
審査官 【審査官】▲高▼場 正光
参考文献・文献 特開2004-173751(JP,A)
泉本勝利,“食肉の色調現象の化学的要因と特性化に関する研究”,岡山大学農学部学術報告,1993年,Vol.81,pp.81-100
M.Izumimoto 他,“Estimation of the base line imagined as a muscular background for myoglobin determination by reflectance spectrometry”,Animal Science Journal,2004年12月,Vol.75, No.6,pp.563-569
李在哲 他,“食肉の無色素と仮想される素地の反射率スペクトル特性”,日本畜産学会大会講演要旨,2001年 8月25日,Vol.99,p.79
調査した分野 G01N21/00-21/61
G01N33/12
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
食肉に光照射して得られる分光反射スペクトルのデータを用いる食肉の光学的鮮度識別方法であって、
前記分光反射スペクトルにおけるベースラインとして、短波長ほど反射率が低く、700nmの波長における反射率が45~55%である凸型の筋肉素地反射率曲線を用い、
前記食肉中に存在するミオグロビンの酸素型、還元型および酸化型の3成分の混在割合を下記式(9)を用いて算出し、前記混在割合から前記食肉の鮮度を識別することを特徴とする食肉の光学的鮮度識別方法
JP0004686714B2_000009t.gifJP0004686714B2_000010t.gif 上記式(9)において、oxyはミオグロビンの酸素型、redはミオグロビンの還元型、metはミオグロビンの酸化型を表す。λ、λ及びλは異なる波長を、λisoは等吸収点(isosbestic point)の波長を、それぞれ表す。Poxy、Pred、Pmetはミオグロビンの酸素型、還元型、酸化型の混在割合をそれぞれ表す。α’は、反射分光法における吸光係数αと等吸収点の吸光係数αλisoの比(α/αλiso)である。G’は、上記式(11)によって導かれる。上記式(11)において、Rは食肉の反射率を表し、βは筋肉素地反射率を表す。
【請求項2】
食肉に光照射して得られる分光反射スペクトルのデータを用いる食肉の光学的鮮度識別装置であって、
食肉に光照射を行う光源、該食肉からの反射光を受光する手段、受光された反射光をスペクトル分光する手段、分光反射スペクトルのデータを記憶する手段、データを用いて前記食肉に含まれるミオグロビンの酸素型、還元型、酸素型の3成分の混在割合を算出する手段、および該混在割合を出力する手段を備え
前記分光反射スペクトルにおけるベースラインとして、短波長ほど反射率が低く、700nmの波長における反射率が45~55%である凸型の筋肉素地反射率曲線を用い、下記式(9)に基づいて前記混在割合を算出するソフトウェアを備えていることを特徴とする食肉の光学的鮮度識別装置。
JP0004686714B2_000011t.gifJP0004686714B2_000012t.gif 上記式(9)において、oxyはミオグロビンの酸素型、redはミオグロビンの還元型、metはミオグロビンの酸化型を表す。λ、λ及びλは異なる波長を、λisoは等吸収点(isosbestic point)の波長を、それぞれ表す。Poxy、Pred、Pmetはミオグロビンの酸素型、還元型、酸化型の混在割合をそれぞれ表す。α’は、反射分光法における吸光係数αと等吸収点の吸光係数αλisoの比(α/αλiso)である。G’は、上記式(11)によって導かれる。上記式(11)において、Rは食肉の反射率を表し、βは筋肉素地反射率を表す。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は食肉等の鮮度を分光反射法によりリアルタイムで精度良く測定する方法及びかかる方法を使用する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の色は物理量の可視波長領域の反射率スペクトルによって決まる。食肉には色素であるミオグロビンとよばれるヘムタンパク質が含まれ、特有の色調を呈する。食肉は新鮮なときは鮮紅色であるが、鮮度が低下すると褐色様の好まれない色調になる。従って食肉の品質にとって色調に基づく鮮度管理は重要である。
【0003】
食肉はヘムタンパク質の含量が高いほど光吸収が強くなり、それにつれて反射率が低くなり明度が低下して暗色化する。またヘムタンパク質は種々の分子と結合し、結合分子とその状態によってそれぞれ異なった色調を有する種々の誘導体が形成される。食肉のヘムタンパク質の誘導体には還元型、酸素型、酸化型があり、これらが混在する割合で色調が変化する。食肉は新鮮なときには酸素型主体による鮮紅色を呈し、鮮度が低下すると酸化型が増えて褐色または暗褐色を呈すようになり、無酸素状態では還元型により紫赤色を呈する。このように食肉はヘムタンパク質誘導体の混在割合に応じて様々な色調を呈することになる。
【0004】
実際の流通においては経験則による食肉の鮮度測定方法が用いられている。この経験則による方法は牛肉色基準(B.C.S.)を用いて食肉の鮮度を視覚的に判定している測定者と同等の結果を測定できることを主たる目的としており、このタイプの食肉鮮度測定装置が特許文献1に開示されている。B.C.S.は本来の使用目的は枝肉の格付け評価に用いるものである。これは、と殺後1~2日の鮮度の極めて高い枝肉の色の濃さを判定するもので鮮度の低下で褐色の発現する酸化型ヘムタンパク質誘導体は全く考慮されていない色見本であり、これによって鮮度を判定することはできない。
【0005】
従って分光学的手段を用いて色調から食肉の鮮度、品質等の指標となる情報を科学的に得る方法の提案が種々行われている。
【0006】
この提案の一つに食肉のヘムタンパク質を溶液で抽出して、この溶液の吸光度から測定する方法がある。この吸光度法はBeer-Lambertの法則として確立された原理の応用であり、溶液についての測定値は正しい。しかしこの方法には次のような問題点がある。1)ヘムタンパク質は抽出中に空気との接触が避けられず還元型ヘムタンパク質は酸素型になるので還元型ヘムタンパク質を測定することが出来ない。すなわち抽出法では3成分うち2成分しか測定できない。2)通常ヘムタンパク質は完全には抽出できないので、定量値に誤差が生じる。3)包装肉など開封するとヘムタンパク質誘導体が変化するものには適用できない。4)測定時間に長時間を要するので迅速測定や多量測定ができない。5)抽出溶液の透過光の色調は食肉の反射光の色調と違うので、これらの色調を同一に扱うことができない。
【0007】
吸光度法はヘムタンパク質誘導体を測定するための測定原理は確立されているものの、食肉の場合は抽出過程など処理過程でその誘導体の割合が変化するので、ヘムタンパク質誘導体の還元型、酸素型、酸化型を正しく測定できない致命的欠陥がある。
【0008】
この吸光度法に替って固型状態のままで筋肉中のヘムタンパク質を直接分析する方法が反射分光法として提案されている。この反射分光法は溶液抽出を必要とせず食肉のままで測定できるので非破壊的方法であり、リアルタイムで大量測定ができることから有用な方法である。
【0009】
特許文献2には反射分光法を用いる技術が開示されているがこの技術では食肉の反射スペクトルを測定する際にベースラインが考慮されていない。また測定のための選定波長は474,572,597,614nmのように還元型、酸素型、酸化型ヘムタンパク質相互の等吸収点を利用するのでこれら3種の誘導体以外を測定することができない。さらにこれらの選定波長によれば測定機の波長精度が1nm以下の大型測定機または還元型、酸素型、酸化型ヘムタンパク質の測定に限定されたものであり、汎用性が全くない。
【0010】
特許文献3には酸化型ヘムタンパク質誘導体の割合を測定するために波長624,616,694,744nmにおける透過反射率の2次微分値から算出する方法が提案されている。これらの選定波長および透過反射率の2次微分値によって酸化型ヘムタンパク質誘導体の割合が算出できる科学的根拠が乏しく、得られた測定結果が正しいか検証することが困難である。また、食肉は還元型、酸素型、酸化型で大きく色調が異なるが酸化型ヘムタンパク質誘導体の割合しか測定できない。そこで、鮮度ならびにその色調の情報としては不十分である。624,616,694,744nm等の2次微分値を得るには1nm以下の波長精度が要求される測定法は大型機械となる。したがって、可搬性が望めないので流通現場での応用への発展が困難である。
【0011】
反射分光法においてベースラインとして筋肉素地反射率を使用する方法がKrzywickiにより提案されている(非特許文献1)。図1は食肉の反射率スペクトルであり、ヘムタンパク質含量が高いほど低い反射率スペクトルを示す。図1に示すように、全体的に長波長ほど高い反射率を示す。長波長側の反射率はヘムタンパク質の光吸収が少ないことを意味するので、筋肉素地反射率は図1のように700nm付近の反射率とみなした考えがある。Krzywickiは筋肉素地反射率のスペクトルが700nm付近の反射率と考えた(非特許文献1)。筋肉素地反射率はヘムタンパク質を含まない素地であるから、ヘムタンパク質含量の多少とは関係しない値である。しかし図のように700nm付近の反射率は食肉中のヘムタンパク質含量の多少によって、高いほど低い値となり、大きく異なるので筋肉素地反射率とみなすことができない。また図1から明らかなように筋肉素地反射率が全波長で一定の値を示すとしたのも科学的な根拠がない。
【0012】
反射分光法で食肉中のヘムタンパク質誘導体の測定において、525nmと575nmの2波長の反射率の値を用いて酸化型のみを測定した例が非特許文献2に記載されている。単純な酸化型のみの測定においても、食肉の明度の違い、すなわち食肉中のヘムタンパク質含量によって誤差が生じることが明らかになっている。
【0013】

【特許文献1】特開平4-350540号公報
【特許文献2】特開平3-96838号公報
【特許文献3】特開2003-121351号公報
【非特許文献1】Krzywicki,K. Meat Science, 3巻, 1-10頁,1979年
【非特許文献2】泉本勝利、日本農芸化学会誌、50巻,55-59頁,1976年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ヘムタンパク質の変化を科学的原理に基づいて精度よく測定するためには、反射分光法のベースラインとして筋肉素地反射率のスペクトルを考慮した関係式によって測定する必要がある。しかし波長依存性のある筋肉素地反射率はこれまで明らかにされていなかったので、科学的な根拠のある筋肉素地反射率の値は測定に考慮されていない。
【0015】
本発明は、上記課題に基づいてなされたものであり、科学的な根拠のある筋肉素地反射率をベースラインとして用いる反射分光法により食肉等生体組織に含まれる分光学的性質を有する物質の含量および混在割合を算出し、これらの数値から食肉等生体組織の鮮度をリアルタイムで精度良く識別することができることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、食肉に光照射して得られる分光反射スペクトルのデータを用いる食肉の光学的鮮度識別方法であって、前記分光反射スペクトルにおけるベースラインとして、短波長ほど反射率が低く、700nmの波長における反射率が45~55%である凸型の筋肉素地反射率曲線を用い、前記食肉中に存在するミオグロビンの酸素型、還元型および酸化型の3成分の混在割合を下記式(9)を用いて算出し、前記混在割合から前記食肉の鮮度を識別することを特徴とする食肉の光学的鮮度識別方法を提供することによって解決される。
JP0004686714B2_000002t.gifJP0004686714B2_000003t.gif 上記式(9)において、oxyはミオグロビンの酸素型、redはミオグロビンの還元型、metはミオグロビンの酸化型を表す。λ、λ及びλは異なる波長を、λisoは等吸収点(isosbestic point)の波長を、それぞれ表す。Poxy、Pred、Pmetはミオグロビンの酸素型、還元型、酸化型の混在割合をそれぞれ表す。α’は、反射分光法における吸光係数αと等吸収点の吸光係数αλisoの比(α/αλiso)である。G’は、上記式(11)によって導かれる。上記式(11)において、Rは食肉の反射率を表し、βは筋肉素地反射率を表す。
また、上記課題は、食肉に光照射して得られる分光反射スペクトルのデータを用いる食肉の光学的鮮度識別装置であって、食肉に光照射を行う光源、該食肉からの反射光を受光する手段、受光された反射光をスペクトル分光する手段、分光反射スペクトルのデータを記憶する手段、データを用いて前記食肉に含まれるミオグロビンの酸素型、還元型、酸素型の3成分の混在割合を算出する手段、および該混在割合を出力する手段を備え、前記分光反射スペクトルにおけるベースラインとして、短波長ほど反射率が低く、700nmの波長における反射率が45~55%である凸型の筋肉素地反射率曲線を用い、下記式(9)に基づいて前記混在割合を算出するソフトウェアを備えていることを特徴とする食肉の光学的鮮度識別装置を提供することによっても解決される。
JP0004686714B2_000004t.gifJP0004686714B2_000005t.gif 上記式(9)において、oxyはミオグロビンの酸素型、redはミオグロビンの還元型、metはミオグロビンの酸化型を表す。λ、λ及びλは異なる波長を、λisoは等吸収点(isosbestic point)の波長を、それぞれ表す。Poxy、Pred、Pmetはミオグロビンの酸素型、還元型、酸化型の混在割合をそれぞれ表す。α’は、反射分光法における吸光係数αと等吸収点の吸光係数αλisoの比(α/αλiso)である。G’は、上記式(11)によって導かれる。上記式(11)において、Rは食肉の反射率を表し、βは筋肉素地反射率を表す。
【0017】
反射分光法によるヘムタンパク質の測定のためには、その測定原理が科学的原理の理論に従うことで精度が向上し、具体的応用に合理的に発展できることになる。本発明の方法は、上記のように筋肉素地反射率に相当するβ値を解明し、これを用いることによりヘムタンパク質を科学的原理に基づいて精度よく測定する方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1)透過光に対する分光光度法に基づく多成分測定法と同等の原理を採用することができることから、筋肉素地反射率を反射スペクトル測定のベースラインとして演算式(10)に基づいて演算することによってから、リアルタイムで生体組織に含まれる分光学的性質を有する物質の含量および/または多成分の混在割合を算出することができ、従って生体組織の鮮度を科学的根拠をもって精度良く知ることが可能となる。特にヘムタンパク質誘導体である還元型、酸素型、酸化型各色素の混在割合を正確に算出することが可能となる。従って本発明によれば動植物の生体組織、特に食肉の品質評価や品質管理において極めて有益な情報を提供することができる。
【0019】
また本発明によれば以下のような効果が期待できる。2)反射分光法は非破壊法であるから、包装内容物に一切の処理を行うことなく、内容物の状態を直接測定することができる。3)加熱肉など加工中のニトロシイル(ニトロソ)ヘムタンパク質誘導体の形成割合である発色度を精度良く測定できる方法に適用できる。4)色調品質の管理情報として活用できる。例えば、ヘムタンパク質誘導体の酸素型よりも還元型および酸化型は色調品質が不良であるが、還元型であれば経時的に酸素型に変換されるので、還元型から酸素型に変化したときの良好な色調品質の予測による管理ができる。5)牛枝肉の格付けにおいて、牛肉色基準(B.C.S.)を用いて食肉の品質を視覚的に判定している。この格付けは新鮮肉で行うので、ヘムタンパク質誘導体は酸素型と還元型の混在である。したがって、鮮やかである酸素型が多いと良好と判定され、鮮やかでない還元型が多いと不良に判定される。還元型は酸素型に流通過程で変換されるので不合理な側面がある。本発明のシステムはヘムタンパク質誘導体の酸素型、還元型、酸化型の混在する色調から例えば酸素型の特定の誘導体の反射率スペクトルあるいは色調を予測することに発展できることから改善することができるので、格付けの不合理な判定を避けることができる。6)食肉のヘムタンパク質の誘導体の還元型、酸素型、酸化型の測定法は他の一酸化窒素型等の誘導体の割合にも同様方法で測定することができる。7)測定データをオンライン接続のコンピュータに取得し、コンピュータ演算によってリアルタイムに測定結果が得られる。8)本発明の演算式をプログラム演算することで誰でも瞬時に精度の高い測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明になる生体組織の光学的鮮度識別装置は、図2に示すように試験台上設置される被検体に対面して光照射を行う光源1を有する。光源は蛍光灯、ハロゲンランプ、発光ダイオード、有機EL、レーザー、フラッシュライトなどを用いることができ、白色光であってもフィルターにより制限される等の特定の単波長光であってもよい。測定目的に合わせて選択使用することができる。生体からの反射光は分光・受光部で分光・受光され、各波長毎に分光スペクトル分析が行われる。この情報は記憶装置3に記憶されると同時に演算手段4において所定の演算式に基づいて分光学的性質を有する物資の含量および成分の混合割合が計算される。この情報は出力手段5に送られ液晶表示、有機EL表示、発光ダイオード表示などで文字や画像情報として表示され、プリント機能を付設することにより紙記録も可能である。かかる装置は使用する目的に応じて固定設置型か携帯型かを選択することができる。
【0021】
測定機とコンピュータはオンライン接続され、測定データはリアルタイムに解析され、瞬時に多成分の混在割合を表示できる。ここで、測定データはコンピュータへの入力であり、解析結果の表示は出力となる。コンピュータが通信回線に接続されておればネットワークの活用により、国内はもとより全世界に解析結果を提供することができる。
【0022】
以下に本発明になる測定原理について詳述する。かかる原理の基本は反射率(R)を変数とする関数(G)がヘムタンパク質含量(C)と直線関係にあることによる。その関数はα,βを定数として、

G = f(R) (1)
G = α・C + β (2)

となる。βはC=0のときのGである。βはC=0のとき食肉中のヘムタンパク質が無いときの食肉の筋肉素地に相当するものであり実在しないので測定することはできない。この筋肉素地の反射率を「筋肉素地反射率」という。筋肉素地反射率は反射分光法の基線(ベースライン)として欠くことのできない値である。すなわち、反射率スペクトルの全波長でβを確定すると

(G - β)= α・C (3)

となり、左辺の(G - β)は原理的に確立されている吸光度法の吸光度係数と同等に扱うことができる。これによって反射分光法の測定の理論根拠が確立されるとともに測定精度の向上が期待されることになる。
【0023】
式(1)の関数の具体例を示す(非特許文献2)。K/S (吸収係数/散乱係数比)は反射率(R)から導かれ次式で示される。

G = K/S = (1 - R)2/(2R) (4)

K/Sはヘムタンパク質含量(C)との間に式(2)の関数Gに相当する直線関係が認められている。これによって、食肉中に含まれるヘムタンパク質含量が多少にかかわらず一定のβ値が求められ、β値から筋肉素地の波長525~575nmの反射率が40-43%になることが明らかにされている(非特許文献2)。
【0024】
筋肉素地反射率β値を式(3)に代入し、(G - β)をG'とおくと、G'はヘムタンパク質含量と直線関係になる。

G' = G - β = α・C (5)

【0025】
αは反射分光法における吸光係数である。任意の波長での値を意味するλを添え字で付記し式(6)となる。

G'λ = αλ・C (6)

【0026】
このことから、分光光度法の原理と同等に扱うことができ、食肉中のヘムタンパク質誘導体の還元型、酸素型、酸化型の混在割合を測定できる。その式をマトリクス表記すると以下のとおりである。
JP0004686714B2_000006t.gifこの式において、Poxy、Pred、Pmetは求めるヘムタンパク質の誘導体の各々酸素型、還元型、酸化型の割合である。αは反射分光法の吸光係数であり、添え字のλ付の異なる数値は異なる波長を示す。G'は式(5)で示される反射率(R)から導かれる関数の値、Cはヘムタンパク質含量である。
【0027】
食肉のヘムタンパク質の誘導体が酸素型、還元型、酸化型のとき、波長525nmの反射率(R)は等しく、等吸収点(isosbestic point)とよばれる。すなわち、波長525nmの反射率はヘムタンパク質の誘導体に依存しないで、その含量(C)のみに依存する。そこで、式(6)より、添え字λisoを用いて等吸収点(isosbestic point)のときの値を示すと

G'λiso αλiso・C (8)

が得られる。
【0028】
式(8)はG'λisoが含量(C)と正比例することを示している。したがって、式(7)の含量(C)の代わりにG'λisoを用い、新たに得られる左辺の係数をα'とおけば、次式が得られる。

JP0004686714B2_000007t.gif式(9)はCの代わりにG'λisoを用いることによって、含量(C)を測定しないで、ヘムタンパク質の誘導体の役割(Poxy、Pred、Pmet)を求める式である。
【0029】
式(9)の関係式は透過光の分光光度法による多成分測定法の原理と同等である。したがって、測定に用いる選定波長を特定する必要がなく従来法の特定波長を指定する方法よりも自由度が高いので、測定波長間隔の広い測定機でも精度良く測定できる。
【0030】
式(9)のPoxy、Pred、Pmetは変数であるが、これら以外はすべて反射率スペクトルのみから導かれる値である。また右辺は測定値である。そこで、この式を解くことによって反射率スペクトルのデータのみで変数Poxy、Pred、Pmetが定まる。すなわち、Poxy、Pred、Pmetの値が定まるとヘムタンパク質の誘導体の各々酸素型、還元型、酸化型の割合は反射率スペクトルのみから算出され、迅速かつ精度の高い食肉の鮮度測定が可能になる。
【0031】
以上より生体組織に含まれる分光学的性質を有する多成分系の物質については、式(10)の一般式が適用できる。
JP0004686714B2_000008t.gifなお、式中の記号は前記と同じである。
【0032】
反射分光法のベースラインとなる無色の構造成分と仮想される筋肉素地の反射率スペクトルは非実在で不明である。そこで反射分光法によるミオグロビン測定のための筋肉素地と仮想されるベースラインは次のように推定した。
【0033】
このベースラインの反射率スペクトルは漂白肉の類推として解析され、この漂白肉の変化を解析したしたところ、図3に示される濃い曲線の特性が得られた。図3の淡灰色の曲線は食肉の漂白試料についての多数の反射率スペクトルを示している。漂白試料はヘムタンパク質が漂白されているので図1に見られるようなヘムタンパク質の光吸収が認められず滑らかな曲線を示している。また、短波長ほど反射率が低い、上に凸の曲線となっている。
【0034】
これらの反射率特性のうち、ヘムタンパク質を含まない筋肉素地の反射率スペクトルは漂白試料(図3の700nmの反射率が55%付近)よりも低く、ヘムタンパク質を含む実在の食肉(図1の700nmの反射率が45%付近)よりも高い反射率スペクトルになる。このことから筋肉素地の反射率スペクトルは、700nmの反射率が約45%から約55%の限られた範囲の曲線になると推定される。しかし測定器の反射光の測定方式によりかなりの相違があり、このことを考慮すれば筋肉素地の反射率は大凡40%から60%の範囲にあるとみなされる。
【0035】
筋肉素地の反射率スペクトルは波長の4乗の逆数値との間に直線関係となる式で示される。CIE三刺激値の逆数である1/Yと1/Xの間に直線関係が認められ、筋肉素地スペクトル特性の直線関係と食肉の直線関係が認められる。これら両者の直線の交点は筋肉素地に相当することを意味し、交点の値は1/Y=2.25、1/X=2.23となり、図3のスペクトル特性のうち700nmの反射率が50%のスペクトルに対応する。CIE色調値と逆反射率についての特性解析によって得られた筋肉素地のスペクトルはβ値(式2)に対応し、反射分光法のベースラインとして適合することが認められた。
【実施例】
【0036】
以下に、食肉試料に含まれるヘムタンパク質誘導体の含有割合の算出について実施例を挙げて詳述する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例においては、筋肉素地反射率スペクトル特性曲線(図3)のうち700nmの反射率が50%である特性曲線を選択した。食肉試料は市販の牛肉の腿部および背部(胸最長筋)を縦3cm×横5cm×厚さ1cmに切断したものをクレラップ(呉羽化学工業製)で包み、用いた。分光反射スペクトルは反射分光測定機(ミノルタCM1000型)によって400~700nmの波長範囲で測定した。食肉試料に含まれるヘムタンパク質誘導体の含有割合は得られたデータから上記式(5)および(9)の関係式を用いて算出された。またカラーバリューはCIELAB1976 カラーシステムによった。
【0037】
(食肉試料のヘムタンパク質誘導体が酸素型の場合)
計算の結果は図4に示されている。図の横軸L*はJIS Z8729で定義されている明度であり、縦軸は誘導体の割合である。図のように明度が大きく異なった食肉、すなわち食肉が極めて濃い色調から明るい色調のすべての食肉において、ヘムタンパク質誘導体が酸素型であることが明瞭に区別されて測定されている。一方、還元型および酸化型のヘムタンパク質誘導体は0%付近の値で明瞭に識別測定されている。
【0038】
(食肉試料のヘムタンパク質誘導体が還元型の場合)
計算の結果は図5に示されている。試料および測定装置は実施例1と同様である。図の横軸L*はJIS Z8729で定義された明度であり、縦軸は誘導体の割合である。還元型が明瞭に区別されて測定されている。一方、酸素型および酸化型のヘムタンパク質誘導体は0%付近の値で測定されている。
【0039】
(食肉試料のヘムタンパク質誘導体が酸化型の場合)
計算の結果は図6に示されている。試料および測定装置は実施例1と同様である。図の横軸L*はJIS Z8729で定義された明度であり、縦軸は誘導体の割合である。酸化型が明瞭に区別されて測定されている。一方、酸素型および還元型のヘムタンパク質誘導体は0%付近の値で明瞭に識別測定されている。
【0040】
(新鮮な牛腿肉のヘムタンパク質誘導体割合の貯蔵中の変化)
計算結果は図7に示されている。測定機は実施例1と同様である。経時的に還元型が酸素型に変化し、良好な鮮紅色の発現が認められる。また、酸化型への変化が認められないので、鮮紅色で新鮮な色調の食肉として明瞭に識別される。
【0041】
(新鮮でない牛腿肉のヘムタンパク質誘導体割合の貯蔵中の変化)
計算結果は図8に示されている。測定機は実施例1と同様である。経時的に還元型が減少するが、酸素型への変化がわずかで、良好な鮮紅色の発現が認められない。一方、酸化型の増加が著しく、褐色化した鮮度が不良の食肉として明瞭に識別される。
【0042】
本発明の測定法は食肉中のヘムタンパク質含量に依存せず、食肉全般に適用できる。従来法(特許文献1、2、3、非特許文献1)はどの程度の明度に適用できるか明示的に示されていないが、科学的原理において「筋肉素地反射率」を考慮しないと食肉の明度によって、測定値が変動することは避けられないことになる。精度が低いと食肉試料のヘムタンパク質誘導体の酸素型、還元型、酸化型の3種すべてを精度良く測定できないので、例えば食肉中では酸素型、還元型、酸化型の3種が混在しているにもかかわらず、酸化型のみの測定のように限定されたものになる。本方法によれば図4,図5,図6に示すように、ヘムタンパク質誘導体の酸素型、還元型、酸化型の3種すべてを精度良く測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の測定法はリアルタイムにヘムタンパク質誘導体の酸素型、還元型、酸化型の3種すべてを精度良く測定できる。本方法は抽出法では不可能である包装肉中のヘムタンパク質誘導体を開封することなく非破壊測定ができ、試料を採取して研究室などに移動・搬入して分析に供することなく産業界の工場ラインの現場に適用できる。リアルタイム測定が可能なので、大量迅速な測定が可能であるので、従来の抜き取り検査等による統計的手法による推計では、不良品の割合が推定できるものの不良品そのものの排除ができないが、本方法は全検査ができるので、その場で不良品を特定できる。
【0044】
本発明の測定法は科学的原理を適用した測定法である。したがって、本発明は動物生体に限らず、例えば果物の変色をともなう鮮度や熟度の識別測定へ応用し、色調品質と化学成分の要因の関連性をもとに果物のような農産物の管理システムに活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】食肉の反射スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の光学的鮮度識別装置の概略を示す図である。
【図3】食肉の筋肉素地の反射スペクトルを示す図である。
【図4】食肉の酸素型ヘムタンパク質の誘導体割合と明度との関係を示す図である。
【図5】食肉の還元型ヘムタンパク質の誘導体割合と明度との関係を示す図である。
【図6】食肉の酸化型ヘムタンパク質の誘導体割合と明度との関係を示す図である。
【図7】新鮮である食肉のヘムタンパク質の誘導体割合の貯蔵中変化を示す図である。
【図8】新鮮でない食肉のヘムタンパク質の誘導体割合の貯蔵中変化を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 光源
2 分光・受光部
3 記憶装置
4 演算手段
5 出力手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7