TOP > 国内特許検索 > 微量元素濃縮の前処理方法 > 明細書

明細書 :微量元素濃縮の前処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4362595号 (P4362595)
公開番号 特開2008-180594 (P2008-180594A)
登録日 平成21年8月28日(2009.8.28)
発行日 平成21年11月11日(2009.11.11)
公開日 平成20年8月7日(2008.8.7)
発明の名称または考案の名称 微量元素濃縮の前処理方法
国際特許分類 G01N   1/28        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
FI G01N 1/28 X
G01N 1/28 K
G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 8
全頁数 10
出願番号 特願2007-014088 (P2007-014088)
出願日 平成19年1月24日(2007.1.24)
審査請求日 平成19年2月14日(2007.2.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】牧嶋 昭夫
【氏名】中村 栄三
個別代理人の代理人 【識別番号】100147485、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 憲司
【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100134005、【弁理士】、【氏名又は名称】澤田 達也
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】▲高▼見 重雄
参考文献・文献 特開2005-049170(JP,A)
特開2000-171363(JP,A)
特開平06-010074(JP,A)
特開2000-272921(JP,A)
特開2005-201830(JP,A)
特表平09-503475(JP,A)
竹井宏行, 横山哲也, 牧嶋昭夫, 中村栄三,微量元素分析におけるTeflon bombを用いた岩石試料の酸分解法特に分解時に生成するAlF3の影響とその除去法に関して,日本岩石鉱物鉱床学会学術講演会講演要旨集,日本,2000年11月 5日,Vol.2000, 岩石鉱物鉱床学会,Page.39
調査した分野 G01N 1/28
G01N 27/62
特許請求の範囲 【請求項1】
試料中に含まれる微量元素を濃縮するための前処理方法であって、
微量元素の分析を行う対象である試料にチタン及びフッ化水素酸を添加し、前記試料を分解処理すると共に、チタンとフッ化水素酸からチタンのフロロ錯体を生成する工程、
分解された前記試料に過塩素酸を添加し、加熱処理を行なって前記試料を乾固することにより、前記チタンのフロロ錯体を分解してチタン酸化物を生成する工程、及び;
乾固した前記試料を鉱酸で溶解し、得られた溶液を遠心分離して沈殿を回収することにより、前記チタン酸化物と共沈する前記微量元素を得る工程:
を有することを特徴とする、微量元素濃縮の前処理方法。
【請求項2】
前記前処理方法が前記微量元素の分析のため、または前記微量元素の抽出のためである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微量元素がハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、およびタングステンからなる群から選択された微量元素であることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記分解処理を、加熱処理、超音波処理、およびマイクロウェーブ処理からなる群から選択された方法で行なうことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記鉱酸が硝酸又は塩酸であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記試料20mgから50mgに対してチタンを1mg以上添加することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記試料50mgに対して過塩素酸を0.3mlから10ml添加することを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記加熱処理を、5時間から72時間の間、150℃から200℃の温度で行なうことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる微量元素を濃縮するための前処理方法、好ましくは分析するための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石・鉱石・鉱物などの試料中にppmレベルで含まれる微量元素であるハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンを機器分析するため、あるいは抽出するための前処理には、試料中のそれらの濃度が低いために前濃縮することが必要である。特に主成分元素である鉄、アルミニウムを試料から分離することが重要であるが、これまではこれらの元素をフッ化水素酸に溶解してフロロ錯体にして陰イオン交換樹脂に吸着させる方法により、これらの主成分元素を分離していた。
【0003】
例えば非特許文献1では、タングステンの高精度同位体比測定を行なうために、2段階の陰イオン交換カラムを用いている。すなわち非特許文献1では、1段目では主成分とタングステンを分離するために1mLの陰イオン交換樹脂AG1X8樹脂を用いており、2段目ではタングステンを高純度化するために0.15mLのAG1X8樹脂を用いている。
【0004】
非特許文献2では、ハフニウムの高精度同位体比測定を行うために、2段階のカラムを用いている。1段目では主成分を取り除く目的でAG1X8を用いており、チタン、ハフニウム、ジルコニウムが予備濃縮されている。2段目ではUTEVA樹脂を用いて、ハフニウムをチタンとジルコニウムから単離している。
【0005】
非特許文献3では、モリブデンの単離のためにAG1X8樹脂を用いている。
【0006】
非特許文献4では、ジルコニウムの分離のために2段階カラムを用いている。1段目はAG1X8でジルコニウム、チタン、ハフニウムを予備濃縮しており、2段目では同じAG1X8でZrを回収している。
【0007】
いずれの方法においても主成分元素から目的とする微量元素を回収する場合には、まずフッ化水素酸を含む酸で試料を分解してこれらの微量元素を可溶性のフロロ錯体とし、同時に生じるMg-Caフッ化物を沈殿させ、上澄み液に溶解しているこれら微量元素のフロロ錯体をイオン交換樹脂により処理するという手法によって濃縮していた。
【0008】
しかしこの方法では、フッ化物に含まれる元素、例えば希土類元素やトリウムを完全に溶液化することができない。なおここでいう溶液化とは、希土類元素などがイオンの形となって溶解していることを意味するものである。なぜならば、これらの元素は安定な不溶性のフッ化物をつくり、Mg-Caフッ化物と共沈するからである。これは、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンを回収しながら、これらの元素、例えばネオジム、サマリウム、ルテチウムなどを同時に同位体希釈法で定量する場合(非特許文献5)に問題となる。同位体希釈法を用いたからといって同位体平衡には達しない可能性があるからである。これら希土類元素などを同時に測定する場合には、一度溶液を乾固し、過塩素酸を加えて分解する方法が有効である。(非特許文献6)。
【0009】
しかしながら、過塩素酸イオンは強い陰イオンであり、陰イオン交換樹脂に強く吸着する。また過塩素酸イオンは安定なイオンであり、分解することは困難である。さらに過塩素酸は沸点が高く、塩酸や硝酸を入れて乾固させる分留によっても取り除くことができない。そのため、一度過塩素酸を入れた溶液は陰イオン交換が妨害されるので、陰イオン交換樹脂による元素濃縮ができないという欠点があった。
【0010】

【非特許文献1】Quitte G., Birck J.-L., Capmas F., Allegre C.J. (2002), High precision Hf-W Isotopic measurements in meteoritic material using negative thermal ionisation mass spectrometry (NTIMS). Geostandards Newsletter, 26, 149-160.
【非特許文献2】Lu, Y.H., Makishima A. and Nakamura, E. (2007), Purification of Hf in silicate materials using extraction chromatographic resin, and its application to precise determination of 176Hf/177Hf by MC-ICP-MS with 179Hf spike. Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 22, 69-76
【非特許文献3】Siebert C., Nagler T.F., Kramers J.D. (2001), Determination of molybnenum isotope fractionation by double-spike multicollector inductively coupled plasma mass spectrometry. Geochemistry, Geophysics and Geosystems. 2000GC000124.
【非特許文献4】Schonbachler M, Rehkamper M, Lee D.-C. and Halliday A.N. (2004), Ion exchange chromatography and high precision isotopic measurements of zirconium by MC-ICP-MS. Analyst, 129, 32-37.
【非特許文献5】Makishima, A. and Nakamura, E. (2006), Determination of major, minor and trace elements in silicate samples by ICP-QMS and ICP-SFMS applying isotope dilution-internal standardization (ID-IS) and multi-stage internal standardization. Geostandards and Geoanalytical Research (in press).
【非特許文献6】Yokoyama, T., Makishima, A. and Nakamura, E., (1999), Evaluation of the coprecipitation of incompatible trace elements with fluoride during silicate rock dissolution by acid digestion. Chemical Geology, 157, 175-187.
【非特許文献7】Lu, Y.H., Makishima A. and Nakamura, E. (2007), Coprecipitation of Ti, Mo, Sn and Sb with fluorides and application to determination of B, Ti, Zr, Nb, Mo, Sn, Sb, Hf and Ta by ICP-MS. Chemical Geology, 236, 13-26.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって本発明の課題は、試料中の微量元素であるハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンを、陰イオン交換樹脂を用いることなく、遷移金属(鉄、マンガン等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム)、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)を含む試料から効率的に分離・回収することを可能とする手段を提供し、よって試料中に含まれる微量元素を濃縮して機器分析、または抽出するための前処理を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、チタンのフロロ錯体を過塩素酸と共に加熱すると、そのフロロ錯体は分解されてフッ素イオンを失って塩酸や硝酸に不溶のチタン酸化物となって沈殿すること、および、それと同時にハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンの酸化物が共沈することを見出し、それを利用して目的とするこれら微量元素の効率的な濃縮を達成した。
【0013】
すなわち本発明は、以下の、
微量元素の濃縮を行う対象である試料にチタン及びフッ化水素酸を添加し、前記試料を分解処理すると共に、チタンとフッ化水素酸からチタンのフロロ錯体を生成する工程、
分解された前記試料に過塩素酸を添加し、加熱処理を行なって前記試料を乾固することにより、前記チタンのフロロ錯体を分解してチタン酸化物を生成する工程、及び;
乾固した前記試料を鉱酸で溶解し、得られた溶液を遠心分離して沈殿を回収することにより、前記チタン酸化物と共沈する前記微量元素を得る工程:
を有することを特徴とする、微量元素濃縮の前処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により、微量元素であるハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンを効率的に濃縮することが可能となった。本発明の方法は、岩石・鉱石・鉱物などの試料中に含まれるこれらの微量元素を機器分析、あるいは抽出する際の前処理の方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、最良の形態に基づいて詳しく説明する。
【0016】
上記で述べたように本発明の微量元素濃縮の前処理方法は、
微量元素の濃縮を行う対象である試料にチタン及びフッ化水素酸を添加し、前記試料を分解処理すると共に、チタンとフッ化水素酸からチタンのフロロ錯体を生成する工程、
分解された前記試料に過塩素酸を添加し、加熱処理を行なって前記試料を乾固することにより、前記チタンのフロロ錯体を分解してチタン酸化物を生成する工程、及び;
乾固した前記試料を鉱酸で溶解し、得られた溶液を遠心分離して沈殿を回収することにより、前記チタン酸化物と共沈する前記微量元素を得る工程:
を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の方法による前処理や濃縮の対象となる試料として、岩石・鉱石・鉱物などを挙げることができるが、それらに限られるものではなく、種々の試料の中に含まれる微量元素の前処理や濃縮に本発明の方法を用いることができる。
【0018】
また本発明の方法で分析や抽出を行う対象となる微量元素として、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、およびタングステンを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。なお本発明で言う微量元素とは、具体的には試料中における含有率が1%以下の元素を意味する。
【0019】
本発明の微量元素分析の前処理方法を具体的に説明する。岩石試料20~50mgをフッ素樹脂に測り取り、1mg以上、好ましくは2mg以上のチタンを添加する。ここで、試料によってチタンの添加量を加減することは、本発明において好適である。すなわち、玄武岩試料の場合は約20mgの試料に対して1mg以上のチタンを添加することが好適であり、超塩基性岩試料の場合は約50mgの試料に対して1mg以上のチタンを添加することが好適である。しかしチタンの添加量は、この範囲に限定されるものではない。
【0020】
本発明において過剰量のチタンを添加してもよいが、チタンの分離が後に必要となる場合や、チタンから分析対象である微量元素が持ち込まれる場合もあることを考慮すると、チタンの添加量は多ければ良いというものではなく、最小限であることが好ましい。また、添加されたチタンに由来する微量元素の量を最小限とするために、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどを不純物としてなるべく含まない、高純度のチタンを使うことが好ましい。更に、チタンの添加量を厳密に測定すると共に、添加されるチタンの中に含まれるこれらの元素の量を予め測定しておけば、添加されたチタンに由来する元素の量を容易かつ正確に見積もり、測定された値を精度よく補正することができる。
【0021】
チタンの添加方法としては、チタンを濃フッ化水素酸に溶解し、塩酸または硝酸で希釈した溶液として添加することが好ましい。しかし、チタンを化合物の形ではなく金属として、あるいは酸化物の形で添加してもよい。必要があれば、塩酸、硝酸、過塩素酸を更に加えてもよい。
【0022】
チタンを添加した試料に濃フッ化水素酸を加え、加熱、超音波、マイクロウェーブ処理などの手段により、試料の分解処理を行なうと共に、チタンとフッ化水素酸から、チタンのフロロ錯体を生成させる。本発明において扱う試料には目的とする微量元素の他に、鉱物、ガラス、ケイ酸塩などを含むが、この分解処理によって試料は溶液化するので該試料の元の構造は失われる。なおジルコニウムやハフニウムなどの微量元素はフッ化水素酸の存在下で溶液化するが、試料の全てが溶液化する訳ではなく、この操作によって、マグネシウムやカルシウムなどの元素は不溶性のフッ化物の沈殿を生じる。なおここで、岩石などの試料が分解できるのに必要十分な量のフッ化水素酸を加える必要がある。金属、酸化物としてチタンを添加した場合には、添加したチタンの溶液化を確認する。なおカルシウムやマグネシウムを多く含む試料においては必要があれば、アルミニウムを添加して分解する。その技術については特開2005-049170号公報に開示されている。
【0023】
続いて試料50mgにつき0.5ml程度の過塩素酸を加え、容器を開放状態にしてホットプレートにのせて加熱処理を行なうことにより、先の工程で生成したチタンのフロロ錯体を分解する。この加熱処理を1~3回繰り返すことにより、最終的に余分な過塩素酸をより高温で除去する。この加熱処理によりチタンのフロロ錯体は完全に分解し、不溶性のチタン酸化物が生成する。またそれと共に、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素の酸化物が共沈する。微量元素のフロロ錯体とチタンのフロロ錯体は共にフッ化水素酸に可溶性であり、かつそれらの酸化物は塩酸や硝酸に難溶である。また、微量元素とチタンはいずれも価数が大きくイオン半径が小さい点で共通しているために鉱物学的に置換しやすい。よってこのようにチタン酸化物と微量元素の酸化物が共沈がするという現象が起こる。なお本願明細書におけるチタン酸化物には二酸化チタンまたはその水和物などが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0024】
この工程で添加する過塩素酸の量は、好ましくは0.3mlから10ml、好ましくは0.5mlから3ml、更に好ましくは0.6mlから1.0mlであるが、その範囲内に限定されるものではない。過塩素酸の量がこれより少ないとチタンのフロロ錯体の分解が不十分となり、全部のサンプルが過塩素酸と接触せず、そのために沈殿の生成が不十分となる可能性がある。
【0025】
また加熱時間と加熱温度も、時間については好ましくは5時間から72時間、更に好ましくは7時間から20時間、温度については好ましくは120℃から200℃程度であるが、その範囲内に限定されるものではない。なお150℃以上の温度では、試料中の鉄とフッ化水素酸より生成したフッ化鉄(III)が分解してフッ化水素酸と酸化鉄となる。それに伴って試料中のフッ化物の大部分が分解し、チタン酸化物が不溶性の沈殿を作りやすくなるので鉄を主成分として含む試料の場合には、加熱温度は150℃以上が好ましい。一方150℃以下の温度だと鉄がフッ素を取り込むために、溶液化した際にチタンの一部または全てが可溶性のフロロ錯体となり、不溶性の沈殿が生じない、もしくは回収率が低下するので好ましくない。一方過塩素酸の沸点は203℃であるので、これを超えると一気に過塩素酸が蒸発してしまい、やはりフロロ錯体の分解が不十分となるので、温度の上限は200℃となる。
【0026】
このように加熱して乾固した試料に塩酸または硝酸からなる鉱酸を数滴加えて湿らし、120℃程度の温度で再乾固する。この温度以上だと、鉄を含む試料の場合には、塩化鉄が酸化鉄・水酸化鉄に分解して硝酸に不溶となるので、120℃以下が必要である。鉄を含まない試料の場合は150℃程度で乾固してもかまわない。なおここで使用する鉱酸として好適であるのは、それらに限定されるものではないが、塩酸と硝酸である。硫酸は酸化チタンを溶解してしまうので、この工程で硫酸を使用することは避けるべきである。よって本願明細書における「鉱酸」は、硫酸を除くことを意図するものである。なお鉄を主成分として含む試料の場合には酸化鉄が硝酸では溶解しないので塩酸を用いる必要がある。この操作により、試料中の鉄から生じた水酸化鉄、酸化鉄は硝酸に可溶性の塩化物錯体に変化し、一方、チタンの酸化物は溶解せずに沈殿として残る。なお鉄を主成分として含む試料の場合には長時間加熱すると可溶性の塩化物錯体が再び酸化鉄等に戻るので、この工程において、乾固後すぐに試料を取り出すことが好ましい。
【0027】
このようにして乾固した試料を鉱酸で溶解したものを遠心分離し、チタンの酸化物およびそれと共沈している微量元素の酸化物を沈殿させ、上清を分離する。この操作を1~3回繰り返し、沈殿に付着した溶液を洗う。なお超音波槽にいれて洗浄を促進することが望ましい。この操作により、ほとんどのアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム)、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)、遷移金属(鉄、マンガン等)は上清に移る一方、生成した沈殿ではハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンが濃縮されている。よってこの前処理により、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素の前濃縮を行うことができる。
【0028】
そして、そのような前処理を行った試料を濃フッ化水素酸などに溶解し、溶液中のハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素の含量を解析することができる。市販されている一般的な元素分析機器を用いてこれらの微量元素の含量を解析することができるが、使用できる分析機器の一例として、下記の実施例で使用している高分解能型ICP-MS,ELEMENT(ドイツ、Finnigan社製)を挙げることができる。
【0029】
なお本発明の方法は、試料中に含まれる微量元素を陰イオン交換樹脂によって相互に分離する目的にも有用である。すなわち本発明の前処理方法によると、遠心分離を行うことによって添加された過塩素酸は除去されるので、過塩素酸を添加した溶液からでも過塩素酸によって妨害されることなく、試料中に含まれる微量元素を陰イオン交換樹脂を用いて分離することができる。
【0030】
また本発明の方法を、Lu-Hf法への適用することも可能である。天然に存在するLu-176はベータ壊変し、Hf-176になる。これを用いるLu-Hf法は、年代測定法として、変質・変成に対して影響を受けにくいという優れた特徴を持っている。年代測定のためには親核種をもつLuの高精度定量と、娘核種を持つHfの高精度定量ならびに同位体比測定が必要である。そのため、LuとHfの濃縮安定同位体(スパイク)を加えて同位体平衡を達成した後、化学分離を行ってそれぞれを単離し、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)やTIMS(表面電離質量分析法)で、同位体希釈法で定量することが必要である。
【0031】
しかしながら、フッ化水素酸で溶解するとLuは希土類元素であるのでフッ化水素酸中では不溶性のLuFを作る。一方、Hfはフッ化水素酸中ではHfF2-を作って溶解する。そのために、Hfは同位体平衡に達するが、Luは物理的にLuFが混合するだけであり、完全な同位体平衡には達さない。同位体比平衡を達成するには一度フッ化物を過塩素酸処理などで分解し(非特許文献6参照)、Luも溶液化する必要がある。しかし、過塩素酸処理をすると、既に述べたように一般的に用いられている陰イオン交換が妨害されるので、主成分元素からHfを分離することができなくなる。
【0032】
しかし本発明の方法を用いると、過塩素酸処理をしたにも関わらず、陰イオン交換によりHfを単離することができる。すなわち、まず岩石・鉱物試料にLuとHfの濃縮同位体を加える。次にTi溶液を加え、さらに濃フッ化水素酸を加えて試料を分解する。必要があればアルミニウムを添加する(特開2005-049170号公報参照)。この段階でHfは完全に溶液化し、Hfの同位体比平衡が達成される。次に過塩素酸を加え、フッ化物を分解する。この操作により、Hfの50%以上がチタンの沈殿と共沈する。一方、Luはフッ化物が分解することによりようやく同位体比平衡に達する。その後遠心分離して上澄み液と沈殿をわける。上澄み液について陽イオン交換やなどによりLuを分離し、同位体希釈法で定量する(例えば以下のSoderlundらの文献を参照)。
Soderlund U, Patchett JP, Vervoort JD, Isachsen CE,
Lu-176 decay constant determined by Lu-Hf and U-Pb isotope systematics of Precambrian mafic intrusions
EARTH AND PLANETARY SCIENCE LETTERS 219,311-324, 2004.
【0033】
一方、沈殿は再びフッ化水素酸に溶解後、例えば過塩素酸と乾固後、過酸化水素水に溶解して、UTEVA樹脂によりチタン、タングステン、モリブデン、ニオブと分離し、Hfを濃縮し(非特許文献2参照)、マルチコレクター型ICP-MSにより定量とHf同位体比を同時測定する(非特許文献2参照)。このように本発明の方法を適用することにより、LuとHfを同一試料から同位体比平衡に達せさせてから、同位体希釈法を適用することが初めて可能になり、分析の正確さを高めることが可能となる。
【0034】
本発明の方法によってハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素を濃縮することができるので、本発明の方法は分析のための前処理のみならず、試料から該微量元素を抽出するための前処理方法としても使用することができる。ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素は種々の産業において高い有用性を有する貴重な物質であるので、該微量元素の抽出に役立つ本発明の方法の意義は大きい。
【実施例】
【0035】
次に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0036】
(玄武岩からのZr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの濃縮)
7mLテフロン(登録商標)PFA密閉容器に20mgの玄武岩(地質調査所JB-3)を測り取り、それにジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、タンタル(Ta)を各1μg含む標準溶液を添加し、これにチタン(Ti)を2mg含むフッ化水素酸溶液を添加した。30Mのフッ化水素酸を1mL、過塩素酸0.5mLを添加後、超音波洗浄器内で3日間試料の分解を行った後、ホットプレートで100、120、145、165℃と段階的に加熱した。冷却後過塩素酸を0.5mL再添加し、再びホットプレートで100、120、145、165、195℃と加熱してフッ化物を分解した(非特許文献6参照)。この操作によりチタンは不溶性の沈殿となる。6MのHClを0.5mL入れて120℃で乾固した後、0.5M硝酸5mLで全体を溶解した。遠心分離により沈殿を沈下させ、上澄み溶液を捨てた。沈殿を濃フッ化水素酸で溶解し、フッ化水素酸の濃度が0.5Mとなるように希釈した。この溶液を高分解能型ICP-MS,ELEMENT(ドイツ、Finnigan社製)で定量した(非特許文献7参照)。Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率はそれぞれ、75,48,60,75,37,57,78%であった。
【0037】
更に、チタンを0.5mgを添加した系と、チタンを1mgを添加した系で実験を行なった。その結果、チタンを0.5mgを添加した場合には、Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率はそれぞれ、3,8,5,8,6,5,7%であった。またチタンを1mgを添加した場合には、Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率はそれぞれ、38,62,56,61,46,50,69%であった。これらの結果から、Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率50%より大きくするには、チタンを1mg以上添加して十分な沈殿を生成することが必要であることが判った。
【0038】
(超塩基性岩からのZr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの濃縮)
7mLテフロンPFA密閉容器に50mgの超塩基性岩(ペリドタイト)を測り取り、Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wを各1μg含む標準溶液を添加し、これにチタン(Ti)を2mg含むフッ化水素酸溶液を添加した。30Mのフッ化水素酸を1mL、過塩素酸0.5mLを添加後、超音波洗浄器内で3日間試料の分解を行った後、ホットプレートで100、120、145、165℃と段階的に加熱した。冷却後過塩素酸を0.5mL再添加し、再びホットプレートで100、120、145、165、195℃と加熱してフッ化物を分解した(非特許文献6参照)。この操作によりチタンは不溶性の沈殿となる。6MのHClを0.5mL入れて120℃で乾固した後、0.5M硝酸5mLで全体を溶解した。遠心分離により沈殿を沈下させ、上澄み溶液を捨てた。沈殿を濃フッ化水素酸で溶解し、フッ化水素酸の濃度が0.5Mとなるように希釈した。この溶液を高分解能型ICP-MS,ELEMENT(ドイツ、Finnigan社製)で定量した(非特許文献7参照)。Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率は97,53,99,99,50,101,100%であった。
【0039】
更に、チタンを0.5mg添加した系と、チタンを1mg添加した系で実験を行なった。その結果、チタンを0.5mgを添加した場合には、Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率はそれぞれ、16,43,34,59,44,32,43%であった。またチタンを1mgを添加した場合には、Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの回収率はそれぞれ、40,74,54,79,71,55,71%であった。これらの結果から、Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W回収率を50%より大きくするには、チタンを1mg以上を添加して十分な沈殿を生成することが必要であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の前処理方法により、岩石などの試料中のハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどの微量元素を効率的に濃縮することが可能となった。本発明の方法はこれらの微量元素を正確に機器分析する目的に資するものである。これらの微量元素は種々の産業に貴重な物質であり、それを濃縮・定量することを可能とした本発明の方法は大きな意義を有する。本発明の方法は機器分析の前処理に有効なので、岩石などの試料中に含まれる上記微量元素の量を予測するのみならず、種々の産業廃棄物中に含まれる上記微量元素の量を予測することにも利用できる。本発明の方法は鉄を含む物質に対しても適用できるので、本発明の方法を適用できる産業廃棄物には種々の物が含まれる。そのような例として、携帯電話やパーソナルコンピューターに含まれる基板などを挙げることができる。引いては本発明の方法は分析の用途に留まらず、スケールアップをすることにより、岩石などの試料や産業廃棄物から上記微量元素を得ることができる。