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明細書 :アリのブルード保護行動を利用した駆除技術

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5508685号 (P5508685)
公開番号 特開2009-221174 (P2009-221174A)
登録日 平成26年3月28日(2014.3.28)
発行日 平成26年6月4日(2014.6.4)
公開日 平成21年10月1日(2009.10.1)
発明の名称または考案の名称 アリのブルード保護行動を利用した駆除技術
国際特許分類 A01N  25/00        (2006.01)
A01N  43/54        (2006.01)
A01P   7/00        (2006.01)
A01M   1/02        (2006.01)
A01M   1/20        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01P  19/00        (2006.01)
FI A01N 25/00 101
A01N 43/54 F
A01P 7/00
A01M 1/02 B
A01M 1/20 A
A01N 63/00 B
A01P 19/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2008-069808 (P2008-069808)
出願日 平成20年3月18日(2008.3.18)
審査請求日 平成23年3月16日(2011.3.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】松浦 健二
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】天野 皓己
参考文献・文献 特開2005-058207(JP,A)
特開2000-342149(JP,A)
特開2008-194007(JP,A)
特開2005-263651(JP,A)
特開平11-092301(JP,A)
特開平09-131154(JP,A)
比較生理生化学,2007年,V24,P3-17
調査した分野 A01N 25/00
A01M 1/02
A01M 1/20
A01N 43/54
A01P 7/00
A01N 63/00
A01P 19/00
CAplus/REGISTRY/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
擬似ブルードをアルゼンチンアリに与え、ブルード保護行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、アルゼンチンアリの駆除・防除方法において
該擬似ブルードは、
ポリスチレンビーズからなる基材の表面に、アルゼンチンアリの幼虫にヘキサンを加えて磨砕した後に遠心分離して回収した上澄から抽出した体表ワックスと、遅効性殺虫活性物質をコートしたものであって、
体表ワックスと遅効性殺虫活性物質とは、前記上澄から抽出した体表ワックスに遅効性殺虫活性物質を加えて混和した後にヘキサンを完全に除去している、方法。
【請求項2】
アルゼンチンアリが出入りできる大きさの穴を有する容器に擬似ブルードを入れ、アルゼンチンアリに与えることを特徴とする請求項1の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アリ、特にアルゼンチンアリの駆除・防除のための新規な擬似ブルードおよびそれを用いた害虫駆除・防除方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アリによる被害は多種多様で、ヒトを含む動植物に深刻な被害を与えることもある。甚大な被害をもたらすアリとしては、例えば、シロアリ、アルゼンチンアリなどが挙げられる。アリの駆除に関してこれまで様々な駆除方法が開発されてきた。アリの駆除方法としては有機リン剤、カーバメート剤、ピレスロイド剤、フェニルピラゾール剤などを殺虫活性成分として含む液体型殺虫剤、スプレー型殺虫剤、粉末型殺虫剤をアリの体や巣に散布、噴霧、塗布あるいは設置する方法がある。
【0003】
これらの液体型殺虫剤、スプレー型殺虫剤、粉末型殺虫剤に代わるものとして、餌型殺虫剤がある。餌型殺虫剤は、働きアリがえさを巣に持ち帰り、仲間に分け与える習性を利用した殺虫剤である。殺虫成分入りのえさを巣の中の仲間へ分け与えることで、巣全体に作用することを特徴とする(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、アルゼンチンアリによる被害がクローズアップされてきた。アルゼンチンアリは、1990年代に日本に侵入し、特定外来生物に指定されており、多岐にわたる被害が報告されている。その被害は大きく分けて、「不快害虫としての被害」、「農業害虫としての被害」、「侵略アリとしての生態系への被害」の3つが挙げられる(非特許文献1参照)。世界の侵略的外来種ワースト100選定種であり、日本の侵略的外来種ワースト100選定種である。日本での分布範囲を拡大しつつあり、すでに兵庫県、山口県、愛知県、神奈川県、岐阜県で分布が確認されているが、効果的な駆除技術がないために、その分布拡大は加速する一方である。したがって、一刻も早くアルゼンチンアリを駆除するための効果的な技術が開発される必要がある。しかし、アリの種がアルゼンチンアリである場合、以下に述べる理由で駆除が困難であり、未だ決定的な解決策が見出されていない。
【0005】
すなわち、アルゼンチンアリは、大多数の働きアリと複数の女王アリからなる大規模な巣を形成し、一つの巣の中には、多数の女王アリが存在し、多いときには、一つの巣の中に数百匹の女王アリが存在することもある。巨大なスーパーコロニーを形成するため、巣全体を駆除することはきわめて困難で、従来の駆除技術ではアルゼンチンアリの巣を根絶することはほぼ不可能とされており、既存のアリ駆除技術は一時的な対処にすぎない。
【0006】

【特許文献1】特開平10-139611号公報
【非特許文献1】杉山隆史,2000.アルゼンチンアリの日本への侵入,日本応用動物昆虫学会誌44(2):127-129.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルゼンチンアリなどのアリを効果的に駆除する手段および方法を開発することが本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記事情に鑑みて鋭意研究を行ってきた。そして、アリ、特にアルゼンチンアリが卵、幼虫および蛹を認識し、巣内の育児場に運搬して塊を形成し、頻繁にグルーミングを行って保護する行動に着目し、このブルード保護行動を利用して巣の外部から殺虫剤を含有する擬似ブルードを巣内へとアリに運搬させる方法を見出し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書中、ブルードとは、卵、幼虫および蛹を意味する。
【0009】
すなわち、本発明は、擬似ブルードをアルゼンチンアリに与え、ブルード保護行動を利用して巣内に運搬させることを特徴とする、アルゼンチンアリの駆除・防除方法において、該擬似ブルードは、ポリスチレンビーズからなる基材の表面に、アルゼンチンアリの幼虫にヘキサンを加えて磨砕した後に遠心分離して回収した上澄から抽出した体表ワックスと、遅効性殺虫活性物質をコートしたものであって、体表ワックスと遅効性殺虫活性物質とは、前記上澄から抽出した体表ワックスに遅効性殺虫活性物質を加えて混和した後にヘキサンを完全に除去しているものである。さらには、これに加えて、アルゼンチンアリが出入りできる大きさの穴を有する容器に擬似ブルードを入れ、アルゼンチンアリに与える方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アリのブルード運搬行動を利用してアリ自ら巣の外部から駆除活性成分を含有する擬似ブルードを巣内へと運搬させることにより、特にアルゼンチンアリの駆除や防除を効果的で簡便に行うことができる。本発明の擬似ブルードは基材に体表ワックス成分および駆除活性成分を含有せしめたものであり、大量かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
アリは自分たちのブルード、すなわち卵、幼虫および蛹をそれらの体表ワックス成分によって認識し、巣内の育児場に運搬して塊にし、表面を舐めるなどして世話をする、あるいは個体間で栄養交換を行う性質をもつ。この性質を利用してアリの駆除、防除を行うことができる。例えば、アルゼンチンアリは表面にブルード認識フェロモンを含有する擬似ブルードを自らのブルードとして認識して育児場に運搬する。そこでアリは擬似ブルードの表面をなめる等の世話行動を行い、個体間で栄養交換を行う。ブルード保護行動は、社会性昆虫の最も基本的で重要な社会行動であり、擬似ブルードは餌よりも誘引性が高い。擬似ブルードの形態およびサイズは卵、幼虫または蛹の形態およびサイズに限定されないため、卵よりも大きい基材を用いることも可能であり、より多量の駆除活性成分を含有せしめることが可能である。したがって、この擬似ブルードに駆除活性成分、例えば、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分、アリの病原体などを含有せしめて巣中に運搬させることにより、効率的に巣を破壊することが可能である。
【0012】
したがって、本発明は、第1の態様において、ブルード認識フェロモンとして体表ワックス成分ならびに駆除活性成分を基材に含有せしめた擬似ブルードを提供する。該基材の大きさ、形態、材料などは、アリが単独個体または集団で運搬可能なものであれば、いずれのものであってもよい。また、本発明の疑似ブルードは、アリが単独個体または集団で運搬可能な大きさ、形態のものであれば、いずれのものであってもよい。
【0013】
本発明の擬似ブルードおよび方法により駆除することのできるアリは、ブルード保護本能を有するものであれば、いずれの種のアリであってもよい。本発明により駆除されるアリは日本のみならず世界中のアリが対象となりうる。本発明により駆除される典型的なアリとしてはアルゼンチンアリが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、アリの駆除という場合には防除も包含するものとする。日本や米国において、侵入種であるアルゼンチンアリは遺伝的多様性が小さく、巣仲間認識によるコロニー間の攻撃性が低いことが知られている。そのため、アルゼンチンアリに擬似ブルードを運搬させることも他の種より容易であるので、本発明は特にアルゼンチンアリに対して効果的である。
【0014】
本発明のアリのブルード認識フェロモンは体表ワックス成分である。体表ワックス成分とは、昆虫の体表に存在する体表炭化水素をはじめとする物質またはその混合物であり、乾燥から虫体を保護する、働きアリ同士で巣仲間の認識をする、ブルードの認識をする等の機能を有する。体表ワックス成分は、炭化水素が主であり、その他、エステル、ステロールエステル、ケトン、アルコール、または酸などの成分が含まれる。一般的にアリがブルードの認識フェロモンとして使っている成分は単一物質ではなく、複数の化合物の混合である。その成分および成分の組成はアリの種によって異なる。アリのブルード認識フェロモンとして報告されている炭化水素の例として、N-ペンタコサン;3-メチルペンタコサン;10,14-ジメチルヘキサコサン;N-ヘプタコサン;9-メチル-、11-メチル-および13-メチルヘプタコサン;11,15-ジメチルヘプタコサン;3-メチルヘプタコサン;7,11-ジメチルヘプタコサン;N-オクタコサン;3,7-ジメチル-、3,9-ジメチル-、3,11-ジメチル-および3,13-ジメチルヘプタコサン;10-メチル-、12-メチル-および14-メチルオクタコサン;12,16-ジメチルオクタコサン;N-ノナコサン;9-メチル-、11-メチル-、13-メチル-および15-メチルノナコサン;13,17-ジメチル-、11,15-ジメチル-および9,13-ジメチルノナコサン;3-メチルノナコサン;3,7-ジメチル-および3,9-ジメチルノナコサン;10-メチル-、12-メチル-および14-メチルトリアコンタン;4-メチルトリアコンタンおよび12,16-ジメチルトリアコンタン;4,8-ジメチル-,4,10-ジメチル-,4,12-ジメチル-および4,14-ジメチルトリアコンタン;N-ヘントリアコンタン;4,8,12-トリメチルトリアコンタン;11-メチル-,13-メチル-および15-メチルヘントリアコンタン;7-メチル-および9-メチルヘントリアコンタン;13,17-ジメチルヘントリアコンタン;11,15-ジメチルヘントリアコンタン;3-メチルヘントリアコンタン;5,9-ジメチル-,5,11-ジメチル-および5,13-ジメチルヘントリアコンタン;7,11,15-トリメチルヘントリアコンタン;N-ドトリアコンタン;3,7-ジメチル-3,9-ジメチルヘントリアコンタン;3,7,11-トリメチルヘントリアコンタン;3,9,15,21-テトラメチル-および3,7,11,15-テトラメチルヘントリアコンタン;4,8-ジメチル-、4,10-ジメチル-、4,12-ジメチル-および4,14-ジメチルドトリアコンタン;N-トリトリアコンタン;4,8,12,16-テトラメチルドトリアコンタン;5,9,13,17-テトラメチルトリトリアコンタン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの成分を単独あるいは2種以上混合して、擬似ブルードに適用することができる。本発明に用いる体表ワックス成分はターゲットとするアリ由来のものが好ましいが、他の種類のアリあるいはアリ以外の生物種由来のものであってもよく、例えば他の昆虫から抽出あるいは取得されたものであってもよい。好ましくは、体表ワックス成分はアリあるいは他の昆虫のブルードから抽出あるいは取得されたものである。また、本発明に用いる体表ワックス成分は人工的に合成されたものであってもよい。本発明に用いる体表ワックス成分は精製されていなくてもよく、精製されていてもよい。
【0015】
本発明の擬似ブルードのサイズは、アリが単独または集団で運搬可能な範囲であれば、どのようなサイズでもよい。アリはブルードの形態よりもフェロモンによってそれらを認識するため、擬似ブルードの形態は必ずしも実際のアリの卵や幼虫、蛹を模したものである必要はない。形成の容易さの点からは球形の擬似ブルードが好ましい。しかしながら、本発明の擬似ブルードはこの形態に限定されるものではない。アルゼンチンアリの駆除に用いる場合は、働き蟻が大顎で咥えて運搬できる大きさとして、直径0.1mm~1.0mmのビーズが好ましい。
【0016】
アリに擬似ブルードを認識させるために、基材表面にブルード認識フェロモンとして体表ワックス成分が露出していることが必要である。
【0017】
本発明の擬似ブルードの基材としては、アリが運搬可能であればいずれの材料であってもよい。本発明の擬似ブルードの作成に好ましい基材材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂、あるいは尿素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔質材料、ゼラチンなどのタンパク質、デンプン、セルロース、キチン、アガロースなどの多糖類、セラミックス、ガラスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
基材にブルード認識フェロモンとしての体表ワックス成分、ならびに駆除活性成分を含有させて本発明の疑似ブルードとする。基材への体表ワックス成分および駆除活性成分の含有方法としては種々のものが当業者に公知である。基材の製造時にこれらの物質を混入させてもよく、基材を作成してからこれらの物質を基材に含有させてもよい。例えば、基材製造時にこれらの物質を混合あるいは練り込んでもよく、出来上がった基材にこれらの物質をまぶす、浸す、塗布する、あるいは噴霧してもよい。
【0019】
本発明の擬似ブルードの基材への体表ワックス成分の適用量は、それらの種類(由来生物)、物理化学的性質など、アリの種類、駆除活性成分の種類や量、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて、当業者が容易に決定することができる。
【0020】
ブルード認識フェロモンとしての体表ワックス成分、ならびに駆除活性成分を基材に含有させる形式の好ましい具体例としては、表面コート型、基材添加型、カプセル溶解型などが挙げられる。表面コート型の例は、基材表面に活性成分をコートし、その上に体表ワックス成分をコートするものである。基材添加型の例は、活性成分を混合した基材表面に体表ワックス成分をコートするものである。カプセル溶解型の例は、膜状の基材をカプセル状とし、その内部に活性成分を封入し、基材表面に体表ワックス成分をコートするものである。
【0021】
本発明の擬似ブルードおよび駆除方法に使用することのできる駆除活性成分は、アリの駆除または防除を達成しうるものであればよい。例えば、駆除活性成分は、アリの行動を攪乱し、コロニーを破壊に至らしめるものであってもよい。アリの駆除や防除に適した活性成分としては、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質または発育阻害活性成分などが挙げられる。また、駆除活性成分は化学物質に限らず、アリの病原体であってもよい。本発明の擬似ブルードおよび駆除方法に使用することのできる駆除活性成分の種類および量は、駆除活性物質の種類やアリの種類、ならびに所望活性(アリに与えるべき損傷)の種類や程度などの諸因子に応じて選択することができる。通常は、駆除活性成分の種類および量は、所望のアリに対して十分に所望の効果を発揮しうるように選択されるが、アリの擬似ブルード運搬率を損なわないように、そして本発明の擬似ブルードおよび駆除方法を使用するヒトおよび周囲の家畜や益虫に悪影響を及ぼさないように選択することも考慮される。
【0022】
本発明の擬似ブルードおよび駆除方法に使用する駆除活性成分は1種であっても、2種以上であってもよい。例えば、ピレスロイド化合物、有機リン化合物、カーバメイト化合物、フェニルピラゾール系化合物、N-アリールジアゾール化合物、ヒドラゾン化合物、スルホンアミド化合物、天然殺虫成分などの殺虫活性成分を用いることができる。このほか、キチン合成阻害剤、幼若ホルモン様活性化合物、脱皮ホルモン様活性化合物などの昆虫成長制御剤を駆除活性成分として用いることができる。また、昆虫ウイルス、病原性バクテリア、病原性糸状菌、病原性線虫などの昆虫病原体を駆除活性成分として使うことができる。昆虫病原体の例として、核多角体病ウイルス、顆粒病ウイルス、昆虫ポックスウイルス等の昆虫ウイルス、Bacillus属、Pseudomonas属等の病原性バクテリア、Beauveria属、Metarhizium属、Nomuraea属、Entomophthora属、Verticillum属等の病原性糸状菌、Steinernema属、Heterorhabditis属等の線虫が挙げられる。本発明に使用しうる駆除活性成分は上記化合物および病原体に限定されないことはいうまでもない。
【0023】
本発明の擬似ブルードにおいて、駆除活性成分が遅効性であることが好ましい。上述のように、アリは、表面にブルード認識フェロモンを含有する擬似ブルードを自分たちのブルードとして認識し、巣内にある自らの育児場に運搬する。そしてアリは擬似ブルードの表面をなめる等の世話行動を通じて活性成分を摂取する。そしてコロニーの一部の個体が活性成分を摂取すると、主に口移しによる高頻度の栄養交換を通じて活性成分がコロニー全体に行き渡る。したがって、本発明に使用する駆除活性成分は、擬似ブルードの運搬時やアリに摂取された直後には効果を発揮しないか、あるいは擬似ブルード運搬や栄養交換などの行動に影響しない程度の効果しか発揮せず、擬似ブルードが巣内に運搬されて栄養交換が多くの個体間で行われてから効果を発揮するものであることが好ましい。このような遅効性の活性成分を用いることにより、ターゲットのコロニー中の多くの個体を効率的に駆除することができ、活性成分の使用量も少なくてすむ。したがって、他の生態系への影響も少なくてすむ。本発明の擬似ブルードに使用可能な遅効性活性成分としては、ヒドラメチルノンなどの遅効性殺虫成分のほか、遅効性孵化阻害成分、遅効性生殖阻害成分、遅効性生育阻害成分などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の擬似ブルードにおいて、基材が除放性材料でできているものも好ましい。すなわち、基材が除放性材料でできていることによって、巣内に運搬されてから駆除活性成分やその他の成分が徐々に放出され、害虫に取り込まれるような擬似ブルードも好ましい。かかる擬似ブルードとしては、基材が害虫の唾液により分解される材料からできているものが挙げられる。好ましくは、基材内部に駆除活性成分を含有させておき(混入、混合あるいは充填などにより)、擬似ブルードが巣内に運搬されてから害虫の唾液により基材が分解し、内部の駆除活性成分が放出されるようにする。特に、上記の基材添加型、カプセル溶解型などの場合において、害虫の唾液により分解されうる基材を用いることが好ましい。害虫の唾液で分解される基材の材料は、害虫の唾液中の消化酵素の種類に応じて選択することができる。例えば、害虫の唾液にセルラーゼが含まれている場合には、セルロース性材料からできた基材を使用することができる。このような除放性材料でできた基材を含む擬似ブルードは、駆除活性成分が遅効性である場合においても有効であるが、駆除活性物質が遅効性でない場合において特に有効である。
【0025】
本発明の擬似ブルードの特に好ましい形態は、上記のカプセル溶解型のものである。具体的には、体表ワックス成分を含有させた膜状基材からカプセルを成形し、該カプセル内部に駆除活性成分を含有させることにより、本発明の擬似ブルードを作成することができる。このようなカプセルの成形方法は当業者に公知である。膜の材料としては、酸化膜、セルロース膜などが例示される。膜状基材が除放性であるものが好ましく、例えば害虫の唾液によって分解されうるセルロース膜などを用いることが好ましい。このようなカプセル封入タイプの擬似ブルードは、野外の大型のコロニーの駆除にも好適である。
【0026】
また、本発明の擬似ブルードの基材に、ターゲットとするアリのブルードから抽出した成分を含有させることも好ましい。そうすることによって、より高いブルード運搬効果を得ることができる。幼虫や蛹からの粗抽出物を基材に含有させてもよく、抽出物を精製したものを基材に含有させてもよい。これらの粗抽出物あるいはその精製物の基材への含有量は、使用する体表ワックス成分の種類、性質、アリの種類、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて決定されうる。アリの幼虫や蛹からの有効成分の抽出方法および精製方法は当該分野において公知のものを用いることができる。
【0027】
本発明は、もう1つの態様において、上記擬似ブルードをアリに与えることを特徴とするアリの駆除方法を提供する。本発明の方法により駆除あるいは防除されるアリは、ブルード運搬本能を有するものであって、体表ワックスをブルード認識フェロモンとするアリであれば、いずれのアリの種であってもよい。特に、本発明はアルゼンチンアリの駆除および防除に有効である。例えばアルゼンチンアリを駆除する場合には、本発明の擬似ブルードを蟻道に置き、巣の内部へと運搬させることができる。巣を発見できた場合は、巣の内部に擬似ブルードを注入することによってより速やかに運搬させることができる。本発明のアリの駆除方法は、アリのブルード運搬行動を利用するものなので、極めて効率が高い。
【0028】
雨などによる表面の化学成分の脱落や風による飛散を防ぐために、本発明の擬似ブルードをアリが出入りするための穴を空けた容器に入れ、アリがいる場所、またはアリが来る可能性のある場所に設置することも好ましい。したがって、本発明は、さらにもう1つの態様において、アリが出入りできる大きさの穴を有する容器に上記擬似ブルードを入れ、アリに与えることを特徴とするアリの駆除方法を提供する。本発明の方法により駆除あるいは防除されるアリは、ブルード運搬本能を有するものであって、体表ワックスをブルード認識フェロモンとするアリであれば、いずれのアリの種であってもよい。特に、本発明はアルゼンチンアリの駆除および防除に有効である。
【0029】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
実施例1:擬似ブルードの調製および運搬活性の確認
アルゼンチンアリの幼虫から抽出したブルード体表ワックスおよびヒドラメチルノンをポリスチレンビーズの表面にコートした擬似ブルード、ポリスチレンビーズにブルード体表ワックスのみをコートしたもの、ヒドラメチルノンのみをコートしたもの、および対照として何もコートしていないもの運搬活性を、アルゼンチンアリの飼育コロニーを用いて調べた。
【0031】
アルゼンチンアリは特定外来種に指定されているため、本試験に用いたアルゼンチンアリの飼育および試験は中国四国地方環境事務所の特定外来生物の飼養等許可を得て行った(環国地野許第071109007号)。
【0032】
各試験標品を以下のようにして調製した。
疑似ブルードの調製:アルゼンチンアリの幼虫210mgにヘキサン100ulを加えて磨砕し、1500rpmで5分間遠心分離し、上澄を回収してブルードから体表ワックスを抽出した。直径0.6mm~0.7mmのポリスチレンビーズ(Bio-Beads SM-2,Bio-Rad Laboratories,Inc.California,USA)を20-50meshの製品中から選抜して基材として用いた。サイズ選抜した直径0.6mm~0.7mmのポリスチレンビーズ100個に対し、ブルード体表ワックス成分のヘキサン抽出溶液50μlを加え、そこに遅効性殺虫活性物質としてヒドラメチルノン0.2mgを加え、混和した。これを遠心エバポレーターに40℃、10分間かけてヘキサンを完全に除去した。こうしてアルゼンチンアリのブルード体表ワックスおよびヒドラメチルノンをポリスチレンビーズの表面にコートした擬似ブルードを得た(処理区1)。ポリスチレンビーズに体表ワックスのみをコートしたもの(処理区2)、ヒドラメチルノンのみをコートしたもの(処理区3)、および何もコートしていないもの(対照区)についてもそれぞれ100ビーズずつ用意し、アリによる運搬率の比較に用いた。
【0033】
アルゼンチンアリの卵の大きさは0.25~0.45mm、幼虫の体長は0.4mm~2.5mm、蛹の体長は2.0~3.0mmであった(図1)。上記疑似ブルードの調製で擬似ブルードの基材として用いたポリスチレンビーズは直径0.6mm~0.7mmであり、これはアルゼンチンアリの卵よりも大きいものであった。
【0034】
疑似ブルードの運搬率:本試験に用いたアルゼンチンアリの巣は、広島県廿日市市で採集され、試験前の1ヶ月間、室内で飼育された約2000個体から成るコロニーである。アルゼンチンアリの巣は10cm×10cm×2.5cmの採餌エリアにアクリルパイプで連結されている(図2)。観察しやすいように黒のビニルテープを裏側に張った18mm×18mmの顕微鏡用カバーガラスの表面に、上記のごとく得たビーズを100個ずつ塊で設置し、採餌エリアに入れた。採餌エリアに入れられたビーズに対するアルゼンチンアリの行動をCCDカメラで15分間撮影した。与えた100ビーズの内、15分以内にアリが咥えて運搬を開始したビーズ数をカウントし、フィッシャーの正確確率検定により各実験区の運搬率を対照区と比較した。
【0035】
ブルード体表ワックスおよびヒドラメチルノンをコートしたビーズ(処理区1)およびブルード体表ワックスのみコートしたビーズ(処理区2)では、80%以上のビーズが運搬された。これに対し、ヒドラメチルノンのみをコートしたビーズ(処理区3)と何もコートしていないビーズ(対照区)は全く運搬されなかった(図3)。
【0036】
容器に入れた疑似ブルードの運搬率:上記のごとく得た処理区1のビーズ100個を、直径3mmの穴を6カ所空けた6cm×4.5cm×2.5cmの蓋つきスチロール容器(図4)に入れ、これをアルゼンチンアリの採餌エリアに入れ、アルゼンチンアリの反応をCCDカメラで15分間撮影した。与えた100ビーズの内、15分以内にアリが運搬したビーズ数をカウントし、フィッシャーの正確確率検定により各実験区の運搬率を対照区と比較した。
【0037】
出入り口付きスチロール容器に入れて与えた処理区1の擬似ブルードのうち、80%以上が運搬された。擬似ブルードを出入り口付きスチロール容器に入れて設置した場合と、18mm×18mmの顕微鏡用カバーガラスの表面に置いた場合で、運搬率に有意な差は認められなかった。

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、効果的なアリの駆除、特にアルゼンチンアリの駆除を提供するものであり、殺虫剤製造の分野、害虫駆除産業の分野、農業生産の分野、環境保全の分野などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1はアルゼンチンアリの卵から成虫に至るまでの各発育段階の写真である。1令から6令は、各幼虫の令期を表す。
【図2】図2は実施例で用いたアルゼンチンアリの巣および採餌エリアの全体写真である。アルゼンチンアリの巣は10cm×10cm×2.5cmの採餌エリアにアクリルパイプで連結されている。観察しやすいように黒のビニルテープを裏側に張った18mm×18mmの顕微鏡用カバーガラスの表面に、実施例に記載のごとく調製したビーズを100個ずつ塊で設置し、採餌エリアに入れている。光を遮断し、撹乱を防ぐために、飼育時および試験時には巣を黒い布で包んである。
【図3】図3は、アルゼンチンアリによる擬似ブルードの運搬率の比較試験結果を示す図である。n.s.:対照区と有意差なし。***有意水準0.1%で有意差あり(フィッシャーの正確確率検定)。
【図4】図4は実施例で用いた擬似ブルードを設置するための容器の写真である。6cm×4.5cm×2.5cmの蓋つきスチロール容器に、アリが出入りするために直径3mmの穴(矢印で示す)を6カ所空けたものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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