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明細書 :タンパク質産生用およびウイルス増殖用の培地

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5634710号 (P5634710)
登録日 平成26年10月24日(2014.10.24)
発行日 平成26年12月3日(2014.12.3)
発明の名称または考案の名称 タンパク質産生用およびウイルス増殖用の培地
国際特許分類 C12P  21/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12P 21/02 C
C12N 15/00 A
C12N 7/00
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 2
全頁数 22
出願番号 特願2009-507454 (P2009-507454)
出願日 平成20年3月17日(2008.3.17)
国際出願番号 PCT/JP2008/054918
国際公開番号 WO2008/120570
国際公開日 平成20年10月9日(2008.10.9)
優先権出願番号 2007071390
2007238422
優先日 平成19年3月19日(2007.3.19)
平成19年9月13日(2007.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成23年3月14日(2011.3.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】難波 ひかる
【氏名】荒尾 雄二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査官 【審査官】森井 文緒
参考文献・文献 特開2000-032993(JP,A)
特表2005-532813(JP,A)
特表2007-505625(JP,A)
Biotechnol. Bioeng.,2006年,Vol. 94, No. 1,p. 24-36
J. Mol. Biol.,2004年,Vol. 338,p. 657-667
中国農業試験場研究報告,1991年,第9号,p. 1-9
Endocrinology,2005年,Vol. 146, No. 5,p. 2397-2405
第55回日本ウイルス学会学術集会 プログラム・抄録集,2007年,p. 275,2P003
調査した分野 C12P 21/00-21/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Thomson Innovation
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を含む、動物細胞を用いたタンパク質の産生方法:
1)タンパク質を産生する細胞を人為的に構築する工程:
a)当該タンパク質をコードするDNAと、該DNAを発現させるためのHCMV MIEプロモーター配列を含むDNAを含むベクターを調製する工程;と、
b)当該ベクターを動物細胞に導入する工程。
2)当該構築した細胞を、少なくともマルツロースを含む細胞培養用培地を用いて培養する工程。
【請求項2】
細胞培養用培地に含まれる糖濃度が、1.0~10w/v%である請求項1に記載の産生方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞を用いて所望のタンパク質の産生および/または所望のウイルスを増殖させるための細胞培養用培地に関する。さらに、本発明はこれらの培地を用いたタンパク質の産生方法およびウイルスの増殖促進方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2007-71390号および特願2007-238422号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
有用なタンパク質を効率的に製造するための生命工学的手法として、目的とするタンパク質をコードするDNAが導入されたベクターを大腸菌や酵母、動物細胞などに導入し、このDNA導入細胞を増殖させた後に細胞や培地中から目的タンパク質を単離精製する方法が知られている。
【0004】
この方法では、目的タンパク質をコードするDNAを積極的に発現させるために、その上流に発現プロモーターを導入する。かかる発現プロモーターは、遺伝子導入細胞の転写因子群を利用し、その下流に存在する遺伝子の発現を促進する。また、各発現プロモーターの機能を増強するための転写活性化因子も利用されることがある。しかし、有用タンパク質の製造をより一層効率的にするための技術が求められているところである。
【0005】
また、近年、インフルエンザやエイズなどウイルスを原因とする疾患が問題となっている。そこで、これらウイルスの研究のため、或いはウイルスワクチンの製造などのため、ウイルスの増殖を促進する技術も必要である。しかしウイルス研究においては、ウイルスの増殖効率が悪いことから研究が遅れている分野もある。
【0006】
ところで、ウイルス感染細胞を含む遺伝子導入細胞を培養するためには、栄養源としての炭素源が必要である。かかる炭素栄養源として、D-グルコースが用いられる場合がほとんどであり、また、その添加量は培地に対して0.1~0.45w/v%である場合が多く、添加量などの条件の検討はほとんど為されていない。これは、当該分野においては目的とするタンパク質をコードする遺伝子に関する研究が多数を占め、培養液は市販のものをそのまま用いる場合が多いことに起因すると考えられる。
【0007】
それに対して、グルコースなどの糖類により特定の遺伝子の発現を調節する研究も報告されている。例えば非特許文献1には、グルコースが肝臓代謝酵素をコードする遺伝子の転写を調節できるとの記載がある。また、グルコースほどではないが、フルクトースも同様にL-ピルビン酸キナーゼ遺伝子を活性化するとされている。非特許文献2には、グルコースがグルコース自身の代謝に関する遺伝子の発現を促進することが記載されている。非特許文献3には、D-グルコースのみならず、ソルビトールやミオイノシトール、ソルビトールの異性体であるマンニトール等が腎特異的オキシドレダクターゼの発現プロモーターを活性化することが記載されている。
【0008】
所望のタンパク質をコードするDNAを遺伝子組換えの手法により大腸菌等の宿主細胞へ導入して増殖させ、目的とするタンパク質を製造する技術において、培地へ添加する炭素源としては糖類が知られている。しかし、かかる目的で用いられる糖類は、ほとんどD-グルコースのみであった。また、グルコース等により特定の酵素遺伝子の発現が促進されるという現象も知られていた。しかし、かかる技術で用いられている糖類は、D-グルコースのほかソルビトールやミオイノシトールであり、これら糖類は生体内でD-グルコースの代謝により生合成されるものである。また、かかる技術でその産生が促進される酵素は、糖代謝に関するものばかりである。よって、これら糖類が糖代謝に関する酵素遺伝子を発現させるのは至極当然ではあるが、糖代謝系を持たないウイルスに由来する発現プロモーターを用いる場合やウイルス自身を増殖させる場合には、これらの糖類が当該ウイルスプロモーターを活性化するとは予想し難い。

【非特許文献1】FASEB J., 8 (1): 28-35 (1994)
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 275 (41): 31555-31558 (2000)
【非特許文献3】The Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 102 (50): 17952-17957 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、動物細胞を用いて所望のタンパク質の産生および/または所望のウイルスの増殖させるための細胞培養用培地を提供することを課題とする。さらに、本発明はこれらの培地を用いたタンパク質の産生方法およびウイルスの増殖促進方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、糖代謝に関与する酵素の発現促進に用いられるD-グルコースは、ウイルス由来やその他の発現プロモーターをほとんど活性化しないものの、特定の糖類を含む培地を用いて動物細胞を培養すると、細胞内に組み込まれた特定の発現プロモーターが活性化されてタンパク質の産生が促進し、または細胞に感染しているウイルスが顕著に増殖することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.動物細胞を用いて、タンパク質を産生および/またはウイルスを増殖させるための細胞培養用培地において、フルクトース、アラビノース、マルツロース、ラクツロース、メリビオース、パラチノース、トレハロース、キシロース、イソマルトース、ラフィノース、マルトトリオース、N-アセチルグルコサミン、キシリトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、ラクトース、ガラクトース、ツラノースおよびラクチトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖を含む細胞培養用培地。
2.選択される少なくとも1種の糖が、フルクトース、マルツロース、ラクツロース、メリビオース、ラフィノース、キシリトール、ソルビトール、およびラクチトールからなる群より選択される前項1に記載の細胞培養用培地。
3.選択される少なくとも1種の糖がラクツロースであり、さらにラフィノースまたはラクトースを含む前項2に記載の細胞培養用培地。
4.選択される少なくとも1種の糖がラフィノースであり、さらにラクトースを含む前項2に記載の細胞培養用培地。
5.選択される少なくとも1種の糖が、フルクトースであり、さらにグルコースまたはガラクトースを含む前項2に記載の細胞培養用培地。
6.細胞培養用培地に含まれる糖濃度が、1.0~10w/v%である前項1~5のいずれか1に記載の細胞培養用培地。
7.以下の工程を含む、動物細胞を用いたタンパク質の産生および/またはウイルスの増殖方法:
1)タンパク質を産生および/またはウイルスを増殖する細胞を人為的に構築する工程;
2)当該構築した細胞を、前項1~6の何れか1に記載の細胞培養用培地を用いて培養する工程。
8.タンパク質を産生する方法であり、上記1)の細胞を構築する工程が以下の工程を含む、前項7に記載の産生方法:
a)当該タンパク質をコードするDNAと、該DNAを発現させるための発現プロモーター配列を含むDNAを含むベクターを調製する工程;と、
b)当該ベクターを動物細胞に導入する工程。
9.上記DNAを発現させるための発現プロモーターが、HCMV MIEプロモーター、SV40 early プロモーター、SRαプロモーター、RSV LTRプロモーター、HIV 5'LTRプロモーター、Pol IIプロモーター、UB(ユビキチン)プロモーターおよびEF-1αプロモーターからなる群より選択される1種以上の発現プロモーターである前項8に記載の産生方法。
10.ウイルスを産生する方法であり、上記1)の細胞を構築する工程が以下の工程を含む、前項8に記載の産生方法;
a)ウイルスを細胞に感染させて感染細胞を構築する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の培地を用いることで、例えば遺伝子工学的手段により有用なタンパク質を産生させる場合に、特定の発現プロモーターが活性化され、効果的にタンパク質の産生が行われる。また、動物細胞培養によりウイルスを増殖させる場合にも、より効率的に行うことができる。よって、例えば、天然物からの精製が困難なタンパク質を、遺伝子工学的手段により動物細胞から産生させる場合に、発現プロモーターの選択やウイルス由来ベクターの使用により、効率的にタンパク質を産生させたり、ウイルスワクチンの生産量を増大させることができる。また、ウイルス製造の効率化によりウイルス研究が促進され得る。さらに、本発明の適用により、ウイルス感染症の検査における感度を向上できる可能性がある。従って、本発明は、今後一層の発展が期待されている生化学分野の発展に寄与し得るものとして極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】様々なウイルス由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例1)
【図2】様々なウイルス由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例2)
【図3】HCMV由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例3)
【図4】HCMV由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例4)
【図5】HCMV由来発現プロモーターに対する濃度におけるメリビオース各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例5)
【図6】HCMV由来発現プロモーターに対する糖類(メリビオース)と転写活性化因子との併用によるプロモーター活性化効果を示す図である。(実施例6)
【図7】HCMV由来発現プロモーターに対する各糖の組合せによるプロモーター活性化効果を示す図である。(実施例7)
【図8】CHO-K1細胞におけるHCMV由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例8)
【図9】RK細胞におけるHCMV由来発現プロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を検討した結果を示す図である。(実施例9)
【図10】HCMV由来発現プロモーターに対する各種D-グルコース類似体によるプロモーター活性化効果を示す図である。
【図11】HIV 5'LTRプロモーターに対する各種糖類のプロモーター活性化効果を示す図である。
【図12】様々な発現プロモーターに対する各濃度のラクトースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図13】様々な発現プロモーターに対する4%ラクトースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図14】様々な発現プロモーターに対する4%フルクトースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図15】様々な発現プロモーターに対する4%ガラクトースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図16】様々な発現プロモーターに対する4%ラクツロースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図17】様々な発現プロモーターに対する4%ツラノースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図18】様々な発現プロモーターに対する4%パラチノースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図19】様々な発現プロモーターに対する4%トレハロースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図20】様々な発現プロモーターに対する4%ソルビトールのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図21】様々な発現プロモーターに対する4%メリビオースのプロモーター活性化効果を示す図である。
【図22】糖類によるウイルス増殖の促進効果、特に細胞に対するウイルスの定着促進効果の確認試験の結果を示す図である。(実施例22)
【図23】ラクトースによるウイルス増殖の促進効果の確認試験の結果を示す図である。(実施例23)
【図24】マルトースによるウイルス増殖の促進効果の確認試験の結果を示す図である。(参考例1)
【図25】各濃度のD-グルコースのCV-1細胞に与える影響を示す図である。(実施例24)
【符号の説明】
【0014】
■ 糖添加培地 (図13~21)
□ 糖無添加培地 (図13~21)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、動物細胞を用いてタンパク質を産生および/またはウイルスを増殖させるとは、人為的に作製した細胞を用いて、タンパク質の産生や、ウイルスを増殖させることをいい、例えば遺伝子工学的手段により、産生させたい所望の目的タンパク質をコードするDNAを細胞の遺伝子に組み込み、タンパク質を産生させたり、所望のウイルスを細胞に感染させてウイルスを増殖させることをいう。ここで、ウイルスは、ワクチンの製造や、研究目的のために増殖させるウイルスであってもよいし、所望のタンパク質産生のために用いるベクターとしてのウイルスであってもよい。タンパク質の産生方法や、ウイルスの増殖方法については、後に詳述する。
【0016】
(動物細胞)
上記において、動物細胞とは、タンパク質の産生またはウイルスの増殖に使用可能な動物細胞であればよく、特に限定されない。例えばヒト、サル、ウシ、ブタ、ウサギ、イヌ、ラット、ハムスター等の哺乳動物由来の動物細胞;アヒル等の鳥類由来の動物細胞;ゼブラフィッシュ、ドロミノウ、ウナギ、キンギョ、メダカ、テラピア等の魚類由来の動物細胞;カエル、イモリ、サンショウウオ等の両生類由来の動物細胞;ハエ、チョウ、アワヨトウ、ガ、カイコ等の昆虫由来の動物細胞等を挙げることができ、好適には上述のうち哺乳動物由来の動物細胞または昆虫由来の動物細胞を挙げることができる。
【0017】
(細胞培養用培地)
本発明の細胞培養用培地は、上記の細胞を培養するための培地の組成物として、さらに糖類を含むものである。具体的には単糖類であるフルクトース、アラビノース、グルコース、ガラクトース;二糖類であるマルツロース、ラクツロース、メリビオース、パラチノース、トレハロース、キシロース、イソマルトース、セロビオース、スクロース、ラクトース、ツラノース;三糖類であるラフィノース、マルトトリオース;アミノ糖であるN-アセチルグルコサミン;糖アルコール類であるキシリトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、およびラクチトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の細胞培養用培地は、上記列挙した糖から選択される少なくとも1種を含むものであればよく、また上記から複数種の糖類を組み合わせて含ませてもよい。さらには上記列挙した糖から選択される少なくとも1種と、上記に列挙した糖でない糖類から選択した糖類をさらに含むものであってもよい。組み合わせる糖は、2種であっても良く、3種以上であってもよい。本発明の培地において、使用する培地と糖の組合せは、培養する動物細胞や産生する所望のタンパク質、増殖させる所望のウイルスに応じて、適宜選択することができる。
【0019】
上記、選択される少なくとも1種の糖は、例えばフルクトース、マルツロース、メリビオース、ラクツロース、マルトース、ラフィノース、キシリトール、ソルビトール、およびラクチトールからなる群より選択される糖であることが好ましい。
【0020】
上記選択される少なくとも1種の糖に、さらに糖を組み合わせて用いる場合は、組み合わせる糖の例として、例えばラクツロース、ラフィノース、ラクトースの各糖のうちいずれか2種を組み合わせるのが好適である。組み合わせる糖の他の例として、例えばガラクトース、グルコース、フルクトースの各糖のうちいずれか2種の糖を選択して組み合わせることができる。
【0021】
糖を添加する前の培地は、当該糖の添加によりタンパク質の産生またはウイルスの増殖の増加が可能となる培地であればよく、特に限定されない。本明細書において、糖を添加する前の培地を便宜上基本培地という場合もある。例えば、動物細胞の培養を目的として市販されている自体公知の培地を基本培地として用いてもよい。具体的には、MEM培地、ダルベッコMEMTM培地、ハムF12TM培地、マッコイ5ATM培地、199培地ア—ル液TM、RPMI1640TM培地、アデノウイルス産生用培地TM、M-StarsTMシリーズ、Hybridoma-SFMTMなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、糖の添加によりタンパク質の産生またはウイルスの増殖が可能となる培地であれば、独自に調製した培地を基本培地としてもよい。
【0022】
培地において含まれる糖の濃度は、動物細胞と基本培地との組合せや糖の種類に応じて適宜調節すればよいが、好適には1.0w/v%以上である。通常、培地に添加される炭素源としての糖類の濃度は0.1~0.45w/v%程度である。しかし本発明に係る糖類は、例えば導入DNAの発現効率を高めたり、ウイルスの増殖を目的として添加される。例えばメリビオースの場合であれば0.2w/v%以上を基本培地に添加すれば、プロモーターを活性化して効果的にタンパク質の産生を増加させることができる。例えば導入DNAの発現効率を高めたり、ウイルスを増殖させるという目的のためには、糖類の濃度を1.0w/v%以上とすることが好ましく、2.0w/v%以上がより好ましい。但し、糖類の濃度が高過ぎると、かえってタンパク質の発現効率が低下する場合があるので、6.0w/v%以下が好適であり、より好適には5.0w/v%以下、さらに好適には4.0w/v%以下とする。なお、糖類は、細胞培養の際の炭素源の消費により濃度が低下した場合には追加添加してもよい。
【0023】
本発明の培地は固体培地でも液体培地でもよいが、製造された目的タンパク質やウイルスの単離精製が容易であることから液体培地が好適である。また、上記各種糖類の他の成分は特に制限されず、通常の添加成分を用いればよい。例えば糖類の他、ペプトンやアミノ酸などの窒素源、金属塩、ビタミンなどの微量栄養素を添加してもよく、さらに各種血清を加えてもよいし、必要に応じて、抗生物質などの添加物を加えてもよい。
【0024】
本発明は、上記の糖類を含む本発明の培地を用いた動物細胞の培養によるタンパク質の産生方法およびウイルスの増殖方法にも及ぶ。本発明において、タンパク質の産生またはウイルスの増殖は、1)タンパク質を産生および/またはウイルスを増殖する細胞を人為的に構築する工程;および2)当該構築した細胞を上述の培地を用いて培養する工程、の各工程を含む方法により達成される。
【0025】
(タンパク質を産生する方法)
1)タンパク質を産生する細胞を人為的に構築する工程
本発明に係るタンパク質の産生方法は、a)所望の目的タンパク質をコードするDNAと、該DNAを発現させるための発現プロモーター配列を含むベクターを調製する工程、およびb)当該ベクターを動物細胞に導入する工程を含む、タンパク質を産生する細胞を人為的に構築する工程を含む。
【0026】
ここにおいて、所望の目的タンパク質は特に制限されず、あらゆるタンパク質であってよい。例えば、インターフェロンやインターロイキン、インスリンなどの生理活性ペプチドや;ヒト化抗体やキメラ抗体などの免疫グロブリン抗体などを挙げることができる。
【0027】
a)ベクターを調製する工程
目的タンパク質をコードするDNAは、常法により調製することができる。例えば、目的タンパク質を産生するように刺激した細胞から総RNAを得、この総RNAから、オリゴdTセルロースカラム等を利用してポリ(A)を有するmRNAを精製する。得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを調製し、さらに所望のDNAを増幅するためのプライマーを用いたPCR反応を行えばよい。
【0028】
目的タンパク質をコードするDNAの上流に、特定の発現プロモーター領域を有するDNAを存在させると効果的にタンパク質を産生しうる。この点で、本発明は、細胞が本来有する発現プロモーターを活性化する技術とは異なり、細胞が本来有する遺伝子や、細胞由来とは異なるタンパク質をコードする遺伝子を人為に導入した場合に、人為的に導入した発現プロモーターの活性化により効果的にタンパク質を産生しうる。ウイルス由来またはその他の発現プロモーターをDNA導入細胞内で活性化させるのは、従来ではウイルス由来の強力な転写因子遺伝子の導入やホルモン類の添加以外には難しいと考えられていたが、本発明は、前記転写因子遺伝子の導入やホルモン類の添加をしなくても、これを可能にするものである。
【0029】
発現プロモーターは、使用する細胞内で遺伝子発現を活性化させうるものを用いる。例えば、ウイルス由来の発現プロモーターを使用することができ、この場合、哺乳動物細胞を用いる場合は哺乳動物細胞に感染するウイルスの発現プロモーターを用い、昆虫細胞を用いる場合には昆虫細胞に感染するウイルスの発現プロモーターを用いるのが好適である。また、ウイルス由来ではない発現プロモーターを用いることもできる。
【0030】
発現プロモーターとして、例えばHCMV MIEプロモーター、SV40 early プロモーター、SRαプロモーター、RSV LTRプロモーター、HIV 5'LTRプロモーター、Pol IIプロモーター、UB(ユビキチン)プロモーターおよびEF-1αプロモーターが挙げられる。本発明の方法において、動物細胞により所望の目的タンパク質をコードするDNAを発現させるための発現プロモーターとして、上述の発現プロモーターから選択される少なくとも1種以上の発現プロモーターを用いることができる。
【0031】
本発明において、動物細胞に対してこれら発現プロモーターが効果的であることは、後記の実施例で実証されている。なお、上記発現プロモーターは以下の構造を有する。
【0032】
HCMV MIEプロモーター:ヒトサイトメガロウイルスの主要な初期発現プロモーターとエンハンサー;
SV40 early プロモーター:サルに感染するウイルスであるSV40の初期発現プロモーターとエンハンサー;
SRαプロモーター:SV40 early プロモーターの下流に、ヒトT細胞リンパ球ウイルス1型(HTLV-1)の末端反復配列の267bpを結合したもの;
RSV LTRプロモーター: マウス肉腫ウイルスの3'末端反復配列プロモーター;
HIV 5' LTRプロモーター:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のゲノム両端に存在する繰り返し配列(LTR)のうち5'末端側に位置する。エンハンサー、プロモーターを含む。
【0033】
Pol IIプロモーター:RNAポリメラーゼIIのプロモーターでES細胞や初代培養細胞を含む種々の培養細胞で安定的に働く。
UbC(ユビキチンC)プロモーター:ユビキチンCのプロモーターで種々の培養細胞で安定して働く。
EF-1αプロモーター:タンパク質成合成の伸長因子であるEF-1αのプロモーターで種々の細胞で安定して強く働く。
【0034】
目的タンパク質をコードするDNAの下流には、ポリ(A)シグナル配列を存在せしめることが好ましい。ポリ(A)シグナル配列は、mRNAの下流にアデニンを付加することによりmRNAの安定性と発現効率を向上させる機能を有する。
【0035】
上記DNAは、常法に従ってベクター中のDNAへ組み込むことができる。ベクターとしては、プラスミドベクターやウイルスベクター、ファージなど、使用する細胞へDNAを導入可能であれば、特に制限なく用いることができる。また、目的タンパク質をコードするDNA、発現プロモーター領域を有するDNA、およびポリ(A)シグナル配列は、それらの2以上をライゲーションしてからベクターDNAへ導入してもよいし、順次導入してもよい。本発明の培地を用いることで、発現プロモーターの活性化のみならず、ウイルスの増殖そのものも期待されるので、所望の目的タンパク質を発現させるためにはウイルスベクターも好適に使用することができる。
【0036】
b)ベクターを動物細胞に導入する工程
次に、上記工程で得られたベクターを細胞に導入するかまたは感染させる。ここで使用する細胞は、使用するベクターに感受性を有し、且つ導入された発現プロモーターの活性化により導入DNAを発現できるものであり、導入する発現プロモーターに応じて、適宜選択することができる。
【0037】
DNAの導入は、常法を用いて行うことができる。例えば、使用する発現プロモーターに対応する細胞を予備的に培養し、当該培養液を除去した後、DNAトランスフェクション試薬等と混合したベクターを加えればよい。DNAトランスフェクション試薬としては、市販の試薬の他、リポソーム、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマーなどを挙げることができる。また、使用する細胞によっては、エレクトロポレーションなどによる遺伝子導入法を用いてもよい。
【0038】
DNA導入時の温度は、使用する細胞の生育に適する温度とすればよい。また、DNA導入に要する時間は、使用したベクターや細胞、DNAトランスフェクション試薬の使用の有無などにもよるが、通常は1時間~10日間程度である。
【0039】
2)細胞の培養
次いで、上記1)で構築したDNA導入細胞を培養する。培養温度は、DNA導入細胞の生育や、目的タンパク質の発現および安定性に適する温度を適宜選択することにより決定することができる。また、培養時間は、予備実験や、培地中や細胞内における目的タンパク質の生成のモニター結果などにより適宜決定すればよい。
【0040】
本発明の方法で、DNA導入細胞を培養する培地として上記糖類を含む本発明の培地を用いることができる。
【0041】
一般的に、タンパク質の遺伝子工学的な手段による産生方法において、産生効率を向上させるためのポイントは、以下にあるといえる。
・ 細胞内へのDNAの導入効率
・ 細胞内へ導入されたDNAの、核への到達率
・ 発現プロモーターの活性化率
・ mRNAからタンパク質合成の効率
・ 産生されたタンパク質の安定性
【0042】
本発明の培地に係る糖類が、タンパク質産生の効率を顕著に高める理由は必ずしも明らかではないが、後記する実施例の実験条件や結果より、おそらく、特定の発現プロモーターを顕著に活性化することによると考えられる。但し、他のポイントにも作用している可能性もある。
【0043】
上記糖類の中でも、フルクトース、マルツロース、メリビオース、ラクツロース、ラフィノース、キシリトール、ソルビトール、およびラクチトールからなる群より選択される糖であることが好ましい。特にメリビオース、キシリトール、ラクツロース、ラクチトール、およびマルツロースは、動物細胞において発現プロモーターを顕著に活性化してタンパク質の産生効率をより一層高めることができることから、より好ましい。
【0044】
さらに、導入DNAの発現効率をより一層高めるために、転写活性化因子を発現しうるベクターを細胞に導入し、転写活性化因子を共発現させることが好ましい。転写活性化因子は発現プロモーターを活性化するが、本発明の培地における糖類との併用により発現効率が相乗的に高まる場合があるからである。例えば、HCMV MIEプロモーターを用いた場合、その転写活性化因子であるHCMV pp71とメリビオースを併用することにより、発現効率が相乗的に高まることが後述の実施例においても実証されている。この転写活性化因子を作用させるために、マイクロインジェクション法やリポソームなどの細胞内への送達手段により細胞内へ直接導入させるか、或いは、上記細胞へのDNA導入工程において、転写活性化因子をコードするDNAを当該細胞へ導入することにより行なってもよい。
【0045】
具体的な培養条件は、使用する細胞等に応じて適宜調整することができる。通常、培養温度は20~40℃程度とすることができる。また、培養時間は特に制限されないが、目的タンパク質の総産生量は経時的に増加するといえる。
【0046】
上記動物細胞からタンパク質を発現させ、タンパク質を産生したものを常法に従って精製することができる。例えば、DNAが導入された細胞を必要に応じて溶解した後、遠心分離して得られた上清から、アフィニティカラムやキレートカラムなどを用いて精製すればよい。
【0047】
(ウイルス増殖促進方法)
上記ウイルス増殖促進方法は、所望の目的ウイルスを細胞に感染させて感染細胞を構築する工程を含み、当該目的ウイルスを感染した細胞を本発明の培地を用いて培養することによる。目的ウイルスを細胞に感染させる工程は、ベクターの代わりに目的ウイルスを用いる以外は、本発明に係るタンパク質の製造方法におけるDNA導入工程と同様に行うことができる。但し、使用する細胞は、目的ウイルスが感染可能なものとする。また、培養工程も、本発明に係るタンパク質の製造方法と同様に行うことができる。但し、溶菌により遊離ウイルスを放出せしめるために、紫外線や放射線を照射するなどにより細胞を弱体化してもよい。
【0048】
本発明のウイルス増殖促進方法は、本発明の糖を含む培地を用いて培養することにより、目的ウイルスの発現プロモーターを活性化してウイルスの増殖を顕著に促進するものであると考えられる。よって、本発明のウイルス増殖促進方法は、従来十分量のウイルス確保できなかったことから進まなかったウイルスの研究やウイルスワクチンの製造などに寄与し得る。また、上述のタンパク質産生のために目的タンパク質をコードするDNAを組み込んだウイルスベクターの増殖にも寄与するので、所望のタンパク質をより多く産生することができる。
【0049】
上記のウイルス増殖促進方法で用いる培地に含む糖類としては、特にラクツロース、マルトース、およびラクチトールが好適である。これらの糖類は、おそらくウイルス遺伝子におけるウイルス由来の発現プロモーターを顕著に活性化し、ウイルス増殖の初期段階を促進することにより、ウイルスの増殖効率をより一層高めることができることから好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
(実施例1)各発現プロモーターの各糖による活性化1
アフリカミドリザル腎細胞由来のCV-1細胞を、5 v/v%ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地へ0.5×105細胞/mLの密度で懸濁した。この細胞浮遊液を100μL/ウェルずつ96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。
【0052】
別途、上流に各発現プロモーターが、下流にポリ(A)シグナル配列を有する緑色蛍光タンパク質 (GFP)遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドを、0.05μg/μLの割合で1 ~0.1 TE溶液に加えた。当該懸濁液4μLを、無血清のMEM培地に加えて98μLとし、混和した。さらに、動物細胞遺伝子(DNA)トランスフェクション試薬(QIAGEN社製、SuperfectTM、2.0μL)を加えて混和し、25℃で15分間反応させた。次いで、5 v/v%FBS含有MEM培地(700μL)を加え、総量800μLのDNA-トランスフェクション溶液を調製した。なお、使用した発現プロモーターは、HCMV MIEプロモーター (CMV)、SV40 early プロモーター(SV40)、SRαプロモーター (SRα)およびRSV LTRプロモーター (RSV)であった。また、対照として、発現プロモーターを用いずに同様の実験を行った(null)。
【0053】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、追加糖類の最終濃度が1~7 w/v%になるように、糖類を含む、或いは含まない5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。糖類としては、単糖類であるガラクトース、グルコース、フルクトース、および二糖類であるラクトース、マルトース、スクロースを用いた。糖類を加えてから48時間後に培地を除去し、細胞溶解液(25mM Tris-HCl pH 7.8, 2mM EDTA、10 v/v%グリセロール、0.5 v/v%トリトンX-100を含む)(250μL)を加え、25℃で15分間反応させた。次いで、ピペットマン(R)(ギルソン社製)のチップの先端で反応混合液を10回攪拌して細胞を溶解した。
【0054】
得られた細胞溶解液(200μL)をブラックプレートに分注し、蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent(R) FL:LaboSystems社製)を用いて、GFPに由来する波長:485nm/538nmの蛍光強度を測定した。
【0055】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を図1(1)~(6)に示した。図中、「null」は、発現プロモーターを用いなかった対照の結果を示した。その結果、発現プロモーターを用いなかった「null」と、ステロイドホルモン応答性の「MMTV」では、どの糖類でも遺伝子発現の増強効果は認められなかった。それに対して、「CMV」等では、各糖類で弱い増強効果が見られ、特にフルクトースを添加した場合では、「CMV」と「RSV」で比較的強い増強効果が観察された。
【0056】
(実施例2)各発現プロモーターの各糖による活性化2
発現プロモーターとしてHCMV MIEプロモーター (CMV)、SV40 early プロモーター (SV40)またはRSV LTRプロモーター (RSV)を用い、糖としてラクツロース、D-ラクチトール、メソエリスリトール、またはグリセロールを用いた以外は上記実施例1と同手法により実験を行った。
【0057】
HCMV MIE プロモーターを用いた結果を図2(1)に、SV40 early プロモーターを用いた結果を図2(2)に、RSV LTRプロモーターを用いた結果を図2(3)に示し、各々について糖を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を図2に示した。その結果、上記ラクツロース等は遺伝子発現を高めることができるが、ラクツロースとラクチトールは特に優れた遺伝子発現増強効果を発揮することができ、タンパク質の産生効率を顕著に高められることが確認された。
【0058】
(実施例3)HCMV MIEプロモーターの各糖による活性化1
実施例1と同様の方法により、発現プロモーターとしてHCMV MIEプロモーター (CMV)を用いて、各種糖類を加えたときの蛍光強度を調べた。アロースなどの糖類の他、アスコルビン酸やグルクロン酸などを用いた系についても確認した。
【0059】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を、図3に示した。その結果、メリビオース、ラフィノース、ミオイノシトール、ソルビトール、およびキシリトールで、優れた増強作用が見られた。これら糖類は、フルクトースの1.5倍を超える増強作用を示し、特にメリビオースは、フルクトースの約2倍にも及ぶ極めて優れた増強作用を有することが明らかとなった。
【0060】
(実施例4)HCMV MIEプロモーターの各糖による活性化2
上記実施例3と同様の方法で実験を行い、糖としてイソマルトース、セロビオース、ツラノース、マルツロース、ラクツロース、マルトトリオース、ラクチトールを用いたときの蛍光強度を調べた。追加した各糖の培地における最終濃度は、マルトトリオースを6 w/v%とした他は4 w/v%とした。糖類無添加の対照を1とした場合の蛍光強度の相対値を、図4に示した。
【0061】
図4の通り、マルツロースとラクツロースで特に優れた増強作用が見られた。
【0062】
(実施例5)HCMV MIEプロモーターのメリビオースによる活性化
実施例3と同様の方法で実験を行い、糖類として各濃度のメリビオースを加えたときの蛍光強度を調べた。糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を、図5に示した。その結果、メリビオース0.2 w/v%の添加で、1.5倍以上の増強効果が認められた。
【0063】
(実施例6)HCMV MIEプロモーターのメリビオースと転写活性化因子による活性化
糖類と共に、転写活性化因子を併用した場合におけるタンパク質遺伝子の発現向上効果を試験した。転写活性化因子の利用は、ヒトサイトメガロウイルス (HCMV)の転写活性化因子であるHCMV pp71 をコードする遺伝子を発現できるプラスミドpCGN71を、GFP遺伝子を組み込んだレポータープラスミドと共に遺伝子導入することにより行った。
具体的には実施例3と同様の方法で実験を行い、糖類を添加せず、転写活性化因子を利用しない場合(図6において「GFP」と示す。)、糖類を添加せず且つ転写活性化因子を利用した場合(pp71)、糖類としてメリビオースを培地中に3 w/v%添加した場合(Meli)、および糖類としてメリビオースを培地中に3 w/v%添加し且つ転写活性化因子を併用した場合(pp71+Meli)について、培養開始から24、48、および72時間後における蛍光強度を測定した。
【0064】
糖類および転写活性化因子を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を、図6に示した。その結果、転写活性化因子を共発現させた場合とメリビオースを添加した場合には、それぞれ遺伝子の発現効率は向上したが、両者を併用した場合には、経時的に発現効率が顕著に高まった。この結果より、特定の糖類と転写活性化因子を併用することによって、遺伝子の発現効率において相乗的な向上効果が実証された。
【0065】
(実施例7)HCMV MIEプロモーターの各糖の組合せによる活性化
各糖の組合せによる発現プロモーターの活性化効果を確認した。具体的には実施例3と同様の方法で実験を行い、単糖の組合せによるHCMV MIEプロモーターの活性化と、二糖および三糖の組合せによるHCMV MIEプロモーターの活性化を調べた。添加した各糖の濃度は、各々2 w/v%であった。
【0066】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を、図7(1、2)に示した。その結果、単糖であるD-(+)-ガラクトース、D-(+)-グルコース、D-(-)-フルクトースから2種の糖を組み合わせて培地に添加した結果、培地のみの対照と比較すると、プロモーターの活性化効果が得られ、各々単独で添加した場合の相加効果が認められた(図7(1))。一方、二糖(ラクツロース、D-(+)-ラクトース)および三糖(D-(+)-ラフィノース)から2種の糖を組み合わせた結果、D-(+)-ラフィノースとラクツロースを組み合わせて培地に添加した場合、相加効果より高いプロモーターの活性化効果が認められた(図7(2))。
【0067】
(実施例8)CHO-K1細胞でのHCMV MIEプロモーターの各糖による活性化
ハムスター卵巣細胞由来のCHO-K1細胞を、5 v/v%FBS含有MEM培地へ0.5×105細胞/mLの密度で懸濁した。この細胞浮遊液を100μL/ウェルずつ96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。その他は、実施例3と同様の実験を行った。
【0068】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を図8に示した。その結果、マルトース、キシリトールおよびラクチトールにより、1w/v%添加でもプロモーターの活性化効果が認められ、その他の糖でもラフィノースを除き、濃度に応じてプロモーターの活性化効果が認められた。
【0069】
(実施例9)RK細胞でのHCMV MIEプロモーターの各糖による活性化
初代仔ウサギ腎臓由来のRK細胞を、5 v/v%FBS含有MEM培地へ0.5×105細胞/mLの密度で懸濁した。この細胞浮遊液を100μL/ウェルずつ96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。その他は、実施例3と同様の実験を行った。
【0070】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を図9に示した。その結果、ラフィノースを除き、糖の濃度に応じてプロモーターの活性化効果が認められた。
【0071】
(実施例10)HCMV MIEプロモーターのD-グルコース類似体による活性化
アフリカミドリザル腎細胞由来のCV-1細胞を、5 v/v%FBS含有MEM培地へ0.5×105細胞/mLの密度で懸濁した。この細胞浮遊液を100μL/ウェルずつ96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。
【0072】
別途、上流にHCMV MIEプロモーターが、下流にポリ(A)シグナル配列を有する緑色蛍光タンパク質 (GFP)遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドを、0.05μg/μLの割合で1 ~0.1 TE溶液に加えた。当該懸濁液4μLを、無血清のMEM培地に加えて98μLとし、混和した。さらに、動物細胞遺伝子(DNA)トランスフェクション試薬(QIAGEN社製、SuperfectTM、2.0μL)を加えて混和し、25℃で15分間反応させた。次いで、5 v/v%FBS含有MEM培地(700μL)を加え、総量800μLのDNA-トランスフェクション溶液を調製した。
【0073】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、5 w/v%の糖類を含む5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。糖類としては、D-グルコース類似体であるD-グルコース、L-グルコース、3-0-メチル-D-グルコース、1,6アンヒドロ-β-D-グルコースを用いた。糖類を加えてから48時間後に培地を除去し、細胞溶解液(25mM Tris-HCl pH 7.8, 2mM EDTA、10 v/v%グリセロール、0.5 v/v%トリトンX-100を含む)(250μL)を加え、25℃で15分間反応させた。次いで、ピペットマン(R)(ギルソン社製)のチップの先端で反応混合液を10回攪拌して細胞を溶解した。
【0074】
得られた細胞溶解液(200μL)をブラックプレートに分注し、蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent(R) FL:LaboSystems社製)を用いて、GFPに由来する波長:485nm/538nmの蛍光強度を測定した。
【0075】
糖類を用いなかった場合の結果を1とした場合の蛍光強度の相対値を図10に示した。その結果、L体のグルコースでは同じ分子量であるにも関わらず効果が弱く、浸透圧による遺伝子発現誘導によるものではない事が確認された。また、L体が生体で利用されないことから、細胞内に取り込まれても代謝されない(利用されない)グルコース類似体について遺伝子発現促進効果を調べたところ、D-グルコースと同様の結果が得られた。よって、D-グルコースによるHCMV MIEプロモーターの活性化は浸透圧によるものを否定できないものの、それだけではなく、また、代謝によるエネルギーの供給によるものではないと考えられた。
【0076】
(実施例11)HIV5' LTR (Long Terminal Repeat)プロモーターの各種糖による活性化
実施例10と同様に、アフリカミドリザル腎細胞由来のCV-1細胞を、96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。
【0077】
別途、上流にHIV5' LTR (Long Terminal Repeat)プロモーターを組み込んだ以外は、実施例10と同様の処理を行い、総量800μLのDNA-トランスフェクション溶液を調製した。
【0078】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、4 w/v%の糖類を含む5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。糖類としては、フルクトース、ガラクトース、グルコース、パラチノース、ラクトース、マルトース、メリビオース、トレハロース、ソルビトール、ツラノースを用いた。その後、実施例10と同様の処理を行い、得られた細胞溶解液(200μL)をブラックプレートに分注し、蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent(R) FL:LaboSystems社製)を用いて、GFPに由来する波長:485nm/538nmの蛍光強度を経時的に測定した。
【0079】
その結果、各糖についてのピーク値を、ピーク時間とともに図11に示した。
【0080】
(実施例12)各プロモーターの各濃度のラクトースによる活性化
実施例10と同様に、アフリカミドリザル腎細胞由来のCV-1細胞を、96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。
【0081】
別途、上流にHIV5' LTRプロモーター、マウスRNAポリメラーゼIIプロモーター(pol II)、ヒトユビキチンプロモーター(Ub)、ヒトEF-1αプロモーターを組み込んだ以外は、実施例10と同様の処理を行い、総量800μLのDNA-トランスフェクション溶液を調製した。
【0082】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、各濃度のラクトースを含む5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。その後、実施例10と同様の処理を行い、得られた細胞溶解液(200μL)をブラックプレートに分注し、蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent(R) FL:LaboSystems社製)を用いて、GFPに由来する波長:485nm/538nmの蛍光強度を測定した。
【0083】
その結果を図12に示した。その結果、ラクトースによりUbプロモーター、EF-1αプロモーターの強い活性化とHIV 5'LTRプロモーター、Pol IIプロモーターに対する活性化がが確認された。
【0084】
(実施例13)各プロモーターの4%ラクトースによる活性化
実施例10と同様に、アフリカミドリザル腎細胞由来のCV-1細胞を、96ウェルプレートへ播き、37℃で24時間培養した。
【0085】
別途、上流にHIV5' LTRプロモーター、マウスRNAポリメラーゼIIプロモーター(pol II)、ヒトユビキチンプロモーター(Ub)、ヒトEF-1αプロモーターを組み込んだ以外は、実施例10と同様の処理を行い、総量800μLのDNA-トランスフェクション溶液を調製した。
【0086】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、4 w/v%のラクトースを含む5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)と、コントロールとして糖を含まない5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。ラクトースを加えてから24、48、72、96、および120時間後に培地を除去し、細胞溶解液(25mM Tris-HCl pH 7.8, 2mM EDTA、10 v/v%グリセロール、0.5 v/v%トリトンX-100を含む)(250μL)を加え、25℃で15分間反応させた。次いで、ピペットマン(R)(ギルソン社製)のチップの先端で反応混合液を10回攪拌して細胞を溶解した。
【0087】
CV-1細胞を含む上記培地の培養上清を取り除き、1ウェル毎に上記DNA-トランスフェクション溶液50μLを添加した。添加から3時間後に、各濃度のラクトースを含む5 v/v%FBS含有MEM培地(200μL)を加えた。その後、実施例10と同様の処理を行い、得られた細胞溶解液(200μL)をブラックプレートに分注し、蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent(R) FL:LaboSystems社製)を用いて、GFPに由来する波長:485nm/538nmの蛍光強度を測定した。
【0088】
その結果を図13に示した。その結果、4%ラクトース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0089】
(実施例14)各プロモーターの4%フルクトースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%フルクトースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0090】
その結果を図14に示した。その結果、4%フルクトース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0091】
(実施例15)各プロモーターの4%ガラクトースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%ガラクトースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0092】
その結果を図15に示した。その結果、4%ガラクトース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0093】
(実施例16)各プロモーターの4%ラクツロースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%ラクツロースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0094】
その結果を図16に示した。その結果、4%ラクツロース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0095】
(実施例17)各プロモーターの4%ツラノースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%ツラノースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0096】
その結果を図17に示した。その結果、4%ツラノース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0097】
(実施例18)各プロモーターの4%パラチノースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%パラチノースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0098】
その結果を図18に示した。その結果、4%パラチノース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0099】
(実施例19)各プロモーターの4%トレハロースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%トレハロースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0100】
その結果を図19に示した。その結果、4%トレハロース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0101】
(実施例20)各プロモーターの4%ソルビトールによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%ソルビトールを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0102】
その結果を図20に示した。その結果、4%ソルビトール添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0103】
(実施例21)各プロモーターの4%メリビオースによる活性化
4%ラクトースの代わりに、4%メリビオースを用いた他は、実施例13と同手法により蛍光強度を測定した。
【0104】
その結果を図21に示した。その結果、4%メリビオース添加培地(■)では無添加培地(□)に比べHIV 5' LTRプロモーター、pol IIプロモーター、Ubプロモーター、EF-1αプロモーターの活性化が確認された。
【0105】
(実施例22)Vero細胞でのヒト単純ヘルペスウイルス1型深山-GCr株の産生1
Vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来細胞)を、ウシ新生児血清(NCS)を5 v/v%含むMEM培地で0.5×105細胞/mLの密度で懸濁した。この細胞浮遊液を100μL/ウェルずつ96ウェルプレートへ播き、2日間培養後、培地を除去した。予めNCSを2 v/v%含むMEM培地で希釈したヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1) 深山-GCr株の懸濁液を、50 pfu/ウェルの濃度となるように加えた。このウイルス濃度は、細胞1個あたり約0.0025 pfuに相当する濃度である。37℃で2時間インキュベートすることにより細胞へウイルスを吸着させてから吸着しなかったウイルス、即ち培地を除去した。別途、NCS 2 v/v%とメチルセルロース1.5%を含むMEM半固形培地に3 w/v%のD-マルトース、4 w/v%のラクツロース、または4 w/v%のラクチトールを添加した。比較のために糖を添加しない培地も用意した。各培地を1ウェル当り200μLずつ加えて37℃で培養した。添加した培地は半固形であることから、ウイルスは培地を介して他の細胞に感染することができず、ウイルスが定着し増殖した細胞に隣接する細胞にのみ感染が広がりプラークを形成した。
【0106】
糖含有培地の添加から48時間後にプラーク形成数を算出した結果を図22に示した。その結果、ウイルスプラーク数は、糖無添加の対照に比べてD-マルトースとラクツロースにより約40%、ラクチトールにより約100%増加した。かかる結果より、特定の糖によりウイルス増殖の初期段階、すなわちウイルスによる細胞への定着段階を促進できることが実証された。
【0107】
(実施例23)Vero細胞でのHSV-1 深山-GCr株の産生2
NCSを2 v/v%含むMEM培地にラクトースを1~7 w/v%の各濃度で添加した他は、実施例22と同手法により実験を行った。各培地の添加から24時間ごとに上澄を採取し、実施例22と同様に、常法に従ってVero細胞を用いたプラークアッセイを行うことによりウイルス量を算定した。
【0108】
各培地の添加からの時間、即ちウイルスの感染から1日目(24時間後)の結果を図23(1)に、2日目の結果を図23(2)に、3日目の結果を図23(3)に示した。図12の通り、縦軸は対数表示であるので分かり難いが、ラクトースの添加によりウイルスの増殖は顕著に促進されている。より具体的には、糖濃度が5 w/v%以上になると効果が低下する場合があるものの、ラクトースによるウイルス増殖は経時的に促進され、3日目には最大約500倍以上の増殖促進が認められた。かかる結果より、特定の糖によりウイルスの増殖を促進できることが実証された。
【0109】
(参考例1)Vero細胞でのHSV-1 深山-GCr株の産生
二糖類であるマルトースについて、ウイルス増殖促進に及ぼす影響を参考例として示した。Vero細胞を、実施例22と同手法にて96ウェルプレートへ播き、37℃で2日間培養後、培地を除去した。予めNCSを2 v/v%含むMEM培地で希釈したHSV-1 深山-GCr株の懸濁液を、50pfu/ウェルの濃度となるように加え、37℃で2時間インキュベートすることにより細胞へウイルスを吸着させた後、吸着しなかったウイルス、即ち培地を除去した。別途、NCSを2 v/v%含むMEM培地にD-マルトースを1~7 w/v%の各濃度で添加した。比較のために、D-マルトースを添加しない培地も用意した。各培地を200μL/ウェルずつ加えて37℃で培養した。各培地の添加から24時間ごとに培養上清を採取し、常法に従ってVero細胞を用いたプラークアッセイを行うことによりウイルス量を算定した。
【0110】
各培地の添加からの時間、即ちウイルスの感染から1日目(24時間後)の結果を図24(1)に、2日目の結果を図24(2)に、3日目の結果を図24(3)に示した。図24の通り、縦軸は対数表示であるので分かり難いが、マルトースの添加によりウイルスの増殖は顕著に促進されている。より具体的には、糖濃度が6 w/v%以上になると効果が低下する場合があるものの、マルトースによるウイルス増殖は経時的に促進され、3日目には最大約400倍の増殖促進が認められた。かかる結果より、特定の糖によりウイルスの増殖を促進できることが実証された。
【0111】
(実施例24)グルコースを添加した場合の細胞に及ぼす影響
アフリカミドリザル腎臓由来(CV-1)細胞に各濃度のグルコースを添加した5 v/v%FBS含有MEM培地を用いて48時間培養した場合に及ぼす影響を調べた。方法としては、1ウェルあたりの細胞数をトリパンブルーによる色素排除法で計数した。また,1ウェル当たりの総DNA量をDNA結合性蛍光色素PicoGreen(R)(Molecular Probes社製)を用いて測定した。1ウェル当たりの総蛋白量はクマシーブリリアントブルー染色法により定量した。1ウェルあたりの細胞の取り込み活性をニュートラルレッド法により定量した。1ウェルあたりの代謝活性はalamarBlue(R)(Invitrogen社製)を用いて測定した。
【0112】
その結果を図25に示した。(1)総細胞数、総DNA量、総蛋白質量、細胞の物質取り込み活性、代謝活性は96ウェルプレートの1ウェル当たりの結果を、グルコース無添加時(0.1w/v%グルコース)を100として示した。添加の場合では、本来48時間で4倍になる細胞が全く増殖していない事が確認された。そこで、96ウェルプレートの1ウェル当たりの総DNA量、総タンパク質量、ニュートラルレッド取り込み活性、代謝活性を細胞数で除した結果をグルコース無添加時の値を100として(2)から(5)に示した。それぞれ細胞当たりの量および活性が上昇していることが確認された。これより、糖質の添加により細胞の増殖サイクルが合成期で止まり、細胞の増殖に関係した遺伝子の発現、タンパク質合成が抑制される一方、細胞側の合成機構が導入した遺伝子の発現およびタンパク質産生に向けられているのではないかと推察される。本結果は、3回の実験結果の平均値とその95%信頼限界による。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上詳述したように、本発明の培地を用いると、有用なタンパク質の産生やウイルスの増殖を効率的に行うことができる。よって、例えば、天然物からの精製が困難なタンパク質を効率的に製造したり、ウイルスワクチンの生産量を増大させることができ、また、ウイルス製造の効率化によりウイルス研究が促進され得る。さらに、本発明の培地を用いて細胞を培養することにより、ウイルス感染症の検査における感度を向上できる可能性がある。従って、本発明は、今後一層の発展が期待されている生化学分野の発展に寄与し得るものとして極めて有用である。
図面
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【図25】
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