TOP > 国内特許検索 > ケイ素吸収に関与する遺伝子の利用 > 明細書

明細書 :ケイ素吸収に関与する遺伝子の利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4613318号 (P4613318)
公開番号 特開2008-220306 (P2008-220306A)
登録日 平成22年10月29日(2010.10.29)
発行日 平成23年1月19日(2011.1.19)
公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
発明の名称または考案の名称 ケイ素吸収に関与する遺伝子の利用
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
C12N 15/00 A
C12N 5/00 103
請求項の数または発明の数 3
全頁数 20
出願番号 特願2007-065580 (P2007-065580)
出願日 平成19年3月14日(2007.3.14)
審査請求日 平成22年1月18日(2010.1.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】馬 建鋒
【氏名】山地 直樹
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 特開2006-187209(JP,A)
米国特許第06313375(US,B1)
Nature,2006年,vol. 440,688-691
ブレインテクノニュース,2006年,no. 118,17-21
GenBank Accession AK112022,2006年 8月10日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?37988685:DDBJ:5691638
GenBank Accession AF326485,2001年 3月27日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?13447788:NCBI:2326834
Plant Physiol.,2001年,vol. 125,1206-1215
GenBank Accession AF326484,2001年 3月27日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?13447786:NCBI:2326833
調査した分野 A01H 5/00
C12N 15/00- 15/90
C12N 5/00- 5/28
A01H 1/00
C07K 14/415
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA/CONFSCI/SCISEARCH(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq

特許請求の範囲 【請求項1】
下記の(m)~(p)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴とする葉鞘および葉身におけるケイ素吸収を抑制する方法。
(m)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(n)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(o)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(p)以下の(7)または(8)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(7)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(8)配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記の(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴とする飼料用イネの葉鞘および葉身におけるケイ素吸収を抑制する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(1)または(2)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(1)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(2)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項3】
下記の(e)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴とするバイオマス燃料製造用トウモロコシの葉鞘および葉身におけるケイ素吸収を抑制する方法。
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(h)以下の(3)または(4)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞内へのケイ酸輸送活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(3)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(4)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育および硬さを調節するケイ素の吸収に関与する遺伝子の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの植物は、ケイ素(Si)を多量に吸収する機能を有していないのに対し、イネやコムギなどの単子葉植物は、ケイ素を多量に吸収する代表的な植物である。ケイ素は、植物の必須元素ではないものの、ケイ素の蓄積量の違いによって、植物の性質は大きく異なる。
【0003】
例えば、ケイ素は、植物の生育に関与しており、ケイ素の蓄積量が多くなると、
(i)病害および虫害に対する抵抗性(例えば、イネのいもち病、紋枯病、および、ごま葉枯病に対する抵抗性)
(ii)耐塩性および耐乾性の向上
(iii)ミネラルストレスに対する耐性(例えば、アルミニウム、および、マンガンなどの無機物による毒性の軽減、または、植物体内でのリン酸の有効利用度の向上など)
等の性質を、植物に与える。
【0004】
とりわけ、ケイ素の蓄積量の増加によって、病害や虫害に対する抵抗性が強化されることは、植物の生育が促進される大きな原因となっている。
【0005】
従って、ケイ素の蓄積量を増加させることは、植物の健全的な生育、および、安定した収量の確保のために、有効であるといえる。また、ケイ素蓄積量の増加は、生物的ストレス、および、非生物的ストレスなどの種々のストレスの軽減にも、有効であるといえる。
【0006】
なお、このような複合ストレスに対する耐性は、葉、茎、または果実の表面などの組織(地上部の組織)に、大量に蓄積したケイ素によって、発揮されるとされている。
【0007】
また、ケイ素は、植物の硬さにも関与しており、ケイ素の蓄積量が少なくなると、植物は、やわらかくなる。例えば、やわらかいイネは、ケイ素の蓄積量が低い。これは、細胞のケイ素蓄積量が増加するとポリマー(シリカ)が形成され、このポリマーが、細胞を硬くするためである。
【0008】
従って、ケイ素の蓄積量を減少させることは、植物の硬さを変える(やわらかくする)ために、有効であるといえる。
【0009】
このように、植物のケイ素吸収を促進してケイ素の含有量を高くすれば、複合ストレスに対する耐性を植物に付与し、植物の生育を促進することができる。一方、植物のケイ素吸収を抑制してケイ素の含有量を低くすれば、硬い植物をやわらかくすることができる。
【0010】
本発明者は、ケイ素(ケイ酸)集積性植物であるイネから、既にいくつかのケイ素吸収に関与する遺伝子を同定することに成功している(特許文献1および2)。具体的には、本発明者は、互いにケイ素吸収メカニズムの異なるLsi1遺伝子およびLsi2遺伝子を取得している。Lsi1遺伝子は、細胞内にケイ素を取り込むトランスポーターとして機能するLsi1タンパク質をコードしている。一方、Lsi2は、細胞の中から外へケイ素を輸送するトランスポーターとして機能するLsi2タンパク質をコードしている。

【特許文献1】特開2006-187209号公報(2006年7月20日公開)
【特許文献2】国際出願番号PCT/JP2006/315959 (国際出願日2006年8月11日,優先日2005年8月18日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1および2に記載のLsi1遺伝子およびLsi2遺伝子だけでは、複雑な植物のケイ素吸収メカニズムを解明することはできない。また、Lsi1遺伝子およびLsi2遺伝子は、いずれもイネから取得されたものであり、イネ以外の植物からはケイ素吸収に関与する遺伝子は知られていない。
【0012】
さらに、Lsi1遺伝子およびLsi2遺伝子は、いずれも根のケイ素吸収を促進することによって、前述のような種々のストレスに対して、ある程度の抵抗性(耐性)を付与することができる。この抵抗性(耐性)をさらに高めるには、根以外の部分(特に地上部)にケイ素を蓄積させることが有効であると考えられる。しかし、Lsi1遺伝子およびLsi2遺伝子は、根以外の部分(特に地上部)にケイ素を蓄積させる機能は有していない。従って、種々のストレスに対して高い抵抗性(耐性)を付与した植物を生産するには、まだまだ改善の余地がある。
【0013】
本発明は、上記従来の問題に鑑みたものであり、その目的は、新規なケイ素吸収に関与するポリヌクレオチドの利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、イネLsi1遺伝子を利用して、イネでの相同遺伝子Lsi6遺伝子、トウモロコシでの相同遺伝子ZmLsi1遺伝子およびZmLsi6遺伝子を、それぞれ、クローニングするとともに、各遺伝子の機能を明らかにすることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明のケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、発現可能に導入することを特徴としている。
【0016】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(1)または(2)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(1)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0017】
また、本発明のケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(e)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドを、発現可能に導入することを特徴とするものであってもよい。
【0018】
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(h)以下の(3)または(4)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(3)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0019】
本発明のケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(i)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドを、トウモロコシに発現可能に導入することを特徴とするものであってもよい。
【0020】
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(l)以下の(5)または(6)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(5)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(6)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0021】
本発明の形質転換体の生産方法では、上記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、イネに発現可能に導入することが好ましい。
【0022】
本発明の形質転換体の生産方法では、上記(e)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドを、トウモロコシに発現可能に導入することが好ましい。
【0023】
本発明のケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(m)~(p)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴としている。
【0024】
(m)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(n)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(o)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(p)以下の(7)または(8)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(7)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(8)配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0025】
本発明の飼料用イネの生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴としている。
【0026】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(1)または(2)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(1)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(2)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0027】
本発明のバイオマス燃料製造用トウモロコシの生産方法は、上記の課題を解決するために、下記の(e)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制することを特徴としている。
【0028】
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(h)以下の(3)または(4)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(3)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(4)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0029】
本発明のケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産方法は、上記の課題を解決するために、トウモロコシに対し、下記の(i)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドの発現抑制することを特徴としている。
【0030】
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(l)以下の(5)または(6)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(5)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(6)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0031】
このように、(a)~(l)の遺伝子は、ケイ素吸収を促進する遺伝子である。これにより、(a)~(l)のいずれかの遺伝子を導入し、その遺伝子を発現させれば、ケイ素吸収が促進される。従って、ケイ素蓄積量の高い形質転換体を生産することができる。
【0032】
特に、(a)~(h)の遺伝子は、根から吸収したケイ素を地上部に蓄積させる機能を有する。すなわち、(a)~(h)の遺伝子は、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有する。これにより、形質転換体のケイ素蓄積量を高めることができる。ケイ素蓄積量の増加は、植物に病害および虫害などの種々のストレスに対する耐性(抵抗性)を付与し、生育を促進させる。このため、ケイ素吸収を促進した形質転換体を利用すれば、農薬および化学肥料を極力使用せずに、より安全性の高い形質転換体を栽培することができる。また、より安全性の高い食料として提供することができる。
【0033】
一方、(a)~(l)の遺伝子の発現を抑制すれば、ケイ素吸収を抑制することができる。これにより、形質転換体のケイ素蓄積量を低下させることができる。ケイ素蓄積量の減少は、硬い植物をやわらかくする。このため、ケイ素吸収を抑制した形質転換植物は、家畜飼料に利用することができる。さらに、バイオエタノールをはじめとするバイオマス燃料製造用の資源としても利用することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ケイ素吸収に関与するポリペプチドを、発現させるまたは発現を抑制することによって、ケイ素吸収が促進または抑制された形質転換体を生産することができる。
【0035】
従って、ケイ素蓄積量を増加させることにより、植物に病害および虫害などの種々のストレスに対する耐性(抵抗性)を付与し、生育を促進させた形質転換体を生産することができる。
【0036】
一方、ケイ素蓄積量を減少させることにより、植物体をやわらかくし、家畜飼料やバイオマス燃料用の原料資源として利用できる形質転換体を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、イネまたはトウモロコシから新たに取得した、ケイ素吸収に関与するポリヌクレオチド(Lsi6遺伝子,ZmLsi6遺伝子,ZmLsi1遺伝子)の利用方法に関するものである。以下では、ケイ素吸収に関与する遺伝子の発現を制御することによって、ケイ素吸収機能が促進または抑制された形質転換体を生産する方法と、その利用方法について説明する。
【0038】
A.本発明の形質転換体の生産方法
本発明の形質転換体の生産方法は、(i)ケイ素吸収に関与するポリヌクレオチドを発現させることによる、ケイ素吸収が促進された形質転換体の生産と、(ii)ケイ素吸収に関与するポリヌクレオチドの発現を抑制することによる、ケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産とを含んでいる。
【0039】
<A-1>ケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法
ケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法は、下記の(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドを、発現可能に導入する工程を含んでいる。
【0040】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(1)または(2)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(1)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0041】
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(h)以下の(3)または(4)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(3)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0042】
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(l)以下の(5)または(6)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(5)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(6)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0043】
上記のポリヌクレオチドのうち、配列番号1、3、5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イネまたはトウモロコシから本発明者等によって新たに同定された、ケイ素吸収に関与する(ケイ素吸収を促進する)遺伝子である。また、配列番号2、4、6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号1、3、5の遺伝子の翻訳産物である。すなわち、配列番号2、4、6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、イネまたはトウモロコシから本発明者等によって新たに同定された、ケイ素吸収に関与する(ケイ素吸収を促進する)タンパク質である。
【0044】
なお、配列番号と、配列表中の配列表中の塩基配列またはアミノ酸配列との対応関係は、下記の通りである。
・配列番号1は、イネ由来のLsi6遺伝子(cDNA)の塩基配列である。
・配列番号2は、配列番号1のLsi6遺伝子にコードされるポリペプチド(Lsi6タンパク質)のアミノ酸配列である。
・配列番号3は、トウモロコシ由来のZmLsi6遺伝子(cDNA)の塩基配列である。
・配列番号4は、配列番号3のZmLsi6遺伝子にコードされるポリペプチド(ZmLsi6タンパク質)のアミノ酸配列である。
・配列番号5は、トウモロコシ由来のZmLsi1遺伝子(cDNA)の塩基配列である。
・配列番号6は、配列番号5のZmLsi1遺伝子にコードされるポリペプチド(ZmLsi1タンパク質)のアミノ酸配列である。
・配列番号7は、イネ由来のLsi1遺伝子(cDNA)の塩基配列である。
・配列番号8は、配列番号7のLsi1遺伝子にコードされるポリペプチド(Lsi1タンパク質)のアミノ酸配列である。
・配列番号9は、イネ由来のLsi2遺伝子(cDNA)の塩基配列である。
・配列番号10は、配列番号9のLsi2遺伝子にコードされるポリペプチド(Lsi2タンパク質)のアミノ酸配列である。
【0045】
なお、本発明において、「ケイ素吸収」とは、ケイ素およびケイ素を含む化合物(ケイ酸など)を吸収することを示すものとする。例えば、植物は、通常、ケイ酸としてケイ素を吸収する。
【0046】
また、上記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図されている。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドを示している。
【0047】
上記「ポリヌクレオチド」は、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であってもよい。また、DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。
【0048】
上記ポリヌクレオチドを取得する方法は、特に限定されるものではないが、公知の技術により、上記ポリヌクレオチドまたはその一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、上記ポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記ポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0049】
また、上記ポリヌクレオチドは、例えば、PCR等の増幅手段を用いる方法によっても取得することができる。例えば、上記(a)~(h)のポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することによって、上記のポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。また、例えば、公知の日本晴またはトウモロコシの配列情報に基づいて、Lsi6遺伝子、ZmLsi6遺伝子、ZmLsi1遺伝子領域を増幅できるようなプライマーを設計し、そのプライマーを用いて、ゲノムDNA(またはcDNA)またはRT-PCR産物を鋳型にして、各遺伝子領域を増幅することによっても、取得することができる。
【0050】
上記ポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、イネ科植物(イネ、トウモロコシなど)であることが好ましい。
【0051】
また、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC 洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001) に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる。
【0052】
また、上記「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」とも換言できる。なお、配列番号2、4、6に示されるポリペプチドは、配列番号1、3、5に示されるポリヌクレオチドの翻訳産物であり、少なくともケイ素吸収に関与するものである。
【0053】
さらに、上記「ポリペプチド」は、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。ここで、「単離された」ポリペプチドは、その天然の環境から取り出されたポリペプチドを示す。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドは、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドと同様に、単離されたものとする。
【0054】
従って、上記「ポリペプチド」は、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主によっては、上記ポリペプチドは、グリコシル化など、糖鎖修飾される場合もある。つまり、上記ポリペプチドには、このような修飾されたポリペプチドも含まれる。
【0055】
上記「1または数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、または付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、または付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0056】
ここで、ケイ素吸収が促進された形質転換体の生産方法は、(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチド、または、そのポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入されており、かつ、ケイ素吸収に関与するポリペプチドを発現させるものであれば、特に限定されるものではない。
【0057】
ここで、上記「形質転換体」は、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。また、本発明では、「形質転換体」は主として植物であり、この植物の範疇には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0058】
上記「組換え発現ベクター」は、(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドを含むものであれば、その種類は特に限定されるものではない。例えば、配列番号1、3、または5に示すcDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0059】
すなわち、上記「組換え発現ベクター」は、ホスト細胞(対象細胞または宿主細胞)の種類に応じて、(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドを確実に発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、選択したプロモーターと(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドとを各種プラスミド等に組み込んだベクターを組換え発現ベクターとして用いればよい。
【0060】
なお、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができ、具体的には、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーターを挙げることができる。
【0061】
ここで、「ポリヌクレオチドまたは組換え発現ベクターが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、ホスト細胞内に発現可能に導入されることを意味する。
【0062】
上記ポリヌクレオチドまたは組換え発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、アグロバクテリウム感染法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびパーティクルガン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0063】
上記ポリヌクレオチドがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明にかかるポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。
【0064】
上記ホスト細胞は、ケイ素吸収能を有する細胞、生物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、イネ,トウモロコシ,きゅうり,アブラナ,またはトマト等の植物細胞を挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、植物細胞に限らず、例えば、大腸菌等の細菌細胞、酵母細胞、線虫、アフリカツメガエルの卵母細胞、哺乳類由来の細胞等を適用してもよい。上記のホスト細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知であり、特に限定されるものではない。
【0065】
なお、Lsi6遺伝子はイネ由来であるため、上記(a)~(d)のポリペプチドを導入するホスト細胞もイネであることが好ましいが、当然イネ以外のホスト細胞にも適用してもよい。同様に、ZmLsi1遺伝子およびZmLsi1遺伝子はトウモロコシ由来であるため、上記(e)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドを導入するホスト細胞もトウモロコシであることが好ましいが、当然トウモロコシ以外のホスト細胞にも適用してもよい。
【0066】
このようにして生産された形質転換体は、上記(a)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドまたは上記の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、ケイ素吸収に関与するポリペプチドを発現しているものである。すなわち、生産された形質転換体に、上記(a)~(d)のポリヌクレオチドが導入さていれば、イネ由来のLsi6関連遺伝子を発現し、上記(e)~(h)のポリヌクレオチドが導入されていれば、トウモロコシ由来のZmLsi6関連遺伝子を発現し、、上記(i)~(l)のポリヌクレオチドが導入されれば、トウモロコシ由来のZmLsi1関連遺伝子を発現する。これにより、ケイ素吸収を促進するポリペプチドが発現する。その結果、形質転換体のケイ素の蓄積量を増加させることができる。
【0067】
このように、ケイ素吸収が促進された形質転換体は、ケイ素蓄積量の増加により、病害や虫害に対する抵抗性、耐塩性および耐乾性、およびミネラルストレスに対する耐性が向上する。従って、複合ストレス(例えば、病害や虫害に対する抵抗性、耐塩性および耐乾性、およびミネラルストレス)に対する耐性が向上し、生育を促進させることができる。
【0068】
特に、上記(a)~(h)に示すイネ由来のLsi6関連遺伝子およびトウモロコシ由来のZmLsi6関連遺伝子は、地上部にケイ素を蓄積させる機能を有している。すなわち、根からケイ素を吸収する活性と、根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有している。
【0069】
このような機能(活性)を有するのは、Lsi6タンパク質およびZmLsi6タンパク質の機能と、特許文献1および2に記載のLsi1タンパク質およびLsi2タンパク質の機能とが大きく異なるためである。すなわち、Lsi6タンパク質およびZmLsi6タンパク質が、根のみではなく、地上部にも発現するためである。一方、特許文献1および2に記載のLsi1タンパク質およびLsi2タンパク質は、根にしか発現しない。
【0070】
従って、より高いケイ素吸収が促進された形質転換体を生産するには、上記(a)~(l)のうち、上記(a)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドを発現させることが好ましい。これにより、前述のような複合ストレスに対する耐性を、顕著に高い形質転換体を取得することができる。
【0071】
一方、上記(i)~(l)に示すトウモロコシ由来のZmLsi1関連遺伝子は、表皮に局在化するのに対し、イネLsi1遺伝子は、外皮および内皮に局在化する。つまり、ZmLsi1遺伝子およびLsi1遺伝子の発現部位は異なる。これにより、ZmLsi1遺伝子は、外皮細胞に取り込まれたケイ素を、原形質連絡によって、導管まで輸送される。一方、Lsi1遺伝子は、ケイ素を外部から導管まで、輸送することができる。このため、ZmLsi1遺伝子を発現させれば、イネLsi1遺伝子や(a)~(h)のLsi6遺伝子およびZmLsi6遺伝子とは異なるルートによって、ケイ素吸収を促進することができる。
【0072】
ここで、近年、食の安全性に関心が寄せられており、より安全性の高い食品が、望まれている。このため、農薬を全くまたは極力使用せずに栽培する有機栽培および無農薬(減農薬)栽培によって生産された農産物が、注目されている。
【0073】
コメは、日本ばかりではなく、世界各地で主食とされている消費量の多い植物である。また、果物や野菜も、生産量および消費量が多い。このため、これらの農作物は、特に安全性が重要視される。
【0074】
前述のように、ケイ素吸収が促進された形質転換体は、病害や虫害に対する抵抗性等の複合ストレスに対する耐性(抵抗性)が向上する。このため、この形質転換体は、農薬および化学肥料を極力使用せずに、栽培することができる。従って、有機栽培および無農薬栽培などが可能となり、より安全性の高い形質転換体を、食料として提供することができる。つまり、上記の形質転換体は、食品として利用することができる。このような食品としては、コメ、野菜、および果物のような農産物であることが好ましい。これにより、安全性が高く、有用な米(イネ)、野菜、および果物の栽培を実現できる。
【0075】
特に、Lsi6タンパク質またはZmLsi6タンパク質が発現した形質転換体は、根のケイ素吸収が向上するとともに、地上部にケイ素を蓄積する。このため、複合ストレスに対して、特に高い抵抗性を示す。従って、形質転換体を食品として利用する場合も、Lsi6タンパク質またはZmLsi6タンパク質が発現した形質転換体を適用することが好ましい。
【0076】
なお、上記(a)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドは、単独で発現させてもよいし、複数を発現させてもよい。つまり、(a)~(h)のうち少なくとも1つのポリヌクレオチドを発現させればよい。さらに、Lsi6遺伝子、ZmLsi6遺伝子、およびZmLsi1遺伝子を適宜組合わせて発現させてもよい。この場合、ケイ素吸収メカニズムの異なるケイ素吸収を促進するポリペプチドを複数導入し、ケイ素吸収が促進することが好ましい。これにより、取得した形質転換体は、ケイ素吸収メカニズムが異なるケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されており、かつ、ケイ素吸収を促進するポリペプチドを発現している。このため、ケイ素の蓄積量を、より増加させることができる。従って、ケイ素蓄積量を一層高めることができ、複合ストレスに対して強い耐性を示す形質転換体を取得することができる。
【0077】
なお、本発明者は、既に、イネにおけるケイ素吸収に関与する別の遺伝子およびタンパク質(Lsi1遺伝子・タンパク質(配列番号7・8),Lsi2遺伝子・タンパク質(配列番号9・10))を単離し、その配列を特定している(特許文献1および2)。
【0078】
図1は、Lsi1タンパク質、Lsi6タンパク質、ZmLsi1タンパク質、ZmLsi6タンパク質のアミノ配列を比較した図である。図1のように、これらの各タンパク質の相同性は高い。このため、ケイ素吸収を促進する機能は共通であるものの、その機能は全く異なる。
【0079】
すなわち、Lsi6タンパク質およびZmLsi6タンパク質は、根のみではなく、地上部にも発現している。一方、Lsi1タンパク質は、細胞内にケイ素を取り込むトランスポーターであるのに対し、Lsi2タンパク質は、細胞の中から細胞外へ、ケイ素を輸送するトランスポーターである。このため、Lsi6タンパク質およびZmLsi6タンパク質は、根に発現するものの地上部に発現しないLsi1タンパク質およびLsi2タンパク質とは、全く異なる機能を有している。
【0080】
従って、Lsi6遺伝子、ZmLsi6遺伝子、およびZmLsi1遺伝子を適宜組み合わせて使用する場合には、少なくともLsi6遺伝子およびZmLsi6遺伝子の一方とともに、これらLsi1遺伝子およびLsi2遺伝子も組み合わせてもよい。
【0081】
また、Lsi6遺伝子(タンパク質)の改変または発現量を制御することにより、ケイ素の有益効果をある程度維持したまま、地上部のケイ素分布のみを、制御することが可能となる。
【0082】
なお、図1において、TM1~TM6は、膜貫通ドメインを示している。また、図1において、△で示す部位のアミノ酸は、ケイ素吸収を促進する機能を維持する上で重要な部分である。具体的には、△部位は、H2およびH5(へリックス)、および、LE1およびLE2(ループ)を示している。このため、各タンパク質を変異(改変)するときには、△で示す部位のアミノ酸を保持することが好ましい。
【0083】
<A-2>ケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産方法
一方、ケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産方法は、ケイ素吸収を促進するポリヌクレオチドの発現を抑制することによって、ケイ素吸収を促進するポリペプチドの発現を抑制する工程を含んでいればよい。
【0084】
例えば、ケイ素吸収が抑制された形質転換体の生産方法は、(m)~(p)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制する工程を含んでいればよい。この方法によれば、Lsi6遺伝子またはZmLsi6遺伝子の発現を抑制した形質転換体が生産される。
【0085】
(m)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(n)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(o)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(p)以下の(7)または(8)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、根からケイ素を吸収する活性と根から地上部へケイ素を輸送する活性とを有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(7)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(8)配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0086】
また、ケイ素吸収が抑制された形質転換トウモロコシ(形質転換体)の生産方法は、トウモロコシに対し、下記の(i)~(l)のいずれかのポリヌクレオチドの発現抑制するものであってもよい。この方法によれば、トウモロコシ由来のZmLsi1遺伝子の発現を抑制した形質転換トウモロコシ(形質転換体)が生産される。
【0087】
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(l)以下の(5)または(6)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、表皮に局在化し根のケイ素吸収を促進するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(5)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(6)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0088】
上記ポリヌクレオチドの発現の抑制は、例えば、アンチセンスRNAの導入、RNA干渉などの手法による遺伝子発現操作によって行うことができる。例えば、アンチセンスRNA技術は、標的遺伝子に対して相補的なRNA転写体を生成するキメラ遺伝子の導入を基本原理とする。その結果として得られる表現型は、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少である。つまり、ケイ素吸収を促進するポリヌクレオチドの部分配列に対するアンチセンスRNAを導入すれば、ケイ素吸収を促進するタンパク質の発現が抑制される。これにより、ケイ素吸収の機能が低下し、植物中のケイ素の含量を低下させることができる。
【0089】
ケイ素は、植物の硬さに関与しており、植物のケイ素蓄積量が低下すると、植物はやわらかくなる。従って、ケイ素吸収を抑制することによって、形質転換体をやわらかくすることができる。
【0090】
家畜は、硬い飼料を食べずに残す傾向にあるため、硬い植物を飼料に適用することは好ましくない。ケイ素吸収が抑制された形質転換体は、ケイ素蓄積量の減少により、やわらかくなる。従って、ケイ素吸が抑制された形質転換体は、家畜飼料として好適に利用することができる。つまり、ケイ素吸収を抑制してケイ素の含有量を低くすれば、軟らかく飼料に適した植物(飼料用イネ,飼料用トウモロコシ等)を作製できる。つまり、上記の(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制すれば、飼料用イネを生産することができる。
【0091】
さらに、近年、植物資源から製造されるバイオマス燃料が注目を浴びている。バイオマス燃料の代表的な例は、自動車用燃料として利用されるバイオエタノールである。バイオエタノールは、燃やしても二酸化炭素の総量が増えないため、二酸化炭素などの排出量の抑制に有用である。それに加え、バイオエタノールは、ガソリンの半分程度と安価である。このように、環境にやさしい上、経済的にも非常に優れていることが、バイオエタノールをはじめとするバイオマス燃料が注目を浴びる最大の要因である。
【0092】
バイオマス燃料は、トウモロコシやサトウキビなどの大量の植物原料を発酵させて製造される。しかし、バイオマス燃料の植物原料となるトウモロコシやサトウキビは、ケイ素を多量に吸収する植物である。このため、これらの植物原料は、ケイ素によって硬いものとなっている。その結果、発酵が遅くなり、バイオマス燃料の生産効率も低くなる。
【0093】
前述のように、ケイ素吸収を抑制した形質転換体はやわらかくなる。従って、ケイ素吸収が抑制された形質転換体は、バイオマス燃料の原料としても好適に利用することができる。つまり、上記の(e)~(h)のいずれかのポリヌクレオチドの発現を抑制すれば、バイオマス燃料製造用トウモロコシを生産することができる。
【0094】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0095】
〔実施例1〕ケイ酸輸送活性
アフリカツメガエルの卵母細胞(Xenopus laevis oocyte)を用いて、対象遺伝子(Lsi1遺伝子,Lsi6遺伝子,ZmLsi1遺伝子,ZmLsi6遺伝子)のcRNAのUTRをできるだけ除去し、βグロビン遺伝子の3’UTRを含むプラスミドベクターに組み込んだ(挿入した)。目的遺伝子の挿入と方向を確認したプラスミドの3’末端側を制限酵素で切断し、これを鋳型としてT3ポリメラーゼを用いてRNAを合成した(Ambion社製 mMESSAGE mMACHINE High Yield Capped RNA Transcription Kit)。
【0096】
次に、アフリカツメガエル卵母細胞を腹部から取り出した後、0.1%Collagenase B(Roche社製)を含むModified Birth's Saline-Ca (MBS-Ca:88mM NaCl, 1mM KCl, 2.4mM NaHCO3, 15mM Tris-HCl(pH7.6), 0.82mM MgSO4, 10μg/ml sodium penicillin,および10μg/ml streptomycin sulfate)で3~4回洗浄した。顕微鏡下で色、形、大きさなどによって洗浄後の卵母細胞を選抜し、18℃のインキュベータ内で一晩インキュベートさせた。
【0097】
翌日、合成されたcRNA(1ng/nl)とコントロール用の水とを、電動マイクロインジェクター(Dramond社製 NanojetII)を用いて、各々50nLずる顕微注入した。さらに一晩インキュベートした試料について、ケイ酸輸送活性を評価した。
【0098】
卵母細胞を入れたチューブに68Ge(約2MBq)で標識された1mMケイ酸入りMBSを処理液として1mLずつ加え、18℃で30分間処理した。30分後、処理液を丁寧に取り除き、ケイ酸および68Geを含まないMBSで5回洗浄した。洗浄後、卵母細胞に0.1N硝酸50μLを加えて破砕し、0.1N水酸化ナトリウムで中和した後、全量が5mLとなるようクリアゾルI(ナカライ社製)を加えた。そして、24時間後に液体シンチレーションカウンタ(Pharmacia社製 WALL 1410E LIQUID SCINTILLATION COUNTER)で68Geの放射活性を測定した。その結果、図2のように、Lsi6遺伝子,ZmLsi1遺伝子,ZmLsi6遺伝子の発現によって、Lsi1遺伝子と同様に、ケイ酸輸送活性を示した。
【0099】
〔実施例2〕Lsi6遺伝子,ZmLsi1遺伝子,ZmLsi6遺伝子の発現部位
水耕栽培したイネおよびトウモロコシの根、葉鞘、葉身から、全RNAを調製し、1μgのRNAから、oligo dT(18)プライマーを用いてcDNAを合成した。そのcDNAを鋳型として、Lsi6遺伝子,ZmLsi1遺伝子,ZmLsi6遺伝子に特異的なプライマーペアを用いてPCRを行った。その後、PCR産物の増幅を、アガロースゲル電気泳動により確認した。
【0100】
その結果、図3のように、イネ由来のLsi6およびトウモロコシ由来のZmLsi6は、Lsi1およびLsi2とは異なり、根に加えて葉鞘および葉身にも発現していた。一方、トウモロコシ由来のZmLsi1は、イネLsi1と同様に、根に発現したものの、葉鞘および葉身には発現していなかった。
【0101】
〔実施例3〕Lsi6タンパク質,ZmLsi1タンパク質,ZmLsi6タンパク質の局在部位
イネおよびトウモロコシの幼植物を、4%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、5%寒天に包埋した。次に、包埋した幼植物を、マイクロスライサーを用いて、厚さ100μmの切片とした。その切片を、Lsi6タンパク質,ZmLsi1タンパク質およびZmLsi6タンパク質の各タンパク質の部分ペプチドで免疫したウサギ抗ペプチド抗体で処理した後、赤色蛍光標識した二次抗体を用いて検出した。
【0102】
その結果、図4のように、Lsi6タンパク質およびZmLsi6タンパク質は、木部柔組織(導管の周囲)の細胞に局在化しており、ZmLsi1は、根の表皮に局在化していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、Lsi6遺伝子、ZmLsi6遺伝子、およびZmLsi6遺伝子は、ケイ素吸収を促進する遺伝子である。このため、これらの遺伝子の発現を抑制すれば、ケイ素蓄積量が減少し、硬い植物をやわらかくすることができる。一方、これらの遺伝子の発現を促進すれば、ケイ素蓄積量が増加し、複合ストレスに対する耐性(抵抗性)を付与し、生育を促進させることができる。それゆえ、本発明は、特に農業、および食品産業に、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】Lsi1タンパク質、Lsi6タンパク質、ZmLsi1タンパク質、ZmLsi6タンパク質のアミノ配列を比較した図である。
【図2】Lsi1遺伝子、Lsi6遺伝子、ZmLsi1遺伝子、ZmLsi6遺伝子のケイ酸輸送活性を示すグラフである。
【図3】Lsi1遺伝子、Lsi6遺伝子、ZmLsi1遺伝子、ZmLsi6遺伝子の発現部位を示す図である。
【図4】Lsi6タンパク質、ZmLsi1タンパク質、ZmLsi6タンパク質の発現部位を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3