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明細書 :軟骨マーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5463013号 (P5463013)
公開番号 特開2009-023993 (P2009-023993A)
登録日 平成26年1月24日(2014.1.24)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成21年2月5日(2009.2.5)
発明の名称または考案の名称 軟骨マーカー
国際特許分類 A61K  49/00        (2006.01)
FI A61K 49/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 21
出願番号 特願2008-154179 (P2008-154179)
出願日 平成20年6月12日(2008.6.12)
優先権出願番号 2007161916
優先日 平成19年6月19日(2007.6.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月12日(2011.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】大橋 俊孝
【氏名】稲川 喜一
【氏名】西田 圭一郎
【氏名】二宮 善文
個別代理人の代理人 【識別番号】100104639、【弁理士】、【氏名又は名称】早坂 巧
審査官 【審査官】小森 潔
参考文献・文献 Biochemistry,2007年 1月,Vol.46,No.2,p492-501
化学工業,2007年 5月,Vol.58,No.5,p340-344
Peptide Science,2006年,Vol.2006,p205
Journal of Biological Chemistry,2002年,Vol.277,No.4,p2437-2443
日本薬理学雑誌,2003年,Vol.121,No.6,p435-439
日本薬学会年会要旨集,2001年,Vol.121,No.4,p94,29【PC】I-085
東京医科大学雑誌,1990年,Vol.48,No.3,p308-319
東京医科大学雑誌,1994年,Vol.52,No.3,p315-325
歯科基礎医学会雑誌,1995年,Vol.37,No.1,p37-49
調査した分野 A61K 49/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドを含んでなる関節軟骨マーカーと水性媒質とを含んでなる関節腔内投与用関節軟骨標識用剤であって,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドが,アルギニン残基又はリジン残基6~20個からなるものであり,該関節軟骨マーカーが,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドに結合した信号発生手段を更に含んでなるものである,関節腔内投与用関節軟骨標識用剤
【請求項2】
該信号発生手段が,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドのC末端又はN末端に結合しているものである,請求項関節腔内投与用関節軟骨標識用剤
【請求項3】
該信号発生手段が,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドのC末端又はN末端に直接又は他のアミノ酸を介して結合しているものである,請求項関節腔内投与用関節軟骨標識用剤
【請求項4】
該信号発生手段が蛍光物質又はX線吸物質である,請求項ないしの何れかの関節腔内投与用関節軟骨標識用剤
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,軟骨マーカーに関し,より具体的には,軟骨基質に特異的に結合する性質を有するペプチドよりなる軟骨マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節等,関節には,骨相互の間に生じる摩擦を緩和し,衝撃を吸収するための軟骨組織が存在している。軟骨組織は,軟骨細胞とそれを取り囲む基質からなる支持組織である。様々な原因によって軟骨組織を形成する軟骨基質が変性すると,含水率が低下して,その機能を維持することが難しくなり,慢性の関節炎を伴う関節疾患である変形性関節症(OA;osteoarthritis)が発症する。これは,関節の構成要素の変性により軟骨の破壊と骨及び軟骨の増殖性変化を来たす疾患である。日本における変形性関節症の総患者数は,約800万人とされており,人口の高齢化とともに数はさらに増加することが予想されている。
【0003】
変形性関節症により軟骨及び骨の損傷・破壊が進行すると現段階ではそれらを元どおりに戻すことはできない。しかしながら、早期に発見して適切な治療を施せば,症状の進行を遅らせることは可能である。変形性関節症の症状の現れ方や進み方は人により千差万別であるため,適切な治療を選択するには,患者個々の関節軟骨の状態を早期に精密に検査し,異常を把握することが極めて重要である。これと同様に,臨床以前の問題としても,関節組織の変性に対する効果の高い治療剤を開発する上で,少なくとも実験動物の関節軟骨の変性を定性的及び定量的に,また可能な限り生きた状態(in vivo)で経時的に,評価できることも,極めて重要である。
【0004】
現在,ヒト患者における関節の検査には,単純X線撮影,関節液検査,関節鏡検査などが一般的に行われている。単純X線検査は安価でありどの医療機関でも実施可能ではあるものの,関節軟骨の主要成分がコンドロイチン硫酸とケラタン硫酸側鎖を含有するプロテオグリカンであるアグリカンと,コラーゲンとであるため(特許文献1参照),X線検査では関節軟骨自体は写らない。実験動物においても同様である。従って,X線撮影では,関節裂隙(関節における向かい合った2個の骨端間の間隙)の狭小化その他,関節周囲の骨の変化を見ることで関節破壊の程度を調べることはできても,軟骨自体の変化については間接的な評価に止まる。すなわち,X線撮影では,軟骨が現に受けている損傷や変性の程度を直接検出はできず,従って,その定量化もできない上,症状の進んでいない状態での関節軟骨の損傷の発見が困難である。一方,他の方法である関節液検査では,関節軟骨の状態を,生理学的ないし生化学的変化を指標として用いて捉えることはできても,関節軟骨の厚みや変形等の物理的状態を知るには無力である。また,直接に関節軟骨を画像診断する方法として,関節鏡を用いた方法がある。それらは,例えば関節鏡の先端からレーザー光を照射し、軟骨組織から発生する超音波を検出することで軟骨の物性を測定する方法(特許文献1参照)、軟骨の圧縮変形に伴う吸光度の時間的変化を近赤外線水分計を用いて測定することによって、軟骨の変性の程度を初期段階から客観的に評価する方法(特許文献2参照)等であるが,何れも高度に侵襲性であり,大きな身体的負担や感染その他リスクを患者に強いるという欠点がある。このためそれらの方法をヒト患者に適用するには場合が限定され,実験動物においても,そのような侵襲の影響は関節疾患に対する薬物評価に必要な経時的検査に行うのを困難にするため,利用に適さない。
【0005】
これらに対し,近年,ヒト患者では軟骨イメージングにMRIが利用されるようになりつつあり,軟骨自体の質的評価を可能にする検査手段として期待されているが,MRI装置は極めて高価であるためこれを導入できる医療機関はごく限られ、しかも解像度には未だ問題を残しており,その点からも利用は困難である。
【0006】
このような状況にあって,軟骨の状態を早期に診断する方法やそのための正確な疾患マーカーの開発が進められている(特許文献3及び4参照)。
【0007】
一方,近年,生体内部組織の3次元画像を選択的に作成する技術として,蛍光分子を用いてex vivoで生体組織の光学投影断層撮影(Optical Projection Tomography:OPT)を行う蛍光イメージング装置が開発されている。これによれば,蛍光染色された生体組織に対して,励起光としてパルスレーザを照射して個々のパルス照射毎に生体組織の照射部位より発生するフォトンを光電子増倍管によって増幅して検出し,これを時間相関単一光子計数法で処理して得られたデータを画像化処理に付すことにより,目的組織の任意の断面画像やその組織全体の画像(3次元画像,断面画像)を作成することができる。また,生きたラットやマウス等の小動物の体内の蛍光標識物質の位置を外部から検出して画像化することができるin vivo蛍光イメージングシステムも,近年開発され市販されている(eXplore Optix,GE HEALTHCARE)。これによれば,目的とする組織に特異的に集積する蛍光標識を動物に投与し,その3次元的分布を経時的に測定して画像化することができる。in vivo蛍光イメージングは非侵襲性で行われるため安全であり,しかも高感度であることから,生きた実験動物の特定の組織やその成分をマークして経時的に画像化し,タンパク質の動態や,病変の状態変化を評価することに利用され始めており,将来的にはヒト組織について同様な利用が期待されている。しかしながら,軟骨組織に関しては,これに特異的に結合して集積するマーカーはこれまで知られておらず,このためin vivo蛍光イメージングを利用することはできない。

【特許文献1】特開2004-024855号公報
【特許文献2】特開2005-055224号公報
【特許文献3】特開2003-225093号公報
【特許文献4】特表平10-502807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景において,軟骨組織に特異的に結合する物質(軟骨マーカー)があれば,これに蛍光物質,X線吸収物質等,検出に利用できる物質を取り付けることで,軟骨の検出手段を提供することが可能になる筈である。
すなわち,本発明の一目的は,軟骨組織に特異的に結合する軟骨マーカーを提供することである。
本発明の更なる一目的は,そのような軟骨マーカーであって,蛍光物質,X線吸収物質その他の信号発生手段を結合させた軟骨マーカーを提供することである。
本発明のなおも更なる一目的は,軟骨組織を周囲組織から区別して選択的に検出するための,軟骨マーカーを含んでなる組成物である,軟骨標識用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,ある範囲のポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドが,軟骨組織に特異的に結合することを見出した。これまで,細胞外のプロテオグリカンの糖鎖の一つであるヘパラン硫酸にポリアルギニンペプチドが選択的に結合することは知られている。しかしながら,軟骨細胞外には,ヘパラン硫酸でなくコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが非常に豊富に存在しており,後者に対するポリアルギニンの結合性に関しては,本発明者等が知る限りにおいて,これまで報告がない。またポリリジンペプチドについては,本発明者等が知る限りにおいて,軟骨組織又はヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸プロテオグリカンに対する特異的結合性に関する報告はない。上記の発見に続き,本発明者らは,関節の軟骨が破壊された関節リウマチモデルマウスを用いて,軟骨へのポリアルギニンペプチドの結合が減少することも見出した。本発明は,これらの発見に基づき,更に検討を重ねて完成させたものである。
【0010】
すなわち本発明は以下を提供する。
1.ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドを含んでなる軟骨マーカー。
2.該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドが,アルギニン残基又はリジン残基を6~20個を含んでなるものである,上記1の軟骨マーカー。
3.該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドに結合した信号発生手段を更に含んでなるものである,上記1又は2の軟骨マーカー。
4.該信号発生手段が,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドのC末端又はN末端に結合しているものである,上記3の軟骨マーカー。
5.該信号発生手段が,該ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドのC末端又はN末端に直接又は他のアミノ酸を介して結合しているものである,上記4の軟骨マーカー。
6.該信号発生手段が蛍光物質又はX線吸物質である,上記3ないし5の何れかの軟骨マーカー。
7.該信号発生手段が,ローダミン系色素又はAtto系色素である,上記3ないし5の何れかの軟骨マーカー
8.上記3ないし7の何れかの軟骨マーカー及び水性媒質を含んでなる,軟骨標識用剤。
【発明の効果】
【0011】
軟骨基質に特異的に集積する性質を有する本発明のペプチドは,これに蛍光物質その他の信号発生手段を結合させることにより,実験動物における蛍光イメージング装置その他による従来にない軟骨定量診断システムを可能にし,特に軟骨の基質量の経時的且つ定量的評価を可能にする。例えば関節リウマチや変形性関節症及び外傷等における軟骨基質の減少や,例えば軟骨腫瘍等における軟骨基質の増加の検出のため,また軟骨疾患の治療後の経過観察のため,ヒト又は実験動物において,本発明のペプチドを利用することができる。
更に,本発明の軟骨マーカーは,軟骨に選択的に集積するため,軟骨を標的化してこれに薬剤を運搬する担体として使用することもできる。すなわち,本発明の軟骨マーカーに,軟骨の治療に用いる薬剤を結合させて,投与(例えば関節腔内)することによって,薬剤を効率よく軟骨に集積させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドその他任意のポリペプチドの化学合成方法は当業者に周知である。例えば,本発明において,J Biol Chem 276:5836-5840に記載された方法で,又はこれに準じて適宜変更を加えて行うことができる。すなわち,例えば,ペプチド固相合成法として当業者に周知であるFmoc(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)法に従って,所望の個数のアルギニン又はリジンをペプチド結合させることにより,ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドを合成することができる。
【0013】
本発明において,ポリアルギニンペプチド及びポリリジンペプチドは,軟骨組織に特異的に結合することから,軟骨組織に対するマーカーとして機能する。ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチド自体は,蛍光を発するなど検出に直ちに役立つ性質を有しないためマーカーとしては潜在的であるが,ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドに(例えばそのC末端又はN末端など)に,何らかの信号発生手段を直接又は(スペーサー及び/又は結合用の化学構造部分,例えばGlyやCys等のアミノ酸残基を介して)間接的に結合することによって,マーカーとして顕在化することができ,それにより,蛍光顕微鏡や光学投影断層撮影,X線撮影その他で容易に検出できる軟骨マーカーが得られる。
【0014】
本発明において,「ポリアルギニンペプチド」は,アルギニン残基6~20個を含んでなるペプチドであることが好ましく,6~16であることがより好ましく,8~12個であることが特に好ましい。また本発明において「ポリリジンペプチド」も,リジン残基6~20個を含んでなるペプチドであることが好ましく,6~16であることがより好ましく,8~12個であることが特に好ましい。
【0015】
本発明において,「信号発生手段」とは,何らかの電磁波(典型的には,可視光線,赤外線又はX線)を用いて(肉眼,蛍光顕微鏡,蛍光イメージング装置,X線撮影その他により)検出し得る信号を発生する物質をいい,例えば,蛍光物質,X線吸収物質(照射されたX線の吸収により「負」の信号を発生)がこれに含まれる。
【0016】
蛍光物質としては,軟骨周囲の他の組織に強い親和性のない蛍光物質(蛍光色素等)であればよい。この点,カルセイン(骨を染色)やヘキスト(細胞核のDNAを染色)は避けるべきであるが,当業者に周知の他の蛍光色素を,適宜選択してよい。限定するものではないが,そのような蛍光物質のうち蛍光色素の例としては,ローダミン系色素(例えば,ローダミン,カルボキシ-X-ローダミン,カルボキシローダミン,テトラエチルローダミン,テトラメチルローダミン,ローダミンレッド,ローダミングリーン等)のほか,フルオレセイン系色素(例えば,フルオレッセイン,カルボキシナフトフルオレッセイン,テトラクロロフルオレッセイン,テトラブロモスルホンフルオレッセイン等)、シアニン系色素(例えば,Cy7,Cy5.5,Cy5,Cy3.5,Cy3その他のCy色素:GE Healthcare),Alexa Fluor類(例えば,Alexa Fluor 790, Alexa Fluor 750, Alexa Fluor 700, Alexa Fluor 680,Alexa Fluor 647, Alexa Fluor 633, Alexa Fluor 594, Alexa Fluor 568, Alexa Fluor 555, Alexa Fluor 546, Alexa Fluor 532, Alexa Fluor 488, Alexa Fluor 430, Alexa Fluor 405等:INVITROGEN)、VivoTag(例えば,VivoTag S750,VivoTag 680,VivoTag S680,:VisEn Medical),Atto系色素(例えば,Atto 740, Atto 725, Atto 700, Atto 680, Atto 655, Atto 647, Atto 637, Atto 635, Atto 633, Atto 620, Atto 611X, Atto 610, Atto 594, Atto 590, Atto 565, Atto 550, Atto 532, Atto 520, Atto 495, Atto 488, Atto 465, Atto 425等:ATTO-TEC GmbH)、BODIPY系色素(例えば,BODIPY 493/503,BODIPY 558/568,BODIPY 576/589,BODIPY 581/591,BODIPY TMR-X,BODIPY TR-X,BODIPY-530/550,BODIPY-FL-X,CAL Fluor系色素(例えば,CAL Fluor-Gold 540, CAL Fluor Orange 560, CAL Fluor Red 590, CAL Fluor Red 610, CAL Fluor Red 635等),カスケード(Cascade)ブルー,オレゴングリーン系色素(例えば,Oregon Green 488,Oregon Geen 500,Oregon Green 514等)ロードル(Rhodol)グリーン,テキサスレッド等が挙げられる。また色素以外の蛍光物質の例として,Qdot〔量子ドットの光子放出を利用したナノクリスタル蛍光体(数百~数千個の半導体物質の原子,例えば,セレンまたはテルルと混合したカドミウムを,硫化亜鉛のシェルで被覆したもの。更にポリマーで,次いで生体高分子でコーティングしたものが入手可能):INVITROGEN〕等が挙げられる。これらは,何れも当業者に周知である。これらの蛍光物質の幾つかにつき、それらの化学構造式を以下に示す。
【0017】
【化1】
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【0018】
【化2】
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【0019】
【化3】
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【0020】
また,X線吸収物質としては,例えば,X線吸収剤が挙げられ,それらは種々のものが臨床において使用されており,当業者に周知である。更に,X線吸収性の例えばナノサイズの鉱物粒子(ナノクリスタル等)も挙げられる。
【0021】
また,ポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドに蛍光物質その他,用いようとする測定機器の検出手段で捕らえることができる蛍光物質,量子ドットタイプのナノサイズの鉱物結晶からなる蛍光物質,X線吸収剤その他の信号発生手段を結合させる方法は任意である。例えば,蛍光物質の場合,蛍光標識タンパク質の製造等の分野における周知の方法を適宜選択して用いればよい。それら各信号発生手段の化学的性質に応じ,例えば上述のJ Biol Chem 276:5836-5840の記載に従って,ポリアルギニン又はポリリジンの合成に続いて,その末端(C末端,N末端)に,必要なら他のアミノ酸残基を介在させた上で,供給結合を形成させて取り付ければよい。例えば,ポリアルギニン又はポリリジンに蛍光物質であるローダミン系色素を取り付けるには,ポリアルギニン又はポリリジンを形成した後,続けてC末端に更にグリシン(スペーサーとして働く),次いでシステインをペプチド結合させて,ポリアルギニン(又はポリリジン)-Gly-Cysを合成することができる。スペーサーであるGlyは省くことも可能である。末端のCysは側鎖にチオール基を含むため,チオール基に選択的に反応するマレイミドを結合させたローダミン系色素(マレイミド化ローダミン系色素)を反応させることにより,蛍光標識されたポリアルギニンペプチド又はポリリジンペプチドを得ることができる。
【0022】
なおチオール基は高度に選択的なラベル化の可能なアミノ酸残基であり,N-置換マレイミドやハロアセチル(ヨードアセトアミド等)がそのラベル化に特に適している。例えば,N-置換マレイミドとチオールとは容易に反応し次の付加物を与えることは周知である。
【0023】
【化4】
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【0024】
従って,置換基Rとして,蛍光色素等の信号発生手段をそのまま,又はこれに適当なスペーサー部分を結合させたものを用いることにより,チオール基を有するポリペプチド(R’-SH)を信号発生手段により選択的にラベル化することができる。なお,ローダミン系色素その他種々の蛍光色素へのマレイミドの取り付け方法も,またそれによるペプチド中のシステイン残基のチオール基をラベル化する手法も,当業者に周知であり,また、多くのものが、マレイミド基その他目的分子への結合用の官能基を取り付けた形で、市販されている。
【0025】
本発明の軟骨マーカーはこれに蛍光物質その他適宜の信号発生手段を結合させ,滅菌された水性媒質(特に水又は生理食塩水,緩衝生理食塩水等)中に溶解させてなる組成物とすることにより,軟骨標識用剤として使用することができる。組成物中の濃度は適宜であってよいが,例えばテトラメチルローダミンを結合した、X個のアルギニン又はリジン(及び末端のシステイン)よりなるポリアルギニン(又はポリリジンペプチド)ペプチド〔RX(ローダミン)又はKX(ローダミン)〕の場合,0.01mM~1mMの濃度のものを適当量だけ,例えば関節腔内に投与するようにすることができるが,これに限定されない。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕
1.ポリアルギニン及び蛍光軟骨マーカーの作成
J Biol Chem 276:5836-5840の記載に準じて,上述のようにして,アルギニン残基数4,8,12及び16個のポリアルギニンペプチド〔それぞれR4(配列番号1),R8(配列番号2),R12(配列番号3)及びR16(配列番号4)〕を合成し,続いて各ポリアルギニンペプチドのC末端にグリシンを介してシステインを結合させた(それぞれ,配列番号5,6,7及び8)。これらの各々ポリペプチドをリン酸緩衝液(pH7.2)1mLに溶解させ(濃度6.17nmol),これに5mg/200μL(0.55mmol/μL)に調製したテトラメチルローダミン-5-マレイミド(Invtrogen)のDMF溶液112.2μLを加えて室温にて12時間反応させることにより,各ポリペプチドのシステイン残基の側鎖のチオール基を介して両化合物を結合させた。反応混合物をHPLCにより精製して,各蛍光標識ペプチドを,収率約50%で得た。
【0027】
2.正常マウスへの蛍光軟骨マーカーの投与及びex vivo検出-1
正常なDBA1J系マウス(9週齢、雌)2匹を用意した。0.1mMおよび1mMの,R8-ローダミン100μLを各々の右アキレス腱下、足関節周囲に注射した。これに際し,ポリアルギニンはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解した。1時間15分後、ジエチルエーテルにてマウスを屠殺した。還流固定せず、注射した右足関節と両側大腿骨遠位端を採取した。4本の大腿骨を各0.01mMのR4,R8,R12又はR16の各ローダミン結合ペプチドに浸漬し(1時間30分間)、PBSで2回洗浄した。これを4%CMC内に包埋し、液体窒素とヘキサンで凍結して、硬組織切片用のタングステンカーバイド製ブレードTC-65(Leica製)とCryofilm (Finetec製)を用いて、脱灰せずにクライオスタットで7μmの厚さに薄切した。切片を室温に10秒置いて解凍し,100%エタノールに約30秒間浸漬し,4%パラホルムアルデヒド(PFA)内にしばらく保存した後,水道水で洗浄した。切片に0.1%カルセインを滴下して5分置き,水道水で洗浄し,更に1mMヘキスト液(ヘキスト33258)2μL/PBS1mL(終濃度2μM)を滴下して5分置き,水道水で洗浄して,CMCに封入し,蛍光顕微鏡撮影を行った。蛍光フィルターとしては,GFP+及びCy3フィルターを用いた。結果を図1~7に示す。
【0028】
図1~3は,足関節周囲の同一矢状断面を示す図面代用写真である。図1は,ローダミン結合ポリアルギニンペプチド(軟骨染色),カルセイン(骨染色),ヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,図2は,ポリアルギニン(ローダミン)ペプチドによる染色象のみを,図3は,カルセインによる染色像のみを元のカラー画像から色別(RGB)に抽出したものである。図1~3の比較から明らかなように,ポリアルギニン-ローダミンは,軟骨のみを染色しており,骨に対する染色はない。また,図4~7は大腿骨遠位端の同一矢状断面を示し,図4は,ポリアルギニン-ローダミン(軟骨染色),カルセイン(骨染色),ヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,図5は,ポリアルギニン-ローダミンによる染色象のみを,図6はカルセインによる染色像のみを,図7は,ヘキストによる染色像のみを,元のカラー画像からそれぞれ色別(RGB)に抽出したものである。これらの図の相互比較から,R8~R16-ローダミンが軟骨のみを特異的に染色していることが明らかである。R4-ローダミンには染色は認められなかった。なお,図中の時間は蛍光顕微鏡写真撮影時の露出時間を示す。
【0029】
これらの図から明らかなように,ポリアルギニンは軟骨に特異的に結合し,その結合量は軟骨量に対応しており,従って,ポリアルギニンに結合させてある蛍光色素により軟骨量を半定量的に測定可能である。また,軟骨量のみならず,軟骨表面の性状の観察も併せて可能にすることが分かる(特に図5)。
【0030】
3.正常マウスへの蛍光軟骨マーカーの投与及びex vivo検出-2
上記1と同様の手順で,正常なマウス(ICR系、16週)の足関節に長さの異なるポリアルギニン(ローダミン結合)ペプチド(0.01mM R4-,R8-,R12-及びR16-ローダミン,各50μL)を注射して1時間後にサンプル採取し,更にカルセイン及びヘキストで蛍光染色した。この蛍光顕微鏡写真を図8~11に示す。図8は,ローダミン結合ポリアルギニンペプチド(軟骨染色),カルセイン(骨染色),ヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,図9はポリアルギニン(ローダミン結合)ペプチドによる染色象のみを,図10はカルセインによる染色像のみを,そして図11は,ヘキストによる染色像のみを,元のカラー画像からそれぞれ色別に抽出したものである。これらの図からも,アルギニン(ローダミン結合)ペプチドは,軟骨のみを染色するのが確認される。特に,図9は,R8~R12-ローダミンが軟骨に強く結合していることを示している。
【0031】
4.正常/関節炎モデルマウスへの蛍光軟骨マーカーの投与及びex vivo検出及び比較
上記と同様の手順で,正常マウスと関節炎モデルマウスそれぞれの足関節に0.05mMのR8-ローダミン,50μLを注射し1時間後にサンプル採取して上記と同様の手順で切片とした。図12は,その結果を示す図面代用写真である。図において,左側は正常マウス,右側は関節炎モデルマウスの足関節の蛍光像を示し,それぞれ,上段は,アルギニン(ローダミン結合)ペプチド染色,中段は,アルギニン(ローダミン結合)ペプチド(軟骨染色),カルセイン(骨染色),ヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,下段は,カルセイン(骨染色)による染色像を,それぞれ示す。図に見られるように,関節炎モデルマウスでは,関節軟骨の染まり方が不均一であり、関節軟骨の損傷が明瞭に観察できる。
【0032】
5.正常マウスへの蛍光軟骨マーカーの投与及びin vivoでの経時的検出
蛍光色素として,近赤外領域に蛍光波長を有するAtto 655(ATTO-TEC GmbH)を用いた。上述したのと同様にして,ポリアルギニンペプチドR8のC末端にスペーサーとしてのグリシン残基を介してシステイン残基を結合させ,これにマレイミドを取り付けたAtto 655(SIGMA-ALDRICH)を結合させて蛍光軟骨マーカー(R8-Atto 655)を作成した。これをPBSで0.1mMに調整し,その50μLを,BALB/cマウス(7週齢、雌)に,ジエチルエーテル麻酔下,左足関節周囲に注射した。実験小動物用in vivo蛍光イメージングシステムであるeXplore Optix(GE HEALTHCARE)により,R8-Atto 655の注射前,注射後1,2,4,6時間の時点でのマウスの左足関節を外部から経時的に撮影した。図13は,その結果を示す図面代用写真である。図において,マウス左足関節からのAtto 655蛍光の相対的強度が画像化されている。蛍光マーカー注射1時間後の左足関節部位の画像において,黒色領域は中等度の蛍光強度,その中の2個の分離した白色領域(軟骨に対応)はより強い蛍光強度,外側の白い領域はより弱い蛍光強度に対応する。同写真より,軟骨部位が最も強い蛍光を発していることが分かる。蛍光強度は,蛍光マーカー注射後1時間をピークに以後減衰した(但し下記のように,注射から6時間経過後も,組織切片の蛍光顕微鏡撮影に十分な蛍光強度は残る)。
【0033】
蛍光マーカー注射から6時間経過後,同部位から切片を作成して蛍光顕微鏡により撮影した。すなわち,先ず同部位を上記と同様の手順でCMC包埋し凍結してクライオスタットで5μmの厚さに薄切した。次いで,切片を室温に10秒置いて解凍し,100%エタノールに約30秒間浸漬し,4%PFA内に約1分保存した後,水道水で洗浄した。切片に0.01%カルセインを滴下して5分置き,水道水で洗浄し,更に1mMヘキスト液3μL/PBS1mL(終濃度3μM)を滴下して5分置き,水道水で洗浄して,CMCに封入し,蛍光顕微鏡撮影を行った。図14は,その結果を示す図面代用写真である。図において,(A)は,R8-Atto 655(軟骨染色),カルセイン(骨染色),ヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,(b)は,R8-Atto 655による染色象のみを,(c)は,ヘキストによる染色像のみを,そして(d)は,カルセインによる染色像のみを,それぞれ示す。これらの像の比較から,ポリアルギニンに蛍光色素R8-Atto 655を結合させてなるマーカーが軟骨に特異的に集積していることが明らかである。
【0034】
〔実施例2〕
正常マウスへの蛍光軟骨マーカーの投与及びin vivoでの経時的検出
蛍光色素として,近赤外領域に蛍光波長を有するAtto 655(ATTO-TEC GmbH)を用いた。リジン残基数8個のポリリジンペプチドK8(配列番号9)を合成し,そのC末端にスペーサーとしてのグリシン残基を介してシステイン残基を結合させ,これにマレイミドを取り付けたAtto 655(SIGMA-ALDRICH)を結合させて,蛍光軟骨マーカー(K8-Atto 655)を作成した。これをPBSで0.1mMに調整し,その50μLを,BALB/cマウス(7週齢、雌)に,ジエチルエーテル麻酔下,右膝関節周囲に注射した。eXplore Optix(GE HEALTHCARE)により,K8-Atto 655の注射前,注射後1,2,4,6時間の時点でのマウスの右膝関節を外部から経時的に撮影した。図15は,その結果を示す図面代用写真である。図において,マウス右膝関節からのAtto 655蛍光の相対的強度が画像化されている。図に見られるように,注射部位の蛍光は,注射後4時間の間にわたって殆ど減衰することなく観察された。
【0035】
蛍光マーカー注射から6時間経過後,同部位から切片を作成して蛍光顕微鏡により撮影した。すなわち,先ず同部位をCMC包埋し凍結してクライオスタットで5μmの厚さに薄切した。次いで,切片を室温に10秒置いて解凍し,100%エタノールに約30秒間浸漬し,4%PFA内に約1分保存した後,水道水で洗浄した。切片に0.01%カルセインを滴下して5分置き,水道水で洗浄し,更に1mMヘキスト液3μL/PBS1mL(終濃度3μM)を滴下して5分置き,水道水で洗浄して,CMCに封入し,蛍光顕微鏡撮影を行った。図16及び図17は,足関節周囲の同一矢状断面写真(カラー)であり,図16は,パネルaが位相差顕微鏡像,パネルbがポリリジンペプチドK8結合Atto 655(K8-Atto 655)(軟骨染色)とカルセイン(骨染色)とによる染色像,パネルcがこれらとヘキスト(細胞核染色)の全てによる染色像を示し,図17は,図16の原画(カラー)からAtto 655蛍光の蛍光に近い赤色(R)を抽出したものであり,図16と対比することによって,図17においてK8-Atto 655が軟骨に特異的に集積しているのを明瞭に認めることができる。また,図18及び19は,図16と同一部位の拡大像であり,図18は,パネルaが位相差顕微鏡像,パネルbがK8-Atto 655(軟骨)のみの染色像,パネルcが,K8-Atto 655,カルセイン及びヘキストの全てによる染色像を示し,図19は,図18の原画(カラー)からAtto 655蛍光の蛍光に近い赤色(R)を抽出したものである。図18と対比することによって,図19においてもK8-Atto 655が,軟骨に特異的に集積していることが明瞭に確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の軟骨マーカーは,軟骨のみに結合することから,これに蛍光物質その他の信号発生手段を結合させて軟骨マーカーを製造するために,又は治療薬を結合させて軟骨に治療薬を選択的に送達するための手段として,使用することができる。また,こうして得られる軟骨マーカーは,ヒトや実験動物の軟骨を周辺組織から区別して可視化することができるため,軟骨疾患の治療剤の開発において,軟骨の状態を評価する手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】正常マウスの足関節切片における軟骨,骨及び細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図2】正常マウスの足関節切片における軟骨の染色像を示す図面代用写真
【図3】正常マウスの足関節切片における骨の染色像を示す図面代用写真
【図4】正常マウスの大腿骨遠位端切片における軟骨,骨及び細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図5】正常マウスの大腿骨遠位端切片における軟骨の染色像を示す図面代用写真
【図6】正常マウスの大腿骨遠位端切片における骨の染色像を示す図面代用写真
【図7】正常マウスの大腿骨遠位端切片における細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図8】正常マウスの足関節切片における軟骨,骨及び細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図9】正常マウスの足関節切片における軟骨の染色像を示す図面代用写真
【図10】正常マウスの足関節切片における骨の染色像を示す図面代用写真
【図11】正常マウスの足関節切片における細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図12】正常マウス及び関節炎マウスの足関節における軟骨,骨及び細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図13】正常マウスの足関節におけるin vivoでの軟骨組織の染色像を経時的に示す図面代用写真
【図14】正常マウスの足関節切片における軟骨,骨及び細胞核の染色像を示す図面代用写真
【図15】正常マウスの足関節におけるin vivoでの軟骨組織の染色像を経時的に示す図面代用写真
【図16】正常マウスの足関節切片における軟骨等の染色像を示す図面代用写真
【図17】正常マウスの足関節切片における軟骨等の染色像を示す図面代用写真
【図18】正常マウスの足関節切片における軟骨等の染色像を示す図面代用写真
【図19】正常マウスの足関節切片における軟骨等の染色像を示す図面代用写真
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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