TOP > 国内特許検索 > 妊娠中毒症の検査方法 > 明細書

明細書 :妊娠中毒症の検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4734654号 (P4734654)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
発明の名称または考案の名称 妊娠中毒症の検査方法
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI G01N 33/68
G01N 33/53 D
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2006-550755 (P2006-550755)
出願日 平成17年12月26日(2005.12.26)
国際出願番号 PCT/JP2005/023767
国際公開番号 WO2006/070734
国際公開日 平成18年7月6日(2006.7.6)
優先権出願番号 2004376343
優先日 平成16年12月27日(2004.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年10月28日(2008.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】前島 洋平
【氏名】広越 久美子
【氏名】槇野 博史
【氏名】増山 寿
【氏名】平松 祐司
個別代理人の代理人 【識別番号】100111707、【弁理士】、【氏名又は名称】相川 俊彦
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 特開平10-239311(JP,A)
MOLECULAR MEDICINE,2001年,Vol.7,No.9,p.624-635
調査した分野 G01N 33/48-98
特許請求の範囲 【請求項1】
妊娠中の哺乳類を対象として、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、該測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較することを特徴とする妊娠中毒症の検査方法。
【請求項2】
前記健常値が6ng/ml以上である、請求項1に記載の妊娠中毒症の検査方法。
【請求項3】
前記体液が血液である、請求項1又は2に記載の妊娠中毒症の検査方法。
【請求項4】
前記測定が、妊娠20週以降の哺乳類を対象として行われる請求項1乃至3のいずれか1に記載の妊娠中毒症の検査方法。
【請求項5】
前記測定が、ELISA法により行われる、請求項1乃至4のいずれか1に記載の妊娠中毒症の検査方法。
【請求項6】
体液中のアンジオポエチンー2の濃度を測定する試薬を含む、妊娠中毒症検出用試薬。
【請求項7】
請求項6に記載の妊娠中毒症検出用試薬を、妊娠中毒症検出のために使用する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠中毒症の検査方法に関し、より詳細には、妊娠中毒症に現在罹患しているか否か、または将来妊娠中毒症に罹患する可能性があるか否かを、簡便にかつ精度良く知ることのできる妊娠中毒症の検査方法に関する。なお、本発明では、現在妊娠中毒症に罹患している場合と、将来妊娠中毒症に罹患する可能性がある場合と、を総称して「妊娠中毒症罹患性がある」と称し、本発明の「妊娠中毒症の検査方法」は、この妊娠中毒症罹患性について検査するものである。
【背景技術】
【0002】
妊娠中毒症は、妊娠中に発症する臨床上重要な合併症の一つで、高血圧、蛋白尿、浮腫等を呈し、母体及び/又は新生児に悪影響を与える。
妊娠中毒症罹患性を知る方法は、例えば、母体の脂肪量を評価し、該評価された脂肪量と妊娠中毒症罹患性とを関連付けて行う方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
特許文献1には、「妊婦の体脂肪率や体重の変化と胎児の成長曲線を関連づけて管理することにより妊娠中毒症の可能性」を知るための妊娠中の定期検診に使用される超音波診断装置が開示されている(即ち、妊娠中毒症に将来罹患する可能性を評価するものである。)。
特許文献2には、「身長、体重等の妊婦の個人データを入力する入力手段と、生体電気インピーダンス法により体水分量と脂肪量とを演算する演算手段と、妊娠週数に応じた基準値を備える基準設定手段と、演算手段による演算結果と基準値とを比較する比較手段と、比較手段の比較結果で妊婦の健康状況を判定する判定手段とを備えた妊婦用健康管理装置」(請求項1)を用い、「判定手段は、妊娠中毒症
の発症を判定すること」(請求項3)により、妊娠中毒症 の発症を判定することが開示されている(即ち、妊娠中毒症に現在罹患していることを評価するものである。)。
【0003】

【特許文献1】特開2002-604号公報(例えば、要約書中の課題)
【特許文献2】特開2003-33356号公報(例えば、請求項1、請求項3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら特許文献1及び2に開示された発明は、母体の脂肪量から妊娠中毒症罹患性を評価するものであり、これら両者はある程度の関連性は認められるものの、脂肪量が多い母体が妊娠中毒症を必ず発症するものではないし、脂肪量が少ない母体は妊娠中毒症を必ず発症しないというものではなく、妊娠中毒症罹患性を的確に評価する方法はこれまでなかった。
【0005】
そこで、本発明においては、的確に妊娠中毒症罹患性を評価することができる妊娠中毒症の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の妊娠中毒症の検査方法(妊娠中毒症罹患性を評価する方法。即ち、妊娠中毒症に現在罹患していること及び妊娠中毒症に将来罹患する可能性の少なくともどちらかを評価する方法である。)は、妊娠中の哺乳類を対象として、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、該測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較することを特徴とする妊娠中毒症の検査方法(以下、「第1の本方法」という。)である。
また、第1の本方法には、以下(1-1)~(1-4)の態様が含まれる。
(1-1)前記健常値が6ng/ml以上である、上記妊娠中毒症の検査方法。
(1-2)前記体液が血液である、上記妊娠中毒症の検査方法。
(1-3)前記測定が、妊娠20週以降の哺乳類を対象として行われる、上記妊娠中毒症の検査方法。
(1-4)前記測定が、ELISA法により行われる、上記妊娠中毒症の検査方法。
【0007】
そして、本発明の妊娠中毒症の検査方法(妊娠中毒症罹患性を評価する方法。即ち、妊娠中毒症に現在罹患していること及び妊娠中毒症に将来罹患する可能性の少なくともどちらかを評価する方法である。)は、妊娠中の哺乳類を対象として、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する測定ステップと、該測定ステップにより得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較する対比ステップと、該対比ステップの結果に基づき、妊娠中毒症の罹患性の有無を判定する判定ステップと、を有する、妊娠中毒症罹患の検出方法(以下、「第2の本方法」という。)である。
また、第2の本方法には、以下(2-1)~(2-4)の態様が含まれる。
(2-1)前記判定ステップにおいて、前記測定ステップにより得られたアンジオポエチン-2の濃度が健常値よりも低い場合に妊娠中毒症の罹患性ありと判定するものである、上記妊娠中毒症罹患の検出方法。
(2-2)前記体液が血液である、上記妊娠中毒症罹患の検出方法。
(2-3)前記測定ステップが、妊娠20週以降の哺乳類を対象とする測定ステップである、上記妊娠中毒症罹患の検出方法。
(2-4)前記測定ステップが、ELISA法を用いた測定ステップである、上記妊娠中毒症罹患の検出方法。
【0008】
そして、本発明は、妊娠中毒症罹患を検出するために用いられる妊娠中毒症検出用試薬(以下、「本試薬」という。)を提供する。即ち、本試薬は、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する試薬を含む、妊娠中毒症検出用試薬である。
なお、本試薬は、妊娠中毒症検出のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各被験者の血清試料(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)のアンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)を示すグラフである。
【図2】正常妊娠群(黒丸)及び中毒症群(白丸)の血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)と妊娠週数(週)との関係を示すグラフである。
【図3】正常妊娠群の血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)と平均血圧との関係を示すグラフである。
【図4】中毒症群の血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)と1日尿蛋白量との関係を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(本発明の妊娠中毒症罹患の検出方法(本方法))
第1の本方法は、妊娠中の哺乳類を対象として、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、該測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較することを特徴とする妊娠中毒症の検査方法である。
第2の本方法は、妊娠中の哺乳類を対象として、体液中のアンジオポエチン-2(Angiopoietinー2)の濃度を測定する測定ステップと、該測定ステップにより得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較する対比ステップと、該対比ステップの結果に基づき、妊娠中毒症の罹患性の有無を判定する判定ステップと、を有する、妊娠中毒症罹患の検出方法である。
【0011】
本方法が対象とする哺乳類は、妊娠中毒症に現在罹患しているか否か又は妊娠中毒症に将来罹患する可能性の有無により体液中のアンジオポエチン-2の濃度に差が生じるものであれば特に制限はないが、例えば、ヒト、ブタ
、ウマ、ウシ 、ヒツジ、ヤギ、イヌ 、ネコ、ウサギ、ハムスター、ラット又はマウス等を例示的に挙げることができる。
体液中のアンジオポエチン-2の濃度測定(測定ステップ)においてアンジオポエチン-2の濃度を測定する体液としては、血液及び尿を例示することができる。好ましくは血液である。なお、血液中のアンジオポエチン-2の濃度は、血清または血漿を測定試料として測定することができる。
【0012】
本方法が対象とする「妊娠中の哺乳類」の妊娠週数は、正常妊娠者と妊娠中毒症患者との間でアンジオポエチン-2濃度に有意な差が生じる期間であれば特に制限されない。妊娠中のヒトの血清(体液)中のアンジオポエチン-2の濃度を測定(測定ステップ)する場合であれば、例えば、始期としては、好ましくは15週以降であり、より好ましくは20週以降であり、最も好ましくは25週以降であり、終期としては、好ましくは40週以前であり、より好ましくは38週以前である。
とりわけ20週以降の早期(例えば、20週以降25週以前や、20週以降30週以前等)に体液中のアンジオポエチン-2の濃度測定(測定ステップ)を行うことで、妊娠中毒症の罹患を早期に発見したり、妊娠中毒症の将来の罹患可能性を早期に知ることができるので、早期に妊娠中毒症へ対処(例えば、日常生活における注意、指導、医療機関への通院等)することができるようになり重症化予防に役立ち予後の改善をも可能ならしめるものと考えられる。
【0013】
測定(測定ステップ)により得られたアンジオポエチン-2の濃度を比較する健常値(対比ステップにおける健常値)は、妊娠中毒症に現在罹患しておらずかつ妊娠中毒症に将来罹患しない妊娠(腎疾患や本態性高血圧等といった既往歴がないもの)中の体液中のアンジオポエチン-2の濃度とすればよく、例えば、妊娠中毒症に現在罹患しておらずかつ妊娠中毒症に将来罹患しない妊娠中のヒトの血清(体液)中のアンジオポエチン-2の濃度であれば、8.0ng/ml~30.0ng/ml(正常妊娠例)程度である。
なお、妊娠中毒症とは、平成16年8月9日社団法人日本産科婦人科学会(会長:藤井 信吾)が日産婦誌56巻9号(平成16.9)第3~4頁に発表した「会員へのお知らせ 妊娠高血圧症候群の定義・分類」について」に述べられている。具体的には、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、且つこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。通常、妊娠中毒症は、軽症と重症とに分けられ、これら軽症と重症との定義はそれぞれ次の通りである。
1 軽症:
(1)高血圧:血圧が次の(a)又は(b)のいずれかに該当する場合
(a)収縮期血圧が140mmHg以上で160mmHg未満
(b)拡張期血圧が90mmHg以上で110mmHg未満
(2)蛋白尿
原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、300mg/日以上で2g/日未満の場合
2 重症:
(1)高血圧:血圧が次の(c)又は(d)のいずれかに該当する場合
(c)収縮期血圧が160mmHg以上の場合
(d)拡張期血圧が110mmHg以上の場合
(2)蛋白尿
24時間尿を用いた定量法で判定し、2g/日以上の場合。随時尿を用いる場合は複数回の新鮮尿検査で、連続して3+(300mg/dl)以上の場合。
また、本発明にいう「妊娠中毒症の検査方法」とは、妊娠中毒症に現在罹患していることを知ることと、妊娠中毒症に将来罹患する可能性を知ること、との少なくともいずれかに用いられるものをいう(両方に用いられるものであって良いことは言うまでもない。)。
【0014】
測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較し(対比ステップ)、その比較結果に基づき、妊娠中毒症の罹患性の有無を判定すること(判定ステップ)は、該比較結果に基づき、妊娠中毒症に(現在)罹患しているか否か又は将来罹患する可能性を判定するものであればいかなるものであってもよく何ら限定されるものではない。例えば、妊娠中毒症に(現在)罹患していることを判定する場合であれば、臨床データ(妊娠中毒症の代表的な臨床データである尿蛋白量等)が妊娠中毒症の罹患を示唆しているときに体液中のアンジオポエチン-2の濃度が妊娠中毒症を示しているときは、妊娠中毒症の(現在)罹患を判定するようなことを例示することができる。そして、妊娠中毒症に将来罹患する可能性を判定する場合であれば、臨床データ(妊娠中毒症の代表的な臨床データである尿蛋白量等)は妊娠中毒症の罹患を示唆していないときに体液中のアンジオポエチン-2の濃度が妊娠中毒症を示しているときは、妊娠中毒症の将来の罹患可能性があることを判定するようなことを例示することができる。
そして、本発明者の研究結果からは、妊娠中毒症に現在罹患しているか又は妊娠中毒症に将来罹患する妊娠中の体液中のアンジオポエチン-2の濃度は、妊娠中毒症に現在罹患しておらずかつ妊娠中毒症に将来罹患しない妊娠中の体液中のアンジオポエチン-2の濃度よりも低かった。このため測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値と比較し(対比ステップ)、その比較結果に基づき、妊娠中毒症の罹患性の有無を判定すること(判定ステップ)においては、測定(測定ステップ)により得られたアンジオポエチン-2の濃度が健常値よりも低い場合に妊娠中毒症に罹患していると判定し又は将来罹患すると判定するものであってもよい。
【0015】
体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する方法(測定ステップ)は、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定することができるものであればいかなる方法によって行われてもよく何ら限定されるものではないが、例えば、ELISA法(固相酵素免疫測定法)、ウェスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ(RIA:Radioimmunoassay)法等を用いるようにしてもよい。
とりわけELISA法を用いれば、測定キットが市販されていることやその手順等から測定を容易に行うことができ、放射性物質を取り扱う必要がなく、定量的評価が可能であり、そして必要な試料が少量(例えば、血清中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する場合、200マイクロリットル程度)で済む、といった利点がある。
【0016】
(本発明の妊娠中毒症検出用試薬(本試薬))
本試薬は、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する試薬を含む、妊娠中毒症検出用試薬である。
体液中のアンジオポエチン-2(Angiopoietinー2)の濃度を測定する試薬(複数種類の試薬が組み合わされたものも含む。)としては、該試薬を用いて体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定することができるものであればいかなるものであってもよく何ら限定されるものではないが、前述した本方法の体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する方法(測定ステップ)に用いられるELISA法(固相酵素免疫測定法)、ウェスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ(RIA:Radioimmunoassay)法等のいずれかを行うための試薬(又はその組合せ)であってもよい。
例えば、ELISA法により体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する場合、本試薬は、マウスモノクローナル抗アンジオポエチンー2抗体、組換え型ヒト由来アンジオポエチン-2、ホースラディシュペルオキシダーゼ標識マウスモノクローナル抗アンジオポエチン-2抗体の試薬を含んでもよい。なお、R&D systems社製の商標「Quantikine humanAngiopoietinー2 kit」はこのような試薬を含み市販されている。
このような本試薬は、それを用いて本方法の測定ステップを行うのに用いられ、それにより本方法に従って妊娠中毒症を検出する(妊娠中毒症に現在罹患しているか又は妊娠中毒症に将来罹患する可能性を評価する)のに供されることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
(1)対象被験者
以下の実験は、健常妊婦29名(正常妊娠群(健常群))、妊娠中毒症患者26名(中毒症群)、健常非妊娠女性20名(非妊娠群)分娩後1週間以内の女性11名(妊娠中毒症2例、健常群9例)(分娩後1週間以内群)を対象として行った。なお、これらの被験対象者はいずれも腎疾患や本態性高血圧症の既往歴のない17~41歳の日本人女性である。また、健常妊婦及び妊娠中毒症患者はいずれも妊娠週数25~40週の者を対象とした。
なお、妊婦について、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上で、24時間蓄尿中の尿蛋白量が300mg/日以上である場合を妊娠中毒症として定義し、この定義を満たさない妊婦を健常妊婦とした。
【0019】
(2)血清試料の調製
上記各被験者(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)から各々血液を採取し、常法に従って血清を調製した。なお、妊娠中毒症患者(中毒症群)については、妊娠中毒症発症後すぐに採取した血液を使用した。調製した血清は、使用するまで-80℃で保存し、使用時に常温下で溶解して用いた。
【0020】
(3)血清アンジオポエチン-2濃度の測定
上記にて調製した各被験者(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)の血清試料について、アンジオポエチン-2の濃度(血清Angー2濃度)を測定した。かかる血清Angー2濃度の測定は、R&D systems社のELISAキット(商標「Quantikine HumanAngiopoietinー2 kit」)(以下、「使用キット」という。)を用い、そのマニュアルに従って測定した。
【0021】
なお、上記ELISAキット(使用キット)は、次の試薬等を含んでいる。
(a)「Angiopoietin-2 Microplate」:アンジオポエチン-2に対するマウスモノクローナル抗体でコーティングされた96ウエルのポリスチレン製マイクロプレートである。
(b)「Angiopoietin-2 Conjugate」:ホースラディシュペルオキシダーゼと結合した、アンジオポエチン-2に対するマウスモノクローナル抗体を含む試薬である(防腐剤含有)。
(c)「Angiopoietinー2 standard」:緩衝蛋白質中に、標品である組換え型ヒト由来アンジオポエチン-2を含む試薬(30ng/ml)である(防腐剤含有)。
(d)「Assay Diluent RD1-76」:青色色素及び緩衝蛋白質を含む測定用の希釈溶液である(防腐剤含有)。
(e)「Calibrator DiluentRD5-5」:緩衝蛋白質を含む希釈溶液である(防腐剤含有)。
(f)「Wash buffer concentrate」:緩衝化界面活性剤の25倍濃縮液である(防腐剤含有)。
(g)「Color Reagent A」:安定化させた過酸化水素である。
(h)「Color Reagent B」:安定化させたクロモゲン(テトラメチルベンジジン)である。
(i)「Stop Solution」:2Nの硫酸である。
(j)「Plate Covers」:プレートカバーである。
【0022】
(3ー1)血清アンジオポエチン-2濃度の測定
下記のステップに従って、血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)を測定した。
1.「Angiopoietin-2 Microplate」の各ウエルに、「Assay Diluent RD1-76」を100μlずつ添加する。
2.上記ウエルに、血清試料(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)またはアンジオポエチン-2の標準液を50μlずつ添加し、プレートを「Plate Covers」で覆って、室温で水平に振盪(500rpm±50rpm)しながら2時間反応させる。なお、血清試料は予め「Calibrator DiluentRD5-5」を用いて5倍に希釈しておいたものを使用する。アンジオポエチン-2の標準液としては、「Angiopoietinー2 standard」(30ng/ml)を「Calibrator DiluentRD5-5」で希釈して調製した、8種の希釈系列(0pg/ml、46.9pg/ml、93.7pg/ml、187.5pg/ml、375pg/ml、750pg/ml、1500pg/ml、3000pg/ml)を使用した。
3.反応後、各ウエルから反応液を吸引除去し、洗浄液(400μl/ウエル)で洗浄する。この操作を3回繰り返す。洗浄液は、「Wash buffer concentrate」(×25 濃縮液)を脱イオン水または蒸留水で25倍希釈したものを使用する。洗浄後、洗浄液を各ウエルから完全に除去して、ペーパータオルで水分を除く。
4.上記の各ウエルに「Angiopoietin-2 Conjugate」を200μl添加し、プレートを「Plate Covers」で覆って、室温で水平に振盪(500rpm±50rpm)しながら2時間反応させる。
5.反応後、上記3の操作と同様にして、各ウエルを洗浄する。
6.洗浄後、各ウエルに基質溶液を200μl添加し、遮光条件下、室温で30分間反応させる。なお、基質溶液は、「Color Reagent A」と「Color Reagent B」とを等量混合したものを用いる(混合後15分以内に使用する。)。
7 反応後、各ウエルに「Stop Solution」を50μl添加する。
8 「Stop Solution」を添加後、30分以内に各ウエル中の反応液の波長450nmにおける吸光度を測定し、その値から波長540nmまたは570nmでの吸光度を控除する。なお、吸光度を測定する吸光度計(測定プレートリーダー)は、ここではBIO-RAD社製の商標「Model 550 microplate reader」を用いた。測定条件は、二重波長(Dual wave)(450nm、570nm)、そして撹拌機入り(shaker on)であった。
【0023】
アンジオポエチン-2の標準液について得られた結果から標準曲線を作成し、これから各被験者の血清試料(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)のアンジオポエチン-2濃度を求めた。なお、各試料は全て2検体ずつ(duplicate)測定し、それぞれの平均値をもとに統計学的解析(Abacus Concepts社製の商標「StatView」(ソフトウエア)を用いた。)を行った。アンジオポエチンー2の最小平均検出濃度は8.29ng/mlで、アッセイ(assay)間、アッセイ内の共同係数偏差はそれぞれ6.9%、10.4%以下である。
【0024】
(3-2)血清アンジオポエチン-2濃度の測定結果
上記の結果、得られた各被験者の血清試料(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)のアンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)を図1に示す。図1は、縦軸に血清中のアンジオポエチン-2濃度(単位:ng/ml)をとったグラフであり、図1中「Normal pregnancy」は正常妊娠群(健常群)を示し、図1中「Preeclampsia」は中毒症群を示し、図1中「Post delivery」は分娩後1週間以内(分娩後1週間以内群)のものを示し、図1中「Non pregnancy」は非妊娠群を示している。
図1からわかるように、正常妊娠群(Normal pregnancy)の血清Angー2濃度は18.9±3.2ng/mlと非妊娠群(Non pregnancy)の血清Angー2濃度(2.1±0.2ng/ml)に比して顕著に高いのに対し、中毒症群(Preeclampsia)の血清Angー2濃度は4.5±0.6ng/mlと、正常妊娠群(Normal pregnancy)の血清Angー2濃度(18.9±3.2ng/ml、p<0.0001)に比して著しく低かった。また、分娩後1週間以内群(Post delivery)の血清Angー2濃度は正常妊娠及び妊娠中毒症の別に関係なく、非妊娠群と同程度に低値であった。
【0025】
(4)血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス及び1日尿蛋白量の測定
上記で調製した各被験者(正常妊娠群、中毒症群、非妊娠群、分娩後1週間以内群)の血清試料について、血清クレアチニン及びクレアチニンクリアランスを常法に従って測定した。また、各被験者から1日尿(24時間蓄尿)を採取し、常法に従って1日蛋白量を測定した。各試料は全て2検体ずつ(duplicate)測定し、それぞれの平均値をもとに統計学的解析(Abacus Concepts社製の商標「StatView」(ソフトウエア)を用いた。)を行った。
なお、血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス及び1日尿蛋白量の測定方法については、例えば、Yamamoto,Y.,Maeshima,Y.,Kitayama,H.,Kitamura,S.,Takazawa,Y.,Sugiyama,H.,Yamasaki,Y.,Makino,H.:Tumstatin peptide,an inhibitor of angiogenesis,prevents glomerular hypertrophy in the early stage of diabetic nephropathy. Diabetes,53巻:1831-1840頁,2004年に従って行えばよい。
結果を表1に示す。全ての値は平均値±標準誤差で示す。クレアチニンクリアランスの単位はml/分であり、1日尿蛋白量の単位はg/日である。
【0026】
【表1】
JP0004734654B2_000002t.gif

【0027】
表1に示すように、中毒症群の平均血圧は正常妊娠群の平均血圧よりも有意に高値を示した。中毒症群について、腎機能のパラメータである血清クレアチニン及びクレアチニンクリアランスは正常範囲であったが、1日尿蛋白量は約3gと高値であった。
【0028】
(5)血清アンジオポエチン-2濃度と臨床パラメータ(妊娠週数、平均血圧、血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス、1日尿蛋白量)との相関関係
クラスカルーウォリス法(KruskalーWallice検定)とシェッフェの方法(Scheffeの検定)を用い(第1段階でクラスカルーウォリス法を用い、第2段階でシェッフェの方法を用いて解析した。)、表1に示した臨床パラメーター(具体的には、年齢、妊娠期間(妊娠週数)、平均血圧、血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス、1日尿蛋白定量)と血清アンジオポエチンー2濃度のグループ内の比較検討を行った。統計学的解析には、Abacus Concepts社製の商標「StatView」(ソフトウエア)を使用し、2群間の相関はスピアマン(Spearman)の検定を用いて算出した。正常妊娠群(健常群)の血清アンジオポエチンー2濃度に対して、中毒症群の血清アンジオポエチンー2濃度が低いことはp<0.05をもって統計学的に有意であると判定された。
【0029】
正常妊娠群及び中毒症群における血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度)と妊娠週数(週)との関係を図2に、正常妊娠群における血清Angー2濃度と平均血圧との関係を図3に、中毒症群における血清Angー2濃度と1日尿蛋白量との関係を図4に、それぞれ示す。
図2は、横軸に妊娠週数(「Gestational age」、単位:週)をとり、縦軸に血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度、単位:ng/ml)をとったグラフであるが、図2からわかるように、正常妊娠群(黒丸:「Healthy pregnant」)と中毒症群(白丸:「Preeclampsia」)の血清Angー2濃度は、妊娠週数と有意な相関は見られなかったが、妊娠週数がすすむにつれて減少する傾向がみられた。
図3は、横軸に平均血圧(MBP、単位:mmHg)をとり、縦軸に血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度、単位:ng/ml)をとったグラフであるが、図3からわかるように、平均血圧は、正常妊娠群について、血清Angー2濃度と有意な正の相関を示したが(r=0.469、p=0.0095)、中毒症群では相関は認められなかった。
図4は、横軸に1日尿蛋白量(DUーTP、単位:g/日)をとり、縦軸に血清アンジオポエチン-2濃度(血清Angー2濃度、単位:ng/ml)をとったグラフであるが、図4に示すように、1日尿蛋白量は、中毒症群について、血清Angー2濃度と有意な負の相関を示した(r=0.55、p=0.0401)。なお、中毒症群について、腎機能パラメータ(血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス)と血清Angー2濃度との間に相関は認められなかった。
【0030】
(6)考察
以上のことから、非妊娠の女性の血清Angー2濃度に対して、正常に妊娠している女性の血清Angー2濃度(正常妊娠血清Angー2濃度)は著明に上昇しているのに対し、妊娠中毒症に罹患している女性の血清Angー2濃度は上昇しておらず、正常妊娠血清Angー2濃度に比して極めて低値を示すことがわかった。このことから、妊娠女性の血清Angー2濃度を測定し、正常妊娠血清Angー2濃度(健常値)と対比することによって、妊娠中毒症の罹患の有無を判定することができると考えられる。
また、上記の結果から、血清Angー2濃度と尿蛋白量とは有意な負の相関を示し、妊娠中における糸球体濾過障壁の維持にAngー2が関与していることが示唆される。
また、妊娠中毒症に将来罹患する可能性を判定するには、臨床データ(尿蛋白量や平均血圧等)は妊娠中毒症の罹患を示唆していないときに、血清(体液)中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、正常妊娠血清Angー2濃度(健常値)と対比することによって、妊娠中毒症の将来の罹患可能性があることを判定することができると考えられる。
【0031】
以上のように、実施例にて説明した本方法は、妊娠中の哺乳類(ヒト)を対象として、体液(血清)中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、該測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値(健常群の18.9±3.2ng/ml)と比較することを特徴とする妊娠中毒症の検査方法(第1の本方法)である。そして、測定により得られたアンジオポエチン-2の濃度が健常値(健常群の18.9±3.2ng/ml。6ng/ml以上。)よりも低い場合(中毒症群の血清アンジオポエチンー2の濃度は、4.5±0.6ng/ml)に妊娠中毒症に罹患していると判定し又は将来罹患すると判定する。
また、実施例にて説明した本方法は、妊娠中の哺乳類(ヒト)を対象として、体液(血清)中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する測定ステップと、該測定ステップにより得られたアンジオポエチン-2の濃度を健常値(健常群の18.9±3.2ng/ml)と比較する対比ステップと、該対比ステップの結果に基づき、妊娠中毒症の罹患性の有無を判定する判定ステップ(妊娠中毒症に罹患しているか又は将来罹患するか否かを判定する判定ステップ)と、を有する、妊娠中毒症罹患の検出方法(第2の本方法)である。ここでは判定ステップにおいて、測定ステップにより得られたアンジオポエチン-2の濃度が健常値(健常群の18.9±3.2ng/ml)よりも低い場合(中毒症群の血清アンジオポエチンー2の濃度は、4.5±0.6ng/ml)に妊娠中毒症に罹患していると判定し又は将来罹患すると判定する。
具体的には、ここでは血清中のアンジオポエチン-2の濃度が8ng/ml未満の妊婦のうち約77%が妊娠中毒症に罹患しており、6ng/ml未満の妊婦のうち約81%が妊娠中毒症に罹患していた。このため例えば、妊婦の血清中のアンジオポエチン-2の濃度を測定し、血清中のアンジオポエチン-2の濃度が8ng/ml未満の妊婦は妊娠中毒症に罹患しているか又は将来罹患する可能性が高いものと判定し、血清中のアンジオポエチン-2の濃度が6ng/ml未満の妊婦は妊娠中毒症に罹患しているか又は将来罹患する可能性が非常に高いものと判定することもできる。
また、ここでは体液(血清)中のアンジオポエチン-2の濃度測定(測定ステップ)が、妊娠20週以降の哺乳類(ヒト)を対象とするELISA法を用いた測定ステップである。
そして、ここで用いた使用キットのように、体液中のアンジオポエチン-2の濃度を測定する試薬を含むものは、妊娠中毒症検出用試薬として用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3