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明細書 :結晶方位同定方法及び結晶方位同定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4843788号 (P4843788)
公開番号 特開2008-039529 (P2008-039529A)
登録日 平成23年10月21日(2011.10.21)
発行日 平成23年12月21日(2011.12.21)
公開日 平成20年2月21日(2008.2.21)
発明の名称または考案の名称 結晶方位同定方法及び結晶方位同定装置
国際特許分類 G01N   1/28        (2006.01)
G01N  33/20        (2006.01)
G01B  11/24        (2006.01)
FI G01N 1/28 F
G01N 33/20 M
G01B 11/24 K
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2006-212661 (P2006-212661)
出願日 平成18年8月3日(2006.8.3)
審査請求日 平成21年7月13日(2009.7.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】清水 一郎
【氏名】多田 直哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
審査官 【審査官】▲高▼見 重雄
参考文献・文献 特開2001-349850(JP,A)
特開2002-047557(JP,A)
特開2001-089894(JP,A)
特開平10-144776(JP,A)
特開2003-232618(JP,A)
清水一郎, 多田直哉, 井上貴敏, WANG Xiaoqun, 細井康成,純チタン結晶粒表面における超微小硬度計の圧痕形状と結晶方位の関係に関する検討,日本機械学会年次大会講演論文集,日本,2005年 9月18日,Vol.2005, No.Vol.1,Page.413-414
調査した分野 G01N 1/00-1/44
G01B 11/24
G01N 33/20
特許請求の範囲 【請求項1】
結晶体における所定の結晶粒の結晶方位を同定する結晶方位同定方法において、
前記結晶粒に圧子を押し込んで圧痕を形成するステップと、
前記圧痕の形状を計測するステップと、
前記圧痕の形状から結晶方位を同定するステップと
を備え、
前記圧子は多角錐形状として、前記圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、
前記結晶方位を同定するステップでは、
前記圧痕の開口縁に沿って隣接した2つの頂点を通過する仮想上の直線を想定するステップと、
この2つの頂点間の前記開口縁の接線方向が前記直線と平行となる第1の点を特定するステップと、
この第1の点から前記直線に向けておろした垂線の足となる第2の点を特定するステップと、
前記第2の点を始点とし、前記第1の点を終点とする張出しベクトルを想定し、前記開口縁における全ての張出しベクトルを合成して合成張出しベクトルを特定するステップと、
前記合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定するステップと
を有することを特徴とする結晶方位同定方法。
【請求項2】
前記の各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合には、結晶方位を同定できないと判定するステップを有することを特徴とする請求項1記載の結晶方位同定方法。
【請求項3】
圧子を結晶体における所定の結晶粒に押し込んで圧痕を形成する圧痕形成手段と、
前記圧痕の形状を計測する圧痕形状計測手段と、
前記圧痕の形状から結晶方位を同定する解析手段と
を備え、
前記解析手段では、前記圧子で形成される理想的な圧痕の形状と、前記圧痕形状計測手段で計測した前記圧痕の形状との差に基づいて結晶方位を同定し、
前記圧子は多角錐形状として、前記圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、
前記解析手段では、
前記頂点の位置が前記の理想的な圧痕の形状における頂点の位置と一致するものとして、前記圧痕の開口縁に沿って隣接した2つの頂点を通過する仮想上の直線を想定し、
この2つの頂点間の前記開口縁の接線方向が前記直線と平行となる第1の点を特定し、
この第1の点から前記直線に向けておろした垂線の足となる第2の点を特定し、
前記第2の点を始点とし、前記第1の点を終点とする張出しベクトルを想定して、
前記開口縁における全ての張出しベクトルを合成して合成張出しベクトルを特定し、
前記合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定することを特徴とする結晶方位同定装置。
【請求項4】
前記解析部では、前記の各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合に結晶方位を同定できないと判定することを特徴とする請求項3記載の結晶方位同定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶方位同定方法及び結晶方位同定装置に関するものであり、X線回折法などの回折法を用いることなく結晶方位の同定を可能とした結晶方位同定方法及び結晶方位同定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料などのように結晶構造を有している材料は、多くの場合で単結晶状態の結晶粒が結合した多結晶状態となっており、結晶粒が素材の物性に強く関係していることが知られている。
【0003】
すなわち、結晶粒が材料の引っ張り強度や伸びなどの機械的性質や、磁気的性質などを左右する重要な因子となっており、たとえば、鋼鈑では結晶粒径の制御によって材料の強度の向上が図られている。
【0004】
そこで、製造された材料が所望の大きさの結晶粒となっているかを測定するために、材料に対してレーザ光をビーム拡散レンズで拡散させて照射し、反射光を面スクリーン上に拡大投影して投影像をカメラで撮像し、この撮像画像を画像処理して結晶粒径を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。

【特許文献1】特開2003-232618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、結晶粒の大きさを測定する方法としては様々な方法が提案されているが、結晶粒の結晶方位を同定する方法は提案されておらず、結晶方位の同定を行うためには、X線回折、電子後方散乱回折法、光像法、エッチピット法などを用いるしか同定方法がなかった。
【0006】
X線回折や電子後方散乱回折法では、高精度に結晶方位が同定できるものの、測定に時間がかかるとともに測定作業に熟練を要するために、簡便に結晶方位を同定することが困難であり、光像法では1mm以下の結晶粒には適用が困難なため、通常100μm以下である結晶粒で構成された多結晶金属内の結晶粒に対しては適用できないという不具合を有しており、エッチピット法では、強酸などの化学薬品を用いて被検体を腐食処理する必要があるため、被検体の寸法や形状に対する制約が大きく、しかも被検体に含まれる微量な添加物の影響を受けやすいので、添加物の配合量ごとに結晶方位の同定のため基礎データが必要となり、膨大なデータベースの作成が必要となるという不具合を有していた。
【0007】
本発明者らはこのような現状に鑑み、より簡便に結晶方位の同定が可能であって、しかも微細な結晶粒に対して適用可能であり、被検体に含まれる添加物の影響を受けにくい結晶方位の同定方法を開発すべく研究を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶方位同定方法では、結晶体における所定の結晶粒の結晶方位を同定する結晶方位同定方法において、結晶粒に圧子を押し込んで圧痕を形成するステップと、圧痕の形状を計測するステップと、圧痕の形状から結晶方位を同定するステップとからなることとした。
【0009】
さらに、圧子は多角錐形状として、圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、結晶方位を同定するステップでは、圧痕の開口縁に沿って隣接した2つの頂点を通過する仮想上の直線を想定するステップと、この2つの頂点間の開口縁の接線方向が直線と平行となる第1の点を特定するステップと、この第1の点から直線に向けておろした垂線の足となる第2の点を特定するステップと、第2の点を始点とし、第1の点を終点とする張出しベクトルを想定し、開口縁における全ての張出しベクトルを合成して合成張出しベクトルを特定するステップと、合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定するステップを有することにも特徴を有し、前記の各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合には、結晶方位を同定できないと判定するステップを有することにも特徴を有するものである。
【0010】
また、本発明の結晶方位同定装置では、圧子を結晶体における所定の結晶粒に押し込んで圧痕を形成する圧痕形成手段と、圧痕の形状を計測する圧痕形状計測手段と、圧痕の形状から結晶方位を同定する解析手段とを備え、解析手段では、圧子で形成される理想的な圧痕の形状と、圧痕形状計測手段で計測した圧痕の形状との差に基づいて結晶方位を同定することとした。
【0011】
さらに、圧子は多角錐形状として、圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、解析手段では、前記頂点の位置が理想的な圧痕の形状における頂点の位置と一致するものとして、圧痕の開口縁に沿って隣接した2つの頂点を通過する仮想上の直線を想定し、この2つの頂点間の開口縁の接線方向が前記直線と平行となる第1の点を特定し、この第1の点から前記直線に向けておろした垂線の足となる第2の点を特定し、第2の点を始点とし、第1の点を終点とする張出しベクトルを想定して、開口縁における全ての張出しベクトルを合成して合成張出しベクトルを特定し、合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定することにも特徴を有し、解析部では、前記の各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合に結晶方位を同定できないと判定することにも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、結晶体における所定の結晶粒の結晶方位を同定する結晶方位同定方法において、結晶粒に圧子を押し込んで圧痕を形成するステップと、圧痕の形状を計測するステップと、圧痕の形状から結晶方位を同定するステップとからなることによって、機械的に結晶方位の同定を行うことにより被検体に含まれる添加物の影響を受けにくく、しかも、微細な結晶粒に対して適用可能であって、極めて簡便に結晶方位を同定できる。特に、本発明では、機械的に結晶方位の同定を行うことにより、磁化された磁性材料などのようにX線回折や電子後方散乱回折法では結晶方位の同定が不可能な結晶体であっても結晶方位を同定できる。
【0013】
また、圧子を多角錐形状として圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、この頂点を利用してそれぞれの張出しベクトルを求め、この張出しベクトルを全て合成して合成張出しベクトルを特定し、この合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定することによって、極めて容易に結晶方位を同定できる。
【0014】
請求項記載の発明によれば、請求項記載の結晶方位同定方法において、各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合には、結晶方位を同定できないと判定することにより、結晶方位の誤同定を防止できる。
【0015】
請求項記載の発明によれば、圧子を結晶体における所定の結晶粒に押し込んで圧痕を形成する圧痕形成手段と、圧痕の形状を計測する圧痕形状計測手段と、圧痕の形状から結晶方位を同定する解析手段とを備え、解析手段では、圧子で形成される理想的な圧痕の形状と、圧痕形状計測手段で計測した圧痕の形状との差に基づいて結晶方位を同定することによって、機械的に結晶方位の同定を行うことにより被検体に含まれる添加物の影響を受けにくく、しかも、微細な結晶粒に対して適用可能であって、極めて簡便に結晶方位を同定可能とした結晶方位同定装置を提供できる。特に、本発明の結晶方位同定装置では機械的に結晶方位の同定を行っているので、磁化された磁性材料などのようにX線回折や電子後方散乱回折法では結晶方位の同定が不可能な結晶体に対しても適用できる。
【0016】
また、圧子は多角錐形状として圧痕の開口縁に複数の頂点を形成し、解析手段では、前記頂点の位置が理想的な圧痕の形状における頂点の位置と一致するものとして、圧痕の開口縁に沿って隣接した2つの頂点を通過する仮想上の直線を想定し、この2つの頂点間の開口縁の接線方向が前記直線と平行となる第1の点を特定し、この第1の点から前記直線に向けておろした垂線の足となる第2の点を特定し、第2の点を始点とし、第1の点を終点とする張出しベクトルを想定して、開口縁における全ての張出しベクトルを合成して合成張出しベクトルを特定し、合成張出しベクトルの大きさから結晶方位を同定することによって、極めて容易に結晶方位を同定可能な結晶方位同定装置を提供できる。
【0017】
請求項記載の発明によれば、請求項記載の結晶方位同定装置において、解析部では、前記の各張出しベクトルの大きさがそれぞれ所定値よりも小さい場合に結晶方位を同定できないと判定することによって、結晶方位の誤検出を防止可能とした結晶方位同定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の結晶方位同定方法及び結晶方位同定装置では、被検体の結晶粒に形成した圧痕の形状を利用して結晶方位を同定するものである。ここで、結晶粒は、結晶構造を有する物体における結晶粒であればよく、金属体に限定されるものではなく、半導体や、結晶性プラスチックなどでもよい。
【0019】
圧痕の形成は圧子による押し込みによって行っており、結晶粒に圧子を押し込むと、結晶方位と圧子の向きとの関係によって限定される方向に材料流れを生じさせながら圧子が押し込まれるので、圧痕形状に異方性が現れ、この圧痕形状の異方性から結晶方位を同定しているものである。
【0020】
ここで、圧子は三角錐形状とし、この圧子を結晶粒に押し込むことにより一辺を数十μm程度とした三角錐状の圧痕を形成している。圧子は、三角錐状の圧痕を形成可能な圧子に限定するものではなく、四角錐以上とした多角錐状の圧痕を形成な圧子を用いてもよい。ただし、圧子を四角錐以上の多角錐状とした場合には、結晶粒に圧子を押し込んだ際における材料流れが生じにくくなることから、結晶方位の同定が困難となる場合があることから、圧子は三角錐形状を用いることが望ましい。
【0021】
結晶粒に圧子を押し込むと、図1に示すように、結晶粒には、結晶方位と圧子の向きとの関係によって限定される方向に材料流れが生じた圧痕10が形成される。三角錐状の圧子を用いて圧痕10を形成しているため、圧痕10には開口縁に沿って第1頂点Pと、第2頂点Qと、第3頂点Rの3つの頂点P,Q,Rが形成される。
【0022】
ここで、まず、第1頂点Pと第2頂点Qとを通過する仮想上の直線である仮想第1直線L1と、第2頂点Qと第3頂点Rとを通過する仮想上の直線である仮想第2直線L2と、第3頂点Rと第1頂点Pとを通過する仮想上の直線である仮想第3直線L3を想定する。
【0023】
次いで、第1頂点Pと第2頂点Qとの間の開口縁において、開口縁の接線方向が仮想第1直線L1と平行となる開口縁上の点を特定し、この点から仮想第1直線L1に向けて垂線を下ろして垂線の足の点を特定し、この垂線の足の点を始点、開口縁上に特定した点を終点とした第1張出しベクトルT1を特定する。
【0024】
同様に、第2頂点Qと第2頂点Rとの間の開口縁において、開口縁の接線方向が仮想第2直線L2と平行となる開口縁上の点を特定し、この点から仮想第2直線L2に向けて垂線を下ろして垂線の足の点を特定し、この垂線の足の点を始点、開口縁上に特定した点を終点とした第2張出しベクトルT2を特定する。
【0025】
さらに、第3頂点Rと第1頂点Pとの間の開口縁において、開口縁の接線方向が仮想第3直線L3と平行となる開口縁上の点を特定し、この点から仮想第3直線L3に向けて垂線を下ろして垂線の足の点を特定し、この垂線の足の点を始点、開口縁上に特定した点を終点とした第3張出しベクトルT3を特定する。
【0026】
次いで、第1張出しベクトルT1と、第2張出しベクトルT2と、第3張出しベクトルT3のベクトル合成を行って、図2に示すように、合成張出しベクトルTを特定している。なお、図2は、説明の便宜上、図1における各張出しベクトルT1,T2,T3を拡大表示している。
【0027】
この合成張出しベクトルTは、結晶粒に圧子を押し込む際における結晶方位と圧子の向きとの関係によって限定される方向への材料流れの程度を反映しており、合成張出しベクトルTの大きさから結晶方位を同定することができる。
【0028】
ここで、合成張出しベクトルTの大きさから結晶方位を同定する場合には、あらかじめ結晶粒ごとに結晶方位と合成張出しベクトルTの大きさとの相関関係がわかっている必要があり、この相関関係がわかっている結晶粒に対しては、前述したように圧子を用いて圧痕10を形成し、合成張出しベクトルTの大きさを求めて、合成張出しベクトルTの大きさから相関関係に基づいて容易に結晶方位を同定できる。
【0029】
なお、合成張出しベクトルTの大きさは、圧痕10の投影面積の平方根で除して正規化しておくことにより、圧痕10の大きさにかかわらず、結晶方位を同定できる。
【0030】
本発明の結晶方位同定方法では、前述したように圧痕を利用して機械的に結晶方位を同定しているので、従来のエッチピット法による結晶方位の同定のような微量な添加物の配合割合の差による影響が小さく、代表的な合成張出しベクトルTの大きさと結晶方位との相関関係を流用しやすいので、あらかじめ特定して相関関係の種類を大きく削減できる。
【0031】
また、本発明の結晶方位同定方法では、結晶方位の同定において磁場の影響を受けないので、被検体が磁化されていても正確に結晶方位を同定できる。
【0032】
しかも、本発明の結晶方位同定方法では、圧痕の形状から結晶方位を同定しているので、被検体の観察面が清浄である必要はなく、多少の酸化膜が存在していてもよいので、様々な環境下で利用することができる。
【0033】
以下において、純度99.5wt%のチタンの場合について説明する。ここで、被検体となる試験片は、板厚1.3mmの熱間圧延純チタン板(JIS H4600 TP270H)を用い、9mm×10mm×11mmの矩形体状に切り出し、圧子によって圧痕が形成される面を2000番までの耐水研磨紙で手研磨している。さらに、試験片には、1123K-2時間の熱処理による真空焼鈍を行って、残留応力除去及び結晶粒の粗大化を行っている。
【0034】
その後、試験片には電解研磨処理を施して表面を鏡面仕上げとし、結晶粒界を識別可能とするために化学腐食処理を施している。
【0035】
このようにして準備した試験片のうち、表面状態が比較的良好な試験片を選択し、各試験片の結晶方位を走査型電子顕微鏡に組み込んだ電子後方散乱回折装置(Oxford Co Ltd.,LinkOpal)であらかじめ測定している。
【0036】
このように結晶方位が測定された試験片に対して、微小表面材料特性評価システム((株)ミツトヨ,MZT-4)を用いて圧子の押し込みを行い、圧痕を形成している。ここで、圧子は、軸に対する面角度が68°の三角錐形状としており、押し込み圧力を300mN、加圧速度を10mN/s、ホールド時間10s、アンロード時間10s、温度297Kとしている。
【0037】
この条件で試験片に圧痕を形成した場合、圧痕は一辺が約15~20μmの三角錐形状であった。
【0038】
このように形成した圧痕に対して、縦方向分解能0.01μm、横方向分解能0.15μmの走査型共晶点レーザー顕微鏡((株)オリンパス,OLS1100)を用いて、輝度画像上で各張出しベクトルの特定を行い、特定された張出しベクトルに基づいて合成張出しベクトルの特定を行っている。
【0039】
特定された合成張出しベクトルの大きさを圧痕の投影面積の平方根で除して正規化し、電子後方散乱回折装置であらかじめ測定された結晶方位を用いて、稠密六方晶であるチタンのc軸方向と結晶粒表面がなす角度の絶対値|θ|に対して合成張出しベクトルの大きさをプロットすると、図3に示す相関関係が得られた。この相関関係から、合成張出しベクトルの大きさに基づいて結晶方位の同定を行うことができる。
【0040】
図4は、本実施形態の結晶方位同定装置の概略模式図であって、チタンの冷間圧延工程での結晶方位の検査装置として用いた場合を示しているものである。
【0041】
この結晶方位同定装置は、第1搬送ローラ21及び第2搬送ローラ22で搬送される板状のチタンからなる被検体20の搬送経路の中途部に配置しており、圧子23を被検体20の結晶粒に押し込んで圧痕を形成する圧痕形成手段である圧痕形成部24と、この圧痕形成部24で形成した圧痕の形状を計測する圧痕形状計測手段である走査型共晶点レーザー顕微鏡25と、この走査型共晶点レーザー顕微鏡25での測定された圧痕の形状から結晶方位を同定する解析手段である解析部26とから構成している。
【0042】
解析部25は、本実施形態ではパーソナルコンピュータで構成しており、走査型共晶点レーザー顕微鏡25によって得られた画像を解析して結晶方位を同定するプログラムを記憶して、実行可能としている。
【0043】
さらに、本実施形態では、解析部25は第1搬送ローラ21及び/または第2搬送ローラ22の駆動制御も行っており、図5に示すフローチャートに基づいて結晶方位を同定して、被検体20であるチタンの品質検査を行っている。
【0044】
まず、解析部25では、第1搬送ローラ21を駆動させて被検体20であるチタンを所定量だけ送給させて送給を停止し(ステップS1)、圧痕形成部24を駆動させて圧子23に被検体20への圧痕の形成を行っている(ステップS2)。図4中、27は圧痕形成用の支持ローラである。
【0045】
圧痕の形成後、解析部25は第1搬送ローラ21を駆動させて圧痕が走査型共晶点レーザー顕微鏡25の直下方位置になるまで被検体20を送給することにより移動させ(ステップS3)、走査型共晶点レーザー顕微鏡25は圧痕形状を測定して測定結果を解析部25に入力する(ステップS4)。
【0046】
解析部25は、走査型共晶点レーザー顕微鏡25から入力された圧痕形状データから、前述したように仮想第1直線L1と、仮想第2直線L2と、仮想第3直線L3を特定する(ステップS5)。
【0047】
次いで、解析部25は、前述したように第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3のそれぞれの終点となる点を特定し(ステップS6)、さらに、第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3のそれぞれの始点となる点を特定して(ステップS7)、第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3を特定する(ステップS8)。
【0048】
その後、解析部25は、特定した第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3の大きさを、圧痕の投影面積の平方根で除して正規化し、正規化された大きさと所定値との比較を行い(ステップS9)、第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3のいずれにおいても正規化された大きさが所定値よりも小さい場合にはエラーとして警報を作動させて緊急停止し、一方、第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3の正規化された大きさの少なくとも1つが所定値よりも大きい場合には、前述したように合成張出しベクトルTを特定する(ステップS10)。
【0049】
次いで、解析部25は、合成張出しベクトルTの大きさを、圧痕の投影面積の平方根で除して正規化し、合成張出しベクトルTの大きさに基づいて、あらかじめ解析部25に記憶されたデータベースから結晶方位の同定を行う(ステップS11)。
【0050】
解析部25は、同定された結晶方位と管理範囲との比較を行って(ステップS12)、管理範囲から外れていた場合にはエラーとして警報を作動させて緊急停止し、一方、管理範囲内であった場合には、ステップS1に戻って第1搬送ローラ21を駆動させて被検体20であるチタンを所定量だけ送給させている。
【0051】
ステップS9において、第1張出しベクトルT1、第2張出しベクトルT2、第3張出しベクトルT3の各張出しベクトルの大きさが所定の大きさよりも小さかった場合に、結晶方位の同定を行わないことにより、結晶方位の誤検出を防止可能とすることができる。
【0052】
このように、結晶方位同定装置は、被検体20の搬送途中において所定間隔で被検体20の結晶方位を確認することにより、所望の結晶方位となった製品が製造されていることを容易に確認でき、確実な品質保証を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】各張出しベクトルの説明図である。
【図2】合成張出しベクトルの説明図である。
【図3】純値ヤンの場合における正規化された合成張出しベクトルの大きさと結晶方位との関係を測定した測定結果のグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る結晶方位同定装置の説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る結晶方位同定装置における解析部が実行する処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10 圧痕
L1 仮想第1直線
L2 仮想第2直線
L3 仮想第3直線
T1 第1張出しベクトル
T2 第2張出しベクトル
T3 第3張出しベクトル
T 合成張出しベクトル
20 被検体
21 第1搬送ローラ
22 第2搬送ローラ
23 圧子
24 圧痕形成部
25 走査型共晶点レーザー顕微鏡
26 解析部
27 圧痕形成用の支持ローラ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4