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明細書 :低抗原性のHBsAg粒子及びその作製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5147697号 (P5147697)
登録日 平成24年12月7日(2012.12.7)
発行日 平成25年2月20日(2013.2.20)
発明の名称または考案の名称 低抗原性のHBsAg粒子及びその作製法
国際特許分類 C07K  14/02        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A61K   9/51        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
FI C07K 14/02 ZNA
C12P 21/02 C
C12N 15/00 A
A61K 9/51
A61K 47/42
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2008-528881 (P2008-528881)
出願日 平成19年8月9日(2007.8.9)
国際出願番号 PCT/JP2007/065646
国際公開番号 WO2008/018555
国際公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
優先権出願番号 2006220346
優先日 平成18年8月11日(2006.8.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年8月6日(2010.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】山田 一朗
【氏名】妹尾 昌治
【氏名】多田 宏子
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100099988、【弁理士】、【氏名又は名称】斎藤 健治
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 国際公開第01/064930(WO,A1)
国際公開第03/082330(WO,A1)
Drug Delivery System, 2006.07.31, Vol.21. No.4, p.435-443
J. Virol., 2002, Vol.76, No.19, p.10060-10063
日本蛋白質科学会年会プログラム・要旨集, 2007.05.07, Vol.7th, p.135,3P-091
調査した分野 C07K 14/02
A61K 9/51、38/00、45/00、47/42、48/00
C12N 15/09
C12P 21/02
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
トB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)のC末端の54個のポリペプチド及びSポリペプチド部分の105位~154位のアミノ酸欠失しており、前記105位~154位のアミノ酸が欠失した部位にPro-Aspリンカーペプチドを有することを特徴とする、HBsAgタンパク質改変体。
【請求項2】
前記HBsAgタンパク質改変体がさらに細胞認識部分を含む、請求項1に記載のHBsAgタンパク質改変体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のHBsAgタンパク質改変体を構成要素とする、HBsAg中空粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のHBsAgタンパク質改変体をコードする遺伝子を含む発現ベクターを真核生物細胞に導入して該細胞を形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、請求項に記載のHBsAg粒子を回収することを特徴とする、HBsAg粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載のHBsAg中空粒子の内部に、DNA、RNA、タンパク質、脂質、糖質、標識物質、薬物、細胞内で機能し得る生理活性物質からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質を有する物質運搬体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、低抗原性のHBsAg粒子及びその作製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年医学の分野において、目的細胞あるいは目的組織に対して特異的に薬剤等の有効成分を運搬し目的箇所のみで作用発現させる事を目的とするドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目されている。我々は目的細胞あるいは目的組織に対して特異的に薬剤を送達しうる有効なDDSとして、粒子形成能を有するタンパク質に生体認識部位が導入された中空ナノ粒子を用いて、目的とする細胞や組織に物質を特異的かつ安全に運搬する方法を提案してきた(特許文献1~4)。
【0003】
しかし、この中空ナノ粒子を形成するタンパク質として利用しているウィルス外皮タンパク質は、人体内に投与された時ウィルス同様の抗原性と抗体誘導能を示してしまう。そのため、1)該ウィルス感染患者や該ウィルスワクチン投与によりすでに抗ウィルス抗体を保有している患者では、投与された中空ナノ粒子が抗ウィルス抗体により中和されるために、2)中空ナノ粒子を連続投与した場合には、自身に対する抗体が誘導されてその抗体により中和されるために、投与された中空ナノ粒子が目的とする薬剤送達能を発揮できない可能性がある。さらに、副作用としてアナフィラキシーの懸念も排除できない。そのため、この抗原性および免疫原性の克服は、中空ナノ粒子の医薬応用のための課題となっていた。

【特許文献1】WO03/82344
【特許文献2】特開2003-286198
【特許文献3】特開2004-2313
【特許文献4】WO03/82330
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、より抗原性/免疫原性の低い中空ナノ粒子及びその構成タンパク質、該タンパク質を構成要素とする粒子並びにその調製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、粒子形成能を有するB型肝炎ウイルス外皮タンパク質(B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質:HBsAg)配列から、中空粒子表面に存在し、抗原エピトープになりやすく、かつ粒子形成能を損なわない配列を欠失させる事により、抗原性および免疫原性の低い中空ナノ粒子を形成し得ることを見出した。
【0006】
本発明は、以下の発明を包含する。
1. Sポリペプチド部分を含むヒトB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質(HBsAg)において、該Sポリペプチド部分の少なくとも105位~148位のアミノ酸を欠失していることを特徴とする、HBsAgタンパク質改変体。
2. 前記HBsAgタンパク質改変体がさらに細胞認識部分を含む、項1に記載のHBsAgタンパク質改変体。
3. Sポリペプチド部分において、さらに以下の(a)~(c)の少なくとも1種の欠失を有する項1または2に記載のHBsAgタンパク質改変体:
(a) 101~104位の少なくとも1個のアミノ酸の欠失、
(b) 149~154位の少なくとも1個のアミノ酸の欠失、
(c) HBsAgのC末端の54個のポリペプチドにおける少なくとも1個のアミノ酸の欠失。
4. HBsAgタンパク質改変体が、Sポリペプチド部分に加えて、PreS部分の非細胞認識部位又はその一部を含み、さらに、PreS部分に由来する肝細胞認識部分、抗体、成長因子、サイトカイン、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプター、ウィルスおよび微生物に由来する分子並びに糖鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種の細胞認識部分を含む、項1~3のいずれかに記載のHBsAgタンパク質改変体。
5. 105位~148位を含む欠失部位に、リンカーペプチドを有する項1~4のいずれかに記載のHBsAgタンパク質改変体。
6. リンカーペプチドが、2~4個のアミノ酸残基からなる項5に記載のHBsAgタンパク質改変体。
7. リンカーペプチドが、ヘリックスを壊すアミノ酸残基(Gly, Pro, Asn, Tyr)、ターン構造に多いアミノ酸残基(Asn, Gly, Pro, Asp, Ser, Trp)、膜界面に留まりにくいアミノ酸残基(Glu, Asp, Lys, His, Arg, Gln, Pro,Asn)からなる群から選ばれるアミノ酸の組み合わせからなる項5又は6に記載のHBsAgタンパク質改変体。
8. リンカーペプチドが、PD、QE、PSSSまたはPDNGである項5~7のいずれかに記載のHBsAgタンパク質改変体。
9. 項1~8のいずれかに記載のHBsAgタンパク質改変体を構成要素とする、HBsAg中空粒子。
10. 項1~8のいずれかに記載のHBsAgタンパク質改変体をコードする遺伝子を含む発現ベクターを真核生物細胞に導入して該細胞を形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、項9に記載のHBsAg粒子を回収することを特徴とする、HBsAg粒子の製造方法。
11. 項9に記載のHBsAg中空粒子の内部に、DNA,RNA、タンパク質、脂質、糖質、標識物質、薬物、細胞内で機能し得る生理活性物質からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質を有する物質運搬体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抗原性の低い中空ナノ粒子を高収率で得ることができ、該中空ナノ粒子は、細胞への遺伝子、タンパク質などの物質導入能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】野生型エンベロープタンパク質(HBsAg Lタンパク質)とMSL欠損変異体の構造
【図2】各種MSL欠失Lタンパク質発現ベクターの構築
【図3】MSL欠損変異体とヤギ抗HBsAg抗体との反応性M6-d54-3xFLAG(HBsAg陽性対照、PC)、MSL(108-148)/PD-d54、MSL(108-148)/QE-d54各変異体発現ベクターでトランスフェクトしたCos7細胞を抗FLAG-tag抗体を用いたwestern blottingとヤギ抗HBsAg抗体を用いたwestern blottingで解析した。陽性対照M6-d54-3xFLAG変異体と比較して、MSL欠損変異体タンパク質は抗FLAG抗体では同程度検出されるのに対し、抗HBsAg抗体ではほとんど検出されなかった。
【図4】WT-d54-3xFLAG、 MSL(105-148)/PD-d54、 MSL(105-152)/PD-d54、 MSL(105-154/PD)-d54粒子を抗HBsAg抗体(下段)と抗FLAG抗体(上段)によるウエスタンブロティングで検出した。右表は、左図の各バンドの濃さをイメージソフトで数値化し、陽性対照(WT-d54-3xFLAG)を100として表記した。欠失変異体のバンドは、抗FLAG抗体ではWT-d54-3xFLAGと同等の以上に反応したが、抗HBsAg抗体に対する反応性は欠損領域が広くなるにつれ低下した。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の中空ナノ粒子形成のために利用し得る変異タンパク質として、ヒトB型肝炎ウィルス外皮タンパク質(表面抗原タンパク質、HBsAg)が挙げられる。
【0010】
B型肝炎ウィルス表面抗原Lタンパク質(HBsAgL)は、粒子形成能力と標的細胞認識能力を有する。HBsAgLタンパク質はN末端側のPreS領域とC末端側のSタンパク質領域からなる。このうちPreS領域は標的細胞(ヒト肝細胞)認識能力を担うが、標的組織を変換した中空ナノ粒子作成の際には、別の標的認識配列と置換される。従って、PreS領域は中空ナノ粒子全てに共通する領域ではない。一方、Sタンパク質部分は粒子構造形成に関与することから、中空ナノ粒子全てに共通する。
HBsAgに包含され、S粒子の構成要素であるSタンパク質(226アミノ酸)は、粒子形成能を有している。Sタンパク質に55アミノ酸からなるPre-S2を付加したのがMタンパク質(M粒子の構成蛋白)であり、M蛋白に108アミノ酸(サブタイプy)または119アミノ酸(サブタイプd)からなるPre-S1を付加したものがLタンパク質(L粒子の構成蛋白)である。なお、本願明細書では特に断らない限り、Pre-S1領域のアミノ酸位置の番号付けは、108アミノ酸のサブタイプyに基づいて行う。
【0011】
HBsAgは、adr型、adw型、ayw型の3種類のタイプがあり、Pre-S1のadr型は108 a.a.、adw型は115 a.a.、ayw型は119 a.a.である。Pre-S2は、adr型、adw型、ayw型ともに、55 a.a.である。さらに、Sは、adr型、adw型、ayw型ともに、226 a.a.である。
【0012】
adr型のLタンパク質(配列番号45)は、Pre-S1(108 a.a.)、Pre-S2(55 a.a.)、S(226 a.a.)からなる389アミノ酸のタンパク質である。
【0013】
なお、本明細書において、pGLDLIIP39-RcTのLタンパク質(Pre-S1→108 a.a.、Pre-S2→49 a.a.、S→226 a.a.)は、配列番号45のadr型のLタンパク質において152位-157位のSIFSRTの6個のアミノ酸残基(プロテアーゼ感受性配列)が欠失したものである。
【0014】
Lタンパク質、Mタンパク質はSタンパク質と同様に粒子形成能を有している。従って、PreS1およびPreS2の2つの領域は任意に置換、付加、欠失、挿入を行ってもよい。例えばPre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質を用いることで、肝細胞認識能を失った中空粒子を得ることができる。また、PreS2領域にはアルブミンを介して肝細胞を認識する部位が含まれているので、このアルブミン認識部位を欠失させることもできる。
【0015】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体としてLタンパク質、Mタンパク質などの肝細胞を認識可能なタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合には、細胞認識部位を導入する必要はない。一方、Pre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質、或いはPreS1とPreS2の両方の領域を欠失させたタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合、そのままでは細胞認識ができないので、細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の任意の細胞を認識させ、前記ポリマー/核酸複合体を種々の標的細胞に導入することができる。このような特定の細胞を認識する細胞認識部位としては、例えば成長因子、サイトカイン等のポリペプチドからなる細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するためのポリペプチド分子、ウィルスおよび微生物に由来するポリペプチド分子、抗体、糖鎖などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL-2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。
【0016】
細胞認識部位がポリペプチドである場合には、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAと細胞認識部位をコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させることにより、任意の標的細胞を認識する中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0017】
細胞認識部位が抗体である場合、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAとZZタグをコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させ、得られた中空バイオナノ粒子と標的細胞を認識し得る抗体を混合することにより、目的とする、中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0018】
細胞認識部位が糖鎖の場合、糖転移酵素を使用して、細胞認識能を持たない中空バイオナノ粒子にシアリルルイスXなどの細胞を認識可能な糖鎖を連結することにより、得ることができる。
【0019】
HBsAg Lタンパク質の上記Pre-S(Pre-S1、Pre-S2)は、HBVが肝細胞に結合する際に重要な役割を担う。一方、Sタンパク質部分は、粒子構造形成能を持つ。Sタンパク質は、8-26残基部および80-98残基部に膜貫通helix(transmembrane配列、N末端側よりTM1およびTM2)を持ち、C末端部156-226残基にも非常に高い疎水性を示す膜相互作用領域を持つ。TM2とC末端疎水部に挟まれた領域(Sタンパク質の99~154残基)は、HBsAg粒子の外側に出ており、そのため抗HBsAg抗体に認識されるエピトープがこの領域に多いことから、major surface loop(以下MSLと略す)あるいはmajor antigenic loopと呼ばれる。また、C末端疎水領域(156-226)にも抗体認識エピトープがマッピングされている。HBsAg Lタンパク質、HBsAg Mタンパク質、あるいはHBsAg Sタンパク質を真核細胞で発現させると、同タンパク質は小胞体膜上に膜タンパク質として合成蓄積され、その後分子間で凝集を起こし、小胞体膜を取り込みながら出芽形式でルーメン側に粒子として放出され、最終的には培養上清中に分泌される。
【0020】
抗体認識部位除去の方法としては、特定の主要抗原エピトープに対応するアミノ酸残基を置換する事により抗原性および免疫原性を減弱できることも報告されているが、広範囲に渡って複数箇所存在する他の抗原エピトープに対する効果はほとんどないし、弱まったとは言え置換変異導入後の配列が抗原性を示す可能性も排除できない。
【0021】
そこで、これらの抗体認識部位をコードする配列そのものをできる限り大きく欠失させた中空ナノ粒子の作成を検討した結果、主要親水性領域ほぼ全域に相当する44アミノ酸(105-148)と、必要であればさらに(a) 101~104位、(b) 149~154位、(c) HBsAgのC末端の71個(156-226)のポリペプチドの少なくとも1個のアミノ酸の欠失とを組み合わせたHBsAg変異体が粒子を形成し得、かつ、粒子発現量も十分に高いことを見出した。
【0022】
本発明では、105-148に加えて、101-104と149-154の一部又は全部を欠失し、必要に応じてリンカーアミノ酸/リンカーペプチドを導入することができる。好ましいリンカーの長さとしては、2~4個のアミノ酸が挙げられる。
本発明の実施例では、欠失されるMSLの両側に、DNA構築の都合で導入される制限酵素サイト由来の置換配列(N末端側の1アミノ酸(Gly(G))と、C末端側の2アミノ酸Ser-Trp(SW);合計3残基の置換)が導入される。この場合、リンカー配列を考える際には、MSL(108-148)PD変異体(MSL108-148欠損PDリンカー挿入)は、リンカー配列と置換配列を一体としてMSL(107-150)GPDSW変異体(MSL107-150欠損GPDSWリンカー挿入)と考えることもできる。このような、リンカーの両側に導入され得る制限酵素サイト由来の置換配列は、制限酵素(サイト)の選択、欠失されるアミノ酸配列の両側の塩基配列などにより変わり得る。
【0023】
図1に示されるように、MSLを欠失させると、TM2(膜貫通ヘリックス2)とC末端疎水性領域とが連結される。この2つの構造の間には、まずTM2ヘリックス構造を打止め、そのC末端部を膜外に引っぱり出し、そして引き続きターンして、膜内に戻ってC末端疎水領域に繋げる配列を導入するのが望ましい。
【0024】
リンカーの長さとしては、いわゆる折り返し構造は4残基であるが完全に折り返さない方が良い可能性もある事から、2~4残基が好ましく例示される。リンカーとして導入されるアミノ酸としては、ヘリックスを壊すアミノ酸残基(Gly, Pro, Asn, Tyr)、ターン構造に多いアミノ酸残基(Asn, Gly, Pro, Asp, Ser, Trp)、膜界面に留まりにくい(膜外に出易い)アミノ酸残基(Glu, Asp, Lys, His, Arg, Gln, ProAsn)の組み合わせが挙げられ、特に限定されない。具体的には、Pro-Asp(PD)、Gln-Glu(QE)、Pro-Asp-Asn-Gly(PDNG)、Pro-Ser-Ser-Ser(PSSS)、Pro-Lys、Asp-Proなどが挙げられる。
【0025】
本発明において、Sタンパク質部分に含まれるCys残基をSer、Ala等の他のアミノ酸に置換することもできる。具体的には、76位、90位,107位、137位、149位のCysをSer、Ala等の他のアミノ酸に置換することができる。好ましい置換の例示としては、Cys76/Ala、Cys 90/ Ala、Cys 107/Ser、Cys 137/ Ser、Cys 139/ Ser、Cys 149/ Ser、Cys 221/ Ala が例示される。
【0026】
非特許文献1には、S蛋白の107-146を欠失させることは記載されているが、その欠失タンパク質の製造効率、物質導入剤としての有用性などについては記載されていない。むしろ、遺伝子の導入効率はこの欠失により低下することが記載されている。
<nplcit num="1"><text>O'Malley B, Lazinski D. J Virol. 2002 Oct;76(19):10060-3</text></nplcit>
【0027】
本発明では、主要抗原ループに関して、105-148が欠失可能であり、101-104、149-154のアミノ酸、さらにはC末端疎水性領域のC末端側54アミノ酸残基領域の欠失が可能である。例えば、(101-154)あるいは(105-154)のアミノ酸配列の欠失が特に好ましい。本発明の目的から考えると、欠失領域は多ければ多いほど望ましい。
【0028】
HBsAg変異タンパク質などの粒子を構成するタンパク質には、特定の細胞を認識する分子をSタンパク質に直接或いはリンカーを介して連結し、あるいはPreS領域に導入することによって、標的細胞あるいは標的組織に特異的に物質を導入することもできる。このような特定の細胞を認識する分子としては、例えば成長因子、サイトカイン等の細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するための分子、ウィルスおよび微生物に由来する分子、抗体、糖鎖(例えばシアリルルイスX)などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL-2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。これらは、目的とする細胞、あるいは組織に応じて適宜選択される。細胞認識分子は、公知の方法に従いHBsAg変異タンパク質に導入できる。
【0029】
本発明の低抗原性の粒子は、真核細胞でHBsAg変異タンパク質を発現させることにより得られるものが挙げられる。粒子の製造法は、特許文献1~4等に記載され、HBsAgの調製法は、Vaccine. 2001 Apr 30;19(23-24):3154-63. Physicochemical and immunological characterization of hepatitis B virus envelope particles exclusively consisting of the entire L (pre-S1 + pre-S2 + S) protein. Yamada T, Iwabuki H, Kanno T, Tanaka H, Kawai T, Fukuda H, Kondo A, Seno M, Tanizawa K, Kuroda S.に記載されている。
【0030】
真核細胞で本発明のHBsAg変異タンパク質を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜蛋白として発現、蓄積され、ナノ粒子として放出されるので好ましい。真核細胞としては、哺乳類等の動物細胞(例えばCHO細胞)、昆虫細胞(バキュロウイルスを用いる発現系など)、酵母等が挙げられる。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。また、必要に応じて細胞認識分子を粒子を構成するタンパク質の少なくとも一部に導入することにより、肝細胞或いは他の細胞に対する本発明のナノ粒子の細胞選択性を高めることができる。
【実施例】
【0031】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能で有る事は言うまでもない。
【0032】
以下の図1において、HBsAgとはHBVの外被タンパク質であるB型肝炎ウィルス表面抗原(Hepatitis B virus surface Antigen)を示す。HBsAgは226個のアミノ酸から構成されるSタンパク質を含んでいる。Sタンパク質のN末端側に55アミノ酸(Pre-S2 peptide)が付加したものがMタンパク質、Mタンパク質のN末端側に108もしくは119アミノ酸(PreS1 peptide)が付加したものがLタンパク質である(108アミノ酸が付加したものを図1に示す)。なお、以下の実施例では、L蛋白質として、N末端に分泌シグナル配列を付加し、PreS2領域内のプロテアーゼ感受性配列(配列番号45の152-157位の6個のアミノ酸)を除去したものを使用した。
【0033】
実施例1.Major surface loop (MSL)欠失Lタンパク質発現ベクターの構築
(1)C末端に検出用FLAGタグ配列を付加したHBsAg Lタンパク質発現プラスミドの構築
MSL欠失変異体作成に先立ち、C末端に検出用エピトープタグ配列を融合したLタンパク質を作成した。すなわち、野生型Lタンパク質のC末端54アミノ酸を欠損させFLAGタグ配列を融合した変異体(L-d54-FLAG)の動物発現用プラスミドpBO747をXhoIで切断し、FLAG-tag配列を2回含む合成DNA(配列番号1&2)を挿入連結することにより、FLAG-tag配列3回が融合したタンパク質(L-d54-3xFLAG)発現用プラスミドpBO982を構築した。さらに得られたプラスミドpBO982を鋳型として、L-d54-3xFLAG タンパク質のS領域に存在する13個のCys残基のうち6個をSer残基あるいはAla残基に置換した変異体(M6-d54-3xFLAG)発現用プラスミドpBO851を構築した。具体的には、Cys76/Ala、Cys 90/ Ala、Cys 107/Ser、Cys 137/ Ser、Cys 139/ Ser、Cys 147/ Ser、Cys 149/ Serの置換変異を導入した。なお、以後のアミノ酸配列番号は、Sタンパク質の配列番号である。
【0034】
(2)MSL欠失Lタンパク質発現ベクターの構築
上記のM6-d54-3xFLAG発現用プラスミドpBO851を鋳型とし、合成DNA配列番号3&4(表1)を用いた部位特異的変異導入により、Sタンパク質Cys107残基相当位置に制限酵素ApaIサイトを導入し、さらに合成DNA配列番号5&6(表1)を用いた部位特異的変異導入を重ねて行う事によりCys149残基相当位置に制限酵素PvuIIサイトが導入されたプラスミドpBO900を得た。このpBO900を制限酵素ApaIとPvuIIで切断した後、表2に示す配列番号7&8、9&10、11&12、13&14の合成DNA4組を各々挿入連結することにより、Sタンパク質の第108-148残基を欠失し、リンカー配列としてPro-Asp(PD)、Gln-Glu(QE)、Pro-Asp-Asn-Gly(PDNG)、あるいはPro-Ser-Ser-Ser(PSSS)が挿入された4種のMSL欠失Lタンパク質変異体(MSL(108-148)/QE-d54, MSL(108-148)/PD-d54, MSL(108-148)/PDNG-d54, あるいはMSL(108-148)/PSSS-d54)発現ベクター(pBO940、pBO941、pBO942、pBO943)を構築した。
【0035】
同様に、上記のMSL(108-148)/PD-d54発現用プラスミドpBO941を鋳型とし、表1に示す配列番号15&16、17&18、あるいは19&20の合成DNA3組を用いた部位特異的変異導入により、各々Leu98, Tyr100, Gly102に相当する位置に2つ目の制限酵素ApaIサイトを導入した後、得られたプラスミドDNAをApaIで切断し再結合させることによって、Sタンパク質MSL領域の第99-148残基、第101-148残基、あるいは第103-148残基を各々欠失させ、PDリンカー配列を挿入された3種のMSL欠失Lタンパク質(MSL(99-148)/PD-d54, MSL(101-148)/PD-d54, MSL(103-148)/PD-d54)発現ベクター(pBO987、pBO989、pBO991)を各々構築した。
【0036】
また、上記で作成されたプラスミドDNA、pBO987、pBO989、pBO991、およびpBO941に、さらに表1の合成DNA配列番号21&22を用いた部位特異的変異導入を加える事により、Ser155残基相当位置へ制限酵素PvuIIサイトを導入した。得られたプラスミドDNAを制限酵素ApaIとPvuIIで切断した後、表2の合成DNA配列番号9&10を挿入連結させることにより、MSL領域第99-154残基、第101-154残基、第103-154残基、あるいは第108-154残基を各々欠失しPDリンカー配列が挿入された合計4種のMSL欠失Lタンパク質(MSL(99-154)/PD-d54, MSL(101-154)/PD-d54, MSL(103-154)/PD-d54, MSL(108-154)/PD-d54)発現ベクター(pBO995、pBO997、pBO999、pBO1003)を構築した。
【0037】
さらに、上記のMSL(108-148)/PD-d54 およびMSL(108-154)/PD-d54発現用プラスミド(pBO941、pBO1003)を鋳型とし、表1の合成DNA配列番号21&22を用いた部位特異的変異導入により3残基(Pro105, Val106, Gly107残基)を欠失させることにより、Sタンパク質の第105-148残基あるいは第105-154残基を欠失し、PDリンカー配列が挿入された2種のMSL欠失Lタンパク質(MSL(105-148)/PD-d54, MSL(105-154)/PD-d54)発現ベクター(pBO993、pBO1001)を各々構築した。
【0038】
なお、上記と同様の方法により、部位特異的変異導入に使用される合成DNA を代えることにより、本発明に包含される他の変異HBsAgを得ることができる。
【0039】
以上により構築されたMSL欠失Lタンパク質発現ベクターの名称と、コードされるMSL欠失Lタンパク質の名称、および欠失部位周辺のアミノ酸配列を表3に示す。
【0040】
実施例2
(1)MSL欠失Lタンパク質粒子の動物細胞による発現
サル腎由来細胞株COS 7は、ウシ胎児血清(FBS)5%を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、37℃、5%CO2存在下で培養した。COS7細胞を1x105 cells/mlとなるように10%FBS含有DMEMに浮遊し、3.5cmディッシュへ2mlずつ播種して14~16時間培養した。1.5mlチューブにDMEM 95μlとトランスフェクション試薬FuGene6(Roche Diagnostics社)4μlとを混合した後、実施例1で構築した各MSL欠失Lタンパク質発現プラスミドDNA(1μg/μl溶液)を1μl加えて混合した。室温で15分放置して複合体を形成させた後、その全量を上記COS7細胞に添加した。14~16時間培養した後、培地を1.5mlの無血清培地CHO-S-SFMII(インビトロージェン社)に交換し、さらに2日間培養後、培養上清と細胞を各々回収した。
【0041】
(2)抗FLAG抗体を用いた酵素免疫測定法(FLAG-ELISA)によるMSL欠失L粒子の定量
マウス抗FLAG M2抗体(Sigma社)を固相に、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma社)と西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Prozyme社)とを液相に用いた酵素免疫測定法(FLAG-ELISA)により、培養上清あるいは細胞抽出液中のMSL欠失L粒子濃度を測定した。 被検試料、液相抗体および液相標識体の希釈には、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むTBS(150mM NaCl, 10mM Tris-HCl, pH7.5)を用い、96wellマイクロプレート表面のブロッキングには5%スキムミルクを含むTBSを用いた。HRP基質にはo-フェニレンジアミン溶液(0.4mg/ml o-フェニレンジアミン, 23mM クエン酸、51.4mM Na2HPO4、0.0012%H2O2)を用い、495nmにおける吸光度測定により定量した。野生型L粒子発現COS7細胞培養上清を陰性コントロールとして、L-d54-3xFLAG粒子発現COS7細胞培養上清を陽性コントロールとして、各々用いた。
【0042】
回収した各MSL欠失Lタンパク質発現COS7細胞培養上清を2倍~4倍希釈した後、上記FLAG-ELISAで測定した結果を表4および表5に示す。 MSL(108-148)欠失体で挿入リンカー配列の影響を比較した場合(表4)、4アミノ酸残基挿入型(PSSS、PDNG)よりも2アミノ酸残基挿入型(QE、PD)の方が粒子分泌量が多かった。またPD挿入型でMSL欠失領域を比較した場合(表5)、MSL(105-154)欠失L蛋白質が最も高い粒子分泌量(WT-d54-3xFLAGの1.65倍)を示した。一方、MSL(99-148)およびMSL(99-154)欠失Lタンパク質およびMSL(108-148)およびMSL(108-154)欠失Lタンパク質の分泌量は低かった。 その他はWT-d54-3xFLAGの59-108%の粒子分泌量を示した。
【0043】
実施例3 MSL欠失L粒子と抗HBsAg抗体との反応性
(1)HBsAg診断用キットによる検出
IMX HBsAg アッセイシステム(ダイナボット社)はマウス抗HBsAgモノクローナル抗体とビオチン化ヤギ抗HBsAgポリクローナル抗体およびアルカリフォスファターゼ(AP)標識抗ビオチン抗体を用いた酵素免疫測定法に基づくHBsAg自動測定システムであり、HBV感染の血液診断に用いられている。このシステムを用いて、培養上清中に分泌された各種MSL欠失L粒子と抗HBsAg抗体との反応性を測定した。回収したMSL欠失Lタンパク質発現COS7細胞培養上清を1%FBSを含むダルベッコリン酸緩衝液(PBS)で2倍希釈後測定した結果、いずれのMSL欠失L粒子もHBsAg陰性と判定された(表4、5)。従って、良好な粒子分泌を示したMSL変異体のL粒子量あたりの抗HBsAg抗体反応値は、L-d54-3xFLAGの1~4%以下であり、MSL欠失により抗HBsAg抗体反応性が大きく低下したことが示された。
【0044】
(2)ウェスタンブロッティングによる検出
回収したM6-d54-3xFLAG粒子発現COS7細胞あるいは各MSL欠失Lタンパク質発現COS7細胞をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動した後、PVDF膜に転写した。PVDF膜を5%スキムミルクでブロッキングした後、ビオチン化抗FLAG M2抗体あるいはビオチン化ヤギ抗HBsAgポリクローナル抗体(ダイナボット社IMX HBsAg アッセイシステム液相抗体)とHRP標識ストレプトアビジンを用いて解析した(図3)。M6-d54-3xFLAGは抗FLAG抗体で検出した場合も抗HBsAg抗体で検出した場合も40kDa付近に明瞭なバンドを示した。しかしMSL欠失Lタンパク質変異体(MSL(108-148)/QE-d54およびMSL(108-148)/PD-d54)では抗FLAG抗体では明瞭なバンドが検出されたが、抗HBsAg抗体では明瞭なバンドが検出されなかったことから、ヤギ抗HBsAgポリクローナル抗体に対する反応性の低下が示された。
欠失領域のより広いMSL(105-152)/PD-d54、MSL(105-154)/PD-d54では、MSL(105-148)/PD-d54に比べてさらにヤギ抗HBsポリクローナル抗体に対する反応性が低下していた(図4、表1)。
【0045】
【表1】
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【0046】
(3)ヒト抗HBsAg血清との反応性
ヘブスブリン(ウェルファイド社)は抗HBsAg抗体陽性患者血清より調製された抗HBsAgヒト免疫グロブリン製品である。このヒト抗HBsAgポリクローナル抗体によりMSL欠失L粒子が認識されるかどうかを、ウエスタンブロッティングおよび酵素免疫測定法で測定する。
【0047】
まず、L-d54-3xFLAGタンパク質発現COS7細胞あるいはMSL欠失L タンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現COS7細胞をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動した後、PVDF膜に転写した。PVDF膜を5%スキムミルクでブロッキングした後、ヘブスブリン溶液と反応させ、さらにHRP標識-抗ヒトIgG(H+L)抗体により検出する。その後、このPVDF膜をビオチン化抗FLAG抗体とHRP-標識ストレプトアビジンでリプロービングする。その結果、ビオチン化抗FLAG抗体は、L-d54-3xFLAGともMSL欠失Lタンパク質とも同程度に反応し40kDa付近に明瞭なバンドを示す。しかし、ヘブスブリン(ヒト抗HBsAgポリクローナル抗体)はL-d54-3xFLAGには反応するが、MSL欠失Lタンパク質にはほとんど反応しない。
【0048】
L-d54-3xFLAG粒子発現COS7細胞あるいはMSL欠失Lタンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現COS7細胞の培養上清に抗FLAG抗体-アガロースゲル(Sigma社)を加えて、4℃で一晩反応させた後、アガロースゲルを回収する。得られたゲルをTBST(0.1%Tween20、150mM NaCL、10mMTris-HCl緩衝液pH7.5)で洗浄した後、5%スキムミルクを含むTBSTを加えて4℃で2時間反応させる。これをTBSTで洗浄後、ヘブスブリン溶液を加えて4℃で2時間反応する。TBSTで洗浄後さらにAP標識抗ヒトIgG(H+L)抗体を加えて室温で1時間反応させる。アガロースゲルを回収し洗浄した後、沈殿にAP発色基質液(CDP-star、New England BioLabs 社)を200μL加えて良く懸濁し、ルミノメーターにてAP活性を測定する。その結果、MSL欠失L粒子とヘブスブリン(ヒト抗HBsAgポリクローナル抗体)との反応は、L-d54-FLAG粒子との反応に比べて顕著に低下する。
【0049】
(4)ヒト感染防御用抗HBsAg抗体との反応性
WT-d54-3xFLAG粒子発現COS7細胞あるいはMSL欠失Lタンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現COS7細胞を1%TritonX-100-PBSで可溶化した細胞抽出液を1%FBS-TBS(150mM NaCl、50mMTris-HCl緩衝液pH7.5)で希釈した。これを、抗FLAG抗体を固相に、ヒト抗HBsAg抗体(ヘブスブリン)とHRP標識抗ヒトIgG抗体(Prozyme社)を液相に用いた酵素免疫測定法で測定した。その結果、WT -d54-3xFLAGは粒子9.5ng添加で吸光度0.051の結合反応を示したが、MSL(105-154)/PD-d54は検出限界(陰性対照のCos7細胞抽出液)以下であった。
【0050】
(5)HBsAgサブタイプ診断用抗体による検出
抗HBs抗原決定基dモノクローナル抗体(特殊免疫研究所)あるいは抗HBs抗原決定基rモノクローナル抗体(特殊免疫研究所)を各々固相に、ビオチン化抗FLAG M2抗体とHRP標識ストレプトアビジンとを液相に用いた酵素免疫測定法(各々、サブタイプd-ELISAおよびサブタイプr-ELISA)を用いて、MSL欠失L蛋白質発現Cos7細胞培養上清を測定した。MSL(105-152)/PD-d54粒子およびMSL(105-154)/PD-d54粒子の抗サブタイプdモノクローナル抗体反応性はWT-d54-3xFLAG粒子の1~3%、抗サブタイプrモノクローナル抗体反応性は13~14%に低下した。
【0051】
【表2】
JP0005147697B2_000003t.gif

【0052】
a) FLAG- ELISAで粒子濃度を揃えたWT-d54-3xFLAG、 MSL(105-152)/PD-d54、 MSL(105-154/PD)-d54試料を各々のELISAで測定して、各抗体に対する反応性(粒子量あたりの反応値(吸光度))を算出した。WT-d54-3xFLAGの反応性に対する各変異体の相対反応性で示した。
b)ダイナボット社 IMx-HBsAgキット;主に共通抗原決定基aを認識。
c) 抗HBsモノクローナル抗体(抗原決定基d)と抗FLAG抗体により反応性検出。(欠損領域内にエピトープ。)
d) 抗HBsモノクローナル抗体(抗原決定基r)と抗FLAG抗体により反応性検出。(エピトープは欠損領域外に隣接。)
【0053】
実施例4 MSL欠失L粒子の大量調製
実施例1で構築したMSL欠失Lタンパク質発現ベクターは全て、そのLタンパク質C末端に発現タンパク質検出用のFLAG-tagが付加されている。そこでまず、MSL欠失Lタンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現ベクターと合成DNA配列番号25&26とを用いた部位特異的変異導入により、MSL欠失Lタンパク質C末端に付加したFLAGtag配列の前にstopコドンを挿入して、C末端FLAGtag配列の無いMSL欠失Lタンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現用ベクターpBO1077を構築する。得られたMSL欠失Lタンパク質遺伝子をJ. Biol. Chem. Vol. 267(3) p1953-1961 (1992)記載の酵母発現用plasmid pGLDLIIP39-RcTのGLDプロモーター下流に挿入することにより、MSL欠失Lタンパク質[MSL(105-154)/PD-d54]発現用ベクターpBO1077を構築する。これをSaccharomyces serevisiae AH22R-株に導入し、leu要求性により形質転換体コロニーを選択した。得られた形質転換体クローン中、MSL欠失L粒子の発現が高いクローンを選ぶ。得られた高発現株を野生型HBsL粒子と同様の方法により大量培養し、得られた発現菌体よりJ. Biol. Chem. Vol. 267(3) p1953-1961 (1992)記載の超遠心法を用いて MSL欠失L粒子を精製する。
【0054】
実施例5 MSL欠失L粒子の抗体誘導能
精製MSL欠失粒子あるいは野生型粒子各々100μgをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.2mlに溶解する。これを6週齢メスBALB/cマウス各4匹の尾静脈へ2週間おきに5回投与する。粒子投与2週間後に各マウスより採血し、血清を得る。得られた血清について、野生型L粒子に対する抗体およびMSL欠失L粒子に対する抗体の誘導をVaccine Vol.19(23-24) p.3154-3163 (2001)に準じ参考例1に示す方法で測定する。
【0055】
野生型L粒子投与マウス抗血清では、野生型L粒子に対する抗体が初回投与6週間後から強く誘導される。MSL欠失L粒子投与マウス抗血清では、野生型L粒子およびMSL欠失L粒子に対する抗体はほとんど検出されない。
【0056】
参考例1 野生型L粒子およびMSL欠失L粒子に対する抗体の酵素免疫測定法
抗野生型L粒子抗体用酵素免疫測定法では、まず精製野生型L粒子を20μg/mlとなるようPBSに溶解した後、 96well plateに100μl/wellづつ分注し、4℃で一晩吸着させた。0.05%Tween80を含むPBS(PBST)で洗浄後、5%ブロックエース(雪印)を含むPBS 150μLを分注して4℃で一晩保存した。マウス抗血清を希釈用液(10%FBSを含むPBST)で20倍~2万倍希釈して各wellに加え、室温で2時間反応させた。PBSTで洗浄後、希釈用液で5000倍希釈したHRP標識-抗マウスIgG(H+L)抗体を50μlずつ添加し、室温で2時間反応させる。PBST液で洗浄後、基質液(0.4mg/ml o-フェニレンジアミン, 23mM クエン酸、51.4mM Na2HPO4、0.0012%H2O2)を50μlづつ添加して30分間反応させた後、50μlの2M H2SO4で反応を停止させ、495nmにおける吸光度を測定する。
【0057】
抗MSL欠失粒子抗体用酵素免疫測定法では、まず精製MSL欠失粒子を20μg/mlとなるようPBSに溶解した後、 96well plateに100μl/wellづつ分注し、4℃で一晩吸着させる。その後、上述の抗野生型HBsAgL粒子抗体用酵素免疫測定法と同様の操作により、MSL欠失L粒子に結合したマウス抗体を検出する。
【0058】
【表3】
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【0059】
【表4】
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【0060】
【表5】
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【0061】
【表6】
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【0062】
【表7】
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3