TOP > 国内特許検索 > アズキ加工食品のアズキ原料品種判定方法 > 明細書

明細書 :アズキ加工食品のアズキ原料品種判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4719917号 (P4719917)
公開番号 特開2008-271959 (P2008-271959A)
登録日 平成23年4月15日(2011.4.15)
発行日 平成23年7月6日(2011.7.6)
公開日 平成20年11月13日(2008.11.13)
発明の名称または考案の名称 アズキ加工食品のアズキ原料品種判定方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 13
全頁数 30
出願番号 特願2008-088153 (P2008-088153)
出願日 平成20年3月28日(2008.3.28)
優先権出願番号 2007093680
優先日 平成19年3月30日(2007.3.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月15日(2010.10.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】田原 誠
【氏名】山下 裕樹
【氏名】中川 藍
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】福間 信子
参考文献・文献 特開2004-016008(JP,A)
特開2006-042808(JP,A)
育種学研究, (2004), vol.6, p.169-177
調査した分野 C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
BIOSIS(STN)
PubMed
WPI

特許請求の範囲 【請求項1】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、
アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出し、配列番号2に示される、特定のアズキ品種であるきたのおとめ固有のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴とするアズキ原料品種判定方法。
【請求項2】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、
アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出し、配列番号5に示される、特定のアズキ品種であるしゅまり固有のRLVAレトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴とするアズキ原料品種判定方法。
【請求項3】
配列番号2に示される、特定のアズキ品種であるきたのおとめ固有のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位における、該Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列(配列番号2における第1位~第63位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーと、
Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列(配列番号2における第64位~第203位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて、アズキ加工食品から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物の有無を確認する方法を用いることを特徴とする請求項1に記載のアズキ原料品種判定方法。
【請求項4】
配列番号5に示される、特定のアズキ品種であるしゅまり固有のRLVAレトロトランスポゾン挿入部位における、該RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列(配列番号5における第99位~第600位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーと、
RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列(配列番号5における第1位~第98位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて、アズキ加工食品から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物の有無を確認する方法を用いることを特徴とする請求項2に記載のアズキ原料品種判定方法。
【請求項5】
上記増幅産物の断片長が40bp~600bpであることを特徴とする請求項3または4に記載のアズキ原料品種判定方法。
【請求項6】
上記検出工程では、配列番号2に示される、特定のアズキ品種であるきたのおとめ固有のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位の有無を検出し、
上記Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーであり、
上記Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項に記載のアズキ原料品種判定方法。
【請求項7】
上記検出工程では、配列番号5に示される、特定のアズキ品種であるしゅまり固有のRLVAレトロトランスポゾン挿入部位の有無を検出し、
上記レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーであり、
上記レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項4に記載のアズキ原料品種判定方法。
【請求項8】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定するために用いるプライマーであって、
配列番号3および4に示される塩基配列からなることを特徴とするアズキ原料品種判定用プライマー。
【請求項9】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定するために用いるプライマーであって、
配列番号6および7に示される塩基配列からなることを特徴とするアズキ原料品種判定用プライマー。
【請求項10】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定するためのアズキ原料品種判別キットであって、
配列番号2に示される、特定のアズキ品種であるきたのおとめ固有のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位における、該Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列(配列番号2における第1位~第63位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーと、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列(配列番号2における第64位~第203位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーとを含むことを特徴とするアズキ原料品種判別キット。
【請求項11】
配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーとを含むことを特徴とする請求項10に記載のアズキ原料品種判別キット。
【請求項12】
アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定するためのアズキ原料品種判別キットであって、
配列番号5に示される、特定のアズキ品種であるしゅまり固有のRLVAレトロトランスポゾン挿入部位における、該RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列(配列番号5における第99位~第600位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーと、RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列(配列番号5における第1位~第98位の塩基配列)に基づいて設計されるプライマーとを含むことを特徴とするアズキ原料品種判別キット。
【請求項13】
配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーとを含むことを特徴とする請求項12に記載のアズキ原料品種判別キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品、特にアズキを原料に含むアズキ加工食品のアズキ原料品種を高精度に判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の新品種育成者の権利は、植物品種保護制度が整備され、国際的にも保護されている。ところが、近年、国内の農業研究機関などが開発した新品種の農作物を許可なく海外で栽培し、加工食品として輸入するといった不正行為が増加しており、国内の農家を圧迫するという問題が生じている。また、消費者保護の観点から、加工食品の原料の不正表示を防止することも重要な課題となっている。しかしながら、加工食品の原料に使用されている植物の品種を判定する技術は未だ開発されておらず、加工食品の原料品種を鑑定する実用化技術の開発が待ち望まれている。
【0003】
一方、植物の品種を識別する技術としては、DNAの多型検出法が注目されている。具体的には、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)、SSR(Simple Sequence Repeat)、CAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)、ISSR(Inter-Simple Sequence Repeat)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)などが検討されており(非特許文献1参照)、イネ、イグサ、イチゴ、インゲンなどでは、上記の方法を用いた品種識別技術が実用化されている。
【0004】
植物のゲノム中には、転移因子が存在する。転移因子は、「転移性遺伝因子」または「可動性遺伝因子」とも呼称されるが、染色体上のある部位から別の部位へ転移する能力を備えた、あるいは、進化の過程で染色体上を転移したことが示されたDNA配列である。転移因子の転移に伴い、DNAの重複、欠失、あるいは、染色体の再編成が生じる。自然界で起こる突然変異の約70~80%は、このような転移因子の活動が原因であるとされている。
【0005】
レトロトランスポゾンは、転移因子の一種である。レトロトランスポゾンの転移は、ゲノム中の配列が転写された後、逆転写反応により元の配列の複製となったDNAがゲノムに挿入されるという過程をとり、一旦挿入された配列は安定的に遺伝する。植物ゲノムには、進化の過程でこのようにして複製された配列が多数存在するが、そのほとんどは、転移活性を失っている。また、レトロトランスポゾンの多数の複製配列はゲノム中に散在しており、優れた遺伝子マーカーとなることが知られている。
【0006】
このようなレトロトランスポゾンを遺伝子マーカーとして、品種を識別する技術として、例えば特許文献1及び2には、サツマイモゲノム中にトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、サツマイモ原料の品種を識別判定する方法が開示されている。
【0007】
また、非特許文献2及び3には、RAPD法及びSSR法を用いたアズキ品種の識別方法が記載されている。

【特許文献1】特開2005-229921号公報(平成17(2005)年9月2日公開)
【特許文献2】特開2006-42808号公報(平成18(2006)年2月16日公開)
【非特許文献1】矢野博、DNA多型分析による品種識別の可能性-植物におけるDNA多型検出技術とその応用-、農業および園芸、79:131-136(2004)
【非特許文献2】北海道立中央農業試験場、(参考資料5)“DNA分析による小豆品種の識別”、[online ]、[平成19年3月26日検索]、インターネット<URL :http://www.hinsyu.maff.go.jp/DNAgaido/san5.pdf >
【非特許文献3】北海道立中央農業試験場、(参考資料6)“DNA分析による小豆のあん品種の識別”、[online ]、[平成19年3月26日検索]、インターネット<URL :http://www.hinsyu.maff.go.jp/DNAgaido/san6.pdf >
【非特許文献4】Waugh, R., K. McLean, A. J. Flavell, S. R. Pearce, A. Kumar, B. B. T. Thomas and W. Powell. Genetic distribution of Bare-1-like retrotransposable elements in the barley genome revealed by sequence-specific amplification polymorphisms (S-SAP). Mol Gen Genet 253: 687-694 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、加工食品からその原料植物の品種を判定することは、新品種育成者の権利保護および消費者保護の観点から非常に重要である。しかしながら、アズキ加工食品の原料に使用されているアズキ品種を判定する技術は未だ開発されておらず、アズキ加工食品の原料品種を判定する実用化技術の開発が待ち望まれている。
【0009】
アズキ加工食品の原料品種判定技術が未だ開発されていない理由としては、上述の植物品種判定技術をそのまま加工食品の原料品種判定に適用することが困難であることを挙げることができる。アズキ加工食品の原料品種判定にDNA多型を利用するアズキ品種判定方法やレトロトランスポゾンの挿入部位の多型を一度に表示(ディスプレー)させるSequence-Specific Amplification Polymorphism法(非特許文献4)のようなアズキ品種判定方法を適用することが困難であるのは、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料品種由来のDNAが、製造工程における加工処理により劣化・断片化していることが原因である。そこで、以下に具体例を挙げて説明する。
【0010】
上述のDNA多型を利用する植物品種判定方法のうち、現在主流となりつつあるのはSSR(Simple Sequence Repeat)を利用する品種判定方法である。この方法は、マイクロサテライトと呼ばれるものなど、短い配列が反復して現れるゲノム上の部分をPCRにより増幅し検出するものである。このような反復数は変異が生じやすく、多型の出現頻度が高い。また、反復配列に隣接する固有の領域にプライマーを設定してPCRを行うため、SSRマーカーはそれぞれ特定の遺伝子座として、また、反復数の違いは対立遺伝子として扱うことができる。反復配列は、植物のゲノム上の様々な場所に多数存在するので、複数の遺伝子座における複数の対立遺伝子の組み合わせによって、品種を識別する。
【0011】
この方法を、多種類の作物に適用し、さらに、それらの加工品から原料となった品種を識別する場合には、まず、PCR等の核酸増幅の対象となるDNA断片は反復配列とその両隣のプライマーを設定する領域となるため、本発明が品種識別のために核酸増幅の対象とするDNA断片よりも大きいという問題がある。
【0012】
加工食品に含まれる原料品種由来のDNAは、製造工程における加工処理により劣化・断片化しているために、品種識別のために核酸増幅の対象とするDNA断片が大きなSSR法は本発明による方法と比べて不適である。
【0013】
また、上述のDNA多型を利用する植物品種判定方法のうち、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)やCAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)を利用する品種判定方法も実用化されている。これらの方法は、特定の断片の増幅を前提としているが、一定の長さより短い増幅断片のみを使って判定できるようにゲノム上の部位を多数見出すことは困難である。特に、RAPDを利用する方法は1種類のプライマーを用いるものなので、加工処理により劣化・断片化が進んだDNAにおいて、品種比較に問題が生じないように短い断片が増幅される部位を見出すことはほとんど不可能と考えられる。
【0014】
また、従来のレトロトランスポゾンの挿入部位の多型を利用する植物品種判定方法は、レトロトランスポゾン挿入部位の品種間での違いを網羅的に示すことで品種識別を行っている(例えば、上述のS-SAP法のようなディスプレイを行う、サザン分析を行う等)。このように網羅的な解析を行うためには、利用するDNAの質がよいこと、すなわちDNA抽出などの操作により断片化していないことが、結果の再現性および信頼性の必須条件となる。したがって、これらの方法は加工食品の原料品種判定には適していない。
【0015】
一方、餡(あん)、小麦粉、麺、パンなど、原料を練り物、あるいは、粉体とする工程を経て製造される加工品においては、複数の品種が原料として使われた場合、加工製品の内容物を、使われた原料品種ごとに仕分けすることは技術的に不可能である。従って、原料品種の識別においては、加工製品そのものを分析することとなる。かかる場合、従来のDNAを利用した品種識別技術は、品種多型を示す遺伝子座の多型を利用して、それぞれの遺伝子座において、個々の品種が持つ対立遺伝子の種類を組み合わせて、その組み合わせの特徴から品種を特定するものであるので、混合されている品種の対立遺伝子の種類が同時に検出されることとなる。このため、調査した加工製品において、特定の品種が持つ対立遺伝子の種類の組み合わせが検出されても、それらの種類は、その特定の品種が実際に製品に含まれているために検出されたのか、または、製品に使われた複数の品種の対立遺伝子によって、偶然その組み合わせが検出されたのかを特定することは困難である。このような困難性を端的に示す例としては、調査する品種の両親品種の両方を原料とする製品では、調査する品種が実際に使われていなくても、調査する品種の対立遺伝子の全てがその製品の中から検出されることがあげられる。
【0016】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的はアズキ加工食品に含まれる劣化・断片化したDNAにも適用でき、かつ、アズキ加工食品の原料植物のアズキ品種を高精度に判定できる方法を提供することにある。また、複数の品種のアズキ原料を含む加工食品においても、加工食品のアズキ原料の品種を高精度に判定できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、アズキゲノム中に存在する転移因子の1つであるPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部位の中で、アズキ品種「きたのおとめ」に存在するが、「きたのおとめ」以外の現在栽培されている品種に存在しない部位を見出した。そして、かかる「きたのおとめ」固有の挿入部位の有無により、アズキ加工食品のアズキ原料品種が複数の品種である場合でも、その加工食品にその品種が含まれているかの判定を正確かつ迅速に行うことができることを確認して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
さらに、本発明者らは、アズキゲノム中に存在する転移因子の1つであるRLVAレトロトランスポゾンの挿入部位の中で、アズキ品種「しゅまり」に存在するが、「しゅまり」以外の現在栽培されている品種に存在しない部位を見出した。そして、かかる「しゅまり」固有の挿入部位の有無により、アズキ加工食品のアズキ原料品種が複数の品種である場合でも、その加工食品にその品種が含まれているかの判定を正確かつ迅速に行うことができることを確認して、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明のアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出し、特定のアズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴としている。
【0020】
また、本発明のアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位に、Phare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴としている。したがって、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位の品種間多型を利用して、簡便かつ正確なアズキ原料品種判定を行うことが可能になる。
【0021】
また、本発明のアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位に、上記レトロトランスポゾンとしてRLVAレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴としている。したがって、RLVAレトロトランスポゾン挿入部位の品種間多型を利用して、簡便かつ正確なアズキ原料品種判定を行うことが可能になる。
【0022】
本発明のアズキ原料品種判定方法では、上記検出工程では、アズキゲノムの特定部位に上記レトロトランスポゾンが挿入されているアズキ品種の、当該レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて、アズキ加工食品から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物の有無を確認する方法を用いることが好ましい。上記プライマーセットにより増幅される断片の長さを任意に設計できるため、短い断片が増幅されるようにプライマーセットを設計すれば、アズキ加工食品中のDNAが高度に断片化している場合でもこれを鋳型として増幅断片の有無を確認することが可能となる。また、増幅産物の有無を確認するものであるため、簡便な電気泳動により確認でき、結果の判定に熟練を要しない。
【0023】
本発明のアズキ原料品種判定方法では、上記増幅産物の断片長が40bp~600bpであることが好ましい。増幅産物の長さが短くなるようにプライマーを設計することにより、アズキ加工食品から抽出されるDNAが高度に断片化したものであっても、それを鋳型として核酸増幅反応を行うことが可能となる。
【0024】
本発明のアズキ原料品種判定方法では、上記検出工程で、上記レトロトランスポゾンとしてPhare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出する場合、上記Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーであり、上記Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーであることが好ましい。なお、配列番号3または4に示される塩基配列からなるプライマーも本発明に含まれる。
【0025】
本発明のアズキ原料品種判定方法では、上記検出工程で、上記レトロトランスポゾンとしてRLVAレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出する場合、上記RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーであり、上記RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーであることが好ましい。なお、配列番号6または7に示される塩基配列からなるプライマーも本発明に含まれる。
【0026】
本発明のアズキ原料品種判別キットは、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定するためのアズキ原料品種判別キットであって、特定のアズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位における、該レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを含むことを特徴とする。これにより、本発明のアズキ原料品種判定方法を実施して、簡便かつ正確なアズキ原料品種判定を行うことが可能になる。
【0027】
本発明のアズキ原料品種判別キットでは、上記レトロトランスポゾンとしてのPhare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを含むことが好ましい。これにより、本発明のアズキ原料品種判定方法を実施して、簡便かつ正確なアズキ原料品種判定を行うことが可能になる。
【0028】
上記キットに含まれるプライマーとしては、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーとが挙げられる。
【0029】
本発明のアズキ原料品種判別キットでは、上記レトロトランスポゾンとしてのRLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを含むことが好ましい。
【0030】
上記キットに含まれるプライマーとしては、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーとが挙げられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のアズキ原料品種判定方法は、以上のように、アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出し、特定のアズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含む構成である。
【0032】
また、本発明のアズキ原料品種判定方法は、以上のように、アズキゲノムの特定部位に、Phare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含む構成である。
【0033】
また、本発明のアズキ原料品種判定方法は、以上のように、アズキゲノムの特定部位に、RLVAレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含む構成である。
【0034】
それゆえ、簡便かつ正確なアズキ原料品種判定を行うことが可能になるという効果を奏する。
【0035】
また、検出工程に核酸増幅反応を用いると、鋳型とするDNAが極めて微量であっても検出することができる。したがって、アズキ加工食品から抽出されるDNAが劣化したものであり、また抽出可能なDNAが微量であってもアズキ原料の品種を判定できるという効果を奏する。また、核酸増幅反応により増幅される断片が極めて短くなるようにプライマーを設計することにより、アズキ加工食品から抽出されるDNAが高度に断片化されたものであってもアズキ原料の品種を判定することができるという効果を奏する。
【0036】
また、Phare-1レトロトランスポゾンまたはRLVAレトロトランスポゾンの品種に固有である挿入部位について、レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することによって、複数の品種のアズキ原料が含まれている加工食品においても、かかる固有の挿入部位を有する品種が含まれているかを高精度に判定することができる。
【0037】
また、本発明のアズキ原料品種判定キットは、本発明のアズキ原料品種判定方法を実施するためのキットであるため、本方法をより迅速かつ簡便に実施できるという効果を奏する。
【0038】
以上のように、本発明によれば、アズキ加工食品の原料品種を迅速、簡便かつ正確に判定することができるので、本方法を用いてアズキ加工食品の原料品種を判定すれば、新品種育成者の権利を保護することができ、また、加工食品の原料品種の不正表示を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
本発明のアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出し、特定のアズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含むことを特徴としている。これにより、アズキ加工食品のアズキ原料品種が複数の品種である場合でも、その加工食品にその品種が含まれているかの判定を正確かつ迅速に行うことができる。
【0041】
本発明者らは、上記アズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位として、「きたのおとめ」固有の挿入部位(実施の形態1)、及び「しゅまり」固有の挿入部位(実施の形態2)を見出した。上記「きたのおとめ」固有の挿入部位は、アズキゲノム中に存在する転移因子の1つであるPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部位である。また、「しゅまり」固有の挿入部位は、アズキゲノム中に存在する転移因子の1つであるRLVAレトロトランスポゾンの挿入部位である。これらアズキ品種固有のレトロトランスポゾン挿入部位の有無を調べることで、アズキ原料の品種を判定することが可能になる。
【0042】
〔実施の形態1〕
本発明に係るアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位に、Phare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含む方法である。
【0043】
対象とするアズキ加工食品は、原料にアズキが含まれるものであって、当該アズキ加工食品からアズキ原料のDNAを抽出可能なものであれば特に限定されるものではない。また、アズキ原料植物体の全部または一部、あるいは原料植物から得られる収穫物(果実、種子等)に対して加熱、乾燥等の加工処理を施したものがアズキ加工食品に該当する。したがって、アズキ加工食品には最終製品のみではなく、中間加工品も含まれる。
【0044】
また、上記アズキ加工食品は、単一の品種の原料植物を含む加工食品に限定されるものではなく、複数の品種の原料植物を含む加工食品であってもよい。後述するように、Phare-1レトロトランスポゾンのアズキ品種に固有である挿入部位についてPhare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することによって、複数のアズキ品種の原料植物が含まれているアズキ加工食品においても、かかる固有の挿入部位を有するアズキ品種が含まれているかの判定を行うことができる。
【0045】
レトロトランスポゾンは転移因子の一種であり、進化の過程で自身の複製を作り、ゲノムに挿入するという形式で転移していた遺伝因子である。多くの植物において、多種類のレトロトランスポゾンが複製された状態で存在する。現在の植物ゲノムにおいては、レトロトランスポゾンのほとんどの配列は転移活性を失っており、ゲノムに挿入された状態で安定的に遺伝している。レトロトランスポゾンに隣接するゲノム配列は、それぞれの挿入部位によって固有のものである。さらに、ある品種ではレトロトランスポゾンの挿入が見られるゲノムの場所に、別の品種では挿入が見られないという、品種間の多型が存在する。
【0046】
配列の両末端にLTR(Long Terminal Repeat)と呼ばれる反復配列を持つLTR型のレトロトランスポゾンは、今まで調査された範囲では、全ての高等植物に存在しており、主要な作物については、個別の配列が多数単離され、命名されている (Johns et al (1985) A low copy number, copia-like transposon in maize. EMBO J 8: 1093-1102.、Manninen and Schulman (1993) BARE-1, a copia-like retroelement in barley (Hordeum vulgare L.). Plant Mol Biol 22: 829-846.、Laten et al. (1998) SIRE-1, a copia/Ty1-like retroelement from soybean, encodes a retroviral envelope-like protein. Proc Natl Acad Sci USA 95: 6897-6902.、Kumekawa et al. (1999) Identification and characterization of novel retrotransposons of the gypsy type in rice. Mol Gen Genet 260: 593-602.)。
【0047】
レトロトランスポゾンのうち、LTRを有しないものは、non-LTR型と呼ばれる。non-LTR型のレトロトランスポゾンには、LINE(Long Interspersed Nucleotide Element)と呼ばれる転移に必要な酵素配列のフレームを持つものと、SINE(Short Interspersed Nucleotide Element)と呼ばれるこのようなフレームの大部分を欠失した短い配列が存在する。LINEは、今までに調査された範囲では、全ての高等植物に存在しており、個別の配列も単離され、命名されている(Leeton, P.R.J. and Smyth, D.R. (1993) An abundant LINE-like element amplified in the genome of Lilium speciosum. Mol. Gen. Genet., 237, 97-104.Noma, K., Ohtsubo, E. and Ohtsubo, H. (1999) Non-LTR retrotransposons (LINEs) as ubiquitous components of the plant genomes. Mol. Gen. Genet., 261, 71-79. Schwarz-Sommer, Z., Leclercq, L., Gobel, E. and Saedler, H. (1987) Cin4, an insert altering the structure of the A1 gene in Zea mays, exhibits properties of non-viral retrotransposons. EMBO J, 6, 3873-3880.)。
【0048】
LTR型のレトロトランスポゾンのうち、Ty1-Copia型に分類されるものについては、逆転写酵素領域に存在するアミノ酸保存配列をターゲットとするPCRにより、同酵素領域の配列が多数の植物から単離されている(Voytas et al. (1992) copia-like retrotransposons are ubiquitous among plants. Proc Natl Acad Sci USA 89: 7124-7128.、Hirochika et al. (1992) Retrotransposon families in rice. Mol Gen Genet 233: 209-216.)。したがって、レトロトランスポゾンの全長配列が調べられていない作物であっても、DNAデータベースにおいて既知の、あるいは、新たに逆転写酵素領域の配列を同定すれば、その延長配列を単離するTAIL(Thermal Asymmetric InterLaced)PCR(Liu et al. (1995) Efficient isolation and mapping of Arabidopsis thaliana T-DNA insert junctions by thermal asymmetric interlaced PCR. Plant Journal 8:457-463.)、Suppression PCR(Siebert et al. (1995) An improved PCR method for walking in uncloned genomic DNA. Nucleic Acids Res. 23:1087-1088.)やその他の方法(Pearse et al. (1999) Rapid isolation of plant Ty1-copia group retrotransposon LTR sequences for molecular marker studies. Plant Journal 19: 711-717.)により、末端のLTR配列までを同定することができる。
【0049】
本発明におけるPhare-1レトロトランスポゾンは、上記Ty1-Copia型に分類されるトランスポゾンであり、アズキゲノム中には、Phare-1レトロトランスポゾン複製配列が多数存在している。Phare-1レトロトランスポゾン複製配列のうち、1配列については、全長配列のうち逆転写酵素領域から末端のLTR配列まで塩基配列が決定されており、配列番号1に示される塩基配列がこれに相当する。本発明者は、後述するように、アズキゲノム中に存在する転移因子の1つであるPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部位が、アズキ品種「きたのおとめ」に固有であり、現在栽培されている「きたのおとめ」以外の品種に存在しないことを見出している。
【0050】
上記検出工程における、「アズキゲノムの特定部位に、Phare-1レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出する」とは、アズキゲノムの特定部位におけるPhare-1レトロトランスポゾンの存在の有無を検出することを意味する。上述のように、レトロトランスポゾンの挿入部位には品種間多型、すなわち、ある品種ではPhare-1レトロトランスポゾンの挿入が見られるゲノムの場所に、別の品種では挿入が見られない現象が存在するため、特定部位におけるPhare-1レトロトランスポゾンの有無を明らかとすることにより、品種判定を行うものである。
【0051】
アズキゲノムの特定部位にレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出する方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して用いればよいが、核酸増幅反応を用いることが好ましい。核酸増幅反応を用いる方法としては、例えば、アズキゲノムの特定部位にPhare-1レトロトランスポゾンが挿入されている品種「きたおとめ」の、当該Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて、加工食品から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物の有無を確認する方法を挙げることができる。
【0052】
Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域はレトロトランスポゾン配列の5’側に隣接する領域でも3’側に隣接する領域でもよい。Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマー(以下「隣接プライマー」と略記する。)とPhare-1レトロトランスポゾンンの塩基配列に基づいて設計されるプライマー(以下「RTPプライマー」と略記する。)とは、これらを組み合わせたプライマーセットにより核酸増幅が可能な向きに設計されていればよい。
【0053】
隣接プライマーは、Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計すればよいが、当該ゲノム領域の塩基配列の中で特異性の高い部分の塩基配列に基づいて設計されることが好ましい。配列特異性の高いプライマーが設計できれば、非特異的増幅産物の出現を抑制することができ、結果の判定が正確かつ容易となるからである。
【0054】
また、RTPプライマーは、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列のうち高度に保存されている配列部分に基づいて設計されることが好ましい。高度に保存されている配列部分に基づいてRTPプライマーを設計すれば、個々の隣接プライマーに対応するRTPプライマーを別々に設計する必要がなく、あらかじめ設計したRTPプライマーと個々の隣接プライマーとの組み合わせによりプライマーセットを構成することが可能となる。
【0055】
核酸増幅反応の鋳型DNAはアズキ加工食品から調製したDNAである。アズキ加工食品からDNAを調製する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いればよい。例えば、「遺伝子組換え食品の検査と分析のマニュアル」(JAS 分析試験ハンドブック 2002)に記載の方法を挙げることができる。
【0056】
核酸増幅反応は、公知の核酸増幅手段を適宜選択して用いればよい。具体的には、例えば、PCR法、ICAN法、UCAN法、LAMP法、プライマーエクステンション法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でもPCR法が、本原料品種判定方法に用いる増幅方法として好適である。
【0057】
また、PCR法を本原料品種判定方法に用いる増幅方法として採用する場合、リアルタイムPCRを用いることで、アズキ加工食品内に判定対象とするアズキ品種「きたのおとめ」の原料がどの程度の割合で含まれているのかを推定することが可能になる。具体的には、全アズキ品種に共通に存在するレトロトランスポゾン挿入部位に基づいて設計したプライマーセットを用意し、アズキ加工食品から抽出したDNAを鋳型として、このプライマーセットを用いてリアルタイムPCRを行う。これにより、アズキ加工食品に使われた全てのアズキ品種のDNAに相当する全DNA量が決定する。次に、Phare-1レトロトランスポゾンの「きたのおとめ」に固有の挿入部位に基づいて設計したプライマーセットを用いて、アズキ加工食品から抽出したDNAを鋳型として、リアルタイムPCRを行う。これにより、アズキ加工食品に使われたアズキ品種「きたのおとめ」のDNAに相当する「きたのおとめ」DNA量が決定する。上記全DNA量に対する「きたのおとめ」DNA量の割合を算出することにより、アズキ加工食品内にアズキ品種「きたのおとめ」の原料がどの程度の割合で含まれているかを定量できる。
【0058】
増幅産物の有無を確認する方法としては、例えば電気泳動を挙げることができるが、これに限定されるものではない。本発明のアズキ原料品種判定方法は、増幅産物の長さの違いを検出するものではなく、目的とするおおよその大きさの増幅産物の有無を検出するものであることが大きな特徴の1つである。そのため、シーケンサー等の機器を用いて数塩基の違いを検出するような厳密な電気泳動を行う必要がなく、アガロースゲル電気泳動等の簡便な電気泳動でも正確な判定が可能である。したがって、低コストで実施でき、また、判定や機器の操作に熟練を要しないという利点がある。
【0059】
アズキ品種判定は、上述のように、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入がある特定の品種のみに存在する挿入部位であればその挿入部位のみにおける増幅産物の有無により行うこともできる。
【0060】
本方法がアズキ加工食品のアズキ原料品種判定に特に適している特徴点として、増幅産物の長さを変更することが可能であるという点を挙げることができる。すなわち、上記隣接プライマーをRTPプライマーから遠い位置に設計すれば増幅断片長は長くなり、隣接プライマーをRTPプライマーから近い位置に設計すれば増幅断片長は短くなる。例えば、RTPプライマーをPhare-1レトロトランスポゾン配列の5’末端または3’末端に設計し、隣接プライマーをRTPプライマーに接するように設計すれば、理論的には、両プライマーを合わせた長さ程度の増幅断片とすることも可能である。通常アズキ加工食品から得られるDNAは断片化が進んでいるため、増幅断片長を可能な限り短く設計しておけば、高度に断片化が進んだ加工食品由来のDNAを鋳型とした場合でも品種判定が可能となる。したがって、本発明に係るアズキ原料品種判定方法は、DNAが劣化・断片化した加工食品の原料品種の判定に非常に適した方法であるといえる。ただし、常に増幅断片長が最も短くなるようにプライマーを設計する必要はなく、対象とするアズキ加工食品に含まれるDNAがどの程度断片化されているかを確認し、その程度に断片化されたDNAを鋳型としても増幅可能となるようにプライマーを設計すればよい。
【0061】
具体的には、隣接プライマーは、Phare-1レトロトランスポゾン配列のいずれか一方の末端から500bp以内の隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されることが好ましい。より好ましくは、400bp以内、さらに好ましくは300bp以内である。また、隣接プライマーとRTPプライマーとの組み合わせによる増幅産物の断片長は40bp~600bpであることが好ましい。より好ましくは40bp~400bp、さらに好ましくは40bp~300bpである。このような範囲内に隣接プライマーを設計し、増幅産物の長さをコントロールすれば、より多くのアズキ加工食品に本発明に係るアズキ原料品種判定方法を適用することが可能となる。
【0062】
植物の新品種の育成は、異なる品種間で交配を行い、栄養繁殖性の植物の場合には、その交配により得られる雑種第1代の個体の中から望ましい個体を選抜することにより、また、種子繁殖性の作物の場合には、その交配により得られた雑種またはその後代の個体の中から、望ましい個体またはその両親などの組み合わせを選抜することで進められている。本発明に係るPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部位は、このようにして育成される品種について、その品種と現在小豆生産に利用されている他の品種との間でPhare-1レトロトランスポゾンの挿入位置を比較し、「きたのおとめ」にのみ存在する挿入部位として見出されたものである。
【0063】
本発明者らは、本発明に係るアズキ原料品種判定方法を用いて、アズキ(Vigna angularis)を原料とした加工食品である「小豆餡」を対象として品種判定の検討を行っている。発明者らが対象としている「小豆餡」はアズキを原料としたアズキ加工食品の一例であって、アズキを原料とした加工食品としては、原料にアズキを含んでいるものであれば特に限定されるものではない。
【0064】
また、小豆餡などのアズキを原料にする加工食品は、加工の過程において、アズキを潰して練り物とする。このため、これら製品のうち、複数のアズキ品種が加工に利用されたものでは、製品の内容物を、使われた原料品種ごとに仕分けすることは技術的に不可能であり、複数のアズキ品種が混合している製品そのものから、特定のアズキ品種が原料として使われているかを判定する必要がある。本発明に係るPhare-1レトロトランスポゾンは、アズキ品種「きたのおとめ」を含む複数のアズキ品種が混合している製品そのものから、アズキ品種「きたのおとめ」が原料として使われているかを判定するのに、好適なレトロトランスポゾンである。以下、Phare-1レトロトランスポゾンの「きたのおとめ」固有の挿入部位について、説明する。
【0065】
まず、本発明者は、前述のHirochikaらの方法(Hirochika et al. (1992) Retrotransposon families in rice. Mol Gen Genet 233: 209-216.)に従い、Ty1-Copia型レトロトランスポゾンの逆転写酵素領域に存在するアミノ酸保存配列をターゲットとするPCRにより、同酵素領域の配列をアズキ品種「しゅまり」のゲノムから単離した。このようにして単離した逆転写酵素領域の配列の延長配列をSuppression PCR(Siebert et al. (1995) An improved PCR method for walking in uncloned genomic DNA. Nucleic Acids Res. 23:1087-1088.)法により単離し、末端のLTR配列までを同定し、Phare-1レトロトランスポゾンと命名した。配列番号1に示される塩基配列がこれに相当する。次に、Phare-1に固有とみられる挿入位置を見出すために、制限酵素処理末端へのアダプター付加法(Sequence-Specific Amplification Polymorphism法、非特許文献4参照、以下「S-SAP法」と略記する。)を用いて表1の品種について、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入部位を比較した。
【0066】
その結果、「きたのおとめ」には存在するがこれ以外の現在栽培されているアズキ品種には存在しない挿入部位が見出されたので、その挿入部位をクローニングして塩基配列を決定した。この塩基配列が配列番号2に示される塩基配列である。配列番号2について、Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列部分は、第1位~第63位の塩基配列であり、第64位~第203位はこの挿入場所に存在するPhare-1の末端部の配列である。この挿入部位が、表1以外の現在栽培されている品種には存在しないことを確認するために、クローニングしたこの挿入部位のうち、Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づき配列番号4の隣接プライマーを、また、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づき配列番号3のRTPプライマーを設計した。このようにして設計したプライマーを用いてPCRを行い、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が日本、中国、韓国などから収集し、保有しているアズキ品種・系統89種類について、アズキ品種間におけるPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部位を調べた。その結果、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入部位が、アズキ品種「きたのおとめ」に固有であり、「きたのおとめ」以外の現在栽培されている品種に存在しないことを見出した(表2、図1参照)。
【0067】
このように、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと配列番号3に示される塩基配列からなるRTPプライマーを用いて本発明に係るアズキ原料品種判定方法を実施すれば、品種「きたのおとめ」を識別することが可能である。
【0068】
配列番号2の配列は、実験に用いたアズキ品種「きたのおとめ」に固有であり、「きたのおとめ」以外の現在栽培されている他のアズキ品種に存在しないPhare-1レトロトランスポゾンの挿入部(Phare-1レトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列)のものである。
【0069】
本発明に係るアズキ原料品種識別キットは、本発明に係るアズキ原料品種判定方法を実施するためのキットであって、Phare-1レトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを含むものであればよい。キットには、プライマー以外に対象とする加工食品からDNAを抽出・精製するために用いる試薬・器具、核酸増幅反応に用いる試薬・器具、電気泳動に用いる試薬・器具等を含むことが好ましい。
【0070】
また、本発明に係るアズキ品種識別キットは、本発明に係るアズキ原料品種判定方法をアズキを含むアズキ加工食品を対象として実施するためのキットであって、上記配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーとを含むものであればよい。また、キットには、プライマー以外に対象とする加工食品からDNAを抽出・精製するために用いる試薬・器具、核酸増幅反応に用いる試薬・器具、電気泳動に用いる試薬・器具等を含むことが好ましい。
【0071】
〔実施の形態2〕
本発明に係るアズキ原料品種判定方法は、アズキ加工食品に含まれるアズキ原料の品種を判定する方法であって、アズキゲノムの特定部位に、RLVA(Retrotransposon like Vigna angularis)レトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出することにより、アズキ原料の品種を判定する検出工程を含む方法である。
【0072】
上記検出工程における、「アズキゲノムの特定部位に、RLVAレトロトランスポゾンが挿入されているか否かを検出する」とは、アズキゲノムの特定部位におけるRLVAレトロトランスポゾンの存在の有無を検出することを意味する。上述のように、レトロトランスポゾンの挿入部位には品種間多型、すなわち、ある品種ではRLVAレトロトランスポゾンの挿入が見られるゲノムの場所に、別の品種では挿入が見られない現象が存在するため、特定部位におけるRLVAレトロトランスポゾンの有無を明らかとすることにより、品種判定を行うものである。
【0073】
本発明に係るRLVAレトロトランスポゾンは、アズキ品種「しゅまり」を含む複数のアズキ品種が混合している製品そのものから、アズキ品種「しゅまり」が原料として使われているかを判定するのに、好適なレトロトランスポゾンである。以下、RLVAレトロトランスポゾンの「しゅまり」固有の挿入部位について、説明する。
【0074】
本発明におけるRLVAレトロトランスポゾンは、上記LTR(LTR: Long Terminal Repeat)型に分類されるトランスポゾンであると推定される。LTR型のレトロトランスポゾンは、全長の配列の両末端に同じ向きの反復配列が存在する。一方、RLVAレトロトランスポゾンは、全長の配列がクローニングされておらず、単独のLTR(Solo LTR)とみられるクローンだけが同定されている状態である。
【0075】
RLVA配列は、アズキの別のレトロトランスポゾン配列(SGr-7ファミリー)への挿入配列として見出された。挿入配列として発見されたRLVAは、その塩基配列がTGで始まりCAで終わるというLTR配列の特徴を持っていた。しかしながら、配列の両末端に反復配列(LTR)が見られず、配列そのものにレトロトランスポゾンの酵素領域とのホモロジーがまったく認められなかった。このLTRと推定された配列を基にしたトランスポゾン・ディスプレー(S-SAP: Sequence-Specific Amplification Polymorphism:非特許文献4参照)の結果、アズキのゲノム中に多数のコピーが存在することが見出された。このことから、RLVA配列は、単独のLTR配列(Solo LTR)であると推定された。
【0076】
次に、RLVAに固有とみられる挿入位置を見出すために、RLVAにおける上記Solo LTR配列を基に、S-SAP法を用いて表3の品種について、RLVAレトロトランスポゾンの挿入部位を比較した。
【0077】
その結果、RLVAレトロトランスポゾンの挿入部位であり、かつ現在栽培されている品種の中で「しゅまり」に特異的に見られる挿入部位が見出された。このように、「しゅまり」には存在するがこれ以外の現在栽培されているアズキ品種には存在しない挿入部位が見出されたので、その挿入部位をクローニングして塩基配列を決定した。この塩基配列が配列番号5に示される塩基配列である。配列番号5について、RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列部分は、第99位~第600位の塩基配列であり、第1位~第98位はこの挿入場所に存在するRLVAの末端部の配列である。この挿入部位の特異性を確認するために、クローニングしたこの挿入部位のうち、この挿入場所に存在するRLVAの末端部の配列に基づき配列番号6のRLVAしゅまりプライマー(RTPプライマー)を、また、RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づき配列番号7の隣接プライマーを設計した。このようにして設計したプライマーを用いてPCRを行い、表3のアズキ品種26種類について、RLVAレトロトランスポゾンのこの挿入部位の存在を調べた。その結果、RLVAレトロトランスポゾンのこの挿入部位が、現在栽培されている品種の中でアズキ品種「しゅまり」に固有であることを見出した(表3、図3参照)。さらに、北海道立中央農業試験場にて行われた、国内のアズキ品種32種類、及び海外から導入した遺伝資源136種類を対象とした試験においても、RLVAレトロトランスポゾンのこの挿入部位が、アズキ品種「しゅまり」に固有であり、「しゅまり」以外の現在栽培されている品種に存在しないことを見出した(表4、表5参照)。
【0078】
このように、配列番号6に示される塩基配列からなるRTPプライマーと配列番号7に示される塩基配列からなる隣接プライマーとを用いて本発明に係るアズキ原料品種判定方法を実施すれば、品種「しゅまり」を識別することが可能である。
【0079】
配列番号5の配列は、実験に用いたアズキ品種「しゅまり」に固有であり、「しゅまり」以外の現在栽培されている他のアズキ品種に存在しないRLVAレトロトランスポゾンの挿入部(RLVAレトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列)のものである。
【0080】
本発明に係るアズキ原料品種識別キットは、本発明に係るアズキ原料品種判定方法を実施するためのキットであって、RLVAレトロトランスポゾンに隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されるプライマーと、RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列に基づいて設計されるプライマーとを含むものであればよい。キットには、プライマー以外に対象とする加工食品からDNAを抽出・精製するために用いる試薬・器具、核酸増幅反応に用いる試薬・器具、電気泳動に用いる試薬・器具等を含むことが好ましい。
【0081】
また、本発明に係るアズキ品種識別キットは、本発明に係るアズキ原料品種判定方法をアズキを含むアズキ加工食品を対象として実施するためのキットであって、上記配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーとを含むものであればよい。また、キットには、プライマー以外に対象とする加工食品からDNAを抽出・精製するために用いる試薬・器具、核酸増幅反応に用いる試薬・器具、電気泳動に用いる試薬・器具等を含むことが好ましい。
【0082】
なお本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0083】
〔実施例1.アズキ品種間のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位の検出〕
本発明者は、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類について、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入部位を調べ、これらの他、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が日本、中国、韓国などから収集し、保有しているアズキ品種・系統89種類についても、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入部位を調べた。
【0084】
(1)材料
本発明者が、調べた北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類を表1に示す。また、これらの他に調査した、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が日本、中国、韓国などから収集し、保有しているアズキ品種・系統89種類を表2に示す。
【0085】
(2)ゲノムDNAの抽出
アズキ植物体のゲノムDNAは、CTAB(cetyltrimethylammonium bromide)法(早川孝彦(1997)タバコのDNA・RNA単離法.“新版植物のPCR実験プロトコール”島本功,佐々木卓治監修.秀潤社,東京,49-56.)を基本に抽出した。
【0086】
(3)「きたのおとめ」に固有の挿入部位の特定
北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類について、Phare-1のLTR配列を利用してS-SAP法による分析を行った。Phare-1のLTR配列は、アズキ品種「しゅまり」のゲノムから、前述のHirochikaらの方法に従い、Ty1-Copia型レトロトランスポゾンの逆転写酵素領域に存在するアミノ酸保存配列をターゲットとするPCRにより同酵素領域の配列を単離し、このようにして単離した逆転写酵素領域の配列の延長配列をSuppression PCR法により単離することで、Phare-1の末端部に存在する配列として同定したものである。このS-SAP法による分析の結果、これら26種類に含まれる、現在栽培に利用されているアズキ品種の中では、「きたのおとめ」にのみ見られるPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位を特定した。
【0087】
(4)PCR増幅
特定した挿入部位をクローニングしてその塩基配列(配列番号2)を決定し、その配列における、Phare-1レトロトランスポゾンの塩基配列とそれに隣接するゲノム領域の塩基配列とに基づいてP1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1プライマーを設計した。これらのプライマー利用したPCRにより増幅が期待されるDNAの断片長は103bpである。設計したP1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1プライマーの塩基配列は、以下の通りである。
PHARE1-LTR-A1プライマー(RTPプライマー):5'-CAGAATGGGCTAAGCCCAATTAACAG-3'(配列番号3)
P1-DE-T2-1-D2プライマー(隣接プライマー):5'-CATGACTTCAGCAAATGTGCCAGC-3'(配列番号4)
PHARE1-LTR-A1プライマーとP1-DE-T2-1-D2プライマーとを用いて、表1及び表2に示されたアズキ植物体から抽出したゲノムDNA溶液(20ng/μl)1μlを鋳型としてPCRを行った。PCRは、容量10μlの反応液として、E x Taq(TaKaRa)を用いて、94℃4分間の変性、94℃30秒間・59℃30秒間・72℃20秒間を40サイクル、72℃5分間の最終伸長反応のサイクリング条件で行った。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドで染色して観察した。その結果を図1の左側に挿入特異性検定として示す。
【0088】
なお、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種のゲノムDNAについて、PCRによるDNAの増幅が可能な品質を維持しているかを調べるため(QC:Quality Control)、これを鋳型としてアズキのどの品種にも見られるPhare-1の挿入部位を増幅するP1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1のプライマーセットを用いてPCRを行った。その結果を図1の右側にDNAクオリティーコントロールとして示す。増幅が見られなかったサンプルは品質が劣化していたことを示す。表1及び表2にPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位の検出結果をまとめた。なお、表1または表2において、(I)は本発明者らが行った検出結果であり、(II)は北海道立中央農業試験場にて行われた検出結果である。
【0089】
【表1】
JP0004719917B2_000002t.gif

【0090】
表1に示されるように、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類について、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位を検出した結果、アズキ品種「きたのおとめ(子)」及び「円葉(刈63)」にPhare-1レトロトランスポゾン挿入が認められた。
【0091】
【表2】
JP0004719917B2_000003t.gif

JP0004719917B2_000004t.gif

【0092】
図1及び表2に示されるように、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、アズキ品種「きたのおとめ」(品種番号4)、「紅南部」(品種番号33)、「岩手在205」(品種番号37)、及び「石川在36」(品種番号40)にPhare-1レトロトランスポゾン挿入が認められた。
【0093】
表1の結果から分かるように、「円葉(刈63)」にPhare-1レトロトランスポゾン挿入が認められたことから、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位は、「きたのおとめ」の系譜において、「きたのおとめ」の交配親{F5(交雑第5代)個体-現存せず-}の交配親である「円葉(刈63)」に由来するものであることがわかった。
【0094】
表2の結果から分かるように、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位は、有効な試験が可能であった83種類のうち、「きたのおとめ」以外では、わが国で収集された在来種2系統、及び大正13年に宮城農業試験場で育成された品種に放射線による突然変異を誘導して育成した品種(紅南部)にのみ見られる挿入部位であることがわかった。
【0095】
表2における3系統・品種(「紅南部」(品種番号33)、「岩手在205」(品種番号37)、及び「石川在36」(品種番号40))及び「円葉(刈63)」は、現在、試験場で遺伝資源として維持されているだけと見られる。それゆえ、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位は、「きたのおとめ」に高度に特異的であると考えられる。
【0096】
なお、これらの品種以外でも、最近育成された品種の交配親7系統、さらに最近中国で収集された7系統の個体についても挿入がないことが明らかになっている(表1参照)。
【0097】
Phare-1レトロトランスポゾン挿入部位は、交配親の親である「円葉(刈63)」に由来することは明らかである。また、アズキ品種「きたのおとめ」の育成方法は、系統選抜法を採用している。具体的には、交雑後、自殖を重ねて遺伝的な同質接合性を高めてから選抜を開始し、選抜した個体または系統について、さらに自殖と選抜を行うことで同質接合性の優れた系統を選抜する育成方法である。
【0098】
この育成方法を考慮すると、アズキ品種「きたのおとめ」が選抜された過程で、Phare-1レトロトランスポゾン挿入部は、品種内で遺伝的に固定され、品種内の多型(個体により挿入があるものとないものがあること)は存在しないものと考えられる。
【0099】
以上のことから、Phare-1レトロトランスポゾンの挿入部位は、アズキ品種「きたのおとめ」に固有であり、現在栽培されている「きたのおとめ」以外の品種に存在しないことがわかった。
【0100】
〔実施例2.アズキ加工食品におけるアズキ品種間のPhare-1レトロトランスポゾン挿入部位の検出と品種判定〕
(1)材料
アズキ品種「きたのおとめ」、「しゅまり」、及び「エリモショウズ」を原料として製造した小豆餡(北海道立中央農業試験場製造)を様々な比率で混合した混合小豆餡を用いた。本実施例で使用される混合小豆餡における、「きたのおとめ」小豆餡、「しゅまり」小豆餡、及び「エリモショウズ」小豆餡の混合組成は、以下の通りである。
混合小豆餡(i):「きたのおとめ」小豆餡1mg、「しゅまり」小豆餡100mg、「エリモショウズ」小豆餡100mg(混合比率1:100:100)
混合小豆餡(ii):「きたのおとめ」小豆餡10mg、「しゅまり」小豆餡100mg、「エリモショウズ」小豆餡100mg(混合比率1:10:10)
混合小豆餡(iii):「きたのおとめ」小豆餡50mg、「しゅまり」小豆餡100mg、「エリモショウズ」小豆餡100mg(混合比率1:2:2)
混合小豆餡(iv):「きたのおとめ」小豆餡100mg、「しゅまり」小豆餡100mg、「エリモショウズ」小豆餡100mg(混合比率1:1:1)
混合小豆餡(v):「きたのおとめ」小豆餡0mg、「しゅまり」小豆餡100mg、「エリモショウズ」小豆餡100mg(混合比率0:1:1)
(2)ゲノムDNAの抽出
混合小豆餡(i)~(v),及び「きたおとめ」小豆餡(粒餡;橋本食糧工業(大阪府))それぞれを液体窒素で凍結後、乳鉢で破砕した。そして、それを600μlの2%CTAB(cetyltrimethylammonium bromide)溶液(100mM Tris-HCl pH8.0、1.4M NaCl、20mM EDTA pH8.0、2%CTAB)と10μlのメルカプトエタノールが入った1.5mlチューブをあらかじめ65℃で加温したところに加え、攪拌後、再び65℃のウォーターバス中で30分間加温した。その後、600μlのクロロホルム:イソアミルアルコール(=24:1)を加え5分間攪拌後12000rpmで15分間遠心し、上清を別のチューブに取り分けた。
【0101】
そして、取り分けられた上清に800μlの1%CTAB溶液(50mM Tris-HCl pH8.0、10mM EDTA pH8.0、1% CTAB)を加えよく混和後、室温で1時間静置した。その後、8000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て沈殿を400μlの1M塩化セシウム(CsCl)で溶解した。尚、ここまでの遠心分離は全て室温で行った。
【0102】
溶解したDNA溶液に100%エタノールを800μl加え、12000rpmで15分間4℃で遠心分離した。その後上清を捨て、70%エタノール400μlを加え軽く振盪後、再び12000rpmで5分間、4℃で遠心分離し、上清を捨てデジケーター内でアスピレーターを使用し完全に乾燥させ50μlのTE buffer(10mM Tris-HCl pH8.01mM、EDTA pH8.0)に溶解した。
【0103】
(3)PCR増幅
実施例1(4)と同様のプライマー及びPCR条件で、各種混合小豆餡、「きたおとめ」小豆餡、及び「きたのおとめ」・「しゅまり」・「エリモショウズ」それぞれの植物体からから抽出したゲノムDNA溶液(20ng/μl)1μlを鋳型としてPCRを行った。
【0104】
なお、ポジティブコントロール用プライマーとして、「きたのおとめ」、「しゅまり」、及び「エリモショウズ」の全品種で検出可能なGr7-LTR-3end/NAR33-F37-A2プライマーを用いて、上記と同様のPCRを行った。なお、これらのプライマー利用したPCRにより増幅が期待されるDNAの断片長は125bpである。
【0105】
各種混合小豆餡から抽出したゲノムDNAを鋳型として、P1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1プライマーを用いてPCRを行った結果を図2(A)に、Gr7-LTR-3end/NAR33-F37-A2プライマーを用いてPCRを行った結果を図2(B)に示した。
【0106】
図から明らかなように、「きたおとめ」のみを小豆餡の原料としたもの(レーン6)ばかりでなく、「きたのおとめ」、「しゅまり」、及び「エリモショウズ」から製造した小豆餡をそれぞれ、1:100:100(混合小豆餡(i))、1:10:10(混合小豆餡(ii))、1:2:2(混合小豆餡(iii))、1:1:1(混合小豆餡(iv))の割合で混合したものにおいても、「きたのおとめ」に固有で期待された長さの断片(約100bp)が増幅した(レーン1~4参照)。一方、「しゅまり」、及び「エリモショウズ」から製造した小豆餡をそれぞれ1:1の割合した混合小豆餡(v)では、当該断片は増幅していなかった。なお、全品種で検出可能なGr7-LTR-3end/NAR33-F37-A2プライマーを用いたPCRでは、全ての検査材料で期待された長さの断片(約125bp)が増幅していることから、上記の「きたのおとめ」固有の挿入部位についてのPCRにおいて、「きたのおとめ」が含まれない検査材料について増幅が見られなかったのは、検査に用いた「きたのおとめ」以外の材料に、100bp程度の増幅に必要となるゲノムDNAが含まれなかったためではないことが分かる。
【0107】
以上の結果から、本発明のアズキ原料品種識別は、複数のアズキ品種を原料とする小豆餡においても、識別対象となるアズキ品種の識別が可能であり、しかも、識別対象のアズキ品種の混入割合が0.5%程度と低くても、識別可能であることがわかった。
【0108】
〔実施例3.アズキ品種間のRLVAレトロトランスポゾン挿入部位の検出〕
本発明者は、まず、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類について、RLVAレトロトランスポゾンの挿入部位を調べた。そして、上記アズキの栽培品種間において、「しゅまり」に特異的な挿入部位を見出した。さらに、これらの他、北海道立中央農業試験場が保有する国内のアズキ品種32種類、及び海外から導入した遺伝資源136種類についても、RLVAレトロトランスポゾンの挿入部位の「しゅまり」特異性を調べた。
【0109】
(1)材料
本発明者が調べた北海道立中央農業試験場遺伝資源部保有のアズキ品種・系統26種類を表3に示す。また、北海道立中央農業試験場保有の国内のアズキ品種32種類及び海外から導入した遺伝資源136種類については、それぞれ表4及び5に示す。
【0110】
(2)ゲノムDNAの抽出
アズキ植物体のゲノムDNAは、CTAB(cetyltrimethylammonium bromide)法(早川孝彦(1997)タバコのDNA・RNA単離法.“新版植物のPCR実験プロトコール”島本功,佐々木卓治監修.秀潤社,東京,49-56.)を基本に抽出した。
【0111】
(3)「しゅまり」に固有の挿入部位の特定
北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種や系統26種類について、RLVAのLTR配列を利用してS-SAP法による分析を行った。RLVAのLTR配列は、当初、アズキ品種「エリモショウズ」のゲノムから、アズキの別のレトロトランスポゾン配列(SGr-7ファミリー)への挿入配列として見出された。このS-SAP法による分析の結果、これら26種類に含まれる、現在栽培に利用されているアズキ品種の中では、「しゅまり」にのみ見られるRLVAレトロトランスポゾン挿入部位を特定した。
【0112】
(4)PCR増幅
特定した挿入部位をクローニングしてその塩基配列(配列番号5)を決定し、その配列における、RLVAレトロトランスポゾンの塩基配列とそれに隣接するゲノム領域の塩基配列とに基づいて、それぞれS8D0プライマー(RLVAしゅまり)とS8U9_4プライマーを設計した。これらのプライマー利用したPCRにより増幅が期待されるDNAの断片長は107bpである。設計したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。
S8D0プライマー(RLVAしゅまりプライマー):5'-GGTGACAGGCGGATATACTC-3'(配列番号6)
S8U9_4プライマー(隣接プライマー):5'-CCTAGAAGTCCTTTGAAATATTCCCTTAG -3'(配列番号7)
S8D0プライマーとS8U9_4プライマーを用いて、表3に示されたアズキ植物体から抽出したゲノムDNA溶液(20ng/μl)1μlを鋳型としてPCRを行った。PCRは、容量10μlの反応液として、E x Taq(TaKaRa)を用いて、94℃4分間の変性、94℃30秒間・58℃30秒間・72℃1分間を30サイクル、72℃5分間の最終伸長反応のサイクリング条件で行った。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドで染色して観察した。
【0113】
北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種のゲノムDNAを鋳型として、S8D0プライマーとS8U9_4プライマーを用いてPCRを行った結果を図3に示し、表3~5にRLVAレトロトランスポゾン挿入部位の検出結果をまとめた。なお、表3は本発明者らが行った検出結果であり、表4及び5は北海道立中央農業試験場にて行われた検出結果である。
【0114】
【表3】
JP0004719917B2_000005t.gif

【0115】
図3及び表3に示されるように、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種・系統26種類について、RLVAレトロトランスポゾン挿入部位を検出した結果、アズキ品種「しゅまり」及びその交配親である「十育130号」のアズキゲノムにのみ、RLVAレトロトランスポゾンの挿入が認められた。
【0116】
【表4】
JP0004719917B2_000006t.gif

【0117】
表4に示されるように、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキの国内品種のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、これら32品種の中で、「しゅまり」のアズキゲノムにのみ、RLVAレトロトランスポゾンの挿入が認められた。
【0118】
【表5】
JP0004719917B2_000007t.gif

【0119】
表5に示されるように、北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有している、海外からのアズキ遺伝資源のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、これら136品種の中で、アズキゲノム中にRLVAレトロトランスポゾン挿入部位が存在する品種は全くないことが確認された。
【0120】
表3の結果から分かるように、「十育130号」にRLVAレトロトランスポゾン挿入が認められたことから、RLVAレトロトランスポゾン挿入部位は、「しゅまり」の系譜において、「しゅまり」の交配親である「十育130号」に由来するものであることがわかった。
【0121】
また、表4の結果から分かるように、RLVAレトロトランスポゾン挿入部位は、「しゅまり」以外の国内の栽培品種には見られなかった。また、表5の結果から、国外の品種にも見られないことが明らかである。それゆえ、RLVAレトロトランスポゾンの上記挿入部位は、「しゅまり」に高度に特異的であると考えられる。
【0122】
RLVAレトロトランスポゾン挿入部位は、交配親の親である「十育130号」に由来することは明らかである。また、アズキ品種「しゅまり」の育成方法は、系統選抜法を採用している。具体的には、交雑後、自殖を重ねて遺伝的な同質接合性を高めてから選抜を開始し、選抜した個体または系統について、さらに自殖と選抜を行うことで同質接合性の優れた系統を選抜する育成方法である。
【0123】
この育成方法を考慮すると、アズキ品種「しゅまり」が選抜された過程で、RLVAレトロトランスポゾン挿入部は、品種内で遺伝的に固定され、品種内の多型(個体により挿入があるものとないものがあること)は存在しないものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、アズキ加工食品のアズキ原料品種の判定を正確かつ簡便にできるものであるため、食品産業に広く利用可能である。さらに、食品の不正表示や、海外で不正に栽培された品種を原料とした輸入加工食品等の検査に利用すれば、違法食品の取り締まりに大きく貢献できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種のゲノムDNAを鋳型として、挿入特異性検定と付した図の左側半分はP1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1プライマーを用いたPCR増幅産物の、また、DNAクオリティーコントロールと付した図の右側半分はGr7-LTR-3end/NAR33-F37-A2プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動結果を示す画像である。
【図2】(A)は、混合小豆餡から抽出したゲノムDNAを鋳型として、P1-DE-T2-1-D2/PHARE1-LTR-A1プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動結果を示す画像であり、(B)は、Gr7-LTR-3end/NAR33-F37-A2プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動結果を示す画像である。
【図3】北海道立中央農業試験場遺伝資源部が保有しているアズキ品種のゲノムDNAを鋳型として、S8D0プライマーとS8U9_4プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動結果を示す画像である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2