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明細書 :チタン試料中の微量元素を除去する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5327837号 (P5327837)
公開番号 特開2009-256708 (P2009-256708A)
登録日 平成25年8月2日(2013.8.2)
発行日 平成25年10月30日(2013.10.30)
公開日 平成21年11月5日(2009.11.5)
発明の名称または考案の名称 チタン試料中の微量元素を除去する方法
国際特許分類 C22B  34/12        (2006.01)
G01N  33/20        (2006.01)
FI C22B 34/12 103
G01N 33/20 G
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2008-105383 (P2008-105383)
出願日 平成20年4月15日(2008.4.15)
審査請求日 平成23年3月30日(2011.3.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】牧嶋 昭夫
【氏名】森口 拓弥
【氏名】中村 栄三
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100089705、【弁理士】、【氏名又は名称】社本 一夫
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100112634、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 美奈子
審査官 【審査官】瀧澤 佳世
参考文献・文献 国際公開第2006/079887(WO,A2)
特開2008-180594(JP,A)
調査した分野 C22B 34/12
G01N 33/20
特許請求の範囲 【請求項1】
チタンを含む試料の中に含まれる微量元素を除去する方法であって、
(a)チタンを含む該試料をフッ化水素酸に溶解した溶液に、カルシウムイオンを添加することによりフッ化カルシウムを生成させる工程であって、生成するフッ化カルシウム濃度がカルシウムイオン換算濃度で0.15mmol/L以上である上記工程、及び;
(b)上記工程(a)で得られた溶液を遠心分離し、フッ化カルシウムと共に不純物である該微量元素を沈殿させると共にチタンを含む上清を回収する工程:
を有することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
前記微量元素がハフニウム、鉛、ジルコニウム、トリウム及び希土類元素からなる群から選択された元素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記(a)の工程において、フッ化水素酸以外の酸が存在する場合には、カルシウムイオンを添加する前にフッ化水素酸溶液を加熱して蒸発乾固することにより、該溶液中のフッ化水素酸以外の酸を除去する工程を含む、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記(a)の工程の後、フッ化水素酸溶液を加熱して蒸発乾固することにより、該溶液中のチタンのフロロ錯体を分解してチタン酸化物とする工程を更に含む、請求項1から請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
上記(a)の工程において、フッ化水素酸濃度が0.01mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである、請求項1から請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
上記(a)の工程において、フッ化水素酸以外の酸が存在する場合には全水素イオン濃度が2mol/L以下であり、フッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである、請求項1から請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
上記(a)の工程において、フッ化水素酸以外の酸が存在しない場合には、フッ化水素酸濃度が0.01mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである、請求項1から請求項5のいずれか1項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンを含む試料の中に含まれる微量元素を除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石や鉱物の試料中に含まれる微量元素であるハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンを機器分析するためには、試料中に含まれるそれら微量元素の濃度が低いために前濃縮する必要がある。そのような前濃縮の方法は幾つか知られているが、例えば、試料にチタン溶液を添加してフッ化水素酸と過塩素酸で処理をすることにより、その試料中からハフニウム、ジルコニウム、ニオブなどの微量元素をチタン酸化物の沈殿として前濃縮する方法が知られている(非特許文献1)。また上記の微量元素はフッ化水素酸処理で不溶性のフッ化物沈殿を生じるが、過塩素酸処理を行うことにより生成したフッ化物を分解することが可能であり、それを利用して該微量元素を濃縮することにより、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析などの解析を行うことができる(非特許文献2)。このように機器分析の前処理としてチタン溶液を用いて微量元素を濃縮する方法は知られていた。
【0003】
しかしチタンから微量元素を除去できる、簡便であって効率のよいチタンの精製方法はなかった。チタン溶液中のpptレベル以下の微量なハフニウムを除去するためには、過塩素酸と共に加熱してチタンとハフニウムのフロロ錯体を分解した後に過酸化水素で溶解しUTEVA樹脂でハフニウムを吸着して除去するか(非特許文献1、3、4)、あるいは、硫酸によって分解して陰イオン交換樹脂によってハフニウムを除去する(非特許文献5)、などの前処理をする必要がある。しかし、前者は過塩素酸処理が長すぎると過酸化水素でチタン酸化物の再溶解ができなくなるという欠点がある。また、後者は硫酸を除去するために300℃以上に加熱する必要があり、更にフッ素樹脂製容器を用いることができないので白金皿と砂浴で処理せざるを得ず、クリーンルーム内での作業が困難という欠点を有する。
【0004】
またフッ化カルシウムと上記微量元素が共沈することを利用して、試料を前処理することも検討されている。ハフニウムなどの微量元素はフッ化水素酸中でフッ化カルシウムと共沈するために、カルシウムを含む試料ではそれらの微量元素を正確に測定することは困難であった。そこで、その系にアルミニウムを添加することによりフッ化カルシウムの生成を抑制し、カルシウムを含む試料において微量元素の正確な測定を可能としたことが報告されている(特許文献1、非特許文献6)。またチタン、モリブデン、スズ、アンチモン、ハフニウムと(カルシウム、マグネシウム、アルミニウムの)フッ化物との共沈について検討した結果、チタンはフッ化カルシウムと共沈しないなど、それらの元素の間には共沈の挙動に差があることから、その差を利用した試料の前処理をICP質量分析による分析に適用することも報告されている(非特許文献7)。
【0005】
なお鉛や希土類元素をチタンから分離することについては、フッ化水素酸溶液中ではPbFやRF(Rは希土類元素、例えばNdを意味する)を形成してコロイド状になっていることが判っており、陽イオン交換樹脂を用いてそれらを除去することは困難である。

【特許文献1】特開2005-49170号公報
【非特許文献1】Makishima, A. and Nakamura, E. (2008) New preconcentration technique of Zr, Nb, Mo, Hf, Ta and W employing coprecipitation with Ti compounds: its application to Lu-Hf system and sequential Pb-Sr-Nd-Sm separation. Geochemical Journal, in press.
【非特許文献2】Yokoyama, T., Makishima, A. and Nakamura, E.(1999) Evaluation of the coprecipitation of incompatible trace elements with fluoride during silicate rock dissolution by acid digestion. Chemical Geology, 157, 175-187.
【非特許文献3】Makishima, A., Zhu, X.-K., Belshaw, N.S., O’Nions, R.K. (2002) Separation of titanium from silicates for isotopic ratio determination using multiple collector ICP-MS. Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 17, 1290-1294.
【非特許文献4】Lu, Y.H., Makishima A. and Nakamura, E. (2007) Purification of Hf in silicate materials using extraction chromatographic resin, and its application to precise determination of 176Hf/177Hf by MC-ICP-MS with 179Hf spike. Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 22, 69-76.
【非特許文献5】Barovich, K.M., Beard, B.L., Cappel, J.B., Johnson, C.M., Kyser, T.K. and Morgan, B.E., A chemical method for hafnium separation from high-Ti whole-rock and zircon samples. Chemical Geology, 121, 303-308, 1995.
【非特許文献6】Tanaka, R., Makishima, A., Kitagawa,H. and Nakamura E., 2003. Suppression of Zr, Nb, Hf, and Ta coprecipitation in fluoride compounds for determination in Ca-rich materials. Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 18, 1458-1463.
【非特許文献7】Lu, Y.H., Makishima A. and Nakamura, E. (2007) Coprecipitation of Ti, Mo, Sn and Sb with fluorides and application to determination of B, Ti, Zr, Nb, Mo, Sn, Sb, Hf and Ta by ICP-MS. Chemical Geology, 236, 13-26.
【非特許文献8】Makishima, A. and Nakamura, E. (2006) Determination of major, minor and trace elements in silicate samples by ICP-QMS and ICP-SFMS applying isotope dilution-internal standardization (ID-IS) and multi-stage internal standardization. Geostandards and Geoanalytical Research, 30, 245-271.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、温度と時間管理が困難な前処理が必要となるイオン交換の手段や硫酸による分解を使わずに、簡単な化学操作で効率的に、チタンを含む試料の中に含まれるハフニウムなどの微量元素を除去する方法を提供することである。またチタン溶液から、ハフニウムのみならず、ネオジムを含む希土類元素や、鉛などの岩石・鉱物中の微量元素を除去する方法を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チタンの希フッ化水素溶液の中にカルシウムイオンを加えて一定量以上のフッ化カルシウムを生成させると、ハフニウム、希土類元素、鉛などの微量元素はフッ化カルシウムと共沈するが、精製対象であるチタンは共沈しないことを利用して、チタンからこれらの微量元素を効率的に除去することを達成したものである。
【0008】
すなわち本発明は、以下の、
チタンを含む試料の中に含まれる微量元素を除去する方法であって、
(a)チタンを含む該試料をフッ化水素酸に溶解した溶液に、カルシウムイオンを添加することにより不溶性のフッ化カルシウムを生成させる工程であって、生成するフッ化カルシウム濃度がカルシウムイオン換算濃度で0.15mmol/L以上である上記工程、及び;
(b)上記工程(a)で得られた溶液を遠心分離し、フッ化カルシウムと共に不純物である該微量元素を沈殿させると共に上清を回収する工程:
を有することを特徴とする上記方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、チタンを含む試料の中に含まれる微量元素を、簡単な化学操作で効率的に除去することが可能となった。
発明を実施するための形態
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴および利点について、好ましい形態に基づいて詳しく説明する。
【0010】
上記で述べたように本発明は、チタンをフッ化水素酸に溶解した溶液にカルシウムイオンを添加してカルシウムイオン換算濃度で0.15mmol/L以上のフッ化カルシウムを生成させ、遠心分離によりフッ化カルシウムと共沈する該微量元素を除去することからなる、チタンを含む試料の中に含まれる微量元素を除去する方法である。本発明により初めて、フッ化カルシウムとの共沈におけるチタンとハフニウムの挙動の差を、分析の前処理ではなくチタンの精製に応用することが可能となった。また本発明者らは鋭意検討を行い、チタンからハフニウムなどの微量元素を除去するのに最も適したフッ化カルシウムの量などの条件を見出し、本発明を達成するに至った。
【0011】
チタンとハフニウムは化学的な挙動が類似しており、一般的な陰イオン交換法では分離が不可能である。本発明は操作が比較的に簡単な共沈法によりチタン中のハフニウムの除去を可能としたものであり、かかる技術はこれまで存在しなかったので、本発明の効果は顕著である。
【0012】
本発明において「チタンを含む試料」とは、その中の1成分としてチタン含んでいる任意の試料を意味する。なおチタンを含む試料の具体例として、チタンが溶媒に溶解している溶液、岩石・鉱石・鉱物などの固体試料及びそれらの固体試料が溶解した溶液などを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。また本発明において「フッ化水素酸」とは、水素とフッ素からなる無機化合物であって分子式がHFで表されるものの水溶液を意味する。
【0013】
本発明の方法においてはまず、精製対象であるチタンを含む試料をフッ化水素酸に溶解し、チタンの希フッ化水素酸溶液を調製する。たとえば本発明の好適な態様として、0.5mol/Lのフッ化水素酸に溶解した1%チタン溶液を調製してもよいが、これに限定されるものではなく、フッ化カルシウムの生成を妨げない限り種々の濃度のフッ化水素酸を用いることができる。このようにチタンをフッ化水素酸に溶解すると、フッ素を含むチタンのフロロ錯体、例えばTiF2-が生成する。
【0014】
これに対して、カルシウムイオンの溶液を加えることによってフッ化カルシウムを生成する。本発明において「カルシウムイオン」とは、カルシウムが電離して二価のカルシウムカチオン(Ca2+)となったものを意味する。例えば硝酸カルシウム水溶液や塩化カルシウム水溶液などの電離可能なカルシウム塩の溶液を添加することにより、カルシウムイオンをチタンのフッ化水素酸溶液の系に加えることができる。しかしカルシウムイオン源はこれらの水溶液に限定されるものではなく、フッ素イオンと反応してフッ化カルシウムを生成する限り種々のカルシウム塩の溶液を用いることができる。なおこの工程で用いられるフッ素イオン源として用いるのに適しているのはフッ化水素酸である。
【0015】
なお精製の対象であるチタンを含む試料が硝酸や塩酸などの強酸の溶液であって、溶液中の水素イオン濃度が高い場合には、該チタン溶液を蒸発乾固して元の溶媒の水素イオンを除去した後にフッ化水素酸に溶解してもよい。添加するカルシウムイオンが硝酸などの強酸の溶液である場合も同様である。下記に詳しく述べるが、チタンのフッ化水素酸溶液にカルシウムを添加する際の水素イオン濃度が高いと、不溶性のフッ化カルシウムの生成が妨げられるからである。
【0016】
なおチタンのフッ化水素酸溶液にカルシウムを添加した後に、フッ化カルシウムの生成を確実とするために更に蒸発乾固をしてフッ化水素酸に再溶解してもよい。その場合は、生じたフッ化カルシウムが再溶解しない濃度のフッ化水素酸を用いる必要がある。なおチタンを蒸発乾固すると、生成したチタンのフロロ錯体が分解してフッ素イオンが脱離し、酸化チタン(TiO)やその水和物等、チタンの酸化物が生成する。
【0017】
チタンはそのように生成したフッ化カルシウムと共沈しないが、一方、チタンの試料中に存在するハフニウムなどの微量元素は生成したフッ化カルシウムと共沈する。この際にチタンは、そのフロロ錯体の形で存在してもよく、あるいは酸化チタンの形で存在してもよい。
【0018】
なお本発明においてチタンを含む試料から除去する対象となる不純物である微量元素として、ハフニウム、鉛、ジルコニウム、トリウム及び希土類元素などの元素を挙げることができる。ここで希土類元素とは、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド(周期表におけるランタンからルテチウムまでの元素)を意味する。しかし本発明で除去の対象となる微量元素はそれらに限定されるものではなく、フッ化カルシウムと共沈する他の元素も、原理的には本発明の方法で除去することができる。なお本発明で言う「微量元素」とは、具体的には試料中に含まれる含有率が0.1質量%以下の元素を意味する。
【0019】
本発明において、フッ化カルシウムと共沈する微量元素をチタンから分離するために、カルシウムイオンを添加したチタンのフッ化水素酸溶液を遠心分離する。遠心分離の条件は特に限定されるものではないが、フッ化カルシウムが沈殿する限り種々の遠心速度と遠心時間を用いることができる。一般的には、1000rpmから15000rpmの遠心速度と3分間から60分間の遠心時間が用いられるが、下記の実施例では3000rpmで15分間という条件で遠心分離を行っており、これは本発明の好適な態様である。
【0020】
すると既に述べたようにチタンはフッ化カルシウムと共沈しないが、不純物である微量元素はフッ化カルシウムと共沈するので、上清のチタンと沈殿した微量元素を分離することができる。よって本発明により微量元素を含まない、精製されたチタンの溶液を得ることができる。なお本発明の方法により沈殿中に回収された微量元素を定量することも可能であり、例えばICP(誘導結合プラズマ)質量分析法を用いて精製前後のチタン溶液に含まれていた微量元素の量を測定することもできる。
【0021】
本発明を実施するにあたり、不溶性のフッ化カルシウムの沈殿が生成する適切な条件を採用することが重要である。かかる適切な条件を見出すためには、フッ化水素酸が弱酸であることと、フッ化カルシウムの溶解度積を考慮する必要がある。なおフッ化水素酸の電離度は[H][F]/[HF]=2.4×10-4であり、フッ化カルシウムの溶解度積は、[Ca2+][F=8.6×10-12である。
【0022】
よって例えば、0.5mol/Lのフッ化水素酸溶液中の水素イオン濃度とフッ素イオン濃度は、上記の電離度から計算すると、どちらも11mmol/Lとなる。そしてそのフッ素イオン濃度を上記の溶解度積に適用すると、この溶液中に溶解し得るカルシウムイオン濃度は0.000072mmol/Lである。よって、この系に0.5mmol/Lになるようにカルシウムイオンを添加すると、殆ど全てのカルシウムイオンは不溶性のフッ化カルシウムとして沈殿する。
【0023】
一方、硝酸や塩酸が共存して水素イオン濃度が例えば1mol/Lになっていると、溶液中で電離しているフッ素イオン濃度が減少し、0.5mol/Lフッ化水素酸溶液中に、0.5mmol/Lになるようにカルシウムイオンを添加しても、溶解可能なカルシウム濃度が高くなるためにフッ化カルシウムの沈殿は生成しない。
【0024】
このように本発明を実施するにあたり、共存する水素イオン濃度、フッ素イオン濃度、カルシウムイオン濃度を計算して、フッ化カルシウムが沈殿する条件下で、チタン溶液とカルシウムイオンを混合しなくてはならない。表1は上記の計算結果を含めて、種々の水素イオン濃度とフッ化水素酸濃度におけるフッ素イオン濃度と溶解可能なカルシウムイオン濃度を上記の電離度と溶解度積から計算し、0.5mmol/Lのカルシウムイオンを添加した場合に生じるフッ化カルシウム濃度を示したものである。
【0025】
【表1】
JP0005327837B2_000002t.gif

【0026】
表1から判るように、強酸が共存して水素イオン濃度が1mol/L以上である場合には、0.5mol/Lのフッ化水素酸の存在下で電離しているフッ素イオン濃度が低く、溶解可能なカルシウム濃度が高くなるために、0.5mmol/Lのカルシウムイオンを添加してもカチオンのままで存在し、不溶性フッ化カルシウムの沈殿の生成が認められない。よってフッ化カルシウムを生成する系に硝酸などの強酸を含んでいるために水素イオン濃度が高く、特に水素イオン濃度が1mol/L以上である場合には、さらに多くのカルシウムイオンを添加するか、下記の実施例において行っているように蒸発乾固などすることによって一旦水素イオンを除去することが好ましい。よってかかる蒸発乾固の工程を含む態様は本発明において好適であり、下記の実施例のようにカルシウムの99%以上が不溶性のフッ化カルシウムとなることは本発明において特に好適である。
【0027】
なお表1に示す値はあくまでも参考であり、何ら本発明を限定するものではなく、フッ化カルシウムの沈殿が生成する限り、目的に応じて最も適切な水素イオン濃度、フッ化水素酸濃度、及びカルシウムイオン濃度等を適宜選択し、当業者は本発明を実施することができる。
【0028】
なおフッ化水素酸は最も濃度が高いもので30mol/Lのものを入手し得るが、使用にあたっての危険性という観点からは、フッ化カルシウムの沈殿を生成する限りにおいて低い濃度が望ましい。上記表1ではフッ化水素酸の他に酸が存在する場合について検討したが、フッ化水素酸の他に水素イオンを生成する酸が存在しない場合について、フッ化水素酸の他に水素イオンを生成する酸が存在しない場合について、カルシウム添加前に存在するフッ化水素酸の種々の濃度において、0.15mmol/Lのフッ化カルシウムを生成するのに必要なカルシウムイオン濃度をまとめた結果を表2に示す。この場合、0.01mol/Lのフッ化水素酸濃度で、0.15mmol/Lのカルシウムイオンを添加してもほぼすべてのカルシウムイオンはフッ化カルシウムとして沈殿しうる。
【0029】
またフッ化水素酸の他に0.5mol/Lの水素イオン濃度の酸が共存する場合の、0.15mmol/Lのフッ化カルシウムを生成するのに必要なカルシウムイオン濃度をまとめた結果を表3に示す。更にフッ化水素酸の他に1mol/L、2mol/Lの水素イオン濃度の酸が共存する場合の、0.15mmol/Lのフッ化カルシウムを生成するのに必要なカルシウムイオン濃度をまとめた結果をそれぞれ、表4と表5に示す。
【0030】
【表2】
JP0005327837B2_000003t.gif

【0031】
【表3】
JP0005327837B2_000004t.gif

【0032】
*HF濃度が0.1 mol/Lの場合は比較例である。

【0033】
【表4】
JP0005327837B2_000005t.gif

【0034】
*HF濃度が0.1 mol/Lの場合は比較例である。

【0035】
【表5】
JP0005327837B2_000006t.gif

【0036】
*HF濃度が0.1 mol/Lの場合は比較例である。

表2より、フッ化水素酸の他に水素イオンを生成する酸が存在しない場合には、フッ化水素酸が0.01mol/Lから30mol/Lの場合には、0.15mmol/Lになるように添加したカルシウムイオンはほぼ全てフッ化カルシウムの沈殿となる。よって0.15mmol/Lのフッ化カルシウムを生成するには、0.15mmol/Lのカルシウムイオンを添加すればよい。また、既に述べたようにフッ化水素酸の他に強酸などが存在するために水素イオン濃度が高い場合には、必要なカルシウムイオンの量は更に増加する(表3、4、5)。そのために本発明において、カルシウムイオンを添加する際にフッ化水素酸の他に水素イオンを生成する酸が存在しないことが好ましい。なおフッ化水素酸の他に水素イオンを生成する酸が存在する場合には、下記の実施例において行っているようにカルシウムイオンを添加する前にフッ化水素酸溶液を蒸発乾固することができる。
【0037】
添加するカルシウムイオンの濃度は、0.15mmol/L以上のフッ化カルシウムを生成するという観点から考えると、0.15mmol/L以上であれば特に限定されない。表3、表4、および表5の値から判るように、フッ化水素酸以外に酸が存在することにより水素イオン濃度が高いと、フッ化カルシウムの生成が妨害される。よって0.15mmol/L以上のフッ化カルシウムを生成するには、酸としてフッ化水素酸のみが存在する場合以上に、より多くのカルシウムイオンの添加が必要となる。なお表3、表4、および表5において、フッ化水素酸濃度が0.1mol/Lの場合を比較例として示した。
【0038】
よってフッ化水素酸以外の酸に由来する水素イオン濃度は2mol/L以下であり、好ましくは1mol/L以下であり、より好ましくは0.5mol/L以下であり、最も好ましくはフッ化水素酸以外の酸に由来する水素イオンが存在しない場合であるが、その範囲に限定されるものではない。
【0039】
また本発明においてフッ化水素酸濃度が0.01mol/Lから30mol/Lであり、好ましくは0.5mol/Lから30mol/Lであり、更に好ましくは2mol/Lから30mol/Lである。また本発明においてカルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lであり、好ましくは0.15mmol/Lから1mmol/Lであり、更に好ましくは0.15mmol/Lから0.5mmol/Lであり、より更に好ましくは0.15mmol/Lから0.3mmol/Lである。
【0040】
本発明においてフッ化水素酸濃度が0.01mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである。なお好ましくはフッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから2mmol/Lである。更に好ましくはフッ化水素酸濃度が2mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから1mmol/Lである。しかしその範囲に限定されるものではない。
【0041】
更に本発明においてフッ化水素酸以外の酸が存在する場合には、全水素イオン濃度が2mol/L以下であり、フッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウムイオン濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである。好ましくは全水素イオン濃度が1mol/L以下であり、フッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである。より好ましくは全水素イオン濃度が0.5mol/L以下であり、フッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである。しかしその範囲に限定されるものではない。
【0042】
更に本発明においてフッ化水素酸以外の酸が存在しない場合には、フッ化水素酸濃度が0.01mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから3mmol/Lである。好ましくはフッ化水素酸濃度が0.5mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから1mmol/である。より好ましくはフッ化水素酸濃度が2mol/Lから30mol/Lであり、カルシウム濃度が0.15mmol/Lから0.5mmol/Lである。しかしその範囲に限定されるものではない。
【0043】
これまで述べてきたようにフッ化カルシウムの沈殿が生成する条件を採用することに加えて、ハフニウム、希土類元素、鉛を効果的に除去するには、フッ化カルシウムの量がカルシウムイオン換算濃度で0.15mmol/L以上である必要がある。下記の実施例で示すようにフッ化カルシウムの量が0.15mmol/L以上である場合に、フッ化カルシウムの沈殿を遠心除去した後のチタン試料中に含まれるハフニウム、ネオジム、鉛を検出限界以下にすることができた。更に本発明の方法によりチタンを高い回収率で回収することができた。
【実施例】
【0044】
次に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
本実施例では、チタンの標準溶液及びカルシウムの標準溶液として、10000ppmのAlfa Aesar(登録商標)社製の高純度プラズマ分光用標準溶液(Specpure(登録商標)、カタログ番号35759及び14407)を用いた。チタンの標準溶液は5%硝酸溶液(約0.8mol/L硝酸溶液、微量のフッ化水素酸溶液を含む)、カルシウムの標準溶液は5%硝酸溶液(約0.8mol/L硝酸溶液)であった。硝酸は強酸であるので硝酸濃度がそのまま水素イオン濃度になり(即ち水素イオン濃度が0.8mol/L)、その高い水素イオン濃度のために両者の溶液をこのまま1:1の体積比で混合し、カルシウムイオンを添加しても、フッ化カルシウム沈殿は殆ど生じないと考えられる(表1参照)。
【0045】
そこで、チタン溶液5mlを7mlフッ素樹脂容器に分取し、乾固した後に30mol/Lフッ化水素酸を0.18ml加えて溶解し、更に水を加えて5mLとした。これにより1.1mol/Lのフッ化水素酸溶液となる。また、カルシウム溶液5mLを7mLフッ素樹脂容器に分取し、乾固した後に水を加えて溶解して5mLにした。
【0046】
上記のチタンのフッ化水素酸溶液を0.5mLずつ6個の7mLフッ素樹脂容器に分取し、それぞれに0mL、0.03mL、0.05mL、0.1mL、0.25mL、0.5mLの上記カルシウム溶液を加えた。よってカルシウム濃度は最終的にはそれぞれ、0mmol/L、0.15mmol/L、0.25mmol/L、0.5mmol/L、1.25mmol/L、2.5mmol/Lとなる。フッ化カルシウムの生成を確実なものとするために、カルシウムを添加した上記溶液を90℃のホットプレート上で蒸発乾固した。そして0.5mol/Lフッ化水素酸溶液5mLを加え、超音波槽で20分処理してチタン酸化物を溶解させ、その後遠心分離機で3000rpm、15分間処理してフッ化カルシウムを沈殿させた。
【0047】
遠心分離により得た上清溶液を0.2mL分取し、重量既知のハフニウムスパイクを加え、ハフニウム濃度をICP(誘導結合プラズマ)質量分析法で測定した(非特許文献7参照)。具体的には、Agilent社製の測定装置(7500cs)を用いて、179Hf/178Hfの同位体比測定による同位体希釈法でハフニウム濃度を測定した。チタン濃度は、Finnigan社製の装置(ELEMENT)を用いて、分解能3000、47Tiと49Tiのイオン強度を全積分時間1分間で測定するという測定条件のもと、標準溶液による検量線を用いて、高分解能ICP質量分析法で測定した(非特許文献7参照)。希土類元素と鉛は、Agilent社製の測定装置を用いて(測定装置7500cs)146Ndと208Pbを含む微量元素イオン強度を全積分時間30秒で測定するという測定条件のもと、標準溶液による検量線を用いて、ICP質量分析法で測定した(非特許文献8参照)。なおこの実験条件下では、カルシウム無添加の実験を除いて、添加したカルシウムの99%以上は不溶性のフッ化カルシウムとなっている。
【0048】
溶液中のフッ化カルシウム生成量(mmol/L)とチタン回収率を表6に示す。更にフッ化カルシウムと共沈した後のチタン溶液中(チタン溶液は1mg/mLのチタン濃度である)のハフニウム濃度、ネオジム濃度、及び鉛濃度を併せて表6に示す(pg/mL)。加えてチタン溶液中でのハフニウム、ネオジム、及び鉛のそれぞれ先に記載した分析法における検出限界についても表6に示す(pg/mL)。なお、ハフニウムに関しては同位体比変動の検出限界が濃度の検出限界となるので、一般的な測定誤差である、同位体比の1%に相当する変動をスパイクの濃度に与え、同位体希釈の計算から得られる濃度を検出限界とした。ネオジムと鉛については、10回測定したバックグラウンドカウントの標準偏差の3倍値をその濃度に換算して(3σ検出限界)検出限界とした。精製前のチタン溶液試料の中には、希土類元素はネオジムしか検出されなかったので、希土類元素についてはネオジムの濃度のみ表5に示した。なお表5において注1)を付した系では、ハフニウム濃度は測定に用いた同位体希釈法の検出限界以下であったので、その値は0とした。なぜならば、同位体希釈法では、濃度が極めて低い場合、同位体比がスパイクよりも高くなることがあり、その場合は負の濃度になるからである。
【0049】
【表6】
JP0005327837B2_000007t.gif

【0050】
また、フッ化カルシウムの生成量(mmol/L)とチタンの回収率との関係を図1に示す。更にフッ化カルシウム生成量(mmol/L)と共沈した後のチタン溶液(1mg/mL)中のハフニウム濃度(pg/mL)との関係を図2に、ネオジム濃度(pg/mL)との関係を図3に、鉛濃度(pg/mL)との関係を図4に示した。また、3σ検出限界(pg/mL)も併せて表6及び図2から図4の中に示した。
【0051】
チタンの回収率はこの条件下で95%以上であり、測定の誤差(約5%)を考えると、チタンはほぼ完全に回収できていることが判った(図1)。更にハフニウムについて、フッ化カルシウムを1Lあたり0.15mmol以上にしたところ、ハフニウム濃度を顕著に減少させることできた。特にフッ化カルシウムが1Lあたり1.25mmol以上である場合には、ハフニウム濃度を元の濃度の1/10以下(検出限界以下)にすることができた(図2)。ネオジムについても、フッ化カルシウムを1Lあたり0.15mmol以上にしたところ、ネオジム濃度は元の濃度の1/6となった。またフッ化カルシウムの量がそれ以上である場合には、ネオジム濃度を元の濃度の1/8以下(検出限界以下)にすることができた(図3)。鉛についても、フッ化カルシウムを1Lあたり0.15mmol以上としたところ、鉛濃度は元の濃度の1/3となった。またフッ化カルシウムの量がそれ以上である場合には、鉛濃度を元の濃度の1/8以下(検出限界以下)にすることができた(図4)。
【0052】
これらの実験から、チタンのフッ化水素溶液中でフッ化カルシウム沈殿を1Lあたり0.15mmol以上生成することにより、チタンの回収率を損なうことなく、チタン溶液からハフニウム、希土類元素(ネオジム)、鉛を除去できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、チタンなどの精製対象となる元素から、簡単な化学操作で効率的に不純物であるハフニウムなどの微量元素を精製することが可能となった。チタンはチタン二酸化チタンとして、主として白色の顔料として絵具や合成樹脂などに使用されるのみならず、アルミニウムや銅、鉄、マンガン、モリブデンなどとの合金として、航空機の分野、自動車の分野などにも使用される。そのようにチタンは多くの用途を有するために、チタンを簡単に精製することを可能とした本発明の産業上の意義は大きい。特に、ハフニウムは中性子吸収断面積が大きく、その存在はチタンを原子炉材として用いる場合に問題になる。本発明によればチタンから分離困難であった微小量のハフニウムを除去できるため、その産業上の意義は大きい。また、チタンをチタン酸バリウムなどの半導体材料に用いる場合にも、本発明によれば分離困難であった鉛や希土類元素などを除去できるのでその意義は大きい。さらに、体内にチタンを補助具として入れる場合もあり、その点でも、鉛などの有害な金属を除去できる本発明の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、フッ化カルシウムの生成量と、チタン回収率との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、フッ化カルシウムの生成量と、共沈した後のチタン溶液中のハフニウム濃度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、フッ化カルシウムの生成量と、共沈した後のチタン溶液中のネオジム濃度との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、フッ化カルシウムの生成量と、共沈した後のチタン溶液中の鉛濃度との関係を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3