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明細書 :ゲノムライブラリー作製方法、および同方法により作製されたゲノムライブラリー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3972106号 (P3972106)
公開番号 特開2005-245297 (P2005-245297A)
登録日 平成19年6月22日(2007.6.22)
発行日 平成19年9月5日(2007.9.5)
公開日 平成17年9月15日(2005.9.15)
発明の名称または考案の名称 ゲノムライブラリー作製方法、および同方法により作製されたゲノムライブラリー
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2004-059900 (P2004-059900)
出願日 平成16年3月3日(2004.3.3)
審査請求日 平成16年3月3日(2004.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
発明者または考案者 【氏名】嶋本 伸雄
【氏名】中山 秀喜
【氏名】荒牧 弘範
個別代理人の代理人 【識別番号】100115026、【弁理士】、【氏名又は名称】圓谷 徹
審査官 【審査官】森井 隆信
参考文献・文献 Nucleic Acid Res.,米国,1995年,Vol.23, No.15,3034-3040
J. Clin. Microbiol.,米国,2001年,Vol.39, No.1,191-195
Nucleic Acid Res.,米国,1997年,Vol.25, No.25,781-786
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.,米国,1992年,Vol.89,5847-5851
Nucleic Acid Res.,米国,1993年,Vol.21, No.5,1321-1322
調査した分野 C12N 15/00
BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
任意の生物種のゲノムライブラリーを作製する方法であって、対象生物種のゲノムDNA又はその断片を鋳型とし、かつ、鋳型とアニーリングする3’末端側の少なくとも6merの領域が、対象生物種のゲノムにおいて出現頻度の高い配列の中から選択された1種類の特定の配列となるように設計されたプライマーのみを使用してPCRを行い、ゲノムを増幅することによりゲノムライブラリーを作製する方法。
【請求項2】
3’末端側に出現頻度の高い配列を6mer以上含むと共に、5’末端側に対象生物種のゲノムにおいて出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を有するように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする請求項1記載のゲノムライブラリー作製方法。
【請求項3】
対象生物種のゲノムについて知られている配列情報をもとに、すべての6merの配列のうち出現頻度の高い1~20番目の配列の中から選択された6merの配列を3’末端側に含むオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする請求項1又は2記載のゲノムライブラリー作製方法。
【請求項4】
対象生物種のゲノムについて知られている配列情報をもとに、すべての10merの配列のうち出現頻度の高い1~20番目の配列の中から選択された10merの配列からなるオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする請求項1記載のゲノムライブラリー作製方法。
【請求項5】
請求項2記載の1種類の特定のプライマーを使用して第1のPCRを行った後、当該プライマーの5’末端側の固有配列を含む1種類のプライマーを使用して第2のPCRを行うことを特徴とするゲノムライブラリー作製方法。
【請求項6】
PCR条件として、アニーリング温度を30℃以上45℃以下にし、かつ、アニーリング温度から伸長反応温度までの温度上昇時間を5秒以上20分以下に設定したサイクルを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のゲノムライブラリー作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量サンプルから簡便にゲノムライブラリーを作製する方法、および同方法により作製されたゲノムライブラリーに関する。本発明は、各種生物のゲノム解析用の研究材料、ゲノム創薬、その他生命科学諸分野の研究に広く利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲノムライブラリーを作製する方法としては、通常ショットガンクローニング法により、切断したゲノム断片をプラスミド、コスミド、ファージ、人工染色体ベクター等にクローニングする方法が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では制限酵素による切断処理やベクターにゲノム断片を組み込む処理など多くの処理が必要となるため、サンプル(試料)として大量のゲノムDNAを必要とし、煩雑な操作を伴うものであった。したがって、培養が困難な微生物の場合は、サンプルを多く得ることができず、ライブラリーの作製は困難であった。
【0004】
一方、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ・チェーン・リアクション)を用いたゲノムライブラリー作製方法が、1997年にSingerらによって報告されている(下記の非特許文献1参照)。しかし、この方法も、制限酵素によって断片化した後、各ゲノム断片に対してリンカーを施す処理等を必要とし、PCRの前段階処理が非常に煩雑であった。そのため、これらの処理に伴うゲノムDNAの損失が避けられず、微少量サンプルから簡便にゲノムライブラリーを作製することは困難であった。また、この方法は、PCRにおいて複数種類のプライマーを使用するものであった。
【0005】

【非特許文献1】Nucleic Acids Research, vol.25, No.4 (1997) 781-786頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物学・生命科学の諸分野においてゲノムレベルでの研究解析が重要であることはいうまでもないが、実用面においても各種生物をゲノムレベルで研究解析する重要性は増している。例えば、病原菌や病原性ウイルスのゲノムレベルでの研究解析、あるいは、環境中に存在し、未だ十分に解明が進んでいない微生物やウイルスのゲノムレベルでの研究解析は公衆衛生・国民の健康確保の観点から今後一層重要なものといえる。このような研究解析のためにも、簡便に微少量サンプルからゲノムライブラリーを作製する方法の開発が求められている。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、微少量サンプルから簡便にゲノムライブラリーを作製する方法、および同方法により作製されたゲノムライブラリーを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、増幅対象のゲノムに比較的よく出現する配列をもとに設計した1種類のプライマーを使用してPCRを行うことにより、ゲノム全領域がほぼ均等に増幅され、簡便にゲノムライブラリーを作製し得ること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記A)~M)の発明を包含するものである。
A) 任意の生物種のゲノムライブラリーを作製する方法であって、対象生物種のゲノムDNA又はその断片を鋳型とし、かつ、特定の配列からなる1種類のプライマー又はランダムプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムを増幅することによりゲノムライブラリーを作製する方法。
B) 対象生物種のゲノムにおいて出現頻度の高い配列を含むように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記A)記載のゲノムライブラリー作製方法。
C) 出現頻度の高い配列を6mer以上含むように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記B)記載のゲノムライブラリー作製方法。
D) 3’末端側に出現頻度の高い配列を有すると共に、5’末端側に対象生物種のゲノムにおいて出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を有するように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記B)又はC)記載のゲノムライブラリー作製方法。
E) 3’末端側に出現頻度の高い配列を有すると共に、さらにその3’末端側にランダム塩基および/又はユニバーサル塩基からなる1mer以上の領域を有するように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記B)~D)のいずれかに記載のゲノムライブラリー作製方法。
F) 3’末端側にランダム塩基および/又はユニバーサル塩基からなる6mer以上の領域を有するように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記A)記載のゲノムライブラリー作製方法。
G) 3’末端側にランダム塩基および/又はユニバーサル塩基からなる6mer以上の領域を有すると共に、5’末端側に対象生物種のゲノムにおいて出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を有するように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することを特徴とする上記F)記載のゲノムライブラリー作製方法。
H) 上記D)又はG)記載のプライマーを使用して第1のPCRを行った後、5’末端側の配列を含むプライマーを使用して第2のPCRを行うことを特徴とするゲノムライブラリー作製方法。
I) PCR条件として、アニーリング温度を30℃以上45℃以下にし、かつ、アニーリング温度から伸長反応温度までの温度上昇時間を5秒以上20分以下に設定したサイクルを含むことを特徴とする上記A)~H)のいずれかに記載のゲノムライブラリー作製方法。
J) 任意の生物種のゲノムライブラリーを作製する方法であって、対象生物種のゲノムに対し前処理を行った後、1種類の固有配列からなるプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムを増幅することによりゲノムライブラリーを作製する方法。
K) 上記B)~G)のいずれかに記載のオリゴDNAをプライマーに使用してゲノムを増幅する前処理を行った後、1種類の固有配列からなるプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムを再度増幅することを特徴とする上記J)記載のゲノムライブラリー作製方法。
L) ゲノムを断片化し、各断片にリンカー等の付加配列を結合させる前処理を行った後、1種類の固有配列からなるプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムを増幅することを特徴とする上記J)記載のゲノムライブラリー作製方法。
M) 上記A)~L)のいずれかに記載の方法により作製されたゲノムライブラリー。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の方法は、対象生物種のゲノムDNAそのもの又はその断片を直接の鋳型としてPCRを行うことにより、ゲノムライブラリーを作製する。即ち、PCRの鋳型には、リンカー等のゲノム配列以外の配列が何ら付加されていないゲノムDNAそのもの、又はその断片を使用する。したがって、PCRの前段階処理として、抽出したゲノムDNAを制限酵素によって切断し、得られた各断片に対してリンカーを施すといった煩雑な処理が不要であり、これらの処理に伴うサンプルの損失を防止することができる。
【0011】
また、本発明の第1の方法によれば、菌体や培養細胞等を直接のサンプルとしてPCRを行うことにより、ゲノムライブラリーを作製することも可能である。この場合、ゲノムDNAの抽出工程が不要となるので、更に簡便な操作でゲノムライブラリーを作製することができる。
【0012】
本発明の第2の方法は、対象生物種のゲノムに対し前処理を行った後、1種類の固有配列からなるプライマーを使用してPCRを行うことにより、ゲノムライブラリーを作製する。1種類のプライマーのみを使用したPCRによって、簡便にゲノムライブラリーを作製することができる。
【0013】
このように、本発明の方法によれば、微少量サンプルから簡便にゲノムライブラリーを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の具体的実施態様について詳しく説明する。
【0015】
(1)第1のゲノムライブラリー作製方法
本発明の第1のゲノムライブラリー作製方法は、リンカー等のゲノム配列以外の配列が何ら付加されていないゲノムDNAそのもの、又はその断片を鋳型としてPCRを行い、ゲノムライブラリーを作製する。ここで、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行う場合には、前述のとおり、抽出したゲノムDNAを使用する場合のほか、ゲノムDNAを抽出することなく菌体や培養細胞等を直接サンプルとして使用し、菌体内・細胞内等のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行う場合も含まれる。
【0016】
さらに本発明の特徴をなすプライマーについて説明する。本発明のPCRに使用するプライマーには、大別して(1)特定の配列からなる1種類のプライマー、又は(2)ランダムシークエンスを含むランダムプライマーを使用する。
【0017】
このうち、特定の配列からなる1種類のプライマーを使用する場合は、対象ゲノムにおいて出現頻度の高い配列を含むように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することが好ましい。本発明におけるPCRは、ゲノム全領域をランダムに増幅するランダムPCRであること、換言すれば、ゲノム全領域を出来るだけ均等に増幅することが求められるので、プライマーは、ゲノム上の一部特定の領域に特異的にアニール(相補鎖結合)するものではなく、ゲノム上の複数の領域にいわば非特異的にアニールするものが望ましいからである。
【0018】
さらに、後述の実施例に示すように、本発明者はプライマーのアニーリング領域として6merの塩基配列が重要であることを見出したので、出現頻度の高い配列を6mer以上含むように設計したオリゴDNAをプライマーとして使用することが好ましい。
【0019】
対象ゲノムにおける出現頻度の高い配列は、当該ゲノムの配列情報をもとに決定することができる。この場合、すべてのゲノム配列が知られている必要はなく、知られている一部のゲノム配列をもとに出現頻度の高い配列を決定してもよい。あるいは、本発明のPCRを行う前に、対象ゲノムをランダムにシークエンシングし、得られた配列情報をもとに出現頻度の高い配列を決定してもよい。
【0020】
例えば、出現頻度の高い配列を6mer含むようにプライマーを設計する場合、ゲノムの配列情報に含まれるすべての6merの配列のうち出現頻度の高い配列を順番に決定する。そして、出現頻度の高い1~20番目の配列の中から任意の配列を選択し、同配列を含むようにプライマーを設計する。このように、「出現頻度の高い配列」とは、出現頻度の最も高い配列に限定されるものではなく、比較的出現頻度の高い配列の中から任意の配列を選択すればよい。
【0021】
本発明において使用するプライマーの長さは、特に限定されるものではないが、通常のPCRに使用するプライマーに比べて短いことが好ましく、具体的にはアニーリング温度およびゲノム上にランダムにアニールさせる点などを考慮して8mer以上15mer以下程度の長さであることが好ましい。
【0022】
例えば、プライマーの長さを15merとする場合、出現頻度の高い配列を6mer以上15mer以下含むように設計する。後述の実施例においては、プライマーの長さを10merとし、出現頻度の高い10merの配列を含むようにプライマーを設計し、このプライマーを使用してPCRを行うことにより、ゲノム全領域をほぼ均等に増幅することができた。したがって、例えばプライマーの長さを10~12mer程度とし、出現頻度の高い配列を6mer以上12mer以下含むようにプライマー設計するとよい。
【0023】
また、使用するプライマーは、3’末端側に出現頻度の高い配列を有するように設計することが好ましい。
【0024】
尚、設計するプライマーに含まれる出現頻度の高い配列中の1又は複数の塩基をユニバーサル塩基にしてもよいし、あるいは、ランダム塩基(ランダムシークエンス)にしてもよい。ここで、ユニバーサル塩基とは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)のいずれの塩基とも水素結合し得る塩基をいい、5-Nitroindole、3-Nitropyrroleなどが例示される。また、ランダム塩基(ランダムシークエンス)とは、配列中の特定位置の塩基がA、T、G、Cのいずれかにランダムに合成された当該塩基をいう。ランダム塩基(ランダムシークエンス)を含むプライマー(即ち、ランダムプライマー)は、例えばプライマー合成において特定位置の塩基としてA、T、G、Cをほぼ等量ずつ加えることによって1回の合成で作製することができる。このように、本発明においてランダムプライマーを使用する場合も1回の合成で作製することができるので、プライマー作製が容易である。
【0025】
上記のように、本発明に使用するプライマーは、3’末端側に出現頻度の高い配列を有するように設計することが望ましいが、さらにその配列の3’末端側にランダム塩基(ランダムシークエンス)もしくはユニバーサル塩基からなる1mer以上の領域を有するようにプライマーを設計してもよい。
【0026】
あるいは、出現頻度の高い配列を有することなく、3’末端側にランダム塩基(ランダムシークエンス)もしくはユニバーサル塩基からなる6mer以上の領域を有するようにプライマーを設計してもよい。前述のように本発明者による解析の結果、プライマーのアニーリング領域として6merの塩基配列が重要であることが判明したので、ランダム塩基(ランダムシークエンス)もしくはユニバーサル塩基からなる領域を6mer以上とすることで、プライマーをゲノム上に非特異的にアニールさせることが可能と考えられる。
【0027】
3’末端側に出現頻度の高い配列を有するようにプライマーを設計する場合において、5’末端側には対象ゲノムに出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を有するようにプライマーを設計することは好ましい。例えば、3’末端側に出現頻度の高い配列を6mer以上有すると共に、5’末端側に対象ゲノムに出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を6mer以上有するようにプライマーを設計する。このようにプライマーを設計することで、当該プライマーを使用して第1のPCRを行った後、5’末端側の6mer以上の配列を含むプライマーを使用して第2のPCRを行い、増幅した各ゲノム断片をさらにより安定して増幅することができる。
【0028】
同様に、(1)3’末端側に、出現頻度の高い配列を有すると共に、さらにその配列の3’末端側にランダムシークエンスもしくはユニバーサル塩基からなる1mer以上の領域を有するようにプライマーを設計する場合、および、(2)3’末端側にランダムシークエンスもしくはユニバーサル塩基からなる6mer以上の領域を有するようにプライマーを設計する場合、のいずれにおいても、5’末端側には対象ゲノムに出現しない配列もしくは出現頻度の低い特定の配列を有するようにプライマーを設計することは好ましい。例えば、3’末端側にランダムシークエンスもしくはユニバーサル塩基からなる6mer以上の領域を有すると共に、5’末端側に対象ゲノムに出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を6mer以上有するようにプライマーを設計する。このようにプライマーを設計した場合においても、当該プライマーを使用して第1のPCRを行った後、5’末端側の6mer以上の配列を含むプライマーを使用して第2のPCRを行うことで、増幅した各ゲノム断片をさらにより安定して増幅することができる。
【0029】
尚、「出現頻度の低い配列」についても、「出現頻度の高い配列」と同様、出現頻度の最も低い配列に限定されるものではなく、比較的出現頻度の低い配列の中から任意の配列を選択すればよい。
【0030】
本発明においては、以上説明したいずれかのプライマーを使用してPCRを行うことにより、2つのプライマーで挟まれたゲノム上の特定領域を増幅する通常のPCRとは異なり、対象ゲノムをランダムかつ非特異的に増幅する「ランダムPCR」を行うものである。
【0031】
次に、本発明のPCR条件について説明する。
まず、抽出したゲノムDNAを鋳型(テンプレート)に使用する場合は、PCR前に、アルカリ法による抽出、フェノール抽出、グアニジン抽出、その他キット等を用いた抽出によってゲノムDNAを抽出する。抽出したゲノムDNAは制限酵素によって断片化してもよいが、本発明においては、抽出したゲノムDNAそのものを鋳型に使用することができる。もちろん、PCR前に、ゲノムDNAに対してリンカーを施すなどの煩雑な処理は不要である。また、前述のように、ゲノムDNAを抽出することなく菌体や培養細胞等を直接サンプルとして使用し、菌体内・細胞内等のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ってもよい(図1参照)。
【0032】
また、ゲノムライブラリー作製の際のPCR条件としては、短いプライマーをゲノム全領域に効率的にアニールさせるためにアニーリング温度を低く設定し、プライマーをアニールさせ、そこから伸長反応の温度までゆっくり温度を上げ、アニールさせたプライマーに対してゆっくりとした速度で伸長反応を行わせ、伸長反応の温度でプライマーが解離しないようにすることが好ましい。
【0033】
そのため、PCR条件としては、アニーリング温度を30℃以上45℃以下にし、かつ、アニーリング温度から伸長反応温度までの温度上昇時間を5秒以上20分以下に設定し、さらに伸長反応温度を0秒以上15分以下に設定したサイクルを含むことが望ましい。そして、このようにアニーリング温度を低くして、そこから徐々に温度を上げてゆっくりと伸長反応を行わせるサイクルは、最初の数回だけでもよいが、全サイクルをこの方法で行ってもよい。(尚、伸長反応温度0秒の場合とは、アニーリング温度から伸長反応温度まで温度を上昇させ、伸長反応温度に達しても温度を維持することなく、そのまま変性温度まで温度を上昇させるように設定した場合である。)
【0034】
上記以外のPCR条件、例えば、サイクル数、DNAを一本鎖にするための変性温度、PCRバッファーの組成、DNAポリメラーゼの種類などは公知の方法にしたがって任意に決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0035】
後述の実施例に示すように、上記条件にしたがってランダムPCRを行うことにより、ゲノム全領域をほぼ均等に増幅することができ、簡便にゲノムライブラリーを作製できることが確認された。また、本発明の方法は、ゲノムにリンカーを施す処理やベクターにゲノム断片を組み込む処理など煩雑な処理が不要であり、これら煩雑な処理に伴うサンプルの損失を防止できるので、微少量サンプルからのゲノムライブラリー作製が容易となる。
【0036】
本発明のゲノムライブラリー作製方法、および同方法により作製されたゲノムライブラリーは、各種生物のゲノム解析用の研究材料、ゲノム創薬、その他生命科学諸分野の研究に広く利用できる。例えば、環境中に存在し、未だ十分に解明が進んでいない微生物やウイルスの研究解析用に本発明を利用できる。とりわけ、病原菌や病原性ウイルスの研究解析は公衆衛生・国民の健康確保の観点から重要であるが、このような研究解析に本発明は有用である。
【0037】
本発明によってゲノムライブラリーを作製し得る生物種は、特に限定されるものではない。例えば、微生物・ウイルスのほか、植物・動物いずれであってもよく、ヒトを含む哺乳類であっても勿論よい。また、解析対象のウイルス等がRNAゲノムの場合は、逆転写酵素によって相補鎖DNAを合成し、これをもとに鋳型となるゲノムDNAを調製すればよい。
【0038】
前述のように、本発明は、特定の配列からなる1種類のプライマー又はランダムプライマーを使用してPCRを行うことにより、簡便にゲノムライブラリーを作製することができる。このように、簡便性・コスト等の面からは1種類のプライマー又はランダムプライマーを使用することが好ましいが、本発明は、1種類のプライマーのみ使用する場合に限定されるものではない。例えば、出現頻度の最も高い配列と2番目に高い配列をもとにそれぞれプライマーを作製し、得られた2種類のプライマーを使用してPCRを行ってもよい。即ち、本発明は、少なくとも1種類のプライマー(又はランダムプライマー)を使用してPCRを行う方法であればよい。
【0039】
また、プライマーのアニーリング領域としては前述のように6merの塩基配列が重要であるが、後述の実施例に示すように、6merのうち1塩基程度ゲノム上の配列と相違する場合であれば、PCRによる増幅が行われていたので、少なくとも6mer中5塩基をゲノム上の出現頻度の高い配列と一致するように設計するとよい。
【0040】
(2)第2のゲノムライブラリー作製方法
本発明の第2のゲノムライブラリー作製方法は、対象生物種のゲノムに対し前処理を行った後、1種類の固有配列からなるプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムを増幅することによりゲノムライブラリーを作製する。ここで、「1種類の固有配列からなるプライマー」にはランダムプライマーは含まれない。
【0041】
このように本方法は、1種類のプライマーのみを使用したPCRによりゲノムライブラリーを作製する方法であり、簡便なライブラリー作製が可能である。
【0042】
上記PCRの前処理としては、例えば次のような処理が挙げられる。
【0043】
i) 前処理として、例えば前述のプライマーのうち、「5’末端側に対象生物種のゲノムにおいて出現しない配列もしくは出現頻度の低い配列を有するように設計したオリゴDNA」をプライマーに使用して、前述の条件でPCRを行う。プライマーの3’末端側は、前述のように6mer以上の出現頻度の高い配列であってもよいし、ランダム塩基(ランダムシークエンス)もしくはユニバーサル塩基からなる6mer以上の配列であってもよい。例えば、3’末端側をランダム配列、5’末端側を固有配列として、前処理においては、このランダム配列+固有配列からなるプライマーでPCRを行う。
【0044】
その後、上記固有配列からなる1種類のプライマーを使用して第2のPCRを行い、ゲノムを再度増幅することによりゲノムライブラリーを作製する。
【0045】
前処理のPCRにおいて、対象ゲノムとのアニーリングには、プライマー3’末端側の6merの塩基配列が重要であり、5’末端側の固有配列は任意に決定することも可能である。また、この固有配列の5’末端側に配列を付加したものをプライマーに使用して第2のPCRを行ってもよい。
【0046】
ii) 他の前処理として、制限酵素、物理的切断方法を用いて、ゲノムを断片化し、各断片にリンカー等の付加配列を結合させる。この付加配列部分をプライマーのアニーリング領域として、後工程のPCRにおいて1種類の固有配列からなるプライマーを使用してゲノムを増幅し、ゲノムライブラリーを作製する。
【0047】
このように、この前処理では、各ゲノム断片に対して、任意に決定した固有配列を結合させ、その後、この固有配列(又は、この固有配列の5’末端側に配列を付加したもの)からなる1種類のプライマーを使用してPCRを行い、ゲノムライブラリーを作製する。
【0048】
上記i)又はii)の前処理の後に行う、1種類の固有配列からなるプライマーを使用したPCRにおいて、PCR条件は前述した条件で行ってもよいが、アニーリング温度をより高くして行ってもよく、その他の条件についても任意に決定することができる。
【0049】
また、上記PCRにおいて使用するプライマーの長さは、特に限定されるものではないが、通常のPCRに使用するプライマーに比べて短いことが好ましく、具体的にはアニーリング温度およびゲノム上にランダムにアニールさせる点などを考慮して8mer以上15mer以下程度の長さであることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
本発明のゲノムライブラリー作製方法は、図1に示すように、ゲノムDNAを抽出・精製した後PCRを行ってもよいし、細胞・菌体等を直接サンプルとして使用してPCR反応を行ってもよいが、本実施例においては、抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。
【0052】
また、本実施例においては、大腸菌のゲノムライブラリーを作製するため、大腸菌E.coli K-12 W3110株のゲノムDNAをランダムPCRによって増幅した。
【0053】
ランダムPCRに使用したプライマーは、対象ゲノムにおいて出現頻度の高い10merの配列をもとに設計した。具体的には、まず、大腸菌E.coli K-12 W3110株のゲノム上において、出現頻度の高い10merの配列の検索を行った。ゲノムの全長4639221塩基において10merの配列は合計4639212個であり、このうち出現頻度の高い1番目から20番目までの配列を抽出・決定した。その結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】
JP0003972106B2_000002t.gif

【0055】
上記表1に掲げた10merの配列は、それぞれ配列表の配列番号1~20にも示される。
【0056】
本実施例のランダムPCRには、上記10merの配列のうち出現頻度が最も高かった1番目から4番目までの配列をプライマー配列として合成したプライマー(以下、それぞれプライマー1~4という。)を使用した。
【0057】
PCR反応液の組成は以下のとおりである。
鋳型:ゲノムDNA(大腸菌増殖後に常法により抽出) 80ng/ml
プライマー:プライマー1~4のいずれかのプライマー 20μM
dNTP 0.2mM
DNAポリメラーゼ:Takara社製Z-taq 0.2U
バッファー:×10 PCR buffer 1μL
dH2Oで10μLにメスアップ
【0058】
また、PCR条件は、最初に98度5秒で変性後、下記のサイクルを40回行った。
変性温度:98℃ 5秒
アニーリング温度:42℃ 10秒
アニーリング温度から伸長反応温度までの温度変化勾配(RAMP):5%(5分)のほか設定値を様々に変更して行った。
伸長反応温度:72℃ 7分
【0059】
上記条件でPCRを行い、増幅後、電気泳動により確認を行った。その結果、図2に示すように、プライマー1・3・4においては特異的な増幅によるバンドがみられたが、プライマー2においては、増幅産物がスメアーになっており、ゲノム全領域を増幅していると考えられた。尚、同図において、パーセント(%)は上記RAMPの設定値であり、このパーセントが高いほどアニーリングから伸長反応への移行が早くなる一方、パーセントが小さいと温度を上げるのに長い時間がかかることになる。
【0060】
上記プライマー2を用いて、さらに様々なプライマー濃度で同様にPCRを行ったところ、プライマー濃度を低くするとさらに特異的な増幅が減少し、ゲノム全体が短い断片として増幅されることが確認された(図3参照)。アニーリング時の温度(図中「deg」)も様々に変更してPCRを行ったところ、この温度とプライマー濃度とを調節することにより、よりスメアーな泳動結果が得られ、ゲノム全般を増幅していると考えられた。
【0061】
また、増幅されたゲノム断片をテンプレートとして再度同様に増幅を行ったところ、長鎖DNAが増幅されにくくなった。さらに、再々増幅実験をしたところ、長鎖DNAが一層増幅されにくくなったが、その変化は小さくなった。
【0062】
〔実施例2〕
実施例1で作製したゲノムライブラリーに対して、実際にゲノム全領域が増幅されているかどうかを確認するために、E.coli K-12 W3110株ゲノムの任意の10カ所についての濃度比の測定を行った。測定箇所を図4に示す。濃度比の測定は、Rosh社製Light Cyclerを用いて、ランダムPCRにより増幅したゲノム断片に対して測定を行った。また、その際に各箇所(領域)の測定に使用したプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)をあわせて図4に示す。
【0063】
上記測定の結果、図5に示すように、各領域間において濃度比(換言すれば増幅比率)の差が一番大きいところでも10倍以内に収まっており、作製したゲノムライブラリーにおいては、ゲノム全領域においてほぼ均一な増幅が行われていることが示された。
【0064】
〔実施例3〕
実施例1で作製したゲノムライブラリーの一部をシークエンス解析した。シークエンス解析後、BLASTを用いて既知のゲノム配列との比較を行った。その結果、ゲノムの全領域において増幅が行われていることが確認された。
【0065】
さらに、増幅された断片をもとに、本実施例のPCRに使用した上記プライマー2の配列と、ゲノム上の配列との比較を行った。その結果、図6に示すように、プライマー配列の3’末端側の6塩基(6mer)までは、ゲノム上の配列と非常に高い一致が認められた(図中、縦軸は割合を示す)。したがって、プライマーのアニーリング領域としては、6merの塩基配列が重要である。
【0066】
また、上記6塩基での塩基配列の分散を調べたところ、1塩基差異程度であれば、増幅が行われていることが確認された。
【0067】
以上の結果から、ゲノムライブラリーの作製に使用するプライマーとしては、3’末端側の6塩基をゲノム上の出現頻度の高い配列と一致するように設計することが望ましく、少なくともその6塩基中5塩基をゲノム上の出現頻度の高い配列と一致するように設計することが望ましいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明によれば微小量サンプルから簡便にゲノムライブラリーを作製することができるので、前述したとおり、病原菌や病原性ウイルスの研究解析、あるいは、環境中に存在し、未だ十分に解明が進んでいない微生物やウイルスの研究解析などに利用できるほか、各種生物のゲノム解析用の研究材料として、さらにゲノム創薬、生命科学諸分野の研究に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のゲノムライブラリー作製方法を概略的に説明する図である。
【図2】本実施例のゲノムライブラリー作製方法において、互いに異なるプライマーを使用してPCRによりゲノムを増幅し、その結果をゲル電気泳動により調べた結果を示す図である。
【図3】本実施例のゲノムライブラリー作製方法において、互いに異なる条件でプライマー2を使用してPCRによりゲノムを増幅し、その結果をゲル電気泳動により調べた結果を示す図である。
【図4】本実施例で作製したゲノムライブラリーに対して、実際にゲノム全領域が増幅されているかどうかを確認するために行った実験で使用した各種プライマー、およびこれらプライマーによって増幅されるゲノム領域を説明する図である。
【図5】本実施例で作製したゲノムライブラリーに対して、実際にゲノム全領域が増幅されているかどうかを確認するために行った実験の実験結果を示す図である。
【図6】本実施例で使用したプライマー2の配列とゲノム上の配列とを比較検討した結果を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図2】
4
【図3】
5