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明細書 :新規微生物、その培養方法及びそれを用いた排水処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4759730号 (P4759730)
公開番号 特開2007-020500 (P2007-020500A)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
公開日 平成19年2月1日(2007.2.1)
発明の名称または考案の名称 新規微生物、その培養方法及びそれを用いた排水処理方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C02F   3/34        (2006.01)
C02F   3/00        (2006.01)
C02F   3/12        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12N 1/20 D
C12N 1/20 F
C02F 3/34 Z
C02F 3/00 G
C02F 3/12 B
請求項の数または発明の数 7
微生物の受託番号 IPOD FERM P-20571
IPOD FERM P-20592
全頁数 15
出願番号 特願2005-208812 (P2005-208812)
出願日 平成17年7月19日(2005.7.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年1月22日 社団法人日本農芸化学会中四国支部主催の「日本農芸化学会中四国支部 第11回講演会」講演要旨集23ページにおいて文書をもって発表
審査請求日 平成20年6月20日(2008.6.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】河合 富佐子
【氏名】劉 欣
【氏名】谷 明生
個別代理人の代理人 【識別番号】100113181、【弁理士】、【氏名又は名称】中務 茂樹
【識別番号】100114535、【弁理士】、【氏名又は名称】森 寿夫
【識別番号】100075960、【弁理士】、【氏名又は名称】森 廣三郎
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 特開2005-110667(JP,A)
日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会講演要旨集, 2004.3.5, pp. 93, 2A24p22
Environ.Pollut., 2004, Vol. 127, No. 3, pp. 425-430
調査した分野 C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)

特許請求の範囲 【請求項1】
好気的条件下において、下記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も資化する能力を有し、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM P-20571)である微生物。
【化1】
JP0004759730B2_000009t.gif
式(1)中において、Rは炭素数が4~24のアルキル基を示す。nは0又は自然数である。
【請求項2】
上記式(1)におけるn=10以上の化合物を資化する能力を有さない請求項1記載の微生物。
【請求項3】
前記式(1)におけるn=0、1又は2のいずれかの化合物を含有する培地を用いて培養する請求項1又は2記載の微生物の培養方法。
【請求項4】
酵母エキスを含有する培地を用いて培養する請求項1又は2記載の微生物の培養方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の微生物を用いて好気的条件下において前記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も分解させる排水処理方法。
【請求項6】
アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を浄化処理する際に、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物と、前記微生物とを共存させる請求項記載の排水処理方法。
【請求項7】
アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物を用いて処理した後に、さらに前記微生物を用いて処理する請求項記載の排水処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルフェノール及びアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを分解することの可能な新規微生物に関する。また、その培養方法及びそれを用いた排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルフェノールポリエトキシレートは界面活性剤として産業用、家庭用に幅広く、大量に使用されている。これらは水溶性物質であり、使用後は廃水などに含まれ、最終的には河川、海水などの自然水系に流出する結果になる。アルキルフェノールポリエトキシレートの大半がノニルフェノールポリエトキシレートであり、オクチルフェノーポリエトキシレートを含めるとほとんど全てを占める。アルキルフェノールポリエトキシレートのエトキシ鎖は活性汚泥で代謝されることや、PEG(ポリエチレングリコール)資化菌やPEG脱水素酵素の基質となることが広く知られている。例えば、自然水系からはポリエトキシ基が短縮したものやその末端アルコール基がカルボキシル化したものが検出されているのでアルキルフェノールポリエトキシレートはある程度の分解を受けると考えられる。しかし、ポリエトキシ基が短縮したものであるアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートの分解性は悪く、繰り返しエトキシ単位の数をnとしたときの、n=1又は2などの化合物を完全に分解するのは容易ではない。そのため、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートは代謝産物として蓄積することが報告されていて、汚泥処理廃水や環境水からも実際に使用されたポリエトキシレートではなく、ポリエトキシ鎖が短くなった代謝物が検出されている。
【0003】
これらの短鎖ポリエトキシレートは、元のアルキルフェノールポリエトキシレートよりも毒性が高く、アルキルフェノール同様に、エストロゲン様活性をもち、内分泌撹乱性物質であることが指摘されている。また、これらの物質はポリエトキシ鎖に由来する親水性が低下または消失して疎水性物質となるため、河川などの底泥や水生生物に蓄積しやすく、食物連鎖を通じて人間に影響を及ぼす危険性もある。嫌気分解ではn=2以下の短鎖ポリエトキシレートやそれらの代謝物がノニルフェノール(NP)にまで分解されたという報告がなされているし、ノニルフェノールについては原核および真核微生物で資化されるという報告もなされている。しかしながら、好気分解でのこれらの物質の分解に関連する報告は必ずしも多くない。実際の処理を考えると、活性汚泥と組み合わせた好気処理が、実用性が高い方法であると考えられるので、好気性菌による完全分解が望まれるところである。合成洗剤は使用後、ほとんどが廃水中に流出するが、その濃度は低く、このようなものに化学処理は適さず、生物処理がコストなどからみても実用的である。したがって、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートおよび最終産物であるアルキルフェノールを生物触媒で分解することは環境から合成洗剤由来内分泌撹乱性物質を除去するために有効である。活性汚泥処理などと組み合わせることにより、活性汚泥処理で発生する合成洗剤由来の内分泌撹乱性物質による2次汚染を防止する方法が強く望まれている。すなわち、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを酸化し、エーテル結合の短縮を行い、最終的に生じるアルキルフェノールをも資化分解することが可能な微生物が望まれている。
【0004】
非特許文献1には、シュードモナス・プッチーダ(Pseudomonas putida)S-5による、オクチルフェノールポリエトキシレート(n=2~8)の分解挙動が記載されている。それによれば、前記微生物による分解によって、n=4~8の化合物については経時的に量が減少するけれども、n=2及び3の化合物については経時的に量が増加することが示されている。また、n=0及び1の化合物については、全く生成していないことが示されている。すなわち、前記微生物は、n=4以上のオクチルフェノールポリエトキシレートは容易に分解するものの、n=3以下の化合物を分解することは困難であり、特にn=2の化合物は全く分解できないことが示されている。
【0005】
非特許文献2には、NP(ノニルフェノール)及びNP1EO(n=1:ノニルフェノールモノエトキシレート)がシュードモナス(Pseudomonas)sp. strain JC1によって好気的に分解されることが記載されている。しかしながら、当該文献に記載されている方法では、分解される化合物の濃度が非常に低く、実用的性能の面からは不十分である。また、NP2EO(n=2:ノニルフェノールジエトキシレート)の分解の可否については不明である。
【0006】
特許文献1には、新規な微生物の純粋培養物であるシュードモナス・ニトロレデュセンス(Pseudomonas nitroreducens)・TX1を用いてオクチルフェノールポリエトキシレートのエーテル結合を切断する方法が記載されている。当該方法は、1~3個のエトキシル単位を持つオクチルフェノール短鎖ポリエトキシレートのエーテル結合を好気的に開裂させるのに効果的であるとされている。しかしながら、オクチルフェノール短鎖ポリエトキシレートの具体的な分解率やオクチルフェノールの分解の可否については不明である。
【0007】

【特許文献1】特開2005-110667号公報
【非特許文献1】Hiroaki Sato外4名、「Characterization of Biodegradation Intermediates of Nonionic Surfactants by MALDI-MS. 2. Oxidative Biodegradation Profiles of Uniform Octylphenol Polyethoxylate in 18O-Labeled Water」、バイオマクロモレキュールズ(Biomacromolecules)、米国化学会、2003年、第4巻、p.46-51
【非特許文献2】S. Y. Yuan外2名、「Biodegradation of nonylphenol in river sediment」、エンバイロメンタル・ポルーション(Environmental Pollution)、オランダ、エルゼビア社(Elsevier Ltd.)、2004年、第127巻、p.425-430
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレート及びアルキルフェノールを好気的に分解することの可能な新規微生物を提供することを目的とするものである。また、そのような微生物の好適な培養方法、そのような微生物を用いた排水処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、好気的条件下において、下記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も資化する能力を有し、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM P-20571)である微生物を提供することによって解決される。このとき、下記式(1)におけるn=10以上の化合物を資化する能力を有さない微生物であることが好ましい。
【0010】
【化1】
JP0004759730B2_000002t.gif
式(1)中において、Rは、炭素数が4~24のアルキル基を示す。nは0又は自然数である。
【0013】
上記微生物の好適な培養方法は、前記式(1)におけるn=0、1又は2のいずれかの化合物を含有する培地を用いて培養する方法である。また、酵母エキスを含有する培地を用いて培養することも好ましい。
【0014】
また、前記課題は、上記微生物を用いて好気的条件下において前記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も分解させる排水処理方法を提供することによっても解決される。好適な実施態様では、アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を浄化処理する際に、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物と、前記微生物とを共存させる。また別の好適な実施態様では、アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物を用いて処理した後に、さらに前記微生物を用いて処理する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規微生物によれば、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレート及びアルキルフェノールを好気的に分解することができる。この微生物を用いて排水処理することによって、合成洗剤であるノニオン系界面活性剤の代謝過程で生成する内分泌撹乱物質を完全分解し、2次汚染を防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
下記式(1)で示される化合物はノニオン系の界面活性剤として広く使用され、排水中に混入することが知られている。式(1)において、nの値が大きいときには、当該化合物は水溶性を有していて、好気的条件化に水溶液中でそれを資化することの可能な微生物が比較的多く存在することが知られている。非特許文献1にも示されているように、上記式(1)の化合物の生分解メカニズムは以下のようであると推定されている。まず、式(1)の化合物の末端の水酸基が酸化されて、式(2)のカルボン酸になり、さらに酸化されながらグリオキシル酸(HCO-COOH)が脱離して式(3)の化合物になる。こうして得られた式(3)の化合物は、式(1)の化合物からエトキシ単位がちょうど1つだけ減少した構造の化合物である。このようなメカニズムに従った反応が繰り返されて、エトキシ単位が末端から1つずつ減少していきながら分解が進行していると考えられている。下記式(1)~(3)において、Rは、炭素数が4~24のアルキル基を示し、nは0又は自然数である。
【0017】
【化2】
JP0004759730B2_000003t.gif

【0018】
【化3】
JP0004759730B2_000004t.gif

【0019】
【化4】
JP0004759730B2_000005t.gif

【0020】
しかしながら、式(1)におけるnの数が小さくなるにしたがって化合物の疎水性が増して、微生物による資化が困難になる。このことは、式(1)においてnの値の小さい化合物が、代謝生成物として蓄積することを意味している。ところが、nの値の小さい化合物、すなわちアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートはエストロゲン様活性を有する内分泌撹乱性物質であることが知られており、さらにアルキルフェノール自体も同様に内分泌撹乱性物質である。したがって、自然界における生分解によっても、排水処理場における生分解によっても、分解の結果、内分泌撹乱性物質が蓄積しているのが現状である。このような状況に鑑み、本発明は、好気的条件下において、上記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も資化する能力を有する微生物を提供するものである。
【0021】
ここで、上記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も資化する能力を有するとは、例えば、Rがノニル基である場合には、ノニルフェノール(n=0)、ノニルフェノールヒドロキシエチルエーテル(n=1)及びノニルフェノールヒドロキシエトキシエチルエーテル(n=2)のいずれも資化する能力を有するということである。すなわち、従来分解が困難であった、内分泌撹乱性物質を完全に分解することが可能な微生物である。n=0、1、2及び3のいずれの化合物も資化する能力を有することがより好ましく、n=0~5のいずれの化合物も資化する能力を有することがより好ましい。また、上記式(1)におけるn=10以上の化合物を資化する能力を実質的に有さないものであることが好ましい。n=10以上の化合物を資化する能力を有する微生物は、比較的多く存在するので、本件発明の微生物が分解しなければならない必要性が大きくない。むしろ、内分泌撹乱性物質であるアルキルフェノール及びアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを好んで資化するものである方が好ましい。
【0022】
上記式(1)におけるRは、炭素数が4~24のアルキル基であればよく、分岐していてもいなくても構わないが、界面活性剤として広く使用されているものは分岐アルキル基であることが多い。また、不飽和アルキル基であってもよいが、安定性を考慮すれば飽和アルキル基である方が好ましい。Rは、ベンゼン環のどの位置に結合していても構わないが、界面活性剤としての効果の点からは、パラ位に結合していることが好ましい。Rの炭素数が4未満の場合には、界面活性剤としての効果が低下するので、分解する必要性が低下する。Rの炭素数は好適には6以上であり、より好適には8以上である。一方、Rの炭素数が24を超える場合には、工業的に製造することが困難になるので、やはり分解する必要性が低下する。Rの炭素数は好適には12以下であり、より好適には9以下である。工業的生産量の面から特に重要なものは、ノニル基とオクチル基であり、ノニル基が最も重要である。
【0023】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も資化する能力を有し、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM P-20571)である微生物を見出だし、本発明を完成したものである
【0026】
シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM -20571)は、下記の通りの菌学的性質を有するものである。以下の記載において、+は陽性を、-は陰性を意味する。
(細胞形態)
・桿菌 大きさ(約0.5×1.2μm)
・運動性 +
・グラム染色 -
・内生胞子 -
(生理的性質)
・硝酸塩から亜硝酸塩の生成還元 +
・カタラーゼ +
・オキシダーゼ +
・OFテスト 酸化型
・グルコースの分解(酸の生成) +
・グルコースの分解(ガスの生成) -
・酸素に対する態度 好気性
・生育温度 35℃以下
・至適pH 約7
【0027】
本菌株の表現形質による分類学的性質に基づき、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 1, N. R. Krieg, J. G. Holt, Williams & Wilkins, Baltimore (1984) 及びBergey’s Manual of Determinative Bacteriology(第9版), J. G. Holt, N. R. Krieg, P. H. A. Sneath, J. T. Staley, S. T., Williams, Williams & Wilkins, Baltimore (1994)を参考に分類・同定を行った結果、本菌株はシュードモナス(Pseudomonas)属と同定された。また、本菌株の16S rDNAの塩基配列を決定し、DNAデータベース(DDBJ)にアクセスして、Blastプログラムを用いて、16S rDNAの相同性検索を行った結果、シュードモナス・プッチーダ(Pseudomonas putida)に高い相同性を有したが(約99%)、完全には一致しなかった。これらの結果から、シュードモナス(Pseudomonas)sp.とするのが妥当と考えられる。
【0028】
なおシュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90は、平成17年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM -20571が付与された。
【0029】
本発明の微生物を培養する方法は特に限定されず、好気的条件下での一般的な培養条件での培養操作が採用できる。なかでも、前記式(1)におけるn=0、1又は2のいずれかの化合物を含有する培地を用いて培養することが好適である。こうすることによって、これらの化合物を資化するのに馴染んだ菌を育成することができ、排水処理等に使用する際に、すぐに効率的に目的化合物を分解することが容易になる。このとき、培地に含有させる化合物は、前記式(1)におけるn=0、1又は2の化合物のうちの1種だけでもよいし、2種でもよいし、3種とも含有させてもよい。例えば、処理対象の排水中のそれらの化合物の含有量などを考慮して決定される。通常、前記式(1)におけるn=0、1及び2の3種の化合物を全て含有させるのが好ましい場合が多い。また、酵母エキスを含有する培地を用いて培養することも好ましい。酵母エキスを含有させることで本発明の微生物の生育が良好となる。したがって、前記式(1)におけるn=0、1又は2のいずれかの化合物を含有し、さらに酵母エキスも含有する培地を用いて培養することが、特に好ましい。
【0030】
本発明の微生物は、他の微生物がノニオン系界面活性剤を分解した代謝産物であるアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを分解することができ、当該短鎖ポリエトキシレートのみならず、アルキルフェノール自体も分解することができる。したがって、本発明の微生物は排水処理に好適に用いることができる。特に、好気的条件下において前記式(1)におけるn=0、1及び2のいずれの化合物も分解する排水処理方法が、本発明の好適な実施態様である。
【0031】
好適な実施態様は、アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を浄化処理する際に、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物と、本発明の微生物とを共存させる排水処理方法である。例えば、一般の排水処理場で使用される活性汚泥によって、ポリエトキシ鎖の長い化合物のエトキシ単位は切断されて分解されるが、ポリエトキシ鎖の短い化合物は、活性汚泥によって分解されずに蓄積する。このとき、本発明の微生物を共存させることによって、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートも分解することができ、さらに分解して生成するアルキルフェノールも分解することができる。活性汚泥処理と同一装置で同時に排水処理を進められることから、効率の良い排水処理が可能である。このとき、別途培養した前記微生物を処理装置の中に添加することが好適である。添加するに際しては、分解状況や微生物の生育状況などに対応して、継続的にあるいは間歇的に添加することが好ましい。
【0032】
また、他の好適な実施態様は、アルキルフェノールポリエトキシレートからなるノニオン系界面活性剤を含有する排水を、ノニオン系界面活性剤を資化することの可能な他の微生物を用いて処理した後に、さらに本発明の微生物を用いて処理する排水処理方法である。本発明の微生物は、アルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを分解することができるが、このような化合物は界面活性剤そのものではなく、他の微生物によって分解して生成したものである。したがって、例えば活性汚泥処理などによって、そのようなアルキルフェノール短鎖ポリエトキシレートを産生させてから、それを本発明の微生物を用いて分解させるほうが効果的な場合がある。例えば、予め普通の活性汚泥処理を行い、引き続き前記微生物を共存させた活性汚泥処理を行うような方法が採用可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例における試験方法、分析方法は以下の要領で行った。
【0034】
[培地の組成]
「基礎塩培地」の組成は、以下のとおりである。また、「最適培地」では、前記「基礎塩培地」から、酵母エキスを0.2g/Lから5.0g/Lに増加させた。当該「最適培地」では、菌の生育が増加するとともに、分解率も維持されたので、菌体を得る場合などにはこの培地を使用するのが好ましい。
pH: 7.0
K2HPO4: 3.5 g/L
NaH2PO4: 2.2 g/L
(NH4)2SO4: 1.0 g/L
MgSO4・7H2O: 0.15 g/L
酵母エキス: 0.2 g/L
蒸留水
【0035】
[コロニーの状態]
上記「基礎塩培地」に、炭素源として後に説明する「NPEOav2.5」を0.1%加え、さらに寒天2%を加えて固化させた平板培地において、菌株を30℃で24時間培養した場合に形成されるコロニーを観察した。エンシファー(Ensifer)sp. AS08(受託番号FERM -20592)を培養した場合に形成されるコロニーは、直径:2.0-3.0mm、色調:クリーム色、形:円形、隆起状態:半レンズ状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:不透明、粘稠度:バター様、というものであった。また、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM -20571)を培養した場合に形成されるコロニーは、直径:3.0-5.0mm、色調:無色、形:円形、隆起状態:扁平状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:半透明、粘稠度:粘稠性、というものであった。いずれの菌も、コロニー周辺に透明環(ハロー)を形成した。
【0036】
[菌の同定]
形態は光学顕微鏡(オリンパス、BX50F4)または共焦点レーザー顕微鏡(ツアイス、LSM 510)で調べた。グラム染色その他は文献に従った。16S rDNA断片はuniversal oligonucleotide primers (Kano et al.)を用いてPCRで増幅させ、得られた断片の塩基配列をABI PRISMTM 377-18 DNAシーケンサーで分析して得られた塩基配列はBlast program(http://blast.genome.jp/)により相同性検索を行った。また、生理学的および生化学的性質は株式会社エヌシーアイエムビー(NCIMB)・ジャパンに依頼した。
【0037】
[HPLC分析]
試料から抽出されたジクロロメタン抽出液は硫酸ソーダで脱水し、濾過後、乾固させた。これを酢酸エチル-エタノール混液(98:2)に溶解して分析サンプルとした。液体クロマトグラフは東ソー(株)(PX8020 solvent programmer; CCPM multi-pump; SD-8020 online degasser; AS-8020 autosampler; CO-8020 column oven; PD-8020 multi-wavelength spectrophotometric detecter; and PD-8020 analysis program (version V04.31))を使用した。使用カラムはCOSMOSIL 5SL-II (ナカライ(株)、4.6 mm i.d. x 250 mm)を用いて、酢酸エチル-エタノール混液(98:2)を溶離液として1.0 ml/minで溶出した。ピークは281nmの吸収で検出した。分解率は次式で計算した。
分解率(%)=[1-(培養あるいは反応後のピーク面積/培養あるいは反応前のピーク面積)]×100
【0038】
[GC-MS分析]
試料から抽出されたジクロロメタン抽出液を乾固後、酢酸エチルに溶解し、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドとトリメチルクロロシランの等量混合液でトリメチルシリル誘導体とした。これをヒューレット・パッカード社製のGC-MSシステム(HP5980 Series2-HP5971)で分析した。使用カラムはヒューレット・パッカード社製HP-ultra2, 0.2 mm i.d. x 50mを用いた。キャリアーガスはヘリウムを流速1 ml/minで使用した。インジェクションはスプリットレスで行った。カラム温度は60℃、2 min後20℃/minで300℃まで上昇させ、300℃で13min維持した。マススペクトルの条件はイオン源温度、200℃; エレクトロン エネルギー、70eV; スキャンモード、MS/MS; スキャン速度、0.76 secとした。
【0039】
実施例1(ノニルフェノールポリエトキシレートおよび関連化合物への生育)
エンシファー(Ensifer)sp. AS08(受託番号FERM -20592)と、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90(受託番号FERM -20571)の2菌株について、下記のそれぞれの化合物を資化して生育することが可能かどうか試験を行った。
(1)「NPEOav2.5
日光ケミカルズ株式会社製ノニルフェノールポリエトキシレート「NP-2」。HPLC分析結果を図1に示すが、平均EO鎖長が2.5であったので、本明細書中では「NPEOav2.5」と示す。NPEOav2.5の組成はNP1EO: 6.9%、NP2EO: 32.6%、NP3EO: 39.0%、NP4EO: 16.2%、及びNP5EO: 5.3%からなり、NPは全く検出されなかった。
(2)「NP」
東京化成工業株式会社製4-ノニルフェノール(分岐側鎖を有する化合物の混合物)「N0300」。HPLC分析結果を図2に示す。
(3)「PEG400」
和光純薬工業株式会社製ポリエチレングリコール「161-09065」。平均分子量400。
(4)「NPEOs」
東京化成工業株式会社製ノニルフェノールポリエトキシレート「P0707」。平均EO鎖長約10。
(5)「Triton X-100」
東京化成工業株式会社製オクチルフェノールポリエトキシレート「P0873」。平均EO鎖長約10。
【0040】
「基礎塩培地」に上記の各物質を炭素源として0.1%加えてオートクレーブで滅菌し、上記2菌株をそれぞれ植菌し、28℃で10日間振盪培養を行った。このとき、ほとんど水に溶解しないNPEOav2.5と、NPについては超音波で数分処理し、均一に乳化させた後、植菌した。培養後に、菌の生育は、610nmの吸光度に基づく濁度を測定することによって評価した。NPEOav2.5とNPは培養後に白濁するので、等量のメタノールを加えてNPEOav2.5を溶かし培養液を透明にした後、吸光度を測定することによって行った。下記表1中では当該吸光度に2をかけたものを記載している。その他のものは、そのまま吸光度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0041】
【表1】
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【0042】
表1に示されるように、短鎖エトキシ体やノニルフェノールは毒性が高いためか、生育は良くないが、炭素源のないコントロール(none)と比べると、有意差があり、資化可能であることがわかる。これらの菌はエトキシ数が10のNPEOsやTriton X-100には生育できないのが、大きな特徴である。これらの菌はn=10のものには生育できないが、NPEOav2.5の各成分の分解から資化限界はn=6-10に存在すると考えられる。また、NPEOav2.5について、最適培地を用いて培養したところ、2菌株ともに、生育は最適培地では顕著に改善され、610nmの吸光度に基づく濁度が約3に増加した。
【0043】
参考例(NP1EOおよびNP2EOの分解と代謝物)
エンシファー(Ensifer)sp. AS08を、NPEOav2.5を0.1%添加した最適培地で、28℃で7-8日間振盪培養した。こうして培養された生育菌体は、遠心分離(8,000 g、20分)で集め、50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)で2回洗浄後、610nmの吸光度が約1になるように同じ緩衝液に懸濁させた。これに50ppmのNP2EOまたはNP1EOを加えて、28℃で振盪反応を行った。3日後に菌体を遠心分離で除去し、反応液を約半量に減圧下で濃縮し、pH7.0および2.0の条件でそれぞれ2回、約半量のジクロロメタンで抽出し、中性画分については前記の要領でHPLC分析し、酸性画分については前記要領でGC-MS分析した。
【0044】
図3に、NP2EOとその代謝物のHPLC分析の結果を示す。NP2EOは3日間で約75%が分解され、NP1EOとNPを生成した。図4に、NP1EOとその代謝物のHPLC分析の結果を示す。NP1EOは約80%以上分解し、代謝物としてはNPが生成した。図5にNP2EC, NP1EO, NP1ECおよびNPのマススペクトルを示す。NP2EOおよびNP1EOからの代謝物のGC-MS分析結果によって、NP2EOを基質としてNP2EC, NP1EO, NP1ECおよびNPが、NP1EOを基質としてNP1ECおよびNPが検出された。このことから下記化学反応式で示されるノニルフェノール短鎖ポリエトキシレートの代謝経路が明らかである。
【0045】
【化5】
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【0046】
実施例(ノニルフェノール短鎖ポリエトキシレート及びノニルフェノールの分解試験)
「最適培地」に、NPEOav2.5及びノニルフェノールを炭素源として0.02%加え、超音波で数分処理し、均一に乳化させた後オートクレーブで滅菌し、上記2菌株をそれぞれ植菌し、28℃で振盪培養を行った。NPEOav2.5を炭素源としたときには5日及び10日経過後に、ノニルフェノールを炭素源としたときには10日経過後に、それぞれ菌体を遠心分離で除去し、反応液を約半量に減圧下で濃縮し、pH7.0の条件でそれぞれ2回、約半量のジクロロメタンで抽出し、前記の要領でHPLC分析した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
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【0048】
表2に示されるように、2菌株のいずれも、NP1EOからNP5EOまでの全てのノニルフェノール短鎖ポリエトキシレートを分解することが可能であり、NPを分解することも可能である。表中、NP1EOの分解率がマイナス(すなわちピーク面積が増加)を示し、代謝物が一時的に蓄積したが、5日後よりも10日後の方がピーク面積が小さく、一旦蓄積したものが分解していることが示されている。また、シュードモナス(Pseudomonas)sp. AS90については、NP2EOの分解率が5日後よりも10日後の方が小さくなっており、NP3EO以上の分解でNP2EOが一時的に蓄積していることがわかる。また、エンシファー(Ensifer)sp. AS08の方がNP2EOやNP1EOの蓄積が少ない。また、成分全体の分解率も10日後には高くなった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】NPEOav2.5のHPLCチャートである。
【図2】NPのHPLCチャートである。
【図3】NP2EOとその代謝物のHPLCチャートである。
【図4】NP1EOとその代謝物のHPLCチャートである。
【図5】NP2EC, NP1EO, NP1ECおよびNPのマススペクトルである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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