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明細書 :高強度・高靭性Zr系非晶質合金

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3852809号 (P3852809)
公開番号 特開2000-129378 (P2000-129378A)
登録日 平成18年9月15日(2006.9.15)
発行日 平成18年12月6日(2006.12.6)
公開日 平成12年5月9日(2000.5.9)
発明の名称または考案の名称 高強度・高靭性Zr系非晶質合金
国際特許分類 C22C  16/00        (2006.01)
C22C  45/10        (2006.01)
FI C22C 16/00
C22C 45/10
請求項の数または発明の数 2
全頁数 6
出願番号 特願平10-310108 (P1998-310108)
出願日 平成10年10月30日(1998.10.30)
審査請求日 平成15年2月21日(2003.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】井上 明久
【氏名】張 涛
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】河野 一夫
参考文献・文献 米国特許第05735975(US,A)
調査した分野 C22C 1/00 - 49/14
特許請求の範囲 【請求項1】
式:Zr-Ala -Nib -Cuc -Md [式中、Mは、Ti、Nb、Pdよりなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、a、b、cおよびdは、それぞれ原子%を表し、5≦a≦10、30≦b+c≦50、1/9≦b/c≦1/3、0<d≦4(MがTi又はNbのとき)又は0<d≦7(MがPdのとき)を満足し、残部は、Zrおよび不可避な不純物よりなる]で示される組成を有し、非晶質相を体積分率で90%以上含み、引張強さ1800MPa以上、抗折強さ2500MPa以上、シャルピー衝撃値100kJ/m2 以上、破壊靭性値50MPa・m1/2 以上の機械的性質を有することを特徴とするZr系非晶質合金。
【請求項2】
100℃以上の過冷却液体領域[結晶化開始温度とガラス遷移温度の差で示される]を示す非晶質形成能に優れた、厚さ1mm以上の請求項1記載のΖr系非晶質合金。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大きな非晶質形成能と強度・靭性に優れたZr系非晶質合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶融状態の合金を急冷することにより薄帯状、フィラメント状、粉粒体状等、種々の形状を有する非晶質金属材料が得られることはよく知られている。非晶質合金薄帯は、大きな冷却速度の得られる単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法等の方法によって容易に製造できるので、これまでにも、Fe系、Ni系、Co系、Pd系、Cu系、Zr系あるいはTi系合金について数多くの非晶質合金が得られており、高耐食性、高強度等の非晶質合金特有の性質が明らかにされている。なかでも、Zr系非晶質合金は、他の非晶質合金に比べ格段に優れた非晶質形成能を有する新しいタイプの非晶質合金として構造材料、医用材料、化学材料等の分野への応用が期待されている。
【0003】
しかし、前記した製造方法によって得られる非晶質合金は、薄帯や細線に限られており、それらを用いて最終製品形状へ加工することは困難なことから、工業的にみてその用途がかなり限定されていた。
【0004】
一方、非晶質合金を加熱すると、特定の合金系では結晶化する前に過冷却液体状態に遷移し、急激な粘性低下を示すことが知られている。例えば、Zr系非晶質合金では、毎分40℃の加熱速度で、結晶化までに最大120℃程度の間、過冷却液体領域として存在できることが報告されている[Mater.Trans.,JIM,Vol.32(1991)1005 項参照]。
【0005】
このような過冷却液体状態では、合金の粘性が低下しているために閉塞鍛造等の方法により任意形状の非晶質合金成形体を作製するすることが可能であり、非晶質合金からなる歯車なども作製されている[日刊工業新聞1992年11月12日参照]。したがって、広い過冷却液体領域を有する非晶質合金は、優れた加工性を備えていると言える。このような過冷却液体領域を有する非晶質合金の中でも、このZr-Al-Ni-Cu非晶質合金は、100℃以上の過冷却液体領域の温度幅を有し、耐食性に優れるなど実用性の高い非晶質合金とされていた[特公平07-122120号公報]。
【0006】
さらに、これらの非晶質合金の非晶質形成能と製造方法の改善が行われ、100℃以上の過冷却液体領域と5mmを超える厚みを兼ね備えた大寸法Zr系非晶質合金が開発され[特開平08-74010号公報]、公知となっている。また、非晶質合金においては、製造方法からの機械的性質改善方法は試みられている[特願平10-210414、特願平10-210415、特願平10-210416]ものの、上述のZr系非晶質合金は、構造用材料として充分な機械的性質を有していなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述したZr系非晶質合金は、100℃以上の過冷却液体領域により大きな非晶質形成能と比較的良好な高強度特性を兼ね備えてはいるものの、製造方法による機械的性質改善のみであり、合金組成面からの改善はなされていなかった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上述の課題を解決するために、過冷却液体領域の温度幅を損なわずに高強度・高靭性が改善され、工業材料への応用が可能になる寸法を実現できる非晶質形成能を兼ね備えたZr系非晶質合金材料を提供することを目的として、最適合金組成について鋭意研究した結果、特定の組成を有するZr-A1-Ni-Cu-M系に特定量のM元素[M:Ti、NbおよびPdよりなる群から選択される1種または2種以上の元素]を添加した合金を溶融し、液体状態から急冷固化させることにより、強度・高靭性と大きな非晶質形成能を兼ね備えたZr系非晶質合金が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、 式:Zr-Ala -Nib -Cuc -Md [式中、Mは、Ti、Nb、Pdよりなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、a、b、cおよびdは、それぞれ原子%を表し、5≦a≦10、30≦b+c≦50、1/9≦b/c≦1/3、0<d≦4(MがTi又はNbのとき)又は0<d≦7(MがPdのとき)を満足し、残部は、Zrおよび不可避な不純物よりなる]で示される組成を有し、非晶質相を体積分率で90%以上含み、引張強さ1800MPa以上、抗折強さ2500MPa以上、シャルピー衝撃値100kJ/m2 以上、破壊靭性値50MPa・m1/2 以上の機械的性質を有することを特徴とするZr系非晶質合金を提供するものである。
【0010】
なお、本明細書中の「過冷却液体領域」とは、毎分40℃の加熱速度で示差走査熱量分析を行うことにより得られるガラス遷移温度と結晶化温度の差で定義されるものである。「過冷却液体領域」は、結晶化に対する抵抗力、すなわち、非晶質の安定性を示す数値である。本発明の合金は、100℃以上の過冷却液体領域を有する。
【0011】
以下に本発明の好ましい実施態様を説明する。
【0012】
本発明のZr系非晶質合金において、NiおよびCuは、非晶質相を形成せしめる主たる元素で、NiおよびCuの含有量の和は、30原子%以上50原子%以下である。この含有量の和が30原子%未満および50原子%超では、冷却速度の大きな単ロール法では非晶質相が得られても、冷却速度の小さな金型鋳造法で非晶質相は形成しなくなる。さらに、Ni対Cuの含有量の比b/cを1/3以下と規定した。この比により非晶質の原子構造が稠密無秩序充填化され、最も非晶質形成能が大きくなる。
【0013】
また、Alは、本発明のZr系非晶質合金において非晶質形成能を大幅に高める元素で、この含有量は、5原子%以上10原子%以下である。A1の含有量が5原子%未満10原子%超では、却って非晶質形成能が低下する。
【0014】
Mは、Ti、Nb、Pdよりなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、さらに合金原子構造の稠密無秩序充填化を促進するとともに原子間の結合力を効果的に強化する。この結果、非晶質形成能の大きなZr系非晶質合金に高強度・高靭性を与える。この元素群の含有量は、0原子%超7原子%以下であり、さらに好ましくは、TiおよびNbは、4原子%以下、Pdは、7原子%以下である。それぞれのM元素の含有量が規定した原子%超では、原子間の結合力が強化されすぎて、ZrまたはAlとの化合物相を形成する。この化合物相が存在することで非晶質相との界面に構造的不連続が起こり脆弱化するため、所望の高強度・高靭性が得られない。
【0015】
本発明のZr系非晶質合金は、溶融状態から単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フィラメント状、粉粒体状の非晶質固体を容易に得ることができる。また、本発明の合金は、大幅な非晶質形成能の改善がなされているため、好ましくは、溶融合金を金型に充填鋳造することにより任意の形状の非晶質合金棒ならびに板を容易に得ることもできる。例えば、代表的な金型鋳造法においては、合金を石英管中でAr雰囲気中で溶融した後、溶融合金を噴出圧0.5kg/cm2 以上で銅製の金型内に充墳凝固させることにより非晶質合金塊を得ることができる。さらに、本発明のΖr系非晶質合金は、従来のZr系非晶質合金に比べて合金組成の最適化が図られており、大きな非晶質形成能と高強度・高靭性が得られる。
【0016】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0017】
表1に示す合金組成からなる材料(実施例1~14、比較例1~8)について、金型鋳造法により直径5mm、長さ50mmの丸棒状試料を作製した。丸棒状試料のガラス遷移温度(Tg)、結晶化開始温度(Tx)を示差走査熱量計(DSC)により測定した。これらの値より過冷却液体領域(Tx-Tg)を算出した。この丸棒状試料中に含まれる非晶質相の体積分率(vf )は、DSCを用いて丸棒状試料の結晶化の際の発熱量を完全非晶質化した単ロール箔帯との比較により評価した。また、丸棒状試料について、引張試験、3点曲げ抗折試験、シャルピー衝撃試験を行い、引張破断強度(σf )、抗折強さ(σB.f )、シャルピー衝撃値(E)、破壊靭性値(KIc)をそれぞれ測定した。
【0018】
【表1】
JP0003852809B2_000002t.gif表1より明らかなように、実施例1~14の金型鋳造による非晶質合金材料は、100℃以上の過冷却液体領域を示すとともに、非晶質相体積分率が90%以上で、大きな非晶質形成能を有しており、かつ、引張強さ1800MPa以上、抗折強さ2500MPa以上、シャルピー衝撃値100kJ/m2 以上、破壊靭性値50MPa・m1/2 以上と優れた強度・靭性を兼備する。
【0019】
これに対して、比較例1の合金は、直径5mmの金型鋳造材においても完全に非晶質化する優れた非晶質形成能を有しているものの、M元素を全く含有しないため機械的性質に劣る。また、比較例2、3、4の鋳造材は、M元素を規定の7%を超えて含有するため、過冷却液体領域および非晶質相体積分率が100℃および90%に満たず、機械的性質も改善がみられない。比較例5、6では、Alが規定の5%以上10%以下を満たさないために、過冷却液体領域および非晶質相体積分率が100℃および90%に満たないばかりか機械的性質が極めて低い。さらに、比較例7、8は、ともにNi対Cuの比b/cが本発明で規定した1/3超であるため機械的性質の改善がみられない。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のZr系非晶質合金は、100℃以上の過冷却液体領域を示すとともに、引張強さ1800MPa以上、抗折強さ2500MPa以上、シャルピー衝撃値100kJ/m2 以上、破壊靭性値50MPa・m1/2 以上と優れた強度・靭性を兼備する。これらのことから、大きな非晶質形成能と高強度・高靭性を兼備した実用上有用なZr系非晶質合金を提供することができる。