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明細書 :自律移動車椅子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5219535号 (P5219535)
公開番号 特開2009-183538 (P2009-183538A)
登録日 平成25年3月15日(2013.3.15)
発行日 平成25年6月26日(2013.6.26)
公開日 平成21年8月20日(2009.8.20)
発明の名称または考案の名称 自律移動車椅子
国際特許分類 A61G   5/04        (2013.01)
FI A61G 5/04 504
A61G 5/04 502
請求項の数または発明の数 5
全頁数 17
出願番号 特願2008-027708 (P2008-027708)
出願日 平成20年2月7日(2008.2.7)
審査請求日 平成22年2月22日(2010.2.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】久野 義徳
【氏名】小林 貴訓
個別代理人の代理人 【識別番号】100100918、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 公治
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
審査官 【審査官】鈴木 洋昭
参考文献・文献 特開2007-229814(JP,A)
特開2007-265343(JP,A)
特開2007-229817(JP,A)
特開2007-229816(JP,A)
特開2006-231447(JP,A)
特開2004-357915(JP,A)
特開2001-306145(JP,A)
特開2001-129777(JP,A)
特開平11-47196(JP,A)
調査した分野 A61G 5/04
特許請求の範囲 【請求項1】
介護者の動作に応じて自律的に移動する車椅子であって、
前記介護者の位置及び当該位置の変化を検出する介護者位置検出手段と、
前記介護者の顔向きを継続的に検出する介護者顔向き検出手段と、
前記介護者の注視対象物を検出する介護者注視対象検出手段と、
前記介護者の位置の変化を予測する介護者移動予測手段と、
少なくとも前記介護者顔向き検出手段または介護者注視対象検出手段の検出結果に基づいて前記車椅子の移動を制御するとともに、前記介護者移動予測手段の予測結果を加味して前記車椅子の移動を制御する移動制御手段と、
を備え、
前記介護者位置検出手段が前記介護者の停止を検出し、前記介護者顔向き検出手段が、前記停止した介護者の顔向きが一定方向を所定時間以上向いている状態を検出し、前記介護者注視対象検出手段が前記注視対象物として展示物を検出したとき、前記移動制御手段は、前記展示物を鑑賞する介護者と並ぶ位置、または、前記展示物と正対する位置へ移動するように前記車椅子の移動を制御することを特徴とする自律移動車椅子。
【請求項2】
請求項に記載の自律移動車椅子であって、前記移動制御手段は、前記介護者と並ぶ位置が塞がっているとき、前記介護者に最も近い移動可能な位置へ移動するように前記車椅子の移動を制御することを特徴とする自律移動車椅子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自律移動車椅子であって、前記介護者位置検出手段が前記展示物にさらに接近する前記介護者を検出したとき、前記移動制御手段は、前記展示物までの距離が前記展示物から前記介護者までの距離と同じになるように前記車椅子を前記展示物に近付けることを特徴とする自律移動車椅子。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載の自律移動車椅子であって、前記介護者位置検出手段が移動する前記介護者を検出したとき、前記移動制御手段は、前記介護者の移動距離が所定距離を超えた場合に、前記介護者に追随するように前記車椅子の移動を制御することを特徴とする自律移動車椅子。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の自律移動車椅子であって、前記介護者位置検出手段が複数の介護者の位置及び当該位置の変化を検出し、前記介護者顔向き検出手段が前記複数の介護者の顔向きを検出し、前記介護者注視対象検出手段が車椅子に最も近い介護者の注視対象物を検出し、前記移動制御手段が前記車椅子に最も近い介護者に追随するように前記車椅子の移動を制御することを特徴とする自律移動車椅子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や障害者等が利用する車椅子に関し、利用者の介護に携わる人達の負担を軽減し、且つ、第三者に利用者の独立性を印象付ける自律的な動きを可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化が進み、車椅子の必要性は高まりつつある。車椅子の種類は多岐に及んでおり、介護者が押して進む旧来の機種だけで無く、利用者が自らジョイスティックを操作して移動する電動型車椅子なども市販されている。しかし、電動型車椅子の操作は、多くの高齢者や身体障害者にとって、容易とは言い難い。また、少子高齢化に伴い、車椅子利用者を介護、支援する人材も不足する傾向にある。
こうした事情から、少ない人材でも効率的に介護や支援が行えるように、ある程度の自律移動が可能な知的車椅子の開発が求められている。
【0003】
下記非特許文献1には、車椅子に測域センサを搭載し、介護者に追従して自律移動するロボット車椅子が開示されている。
この車椅子は、測域センサを用いて介護者の位置を常に把握し、介護者との距離がLより大きくなれば速度を落とし、逆に小さくなれば速度を上げる速度制御を実施して、介護者に同行している。
また、車椅子近辺の一定範囲が“不感領域”に設定されており、介護者が不感領域にいるときは、介護者への追従が停止される。そのため、介護者は、車椅子の後方から、車椅子の脇を通って、前方に進出したり、車椅子の脇に寄り添って車椅子利用者とおしゃべりしながら歩いたりすることができる。

【非特許文献1】岩瀬、 中村、 久野“介護者の意図に沿って動くロボット車椅子”画像センシングシンポジウム公演論文集、 pp.493-496, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、介護者に同行するだけの車椅子の場合は、種々の場面で介護者が車椅子を押したり引いたりして車椅子の位置や向きを調整する必要が生じる。介護者は、そのための気配りを絶えず続けなければならない。
例えば、車椅子利用者が美術館で絵を鑑賞する場合には、介護者は、他の鑑賞者の妨げにならないように、鑑賞に適する位置まで車椅子を押し進め、絵の方に車椅子の向きを変える必要があり、この操作を会場の各絵について行わなければならない。そのため、介護者は、かなりの負担が強いられる。
【0005】
また、車椅子が介護者に従って動くだけの場合は、周りから車椅子利用者が自律した主体として見られにくいという問題がある。車椅子利用者は、移動に関しては介護者の支援を必要としているが、それ以外は自律した存在であり、そうした自律意識は、車椅子利用者自身も有している。そのため、車椅子利用者の意図に基づいて動いていると周囲から見られるように車椅子の振舞いを演出することも必要である。
【0006】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、介護者の負担を軽減すると共に、車椅子利用者が自律した存在として他人の目に映る動きが可能な自律移動車椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は介護者の動作に応じて自律的に移動する車椅子であって、前記介護者の位置及び当該位置の変化を検出する介護者位置検出手段と、前記介護者の顔向きを継続的に検出する介護者顔向き検出手段と、前記介護者の注視対象物を検出する介護者注視対象検出手段と、前記介護者の位置の変化を予測する介護者移動予測手段と、少なくとも前記介護者顔向き検出手段または介護者注視対象検出手段の検出結果に基づいて前記車椅子の移動を制御するとともに、前記介護者移動予測手段の予測結果を加味して前記車椅子の移動を制御する移動制御手段と、を備え、前記介護者位置検出手段が前記介護者の停止を検出し、前記介護者顔向き検出手段が、前記停止した介護者の顔向きが一定方向を所定時間以上向いている状態を検出し、前記介護者注視対象検出手段が前記注視対象物として展示物を検出したとき、前記移動制御手段は、前記展示物を鑑賞する介護者と並ぶ位置、または、前記展示物と正対する位置へ移動するように前記車椅子の移動を制御することを特徴とする。
この車椅子は、介護者の顔向きや注視対象物を識別し、その識別結果に基づいて自律的な動きを行う。介護者が展示物を注視しているとき、移動制御手段は、展示物の鑑賞に適した位置へ移動するように車椅子の移動を制御する。
【0008】
また介護者の現在時刻の位置に基づいて車椅子の移動を制御すると、車椅子の移動が遅れて介護者の動きを妨げる場合が生じるが、介護者の位置の変化を予測して車椅子の移動制御に生かすことで、こうした不都合が避けられる。

【0010】
また、本発明の自律移動車椅子では、介護者と並ぶ位置が塞がっているとき、前記移動制御手段が、前記介護者に最も近い移動可能な位置へ移動するように前記車椅子の移動を制御する構成としても良い。
【0011】
また、本発明の自律移動車椅子では、前記介護者位置検出手段が前記展示物にさらに接近する前記介護者を検出したとき、前記移動制御手段が、前記展示物までの距離が前記展示物から前記介護者までの距離と同じになるように前記車椅子を前記展示物に近付ける構成としても良い。
この車椅子は、美術館等において、介護者が展示物の方を向けば、その展示物の鑑賞に適する位置に自動的に移動することができる。
【0012】
また、本発明の自律移動車椅子では、前記介護者位置検出手段が移動する前記介護者を検出したとき、前記移動制御手段が、前記介護者の移動距離が所定距離を超えた場合に、前記介護者に追随するように前記車椅子の移動を制御する構成とすることができる。
こうした移動制御により、車椅子は鑑賞中の介護者の些細な動きに追従しなくなる。そのため、車椅子の不安定な動きが抑制できる。
【0013】
また、本発明の自律移動車椅子では、前記介護者位置検出手段が複数の介護者の位置及び当該位置の変化を検出し、前記介護者顔向き検出手段が前記複数の介護者の顔向きを検出し、前記介護者注視対象検出手段が車椅子に最も近い介護者の注視対象物を検出し、前記移動制御手段が前記車椅子に最も近い介護者に追随するように前記車椅子の移動を制御する構成とすることができる。
この車椅子は、介護者が複数である場合に、介護者をグループとして認識し、車椅子に最も近い介護者の動きに追随する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の自律移動車椅子は、介護者の顔向きや注視対象物に基づいて行動を決定し、実行するため、介護者の負担が軽減される。また、その行動は、介護者の動きの単純なコピーではないため、他人の目に、車椅子利用者が選択した行動として映り、車椅子利用者が独立した個人として周囲から見られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態の自律移動車椅子について、図面を基に説明する。
図1は、この自律移動車椅子の機能を表すブロック図、図2、図17、図20は、この自律移動車椅子の構成及び動作を模式的に示す図、図4は、自律移動車椅子の構成を示すブロック図、図16、図18、図19、図21は、この自律移動車椅子の動作を示すフロー図、また、図22は、他の実施形態に係る自律移動車椅子の機能を表すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、車椅子利用者40が自律移動車椅子10に乗り、介護者50が、移動する自律移動車椅子10に一定距離52を保って付き添う。自律移動車椅子10は、レーザを照射して周囲との距離を計測するレーザ測域センサ15と、介護者50の顔の向き51や介護者50が注視する物体を映し出すビデオカメラ16とを有している。ここでは、ビデオカメラ16として、介護者50の顔と介護者50の視線方向とを映し出す二台のカメラを図示しているが、介護者50の顔及び視線方向が常時撮影できるものであれば、どのようなカメラであっても良い。
図3は、実験に使用した自律移動車椅子の外観を示している。ビデオカメラ16は、車椅子利用者や車椅子本体によって視界が遮られないように、車椅子の後部に支柱を立てて配置している。また、レーザ測域センサ15は、この支柱に一台と、車椅子の前方に一台の合計二台を設置している。
なお、この車椅子では、介護者が車椅子の右側または後方に付くことを想定して、ビデオカメラ16及びレーザ測域センサ15を車椅子の右側に配置している。
【0020】
この自律移動車椅子10は、図4に示すように、駆動系として、車椅子の移動や車椅子の向きを変えるために車輪を回転する車輪モータ13と、車輪モータ13を制御するモータ制御ボード12とを備え、センサ系として、レーザ測域センサ15と、ビデオカメラ16と、これらへの信号の入出力を中継するセンサ入力/出力ボード14とを備え、また、制御系として、自律移動車椅子10を制御するCPU17と、制御プログラムや各種データが記憶されるメモリ11と、ビデオカメラ16の画像を解析するDSP(digital signal processor)から成る画像処理装置18とを備えている。
なお、自律移動車椅子10は、この他に、運転操作用のジョイスティックや電源なども有しているが、本発明と直接関係しないこれらの構成は、ここでは省略している。
【0021】
この自律移動車椅子10は、介護者50の顔向きや注視対象物を識別し、その識別結果に基づいて自律的な動きを行う。
この動作を行うために、自律移動車椅子10は、図1に示すように、車椅子の周辺の状況を検出する周辺環境検出手段21と、介護者50の位置を検出する介護者位置検出手段22と、介護者50の顔の向きを検出する介護者顔向き検出手段23と、介護者50が注視している対象物を検出する介護者注視対象検出手段24と、車椅子の移動を制御する移動制御手段25とを備えている。
【0022】
周辺環境検出手段21は、レーザ測域センサ15により実現される。レーザ測域センサ15は、ここでは図5に示すセンサ(北陽電機製)を用いている。このセンサは、赤外レーザ(波長785nm)光により、半円状のフィールドを0.36度ピッチで(最大683ステップ)240度スキャンし、その反射光が観察されるまでの時間に基づいて周囲の物体までの距離を検出する。図6は、一個のレーザ測域センサ15の検出領域211を示し、図7は、レーザ測域センサ15の検出結果(二個のレーザ測域センサ15の検出結果を合成したもの)を示している。図7において、縦軸はレーザ測域センサ15からの距離(単位:m)、横軸は角度を表している。また、図7の検出結果から、自律移動車椅子10を取り囲む周辺環境を、図8のように二次元的に表すこともできる。
【0023】
介護者位置検出手段22は、レーザ測域センサ15の検出結果や画像処理装置18のビデオ画像解析結果を用いて介護者の位置を検出するCPU17の処理により実現される。画像処理装置18は、後述するように、ビデオカメラ16の画像から人物の顔を検出する。CPU17は、レーザ測域センサ15により検出された距離が最も近い位置(図7参照)に人物がいる場合、その人物を介護者50として検出し、以後、その人物を介護者50として追跡する。
【0024】
介護者顔向き検出手段23は、介護者50の顔を撮影するビデオカメラ16と、その映像を解析する画像処理装置18により実現される。画像処理装置18は、ビデオカメラ16の映像から顔画像を検出し、その顔の向きを検出する。
顔画像の検出には、幾つかの方法が知られている。例えば、図9のフロー図に示すように、ビデオカメラ16の映像から、矩形特徴を利用した識別器を用いて顔に相当する顔矩形を検出し(ステップ1)、また、ビデオカメラ16の映像から、肌色領域を検出し(ステップ2)、顔矩形と肌色領域とが少なくとも一部で重なる場合に(ステップ3)、それを顔画像として検出することができる(ステップ4)。
肌色領域の検出(ステップ2)は、図10に示すように、ビデオカメラ16の映像から、RGBカラースペース(R、G、B各8ビット)での値が、
R>95、G>40、B>20
Max{R.G.B}-Min{R.G.B}>15
|R-G|>15
R>G、R>B
の条件を満たす肌色の画素の範囲を抽出し(ステップ21)、この肌色部分のフレーム間差分を算出して、フレーム間差分の絶対値の総和が閾値を超えるか否かを識別し(ステップ22)、フレーム間差分が閾値以下の肌色部分は、肌色の壁や机等が抽出されたものとして排除し(ステップ24)、フレーム間差分の絶対値の総和が閾値を超える肌色部分を人物の顔の可能性がある肌色領域として検出する(ステップ23)。
図11(a)には、画像から検出された顔矩形711を示している。図11(b)(c)(d)に示すように、この顔矩形711の水平方向の中心線712は、鼻の位置に一致している。また、図11(b)(c)(d)には、肌色領域の水平方向の境界線を713として示している。
【0025】
顔向きの検出は、図12のフロー図に示すように、顔矩形の検出(ステップ1)と肌色領域の検出(ステップ2)との検出結果を用いて、顔矩形711の水平方向の中心位置(中心線712の位置)と肌色領域(境界線713の間の領域)の水平方向の中心位置との差分を算出して求めることができる(ステップ6)。車椅子の方を向く正面顔は、ステップ6で求めた差分値と予め設定した閾値とを比較し(ステップ7)、差分値が閾値未満である場合に、正面顔と識別することができる(ステップ8)。差分値が閾値を超えていれば、正面顔ではないと識別できる(ステップ9)。
画像処理装置18は、こうした処理により、ビデオカメラ16の映像から顔画像の検出と顔向きの検出とを継続的に行う。
【0026】
介護者注視対象検出手段24は、車椅子の前方を撮影するビデオカメラ16と、その映像を解析する画像処理装置18により実現される。画像処理装置18は、ビデオカメラ16の映像から介護者50の顔が向く方向の物体を検出する。
図13に示すように、介護者50の検出位置をベクトルr、顔向きの検出角度をθとすると、介護者50が注視する方向は、レーザ測域センサ15から見て、次の方向となる。
即ち、レーザ測域センサ15で検出した周辺環境(実線)をベクトル(-r)だけ平行移動して点線の位置を求め、レーザ測域センサ15からθ方向にある点線上の位置を求める。この点線上の位置をベクトルrだけ移動した周辺環境(実線)上の位置の方向が、レーザ測域センサ15から見た介護者50の注視方向となる。
【0027】
また、移動制御手段25は、メモリ11に格納された制御プログラムに従って処理を行うCPU17により実現される。CPU17は、周辺環境検出手段21、介護者位置検出手段22、介護者顔向き検出手段23、及び、介護者注視対象検出手段24の検出結果を基に、モータ制御ボード12を通じて車輪モータ13の回転動作を指示し、自律移動車椅子10の各時刻における振舞いを制御する。なお、メモリ11には、制御プログラムの他に、周辺環境検出手段21が検出した周辺環境や、自律移動車椅子10の軌跡データ、介護者50の移動軌跡や顔向きのデータ、介護者50の注視対象物のデータなど、移動制御に必要なデータが一時的に保持される。
【0028】
次に、この自律移動車椅子10の動作について説明する。
周辺環境検出手段21は、図14に示すように、レーザ測域センサ15の検出領域211における環境を検出する。なお、212は、検出領域211内の不感領域を示している。検出領域211内に移動する介護者50を検出すると、介護者50の位置が不感領域212の外である場合に、自律移動車椅子10は、図2に示すように、介護者50の動きに追随して移動する。なお、この明細書では、車椅子が介護者50の後に付き従う場合だけでなく、図2のように、車椅子が介護者50の前を行く場合も“追随”と言うことにする。
自律移動車椅子10の移動制御手段25は、介護者50の動きに追随するとき、介護者50と一定距離を保つように車椅子の移動を制御する。つまり、介護者50が前進すれば、自律移動車椅子10も前進し、介護者50が右に曲がれば、自律移動車椅子10も右に曲がり、介護者50が後退すれば、自律移動車椅子10も後退する。
ただし、介護者50が自律移動車椅子10を追い越すために不感領域212を通り抜ける場合や、介護者50が車椅子利用者40とおしゃべりしながら自律移動車椅子10と並んで移動する場合(このとき介護者50は不感領域212内を移動する。)に、移動制御手段25は、介護者50との距離を一定に保つ制御を停止する。
【0029】
また、移動制御手段25は、介護者50に追随する過程で検出領域211内に障害物を検出すると、次のような動作で障害物を回避する。
(1)非常に近くに障害物が検出されたときは、移動を停止する。
(2)なるべく障害物の少ない方向へ回避移動する。
(3)図15に示すように、自律移動車椅子10の前方検出領域2111及び後方検出領域2112の両方で障害物(壁)213が検出されたときは、前方検出領域2111での障害物213までの距離d1が後方検出領域2112での障害物213までの距離d2と等しくなる方向に移動する。(壁沿い移動)
(4)介護者50の動きに追随して移動する。
移動制御手段25は、障害物を回避する際に、番号の小さい行動を優先して実行する。
【0030】
また、図16のフロー図は、美術館等の会場で、図17に示すように、車椅子利用者40と介護者50とが一緒に展示品(絵画)60を鑑賞する場合の自律移動車椅子10の動作を示している。
移動制御手段25は、介護者50が停止した場合に(ステップ31でYES)、自律移動車椅子10の移動を止めて(ステップ33)、介護者50の顔向きの変化を識別する(ステップ34)。介護者50が一定時間以上同じ方向を向いているときは(ステップ34でYES)、介護者50の注視対象物を検出する(ステップ37)。
また、ステップ31で介護者50が移動し続けているときは、介護者50に追随する(ステップ32)。また、一旦停止しても直ぐに再移動を開始したときは(ステップ35でYES)、介護者50が所定距離移動した後(ステップ36でYES)、介護者50に追随する(ステップ32)。
なお、介護者50が所定距離移動してから、介護者50への追随を再開するのは、介護者50の些細な動作に追従した場合の自律移動車椅子10の不安定な動きを回避するためである。また、ステップ34において、介護者50の顔向きが一定時間以上同じ方向を向くことを要件としているのも同様の趣旨である。
【0031】
ステップ37において、介護者注視対象検出手段24が、介護者50の顔を向けている方向から、額縁などの直線で囲まれた矩形領域を検出すると、移動制御手段25は、介護者50の注視対象物が絵画作品であると認識し(ステップ38)、図18のフロー図に示す手順により、絵画の鑑賞に適した位置に移動する。
【0032】
絵画の鑑賞に適する位置は、例えば、図17に示すように、絵画60の中心位置を中心とし、介護者50までの距離を半径とする円弧上で介護者50に隣接する位置であり、あるいは、絵画作品の矩形対角線の定数倍(通常は1程度、一般に対角線の長さ程度、作品から離れるのが鑑賞に適していると言われている)の距離で作品に正対する位置である。また、学芸員などの説明者が鑑賞者を誘導する位置をあらかじめ調べておき、これに矛盾しない位置を絵画鑑賞に適する位置としても良い。
図18の手順では、絵画鑑賞に適する位置を算出し(ステップ131)、その位置に自律移動車椅子10の移動可能なスペースが有るか否かを識別する(ステップ132)。スペースが有れば、その位置(例えば介護者50に隣接する位置)に移動する(ステップ133)。また、その位置に他の鑑賞者が居て移動スペースが無い場合は、その位置に最も近い移動可能な位置へ移動する(ステップ134)。
また、介護者位置検出手段22が、絵画60の方向にさらに近付く介護者50を検出すると(ステップ135でYES)、移動制御手段25は、介護者50と同じ距離まで絵画60に接近するように制御する(ステップ136)。
また、介護者50が、隣に展示された絵画の方に移動した場合は(ステップ137)、介護者50が所定距離移動した後(ステップ138)、介護者50に追随する(ステップ139)。次いで、ステップ31に移行する。
【0033】
また、ステップ37において、介護者顔向き検出手段23が、一定時間以上、車椅子の方を見ている介護者50の顔を検出した場合には、移動制御手段25は、介護者50が車椅子利用者40と会話するために車椅子利用者40を注視していると認識し(ステップ39)、図19のフロー図に示す手順を実行する。
即ち、図20に示すように、移動制御手段25は、介護者50の方向を向くように自律移動車椅子10の回転を制御する(ステップ231)。介護者50の顔向きが変わり(ステップ232でYES)、介護者50が移動を再開すると(ステップ233でYES)、介護者50が所定距離移動した後(ステップ234)、介護者50に追随する(ステップ235)。次いで、ステップ31に移行する。
また、ステップ232において顔向きを変えた介護者50が、移動せずに別の方向を見続けた場合は(ステップ236でYES)、ステップ37に移行する。
【0034】
また、ステップ37において、介護者注視対象検出手段24が、介護者50の顔を向けている方向から、介護者50の方を向く人物の顔を検出した場合には、移動制御手段25は、介護者50が他の人物と会話するためにその人物を注視していると認識し(ステップ40)、図21のフロー図に示す手順を実行する。
即ち、移動制御手段25は、車椅子利用者40が介護者50及び他の人物の双方と会話し易いように、自律移動車椅子10の位置及び向きを制御する(ステップ331)。その後の手順(ステップ332~336)は、図19のフロー図におけるステップ232~236の手順と同じである。
また、ステップ37において、介護者注視対象検出手段24が検出した介護者50の注視対象物が、その他のものである場合には(ステップ41)、移動制御手段25は、その注視対象物に応じた自律移動車椅子10の移動制御を行う(ステップ42)。
例えば、介護者50が見つめている方向に進行可能な通路が検出されたときは、介護者50が、その通路への進入を考えていると認識できる。この場合、移動制御手段25は、その通路の方向に自律移動車椅子10の進路を取る。
【0035】
このように、この自律移動車椅子は、介護者の顔向きや、介護者が見つめる注視対象物に応じて、自律的に動作する。そのため、介護者の負担が大幅に軽減される。また、この自律移動車椅子の振舞いは、他人の目に車椅子利用者の意思に基づくものとして映り、車椅子利用者が独立した個人として周囲から認識されることになる。
【0036】
なお、ここでは、介護者の位置を追跡する介護者位置検出手段22の検出結果を自律移動車椅子10の移動制御に用いたが、図22に示すように、介護者の動きを予測する介護者移動予測手段26を設け、この介護者移動予測手段26が予測した介護者の動きを自律移動車椅子10の移動制御に用いるようにしても良い。
介護者移動予測手段26は、
(1)車椅子を滑らかに動かすためのごく短期的な、少し後の時点(0.5秒後程度まで)の介護者の移動位置に対する予測、
(2)車椅子の振る舞いを安定させ、より自律的に見せるための介護者の行動に対する予測、
のいずれか、または、その両方を行う。
【0037】
(1)の短期的な予測は、介護者位置検出手段22が検出した介護者の位置の履歴を基に、カルマンフィルタなどの予測手段を用いて行われる。この予測結果を利用して移動車椅子10の移動制御を行うことにより、車椅子の移動の速度を安定化させる(ガタつきを抑える)ことができる。
また、(2)の行動予測は、ビデオカメラ16で撮影された周囲の状況や、介護者注視対象検出手段24により検出された注視対象物に基づいて介護者の行動が予測される。例えば、介護者が絵画作品に近づいたときは、「もしかすると、この作品をじっくり見るかもしれない」と判断して追随速度を遅くし、介護者が立ち止まった際の車椅子の「鑑賞に適した位置」への移動に備える。介護者が立ち止まらず、絵画作品の傍を通過した場合には、追随速度を早くし、介護者との一定距離を保つ。これにより、車椅子がより自律的に行動しているように見える。
また、車椅子の右側を歩いている介護者が左折しようとするとき、介護者移動予測手段26が、左折通路の存在や、そちらを注視する介護者の顔向きなどから、介護者の左折を予測し、それに基づいて車椅子の速度や向きを制御することにより、介護者の左折が車椅子により妨げられる事態が回避される。
また、介護者が右折しようとする場合にも、介護者移動予測手段26がそれを左折の場合と同様に予測して、それに基づいて車椅子の移動を制御することで、車椅子の急激な方向転換が避けられる。
また、介護者が車椅子の左側を歩いていて、右折や左折する場合も同様である。
また、介護者と車椅子とが並んで進んでいる通路の幅が先の方で狭くなっている場合には、介護者移動予測手段26が、一列になって進行する介護者の動きを予測し、それに基づいて車椅子の速度を減速することで、介護者が先導する一列の形で狭い箇所を通過することが可能になる。
【0038】
また、車椅子利用者に対して複数の介護者が支援する場合がある。このとき、自律移動車椅子10の介護者位置検出手段22は、複数の介護者をグループとして認識し、グループの各介護者の位置を追跡する。
グループの介護者への追随は、車椅子に最も近い介護者に対して追随する。また、介護者のグループの支援を受けて車椅子利用者が絵画を鑑賞する場合は、介護者のグループが絵画作品の適切な鑑賞位置に先着して車椅子を迎え入れてくれることが期待できるから、絵画作品の鑑賞位置に移動スペースが発見できなくても、介護者位置検出手段22が検出した介護者の位置に自律移動車椅子10を移動するように制御する。
また、自律移動車椅子10の介護者顔向き検出手段23が、介護者のグループの中に、一定時間以上、自律移動車椅子10の方向に顔を向けている介護者を検出した場合には、移動制御手段25は、その介護者の方に自律移動車椅子10の向きを変える。
【0039】
また、ここで示した顔画像及び顔向きの検出方法は、一例であり、本発明では、その他の方法で顔画像及び顔向きを検出することも可能である。
また、ここでは、介護者の顔向きから注視対象物を検出しているが、介護者の顔画像から視線の方向を求め、視線の方向から介護者の注視対象物を検出するようにしても良い。
また、介護者が車椅子利用者や他の人と会話しているか否かは、介護者の顔の向きだけでなく、介護者の顔画像から口の動きを観察して識別するようにしても良い。
また、自律移動車椅子10にマイクを取り付けて音声を認識し、会話状況を検出するようにしても良い。
また、ここでは、介護者が右側あるいは後方を歩くことを基本にしてビデオカメラ及びレーザ測域センサの車椅子への取付け位置を設定したが、車椅子に取り付けるビデオカメラやレーザ測域センサの数を増やしたり、あるいは、広視野(角度)をカバーするセンサやカメラを使用したりすることにより、介護者が車椅子の左右あるいは後方のどこにいても車椅子の適切な移動制御が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、病院、家庭、美術館等の展示施設、映画館、劇場など、各所で使用される車椅子に対して、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る自律移動車椅子の機能を表すブロック図
【図2】図1の自律移動車椅子の構成及び追従動作を模式的に示す図
【図3】実験に用いた車椅子を示す図
【図4】図1の自律移動車椅子の構成を示すブロック図
【図5】レーザ測域センサを示す図
【図6】レーザ測域センサの検出領域を示す図
【図7】レーザ測域センサの検出結果を示す図
【図8】レーザ測域センサの検出結果を2次元平面上に表示した図
【図9】顔画像の検出手順を示すフロー図
【図10】肌色領域の検出手順を示すフロー図
【図11】顔画像及び顔向きの検出結果を示す図
【図12】顔向きの検出手順を示すフロー図
【図13】注視対象物の検出方法を説明する図
【図14】図1の自律移動車椅子の検出領域を示す図
【図15】自律移動車椅子の壁沿い移動の動作を説明する図
【図16】図1の自律移動車椅子の動作を示すフロー図
【図17】図1の自律移動車椅子の絵画鑑賞時における状態を模式的に示す図
【図18】図1の自律移動車椅子の絵画鑑賞動作を示すフロー図
【図19】図1の自律移動車椅子の介護者との会話時の動作を示すフロー図
【図20】図1の自律移動車椅子の介護者との会話時の状態を模式的に示す図
【図21】図1の自律移動車椅子の介護者及び他人との会話時の動作を示すフロー図
【図22】本発明の他の実施形態に係る自律移動車椅子の機能を表すブロック図
【符号の説明】
【0042】
10 自律移動車椅子
11 メモリ
12 モータ制御ボード
13 車輪モータ
14 センサ入力/出力ボード
15 レーザ測域センサ
16 ビデオカメラ
17 CPU
18 画像処理装置
21 周辺環境検出手段
22 介護者位置検出手段
23 介護者顔向き検出手段
24 介護者注視対象検出手段
25 移動制御手段
26 介護者移動予測手段
40 車椅子利用者
50 介護者
51 顔向き
52 一定距離
60 絵画
211 レーザ測域センサ検出領域
213 壁
711 顔矩形
712 顔矩形中心線
713 肌色領域境界線
図面
【図1】
0
【図4】
1
【図9】
2
【図10】
3
【図12】
4
【図14】
5
【図15】
6
【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図17】
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【図20】
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