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明細書 :胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法および該方法により誘導される肝細胞

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4892740号 (P4892740)
登録日 平成24年1月6日(2012.1.6)
発行日 平成24年3月7日(2012.3.7)
発明の名称または考案の名称 胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法および該方法により誘導される肝細胞
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 12
全頁数 28
出願番号 特願2007-501617 (P2007-501617)
出願日 平成18年2月2日(2006.2.2)
国際出願番号 PCT/JP2006/301762
国際公開番号 WO2006/082890
国際公開日 平成18年8月10日(2006.8.10)
優先権出願番号 2005028200
優先日 平成17年2月3日(2005.2.3)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年1月30日(2009.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】田中 紀章
【氏名】小林 直哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100098464、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 洌
【識別番号】100149630、【弁理士】、【氏名又は名称】藤森 洋介
【識別番号】100154449、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 征史
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 国際公開第01/081549(WO,A1)
MENG,Y. et al.,E14 mouse embryonic stem cells differentiate into hepatocytESC.,Chin. J. Hepatol.,2004年12月,Vol.12, No.12,pp.714-7
SHIRAHASHI,H. et al.,Differentiation of human and mouse embryonic stem cells along a hepatocyte lineage.,Cell Transplant.,2004年,Vol.13, No.3,pp.197-211
RAMBHATLA,L. et al.,Generation of hepatocyte-like cells from human embryonic stem cells.,Cell Transplant.,2003年,Vol.12, No.1,pp.1-11
小林直哉ら,ハイブリッド人工肝臓-可逆性不死化ヒト肝臓細胞株の樹立と実用化可能なバイオ人工肝臓の開発を目指して-,肝胆膵,2003年,Vol.46, No.3,pp.381-93
FANG,T. et al.,Study of embryonic stem cells induced to express hepatic cell functions in vitro in a pathologic niche containing cholestatic serum.,Chin. J. Hepatol.,2004年12月,Vol.12, No.12,pp.726-729
SHIMA,N. et al.,Hepatocyte growth factor and its variant with a deletion of five amino acids are distinguishable in their biological activity and tertiary structure.,Biochem. Biophys. Res. Commun.,1994年 4月29日,Vol.200, No.2,pp.808-15
KINOSAKI,M. et al.,Analysis of deleted variant of hepatocyte growth factor by alanine scanning mutagenesis: identification of residues essential for its biological function and generation of mutants with enhanced mitogenic activity on rat hepatocytes.,FEBS Lett.,1998年 8月28日,Vol.434, No.1-2,pp.165-70
特許請求の範囲 【請求項1】
胚性幹細胞を欠失型肝細胞増殖因子/bFGF/DMSO/デキサメタゾンの存在下で培養することを特徴とする、胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法。
【請求項2】
胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法であって、
(a)胚性幹細胞の胚様体を形成する工程、および
(b)得られた胚様体を、欠失型肝細胞増殖因子/bFGF/DMSO/デキサメタゾンの存在下で培養する工程
を含む方法。
【請求項3】
胚性幹細胞が哺乳類由来のものである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
哺乳類がヒトである請求項3記載の方法。
【請求項5】
哺乳類がマウスである請求項3記載の方法。
【請求項6】
胚様体が浮遊培養により形成される請求項2~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
培養が三次元培養で行なわれる請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
三次元培養が、細胞接着性不織布の存在下に行われる請求項7記載の方法。
【請求項9】
得られる肝細胞が、
(1)アンモニア、ジアゼパムおよびリドカインよりなる群から選択される少なくとも1種を代謝する;
(2)アルブミンおよび/または尿素を分泌する;
(3)GADPH遺伝子、サイトケラチン18遺伝子、グルコース6リン酸化酵素遺伝子、チロシンアミノ酸トランスフェラーゼ遺伝子および肝細胞核因子3ベータ遺伝子よりなる群から選択される少なくとも1種を発現する;および
(4)複数の核を有する、および/または、グリコーゲン顆粒が存在する;
よりなる群から選択される少なくとも1種の機能を有する肝細胞である請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
バイオ人工肝臓の製造方法であって、
(a)胚性幹細胞の胚様体を形成する工程、
(b)得られた胚様体をバイオ人工肝臓リアクター内に充填する工程、および
(c)バイオ人工肝臓リアクター内で、前記胚様体を欠失型肝細胞増殖因子/bFGF/DMSO/デキサメタゾンの存在下で培養する工程
を含む方法。
【請求項11】
工程(a)で得られた胚葉体を、細胞接着性不織布の存在下で三次元培養する請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程(b)のバイオ人工肝臓リアクターが、血液を流すための中空糸膜を備え、中空糸膜の外側に胚葉体と細胞接着性不織布が存在するものである請求項10または11記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、胚性幹細胞(以下、ES細胞ともいう)の肝細胞への分化誘導方法および該方法により誘導される肝細胞、ならびにバイオ人工肝臓に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、人体の中で最大の実質臓器であり、その機能は糖質、蛋白質、脂肪の代謝を始めビリルビン代謝、薬物代謝、血液凝固因子の生成など多岐にわたり、未知な機能を含めると肝臓の機能は数百にものぼり生体において非常に重要な役割を果たしている。よって、たとえそれが一時的なものであれ、重篤な肝臓疾患は患者の生命にとって極めて危険である。
【0003】
一方で、肝臓は旺盛な再生能を有し、劇症肝不全で肝傷害を受けたとしても、一週間ほど肝機能を代替することができれば患者は回復する。こうした重篤な肝疾患に対して、肝臓移植が最も効果的であることは事実であるが、深刻なドナー不足を鑑みると万人がその恩恵を受けることはできない。目下、我が国では、一時的に肝機能を代替する手段として、持続濾過透析と血漿交換を組み合わせることで、ある程度の救命率は得られているものの、充分とはいい難く、更なる有効な治療法の確立が必要であり、治療用人工肝臓の開発に対するニーズが高まっている。そこで、期待されているのが、生きた細胞の代謝能力やタンパク質合成能を活用するために細胞を充填したバイオ人工肝臓である。
【0004】
バイオ人工肝臓は、肝細胞を担体に組み込んで固定しリアクター化した生体内の肝臓を模倣した人工肝臓装置と言える。患者の血液を当該装置内に導き、肝細胞の代謝能を利用して血液中のトキシンの除去と肝臓細胞に由来する凝固因子などの生理活性物質の供給とを行なうことができる。細胞源としては、健常ヒト肝細胞が理想であるがドナー肝の不足からその入手はきわめて困難である。欧米では、移植不適合肝臓は肝細胞分離へと活用され、肝細胞移植やバイオ人工肝臓へと臨床応用されているが、本邦では移植不適合肝臓は焼却と規定されており、そのバイオ人工肝臓への活用は不可能である。
【0005】
こうした問題の対策として、ヒト末梢血幹細胞、骨髄幹細胞そして肝前駆細胞などからヒト肝細胞への誘導が研究されているが、これらの細胞は増殖能に乏しく、バイオ人工肝臓への応用に値する細胞数(十億個以上)を確保するのは現実的ではない。一方で、欧米、中国では、ブタ肝細胞を使用したバイオ人工肝臓治験がヒトで行なわれているが、ブタ内因性レトロウイルス感染、E型肝炎などの人畜共通感染症が問題視されており今後の進展が厳しい現状にある。
【0006】
また、最終分化したヒト細胞を標的に遺伝子組み換えによる不死化細胞株の樹立が検討されているが、これらの遺伝子組み換えを用いた方法では、外来遺伝子を導入するため、ヒトへの応用に際しては、遺伝子導入細胞の染色体の変化およびそれに伴う細胞の腫瘍化などといった安全面でのハードルが高い(Craig D. Woodworth et al., Molecular and Cellular Biology Oct. 4492-4501, 1988)。さらに、レトロウイルスベクターの使用に関しては、フランスのX染色体連鎖先天性重複性重症免疫不全症(X-Linked SCID)患児に対する、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療でのγδ-T細胞性白血病が発症するという事故が2002年9月に報告されて以来、慎重な姿勢が取られている(S. Hacein-Bey-Abina et al., Science, Vol. 302(17), 415-419, 2003)。
【0007】
以上より、臨床応用の実現可能なバイオ人工肝臓を開発するに当たっては、より自然な形に近い細胞源の検討が必要とされている。
【0008】
一方、ES細胞には、1)生体を構成するあらゆる種類の細胞に分化でき、2)半永久的に増殖する能力があることから低コストで大量培養が可能であり、3)遺伝子の組換えを行なわず細胞増殖因子を用いた誘導法が適用可能であるため、遺伝子改変細胞に比べより自然体に近い細胞を入手できるなどといった利点がある。
【0009】
幹細胞から肝細胞を分化誘導する方法としては、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、デキサメタゾン、オンコスタチンM(インターロイキン6のファミリーに属する)、n-酪酸などが使用されているが、充分に機能的な肝細胞への誘導は可能ではない(Rambhatla L et al., Cell Transplant. Vol.12, 1-11, 2003、Schwartz RE et al. J. Clin. Invest. 109; 1291-1302, 2002 および特表2003-530879号公報)。また、肝障害を惹起したマウスの肝臓にES細胞を移植することでES細胞の肝細胞への分化誘導を促した例も報告されているが(Yamamoto H et al. Hepatology 2003 37:983, 2003)、操作が繁雑であり、分化した肝細胞を障害マウスの肝臓から回収しなければならないなどの問題点がある。
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、充分に機能的であり、大量供給が可能で安全な肝細胞およびその用途、特に肝細胞を用いたバイオ人工肝臓を提供することである。
【0011】
前記問題点に鑑み鋭意検討した結果、HGFの天然の変異体(natural variant)である欠失型肝細胞増殖因子(以下、dHGFともいう)を用いることにより、ES細胞を効率的に機能的な肝細胞へと分化誘導できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記に示す胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法、該方法により得られる肝細胞、該肝細胞を使用するバイオ人工肝臓、該肝細胞を使用する薬物検査方法、該肝細胞を使用する生理活性物質の産生方法を提供する。
(1) 胚性幹細胞を欠失型肝細胞増殖因子の存在下で培養することを特徴とする、胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法。
(2) 胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法であって、
(a)胚性幹細胞の胚様体を形成する工程、および
(b)得られた胚様体を、欠失型肝細胞増殖因子の存在下で培養する工程
を含む方法。
(3) 胚性肝細胞が哺乳類由来のものである前記第(1)項または第(2)項記載の方法。
(4) 哺乳類がヒトである前記第(3)項記載の方法。
(5) 哺乳類がマウスである前記第(3)項記載の方法。
(6) 胚様体が浮遊培養により形成される前記第(2)項~第(5)項のいずれかに記載の方法。
(7) 培養が三次元培養で行なわれる前記第(1)項~第(5)項のいずれかに記載の方法。
(8) 前記第(1)項~第(7)項のいずれかに記載の方法により誘導される肝細胞。
(9) 前記第(8)項記載の肝細胞を含有するバイオ人工肝臓。
(10) バイオ人工肝臓の製造方法であって、
(a)胚性幹細胞の胚様体を形成する工程、
(b)得られた胚様体をバイオ人工肝臓リアクター内に充填する工程、および
(c)バイオ人工肝臓リアクター内で、前記胚様体を欠失型肝細胞増殖因子の存在下で培養する工程
を含む方法。
(11) 前記第(8)項記載の肝細胞を使用して薬物を検査する方法。
(12) 前記第(8)項記載の肝細胞を使用して生理活性物質を産生する方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法にしたがって、不織布上でマウスES細胞から分化誘導されたマウス肝細胞(実施例3)の位相差顕微鏡写真である。分化誘導された肝細胞1には肝細胞の特徴である複数の核2が観察される。
【図2】(a)は不織布の繊維4に付着した播種直後の胚様体3の走査顕微鏡写真であり、(b)は不織布の繊維4に付着した分化誘導された肝細胞1の走査顕微鏡写真である。
【図3】本発明のバイオ人工肝臓リアクターの一実施態様を例に、作製過程の一実施態様を示す図である。(a)は裏打ち5が施された不織布6の上に中空糸膜7を並べた図である。ここで、裏打ち5が施された不織布6にはスリット8が設けられている。(b)は、(a)をロール状に巻く過程を示す図である。(c)は、(b)のX-X線断面拡大図である。(d)は、両端に液漏れ防止部材9を設けた筒状容器10に中空糸膜7と不織布6からなるロールを組み込んだバイオ人工肝臓リアクター11を表わす概略図である。
【図4】本発明の方法によりマウスES細胞から分化誘導されたマウス肝細胞における肝特異的遺伝子および内因性標準であるGAPDH遺伝子の発現を示す写真である。レーン1~6は、それぞれサイズマーカー、未分化ES細胞、フィーダー細胞、分化誘導されたES細胞(実施例2)、不織布上で分化誘導されたES細胞(実施例3)およびマウス肝細胞を示す。
【図5】本発明の方法により分化誘導されたマウス肝細胞の薬物代謝能を示すグラフである。
【図6】本発明の方法により分化誘導されたマウス肝細胞の尿素産生能を示すグラフである。
【図7】本発明の方法により分化誘導されたマウス肝細胞のアルブミン産生能を示すグラフである。
【図8】本発明の方法によりヒトES細胞から形成された胚様体(実施例5)を示す位相差顕微鏡写真である。
【図9】本発明の方法によりヒトES細胞から分化誘導されたヒト肝細胞(実施例5)の位相差顕微鏡写真である。
【図10】(a)不織布の繊維4に付着した播種直後の胚様体23の走査顕微鏡写真である(実施例6)。(b)は不織布の繊維4に付着した分化誘導された肝細胞21(実施例6)の走査顕微鏡写真である。
【図11】本発明の方法により、ヒトES細胞から分化誘導されたヒト肝細胞における肝細胞特異的遺伝子であるアルブミン遺伝子および内因性コントロールであるベータアクチン遺伝子の発現を示す写真である。レーン1~7は、それぞれサイズマーカー、未分化ヒトES細胞、胚様体を形成したヒトES細胞、胚様体を形成させた後に不織布上を使用せずに分化誘導されたヒトES細胞(実施例5)、胚様体を形成させた後に不織布上で分化誘導されたヒトES細胞(実施例6)、ヒト肝細胞、そしてサイズマーカーを示す。
【図12】本発明の方法により、不織布上でヒトES細胞から分化誘導された肝細胞の透過電子顕微鏡写真である(実施例6)。
【図13】本発明の方法により分化誘導されたマウス肝細胞の薬物代謝能を示すグラフである。
【図14】本発明の方法により分化誘導されたヒト肝細胞の尿素産生能を示すグラフである。
【図15】本発明の方法により分化誘導されたヒト肝細胞のアルブミン産生能を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、HGFと比較してより細胞障害性の少ないHGFの天然の変異体であるdHGFを用いることにより、ES細胞を肝細胞へ分化誘導する方法に関する。
【0015】
本発明のES細胞から肝細胞を分化誘導する方法には、(a)ES細胞の胚様体を形成する工程、および(b)得られた胚様体を、dHGFの存在下で培養する工程を含む方法が含まれる。
【0016】
ES細胞としては、哺乳類由来のものが好ましく、哺乳類としては、ヒト、カニクイザルなどの霊長類、マウスなどが挙げられる。
【0017】
dHGFは、天然のHGFのスプライシングにより5個のアミノ酸が欠失して生じたスプライス変異体である(FEBS Letters 434 (1998),165-170参照)。dHGFは、特公平7-68272号公報およびその分割出願である特開平7-188292号公報の記載にしたがって製造することができる。なお、これら公報においては、dHGFは、TCF-IIとして記載されている。
【0018】
ES細胞は、受精卵が成長を続ける初期の段階である胚から製造することができる。卵子と精子が1つになった受精卵は、胎児へと成長していく途中で2つ、4つ、8つ・・・と分裂を繰り返し、5、6日目には胚盤胞と呼ばれる状態になる。胚盤胞は直径0.1mmほどの球状のかたまりである内部細胞塊を抱く胞胚腔から構成される。内側の細胞塊は、いずれ内胚葉、中胚葉、外胚葉へと成長し、体のあらゆる細胞を形作っていく部分で、栄養外胚葉はそれらの胎盤を形成し、また胚を外界から隔離する袋を形成する。この内部細胞塊をほぐしたのち、細胞を取り出し、これらの細胞を増殖可能でかつ分化しない環境で培養することによりES細胞を製造することができる。したがって、ES細胞は、前記のとおり胚から製造することができる。
【0019】
このようなES細胞は、マウスでは1981年にエバンスら(Evans et al., 1981, Nature 292: 154-6.)や、マーチンら(Martin GR. et al., 1981, Proc Natl Acad Sci 78: 7634-8.)によって樹立され、商品としては大日本住友製薬株式会社(大阪、日本)などから購入可能である。
【0020】
また、ヒトES細胞は、1998年にトムソンら(Thomson et al., Science, 1998, 282:1145-7.)によって樹立され、WiCell研究施設(WiCell Research Institute、ウェブサイト:http://www.wicell.org/、マジソン、ウイスコンシン州、米国)から入手可能である。
【0021】
我国においては、ヒトES細胞の研究はナショナルバイオリソースプロジェクトに指定されており、京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センターで樹立されたヒトES細胞が、「再生医科学研究所ヒトES細胞分配規定」(平成15年11月26日施行)にしたがって、文部科学大臣の確認(承認)を得るなどの一定の条件下に入手が可能である。現時点では、ヒトES細胞株「KhES‐1」(平成15年8月樹立)、「KhES‐2」(平成15年10月樹立)、「KhES‐3」(平成15年10月樹立)が入手可能である。
【0022】
前記ヒトES細胞株KhES-1、KhES-2、KhES-3は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療のために作製された受精卵の余剰胚(移植されずに廃棄されることになっている受精卵)を用いて樹立されたものである。すなわち、この受精卵を胚盤胞の段階まで培養し、該胚盤胞から内部細胞塊を分離しフィーダー細胞上で培養し、増殖してくる未分化細胞を選別・継代を繰り返し、継代可能にすることで樹立したものであり、樹立方法自体はマウスやサルの場合と本質的にかわらない。ヒトES細胞はマウスES細胞と異なりフィーダー細胞上で扁平なほぼ単層のコロニーを作り、形態的にはサルES細胞に非常によく似ている。ヒトES細胞は未分化ES細胞に特異的なマーカーを発現しており、また正常な染色体構成を保持している(末森博文、臨床病理、52:3(2004)、254~258頁参照)。前記ES細胞が発現している未分化ES細胞に特異的なマーカーとしては、アルカリ性フォスファターゼ(ALP)、SSEA-3および4、TRA-1-60および81が認められ、NanogOct-3/4、Rex-1の発現がRT-PCRによって確認されている。核型(Gバンド法による)については、KhES-1、KhES-2は正常2倍体で雌の、KhES-3は正常2倍体で雄の核型を持つ(京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センターのホームページの「ヒトES細胞の分配について-ヒトES細胞株KhES-1、-2、-3-」参照)。
【0023】
本発明においては、必要に応じて、ES細胞を分化しない条件下に継代、維持、増殖させ(以下、この工程を調製工程という場合がある)、必要に応じてその一部を使用して肝細胞に分化誘導する。
【0024】
調製工程において、ES細胞の培養を行う容器としては、増殖能の点からフィーダー細胞またはスキャフォールドでコートされたものを使用するのが好ましい。フィーダー細胞としては、γ線で照射処理したマウス胚性繊維芽細胞が挙げられる。また、該スキャフォールドとしては、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン(コラーゲンIVやコラーゲンIなど)、エンタクチン、自己組織化能を有するペプチドハイドロゲル、Poly(p-N-vinylbenzyl-D-lactonamide)(PVLA)(ラクトースを側鎖にもつポリスチレン誘導体)などが挙げられる。市販品としてはマトリゲル(Matrigel、ラミニン56%、コラーゲンIV31%、エンタクチン8%からなる、ベクトン ディッキンソン アンド カンパニー製)、グロースファクターリデューストマトリゲル(GFR Matrigel、ラミニン61%、コラーゲンIV30%、エンタクチン7%からなる、ベクトン ディッキンソン アンド カンパニー製)、ピユラマトリックス(PuraMatrix、アミノ酸16残基(Ac‐(RADA)4‐CONH2)で長さが約5nmのオリゴペプチドであるペプチドハイドロゲル、(株)スリー ディー マトリックス ジャパン製)、Poly(p-N-vinylbenzyl-D-lactonamide)(PVLA)((有)セラジックス製)などが挙げられる。マウス由来のES細胞の場合、フィーダー細胞でコートした培養容器を使用することが好ましい。また、ヒト由来のES細胞の場合、本発明の一実施例であるバイオ人工肝臓に使用する際には、異種生物由来の細胞の混入のおそれがあるという理由から、マウス由来のフィーダー細胞でコートした培養容器を使用せず、スキャフォールドでコートされた培養容器を使用することが好ましい。さらに、ヒトES細胞の培養状態が良好であることから、前記マトリゲル(Matrigel)、グロースファクターリデューストマトリゲル(GFR Matrigel)、ピュラマトリックス(PuraMatrix)などを用いることがより好ましい。
【0025】
調製工程における培養液、培養条件としては、通常の方法が採用でき、たとえば、培養液としては、(1)ES培養液(R-ES-101、大日本住友製薬株式会社より購入):ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培養液の混合液(1:1容量比)に15%ウシ胎仔血清(FBS)、1%非必須アミノ酸、1%ヌクレオシド、110μM 2-メルカプトエタノール(大日本住友製薬株式会社より購入)、1%ペニシリンおよびストレプトマイシン、1%グルタミン酸、ならびに500U/mlマウス由来白血病抑制因子(LIF)(大日本住友製薬株式会社より購入)を補足したもの、(2)霊長類ES細胞用培地((株)リプロセル製など)、(3)マウス胚性繊維芽細胞用馴化培地(R&Dシステム製など)などが挙げられる。培養温度は、36~37℃の範囲が好ましく、pHは7.3~7.4の範囲が好ましい。マウスES細胞の調製工程では、一般に分化を抑制するために白血病抑制因子(LIF)を使用するが、ヒトES細胞の調製工程では白血病抑制因子(LIF)は分化抑制に効果がなく、マトリゲルなどのスキャフォールドを使用するのが好ましい。また、フィーダー細胞を使用せず、スキャフォールドを使用する培養方法としては、ジェロン社(メロノパーク、カリフォルニア州、米国)が公開している方法(Protocols for the Maintenance of Human Embryonic Stem Cells in Feeder Free Conditions)が好ましい。
【0026】
本発明の方法において、ES細胞を肝細胞へ分化誘導する培養工程に使用するdHGFの濃度は、1ng/mlより高くかつ1000ng/mlより低いことが好ましく、10ng/ml~500ng/mlがより好ましく、100ng/mlが最も好ましい。dHGFの濃度が前記範囲未満の場合、肝細胞への分化が達成されない傾向があり、一方前記範囲を超える場合、軽度の細胞障害性が確認される傾向がある。
【0027】
本発明においては、ES細胞に直接dHGFを加えて分化誘導を行ってもよいが、まずES細胞から胚様体(Embryoid Body: EB)を形成したのち、dHGFを加えて分化誘導を行なうことが好ましい。胚様体の形成方法としては、培養液にて約10万個/mlに希釈したES細胞をペトリ皿のフタの内側に液滴状(1滴約30μl)に播種し、液滴がフタの内側にぶら下がったまま下に落ちない状態で2日間程度培養し胚様体を形成させ、その後培養液にて胚様体を洗い落としペトリ皿内で浮遊培養し成熟させるハンギングドロップ法;約500万個のES細胞を10cmペトリ皿内で約10mlの培養液中で5日間程度浮遊培養させ胚様体を形成する浮遊培養による形成法などがあげられる。簡便性の点からは、浮遊培養による胚様体形成法がより好ましい。
【0028】
本発明においては、一般に胚様体の形成工程で3~7日程度培養したのち、次の分化誘導工程に移るのが好ましい。
【0029】
胚様体形成工程における培養液、培養条件としては、通常の方法が採用でき、たとえば、培養液としては、(1)ES分化誘導培地(DMEM F12)〔DMEM(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)と栄養素混合物F-12(ハム)(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)が1:1容量比の割合で混合され、4.5mg/ml濃度のグルコース、20%FBS、2mM L-グルタミン、25mM HEPES(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)、100mg/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)を加え、LIFを加えないもの]、(2)霊長類ES細胞用培地((株)リプロセル製など)、(3)マウス胚性繊維芽細胞用馴化培地(R&Dシステム製など)などが挙げられる。培養温度は、36~37℃の範囲が好ましく、pHは、7.3~7.4の範囲が好ましい。
【0030】
本発明において、分化誘導を行なう培養工程には、平面培養と三次元培養のいずれも使用できるが、近年、スキャフォールド(足場)上で細胞を三次元培養することでより生体内環境に近い条件を作ることができ、細胞機能が向上することが知られてきており、肝機能の向上という点から三次元培養が好ましい。
【0031】
三次元培養に使用するスキャフォールドとしては、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲンIV、コラーゲンIなどのコラーゲン、エンタクチン、ペプチドハイドロゲル、Poly(p-N-vinylbenzyl-D-lactonamide)(PVLA)などが挙げられる。市販品としては、前記マトリゲル(Matrigel)、グロースファクターリデューストマトリゲル(GFR Matrigel)、ピュラマトリックス(PuraMatrix)などが挙げられる。さらに、後述する不織布などが使用できる。
【0032】
分化誘導工程における培養液、培養条件としては、通常の方法が採用でき、たとえば、培養液としては、(1)ES分化誘導培地(DMEM F12)〔DMEM(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)と栄養素混合物F-12(ハム)(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)が1:1容量比の割合で混合され、4.5mg/ml濃度のグルコース、20%FBS、2mM L-グルタミン、25mM HEPES(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)、100mg/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)を加え、LIFを加えないもの〕、(2)霊長類ES細胞用培地((株)リプロセル製など)、(3)マウス胚性繊維芽細胞用馴化培地(R&Dシステム製など)などが挙げられる。培養温度は36~37℃の範囲が好ましく、pHは7.3~7.4の範囲が好ましい。培養期間は14~21日程度である。
【0033】
本発明の分化誘導工程では、dHGFに加えて様々な有機溶媒、サイトカイン、ホルモンなどの1種または2種以上を併用することができる。そのような有機溶媒、サイトカイン、ホルモンなどは、細胞に悪影響を与えないものであればどのようなものでも使用することができるが、従来から細胞の分化に使用されているものが好ましい。具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ヘキサメチレンビスアセトアミドおよびほかのポリエチレンビスアセトアミドなどの有機溶媒や、アクチビンA、bFGF、グルココルチコイド、上皮増殖因子(EGF)、インスリン、TGF-α、TGF-β、FGF、ヘパリン、デキサメタゾン、およびHGF、IL-1、IL-6、IGF-I、IGF-IIおよびHBGF-1などのサイトカインやホルモンなどがあげられる。
【0034】
本発明の方法によりES細胞より分化誘導された肝細胞は、形態学的特徴の観察および逆転写ポリメラ-ゼ連鎖反応(RT-PCR)で確認できる。
【0035】
形態学的な確認方法としては、位相差型顕微鏡で観察される複数の核を有する細胞および電子顕微鏡で観察される細胞質内に豊富な顆粒、特にグリコーゲン顆粒の存在といった、肝細胞に特異的な形態学的特徴を確認することが挙げられる。
【0036】
また、RT-PCRにより、誘導された肝細胞の形質発現を遺伝子の発現から評価することもできる。アルブミン遺伝子が発現していることと、未分化な遺伝子であるα-フェトプロテインが発現していないことがRT-PCRなどで確認できれば、分化が誘導されているということができる。また、肝細胞としての成熟度を表わす指標として、上皮細胞のマーカーであるCK18(サイトケラチン18)、G6P(グルコース6リン酸化酵素)、TAT(チロシンアミノ酸トランスフェラーゼ)、HNF3b(肝細胞核因子3ベータ)の遺伝子発現が認められるのが好ましい。
【0037】
さらには、実際に肝細胞として機能できるか否かは、培地中にアンモニア、リドカイン、ジアゼパムなどを添加して代謝できるか否かが大きな点となる。また、培地中にアルブミン、尿素が産生されていれば、充分に機能的な肝細胞へと分化しているということができる。
【0038】
本発明においては、必要細胞数までES細胞を増殖させたあと、dHGFを用いて肝細胞への分化誘導を行なうことで、遺伝子導入を必要とせず、安全な肝細胞が大量に供給できる。これをバイオ人工肝臓の細胞源とすることで万人が恩恵を受けることができるバイオ人工肝臓の開発が大いに期待できる。
【0039】
よって、本発明のもう1つの態様は、ES細胞から分化誘導させた肝細胞を含有するバイオ人工肝臓およびその製造方法である。
【0040】
本発明のバイオ人工肝臓を製造する場合、リアクター内に充填する際の細胞の分化の程度が重要であると考えられる。ES細胞は、胚様体を形成させることにより、不織布などのスキャフォールドへの接着性が増強する。また、不織布などのなどのスキャフォールドに付着した細胞は三次元のスフェロイド形成を呈する。近年、スキャフォールド上で細胞を三次元培養することでより生体内環境に近い条件を作ることができ細胞機能が向上することが知られてきており、不織布などのスキャフォールド上で細胞を培養することが機能の向上に有効である。したがって、胚様体形成後にES細胞をリアクターに充填し、dHGFにて三次元での分化誘導を行なうことにより、平面培養するより、肝細胞に特異的な高度な機能であるアンモニア代謝能などが大幅に増強される。
【0041】
よって、ES細胞から胚様体形成を促した後にリアクターに細胞を充填し、本発明の誘導法による肝細胞への分化を行なうのが好ましい。
【0042】
バイオ人工肝臓としては、中空糸型のリアクター(デバイス)と分離・培養細胞を組み合わせたバイブリッド型の人工肝臓などが挙げられる。バイオ人工肝臓は、体外に装着して血管に接続するもの、体内に留置して血管に接続するもの、または血管に接続せずに腹腔内に留置するものの三つの形態がある。本発明の肝細胞は、いずれの形態のバイオ人工肝臓にも使用可能であるが、ES細胞は、分化誘導すると増殖能力を失うが、分化が不充分であったES細胞が遺残した場合、細胞を生体内に移植すると奇形種を発症する可能性があるため、細胞移入などに伴う危険性を回避するという点から体外型であることが好ましい。
【0043】
バイオ人工肝臓の開発においては、リアクターの設計・開発も重要な要素である。バイオリアクターとしては、サーシ バイオメディカル社(Circe Biomedical Inc.)(レキシントン、マサチューセッツ州、米国)の支援下でシダーズサイナイ医療センター(Cedars-Sinai Medical Center)(ロサンジェルス、カリフォルニア州、米国)のディメトリュー(Demetriou)らを中心としたブタ肝細胞を用いたバイオ人工肝臓治療用のヘパトアシスト(HepatAssist)(Hui T, Rozga J, Demetriou AA. J Hepatobiliary Pancreat Surg 2001; 8: 1-15.)や、ブタ肝細胞を使用したドイツのGerlachらのMELS(モジュラー体外肝臓システム(Modular Extracorporeal Liver System))など、様々なタイプが知られている。これらのリアクターは、もちろん本発明において使用することができるが、肝細胞が付着するための足場が無いため、細胞はただ単に、中空糸内スペースか、中空糸外スペースに充填されるのみで浮遊した状態となる傾向がある。肝細胞は、浮遊状態では、分化機能が充分に発現されない傾向があり、さらに周りの細胞と衝突し、ストレス刺激を受けやすい。
【0044】
したがって、本発明においては、肝細胞に足場が提供できるよう、中空糸と不織布などのスキャフォールドからなるリアクターが好ましい。
【0045】
中空糸膜としては、膜表面に細胞が付着して物質交換が妨げられることがなければどのようなものでも使用することができ、具体的には、従来医療用に用いられている市販の物、たとえば、ポリスルフォン膜、エチレン-酢酸ビニルランダム共重合体けん化物膜(たとえば、商品名:エバール、クラレメディカル株式会社製など)などが好ましい。市販の中空糸膜のポアサイズは、その用途から透析膜(~5nm)、血漿成分分離膜(20~30nm)、血漿分離膜(30~200nm)などがある。物質の透過性の点からは、血漿分離膜(30~200nm)が好ましい。拒絶反応の危険性を回避するため、中空糸内を流れる血液中の免疫担当細胞や免疫グロブリンが中空糸外の不織布などのスキャフォールド上に充填した細胞と直接接触することがないよう、30nm~100nmが最も好ましい。
【0046】
不織布としては、細胞が接着することが出来るように加工・修飾されているものが好ましい。不織布の繊維としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)などが挙げられる。なかでも、その加工のしやすさの点から、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)にポリアミノ酸ウレタン(PAU)加工を施したものが好ましい。
【0047】
本発明のバイオ人工肝臓リアクターの一実施態様を例に、ハウジングまでの過程を図3に示す。裏打5を施した不織布6上に中空糸膜7を置く(図3(a))。ここで、裏打ち5を施した不織布6にはスリット8が設けられている。これをロール状に巻く(図3(b))。そのX-X線断面が図3(c)である。これを両端に液漏れ防止部材9を設けた筒状容器10に組み込む。リアクター11には細胞注入口12および細胞のサンプル採取を行なうことができる取り出し口13が設けられており、スリット8は、細胞注入口12と連絡するように配置される。
【0048】
また、バイオ人工肝臓治療は、安全かつ科学的に施行するために、1)人工肝臓リアクターの流入圧と流出圧のリアルタイムでのモニタリング、2)気泡が発生した際のアラームの作動、3)リアクターの温暖化(37度)などができる機能を一体化した装置で実施されることが好ましい。
【0049】
このようなバイオ人工肝臓として、中空糸・不織布型リアクターに新鮮分離ブタ肝臓細胞、可逆性不死化ヒト肝細胞を充填し、サル肝不全モデルでの動物実験にて良好な成績を得ている(小林直哉他、「ハイブリッド人工肝臓」、肝胆膵、2003年、46巻、p381-393)。
【0050】
さらに、本発明の方法によりES細胞から分化誘導された肝細胞、特にヒト肝細胞は、薬剤の代謝試験用細胞として有用である。すなわち、新薬開発や安全性試験、毒性試験などにおける試験用細胞として有用である。
【0051】
肝細胞は様々な薬物代謝の中心となっており、薬物の毒性や安全性を検定するためには、肝細胞に薬物を投与して代謝のされ方を調べることが必要である。そして、物質代謝においては、ヒトと実験動物とでは大きな違いがあるので、最終的なテストはヒト肝細胞を使用した試験が不可欠である。この点において、均一な品質のヒト肝細胞を大量に提供できる本発明は有用である。このような代謝試験に用いる装置としては、前記のバイオ人工肝臓と同様な構造のものなどが使用できる。
【0052】
さらに、本発明の方法によりES細胞から分化誘導された肝細胞、特にヒト肝細胞は、生理活性物質の産生に使用できる。このような生理活性物質としては、アルブミン、各種血液凝固因子などが挙げられる。このような生理活性物質の製造装置としては、前記のバイオ人工肝臓と同様な構造のものなどが使用できる。
【0053】
以下、本発明をマウスおよびヒト由来のES細胞を用いた実施例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
製造例1
ES細胞の調製
129vマウス由来のES細胞(大日本住友製薬株式会社より購入)を、ネオマイシン耐性遺伝子が導入されているフィーダー細胞(マウス由来の胚性繊維芽細胞、大日本住友製薬株式会社より購入)を用いて、0.1%の濃度のゼラチン水(カタログ番号:R-ES-006B、大日本住友製薬株式会社より購入)でコートしてある培養フラスコT-75(ファルコン社製、ベクトン デッキンソン アンド カンパニー(Becton, Dickinson and Company)販売)を使用して培養した。培養液には、ES培養液(R-ES-101:大日本住友製薬株式会社より購入):ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培養液の混合液(1:1容量比)に15%ウシ胎仔血清(FBS)、1%非必須アミノ酸、1%ヌクレオシド、110μM 2-メルカプトエタノール(大日本住友製薬株式会社より購入)、1%ペニシリンおよびストレプトマイシン、1%グルタミン酸、ならびに500U/mlマウス由来白血病抑制因子(LIF)(大日本住友製薬株式会社より購入)を補足したものを使用した。培養液は毎日交換し、ES細胞は、3日毎に継代した。培養プレート中にES細胞が占める割合が80~90%の状態になったところで、2段階式処置にて、すなわち、まず、0.25%濃度のトリプシン-EDTA(ギブコBRL、インビトロジェン コーポレーション(Invitrogen Corporation)製)を添加し、45秒間経過後、トリプシン-EDTA液を取り除くことでフィーダー細胞を一緒に除去し(ES細胞はまだこの段階では培養プレートに残っている)、ついでその2分後にES培養液を加え剥離することによって、培養プレートに残っているES細胞を回収した。
【0055】
実施例1
製造例1で得られたES細胞500万個を0.1%の濃度のゼラチン水(カタログ番号:R-ES-006B、大日本住友製薬株式会社より購入)でコートしてある培養フラスコT-75(ファルコン社製、ベクトン デッキンソン アンド カンパニー販売)で、10mlのES分化誘導培地(DMEM F12)中に100ng/ml濃度のマウス由来dHGF(第一製薬株式会社(東京)より提供)と、100ng/ml濃度のbFGF、1%濃度のDMSO(シグマ-アルドリッチ コーポレーション(Sigma-Aldrich Corp.)製)、10-7モル濃度のデキサメタゾン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)を添加して肝細胞への分化誘導培養を行なった。
【0056】
DMEM F12の組成は、DMEM(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)と栄養素混合物F-12(ハム)(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)が1:1の割合で、4.5mg/ml濃度のグルコース、20%FBS、2mM L-グルタミン、25mM HEPES(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)、100mg/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)でLIFを加えないものである。培養液は、3日毎に交換した。培養開始から14日後に肝細胞への分化誘導効果の検討を行なったところ、数個の核小体を有する核といった、いわゆる肝細胞の形態学的特徴を有し、アルブミンの発現が見られ、肝細胞への分化が確認された。
【0057】
実施例2
製造例1で得られたマウスES細胞500万個を10cm滅菌シャーレ(浅型90×15mm、商品番号:SH90-15、旭テクノグラス株式会社製)で10mlのES培養液(R-ES-101)を使用し、5日間浮遊培養させて胚様体を形成した。
【0058】
ついで、ES細胞の代わりに得られた胚様体を使用した以外は、実施例1と同様にしてマウス肝細胞を誘導した。
【0059】
実施例3
実施例2と同様にして形成した胚様体を、1cm×1cm大の細胞接着性を有するポリアミノ酸ウレタン(PAU)加工のPTFE(polytetrafluoroethylene)不織布(クラレメディカル株式会社製)を敷いた12穴培養プレート(正式名:Multiwell 12-well Falcon、ファルコン社製、ベクトン デッキンソン アンド カンパニー販売)に、3×106細胞個/cm2となるように播種し、実施例1と同じES分化誘導培地DMEM F12を用い、100ng/ml濃度のマウス由来dHGF(第一製薬株式会社(東京)より提供)と、100ng/ml濃度のbFGF、1%濃度のDMSO(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)、10-7モル濃度のデキサメタゾン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)を添加して14日間培養し、マウス肝細胞を誘導した。培養液は3日毎に交換した。
【0060】
得られた細胞の形態は、位相差顕微鏡(オリンパスCK40、オリンパス株式会社製)を使用して観察した(図1)。また、走査電子顕微鏡により、播種した直後の胚様体の不織布繊維4への付着状況(図2(a))および14日後の分化誘導された肝細胞(図2(b))も観察した。符号1は分化誘導された肝細胞を、符号2は核を、符号3は胚様体を、符号4は不織布の繊維を示す。
【0061】
製造例2
バイオ人工肝臓リアクターの製造
中空糸と不織布とからなる全血還流型システムのバイオ人工肝臓(BAL)(図3参照)を以下の手順に従い製造した。中空糸膜の種類により、表1に示すように、それぞれBAL-1~BAL-3とした。
【0062】
【表1】
JP0004892740B2_000002t.gif

【0063】
10cmの中空糸膜550本をレーヨンで裏打ちした不織布(10×10cm)の上に規則正しく置き(図3(a)参照)、これをロール状に巻き込んだ(図3(b)参照)。断面の模式図を図3(c)に示す。この不織布と中空糸膜からなるロールを、両端に液漏れ防止部材を設けた筒状容器に組み込んだ(図3(d)参照)。
【0064】
なお、不織布としては、細胞接着性を有するポリアミノ酸ウレタン(PAU)加工のPTFE不織布(クラレメディカル株式会社製)を使用した。
【0065】
得られたリアクターの生体適合性を判定するために、各リアクターをそれぞれ健常ブタの頚部動静脈間に装着して作動させたところ、24時間循環動態に悪影響なく無事に稼働させることができた。また、赤血球・血小板などの血球成分の減少も認めなかった。
【0066】
また、BAL治療を安全かつ科学的に施行するために、1)BALリアクターの流入圧と流出圧のリアルタイムでのモニタリング、2)気泡が発生した際のアラームの作動、3)リアクターの温暖化(37度)できる機能を一体化した装置を開発し、システムが良好に作動することをブタ実験にて検証した。
【0067】
実施例4
前記製造例2で得られたバイオ人工肝臓リアクターBAL-2に、実施例2で得られた胚様体を中空糸外スペースに充填し、10mlES細胞分化誘導培地:DMEM F12中に100ng/ml濃度のマウス由来dHGF(第一製薬株式会社(東京)より提供)と、100ng/ml濃度の、マウス由来bFGF、1%濃度のDMSO(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)、10-7モル濃度のデキサメタゾン(シグマ-アルドリッチ コーポレーション製)を添加して肝細胞への分化誘導培養を行なった。培養液は3日毎に交換し、培養14日後に分化誘導効果の検討を行なった。
【0068】
試験例1
誘導された肝細胞における遺伝子発現
RT-PCR法により、誘導された肝細胞(実施例2および3)において、肝臓代謝に関わる重要な遺伝子、すなわち、CK18(サイトケラチン18)、G6P(グルコース6リン酸化酵素)、TAT(チロシンアミノ酸トランスフェラーゼ)、アルブミン、AFP(アルファフェトタンパク質)およびHNF3b(肝細胞核因子3ベータ)遺伝子の発現を調べた。内因子性コントロールとしてGAPDH遺伝子の発現も調べた。RT-PCR法では、細胞を0.25%トリプシン-EDTA(ギブコ BRL、インビトロジェン コーポレーション製)で処理したのちに回収し、RNAトリゾール(インビトロジェン コーポレーション製)を用いて製品の取扱説明書にしたがってRNAを抽出した。1μgの総RNAを22℃で10分間、さらに42℃で20分間、RNA逆転写酵素を用いて逆転写反応させた。
【0069】
得られた2μgの逆転写産物を、各プライマー20pmol/mlで、AmpliTag Goldキット(パーキン-エルマー/シータス社、ノーウォーク、コネチカット州、米国)を用い、そのプロトコールにしたがってPCR増幅に用いた。各遺伝子に対するプライマーおよびPCR条件を以下に記載する。
【0070】
マウスCK18遺伝子(182bp、59℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-CGATACAAGGCACAGATGGA(配列番号1)
3′プライマー:5′-CTTCTCCATCCTCCAGCAAG(配列番号2)
マウスG6P遺伝子(206bp、57℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-CAGGACTGGTTCATCCTT(配列番号3)
3′プライマー:5′-GTTGCTGTAGTAGTCGGT(配列番号4)
マウスTAT遺伝子(210bp、55℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-ACCTTCAATCCCATCCGA(配列番号5)
3′プライマー:5′-TCCCGACTGGATAGGTAG(配列番号6)
マウスアルブミン遺伝子(174bp、59℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-GCTAGGCACACAGTGCTTG(配列番号7)
3′プライマー:5′-CAGGATTGCAGACAGATAGTC(配列番号8)
マウスAFP遺伝子(300bp、59℃、32サイクル)
5′プライマー:5′-CACTGCTGCAACTCTTCGTA(配列番号9)
3′プライマー:5′-CTTTGGACCCTCTTCTGTGA(配列番号10)
マウスHNF3b遺伝子(500bp、60℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-TATTGGCTGCAGCTAAGCGG(配列番号11)
3′プライマー:5′-GCATCGGACTCAGGTGAGGT(配列番号12)
マウスGAPDH遺伝子(459bp、60℃、32サイクル)
5′プライマー:5′-CAGCCGAGCCACATC(配列番号13)
3′プライマー:5′-TGAGGCTGTTGTCATACTTCT(配列番号14)
【0071】
結果を図4に示す。レーン1から6は、それぞれサイズマーカー、未分化ES細胞、フィーダー細胞、分化誘導されたES細胞(実施例2)、不織布上で分化誘導されたES細胞(実施例3)およびマウス肝細胞を示す。実施例2および3で誘導された肝細胞では、肝臓細胞に関わる重要な遺伝子、CK18(サイトケラチン18)、G6P(グルコース6リン酸化酵素)、TAT(チロシンアミノ酸トランスフェラーゼ)、アルブミン、およびHNF3b(肝細胞核因子3ベータ)遺伝子の発現が確認されるが、特に不織布を用いて誘導された肝細胞(実施例3)では、CK18(サイトケラチン18)、G6P(グルコース6リン酸化酵素)、TAT(チロシンアミノ酸トランスフェラーゼ)、アルブミン遺伝子の発現が増強し、未分化細胞のマーカーであるAFP(アルファフェトタンパク質)発現の消失が観察された。当該結果は、不織布を使用することで、肝細胞への分化誘導がより効率よく誘導されることを示す。
【0072】
試験例2
肝機能の測定
(A)アンモニアの代謝
実施例2~4で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その培溶液中に、1.4ミリモルの四塩化アンモニウムを負荷し、4時間後に培養液を10μl採取し、アンモニア濃度を測定した。
【0073】
(B)ジアゼパムの代謝
実施例2~4で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その培養液中に、ジアゼパムを最終濃度1μg/mlとなるよう負荷し、4時間後に培地を1000μl採取し、ジアゼパム濃度を測定した。
【0074】
(C)リドカインの代謝
実施例2~4で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その培養液中に、リドカインを最終濃度1mg/mlとなるよう負荷し、4時間後に培地を1000μl採取し、リドカイン濃度を測定した。
【0075】
前記(A)~(C)のそれぞれの代謝率を図5に示す。代謝率は、薬物負荷時の該薬物の濃度から4時間後の各薬物濃度を引いたものを薬物負荷時の該薬物の濃度で割った値で表わす。各実施例ともに薬物代謝能が見られるが、不織布における培養、さらにはリアクター内で三次元培養することにより、薬物代謝能が増強されていることがわかる。
【0076】
(D)尿素の産生
前記(A)と同様に1.4ミリモルの四塩化アンモニウムを負荷し、4時間後に培養液を採取し、尿素の産生量を測定した。実施例2~4で、それぞれ細胞100万個当たり21.4μg、22.2μgおよび24.7μgであった(図6)。
【0077】
(E)アルブミンの産生
実施例2~4で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その後24時間培養したのちの培養液を採取し、マウスアルブミンELISAキット(商品コード:E90-134、フナコシ株式会社)を使用してアルブミンの産生量を測定した。アルブミンの産生量は、実施例2~4で、それぞれ1ml当たり500ng、850ngおよび920ngであった(図7)。不織布上での培養、さらにはリアクター内での三次元培養によりアルブミン産生能が増強されていることがわかる。
【0078】
参考例
新鮮ブタ肝臓細胞を充填したバイオ人工肝臓の機能評価
施設動物実験取り扱い指針に従い、検疫済みのカニクイザル(日本クレアから購入)を用いて製造例1において作製したバイオ人工肝臓リアクターの安全性と有効性を検討した。
【0079】
製造例1で作製したバイオ人工肝臓リアクターBAL-1に約10億個のブタ肝臓細胞(生存率 >90%)を充填した。新鮮分離ブタ肝細胞は、外科的に切除した肝臓外側区域をディスパーゼとコラゲナーゼを用いた4段階還流法にて分離した(丸山昌伸,小林直哉,都津川敏範ら、Organ Biology、Vol.9, No.3. 295-301, 2002)。
【0080】
雄性カニクイザル(4kg、n=6)に、0.5g/kgのD-ガラクトサミン(シグマ社から購入)を静注して薬剤性肝障害を誘導した。
【0081】
D-ガラクトサミン投与18時間後に、全身麻酔下に治療群のサル(n=2)の左内頚動脈にアトム6Frのカテーテル(アトムメディカル株式会社、東京、日本)を挿入し、そして左外頚静脈にアトム6Frのカテーテルを挿入してその間に、ブタ肝臓細胞を充填したバイオ人工肝臓リアクターを接続した。ポンプにPERISTA BIO-MINIPUNP(ATTO、東京、日本)を用い、流量10ml/分で6時間、体外循環させた。麻酔は、静脈麻酔として、デュプリバンを使用した(5ml/時間)。抗血栓療法として、血液がリアクターを通過する直前に、リアクターの中枢側よりヘパリン1000単位を注入し、以後体外循環中はヘパリンの持続注入(ヘパリン500単位/時間)により、全身ヘパリン化を行なった。
【0082】
ネガティブ・コントロール群(n=2)として、細胞を充填していない空リアクターを用いて、同様の試験を行なった。
【0083】
結果は、ネガティブ・コントロール群では、2例のサルはいずれもD-ガラクトサミン投与後1週間以内に肝不全で死亡した。剖検では、肝臓の出血壊死、顕著な萎縮、黄疸性の胸・腹水の貯留を認め、組織学的にも肝細胞の広範な壊死を認めた。一方、約10億個のブタ肝臓細胞を装填した群はいずれも3週間以上生存し、剖検所見でも一切の異常を認めなかった。
【0084】
製造例3
ヒトES細胞の調製
ヒト由来のES細胞として、KhES-1(京都大学再生医科学研究所から「再生医科学研究所ヒトES細胞分配規定」に則って分配されたもの)を使用した。本細胞の培養は、ジェロン社が公開している培養方法(Protocols for the Maintenance of Human Embryonic Stem Cell in Feeder Free Conditions、ジェロン社のウェブサイト(http://www.geron.com)に公開されている。)に準じて行った。具体的には、以下のように培養した。
【0085】
培養プレートは、マトリゲル(ベクトン ディッキンソン アンド カンパニー製)でコートしてある6ウェルプレート(ファルコン社製、ベクトン ディッキンソン アンド カンパニー販売)を使用し、培養液はES培養液としてマウス胚性繊維芽細胞用馴化培地(カタログ番号:AR005、R&D システムズ社製)を使用した。培養液は毎日交換し、交換時にはマウス塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を100ng/mlとなるように、培養液中に添加した。ES細胞は7日毎に継代した。具体的には、培養プレート中にES細胞が占める割合が80~90%の状態になったところで、2段階式処置にて、すなわち、まず、コラゲナーゼIV液(200U/ml)(ギブコRBL/インビトロジェン社製、カタログ番号:17104-019)を添加し、37℃、10分間経過後に、コラゲナーゼIV液を除去することによってフィーダー細胞を除去した。この段階では、未分化状態のES細胞はプレートに残っている。ついで、前記6ウェルプレートにES培養液2mlを添加し、2mlピペットを用いて、培養プレートに残っている未分化状態のES細胞をスクラッチして剥離した後に、5回ピペッティングし、6ウェルプレートに播種して継代した。
【0086】
実施例5
製造例3で得られた5×106個のKhES-1細胞を2mlのES培養液(製造例3で使用したものと同じ)で希釈したものを、予めES培養液(製造例3で使用したものと同じ)1mlを加えておいた胚様体形成用培養皿(COSTAR、コーニング インコーポレイティッド製)の中央に播種した。この胚様体形成用培養皿で5日間培養し、胚様体を形成した後に、100ng/mlのヒト由来dHGF(第一製薬株式会社より提供)、100ng/mlのヒト由来bFGF、1%のDMSOおよび10-7モル濃度のデキサメタゾン(シグマ アルドリッチ コーポレーション製)を含むES培養液(製造例3で使用したものと同じ)で培養して、肝細胞への分化誘導を14日間行った。培養液は2日毎に交換した。胚様体を形成したヒトES細胞の位相差顕微鏡写真を図8に、ヒトES細胞から分化誘導された肝細胞の位相差顕微鏡写真を図9に示す。分化誘導された肝細胞21には肝細胞の特徴である複数の核22が観察される。
【0087】
実施例6
製造例3で得られたKhES-1細胞を、1cm×1cm大の細胞接着性を有するポリアミノ酸ウレタン(PAU)加工のPTFE不織布(クラレメディカル(株)製)を敷き、ES培養液(製造例3で使用したものと同じ)を加えた12穴培養プレート(マルチウェル12ウェルファルコン、ファルコン社製)に、3×106細胞数/cm2となるように播種した。前記ES細胞を培養プレートに播種したのち、5日間培養して胚様体を形成した。不織布上に形成された胚様体の走査電子顕微鏡写真を図10(a)に示す。図10(a)においては、不織布の繊維4に付着した胚様体23が示されている。
【0088】
ついで、100ng/mlのヒト由来dHGF、100ng/mlのヒト由来bFGF、1%のDMSOおよび10-7Mのデキサメタゾンを含んだES培養液(製造例3で使用したものと同じ)を用いて、14日間培養し、肝細胞への分化誘導を行った。培養液は2日毎に交換した。不織布上で分化誘導された肝細胞の走査電子顕微鏡写真を図10(b)に示す。図10(b)においては不織布の繊維4に付着した分化誘導された肝細胞21が示示されている。
【0089】
試験例3
誘導された肝細胞における遺伝子発現および形態学的変化
実施例5および6に記載の誘導された肝細胞において、RT-PCR法により、肝臓代謝に関わり、肝細胞特異的な遺伝子であるアルブミン遺伝子の発現を調べた。内因性コントロールとしてベータアクチン遺伝子の発現も調べた。RT-PCR法では、マウスの場合の試験例1と同様に行った。すなわち、細胞を0.25%トリプシン-EDTAでの処理後、回収し、製品の取り扱い説明書にしたがって、RNAトリゾールによりRNAを抽出した。1μgの総RNAを22℃で10分間、さらに42℃で20分間、RNA逆転写酵素を用いて逆転写反応をさせた。
【0090】
得られた2μgの逆転写物を、20pmol/mlの各プライマーで、アンプリタッグ ゴールド キット(AmpliTag Gold Kid)(パーキン・エルマー/シータス社製)を用い、そのプロトコールにしたがって、PCR増幅に用いた。各遺伝子に対するプライマーおよびPCR条件を以下に記載する。
【0091】
ヒトアルブミン遺伝子(576bp、59℃、35サイクル)
5′プライマー:5′-AAACCTCTTGTGGAAGAGCC(配列番号15)
3′プライマー:5′-CAAAGCAGGTCTCCTTATCG(配列番号16)
ヒトベータアクチン遺伝子(610bp、60℃、32サイクル)
5′プライマー:5′-TGACGGGGTCACCCACACTGTGCCCATCTA(配列番号17)
3′プライマー:5′-CTAGAAGCATTTGCGGTGGACGATGGACGG(配列番号18)
【0092】
結果を図11に示す。レーン1~7は、それぞれサイズマーカー、未分化ヒトES細胞、胚様体を形成したヒトES細胞、胚様体を形成させた後に不織布上を使用せずに分化誘導されたヒトES細胞(実施例5)、胚様体を形成させた後に不織布上で分化誘導されたヒトES細胞(実施例6)、ヒト肝細胞、そしてサイズマーカーを示す。実施例5および6で誘導された肝細胞においては、肝細胞特異的なマーカー遺伝子であるアルブミンの発現が確認されるが、特に不織布を使用する三次元培養により誘導された肝細胞(実施例6)では、発現が増強していることが確認できる。この結果は、不織布を使用することで肝細胞の分化誘導がより効率よく誘導できることを強く支持している。
【0093】
また、不織布を使用して、誘導されたヒトES細胞の細胞内では、透過電子顕微鏡により、成熟した肝細胞に特徴的であるグリコーゲン顆粒(図12)が観察された。図12において、符号24、25、26は、それぞれ小胞体、ミトコンドリアおよびグリコーゲン顆粒を示す。
【0094】
試験例4
肝機能の測定
(A)アンモニアの代謝
実施例5~6で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その培溶液中に、1.4ミリモルの四塩化アンモニウムを負荷し、4時間後に培養液を10μl採取し、アンモニア濃度を測定した。実施例5~6におけるアンモニアの代謝率は、それぞれ7.1%、7.8%であった。
【0095】
(B)リドカインの代謝
実施例5~6で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その培養液中に、リドカインを最終濃度1mg/mlとなるよう負荷し、4時間後に培地を1000μl採取し、リドカイン濃度を測定した。実施例5~6におけるリドカインの代謝率は、それぞれ13.4%、23.2%であった。
【0096】
前記(A)、(B)のそれぞれの代謝率を図13に示す。代謝率は、薬物負荷時の該薬物の濃度から4時間後の各薬物濃度を引いたものを薬物負荷時の該薬物の濃度で割った値で表わす。各実施例ともに薬物代謝能が見られるが、不織布上での三次元培養により、薬物代謝能が増強されていることがわかる。
【0097】
(C)尿素の産生
前記(A)と同様に1.4ミリモルの四塩化アンモニウムを負荷し、4時間後に培養液を採取し、尿素の産生量を測定した。実施例5~6で、それぞれ細胞100万個当たり5.4μg、6.8μgであった(図14)。
【0098】
(D)アルブミンの産生
実施例5~6で得られた肝細胞の培養液を分化誘導開始から14日後に新しいものに交換した。その後24時間培養したのちの培養液を採取し、albumin ELISA kit ALBUWELL II (Exocell Inc、フィラデルフィア、ペンシルべニア州、米国)を使用してアルブミンの産生量を測定した。アルブミンの産生量は、実施例5~6で、それぞれ1ml当たり289ng、349ngであった(図15)。不織布を使用する三次元培養により誘導された肝細胞はアルブミン産生能が増強されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の分化誘導方法により、健常ヒト肝臓細胞を代替するのに充分機能的であり、大量供給が可能で安全な肝細胞を誘導することができる。また、本発明のバイオ人工肝臓は、体外型とした場合、細胞移入などに伴う危険性を回避し、より安全性の高い治療が実現できる。さらに、本発明においては、大量供給が可能なヒト肝細胞を使用する薬物の検査方法および生理活性物質の産生方法が提供される。
【配列表フリ-テキスト】
【0100】
配列番号1:マウスCK18遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号2:マウスCK18遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号3:マウスG6P遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号4:マウスG6P遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号5:マウスTAT遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号6:マウスTAT遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号7:マウスアルブミン遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号8:マウスアルブミン遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号9:マウスAFP遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号10:マウスAFP遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号11:マウスHNF3b遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号12:マウスHNF3b遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号13:マウスGAPDH遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号14:マウスGAPDH遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号15:ヒトアルブミン遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号16:ヒトアルブミン遺伝子を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
配列番号17:ヒトベータアクチンを検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用5′プライマー
配列番号18:ヒトベータアクチンを検出するためのポリメラーゼ連鎖反応用3′プライマー
図面
【図3】
0
【図5】
1
【図6】
2
【図7】
3
【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
9
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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