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明細書 :蛍光性アミノ酸誘導体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4392502号 (P4392502)
公開番号 特開2006-342299 (P2006-342299A)
登録日 平成21年10月23日(2009.10.23)
発行日 平成22年1月6日(2010.1.6)
公開日 平成18年12月21日(2006.12.21)
発明の名称または考案の名称 蛍光性アミノ酸誘導体
国際特許分類 C09B  15/00        (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
C07K   1/13        (2006.01)
C07D 221/18        (2006.01)
FI C09B 15/00 CSP
C09K 11/06
G01N 21/78 C
C07K 1/13
C07D 221/18
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2005-171019 (P2005-171019)
出願日 平成17年6月10日(2005.6.10)
審査請求日 平成18年3月27日(2006.3.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】瀧 真清
【氏名】宍戸 昌彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100129160、【弁理士】、【氏名又は名称】古館 久丹子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査官 【審査官】岩井 好子
参考文献・文献 特開2005-287327(JP,A)
特開2005-500406(JP,A)
特開2001-11078(JP,A)
特開2001-526290(JP,A)
特表2005-527212(JP,A)
調査した分野 C09B 15/00
C07D 221/18
C07K 1/13
C09K 11/06
G01N 21/78
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体であって、水・エタノール(体積比1:1)の混合溶液中での極大吸収波長が420~520nmのいずれかである蛍光物質。
【請求項2】
前記アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体が、以下の式(I)~(III)のいずれかで表される請求項1に記載の蛍光物質:
【化1】
JP0004392502B2_000017t.gif
【化2】
JP0004392502B2_000018t.gif
【化3】
JP0004392502B2_000019t.gif
[式(I)~(III)において、Rは、水素原子、又はアミノ保護基、Rは、水素原子、又はカルボン酸エステル構造を表す。Rは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基若しくはアラルキルオキシ基、あるいは糖の残基を表す。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光物質を含む試薬。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の蛍光物質が、C末端、N末端又は内部に組み込まれてなる蛍光性ペプチド鎖あるいはタンパク質。
【請求項5】
さらに、請求項1若しくは2に記載の蛍光物質と干渉作用を有する他の蛍光物質又は消光物質を含んでなる請求項4に記載のペプチド鎖あるいはタンパク質。
【請求項6】
ハロナフタレン誘導体及び3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルとのカップリングにおいて、CuO及びエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いる工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光物質の製造方法。
【請求項7】
ハロナフタレン誘導体が、3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸であり、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルが、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステルであり、エチレングリコールモノアルキルエーテルが、メトキシエタノールである請求項6に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光を発するマーカーとして使用可能な新規蛍光性アミノ酸誘導体に関する。具体的には、水・エタノール(体積比1:1)の混合溶液中での極大吸収波長が420~520nmのいずれかであるアミノ酸置換ベンゾアクリドン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質などの生体分子の動態を調べる場合、又は、生体分子間の相互作用は、蛍光体あるいは蛍光色素で分析対象物を標識する蛍光強度測定法が多く用いられている。このような蛍光色素としては、Alexa Fluor、BODIPY FL、Cascade Blue、FITC、Oregon Green、RITC、Texas Red、TRITC、Coumarin Maleimide、Cy Dye、Dansyl Chloride、Dansyl Hydrazineなどを用いることができる。
機能側鎖を持つ非天然アミノ酸を合成し、それらを天然のアミノ酸と同様に位置特異的に導入したり、ペプチド合成系に導入することで、タンパク質の機能をほとんど損なわずにさまざまな機能基を導入することができる。例えば、タンパク質の特定部位に蛍光性物質を結合した非天然アミノ酸を組込んだり、蛍光性非天然アミノ酸をペプチド合成系に適用することができれば、生体分子の動態解析や生体分子間の相互作用の解析が、簡便かつより的確に行われることが期待される。
【0003】
共焦点顕微鏡やマイクロプレートリーダーなどの汎用の測定器を用いて測定を行うためには、対象とする蛍光色素が可視光領域に吸収を持つことが望まれる。一般的に知られている可視光で励起可能な蛍光色素は、その分子構造が極めて大きいため、タンパク質合成系を用いて蛍光ラベルするのは不向きである。またタンパク質を標識した場合、従来の幾つかの蛍光物質は光安定性に問題があり、失活しやすく、生体分子の動態や相互作用の観測中に消光しやすいという欠点がある。
【0004】
アクリジン骨格を有する蛍光性アミノ酸の合成に関する報告がある(非特許文献1)。特徴的な蛍光寿命を有する新規アクリドン色素誘導体が開示されている(特許文献1)。また、特許文献1には、異なる蛍光性アクリドン色素誘導体セットに関し、各色素の蛍光寿命が変化する特徴を有し、マルチパラメーター分析に特に有用であるアクリドン色素誘導体についても報告されている。しかし、これらに報告された蛍光性アミノ酸あるいはアクリドン色素誘導体は、紫外光でのみ励起可能であり、可視光で励起することはできない。一方、可視光で励起可能であり、光安定性を高めた蛍光物質として、BODIPY(R)(Molecular Probes社)骨格を有する化合物が市販されている。該化合物は、モル吸光係数及び蛍光の分子収率が大きいため、強い蛍光を発するものの、側鎖のサイズが大きく、タンパク質導入によりタンパク質の高次構造を破壊してしまうため、タンパク質内部への導入が困難である。

【非特許文献1】Helvetica Chimica Acta., 86, 3326 (2003)
【特許文献1】特表2005-500406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、可視光で励起可能であり、光安定性がより高く、蛍光寿命が長い蛍光物質を提供することを課題とする。さらには、ペプチド合成系に適用可能な非天然アミノ酸からなる蛍光物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、蛍光性アミノ酸で可視光で励起可能であり、光安定性を増すために、可能な限り分子量の小さい蛍光物質を模索したところ、アクリドン骨格を有する化合物をアラニンで置換し、さらにベンゼン環を縮合させ縮合多環芳香族とすることで、上記課題を解決しうる蛍光物質を提供することに成功し、発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は以下よりなる。
1.アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体であって、水・エタノール(体積比1:1)の混合溶液中での極大吸収波長が420~520nmのいずれかである蛍光物質。
2.前記アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体が、以下の式(I)~(III)のいずれかで表される前項1に記載の蛍光物質:
【化1】
JP0004392502B2_000002t.gif
【化2】
JP0004392502B2_000003t.gif
【化3】
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[式(I)~(III)において、Rは、水素原子、又はアミノ保護基、Rは、水素原子、又はカルボン酸エステル構造を表す。Rは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基若しくはアラルキルオキシ基、あるいは糖の残基を表す。]
3.前項1又は2に記載の蛍光物質を含む試薬。
4.前項1若しくは2に記載の蛍光物質が、C末端、N末端又は内部に組み込まれてなる蛍光性ペプチド鎖あるいはタンパク質。
5.さらに、前項1若しくは2に記載の蛍光物質と干渉作用を有する他の蛍光物質又は消光物質を含んでなる前項4に記載のペプチド鎖あるいはタンパク質。
6.ハロナフタレン誘導体及び3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルとのカップリングにおいて、CuO及びエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いる工程を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の蛍光物質の製造方法。
7.ハロナフタレン誘導体が、3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸であり、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルが、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステルであり、エチレングリコールモノアルキルエーテルが、メトキシエタノールである前項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアラニン置換ベンゾアクリドン誘導体(以下、単に「本発明の蛍光物質」という場合もある。)は、可視光で励起可能であり、光安定性がより高い蛍光物質である。本発明の蛍光物質は、Boc又はFmoc保護蛍光アミノ酸として利用することができ、ペプチド自動合成機を用いて蛍光性ペプチドを大量に合成することができる。蛍光性ペプチドは、各種分析、検査等に広く活用される。例えば、異なる波長領域に吸収及び発光波長を有する既存の蛍光物質と、本発明の蛍光物質を1分子のペプチド又はタンパク質に組み込むことで、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を起こすことができる。また、本発明の化合物は蛍光寿命が長いため、あまり精製されていない生体試料から目的物質を検出する場合、生体試料が有する蛍光性のバックグランドノイズを低下させた後であっても、本発明化合物は蛍光を持続させることができ、時間分解測定を行うことで感度良く検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の蛍光物質は、以下の式(I)~(III)のいずれかで表されるアラニン置換ベンゾアクリドン誘導体である。式(I)~(III)において、Rは、水素原子、又はアミノ保護基、Rは、水素原子、又はカルボン酸エステル構造を表す。アミノ保護基は、特に限定されないが、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ベンジルオキシカルボニル基、トシル基又はt-ブトキシカルボニル(Boc)基、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基等により保護される。カルボン酸エステル構造は、特に限定されないが、例えば置換された若しくは未置換のアルキルエステル(例えばメチルエステル、エチルエステルなど)、アリールアルキルエステル(例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステルなど)が挙げられ、ニトロ基、シアノ基等を含んでいてもよい。Rは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基若しくはアラルキルオキシ基、あるいは糖の残基を表す。ここで、糖の反応残基とは糖とベンゾアクリドン誘導体との反応により糖分子から一個の水酸基が脱離した構造の糖をいう。糖としては、単糖類や二糖類が挙げられ、具体的にはグルコース、フラクトース、ガラクトースなどの単糖類や、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロースなどの二糖類が好ましい。式(I)~(III)で表される化合物として、L体、D体又はラセミ体が挙げられ、好ましくはL体が挙げられる。
【化4】
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【化5】
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【化6】
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【0010】
本発明の蛍光物質は、例えば水・エタノール(体積比1:1)の混合溶液中で、極大吸収波長が420~520nm、好適には455~488nmから選択される波長で、可視光で励起可能であり、具体的には波長455nm、468nm、488nm等での励起が可能である。また本発明の蛍光物質の蛍光スペクトルは、500~600nmであり、特に500~525nmの蛍光を発する。
【0011】
本発明の蛍光物質は、さまざまな標的生物材料を標識し、蛍光特性を与えることができる。本発明の蛍光物質は、アラニンで置換されているため、Boc又はFmoc保護蛍光アミノ酸として利用することができ、ペプチド自動合成機を用いて蛍光性ペプチドを大量に合成することができる。ペプチドの合成方法は、自体公知の方法を用いて行うことができる。さらに、自体公知の方法により、タンパク質に組み込むこともできる。
【0012】
蛍光性ペプチドは、例えば蛍光性ペプチドプローブ、合成基質、消光性蛍光基質等として利用することができる。例えば、蛍光性ペプチドプローブの場合は、ペプチドの構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の特性変化として検出するセンサー分子として利用することができる。また、蛍光性ペプチドプローブを抗原として抗原抗体反応をさせることで、抗体と抗原の相互作用を解析することができ、同様に特定のタンパク質受容体と該タンパク質の相互作用等を解析することもできる。
【0013】
FRET用蛍光基質については、本発明の蛍光物質をC末端、N末端又はペプチド鎖内部に組み込み、さらに前記蛍光物質と干渉作用を有する他の蛍光物質を含む蛍光性ペプチド鎖を合成することにより調製することができる。本発明の蛍光物質に対して、干渉作用を有する他の蛍光性物質の例として、極大吸収波長が420nmよりも短い波長領域にあり、発光波長が420~500nmの蛍光物質が挙げられ、具体的にはアントラセン骨格、9,9,10-ジヒドロ-9-オキソアクリジン(9,9,10-dihydro-9-oxoacridin)骨格、2-(メチル)アミノ-ベンズアミド(2-(Methyl)amino-benzamide)骨格を持つアミノ酸が挙げられる。本発明の蛍光物質と、干渉作用を有する他の蛍光物質の間に、例えば特定のプロテアーゼにより切断されるようなアミノ酸配列を設けたペプチドを合成することで、両蛍光物質の干渉作用を利用し、プロテアーゼの作用を解析することができる。
現在、既存の蛍光物質を組み込んだ蛍光性ペプチドは、既に実用化されているものの、本発明の蛍光物質により、さらに有用な蛍光性ペプチドを合成することができる。
【0014】
本発明の蛍光物質は、上述したように可視光領域で励起可能であるので、汎用されている測定機器を用いて、各種測定及び検出することができる。また、生体試料は夾雑物質を多く含み、測定対象物以外の夾雑物質には蛍光性物質が含まれている可能性があり、測定系においてバックグラウンドノイズを低減化させることは重要な課題であった。生体試料中の夾雑物質が発する蛍光の蛍光寿命は、0~5ナノ秒程度であり、本発明の蛍光物質の蛍光寿命は、10~20ナノ秒程度である。本発明の蛍光物質を各種測定、検出等の分析に利用すると、夾雑物質の蛍光が消光した後に、本発明の蛍光物質で標識された測定対象物の蛍光を検出することができる。これにより、バックグラウンドノイズが軽減された状態で、特異性があり、感度の高い検出系を確立することができる。
【0015】
このように、本発明の蛍光物質は、1分子のペプチドやタンパク質に組み込むことができる。本発明の蛍光物質はこのような蛍光性ペプチドやタンパク質を調製するための蛍光性試薬としても提供することができる。
【0016】
本発明の蛍光物質の合成方法の代表的なスキームを図1に示す。
図1において、3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸は、ハロナフタレン誘導体の具体例を示すものである。また、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステルは、3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルの具体例を示すものである。
【0017】
本発明は、アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体の製造工程中、ハロナフタレン誘導体及び3-(4-アミノ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エステルとのカップリング工程において、CuO及びエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いることを特徴とする。従来のジメチルホルムアミド(DMF)及びCuを用いたカップリング法に比べ、CuO及びエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いることで、収量において大幅な改善がなされる。ここにおいて、エチレングリコールモノアルキルエーテルの具体例として、メトキシエタノールが挙げられる。
【実施例】
【0018】
本発明の蛍光物質について、以下に実施例により、合成方法、本蛍光物質の特性等を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0019】
(実施例1)アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体の合成
1)3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸の合成
【0020】
【化7】
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【0021】
PCl5にPOCl3を加え、その後乾燥させた3-ヒドロキシ-ナフトエ酸(3-hydoxy-2-naphtoic acid)を加えた。スパチュラ一杯程度のセタブロン(cetavlon)を加え、窒素置換を行った後170~180℃で8時間還流を行った。反応後、氷上に反応溶液を少しずつ滴下し、黄白色の物質を確認した。その後60~70℃で加温し、反応を完全に終了させた後、3000rpmで5分間遠心分離し、沈殿物を回収した。回収した沈殿物に微少量のアンモニア水及び適量の蒸留水を加えて沈殿を溶解し、得られた溶液を3000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後の上清を0.25N 塩酸水溶液に滴下した。このときpHが酸性になっていることを確認した。溶液中の沈殿及び浮遊物をさらに3000rpmで5分間遠心分離し、沈殿物を回収した。回収した沈殿物をエタノール及び蒸留水で再結晶させた。
【0022】
再結晶後の生成物を蒸留水で洗浄後、十分乾燥させ、生成物をEI-MASSスペクトルで分析し、3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸(3-Chloro-naphthalene-2-carboxylic acid, CNCA)を得た。
【0023】
2)Boc-3-(4-ニトロ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステル(Boc-3-(4-Nitro-phenyl)-2-tert-butoxycarbonylamino-propionic acid ethyl ester :Boc-ntrPhe-OEt)の合成
【0024】
【化8】
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【0025】
Boc-ntrPheを少量の酢酸エチルに溶かし、ジシクロヘキシルアミン(DCHA)を少量ずつ加え室温で攪拌し、Boc-ntrPhe-OH.DCHAの結晶を析出させた。得られた結晶を7.5 g(15.3 mmol)及び臭化エチル(EtBr)を8.5 ml(114 mmol)、ジメチルホルムアミド(DMF)を25 ml加えて一晩攪拌し、溶媒をエバポレータにより除去し、得られた物質をH-NMRスペクトルで分析した。その結果、4.2 ppm付近及び1.3 ppm付近に、エチル基の特徴的なピークが現れ、Boc-ntrPhe-OEtを合成することができた。
【0026】
3)Boc-3-(4-ニトロ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステル(Boc-3-(4-Nitro-phenyl)-2-tert-butoxycarbonylamino-propionic acid ethyl ester: Boc-ntrPhe-OEt)の水素転換反応
【0027】
【化9】
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【0028】
Boc-ntrPhe-OEtを1g、DMFを30 ml、及びパラジウム-炭素(Pd-C)を0.05gを混合し、風船で水素置換し、8時間程攪拌した。このとき2時間おきに水素を交換した。生成物をH-NMRスペクトルで分析した。
【0029】
4)Boc-aminoPhe-OEtと3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸のUllmannカップリング
【化10】
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【0030】
表1に従い、2-メトキシエタノール以外の試薬を混合した。フラスコ内を窒素置換し、2-メトキシエタノールを加え、120℃で還流した。1時間30分後に展開溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=2:1)で、CNCAに由来するスポットが消失するのを確認して反応を停止した。反応溶液を綿及びセライトでろ過し、Cuを除去した。得られたろ液を15ml蒸留水に滴下した。沈殿が認められた懸濁液を3000rpmで5分間遠心分離し、沈殿を回収した。酢酸エチルにこの沈殿を溶解し、5%KHSO4、4%NaHCO3、飽和NaClを用いて各々2回ずつ洗浄した。MgSO4で脱水後、カラム精製を行った。カラム精製は展開溶媒をクロロホルム:メタノール=8:2 → クロロホルム:酢酸エチル=9:1 → クロロホルム:メタノール=95:5の順序で行った。精製して得られた生成物をH-NMRで分析し、確認した。以下に示す比較例1では、DMF及びCuを使用してカップリングを行ったが、その収量はわずかであったのに対し、今回Cu2Oを添加し、溶媒をメトキシエタノールとした場合には、目的物の収量は205.7mgで、収率は57%であり、収量において大幅な改善が認められた。
【0031】
【表1】
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【0032】
5)Freidel環化反応
【化11】
JP0004392502B2_000013t.gif

【0033】
油浴中で60℃に加熱したポリリン酸(PPA)5.1mg(2.5ml)をBoc-aminoPhe-OEt.CNCA 200mgに加え、80℃で1時間攪拌し、反応させた。その後、反応液を蒸留水に加え、5%NaHCO3でpHを9~10に調整し、酢酸エチルで抽出した。抽出酢酸エチル溶液を展開溶媒(ジクロロメタン:メタノール=9:1)により確認したところ、Rf=0.6付近にほぼ1スポットで現れた。MgSO4で脱水後、エバポレータで溶媒を除去した。生成物をH-NMRで解析し、アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体(badAla-OEt)であることを確認した(図2)。
【0034】
(比較例1)Boc-aminoPhe-OEtと3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸のUllmannカップリング
【化12】
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【0035】
アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体の合成において、1)3-クロロ-ナフタレン-2-カルボン酸の合成、2)3-(4-ニトロ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステルの合成、及び3)3-(4-ニトロ-フェニル)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピオン酸エチルエステルの水素転換反応については、実施例1と同様に行った。
【0036】
表2に従い、DMF以外の試薬を混合し、よく乾燥させた。DMFを加え90℃で1時間加温した。その後、展開溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=2:1)で、CNCAに由来するスポットが消失するのを確認して反応を停止した。ろ過によりCuを取り除いたろ液を15mlほどの蒸留水を入れた遠心管に滴下した。蒸留水にろ液が入ると、灰色のような浮遊物が生じた。酢酸エチルにより抽出し、5%KHSO4、4%NaHCO3、飽和NaClでそれぞれ二回ずつ洗浄した。その後、MgSO4を加え脱水し、ろ過した。ろ液の展開溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=5:2)分析を試みたところ、3点の異なったスポットが確認できた。次に、ろ液を展開溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=5:2 Rf=0.7)にてカラム精製を行った。カラムに吸着しがちな物質があり、Rf値の最小のフラクションが完全に精製できなかったので、展開溶媒を酢酸エチル:メタノールにして2度目のカラム精製を行った。メタノールの割合を少しずつ増やし、精製して得られた生成物をH-NMRとMALDI-TOF-Massにより確認した。
H-NMRによる分析の結果、目的物が得られたことを確認したが、その収量はごく少量であった。
【0037】
【表2】
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【0038】
(実施例2)Boc-アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体の合成
【化13】
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【0039】
氷上でbadAla-OEt 100mg (0.28 mmol)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、攪拌しながらLiOH (1 M)を滴下し、氷上で2時間攪拌した。展開溶媒(ジクロロメタン:メタノール=8:2)において、ほぼ原点吸着物のみの1スポットを確認したのでエタノール基の脱離が完了したとした。(Boc)2O 90mg(0.41 mmol)をTHFに溶かし、氷上で攪拌しているフラスコに少しずつ滴下した。その後、pHが9になるまでLiOHを加えた。氷上で1時間攪拌した後、室温で一晩攪拌した。
反応終了後、THFをエバポレータで除去し、残留物を酢酸エチルに溶かし、5%KHSO4、4%NaHCO3、飽和食塩水で2回ずつ洗浄した。展開溶媒(ジクロロメタン:メタノール=8:2)で、4点ほどのスポットを確認した。生成物を、H-NMR解析した結果、Boc-アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体(Boc-badAla-OH)であることを確認した(図3)。
【0040】
(実験例1)吸収スペクトル
実施例2で調製したBoc-badAla-OHを、2.3×10-5Mの濃度で、エタノール、水及びエタノールと水を6:4の割合で混合した溶液の各液に溶解し、吸収スペクトルを日本分光社JASCO「V560」を用いて室温にて測定した。その結果、Boc-badAla-OHの極大吸収波長は460nm付近であり(図4)、455nm、468nm、488nmの励起が可能であることが示唆された。
【0041】
(実験例2)蛍光スペクトル
実施例2で調製したBoc-badAla-OHを、2.3×10-6Mの濃度で、エタノール、水及びエタノールと水を6:4の割合で混合した溶液の各液に溶解し、励起波長468nmとしたときの蛍光スペクトルを、Jobin-Yvon/堀場製作所ISA 「FluoroMax-2」を用いて室温にて測定した。その結果、Boc-badAla-OHは500~525nmの蛍光を発することが確認された(図5)。
【0042】
(実験例3)蛍光寿命について
実施例2で調製したBoc-badAla-OHを、濃度3×10-4Mの濃度で50mM PBS(pH7.0)に溶解し、励起波長は簡易型青色レーザー415nmとしたときの500nmにおける蛍光強度を、-30℃に冷却した浜松ホトニクス社 Hamamatsu 「microchannel photomultiplier tube」を用いて室温にて測定し、蛍光寿命を計測した。
その結果、得られた蛍光寿命は、τ=16.6ナノ秒であった。
一方、市販品であるBODIPYについては文献値で5.7ナノ秒(MeOH)、 FITCについては文献値で4.1ナノ秒(0.01M NaOH)であった。その他の主要な蛍光プローブ類の分光学的特性は、IOM GmbH社のホームページ(www.iom-berlin.de参照)に掲載されている。
【0043】
(実験例4)光安定性
実施例2で調製したBoc-badAla-OHを、1.2×10-6Mの濃度で水に溶解し、励起波長468nmを1時間照射し続けたときの光安定性を、測定機器 ISA 「FluoroMax-2」を用い、室温にて調べた。その結果、照射1時間後も実験開始時の蛍光強度の95%の強度を保持していた(図6)。これにより、badAlaは優れた光安定性を示すことが確認された。一方、市販品であるBODIPY及びFITCをTBS緩衝液で溶解し、FluoroMaxで測定したときの文献値は、各々88%及び85%であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、本発明のアラニン置換ベンゾアクリドン誘導体は、可視光で励起可能であり、光安定性がより高い蛍光物質である。本発明の蛍光物質は、Boc保護蛍光アミノ酸として利用することができ、ペプチド自動合成機を用いて蛍光性ペプチドを大量に合成することができる。また、本発明の化合物は蛍光寿命が長いため、あまり精製されていない生体試料から目的物質を検出する場合でも、生体試料が有する蛍光性のバックグランドノイズを低下させた後であっても、本発明化合物は蛍光を持続させることができ、感度良く検出することが可能となる。
これにより、本発明のアラニン置換ベンゾアクリドン誘導体は、タンパク質等の高分子化合物に標識した場合でも、汎用器を用いることができ、また蛍光安定性の面からも優れた試薬となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体の合成スキームを示す図である。
【図2】アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体のH-NMRでの解析結果を示す図である。(実施例1)
【図3】Boc-アラニン置換ベンゾアクリドン誘導体のH-NMRでの解析結果を示す図である。(実施例2)
【図4】本発明の蛍光物質の吸収スペクトルを示す図である。(実験例1)
【図5】本発明の蛍光物質の蛍光スペクトルを示す図である。(実験例2)
【図6】本発明の蛍光物質の光安定性を示す図である。(実験例4)
図面
【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
3
【図4】
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【図5】
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