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明細書 :病態モデル実験動物、病態モデル実験動物の作出方法及び病態モデル実験動物の利用方法。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5109134号 (P5109134)
登録日 平成24年10月19日(2012.10.19)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
発明の名称または考案の名称 病態モデル実験動物、病態モデル実験動物の作出方法及び病態モデル実験動物の利用方法。
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A01K 67/027
G01N 33/48 N
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 19
出願番号 特願2008-528727 (P2008-528727)
出願日 平成19年2月13日(2007.2.13)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年3月8日パシフィコ横浜にて開催された第79回社団法人日本薬理学会年会で発表。
国際出願番号 PCT/JP2007/052477
国際公開番号 WO2008/018191
国際公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
優先権出願番号 2006218825
優先日 平成18年8月10日(2006.8.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年1月15日(2010.1.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】高山 房子
【氏名】江頭 亨
個別代理人の代理人 【識別番号】100069431、【弁理士】、【氏名又は名称】和田 成則
【識別番号】100130410、【弁理士】、【氏名又は名称】茅原 裕二
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 TAKAYAMA,F. et al.,A Novel Animal Model of Nonalcoholic Steatohepatitis (NASH): Hypoxemia Enhances the Development of NASH.,J. Clin. Biochem. Nutr.,2009年11月,Vol.45, No.3,pp.335-40
巽浩一郎,睡眠時無呼吸症候群とNASH,Prog. Med.,2005年 6月,Vol.25, No.6,pp.1645-9
TATSUMI,K. AND SAIBARA,T.,Effects of obstructive sleep apnea syndrome on hepatic steatosis and nonalcoholic steatohepatitis.,Hepatol. Res.,2005年10月,Vol.33, No.2,pp.100-4
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/09PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
脂肪肝担持実験動物に対し、亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンを、投与量として1日当たり30~70mg/kg体重、投与期間として3~16週間、より好ましくは4~12週間投与することで、メトヘモグロビンを形成させ血中酸素分圧を108ヘクトパスカル未満に低下させた生体内低酸素状態を与えることにより作出される非アルコール性脂肪性肝炎の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持した病態モデル実験動物(ヒトを除く)。
【請求項2】
記病態モデル実験動物は、医学研究用実験動物であることを特徴とする請求項1に記載の病態モデル実験動物。
【請求項3】
上記医学研究用動物がげっ歯類であることを特徴とする請求項2に記載の病態モデル実験動物。
【請求項4】
上記げっ歯類がマウス又はラットであることを特徴とする請求項3に記載の病態モデル実験動物。
【請求項5】
脂肪肝担持実験動物に対し、亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンを、投与量として1日当たり30~70mg/kg体重、投与期間として3~16週間、より好ましくは4~12週間投与することで、メトヘモグロビンを形成させ血中酸素分圧を108ヘクトパスカル未満に低下させた生体内低酸素状態を与えることにより非アルコール性脂肪性肝炎の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持した病態モデル実験動物(ヒトを除く)を作出する病態モデル実験動物の作出方法。
【請求項6】
記病態モデル実験動物は、医学研究用実験動物であることを特徴とする請求項5に記載の病態モデル実験動物の作出方法。
【請求項7】
上記医学研究用動物がげっ歯類であることを特徴とする請求項6に記載の病態モデル実験動物の作出方法。
【請求項8】
上記げっ歯類がマウス又はラットであることを特徴とする請求項7に記載の病態モデル実験動物の作出方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の病態モデル実験動物を非アルコール性脂肪性肝炎の重症化予防剤開発に供することを特徴とする病態モデル実験動物の利用方法。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の病態モデル実験動物を非アルコール性脂肪性肝炎の治療剤開発に供することを特徴とする病態モデル実験動物の利用方法。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の病態モデル実験動物を非アルコール性脂肪性肝炎を指標とした生理活性物質のスクリーニングに供することを特徴とする病態モデル実験動物の利用方法。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の病態モデル実験動物を低酸素血症に伴う生活習慣病の発症機構の解析及び重症化予防剤開発並びに治療剤開発及び治療法の開発に用いることを特徴とする病態モデル実験動物の利用方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis, 以降「NASH」と呼称する)の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を有する病態モデル実験動物及びその作出方法並びに利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪肝に炎症が加わり、それが持続すると肝硬変まで進行することがある。この病態は非飲酒歴者においてもアルコール性脂肪性肝炎に類似した病状を示すことから、NASHの診断名を高血圧、糖尿病、高脂血症と並び新しい生活習慣病として俄に注目されている。
【0003】
NASHが単純脂肪肝と大きく異なる点は肝炎や肝線維化が存在することである。NASHの診断には、一般に、病理組織学的評価が必要(非特許文献2)で、この場合、肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性・壊死、門脈域のリンパ球浸潤が見られ、その結果として小葉内に線維化を呈する特徴を有している。飲酒歴がないにも関わらず、過剰栄養摂取が原因でアルコール性肝障害に類似した脂肪肝から脂肪性肝炎になり、その進行により肝臓の線維化が進み、肝硬変への進展をたどる。肝硬変の基本的病態は、進行性不可逆性の肝機能低下{アルブミン、血液凝固因子(プロトロンビンを含む)の産生障害から、腹水、出血傾向、肝性脳症が惹起}と、門脈血流の減少に伴う門脈圧亢進症(この結果、食道静脈瘤、消化管出血、脾腫、肝性脳症などが惹起)である。さらに一部がん化することが問題視される。
【0004】
脂肪肝に何らかの刺激が加わって脂肪性肝炎、肝の線維化さらに重症進行化により肝硬変へと進展するとされる。NASHの発生機序として、脂肪肝はNASHの前段階と考えられ、脂肪肝がまず生じ、そこに何らかのストレスが加わり脂肪性肝炎、さらにより進んだ肝障害(肝硬変)へと移行する(非特許文献3)。すなわち、肝への脂肪沈着により脂肪肝が生じる課程はNASHの第一段階であり、この脂肪肝に第二段階として(a)酸化ストレス(非特許文献4、5)、(b)エンドトキシンによる炎症性サイトカインの誘導、(c)CYP2E1 の発現・誘導(非特許文献6、7)、(d)ミトコンドリアの機能異常、などのさまざまな機序が相互に関連してNASHへと進展していくと推測される。ゆえに、NASHモデル実験動物の開発においても、脂肪肝にこれらのストレス負荷が必要となる。ヒト該病態に即した病態モデル実験動物作成には、ヒトの生活習慣の中でNASH病態へと進展させるストレス或いはそれに近似させたストレス負荷が望ましい。
【0005】
食生活の欧米化すなわち高脂肪含量の食生活や運動不足による肥満人口の増加と生活習慣病患者の増加に伴い、脂肪肝患者,NASH患者も増加することが想定される。ゆえに、脂肪肝から肝炎、肝線維化及び肝硬変への進行性疾患であるNASH病態の解明と、新たに開発されるNASH治療薬や重症化抑制薬及び/又はNASH発症リスク低減機能食品や重症化リスク低減機能食品及び/又はNASH治療方法や重症化予防法の確立が望まれている。
【0006】
進行性疾患であるNASH病態の解明と、新たに開発されるNASH治療薬や重症化抑制薬及び/又はNASH発症リスク低減機能食品や重症化リスク低減機能食品及び/又はNASH治療方法や重症化予防法の確立のためには、肝炎、肝線維化や肝硬変の部位にどのような影響を及ぼすのかを確認することは極めて重要であり、このためには病態進展に密接に関与する生活習慣病に分類される病態に対する生理機能調節素材の作用をヒトNASH病態に即した該病態モデル実験動物を用いた長期間観察が必要である。
【0007】
しかし、NASH の病態機序の解明と薬物治療のため、これまでに栄養学的知見に基づき開発された病態モデルはいずれも単なる脂肪肝に過ぎない。すなわち、最近、NASHモデル動物として、メチオニン又はコリン欠乏飼料または高脂肪および高糖質成分の飼料を与え開発された病態動物肝臓の病理組織学的特徴(非特許文献8、9)はいずれも脂肪肝あるいは肝炎の段階に止まり、著しい線維化は認められないか、あっても極めて軽微なもので、脂肪性肝炎から線維化への進行性が高いNASH病態に近似するものではない。さらに高脂肪および高糖質成分の飼料を与え開発された病態動物(非特許文献10)は脂肪肝の形成に約8週間、脂肪性肝炎形成に約16週間に渡る長期間飼育を要する。
【0008】
さらに、従来、肝炎、肝線維化、肝硬変の病態モデルは、四塩化炭素、チオアセトアミド、ジメチルニトロソアミンなどの慢性肝炎誘発剤又は肝硬変誘発剤投与による。これらの肝障害機序は共通している。すなわち、これらはいずれも脂溶性物質であり肝臓で代謝を受け高反応性代謝物へと代謝変換される。四塩化炭素を例に取ると、肝での代謝の場所であるミクロソームに存在するチトクロムP-450酵素による代謝でCC13・遊離基に次いでCC13OO・遊離基が生成される機構で肝小葉中心部の壊死をもたらす。従って、脂肪肝が基盤となる損傷による肝炎がもたらす病態とはその機構及び発現する様相に本質的相違がある(非特許文献11)。
【0009】
慢性肝炎及び/又は肝硬変の病理組織学的特徴を維持するモデル哺乳動物を作成するに当たり、チオアセトアミドを投与する方法(特許文献1)が公知であるが、コスト、労力の面から現実的ではなく、また、該モデル動物作成可能な個体数にも限りがあり、再現性を高めることは技術的にも熟練を要する。
【0010】
通常の生活においてヒトは慢性肝炎誘発剤又は肝硬変誘発剤に暴露される可能性は極めて低く、それらによる病態モデルは該NASH病態に即した脂肪性肝炎、肝線維化、肝硬変や肝がん病態モデルとは成り得ない。また、肝臓疾患治療のため、例えば、抗酸化剤を利用する方法(特許文献2、3)、酸素を用いる方法(特許文献4)、L-アラニンを用いる方法(特許文献5)が公知であるが、該病態モデルのヒトとの近似性は不十分であり、より改善された重症化予防剤、治療剤等のスクリーニング、開発をはじめとする生活習慣病一般の助長機構解析に基づく治療法、治療剤開発の必要性に鑑みて、これらの手法は不十分である。
【0011】
一方、ヒトにおけるNASH発症リスクは脂肪肝症例の睡眠時無呼吸症候群において上昇する(非特許文献12参照)。非アルコール性脂肪肝動物へ人為的に血中低酸素状態を与えることにより、ヒト症例の発症病態に近似させることが出来る(非特許文献13参照)。
【0012】

【特許文献1】特開2005-160415号公報
【0013】

【特許文献2】特開平11—199477号公報
【0014】

【特許文献3】特表2005-510501号公報
【0015】

【特許文献4】特開2006-69911号公報
【0016】

【特許文献5】特開2006-151937号公報
【0017】

【非特許文献1】Ludwig J. et al., Mayo Clin. Proc,55,434-438 (1980)
【0018】

【非特許文献2】Matteoni C.A. et al., Gastroenterology ,116,1413-1419 (1999)
【0019】

【非特許文献3】Day C.P.and James O.W.,Gastroenterology,114, 842-845(1998)
【0020】

【非特許文献4】西原利治・他, 日本消化器病学会雑誌, 99, 570-576(2002)
【0021】

【非特許文献5】Reid A.E., Gastroenterology, 121, 710-723 (2001)
【0022】

【非特許文献6】Weltman M.D. et al., Hepatology, 27, 128-133 (1998)
【0023】

【非特許文献7】Leclercq I.A. et al., J. Clin. Invest. 105, 1067-1075 (2000)
【0024】

【非特許文献8】Zhang B.H., Weltman M et al., J. Gastroenterol. Hepatology,14,133-137(1999)
【0025】

【非特許文献9】Koppe S.W.P., Sahai A., et al., J. Hepatology, 41,592-598(2004)
【0026】

【非特許文献10】Fan J.G. et al., World J. Gastroenterol, 11, 5053-5056(2005)
【0027】

【非特許文献11】Matsuoka, M., and Tsukamoto, H. Stimulation of hepatic lipocyte collagen production by Kupffer cell-derived transforming growth factor beta: implication for a pathogenetic role in alcoholic liver fibrogenesis. Hepatology. 11:599-605、1990)
【非特許文献12】前田均, 中島健雄, 大西一男, 細見慶和:男性閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者における非アルコール性肝機能異常の頻度とその悪化要因. 兵庫県医師会医学雑誌47巻2号 Page115-120 (2004)
【非特許文献13】Hatipoglu U. Rubinstein I.: Inflammation and obstructive sleep apnea syndrome pathogenesis: a working hypothesis. Respiration. 70(6):665-671 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
このように、生活習慣病の一つであるNASH病態モデル実験動物による被験素材の有効性を長期間観察するためには、できるだけ簡便な作製方法を用いて、労力をかけず且つ迅速に所定の時期に必要数の上記病態モデル哺乳動物を供給できることが必要である。しかしながら、従来、ヒトNASH病態を再現する有用な病態モデル実験動物及び作出方法は存在しなかった。
【0029】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、生活習慣による脂肪肝からヒト非アルコール性慢性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変を再現する新規病態モデル実験動物及びその作出方法と新規病態モデル実験動物の利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、メトヘモグロビン血症の形成により血中酸素分圧が低水準に維持されること、及び、血中酸素分圧が低水準に維持されることによりNASH病態モデル実験動物が作出されることを発見し、または、1)低酸素環境下で飼育することにより血中酸素分圧が低水準に維持されること、及び、2)脂肪肝動物の血中酸素分圧が低水準に維持されることによりNASH病態モデル実験動物が作出されることを発見し、本発明に至ったものである。
【0031】
本発明の病態モデル実験動物(ヒトを除く)は、生体内低酸素状態を形成させることにより、または、低酸素環境下飼育に基づく生体内低酸素状態を形成させることにより作出される非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持する。
【0032】
同様に、上記目的を達成するために、本発明の病態モデル実験動物の作出方法は、生体内低酸素状態を形成させることにより、または、低酸素環境下飼育に基づく生体内低酸素状態を形成させることにより、非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持した病態モデル実験動物(ヒトを除く)を作出する。
【0033】
本発明は従来、有用な病態モデル実験動物の存在しなかったNASH病態モデル実験動物を提供する。該病態モデル実験動物はアルコール無投与にも関わらず脂肪肝から進行する肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変及び/又は肝がんの各進行段階も含む。
【0034】
ヒトにおけるNASH発症リスクが上昇する脂肪肝症例の睡眠時無呼吸症候群は、非アルコール性脂肪肝動物へ人為的に血中低酸素状態を与えることにより、ヒト症例の発症病態に近似させることが出来る。飼育条件により、非特許文献1~10に記載の各構成を有するNASH病態の生化学的パラメータ変化および病理組織学的特徴を安定に呈し維持する進行性の該病態モデル実験動物を作製することができる。該病態は進行性の疾患であるため、肝硬変の基本的病態である進行性不可逆性の肝機能低下、即ち、アルブミン、血液凝固因子(プロトロンビンを含む)の産生障害から、腹水、出血傾向、肝性脳症惹起等の症状や、門脈血流の減少に伴う門脈圧亢進症、即ち、食道静脈瘤、消化管出血、脾腫、肝性脳症等の諸症状を伴い、呈することもある。
【0035】
本発明においては、アルコールや慢性肝炎誘発剤又は肝硬変誘発剤は無投与にもかかわらず、直接的肝毒性を発揮しない亜硝酸塩及び/又はヒドロキシルアミンを投与することで、メトヘモグロビンを形成させ血中酸素分圧低下による生体内低酸素状態を動物に与えながら飼育する工程を有することを特徴とする方法、及び、当該方法により作製されたNASH病態モデル実験動物を提供する。さらに詳しくは、投与量、投与回数及び投与期間を調節して血中低酸素状態の程度を調節して飼育する工程を有することを特徴とする方法、及び、当該方法により作製されたNASH病態モデル実験動物により、該病態の進行過程の研究及び解明や該病態の進行重症化予防用および治療用薬剤、及びこれらのことに機能する生理活性物質のスクリーニングや方法についての開発研究に有用なヒトNASH病態に近似させた該病態モデル実験動物を提供する。
【0036】
飼育条件により、非特許文献1~3に記載の各構成を有するNASH病態の生化学的パラメータ変化および病理組織学的特徴を安定に呈し維持する進行性の該病態モデル実験動物を作製することができる。該病態は進行性の疾患であるため、肝硬変の基本的病態である進行性不可逆性の肝機能低下、即ち、アルブミン、血液凝固因子(プロトロンビンを含む)の産生障害から、腹水、出血傾向、肝性脳症惹起等の症状や、門脈血流の減少に伴う門脈圧亢進症、即ち、食道静脈瘤、消化管出血、脾腫、肝性脳症等の諸症状を伴い、呈することもある。
【0037】
本発明においては、脂肪肝担持実験動物を用いた時、アルコールや慢性肝炎誘発剤又は肝硬変誘発剤は無投与にもかかわらず、低酸素環境下における飼育によりメトヘモグロビン血症を形成させ、最終的に血中酸素分圧低下による生体内低酸素状態を動物に与えながら飼育する工程を有することを特徴とする方法、及び、当該方法により作製されたNASH病態モデル実験動物を提供する。さらに詳しくは酸素濃度、すなわち、飼育する際の呼吸酸素濃度環境を調節して血中低酸素状態を維持する工程を有することを特徴とする方法、及び、当該方法により作製されたNASH病態モデル実験動物により、該病態の進行過程の解明や該病態の重症化予防用および治療用薬剤、及びこれらのことに有効に機能する生理活性物質のスクリーニングや方法についての開発研究に有用なヒトNASH病態に近似させた該病態モデル実験動物を提供する。
【0038】
アルコール無投与による該病態モデル実験動物は脂肪性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変及び/又は肝がんの各進行段階の特徴の少なくとも1つ以上を呈するものである。なお、肝硬変の基本的病態は先述の如く進行性不可逆性の肝機能低下と、門脈血流の減少に伴う門脈圧亢進症であることは周知のことであり、本発明の該病態モデルはこれら特徴の少なくとも1つ以上をも呈することがある。
【0039】
本発明においては、出発供試材料として、脂肪肝に罹患した実験動物(脂肪肝担持実験動物)を用いてもよい。
【0040】
ヒトNASH病態の基盤として脂肪肝が存在するので、脂肪肝担持動物を出発実験動物とした。脂肪肝に罹患した実験動物は、例えば、メチオニン欠乏高脂肪食投与、コリン欠乏高脂肪食を経口的に一定期間投与することによって作出できる〔Cheng Y.F. et al., Transplant., 71, 1221-1225(2001)及びDong H. et al., Gastroenterol., 11, 1339-1344(2005)参照〕。本発明においては脂肪肝に罹患した実験動物の作出方法そのものは制限されない。
【0041】
一般に、脂肪肝罹患実験動物は中性脂肪の肝臓への沈着、肝臓中のTriglyceride含量、病理組織学的には肝細胞に大滴性脂肪性変化、生化学的には血漿中の肝実質細胞質内酵素(AST : Aspartate aminotransferase、ALT:Alanine aminotransferase)の変化、等々の確認により判別可能である。
【0042】
当該方法および当該病態モデル実験動物は、低酸素血症に伴う生活習慣病の助長機構の研究・解析研究や該病態の進行並びに重症化予防用および治療用薬剤、及びこれらのことに機能する生理活性物質のスクリーニングや方法についての開発研究にも有用な方法及び病態モデルを提供するものである。
【0043】
本発明において、該病態モデル実験動物作出のためには上記血中酸素分圧は108ヘクトパスカル未満であると好適であるが、該血中酸素分圧は当該実験動物の飼育環境中酸素濃度を少なくとも180ヘクトパスカル以下に維持することにより達成できる。なお、血中酸素分圧の下限やその持続時間は少なくとも実験動物の生命が存続する範囲であることは当然であり、該血中酸素分圧を達成するに足る当該実験動物の飼育環境中酸素濃度を維持することが必要であることは言うまでも無い。このように、本発明は最終的に生体内低酸素状態を脂肪肝動物に形成させ、線維化に進展する炎症を発生させる方法および病態モデル実験動物に関するものであり、さらに詳しくは、当該実験動物の飼育環境中酸素濃度及び飼育期間を任意に調節することにより最終的に生体内低酸素状態を脂肪肝動物に起こさせることによってNASH病態を誘発させる方法およびNASH病態モデル実験動物を提供する。
【0044】
また、上記血中酸素分圧が108ヘクトパスカル(hPa)未満であると好適である。なお、血中酸素分圧の下限は実験動物の生命が存続する範囲であることは当然である。このように、本発明は生体内低酸素状態を脂肪肝動物に形成させ、容易に線維化に進展する炎症を惹起させる方法およびNASH病態モデル実験動物に関するものであり、さらに詳しくは、投与量、投与回数及び投与期間を任意に調節して生体内低酸素状態を脂肪肝動物に起こさせることによってNASH病態を誘発させる方法およびNASH病態モデル実験動物に関する。
【0045】
アルコール無投与により作出された該病態モデル実験動物は脂肪性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変及び/又は肝がんの各進行段階の特徴の少なくとも1つ以上を呈するものである。なお、肝硬変の基本的病態は先述の如く進行性不可逆性の肝機能低下と、門脈血流の減少に伴う門脈圧亢進症であることは周知のことであり、本発明の該病態モデルは当然ながらこれら特徴の少なくとも1つ以上をも呈することがある。
【0046】
本発明においては、出発供試材料として、脂肪肝に罹患した実験動物(脂肪肝担持実験動物)を用いる。
【0047】
ヒトNASH病態の基盤として脂肪肝が存在するので、脂肪肝担持動物を出発実験動物とした。脂肪肝に罹患した実験動物は、例えば、メチオニン欠乏高脂肪食投与、コリン欠乏高脂肪食を経口的に一定期間投与することによって作出できる[Cheng Y.F. et al., Transplant., 71, 1221-1225(2001)、Dong H. et al., Gastroenterol., 11, 1339-1344(2005)]。本発明においては脂肪肝に罹患した実験動物の作出方法そのものは制限されない。
【0048】
一般に、脂肪肝罹患実験動物は中性脂肪の肝臓への沈着、肝臓中のTriglyceride含量の変化が見られ、病理組織学的には肝細胞に大滴性脂肪性変化、生化学的には血漿中の肝実質細胞質内酵素(AST : Aspartate aminotransferase、ALT:Alanine aminotransferase)の変化を呈するため、これらのパラメーターの確認により判別可能である。
【0049】
本発明においては、血中酸素分圧を108hPa未満に維持するにあたり、対象(脂肪肝実験)動物に70%未満のヘモグロビンをメト化してもよい。なお、一般に、70%以上のメトヘモグロビン血症の該実験動物は死に至るので、これを超えない範囲が望ましいが、本発明においてはメト化の割合自体は制限されない。
【0050】
正常赤血球では、メトヘモグロビンの産生とその還元とのバランスの上でメトヘモグロビン濃度が一般に1%以下に維持されている。したがってメトヘモグロビンの産生が増えるか、逆にその還元が障害されるとバランスが崩れてメトヘモグロビン血症となる。メトヘモグロビン血症においては、血液中のヘモグロビン総量に対するメトヘモグロビンの割合が10%以上になると、酸素供給が不十分となり、チアノーゼ症状を引き起こす。メトヘモグロビンは酸素と結合できず、酸素を全身に運ぶことができず、さらに、酸素化ヘモグロビンが酸素とヘモグロビンへと解離する性質を変化させ、組織に到達した酸素化ヘモグロビンから酸素を離しにくくして、酸素運搬障害による組織の酸素欠乏症をきたす。
【0051】
本発明において、70%未満のメトヘモグロビン血症を発症させるにあたり、低酸素血症誘発剤となる亜硝酸塩又はヒドロキシルアミンは、容易に試薬関連メーカーから入手することができる。また、一般に、メトヘモグロビン血症の状態は当該実験動物の血液試料についてメト化ヘモグロビン量及び/又はヘモグロビン量を測定することにより判別できる。
【0052】
なお、水溶性物質である亜硝酸塩又はヒドロキシルアミンは、脂溶性の四塩化炭素などとは異なり、肝臓ミクロソームのチトクロムP-450酵素による代謝を受け高反応性代謝物へと変換される物質ではなく、また、チトクロムP-450酵素による代謝基質とはならず、酸化による高反応性代謝物を生じさせて細胞毒性を発揮し細胞を傷害するものではない。両物質とも排泄に肝細胞による酸化代謝を要しない物質であるので、肝臓への直接毒性は無視できるため、投与によりメトヘモグロビン血症を発症させ組織の酸素欠乏症を惹起させる材料として優れている。
【0053】
亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンともに合計投与量は1日量として10mg以上/kg、但し、亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンの投与量として、70%以上のメトヘモグロビン血症を発症させない範囲が望ましい。好ましくは、30~70mg/kg体重である。投与に際しては、亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンの原体を生理食塩液にて任意に希釈し、これを投与(好ましくは腹腔内投与)することが出来る。投与期間は3~16週間であるが、好ましくは4~12週間である。本発明においては、実験動物の種類、投与濃度、量、投与部位により、目的に応じて任意に変更できる。
【0054】
本発明において用いる亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸塩類として亜硝酸アンモニウム、亜硝酸カリウム、 亜硝酸ナトリウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸セシウムなどが使用可能である。亜硝酸エステル類としては、例えば、亜硝酸イソブチル、亜硝酸イソペンチル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチル、亜硝酸プロピル、亜硝酸ペンチル、亜硝酸メチルが利用可能であるが、亜硝酸として投与可能な分子形態である限り、特段の制限はない。
【0055】
亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンの投与に当たっては、上記生理食塩水以外に例えば油脂類、糖類、タンパク質類などに混合、希釈、安定化して与えても良い。従って、本発明においては亜硝酸塩および/又はヒドロキシルアミンの乳化物、粉末、錠剤、カプセル等の形態、剤型などは制限されず、任意に選択できる。
【0056】
経口投与、腹腔内投与、直腸内投与などの投与方法の別は本発明において限定されない。該動物頚静脈からの採血により採取した血液中のメトヘモグロビン量は亜硝酸塩とヒドロキシルアミンの投与量に正の相関を示し、一般に、動物頸動脈留置のカニュレーションから採取した動脈血の酸素分圧は該投与量に負の相関を示すが、本発明においては制限されない。
【0057】
本発明は血中低酸素状態を脂肪肝動物に与え、NASH病態を誘発させるものであり、さらに詳しくは、投与量、投与回数及び投与期間を調節して低酸素状態を脂肪肝動物に反復負荷を与えることによって進行状態や重症度を調節することができる。このような条件下で低酸素血症誘発剤を投与しながら実験動物を飼育することにより、所望の病態モデル実験動物を作製することを可能とする。尚、前述の投与以外の飼育方法は、該実験動物種に応じた公知のいずれかの飼育方法に従うことが出来る。
【0058】
本発明においては、血中酸素分圧を108Pa未満に維持するにあたり、対象(脂肪肝実験)動物の飼育環境中酸素濃度を180ヘクトパスカル以下に維持すると理解しても良い。
【0059】
吸気中の酸素分圧の低下により肺胞に至る酸素濃度も低下する。呼吸による酸素供給が不十分となり、酸素化ヘモグロビン濃度が低下しチアノーゼ症状を引き起こす。組織に到達する酸素化ヘモグロビンが低下することで組織の酸素欠乏症をきたす。
【0060】
本発明において、低酸素血症誘発に必要な実験動物の飼育環境中の呼吸酸素濃度を180ヘクトパスカル以下に調整するための飼育設備は容易に関連メーカーから入手することができる。また、一般に、組織への酸素供給不足状態は当該実験動物の血液試料について定法に基づき酸素分圧及びヘモグロビン量を測定することにより判別できる。
【0061】
本発明において、NASH病態モデル実験動物は、1)低酸素環境下で飼育することにより血中酸素分圧が低水準に維持すること、及び、2)血中酸素分圧を低水準に維持することにより作出されることは前述の通りであるが、該実験動物作出の過程において直接又は間接的に機能する慢性肝炎誘発剤、肝硬変誘発剤、ヘモグロビンのメト化剤、並びに、低酸素血症誘発剤、生体内酸化促進剤など任意の物質を単独又は混合して該実験動物に投与しすることにより、性質の異なるNASH病態モデル実験動物を作出することが出来る。
【0062】
本発明は低酸素環境下で飼育することにより血中低酸素状態を脂肪肝動物に与え、NASH病態を誘発させるものであり、さらに詳しくは、酸素濃度及び飼育期間を調節して低酸素状態を脂肪肝動物に反復負荷を与えることによって病態の進行状態や重症度を調節することができる。更に、このような条件下で慢性肝炎誘発剤、肝硬変誘発剤、ヘモグロビンのメト化剤、低酸素血症誘発剤、並びに生体内酸化促進剤など任意の物質を投与しながら実験動物を飼育することにより、所望の病態モデル実験動物を作製することを可能とする。尚、前述の投与以外の飼育方法は、該実験動物種に応じた公知のいずれかの飼育方法に従うことが出来る。
【0063】
該対象実験動物がNASH病態の特徴を有するか否かを判定する方法としては、例えば、血漿中のヒアルロン酸濃度、AST及びALT活性、ALP(Alkaline phosphatase)活性、Bilirubin濃度、Cholinesterase活性及びalbumin濃度、等々の血液生化学的検査による推定診断及び肝生検或いは最終試料採取時に得る肝臓組織の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性・壊死、門脈域のリンパ球浸潤、等々の観察を伴う病理組織学的検査による確定診断を用いることも可能である。
【0064】
本発明において対象となる哺乳動物としては実験動物供給販売会社などから商業的に入手することの可能な医学研究用哺乳類実験動物が望ましい。
【0065】
本発明において対象となるげっ歯類動物としてマウス、ラット、モルモットおよびハムスターが挙げられるが、特にラットを好ましいものとして挙げることができる。より好ましくはWistar系ラットが挙げられる。本発明において対象となる非げっ歯類哺乳動物として、ウサギ、ブタおよびイヌがあるが、ヒトと類似した心臓血管系や臓器・組織を持つブタを更に好ましい材料として挙げることができる。より好ましくはミニブタおよびマイクロブタを挙げることが出来る。
【0066】
本発明において獲得された該病態モデル実験動物は非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変の重症化予防剤並びに治療剤の開発に供することが出来る。即ち、非アルコール性脂肪肝から、肝炎、肝線維化、肝硬変へと重症化する過程で、その予防剤並びに治療剤として有効に機能する物質の開発に本発明により得られた該病態モデル実験動物が利用できることは当然である。
【0067】
本発明において獲得された病態モデル実験動物は肝炎及び/又は肝線維化及び/又は肝硬変を指標とした生理活性物質のスクリーニングに供することが出来る。即ち、簡便且つ低コストで動物実験が可能となるため、該病態に対して有効な生理活性物質の効率的なスクリーニングを可能とする。
【0068】
上記事由により、本発明において獲得された病態モデル実験動物を低酸素血症に伴う生活習慣病の助長機構の解析と治療薬および治療法の開発に利用できる。
【0069】
また、本発明の病態モデル実験動物は、上記病態モデル実験動物を非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝硬変の重症化予防剤開発、治療剤開発に供する、あるいは、上記病態モデル実験動物を非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝硬変を指標とした生理活性物質のスクリーニングに供する、又は、上記病態モデル実験動物を低酸素血症に伴う生活習慣病の発症機構の解析及び重症化予防剤開発並びに治療剤開発及び治療法の開発に用いることを特徴とする。
【0070】
以上説明したように、本発明により、アルコール無投与による脂肪肝動物へ簡便な処置を施し、ヒトNASH病態発症および進行機序に近似させた低酸素状態を負荷する作製方法を用いて、NASHの病理組織学的特徴および生化学的特徴を実質的に安定に呈し維持するモデル動物を得ることが出来、労力をかけず且つ迅速に所定の時期に必要頭数または匹数の上記NASH病態モデル実験動物の供給を可能とする。
【0071】
低酸素血症を惹起させる処置における投与量、投与回数及び投与期間を調節して動物に与えることによって進行性のNASH病態の各進展度を有す病態モデル実験動物の供給及び/又はその作出方法の提供が可能にできる。また、低酸素血症を惹起させる処置、即ち、低酸素環境下飼育に基づく生体内低酸素状態を形成させるに際し、酸素濃度、飼育期間を調節することによって進行性のNASH病態の各進展度を有する病態モデル実験動物の供給及び/又はその作出方法の提供が可能になる。ヒトNASH病態発症および進行機序に近似させた本発明の該病態モデル実験動物により、脂肪肝から脂肪性肝炎、線維化や肝硬変への進行性疾患である該病態進展機構の医学的解明を可能とする。
【0072】
NASH治療薬や重症化抑制薬及び/又はNASH発症リスク低減機能食品や重症化リスク低減機能食品及び/又はNASH治療方法や重症化予防法の新たな開発と確立には、脂肪性肝炎、肝線維化や肝硬変の部位にどのような影響を及ぼすのか確認することは極めて重要であり、上記被験素材の作用を長期間観察することが求められる。本発明のNASH病態モデル実験動物により、重症化予防用および治療用薬剤及び、及び生理活性物質のスクリーニング重症化進展阻止および治療に有効・有用な薬剤・素材・方法の開発研究実施並びにその高品質化、迅速化を可能とする。
【発明の効果】
【0073】
以上説明したように本発明によれば、生体内低酸素状態を形成させることにより非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝硬変の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持した病態モデル実験動物を作出するようにした。これにより、NASHの病理組織学的特徴および生化学的特徴を実質的に安定に呈し維持するモデル動物を得ることが出来、労力をかけず且つ迅速に所定の時期に必要頭数または匹数の上記NASH病態モデル実験動物の供給を可能とする。
【0074】
また、本発明によれば、低酸素環境下飼育により生体内低酸素状態を形成させ、最終的に非アルコール性脂肪性肝炎及び/又は肝硬変の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を維持した病態モデル実験動物を作出するようにした。これにより、NASHの病理組織学的特徴および生化学的特徴を実質的に安定に呈し維持するモデル動物を得ることが出来、労力をかけず且つ迅速に所定の時期に必要頭数または匹数の上記NASH病態モデル実験動物の供給を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。但し、下記の実施例は発明を例示するためのものであり、本発明をいかなる意味においても限定するものではない。
【実施例】
【0076】
<非アルコール性脂肪肝担持実験動物の調製>
脂肪肝担持実験動物の調製は下記手順によって実施した。
1)実験動物
Wistar系ラット (清水実験動物)6週齢から実験飼育を開始した。12時間(7:00-19:00)の明暗、50~60%湿度および23℃の環境下で自由摂餌・自由飲水の各条件により飼育した。
【0077】
2)試験材料及び方法
非アルコール性脂肪肝動物の作製:
飼料は通常のMF飼料(オリエンタル酵母)またはコリン欠乏高脂肪飼料(8.000% ビタミンフリーカゼイン, 37.950% ラード, 48.375% シュークロース, 4.000% ハーパーミネラル, 1.050% ビタミン混合, 0.625% L-シスチン w/w、 オリエンタル酵母、以下CDHF飼料と記載)を用い飼育した。
【0078】
肝臓への中性脂肪の沈着:
MF飼料またはCDHF飼料のいずれかの給餌により1ヶ月間飼育後、エーテル麻酔下に開腹し摘出した肝臓中Triglyceride含量(mg/g肝湿重量)は、MF飼育群で12.1±1.1、CDHF飼育群で45.0±5.0で、中性脂肪の肝臓への沈着が有意に(p<0.01)惹き起こされていることが判明した。病理組織学的特徴:
上述の給餌および処置後ラットから採取した肝臓について、ホルマリン固定肝組織のヘマトキシリン・エオジン染色組織の光学顕微鏡観察により、MF飼料給餌飼育によるラット肝臓では規則正しい肝細胞索列を有する正常肝組織が観察された。同期間のCDHF給餌による飼育ラットの肝臓の大部分の肝細胞に大滴性脂肪性変化が認められた。前項の中性脂肪沈着に関する検討と本項目の病理組織学的検討結果から非アルコール性脂肪肝動物の形成されることを確認した。
【0080】
生化学的特徴:
肝障害を反映する生化学的マーカー即ち肝実質細胞質内酵素(AST : Aspartate aminotransferase、ALT:Alanine aminotransferase)の血中への逸脱:前述の肝臓摘出前に門脈から採血した試料の血漿に関してAST(KU/mL)については、MF飼育群で53.2±6.2、CDHF飼料群で66.2±8.1で有意に(p<5%)上昇し、ALT(KU/mL)については、MF飼育群で13.9±1.6、CDHF飼料群で17.6±2.3で有意差は認められなかった。
【0081】
血漿中ヒアルロン酸濃度の変化:
前述の肝臓摘出前に門脈から採血した試料の血漿に関してヒアルロン酸濃度を測定し肝線維化を検討した。ヒアルロン酸濃度(ng/ml 血漿)は、MF飼料群で87.9±7.1、CDHF飼料群で89.9±9.9で有意差は認められなかった。
【0082】
以上の生化学的検査および病理学的検査で、脂肪肝担持実験動物作製に必要な期間を決定した。CDHF飼料を用いた場合、3週間から5週間飼育により脂肪肝動物が作製された。
【0083】
実施例1)
亜硝酸ナトリウム投与による血中メトヘモグロビン形成と血中酸素分圧低下:MF飼料またはCDHF飼料にて各群8匹を1ヶ月間飼育後予備飼育後、各々を等分2群に分け1群4匹の4群に分け予備飼育期間と同じ飼料による継続飼育を行うと共に、以降、亜硝酸液ナトリウム液投与により惹起させたメトヘモグロビン血症による低酸素ストレス負荷試験を開始した。即ち、MF飼料またはCDHF飼料給餌ラットへ50 mg/kg/日 亜硝酸液ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を施した。
【0084】
亜硝酸ナトリウム液投与後ラットから経時的に即ち15、30分、1,2,3、4、5、6時間後に、予め頚動脈に留置したカニューレから採取した血液試料についてメト化ヘモグロビン量、以降メトヘモグロビン量の変動を追跡した。亜硝酸ナトリウム液(pH7.4)を50mg/kgを 腹腔内投与処置後15 分の時点で、血中メトヘモグロビン量は極大値4.6-5.5g/dlに到達し,30分後に4.30g/dl、1時間後に2.93g/dl 、2時間後に1.70g/dl、3時間後に1.0g/dl、4時間後に0.52g/dl、5時間後に0.22g/dl、 6時間以内に投与前の水準即ち対照値0.16g/dlに戻った。生理的食塩液のみの腹腔内投与では対照値の水準で推移した。なお、全ヘモグロビン量は15.4-16.6g/dlの範囲であった。
【0085】
前述の血液試料の動脈血液酸素分圧(hPa)はメトヘモグロビン量と逆相関し、亜硝酸ナトリウム液投与15 分後に極少値60-66hPaに到達し,30分後に70.5、1時間後に82.7、2時間後に94.4、3時間後に100.7、4時間後に105.2、5時間後に107.7、6時間後に108.3と推移し、6時間以内に正常範囲に戻った。生理的食塩液のみの投与では正常範囲の水準で推移した。
【0086】
動物への給餌と処置によるグループ分け:上述の動物の飼育に用いた飼料および処置による群表記は以降、正常対照群: MF飼料+ 生理食塩液腹腔内投与、CDHF群: CDHF飼料飼育+生理食塩液腹腔内投与、CDHF+亜硝酸群: CDHF飼料飼育+亜硝酸ナトリウムの生理食塩液腹腔内投与、対照+亜硝酸群: MF飼料飼育+亜硝酸ナトリウムの生理食塩液腹腔内投与の各々により示す。
【0087】
脂肪肝担持又は正常肝担持Wistar系雄性ラットへ、1ヶ月間50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い作出した動物の病理組織学的及び生化学的マーカーの変化を挙げて説明する。定量的結果は各群4匹の平均値と標準誤差で表し、1元分散分析 (ANOVA)後、群間の平均値の比較に関してはDunnett's testを用い、CDHF+亜硝酸群と血中酸素濃度を低下させる処置を施さず同期間飼育したCDHF群との比較の統計的有意差のみを記述する。
【0088】
脂肪肝の指標としての肝臓中Triglyceride含量(mg/g肝湿重量)は、1ヶ月後において正常対照群:13.2±1.4、 対照+亜硝酸群:13.2±0.9、CDHF群:66.5±8.3 、CDHF+亜硝酸群:57.3±7.1であった。
【0089】
肝臓の病理組織学的変化に関して、1ヶ月間50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い作出した動物から摘出した肝臓を4 %ホルマリン-リン酸緩衝液で固定し、常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色およびマッソン・トリクローム染色を施して光学顕微鏡下で観察したところ、CDHF+亜硝酸群で肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性・壊死、門脈域のリンパ球浸潤が見られ、その結果として小葉内に線維化を呈しており、NASH病態に特徴的な脂肪性肝炎及び/又は肝線維化の病理組織学的特徴が観察された。 CDHF群では肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性、門脈域のリンパ球浸潤が軽度に見られたが、正常対照群と対照+亜硝酸群には病理組織学的な変化は認められない。
【0090】
別に群を設け、2ヶ月間50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行ったラット肝臓の湿重量について、正常対照群、 CDHF群および 対照+亜硝酸群には著変は認められなかったが、これら3群の肝臓の湿重量の平均を100%とすると、CDHF+亜硝酸群は68±16.3%であり有意な(p<5%)萎縮が惹起されており慢性肝疾患の終末像である肝硬変にまで進行した。開腹時に腹水の貯留が観察された個体も観察された。
【0091】
2ヶ月間50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行ったラットの血漿中アンモニア濃度 (μg/dL)について、正常対照群:43.2±14.2、 CDHF群:66.7±20.5、 対照+亜硝酸群:55.1±17.4、CDHF+亜硝酸群は112.8±30.6、 であり有意な(p<5%)上昇が惹起されていた。
【0092】
肝線維化の生化学的指標とした血漿中ヒアルロン酸濃度(ng/ml 血漿)は、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した血漿を試料として検討した。正常対照群:83.3±8.6、対照+亜硝酸群:89.8±4.5、CDHF群:117.4±12.5、CDHF+亜硝酸群:240.3±38.9で、有意に(p<1%)上昇した。
【0093】
肝障害を反映する生化学的マーカーの変化に関して、肝実質細胞質内酵素の血中への逸脱に関して、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。AST(KU/mL)については、正常対照群:49.8±8.1、対照+亜硝酸群:47.4±3.8、CDHF群:112.6±16.5 、CDHF+亜硝酸群:237.2±63.7で有意に(p<1%)上昇し、ALT(KU/mL)については、対照群:12.6±1.5、対照+亜硝酸群:12.7±1.9、CDHF群:20.9±5.5 、CDHF+亜硝酸群:35.5±6.8で有意に(p<5%)上昇した。
【0094】
肝・胆道系酵素(ALP:Alkaline phosphatase、γ-GTP:γ-Glutamyl transpeptidase)の血中への逸脱に関して、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。ALP(nmol p-nitrophenol produce/min/mL 血漿)については正常対照群:89.71±3.6、対照+亜硝酸群:91.7±3.0、CDHF群:156.2±3.9 、CDHF+亜硝酸群:192.1±4.3で有意に(p<1%)上昇し、γ-GTP(IU/L 血漿)については、正常対照群:1.13±0.20、対照+亜硝酸群:0.89±0.17、CDHF群:1.12±0.12、CDHF+亜硝酸群:4.15±1.44 で有意に(p<1%)上昇した。
【0095】
血清中Bilirubin濃度(mg/dL血清)は、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。正常対照群、対照+亜硝酸群、CDHF群では検出限度以下であったが、CDHF+亜硝酸群:12.4±3.5で検出限度以上にまで有意に(p<1%)上昇した。
【0096】
慢性肝疾患における肝予備能の指標である肝での蛋白合成能を示す血中Cholinesterase活性(μ mol substrate hydrolyzed/min/mL血漿)と血清albumin濃度(mg/mL 血清)に関して、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い2ヶ月後採取した血漿を試料として検討した。Cholinesterase活性は正常対照群:2.59±0.24、対照+亜硝酸群:2.45±0.38、CDHF群:2.14±0.29、CDHF+亜硝酸群:1.34±0.33で有意に(p<1%)低下しており、血清albumin濃度は、正常対照群:54.0±3.5、対照+亜硝酸群:53.0±5.1、CDHF群:40.3±6.0、CDHF+亜硝酸群:37.9±6.0 であった。
【0097】
線維化に関与するとされ、また酸化的ストレスとも密接に関与するとされる非ヘム鉄の含量に関して、50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した血清および肝臓を試料として検討した。血清中濃度(μg/dL)は正常対照群:69.3±9.2、対照+亜硝酸群:72.1±7.5、CDHF群:70.6±9.5、CDHF+亜硝酸群:118.7±8.2で有意に(p<1%)上昇した、及び肝臓中非ヘム鉄の含量(μg/g肝湿重量)は正常対照群:120.0±9.1、対照+亜硝酸群:126.7±6.1、CDHF群:158.1±19.3、CDHF+亜硝酸群:293.7±18.7で有意(p<1%)上昇した。
【0098】
生活習慣病の基盤となる慢性的カロリー摂取過多による代謝症候群の栄養状態では、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の派生が推定され、酸化的ストレス亢進が想定される。栄養代謝の主要臓器である肝臓の細胞に脂肪沈着と酸素の供給不足がもたらされる条件設定の本申請病態モデルにおいてもこれらの機転が炎症や肝の線維化さらには肝硬変への進展に重大な役割を果たすことが想定される。
【0099】
50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い1ヶ月後採取した肝臓から分離調製したミトコンドリア分画をelectron spin resonance以降ESR分光法分析用の試料として、ミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生量を検討した。即ち、0.1% dodecyl maltoside, 5mM glutamate, 5mM malate, 100mM succinate, 500μg蛋白相当ミトコンドリア, 920mM 5,5-dimethyl-1-pyrroline-1-oxide以降DMPO, 0.1mM NADH含有試料を37℃5分間インキュベートし、活性酸素・遊離基とDMPOとのアダクトによるESRシグナルをESR分光法分析で検出した。正常対照群、対照+亜硝酸群やCDHF群ではDMPOとヒドロキシル遊離基とのスピンアダクトによるESRシグナルは痕跡程度検出されるのみに止まる程のミトコンドリアから活性酸素・遊離基の派生であったが、CDHF+亜硝酸群の肝ミトコンドリアによるESR測定試料からはDMPOとヒドロキシル遊離基とのスピンアダクトによるESRシグナル強度は、他群の3-5倍ほど増強しており、該NASHモデルのミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生が増大していた。
【0100】
実施例2)脂肪肝担持実験動物の作製は実施例1に準じて行った。
【0101】
ヒドロキシルアミン液、以降ヒドロキシアミン液(pH 7.4)の投与後の血中メトヘモグロビン形成と血中酸素分圧低下:
前述のMF飼料またはCDHF飼料にて各群4匹を1ヶ月間飼育後予備飼育後、予備飼育期間と同じ飼料による継続飼育を行うと共に、以降、ヒドロキシルアミン液投与により惹起させたメトヘモグロビン血症による低酸素ストレス負荷を開始した。即ち、MF飼料またはCDHF飼料給餌ラットへ50 mg/kg/日 ヒドロキシルアミンの生理的食塩液による溶解後pH7.4に調整液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を施した。
【0102】
ラットに予め頚動脈にカニュレーションを施し留置したシリコンチューブから15、30分、1,2,3、4、5、6時間の経時的に採取した血液試料についてメト化ヘモグロビン量、以降メトヘモグロビンの形成を追跡した。50mg/kg/日 ヒドロキシルアミン液腹腔内投与15 分後に極大値3.8-4.4g/dlに到達し,30分後に3.50g/dl、1時間後に2.42g/dl 、2時間後に1.38g/dl、3時間後に0.82g/dl、4時間後に0.42g/dl、5時間後に0.20g/dl、 6時間以内に投与前の水準即ち対照値0.15g/dlに戻った。生理的食塩液のみの腹腔内投与では対照値の水準で推移した。なお、全ヘモグロビン量は15.4-16.6g/dlの範囲であった。
【0103】
この血液を試料として測定した動脈血液酸素分圧(hPa)はメトヘモグロビン量と逆相関し、ヒドロキシルアミン液投与15 分後に極少値70-78hPaに到達し,30分後に79.6、1時間後に88.9 、2時間後に97.8、3時間後に102.6、4時間後に106.0、5時間後に108.2、 6時間後に109.3と推移し、5時間以内に正常範囲に戻った。
【0104】
動物への給餌と処置によるグループ表記:
上述のMF飼料又はCDHF飼料にて飼育ラットへの50 mg/kg/日 ヒドロキシルアミン液の腹腔内投与処置による群表記は以降、対照+ヒドロキシルアミン群、NASH-ヒドロキシルアミン群の各々により示す。なお、正常対照群およびCDHF群は実施例1の該項に記した。
【0105】
脂肪肝担持又は正常肝担持Wistar系雄性ラットへ、1ヶ月間50mg/kg/日 亜硝酸ナトリウムの生理的食塩液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い作出した動物の病理組織学的及び生化学的マーカーの変化を挙げて説明する。定量的結果は各群4匹の平均値と標準誤差で表し、1元分散分析 (ANOVA)後、群間の平均値の比較に関してはDunnett's testを用い、NASH-ヒドロキシルアミン群と血中酸素濃度を低下させる処置を施さず同期間飼育したCDHF群との比較の統計的有意差のみを記述する。
【0106】
脂肪肝の指標としての肝臓中Triglyceride含量(mg/g肝湿重量)は、1ヶ月後において正常対照群:13.2±1.4、 対照+ヒドロキシルアミン群:13.6±1.3、CDHF群:66.5±8.3 、NASH-ヒドロキシルアミン群:63.3±9.0であった。
【0107】
肝臓の病理組織学的変化に関して、1ヶ月間50mg/kg/日 ヒドロキシルアミン液又は等容量の生理的食塩液の腹腔内投与を行い作出した動物から摘出した肝臓を4 %ホルマリン-リン酸緩衝液で固定し、常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色およびマッソン・トリクローム染色を施して光学顕微鏡下で観察したところ、NASH-ヒドロキシルアミン群で肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性・壊死、門脈域のリンパ球浸潤が見られ、その結果として小葉内に線維化を呈しており、NASH病態に特徴的な脂肪性肝炎及び/又は肝線維化の病理組織学的特徴が観察された。なお、肝線維化はCDHF+亜硝酸群に比し若干軽い状態であった。 CDHF群では肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性、門脈域のリンパ球浸潤が軽度に見られたが、正常対照群と対照+ヒドロキシルアミン群には病理組織学的な変化は認められない。
【0108】
生化学的な指標の変動に関しては、亜硝酸塩投与動物の変動と同様な傾向であった。
【0109】
ミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生量は亜硝酸塩投与動物の変動と同様な傾向であった。
【0110】
実施例3)
低酸素環境下飼育と血中酸素分圧低下:通常空気中ケージ内環境でMF飼料またはCDHF飼料にて各群8匹を1ヶ月間予備飼育後、各々を等分2群に分け1群4匹の4群に分け予備飼育期間と同じ飼料による継続飼育を行うと共に、以降、通常空気中での飼育あるいは飼育ケージに混合気体を送気し低酸素環境を形成して、低酸素状態に動物を暴露させて飼育した。即ち、MF飼料またはCDHF飼料給餌ラットを各二群に分け、MF飼料給餌群とCDHF飼料給餌群の各1群は通常空気中ケージで飼育を行った。また、別のMF飼料給餌群とCDHF飼料給餌群の各1群に窒素、酸素および二酸化炭素を送気するケージで飼育し、下記組成(窒素79.01%以上、酸素20.95%以下、二酸化炭素0.04%以上)下で飼育した。
【0111】
予め頚動脈に留置したカニューレから採取した血液試料の動脈血液酸素分圧(ヘクトパスカル)は、組成(窒素89.5%、酸素10%、二酸化炭素0.5%)の混合ガス送気による低酸素暴露1時間ラットでは65ヘクトパスカル、組成(窒素82.5%、酸素15%、二酸化炭素0.5%)の混合ガス送気による低酸素暴露1時間ラットでは53ヘクトパスカルへと変化しており、通常空気中ケージで飼育した対照ラットの102ヘクトパスカルに比較して低下しており、与えた低酸素の程度に依存して動脈血中酸素分圧が低下した。
【0112】
窒素94.5%、酸素5%、二酸化炭素0.5%の組成気体を1回2分間、1時間あたり10回で毎日6時間という条件での低酸素状態に脂肪肝担持又は正常肝担持Wistar系雄性ラットを暴露させて1?2ヶ月間飼育した。動物への給餌と低酸素暴露によるグループ分け:上述の動物の飼育に用いた飼料および処置による群表記は以降、正常対照群: MF飼料+大気環境飼育、CDHF群: CDHF飼料飼育+大気環境飼育、CDHF+低酸素群: CDHF飼料飼育+低酸素組成ガス環境下飼育、対照+低酸素群: MF飼料飼育+低酸素組成ガス環境下飼育、の各々により示す。
【0113】
動物の病理組織学的及び生化学的マーカーの変化を挙げて説明する。定量的結果は各群4匹の平均値と標準誤差で表し、1元分散分析 (ANOVA)後、群間の平均値の比較に関してはDunnett's testを用い、CDHF+低酸素群と血中酸素濃度を低下させる処置を施さず同期間飼育したCDHF群との比較の統計的有意差のみを記述する。
【0114】
低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育期間1ヵ月後において、全ヘモグロビン量(g/dl)は、正常対照群16.0±1.9、対照+低酸素群:18.1±2.2、CDHF群:15.8±2.1、CDHF+低酸素群:17.7±2.3であった。
【0115】
脂肪肝の指標としての肝臓中Triglyceride含量(mg/g肝湿重量)は、1ヶ月後において正常対照群:13.2±1.4、 対照+低酸素群:16.6±2.9、CDHF群:66.5±8.3 、CDHF+低酸素群:76.1±9.2であった。
【0116】
肝臓の病理組織学的変化に関して、摘出肝臓を4 %ホルマリン-リン酸緩衝液で固定し、常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色およびマッソン・トリクローム染色を施して光学顕微鏡下で観察し、病理組織学的検査での肝障害の程度に応じて、A:著変なし?弱い変化、B:一部に偽小葉(線維化)形成、C:明瞭な偽小葉形成、D:高度な障害/残存細胞が少ない、の4段階にグレード付けした。ヒトの慢性肝炎及び/又は肝硬変の像に類似しているC又はDを示す標本を慢性肝炎及び/又は肝硬変の病理組織学的特徴を有すると判定した。CDHF+低酸素群において、低酸素暴露開始1ヵ月後摘出肝臓において、肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性・壊死、門脈域のリンパ球浸潤が見られ、その結果として小葉内に線維化を呈しておりグレードCのNASH病態に特徴的な脂肪性肝炎及び/又は肝線維化の病理組織学的特徴が観察された。 CDHF群では肝細胞の大滴性脂肪性変化、肝細胞の変性、門脈域のリンパ球浸潤が軽度に見られるA?Bで、正常対照群と対照+低酸素群には病理組織学的な変化は認められなかった。
【0117】
低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育期間2ヵ月後、ラット血漿中アンモニア濃度 (μg/dL)について、正常対照群:43.2±14.2、 CDHF群:66.7±20.5、 対照+低酸素群:45.3±18.2、CDHF+低酸素群は84.1±25.7であり上昇傾向が見られた。
【0118】
低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育期間1ヵ月後、肝線維化の生化学的指標とした血中ヒアルロン酸濃度(ng/ml 血漿)を採取した血漿を試料として検討した。正常対照群:83.3±8.6、対照+低酸素群:79.9±6.1、CDHF群:117.4±12.5、CDHF+低酸素群:164.7±20.9で、有意に(p<5%)上昇した。
【0119】
肝障害を反映する生化学的マーカーの変化に関して、肝実質細胞質内酵素の血中への逸脱に関して、低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。AST(KU/mL)については、正常対照群:49.8±8.1、対照+低酸素群:63.1±9.3、CDHF群:112.6±16.5 、CDHF+低酸素群:176.7±37.1で有意に(p<5%)上昇し、ALT(KU/mL)については、対照群:12.6±1.5、対照+低酸素群:14.3±1.7、CDHF群:20.9±5.5 、CDHF+低酸素群:27.6±4.1 で上昇傾向にあった。
【0120】
肝・胆道系酵素(ALP:Alkaline phosphatase、γ-GTP:γ-Glutamyl transpeptidase)の血中への逸脱に関して、低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。ALP(nmol p-nitrophenol produce/min/mL 血漿)については正常対照群:89.71±3.6、対照+低酸素群:94.6±4.7、CDHF群:156.2±3.9 、CDHF+低酸素群:211.1±14.3で有意に(p<1%)上昇し、γ-GTP(IU/L 血漿)については、正常対照群:1.13±0.20、対照+低酸素群:1.29±0.22、CDHF群:1.12±0.12、CDHF+低酸素群:3.37±0.90 で有意に(p<5%)上昇した。
【0121】
血清中Bilirubin濃度は、低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い1ヶ月後採取した血清を試料として検討した。正常対照群、対照+低酸素群、CDHF群では検出限度以下であったが、CDHF+低酸素群:7.7±2.4mg/dL血清で検出限度以上にまで上昇した。
【0122】
慢性肝疾患における肝予備能の指標である肝での蛋白合成能を示す血清albumin濃度(mg/mL 血清)に関して、低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い2ヶ月後採取した血漿を試料として検討した。正常対照群:54.0±3.5、対照+低酸素群:50.0±4.3、CDHF群:40.3±6.0、CDHF+低酸素群:34.3±6.6で有意に(p<5%)低下した。
【0123】
線維化に関与するとされ、また酸化的ストレスとも密接に関与するとされる非ヘム鉄の含量に関して、低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い1ヶ月後採取した血清および肝臓を試料として検討した。血清中濃度(μg/dL)は正常対照群:69.3±9.2、対照+低酸素群:66.2±5.7、CDHF群:70.6±9.5、CDHF+低酸素群:78.7±8.2であった。肝臓中非ヘム鉄の含量(μg/g肝湿重量)は正常対照群:120.0±9.1、対照+低酸素群:117.9±7.1、CDHF群:158.1±19.3、CDHF+低酸素群:217±20.5で有意(p<5%)上昇した。
【0124】
生活習慣病の基盤となる慢性的カロリー摂取過多による代謝症候群の栄養状態では、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の派生が推定され、酸化的ストレス亢進が想定される。栄養代謝の主要臓器である肝臓の細胞に脂肪沈着と酸素の供給不足がもたらされる条件設定の本申請病態モデルにおいてもこれらの機転が炎症や肝の線維化さらには肝硬変への進展に重大な役割を果たすことが想定される。
【0125】
低酸素暴露あるいは通常大気中飼育による飼育を行い1ヶ月後採取した肝臓から分離調製したミトコンドリア分画をelectron spin resonance以降ESR分光法分析用の試料として、ミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生量を検討した。即ち、0.1% dodecyl maltoside, 5mM glutamate, 5mM malate, 100mM succinate, 500μg蛋白相当ミトコンドリア, 920mM 5,5-dimethyl-1-pyrroline-1-oxide以降DMPO, 0.1mM NADH含有試料を37℃5分間インキュベートし、活性酸素・遊離基とDMPOとのアダクトによるESRシグナルをESR分光法分析で検出した。正常対照群、対照+低酸素群やCDHF群ではDMPOとヒドロキシル遊離基とのスピンアダクトによるESRシグナルは痕跡程度検出されるのみに止まる程のミトコンドリアから活性酸素・遊離基の派生であったが、CDHF+低酸素群の肝ミトコンドリアによるESR測定試料からはDMPOとヒドロキシル遊離基とのスピンアダクトによるESRシグナル強度は、他群の2-3倍ほど増強しており、該NASHモデルのミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生が増大していた。
【0126】
実施例4)
実験動物や飼育方法などの条件は実施例3に準じ、脂肪肝担持実験動物の作製は高脂肪飼料(37.950% ラード, 48.375% シュークロース, 4.000% ハーパーミネラル, 1.050% ビタミン混合, 0.625% L-シスチン w/w、 オリエンタル酵母、以下高脂肪飼料と記載)を用い、シュークロース添加水を与えて飼育した。2ヵ月以上飼育することで行った。
【0127】
肝臓への中性脂肪の沈着:
高脂肪飼料給餌により3ヶ月間飼育後、エーテル麻酔下に開腹し摘出した肝臓中Triglyceride含量(mg/g肝湿重量)は、MF飼育群で12.1±1.1、CDHF飼育群で26.0±5.2で、中性脂肪の肝臓への沈着が有意に(p<0.05)惹き起こされていることが判明した。高脂肪食による脂肪肝担持実験動物へ、低酸素ストレスを実施例1に準じ負荷することによっても、線維化を示す肝臓の病理組織学的変化や血液生化学的指標およびミトコンドリアでのエネルギー代謝からの活性酸素・遊離基の発生増大が惹起され、NASHモデル動物が作成できた。