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明細書 :音声の基本周波数検出方法及び声帯特性評価装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3887691号 (P3887691)
登録日 平成18年12月8日(2006.12.8)
発行日 平成19年2月28日(2007.2.28)
発明の名称または考案の名称 音声の基本周波数検出方法及び声帯特性評価装置
国際特許分類 A61B  10/00        (2006.01)
A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 10/00 J
A61B 5/10 310J
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2006-195271 (P2006-195271)
出願日 平成18年7月18日(2006.7.18)
審査請求日 平成18年7月18日(2006.7.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】出口 真次
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
審査官 【審査官】上田 正樹
参考文献・文献 三宅祐輔(外2名),“声帯流路モデルが自励振動するときの圧力と変形の同時計測”,第18回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,日本,社団法人日本機械学会,2006年 1月12日,No.05-66,p.261-262
調査した分野 A61B 10/00
要約 【課題】口腔内の圧力変化に対する音声の基本周波数の変化率計測及び算出を自動的に行わせることにより、変化率の算出の高速化及び算出された変化率の信頼性の向上を図った声帯特性評価装置及び音声の基本周波数検出方法を提供する。
【解決手段】被験者が口に銜えるマウスピースと、このマウスピースに装着した開閉弁と、マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、電気信号から、音声の基本周波数と、マウスピース内の圧力とを算出するとともに、開閉弁で呼気の放出量を抑制した際におけるマウスピース内の圧力変化に対する基本周波数の変化率を算出する解析部と、所定周波数の基準音を出力する基準音出力部とを備え、解析部は、基準音に基づいて基本周波数を検出するとともに、所定のタイミングで開閉弁を閉じることによりマウスピースの圧力を上昇させた際の音声の基本周波数の変化を検出して声帯の振動状態を検出する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者が口に銜える筒状のマウスピースと、
前記マウスピースに装着して、発声にともなって前記マウスピース内に吐出された呼気の前記マウスピースからの放出を抑制する開閉弁と、
前記マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、
前記電気信号から、前記音声の基本周波数と、前記マウスピース内の圧力とを算出するとともに、前記開閉弁で呼気の放出量を抑制した際における前記マウスピース内の圧力変化に対する前記周波数の変化率を算出する解析部と、
所定周波数の基準音を出力する基準音出力部と
により声帯の振動状態を検出する声帯特性評価装置における音声の基本周波数検出方法であって、
前記基準音に基づいて前記被験者が発声した音声をサンプリングして周波数によるスペクトル曲線を抽出するステップと、
このスペクトル曲線のうち、前記基準音の周波数の前後所定周波数内に存在するピークの周波数を基本周波数とするステップと
により前記解析部で基本周波数を検出する音声の基本周波数検出方法。
【請求項2】
被験者が口に銜える筒状のマウスピースと、
前記マウスピースに装着して、発声にともなって前記マウスピース内に吐出された呼気の前記マウスピースからの放出を抑制する開閉弁と、
前記マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、
前記電気信号から、前記音声の基本周波数と、前記マウスピース内の圧力とを算出するとともに、前記開閉弁で呼気の放出量を抑制した際における前記マウスピース内の圧力変化に対する前記周波数の変化率を算出する解析部と、
所定周波数の基準音を出力する基準音出力部と
を備え、
前記解析部は、前記基準音出力部から出力された前記基準音に基づいて前記被験者が発声した音声の基本周波数を前記基準音の周波数に基づいて検出するとともに、この基本周波数の変動が所定値よりも小さくなったことを検出して前記開閉弁を閉じる操作を行わせる操作用信号を出力し、この操作用信号に基づいて前記開閉弁を閉じさせることにより前記マウスピース内の圧力を上昇させて、この圧力変化における前記基本周波数の変化率を算出して声帯の振動状態を検出する声帯特性評価装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記電気信号から音声の強度を計測し、この強度の変動が所定値よりも大きい場合には、前記操作用信号の出力を禁止していることを特徴とする請求項2記載の声帯特性評価装置。
【請求項4】
前記解析部は、異なる基本周波数の音声における前記基本周波数の変化率をそれぞれ算出し、前記基本周波数の変化率の変化曲線を算出する変化曲線算出手段を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の声帯特性評価装置。
【請求項5】
前記解析部は、基準となる変化曲線からの前記変化曲線のズレを算出するズレ算出手段と、このズレ算出手段で算出された値に基づいて前記ズレの発生原因を推定する原因推定手段を有することを特徴とする請求項4記載の声帯特性評価装置。
【請求項6】
前記解析部は、基準となる複数の変化曲線パターンを記憶したテーブルを備え、このテーブルに記憶された前記変化曲線パターンのうち、前記変化曲線算出手段で算出された前記変化曲線と近似する前記変化曲線パターンを特定し、この前記変化曲線パターンから前記被験者の状態を推定する状態推定手段を有することを特徴とする請求項4記載の声帯特性評価装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者が発した音声から基本周波数を検出し、この基本周波数の変動を検出することにより声帯の振動状態を検出する声帯特性評価装置及び音声の基本周波数検出方法に関するものであり、特に、声帯特性評価装置では、口腔内の圧力変化に対する所定の基本周波数の音声の変化率、及びこの変化率の周波数依存性を検出することにより声帯及びその周縁部位の異常を検出可能としているものである。
【背景技術】
【0002】
従来、声帯周辺に生じた病変を検出する方法としては、声帯の振動状態を高速度カメラで撮影してスローモーション再生することにより振動状態を目視により確認して、病変の有無を判定する方法が用いられているが、他の方法として音声の周波数変動を利用して声帯の振動状態を検出する方法も提案されている。
【0003】
特に、口腔内の圧力が高まった際には、声帯に作用する圧力が高まることによって声帯の振動数が変動し、音声の周波数が変動することが知られており、この周波数が変動は声帯及び声帯近傍の部位の硬さの影響を受けているものと考えられている。
【0004】
そこで、口腔内の圧力を異ならせて声帯に圧力を作用させた際に生じる音声の周波数変化から、声帯及び声帯近傍の部位の硬さを非侵襲的に診断・計測・評価して、声帯周辺に病変などによる異常が生じていないかを検出しようとするものである。
【0005】
具体的には、被験者が開閉弁及び圧力センサ付きのマウスピースを口に銜え、また、被験者の喉元にはマイクを装着して、マウスピースを銜えたまま被験者が例えば「あー」という音声を発している際にマウスピースに設けた開閉弁を閉じて口腔内の圧力を高め、開閉弁を閉じる前から開閉弁を閉じた後までのマウスピース内の圧力変化と音声の周波数変化を圧力センサとマイクで計測し、圧力変化に対する音声の基本周波数の変化率を周波数ごとに算出して、この変化率の周波数依存性から声帯の異常を検出するものである(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
一方、本発明者は、前述したように声帯に圧力を作用させることにより音声の周波数が変化することを数学モデルに基づいて検証した。すなわち、肺は一定総圧の圧力容器、気管支及び気管は一定断面積の剛体管、声道は断面積が流れ方向に一次元的に変化する変断面管に置き換えるとともに、声帯は弾性膜で覆われた分布非線形バネ・減衰器系で近似した数学モデルを想定し、数値解析を行うことにより、この数学モデルが実際の声帯の動きを正しく反映していることが確認された(例えば、非特許文献2参照。)。

【非特許文献1】「Relationship between transglottal pressure and fundamentalfrequency of phonation, with effects of dehydration produced by atropine, in healthy volunteers」K. Tanaka, K. Kitajima, H. Tanaka, Annals of Otology, Rhinology & Laryngology, 110, 1066-1071, 2001.
【非特許文献2】「声の基本振動数への声門上下圧力差の影響」松崎、出口、山内、池田、2001年日本機械学会年次大会講演論文集
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した声帯に圧力を作用させた際に生じる音声の周波数変化を計測する場合には、開閉弁及び圧力センサ付きのマウスピースを用い、被験者にマウスピースを銜えさせるとともに、被験者の喉元にマイクを装着して、被験者に一定の高さの発声を行わせながらマウスピースの開閉弁を閉じる前から開閉弁を閉じた後までのマウスピース内の圧力変化と音声の周波数変化を計測し、口腔内の圧力変化に対する音声周波数の変化率を算出していたが、この変化率の算出は手計算で行われていたために、1組のデータを得るために多大な作業時間が必要であった。
【0008】
しかも、変化率を算出するための圧力データ及び周波数データの読み出しは、読み出し作業を行う作業者の影響を受けることとなるので信頼性に欠けるおそれがあった。
【0009】
特に、検出された音声の周波数データから音声の基本周波数を読み出す場合に、単に最大のピークとなった周波数を基本周波数として検出することとすると、異なる階調の音声からそれぞれの基本周波数を検出する際に、階調によっては基本周波数の高調波に最大のピークが現れることがあり、正しい基本周波数が読み出せないこととなって解析結果の信頼性に疑義が生じるおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明者は、口腔内の圧力変化に対する音声の基本周波数の変化率の算出を電子計算機などで自動的に行わせることにより、基本周波数の検出における正確性の向上を図るとともに、基本周波数の変化率の算出の高速化及び算出された変化率の信頼性の向上を図るべく開発を行って、本発明の音声の基本周波数検出方法及び声帯特性評価装置を発明するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の音声の基本周波数検出方法では、被験者が口に銜える筒状のマウスピースと、マウスピースに装着して、発声にともなってマウスピース内に吐出された呼気のマウスピースからの放出を抑制する開閉弁と、マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、電気信号から、音声の基本周波数と、マウスピース内の圧力とを算出するとともに、開閉弁で呼気の放出量を抑制した際におけるマウスピース内の圧力変化に対する周波数の変化率を算出する解析部と、所定周波数の基準音を出力する基準音出力部とにより声帯の振動状態を検出する声帯特性評価装置における音声の基本周波数検出方法であって、基準音に基づいて被験者が発声した音声をサンプリングして周波数によるスペクトル曲線を抽出するステップと、このスペクトル曲線のうち、基準音の周波数の前後所定周波数内に存在するピークの周波数を基本周波数とするステップとにより解析部で基本周波数を検出することとした。
【0012】
本発明の声帯特性評価装置では、被験者が口に銜える筒状のマウスピースと、マウスピースに装着して、発声にともなってマウスピース内に吐出された呼気のマウスピースからの放出を抑制する開閉弁と、マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、電気信号から、音声の基本周波数と、マウスピース内の圧力とを算出するとともに、開閉弁で呼気の放出量を抑制した際におけるマウスピース内の圧力変化に対する周波数の変化率を算出する解析部と、所定周波数の基準音を出力する基準音出力部とを備え、解析部は、基準音出力部から出力された基準音に基づいて被験者が発声した音声の基本周波数を基準音の周波数に基づいて検出するとともに、この基本周波数の変動が所定値よりも小さくなったことを検出して開閉弁を閉じる操作を行わせる操作用信号を出力し、この操作用信号に基づいて開閉弁を閉じさせることによりマウスピース内の圧力を上昇させて、この圧力変化における基本周波数の変化率を算出して声帯の振動状態を検出することとした。
【0013】
さらに、以下の点にも特徴を有するものである。すなわち、
(1)解析部は、電気信号から音声の強度を計測し、この強度の変動が所定値よりも大きい場合には、操作用信号の出力を禁止していること。
(2)解析部は、異なる基本周波数の音声における基本周波数の変化率をそれぞれ算出し、基本周波数の変化率の変化曲線を算出する変化曲線算出手段を有すること。
(3)解析部は、基準となる変化曲線からの変化曲線のズレを算出するズレ算出手段と、このズレ算出手段で算出された値に基づいてズレの発生原因を推定する原因推定手段を有すること。
(4)解析部は、基準となる複数の変化曲線パターンを記憶したテーブルを備え、このテーブルに記憶された変化曲線パターンのうち、変化曲線算出手段で算出された変化曲線と近似する変化曲線パターンを特定し、この変化曲線パターンから被験者の状態を推定する状態推定手段を有すること。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、基準音に基づいて被験者が発声した音声をサンプリングして周波数によるスペクトル曲線を抽出するステップと、このスペクトル曲線のうち、基準音の周波数の前後所定周波数内に存在するピークの周波数を基本周波数とするステップとにより解析部で基本周波数を検出することによって、基本周波数の高調波を誤って基本周波数として検出することを防止でき、基本周波数の検出精度を高めることができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、被験者が口に銜える筒状のマウスピースと、マウスピースに装着して、発声にともなってマウスピース内に吐出された呼気のマウスピースからの放出を抑制する開閉弁と、マウスピース内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサと、電気信号から、音声の基本周波数と、マウスピース内の圧力とを算出するとともに、開閉弁で呼気の放出量を抑制した際におけるマウスピース内の圧力変化に対する周波数の変化率を算出する解析部と、所定周波数の基準音を出力する基準音出力部とを備え、解析部は、基準音出力部から出力された基準音に基づいて被験者が発声した音声の基本周波数を基準音の周波数に基づいて検出するとともに、この基本周波数の変動が所定値よりも小さくなったことを検出して開閉弁を閉じる操作を行わせる操作用信号を出力し、この操作用信号に基づいて開閉弁を閉じさせることによりマウスピース内の圧力を上昇させて、この圧力変化における基本周波数の変化率を算出して声帯の振動状態を検出することによって、極めて短時間で、かつ精度の高い声帯の振動状態のデータを取得でき、声帯及びその周縁部位の診断を行うことができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、請求項2に記載の声帯特性評価装置において、解析部は、電気信号から音声の強度を計測し、この強度の変動が所定値よりも大きい場合には、操作用信号の出力を禁止していることによって、安定した計測が行える音声での計測を行うことができ、計測条件を一定化することができるので、計測結果の信頼性を向上させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、請求項2または請求項3に記載の声帯特性評価装置において、解析部は、異なる基本周波数の音声における基本周波数の変化率をそれぞれ算出し、基本周波数の変化率の変化曲線を算出する変化曲線算出手段を有することによって、基本周波数の変化率の変化曲線に基づいて声帯及びその周縁部位の診断を速やかに行うことができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の声帯特性評価装置において、解析部は、基準となる変化曲線からの変化曲線のズレを算出するズレ算出手段と、このズレ算出手段で算出された値に基づいてズレの発生原因を推定する原因推定手段を有することによって、声帯及びその周縁部位の診断の自動化を図ることができる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、請求項4記載の声帯特性評価装置において、解析部は、基準となる複数の変化曲線パターンを記憶したテーブルを備え、このテーブルに記憶された変化曲線パターンのうち、変化曲線算出手段で算出された変化曲線と近似する変化曲線パターンを特定し、この変化曲線パターンから被験者の状態を推定する状態推定手段を有することによって、声帯及びその周縁部位の診断の自動化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の音声の基本周波数検出方法音声の基本周波数の検出に際して、所定の周波数とした音声の発声を促すために用いている基準音を用いて、この基準音の周波数の近傍の周波数から音声の基本周波数を検出することにより、高調波などの誤った周波数を基本周波数とすることを防止して、基本周波数を正しく検出することができる。
【0021】
特に、声帯に病変を有していたり、ポリープ摘出などの治療を受けたりした場合には、音声に基本周波数以外の周波数成分が多くなりやすく、適正な基本周波数の検出が困難となっているが、基準音を用いて所望の基本周波数が存在する周波数領域を限定することにより適正な基本周波数を特定できる。
【0022】
そして、本発明の声帯特性評価装置では、筒状としたマウスピースを被験者が口に銜え、基準音の音の高さに合わせて被験者が例えば「あー」と発声し、この音声から基本周波数を検出する際に、基準音近傍の周波数で基本周波数の検出を行うことにより、適正な基本周波数の検出を可能としている。
【0023】
さらに、本発明の声帯特性評価装置では、被験者が発声している途中でマウスピースに設けられている通気口を絞ることによってマウスピース内の圧力を高め、これにより口腔内の圧力を高めて声帯に圧力を作用させ、圧力が作用した場合の声帯の振動数変動を音声の基本周波数の変動で検出している。
【0024】
そして、このようにして得られた基本周波数の変動情報から、声帯またはその周縁部位の硬さを評価して、声帯またはその周縁部位での異常の有無の推定を行うものである。
【0025】
具体的に説明すると、被験者が口に銜えるマウスピースには、マウスピース内の圧力変化を検出する圧力センサを設けており、この圧力センサの出力信号の波形を解析することにより、マウスピース内の圧力変化及び被験者の発声にともなう声帯の振動状態を検出可能としている。図1の下段はマウスピース内の圧力変化の解析結果を示したグラフ、図1の中段は声帯振動の振幅変化の解析結果を示したグラフ、図1の上段はマウスピースに設けられている通気口の開閉状態である開き具合を示したグラフである。
【0026】
図1に示すように、通気口が開(Open)状態から閉(Close)状態に変化すると、マウスピース内の圧力は通気口の閉操作の前後で変動し、声帯の振動も通気口の閉操作の前後で変動する。
【0027】
そこで、通気口の閉操作よりも所定時間だけ前のタイミングで、圧力センサの出力信号の波形から音声の基本周波数の平均値を算出するとともに、その際のマウスピース内の圧力の平均値を算出し、さらに、通気口の閉操作から所定時間だけ後のタイミングで、圧力センサの出力信号の波形から音声の基本周波数の平均値を算出するとともに、その際のマウスピース内の圧力の平均値を算出して、通気口の閉操作前での音声の基本周波数の平均値をF1、マウスピース内の圧力の平均値をP1とするとともに、通気口の閉操作後での音声の基本周波数の平均値をF2、マウスピース内の圧力の平均値をP2として、次式を用いて周波数の圧力に対する変化率Rを算出している。
【0028】
R=-(F2-F1)/(P2-P1
【0029】
この変化率Rが声帯またはその周縁部位の硬さを評価するものとなっており、非特許文献1で示されているように少なくとも声帯の異常の検出指標となるものでる。したがって、この変化率Rを用いて声帯またはその周縁部位での異常の有無の推定を行うものである。
【0030】
以下において、図面に基づいて本発明の実施形態に係る声帯特性評価装置を具体的に詳説する。
【0031】
本実施形態の声帯特性評価装置は、図2に示すように、被験者が口に銜える筒状のマウスピース10と、このマウスピース10に装着してマウスピース10からの呼気の放出量を抑制する開閉弁20と、マウスピース10内の圧力を検出して電気信号として出力する圧力センサ30と、この圧力センサ30から出力された電気信号から、音声の基本周波数と、マウスピース10内の圧力とを検出するとともに、開閉弁20で呼気の吐出量を抑制した際におけるマウスピース10内の圧力変化に対する周波数の変化率を算出する解析部40と、被験者に所望の音の高さの発声を行わせやすいように発声の基準となる基準音を出力するスピーカ50を備えている。
【0032】
マウスピース10は、被験者が口に銜えることができる程度の径寸法の筒体で構成しており、発声時にストレスを感じない程度に口を開けることができるように、本実施形態ではφ30の筒体を使用した。マウスピース10には、合成樹脂製の漏斗形状の銜え片(図示せず)を着脱自在としており、被験者ごとに銜え片を取り替えることにより衛生的とするとともに、口とマウスピース10との隙間からの空気抜けを抑止している。
【0033】
開閉弁20は、マウスピース10内を通過する呼気の流量を調整する流路幅可変バルブで構成しており、解析部40からの制御に基づいて流路幅を調整して、マウスピース10の通気口の開閉制御を行っている。
【0034】
圧力センサ30は、半導体圧力トランスデューサで構成しており、マウスピース10内の圧力を検出して、検出に基づく電気信号を解析部40に入力している。なお、マウスピース10内の圧力検出は、半導体圧力トランスデューサによる検出に限定するものではなく、適宜の圧力検出手段を用いてもよい。
【0035】
解析部40は、本実施形態ではパーソナルコンピュータで構成しており、このパーソナルコンピュータのハードディスクなどの記憶部には、圧力センサ30から出力された電気信号から音声の基本周波数を検出する基本周波数検出プログラム、圧力センサ30から出力された電気信号から音声の強度を計測する強度計測プログラム、圧力センサ30から出力された電気信号からマウスピース10内の圧力を検出する圧力検出プログラム、及び基本周波数検出プログラムと圧力検出プログラムとで得られた基本周波数データと圧力データから圧力変化に対する基本周波数の変化率を算出する周波数変化率算出プログラムを記憶している。
【0036】
さらに、解析部40を構成するパーソナルコンピュータの記憶部には、異なる基本周波数の音声ごとに周波数変化率算出プログラムで得られた周波数変化率データから、基本周波数の変化率の変化曲線を算出する変化曲線算出手段である変化曲線算出プログラムも設けている。
【0037】
また、本実施形態では、解析部40を構成するパーソナルコンピュータには、所定の周波数の基準音を、周波数を逐次変えながら所定時間出力する基準音再生プログラムを記憶部に設けており、基準音再生プログラムに基づいて再生した基準音をパーソナルコンピュータに接続したスピーカ50から出力する基準音出力部を構成している。なお、基準音の出力はスピーカ50に限定するものではなく、ヘッドホンやイヤフォンであってもよい。
【0038】
さらに、解析部40を構成するパーソナルコンピュータでは、基本周波数検出プログラムで検出した音声の基本周波数が計測対象の周波数からずれていることを表示する周波数メータ、及び、強度計測プログラムで検出した音声の強度が計測範囲から外れていることを表示する強度メータを装着して、被験者がより適正に発声できるようにしてもよい。
【0039】
このように構成した声帯特性評価装置で声帯の検査を行う場合には、被験者にマウスピース10を銜えさせ、スピーカ50から出力された所定の基準音に合わせた音の高さの声を発声させている。
【0040】
なお、このとき、鼻には鼻栓を装着して鼻からの空気抜けを防止し、さらに、両手でそれぞれ頬を押さえさせて発声にともなって頬に膨らみが生じないようにしている。必要に応じて、専用の鼻栓及び頬押さえ用のマスクを使用してもよい。
【0041】
解析部40では、圧力センサ30から入力された電気信号に基づいて、周波数検出プログラムにより音声の基本周波数及び強度を検出するとともに、圧力検出プログラムによりマウスピース10内の圧力変動を検出する。
【0042】
音声の基本周波数検出においては、解析部40は、図3に示すフローチャートのように、圧力センサ30から入力された電気信号に対して高速フーリエ変換処理を行って音声のスペクトル曲線を抽出している(ステップS1)。
【0043】
次いで、解析部40は、音声のサンプリング時に用いた基準音の周波数を検出して(ステップS2)、例えば基準音の周波数の±10Hzの範囲を基本周波数を検出するための検出領域とし(ステップS3)、この検出領域中でスペクトル曲線が極大となるピークの周波数を検出し、検出されたピークの周波数を基本周波数としている(ステップS4)。
【0044】
このように、解析部40では、音声のサンプリング時に用いた基準音の周波数に基づいて基本周波数の特定を行うことにより、基本周波数を正しく検出することができるとともに、自動的かつ極めて短時間で基本周波数を特定できる。
【0045】
解析部40では、音声の強度の変動を検出し、強度の変動が所定値よりも大きい場合にはマウスピース10の開閉弁20を操作する操作用信号の出力を禁止している。したがって、サンプリングされる音声の条件を一定化することができるので、計測ごとのバラツキを抑制できる。
【0046】
さらに、解析部40では基本周波数の経時変化を検出し、基本周波数の変動が所定のしきい値よりも小さくなったことを検出すると、この検出タイミングから所定時間後にマウスピース10の開閉弁20を閉じさせる操作用信号を出力する設定を行っている。
【0047】
解析部40では、操作用信号の出力前の所定時間で得られた音声の周波数データから周波数の平均値を算出し、同時にこの所定時間で得られたマウスピース10内の圧力データから圧力の平均値を算出している。
【0048】
操作用信号の出力タイミングに達すると、解析部40は、操作用信号を出力して開閉弁20を閉じ、呼気の放出量を抑制している。なお、開閉弁20は全閉されるのではなく、マウスピース10内の平均的な圧力を上昇させる程度に流路幅を調整して、呼気の放出自体は可能としている。
【0049】
解析部40は、操作用信号を出力した後の所定時間で得られた音声の周波数データから周波数の平均値を算出し、同時にこの所定時間で得られたマウスピース10内の圧力データから圧力の平均値を算出している。
【0050】
なお、開閉弁20を閉じる前での音声の周波数を計測するタイミング及び計測時間と、開閉弁20を閉じた後で音声の周波数を計測するタイミング及び計測時間とは、それぞれ適宜調整可能としており、これらを調整することにより適正な音声の周波数の計測を行いやすくすることができる。
【0051】
このようにして、開閉弁20を閉じる前の周波数データの平均値F1と圧力データの平均値P1、及び開閉弁20を閉じた後の周波数データの平均値F2と圧力データの平均値P2が得られた後、解析部40は、前述した計算式を用いて周波数の圧力に対する変化率Rを算出している。
【0052】
所定の基本周波数での変化率Rが算出されると、直ちに声帯特性評価装置はスピーカ50から出力する基準音の周波数を変更して、別の周波数での変化率Rの算出を行っている。
【0053】
声帯特性評価装置は、必ずしも変化率Rの算出を待って基準音の変更を行う必要はなく、通常、1つの基準音での変化率Rの検出は瞬時的に行うことができるので、通常であれば例えば2~3秒ごとに基準音の周波数を変えるようにして、基準音を逐次変えながら変化率Rを順次取得するようにしてもよい。
【0054】
所定の基本周波数における変化率Rの算出が全て終了すると、解析部40は変化曲線算出プログラムを起動して、変化率Rの変化曲線を算出する。この変化率曲線は、一般的に基本周波数に対してV字状パターンとなることが知られている。
【0055】
図4のグラフには、本実施形態の声帯特性評価装置による計測データを白丸で示しており、V字状に計測データが得られていることがわかる。解析部40では、これらの計測データから、変化率Rの変化曲線を算出している。
【0056】
一方、従来技術の項でも説明したように、本発明者は、肺を一定総圧の圧力容器、気管支及び気管を一定断面積の剛体管、声道を断面積が流れ方向に一次元的に変化する変断面管に置き換えるとともに、声帯を弾性膜で覆われた分布非線形バネ・減衰器系とした数学モデルを想定し、解析を行った結果は図4に黒丸で示すようにV字状パターンの変化率曲線となることを確認した。
【0057】
このことから、変化曲線算は、人体における一つの特性曲線であると考えることができ、声帯特性評価装置での計測によって得られた変化曲線算を、基準となる変化曲線算と比較することにより、声帯及びその周縁部位の硬さを評価することができる。そして、声帯及びその周縁部位の硬さの状態から、声帯及びその周縁部位における病変の早期発見や、声帯及びその周縁部位の治療の改善度の確認などのような経過観察を可能とすることができる。
【0058】
特に、解析部40には、声帯特性評価装置での計測によって得られた変化曲線算の基準となる変化曲線算からのズレを算出するズレ算出手段としてのズレ算出プログラムを設け、このズレ算出プログラムで算出された値に基づいてズレの発生原因を推定する原因推定手段としての原因推定プログラムを設けることにより、声帯及びその周縁部位の診断の自動化を図ることができる。
【0059】
あるいは、解析部40には、前述した数学モデルにおける各パラメータをあらかじめ様々な条件として得られた複数の変化曲線パターンを記憶したテーブルを設けており、解析部40では、テーブルに記憶された変化曲線パターンのうち、変化曲線算出プログラムで算出された変化曲線と近似する変化曲線パターンを特定し、この変化曲線パターンが得られるパラメータから被験者の状態を推定する状態推定手段としての状態推定プログラムを設けることにより、声帯及びその周縁部位の診断の自動化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】通気口の開閉状態(上段)と、声帯振動の振幅変化の解析結果(中段)と、マウスピース内圧力の解析結果(下段)との関係を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る声帯特性評価装置の概略模式図である。
【図3】基本周波数検出プログラムの動作を説明するフローチャートである。
【図4】変化率曲線の説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 マウスピース
20 開閉弁
30 圧力センサ
40 解析部
50 スピーカ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3